題目
0209◎▼顕浄土真実信文類 序
愚禿釈*親鸞集
別序
一 宗義を立す
◎^▼それおもんみれば、 信楽を獲得することは、 ▼*如来選択の願心より発起す。 真心を*開闡することは、 ▼大聖 (*釈尊) *矜哀の善巧より顕彰せり。
◎夫0065以レバ、獲↢得スルコトハ信楽ヲ↡、発↣起ス自リ↢如来選択ノ願心↡。開↢闡スルコトハ真心ヲ↡、顕↣彰セリ従リ↢大聖矜哀ノ善巧↡。
二 邪執を挙ぐ
^▼しかるに末代の道俗、 近世の宗師、 *自性唯心に沈みて浄土の真証を貶す、 定散の*自心に迷ひて*金剛の真信に昏し。
然ルニ末代ノ道俗、近世ノ宗師、沈ミテ↢自性唯心ニ↡貶ス↢オトシム浄土ノ真証ヲ↡、迷ヒテ↢定散ノ自心ニ↡昏シ↢金剛ノ真信ニ↡。
三 造意を示す
1.承仏祖
^▼ここに愚禿釈の親鸞、 諸仏如来の真説に信順して、 *論家・*釈家の宗義を披閲す。
爰ニ愚禿釈ノ*親鸞、信↢順シテ諸仏如来ノ真説ニ↡、披↢閲ス論家・釈家ノ宗義ヲ↡。
2.叙造意
^広く*三経の光沢を蒙りて、 ことに*一心の華文を開く。 *しばらく疑問を至してつひに明証を出す。
広ク蒙リテ↢三経ノ光沢ヲ↡、特ニ開ク↢一心ノ華文ヲ↡。且ク至シテ↢疑問ヲ↡遂ニ出ス↢明証ヲ↡。
3.為報恩
^まことに仏恩の深重なるを念じて、 *人倫の哢言を恥ぢず。
誠ニ念ジテ↢仏恩ノ深重ナルヲ↡、不↠恥ヂ↢人倫ノ哢言ヲ↡。
4.誡疑謗
^▼*浄邦を欣ふ徒衆、 *穢域を厭ふ庶類、 取捨を加ふといへども*毀謗を生ずることなかれとなり。
忻フ↢浄邦ヲ↡*徒衆、厭フ↢穢域ヲ↡庶類、雖モ↠加フト↢取捨ヲ↡、莫レト↠生ズルコト↢毀謗ヲ↡矣。
標挙
0210▼至心信楽の願 ▼正定聚の機
0066
題号
0211▼顕浄土真実信文類 三
愚禿釈親鸞集
一 正しく大信を明かす【大信釈】
Ⅰ 解釈
ⅰ 標
【1】 ^▼つつしんで往相の回向を案ずるに、 △大信あり。
謹0067デ按ズルニ↢往相ノ廻向ヲ↡、有リ↢大信↡。
一 Ⅰ ⅱ 釈
a 釈義【嘆徳出願】
イ 嘆徳【十二嘆名】
^▼大信心は、 すなはちこれ▼ 1長生不死の神方、 2欣浄厭穢の妙術、 3▼選択回向の直心、 4▼利他深広の信楽、 5金剛不壊の真心、 6易往無人の浄信、 7▼心光摂護の一心、 8希有最勝の大信、 9世間難信の捷径、 10▼証大涅槃の真因、 11極速円融の白道、 12真如一実の信海なり。
大信心者、則チ是長生不死之神方、忻浄厭穢之妙術、選択廻向之直心、利他深広之信楽、金剛不壊之真心、易往无人之浄信、心光摂護之一心、希有最勝之大信、世間難信之捷径、証大涅槃之真因、極速円融之白道、真如一実之信海也。
一 Ⅰ ⅱ a ロ 出願
(一)正しく出願を明かす
^▼この心すなはちこれ▲念仏往生の願 (第十八願) より出でたり。
斯ノ心即チ是出デタリ↠於リ↢念仏往生之願↡。
一 Ⅰ ⅱ a ロ (二)願の異名を挙ぐ
^▼この大願を選択本願と名づく、 また本願三心の願と名づく、 また至心信楽の願と名づく、 また往相信心の願と名づくべきなり。
斯ノ大願ヲ名ク↢選択本願ト↡、亦名ク↢本願三心之願ト↡、復名ク↢至心信楽之願ト↡、亦可キ↠名ク↢往相信心之願ト↡也。
一 Ⅰ ⅱ a ハ 述義
(一)信心の難得を明かす
^▼しかるに*常没の凡愚、 流転の群生、 ▼*無上妙果の成じがたきにあらず、 真実の信楽まことに獲ること難し。 ▼なにをもつてのゆゑに、 ▲いまし如来の*加威力によるがゆゑなり、 ▲博く*大悲広慧の力によるがゆゑなり。
然ルニ常没ノ凡愚、流転ノ群生、无上妙果ノ不ズ↠難キニ↠成ジ、真実ノ信楽実ニ難シ↠獲ルコト。何ヲ以ノ故ニ。乃シ由ルガ↢如来ノ加威力ニ↡故ナリ、博ク因ルガ↢大悲広*慧ノ力ニ↡故ナリ。
一 Ⅰ ⅱ a ハ (二)信心の利益を明かす
^▼たまたま浄信を獲ば、 ▲この心▼顛倒せず、 この心▼虚偽ならず。 ここをもつて極悪深重の衆生、 大慶喜0212心を得、 *もろもろの聖尊の重愛を獲るなり。
遇獲↢浄信ヲ↡者、是ノ心不↢顛倒セ↡、是ノ心不↢虚偽ナラ↡。是ヲ以テ極悪深重ノ衆生、得↢大慶喜心ヲ↡、獲ル↢諸ノ聖尊ノ重愛ヲ↡也。
一 Ⅰ ⅱ b 引文
イ 経文
(一)正しく大信を証す
(Ⅰ)因願
(ⅰ)¬大経¼
【2】 ^▼至心信楽の本願 (第十八願) の文、 ¬*大経¼ (上) にのたまはく、
至心信楽ノ本願ノ文、¬*大経ニ¼言ハク、
^「▲たとひわれ仏を得たらんに、 十方の衆生、 心を至し信楽してわが国に生れんと欲ひて、 ▼乃至十念せん。 もし生れざれば、 正覚を取らじと。 ただ五逆と誹謗正法を除く」 と。 以上
「設ヒ我得タラムニ↠仏ヲ、十方ノ衆生、至シ↠心ヲ信楽シテ欲フテ↠生0068レムト↢我ガ国ニ↡、乃至十念セム。若シ不レ↠生レ者、不ト↠取ラ↢正覚ヲ↡。唯除クト↢五逆ト誹謗正法ヲ↡。」 已上
一 Ⅰ ⅱ b イ (一)(Ⅰ)(ⅱ)¬如来会¼
【3】 ^¬*無量寿如来会¼ (上) にのたまはく、
¬*无量寿如来会ニ¼言ハク、
^「▲もしわれ*無上覚を証得せん時、 余仏の*刹のうちのもろもろの有情類、 わが名を聞き、 おのれが所有の善根、 心々に回向せしむ。 わが国に生ぜんと願じて、 乃至十念せん。 もし生ぜずは、 菩提を取らじと。 ただ*無間の悪業を造り、 正法およびもろもろの聖人を誹謗せんをば除く」 と。 以上
「若シ我証↢得セム无上覚ヲ↡時、余仏ノ刹ノ中ノ諸ノ有情類、聞キ↢我ガ名ヲ↡*已リテ、所有ノ善根、心心ニ廻向セシム。願ジテ↠生ゼムト↢我ガ国ニ↡、乃至十念セム。若シ不↠生ゼ者、不ト↠取ラ↢菩提ヲ↡。唯除クト↧造リ↢无間ノ悪業ヲ↡、誹↦謗セムヲバ正法及ビ諸ノ聖人ヲ↥。」 已上
一 Ⅰ ⅱ b イ (一)(Ⅱ)成就
(ⅰ)¬大経¼
【4】 ^▼本願成就の文、 ¬経¼ (大経・下) にのたまはく、
本願成就ノ文、¬経ニ¼言ク、
^「▲あらゆる衆生、 その名号を聞きて信心歓喜せんこと、 乃至一念せん。 ▼*至心に回向せしめたまへり。 かの国に生ぜんと願ぜば、 すなはち往生を得、 ▼不退転に住せん。 ただ五逆と誹謗正法とをば除く」 と。 以上
「諸有衆生、聞キテ↢其ノ名号ヲ↡信心歓喜セムコト、乃至一念セム。至心ニ回向セシメタマヘリ。願ズレバ↠生ゼムト↢彼ノ国ニ↡、即チ得↢往生ヲ↡、住セム↢不退転ニ↡。唯除クト↢五逆ト誹謗正法トヲバ↡。」 已上
一 Ⅰ ⅱ b イ (一)(Ⅱ)(ⅱ)¬如来会¼
【5】 ^¬無量寿如来会¼ (下) にのたまはく、 *菩提流志訳
¬*無量寿如来会ニ¼言ク、*菩提流支訳
^「▲他方の仏国の所有の有0213情、 無量寿如来の名号を聞きてよく一念の浄信を発して*歓喜せしめ、 ▽所有の善根回向したまへるを愛楽して無量寿国に生ぜんと願ぜば、 願に随ひてみな生れ、 不退転乃至*無上正等菩提を得んと。 五無間、 正法を誹謗し、 および聖者を謗らんをば除く」 と。 以上
「他方ノ仏国ノ所有ノ*有*情、聞キテ↢无量寿如来ノ名号ヲ↡能ク発シテ↢一念ノ浄信ヲ↡歓喜セシメ、愛↢楽シテ所有ノ善根回向シタマヘルヲ↡、願ゼ↠生ゼムト↢无量寿国ニ↡者、随ヒテ↠願ニ皆生レ、得ムト↢不退転乃至无上正等菩提ヲ↡。※除クト↢五无間*誹謗↢正法↡及ビ謗↢聖者ヲバ↡。」 已上
一 Ⅰ ⅱ b イ (二)信の利益を示す
(Ⅰ)¬大経¼
・教主嘆誉
【6】 ^▼またのたまはく (大経・下)、
又言ク、
^「▲法を聞きてよく忘れず、 見て敬ひ得て大きに慶ばば、 ▼すなはちわが善き親友なり。 このゆゑにまさに意を発すべし」 と。 以上
「聞キテ↠法ヲ能ク不↠忘レ | 見テ敬ヒ得テ大ニ慶バヾ |
則チ我ガ善キ親友ナリ | 是ノ故ニ当ニシト↠発ス↠意ヲ」 已上 |
一 Ⅰ ⅱ b イ (二)(Ⅱ)¬如来会¼二文
・住不退転
【7】 ^▼またのたまはく (*如来会・下)、
又言ク、
^「▲かくのごときらの類は*大威徳のひとなり。 よく*広大仏法の異門に生ぜん」 と。 以上
「如キ↠是クノ等ノ類ハ大威徳ノ者ナリ。能ク生ゼムト↢広大仏法ノ異門ニ↡。」 已上
・諸尊重愛
【8】 ^またのたまはく (如来会・下)、
又言ク、
^「▲如来の功徳は仏のみみづから知ろしめせり。 ただ世尊ましましてよく開示したまふ。 *天・竜・夜叉及ばざるところなり。 二乗おのづから名言を絶つ。
「如来ノ功徳ハ仏ノミ自ラ知セリ | 唯有シテ↢世尊↡能ク開示シタマフ |
天・竜・夜叉所ナリ↠不ル↠及バ | 二乗自ラ絶ツ↢於名言ヲ↡ |
^◆もしもろもろの有情まさに作仏して、 行、 普賢に超え、 彼岸に登つて、 一仏の功徳を*敷演せん。 時、 多劫の不思議を逾えん。 この中間において身は滅度すとも、 仏の勝慧はよく量ることなけん。
若シ諸ノ有情当ニ作仏シテ | 行超ヘ↢普賢ニ↡登テ↢彼岸ニ↡ |
敷↢ヒラキ演ノブセム一仏0069之功徳ヲ↡ | 時逾ユ エム↢多劫ノ不思議ヲ↡ |
於テ↢是ノ中間ニ↡身ハ滅度ストモ | 仏之勝*慧ハ莫ケム↢能ク量ルコト↡ |
^◆このゆゑに信・聞およびもろもろの*善友の摂受を具足して、 かくのごときの深妙の法を聞くことを得ば、 ▼まさにもろもろの聖尊に重愛せらるることを獲べし。 *如来0214の勝智、 *遍虚空の所説の義言は、 ただ仏のみ悟りたまへり。
是ノ故ニ具↢足シテ於信・聞 | 及ビ諸ノ善友之摂受ヲ↡ |
得バ↠聞クコトヲ↢如キノ↠是クノ深妙ノ法ヲ↡ | 当ニシ↠獲↣重↢愛セラルヽコトヲ諸ノ聖尊ニ↡ |
如来ノ勝智徧虚空ノ | 所説ノ義言ハ唯仏ノミ悟リタマヘリ |
^◆このゆゑに博く*諸智土を聞きて、 わが教、 如実の言を信ずべし。 *人趣の身得ることはなはだ難し。 如来の出世遇ふことまた難し。
是ノ故ニ博クヒロク聞キテ↢諸智土ヲ↡ | 応シ↠信ズ↢我ガ教如実ノ言ヲ↡ |
人趣オモムク之身得ルコト甚ダ難シ | 如来ノ出世遇フコト亦難シ |
^◆*信慧多き時まさにいまし獲ん。 このゆゑに修せんもの精進すべし。 かくのごときの妙法すでに聴聞せば、 ▼つねに諸仏をして喜びを生ぜしめたてまつるなり」 と。 抄出
信*慧多キ時方ニ乃シ獲ム | 是ノ故ニ修セム者応シ↢精進ス↡ |
如キノ↠是クノ妙法已ニ聴聞セバ | 常ニ令メタテマツルナリト↢諸仏ヲ而生ゼ↟喜ヲ」 抄出 |
一 Ⅰ ⅱ b ロ 師釈
(一)雁門(行信二法を明かす)
(Ⅰ)¬論註¼
【9】 ^▼¬*論の註¼ (下) にいはく、
¬*論ノ註ニ¼曰ク、
^「▲ªかの如来の名を称し、 かの如来の光明智相のごとく、 かの名義のごとく、 実のごとく修行し相応せんと欲ふがゆゑにº (浄土論) といへり。
「称シ↢彼ノ如来ノ名ヲ↡、如ク↢彼ノ如来ノ光明智相ノ↡、如ク↢彼ノ名義ノ↡、欲フガ↢如ク↠実ノ修行シ相応セムト↡故ニトイヘリト。
・衆生称名
^◆ª称彼如来名º といふは、 いはく無礙光如来の名を称するなり。
称彼如来名トイフ者、謂ク称スル↢无光如来ノ名ヲ↡也。
・法体徳相
^◆ª如彼▼如来光明智相º といふは、 ▼仏の光明はこれ智慧の相なり。 この光明、 十方世界を照らすに障礙あることなし。 よく十方衆生の無明の黒闇を除く。 日・月・珠光のただ室穴のうちの闇を破するがごときにはあらざるなり。
如彼如来光明智相トイフ者、仏ノ光明ハ是智*慧ノ相也。此ノ光明照スニ↢十方世界ヲ↡无シ↠有ルコト↢障↡。能ク除ク↢十方衆生ノ无明ノ黒闇ヲ↡。非ザル↠如キニハ↣日・月・珠光ノ但破スルガ↢室穴ノ中ノ闇ヲ↡也。
・名号破満 ・名義
^◆ª如彼名義欲如実修行相応º といふは、 ▲かの無礙光如来の名号は、 ▼よく衆生の▼一切の無明を破す、 ▼よく衆生の▼一切の志願を満てたまふ。
如彼名義欲如実修行相応トイフ者、彼ノ无光如来ノ名号ハ、能ク破ス↢衆生ノ一切ノ无明ヲ↡、能ク満テタマフ↢衆生ノ一切ノ志願ヲ↡。
・名号破満 ・不実
^◆しかるに称名憶念することあれども、 無明なほ存して所願を満てざるはいかんとならば、 ▼実のごとく修行せざると、 名義と相応せざるによるがゆゑなり。 ◆いかん0215が不如実修行と名義と相応せざるとする。 ▼いはく、 如来はこれ実相の身なり、 これ物のための身なりと知らざるなり。
然ルニ有レ↢称名憶念スルコト↡而、无明由存シ而不ル↠満テ↢所願ヲ↡者何者、由ルガ↧不ルト↢如↠実修行セ↡与↢名義↡不ルニ↦相応セ↥故也。云何ガ為ル↣*不如実修行ト与↢名義不相応↡。謂ク不ルナリ↠知ラ↢如来ハ是実相ノ身ナリ、是為ノ↠物ノ身ナリト↡。
・名号破満 ・不実 ・三不信
^◆また三種の不相応あり。 ▼一つには信心淳 (▼淳の字、 音純なり、 また厚朴なり。 朴の字、 音卜なり。 薬の名なり。 諄の字、 至なり。 誠懇の貌なり。 上の字に同じ) からず、 *存せるがごとし、 亡ぜるがごときのゆゑに。 ▼二つには信心▼一ならず、 決定なきがゆゑに。 三つには信心▼相続せず、 ▼*余念間つるがゆゑに。
又有リ↢三種ノ不相応↡。一ニ者信心不↠淳カラ *淳ノ字 ▼常倫反 又音純也 又厚*丨朴也 朴ノ*字 音卜也 *薬ノ名也 諄字 至也 誠懇之貌也 同↢上字↡ 若シ↠存セルガ若キノ↠亡ゼルガ故ニ。二ニ者信心0070不↠一ナラ、无キガ↢決定↡故ニ。三ニ者信心不↢相続セ↡、余念間ツルガ故ニ。
^◆この三句展転してあひ成ず。 信心淳からざるをもつてのゆゑに決定なし、 決定なきがゆゑに念相続せず。 また念相続せざるがゆゑに決定の信を得ず、 決定の信を得ざるがゆゑに心淳からざるべし。
此ノ三句展転シテ相成ズ。以テノ↢信心不ルヲ↟淳カラ故ニ无シ↢決定↡、无キガ↢決定↡故ニ念不↢相続セ↡。亦可シ↧*念不ルガ↢相続セ↡故ニ不↠得↢決定ノ信ヲ↡、不ルガ↠得↢決定ノ信ヲ↡故ニ心不ル↞淳カラ。
・名号破満 ・如実
^◆これと相違せるを*如実修行相応と名づく。
与↠此相違タガフセルヲ名ク↢如実修行相応ト↡。
・以信為要
^◆このゆゑに論主 (*天親)、 建めに ª我▽一心º とのたまへり」 と。 以上
是ノ故ニ*論主、建ニ言ヘリト↢我一心ト↡。」 已上
一 Ⅰ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)¬讃弥陀偈¼
・一心義相
【10】^▼¬*讃阿弥陀仏偈¼ にいはく、 *曇鸞和尚の造なり
¬讃阿弥陀仏偈ニ¼曰ク、 曇*巒和尚ノ造也
^「▲あらゆるもの、 阿弥陀の徳号を聞きて、 *信心歓喜して聞くところを慶ばんこと、 いまし一念に曁ぶまでせん。 至心のひと回向したまへり。 生ぜんと願ずればみな往くことを得しむ。 ただ五逆と謗正法とをば除く。 ゆゑにわれ頂礼して往生を願ず」 と。 以上
「諸聞キテ↢阿弥陀ノ徳号ヲ↡ | 信心歓喜シテ慶バムコト↠所ヲ↠聞ク |
乃シ曁ブマデセム↢一念ニ↡ 至心ノ者 | 回向シタマヘリ 願ズレバ↠生ゼムト皆得シム↠往クコトヲ |
唯除ク↢五逆ト謗正法トヲバ↡ | 故ニ我頂礼シテ願ズト↢往生ヲ↡」 已上 |
一 Ⅰ ⅱ b ロ (二)終南(三心即一の義相を明かす)
(Ⅰ)「定善義」
・本仏摂化
【021611】^▼*光明寺 (善導) の ¬観経義¼ (*定善義) にいはく、
*光明寺ノ¬観経義ニ¼云ク、
^「▲ª如意º といふは二種あり。 一つには衆生の意のごとし、 かの心念に随ひてみなこれを度すべし。 二つには弥陀の意のごとし、 ▼五眼円かに照らし▼六通自在にして、 機の度すべきものを観そなはして、 一念のうちに前なく後なく身心等しく赴き、 三輪開悟しておのおの益すること同じからざるなり」 と。 以上
「言フ↢如意ト↡者有リ↢二種↡。一ニ者如シ↢衆生ノ意ノ↡、随ヒテ↢彼ノ心念ニ↡皆応シ↠度ス↠之ヲ。二ニハ如シ↢弥陀之意ノ↡、五眼円ニ照シ六通自在ニシテ、観シテ↢機ノ可キ↠度ス者ヲ↡、一念之中ニ无ク↠前无ク↠後身心等シク赴キ、三輪開悟シテサトリ 各ノ益スルコトタスク マストモ不ル↠同ジカラ也ト。」 已上
一 Ⅰ ⅱ b ロ (二)(Ⅱ)「序分義」
・所化機相
【12】^▼またいはく (*序分義)、
又*云ク、
^「▲この五濁・五苦等は六道に通じて受けて、 いまだなきものはあらず。 つねにこれに逼悩す。 もしこの苦を受けざるものは、 すなはち凡数の摂にあらざるなり」 と。 抄出
「此ノ五濁・五苦等ハ通ジテ↢六道ニ↡受ケテ、未ズ ダ↠有ラ↢无キ者ハ↡。常ニ逼セム↢悩スナヤマス之ニ↡。若シ不ル↠受ケ↢此ノ苦ヲ↡者ハ、即チ非ザル↢凡数ノ摂ニ↡也ト。」 抄出
一 Ⅰ ⅱ b ロ (二)(Ⅲ)「散善義」
・三心義相
【13】^▼またいはく (*散善義)、
*又云ク、
^「▲ª何等為三º より下 ª必生彼国º に至るまでこのかたは、 まさしく▼三心を弁定して、 もつて▼正因とすることを明かす。 すなはちそれ二つあり。 ◆一つには世尊、 ▼機に随ひて▼益を顕すこと▼意密にして知りがたし、 仏みづから問うてみづから徴したまふにあらずは、 解を得るに由なきを明かす。 ◆二つに如来還りてみづから前の三心の数を答へたまふことを明かす。
「従リ↢何等為三↡下至ルマデ↢必生彼国ニ↡已来タハ正シク明ス↧弁↢ワキマフ定シテ三心ヲ↡以テ為ルコトヲ↦正因ト↥。即チ有リ↢其二↡。一ニハ明ス↧世尊随ヒテ↠機ニ顕スコト↠益ヲ意密ニシテ難シ↠知リ、非ズハ↢仏自ラ問ウテ自ラ徴シタマフニセム アラハストモ↡无0071キヲ↞由↠得ルニ↠解ヲ。二ニ明ス↣如来還リテ自ラ答ヘタマフコトヲ↢前ノ三心之数ヲ↡。
・三心義相 ・至誠心
^◆¬経¼ (観経) にのたまはく、 ª一者至誠心º。
経ニ云ク、一者至誠心。
^▼ª至º とは真なり、 ª誠º とは実なり。 ◆一切衆生の身口意業の所修の解行、 *かならず真実▼心のうちになしたま0217へるを▼須ゐんことを明かさんと欲ふ。
至ト者真ナリ、誠ト者実ナリ。欲フ↠明サムト↣一切衆生ノ身口意業ノ所修ノ解行、必ズ須ヰムコトヲ↢真実心ノ中ニ作シタマヘルヲ↡。
^▼*外に賢善精進の相を▼現ずることを▼得ざれ、 ▼内に虚仮を懐いて、 ◆貪瞋・邪偽・奸詐百端にして悪性侵めがたし、 事、 蛇蝎に同じ。 ▼三業を起すといへども、 名づけて雑毒の善とす、 また虚仮の行と名づく、 真実の業と名づけざるなり。
不レ↠得↣外ニ現スコトヲ↢賢善精進之相ヲ↡、内ニ懐ヱ イテ↢虚仮ヲ↡、貪ムサボル 瞋イカル・邪偽・イツワル 奸イツワリ 詐イツワル百端ハシニシテ悪性難シ↠侵シムメ、事同ジ↢蛇蝎ムシニ↡。雖モ↠起スト↢三業ヲ↡名ケテ為↢雑毒之善ト↡、亦名ク↢虚仮之行ト↡、不ル↠名ケ↢真実ノ業ト↡也。
^◆もしかくのごとき安心・起行をなすは、 たとひ身心を苦励して日夜十二時に▼急に走め急になして頭燃を灸ふがごとくするものは、 ▼すべて雑毒の善と名づく。 ▽この雑毒の行を回してかの仏の浄土に求生せんと欲するは、 これかならず不可なり。
若シ作ス↢如キ↠此クノ安心・起行ヲ↡者、縦使苦↢励シテハゲマス身心ヲ↡日夜十二時ニ急ニイソガワシ走メ急ニ作シテ如クスル↠炙フガキウ反 ↢*頭ノ燃ヲ↡者ハ、衆テミナ コトゴトク名ク↢雑毒之善ト↡。欲スル↧回シテ↢此ノ雑毒之行ヲ↡求↦生セムト彼ノ仏ノ浄土ニ↥者、此必ズ不可也。
^◆なにをもつてのゆゑに、 ▼まさしくかの▼阿弥陀仏、 因中に菩薩の行を行じたまひし時、 乃至一念一刹那も、 三業の所修みなこれ真実心のうちに*なしたまひしに由 (由の字、 経なり、 行なり、 従なり、 用なり) つてなり。 ^▼おほよそ▼施したまふところ▼趣求をなす、 ▼またみな真実なり。
何ヲ以テノ故ニ。正シク由テナリ↧ *由ノ字 以周反 経也 行也 従也 用也 彼ノ阿弥陀仏、因中ニ行ジタマヒシ↢菩薩ノ行ヲ↡時、乃至一念一刹那モイカム、三業ノ所修皆是真実心ノ中ニ作シタマヒシニ↥。凡ソ所↠施シタマフホドコス ハヅトモ為ス↢趣求オモムキ ヲ↡、亦皆真実ナリ。
・三心義相 ・至誠心 ・二種真実
^◆また真実に二種あり。 一つには▼自利真実、 二つには▼利他真実なり。 乃至
又真実ニ有リ↢二種↡、一ニ者自利真実、二ニ者利他真実ナリ。 乃至
^▲*不善の三業はかならず真実心のうちに捨てたまへるを須ゐよ。 ▲またもし善の三業を起さば、 かならず真実心のうちになしたまひしを須ゐて、 ◆*内外明闇を簡ばず、 ▲みな真実を須ゐる◆がゆゑに至誠心と名づく。
不善ノ三業ハ必ズ須ヰヨ↢真実心ノ中ニ捨テタマヘルヲ↡。又若シ起サ↢善ノ三業ヲ↡者、必ズ須ヰテ↢真実心ノ中ニ作シタマヒシヲ↡、不↠簡バ↢内外明闇ヲ↡、皆須ヰルガ↢真実ヲ↡故ニ名ク↢至誠心ト↡。
・三心義相 ・深信
^◆ª二者深心º。 ◆深心といふは、 すなはちこれ深信の心なり。 ▼また二種あり。
二者深心。言フ↢深心ト↡者、即チ是深信之心也。亦有リ↢二種↡。
・三心義相 ・深信 ・第一深信
^0218◆一つには、 決定して深く、 *自身は現にこれ罪悪生死の凡夫、 曠劫よりこのかたつねに没し、 つねに流転して、 ▼出離の縁あることなしと信ず。
一ニ者決定シテ深ク信ズ↢自身ハ現ニ是罪悪生死ノ凡夫、曠劫ヨリ已来タ常ニ没シシヅム常ニ流転シテ、无シト↟有ルコト↢出離之縁↡。
・三心義相 ・深信 ・第二深信
^◆二つには、 決定して深く、 かの阿弥陀仏の四十八願は衆生を摂受して、 ▼疑なく▼慮りなく、 かの願力に乗じて、 さだめて往生を得と信ず。
二ニ者決定シテ深ク信ズ↧彼ノ阿弥陀仏ノ四十八願ハ摂↢受シテ衆生ヲ↡、无ク↠疑无ク↠慮、オモンパカリ乗ジテ↢彼ノ願力ニ↡定メテ得ト↦往生ヲ↥。
・三心義相 ・深信 ・第三深信
^◆また決定して深く、 釈迦仏この ¬観経¼ に三福九品・定散二善を説きて、 かの仏の依正二報を証讃して、 人をして欣慕せしむと信ず。
又0072決定シテ深ク信ズ↧釈迦仏説キテ↢此ノ¬観経ニ¼三福九品・定散二善ヲ↡、証↢讃シテ彼ノ仏ノ依正二報ヲ↡、使ムト↦人ヲシテ忻ネガイ慕セシタフ↥。
・三心義相 ・ 深信 ・第四深信
^◆また決定して、 ¬弥陀経¼ のなかに、 十方恒沙の諸仏、 一切凡夫を証勧して決定して生ずることを得と深信するなり。
又決定シテ深↧信スルナリ¬弥陀経ノ¼中ニ、十方恒沙ノ諸仏、証↢カナフ勧シテ一切凡夫ヲ↡決定シテ得ト↞生ズルコトヲ。
・三心義相 ・深信 ・第五深信
^◆また深信するもの、 仰ぎ願はくは一切の行者等、 一心にただ仏語を信じて身命を顧みず、 決定して行によりて、 仏の捨てしめたまふをばすなはち捨て、 仏の行ぜしめたまふをばすなはち行ず。 仏の去らしめたまふ処をばすなはち去つ。 これを仏教に随順し、 仏意に随順すと名づく。 これを仏願に随順すと名づく。 これを▽真の仏弟子と名づく。
又深信スル者、仰ギ願クハ一切ノ行者等、一心ニ唯信ジテ↢仏語ヲ↡不↠顧↢身命ヲ↡、決定シテ依リテ↠行ニ、仏ノ遣メタマフヲ↠捨テ者即チ捨テ、仏ノ遣メタマフヲ↠行ゼ者即チ行ズ。仏ノ遣メタマフ↠去テ処ヲバ即チ去ツ。是ヲ名ク↧随↢順シ仏教ニ↡、随↦順スト仏意ニ↥。是ヲ名ク↣随↢順スト仏願ニ↡。是ヲ名ク↢真ノ仏弟子ト↡。
・三心義相 ・深信 ・第六深信
^◆また一切の行者、 ただよくこの ¬経¼ (観経) によりて行を深信するは、 かならず衆生を誤らざるなり。 ◆なにをもつてのゆゑに、 仏はこれ満足大悲の人なるがゆゑに、 実語なるがゆゑに。 ◆仏を除きて以還は、 智行いまだ満たず。 それ学地にありて、 正習の二障ありていまだ除こらざ0219るによつて、 果願いまだ円かならず。
又一切ノ行者、但能ク依リテ↢此ノ¬経ニ¼↡深↢信スル行ヲ↡者、必ズ不ル↠悞ゴ ラ↢衆生ヲ↡也。何ヲ以テノ故ニ。仏ハ是満足大悲ノ人ナルガ故ニ、実語ナルガ故ニ。除キテ↠仏ヲ已還ハ、智行未ズ ダ↠満タ。在リテ↢其学地ニ↡、由テ↧有リテ↢正習ノナラフ二障↡未ザ ダルニ↞除カラ、果願未ズ ダ↠円ナラ。
^◆これらの凡聖は、 たとひ諸仏の教意を測量すれども、 いまだ決了することあたはず。 平章することありといへども、 かならずすべからく仏証を請うて定とすべきなり。 ^もし仏意に称へば、 すなはち印可して ª如是如是º とのたまふ。 もし仏意に可はざれば、 すなはち ªなんだちが所説、 この義不如是º とのたまふ。
此等ノ凡聖ハ縦使測↢量スレドモ諸仏ノ教意ヲ↡未ズ ダ↠能ハ↢決了スルコト↡。雖モ↠有リト↢平章スルコト↡、ノリ ハカラフトモ要ズ須ベ クキ↧請フテ↢仏証ヲ↡為↞定ト也。若シ称ヘバ↢仏意ニ↡、即チ印オシテ可シテ言フ↢如是如是ト↡。若シ不レ↠可ハ↢仏意ニ↡者、即チ言フ↢汝等ガ所説是ノ義不如是ト↡。
^◆印せざるは、 すなはち無記・無利・無益の語に同じ。 仏の印可したまふは、 すなはち仏の正教に随順す。 もし仏の所有の言説は、 ▽すなはちこれ正教・正義・正行・正解・正業・正智なり。
不ル↠印ヒクセ者、即チ同ジ↢无記・无利・メグミ无益之語ニ↡。仏ノ印可シタマフヲ者、即チ随↢順ス仏之正教ニ↡。若シ仏ノ所有ノ言説ハ、即チ是正教・正義・正行・正解・正業・正智ナリ。
^◆もしは多もしは少、 すべて菩薩・人・天等を問はず、 その是非を定めんや。 ▼もし仏の所説は、 すなはちこれ了教なり。 菩薩等の説は、 ことごとく不了教と名づくるなり、 知るべし。
若シハ多若シハ少、衆テ不↠問ハ↢菩薩・人・天等ヲ↡、定メム↢其ノ是非ヲ↡也。若シ仏ノ所説ハ、即チ是了教ナリ。菩薩等ノ説ハ、尽ク名クル↢不了教ト↡也、応シト↠知ル。
^◆このゆゑに今の時、 仰いで一切有縁の往生人等を勧む。 ただ仏語を深信して専注奉行すべし。 菩薩等の不相応の教を信用して、 もつて疑礙をなし、 惑ひを抱いて、 みづから迷ひて往生の大益を廃失すべからざれと。 ▼乃至
是ノ故ニ今ノ時仰デ勧ム↢一切有縁ノ往生人等ヲ↡。唯可シ↧深↢信シテ仏語ヲ↡専注モンハラ 奉ウケタマワル行ス↥。不レト↠可カラ↧信↢用シテ菩薩0073等ノ不相応ノ教ヲ↡、以テ為シ↢疑ウタガヒヲサワリ↡、抱ハウイテ↠惑ヲ、自ラ迷メイヒテ廃↦スタル失ス往生之大益ヲ↥*也。 乃至
^▲釈迦一切の凡夫を指勧して、 この一身を尽して専念専修して、 捨命以後さだめてかの国に生るれば、 すなはち十方諸仏ことごとくみな同じく讃め、 同じく勧め、 同じく証したまふ。 なにをもつてのゆゑに、 同0220体の大悲なるがゆゑに。 一仏の所化は、 すなはちこれ一切仏の化なり。 一切仏の化は、 すなはちこれ一仏の所化なり。
釈迦指↢勧シテ一切ノ凡夫ヲ↡、尽シテ↢此ノ一身ヲ↡専念専修シテ、捨スツ命已後定メテ生ルレ↢彼ノ国ニ↡者、即チ十方諸仏悉ク皆同ジク讃メ、同ジク勧メ、同ジク証シタマフ。何ヲ以テノ故ニ。同体ノ大悲ナルガ故ニ。一仏ノ所化ハ即チ是一切仏ノ化ナリ。一切仏ノ化ハ即チ是一仏ノ所化ナリ。
^◆すなはち ¬弥陀経¼ のなかに説かく、 ª釈迦極楽の種々の荘厳を讃嘆したまふ。 ◆また一切の凡夫を勧めて、 一日七日、 一心に弥陀の名号を専念せしめて、 さだめて往生を得しめたまふº と。
即チ¬弥陀経ノ¼中ニ説カク、釈迦讃↢嘆シタマフ極楽ノ種種ノ荘厳ヲ↡。又勧メテ↢一切ノ凡夫ヲ↡、一日七日一心ニ専↢念セシメテ弥陀ノ名号ヲ↡、定メテ得シメタマフト↢往生ヲ↡。
^◆次下の文 (小経・意) にのたまはく、 ª^十方におのおの恒河沙等の諸仏ましまして、 同じく釈迦よく五濁悪時・悪世界・悪衆生・悪見・悪煩悩・悪邪無信の盛りなる時において、 弥陀の名号を指讃して衆生を勧励せしめて、 称念すればかならず往生を得と讃じたまふº と、 すなはちその証なり。
次下ノ文ニ云ク、十方ニ各ノ有シテ↢恒河砂等ノ諸仏↡、同ジク讃ホムジタマフト↧釈迦能ク於イテ↢五濁悪時・悪世界・悪衆生・悪見・悪煩悩・悪邪无信ノ盛ナル時ニ↡、指↢讃シテ弥陀ノ名号ヲ↡勧↢励セシメテハゲマス 衆生ヲ↡、称念スレバ必ズ得ト↦往生ヲ↥、即チ其ノ証也。
^◆また十方の仏等、 衆生の釈迦一仏の所説を信ぜざらんを恐畏れて、 すなはちともに同心同時におのおの舌相を出して、 あまねく三千世界に覆ひて誠実の言を説きたまはく、 ª^なんだち衆生、 みなこの釈迦の所説・所讃・所証を信ずべし。 一切の凡夫、 罪福の多少、 時節の久近を問はず、 ただよく上百年を尽し、 下一日七日に至るまで、 一心に弥陀の名号を専念して、 さだめて往生を得ること、 かならず疑なきなりº と。
又十方ノ仏等、恐↢畏テ衆生ノ不ラムヲ↟信ゼ↢釈迦一仏ノ所説ヲ↡、即チ共ニ同心同時ニ各ノ出シテ↢舌相ヲ、↡徧ク覆ヒテ↢三千世界ニ↡説キタマハク↢誠実ノ言ヲ↡、汝等衆生、皆応シ↠信ズ↢是ノ釈迦ノ所説・所賛・所証ヲ↡。一切ノ凡夫、不↠問ハ↢罪福ノ多少、時節ノ久近ヲ↡、但能ク上尽シ↢百年ヲ↡、下至ルマデ↢一日七日ニ↡、一心ニ専↢念シテ弥陀ノ名号ヲ↡、定メテ得ルコト↢往生ヲ↡、必ズ无キ↠疑也ト。
^◆このゆゑに一仏の所説をば、 すなはち一切仏同じくその事を証誠したまふなり。 ◆これを人について信を立つと名づくるなり。 ▼乃至
是ノ故ニ一仏ノ所説ヲバ、即チ一切仏同ジク証↢誠シタマフ其ノ事ヲ↡也。此ヲ名クル↢就イテ↠人ニ立ツト↟信ヲ也。 乃至
^▲またこの0221*正のなかについてまた二種あり。 ◆一つには、 ▼一心に弥陀の名号を専念して、 ▼行住坐臥、 時節の久近を問はず、 ▼念々に捨てざるをば、 これを正定の業と名づく、 *かの仏願に順ずるがゆゑに。 ◆もし礼誦等によらば、 すなはち名づけて助業とす。
又就テ↢此ノ正ノ中ニ↡復有リ↢二種↡。一ニ者、一心ニ専↢念シテ弥陀ノ名号ヲ↡、行住坐臥、不↠問ハ↢時節ノ久近ヲ↡、念念ニ不ルヲ↠捨テ者、是ヲ名ク↢正定之業ト↡、順ズルガ↢彼ノ仏願ニ↡故0074ニ。若シ依ラバ↢礼誦オガム等ニ↡、即チ名ケテ為↢助業ト↡。
^◆この正助二行を除きて以外の自余の諸善は、 ことごとく雑行と名づく。 ▼乃至 ◆すべて疎雑の行と名づくるなり。 ^◆ゆゑに深心と名づく。
除キテ↢此ノ正助二行ヲ↡已外ノ自余ノ諸ノ善ハ、悉ク名クト↢雑行ト↡。 乃至 衆テコトゴトク名クル↢疎ウトシ雑之行ト↡也。故ニ名ク↢深心ト↡。
・三心義相 ・回向発願心
^◆ª三者回向発願心º。 ▼乃至 ◆また回向発願して生ずるものは、 *かならず決定して真実心のうちに回向したまへる願を須ゐて得生の想をなせ。
三者回向発願心。 乃至 又回向発願シテ生ズル者ハ、必ズ須ヰテ↢決定シテ真実心ノ中ニ回向シタマヘル願ヲ↡作セ↢得生ノ想ヲ↡。
^▼この心深信せること金剛のごとくなるによりて、 一切の異見・異学・別解・別行の人等のために動乱破壊せられず。 ただこれ決定して一心に捉つて正直に進んで、 かの人の語を聞くことを得ざれ。 すなはち進退の心ありて怯弱を生じて回顧すれば、 道に落ちてすなはち往生の大益を失するなり。▼
此ノ心深信セルコト由リテ↠若クナルニ↢金剛ノ↡、不↧為ニ↢一切ノ異見・異*学・別解・別行ノ人等之↡所レ↦動乱ミダレ破ワレ 壊ヤブルセ↥。唯是決定シテ一心ニ捉テ正直ニ進デ、不レ↠得↠聞クコトヲ↢彼ノ人ノ語ヲ↡。即チ有リテ↢進スヽミ 退ノシリゾク心↡生ジテ↢怯コハシ弱ヨハシヲ↡回顧スレバカヘリミル、落チテ↠道ニ即チ失スル↢往生之大益ヲ↡也。
・三心義相 ・廻向発願心 ・問
^◆問うていはく、 もし解行不同の邪雑の人等ありて、 来りてあひ惑乱して、 あるいは種々の疑難を説きて ª往生を得じº といひ、 あるいはいはん、 ªなんだち衆生、 曠劫よりこのかた、 および今生の身口意業に、 一切凡聖の身の上において、 つぶさに十悪・五逆・四重・謗法・闡提・破戒・破見等の罪を造りて、 い0222まだ除尽することあたはず。 しかるにこれらの罪は三界悪道に繋属す。 いかんぞ一生の修福念仏をして、 すなはちかの無漏無生の国に入りて、 永く不退の位を証悟することを得んやº と。
問ウテ曰ク、若シ有リテ↢解行不同ノ邪雑ノ人等↡、来リテ相惑マドイ乱シテ、或イハ説キテ↢種種ノ疑難ヲ↡道ヒ↠不ト↠得↢往生ヲ↡、或イハ云ハム、汝等衆生、曠劫ヨリ已来タ及以今生ノ身口意業ニ、於テ↢一切凡聖ノ身ノ上ニ↡、具ニ造リテ↢十悪・五逆・四重・謗法・闡提・破戒・破見等ノ罪ヲ↡、未ズ ダ↠能ハ↢除尽スルコト↡。然ルニ此等之罪ハ繋↢ツナギ属ツクス三界悪道ニ↡。云何ゾ一生ノ修福念仏ヲシテ、即チ入リテ↢彼ノ无漏无生之国ニ↡、永ク得ム↣証↢悟スルコトヲ不退ノ位ヲ↡也ト。
・三心義相 ・廻向発願心 ・答
^◆答へていはく、 ▼諸仏の教行数塵沙に越えたり。 識を稟くる機縁、 情に随ひて一つにあらず。
答ヘテ曰ク、諸仏ノ教行数越エタリ↢塵砂ニ↡。稟ホンクル↠識ヲ機縁、随ヒテ↠情ニジヤウニ非ズ↠一ニ。
^◆たとへば世間の人、 眼に見るべく信ずべきがごときは、 明のよく闇を破し、 空のよく有を含み、 地のよく載養し、 水のよく生潤し、 火のよく成壊するがごとし。 これらのごときの事、 ことごとく待対の法と名づく。 すなはち目に見つべし、 千差万別なり。 いかにいはんや仏法不思議の力、 あに種々の益なからんや。
譬ヘバ如キ↢世間ノ人、眼ニ可ク↠見ル可キガ↟信ズ者、如シ↢明ノ能ク破シ↠闇ヲ、空ノ能ク含ガムミ↠有ヲ、地ノ能ク載ノセ養シ、ヤシナウ水ノ能ク生潤シ、ウルヲス火ノ能ク成ナシ壊スルガヤブル ↡。如キノ↢此等ノ↡事、悉ク名ク↢待マツ対ムカフ之法ト↡。即チ目ニ可シ↠見ツ、千差シナ万別ナリ。何ニ況ヤ仏法不思議之力、豈无カラム↢種種ノ益↡也。
^◆*随ひて一門を出づるは、 すなはち一煩悩の門を出づるなり。 ▼随ひて一門に入るは、 すなはち一解脱智慧の門に入るなり。
随ヒテ出ヅル↢一門ヲ↡者、即チ出ヅル↢一煩悩ノ門ヲ↡也。随ヒテ入ル↢一門ニ↡者、即チ入ル↢一解脱智0075*慧ノ門ニ↡也。
^◆ここを為 (▼為の字、 定なり、 用なり、 彼なり、 作なり、 是なり、 相なり) つて縁に随ひて行を起して、 おのおの解脱を求めよ。 ◆なんぢなにをもつてか、 いまし有縁の要行にあらざるをもつて、 われを障惑する。 しかるにわが所愛はすなはちこれわが有縁の行なり、 すなはちなんぢが所求にあらず。 なんぢが所愛はすなはちこれなんぢが有縁の行なり、 またわれの所求にあらず。 このゆゑにおのおの所楽0223に随ひてその行を修するは、 かならず疾く解脱を得るなり。
為テ↢ *為ノ字 定也 用也 彼也 作也 是也 相也 此ヲ↡随ヒテ↠縁ニ起シテ↠行ヲ、各ノ求メヨ↢解脱ヲ↡。汝何ヲ以テカ乃シ将テ↠非ザルヲ↢有縁之要行ニ↡、障↢惑スル於我ヲ↡。然ルニ我ガ之所愛ハ即チ是我ガ有縁之行ナリ、即チ非ズ↢汝ガ所求ニ↡。汝ガ之所愛ハ即チ是汝ガ有縁之行ナリ、亦非ズ↢我ガ所求ニ↡。是ノ故ニ各ノ随ヒ↢所楽ニ↡而修スル↢其ノ行ヲ↡者、必ズ疾ク得ル↢解脱ヲ↡也。
^◆行者まさに知るべし、 ▼もし解を学ばんと欲はば、 凡より聖に至るまで、 乃至仏果まで、 一切礙なし、 みな学ぶことを得よ。 ▼もし行を学ばんと欲はば、 かならず▼有縁の法によれ。 少しき功労を用ゐるに、 多く益を得ればなりと。▼
行者当ニシ↠知ル、若シ欲ハヾ↠学バムト↠解ヲ、従リ↠凡至ルマデ↠聖ニ、乃至仏果マデ、一切无シ↠、皆得ルコト↠学ブコトヲ也。若シ欲ハ↠学バムト↠行ヲ者、必ズ籍ジヤクレ↢有縁之法ニ↡。少シキ用ヰルニ↢功労ヲ↡、多ク得レバ↠益ヲ也ト。
・三心義相 ・廻向発願心 ・二河喩
^◆また一切往生人等にまうさく、 いまさらに行者のために一つの譬喩 (喩の字、 さとす) を説きて、 信心を守護して、 もつて外邪異見の難を防がん。 なにものかこれや。
又白サク↢一切往生人等ニ↡、今更ニ為ニ↢行者ノ↡説キテ↢一ノ譬*喩ヲ↡、守↢護シテ信心ヲ↡、以テ防ガム↢外邪異見之難ヲ↡。何者カ是也。
^◆たとへば人ありて、 西に向かひて行かんとするに百千の里ならん。 忽然として中路に見れば二つの河あり。 一つにはこれ火の河、 南にあり。 二つにはこれ水の河、 北にあり。 二河おのおの闊さ百歩、 おのおの深くして底なし、 南北辺なし。
譬ヘバ如シ↧有リテ↠人欲スルニ↢向ヒテ↠西ニ行カント↡百千之里ナラム。忽然トシテ中*路ニ見レバ有リ↢二ノ河↡。一ニハ是火ノ河在リ↠南ニ。二ニハ是水ノ河在リ↠北ニ。二河各ノ闊クワチサ百歩、各ノ深クシテ无シ↠底、南北无シ↠辺。
^◆まさしく水火の中間に一つの白道あり、 闊さ四五寸ばかりなるべし。 この道、 東の岸より西の岸に至るに、 また長さ百歩、 その水の波浪交はり過ぎて道を湿す。 その火焔 (焔、 けむりあるなり、 炎、 けむりなきほのほなり) また来りて道を焼く。 水火あひ交はりて、 つねにして休息することなけん。
正シク水火ノ中間ニ有リ↢一ノ白道↡、可シ↢闊サ四五寸許キヨナル↡、此ノ道従リ↢東ノ岸↡至ルニ↢西ノ岸ニ↡、亦長サ百歩、其ノ水ノ波大ナミ浪小ナミ交リ過ギテ湿ス↠道ヲ。其ノ火*焔亦来リテ焼ク↠道ヲ。水火相交リテ常ニシテ无ケム↢休ヤミ息ヤムスルコト↡。
^◆この人すでに空曠のはるかなる処に至るに、 さらに人物なし。 多く群賊・悪獣ありて、 この人の単独なるを見て、 競ひ来りてこの人を殺さんとす0224。 死を怖れてただちに走りて西に向かふに、 ◆忽然としてこの大河を見て、 すなはちみづから念言すらく、 ªこの河、 南北に辺畔を見ず、 中間に一つの白道を見る、 きはめてこれ狭少なり。 二つの岸あひ去ること近しといへども、 なにによりてか行くべき。 今日さだめて死せんこと疑はず。
此ノ人既ニ至ルニ↢空曠ノ迥ナル処ニ↡、更ニ无シ↢人物↡。多ク有リテ↢群ムラガル賊・悪獣↡ケダモノ、見テ↢此ノ人ノ単ヒトヘ 独ヒトリナルヲ↡、競ヒ来リテ欲ス↠殺セムト↢此ノ人ヲ↡。怖レテ↠死ヲ直ニ走リテ向フニ↠西ニ、忽然トシテ見テ↢此ノ大河ヲ↡、即チ自ラ念言スラク、此ノ河、南北ニ不↠見↢辺畔ヲホトリ↡、中間ニ見ル↢一ノ白道ヲ↡、極テ是狭セバシ少ナリ。二ノ*岸相去ルコト雖モ↠近シト、何ニ由リテカ可キ↠行ク。今日定メテ死セムコト不↠疑ハ。
^◆まさしく到り回らんと欲へば、 群賊・悪獣、 漸々に来り逼む。 まさしく南北に避り走らんとすれば、 悪獣・毒虫、 競ひ来りてわれに向かふ。 まさしく西に向かひて道を尋ねて去かんとすれば、 またおそらくはこの水火の二河に堕せんことをº と。 ^時にあたりて惶怖することまたいふべからず。
正シク欲スレバ↢到リ回ラムト↡、群賊・悪獣漸漸ニ来リ逼ム。正シク欲スレバ↢南0076北ニ避リ走ラムト↡、悪獣・毒虫競ヒ来リテ向フ↠我ニ。正シク欲スレバ↢向ヒテ↠西ニ尋ネ↠道ヲ而去カムト↡、復恐クハ*堕センコトヲト↢此ノ水火ノ二河ニ↡。当リテ↠時ニ惶オソレ 怖オソルスルコト不↢復可カラ↟言フ。
^◆すなはちみづから思念すらく、 ªわれいま回らばまた死せん、 住まらばまた死せん、 去かばまた死せん。 一種として死を勉れざれば、 われ*寧くこの道を尋ねて前に向かひて去かん。 すでにこの道あり、 かならず可度すべしº と。
即チ自ラ思念スラク、我今回ラバ亦死セム、住ラバ亦死セム、去カバ亦死セム。一種トシテ不レ↠勉レ↠死ヲ者、我寧ク尋ネテ↢此ノ道ヲ↡向フ↠前ニ而去カム。既ニ有リ↢此ノ道↡、必ズ応シト↢可度ス↡。
^◆この念をなす時、 東の岸にたちまちに人の勧むる声を聞く、 ªきみただ決定してこの道を尋ねて行け、 かならず死の難なけん。 もし住まらばすなはち死せんº と。
作ス↢此ノ念ヲ↡時、東ノ岸ニ忽ニ聞ク↢人ノ勧ムル声ヲ↡、仁者但決定シテ尋ネテ↢此ノ道ヲ↡行ケ、必ズ无ケム↢死ノ難↡。若シ住ラバ即チ死セムト。
^▼また西の岸の上に、 人ありて*喚ばひていはく、 ªなんぢ*一心に正念にしてただちに来れ、 われよくなんぢを護らん。 すべて水火の難に堕せんことを畏れざれº と。
又西ノ岸ノ上ニ有リテ↠人喚ウテ言ハク、汝一心ニ正念ニシテ直ニ来レ、我能ク護ラム↠汝ヲ。衆テ不レト↠畏レ↠堕セムコトヲ↢於水火之難ニ↡。
^◆この人、 すでにここに遣はし、 か0225しこに喚ばふを聞きて、 すなはちみづからまさしく身心に当りて、 決定して道を尋ねてただちに進んで、 疑怯退心を生ぜずして、
此ノ人既ニ聞キテ↢此ニ遣シ彼ニ喚フヲ↡、即チ自ラ正シク当リテ↢身心ニ↡、決定シテ尋ネテ↠道ヲ直ニ進デ、不シテ↠生ゼ↢疑怯コワク 退シリゾク心ヲ↡、
^◆あるいは行くこと一分二分するに、 東の岸の群賊等喚ばひていはく、 ªきみ回り来れ、 この道嶮悪なり、 過ぐることを得じ。 かならず死せんこと疑はず。 われらすべて悪心あつてあひ向かふことなしº と。 ^この人、 喚ばふ声を聞くといへども、 また回顧みず、 一心にただちに進んで道を念じて行けば、 ◆須臾にすなはち西の岸に到りて、 永くもろもろの難を離る。 善友あひ見て慶楽すること已むことなからんがごとし。
或イハ行クコト一分二分スルニ、東ノ岸ノ群賊等喚ヒテ言ハク、仁者回リ来レ、此ノ道嶮サカシ悪ナリ、不↠得↠過グルコトヲ。必ズ死セムコト不↠疑ハ。我等衆テ无シト↢悪心アテ相向フコト↡。此ノ人雖モ↠聞クト↢喚フ声ヲ↡、亦不↢回顧↡、一心ニ直ニ進デ念ジ↠道ヲ而行ケバ、須臾ニ即チ到リテ↢西ノ岸ニ↡、永ク離ル↢諸難ヲ↡。善友相見テ慶ヨロコブ楽スルコト无カラムガ↞已ムコト。
^◆これはこれ喩 (喩の字、 をしへなり) へなり。
此ハ是*喩也。
・三心義相 ・廻向発願心 ・合法
^◆次に喩へを合せば、 ◆ª東の岸º といふは、 すなはちこの娑婆の火宅に喩ふ。
次ニ合セ↠喩ヲ者、言フ↢東ノ岸ト↡者、即チ喩フ↢此ノ娑婆之火宅ニ↡也。
^◆ª西の岸º といふは、 すなはち極楽宝国に喩ふ。
言フ↢西ノ岸ト↡者、即チ喩フ↢極楽宝国ニ↡也。
^◆ª群賊・悪獣詐り親しむº といふは、 すなはち衆生の六根・六識・六塵・五陰・四大に喩ふ。
言フ↢群賊・悪獣 詐イツワリ 親トシタシム↡者、即チ喩フ↢衆生ノ六根・六識・六塵・五陰・四大ニ↡也。
^◆ª無人空迥の沢º といふは、 すなはちつねに悪友に随ひて真の善知識に値はざるに喩ふ。
言フ↢无人空迥ノハルカナリ沢ト↡者、即チ喩フ↧常ニ随ヒテ↢悪友ニ↡不ルニ↞値ワ↢真ノ善知識ニ↡也。
^◆ª水火の二河º といふは、 すなはち衆生の貪愛は水のごとし、 瞋憎は火のごとしと喩ふ。
言フ↢水火ノ二河ト↡者、即チ喩フ↢衆生ノ貪愛ハ如シ↠水ノ、瞋憎ハ如シト↟火ノ也。
^▼ª中間の▽白道四五寸º といふは、 すなはち衆生の貪瞋煩悩のなかに、 ▽よく*清浄願往生の心を生ぜしむるに喩ふ。 いまし貪瞋強きによるがゆゑに0226、 すなはち水火のごとしと喩ふ。 善心、 微なるがゆゑに、 白道のごとしと喩ふ。
言フ↢中間ノ白道四五寸ト↡者、即チ喩フ↢衆生ノ貪瞋煩悩ノ中ニ、能ク生ゼシムルニ↢清浄願往生ノ心0077ヲ↡也。乃シ由ルガ↢貪瞋強キニ↡故ニ即チ喩フ↠如シト↢水火ノ↡。善心微ナルガスクナシ 故ニ喩フ↠如シト↢白道ノ↡。
^◆また ª水波つねに道を湿すº とは、 すなはち愛心つねに起りてよく善心を染汚するに喩ふ。
又水波常ニ湿スト↠道ヲ者、即チ喩フ↣愛心常ニ起リテ能ク染ソメ↢汚ケガススルニ善心ヲ↡也。
^◆また ª火焔つねに道を焼くº とは、 すなはち瞋嫌の心よく功徳の法財を焼くに喩ふ。
又火*焔常ニ焼クト↠道ヲ者、即チ喩フ↣瞋イカリ 嫌キラフ之心能ク焼クニ↢功徳之法財ヲ↡也。
^◆ª人、 道の上を行いて、 ただちに西に向かふº といふは、 すなはちもろもろの行業を*回してただちに西方に向かふに喩ふ。
言フ↧人行イテ↢道ノ上ヲ↡直ニ向フト↞西ニ者、即チ喩フ↧回シテ↢諸ノ行業ヲ↡直ニ向フニ↦西方ニ↥也。
^◆ª東の岸に人の声の勧め遣はすを聞きて、 道を尋ねてただちに西に進むº といふは、 すなはち釈迦すでに滅したまひて、 後の人見たてまつらず、 なほ教法ありて尋ぬべきに喩ふ、 すなはちこれを声のごとしと喩ふるなり。
言フ↧東ノ岸ニ聞キテ↢人ノ声ノ勧メ遣スヲ↡、尋ネテ↠道ヲ直ニ西ニ進ムト↥者、即チ喩フ↧釈迦已ニ滅シタマヒテ後ノ人不↠見タテマツラ、由有リテ↢教法↡可キニ↞尋ヌ、即チ喩フル↢之ヲ如シト↟声ノ也。
^◆ªあるいは行くこと一分二分するに群賊等喚び回すº といふは、 すなはち別解・別行・悪見の人等、 *みだりに見解をもつてたがひにあひ惑乱し、 およびみづから罪を造りて退失すと説くに喩ふるなり。
言フ↢或イハ行クコト一分二分スルニ群賊等喚ビ回スト↡者、即チ喩フル↢別解・別行・悪見ノ人等、妄ミダリニ説シ↢見解ヲモテ迭ニ相惑乱シ、及ビ自ラ造リテ↠罪ヲ退失スト↡也。
^◆ª西の岸の上に人ありて喚ばふº といふは、 すなはち弥陀の願意に喩ふ。
言フ↢西ノ岸ノ上ニ有リテ↠人喚フト↡者、即チ喩フ↢弥陀ノ願意ニ↡也。
^◆ª須臾に西の岸に到りて善友あひ見て喜ぶº といふは、 すなはち衆生久しく生死に沈みて、 曠劫より輪廻し、 迷倒してみづから纏ひて、 解脱するに由なし。 ▼仰いで釈迦発遣して、 指へて西方に向かへたまふことを蒙り、 また弥陀の悲心招喚したまふによつて、 いま二尊の意に信順して0227、 水火の二河を顧みず、 念々に遺るることなく、 かの願力の道に乗じて、 捨命以後かの国に生ずることを得て、 仏とあひ見て慶喜すること、 なんぞ極まらんと喩ふるなり。
言フ↧須臾ニ到リテ↢西ノ岸ニ↡善友相見テ喜ブト↥者、即チ喩フル↧衆生久シク沈ミテ↢生死ニ↡、曠劫ヨリ淪回シ、迷倒シテ自ラ纏ウテ、无シ↠由↢解脱スルニ↡、仰デ蒙リ↣釈迦発遣シテ指ヘテ向ヘタマフコトヲ↢西方ニ↡、又籍テ↢弥陀ノ悲心招マネキ喚 ヨブ シタマフニ↡、今信↢順シテ二尊之意ニ↡、不↠顧↢水火ノ二河ヲ↡、念念ニ无ク↠遺ルルコト乗ジテ↢彼ノ願力之道ニ↡、捨命已後得テ↠生ズルコトヲ↢彼ノ国ニ↡、与↠仏相見テ慶喜スルコト何ゾ極ラムト↥也。
^◆また一切の行者、 行住坐臥に三業の所修、 昼夜時節を問ふことなく、 つねにこの解をなし、 つねにこの想をなすがゆゑに、 回向発願心と名づく。
又一切ノ行者、行住坐臥ニ三業ノ所修、无ク↠問フコト↢昼夜時節ヲ↡、常ニ作シ↢此ノ解ヲ↡、常ニ作スガ↢此ノ想ヲ↡故ニ名ク↢廻向発願心ト↡。
^◆また回向といふは、 かの国に生じをはりて、 還りて大悲を起して、 生死に回入して衆生を教化する、 また回向と名づくるなり。
又言フ↢回向ト↡者、生ジ↢彼ノ国ニ↡已リテ、還リテ起シテ↢大悲ヲ↡、回↢入シテ生死ニ↡教↢化スル衆生ヲ↡、亦名クル↢回向ト↡也。
・三心義相 ・三心結釈
^◆三心すでに具すれば、 行として成ぜざるなし。 願行すでに成じて、 ▼もし生ぜずは、 この処あることなしとなり。 ▼またこの三心、 また*定善の義を通摂すと、 知るべし」 と。 以上
三心既ニ具スレバ、无シ↢行トシテ不ル↟成ゼ。願行既ニ成ジテ、若シ不↠生ゼ者、无シト↠有ルコト↢是ノ処↡也。又此ノ三心、亦通0078↢摂スト定善之義ヲ↡、応シト↠知ル。」 已上
一 Ⅰ ⅱ b ロ (二)(Ⅳ)¬般舟讃¼
・釈尊善巧
【14】^またいはく (*般舟讃)、
又云ク、
^「▲敬ひて一切往生の知識等にまうさく、 大きにすべからく慚愧すべし。 釈迦如来はまことにこれ慈悲の父母なり。 種々の方便をして、 われらが無上の信心を発起せしめたまへり」 と。 以上
「敬ヒテ白サク↢一切往生ノ知識等ニ↡、大ニ須クシ↢慚愧ス↡。釈迦如来ハ実ニ是慈悲ノ父母ナリ。種種ノ方便ヲシテ発↢起セシメタマヘリト我等ガ无上ノ信心ヲ↡。」 已上
一 Ⅰ ⅱ b ロ (二)(Ⅴ)¬礼讃¼
・機受信相
【15】^¬*貞元の新定釈教の目録¼ 巻第十一にいはく、
¬貞元ノ新定釈教ノ目録¼巻第十一ニ云ク、
^「▼¬*集諸経礼懴儀¼ 上下 大唐西崇福寺の沙門*智昇の撰なり。 *貞元十五年十月二十三日の勅に准0228じて編入す」 と云々。 ¬懴儀¼ の上巻は、 智昇、 諸経によりて ¬懴儀¼ を造るなかに、 ¬観経¼ によりて善導の ¬礼懴¼ (*礼讃) の日中の時の礼を引けり。 下巻は 「比丘善導の集記」 と云々。 ^かの ¬懴儀¼ によりて要文を鈔していはく、
「¬集諸経礼懴儀¼ *上下 *大唐西崇福寺ノ沙門智昇ノ撰也。准ヘテ↢貞元十五年十月廿三日ニ↡勘カムガウ編シテツラヌ入ルト」云云。¬懴儀ノ¼上巻ハ、智昇依リテ↢諸経ニ↡造ル↢¬懴儀ヲ¼↡中ニ、依リテハ↢¬観経ニ¼↡引ケリ↢善導ノ¬礼懴ノ¼日中ノ時ノ礼ヲ↡。下巻者「比丘善導ノ集記ト」云云。依リテ↢彼ノ¬懴儀ニ¼↡鈔シテ↢ヌク エラブトモ要文ヲ↡云ク、
^「▲二つには深心、 ▼すなはちこれ真実の信心なり。 自身はこれ煩悩を具足せる凡夫、 善根薄少にして三界に流転して火宅を出でずと信知す。 いま▼弥陀の本弘誓願は、 名号を称すること*下至十声聞等に及ぶまで、 さだめて往生を得しむと信知して、 ▼*一念に至るに及ぶまで疑心あることなし。 ゆゑに深心と名づくと。 乃至
「二ニ者深心、即チ是真実ノ信心ナリ。信↧知ス自身ハ是具↢足セル煩悩ヲ↡凡夫、善根薄ウスシ少ニシテ流↢転シテ三界ニ↡不ト↞出デ↢火宅ヲ↡。今信↪知シテ弥陀ノ本弘誓願ヲバ、及ブマデ↧称スルコト↢名号ヲ↡下至十声*聞等ニ↥、定メテ得シムト↩往生ヲ↨、及ブマデ↠至ルニ↢一念ニ↡無シ↠有ルコト↢疑心↡。故ニ名クト↢深心ト↡。 乃至
^▲ªそれかの弥陀仏の名号を聞くことを得ることありて、 ▼歓喜して一心を至せば、 みなまさにかしこに生ずることを得べしº」 と。 抄出
其有リテ↠得ルコト↠聞クコトヲ↢彼ノ | 弥陀仏ノ名号ヲ↡ |
歓喜シテ至セバ↢一*心ヲ↡ | 皆当ニシト↠得↠生ズルコトヲ↠彼ニ」 抄出 |
一 Ⅰ ⅱ b ロ (三)横川(大信の利益を明かす)
(Ⅰ)¬往生要集¼
・領受体徳
【16】^▼¬*往生要集¼ (上) にいはく、
¬往生要集ニ¼云ク、
^「▲ª入法界品º にのたまはく、 ª^たとへば人ありて不可壊の薬を得れば、 一切の怨敵その便りを得ざるがごとし。 菩薩摩訶薩もまたまたかくのごとし。 菩提心不可壊の法薬を得れば、 一切の煩悩、 諸魔怨敵、 壊することあたはざるところなり。
「入法界品ニ言ク、譬ヘバ如シ↧有リテ↠人得レバ↢不可壊ノ薬ヲ↡、一切ノ怨アダ 敵カタキ不ルガ↞得↢其ノ便ヲ↡。菩薩摩訶薩モ亦復如シ↠是クノ。得レバ↢菩提心不可壊ノ法薬ヲ↡、一切ノ煩悩、諸魔怨敵、所ナリ↠不ル↠能ハ↠壊ヤブルスルコト。
^◆たとへば人ありて住水宝珠を得て、 その身に瓔珞とすれば、 深き水中に入りて没溺せざるがごとし。 菩0229提心の住水宝珠を得れば、 生死海に入りて沈没せず。
譬ヘバ如シ↧有リテ↠人得テ↢住水宝珠ヲ↡、瓔↢珞トスレバ其ノ身ニ↡、入リ↢深キ水中0079ニ↡而不ルガ↦没シヅミ 溺オボルセ↥。得レバ↢菩提心ノ住水宝珠ヲ↡、入リ↢生死海ニ↡而不↢沈没セ↡。
^◆たとへば金剛は百千劫において水中に処して爛壊し、 また異変なきがごとし。 菩提の心もまたまたかくのごとし。 無量劫において生死のなか、 もろもろの煩悩の業に処するに、 断滅することあたはず、 また損減なしº」 と。 以上
譬ヘバ如シ↧金剛ハ於テ↢百千劫ニ↡処シ↢於水中ニ↡而爛ミダル壊シ亦無キガ↦異変↥カハル。菩提之心モ亦復如シ↠是クノ。於テ↢无量劫ニ↡処スルニ↢生死ノ中諸ノ煩悩ノ業ニ↡、不↠能ハ↢断滅スルコト↡、亦无シト↢損ホロブ減↡。スクナシ」 已上
・本仏照護
【17】^▼またいはく (往生要集・中)、
又云ク、
^「▲われまたかの*摂取のなかにあれども、 煩悩、 眼を障へて見たてまつるにあたはずといへども、 大悲、 *倦きことなくして、 つねにわが身を照らしたまふ」 と。 以上
「我亦在レドモ↢彼ノ摂取之中ニ↡、煩悩障ヘテ↠眼ヲ雖モ↠不ト↠能ハ↠見タテマツルニ、大悲无クシテ↠倦キコト、常ニ照シタマフト↢我ガ身ヲ↡。」 已上
一 Ⅰ ⅲ 結
【18】^▼しかれば、 ▼もしは行、 もしは信、 一事として阿弥陀如来の清浄願心の*回向成就したまふところにあらざることあることなし。 ▲*因なくして他の因のあるにはあらざるなりと、 知るべし。
爾レ者若シハ行若シハ信、无シ↠有ルコト↤一事トシテ非ザルコト↣阿弥陀如来ノ清浄願心之所ニ↢回向成就シタマフ↡。非ザル↢无クシテ↠因他ノ因ノ有ルニハ↡也ト、可シ↠知ル。
一 Ⅱ 料簡
ⅰ 正明【三一問答】
a 問
【19】^▼*問ふ。 如来の本願 (第十八願)、 すでに▲至心・信楽・欲生の誓を発したまへり。 なにをもつてのゆゑに論主 (*天親) ▲一心といふや。
問フ。如来ノ本願、已ニ発シタマヘリ↢至心・信楽・欲生ノ誓ヲ↡。何ヲ以テノ故ニ論主言フ↢一心ト↡也。
一 Ⅱ ⅰ b 答
イ 解釈
(一) 略釈
^▼答ふ。 愚鈍の衆生、 解了易からしめんがために、 弥陀如来、 三心を発したまふといへども、 涅槃の真因はただ信心をもつてす。 このゆゑに論主 (天親)、 三を合して一とせるか。
答フ。愚鈍ノ衆生、解了為ニ↠令メムガ↠易カラ、弥陀如来雖モ↠発シタマフト↢三心ヲ↡、涅槃ノ真因ハ唯以テス↢信心ヲ↡。是ノ故ニ論主合シテ↠三ヲ為ル↠一ト*歟。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二) 広釈
(Ⅰ)字訓に寄せて釈す【字訓釈】
(ⅰ)標
【023020】^▼わたくしに三心の字訓を闚ふに、 三すなはち一なるべし。
私ニ闚フニ↢三心ノ字訓ヲオシヘ↡、三即チ合シ↠一ナル。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅰ)(ⅱ)釈
(a)微
^▼その意いかんとなれば、
其ノ意何ントナレ者
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅰ)(ⅱ)(b)正釈
(イ)出訓
^▼「至心」 といふは、 「至」 とはすなはちこれ1真なり、 2実なり、 3誠なり。 「心」 とはすなはちこれ1種なり、 2実なり。
*言フ↢至心ト↡者、至ト者即チ是真也、実也、誠也。心ト者即チ是種也、実也。
^「信楽」 といふは、 「信」 とはすなはちこれ1真なり、 2実なり、 3誠なり、 4満なり、 5極なり、 6成なり、 7用なり、 8重なり、 9審なり、 10験なり、 11宣なり、 12忠なり。 「楽」 とはすなはちこれ1欲なり、 2願なり、 3愛なり、 4悦なり、 5歓なり、 6喜なり、 7賀なり、 8慶なり。
*言フ↢信楽ト↡者、信ト者即チ是真也、実也、誠也、満ミツ也、極也、成也、用ユウ也、重也、審也、ツマビラカナリ験也シルシ 、宣ノブ也、忠也。コヽロザシ 楽ト者*即チ是欲也、願也、愛也ヨミス 、悦也ヨロコブ、歓也、喜也、*賀ガナリ也、*慶也。
^「欲生」 といふは、 「欲」 とはすなはちこれ1願なり、 2楽なり、 3覚なり、 4知なり。 「生」 とはすなはちこれ1成なり、 2作 (作の字、 為なり、 起なり、 行なり、 役なり、 始なり、 生なり) なり、 3為なり、 4興なり。
言フ↢欲生ト↡者、欲ト者即チ是願也、楽フ也、覚也サトル 、知也。生ト者即チ是成0080也、作 *作ノ字 則羅反 則落反 蔵*洛反 為也 起也 行也 *役也 始也 生也 也、為也、興也オコス 。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅰ)(ⅱ)(b)(ロ)会訓
^▼あきらかに知んぬ、 「至心」 は、 すなはちこれ*真実誠種の心なるがゆゑに、 *疑蓋雑はることなきなり。
明ニ知ヌ至心ハ即チ是真実*誠マコト種之心ナルガ故ニ、疑蓋オホフ无キ↠*雑ハルコト也。
^「信楽」 は、 すなはちこれ*真実誠満の心なり、 *極成用重の心なり、 *審験宣忠の心なり、 *欲願愛悦の心なり、 *歓喜賀慶の心なるがゆゑに、 疑蓋雑はることなきなり。
信楽ハ即チ是真実誠満之心ナリ、極成用重之心ナリ、審アキラカナリ*験シルシ宣忠之心ナリ、欲願愛悦之心ナリ、歓喜*賀*慶之心ナルガ故ニ、疑蓋无キ↠雑ハルコト也。
^「欲生」 は、 すなはちこれ*願楽覚知の心なり、 *成作為興の心なり。 *大悲回向の心なるがゆゑに、 疑蓋雑はることなきなり。
欲生ハ即チ是願楽覚知之心ナリ、成作為興之心ナリ。大悲回向之心ナルガ故ニ、疑蓋无キ↠雑ハルコト也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅰ)(ⅱ)(b)(ハ)成一
^▼いま三心の字訓を案ずるに、 真実の心にして虚仮雑はること0231なし、 正直の心にして邪偽雑はることなし。 まことに知んぬ、 疑蓋間雑なきがゆゑに、 これを信楽と名づく。 信楽すなはちこれ一心なり、 一心すなはちこれ真実信心なり。 このゆゑに論主 (天親)、 建めに 「一心」 といへるなりと、 知るべし。
今按ズルニ↢三心ノ字*訓ヲ↡、オシヘ コヽロトイフ真実ノ心ニ而虚仮无シ↠雑ハルコト、正直ノ心ニ而邪偽无シ↠雑ハルコト。真ニ知ヌ、疑蓋无キガ↢間雑↡故ニ、是ヲ名ク↢信楽ト↡。信楽即チ是一*心ナリ、一心即チ是真実信心ナリ。是ノ故ニ論主建ニ言ヘル↢一心ト↡也ト、応シ↠知ル。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)法義に就きて釈す【法義釈】
(ⅰ)正しく三心即一を明かす
(a)問
【21】^▼また問ふ。 ▼字訓のごとき、 論主の意、 三をもつて一とせる義、 その理しかるべしといへども、 愚悪の衆生のために阿弥陀如来すでに三心の願を発したまへり。 いかんが思念せんや。
又問フ。如キ↢字訓ノ↡、論主ノ意以テ↠三ヲ為ル↠一ト義、其ノ理雖モ↠可シト↠然ル、為ニ↢愚悪ノ衆生ノ↡阿弥陀如来已ニ発シタマヘリ↢三心ノ願ヲ↡。云何思念セム也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)答
(イ)正釈
[一]総標
^▼答ふ。 仏意測りがたし。
答フ。仏意難シ↠惻リ。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二]弁別
[Ⅰ]至心を釈す【至心釈】
[ⅰ]正明
[a]正釈
・表謙遜意
^▼しかりといへども、 ひそかにこの心を推するに、
雖モ↠然リト、窃ニ推オススルニ↢斯ノ心ヲ↡、
・所為機相
^▽一切の群生海、 *無始よりこのかた乃至今日今時に至るまで、 *穢悪汚染にして清浄の心なし、 *虚仮諂偽にして真実の心なし。
一切ノ群生*海クラシ、自↢従リ无始↡已来タ乃至今日至ルマデ↢今時ニ↡、*穢ケガラハシ悪*汚ケガス染ソムニシテ无シ↢清浄ノ心↡、虚仮 諂ヘツラフ偽ニシテ无シ↢真実ノ心↡。
・法体成就
^▽ここをもつて如来、 一切苦悩の衆生海を悲憫して、 不可思議*兆載永劫において、 菩薩の行を行じたまひし時、 三業の所修、 一念一刹那も清浄ならざることなし、 真心ならざることなし。 ▼如来、 清浄の真心をもつて、 *円融無礙*不可思議不可称不可説の至徳を成就したまへり。
是ヲ以テ如来悲↢憫シテアワレブ一切苦悩ノ衆生海ヲ↡、於テ↢不可思議兆載永劫ニ↡、行ジタマフシ↢菩薩ノ行ヲ↡時、三業ノ所修、一念一刹那モ无シ↠不ルコト↢清浄ナラ↡、无シ↠不ルコト↢真心ナラ↡。如来以テ↢清浄ノ真心ヲ↡、成↢就シタマヘリツク ナルトモ 円融无不可思議不可称不可説ノ至徳ヲ↡。
・法界回施
^▽如来の至心をもつて、 諸有の一切煩悩悪業邪智の群生海に*回施したまへり。
以テ↢如来ノ至心ヲ↡、回↢*施シタマヘリホドコス ハヅストモ諸有ノ一切煩悩悪業邪0081智ノ群生海ニ↡。
・結帰一心
^▽すなはちこれ利他の真心を彰0232す。 ゆゑに疑蓋雑はることなし。
則チ是彰ス↢利他ノ真心ヲ↡。故ニ疑*蓋ボムナフ无シ↠雑ハルコト。
・出体
^▼この至心はすなはちこれ*至徳の尊号をその体とせるなり。
斯ノ至心ハ則チ是至徳ノ尊号ヲ為ル↢其ノ体ト↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅰ][b]引文
[イ]経文
ª一º¬大経¼
【22】^▼ここをもつて ¬大経¼ (上) にのたまはく、
是ヲ以テ¬大経ニ¼言ク、
^「▲欲覚・瞋覚・害覚を生ぜず。 ▼欲想・瞋想・害想を起さず。 ▼色・声・香・味の法に着せず。 ▼忍力成就して衆苦を計らず。 ▼少欲知足にして▼染・恚・痴なし。 ▼三昧▼常寂にして▼智慧▼無礙なり。
「*不↠生ゼ↢欲覚・瞋覚・害覚ヲ↡。不↠起サ↢欲想・瞋想・害想ヲ↡。不↠著セ↢色・声・香・味之法ニ↡。忍力成就シテ不↠計ラ↢衆苦ヲ↡。少欲知足タルニシテ无シ↢染ツク・恚イカル・痴↡。オロカナリ三味常寂ニシテシヅカナリ智*慧无ナリ。
^▼虚偽諂曲の心あることなし。 和顔愛語にして、 意を先にして承問す。 ◆勇猛精進にして志願倦きことなし。 ◆もつぱら清白の法を求めて、 もつて群生を恵利しき。 ◆三宝を恭敬し、 師長に奉事しき。 大荘厳をもつて衆行を具足して、 もろもろの衆生をして功徳成就せしむ」 とのたまへりと。 以上
无シ↠有ルコト↢虚偽イツハル 諂ヘツラフ曲之心↡。和顔カオバセ 愛アハレミ 語コトバニシテ、先ニシテ↠意ヲ承 ツク 問ス。勇イサム 猛タケシ 精モハラ進ニシテ志願无シ↠惓クヱンキコト。専ラ求メテ↢清キヨシ白之法ヲ↡、以テ恵↢メグム利シキ群生ヲ↡。恭↢ツヽシム敬シ三宝ヲ↡、奉↢ツカフ事シキ師長ニ↡。以テ↢大荘カザリ厳ヲ↡イツクシ具↢足シテ衆行ヲ↡、令ムトノタマヘリト↢諸ノ衆生ヲシテ功徳成就セ↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅰ][b][イ]ª二º¬如来会¼
【23】^▼¬無量寿如来会¼ (上) にのたまはく、
¬*无量寿如来会ニ¼言ク、
^「▲仏、 *阿難に告げたまはく、 ªかの▼法処比丘 (*法蔵菩薩)、 ▼世間自在王如来 (*世自在王仏) および諸天・人・魔・梵・沙門・婆羅門等の前にして、 広くかくのごとき大弘誓を発しき。 みなすでに成就したまへり。 ^世間に希有にして◆この願を発し、 すでに実のごとく安住す。 種々の功徳具足して、 威徳広大清浄仏土を荘厳せり。
「仏告ゲタマハク↢阿難ニ↡、彼ノ法処比丘、於テ↢世間自在王如来及ビ諸天・人・魔・梵・沙門・婆羅門等ノ前ニ↡、広ク発シキ↢如キ↠是クノ大弘誓ヲ↡。皆已ニ成就シタマヘリ。世間ニ希マレニ有ニシテ発シ↢是ノ願ヲ↡已リテ、如ク↠実ノ安住ス。種種ノ功徳具足シテ、荘↢厳セリ威徳広大清浄仏土ヲ↡。
^◆かくのごとき菩薩の行を修習せること、 時、 無量無数不可思議無有等等億那由他百千劫を経る0233。 うちにはじめていまだかつて貪瞋および痴、 欲・害・恚の想を起さず、 色・声・香・味・触の想を起さず、 もろもろの衆生において、 つねに愛敬を楽ふことなほ親属のごとし。 乃至
修↢ツクロフ習ナラフセルコト如キ↠是クノ菩薩ノ行ヲ↡、時経ル↢於无量无数不可思議无有等等億那由他百千劫ヲ↡。内ニ初メテ未ズ ダ↣曽テ起サ↢貪瞋及ビ痴、欲・害・恚ノイカル想ヲ↡、不↠起サ↢色・声・香・味・触ノ想ヲ↡、於テ↢諸ノ衆生ニ↡、常ニ楽コノムフコト↢愛*敬ヲ↡猶如シ↢親シタシ属ノ↡。*乃至
^◆その性、 調順にして暴悪あることなし。 もろもろの有情において、 つねに慈忍の心を懐いて詐諂せず、 また懈怠なし。 ◆*善言策進して、 もろもろの白法を求めしめ、 あまねく群生のために勇猛にして退することなく、 世間を利益せしめ、 大願円満したまへりº」 と。 略出
其ノ性、調トヽノフ順ニシテ无シ↠有ルコト↢暴アラシ悪↡。於テ↢諸ノ有情ニ↡、常ニ懐イテ↢慈忍ノ心ヲ↡不↢詐イツワリ諂セ↡、ヘツラワズ亦无シ↢懈オコタリ怠↡。善*言策ムチウツ進シテ、求メシメ↢諸ノ白法ヲ↡、普ク為0082ニ↢群生ノ↡勇イサミ 猛タケシニシテ无ク↠*退スルコト、利↢益セシメ世間ヲ↡、大願円満シタマヘリト。」 略出
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅰ][b][ロ]師釈
ª一º「散善義」
【24】^▼光明寺の和尚 (善導) のいはく (散善義)、
*光明寺ノ和尚ノ*云ク、
^「▲この雑毒の行を回して、 かの仏の浄土に求生せんと欲ふは、 これかならず不可なり。 ◆なにをもつてのゆゑに、 まさしくかの阿弥陀仏、 因中に菩薩の行を行ぜし時、 乃至一念一刹那も、 三業の所修みなこれ真実心のなかになしたまへるによりてなり。
「欲フ↧回シテ↢此ノ雑毒之行ヲ↡、求↦生セムト彼ノ仏ノ浄土ニ↥者、此必ズ不可也。何ヲ以テノ故ニ。正シク由リテナリ↧彼ノ阿弥陀仏、因中ニ行ゼシ↢菩薩ノ行ヲ↡時、乃至一念一刹那モ、三業ノ所修皆是真実心ノ中ニ作シタマヘルニ↥。
^◆おほよそ施したまふところ趣求をなす、 またみな▽真実なり。 ◆また真実に二種あり。 一つには自利真実、 二つには利他真実なりと。 乃至
凡ソ所↠施シタマフ為ス↢趣オモムク求ヲ↡、亦皆真実ナリ。又真実ニ有リ↢二種↡。一ニ者自利真実、二ニ者利他真実ナリト。 乃至
^▲不善の三業をば、 かならず真実心のうちに捨てたまへるを須ゐよ。 またもし善の三業を起さば、 かならず真実心のうちになしたまへるを須ゐて、 ▽内外明闇を簡ばず、 みな真実を須ゐる◆がゆゑに、 至誠心と名づく」 と。 抄要
不善ノ三業オバ、必ズ須ヰヨ↢真実心ノ中ニ捨テタマヘルヲ↡。又若シ起サ↢善ノ三業ヲ↡者、必ズ須ヰテ↢真実心ノ中ニ作シタマヘルヲ↡、不↠簡バ↢内外明闇ヲ↡、皆須ヰルガ↢真実ヲ↡故ニ、名クト↢至誠心ト↡。」 抄*要
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅰ][c]結成
【023425】^▼しかれば、 大聖 (釈尊) の真言、 宗師 (善導) の釈義、 まことに知んぬ、 この心すなはちこれ不可思議不可称不可説*一乗大智願海、 *回向利益他の真実心なり。 これを至心と名づく。
爾レ者大聖ノ真言、宗師ノ釈義、信ニ知ヌ斯ノ心則チ是不可思議不可称不可説一乗大智願海、回向利益他之真実心ナリ。是ヲ名ク↢至心ト↡。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅱ]追釈
[a]先挙
[b]牒
【26】^すでに 「△真実」 といへり。 真実といふは、
既ニ言ヘリ↢真実ト↡。言フ↢真実ト↡者、
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅱ][c]釈
[イ]真実の言を釈す
ª一º¬涅槃経¼「聖行品」
^▼¬*涅槃経¼ (聖行品) にのたまはく、
¬*涅槃経ニ¼言ク、
^「▼*実諦は一道清浄にして二あることなきなり。 ▼真実といふはすなはちこれ如来なり。 如来はすなはちこれ真実なり。 真実はすなはちこれ虚空なり。 虚空はすなはちこれ真実なり。 真実はすなはちこれ仏性なり。 仏性はすなはちこれ真実なり」 と。 以上
「*実諦者一道清浄ニシテ无キ↠有ルコト↠二也。言フ↢真実ト↡者即チ是如来ナリ。如来者即チ是真実ナリ。真実者即チ是虚空ナリ。虚空者即チ是真実ナリ。真実者即チ是仏性ナリ。仏性者即チ是真実ナリト。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅱ][c][ロ]内外明暗を釈す
【27】^▼釈 (散善義) に 「△不簡内外明闇」 といへり。 ^「内外」 とは、 「内」 はすなはちこれ*出世なり、 「外」 はすなはちこれ*世間なり。 「明闇」 とは、 「明」 はすなはちこれ出世なり、 「闇」 はすなはちこれ世間なり。 また 「明」 はすなはち*智明なり、 「闇」 はすなはち*無明なり。
*釈ニ云ヘリ↢「不簡内外明闇ト」↡。内外ト者、内者即チ是出世ナリ、外者即チ是世間ナリ。明闇ト者、明者即チ是出世ナリ、闇者即チ是世間ナリ。又復明者即チ智明ナリ、闇者0083即チ无明也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅱ][c][ロ]ª一º¬涅槃経¼「聖行品」
^¬涅槃経¼ (聖行品) にのたまはく、
¬*涅槃経ニ¼言ク、
^「闇はすなはち世間なり、 明はすなはち出世なり。 闇はすなはち無明なり、 明はすなはち智明なり」 と。 以上
「闇ハ即チ世間ナリ、明ハ即チ出世ナリ。闇ハ即チ无明ナリ、明ハ即チ智明ナリト。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ]信楽を釈す【信楽釈】
[ⅰ]正釈
[a]直釈
【28】^▼次に信楽といふは、 ▼すなはちこれ如来の*満足大悲円融無礙の信心海0235なり。 このゆゑに疑蓋間雑あることなし。 ゆゑに信楽と名づく。
次ニ言フ↢信楽ト↡者、則チ是如来ノ満足大悲円融无ノ信心海ナリ。是ノ故ニ疑蓋无シ↠有ルコト↢間雑↡。故ニ名ク↢信楽ト↡。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅰ][b]出体
^▼すなはち利他回向の至心をもつて信楽の体とするなり。
即チ以テ↢利他回向之至心ヲ↡為ル↢信楽ノ体ト↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅰ][c]弁義
・信楽難得
^△しかるに無始よりこのかた、 一切群生海、 無明海に流転し、 *諸有輪に沈迷し、 *衆苦輪に繋縛せられて、 清浄の信楽なし、 *法爾として真実の信楽なし。 ここをもつて無上の功徳値遇しがたく、 最勝の浄信獲得しがたし。
然ルニ従リ↢无始↡已来タ一切群生海、流↢転シ无明海ニ↡、沈↢ シズミ 迷シ マドフ 諸有輪ニ↡、繋↢ ツナグ 縛シバルセラレテ衆苦輪ニ↡、无シ↢清浄ノ信楽↡、法爾トシテ无シ↢真実ノ信楽↡。是ヲ以テ无上ノ功徳難↢叵ク カタシ *値アフ遇アフシ↡、最勝ノ浄信難↢叵シ獲得ウル シ↡。
・自力不生
^▼一切*凡小、 一切時のうちに、 ▲貪愛の心つねによく善心を汚し、 瞋憎の心つねによく法財を焼く。 ▲急作急修して頭燃を灸ふがごとくすれども、 ▼すべて雑毒雑修の善と名づく。 また虚仮諂偽の行と名づく。 真実の業と名づけざるなり。 この虚仮雑毒の善をもつて無量光明土に生ぜんと欲する、 これかならず不可なり。
一切凡小、一切時ノ中ニ、貪愛之心常ニ能ク汚シ↢善心ヲ↡、瞋憎之心常ニ能ク焼ク↢法財ヲ↡。*急作急修シテ如クスレドモ↠炙フガ↢頭燃ヲ↡、衆テ名ク↢雑毒雑修之善ト↡。亦名ク↢虚仮諂偽之行ト↡。不ル↠名ケ↢真実ノ業ト↡也。以テ↢此ノ虚仮雑毒之善ヲ↡欲スル↠生ゼムト↢无量光明土ニ↡、此必ズ不可也。
・不生所由
^△なにをもつてのゆゑに、 まさしく如来、 菩薩の行を行じたまひし時、 三業の所修、 乃至一念一刹那も、 △疑蓋雑はることなきによりてなり。
何ヲ以テノ故ニ。正シク由リテナリ↧如来、行ジタマフシ↢菩薩ノ行ヲ↡時、三業ノ所修、乃至一念一刹クニ那ナニモ、疑蓋无キニ↞雑ハルコト。
・正因
^この心はすなはち如来の大悲心なるがゆゑに、 かならず報土の正定の因となる。
斯ノ心者即チ如来ノ大悲心ナルガ故ニ、必ズ成ル↢報土ノ正定之因ト↡。
・回施
^△如来、 苦悩の群生海を悲憐して、 無礙広大の浄信をもつて*諸有海に回施したまへり。 これを利他真実の信心と名づく。
如来悲↢憐シテアワレム苦悩ノ群生海ヲ↡、以テ↢无広大ノ浄信ヲ↡回↢施アタフシタマヘリ諸有海ニ↡。是ヲ名ク↢利他真実ノ信心ト↡。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅱ]引文
[a]経文
[イ]本経
ª一º¬大経¼
【29】^▼本願信心の願 (第十八願) 成就の文、 ¬経¼ (大経・下) にのたまはく、
本願信心ノ願成就ノ文、¬経ニ¼言ハク、
^0236「▲諸有の衆生、 その名号を聞きて信心歓喜せんこと乃至一念せん」 と。 以上
「諸有ノ衆生、聞キテ↢其ノ名号ヲ↡信心歓喜セムコト、乃至0084一念セムト。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅱ][a][イ]ª二º¬如来会¼
【30】^▼またのたまはく (如来会・下)、
又言ハク、
^「▲他方仏国の所有の衆生、 無量寿如来の名号を聞きてよく一念の浄信を発して歓喜せん」 と。 以上
「他方仏国ノ所有ノ衆生、聞キテ↢无量寿如来ノ名号ヲ↡能ク発シテ↢一念ノ浄信ヲ↡歓*喜セムト。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅱ][a][ロ]末経
ª一º¬涅槃経¼「師子吼品」
【31】^▼¬涅槃経¼ (*師子吼品) にのたまはく、
¬*涅槃経ニ¼言ハク、
^「善男子、 *大慈大悲を名づけて▼仏性とす。 なにをもつてのゆゑに、 大慈大悲はつねに菩薩に随ふこと、 影の形に随ふがごとし。 一切衆生、 つひにさだめてまさに大慈大悲を得べし。 このゆゑに説きて一切衆生悉有仏性といふなり。 大慈大悲は名づけて仏性とす。 仏性は名づけて如来とす。
「善男子、大慈大悲ヲ名ケテ為↢仏性ト↡。何ヲ以テノ故ニ。大慈大悲ハ常ニ随フコト↢菩薩ニ↡、如シ↢影ノ随フガ↟形ニ。一切衆生畢ニ定メテ当ニシ↠得↢大慈大悲ヲ↡、是ノ故ニ説キテ言ヘルナリ↢一切衆生悉有仏性ト↡。大慈大悲者名ケテ為↢仏性ト↡、仏性者名ケテ為↢如来ト↡。
^*大喜大捨を名づけて仏性とす。 なにをもつてのゆゑに、 菩薩摩訶薩は、 もし二十五有を*捨つるにあたはず、 すなはち阿耨多羅三藐三菩提を得ることあたはず。 もろもろの衆生、 つひにまさに得べきをもつてのゆゑなり。 このゆゑに説きて一切衆生悉有仏性といへるなり。 大喜大捨はすなはちこれ仏性なり、 仏性はすなはちこれ如来なり。
大喜大捨ヲ名ケテ為↢仏性ト↡。何ヲ以テノ故ニ。菩薩摩訶薩ハ若シ不↠能ハ↠捨↢二十五有ニ↡、則チ不↠能ハ↠得ルコト↢阿耨多羅三藐三菩提ヲ↡。以テノ↢諸ノ衆生畢ニ当ベ ニキヲ↟得故ニ、是ノ故ニ説キテ言ヘルナリ↢一切衆生悉有仏性ト↡。大喜大捨者即チ是仏性ナリ、仏性者即チ是如来ナリ。
^仏性は大信心と名づく。 なにをもつてのゆゑに、 信心をもつてのゆゑに菩薩摩訶薩はすなはちよく*檀波羅蜜乃至般若波羅蜜を具足せり。 一切衆生は、 つひにさだめてまさに大信心を得べきをもつてのゆゑに、 このゆゑに説きて一切衆生悉有仏性といふなり0237。 ▼大信心はすなはちこれ仏性なり、 仏性はすなはちこれ如来なり。
仏性者名ク↢大信心ト↡。何ヲ以テノ故ニ。以テノ↢信心ヲ↡故ニ、*以テノ↧菩薩摩訶薩ハ則チ能ク具↢足セリ檀波羅蜜乃至般若波羅蜜ヲ↡、一切衆生ハ畢ニ定メテ当ニキヲ↞得↢大信心ヲ↡故ニ、是ノ故ニ説キテ言ヘルナリ↢一切衆生悉有仏性ト↡。大信心者即チ是仏性ナリ、仏性者即チ是如来ナリ。
^仏性は▼一子地と名づく。 なにをもつてのゆゑに、 一子地の因縁をもつてのゆゑに菩薩はすなはち一切衆生において平等心を得たり。 一切衆生は、 つひにさだめてまさに一子地を得べきがゆゑに、 このゆゑに説きて一切衆生悉有仏性といふなり。 一子地はすなはちこれ仏性なり、 仏性はすなはちこれ如来なり」 と。 以上
仏性者名ク↢一子地ト↡。何ヲ以テノ故ニ。以テノ↢一子地ノ因縁ヲ↡故ニ、菩薩ハ則チ於テ↢一切衆生ニ↡得タリ↢平等心ヲ↡。一切衆生ハ*畢ニ定メテ当ニキガ↠得↢一子地ヲ↡故ニ、是ノ故ニ説キテ言ヘルナリ↢一切衆生悉有仏性ト↡。一子0085地者即チ是仏性ナリ、仏性者即チ是如来ナリト。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅱ][a][ロ]ª二º¬涅槃経¼「迦葉品」二文
【32】^▼またのたまはく (涅槃経・*迦葉品)、
又言ハク、
^「あるいは阿耨多羅三藐三菩提を説くに、 信心を因とす。 これ菩提の因、 また無量なりといへども、 もし信心を説けば、 すなはちすでに*摂尽しぬ」 と。 以上
「或イハ説クニ↢阿耨多羅三藐三菩提ヲ↡、信心ヲ為↠因ト。是菩提ノ因、雖モ↢復无量ナリト↡、若シ説ケバ↢信心ヲ↡、則チ已ニ摂尽シヌト。」 已上
【33】^▼またのたまはく (涅槃経・迦葉品)、
又*言ハク、
^「▼信にまた二種あり。 一つには*聞より生ず、 二つには*思より生ず。 この人の信心、 聞よりして生じて、 思より生ぜず。 このゆゑに名づけて*信不具足とす。
「信ニ復有リ↢二種↡。一ニハ従リ↠聞生ズ、二ニハ従リ↠思生ズ。是ノ人ノ信心、従リ↠聞而生ジテ、不ル↢従リ↠思生ゼ↡。是ノ故ニ名ケテ為↢信不具足ト↡。
^▼また二種あり。 一つには*道ありと信ず、 二つには*得者を信ず。 この人の信心、 ただ道ありと信じて、 すべて得道の人ありと信ぜざらん。 これを名づけて信不具足とす」 と。 以上抄出
復有リ↢二種↡。一ニハ信ズ↠有リト↠道、二ニハ信ズ↢得者ヲ↡。是ノ人ノ信心、唯信ジテ↠有リト↠道、都テ不ラム↠信ゼ↠有リト↢得道之人↡。是ヲ名ケテ為トイヘリ↢信不具足ト↡。」 已上抄出
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅱ][a][ロ]ª三º¬華厳経¼「入法界品」二文
【34】^▼¬*華厳経¼ (入法界品・晋訳) にのたまはく、
¬*華厳経ニ¼言ハク、
^「▼*この法を聞きて信心を歓喜して、 疑なきものは、 すみやかに無上道を成らん。 もろもろの▼如来と等し」 と0238なり。
「▼聞キテ↢此ノ法ヲ↡歓↢喜シテ | 信心ヲ↡ 无キ↠疑者ハ |
速ニ成ラム↢无上道ヲ↡ | 与↢諸ノ如来↡等シトナリ」 |
【35】^またのたまはく (華厳経・入法界品・唐訳)、
又言ハク、
^「如来、 よく永く一切衆生の疑を断たしむ。 その心の*所楽に随ひて、 あまねくみな満足せしむ」 となり。
「如来能ク永ク断タシム↢ | 一切衆生ノ疑ヲ↡ |
随ヒテ↢其ノ心ノ所楽ニ↡ | 普ク皆令ムトナリ↢満足セ↡」 |
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅱ][a][ロ]ª四º¬華厳経¼「賢首品」
【36】^▼またのたまはく (華厳経・*賢首品・唐訳)、
又言ハク、
^「▼信は*道の元とす、 功徳の母なり。 一切のもろもろの善法を*長養す。 疑網を断除して*愛流を出で、 涅槃無上道を開示せしむ。
「信ハ為↢道ノ元ト↡ 功徳ノ母ナリ | 長↢養ス一切ノ諸ノ善法ヲ↡ |
断↢除シテ疑網ヲ↡出デ↢愛流ヲ↡ | 開↢示セシム涅槃无上道ヲ↡ |
^信は垢濁の心なし。 清浄にして憍慢を滅除す。 恭敬の本なり。 また*法蔵第一の財とす。 清浄の手として衆行を受く。
信ハ無シ↢垢濁ノ心↡ 清浄ニシテ | 滅↢除ス驕慢ヲ↡ 恭敬ノ本ナリ |
亦為↢法蔵第一ノ財ト↡ | 為テ↢清浄ノ手ト↡受ク↢衆行ヲ↡ |
^信はよく恵施して心に悋しむことなし。 信はよく歓喜して仏法に入る。 信はよく*智功徳を増長す。 信はよくかならず*如来地に到る。
信ハ能ク恵施シテ心ニ無シ↠悋 リン コト | 信ハ能ク歓喜シテ入ル↢仏法ニ↡ |
信ハ能ク増↢長ス智功徳ヲ↡ | 信ハ能ク必ズ到ル↢如来地ニ↡ |
^信は*諸根をして浄明利ならしむ。 信力堅固なればよく壊することなし。 信はよく永く煩悩の本を滅す。 信はよくもつぱら仏の功徳に向かへしむ。
信ハ令ム↢諸根ヲシテ浄明利ナラ↡ | 信力堅カタシ固ナレバ無シ↢能ク壊スルコト↡ |
信ハ能ク永ク滅ス↢煩悩ノ本ヲ↡ | 信ハ能ク専ラ向ヘシム↢仏功徳ニ↡ |
^信は境界において所着なし。 諸難を遠離して無難を得しむ。 信はよく衆魔の路を超出し、 *無上解脱道を示現せしむ。
信ハ於テ↢境界ニ↡無シ↢所著↡ | 遠↢離0086シテ諸難ヲ↡得シム↢无難ヲ↡ |
信ハ能ク超↢出シ衆魔ノ路ヲ↡ | 示↢現セシム无上解脱道ヲ↡ |
^信は功徳のために種を壊らず。 信はよく菩提の樹を生長す。 信はよく*最勝智を増益す。 信はよく一切仏を示現せしむ。
信ハ為ニ↢功徳ノ↡不↠壊ラ↠種ヲ | 信ハ能ク生↢長ス菩提ノ樹ヲ↡ |
信ハ能ク増↢益ス最勝智ヲ↡ | 信ハ能ク示↢現セシム一切仏ヲ↡ |
^このゆゑに行によりて次第を説く。 信楽、 最勝にしてはなはだ得ること難し。 乃至
是ノ故ニ依リテ↠行ニ説ク↢次第ヲ↡ | 信楽、最勝ニシテ甚ダ難シ↠得ルコト 乃至 |
^もしつねに諸仏に信奉すれば、 すなはちよ0239く大供養を興集す。 もしよく大供養を興集すれば、 かの人、 仏の不思議を信ず。
若シ常ニ信↢奉スレバ於諸仏ニ↡ | 則チ能ク興↢集ス大供養ヲ↡ |
若シ能ク興↢集スレバ大供養ヲ↡ | 彼ノ人信ズ↢仏ノ*不思議ヲ↡ |
^もしつねに尊法に信奉すれば、 すなはち仏法を聞くに*厭足なし。 もし仏法を聞くに厭足なければ、 かの人、 法の不思議を信ず。
若シ常ニ信↢奉スレバ於尊法ニ↡ | 則チ聞クニ↢仏法ヲ↡无シ↢厭イトヒ足タル↡ |
若シ聞クニ↢仏法ヲ↡无ケレバ↢厭足↡ | 彼ノ人信ズ↢法ノ不思議ヲ↡ |
^もしつねに清浄僧に信奉すれば、 すなはち信心退転せざることを得。 もし信心不退転を得れば、 かの人の信力よく動くことなし。
若シ常ニ信↢奉スレバ清浄僧ニ↡ | 則チ得↣信心不ルコトヲ↢退転セ↡ |
若シ得レバ↢信心不退転ヲ↡ | 彼ノ人ノ信力无シ↢能ク動クコト↡ |
^もし信力を得てよく動くことなければ、 すなはち諸根浄明利を得ん。 もし諸根浄明利を得れば、 すなはち善知識に親近することを得。
若シ得テ↢信力ヲ↡无ケレバ↢能ク動クコト↡ | 則チ得ム↢諸根浄明利ヲ↡ |
若シ得レバ↢諸根浄明利ヲ↡ | 則チ得↣親↢近スルコトヲ善知識ニ↡ |
^すなはち善知識に親近することを得れば、 すなはちよく広大の善を修集す。 もしよく広大の善を修集すれば、 かの人、 *大因力を成就す。
則チ得レバ↣親↢近スルコトヲ善知識ニ↡ | 則チ能ク修↢集ス広大ノ善ヲ↡ |
若シ能ク修↢集スレバ広大ノ善ヲ↡ | 彼ノ人成↢就ス大因力ヲ↡ |
^もし人大因力を成就すれば、 すなはち*殊勝決定の解を得。 もし殊勝決定の解を得れば、 すなはち諸仏の為に護念せらる。
若シ人成↢就スレバ大因力ヲ↡ | 則チ得↢殊勝決定ノ解ヲ↡ |
若シ得レバ↢殊勝決定ノ解ヲ↡ | 則チ為ニ↢諸仏ノ↡所ル↢護念セ↡ |
^もし諸仏の為に護念せらるれば、 すなはちよく菩提心を発起す。 もしよく菩提心を発起すれば、 すなはちよく仏の功徳を勤修せしむ。
若シ為ニ↢諸仏ノ↡所ルレバ↢護念セ↡ | 則チ能ク発↢起ス菩提心ヲ↡ |
若シ能ク発↢起スレバ菩提心ヲ↡ | 則チ能ク勤↢修セシム仏ノ功徳ヲ↡ |
^もしよく仏の功徳を勤修すれば、 すなはちよく生れて如来の家にあらん。 もし生れて如来の家にあることを得れば、 すなはち*善をして巧方便を修行せん。
若シ能ク勤↢修スレバ仏ノ功徳ヲ↡ | 則チ能ク生レテ在ラム↢如来ノ家ニ↡ |
若シ得レバ↣生レテ在ルコトヲ↢如来ノ家ニ↡ | 則チ善ヲシテ修↢行セム巧方便ヲ↡ |
^もし善をして巧方便を修行すれば、 すなはち信楽の心、 清浄なることを得。 もし信楽の心、 清浄なることを得れば、 すなはち*増上の最勝0240心を得。
若シ善ヲシテ修↢行スレバ巧方便ヲ↡ | 則チ得↢信楽ノ心清浄ナルコトヲ↡ |
若シ得レバ↢信楽ノ心清浄ナルコトヲ↡ | 則チ得↢増上ノ最勝心ヲ↡ |
^もし増上の最勝心を得れば、 すなはちつねに波羅蜜を修習せん。 もしつねに波羅蜜を修習すれば、 すなはちよく*摩訶衍を具足せん。
若シ得レバ↢増上ノ最勝心ヲ↡ | 則チ常ニ修↢習セム波羅蜜ヲ↡ |
若シ常ニ修↢習スレバ波羅蜜ヲ↡ | 則チ能ク具↢足セム摩訶衍カンヲ↡ |
^もしよく摩訶衍を具足すれば、 すなはちよく法のごとく仏を供養せん。 もしよく法のごとく仏を供養すれば、 すなはちよく念仏の心、 動ぜず。
若シ能ク具↢足スレバ摩訶衍ヲ↡ | 則0087チ能ク如ク↠法ノ供↢養セム仏ヲ↡ |
若シ能ク如↠法ニ供↢養スレバ仏ヲ↡ | 則チ能ク念仏ノ心 不↠動ゼ |
^もしよく念仏の心、 動ぜざれば、 すなはちつねに無量仏を覩見せん。 もしつねに無量仏を覩見すれば、 すなはち如来の体、 常住を見ん。
若シ能ク念仏ノ心 不レバ↠動ゼ | 則チ常ニ覩↢見セム无量仏ヲ↡ |
若シ常ニ覩↢見スレバ无量仏ヲ↡ | 則チ見ム↢如来ノ体常住ヲ↡ |
^もし如来の体、 常住を見れば、 すなはちよく法の永く不滅なることを知らん。 もしよく法の永く不滅なるを知れば、 *弁才を得、 無障礙を得ん。
若シ見レバ↢如来ノ体常住ヲ↡ | 則チ能ク知ラム↢法ノ永ク不滅ナルコトヲ↡ |
若シ能ク知レバ↢法ノ永ク不滅ナルヲ↡ | 得ム↧得↢*弁才ヲ↡ 无障ヲ↥ |
^もし弁才、 無障礙を得れば、 すなはちよく無辺の法を開演せん。 もしよく無辺の法を開演せば、 すなはちよく慈愍して衆生を度せん。
若シ得レバ↢*弁才无障ヲ↡ | 則チ能ク開↢演ノブセム无辺ノ法ヲ↡ |
若シ能ク開↢演セバ无辺ノ法ヲ↡ | 則チ能ク慈愍シテ度セム↢衆生ヲ↡ |
^もしよく衆生を慈愍し度すれば、 すなはち堅固の大悲心を得ん。 もし堅固の大悲心を得れば、 すなはちよく甚深の法を愛楽せん。
若シ能ク慈↢愍テ度スレバ↣衆生ヲ↡ | 則チ得ム↢堅カタク固ノカタシ大悲心ヲ↡ |
若シ得レバ↢堅固ノ大悲心ヲ↡ | 則チ能ク愛↢楽セム甚深ノ法ヲ↡ |
^もしよく甚深の法を愛楽すれば、 すなはちよく*有為の過を捨離せん。 もしよく有為の過を捨離すれば、 すなはち憍慢および放逸を離る。
*若シ能ク愛↢楽スレバ甚深ノ法ヲ↡ | 則チ能ク捨↢離セム有為ノ過ヲ↡ |
若シ能ク捨↢離スレバ有為ノ過ヲ↡ | 則チ離ル↢驕慢及ビ放逸ヲ↡ |
^もし憍慢および放逸を離るれば、 すなはちよく一切衆を*兼利せん。 もしよく一切衆を兼利すれば、 すなはち生死に処して*疲厭なけん」 となり。 略抄
若シ離ルレバ↢驕慢及ビ放逸ヲ↡ | 則チ能ク兼カヌ↢利セム一切衆ヲ↡ |
若シ能ク兼↢利スレバ一切衆ヲ↡ | 則チ処シテ↢生死ニ↡无ケムトナリ↢疲ツカレ厭↡イトフ」 略抄 |
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅱ][ⅱ][b]師釈
[イ]¬論註¼二文
【024137】^▼¬論の註¼ (下) にいはく、
¬*論ノ*註ニ¼曰ク、
^「▲ª如実修行相応ºと名づく。 このゆゑに論主 (天親)、 建めに ª▽我一心º (浄土論) とのたまへり」 と。 以上
「名ク↢如実修行相応ト↡。是ノ故ニ論主建ニ言ヘリト↢我一心ト↡。」 已上
【38】^またいはく (論註・下)、
又言ク、
^「▲経の始めに ª如是º と称することは、 信を彰して能入とす」 と。 以上
「経ノ始ニ称スルコトハ↢如是ト↡、彰シテ↠信ヲ為ト↢能入ト↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ]欲生を釈す【欲生釈】
[ⅰ]正釈
[a]略して分斉を示す
【39】^▼次に欲生といふは、 ▼すなはちこれ如来、 諸有の群生を*招喚したまふの勅命なり。
次ニ言フ↢欲生ト↡者、則チ是如来招↢喚マネキヨブ シタマフ諸有ノ群生ヲ↡之勅命ナリ。
・出体
^▼すなはち真実の信楽をもつて欲生の体とするなり。
即チ以テ↢真実ノ信楽ヲ↡為ル↢欲生ノ体ト↡也。
・簡示他力
^▼まことにこれ大小・凡聖、 定散自力の回向にあらず。 ゆゑに不回向と名づくるなり。
誠ニ是非ズ↢大小・凡聖、定散自力之回向ニ↡。故ニ名クル↢不回向ト↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅰ][b]広く義旨を顕す
・所為機相
^△しかるに*微塵界の有情、 煩悩海に流転し、 生死海に*漂没して、 真実の回向心なし、 清浄の回向心なし。
然ルニ微塵界ノ有情、流↢転シ煩悩海ニ↡、↢タヾヨフ没シテ生死海ニ↡、无シ↢真実ノ回向心↡、无シ↢清浄ノ回向心↡。
・法体成就
^△このゆゑに如来、 一切苦悩の群生海を*矜哀して、 菩薩の行を行じたまひし時、 三業の所修、 乃至一念一刹那も、 ▲回向心を*首として大悲心を成就することを得たまへるがゆゑに、
是ノ故ニ如来矜↢哀シテオホキニアワレム一切苦悩ノ群生海ヲ↡、行ジタマフシ↢菩薩ノ行ヲ↡時、三業0088ノ所修、乃至一念一刹那モ、回向心ヲ為テ↠首ト得タマヘルガ↣成↢就スルコトヲ大悲心ヲ↡故ニ、
・法界回施
^△利他真実の欲生心をもつて諸有海に回施したまへり。
以テ↢利他真実ノ欲生心ヲ↡廻↢施シタマヘリ諸*有海ニ↡。
・結帰一心
^△欲生すなはちこれ回向心なり。 これすなはち大悲心なるがゆゑに、 疑蓋雑はることなし。
欲生即チ是廻向心ナリ。斯則チ大悲心ナルガ故ニ疑蓋无シ↠雑ハルコト。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ]引文
[a]経文
[イ]¬大経¼
【40】^▼ここをもつて本願の欲生心成就の文、 ¬経¼ (大経・下) にのたまはく、
是ヲ以テ本願ノ欲生心成就ノ文、¬経ニ¼言ハク、
^「▲*至心回向したまへり。 かの国に生ぜんと願ずれば、 すなはち往生を得、 不0242退転に住すと。 ただ五逆と誹謗正法とをば除く」 と。 以上
「至心廻向シタマヘリ。願ズレバ↠生ゼムト↢彼ノ国ニ↡、即チ得↢往生ヲ↡、住セムト↢不退転ニ↡。唯除クト↢五逆ト誹謗正法トヲバ↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][a][ロ]¬如来会¼
【41】^▼またのたまはく (如来会・下)、
又言ハク、
^「▲*所有の善根回向したまへるを愛楽して無量寿国に生ぜんと願ずれば、 願に随ひてみな生ぜしめ、 不退転乃至無上正等菩提を得んと。 五無間・誹謗正法および謗聖者を除く」 と。 以上
「*愛↢楽シテ所有ノ善根廻向シタマヘルヲ↡願ズレ↠生ゼムト↢无量寿国ニ↡者、随ヒテ↠願ニ皆生ゼシメ、得ムト↢不退転乃至无上正等菩提ヲ↡。除クト↢五无間・誹謗正法及ビ謗聖者ヲ↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][b]師釈
[イ]¬論註¼三文
【42】^▼¬浄土論¼ (論註・下) にいはく、
¬*浄土論ニ¼曰ク、
^「▲ª*いかんが回向したまへる。 一切苦悩の衆生を捨てずして、 心につねに*作願すらく、 回向を首として大悲心を成就することを得たまへるがゆゑにº (浄土論) とのたまへり。
「云何ガ廻向シタマヘル。不シテ↠捨テ↢一切苦悩ノ衆生ヲ↡、心ニ常ニ作願スラク、廻向ヲ為テ↠首ト得タマヘルガ↣成↢就スルコトヲ大悲心ヲ↡故ニトノタマヘリ。
^◆回向に二種の相あり。 一つには往相、 二つには還相なり。
廻向ニ有リ↢二種ノ相↡。一ニ者往相、二ニ者還相ナリ。
^◆往相とは、 おのれが功徳をもつて一切衆生に回施したまひて、 作願してともにかの阿弥陀如来の安楽浄土に往生せしめたまふなり。
往相ト者、以テ↢己ガ功徳ヲ↡廻↢施シタマヒテ一切衆生ニ↡、作願シテ共ニ往↢生セシメタマフナリ彼ノ阿弥陀如来ノ安楽浄土ニ↡。
^◆還相とは、 かの土に生じをはりて、 奢摩他・毘婆舎那・*方便力成就することを得て、 ▼生死の稠林に回入して、 一切衆生を教化して、 ともに仏道に向らしめたまふなり。
還相ト者、生ジ↢彼ノ土ニ↡已リテ、得テ↢奢摩他・毘婆舎那・方便力成就スルコトヲ↡、廻↢入シテ生死ノ稠林ニ↡、教↢化シテ一切衆生ヲ↡、共ニ向ヘシメタマフナリ↢仏道ニ↡。
^◆もしは往、 もしは還、 みな衆生を抜いて生死海を渡せんがためにしたまへり。 このゆゑに ª回向為首得成就大悲心故º とのたまへり」 と。 以上
若シハ往若シハ還、皆*為ニトノタマヘリ↧抜テ↢衆生ヲ↡渡セムガ↦生死海ヲ↥。是ノ故ニ言ヘリト↢廻向為首得成就大悲心故ト↡。」 已上
【43】^▼またいはく (論註・下)、
又云ク、
^「▲浄入願心とは、 ¬論¼ (浄土論) にいはく0243、 ▼ª^また*向に観察荘厳仏土功徳成就・荘厳仏功徳成就・荘厳菩薩功徳成就を説きつ。 この三種の成就は願心の荘厳したまへるなりと知るべしº といへりと。
「浄入願心ト者、¬論ニ¼曰ク、又向ニ説キツ↢観察荘厳仏土功徳成就・荘厳0089仏功徳成就・荘厳菩薩功徳成就ヲ↡。此ノ三種ノ成就ハ願心ノ荘厳シタマヘルナリト応シトイヘリト↠知ル。
^◆ª知るべしº とは、 この三種の荘厳成就はもと四十八願等の清浄の願心の荘厳したまふところなるによりて、 因浄なるがゆゑに果浄なり、 *因なくして他の因のあるにはあらざるなりと知るべしとなり」 と。 以上
応↠知ト者、応シト↠知ル↧此ノ三種ノ荘厳成就ハ由リテ↣本四十八願等ノ清浄ノ願心之所ナルニ↢荘厳シタマフ↡、因浄ナルガ故ニ果浄ナリ、非ザルナリト↦无クシテ↠因他ノ因ノ有ルニハ↥也ト。」 已上
【44】^▼また ¬論¼ (論註・下) にいはく、
又¬論ニ¼曰ク、
^「▲ª*出第五門とは、 大慈悲をもつて一切苦悩の衆生を観察して、 応化の身を示して、 生死の園、 煩悩の林のなかに回入して、 神通に遊戯し教化地に至る。 本願力の回向をもつてのゆゑに。 これを出第五門と名づくº (浄土論) とのたまへり」 と。 以上
「出第五門ト者、以テ↢大慈悲ヲ↡観↢察カヾムシテ一切苦悩ノ衆生ヲ↡、示シテ↢応化ノ身ヲ↡、回↢入シテ生死ノ園オン、煩悩ノ林ノ中ニ↡、遊↢戯シタワブル神通ニ↡至ル↢教化地ニ↡。以テノ↢本願力ノ回向ヲ↡故ニ。是ヲ名クトノタマヘリト↢出第五門ト↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][b][ロ]¬義疏¼
ª一º出文
ªⅠº「散善義」
【45】^▼光明寺の和尚 (善導) のいはく (散善義)、
*光明寺ノ和尚ノ云ク、
^「▲また回向発願して生るるものは、 かならず決定真実心のなかに回向したまへる願を須ゐて得生の想をなせ。
「又回向発願シテ生ルヽ者ハ、必ズ須ヰテ↢決定真実心ノ中ニ回向シタマヘル願ヲ↡作ス↢得生ノ想ヲ↡。
^▼この心深く信ぜること金剛のごとくなるによつて、 一切の異見・異学・別解・別行の人等のために動乱破壊せられず。 ただこれ決定して一心に捉つて正直に進んで、 かの人の語を聞くことを得ざれ。 すなはち進退の心ありて怯弱を生じ回顧すれば、 道に落ちてすなはち往生の大益を失するなり」 と。 以上
此ノ心深ク信ゼルコト由テ↠若クナルニ↢金剛ノ↡、不↧為ニ↢一切ノ異見・異学・別解・別行ノ人等之↡所レ↦動乱破壊セ↥。唯是決定シテ一心ニ捉トウテ正直ニ進デ、不レ↠得↠聞クコトヲ↢彼ノ人ノ語ヲ↡。即チ有リテ↢進退ノ心↡生ジ↢怯ヨハク弱ヲ↡回顧スレバカヘリミル、落チテ↠道ニ即チ失スル↢往生之大益ヲ↡也ト。」*已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][b][ロ]ª二º釈意
ªⅠº総標
【024446】^▼まことに知んぬ、 二河の譬喩のなかに
*真ニ知ヌ二河ノ譬喩ノ中ニ
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][b][ロ]ª二ºªⅡº別釈
ªⅰº白道四五寸を釈す
^「△白道四五寸」 といふは、 「白道」 とは、 「白」 の言は黒に対するなり。 「白」 はすなはちこれ*選択摂取の白業、 *往相回向の浄業なり。 「黒」 はすなはちこれ無明煩悩の黒業、 二乗・人・天の雑善なり。 ▼「道」 の言は路に対せるなり。 「道」 はすなはちこれ▼本願一実の直道、 大般涅槃、 無上の大道なり。 「路」 はすなはちこれ二乗・三乗、 万善諸行の小路なり。 「四五寸」 といふは衆生の四大五陰に喩ふるなり。
言フ↢白道四五寸ト↡者、白道ト者、白之言ハ対スル↠黒ニ也。白者即チ是選択摂取之白業、往相回向之浄業也。黒者即チ是无明煩悩之黒業、二乗・人・天之雑善也。道之言ハ対セルナリ↠*路セバキニ。*道ヒロキ者則チ是本願一実之直道、大般涅槃、无上之大道也。路者則チ是二乗・三乗、万善0090諸行之小路也。言フ↢四五寸ト↡者喩フル↢衆生ノ四大五陰ニ↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][b][ロ]ª二ºªⅡºªⅱº清浄願心を釈す
ªaº直釈
^「△*能生清浄願心」 といふは、 金剛の真心を獲得するなり。 本願力の回向の大信心海なるがゆゑに、 破壊すべからず。 これを金剛のごとしと喩ふるなり。
言フ↢能生清浄願心ト↡者、獲↢得スル金剛ノ真心ヲ↡也。本願力ノ回向ノ大信心海ナルガ故ニ、不↠可カラ↢破壊ス↡。喩フル↣之ヲ如シト↢金剛ノ↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][b][ロ]ª二ºªⅡºªⅱºªbº引証
ªイº「玄義分」
【47】^▼¬観経義¼ (*玄義分) に、
¬観経義ニ¼云ヘリ↧
^「▲道俗時衆等、 おのおの▽*無上の心を発せども、 生死はなはだ厭ひがたく、 仏法また欣ひがたし。 ^ともに▼金剛の志を発して、 ▽横に▼四流を超断せよ。
「道俗時衆等 | 各ノ発セドモ↢无上心ヲ↡ |
生死甚ダ難ク↠厭ヒ | 仏法復難シ↠忻ヒ |
共ニ発シテ↢金剛ノ志ヲ↡ | 横ニ超↢断セヨ四流ヲ↡ |
^▲まさしく金剛心を受けて、 ▼*一念に相応して後、 ▼*果、 涅槃を得んひと」 といへり。 抄要
| 正シク受ケテ↢金剛心ヲ↡ |
相↢応シテ一念ニ↡後 | 果*得ム↢涅槃ヲ↡者ト」↥ 抄要 |
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][b][ロ]ª二ºªⅡºªⅱºªbºªロº「序分義」
【48】^▼またいはく (*序分義)、
又云ク、
^「▲真心徹到して苦の娑婆を厭ひ、 楽の無為を欣ひて、 永く常楽に帰すべし。 ただし*無為の境、 *軽爾としてすなはち階ふべ0245からず、 苦悩の娑婆、 *輒然として離るることを得るに由なし。 ▼金剛の志を発すにあらずよりは、 永く生死の元を絶たんや。 もし親り*慈尊に従ひたてまつらずは、 なんぞよくこの長き歎きを勉れん」 と。
「真心徹トホル到シテ厭ヒ↢苦ノ娑婆ヲ↡、忻ヒテ↢楽ノ无為ヲ↡、永ク帰スベシ↢常楽ニ↡。但シ无為之境、サカイ不↠可カラ↢軽カロク爾トシテシカラシム即チ階ハシフ↡、苦悩ノ娑婆无シ↠由↢輒タヤスシ然トシテシカラシム得ルニ↟離ルヽコトヲ。自リハ↠非ズ↠発スニ↢金剛之志ヲ↡、永ク絶タムヤ↢生死之元ヲ↡。若シ不ハ↣親リ従ヒタテマツラ↢慈尊ニ↡、何ゾ能ク勉レムト↢斯ノ長キ歎ヲ↡。」
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[二][Ⅲ][ⅱ][b][ロ]ª二ºªⅡºªⅱºªbºªハº「定善義」
【49】^▼またいはく (*定善義)、
又云ク、
^「▲金剛といふは、 すなはちこれ無漏の体なり」 と。 以上
「言フ↢金剛ト↡者、即チ是无漏之体也。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[三]結示
[Ⅰ]正結
[ⅰ]正しく三心即一を明かす
【50】^▼まことに知んぬ、 至心・信楽・欲生、 その言異なりといへども、 その意これ一つなり。
信ニ知ヌ至心・信楽・欲生、其ノ言雖モ↠異ナリト、其ノ意惟一ナリ。
・示由
^なにをもつてのゆゑに、 三心すでに疑蓋雑はることなし、
何ヲ以テノ故ニ。三心已ニ*疑蓋无シ↠ウタガフコヽロナリ雑ハルコト、
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[三][Ⅰ][ⅱ]名号に対弁す
^ゆゑに真実の一心なり。 これを金剛の真心と名づく。 金剛の真心、 これを真実の信心と名づく。
故ニ真実ノ一心ナリ。是ヲ名ク↢金剛ノ真心ト↡。金剛ノ真心、是ヲ名ク↢真実ノ信心ト↡。
・必具行
^▼真実の信心はかならず*名号を具す。 名号はかならずしも願力の信心を具せざるなり。
▼真実ノ信心ハ必ズ具ス↢名号ヲ↡。名号ハ必ズシモ不ル↠具セ↢願力ノ信心ヲ↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(イ)[三][Ⅱ]引証
^このゆゑに論主 (天親)、 建めに 「▲我一心」 (*浄土論) とのたまへり。 また 「▲如彼名義欲↓如実修行相応故」 (浄土論) とのたまへり。
是ノ故ニ論主、建ニ言ヘリ↢「我一心ト」↡。又言ヘリ↢「如彼名義欲如実修行相応故ト」↡。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)結嘆【大信嘆徳】
[一]上の成一を牒す
【51】^おほよそ▼大信海を案ずれば、
0091凡ソ按ズレ↢大信海ヲ↡者、
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)[二]正嘆
・四不十四非
ⅰ▼貴賎*緇素を簡ばず、 ⅱ▼男女老少をいはず、 ⅲ▼造罪の多少を問はず、 ⅳ▼修行の久近を論ぜず、 1▼*行にあらず善にあらず、 2▼頓にあらず漸にあらず、 3▼定にあらず散にあらず、 4▼*正観にあらず邪観にあら0246ず、 5▼有念にあらず無念にあらず、 6▼尋常にあらず臨終にあらず、 7▼多念にあらず一念にあらず、 ^ただこれ不可思議不可称不可説の信楽なり。
不↠簡バ↢*貴賎*緇ホフシ 素オトコヲ↡、不↠謂ハ↢男女老少ヲ↡、不↠問ハ↢造罪ノ多少ヲ↡、不↠論ゼ↢修行ノ久近ヲ↡、非ズ↠行ニ非ズ↠善ニ、非ズ↠頓ニ非ズ↠漸ニ、非ズ↠定ニ非ズ↠散ニ、非ズ↢正観ニ↡非ズ↢邪観ニ↡、非ズ↢有念ニ↡非ズ↢无念ニ↡、非ズ↢尋常ニ↡非ズ↢臨終ニ↡、非ズ↢多念ニ↡非ズ↢一念ニ↡、唯是不可思議不可*説不可*称ノ信楽也。
・喩顕
^▲たとへば*阿伽陀薬のよく一切の毒を滅するがごとし。 如来誓願の薬はよく▼*智愚の毒を滅するなり。
喩ヘバ如シ↣阿伽陀薬ノ能ク滅スルガ↢一切ノ毒ヲ↡。如来誓願ノ薬ハ能ク滅スル↢智愚ノ毒ヲ↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)別して信楽を釈す
(a)菩提心の義を釈す【菩提心釈】
(イ)解義
[一]対判して宗を示す
[Ⅰ]標
・▼二双四重
【52】^▼しかるに△菩提心について二種あり。 一つには↓竪、 二つには↓横なり。
然ルニ就テ↢菩提心ニ↡有リ↢二種↡。一ニ者竪、二ニ者横ナリ。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(イ)[一][Ⅱ]釈
[ⅰ]竪を明かす
^また↑竪についてまた二種あり。 一つには▽竪超、 二つには▽竪出なり。 竪超・竪出は*権実・*顕密・*大小の教に明かせり。 *歴劫迂回の菩提心、 自力の金剛心、 菩薩の大心なり。
又就テ↠竪ニ復有リ↢二種↡。一ニ者*竪超、二ニ者竪出ナリ。竪超・竪出ハ明セリ↢権実・顕密・大小之教ニ↡。歴劫迂廻之菩提心、自力ノ金剛*心、菩薩ノ大心也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(イ)[一][Ⅱ][ⅱ]横を明かす
^また↑横についてまた二種あり。 一つには▽横超、 二つには▽横出なり。 横出とは、 *正雑・*定散、 ▼他力のなかの自力の菩提心なり。 横超とは、 これすなはち願力回向の信楽、 これを願作仏心といふ。 願作仏心すなはちこれ横の大菩提心なり。 これを*横超の金剛心と名づくるなり。
亦就テ↠横ニ復有リ↢二種↡。一ニ者横超、二ニ者横出ナリ。横出ト者、正雑・定散、他力ノ中之自力ノ菩提心也。横超ト者、斯乃チ願力廻向之信楽、是ヲ曰フ↢願作仏心ト↡。*願作仏心即チ是横ノ大菩提心ナリ。是ヲ名クル↢横超ノ金剛心ト↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(イ)[二]結成・勧誡
^横竪の菩提心、 その言一つにしてその心異なりといへども、 入真を正要とす、 真心を根本とす、 邪雑を錯とす、 疑情を失とするなり。
横竪ノ菩提心、其ノ言一ニ而其ノ心雖モ↠異ナリト、入真ヲ為↢正要ト↡、真心ヲ為↢根本ト↡、邪雑ヲ為↠*錯アヤマトリ、疑情ヲ為ル↠失ト也。
^欣求*浄刹の道俗、 深く信不具足の金言を了知し、 永く*聞不具足の邪心を離るべきなり。
忻求浄刹ノ道俗、深ク了↢知シ信不具足之金言ヲ↡、永ク応キ↠離ル↢聞不具足之邪心ヲ↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)引証
[一]横超の菩提心を証す
[Ⅰ]¬論註¼
【024753】^▼¬論の註¼ (下) にいはく、
¬*論ノ註ニ¼*曰ク、
^「▲*王舎城所説の ¬*無量寿経¼ を案ずるに、 ▼三輩生のなかに行に優劣ありといへども、 ▼みな無上菩提の心を発せざるはなし。 この無上菩提心は、 すなはちこれ願作仏心なり。 願作仏心は、 すなはちこれ度衆生心なり。 度衆生心は、 すなはちこれ衆生を摂取して有仏の国土に生ぜしむる心なり。 このゆゑに▽かの安楽浄土に生ぜんと願ずるものは、 かならず無上菩提心を発するなり。
「按ズルニ↢王舎城所説ノ¬无量寿経ヲ¼↡、三輩生ノ中ニ雖モ↣行ニ有リト↢優劣↡、莫シ↠不0092ルハ↠発セ↢皆无上菩提之心ヲ↡。此ノ无上菩提心ハ、即チ是願作仏心ナリ。願作仏心ハ、即チ是度衆生心ナリ。度衆生心ハ、即チ是*摂↢オサメ取シテムカエトリ衆生ヲ↡タマフトナリ生ゼシムル↢有仏ノ国土ニ↡心ナリ。是ノ故ニ願ズル↠生ゼムト↢彼ノ安楽浄土ニ↡者ハ、要ズ発スル↢无上菩提心ヲ↡也。
^◆もし人無上菩提心を発せずして、 ただかの国土の受楽間なきを聞きて、 楽のためのゆゑに生ぜんと願ぜん、 またまさに往生を得ざるべきなり。 このゆゑにいふこころは、 ª自身住持の楽を求めず、 一切衆生の苦を抜かんと欲ふがゆゑにº (浄土論) と。
若シ人不シテ↠発セ↢无上菩提心ヲ↡、但聞キテ↢彼ノ国土ノ受楽无キヲ↟間、為ノ↠楽ノ故ニ願ゼム↠生ゼムト、亦当ニキ↠不ル↠得↢往生ヲ↡也。是ノ故ニ言ハ、不↠求メ↢自身住持之楽ヲ↡、欲フガ↠抜カムト↢一切衆生ノ苦ヲ↡故ニト。
^◆ª住持楽º とは、 いはく、 かの安楽浄土は阿弥陀如来の本願力のために住持せられて受楽間なきなり。
住持楽ト者、謂ク彼ノ安楽浄土ハ為ニ↢阿弥陀如来ノ本願力之↡所レテ↢住持セ↡受楽无キ↠間也。
^◆おほよそ ª回向º の名義を釈せば、 いはく、 おのれが所集の一切の功徳をもつて一切衆生に*施与したまひて、 ともに仏道に向かへしめたまふなり」 と。 抄出
凡ソ釈セバ↢廻向ノ名義ヲ↡、謂ク以テ↢己ガ所集ノ一切ノ功徳ヲ↡*施↢与シタマヒテホドコシアタフ一切衆生ニ↡、共ニ向ヘシメタマフナリト↢仏道ニ↡。」 抄出
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)[二]横超の特絶を示す
[Ⅰ]元照¬弥陀経義疏¼三文
1.甚難希有
【54】^▼*元照律師のいはく (*阿弥陀経義疏)、
*元*昭律師ノ云ク、
^「▽他のなすことあたはざるがゆゑに甚難なり。 世挙つていまだ見たてまつらざるがゆゑに希有なり」 と。
▲「他ノ不ルガ↠能ハ↠為スコト故ニ甚難ナリ。挙テ↠世未ダルガ↠見タテマツラ故ニ希有ナリトイヘリ。」
2.世間難信
【55】^▼またいはく (阿弥陀経義疏)、
又云ク、
^「▽念仏法門は↓愚智・↓豪賎を簡ばず、 ↓久近・↓善悪を論ぜず0248、 ただ↓*決誓猛信を取れば、 臨終悪相なれども、 十念に往生す。 これすなはち▼↓*具縛の凡愚、 ▼↓*屠沽の下類、 刹那に超越する成仏の法なり。 ▽*世間甚難信といふべきなり」 と。
▲「念仏法門ハ不↠簡バ↢愚智・豪賎ヲ↡、不↠論ゼ↢久近・善悪ヲ↡、唯取レバ↢決誓猛信ヲ↡、臨終悪相ナレドモ、十念ニ往生ス。此乃チ具縛ノ凡愚、屠沽ノ下類、刹那ニ※超越スル成仏之法ナリ。可キ↠謂フ↢世間甚難信ト↡也。」
3.二難弁成
【56】^▼またいはく (阿弥陀経義疏)、
又云ク、
^「△この悪世にして修行成仏するを難とするなり。 △もろもろの衆生のために、 この法門を説くを二つの難とするなり。 ▼前の二難を承けて、 すなはち諸仏所讃の虚しからざる意を彰す。 衆生聞きて信受せしめよとなり」 と。 以上
▲「於テ↢此ノ悪世ニ↡修行成仏スルヲ為ル↠難ト也。為ニ↢諸ノ衆生ノ↡、説クヲ↢此ノ法門ヲ↡為ル↢二ノ難ト↡也。承ケテ↢前ノ二難ヲ↡、則チ彰ス↢諸仏所讃ノ不ル↠虚シカラ意ヲ↡。使メヨトナリト↢衆生聞キ而信受セ↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)[二][Ⅱ]用欽¬超玄記¼(いま伝わらず)
【57】^▼*律宗の*用欽のいはく、
律宗ノ用欽ノ云ク、
^「△法の難を説くなかに、 まことにこの法をもつて凡を転じて聖となすこと、 なほし掌を反すがごとくなるをや。 大きにこれ易かるべきがゆゑに、 おほよそ浅き衆生は多く疑惑を生ぜん。 すなはち ¬*大本¼ (大経・下) に ª▲易往而無人º といへり。 ゆゑに知んぬ、 難信なり」 と。
「説ク↢法ノ難ヲ↡中ニ、良ニ以テ↢此ノ法ヲ↡転ジテ↠凡ヲ成スコト↠聖ト、猶シクナルオ↠反スガ↠掌ヲ乎。大ニ為容キガ↠易0093カル故ニ、凡ソ浅キ衆生ハ多ク生ゼム↢疑惑ヲ↡。即チ¬大本ニ¼云ヘリ↢易往而无人ト↡。故ニ知ヌ難信ナリト矣。」
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)[二][Ⅲ]戒度¬聞持記¼
【58】^▼¬*聞持記¼ にいはく、
¬聞持記ニ¼云ク、
^「ª↑愚智を簡ばずº といふは、 性に利鈍あり。 ª↑豪賎を択ばずº といふは、 *報に強弱あり。 ª↑久近を論ぜずº といふは、 *功に浅深あり。 ª↑善悪を選ばずº といふは、 行に好醜あり。 ª↑決誓猛信を取れば、 臨終悪相なれどもº といふは、 すなはち ¬観経¼ 下品中生に ª▲地獄の衆火、 一時にとも0249に至るº と等いへり。
「不簡愚智トイフハ、 性ニ有リ↢利鈍↡。 不択豪賎トイフハ、 報ニ有リ↢*強弱↡。 不論久近トイフハ、 功ニ有リ↢浅深↡。 不選善悪トイフハ、 行ニ有リ↢好*醜↡。 取決誓猛信、臨終悪相トイフハ、 即チ¬観経ノ¼下品中生ニ地獄ノ衆火、一時ニ倶ニ至ルト等イヘリ。
^ª↑具縛の凡愚º といふは、 *二惑まつたくあるがゆゑに。 ª↑屠沽の下類、 刹那に超越する成仏の法なり。 一切世間甚難信といふべきなりº といふは、 屠はいはく、 殺を宰る。 沽はすなはち*醞売。 かくのごとき悪人、 ただ十念によりてすなはち*超往を得、 あに難信にあらずや。
具縛凡愚トイフハ、二惑全ク在ルガ故ニ。屠沽下類、刹那※超越成仏之法。可謂一切世間甚難信也トイフハ、屠ハ謂ク、*宰ル↠殺ヲ。沽ハ即チ*醞売。如シ↠此クノ悪人、止由リテ↢十念ニ↡便チ得↢超往ヲ↡、豈非ズヤ↢難信ニ↡。
^*阿弥陀如来は▲真実明・▲平等覚・▲難思議・▲畢竟依・▲大応供・▲大安慰・▲無等等・▲不可思議光と号したてまつるなり」 と。 以上
阿弥陀如来ハ、号シマツルナリト↢真実明・平等覚・難思議・畢竟依・大応供・大安慰・无等等・不可思議光ト↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(a)(ロ)[二][Ⅳ]宗暁¬楽邦文類¼
【59】^▼¬*楽邦文類¼ の*後序にいはく、
¬*楽邦文類ノ¼後序ニ曰ク、
^「浄土を修するものつねに多けれども、 その門を得てただちに造るものいくばくもなし。 浄土を論ずるものつねに多けれども、 その要を得てただちに指ふるものあるいは寡し。 かつていまだ聞かず、 *自障自蔽をもつて説をなすことあるもの。 得るによりてもつてこれをいふ。
「修スル↢浄土ヲ↡者常ニ多ケレドモ、得↢其ノ門ヲ↡而径ニ造ル者无シ↠幾モ。論ズル↢浄土ヲ↡者常ニ多ケレドモ、得↢其ノ要ヲ↡而直ニ指フル者或イハ寡シ矣。曽テ未ズ ダ↠聞カ、有ル↧以テ↢自障自蔽ヲ↡為スコト↞説ヲ者。因リテ↠得ルニ以テ言フ↠之ヲ。
^それ自障は*愛にしくなし、 自蔽は*疑にしくなし。 ただ疑・愛の二心つひに障礙なからしむるは、 すなはち浄土の一門なり。 いまだはじめて*間隔せず。 弥陀の*洪願つねにおのづから摂持したまふ。 *必然の理なり」 と。 以上
夫自障ハ莫シ↠若ク↠愛ニ、自蔽ハ莫シ↠若ク↠疑ニ。但使ムルハ↣疑・愛ノ二心了ニ無カラ↢障↡、則チ浄土ノ一門ナリ。未ズ ダ↢始テ*間隔セ↡。弥陀ノ洪願常ニ自ラ摂持シタマフ。必然之理也。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)信一念の義を釈す【信一念釈】
(イ)正しく信一念の義を釈す
[一]直釈
【025060】^▼それ真実の信楽を案ずるに、 ▼*信楽に一念あり。 ▼一念とはこれ*信楽開発の時剋の極促を顕し、 *広大難思の慶心を彰すなり。
夫按ズルニ↢真実ノ信楽ヲ↡、信楽ニ有リ↢一念↡。一念ト者斯顕シ↢信楽開発ノ時剋之極*促トシヲ↡、*彰ス↢ウチニアラハス広大難思ノ慶心ヲ↡也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二]引文
[Ⅰ]経説
[ⅰ]¬大経¼
【61】^▼ここをもつて ¬大経¼ (下) にのたまはく、
是ヲ以テ¬大経ニ¼言ハク、
^「▲あらゆる衆生、 その名号を↓聞きて↓信心↓歓喜せんこと、 ↓乃至↓一念せん。 *至心に回向したまへり。 かの国に生ぜんと願ずれば、 すなはち往生を得、 不退転に住せん」 と。
「諸有衆生、聞キテ↢其ノ名号ヲ↡信心歓喜セムコト、乃至一念セム。至心ニ廻*向シタマヘリ。願ズレバ↠生ゼムト↢彼ノ国ニ↡、即チ得↢往生ヲ↡、住セムト↢不退転ニ↡。」
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅱ]¬如来会¼
【62】^▼また (如来会・下)、
又0094
^「▲他方仏国の所有の衆生、 無量寿如来の名号を聞きてよく一念の浄信を発して歓喜せん」 とのたまへり。
言ヘリ↧「他方仏国ノ所有ノ衆生、聞キテ↢无量寿如来ノ名号ヲ↡能ク発シテ↢一念ノ浄信ヲ↡歓*喜セムト。」↥
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅲ]¬大経¼
^また (大経・下)、
又
^「▲その仏の本願の力、 名を聞きて往生せんと欲はん」 とのたまへり。
言ヘリ↣
「其ノ仏ノ本願ノ力 | 聞キテ↠名ヲ欲ヘト↢往生セムト↡」 |
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅳ]¬如来会¼
^また (如来会・下)、
又
^「▲仏の聖徳の名を聞く」 とのたまへり。 以上
言ヘリ↣「聞クト↢仏ノ聖徳ノ名ヲ↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二][Ⅰ][ⅴ]¬涅槃経¼「迦葉品」
【63】^▼¬涅槃経¼ (迦葉品) にのたまはく、
¬*涅槃経ニ¼言ハク、
^「▼いかなるをか名づけて聞不具足とする。 ▼如来の所説は十二部経なり。 ただ六部を信じていまだ六部を信ぜず、 このゆゑに名づけて聞不具足とす。
「云何ガ名ケテ為ル↢聞不具足ト↡。如来ノ所説ハ十二部経ナリ。唯信ジテ↢六部ヲ↡未ズ ダ↠信ゼ↢六部ヲ↡、是ノ故ニ名ケテ為↢聞不具足ト↡。
^▼またこの六部の経を受持すといへども、 *読誦にあたはずして他のために解説すれば利益するところなけん。 このゆゑに名づけて聞不具足とす。
雖モ↣復受↢持スト是ノ六部ノ経ヲ↡、不シテ↠能ハ↢読誦ニ↡為ニ↠他ノ解*説スルハ无ケム↠所↢利益スル↡。是ノ故ニ名ケテ為↢聞不具足ト↡。
^▼またこの六部の経を受けをはりて、 論議のためのゆゑに、 *勝0251他のためのゆゑに、 *利養のためのゆゑに、 *諸有のためのゆゑに、 *持読誦説せん。 このゆゑに名づけて聞不具足とす」 とのたまへり。 以上
又復受ケ↢是ノ六部ノ経ヲ↡已リテ、為ノ↢論議ノ↡故ニ、為ノ↢勝他ノ↡故ニ、為ノ↢利養ノ↡故ニ、為ノ↢諸有ノ↡故ニ、持読誦説セム。是ノ故ニ名ケテ為トノタマヘリ↢聞不具足ト↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[二][Ⅱ]師釈
[ⅰ]「散善義」二文
【64】^光明寺の和尚 (善導) は ^「▲一心↓専念」 (散善義) といひ、 ^また ^「▲↓専心専念」 (散善義・意) といへり。 以上
*光明寺ノ和尚ハ云ヒ↢「一心専念ト」↡、又云ヘリト↢「専心専念ト」↡。 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[三]釈成
[Ⅰ]経説を釈す
[ⅰ]聞信一念を釈す
【65】^しかるに ¬経¼ (大経・下) に *「↑聞」 といふは、 衆生、 ▼*仏願の生起本末を聞きて疑心あることなし、 これを聞といふなり。 「↑信心」 といふは、 すなはち本願力回向の信心なり。 「↑歓喜」 といふは、 身心の悦予を形すの貌なり。
然ルニ¬経ニ¼言フ↠聞ト者、衆生聞キテ↢仏願ノ生起本末ヲ↡無シ↠有ルコト↢疑心↡、是ヲ曰フ↠聞ト也。言フ↢信心ト↡者、則チ本願力廻向之信心也。言フ↢歓喜ト↡者、※形ス↢身心ノ悦予之貌ヲ↡也。
^「↑乃至」 といふは、 多少を摂するの言なり。 「↑一念」 といふは、 信心二心なきがゆゑに一念といふ。 これを一心と名づく。 一心はすなはち清浄報土の真因なり。
言フ↢乃至ト↡者、※摂スル↢多少之言↡也。言フ↢一念ト↡者、信心无キガ↢二心↡故ニ曰フ↢一念ト↡。是ヲ名ク↢一心ト↡。一心ハ則チ清浄報土ノ真因也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[三][Ⅰ][ⅱ]一心の利益を明かす【現生十益】
^金剛の真心を獲得すれば、 ▼横に五趣八難の道を超え、 かならず現生に▼十種の益を獲。 なにものか十とする。
獲↢得スレ金剛ノ真心ヲ↡者、横ニ超ヘ↢五趣八0095難ノ道ヲ↡、必ズ獲↢現生ニ十種ノ益ヲ↡。何者カ為ル↠十ト。
^▼一つには冥衆護持の益、 ^▼二つには至徳具足の益、 ^▼三つには転悪成善の益、 ^▼四つには諸仏護念の益、 ^▼五つには諸仏称讃の益、 ^▼六つには心光常護の益、 ^▼七つには心多歓喜の益、 ^▼八つには知恩報徳の益、 ^▼九つには常行大悲の益、 ^▼十には正定聚に入る益なり。
一ニ者*冥衆護持ノ益、二ニ者至徳具足ノ益、三ニ者転悪成善ノ益、四ニ者諸仏護念ノ益、五ニ者諸仏称讃ノ益、六ニ者心光常護ノ益、七ニ者心多歓喜ノ益、八ニ者知恩報徳ノ益、九ニ者常行大悲ノ益、十ニ者入ル↢正定聚ニ↡益也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[三][Ⅱ]師釈を釈す
【025266】^宗師 (善導) の 「↑専念」 (散善義) といへるは、 すなはちこれ一行なり。 「↑専心」 (散善義) といへるは、 すなはちこれ一心なり。
宗師ノ云ヘルハ↢専念ト↡、即チ是一行ナリ。云ヘルハ↢専心ト↡、即チ是一心也。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[四]会名
[Ⅰ]正明
[ⅰ]正会【一念転釈】
^▼しかれば、 1願成就 (第十八願成就文) の 「一念」 はすなはちこれ専心なり。
然レ者願成就ノ一念ハ即チ是専心ナリ。
2専心はすなはちこれ深心なり。
専心ハ即チ是深心ナリ。
3深心はすなはちこれ深信なり。
深心ハ即チ是深信ナリ。
4深信はすなはちこれ堅固深信なり。
深信ハ即チ是堅固深信ナリ。
5堅固深信はすなはちこれ決定心なり。
堅固深信ハ即チ是決定心ナリ。
6決定心はすなはちこれ無上上心なり。
決定心ハ即チ是无上上心ナリ。
7無上上心はすなはちこれ真心なり。
无上上心ハ即チ是真心ナリ。
8真心はすなはちこれ相続心なり。
真心ハ即チ是相続心ナリ。
9相続心はすなはちこれ淳心なり。
相続心ハ即チ是淳心ナリ。
10淳心はすなはちこれ憶念なり。
淳心ハ即チ是憶念ナリ。
11憶念はすなはちこれ真実の一心なり。
憶念ハ即チ是真実ノ一心ナリ。
12真実の一心はすなはちこれ大慶喜心なり。
真実ノ一心ハチ即是大慶喜心ナリ。
13大慶喜心はすなはちこれ真実信心なり。
大慶喜心ハ即チ是真実信心ナリ。
14真実信心はすなはちこれ金剛心なり。
真実信心ハ即チ是金剛心ナリ。
15金剛心はすなはちこれ願作仏心なり。
金剛心ハ即チ是願作仏心ナリ。
16願作仏心はすなはちこれ度衆生心なり。
願作仏心ハ即チ是度衆生心ナリ。
17度衆生心はすなはちこれ衆生を摂取して安楽浄土に生ぜしむる心なり。
度衆生心ハ即チ是摂↢取シテ衆生ヲ↡生ゼシムル↢安楽浄土ニ↡心ナリ。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[四][Ⅰ][ⅱ]結示
^▼この心すなはちこれ大菩提心なり。 この心すなはちこれ大慈悲心なり。 この心すなはちこれ*無量光明慧によりて生ずるがゆゑに。
是ノ心即チ是大菩堤心ナリ。是ノ心即チ是大慈悲心ナリ。是ノ心即チ是由リテ↢无量光明慧ニ↡生ズルガ故ニ。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[四][Ⅱ]嘆徳
[ⅰ]正しく菩提心の徳を嘆ず
^*願海平等なるがゆゑに*発心等し、 発心等しきがゆゑに*道等し、 道等しきがゆゑに大慈悲等し、 大慈悲はこれ*仏道の正因なるがゆゑに。
願海平等ナルガ故ニ発心等シ、発心等シキガ故ニ道等シ、道等シキガ故ニ大慈悲等シ、大慈悲者是仏道ノ正因ナルガ故ニ。
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[四][Ⅱ][ⅱ]菩提心を要となすことを明かす
[a]¬論註¼
【025367】^▼¬論の註¼ (下) にいはく、
¬*論0096ノ註ニ¼曰ク、
^「▲かの安楽浄土に生れんと願ずるものは、 かならず無上菩提心を発するなり」 とのたまへり。
「願ズル↠生レムト↢彼ノ安楽浄土ニ↡者ハ、要ストノタマヘリ↢発无上菩提心ヲ↡也。」
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[四][Ⅱ][ⅲ]生仏不二を詳らかにす
[a]¬論註¼
【68】^▼またいはく (論註・上)、
又云ク、
^「▲ª*是心作仏º (観経) とは、 いふこころは、 心よく作仏するなり。
「是心作仏ト者、言心ハ能ク作仏スル也。
^▼ª是心是仏º (観経) とは、 心のほかに仏ましまさずとなり。 ▼たとへば火、 木より出でて、 火、 木を離るることを得ざるなり。 木を離れざるをもつてのゆゑに、 すなはちよく木を焼く。 木、 火のために焼かれて、 木すなはち火となるがごときなり」 とのたまへり。
是心是仏ト者、心ノ外ニ无サズト↠仏也。譬ヘバ如キ↢火、従リ↠木出デヽ、火不ル↠得↠離ルルコトヲ↠木ヲ也、以テノ↠不ルヲ↠離レ↠木ヲ故ニ、則チ能ク焼ク↠木ヲ、木為ニ↠火ノ焼カレテ、木即チ為ルガ↟火ト也トノタマヘリ。」
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(イ)[四][Ⅱ][ⅲ][b]「定善義」
【69】^▼光明 (善導) のいはく (定善義)、
*光明ノ云ク、
^「▲この心作仏す、 *この心これ仏なり、 この心のほかに異仏ましまさず」 (意) とのたまへり。 以上
「是ノ心作仏ス、是ノ心是仏ナリ、是ノ心ノ外ニ无サズトノタマヘリ↢異仏↡。」 已上
一 Ⅱ ⅰ b イ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)(ロ)結示
【70】^▼ゆゑに知んぬ、 一心これを↑如実修行相応と名づく。 ▲すなはちこれ正教なり、 これ正義なり、 これ正行なり、 これ正解なり、 これ正業なり、 これ正智なり。
故ニ知ヌ一心是ヲ名ク↢如実修行相応ト↡。即チ是正教ナリ、是正義ナリ、是正行ナリ、是正解ナリ、是正業ナリ、是正智也。
一 Ⅱ ⅰ b ロ 総結【問答結帰】
【71】^▼三心すなはち一心なり、 一心すなはち金剛真心の義、 答へをはんぬ、 知るべしと。
三心即チ一心ナリ、一心即チ金剛真心之義、答ヘ竟ヌ、可シト↠知ル。
一 Ⅱ ⅱ 追釈【追釈】
a 菩提心の名を釈す
【72】^▼¬*止観¼ の一にいはく、
¬*止観ノ¼一ニ云ク、
^「ª*菩提º とは天竺 (印度) の語、 ここには*道と称0254す。 ª*質多º とは天竺の音なり、 この方には心といふ。 心とはすなはち*慮知なり」 と。 以上
「菩*提ト者天竺ノ語、此ニハ称ス↠道ト。質多ト者天竺ノ音ナリ、此ノ方ニハ云フ↠心ト。心ト者即チ慮知也。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b 正しく大信の利益を明かす
イ 横超断四流を釈す【横超断四流釈】
(一)牒
【73】^「△↓横超↓断↓四流」 といふは、
言フ↢横超断四流ト↡者、
一 Ⅱ ⅱ b イ (二)釈
(Ⅰ)横超を釈す
(ⅰ)釈義
^↑横超とは、 横は竪超・竪出に対す、 超は*迂に対し*回に対するの言なり。
横超ト者、横者対ス↢竪超・竪出ニ↡、超者対シ↠*迂ニ対スル↠廻ニ之言ナリ。
^△竪超とは大乗真実の教なり。 △竪出とは大乗*権方便の教、 二乗・三乗迂回の教なり。 ^△横超とはすなはち*願成就一実円満の真教、 真宗これなり。
竪超ト者大乗真実之教也。竪出ト者大乗*権方便之教、二乗・三乗迂廻之教也。横超ト者即チ願成就一実円満之真教、真宗是也。
^▼また△横出あり、 すなはち三輩・九品、 定散の教、 化土・懈慢、 迂回の善なり。
亦復有リ↢横出↡、即チ三輩・九品、定散之教、化*土・懈慢、*迂廻之善也。
^▼大願清浄の報土には品位階次をいはず、 *一念須臾のあひだに、 すみやかに疾く▼無上正真道を超証す、 ゆゑに▼横超といふなり。
大願0097清浄ノ報土ニハ不↠云ハ↢*品位*階*次ヲ↡、一念須臾ノ*傾ニ、速ニ疾ク超↢証ス无上正真道ヲ↡、故ニ曰フ↢横超ト↡也。
一 Ⅱ ⅱ b イ (Ⅰ)(ⅱ)引証
(a)¬大経¼三文
・超発
【74】^▼¬大本¼ (大経・上) にのたまはく、
¬*大本ニ¼*言ハク、
^「▲無上殊勝の願を超発す」 と。
「超↢発スト无上殊勝之願ヲ↡。」
・超世
【75】^▼またのたまはく (大経・上)、
又*言ク、
^「▲われ▼超世の願を建つ。 かならず無上道に至らんと。
「我建ツ↢超世ノ願ヲ↡ | 必ズ至ラムト↢无上道ニ↡ |
^▲名声十方に超えて、 究竟して聞ゆるところなくは、 誓ふ、 正覚を成らじ」 と。
| 名声超エテ↢十方ニ↡ |
究竟シテ靡クハ↠*所↠聞ユル | 誓フ不ト↠成ラ↢正覚ヲ↡」 |
・超絶
【76】^▼またのたまはく (大経・下)、
又*言ク、
^「▲かならず超絶して去つることを得て、 安養国に往生して、 ▼横に五悪趣を截り、 悪趣自然に閉ぢん。 ▼道に昇るに窮極なし。 ◆往0255き易くして人なし。 ▼その国逆違せず、 自然の牽くところなり」 と。 以上
「必ズ得テ↢超絶シテ去ツルコトヲ↡、往↢生シテ安養国ニ↡、横ニ截リ↢五悪趣ヲ↡、悪趣自然ニ閉ヂム。昇ルニ↠道ニ无シ↢窮極↡。易ク↠往キ而无シ↠人。其ノ国不↢逆違セ↡、自然之所ナリト↠牽ク。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b イ (Ⅰ)(ⅱ)(b)¬大阿弥陀経¼
【77】^▼¬*大阿弥陀経¼ (下) *支謙三蔵の訳 にのたまはく、
¬*大阿弥陀経ニ¼ *友謙 言ク、
^「▲超絶して去つることを得べし。 阿弥陀仏国に往生すれば、 横に五悪道を截りて自然に閉塞す。 道に昇るにこれ極まりなし。 往き易くして人あることなし。 その国土逆違せず、 自然の牽くところなり」 と。 以上
「可シ↠得↢超絶シテ去ツルコトヲ↡。往↢生スレバ阿弥陀仏国ニ↡、横ニ截リテ↢於五悪道ヲ↡自然ニ閉塞ス。昇ルニ↠道ニ之无シ↠極。易クシテ↠往キ无シ↠有ルコト↠人。其ノ国土不↢逆違セ↡、自然之随ナリト↠牽ク。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b イ (Ⅱ)断四流を釈す
(ⅰ)釈義
・断
【78】^▼↑断といふは、 *往相の一心を発起するがゆゑに、 *生としてまさに受くべき生なし。 *趣としてまた到るべき趣なし。 すでに六趣・四生、 因亡じ果滅す。 ゆゑにすなはち頓に三有の生死を断絶す。 ゆゑに断といふなり。
言フ↠断ト者、発↢起スルガ往相ノ一心ヲ↡故ニ、无シ↢生ト而当ベ ニキ↠受ク生↡。无シ↢趣ト而更応キ↠到ル趣↡。已ニ六趣・四生、因亡ジ果滅ス。故ニ即チ頓ニ断↢絶ス三有ノ生死ヲ↡。故ニ曰フ↠断ト也。
・四流
^↑四流とはすなはち四暴流なり。 また生老病死なり。
四流ト者則チ四暴流ナリ。又生老病死也。
一 Ⅱ ⅱ b イ (Ⅱ)(ⅱ)引証
(a)¬大経¼
【79】^▼¬大本¼ (大経・下) にのたまはく、
¬大本ニ¼言ハク、
^「▲かならずまさに仏道を成りて、 広く▼生死の流れを度すべし」 と。
「会ズ当ニシト↧成リテ↢仏道ヲ↡ | 広ク度ス↦生死ノ流ヲ↥」 |
一 Ⅱ ⅱ b イ (Ⅱ)(ⅱ)(b)¬平等覚経¼
【80】^またのたまはく (*平等覚経・二)、
又0098言ク、
^「▲かならずまさに世尊となりて、 まさに一切▼生老死を度せんとすべし」 と。 以上
「会ズ当ニ作リテ↢世尊ト↡ 将ス ニベシト↠ | 度セムト↢一切生老死ヲ↡」 已上 |
一 Ⅱ ⅱ b イ (Ⅱ)(ⅱ)(c)¬涅槃経¼「師子吼品」
【81】^¬涅槃経¼ (師子吼品) にのたまはく、
¬*涅槃経ニ¼言ハク、
^「▼また涅槃は名づけて*洲渚とす。 なにをもつてのゆゑに、 *四大の暴河に漂ふことあたはざるがゆゑに。 なんらをか0256四つとする。 一つには欲暴、 二つには有暴、 三つには見暴、 四つには無明暴なり。 このゆゑに涅槃を名づけて洲渚とす」 と。 以上
「又涅槃者名ケテ為↢洲渚ト↡。何ヲ以テノ故ニ。四大ノ暴河ニ不ルガ↠能ハ↠漂フコト故ニ。何等ヲカ為ル↠四ト。一ニ者欲暴、二ニ者有暴、三ニ者見暴、四ニハ无明暴ナリ。是ノ故ニ涅槃ヲ名ケテ為ト↢洲渚ト↡。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b イ (Ⅱ)(ⅱ)(d)¬般舟讃¼
【82】^▼光明寺の和尚 (善導) のいはく (般舟讃)、
*光明*寺ノ和尚ノ云ク、
^「▲もろもろの行者にまうさく、 ▼*凡夫の生死貪じて▼厭はざるべからず。 ▼弥陀の浄土軽めて▼欣はざるべからず。 厭へばすなはち娑婆永く隔つ、 欣へばすなはち浄土につねに居せり。 隔つればすなはち六道の因亡じ、 輪廻の果おのづから滅す。 因果すでに亡じてすなはち▼形と名と頓に絶えぬるをや」 と。
「白サク↢諸ノ行者ニ↡、凡夫ノ生死不↠可カラ↢貪ジ而不ル↟厭ハ。弥陀ノ浄土不↠可カラ↢軽メ而不ル↟忻ハ。厭ヘバ則チ娑婆永ク隔ツ、忻ヘバ則チ浄土ニ常ニ居セリ。隔ツレバ則チ六道ノ因亡ジ、*淪廻之果自ラ滅ス。因果既ニ亡ジテ則チ形ト名ト頓ニ絶フルヲ也ト。」
一 Ⅱ ⅱ b イ (Ⅱ)(ⅱ)(e)¬礼讃¼
【83】^▼またいはく (礼讃)、
又云ク、
^「▲仰ぎ願はくは一切往生人等、 ▼*よくみづからおのれが能を思量せよ。 今身にかの国に生ぜんと願はんものは、 行住坐臥にかならずすべからく心を励ましおのれに剋して、 昼夜に廃することなかるべし。 畢命を期として、 ▼上一形にあるは、 少しき苦しきに似如たれども、 ▼前念に命終して後念にすなはちかの国に生じて、 長時永劫につねに無為の法楽を受く。 乃至成仏までに生死を経ず。 あに快しみにあらずや、 知るべし」 と。 以上
「仰ギ願クハ一切往生人等、善ク自ラ思↢量セヨ己ガ能ヲ↡。今身ニ願ハム↠生ゼムト↢彼ノ国ニ↡者ハ、行住坐臥ニ必ズ須ベ クシ↧励シ↠心ヲ剋シテ↠己ニ、昼夜ニ莫カル↞廃スルコト。畢命ヲ為テ↠期ト、上在ルハ↢一形ニ↡、似↢如タレドモ少シキ苦シキニ↡、前念ニ命終シテ後念ニ即チ生ジテ↢彼ノ国ニ↡、長時永劫ニ常ニ受ク↢无為ノ法楽ヲ↡。乃至成仏マデニ不↠逕↢生死ヲ↡。豈非ズ↠快ニ哉、応シト↠知ル。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ 真仏弟子を釈す【真仏弟子釈】
(一)正しく真仏弟子を釈す
(Ⅰ)直釈
【84】^▼「△*真の仏弟子」 といふは、 真の言は↓偽に対し↓仮に対するなり。 弟子とは釈迦・諸仏の弟子なり、 金剛心の行人なり。 ▼この信行0257によりてかならず▼大涅槃を超証すべきがゆゑに、 真の仏弟子といふ。
言フ↢真ノ仏弟子ト↡者、真ノ言ハ対シ↠偽ニ対スル↠仮ニ也。弟子ト者釈迦・諸仏之弟子ナリ、金剛心ノ行人也。由リテ↢斯ノ信行ニ↡必ズ可キガ↣超↢証ス大涅槃ヲ↡故ニ、曰フ↢真ノ仏弟子ト↡。
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)引証
(ⅰ)引文
(a)総じて諸徳を明かす
(イ)経説
[一]¬大経¼二文
【85】^▼¬大本¼ (大経・上) にのたまはく、
¬大本ニ¼言ハク、
1.第33願(触光柔軟の願)
^「▲たとひわれ仏を得たらんに、 十方無量不可思議の諸仏世界の衆生の類、 ▼わが光明を蒙りてその身に触るるもの、 ▼身心▼柔軟にして人天に超過せん。 もししからずは、 正覚を取らじと。
「設ヒ我得タラムニ↠仏ヲ、十方无量不可思議ノ諸仏世界ノ衆生之類、蒙0099リテ↢我ガ光明ヲ↡触ルヽ↢其ノ身ニ↡者、身心柔軟ニシテ超↢過セム人天ニ↡。若シ不↠爾ラ者、不ト↠取ラ↢正覚ヲ↡。
2.第34願(聞名得忍の願)
^(大経・上) ▲たとひわれ仏を得たらんに、 十方無量不可思議の諸仏世界の▼衆生の類、 わが名字を聞きて、 菩薩の▼無生法忍、 もろもろの深総持を得ずは、 正覚を取らじ」 と。 以上
設ヒ我得タラムニ↠仏ヲ、十方无量不可思議ノ諸仏世界ノ衆生之類、聞キテ↢我ガ名字ヲ↡、不↠得↢菩薩ノ无生法忍、諸ノ深総持ヲ↡者、不ト↠取ラ↢正覚ヲ↡。」 *已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(イ)[二]¬如来会¼
【86】^▼¬無量寿如来会¼ (上) にのたまはく、
¬无量寿如来会ニ¼言ハク、
^「▲もしわれ成仏せんに、 周遍十方無量無辺不可思議無等界の有情の輩、 仏の威光を蒙りて照触せらるるもの、 身心▼安楽にして人天に超過せん。 もししからずは、 菩提を取らじ」 と。 以上
「若シ我成仏セムニ、周徧十方无量无辺不可思議无等界ノ*有情之輩、蒙リテ↢仏ノ威光ヲ↡所ルヽ↢照触セ↡者、身心安楽ニシテ超↢過セム人天ニ↡。若シ不↠爾ラ者、不ト↠取ラ↢菩提ヲ↡。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(イ)[三]¬大経¼二文
【87】^▼また (大経・下)、
又言ヘリト↢
^「▲法を聞きてよく忘れず、 見て敬ひ得て大きに慶ばば、 すなはちわが善き親友なり」 とのたまへり。
「聞キテ↠法ヲ能ク不↠忘レ | 見テ敬ヒ得テ大ニ慶バヾ |
則チ我ガ善キ親友ナリト」↡ |
【88】^またのたまはく (大経・下)、
又言ハク、
^「▲それ至心ありて安楽国に生ぜんと願ずれば、 ▼智慧あきらかに達し、 功徳殊勝なることを得べし」 と。
「其レ有リテ↢至心↡願ズレ↠生ゼムト↢安楽国ニ↡者、可シト↠得↢智慧明カニ達シ、功徳殊勝ナルコトヲ↡。」
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(イ)[四]¬如来会¼二文
【89】^また (如来会・下)、
又
^「▲広大勝解者」 とのたまへり。
言ヘリト↢「広大勝解者ト。」↡
【025890】^また (如来会・下)、
又
^「▲かくのごときらの類、 大威徳のひと、 よく*広大異門に生る」 とのたまへり。
言ヘリト↣「如キ↠是クノ等ノ類、大威徳ノ者、能ク生ルト↢広大異門ニ↡。」
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(イ)[五]¬観経¼
【91】^またのたまはく (観経)、
又言ハク、
^「▲もし念仏するひとは、 まさに知るべし、 この人はこれ人中の分陀利華なり」 と。 以上
「若シ念仏スル者ハ、当ニシ↠知ル、此ノ人ハ是人中ノ分陀利華ナリト。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(ロ)師釈
[一]¬安楽集¼五文
【92】^▼¬*安楽集¼ (上) にいはく、
¬安楽集ニ¼云ク、
1.説聴方軌
^「▲諸部の大乗によりて説聴の方軌を明かさば、
「拠リテ↢諸部ノ大乗ニ↡明サ↢説聴ノ方軌ヲ↡者、
^◆¬*大集経¼ にのたまはく、 ª^▼説法のひとにおいては、 医王の想をなせ、 抜苦の想をなせ。 所説の法をば甘露の想をなせ、 醍醐の想をなせ。 ^それ聴法のひとは、 増長勝解の想をなせ、 愈病の想をなせ。 ^もしよくかくのごとき説者・聴者は、 みな仏法を紹隆するに堪へたり。 つねに仏前に生ぜんº と。 ▼乃至
¬大集経ニ¼云ク、於テハ↢説法ノ者ニ↡、作セ↢医王ノ想ヲ↡、作セ↢抜苦ノ想ヲ↡。所説之法ヲバ作セ↢甘露ノ想ヲ↡、作セ↢醍醐ノ想ヲ↡。其レ聴法ノ者ヲバ、作セ↢増長勝解ノ想ヲ↡、作セ↢愈病ノ想ヲ↡。若シ能ク如キ↠是クノ説者・聴者ハ、皆堪エタリ↣紹ツグ↢隆スルニ仏法ヲ↡。常ニ生ゼムト↢仏0100前ニ↡。 乃至
2.諸仏現前
^(安楽集・下) ▲¬涅槃経¼ によるに、 ª^仏ののたまはく、 «もし人ただよく心を至して、 つねに念仏三昧を修すれば、 十方諸仏つねにこの人を見そなはすこと、 現に前にましますがごとし»º と。
依ルニ↢¬涅槃経ニ¼↡、仏ノ言ハク、若シ人但能ク至シテ↠心ヲ、常ニ修スレ↢念仏三昧ヲ↡者、十方諸仏恒ニ見スコト↢此ノ人ヲ↡、如シト↢現ニ在スガ↟前ニ。
^◆このゆゑに ¬涅槃経¼ にのたまはく、 ª^仏、 *迦葉菩薩に告げたまはく、 «もし善男子・善女人ありて、 つねによく心を至し、 もつぱら念仏するひとは、 もしは山林にもあれ、 もしは聚落にもあれ、 もしは昼もしは夜、 もしは坐もしは臥に、 諸仏世尊つねにこの人を見そな0259はすこと目の前に現ぜるがごとし。 つねにこの人のためにして▼受施をなさん»º と。 ▼乃至
是ノ故ニ¬涅槃経ニ¼云ハク、仏告ゲタマハク↢迦葉菩薩ニ↡、若シ有リテ↢善男子・善女人↡、常ニ能ク至シ↠心ヲ専ラ念仏スル者ハ、若シハ在レ↢山林ニモ↡、若シハ在レ↢聚落ニモ↡、若シハ昼若シハ夜、若シハ座若シハ臥ニ、諸仏世尊常ニ見スコト↢此ノ人ヲ↡如シ↠現ゼルガ↢目ノ前ニ↡。恒ニ与ニ↢此ノ人ノ↡而作サムト↢受施ヲ↡。 乃至
3.知恩報徳
^(安楽集・下) ▲¬*大智度論¼ によるに、 三番の解釈あり。 ^ª◆第一には、 仏はこれ無上法王なり、 菩薩は法臣とす。 尊ぶところ重くするところ、 ただ仏世尊なり。 このゆゑに、 まさにつねに念仏すべきなり。
依ルニ↢¬大智度論ニ¼↡、有リ↢三番ノ解釈↡。第一ニハ仏ハ是无上法王ナリ、菩薩ハ為↢法臣ト↡。所↠尊ブ所↠重クスル、唯仏世尊ナリ。是ノ故ニ応キ↢当ニ常ニ念仏ス↡也。
^◆第二に、 もろもろの菩薩ありてみづからいはく、 «われ曠劫よりこのかた、 世尊われらが法身・智身・大慈悲身を長養したまふことを蒙ることを得たりき。 禅定・智慧、 無量の行願、 仏によりて成ずることを得たり。 報恩のためのゆゑに、 つねに仏に近づかんことを願ず。 また大臣の、 王の恩寵を蒙りてつねにその王を念ふがごとし» と。
第二ニ有リテ↢諸ノ菩薩↡自ラ云ク、我従リ↢曠劫↡已来タ得タリキ↠蒙ブルコトヲ↣世尊長↢養スルコトヲ我等ガ法身・智身・大慈悲身ヲ↡。禅定・智慧、无量ノ行願、由リテ↠仏ニ得タリ↠成ズルコトヲ。為ノ↢報恩ノ↡故ニ常ニ願ズ↠近ヅカムコトヲ↠仏ニ。亦如シト↧大臣ノ蒙リテ↢王ノ恩寵ヲ↡常ニ念フガ↦其ノ王ヲ↥。
^◆第三に、 もろもろの菩薩ありて、 またこの言をなさく、 «われ因地にして悪知識に遇ひて、 *波若を誹謗して悪道に堕しき。 無量劫を経て余行を修すといへども、 いまだ出づることあたはず。 後に一時において善知識の辺によりしに、 われを教へて念仏三昧を行ぜしむ。 その時に、 すなはちよくしかしながらもろもろの障、 まさに解脱することを得しめたり。 この大益あるがゆゑに、 願じて仏を離れず»º と。 ▼乃至
第三ニ有リテ↢諸ノ菩薩↡、復作サク↢是ノ言ヲ↡、我於テ↢因地ニ↡遇ヒテ↢*悪知識ニ↡、誹↢謗シテ*波若ヲ↡堕シキ↠於↢悪道↡。逕テ↢无量劫ヲ↡雖モ↠修スト↢余行ヲ↡、未ズ ダ↠能ハ↠出ヅルコト。後ニ於テ↢一時ニ↡依リシニ↢善知識ノ辺ニ↡、教ヘテ↠我ヲ行ゼシム↢念仏三昧ヲ↡。其ノ時ニ即チ能ク併遣ム↣諸ノ障、方ニ得↢解脱スルコトヲ↡。有ルガ↢斯ノ大益↡故ニ願ジテ不ト↠離レ↠仏ヲ。 乃至
4.菩提心功用
^(安楽集・上) ▲¬大経¼ (下) にのたまはく、 ª^おほよそ浄土に往生せんと欲はば、 かならず発菩提心を須ゐるを源とす。 ◆いかんと0260なれば、 菩提はすなはちこれ無上仏道の名なり。 ◆もし発心作仏せんと欲はば、 この心広大にして法界に周遍せん、 この心長遠にして未来際を尽す。 この心あまねくつぶさに二乗の障を離る。 ◆もしよく一たび発心すれば、 ▼無始生死の有輪を傾くº と。 乃至
¬大経ニ¼云ハク、凡ソ欲ハヾ↣往↢生セムト浄土ニ↡、要トスルヲ↠須ヰルヲ↢発菩提心ヲ↡為↠源ト。云何ゾ菩提者乃チ是无上仏道之名也。若シ欲ハ↢発心作仏セムト↡者、此ノ心広大ニシテ周↢徧セム法界ニ↡、此ノ心長遠ニシテ尽ス↢未来際ヲ↡。此ノ心普ク備ニ離ル↢二乗ノ障ヲ↡。若シ能ク一タビ発0101心スレバ、傾クト↢无始生死ノ有輪ヲ↡。 乃至
5.常行大悲
^(安楽集・下) ▲¬*大悲経¼ にのたまはく、 ª^いかんが名づけて大悲とする。 ▼もしもつぱら念仏相続して断えざれば、 その命終に随ひてさだめて安楽に生ぜん。 ▼もしよく展転してあひ勧めて念仏を行ぜしむるは、 これらをことごとく大悲を行ずる人と名づくº」 と。 以上抄出
¬大悲経ニ¼云ハク、云何ガ名ケテ為ル↢大悲ト↡。若シ専ラ念仏相続シテ不レ↠断ヘ者、随ヒテ↢其ノ命終ニ↡定メテ生ゼム↢安楽ニ↡。若シ能ク展転シテ相勧メテ行ゼシムル↢念仏ヲ↡者、此等ヲ悉ク名クト↧行ズル↢大悲ヲ↡人ト↥。」 已上抄*出
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(ロ)[二]¬般舟讃¼
・知恩報徳
【93】^▼光明師 (善導) のいはく (般舟讃)、
光明師ノ云ク、
^「▲ただ恨むらくは、 衆生の疑ふまじきを疑ふことを。 浄土対面してあひ忤はず。 ▼弥陀の摂と不摂とを論ずることなかれ。 ▼意▼専心にして回すると回せざるとにあり。 乃至
「唯恨ムラクハ衆生ノ疑フコトヲ↠不キヲ↠疑フ | 浄土対面シテ不↢相忤ハ↡ |
莫レ↠論ズルコト↢弥陀ノ摂ト不摂トヲ↡ | 意在リ↢専心ニシテ廻スルト不ルトニ↟廻セ *乃至 |
^▲あるいはいはく、 今より仏果に至るまで、 長劫に仏を讃めて慈恩を報ぜん。 弥陀の弘誓の力を蒙らずは、 いづれの時いづれの劫にか娑婆を出でんと。 乃至
或イハ道ハク従リ↠今至ルマデ↢仏果ニ↡ | 長劫ニ讃メテ↠仏ヲ報ゼムト↢慈恩ヲ↡ |
不ハ↠蒙ラ↢弥陀ノ弘誓ノ力ヲ↡ | 何ノ時何ノ劫ニカ出デムト↢娑婆ヲ↡ 乃至 |
^▲いかんが今日宝国に至ることを期せん。 まことにこれ娑婆▼本師の力なり。 もし本師知識の勧めにあらずは、 弥陀の浄土いかんしてか入らん」 と。
何ガ期セム↣今日至ルコトヲ↢宝国ニ↡ | 実ニ是娑婆本師ノ力ナリ |
若シ非ズハ↢本師知識ノ勧ニ↡ | 弥陀ノ浄土云何シテカ入ラムト」 |
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(ロ)[三]¬礼讃¼二文
1.知恩報徳
【94】^▼またいはく (礼讃)、
又云ク、
^「▲仏世はなはだ値ひがたし。 人、 信慧あること0261難し。 ▼たまたま▼希有の法を聞くこと、 これまたもつとも難しとす。
「仏世甚ダ難シ↠値ヒ | 人有ルコト↢信慧↡難シ |
遇聞クコト↢希有ノ法ヲ↡ | 斯復最モ為↠難シト |
^▲みづから信じ、 人を教へて信ぜしむること、 難きがなかにうたたまた難し。 大悲弘くあまねく化する、 まことに仏恩を報ずるになる」 と。
自ラ信ジ教ヘテ↠人ヲ信ゼシムルコト | 難キガ中ニ転タ更難シ |
大悲*弘ク普ク化スル | 真ニ成ルト↠報ズルニ↢仏恩ヲ↡」 |
2.心光摂護
【95】^▼またいはく (礼讃)、
又云ク、
^「▲弥陀の身色は金山のごとし。 相好の光明は十方を照らす。 ▼ただ念仏するもののみありて光摂を蒙る。 ▼まさに知るべし、 ▼本願もつとも強しとす。
「弥陀ノ身色ハ如シ↢金山ノ↡ | 相好ノ光明ハ照ス↢十方ヲ↡ |
唯有リテ↢念仏スルモノノミ↡蒙ル↢光摂ヲ↡ | 当ニシ↠知ル本願最モ為↠強シト |
^◆十方の如来、 舌を舒べて証したまふ。 ▼もつぱら名号を称して西方に至る。 かの華台に到つて妙法を聞く。 ▼十地の願行、 自然に彰る」 と。
十方ノ如来 舒ベテ↠舌ヲ証シタマフ | 専ラ称シテ↢名号ヲ↡至ル↢西方ニ↡ |
到リテ↢彼ノ華台ニ↡聞ク↢妙法ヲ↡ | 十地ノ願行 自然ニ彰ルト」 |
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(ロ)[四]¬観念法門¼
・心光摂護
【96】^▼またいはく (*観念法門)、
又云ク、
^「▲ただ阿弥陀仏を専念する衆生のみありて、 かの仏▼心の光、 つねにこの人を照らして摂護して捨てたまはず。 すべて余の雑業の行者を照らし摂むと論ぜず。 これまたこれ現生護念増上縁なり」 と。 以上
「但有リテ↧専↢念スル阿弥陀仏ヲ↡衆生ノミ↥、彼ノ仏心ノ光、常ニ照シテ↢是ノ人ヲ↡摂護シテ不↠捨テタマハ。総テ不↠論ゼ↣照シ↢摂ムト余ノ雑業ノ行者ヲ↡。此亦是現生護念増上縁ナリト。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(ロ)[五]「序分義」
・心多歓喜
【97】^▼またいはく (序分義)、
又0102云ク、
^「▲ª心歓喜得忍º といふは、 これは阿弥陀仏国の清浄の光明、 たちまちに眼の前に現ぜん、 なんぞ▼踊躍に勝へん。 ▼この喜びによるがゆゑに、 すなはち無生の忍を得ることを明かす。 また▼喜忍と名づく、 また▼悟忍と名づく、 また▼信忍と名づく。 ▼これすなはちはるかに談ずるに、 ▼い0262まだ得処を標さず、 夫人をして等しく心にこの益を悕はしめんと欲ふ。 ▼勇猛専精にして心に見んと想ふ時に、 まさに忍を悟るべし。 ▼これ多くこれ十信のなかの忍なり、 ▼解行以上の忍にはあらざるなり」 と。
「言フ↢心歓喜得忍ト↡者、此ハ明ス↧阿弥陀仏国ノ清浄ノ光明、忽ニ現ゼム↢眼ノ前ニ↡、何ゾ勝エム↢踊躍ニ↡、因ルガ↢茲ノ喜ニ↡故ニ即チ得ルコトヲ↢无生之忍ヲ↡、亦名ク↢喜忍ト↡、亦名ク↢悟忍ト↡、亦名ク↢信忍ト↡、此乃チ玄ニ談ズルニ、未ズ ダ↠標サ↢得処ヲ↡、欲フ↠令メムト↣夫人ヲシテ等シク悕ハ↢心ニ此ノ益ヲ↡、勇猛専精ニシテ心ニ想フ↠見ムト時ニ、方ニ応シ↠悟ル↠*忍ヲフタイノクラヰ、此多ク是十信ノ中ノ忍ナリ、非ザルコトヲ↦解行已上ノ忍ニハ↥也ト。」
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(a)(ロ)[六]「散善義」
・諸仏称讃
【98】^▼またいはく (散善義)、
又云ク、
^「▲ª若念仏者º より下 ª生諸仏家º に至るまでこのかたは、 ▼まさしく念仏三昧の功能超絶して、 ▼まことに雑善をして比類とすることを得るにあらざることを顕す。 すなはちそれに五つあり。
「従リ↢若念仏者ト↡下至ルマデ↢生諸仏家ニ↡已来タハ正シク顕ス↣念仏三昧ノ功能超絶シテ、実ニ非ザルコトヲ↢雑善ヲシテ得ルニ↟為ルコトヲ↢比類ト↡。即チ有リ↢其ニ五↡。
^◆一つには、 弥陀仏の名を専念することを明かす。
一ニハ明ス↣専↢念スルコトヲ弥陀仏ノ名ヲ↡。
^◆二つには、 能念の人を指讃することを明かす。
二ニハ明ス↣指↢讃スルコトヲ能念之人ヲ↡。
^◆三つには、 もしよく相続して念仏するひと、 この人はなはだ希有なりとす、 さらに物としてもつてこれを方ぶべきことなきことを明かす。 ゆゑに▼分陀利を引きて喩へとす。
三ニハ明ス↫若シ能ク相続シテ念仏スル者、此ノ人甚ダ為↢希有ナリト↡、更ニ無キコトヲ↪物トシテ可キコト↩以テ方ブ↝之ニ。故ニ引キテ↢芬陀利ヲ↡為↠喩ト。
^◆分陀利といふは、 人中の好華と名づく、 また希有華と名づく、 また人中の上上華と名づく、 また人中の妙好華と名づく。 この華あひ伝へて▼蔡華と名づくるこれなり。 もし念仏のひとはすなはちこれ人中の好人なり、 人中の妙好人なり、 人中の上上人なり、 人中の希有人なり、 人中の最勝人なり。
言フ↢分陀利ト↡者、名ク↢人中ノ好華ト↡、亦名ク↢希有華ト↡、亦名ク↢人中ノ上上華ト↡、亦名ク↢人中ノ妙好華ト↡。此華相伝ヘテ名クル↢蔡華ト↡是ナリ。若シ念仏ノ者ハ即チ是人中ノ好人ナリ、人中ノ妙好人ナリ、人中ノ上上人ナリ、人中ノ希有人ナリ、人中ノ最勝人也。
^◆四つには、 弥陀の名を専念すれば、 すなはち観音・勢至つねに随ひて影護したまふこと、 また親友知識のごとくなることを明かす0263。
四ニハ明ス↧専↢念スレ弥陀ノ名ヲ↡者、即チ観音・勢至常ニ随ヒテ影護シタマフコト、亦如クナルコトヲ↦親友知識ノ↥也。
^◆五つには、 今生にすでにこの益を蒙れり、 命を捨てて▼すなはち諸仏の家に入らん、 すなはち浄土これなり。 かしこに到りて長時に法を聞き、 歴事供養せん。 因円かに果満ず、 ▼道場の座あにはるかならんやといふことを明かす」 と。 以上
五ニハ明スト↧今生ニ既ニ蒙レリ↢此ノ益ヲ↡、捨テヽ↠命ヲ即チ入ラム↢諸仏之家ニ↡、即チ浄土是也、到リテ↠彼ニ長時ニ聞キ↠法ヲ、歴事供養セム、因円カニ果満ズ、道場之座豈賖ナラムヤトイフコトヲ↥。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)別して勝益を明かす【便同弥勒釈】
(イ)王日休¬龍舒浄土門¼
【99】^▼*王日休がいはく (*龍舒浄土文)、
王日休ガ云ク、
^「われ ¬無量寿経¼ を聞くに、 ª▲衆生、 この仏名を聞きて信心歓喜せんこと乃至一念せんもの、 かの国に生ぜんと願ずれば、 すなはち往生を得、 不退転に住すº と。
「我聞クニ↢¬无量寿経ヲ¼↡、衆生聞キテ↢是ノ仏名ヲ↡信心歓喜セムコト乃至一0103念セムモノ、願ズレバ↠生ゼムト↢彼ノ国ニ↡、即チ得↢往生ヲ↡、住スト↢不退転ニ↡。
^不退転は梵語にはこれを阿惟越致といふ。 ¬*法華経¼ には▼いはく、 ª*弥勒菩薩の所得の*報地なりº と。
不退転者梵語ニハ謂フ↢之ヲ阿惟越致ト↡。¬法華経ニハ¼謂ク弥勒菩薩ノ所得ノ報地也ト。
^▼*一念往生、 ▼↓*便ち弥勒に同じ。 仏語虚しからず、 この ¬経¼ はまことに往生の*径術、 脱苦の*神方なり。 みな信受すべし」 と。 以上
一念往生、便チ同ジ↢弥勒ニ↡。仏語不↠虚シカラ、此ノ¬経ハ¼寔ニ往生之径術、脱苦之神方ナリ。応シト↢皆信受ス↡。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ロ)¬大経¼
【100】^▼¬大経¼ (下) にのたまはく、
¬大経ニ¼言ク、
^「▲仏、 弥勒に告げたまはく、 ª▼この世界より六十七億の不退の菩薩ありて、 かの国に往生せん。 一々の菩薩は、 すでに曽無数の諸仏を供養せりき、 *次いで弥勒のごとしº」 と。
「仏告ゲタマハク↢弥勒ニ↡、於リ↢此ノ世界↡有リテ↢六十七億ノ不退ノ菩薩↡、往↢生セム彼ノ国ニ↡。一一ノ菩薩ハ、已ニ曽供↢養セリキ无数ノ諸仏ヲ↡、次デ如シト↢弥勒ノ↡。」
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ハ)¬如来会¼
【101】^▼またのたまはく (如来会・下)、
又言ハク、
^「▲仏、 弥勒に告げたまはく、 ªこの仏土のなかに七十二億の菩薩あり。 かれは無量億那由他百千の仏の所にして、 もろ0264もろの善根を種ゑて不退転を成ぜるなり。 まさにかの国に生ずべしº」 と。 抄出
「仏告ゲタマハク↢弥勒ニ↡、此ノ仏土ノ中ニ有リ↢七十二億ノ菩薩↡。彼ハ於テ↢无量億那由他百千ノ仏ノ所ニ↡、種エテ↢諸ノ善根ヲ↡成ゼルナリ↢不退転ヲ↡。当ニシト↠生ズ↢彼ノ国ニ↡。」 抄出
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅰ)(b)(ニ)用欽¬超玄記¼(いま伝わらず)
【102】^▼*律宗の用欽師のいはく、
律宗ノ用欽師ノ云ク、
^「至れること、 ¬華厳¼ の極唱、 ¬法華¼ の妙談にしかんや。 かつはいまだ*普授あることを見ず。 衆生一生にみな阿耨多羅三藐三菩提の記を得ることは、 まことにいふところの不可思議功徳の利なり」 と。 以上
「至レルコト如カムヤ↢¬華厳ノ¼極*唱、¬法華ノ¼妙談ニ↡。且ハ未ズダ↠見↠有ルコトヲ↢普授↡。衆生一生ニ皆得ルコト↢阿耨多羅三藐三菩提ノ記ヲ↡者、誠ニ所ノ↠謂フ不可思議功徳之利也ト。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅱ)(ⅱ)釈成
【103】^▼まことに知んぬ、 弥勒大士は等覚の金剛心を窮むるがゆゑに、 ▼*竜華三会の暁、 まさに無上覚位を極むべし。 念仏の衆生は▼横超の金剛心を窮むるがゆゑに、 ▼*臨終一念の夕、 大般涅槃を超証す。 ゆゑに↑便同といふなり。
▼真ニ知リヌ弥勒大士ハ窮ムルガ↢等覚ノ金剛心ヲ↡故ニ、竜華三会之暁、当ニシ↠極ム↢无上覚位ヲ↡。念仏ノ衆生ハ窮ムルガ↢横超ノ金剛心ヲ↡故ニ、臨終一念之夕、超↢証ス大般涅槃ヲ↡。故ニ曰フ↢便同ト↡也。
^しかのみならず金剛心を獲るものは、 すなはち韋提と等しく、 すなはち*喜・悟・信の忍を獲得すべし。 これすなはち往相回向の真心徹到するがゆゑに、 不可思議の本誓によるがゆゑなり。
加之▼獲ル↢金剛心ヲ↡者ハ、則チ与↢韋提↡等シク、即チ可シ↣獲↢得ス喜・悟・信之忍ヲ↡。是則チ往相廻向之真心徹到スルガ故ニ、籍ルガ↢不可思議之本誓ニ↡故也。
一 Ⅱ ⅱ b ロ (一)(Ⅲ)結勧
(ⅰ)宗暁¬楽邦文類¼二文
1.智覚
【104】^▼禅宗の*智覚、 念仏の行者を讃めていはく (*楽邦文類)、
禅0104宗ノ智覚讃メテ↢念仏ノ行者ヲ↡云ク、
^「▼奇なるかな、 仏力難思なれば、 古今もいまだあらず」 と。
「奇ナル哉仏力難思ナレバ、古今モ未ズ ダト↠有ラ。」
2.元照
【105】^▼律宗の元照師のいはく (楽邦文類)、
律宗ノ元*昭師ノ云ク、
^「▼ああ、 ▼*教観にあきらかなること、 たれか智者 (*智顗) にしかんや。 ▼終りに臨んで ▼¬観経¼ を挙し、 ▼浄土を讃じて長く0265逝きき。
「嗚呼明ナルコト↢教観ニ↡、熟カ如カム↢智者ニ↡乎。臨デ↠終ニ挙シ↢¬観経ヲ¼↡、讃ジ↢浄土ヲ↡而長ク逝キムキ矣。
^▼法界に達せること、 たれか*杜順にしかんや。 四衆を勧め仏陀を念じて、 勝相を感じて西に邁きき。
達セルコト↢法界ニ↡、熟カ如カム↢杜順ニ↡乎。勧メ↢四衆ヲ↡念ジテ↢仏陀ヲ↡、感ジ↢勝相ヲ↡而西ニ邁キヽ矣。
^▼禅に参はり性を見ること、 たれか*高玉・智覚にしかんや。 みな社を結び、 仏を念じて、 ともに▼上品に登りき。
参リ↠禅ニ見ルコト↠性ヲ、熟カ如カム↢高玉・智覚ニ↡乎。皆結ビ↠*社ヲ、念ジ↠仏ヲ而倶ニ登リキ↢上品ニ↡矣。
^▼*業儒、 才ある、 たれか▼*劉・▼*雷・▼*柳子厚・▼*白楽天にしかんや。 ▼しかるにみな筆を秉りて、 誠を書して、 かの土に生ぜんと願じき」 と。 以上
業儒有ル↠才、熟カ如カム↢*劉・雷・*柳子厚・白楽天ニ↡乎。然ルニ皆秉リテ↠筆ヲ、書シ↠誠ヲ而願ジキト↠生ゼムト↢彼ノ*土ニ↡矣。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (二)仮偽を弁釈して反顕す【仮偽弁釈】
(Ⅰ)仮を弁ず
(ⅰ)正釈
【106】^▼↑仮といふは、 すなはちこれ聖道の諸機、 浄土の定散の機なり。
言フ↠仮ト者、即チ是聖道ノ諸機、浄土ノ定散ノ機也。
一 Ⅱ ⅱ b ロ (二)(Ⅰ)(ⅱ)引文
(a)¬般舟讃¼
【107】^▼ゆゑに光明師 (善導) のいはく (般舟讃)、
故ニ光明師ノ云ク、
^「▲仏教多門にして*八万四なり。 まさしく衆生の機、 不同なるがためなり」 と。
「仏教多門ニシテ八万四ナリ | 正シク為ナリト↢衆生ノ機不同ナルガ↡」 |
一 Ⅱ ⅱ b ロ (二)(Ⅰ)(ⅱ)(b)¬法事讃¼
【108】^▼またいはく (*法事讃・下)、
又*云ク、
^「▲方便の仮門、 等しくして殊なることなし」 と。
「方便ノ仮門、等シクシテ無シト↠殊ナルコト。」 |
一 Ⅱ ⅱ b ロ (二)(Ⅰ)(ⅱ)(c)¬般舟讃¼
【109】^▼またいはく (般舟讃)、
又云ク、
^「▲門々不同なるを漸教と名づく。 万劫苦行して無生を証す」 と。 以上
「門門不同ナルヲ名ク↢漸教ト↡ | 万劫苦行シテ証スト↢无生ヲ↡。」 已上 |
一 Ⅱ ⅱ b ロ (二)(Ⅱ)偽を弁ず
(ⅰ)正釈
【110】^▼↑偽といふは、 すなはち▼六十二見・▼九十五種の邪道これなり。
言フ↠*偽ト者、則チ六十二見・九十五種之邪道是也。
一 Ⅱ ⅱ b ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)引文
(a)¬涅槃経¼「大衆所聞品」
【111】^¬涅槃経¼ (*大衆所聞品) にのたまはく、
¬涅槃経ニ¼言ハク、
^「世尊つねに説きたまはく、 ª一切の外は九十五種を学ひて、 みな悪道に趣くº」 と。 以上
「世尊常ニ説キタマハク、一切ノ外ハ学ブテ↢九十五種ヲ↡、皆趣クト↢悪道ニ↡。」 已上
一 Ⅱ ⅱ b ロ (二)(Ⅱ)(ⅱ)(b)¬法事讃¼
【0266112】^▼光明師 (善導) のいはく (法事讃・下)、
光明師ノ云ク、
^「▲九十五種みな世を汚す。 ▼ただ仏の一道のみ独り清閑なり」 と。 以上
「九十五種皆汚ス↠世ヲ | 唯仏ノ一道ノミ独リ清閑ナリト」 已上 |
一 Ⅱ ⅱ c 結嘆
【113】^▼まことに知んぬ、 ▲悲しきかな愚禿鸞、 ▼*愛欲の広海に沈没し、 *名利の太山に迷惑して、 定聚の数に入ることを▼喜ばず、 真証の証に近づくことを▼快しまざることを、 恥づべし傷むべしと。
0105誠ニ知ヌ悲シキ哉愚禿*鸞、沈↣没シ於↢愛欲ノ広海↡、迷↣*惑シテ於↢名利ノ太山↡、不↠喜バ↠入ルコトヲ↢定聚之数ニ↡、不ルコトヲ↠*快マ↠近ヅクコトヲ↢真証之証ニ↡、可シ↠恥ヅ可シト↠*傷ム矣。
二 摂取の義を弁ず【明所被機】
Ⅰ 直弁
ⅰ 文を引きて広く顕す(¬涅槃経¼)
a 総明(「現病品」)
イ 難化の機を挙ぐ
【114】^▼*それ仏、 ↓難治の機を説きて、 ¬涅槃経¼ (*現病品) にのたまはく、
夫レ仏説キテ↢難治ノ機ヲ↡、¬涅槃経ニ¼言ハク、
^「*迦葉、 世に三人あり、 その病治しがたし。 一つには謗大乗、 二つには五逆罪、 三つには一闡提なり。
「迦葉、世ニ有リ↢三人↡、其ノ病難シ↠治シ。一ニハ謗大乗、二ニハ五逆罪、三ニハ*一闡提ナリ。
二 Ⅰ ⅰ a ロ 其の分斉を示す
・法説
^かくのごときの三病、 世のなかに極重なり。 ことごとく▼声聞・縁覚・菩薩のよく治するところにあらず。
如キノ↠是クノ三病、世ノ中ニ極重ナリ。悉ク非ズ↣声聞・縁覚・菩薩之所ニ↢能ク治スル↡。
・譬説
^善男子、 *たとへば病あればかならず死するに治することなからんに、 もし*瞻病*随意の医薬あらんがごとし。 もし瞻病随意の医薬なからん、 かくのごときの病、 さだめて治すべからず。 まさに知るべし、 この人かならず死せんこと疑はずと。
善男子、譬ヘバ如シ↣有レバ↠病必ズ死スルニ無カラムニ↠治スルコト、若シ有ラムガ↢瞻病随意ノ医薬↡。若シ無カラム↢瞻病随意ノ医薬↡、如キ↠是クノ之病、定メテ不↠可カラ↠治ス。当ニシ↠知ル、是ノ人必ズ死セムコト不ト↠疑ハ。
・合法
^善男子、 この三種の人またまたかくのごとし。 *仏・菩薩に従ひて聞治を得をはりて、 すなはちよく阿耨多羅三藐三菩提心を発せん。 もし声聞・縁覚・菩薩ありて、 あるいは法を説き、 あるいは法を説かざるあらん、 それをして阿耨多羅三藐三菩提心0267を発せしむることあたはず」 と。 以上
善男子、是ノ三種ノ人亦復如シ↠是クノ。従ヒテ↢仏・菩薩ニ↡得↢聞治ヲ↡已リテ、即便チ能ク発セム↢阿耨多羅三藐三菩提心ヲ↡。若シ有リテ↢声聞・縁覚・菩薩↡、或イハ有ラム↢説キ↠法ヲ或イハ不ル↟説カ↠法ヲ、不ト↠能ハ↠令ムルコト↣其ヲシテ発セ↢阿耨多羅三藐三菩提心ヲ↡。」 已上
二 Ⅰ ⅰ b 別顕(「梵行品」)
イ 所化の機相を明かす
(一)正引
・闍王興逆
【115】^またのたまはく (涅槃経・*梵行品)、
又言ク、
^「▼そのときに、 *王舎大城に*阿闍世王あり。 その性、 弊悪にしてよく殺戮を行ず。 *口の四悪、 *貪・恚・愚痴を具してその心熾盛なり。 乃至 しかるに眷属のために現世の五欲の楽に貪着するがゆゑに、 *父の王辜なきに、 *横に逆害を加す。
「爾ノ時ニ王舎大城ニ阿闍世王アリ。其ノ性弊悪ニシテ善ク行ズ↢殺戮ヲ↡。具シテ↢口ノ四悪、貪・恚・愚痴ヲ↡其ノ心熾盛ナリ。 乃至 而ルニ為ニ↢眷属ノ↡貪↢著スルガ現世ノ五欲ノ楽ニ↡故ニ、父ノ王无キニ↠辜横ニ加ス↢逆害ヲ↡。
・生悔過心
^◆父を害するによりて、 おのれが心に*悔熱を生ず。 乃至 心悔熱するがゆゑに、 遍体に瘡を生ず。 その瘡臭穢にして附近すべからず。 すなはちみづから念言すらく、 ªわれいまこの身にすでに*華報を受けたり、 地獄の果報まさに近づきて、 遠からずとすº と。
因リテ↠害スルニ↠父ヲ、己ガ心ニ生ズ↢悔熱ヲ↡。 乃至 心悔熱スルガ故ニ徧体ニ生ズ↠瘡ヲ。其ノ瘡臭穢ニシテ不↠可カラ↢附近ス↡。尋チ自ラ念言スラク、我今此ノ身ニ已ニ受ケタリ↢華報ヲ↡、地獄ノ果報将ス ニト↢近ヅキテ不ト↟遠カラ。
・余術不治
^その時に、 その母*韋提希后、 種々の薬をもつてためにこれを塗る。 その瘡つひに増すれども降損あることなし。 王すなはち母にまうさく、 ªかくのごときの瘡は心よりして生ぜり。 四大より起れるにあらず。 もし衆生よく治することありといはば、 この処あることなけんº と。
爾ノ時ニ其ノ母韋提希后、以テ↢種種ノ薬ヲ↡而為ニ塗ル↠之ヲ。其ノ瘡遂ニ増スレドモ無シ↠有0106ルコト↢降損↡。王即チ白ク↠母ニ、如キノ↠是クノ瘡者従リ↠心而生ゼリ。非ズ↢四大ヨリ起レルニ↡。若シ言ハ↣衆生有リト↢能ク治スルコト↡者、无ケムト↠有ルコト↢是ノ処↡。
・余術不治 1.月称
^時に大臣あり、 名づけて月称といふ。 王のところに往至して、 一面にありて立ちてまうしてまうさく、 ª大王なんがゆゑぞ愁悴して顔容悦ばざる。 身痛むとやせん、 心痛むとやせんº と。
時ニ有リ↢大臣↡、名ク↢日月称ト↡。往↢至シテ王ノ所ニ↡、在リテ↢一面ニ↡立チテ白シテ言ク、大王、何ガ故ゾ愁悴シテ顔容不ル↠悦バ、為ム↢身痛ムト邪↡、為ムト↢心痛ムト乎↡。
^王、 臣に答へていはまく、 ªわれいま身心あに痛0268まざることを得んや。 わが父辜なきに横に逆害を加す。 われ智者に従ひて、 かつてこの義を聞きき。 «世に五人あり、 地獄を脱れずと。 いはく五逆罪なり» と。 われいますでに無量無辺阿僧祇の罪あり。 いかんぞ身心をして痛まざることを得ん。 また良医のわが身心を治せんものなけんº と。
王答ヘテ↠臣ニ言ハマク、我今身心豈得ムヤ↠不ルコトヲ↠痛マ。我ガ父无キニ↠辜横ニ加ス↢逆害ヲ↡。我従ヒテ↢智者ニ↡曽テ聞キヽ↢是ノ義ヲ↡。世ニ有リ↢五人↡、不ト↠脱レ↢地獄ヲ↡。謂ク五逆罪ナリト。我今已ニ有リ↢无量无辺阿僧祇ノ罪↡。云何ゾ身心ヲ而得ム↠不ルコトヲ↠痛マ。又无ケムト↣良医ノ治セムモノ↢我ガ身心ヲ↡。
^臣、 大王にまうさく、 ª大きに愁苦することなかれと。 すなはち*偈を説きていはく、 «^もしつねに愁苦せば、 愁へつひに増長せん。 人眠りを喜めば、 眠りすなはち滋く多きがごとし。 婬を貪じ酒を嗜むも、 またまたかくのごとし» と。
臣言サク↢大王ニ↡、莫レト↢大ニ愁苦スルコト↡。即チ説キテ↠偈ヲ言ク、
若シ常ニ愁苦セバ | 愁遂ニ増長セム |
如シ↢人喜メバ↠眠ヲ | 眠則チ滋ク多キガ↡ |
貪ジ↠婬ヲ嗜ムモ↠酒ヲ | 亦復如シト↠是クノ |
^王ののたまふところのごとし、 «世に五人あり、 地獄を脱れず» とは、 たれか往きてこれを見て、 来りて王に語るや。 地獄といふは、 ただちにこれ世間に多く智者説かく、 王ののたまふところのごとし、 «世に良医の身心を治するものなけん» と。
如シ↢王ノ所ノ↟言フ、世ニ有リ↢五人↡、不トハ↠脱レ↢地獄ヲ↡、誰カ往キテ見テ↠之ヲ、来リテ語ル↠王ニ邪。言フ↢地獄ト↡者、直ニ是世間ニ多ク智者説カク、如シ↢王ノ所ノ↟言フ、世ニ无ケムト↧良医ノ治スル↢身心ヲ↡者↥。
^いま大医あり、 *富蘭那と名づく。 *一切知見して自在を得て、 さだめて畢竟じて清浄*梵行を修習して、 つねに無量無辺の衆生のために、 無上涅槃の道を演説す。
今有リ↢大医↡、名ク↢富闌那ト↡。一切*知見シテ得テ↢自在ヲ↡、定メテ畢竟ジテ修↢習シテ清浄梵行ヲ↡、常ニ為ニ↢无量无辺ノ衆生ノ↡、演↢説ス无上涅槃之道ヲ↡。
^もろもろの弟子のために、 かくのごときの法を説けり。 «^*黒業あることなければ、 黒業の報なし。 *白業あることなければ、 白業の報なし。 黒白業なければ、 黒白の*業報なし。 *上業および*下業のあることなし» と。
為ニ↢諸ノ弟子ノ↡、説ケリ↢如キノ↠是クノ法ヲ↡。
无ケレバ↠有ルコト↢黒業↡ | 无シ↢黒業ノ報↡ |
无ケレバ↠有ルコト↢白業↡ | 无シ↢白業ノ報↡ |
无ケレバ↢黒白業↡ | 无シ↢黒白ノ業報↡ |
无シト↠有ルコト↢上業 | 及以下業ノ↡ |
^この師いま0269王舎城のうちにいます。 やや、 願はくは大王、 *屈駕してかしこに往け。 この師をして身心を療治せしむべしº と。
是ノ師今在ス↢王舎城ノ中ニ↡。惟願クハ大王、崛駕シテ往ケ↠彼ニ。可シト↠令ム↣是ノ師ヲシテ療↢治セ身心ヲ↡。
^時に王答へていはまく、 ªあきらかによくかくのごときわが罪を滅除せば、 われまさに帰依すべしº と。
時ニ王0107*答ヘテ言ハマク、審ニ能ク如キ↠是クノ滅↢除セバ我ガ罪ヲ↡、我当ニシト↢帰依ス↡。
・余術不治 2.蔵徳
^またひとりの臣あり、 名づけて蔵徳といふ。 また王のところに往きてこの言をなさく、 ª大王、 なんがゆゑぞ面貌憔悴して、 脣口乾燥し、 音声微細なるや。 乃至 なんの苦しむところあつてか、 身痛むとやせん、 心痛むとやせんº と。
復有リ↢一ノ臣↡、名ケテ曰フ↢蔵徳ト↡。復往キ↢王ノ所ニ↡而作サク↢是ノ言ヲ↡、大王、何ガ故ゾ面*貌憔悴シテ、*屑カワキ口乾*燋シ、音声微細ナルヤト。 乃至 何ノ所アテカ↠苦シム、為ム↢身痛ムト邪↡、為ムト↢心痛ムト乎↡。
^王すなはち答へていはく、 ªわれいま身心いかんぞ痛まざらん。 われ痴盲にして慧目あることなし。 もろもろの悪友に近づきて、 これよく*提婆達多悪人の言に随ひて、 *正法の王に横に逆害を加す。
王即チ答ヘテ言ク、我今身心云何ゾ不ラム↠痛マ。我之痴盲ニシテ无シ↠有ルコト↢*慧*目↡。近キ↢諸ノ悪友ニ↡而為善ク随ヒテ↢提婆達多悪人之言ニ↡、正法之王ニ横ニ加ス↢逆害ヲ↡。
^われ昔かつて智人の偈説せしを聞きき。 «^もし父母、 仏および弟子において、 不善の心を生じ、 悪業を起さん。 かくのごときの果報、 *阿鼻獄にあり» と。
我昔曽テ聞キヽ↢智人ノ偈説セシヲ↡。
若シ於テ↢父母 | 仏及ビ弟子ニ↡ |
生ジ↢不善ノ心ヲ↡ | 起サム↠於↢悪業↡ |
如キノ↠是クノ果報 | 在リト↢阿鼻獄ニ↡ |
^この事をもつてのゆゑに、 われ心怖して大苦悩を生ぜしむ。 また良医の救療を見ることなけんº と。
以テノ↢是ノ事ヲ↡*故ニ、令ムト↣我心怖シテ生ゼ↢大苦悩ヲ↡。又*无ケムト↣良医ノ而見ルコト↢救療ヲ↡。
^大臣またいはく、 ªやや、 願はくは大王、 しばらく愁怖することなかれ。 法に二種あり。 一つには出家、 二つには王法なり。
大臣復言ク、惟願クハ大王、且ク莫レ↢愁怖スルコト↡。法ニ有リ↢二種↡。一ニ者出家、二ニ者王法ナリ。
^王法といふは、 いはく、 その父を害して、 すなはち国土に王たるなり。 これ逆なりといふといへども、 実に罪あることなけん0270。 *迦羅羅虫のかならず母の腹を壊りて、 しかして後、 いまし生ずるがごとし。 *生の法かくのごとし。 母の身を壊るといへども実にまた罪なし。 *騾腹の懐妊等またまたかくのごとし。 治国の法、 法としてかくのごとくなるべし。 父兄を殺すといへども、 実に罪あることなけん。
王法トイフ者、謂ク害セリ↢其ノ父ヲ↡、則チ*王↢国土↡。雖モ↠云フト↢是逆ナリト↡、実ニ无ケム↠有ルコト↠罪。如シ↧迦羅羅虫ノ要ズ壊リテ↢母ノ腹ヲ↡、然シテ*後乃シ生ズルガ↥。生ノ法如シ↠是クノ。※雖モ↠破ルト↢母ノ*身ヲ↡実ニ亦无シ↠罪。騾*腹ノ懐妊等亦復如シ↠是クノ。治国之法、法トシテ応シ↠如クナル↠是クノ。雖モ↠殺スト↢父兄ヲ↡、実ニ无ケム↠有ルコト↠罪。
^出家の法は、 乃至蚊蟻を殺す、 また罪あり。 乃至
出家ノ法者、乃至蚊蟻ヲ殺スル、亦有リ↠罪。 乃至
^王ののたまふところのごとし、 «世に良医の身心を治するものなけん» と。 いま大師あり、 *末伽梨拘賖梨子と名づく。 一切知見して衆生を憐愍すること、 赤子のごとし。 すでに煩悩を離れて、 よく衆生三毒の*利箭を抜く。 乃至
如シ↢王ノ所ノ↟言フ、世ニ无ケムト↧良医ノ治スル↢身心ヲ↡者↥。今有リ↢大師↡、名ク↢末伽梨*賖*梨子ト↡。一切知見シテ憐↢愍スルコト衆生ヲ↡、猶↢如シ赤子ノ↡。已ニ離レテ↢煩悩ヲ↡、能ク抜クト↢衆生ノ三毒ノ利箭0108ヲ↡。 乃至
^この師いま王舎大城にいます。やや、 願はくは大王、 その所に往至して、 王もし見ば衆罪消滅せんº と。
是ノ師今在ス↢王舎大城ニ↡。惟願クハ大王、往↢至シテ其ノ所ニ↡、王若シ見者衆罪消*滅セムト。
^時に王答へていはく、 ªあきらかによくかくのごときわが罪を滅除せば、 われまさに帰依すべしº と。
時ニ王答ヘテ言ク、審ニ能ク如キ↠是クノ*滅↢除セバ我ガ罪ヲ↡、我当ニシト↢帰依ス↡。
・余術不治 3.実徳
^またひとりの臣あり、 名づけて実徳といふ。 また王の所に到りて、 すなはち偈を説きていはく、 ª^大王、 なんがゆゑぞ身の瓔珞を脱ぎ、 首の髪蓬乱せる。 乃至かくのごときなるや。 乃至 これ心痛むとやせん、 身痛むとやせんº と。
復有リ↢一ノ臣↡、名ケテ曰フ↢実*徳ト↡。復到リテ↢王ノ所ニ↡、即チ説キテ↠偈ヲ言ク、
大王何ガ故ゾ | 身ノ脱ギ↢瓔珞ヲ↡ |
首ノ髪蓬乱セル | 乃至如キナルヤト↠是クノ 乃至 |
為ム↢是心痛ムト邪↡ | 為ムト↢身痛ムト邪↡ |
^王すなはち答へていはく、 ªわれいま身心あに痛まざることを得んや。 わが父先王、 慈愛*仁惻して、 ことに見て*矜念せり。 実に*過咎なきに、 往きて*相師に問0271ふ。 相師答へてまうさく、 «この児生れをはりて、 さだめてまさに父を害すべし» と。 この語を聞くといへども、 なほ見て*瞻養す。
王即チ答ヘテ言ク、我今身心豈得ムヤ↠不ルコトヲ↠痛マ。我ガ父先王、慈愛仁惻シテ、*特ニ見テ矜念セリ。実ニ無キニ↠*辜、往キテ問フ↢相師ニ↡。相師答ヘテ言ク、是ノ児生レ已リテ、定メテ当ニシト↠害ス↠父ヲ。雖モ↠聞クト↢是ノ語ヲ↡、猶見テ瞻養ス。
^曽智者の、 かくのごときの言をなししを聞きき。 «もし人母と通じ、 および比丘尼を汚し、 僧祇物を偸み、 無上菩提心を発せる人を殺し、 およびその父を殺さん。 かくのごときの人は必定してまさに阿鼻地獄に堕すべし» と。 われいま身心あに痛まざることを得んやº と。
曽聞キヽ↣智者ノ作シヽヲ↢如キノ↠是クノ言ヲ↡。若シ人通ノ↠母ト、及ビ汚シ↢比丘尼ヲ↡、偸ミ↢僧祇物ヲ↡、殺シ↧発セル↢无上菩提心ヲ↡人ヲ↥、及ビ殺サム↢其ノ父ヲ↡。如キ↠是クノ之人ハ必定シテ当ニシト↠堕ス↢阿鼻地獄ニ↡。我今身心豈得ムヤト↠不ルコトヲ↠痛マ。
^大臣またいはく、 ªやや、 願はくは大王、 また愁苦することなかれ。 乃至 一切衆生みな*余業あり。 業縁をもつてのゆゑにしばしば生死を受く。 もし先王に余業あらしめば、 王いまこれを殺さんに、 つひになんの罪かあらん。
大臣復言ク、惟願クハ大王、且莫レト↢愁苦スルコト↡。 乃至 一切衆生皆有リ↢余業↡。以テノ↢業縁ヲ↡故ニ*数数受ク↢生死ヲ↡。若シ使メ↣先生ニ有ラ↢余業↡者、王今殺セムニ↠之ヲ、竟ニ有ラム↢何ノ罪カ↡。
^やや、 願はくは大王、 意を寛かにして愁ふることなかれ。 なにをもつてのゆゑに、 «^もしつねに愁苦すれば、 愁へつひに増長す。 人眠りを喜めば、 眠りすなはち滋く多きがごとし。 婬を貪じ酒を嗜むも、 またまたかくのごとし»º と。 乃至
惟願クハ大王、寛ニシテ↠意ヲ莫レ↠愁フルコト。何ヲ以テノ故ニ。
若シ常ニ愁苦スレバ | 愁遂ニ増長ス |
如シ↢人喜メバ↠眠ヲ | 眠則チ滋ク多キガ↡ |
貪ジ↠婬ヲ嗜ムモ↠酒ヲ | 亦復如シト↠是クノ 乃至 |
^*刪闍耶毘羅胝子。
刪闍*邪毘羅肱子。
・余術不治 4.悉知義
^またひとりの臣あり、 悉知義と名づく。 すなはち王の所に至りて、 かくのごときの言をなさく。 乃至
復有リ↢一ノ臣↡、名ク↢悉知義ト↡。即チ至リテ↢王ノ所ニ↡、作サク↢如キノ↠是クノ言ヲ↡。 乃至
^王すなはち答へていはまく、 ªわれいま身心あに痛みなきことを得んや。 乃至 先王辜なきに、 横に逆害を興ず。 われまた曽智者の説0272きていひしを聞きき。 «もし父を害することあれば、 まさに無量阿僧祇劫にして大苦悩を受くべし» と。 われいま久しからずしてかならず地獄に堕せん。 また良医のわが罪を救療することなけんº と。
王即チ答ヘテ言ハマク、我今身心豈得ムヤ↠无キコトヲ↠痛。 乃至 先王无キニ↠辜、横ニ興ズ↢逆害ヲ↡。我亦曽テ聞キヽ↢智者ノ説キテ言ヒシヲ↡。若0109シ有レバ↠害スルコト↠父ヲ、当ニシト↧於テ↢无量阿僧祇劫ニ↡受ク↦大苦悩ヲ↥。我今不シテ↠久シカラ必ズ堕セム↢地獄ニ↡。又无ケムト↣良医ノ救↢療スルコト我ガ罪ヲ↡。
^大臣すなはちまうさく、 ªやや、 願はくは大王、 愁苦を放捨せよ。
大臣即チ言サク、惟願クハ大王、放↢捨セヨ愁苦ヲ↡。
^王聞かずや、 昔者王ありき、 名づけて羅摩といひき。 その父を害しをはりて王位を紹ぐことを得たりき。 跋提大王・毘楼真王・那睺沙王・迦帝迦王・毘舎佉王・月光明王・日光明王・愛王・持多人王、 かくのごときらの王、 みなその父を害して王位を紹ぐことを得たりき。 しかるにひとりとして王の地獄に入るものなし。
王不↠聞カ邪、昔者有リキ↠王、名ケテ曰ヒキ↢羅摩ト↡。害シ↢其ノ父ヲ↡已リテ得タリキ↠紹グコトヲ↢王位ヲ↡。跋提大王・毘楼真王・那睺沙王・迦帝迦王・毘舎佉王・月光明王・日光明王・愛王・持多人王、如キ↠是クノ等ノ王、皆害シテ↢其ノ父ヲ↡得タリキ↠紹グコトヲ↢王位ヲ↡。然ルニ无シ↧一トシテ王ノ入ル↢地獄ニ↡者↥。
^いま現在に毘瑠璃王・優陀邪王・悪性王・鼠王・蓮華王、 かくのごときらの王、 みなその父を害せりき。 ことごとくひとりとして王の愁悩を生ずるものなし。 地獄・餓鬼・*天中といふといへども、 たれか見るものあるや。
於今現在ニ毘瑠璃王・優陀*邪王・悪性王・鼠王・蓮華王、如キ↠是クノ等ノ王、皆害セリキ↢其ノ父ヲ↡。悉ク无シ↧一トシテ王ノ生ズル↢愁悩ヲ↡者↥。雖モ↠言フト↢地獄・餓鬼・天中ト↡、誰カ有ルヤ↢見ル者↡。
^大王、 ただ二つの有あり。 一つには人道、 二つには畜生なり。 この二つありといへども、 因縁生にあらず、 因縁死にあらず。 もし因縁にあらずは、 なにものか善悪あらん。
大王、唯有リ↢二ノ有↡。一ニ者人道、二ニ者畜生ナリ。雖モ↠有リト↢是ノ二↡、非ズ↢因縁生ニ↡、非ズ↢因縁死ニ↡。若シ非ズハ↢因縁ニ↡、何者カ有ラム↢善悪↡。
^やや、 願はくは大王、 愁怖を懐くことなかれ。 なにをもつてのゆゑに、 «^もしつねに愁苦すれば、 愁へつひに増長す。 人眠りを喜めば、 眠りすなはち滋く多きがごとし。 婬を貪じ酒を0273嗜むも、 またまたかくのごとし»º と。 乃至
惟願クハ大王、勿レ↠懐クコト↢愁怖ヲ↡。何ヲ以テノ故ニ。
若シ常ニ愁苦スレバ | 愁遂ニ増長ス |
如シ↢人喜メバ↠眠ヲ | 眠則チ滋ク多キガ↡ |
貪ジ↠婬ヲ嗜ムモ↠酒ヲ | 亦復如シト↠是クノ 乃至 |
^*阿耆多翅舎欽婆羅。 乃至
阿耆多翅*金欽婆*羅。
・余術不治 5.吉徳
^また大臣あり、 名づけて吉徳といふ。 乃至 ª地獄といふは、 なんの義ありとかせん。 臣まさにこれを説くべし。
復有リ↢大臣↡、名ケテ曰フ↢吉徳ト↡。 乃至 言フ↢地獄ト↡者、為ムト↠有リトカ↢何ノ義↡。臣当ニシト↠説ク↠之ヲ。
^地は地に名づく、 獄は破に名づく。 地獄を破せん、 罪報あることなけん。 これを地獄と名づく。
地者名ク↠地ニ、獄者名ク↠破ニ。破セム↠於↢地獄↡、无ケム↠有ルコト↢罪報↡。是ヲ名ク↢地獄ト↡。
^また地は人に名づく、 獄は天に名づく。 その父を害するをもつてのゆゑに人天に到らん。 この義をもつてのゆゑに、 婆蘇仙人唱へていはく、 «羊を殺して人天の楽を得» と。 これを地獄と名づく。
又復地者名ク↠人ニ、獄者名ク↠天ニ。以テノ↠害スルヲ↢其ノ父ヲ↡故ニ到ラム↢人天ニ↡。以テノ↢是ノ義ヲ↡故ニ婆蘇仙人唱ヘテ言ク、殺シテ↠羊ヲ得クト↢人天ノ楽ヲ↡。是ヲ名ク↢地獄ト↡。
^また地は命に名づく、 獄は長に名づく。 *殺生をもつてのゆゑに寿命の長きを得。 ゆゑに地獄と名づく。
又復地者名ク↠命ニ、獄者名ク↠長ニ。※以テノ↢殺*彼ノ寿命ノ*長ヲ↡故ニ名ク↢地獄ト↡。
^大王このゆゑにまさに知るべし、 実に地獄なけんと。 大王、 麦を種ゑて麦を得、 稲を種ゑて稲を得るがごとし。 地獄を殺しては、 還りて地獄を得ん。 人を殺害しては、 還りて人を得べし。
大王、是ノ故ニ当ニシ↠知0110ル実ニ无ケムト↢地獄↡。大王、如シ↢種エテ↠麦ヲ得↠麦ヲ、種エテ↠稲ヲ得ルガ↟稲ヲ。殺シテ↢地獄ヲ↡者、還リテ得ム↢地獄ヲ↡。殺↢害シテハ於↟人、応シ↢還リテ得↟人ヲ。
^大王いままさに臣 (吉徳) の所説を聴くに、 実に殺害なかるべし。 もし有我ならば実にまた害なし。 もし無我ならばまた害するところなけん。 なにをもつてのゆゑに。
大王、今当ニシト↧聴クニ↢臣ノ所説ヲ↡、実ニ无カル↦殺害↥。若シ有我ナラ者実ニ亦无シ↠害。若シ无我ナラ者復无ケム↠所↠害スル。何ヲ以テノ故ニ。
^もし有我ならばつねに変易なし、 常住をもつてのゆゑに殺害すべからず。 不破不壊、 不繋不縛、 不瞋不喜はなほ虚空のごとし。 いかんぞまさに殺害の罪あるべき。
若シ有我ナラ*者常ニ無シ↢変易↡、以テノ↢常住ヲ↡故ニ不↠可カラ↢殺害ス↡。不破不壊、不繋不縛、不瞋不喜ハ猶↢如シ虚空ノ↡。云何ゾ当ベ ニキ↠有ル↢殺害之罪↡。
^もし無我ならば諸法無常なり。 無常をもつてのゆゑに念々に壊0274滅す。 念々に滅するがゆゑに殺者・死者みな念々に滅す。 もし念々に滅せば、 たれかまさに罪あるべきや。
若シ无我ナラ者諸法无常ナリ。以テノ↢无常ヲ↡故ニ念念ニ壊滅ス。念念ニ滅スルガ故ニ殺者・死者皆念念ニ滅ス。若シ念念ニ滅セバ、誰カ当ベ ニキヤ↠有ル↠罪。
^大王、 火、 木を焼くに、 火すなはち罪なきがごとし。 斧、 樹を斫るに、 斧また罪なきがごとし。 鎌、 草を刈るに、 鎌、 実に罪なきがごとし。 刀、 人を殺すに、 刀、 実に人にあらず、 刀すでに罪なきがごとし。 人いかんぞ罪あらんや。 毒、 人を殺すに、 毒、 実に人にあらず、 *毒薬、 罪人にあらざるがごとし。 いかんぞ罪あらんや。 一切万物みなまたかくのごとし。 実に殺害なけん。 いかんぞ罪あらんや。
大王、如シ↢火焼クニ↠木ヲ、火則チ无キガ↟罪。如シ↢斧斫ルニ↠樹ヲ、斧亦无キガ↟罪。如シ↢鎌刈ルニ↠草ヲ、鎌実ニ无キガ↟罪。如シ↢刀殺スニ↠人ヲ、刀実ニ非ズ↠人ニ、刀既ニ无キガ↟罪。人云何ゾ罪アラムヤ。如シ↣毒殺スニ↠人ヲ、毒実ニ非ズ↠人ニ、毒薬※*非ザルガ↢*罪人ニ↡。*云何ゾ罪アラムヤ。一切万物皆亦如シ↠是クノ。実ニ无ケム↢殺害↡。云何ゾ有ラムヤ↠罪。
^やや、 願はくは大王、 愁苦を生ずることなかれ。 なにをもつてのゆゑに、 «^もしつねに愁苦せば、 愁へつひに増長せん。 人眠りを喜めば、 眠りすなはち滋く多きがごとし。 婬を貪じ酒を嗜むも、 またまたかくのごとし» と。
惟願クハ大王、莫レ↠生ズルコト↢愁苦ヲ↡。何ヲ以テノ故ニ。
若シ常ニ愁苦セバ | 愁遂ニ増長ス |
如シ↢人喜メバ↠眠ヲ | 眠則チ滋ク多キガ↡ |
貪ジ↠婬ヲ嗜ムモ↠酒ヲ | 亦復如シ↠是クノ |
^いま大師あり、 *迦羅鳩駄迦旃延と名づくº と。
今有リ↢大師↡、名クト↢迦羅鳩駄迦旃*延ト↡。
・余術不治 6.無所畏
^またひとりの臣あり、 無所畏と名づく。 ^ªいま大師あり、 *尼乾陀若提子と名づくº と。 乃至
復有リ↢一ノ臣↡、名ク↢无所*畏ト↡。今有リ↢大師↡、名クト↢尼乾陀若*犍子ト↡。 乃至
・非仏不療 1.耆婆勧
^その時に、 大医あり、 名づけて*耆婆といふ。 王の所に往至してまうしてまうさく、 ª大王、 *いづくんぞ眠ることを得んやいなやº と。
爾ノ時ニ大医アリ、名ケテ曰フ↢耆婆ト↡。往↢至シテ王ノ所ニ↡白シテ言ク、大王、得ムヤ↢安ンゾ眠ルコトヲ↡不ヤト。
^王、 偈をもつて答へて0275いはまく、 乃至 ª耆婆、 われいま病重し。 正法の王において悪逆害を興す。 一切の良医・妙薬・呪術・*善巧瞻病の治することあたはざるところなり。 なにをもつてのゆゑに、 わが父法王、 法のごとく国を治む、 実に辜咎なし。 横に逆害を加す、 魚の陸に処するがごとし。 乃至
王以テ↠偈ヲ答ヘテ言ハマク、乃至 耆婆、我今病重シ。於テ↢正法ノ王ニ↡興ズ↢悪逆害ヲ↡。一切ノ良医・妙薬・呪術・善巧瞻病ノ※所ナリ↠不ル↠能ハ↠治スルコト。何ヲ以テノ故ニ。我ガ父法王、如ク↠法ノ治ム↠国ヲ、実ニ无シ↠*辜咎。横0111ニ加ス↢逆害ヲ↡、如シ↢魚ノ処スルガ↟陸ニ。 乃至
^われ昔かつて智者の説きていひしことを聞きき。 «身口意業もし清浄ならずは、 まさに知るべし、 この人かならず地獄に堕せん» と。 われまたかくのごとし。 いかんぞまさに安穏に眠ることを得べきや。 いまわれまた無上の大医なし、 法薬を演説せんに、 わが病苦を除きてんやº と。
我昔曽テ聞キヽ↢智者ノ説キテ言ヒシコトヲ↡。身口意業若シ不ハ↢清浄ナラ↡、当ニシ↠知ル是ノ人必ズ堕セムト↢地獄ニ↡。我亦如シ↠是クノ。云何ゾ当ニキ↠得↢安穏ニ眠ルコトヲ↡邪。今我又无シ↢无上ノ大医↡、演↢説セムニ法薬ヲ↡、除キテムヤト↢我ガ病苦ヲ↡。
^耆婆答へていはく、 ª善いかな善いかな、 王罪をなすといへども、 心に*重悔を生じて慚愧を懐けり。
耆婆答ヘテ言ク、善イ哉善イ哉、王雖モ↠作スト↠罪ヲ、心ニ生ジ↢重悔ヲ↡而懐ケリ↢慚愧ヲ↡。
^大王、 諸仏世尊つねにこの言を説きたまはく、 ^二つの*白法あり、 よく衆生を救く。 一つには慚、 二つには愧なり。 慚はみづから罪を作らず、 愧は他を教へてなさしめず。 慚はうちにみづから羞恥す、 愧は発露して人に向かふ。 慚は人に羞づ、 愧は天に羞づ。 これを慚愧と名づく。
大王、諸仏世尊常ニ説キタマハク↢是ノ言ヲ↡、有リ↢二ノ白法↡、能ク救ク↢衆生ヲ↡。一ニハ慚、二ニハ愧ナリ。慚者自ラ不↠作ラ↠罪ヲ、愧者不↢教ヘテ↠他ヲ作サシメ↡。慚者内ニ自ラ羞ハヂ恥ハヅス、愧者発露シテ向フ↠人ニ。慚者羞ヅ↠人ニ、愧者羞ヅ↠天ニ。是ヲ名ク↢慚愧ト↡。
^無慚愧は名づけて人とせず、 名づけて畜生とす。 慚愧あるがゆゑに、 すなはちよく父母・師長を*恭敬す。 慚愧あるがゆゑに、 父母・兄弟・姉妹あることを説く。 ^善きかな大王、 つぶさに慚愧あり。 乃至
无慚愧者不↢名ケテ為↟人ト、名ケテ為↢畜生ト↡。有ルガ↢慚愧↡故ニ則チ能ク恭↢敬ス父母・師長ヲ↡。有ルガ↢慚愧↡故ニ説ク↠有ルコトヲ↢父母・兄弟・姉妹↡。善キ哉大王、具ニ有リト↢慚愧↡。 乃至
^王ののたまふところのごと0276し、 «よく治するものなけん» と。 大王まさに知るべし、 *迦毘羅城に*浄飯王の子、 姓は*瞿曇氏、 *悉達多と字く。 師なくして自然に覚悟して阿耨多羅三藐三菩提を得たまへり。 乃至 これ仏世尊なり。 *金剛智ましまして、 よく衆生の一切悪罪を破せしむること、 もしあたはずといはば、 この処あることなけん。 乃至
如シ↢王ノ所ノ↟言フ、无ケムト↢能ク治スル者↡。大王当ニシ↠知ル、迦毘羅城ニ浄*飯王ノ子、姓ハ瞿曇氏、字ク↢悉達多ト↡。无クシテ↠師覚↢悟シ自然ニ↡而得タマヘリト↢阿耨多羅三藐三菩提ヲ↡。 乃至 是仏世尊ナリ。有シテ↢金剛智↡、能ク破セシムルコト↢衆生ノ一切悪罪ヲ↡、若シ言ハヾ↠不ト↠能ハ、无ケムト↠有ルコト↢是ノ処↡。 乃至
^大王、 如来に*弟提婆達多あり。 *衆僧を破壊し、 仏身より血を出し、 *蓮華比丘尼を害す。 三逆罪を作れり。 如来、 ために種々の法要を説きたまふに、 その重罪をしてすなはち微薄なることを得しめたまふ。 このゆゑに如来を大良医とす。 六師にはあらざるなりº と。 乃至
大王、如来ニ有リ↢弟提婆達多↡。破↢壊シ衆僧ヲ↡、出シ↢仏身ヨリ血ヲ↡、害ス↢蓮華比丘尼ヲ↡。作レリ↢三逆罪ヲ↡。如来為ニ説キタマフニ↢種種ノ法要ヲ↡、令メタマフ↣其ノ重罪ヲシテ尋チ得↢微薄ナルコトヲ↡。是ノ故ニ如来ヲ為↢大良医ト↡。非ザル↢六師ニハ↡也ト。 乃至
・非仏不療 2.父王勧
^ª*大王、 一逆を作れば、 すなはちつぶさにかくのごときの一罪を受く。 もし二逆罪を造らば、 すなはち二倍ならん。 五逆つぶさならば、 罪もまた五倍ならん。 大王いまさだめて知んぬ、 王の悪業かならず勉るることを得じ。 やや、 願はくは大王、 すみやかに仏の所に往づべし。 仏世尊を除きて余は、 よく救くることなけん。 われいまなんぢを愍れむがゆゑに、 あひ勧めて導くなりº と。
大王、作レ↢一逆ヲ↡者、則便チ具ニ受ク↢如キノ↠是クノ一罪ヲ↡。若シ造ラバ↢二逆罪ヲ↡、則チ二倍ナラム。五逆具ナラ者、罪モ亦五倍ナラムト。大王、今定メテ知ヌ、王之悪0112業必ズ不↠得↠勉ルコトヲ。惟願クハ大王、速ニ往ヅベシ↢仏ノ所ニ↡。除キテ↢仏世尊ヲ↡余ハ、无ケム↢能ク救クルコト↡。我今愍ムガ↠汝ヲ故ニ相勧メテ導クナリト。
^その時に、 大王、 この語を聞きをはりて、 心に*怖懼を懐けり。 身を挙げて戦慄す。 五体掉動して芭蕉樹のごとし。 仰ぎて答へていはく、 ª天これたれとかせん、 *色像を現ぜずしてただ声のみある0277ことはº と。
爾ノ時ニ大王、聞キ↢是ノ語ヲ↡已リテ、心ニ懐ケリ↢怖懼ヲ↡。挙ゲテ↠身ヲ戦オノヽク慓スオソル。五体*梓動シテ如シ↢芭蕉樹ノ↡。仰ギ而答ヘテ曰ク、*天ニ為ム↢是誰トカ↡、不↠現ゼ↢色像ヲ↡而但有ルコトハト↠声ノミ。
^ª大王、 われはこれなんぢが父頻婆沙羅なり。 なんぢいままさに耆婆の所説に随ふべし。 邪見六臣の言に随ふことなかれº と。
大王、吾ハ是汝ガ父頻婆沙羅ナリ。汝今当ニシ↠随フ↢耆婆ノ所説ニ↡。莫レト↠随フコト↢邪見六臣之言ニ↡。
^時に聞きをはりて*悶絶躄地す。 身の瘡、 増劇して臭穢なること、 前よりも倍れり。 もつて冷薬をして塗り、 瘡を治療すといへども、 瘡蒸はし。 毒熱ただ増せども損ずることなし」 と。 以上略出
時ニ聞キ已リテ悶絶躄地ス。身ノ瘡増劇シテ臭穢ナルコト倍レリ↠前ヨリモ。雖モ↧以テ↢冷薬ヲ↡塗リ、治↦療スト瘡ヲ↥、瘡蒸シ。毒熱但増セドモ无シト↠損ズルコト。」 已上*略出
二 Ⅰ ⅰ b イ (二)列名
^▼一*大臣、 名づけて月称といふ | 一富蘭那と名づく |
二蔵徳 | 二末伽梨拘賖梨子と名づく |
三一の臣あり、 名づけて実徳といふ | 三刪闍耶毘羅胝子と名づく |
四一の臣あり、 悉知義と名づく | 四阿耆多翅舎欽婆羅と名づく |
▼五大臣、 名づけて吉徳といふ | 五迦羅鳩駄迦旃延 |
▼六無所畏 | 六尼乾陀若提子と名づく |
一大臣名ケテ曰フ↢日月称ト↡ | 一名ク↢富闌那ト↡ |
二蔵*徳 | 二名ク↢末伽梨*賖梨子ト↡ |
三有リ↢一ノ臣↡名ケテ曰フ↢実*徳ト↡ | 三名ク↢那闡*邪毘羅肱子ト↡ |
四有リ↢一ノ臣↡名ク↢悉知義ト↡ | 四名ク↢阿*嗜多翅金欽*婆羅ト↡ |
五大臣名ケテ曰フ↢吉徳ト↡ | 五婆蘇仙 |
六加羅鳩駄迦旃延 | 六名ク↢尼乾陀若犍子ト↡ |
二 Ⅰ ⅰ b ロ 能化の徳相を明かす
(一)不入涅槃を明かす
【116】^またのたまはく (涅槃経・梵行品)、
又言ハク、
^「▼ª善男子、 わがいふところのごとし、 阿闍世王の為に涅槃に入らず。 かくのごときの*密義、 なんぢいまだ解くことあたはず。
「善男子、如シ↢我ガ所ノ↟言フ、為ニ↢阿闍世王ノ↡不↠入ラ↢涅槃ニ↡。如キノ↠是クノ密義、汝未ズ ダ↠能ハ↠解クコト。
^◆なにをもつてのゆゑに、 われ «為» といふは一切凡夫、 «阿闍世王» とはあまねくおよび一切五逆を造るものなり。
何ヲ以テノ故ニ。我言フ↠為ト者一切凡夫、阿闍*世王ト者普ク及ビ一切造ル↢五0113逆ヲ↡者ナリ。
^◆また «為» とはすなはちこれ*一切0278有為の衆生なり。 われつひに*無為の衆生のためにして世に住せず。 なにをもつてのゆゑに、 それ無為は衆生にあらざるなり。 «阿闍世» とはすなはちこれ煩悩等を具足せるものなり。
又復為ト者即チ是一切有為ノ衆生ナリ。我終ニ不↧為ニ↢无為ノ衆生ノ↡而住セ↞於↠世。何ヲ以テノ故ニ。夫无為者非ザル↢衆生ニ↡也。阿闍世ト者即チ是具↢足セル煩悩等ヲ↡者ナリ。
^◆また «為» とはすなはちこれ仏性を見ざる衆生なり。 もし仏性を見んものには、 われつひにために久しく世に住せず。 なにをもつてのゆゑに、 仏性を見るものは衆生にあらざるなり。 «阿闍世» とはすなはちこれ一切いまだ阿耨多羅三藐三菩提心を発せざるものなり。 乃至
又復為ト者即チ是不ル↠見↢仏性ヲ↡衆生ナリ。若シ見ムモノニハ↢仏性ヲ↡、我終ニ不↢為ニ久シク住セ↟於↠世。何ヲ以テノ故ニ。見ル↢仏性ヲ↡者ハ非ザル↢衆生ニ↡也。阿闍世ト者即チ是一切未ダル↠発セ↢阿耨多羅三藐三菩提心ヲ↡者ナリ。 乃至
^◆また «為» とは名づけて仏性とす。 «阿闍» は名づけて不生とす、 «世» は怨に名づく。 仏性を生ぜざるをもつてのゆゑに、 すなはち煩悩の怨生ず。 煩悩の怨生ずるがゆゑに、 仏性を見ざるなり。 煩悩を生ぜざるをもつてのゆゑに、 すなはち仏性を見る。 仏性を見るをもつてのゆゑに、 すなはち大般涅槃に安住することを得。 これを不生と名づく。 このゆゑに名づけて阿闍世とす。
又復為ト者名ケテ為↢仏性ト↡。阿闍者名ケテ為↢不生ト↡、世者名ク↠怨ニ。以テノ↠不ルヲ↠生ゼ↢仏性ヲ↡故ニ則チ煩悩ノ怨生ズ。煩悩ノ怨生ズルガ故ニ不ルナリ↠見↢仏性ヲ↡。以テノ↠不ルヲ↠生ゼ↢煩悩ヲ↡故ニ則チ見ル↢仏性ヲ↡。以テノ↠見ルヲ↢仏性ヲ↡故ニ則チ得↣安↢住スルコトヲ大般涅槃ニ↡。是ヲ名ク↢不生ト↡。是ノ故ニ名ケテ為↢阿闍世ト↡。
^◆善男子、 «阿闍» は不生に名づく、 不生は涅槃と名づく。 «世» は世法に名づく。 «為» とは不汚に名づく。 世の*八法をもつて汚さざるところなるがゆゑに、 無量無辺阿僧祇劫に涅槃に入らず。 このゆゑにわれ «阿闍世の為に無量億劫に涅槃に入らず» とのたまへり。
善男子、阿闍者名ク↢不生ニ↡、不生者名ク↢涅槃ト↡。世ハ名ク↢世法ニ↡。為ト者名ク↢不汚ニ↡。以テ↢世ノ八法ヲ↡所ナルガ↠不ル↠汚サ故ニ无量无辺阿僧祇劫ニ不ト↠入ラ↢涅槃ニ↡。是ノ故ニ我言ヘリ↧為ニ↢阿闍世ノ↡无量億劫ニ不ト↞入ラ↢涅槃ニ↡。
^◆善男子、 如来の密語不可思議なり。 仏法衆僧また不可思議0279なり。 菩薩摩訶薩また不可思議なり。 ¬大涅槃経¼ また不可思議なりº と。
善男子、如来ノ密語不可思議ナリ。仏法衆僧亦不可思議ナリ。菩薩摩訶薩亦不可思議ナリ。¬大涅槃経¼亦不可思議ナリト。
二 Ⅰ ⅰ b ロ (二)善巧開化を明かす
・治身 ・放光治身
^◆その時に、 世尊大悲導師、 阿闍世王のために*月愛三昧に入れり。 三昧に入りをはりて大光明を放つ。 その光清涼にして、 往きて王の身を照らしたまふに、 身の瘡すなはち愈えぬ。 乃至
爾ノ時ニ世尊大悲導師、為ニ↢阿闍世王ノ↡入レリ↢月愛三昧ニ↡。入リ↢三昧ニ↡已リテ放ツ↢大光明ヲ↡。其ノ光清涼ニシテ、往キテ照シタマフニ↢王ノ身ヲ↡、身ノ瘡即チ愈エヌ。 乃至
・治身 ・放光所由
^◆王、 耆婆にいはまく、 ªかれは*天中の天なり。 なんの因縁をもつてこの光明を放ちたまふぞやº と。
※*白シテ↠王ニ言ワマク↢耆婆ニ↡、彼ハ天中ノ天ナリ。以テ↢何ノ因縁ヲ↡放チタマフゾヤト↢斯ノ光明ヲ↡。
^◆ª大王、 いまこの*瑞相は、 および王のためにするにあひ似たり。 まづいはまく、 世に良医の身心を療治するものなきがゆゑに、 この光を放ちてまづ王の身を治す。 しかうして後に心に及ぶº と。
*大王、今是ノ瑞相ハ、*相↣似タリ為ニスルニ↢及以王ノ↡。先ヅ言0114マク、世ニ无キガ↣良医ノ療↢治スルモノ身心ヲ↡故ニ、放チテ↢此ノ光ヲ↡先ヅ治ス↢王ノ身ヲ↡。然シテ後ニ及ブト↠心ニ。
^◆王の耆婆にいはまく、 ª如来世尊また見たてまつらんと念ふをやº と。
王ノ言ハマク↢耆婆ニ↡、如来世尊亦見タテマツラムト念フヲ邪ト。
^◆耆婆答へていはく、 ªたとへば一人にして七子あらん。 この七子のなかに一子病に遇へば、 父母の心平等ならざるにあらざれども、 しかるに病子において心すなはちひとへに重きがごとし。
耆婆答ヘテ言ハク、譬ヘバ如シ↧一人ニ而有ラム↢七子↡、是ノ七子ノ中ニ一子遇ヘバ↠病ニ、父母之心非ザレドモ↠不ルニ↢平等ナラ↡、然ルニ於テ↢病子ニ↡心則チ偏ニ重キガ↥。
^◆大王、 如来もまたしかなり。 もろもろの衆生において平等ならざるにあらざれども、 しかるに罪者において心すなはちひとへに重し。 放逸のものにおいて仏すなはち慈念したまふ。 不放逸のものは心すなはち放捨す。 なんらをか名づけて不放逸のものとすると。 いはく、 *六住の菩薩なりと。
大王、如来モ亦爾ナリ。於テ↢諸ノ衆生ニ↡非ザレドモ↠不ルニ↢平等ナラ↡、然ルニ於テ↢罪者ニ↡心則チ偏ニ重シ。於テ↢放逸ノ者ニ↡仏則チ慈念シタマフ。不放逸ノ者ハ心則チ放ユルシ捨スツス。何等ヲカ名ケテ為ルト↢不放逸ノ者ト↡。謂ク六住ノ菩薩ナリト。
^◆大王、 諸仏世尊、 もろもろの衆生において、 *種姓0280・老少中年・貧富・*時節・日月星宿・*工巧・下賎・僮僕・婢使を観そなはさず、 ただ衆生の善心あるものを観そなはす。 もし善心あればすなはち慈念したまふ。 大王まさに知るべし、 かくのごときの瑞相は、 すなはちこれ如来、 月愛三昧に入りて放つところの光明なりº と。
大王、諸仏世尊、於テ↢諸ノ衆生ニ↡、不↠観サ↢種姓・老少中年・貧富・時節・日月星宿・工巧・下賎・僮僕・婢使ヲ↡、唯観ス↧衆生ノ有ル↢善心↡者ヲ↥。若シ有レバ↢善心↡則便チ慈念シタマフ。大王当ニシ↠知ル、如キノ↠是クノ瑞相ハ、即チ是如来入リテ↢月愛三昧ニ↡所ノ↠放ツ光明ナリト。
・治身 ・三昧徳名
^◆王すなはち問うていはまく、 ªなんらをか名づけて月愛三昧とするº と。
王即チ問ウテ言ハマク、何等ヲカ名ケテ為ルト↢月愛三昧ト↡。
^◆耆婆答へていはまく、 ªたとへば月の光よく一切の*優鉢羅華をして開敷し鮮明ならしむるがごとし。 月愛三昧もまたまたかくのごとし。 よく衆生をして善心開敷せしむ。 このゆゑに名づけて月愛三昧とす。
耆婆答ヘテ言ハマク、譬ヘバ如シ↣月ノ光能ク令ムルガ↢一切ノ優鉢羅華ヲシテ開敷シ鮮明ナラ↡。月愛三昧モ亦復如シ↠是クノ。能ク令ム↢衆生ヲシテ善心開敷セ↡。是ノ故ニ名ケテ為↢月愛三昧ト↡。
^◆大王、 たとへば月の光よく一切、 路を行く人の心に歓喜を生ぜしむるがごとし。 月愛三昧もまたまたかくのごとし。 よく涅槃道を修習せんものの心に歓喜を生ぜしむ。 このゆゑにまた月愛三昧と名づく。 乃至 諸善のなかの王なり。 甘露味とす。 一切衆生の愛楽するところなり。 このゆゑにまた月愛三昧と名づくº と。 乃至
大王、譬ヘバ如シ↤月ノ光能ク令ムルガ↣一切行ク↠路ヲ之人ノ心ニ生ゼ↢歓喜ヲ↡。月愛三昧モ亦復如シ↠是クノ。能ク令ム↧修↢習セム涅槃道ヲ↡者ノ心ニ生ゼ↦歓喜ヲ↥。是ノ故ニ復名クト↢月愛三昧ト↡。 乃至 諸善ノ中ノ王ナリ。為↢甘露味ト↡。一切衆生之所ナリ↢愛楽スル↡。是ノ故ニ復名クト↢月愛三昧ト↡。 乃至
・治心 ・先明詣仏
◆^その時に、 仏、 もろもろの大衆に告げてのたまはく、 ª一切衆生、 阿耨多羅三藐三菩提に近づく因縁のためには、 *善友を先とするにはしかず。 なにをもつてのゆゑに、 ▼阿闍世王、 もし耆婆の語に随順せずは、 来月の七日に必定して0281命終して阿鼻獄に堕せん。 *このゆゑに日に近づきにたり、 善友にしくことなしº と。
爾ノ時ニ仏告ゲテ↢諸ノ大衆ニ↡言ハク、一切衆生為ニ↢阿耨多羅三藐三菩提ニ近ク因縁ノ↡者、无カズ↠先トスルニハ↢善友ヲ↡。何ヲ以テノ故0115ニ。阿闍世王、*若シ不↠随↢順セ耆婆ノ語ニ↡者、来月ノ七日ニ必定シテ命終シテ堕セム↢阿鼻獄ニ↡。是ノ故ニ近キニタリ↠日ニ、莫レト↠若クコト↢善友ニ↡。
^◆阿闍世王また*前路において聞く、 ª*舎婆提に*毘瑠璃王、 船に乗じて海辺に入りて火に遇ふ、 しかうして死ぬ。 *瞿迦離比丘、 生身に地に入りて阿鼻獄に至れり。 *須那刹多は種々の悪を作りしかども、 仏所に到りて衆罪消滅しぬº と。
阿闍世王復於テ↢前路ニ↡聞ク、舎婆提ニ毘瑠璃王、乗ジテ↠船ニ入リテ↢海辺ニ↡*災シ而死ヌ。瞿伽離比丘、生身ニ入リテ↠地ニ至レリ↢阿鼻獄ニ↡。須那刹多ハ作リシカドモ↢種種ノ悪ヲ↡、*到リテ↠於↢仏所ニ↡衆罪消滅シヌト。
^◆この語を聞きをはりて、 耆婆に語りていはまく、 ªわれいまかくのごときの*二つの語を聞くといへども、 なほいまだあきらかならず。 さだめてなんぢ来れり、 耆婆、 われなんぢと同じく一象に載らんと欲ふ。 たとひわれまさに阿鼻地獄に入るべくとも、 冀はくは、 なんぢ捉持してわれをして堕とさしめざれ。 なにをもつてのゆゑに、 われ昔かつて聞きき、 «得道の人は地獄に入らず»º と。 乃至
聞キ↢是ノ語ヲ↡已リテ、語リテ↢耆婆ニ↡言ハマク、吾今雖モ↠聞クト↢如キノ↠是クノ二ノ語ヲ↡、猶未ズ ダ↠審ナラ。定メテ汝来レリ。耆婆、吾欲フ↣与↠汝同ジク載ラムト↢一象ニ↡。*設ヒ我当ニクトモ↠入ル↢阿鼻地獄ニ↡、冀ハクハ汝投持シテ不レト↠令メ↢我ヲシテ堕サ↡。何ヲ以テノ故ニ。吾昔曽テ聞キヽ、得道之人ハ不ト↠入ラ↢地獄ニ↡。 乃至
・治心 ・説法治心 1.造罪軽重
^ªいかんぞ説きてさだめて地獄に入らんといはん。 大王、 一切衆生の所作の罪業におほよそ二種あり。 一つには軽、 二つには重なり。 もし心と口とに作るはすなはち名づけて軽とす。 身と口と心とに作るはすなはち名づけて重とす。
云何ゾ説キテ言ハム↣定メテ入ラムト↢地*獄ニ↡。大王、一切衆生ノ所作ノ罪業ニ凡ソ有アリ↢二種↡。一ニ者軽、二ニ者重ナリ。若シ心ト口トニ作ルハ則チ名ケテ為↠軽ト。身ト口ト心トニ作ルハ則チ名ケテ為ト↠重ト。
^大王、 心に念ひ口に説きて身になさざれば、 得るところの報、 軽なり。 大王、 昔日口に殺せと勅せず、 ただ足を削れといへりき。 大王、 もし侍臣に勅せましかば、 たちどころに王の首を斬らまし。 坐の時にすなはち斬るとも0282、 なほ罪を得じ。 いはんや王勅せず、 いかんぞ罪を得ん。
大王、心ニ念ヒ口ニ説キテ身ニ不レ↠作サ者、所ノ↠得ル報、軽ナリ。大王、昔日口ニ不↠勅セ↠殺ヨト、但言ヘリキ↠削レト↠足ヲ。大王、若シ勅セマシカバ↢侍臣ニ↡、立ニ斬ラマシ↢王ノ首ヲ↡。坐ノ時ニ乃チ斬ルトモ猶不↠得↠罪ヲ。況ヤ王不↠勅セ、云何ゾ得ム↠罪ヲ。
^王もし罪を得ば、 諸仏世尊もまた罪を得たまふべし。 なにをもつてのゆゑに。 なんぢが父、 先王頻婆沙羅、 つねに諸仏においてもろもろの善根を種ゑたりき。 このゆゑに今日王位に居することを得たり。 諸仏もしその供養を受けたまはざらましかば、 すなはち王たらざらまし。 もし王たらざらましかば、 なんぢすなはち国のために害を生ずることを得ざらまし。 もしなんぢ父を殺してまさに罪あるべくは、 われら諸仏また罪ましますべし。 もし諸仏世尊、 罪を得たまふことなくは、 なんぢ独りいかんぞ罪を得んや。
王若シ得バ↠罪ヲ、諸仏世尊モ亦応シ↠得タマフ↠罪ヲ。何ヲ以テノ故ニ。汝ガ父先王頻婆沙羅、常ニ於テ↢諸仏ニ↡種ヘタリキ↢諸ノ善根ヲ↡。是ノ故ニ今日得タリ↠居スルコトヲ↢王位ニ↡。諸仏若シ不ラマシカバ↠受ケタマハ↢其ノ供養ヲ↡、則チ不ラマシ↠為ラ↠王。若シ不ラマシカバ↠為ラ↠王、汝則チ不ラマシト↠得↢為ニ↠国ノ生ズルコトヲ↟害ヲ。若シ汝殺シテ↠父ヲ当ニク↠有ル↠罪者、我等諸仏亦応シ↠有ス↠罪。若シ諸仏世尊无ク↠得タマフコト↠罪ヲ者、汝独リ云何ゾ而得ム↠罪ヲ邪。
・治心 ・説法治心 2.父王以類
^大王、 頻婆沙羅往悪心ありて、 *毘富羅山にして遊行し、 鹿を射猟して曠野に周遍しき。 ことごとく得るところなし。 ただひとりの*仙の五通具足せるを見る。 見をはりてすなはち瞋恚悪心を生じき。 «われいま遊猟す。 *得ざるゆゑんは、 まさしくこの人の駆逐して去らしむるに坐る» と。 すなはち左右に勅してこれを殺さしむ。
大王、頻婆沙0116羅往有リテ↢悪心↡、於テ↢毘富羅山ニ↡遊行シ、射↢猟シテ*鹿ヲ↡周↢徧シキ曠野ニ↡。悉ク无シ↠所↠得ル。唯見ル↢一ノ仙ノ五通具足セルヲ↡。見已リテ即チ生ジキ↢瞋恚悪心ヲ↡。我今遊猟ス。所以不↠得↢正シク坐ヲ↡、此ノ人駆リテ*逐ニ令ム↠去ラ。即チ勅シ↢左右ニ↡而令ム↠殺セ↠之ヲ。
^その人終りに臨んで瞋を生ず。 悪心あつて神通を退失して誓言をなさく、 «われ実に辜なし。 なんぢ心口をもつて横に*戮害を加す。 われ来世において、 またまさにかくのごとく還つて心口をもつてして、 なんぢを害すべ0283し» と。 時に王、 聞きをはりて、 すなはち悔心を生じて死屍を供養しき。
其ノ人臨テ↠終ニ※生ズ↢瞋テ悪心ヲ↡。退↢失シ神通ヲ↡而作サク↢誓言ヲ↡、我実ニ无シ↠辜。汝以テ↢心口ヲ↡横ニ加ス↢戮害ヲ↡。我於テ↢来世ニ↡、亦当ニシト↧如ク↠是クノ還テ以テ↢心口ヲ↡而害ス↞於↠汝。時ニ王聞キ已リテ、即チ生ジテ↢悔心ヲ↡供↢養シキ死屍ヲ↡。
^先王かくのごとくなほ軽く受くることを得て、 地獄に堕ちず。 いはんや王しからずして、 まさに地獄の果報を受くべけんや。 先王みづから作りて、 還つてみづからこれを受く。 いかんぞ王をして殺罪を得しめん。 王のいふところのごとし。 父の王辜なくは、 *大王いかんぞ、 失なきに罪ありといはば、 すなはち罪報あらん。 悪業なくはすなはち罪報なけん。 なんぢが父先王、 もし辜罪なくは、 いかんぞ報あらん。
先王如ク↠是クノ尚得テ↢軽ク受クルコトヲ↡、不↠堕チ↢地獄ニ↡。況ヤ王不↠爾ラ而当ニケム↣地獄ノ受ク↢果報ヲ↡邪。先王自ラ作リテ還テ自ラ受ク↠之ヲ。云何ゾ令メム↣王ヲ而得↢殺罪ヲ↡。如シ↢王ノ所ノ↟言フ。父ノ王无ク↠辜者、大王云何ゾ言ハ↢无キニ↠失有リト↟罪者、則チ有ラム↢罪報↡。无ク↢悪業↡者則チ无ケム↢罪報↡。汝ガ父先王、若シ無クハ↢辜罪↡、云何ゾ有ラム↠報。
^頻婆沙羅、 現世のなかにおいて、 また善果および悪果を得たり。 このゆゑに先王またまた不定なり。 不定なるをもつてのゆゑに殺もまた不定なり。 殺不定ならば、 いかんしてかさだめて地獄に入らんといはん。
頻婆沙羅於テ↢現世ノ中ニ↡、亦得タリ↢善果及以悪果ヲ↡。是ノ故ニ先王亦復不定ナリ。以テノ↢不定ヲ↡故ニ殺モ亦不定ナリ。殺不定ハ、云何而カ言ハムト↣定メテ入ラムト↢地獄ニ↡。
・治心 ・説法治心 3.造罪心地
^大王、 衆生の狂惑におほよそ四種あり。 一つには貪狂、 二つには薬狂、 三つには呪狂、 四つには*本業縁狂なり。 大王、 わが弟子のなかに、 この四狂あり。 多く悪を作るといへども、 われつひにこの人、 戒を犯せりと記せず。 この人の所作三悪に至らず。 もし還つて心を得ば、 また犯といはず。
大王、衆生ノ狂惑ニ凡ソ有リ↢四種↡。一ニ者貪狂、二ニ者薬狂、三ニ者呪狂、四ニ者本業縁狂ナリ。大王、我ガ弟子ノ中ニ有リ↢是ノ四狂↡。雖モ↢多ク作ルト↟悪ヲ、我終ニ不↠記セ↢是ノ人犯セリト↟戒ヲ。是ノ人ノ所作不↠至ラ↢三悪ニ↡。若シ還テ得バ↠心ヲ、亦不↠言ハ↠犯ト。
^王もと国を貪じてこの父の王を逆害す。 貪狂の心をもつてためになせり。 いかんぞ罪を得ん。 大王、 人の*耽酔してその母を逆害せん、 すでに*醒悟しをはりて心に悔恨0284を生ぜんがごとし。 まさに知るべし、 この業また報を得じ。 王いま貪酔せり。 本心のなせるにあらず。 もし本心にあらずは、 いかんぞ罪を得んや。
王本貪ジテ↠国ヲ此レ逆↢害ス父ノ王ヲ↡。貪狂ノ心ヲモテ与ニ作セリ。云何ゾ得ム↠罪ヲ。大王、如シ↧人ノ耽酔シテ逆↢害セム其ノ母ヲ↡、既ニ醒悟シ已リテ心ニ生ゼムガ↦悔恨ヲ↥。当ニシ↠知ル是0117ノ業亦不↠得↠報ヲ。*王今貪酔セリ。非ズ↢本心ノ作セルニ↡。若シ非ズハ↢本心ニ↡、云何ゾ得ムヤ↠罪ヲ。
・治心 ・説法治心 4.以譬示殺
^大王、 たとへば*幻師の*四衢道の頭にして、 種々の男女・象・馬・瓔珞・衣服を幻作するがごとし。 愚痴の人は謂うて真実とす。 有智の人は真にあらずと知れり。 殺もまたかくのごとし。 凡夫は実と謂へり、 諸仏世尊はそれ真にあらずと知ろしめせり。
大王、譬ヘバ如シ↧幻師ノ於テ↢四衢道ノ頭ニ↡、*幻↦作スルガ種種ノ男女・象・馬・瓔珞・衣服ヲ↥。愚痴之人ハ謂フテ為↢真実ト↡、有智之人ハ知レリ↠非ズト↠真ニ。*殺モ亦如シ↠是クノ。凡夫ハ謂ヘリ↠実ト、諸仏世尊ハ知セリ↢*其非ズト↟真ニ。
^大王、 たとへば*山谷の響きの声のごとし。 愚痴の人はこれを実の声と謂へり、 有智のひとはそれ真にあらずと知れり。 殺もまたかくのごとし。 凡夫は実と謂へり、 諸仏世尊はそれ真にあらずと知ろしめせり。
大王、譬ヘバ如シ↢山谷ノ響ノ声ノ↡。愚痴之人ハ謂ヘリ↢之ヲ実ノ声ト↡、有智之人ハ知レリ↢其非ズト↟真ニ。殺モ亦如シ↠是クノ。凡夫ハ謂ヘリ↠実ト、諸仏世尊ハ知セリ↢其非ズト↟真ニ。
^大王、 人の怨あるが、 詐り来りて親付するがごとし。 愚痴の人は謂うてまことに親しむとす、 智者は*了達してすなはちそれ虚しく詐れりと知らん。 殺もまたかくのごとし。 凡夫は実と謂ふ、 諸仏世尊はそれ真にあらずと知ろしめせり。
大王、如シ↢人ノ有ルガ↠怨詐リ来リテ親附スルガ↡。愚痴之人ハ謂フテ為↢*実ニ親シムト↡、智者ハ了達シテ乃チ知ル↢其虚シク詐レリト↡。殺モ亦如シ↠是クノ。凡夫ハ謂フ↠実ト、諸仏世尊ハ知セリ↢其非ズト↟真ニ。
^大王、 人鏡を執りてみづから面像を見るがごとし。 愚痴の人は謂うて真の面とす、 智者は了達してそれ真にあらずと知れり。 殺もまたかくのごとし。 凡夫は実と謂ふ、 諸仏世尊はそれ真にあらずと知ろしめせり。
大王、如シ↣人執リテ↠鏡ヲ自ラ見ルガ↢面像ヲ↡。愚痴之人ハ謂フテ為↢真ノ面ト↡、智者ハ了達シテ知レリ↢其非ズト↟真ニ。殺モ亦如シ↠是クノ。凡夫ハ謂フ↠実ト、諸仏世尊ハ知セリ↢其非ズト↟真ニ。
^大王、 *熱の時の炎のごとし。 愚痴の人はこれはこれ水と謂はん、 智者は了達してそれ水にあらずと知ら0285ん。 殺もまたかくのごとし。 凡夫は実と謂はん、 諸仏世尊はそれ真にあらずと知ろしめせり。
大王、如シ↢熱ノ時ノ炎ノ↡。愚痴之人ハ謂ハム↢之ハ是水ト↡、智者ハ了達シテ知ラム↢其非ズト↟水ニ。殺モ亦如シ↠是クノ。凡夫ハ謂ハム↠実ト、諸仏世尊ハ知セリ↢其非ズト↟真ニ。
^大王、 *乾闥婆城のごとし。 愚痴の人は謂うて真実とす、 智者は了達してそれ真にあらずと知れり。 殺もまたかくのごとし。 凡夫は実と謂へり、 諸仏世尊はそれ真にあらずと了知したまへり。
大王、如シ↢乾闥婆城ノ↡。愚痴之人ハ謂フテ為↢真実ト↡、智者ハ了達シテ知レリ↢其非ズト↟真ニ。殺モ亦如シ↠是クノ。凡夫ハ*謂ヘリ↠実ト、諸仏世尊ハ了↢知メタマヘリ其非ズト↟真ニ。
^大王、 人の夢のうちに五欲の楽を受くるがごとし。 愚痴の人はこれを謂うて実とす、 智者は了達してそれ真にあらずと知れり。 殺もまたかくのごとし。 凡夫は実と謂へり、 諸仏世尊はそれ真にあらずと知ろしめせり。
大王、如シ↣人ノ夢ノ中ニ受クルガ↢五欲ノ楽ヲ↡。愚痴之人ハ謂フテ↠之ヲ為↠実ト、智者ハ了達シテ知レリ↢其非ズト↟真ニ。殺モ亦如シ↠是クノ。凡夫ハ謂ヘリ↠実ト、諸仏世尊ハ知セリ↢其非ズト↟真ニ。
^大王、 *殺法・殺業・殺者・殺果および解脱、 われみなこれを了れり、 すなはち罪あることなけん。 王、 殺を知るといへども、 いかんぞ罪あらんや。 大王、 たとへば人主ありて酒を典れりと知れども、 もしそれ飲まざれば、 すなはちまた酔はざるがごとし。 ^また火と知るといへども焼燃せず。 王もまたかくのごとし。 また殺を知るといへども、 いかんぞ罪あらんや。
大王、殺法・殺業・殺*者・殺果及以解脱、我皆了レリ↠之ヲ、則チ无ケム↠有ルコト↠罪。王雖モ↠知ルト↠殺ヲ、云何ゾ有ラムヤ↠罪0118。大王、譬ヘバ如シ↧有リテ↢人主↡知レドモ↠典レリト↠酒ヲ、如其不レバ↠飲マ則チ亦不ルガ↞酔ハ。雖モ↢復知ルト↟火ト不↢焼燃セ↡。王モ亦如シ↠是クノ。雖モ↢復知ルト↟殺ヲ、云何ゾ有ラムヤ↠罪。
^大王、 もろもろの衆生ありて、 日の出づるときにおいて種々の罪を作る、 月の出づるときにおいてまた劫盗を行ぜん。 日月出でざるにすなはち罪を作らず。 日月によりて、 それ罪を作らしむといへども、 しかるにこの日月実に罪を得ず。 殺もまたかくのごとし。 乃至
大王、有リテ↢諸ノ衆生↡、於テ↢日ノ出ヅル時ニ↡作ル↢種種ノ罪ヲ↡、於テ↢月ノ出ヅル時ニ↡復行ゼム↢劫盗ヲ↡。日月不ルニ↠出デ則チ不↠作ラ↠罪ヲ。雖モ↧因リテ↢日月ニ↡令ムト↦其作ラ↞罪ヲ、然ルニ此ノ日月実ニ不↠得↠罪ヲ。殺モ亦如シ↠是クノ。 乃至
・治心 ・説法治心 5.以涅槃譬
^0286大王、 たとへば涅槃は有にあらず無にあらずして、 またこれ有なるがごとし。 殺もまたかくのごとし。 非有・非無にしてまたこれ有なりといへども、 慚愧の人はすなはち有にあらずとす。 無慚愧のものはすなはち無にあらずとす。 果報を受くるもの、 これを名づけて有とす。
大王、譬ヘバ如シ↢涅槃ハ非↠有非↠無ニ而亦是有ナルガ↡。殺モ亦如シ↠是クノ。雖モ↢非有非无ニ而亦是有ナリト↡、慚愧之人ハ則チ為↢非↠有ト↡。无慚愧ノ者ハ則チ為↢非↠无ト↡。受クル↢果報ヲ↡者、名ケテ↠之ヲ為↠有ト。
^*空見の人はすなはち有にあらずとす。 *有見の人はすなはち無にあらずとす。 *有有見のものはまた名づけて有とす。 なにをもつてのゆゑに、 有有見のものは果報を得るがゆゑに。 *無有見のものはすなはち果報なし。
空見之人ハ則チ為↢非↠有ト↡。有見之人ハ則チ※為↢非↠无有ト↡。有見ノ者ハ亦名ケテ為↠有ト。何ヲ以テノ故ニ。有有見ノ者ハ得ルガ↢果報ヲ↡故ニ。无有見ノ者ハ則チ无シ↢果報↡。
^*常見の人はすなはち非有とす。 *無常見のものはすなはち非無とす。 *常常見のものは無とすることを得ず。 なにをもつてのゆゑに、 常常見のものは悪業の果あるがゆゑに、 このゆゑに常常見のものは無とすることを得ず。
常見之人ハ則チ為↢非有ト↡。无常見ノ者ハ則チ為↢非无ト↡。常常見ノ者ハ不↠得↠為ルコトヲ↠无ト。何ヲ以テノ故ニ。常常見ノ者ハ有ルガ↢悪業ノ果↡故ニ、是ノ故ニ常常見ノ者ハ不↠得↠為ルコトヲ↠无ト。
^この義をもつてのゆゑに、 非有・非無なりといへども、 しかもまたこれ有なり。
以テノ↢是ノ義ヲ↡故ニ雖モ↢非有非无ニ而亦是有ナリト↡、
・治心 ・随俗説殺
^大王、 それ衆生は出入の息に名づく。 出入の息を断つ、 ゆゑに名づけて殺とす。 諸仏、 俗に随ひて、 また説きて殺とすº。 乃至
*大王、夫衆生者名ク↢出入ノ息ニ↡。断ツ↢出入ノ息ヲ↡、故ニ名ケテ為↠殺ト。諸仏随ヒテ↠俗ニ、亦説キテ為↠殺ト。 乃至
二 Ⅰ ⅰ b ハ 所化の得益を明かす
(一)闍王の領解を明かす
・領解発心
^ª世尊、 われ世間を見るに、 *伊蘭子より伊蘭樹を生ず、 伊蘭より栴檀樹を生ずるをば見ず。 われいまはじめて伊蘭子より栴檀樹を生ずるを見る。 伊蘭子はわが身これなり。 栴檀樹はすなはちこれわが心、 ▽*無根の信なり。 無根とは、 われ0287はじめて如来を恭敬せんことを知らず、 法・僧を信ぜず、 これを無根と名づく。
世尊、我見ルニ↢世間ヲ↡、従リ↢伊蘭子↡生ズ↢伊蘭樹ヲ↡、不↠見↧伊蘭ヨリ生ズルヲ↢栴檀樹ヲ↡*者↥。我今始テ見ル↧従リ↢伊蘭子↡生ズルヲ↦栴檀樹ヲ↥。伊蘭子者我ガ身是也。栴檀樹者即チ是我ガ心、无根ノ信也。无根ト者、我初テ不↠知ラ↣恭↢敬セムコトヲ如来ヲ↡、不↠信ゼ↢法・僧ヲ↡、是ヲ名ク↢无根ト↡。
^世尊、 われもし如来世尊に遇はずは、 まさに無量阿僧祇劫において、 大地獄にありて無量の苦を受くべし。 われいま仏を見たてまつる。 ここをもつて仏の得たまふところの功徳を見たてまつり、 衆生の煩悩悪心を破壊せしむº と。
世尊、我若シ不ハ↠遇ハ↢如0119来世尊ニ↡、当ニシ↧於テ↢无量阿僧祇劫ニ↡、在リテ↢大地獄ニ↡受ク↦无量ノ苦ヲ↥。我今見タテマツル↠仏ヲ。※以テ↢是レ見↟仏所ノ↠得ル功徳、破↢壊セシムト衆生ノ煩悩悪心ヲ↡。
^▼仏ののたまはく、 ª大王、 善いかな善いかな、 われいまなんぢかならずよく衆生の悪心を破壊することを知れりº と。
仏ノ言ハク、大王、善イ哉善イ哉、我今知レリト↣汝必ズ能ク破↢壊スルコトヲ衆生ノ悪心ヲ↡。
^◆ª世尊、 もしわれあきらかによく衆生のもろもろの悪心を破壊せば、 われつねに阿鼻地獄にありて、 無量劫のうちにもろもろの衆生のために苦悩を受けしむとも、 もつて苦とせずº と。
世尊、若シ我審ニ能ク破↢壊セ衆生ノ諸ノ悪心ヲ↡者、使ムトモ↧我常ニ在リテ↢阿鼻地獄ニ↡、无量劫ノ中ニ為ニ↢諸ノ衆生ノ↡受ケ↦苦悩ヲ↥、不ト↢以テ為↟苦ト。
・所得利益 1.重罪微薄
^◆その時に、 *摩伽陀国の無量の人民、 ことごとく阿耨多羅三藐三菩提心を発しき。 かくのごときらの無量の人民、 大心を発するをもつてのゆゑに、 阿闍世王所有の重罪すなはち微薄なることを得しむ。 王および夫人、 *後宮采女ことごとくみな同じく阿耨多羅三藐三菩提心を発しき。
爾ノ時ニ摩伽陀国ノ无量ノ人民、悉ク発シキ↢阿耨多羅三藐三菩提心ヲ↡。以テノ↣如キ↠是クノ等ノ无量ノ人民、発スルヲ↢大心ヲ↡故ニ阿闍世王所有ノ重罪即チ得シム↢微薄ナルコトヲ↡。王及ビ夫人、後宮采女悉ク皆同ジク発シキ↢阿耨多羅三藐三菩提心ヲ↡。
・所得利益 2.得常住身
^▼その時に、 阿闍世王、 耆婆に語りていはまく、 ª耆婆、 われいまいまだ死せずしてすでに*天身を得たり。 命短きを捨てて長命を得、 無常の身を捨てて常身を得たり。 もろもろの衆生をして阿耨多羅三藐三菩提心を発せしむº と。 乃至
爾ノ時ニ阿闍世王、語リテ↢耆婆ニ↡言ハマク、耆婆、我今未ザ ダルニ↠死セ已ニ得タリ↢天身ヲ↡。捨テ↠於↢短↠命↡而得↢長命ヲ↡、捨テ↢无常ノ身ヲ↡而得タリ↢常身ヲ↡。令ム↣諸ノ衆生ヲシテ発セ↢阿耨多羅三藐三菩提心ヲ↡。 乃至
・所得利益 3.諸仏弟子
^◆*諸仏の弟子、 この語を説きを0288はりて、 すなはち種々の*宝幢をもつて、 乃至 また*偈頌をもつて、 しかうして讃嘆してまうさく、
諸仏ノ弟子、説キ↢是ノ語ヲ↡已リテ、即チ以テ↢種種ノ宝幢ヲ↡、 乃至 復以テ↢偈*頌ヲ↡而シテ讃嘆シテ言サク、
・讃嘆
^ª*実語はなはだ微妙なり。 *善巧、 句義において、 *甚深秘密の蔵なり。 衆のためのゆゑに、
実語甚ダ微妙ナリ | 善巧於テ↢句義ニ↡ |
甚深秘密ノ蔵ナリ | 為ノ↠衆ノ故ニ顕↢示ス |
^*所有広博の言を顕示す。 衆のためのゆゑに略して説かく、 かくのごときの語を具足して、 よく衆生を療す。
所有広博ノ言ヲ↡ | 為ノ↠衆ノ故ニ略シテ説カク |
具↢足シテ如キノ↠是クノ語ヲ↡ | 善能ク療ス↢衆生ヲ↡ |
^もしもろもろの衆生ありて、 この語を聞くことを得るものは、 もしは信および不信、 さだめてこの仏説を知らん。
若シ有リテ↢諸ノ衆生↡ | 得ル↠聞クコトヲ↢是ノ語ヲ↡者ハ |
若シハ信及ビ不信 | 定メテ知ラム↢是ノ仏説ヲ↡ |
^▼諸仏つねに*軟語をもつて、 衆のためのゆゑに*粗を説きたまふ。 粗語および軟語、 みな第一義に帰せん。
諸仏常ニ軟語ヲモテ | 為ノ↠衆ノ故ニ説キタマフ↠麁ヲ |
麁語及ビ軟語 | 皆帰セム↢第一義ニ↡ |
^◆このゆゑにわれいま、 世尊に帰依したてまつる。 如来の語は一味なること、 なほ大海の水のごとし。
0120是ノ故ニ我今者 | 帰↣依シタテマツル於↢世尊↡ |
如来ノ語ハ一味ナルコト | 猶如シ↢大海ノ水ノ↡ |
^◆これを*第一諦と名づく。 ゆゑに*無無義の語にして、 如来いま説きたまふところの、 種々無量の法、
是ヲ名ク↢第一諦ト↡ | 故ニ无无義ノ語ニシテ |
如来今所ノ↠説キタマフ | 種種无量ノ法 |
^◆男女大小聞きて、 同じく第一義を獲しめん。 *無因また無果なり。 *無生また無滅なり。
男女大小聞キテ | 同ジク獲シメム↢第一義ヲ↡ |
无因亦无果ナリ | 无生*亦无滅ナリ |
^◆これを大涅槃と名づく。 聞くもの*諸結を破す。 ▼如来一切のために、 つねに慈父母となりたまへり。
是ヲ名ク↢大涅槃ト↡ | 聞ク者破ス↢諸*結ヲ↡ |
如来為ニ↢一切ノ↡ | 常ニ作リタマヘリ↢慈父母ト↡ |
^◆まさに知るべし、 もろもろの衆生は、 みなこれ如来の子なり。 世尊大慈悲は、 衆のために苦行を修したまふこと、
当ニシ↠知ル諸ノ衆生ハ | 皆是如来ノ子ナリ |
世尊大慈悲ハ | 為ニ↠衆ノ*修シタマフコト↢苦行ヲ↡ |
^◆人の*鬼魅に着はされて、 狂乱して所為多きがごとし。 われいま仏を見たてまつることを得たり。 得るところの三業の善、
如シ↧人ノ著サレテ↢鬼魅ニ↡ | 狂乱シテ多キガ↦所為↥ |
我今得タリ↠見タテマツルコトヲ↠仏ヲ | 所ノ↠得ル三業ノ善 |
^◆願はくはこの功徳をもつて、 無上道0289に回向せん。 われいま供養するところの、 仏・法および衆僧、
願クハ以テ↢此ノ功徳ヲ↡ | 廻↢向セム无上道ニ↡ |
我今所ノ↢供養スル↡ | 仏・法及ビ衆僧 |
^◆願はくはこの功徳をもつて、 三宝つねに世にましまさん。 われいままさに獲べきところの、 種々のもろもろの功徳、
願クハ以テ↢此ノ功徳ヲ↡ | 三宝常ニ在サム↠世ニ |
我今所ノ↠当ベ ニキ↠獲 | 種種ノ諸ノ功徳 |
^◆願はくはこれをもつて、 衆生の四種の魔を破壊せん。 われ悪知識に遇うて、 三世の罪を造作せり。
願クハ以テ↠此ヲ破↢壊セム | 衆生ノ四種ノ魔ヲ↡ |
我遇フテ↢悪知識ニ↡ | 造↢作セリ三世ノ罪ヲ↡ |
^いま仏前にして悔ゆ。 願はくは後にまた造ることなからん。 願はくはもろもろの衆生、 等しくことごとく菩提心を発せしめん。
今於テ↢仏前ニ↡悔ユ | 願クハ後ニ更莫カラム↠造ルコト |
願クハ諸ノ衆生等シク | 悉ク発セシメム↢菩提心ヲ↡ |
^心を繋けてつねに、 十方一切仏を思念せん。 また願はくはもろもろの衆生、 永くもろもろの煩悩を破し、
繋ケテ↠心ヲ常ニ思↢念セム | 十方一切仏ヲ↡ |
復願クハ諸ノ衆生 | 永ク破シ↢諸ノ煩悩ヲ↡ |
^了々に仏性を見ること、 なほ*妙徳のごとくして等しからんº と。
了了ニ見ルコト↢仏性ヲ↡ | 猶↢如クシテ*妙徳ノ↡等シカラムト |
二 Ⅰ ⅰ b ハ (二)釈迦の述成を明かす
^▼その時に、 世尊、 阿闍世王を讃めたまはく、 ª善いかな善いかな、 もし人ありてよく菩提心を発せん。 まさに知るべし、 この人はすなはち諸仏大衆を荘厳すとす。
爾ノ時ニ世尊、讃メタマハク↢阿闍世王ヲ↡、善イ哉善イ哉、若シ有リテ↠人能ク発セム↢菩提心ヲ↡。当ニシ↠知ル是ノ人ハ則チ為↣荘↢厳スト諸仏大衆ヲ↡。
^◆大王、 なんぢ昔すでに*毘婆尸仏のみもとにして、 はじめて阿耨多羅三藐三菩提心を発しき。 これよりこのかた、 わが出世に至るまで、 その中間においていまだかつてまた地獄に堕して苦を受けず。
大王、汝昔已ニ於テ↢毘婆尸仏ノミモトニ↡、初テ発シキ↢阿耨多羅三藐0121三菩提心ヲ↡。従リ↠是已来タ至ルマデ↢我ガ出世ニ↡、於テ↢其ノ中間ニ↡未ズ ダ↧曽テ復堕シテ↠於↢地獄↡受ケ↞苦ヲ。
^◆大王まさに知るべし、 菩提の心、 いましかくのごとき無量の果報あり。 大王今より以往に、 つねにまさにねんごろに菩提の心を修すべし。 なにをもつてのゆゑに、 この因縁に従つて0290まさに無量の悪を消滅することを得べきがゆゑなりº と。
大王当ニシ↠知ル、菩提之心ハ、乃シ有リ↢如キ↠是クノ无量ノ果報↡。大王、従リ↠今已往ニ、常ニ当ニシ↣懃↢修ス菩提之心ヲ↡。何ヲ以テノ故ニ。従テ↢是ノ因縁ニ↡当ベ ニキガ↠得↣消↢滅スルコトヲ无量ノ悪ヲ↡故ナリト。
二 Ⅰ ⅰ b ハ (三)益を得て宮に還る
^その時に、 阿闍世王および摩伽陀国の人民挙つて座よりして起ちて、 仏を繞ること*三帀して、 辞退して宮に還りにき」 と。 以上抄出
爾ノ時ニ阿闍世王及ビ摩伽陀国ノ挙テ↢人民↡従リ↠座而起チテ、遶ルコト↠仏ヲ三帀シテ、辞退シテ還リニキト↠宮ニ。」 已上抄出
二 Ⅰ ⅰ c 重明(「迦葉品」)
イ 興逆の因縁を顕して以て造罪の始末を詳述す
【117】^またのたまはく (涅槃経・迦葉品)、
又言ハク、
^「善男子、 *羅閲祇の王頻婆沙羅、 その王の太子、 名づけて善見 (阿闍世) といふ。 *業因縁のゆゑに悪逆の心を生じて、 その父を害せんとするに、 しかるに便りを得ず。
「善男子、羅閲祇ノ王頻婆沙羅、其ノ王ノ太子名ケテ曰フ↢善見ト↡。業因縁ノ故ニ生ジテ↢悪逆ノ心ヲ↡、欲ルニ↠害セムト↢其ノ父ヲ↡、而不↠得↠便ヲ。
^▼その時に、 悪人提婆達多、 また過去の業因縁によるがゆゑに、 またわが所において不善の心を生じて、 われを害せんとす。 すなはち五通を修して、 久しからずして善見太子とともに*親厚たることを獲得せり。
爾ノ時ニ悪人提婆達多、亦因ルガ↢過去ノ業因縁ニ↡故ニ復於テ↢我ガ所ニ↡生ジテ↢不善ノ心ヲ↡、欲↠害セムト↠於↠我。即チ修シテ↢五通ヲ↡、不シテ↠久シカラ獲↧得セリ与↢善見太子↡共ニ為コトヲ↦親*原↡。
^◆太子のためのゆゑに、 種々の神通の事を現作す。 門にあらざるより出でて門よりして入りて、 門よりして出でて門にあらざるよりして入る。 ある時は象・馬・牛・羊・男・女の身を示現す。
為ノ↢太子ノ↡故ニ現↢作ス種種ノ神通之事ヲ↡。従リ↠非ザル↠門ニ出デヽ従リ↠門而入リテ、従リ↠門而出デテ非ザルヨリ↠門ニ而入ル。或時ハ示↢現ス象・馬・牛・羊・男子之身ヲ↡。
^◆善見太子見をはりて、 すなはち愛心・喜心・敬信の心を生ず。 これを本とするがゆゑに、 種々の供養の具を厳設しこれを供養す。 ^またまうしてまうさく、 ª*大師聖人、 われいま*曼陀羅華を見んと欲ふº と。
善見太子見已リテ、即チ生ズ↢愛心・喜心・敬信之心ヲ↡。為ルガ↢是ヲ本ト↡故ニ、厳ク説キ↢種種ノ供養之具ヲ↡而供↢養ス之ヲ↡。又復白シテ言ク、大師聖人、我今欲フト↠見ムト↢曼陀羅華ヲ↡。
^◆時に提婆達多、 すなはち往きて*三十三天に至りて、 かの天人に従ひ0291てこれを求索するに、 その福尽くるがゆゑにすべて与ふるものなし。
時ニ提婆達多、即便チ*法トシテ至リテ↢三十三天ニ↡、従フ↢彼ノ天人ニ↡而求↢索スルニ之ヲ↡、其ノ福尽クルガ故ニ都テ无シ↢与フル者↡。
^◆すでに華を得ず。 この思惟をなさく、 ª曼陀羅樹は*我・我所なし、 もしみづから取らんにまさになんの罪かあるべきº と。 すなはち前んで取らんとするに、 すなはち神通を失へり。 還りて己身を見れば、 王舎城にあり。 心に慚愧を生じ、 また善見太子 (阿闍世) を見ることあたはず。
既ニ不↠得↠華ヲ。作サク↢是ノ思惟ヲ↡、曼陀羅樹ハ无シ↢我・我所↡、若シ自ラ取ラムニ当ベ ニキト↠有ル↢何ノ*罪カ↡。即チ前ムデ欲ルニ↠取ラムト、便チ失ヘリ↢神通ヲ。↡還リテ見レバ↢己身ヲ↡、在リ↢王舎城ニ↡。心ニ生ズルニ↢慚愧ヲ↡、不↠能ハ↢復見0122ルコト↡善見太子ヲ。
^◆またこの念をなさく、 ªわれいままさに如来の所に往至して大衆を求索すべし。 仏もし聴さば、 われまさに意に随ひて教へて、 すなはち*舎利弗等に*詔勅すべしº と。
復作サク↢是ノ念ヲ↡、我今当ニシト↧往↢至シテ如来ノ所ニ↡求↦索ス大衆ヲ↥。仏若シ聴サ者、我当ニシト↣随ヒテ↠意ニ教ヘテ詔↢勅ス便チ舎利弗等ニ↡。
^◆その時に、 提婆達多、 すなはちわが所に来りてかくのごときの言をなさく、 ªやや、 願はくは如来、 この大衆をもつてわれに*付嘱せよ。 われまさに種々に法を説きて教化して、 それをして*調伏せしむべしº と。 われ*痴人にいはく、 ª舎利弗等、 *大智を聴聞して世に信伏するところなり。 われなほ大衆をもつて付嘱せじ。 いはんやなんぢ痴人、 ▲唾を食らふものをやº と。
爾ノ時ニ提婆達多、便チ来リテ↢我ガ所ニ↡作サク↢如キノ↠是クノ言ヲ↡、唯願クハ如来、以テ↢此ノ大衆ヲ↡付↢嘱セヨ於我ニ↡。我当ベ ニシト↣種種ニ説キテ↠法ヲ教化シテ、令ム↢其ヲシテ調トヽノウ 伏セシタガフ↡。我言ハク↢痴人ニ↡、舎利弗等、聴↢聞シテ大智ヲ↡世ニ所ナリ↢信伏スル↡。我猶不↧以テ↢大衆ヲ↡付嘱セ↥。況ヤ汝痴人、食フ↠唾ヲ者ヲ乎ト。
^◆時に提婆達多、 またわが所においてますます悪心を生じて、 かくのごときの言をなさく、 ª瞿曇、 なんぢいままた大衆を調伏すといへども、 勢ひまた久しからじ。 まさに見るに磨滅すべしº と。
時ニ提婆達多、復於テ↢我ガ所ニ↡倍ス生ジテ↢悪心ヲ↡、作サク↢如キノ↠是クノ言ヲ↡、瞿曇、汝今雖モ↣復調↢伏スト大衆ヲ↡、勢亦不↠久シカラ。当ニシト↢見ルニ磨滅ス↡。
^この語をなしをはるに、 大地即時に六反震動す。 提婆達多、 すなはちの時に地に躄れて0292、 その身の辺より大暴風を出して、 もろもろの塵土を吹きてこれを*汚坌す。 提婆達多、 悪相を見をはりて、 またこの言をなさく、 ªもしわれこの身、 現世にかならず阿鼻地獄に入らば、 *わが悪まさにかくのごときの大悪を報ふべしº と。
作シ↢是ノ語ヲ↡已ルニ、大地即時ニ六反震動ス。提婆達多、尋チノ時ニ躄レテ↠地ニ、於リ↢其ノ身ノ辺↡出シテ↢大暴アラキ風ヲ↡、吹キ↢諸ノ塵土ヲ↡而汚↢ケガス坌ヌルス之ヲ↡。提婆達多見↢悪相ヲ↡已リテ、復作サク↢是ノ言ヲ↡、若シ我此ノ身、現世ニ必ズ入ラバ↢阿鼻地獄ニ↡、我ガ悪当ニシト↠報フ↢如キノ↠是クノ大悪ヲ↡。
^時に提婆達多、 すなはち起ちて善見太子 (阿闍世) の所に往至す。 善見見をはりてすなはち聖人 (提婆達多) に問はく、 ªなんがゆゑぞ顔容憔悴して憂への色あるやº と。
時ニ提婆達多、尋チ起チテ往↢至ス善見太子ノ所ニ↡。善見見已リテ即チ問ハク↢聖人ニ↡、何ガ故ゾ顔容憔悴シテ有ル↢憂ノウレヘ色↡邪ト。
^提婆達多いはく、 ªわれつねにかくのごとし。 なんぢ知らずやº と。
提婆達多言ク、我常ニ如シ↠是クノ。汝不↠知ラ乎ト。
^善見答へていはく、 ª願はくはその意を説くべし、 なんの因縁あつてか、 しかるº と。
善見答ヘテ言ク、領ウク↢説ス其ノ意ヲ↡、何ノ因縁アテカ爾ルト。
^提婆達のいはく、 ªわれいまなんぢがために、 きはめて親愛をなす。 *外人なんぢを罵りて、 もつて非理とす。 われこの事を聞くに、 あに憂へざることを得んやº と。
提婆*達ノ言ク、我今与ニ↠汝ガ極テ成ス↢親愛ヲ↡。外人罵リテ↠汝ヲ以テ為↢非理トコトハリ↡。我聞クニ↢是ノ事ヲ↡、豈得ムヤト↠不ルコトヲ↠憂ヘ。
^善見太子またこの言をなさく、 ª国の人いかんぞわれを罵辱するº と。
善見太子復作サク↢是ノ言ヲ↡、国ノ人云何ゾ罵↢辱ニクムスルト於我ヲ↡。
^提婆達のいはく、 ª国の人なんぢを罵りて未生怨とすº と。
提婆達ノ言ク、国ノ人罵リテ↠汝ヲ為ト↢未生怨アダト↡。
^善見またいはく、 ªなんがゆゑぞわれを名づけて未生怨とする。 たれかこの名をなすº と。
善見復言ク、何ガ故ゾ名ケテ↠我ヲ為ル↢未生怨ト↡。誰スイカ作スト↢此ノ名ヲ↡。
^提婆達のいはく、 ªなんぢいまだ生れざりし時、 一切の相師みなこの言をなさく、 «この児生れをはりて、 まさにその父を殺すべし» と。 このゆゑに外人みなことごとくなんぢを号して未生怨とす。 一切*内の人、 なん0293ぢが心を護るがゆゑに、 いうて善見とす。
提婆達ノ言ク、汝未ダリシ↠生レ時、一切ノ相師0123皆作サク↢是ノ言ヲ↡、是ノ児生レ已リテ、当ニシト↠殺ス↢其ノ父ヲ↡。是ノ故ニ外人皆悉ク号シテ↠汝ヲ為↢未生怨ト↡。一切内ノ人護ルガ↢汝ガ心ヲ↡故ニ、謂フテ為↢善見ト↡。
^毘提夫人 (韋提希) この語を聞きをはりて、 すでになんぢを生まんとして、 身を高楼の上よりこれを地に棄てしに、 なんぢが一つの指を壊れり。 この因縁をもつて、 人またなんぢを号して*婆羅留枝とす。 われこれを聞きをはりて心に愁憤を生じて、 またなんぢに向かひてこれを説くことあたはずº と。
毘提夫人聞キ↢是ノ語ヲ↡已リテ、既ニ生マムトシテ↠汝ヲ身ヲ於リ↢高楼ノ上↡棄テシニ↢之ヲ於↟地、壊レリ↢汝ガ一ノ指ヲ↡。以テ↢是ノ因縁ヲ↡、人復号シテ↠汝ヲ為↢婆羅*枝ト↡。我聞キ↠是ヲ已リテ心ニ生ジ↢愁憤ヲ↡而復不ト↠能ハ↢向ヒテ↠汝ニ説クコト↟之ヲ。
^提婆達多、 かくのごときらの種々の悪事をもつて、 教へて父を殺さしむ。 ªもしなんぢが父死せば、 われまたよく瞿曇沙門を殺さんº と。
提婆達多以テ↢如キ↠是クノ等ノ種種ノ悪事ヲ↡、教ヘテ令ム↠殺セ↠父ヲ。若シ汝ガ父死セバ、我亦能ク殺セムト↢瞿曇沙門ヲ↡。
^▼善見太子 (阿闍世)、 ひとりの大臣に問はく、 名づけて*雨行といふ。 ª大王、 なんがゆゑぞわが字を立てんとするに、 未生怨と作るやº と。
善見太子問ハク↢一ノ大臣ニ↡、名ケテ曰フ↢雨行ト↡。大王、何ガ故ゾ為ルニ↢我ガ立テムト↟字ヲ、作ルヤト↢未生怨ト↡。
^大臣すなはちためにその本末を説く、 提婆達の所説のごとくして異なけん。
大臣即チ為ニ説ク↢其ノ本未ヲ↡、如クシテ↢提婆達ノ所説ノ↡无ケム↠異。
^善見聞きをはりて、 すなはち大臣とともにその父の王を収つて、 これを城の外に閉ぢ、 *四種の兵をもつて、 しかうしてこれを守衛せしむ。 毘提夫人 (韋提希) この事を聞きをはりて、 すなはち王の所に至る。 ときに王を守りて、 人をして遮りて入ることを聴さず。 その時に、 夫人、 瞋恚の心を生じてすなはちこれを*呵罵す。
善見聞キ已リテ、即チ与ニ↢大臣ト↡収テ↢其ノ父ノ王ヲ↡閉ヘイヅ↢之ヲ城ノ外ニ↡、以テ↢四種ノ兵ヲ↡而シテ守↢衛マモルセシム之ヲ↡。毘提夫人聞キ↢是ノ事ヲ↡已リテ、即チ至ル↢王ノ所ニ↡。時ニ守マモリテ↠王ヲ、人ヲシテ遮シテサイギル不↠聴サ↠入ルコトヲ。爾ノ時ニ夫人、生ジテ↢瞋恚ノ心ヲ↡便チ呵↢イマシム罵ノルス之ヲ↡。
^時にもろもろの守人、 すなはち太子に告ぐらく、 ª大王の夫人、 父の王を見んと欲ふをば、 いぶかし、 聴してんやいなやº と。
時ニ諸ノ守人、即チ告グラク↢太子ニ↡、大王ノ夫人、欲フヲバ↠見ムト↢父ノ王ヲ↡、不審聴シテムヤ不ヤト。
^善見聞きをはりてまた*瞋嫌0294を生じて、 すなはち母の所に往きて、 前んで母の髪を牽きて、 刀を抜きて斫らんとす。
善見聞キ已リテ復生ジテ↢瞋嫌ヲキラフ↡、即チ往キテ↢母ノ所ニ↡、前ムデ牽キテ↢母ノ髪ヲ↡、抜キテ↠刀ヲ欲↠斫セチラムト。
^その時に、 耆婆まうして大王にいはく、 ª国を有つてよりこのかた、 罪きはめて重しといへども、 女人に及ばず。 いはんや所生の母をやº と。
爾ノ時ニ耆婆白シテ言ク↢大王ニ↡、有テヨリ↠国ヲ已来タ罪雖モ↢極テ重シト↡、不↠及バ↢女人ニ↡。況ヤ所生ノ母ヲヤト。
^善見太子 (阿闍世) この語を聞きをはりて、 耆婆のためのゆゑにすなはち放捨して、 遮りて大王の衣服・臥具・飲食・湯薬を断つ。 七日を過ぎをはるに、 王の命すなはち終りぬと。
善見太子聞キ↢是ノ語ヲ↡已リテ、為ノ↢耆婆ノ↡故ニ即便チ放捨シテ、遮リテ断ツ↢大王ノ衣服・臥具・飲食・湯薬ヲ↡。過ギ↢七日ヲ↡已ルニ、王ノ命便チ終リヌト。
^▼善見太子、 父の喪を見をはりて、 まさに悔心を生ず。
善見太子、見↢父ノ喪モ ヲ↡已リテ、方ニ生ズ↢悔心ヲ↡。
^◆雨行大臣、 また種々の悪邪の法をもつて、 しかうしてためにこれを説く。 ª大王、 一切の業行すべて罪あることなし。 なんがゆゑぞ、 いま悔心を生ずるやº と。
雨行大臣、復以テ↢種種ノ悪邪之法ヲ↡、而シテ為ニ説ク↠之ヲ。大王、一切ノ業行都テ无0124シ↠有ルコト↠罪。何ガ故ゾ今者而生ズルヤト↢悔心ヲ↡。
^◆耆婆またいはく、 ª大王まさに知るべし、 かくのごときの業は罪業二重なり。 一つには父の王を殺さん、 二つには*須陀洹を殺せり。 かくのごときの罪は、 仏を除きてさらによく除滅したまふひとましまさずº と。
耆婆復言ク、大王当ニシ↠知ル、如キノ↠是クノ業者罪業二重ナリ。一ニ者殺ス↢父ノ王ヲ↡、二ニ者殺セリ↢須陀洹ヲ↡。如キノ↠是クノ罪者、除キテ↠仏ヲ更ニ无サズト↢能ク除滅シタマフ者↡。
^◆善見王いはく、 ª如来は清浄にして穢濁ましますことなし。 われら罪人いかんしてか、 見たてまつることを得んº と。
善見王言ク、如来ハ清浄ニシテ无シ↠有スコト↢穢ケガラハシ濁↡。我等罪人云何シテカ得ムト↠見タテマツルコトヲ。
二 Ⅰ ⅰ c ロ 入不入の説意を弁じて上の不入涅槃の意を顕す
^◆善男子、 われ*この事を知らんと。 阿難に告げたまはく、 ª三月を過ぎをはりて、 われまさに涅槃すべきがゆゑにº と。 善見聞きをはりて、 すなはちわが所に0295来れり。 われために法を説きて、 重罪をして薄きことを得しめき、 △無根の信を獲しむ。
善男子、我知ラムト↢是ノ事ヲ↡。告ゲタマハク↢阿難ニ↡、過ギ↢三月ヲ↡已リテ、吾当ベ ニキガ↢涅槃ス↡故ニト。善見聞キ已リテ、即チ来レリ↢我ガ所ニ↡。我為ニ説キテ↠法ヲ、重罪ヲシテ得シメキ↠薄キコトヲ、*獲シメタマヘト↢无根ノ信ヲ↡。
^善男子、 わがもろもろの弟子、 この説を聞きをはりて、 わが意を解らざるがゆゑに、 この言をなさく、 ª如来さだめて畢竟涅槃を説きたまへりº と。
善男子、我ガ諸ノ弟子聞キ↢是ノ説ヲ↡已リテ、不ルガ↠解ラ↢我ガ意ヲ↡故ニ作サク↢是ノ言ヲ↡、如来定メテ説キタマヘリト↢畢竟涅槃ヲ↡。
^善男子、 菩薩に二種あり。 一つには*実義、 二つには*仮名なり。 仮名の菩薩、 われ三月あつてまさに涅槃に入るべしと聞きて、 みな退心を生じてこの言をなさく、 ªもしそれ如来、 無常にして住したまはずは、 われらいかがせん。 この事のためのゆゑに、 無量世のうちに大苦悩を受けき。 如来世尊は無量の功徳を成就し具足したまひて、 なほ壊することあたはず。 かくのごときの死魔をや。 いはんやわれらが輩、 まさによく壊すべけんやº と。
善男子、菩薩ニ二種アリ。一ニ者実義、二ニ者仮名ナリ。仮名ノ菩薩、聞キテ↢我三月アテ当ニシト↟入ル↢涅槃ニ↡、皆生ジ↢退心ヲ↡而作サク↢是ノ言ヲ↡、如其如来无常ニシテ不ハ↠住シタマハ、我等何ガ為ム。為ノ↢是ノ事ノ↡故ニ无量世ノ中ニ受ケキ↢大苦悩ヲ↡。如来世尊ハ成↢就シ具↣足シタマヒテ无量ノ功徳ヲ↡、尚不↠能ハ↠壊ヤブルスルコト。如キノ↠是クノ死魔ヲヤ。況ヤ我等ガ輩当ベ ニケム↢能ク壊ス↡邪ト。
^善男子、 このゆゑに、 われかくのごときの菩薩のためにして、 この言をなさく、 ª如来は常住にして変易あることなしº と。 わがもろもろの弟子、 この説を聞きをはりて、 わが意を解らざれば、 さだめていはく、 ª如来はつひに畢竟じて涅槃に入りたまはずº」 と。 以上抄出
善男子、是ノ故ニ我為ニ↢如キノ↠是クノ菩薩ノ↡而作サク↢是ノ言ヲ↡、如来ハ常住ニシテ无シト↠有ルコト↢変カハル易↡カハル。我ガ諸ノ弟子、聞キ↢是ノ説ヲ↡已リテ不レバ↠解ラ↢我ガ意ヲ↡、定メテ言ハク、如来ハ終ニ不ト↣畢竟ジテ入リタマハ↢於涅槃ニ↡。」 已上抄出
二 Ⅰ ⅱ 結成・勧信
【118】^▼ここをもつていま大聖 (釈尊) の真説によるに、 ↑*難化の▼三機、 *難治0296の▼三病は、 大悲の弘誓を憑み、 *利他の信海に帰すれば、 これを矜哀して治す、 これを憐憫して療したまふ。 たとへば醍醐の妙薬の、 一切の病を療するがごとし。 濁世の庶類、 穢悪の群生、 *金剛不壊の真心を求念すべし。 本願醍醐の妙薬を執持すべきなりと、 知るべし。
是ヲ以テ今拠ルニ↢大聖ノ真説ニ↡、難化ノ三機、難治ノ三病者、憑ミ↢大悲ノ弘誓ヲ↡、帰スレバ↢利他ノ信海ニ↡、矜↢オホキニ哀シテアハレム斯ヲ↡治ス、憐↢アハレミ憫シテアハレム斯ヲ↡療シタマフ。喩ヘバ如シ↣醍醐ノ妙薬ノ療スルガ↢一切ノ病ヲ↡。濁世ノ庶モロモロ類、穢悪ノ群生、応シ↣求↢念ス金剛不壊ノ真心ヲ↡。可キ↣執トル↢持ス本願醍醐ノ妙薬ヲ↡也ト、応0125シ↠知ル。
二 Ⅱ 料簡
ⅰ 問
【119】^▼それ諸大乗によるに、 難化の機を説けり。 いま ¬大経¼ には 「^▲唯除五逆誹謗正法」 といひ、 ^あるいは 「^▲唯除造無間悪業誹謗正法及諸聖人」 (如来会・上) とのたまへり。 ^¬観経¼ には五逆の往生を明かして謗法を説かず。 ¬涅槃経¼ には難治の機と病とを説けり。 これらの真教、 いかんが思量せんや。
夫拠ルニ↢諸大乗ニ↡、説ケリ↢難化ノ機ヲ↡。今¬大経ニハ¼言ヒ↢「唯除五逆誹謗正法ト」↡、或イハ言ヘリ↢「唯*除造无間悪業誹謗正法及諸聖人ト」↡。¬観経ニハ¼明シテ↢五逆ノ往生ヲ↡不↠説カ↢謗法ヲ↡。¬涅槃経ニハ¼説ケリ↢難治ノ機ト与ヲ↟病。斯等ノ真教、云何ガ思量セム邪。
二 Ⅱ ⅱ 答
a 通じて祖文を引く
イ 文に依る
(一)七箇の問答有り(¬論註¼)
(Ⅰ)大観二経の相違を会す
【120】^▼報へていはく、 ¬論の註¼ (上) にいはく、
報ヘテ道ハク、¬論ノ註ニ¼曰ク、
^「▲問うていはく、 ¬無量寿経¼ (下) にのたまはく、 ª^往生を願ぜんもの、 みな往生を得しむ。 ただ五逆と誹謗正法とを除くº (意) と。 ^¬観無量寿経¼ に、 ª^五逆・十悪もろもろの不善を具せるもの、 また往生を得º といへり。 ^この二経、 いかんが会せんやと。
「問ウテ曰ク、¬无量寿経ニ¼言ク、願ゼム↢往生ヲ↡者、皆得シム↢往生ヲ↡。唯除クト↢五逆ト誹謗正法トヲ↡。¬観无量寿経ニ¼言ヘリ↧五逆・十悪具セルモノ↢諸ノ不善ヲ↡、亦得ト↦往生ヲ↥。此ノ二経、云何ガ会ワカツセムヤト。
^◆答へていはく、 一経 (大経) には二種の重罪を具するをもつてなり。 ▼一つには五逆、 二つには誹謗正法なり。 この二種の罪をもつてのゆゑに、 このゆゑ0297に往生を得ず。 一経 (観経) にはただ十悪・五逆等の罪を作るというて、 正法を誹謗すといはず。 正法を謗せざるをもつてのゆゑに、 このゆゑに生を得しむと。
答ヘテ曰ク、一経ニハ以テナリ↠具スルヲ↢二種ノ重罪ヲ↡。一ニ者五逆、二ニ者誹謗正法ナリ。以テノ↢此ノ二種ノ罪ヲ↡故ニ、所以不↠得↢往生ヲ↡。一経ニハ但言フテ↠作ルト↢十悪・五逆等ノ罪ヲ↡、不↠言ハ↣誹↢謗スト正法ヲ↡。以テノ↠不ルヲ↠謗ゼ↢正法ヲ↡故ニ、是ノ故ニ得シムト↠生ヲ。
^◆問うていはく、 たとひ一人は五逆罪を具して正法を誹謗せざれば、 ¬経¼ (観経) に得生を許す。 また一人ありてただ正法を誹謗して、 五逆もろもろの罪なきもの往生を願ぜば、 生を得るやいなやと。
問ウテ曰ク、仮使一人ハ具シ↢五逆罪ヲ↡而不レバ↣誹↢謗セ正法ヲ↡、¬経ニ¼許ス↢得生ヲ↡。復有リテ↢一人↡但誹↢謗シ正法ヲ↡而无キモノ↢五逆諸ノ罪↡願ゼ↢往生ヲ↡者、得ルヤ↠生ヲ以不ヤト。
^◆答へていはく、 ただ正法を誹謗せしめて、 さらに余の罪なしといへども、 かならず生ずることを得じ。
答ヘテ曰ク、但令メテ↣誹↢謗セ正法ヲ↡、雖モ↣更ニ无シト↢余ノ罪↡、必ズ不↠得↠生ズルコトヲ。
^◆なにをもつてこれをいふとならば、 ¬経¼ (*大品般若経) にいはく、 ª五逆の罪人、 阿鼻大地獄のなかに堕して、 つぶさに一劫の重罪を受く。 誹謗正法の人は阿鼻大地獄のなかに堕して、 この劫もし尽くれば、 また転じて他方の阿鼻大地獄のなかに至る。 かくのごとく展転して百千の阿鼻大地獄を経º と。 仏、 出づることを得る時節を記したまはず。 誹謗正法の罪、 極重なるをもつてのゆゑなり。
何ヲ以テ言フトナラバ↠之ヲ、¬経ニ¼言ク、五逆ノ罪人堕シテ↢阿鼻大地獄ノ中ニ↡、具ニ受ク↢一劫ノ重罪ヲ↡。誹謗正法ノ人ハ堕シテ↢阿鼻大地獄ノ中ニ↡、此ノ劫若シ尽クレバ復転ジテ至ル↢他方ノ阿鼻大地獄ノ中ニ↡。如ク↠是クノ展0126転シテ逕ト↢百千ノ阿鼻大地獄ヲ↡。仏不↠記シタマハ↢得ル↠出ヅルコトヲ時節ヲ↡。以テノ↢誹謗正法ノ罪極重ナルヲ↡故ナリ。
^◆また正法はすなはちこれ仏法なり。 この愚痴の人、 すでに誹謗を生ず、 いづくんぞ仏土に願生するの理あらんや。 たとひただかの安楽に生ぜんことを貪じて生を願ぜんは、 また水にあらざるの氷0298、 煙なきの火を求めんがごとし。 あに得る理あらんやと。
又正法者即チ是仏法ナリ。此ノ愚痴ノ人、既ニ生ズ↢誹謗ヲ↡、安ンゾ有ラムヤ↧願↢生スル仏土ニ↡之理↥。仮使但貪ジ↣彼ノ生ゼムコトヲ↢安楽ニ↡而願ゼム↠生ヲ者、亦如シ↠求メムガ↢非ザル↠水ニ之氷、无キ↠煙之火ヲ↡。豈有ラムヤト↢得ル理↡。
^◆問うていはく、 なんらの相か、 これ誹謗正法なるやと。
問ウテ曰ク、何等ノ相カ、是誹謗正法ナルヤト。
^◆答へていはく、 もし無仏・無仏法・無菩薩・無菩薩法といはん。 かくのごときらの見をもつて、 もしは心にみづから解り、 もしは他に従ひてその心を受けて決定するを、 みな誹謗正法と名づくと。
答ヘテ曰ク、若シ言ハム↢无仏・无仏法・无菩薩・无菩薩法ト↡。如キ↠是クノ等ノ見ヲモテ、若シハ心ニ自ラ解リ、若シハ従ヒテ↠他ニ受ケテ↢其ノ心ヲ↡決定スルヲ皆名クト↢誹謗正法ト↡。
^◆問うていはく、 かくのごときらの計はただこれおのれが事なり。 衆生においてなんの苦悩あればか、 五逆の重罪に踰えんやと。
問ウテ曰ク、如キ↠是クノ等ノ計ハハカラフ但是己ガ事ナリ。於テ↢衆生ニ↡有レバカ↢何ノ苦悩↡、踰ヘム↠於↢五逆ノ重罪↡邪ト。
^◆答へていはく、 もし諸仏・菩薩、 世間・出世間の善道を説きて衆生を教化するひとましまさずは、 あに仁・義・礼・智・信あることを知らんや。 かくのごとき世間の一切善法みな断じ、 出世間の一切賢聖みな滅しなん。 なんぢただ五逆罪の重たることを知りて、 五逆罪の正法なきより生ずることを知らず。 このゆゑに謗正法の人はその罪最重なりと。
答ヘテ曰ク、若シ无サズハ↧諸仏・菩薩、説キテ↢世間・出世間ノ善道ヲ↡教↢化スル衆生ヲ↡者↥、豈知ラム↠有ルコトヲ↢仁・義・礼・智・信↡邪。如キ↠是クノ世間ノ一切ノ善法皆断ジ、出世間ノ一切賢聖皆滅シナム。汝但知リテ↢五逆罪ノ為コトヲ↟重而不↠知ラ↧五逆罪ノ従リ↠无キ↢正法↡生ズルコトヲ↥。是ノ故ニ謗正法ノ人ハ其ノ罪最モトモ重ナリト。
二 Ⅱ ⅱ a イ (一)(Ⅱ)罪滅得生を論定す
^◆問うていはく、 業道経にいはく、 ª業道は秤のごとし、 重きものまづ牽くº と。
問ウテ曰ク、業道経ニ言ク、業道ハ如シ↠称ノ、重キ者先ヅ牽クト。
^◆¬観無量寿経¼ にいふがごとし。 ª人ありて五逆・十悪を造り、 もろもろの不善を具せらん。 悪道に堕して多劫を経歴して無量の苦を受くべし。 命終0299のときに臨んで、 善知識の、 教へて南無無量寿仏を称せしむるに遇はん。 かくのごとき心を至して、 声をして絶えざらしめて十念を具足すれば、 すなはち安楽浄土に往生することを得て、 すなはち大乗正定の聚に入りて、 畢竟じて不退ならん。 三塗のもろもろの苦と永く隔つº と。
如シ↢¬観无量寿経ニ¼言ガ↡。有リテ↠人造リ↢五逆・十悪ヲ↡、具セラム↢諸ノ不善ヲ↡。応シ↧堕シテ↢悪道ニ↡逕↢歴シテ多劫ヲ↡受ク↦无量ノ苦ヲ↥。臨デ↢命終ノ時ニ↡、遇ハム↣善知識ノ、教ヘテ称セシムルニ↢南无无量寿仏ヲ↡。如キ↠是クノ至シテ↠心ヲ、令メテ↢声ヲシテ不ラ↟絶ヘ具↢足スレバ十念ヲ↡、便チ得テ↣往↢生スルコトヲ安楽浄土ニ↡、即チ入リテ↢大乗正定之聚ニ↡、畢竟ジテ不退ナラム。与↢三塗ミチノ諸ノ苦↡永ク隔ツト。
^◆まづ牽くの義、 理においていかんぞ。
先ヅ牽ク之義、於テ↠理ニ如何ゾ。
^◆また曠劫よりこのかたつぶさにもろもろの行を造れり、 有漏の法は三界に繋属せり。 ただ十念をもつて阿弥陀仏を念じてすなはち三界を出でば、 繋業の義またいかんがせんとするやと。
又曠劫ヨリ已来タ備ニ造レル↢諸ノ行ヲ↡有漏之法ハ繋ツナギ↢属ツクセリ三界0127ニ↡。但以テ↢十念ヲ↡念ジテ↢阿弥陀仏ヲ↡便チ出デバ↢三界ヲ↡、繋業之義復欲トスルヤト↢云何ガ↡。
・三在釈
^◆答へていはく、 なんぢ五逆・十悪・繋業等を重とし、 下下品の人の十念をもつて軽として、 罪のために牽かれてまづ地獄に堕して三界に繋在すべしといはば、 いままさに義をもつて軽重の義を校量すべし。 ▼心に在り、 縁に在り、 決定に在り、 時節の久近・多少に在るにはあらざるなり。
答ヘテ曰ク、汝謂ハ↫五逆・十悪繋業等ヲ為↠重ト、以テ↢下下品ノ人ノ十念ヲ↡為テ↠軽ト、応シト↪為ニ↠罪ノ所テ↠牽カ先ヅ堕シテ↢地獄ニ↡繋↩在ス三界ニ↨者、今当ニシ↣以テ↠義ヲ校↢量スハカラフ軽重之義ヲ↡。在リ↠心ニ、在リ↠縁ニ、在リ↢決定ニ↡、不ル↠在ルニハ↢時節久近・多少ニ↡也。
^◆いかんが心に在ると。 かの罪を造る人は、 みづから虚妄顛倒の見に依止して生ず。 この十念は、 善知識の、 方便安慰して実相の法を聞かしむるによりて生ず。 一つは実、 一つは虚なり。 あにあひ比ぶることを得んや。
云何ガ在ルト↠心ニ。彼ノ造ル↠罪ヲ人ハ、自ラガ依↢止シテ虚妄顛倒ノ見ニ↡生ズ。此ノ十念者、依リテ↣善知識ノ、方便安慰シテ聞カシムルニ↢実相ノ法ヲ↡生ズ。一ハ実、一ハ虚ナリ。豈得ムヤ↢相比ブルコトヲ↡。
^◆たとへば千歳の闇室に、 光もししばらく至れば、 すなはち明朗なるがごとし。 闇、 あに室にあること千歳にして去ら0300じといふことを得んや。 ◆これを在心と名づく。
譬ヘバ如シ↢千歳ノ闇ヤミ室ニ、光若シ蹔 ザム ク至レバ即便チ明朗ナルガホガラカナリ↡。闇豈得ム↠言フコトヲ↢在ルコト↠室ニ千歳ニ而不ト↟去ラ邪。是ヲ名ク↢在心ト↡。
^◆いかんが縁に在ると。 かの罪を造る人は、 みづから妄想の心に依止し、 煩悩虚妄の果報の衆生によりて生ず。 この十念は無上の信心に依止し、 阿弥陀如来の方便荘厳真実清浄無量功徳の名号によりて生ず。
云何ガ在ルト↠縁ニ。彼ノ造ル↠罪ヲ人ハ、自ラガ依↢止シ妄想ノオモフ心ニ↡、依リテ↢煩悩虚妄ノ果報ノ衆生ニ↡生ズ。此ノ十念者依↢止シ无上ノ信心ニ↡、依リテ↢阿弥陀如来ノ方便荘厳真実清浄无量功徳ノ名号ニ↡生ズ。
^◆たとへば人ありて毒の箭を被りて、 中るところ筋を截り、 骨を破るに、 滅除薬の鼓を聞けば、 すなはち箭出け、 毒除こるがごとし。
譬ヘバ如シ↧有リテ↠人被リテ↢毒ノ箭ヲ↡、所↠中ル截リ↠筋ヲ破ルニ↠骨ヲ、聞ケバ↢滅除薬ノ鼓ヲ↡、即チ箭出ケ毒除コルガ↥。
^◆¬*首楞厳経¼ にいはく、 ªたとへば薬あり、 名づけて滅除といふ。 もし闘戦の時にもつて鼓に塗るに、 鼓の声を聞くもの、 箭出け、 毒除こるがごとし。 菩薩摩訶薩もまたまたかくのごとし。 首楞厳三昧に住してその名を聞くもの、 三毒の箭、 自然に抜出すº と。
¬首楞厳経ニ¼言ク、譬ヘバ如シ↧有リ↠薬、名ケテ曰フ↢滅除ト↡、若シ闘戦ノタヽカフ時ニ用以テ塗ルニ↠鼓ニ、聞ク↢鼓ノ声ヲ↡者、箭出ケ毒除コルガ↥。菩薩摩訶薩モ亦復如シ↠是クノ。住シテ↢首楞厳三昧ニ↡聞ク↢其ノ名ヲ↡者、三毒*之箭、自然ニ抜ヌク出スト。
^◆あにかの箭深く、 毒厲しからんと、 鼓の音声聞くとも、 箭を抜き毒を去ることあたはじといふことを得べけんや。 これを在縁と名づく。
豈可ケム↠得↠言フコトヲ↧彼ノ箭深ク毒厲カラムト、聞クトモ↢鼓ノ音声ヲ↡、不ト↞能ハ↢抜キ↠箭ヲ去ルコト↟毒ヲ邪。是ヲ名ク↢在縁ト↡。
^◆いかんが決定に在ると。 かの罪を造る人は有後心・有間心に依止して生ず。 この十念は▼無後心・無間心に依止して生ず。 これを決定と名づく。
云何ガ在ルト↢決定ニ↡。彼ノ造ル↠罪ヲ人ハ依↢止シテ有後心・有間心ニ↡生ズ。此ノ十念者依↢止シテ无後心・无間心ニ↡生ズ。是ヲ名ク↢決定ト↡。
^◆三つの義を校量するに、 十念は重なり。 重きものまづ牽きて、 よく三有を出づ。 両経一義なるならくのみと。
校↢量スルニ三ノ義ヲ↡、十念者重ナリ。重キ者先ヅ牽キテ、能ク出ヅ↢三有ヲ↡。両経一義ナル耳ト。
二 Ⅱ ⅱ a イ (一)(Ⅲ)別して十念の義を釈す
^◆問うていはく、 いくばくの時をか名づけて一念とするやと。
問ウテ曰ク、幾ノ時ヲカ名ケテ為ルヤト↢一念ト↡。
^0301◆答へていはく、 百一の生滅を一刹那と名づく。 六十の刹那を名づけて一念とす。 ▼このなかに念といふは、 この時節を取らざるなり。 ただ阿弥陀仏を憶念して、 もしは総相もしは別相、 所観の縁に随ひて心に他想なくして十念相続するを名づけて十念とすといふなり。 ただ名号を称することもまたまたかくのごとしと。
答ヘテ曰ク、百一ノ生滅ヲ名ク↢一刹0128那ト↡。六十ノ刹那ヲ名ケテ為↢一念ト↡。此ノ中ニ云フ↠念ト者、不ル↠取ラ↢此ノ時節ヲ↡也。但言フナリ↧憶↢念シテ阿弥陀仏ヲ↡、若シハ総相若シハ別相、随ヒテ↢所観ノ縁ニ↡心ニ无クシテ↢他想↡十念相続スルヲ名ケテ為ト↦十念ト↥。但シ称スルコトモ↢名号ヲ↡亦復如シ↠是クノ。
^◆問うていはく、 心もし他縁せば、 これを摂して還らしめて念の多少を知るべし。 ただし多少を知らば、 また間なきにあらず。 もし心を凝らし想を注めば、 またなにによりてか念の多少を記することを得べきやと。
問ウテ曰ク、心若シ他縁セバ、摂シテ↠之ヲ令メテ↠還ラ可シ↠知ル↢念之多少ヲ↡。但シ知ラバ↢多少ヲ↡、復非ズ↠无キニ↠間。若シ凝ギヤウシ↠心ヲ注メバ↠想ヲ、復依リテカ↠何ニ可キヤト↠得↠記スルコトヲ↢念之多少ヲ↡。
^◆答へていはく、 ¬経¼ (観経) に十念といふは、 業事成弁を明かすならくのみ。 かならずしも、 すべからく頭数を知るべからざるなり。 ª蟪蛄春秋を識らず、 *伊虫あに朱陽の節を知らんやº といふがごとし。 知るものこれをいふならくのみ。
答ヘテ曰ク、¬経ニ¼言フ↢十念ト↡者、明ス↢業事成弁ヲ↡ワキマウ耳ト。不ル↢必ズシモ須ベ クカラ↟知ル↢頭数ヲ↡也。如シ↠言フガ↧蟪蛄不↠識ラ↢春秋ヲ↡、伊虫豈知ラム↢朱陽之アカシ 節ヲ↡乎ト↥。知ル者言フ↠之ヲ耳ト。
^◆十念業成とは、 これまた神に通ずるものこれをいふならくのみ。 ただ念を積み相続して▼他事を縁ぜざれば、 すなはち罷みぬ。 またなんぞ仮に念の頭数を知ることを須ゐんや。 もしかならず知ることを須ゐば、 また方便あり。 かならず口授を須ゐよ、 これを筆点に題することを得ざれ」 と。 以上
十念業成ト者、是亦通ズル↠神ニ者言フ↠之ヲ耳ト。但積ミ↠念ヲ相続シテ不レバ↠縁ゼ↢他事ヲ↡便チ罷ミヌ。復何ゾ仮ニ須ヰム↠知ルコトヲ↢念之頭数ヲ↡也。若シ必ズ須ヰバ↠知ルコトヲ、亦有リ↢方便↡。必ズ須ヰヨ↢口授ヲサヅク↡、不レト↠得↠題シルススルコトヲ↢之ヲ筆点ニ↡。」 已上
二 Ⅱ ⅱ a イ (二)摂抑二門に就きて二経の除取を分別す
(Ⅰ)「散善義」
【0302121】^▼光明寺の和尚 (善導) いはく (散善義)、
光明寺ノ和尚云ク、
^「▲問うていはく、 四十八願のなかのごときは、 ただ五逆と誹謗正法とを除きて、 往生を得しめず。 いまこの ¬観経¼ の下品下生のなかには、 誹謗を簡ひて五逆を摂せるは、 なんの意かあるやと。
「問ウテ曰ク、如キハ↢四十八願ノ中ノ↡、唯除キテ↢五逆ト誹謗正法トヲ↡、不↠得シメ↢往生ヲ↡。今此ノ¬観経ノ¼下品下生ノ中ニハ、簡ヒテ↢誹謗ヲ↡摂セル↢五逆ヲ↡者、有ル↢何ノ意カ↡也ト。
^◆答へていはく、 ▼この義、 仰いで抑止門のなかについて解す。 ◆四十八願のなかのごとき、 謗法・五逆を除くことは、 しかるにこの二業、 その障極重なり。 衆生もし造れば、 ただちに阿鼻に入りて歴劫周章して出づべきに由なし。 ただ如来、 それこの二つの過を造らんを恐れて、 方便して止めて ª往生を得ずº とのたまへり。 またこれ摂せざるにはあらざるなり。
答ヘテ曰ク、此ノ義仰イデ就イテ↢抑オサフ止門ノ中ニ↡解ス。如キ↢四十八願ノ中ノ↡、除クコト↢謗法・五逆ヲ↡者、然ルニ此之二業、其ノ障極重ナリ。衆生若シ造レバ、直ニ入リテ↢阿鼻ニ↡歴劫周章シテ无シ↠由↠可キニ↠出ヅ。但如来恐レテ↣其造ラムヲ↢斯ノ二過トガヲ↡、方便シテ止メテ言ヘリ↠不ト↠得↢往生ヲ↡。亦不ル↢是不ルニハ↟摂セ也。
^◆また下品下生のなかに五逆を取りて謗法を除くとは、 それ▼五逆はすでに作れり、 捨てて流転せしむべからず。 還りて大悲を発して摂取して往生せしむ。 しかるに謗法の罪は、 いまだ為らざれば、 また止めて ªもし謗法を起さば、 すなはち生ずることを得じº とのたまふ。 これは未造業について解するなり。 ▼もし造らば、 還りて摂して生ずることを得しめん。
又下品下生ノ中ニ取リテ↢五逆ヲ↡除クコト↢謗法ヲ↡者、其五逆ハ已ニ作レリ、不↠可カラ↣捨テヽ令ム↢流転セ↡。還リテ発シテ↢大悲ヲ↡摂取シテ往生0129セシム。然ルニ謗法之罪ハ未ダレバ↠為ラ、又止メテ言フ↧若シ起サバ↢謗法ヲ↡、即チ不ト↞得↠生ズルコトヲ。此ハ就テ↢未造業ニ↡而解スル也。若シ造ラバ、還リテ摂シテ得シメム↠生ズルコトヲ。
^◆かしこに生ずることを得といへども、 *華合して多劫を経ん。 これらの罪人、 華のうちにある時三種の障あり。 一つには仏およびもろ0303もろの聖衆を見ることを得じ、 二つには正法を聴聞することを得じ、 三つには歴事供養を得じ。
雖モ↠得ト↠生ズルコトヲ↠彼ニ、華合シテ逕ム↢於多劫ヲ↡。此等ノ罪人、在ル↢華ノ内ニ↡時有リ↢三種ノ障↡。一ニ者不↠得↠見ルコトヲ↢仏及ビ諸ノ聖聚ヲ↡、二ニ者不↠得↣聴↢聞スルコトヲ正法ヲ↡、三ニ者不ト↠得↢歴事供養ヲ↡。
^◆これを除きて以外は、 さらにもろもろの苦なけん。 経にいはく、 ªなほ比丘の三禅の楽に入るがごときなりº と、 知るべし。 華のなかにありて多劫開けずといふとも、 阿鼻地獄のなかにして長時永劫にもろもろの苦痛を受けんに勝れざるべけんや。 この義、 抑止門につきて解しをはりぬ」 と。 以上
除キテ↠此ヲ已外ハ、更ニ无ケム↢諸ノ苦↡。経ニ云ク、猶如キ↣比丘ノ入ルガ↢三禅之楽ニ↡也ト、応シ↠知ル。雖モ↧在リテ↢華ノ中ニ↡多劫不ト↞開ケ、可ケム↠不ル↠勝レ↣阿鼻地獄之中ニシテ長時永劫ニ受ケムニ↢諸ノ苦痛ヲ↡也。此ノ義就テ↢抑止門ニ↡解シサトス竟リヌト。」 已上
二 Ⅱ ⅱ a ロ 宗に依る
(一)回心の人に約して以て二罪倶に摂することを顕す
(Ⅰ)¬法事讃¼
【122】^▼またいはく (法事讃・上)、
又云ク、
^「▲永く譏嫌を絶ち、 等しくして憂悩なし。 人天善悪みな往くことを得。 ▼かしこに到りて殊なることなし、 *斉同不退なり。
「永ク絶チ↢譏嫌ヲキラフ↡、等シクシテ无シ↢憂悩↡。人天善悪、皆得↠往クコトヲ。到リテ↠彼ニ无シ↠殊ナルコト、斉同ヒトシ 不退ナリ。
^◆なにの意かしかるとならば、 いまし弥陀の因地にして世饒王仏の所にして、 位を捨てて家を出づ、 すなはち悲智の心を起して広く四十八願を弘めたまふによりてなり。 ▼仏願力をもつて、 五逆と十悪と罪滅し生ずることを得しむ。 謗法・闡提、 回心すればみな往く」 と。 抄出
何ノ意カ然ルトナラ者、乃シ由リテナリ↧弥陀ノ因地ニシテ、世饒王仏ノ所ニシテ、捨テヽ↠位ヲ出ヅ↠家ヲ、即チ起シテ↢悲智之心ヲ↡広ク弘メシメタマフシニ↦四十八願ヲ↥。以テ↢仏願力ヲ↡、五逆ト之与↢十悪↡罪滅シ得シム↠生ズルコトヲ。謗法ソシル ・闡提、回心スレバ皆往クト。」 抄出
二 Ⅱ ⅱ b 別して五逆を釈す
イ 永観¬往生十因¼
【123】^▼五逆といふは (*往生十因)、
言フ↢五逆ト↡者、
^「もし▼*淄州によるに五逆に二つあり。 ▼一つには三乗の五逆なり。 いはく、 一つにはことさらに思うて父を殺す、 二つにはことさらに思うて母を殺す、 三つにはことさらに思うて羅漢を殺す、 四つには0304倒見して*和合僧を破す、 五つには悪心をもつて仏身より血を出す。 *恩田に背き*福田に違するをもつてのゆゑに、 これを名づけて逆とす。 この逆を執するものは、 身壊れ命終へて、 必定して無間地獄に堕して、 一大劫のうちに無間の苦を受けん、 無間業と名づく。
「若シ依ルニ↢淄州ニ↡五逆ニ有リ↠二。一ニ者三乗ノ五逆ナリ。謂ク、一ニ者故ニ思ウテ殺ス↠父ヲ、二ニ者故ニ思ウテ殺ス↠母ヲ、三ニ者故ニ思ウテ殺ス↢羅漢ヲ↡、四ニ者倒見タフルヽ シテ破ス↢和合僧ヲ↡、五ニ者悪心ヲモテ出ス↢仏身ヨリ血ヲ↡。以テノ↧背キ↢恩田ニ↡違タガフスルヲ↦福田ニ↥故ニ、名ケテ↠之ヲ為↠逆ト。執トルスル↢此ノ逆ヲ↡者ハ、身壊レ命終エテ、必定シテ堕シテ↢无間地獄ニ↡、一大劫ノ中ニ受ケム↢无間ノ苦ヲ↡、名クト↢无間業ト↡。
^また ¬*倶舎論¼ のなかに、 五無間の同類の業あり。 かの頌にいはく、 ª^母・*無学の尼を汚す、 母を殺す罪の同類。 *住定の菩薩、 父を殺す罪の同類。 および*有学・無学を殺す、 羅漢を殺す同類。 僧の*和合縁を奪ふ、 僧を破する罪の同類。 *卒都波を破壊する、 仏身より血を出すº と。
又¬倶舎論ノ¼中ニ、有0130リ↢五无間ノ同類ノ業↡。彼ノ頌ニ云ク、
汚ス↢母・无学ノ尼ヲ↡ *殺ス↠母ヲ罪ノ同類。 | 殺ス↢住定ノ菩薩 殺ス↠父ヲ罪ノ同類。 |
及ビ有学・无学ヲ↡ 殺ス↢羅漢ヲ↡同類。 | 奪フ↢僧ノ和合縁ヲ↡ 破ル↠僧ヲ罪ノ同類。 |
破↢壊スルト率都*波ヲ↡ 出ス↢仏身ヨリ血ヲ↡。 |
^▼二つには大乗の五逆なり。 ¬▼*薩遮尼乾子経¼ に説くがごとし。 ª^一つには塔を破壊し経蔵を焚焼する、 および三宝の財物を盗用する。 二つには三乗の法を謗りて聖教にあらずというて、 *障破留難し*隠蔽覆蔵する。 三つには一切出家の人、 もしは戒・無戒・破戒のものを打罵し呵責して、 過を説き禁閉し*還俗せしめ、 *駈使債調し断命せしむる。 四つには父を殺し、 母を害し、 仏身より血を出し、 和合僧を破し、 阿羅漢を殺す。 五つには*謗じて因果なく、 長夜につねに十不善業を行ずるなりº と。 以上
二ニ者大乗ノ五逆ナリ。如シ↢¬薩遮尼乾子経ニ¼説クガ↡。一ニ者破↢壊シ塔ヲ↡焚ヤキ↢焼スル経蔵ヲ↡、及以盗↢用スル三宝ノ財物ヲ↡。二ニ者謗リテ↢三乗ノ法ヲ↡言フテ↠非ズト↢聖教ニ↡、障破留トヾム難シ隠カクス 蔽オホフ*落蔵カクススル。三ニ者一切出家ノ人、若シハ戒・无戒・破戒ノモノヲ打 ウツ 罵ノルシ呵セメ責 セム シテ、説キ↠過ヲ禁イマシメ閉トヅシ還俗セシメ、駆カリ使債ツグノウ調シトヽノウ断命セシムル。四ニ者殺シ↠父ヲ、害シ↠母ヲ、出シ↢仏身ヨリ血ヲ↡、破シ↢和合僧ヲ↡、殺ス↢阿羅漢ヲ↡ナリ。五ニ者謗ジテ無ク↢因果↡、長夜ニ常ニ行ズルナリト↢十不善業ヲ↡。 *已上
^▼かの ¬経¼ (*十輪経) にいはく、 ª^一つには不善心を起して*独覚を殺害する、 これ殺生なり。 二つには羅漢の尼を婬する0305、 これを邪行といふなり。 三つには所施の三宝物を侵損する、 これ*不与取なり。 四つには倒見して和合僧衆を破する、 これ*虚誑語なりº」 と。 略出
彼ノ¬経ニ¼云ク、一ニハ起シテ↢不善心ヲ↡殺↢害スル独覚ヲ↡、是殺生ナリ。二ニハ婬スル↢羅漢ノ尼ヲ↡、是ヲ云フ↢邪行ト↡也。三ニハ侵↢オカス損スル所施ノ三宝物ヲ↡、是不与アタフ取ナリ。四ニハ倒見シテ破スル↢和合僧衆ヲ↡、是虚誑語*也ト。」 略出
顕浄土真実信文類 三
如来選択の願心 阿弥陀仏が因位において一切の自力の行信を選び捨て、 他力の行信を選び取り、 万人を平等に救おうと誓願した大慈大悲心のこと。
矜哀の善巧 深いあわれみの心による善巧方便。 →
方便
自心 自力の心。
しばらく疑問を… 下に三一問答を設けたことをいう。
人倫の哢言 人々のあざけり。
常没の凡愚 つねに迷いの世界に沈んでいる凡夫。
無上妙果 この上なくすぐれた証果。 仏のさとりのこと。
大悲広慧の力 広大な慈悲と智慧の力。
もろもろの聖尊 ここでは諸仏のこと。
至心に回向せしめたまへり 通常は 「至心に回向して」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。
歓喜…愛楽して 通常は 「歡喜愛楽し、 所有の善根回向して」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。
如来の…義言は 通常は 「如来の勝智は、 虚空に遍し、 所説の義言は…」 と読む。
黒闇 迷いの闇。 無明にねざす迷いの状態をくらやみに譬える。
余念間つる… 疑いがまじって信心が断絶するという意。
信心歓喜して…願ずれば 通常は 「信心歓喜して聞くところを慶び、 すなはち一念に曁ぶまで心を至すもの、 回向して生ぜんと願ずれば」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 原文の 「至心者」 を阿弥陀仏とし、 このように読みかえた。
かならず…欲ふ 通常は 「かならずすべからく真実心のうちになすべきことを明かさんと欲す」 と読む。
外に…懐いて 通常は 「外に賢善精進の相を現じ、 内に虚仮を懐くことを得ざれ」 と読む。
なしたまひ…みな真実なり 通常は 「なしたまひ、 おほよそ施為・趣求したまふところ、 またみな真実なるによりてなり」 と読む。 「施為」 は利他、 「趣求」 は自利の意。 親鸞聖人は、 如来回向の真実をもちい (受領し) て、 浄土を趣求 (願生) するという意に転じた。
不善の三業は…名づく 通常は 「不善の三業は、 かならずすべからく真実心のうちに捨つべし。 またもし善の三業を起こさば、 かならずすべからく真実心のうちになすべし。 内外明暗を簡ばず、 みなすべからく真実なるべし。 ゆゑに至誠心と名づく」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために 「須」 の字を 「もちゐ」 と読んだ。
かの仏願 第十八願のこと。
かならず…想をなせ 通常は 「かならずすべからく決定真実心のうちに回向し願じて、 得生の想をなすべし」 と読む。
随ひて… それぞれの縁にしたがい、 どれか一つの法門によって出るのは一つの迷いの門を出ることであり、 どれか一つの法門によって入るのは一つのさとりに入る門であるという意。
空曠のはるかなる処 果てしない広野。
競ひ 「きほふ」 は勢い込んでわれ先にする意。
寧く 通常は 「むしろ」 と読む。
喚ばひ 「よばふ」 は呼びつづけるの意。
清浄願往生の心 如来回向の信心のこと。
回して ここでの 「回」 は回転、 回捨の意。 ひるがえし捨てて。
みだりに…喩ふるなり 通常は 「みだりに見解を説きてたがひに惑乱し、 およびみづから罪を造りて退失するに喩ふ」と読む。
定善の義を通摂す この三心はもともと
散善のところで説かれたものであるが、
定善の機にも通じるという意。
貞元… ¬集諸経礼懴儀¼ は ¬開元録¼ に入っているが、 どちらも智昇自選のため公に蔵経目録に入れられていない。 そこで ¬貞元録¼ において公式に入れられたことを示す。
下至十声聞等 高田派専修寺蔵宗祖加点 ¬礼讃¼ には 「下至十声一声等」 とある。 親鸞聖人は 「聞」 の語を示すために ¬礼讃¼ を直接引用せず、 ¬礼讃儀¼ を引用したのであろう。
一念に至るに及ぶまで 高田派専修寺蔵宗祖加点 ¬礼讃¼ には 「乃至一念」 とある。
倦きことなく 飽きることなく。 ここでは見捨てることなくという意。
回向成就し… 行も信も如来が成就して与えたものであるという意。
因なくして… 如来回向の行信が往生の因となるのであるから、 因がなくて往生するのではなく、 また、 その行信の他に別の因があるのでもないという意。
真実誠種の心 往生成仏の因種 (たね) となる真実にして誠なる心。
真実誠満の心 仏の真実が満入している心。
極成用重の心 完成 (至極成就) された本願のはたらき (用) を敬い、 尊重する心。
審験宣忠の心 つまびらかに明言 (審験) された如来の仰せ (宣) を偽りなく (忠) 信じる心。
欲願愛悦の心 浄土往生の願いを満たされて愛で悦ぶ心。
歓喜賀慶の心 往生の決定したことをよろこび、 聞き得た法をよろこぶ心。
願楽覚知の心 往生できると知って、 よろこび願う心。
成作為興の心 仏に成り大悲を興して、 衆生救済の活動をなさしめられることを期する心。
大悲回向の心 字訓にはないが、 欲生の体が如来の
大悲回向心であることをあらわすとともに三心全体が如来回向の心であることを示す。
穢悪汚染 煩悩罪悪にけがされていること。
虚仮諂偽 いつわり、 へつらい。
不可思議… 思いはかることも、 たたえ尽すことも、 説き尽すこともできない。
至徳の尊号 無上の功徳である南無阿弥陀仏の名号。
善言策進 善を行うよう勧めること。
回向利益他の真実心 仏よりふりむけられ、 与えられた真実の心。
出世 聖者のこと。
世間 凡夫のこと。
智明 智者のこと。
無明 愚者のこと。
満足大悲… 満足大悲は慈悲の徳が完全に成就していることをいい、 円融無礙は万徳一如とさとる智慧の徳をいう。
諸有輪 諸有は
二十五有 (迷いの世界の総称) のこと。 一切
衆生は車輪が回転し続けるように迷いの世界を果てしなく
輪廻するので、 諸有輪という。
衆苦輪 数多くの苦しみ。 衆生の苦しみは車輪が回転し続けるように果てしなく続くので、 衆苦輪という。
法爾として 本来。
大慈大悲・大喜大捨 四無量心のこと。 無量の
衆生に対しておこす四種の広大な心。 大慈は衆生に楽を与えること。 大悲は衆生の苦を抜くこと。 大喜は衆生が喜び楽しむのをみて自分も同じく喜ぶこと。 大捨は愛憎の心を捨てて平等の心に住すること。
捨つる 底本に 「捨」 の字なし。 「二十五有にあたはず」 と読まれている。
檀波羅蜜乃至般若波羅蜜 六波羅蜜のこと。 檀波羅蜜は六波羅蜜の第一 (
布施)。 般若波羅蜜は六波羅蜜の第六 (
智慧)。
聞 教法の言葉を聞くだけで、 そのいわれを知らないこと。
思 教法のいわれを十分聞きわけて、 如実に思い知ること。
道 さとりへの道。 また、 さとりのこと。
得者 さとりを得た人。
この法…等し 通常は 「この法を聞きて歡喜し、 心に信じて疑なければ、 すみやかに無上道を成じ、 もろもろの如来と等しからん」 と読む。
道の元 仏のさとりを得る因。
愛流 愛欲 (貪愛) の煩悩のこと。
法蔵第一の財 法蔵は功徳の蔵の意。 多くの功徳の中での第一の財宝。
智功徳 智慧荘厳と
福徳荘厳。
六波羅蜜 (六度) の中の第六が智慧荘厳、 前五が福徳荘厳である。
無上解脱道 完全に煩悩業苦から解放され、 離脱したさとりのこと。
最勝智 この上なくすぐれた智慧。
大因力 仏のさとりを得る因となる力。
殊勝決成の解 成仏することに間違いないというすぐれた領解。
善をして巧方便を修行せん 通常は 「善く巧方便を修行せん」 と読む。
増上の最勝心 すぐれたはたらきをもったこの上ない心。
摩訶衍 梵語マハーヤーナ (
mahāyāna) の音写。
大乗と漢訳する。 ここでは大乗の行を指す。
弁才…得ん 高麗版大蔵経等には 「すなわち弁才、 障碍なきを得ん」 とある。 弁才とは事柄の道理を明らかに分別する才能をいう。
有為の過 迷いのあやまち。
如是 経の冒頭の 「如是我聞 (かくのごとく、 われ聞きたてまつりき)」、 「我聞如是 (われ聞きたてまつりき、 かくのごとく)」 の 「如是」。
招喚したまふの勅命 衆生に帰せよと命じる如来のよび声。
微塵界 数限りない世界。
首として 第一にして。 中心にして。
至心回向したまへり 通常は 「至心に回向して」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。。
諸有の…愛楽して 通常は 「愛楽し、 諸有の善根回向して」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。。
いかんが回向…ゆゑに ¬浄土論¼ ¬論註¼ の当分はすべて、 願生行者の利他回向の行相を明かすから、 「いかんが回向する。 …大悲心を成就することを得んとするがゆゑに」 等と読む。 親鸞聖人は如来の回向に転意しているから、 すべて仏の側におさめた読み方になっている。
作願 衆生救済を願うこと。
方便力 奢摩他 (止)、 毘婆舎那 (観) によって生ずる利他教化のはたらき。
因なくして…あらざるなり 通常は 「無因他因の有にはあらざるなり」 と読む。
出第五門 出は利他教化に出ること。 第五門は五功徳門の中の
園林遊戯地門のこと。 さとりの世界より迷いの世界にたちかえって、 自由自在に衆生を救済するのを楽しみとすることを出第五門という。 →
五種の功徳
選択摂取の白業 阿弥陀仏因位の法蔵菩薩の時に、 あらゆる行業の中から選び取られ成就された善業。 南無阿弥陀仏の名号のこと。
往相回向の浄業 浄土に生れゆくために、 仏より回向された清浄な行業。 南無阿弥陀仏の名号のこと。
能生清浄願心 「よく清浄の願心を生ず」。
無上の心を発せども 通常は 「無上心を発せ」 と読む。 親鸞聖人は 「無上心」 を自力の菩提心の意とみて、 このように読みかえた。 →
菩提心
一念に相応して 本願に相応する一念の信を得るという意。
果涅槃を得んひと 高田派専修寺蔵宗祖加点 ¬観経疏¼ には 「果徳涅槃者」 とある。
無為の境 阿弥陀仏の浄土 (真実報土) のこと。
慈尊 慈悲ある世尊。 「序分義」 の当分では釈尊を指す。 引用の意では釈尊・阿弥陀仏の二尊を指すか。
名号 ここでは称名の意。
正観・邪観 正観は仏の経説と合致する観法、 邪観は仏の経説と合致しない観法。
智愚の毒 自力のさかしい智慧の毒や愚痴 (無明) の毒。
歴劫迂回の菩提心 自力聖道の菩提心のこと。 長い時間をかけて修行を積んで証に至るからこのようにいう。
施与…たまふなり 通常は 「施与して、 ともに仏道に向かふなり」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。
決誓猛信 確固とした決定の信心。
世間甚難信 自力の心では決して信じることができないという意。 本願救済の法は、 世間の常識的な道理を超越しているから、 自力にとらわれた心では信じ難い法であるということ。 そのことはまたこの法の尊高をあらわしている。
律宗の用欽のいはく… 引用は用欽の ¬阿弥陀経疏超玄記¼ の文ともいわれるが、 同書は現存しない。
報 果報。
功 修行の功。
阿弥陀如来… 現存の ¬聞持記¼ にはこの文はない。
後序 ¬楽邦文類¼ (宗暁編) の後序は南宋代、 天竺寺の学僧であった光遠 (諱は善月、 1149-1241) が書いた。
自障自蔽 みずからさとりの道をさえぎり、 みずから正しい道を蔽いかくすこと。
信楽開発の時剋の極促 信心が開けおこる最初の時。
広大難思の慶心 広大で思いはかることのできない法をいただいたよろこびの心。
至心に回向したまへり 通常は 「至心に回向して」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。
読誦に…なけん 通常は 「読誦し、 他のために解脱することあたはずは、 利益するところなけん」 と読む。
諸有のため 人天等の果報を得るため。
持読誦説 教典を受持し、 理解して読み、 記憶して唱え、 他人のために解説すること。
聞といふは… 以下は第十八願成就文の 「その名号を聞きて信心歡喜せんこと、 乃至一念せん」 等の意についての解釈。 はじめに 「聞」 が 「信」 であることを釈する。
発心 阿弥陀仏より回向された信心。
道 智慧のこと。
是心是仏 ¬観経¼ の当分は、 観仏の心に仏が顕現することを 「心が仏を作る」 といったのであるが、 親鸞聖人は、 如来回向の信心は仏道の正因であるから、 仏に作るという意に転じた。
この心これ仏なり 如来回向の信心の本質は仏心であることをいう。
質多 梵語チッタ (citta) の音写。 心の意。
迂 遠まわりすること。
回 まわり道すること。
願成就一実円満の真教 本願成就文に示されているように、 本願が成就して万人を平等に成仏せしめる絶対唯一の真実円満の教え。
一念須臾のあひだに きわめて短い時間に。 往生すると同時に。
凡夫の…欣はざるべからず 通常は 「凡夫の生死は貪るべからざれども厭はず。 弥陀の浄土は軽んずべからざれども欣はず」 と読む。
よく…願はんものは 通常は 「よくみづから思量せよ。 すでによく今身にかの国に生ぜんと願ずるものは」 と読む。
王日休がいはく… 引用は ¬
龍舒浄土文¼ の後跋の一節で、
唯心居士荊渓周葵の文。 →
王日休
報地 因位の修行が報いあらわれた地位。
律宗の用欽師のいはく… 引用は用欽の ¬阿弥陀経疏超玄記¼ の文ともいわれるが、 同書は現存しない。
教観 教相と観法。 教相とは教義を明らかにすること。 観法とは法を心に観ずること。 すなわち教義と実践のこと。
業儒 儒学を業とする人。 儒学者のこと。
愛欲の広海 愛執・恩愛が深いことを海に喩えていう。
名利の太山 名誉心や、 物質的欲望が大きいことを山に喩えていう。
それ仏… 以下、 難化の三機 (五逆・謗法・一闡提) をあげて所被の機 (仏の救いをうける機類) を明かす。
たとへば…治すべからず 通常は 「たとへば病あり、 必死にして治することなきがごとし。 もしは瞻病随意の医薬あるも、 もしは瞻病随意の医薬なきも、 かくのごとき病はさだめて治すべからず」 と読む。
瞻病 看病人。
随意の医薬 適切な医者と薬。 仏の本意である随自意の法に喩える。
仏菩薩に…発せん この文は ¬涅槃経¼ の原文では、 次の 「もし声聞・縁覚・菩薩ありて…発せしむることあたはず」 から三十四字 (原漢文の字数) をへだてた後にある。
口の四悪 十悪のうちの口業による悪。
妄語・
綺語・
悪口・
両舌のこと。
横に 道理に背いて。 非道にも。
悔熱 後悔の念にさいなまれて熱がでること。
一切知見して…修習して 一切知見は一切を知り尽すこと。 通常は 「一切知見、 自在定を得て、 畢竟じて清浄梵行を修習して」 と読む。
上業 すぐれた行為。
下業 劣った行為。
正法の王 正しく国を治めた王。 頻婆娑羅王のこと。
生の法 生れかた。
騾腹の懐妊 ¬涅槃経¼ (北本巻十二) 等には、 騾馬は子を妊んで死す、 とある。
余業 過去の業の残り。
殺生を…長きを得 大谷派本願寺蔵本 (板東本) には 「彼の寿命の長を殺すをもつてのゆゑに」 とある。 また底本には 「寿命を殺すをもつての彼のゆゑに」 とある。 ここでは ¬高麗版大蔵経¼ による。
毒薬…あらんや 通常は 「毒薬、 罪にあらず、 人いかんぞ罪あらん」 と読む。
いずくんぞ…いなや 通常は 「安眠を得やいなや」 と読む。
善巧瞻病 たくみな看病。
金剛智 煩悩罪障を破る力をもつ仏の
智慧を一切を打ち砕く
金剛に喩えていう。
衆僧を破壊し… 以下、
五逆罪のうちの
破和合僧、
出仏身血、
殺阿羅漢にあたる。
蓮華比丘尼 蓮華色比丘尼ともいう。 阿羅漢を証し、 神通第一といわれたが、 提婆達多のあやまちを誡めて殺害されたという。
大王一逆を… ここからは殺害された父、 頻婆娑羅の空中の声。
悶絶躄地 もだえ苦しんで気絶し地面に倒れること。
大臣… 底本に出された大臣と六師の名のうち、 日月称、 那闡邪毘羅肱子、 阿嗜多翅金欽波羅、 婆蘇仙、 加羅鳩駄迦旃延、 尼乹陀若犍子は高麗版大蔵経等によって改めた。
一切有為の衆生 無常なる迷える衆生。
無為の衆生 常住不変の真理をさとった人々。
天中の天 五天すなわち世天 (世間の人王)、 生天 (天界の神々)、 浄天 (声聞・縁覚)、 義天 (菩薩)、 第一義天 (仏) のなかの第一義天である釈尊を指す。
時節日月星宿 日のよしあし、 星回りのよしあしなどのこと。
このゆゑに…しくことなし 高麗版大蔵経では 「日」 は 「因」 となっている。 この場合は 「このゆゑに近因は善友にしくはなし」 と読む。
前路 釈尊のもとへ向かう途中。
二つの語 悪をなして回心せず、 地獄に堕ちた例 (毘瑠璃王・瞿伽離比丘) と、 悪をなして回心し、 地獄に堕ちることを免れた例 (須那刹多)。
毘富羅山 毘富羅は梵語ヴィプラ (Vipula) の音写。 広博脇山と漢訳する。 インドのマガダ国にある山の名。
仙 仙人のこと。
得ざる…坐る 底本には 「このゆゑにまさしく坐を得ず、 この人駈りて遂に去らしむ」 とある。 ここでは寂如上人校訂本を参照して訓読した。
大王…罪報あらん 通常は 「大王いかんがなしといふ、 それ罪あるものはすなはち罪報あり」 と読む。
貪狂 貪欲による錯乱。
四衢道 街の四つ角。
山谷の響きの声 やまびこ。
熱の時の炎 かげろう。
殺法殺業殺者殺果 殺害の仕方、 殺害という行為、 殺害する人、 殺害によるその結果。
空見の人 あらゆるものの体はもともと実体があるのではなく、 空であると知った人。
有見の人 あらゆるものに固定した実体があると考える人。
有有見のもの 有見にさらに執着する人。
無有見のもの 有見を否定した人。
常見の人 涅槃の常住をさとっている人。
無常見のもの 涅槃の常住をさとらない人。
常常見のもの 常を常と執ずる偏見の人。
無根の信 煩悩心より生じた信でないこと。 すなわち他力回向の信心をいう。
後宮采女 後宮 (王妃の宮殿) に仕える女官たち。
天身 浄天身のこと、 すなわち聖者の身。
諸仏の弟子 ここでは真の仏弟子となった阿闍世のことを指していう。
善巧句義において 仏の説法は言葉も意味も巧みであるという意。
甚深秘密の蔵 はかりしれない深いいわれが蔵されているという意。
所有広博の言を顕示す 仏が所有する広大な義理を博く説くこと。
粗 粗語。 きびしい言葉。
無無義の語 無義でない語のことで、 仏の言葉には何一つ無意味なところはないということ。
無因また無果なり 涅槃の境地が因果の束縛を離れていることをいう。
無生また無滅なり 涅槃の境地が消滅を離れていることをいう。
諸結 煩悩の束縛。
鬼魅に着はされて 魔ものにとりつかれて錯乱するという意。
業因縁 悪業をつくらねばならないような因縁。
大師聖人 ここでは阿闍世が提婆達多に敬意を表していったもの。
付嘱 ここではまかせるというほどの意。
痴人 愚か者。 ここでは提婆達多のこと。
大智を聴聞して 高麗版大蔵経では 「聴聞」 は 「聡明」 となっている。 この場合は 「聡明大智にして」 と読む。
わが悪…報ふべし 高麗版大蔵経では 「悪」 は 「要」 となっている。 この場合は 「われ要ず、 まさにかくのごときの大怨を報ふべし」 と読む。
外人 宮廷外の人々。
内の人 宮廷内の人々。
婆羅留枝 指が折れた者という意。
四種の兵 像兵・馬兵・車兵・歩兵。
この事…告げたまはく 高麗版大蔵経は 「知是事故告阿難」 となっている。 この場合は 「この事を知るがゆゑに阿難に告ぐ」 と読む。
実義 大乗の実義を体得した本当の意味の菩薩。
仮名 大乗の実義を体得していない名前だけの菩薩。
利他の信海 他力回向の信心のこと。
金剛不壊の真心 金剛のように堅く、 破壊されることのない信心。
伊虫 この虫という意。
華合して… 蓮華の華の中に包まれて、 非常に長い間そのなかから出ることができないことをいう。
斉同不退 浄土に往生すれば、 みな一味平等のさとりをひらいて、 再び迷界に退転しないことをいう。
住定の菩薩 無漏定に住している最高位の菩薩。
和合縁 教団を構成する縁となるもの。 僧院、 生活用具など。
障破留難 仏法の流布をさまたげ攻撃し危難を加えること。
隠蔽覆蔵 仏法の光を覆い隠して、 広まらないようにすること。
駈使債調 労役に従事させ、 債務や税を負担させること。
謗じて因果なく 通常は 「因果を謗無し」 と読む。
不与取 与えられないものを盗ること。 偸盗のこと。
虚誑語 うそ、 いつわりの言葉。
親鸞→Ⓑ巒
徒→Ⓑ従
慧→Ⓒ恵
大 Ⓐ「十八念仏往生之願往相廻向之願」と左傍註記
无 Ⓐ「宝積経十八願言」と右傍註記
已→ⒶⒷⒹ己
無 Ⓐ「願成就」と左傍にあり
菩提流支訳 ◎下欄補記→ⒶⒹ菩提流支[訳] ⒷⒸに無し
有情 ◎二字抹消し「有情」と上欄訂記→ⒷⒸ衆生
情 Ⓐ「生」と右傍註記し、 さらに「イ本」と左傍註記
除クト↢五无間誹謗正法及謗聖者ヲ↡→ⒶⒹ除クト↧五无間誹↢ソシリ謗正法ヲ↡及謗↦ソシラムヲバ聖者ヲ↥→Ⓑ除クト↧五无間謗リ↢正法ヲ↡及謗ラムヲ↦聖者ヲ↥
誹 Ⓑに無し
慧→Ⓒ恵
論 Ⓐ「信成就」と左傍にあり
慧→Ⓒ恵
不如実 Ⓐ「イ本ニアリ」と左傍註記 不 Ⓑになし
「淳…字」34字 ◎Ⓐ上欄註記 Ⓑに無し 淳字 Ⓒに無し
丨 Ⓐに無し
字音卜→Ⓒ音
「薬…字」15字 Ⓒに無し
念不→Ⓒ不念
論 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
巒→Ⓒ鸞
光 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
云→Ⓑ言
又云 Ⓑ「自此観経三心」と右傍に張紙
頭燃 右Ⓑカウベノヒヲ
「由…也」13字 ◎Ⓐ上欄註記 Ⓑに無し 由字 Ⓒに無し
也 ⒶⒷに無し
学→覚
慧→恵
「為…也」14字 ◎Ⓐ上欄註記 Ⓑに無し 為字 Ⓒに無し
喩 ◎Ⓐ喩字 サトス と上欄註記
路→ⒶⒹ路[見]
焔 ◎燄ホノヲを焔ケムリアルナリと上欄訂記し、 その左傍に炎ケムリナキホノオと註記 Ⓐ炎ケムリナキホノヲと上欄註記 左Ⓐホノヲ ケムリアルナリ
岸 ◎「河」を「岸」と上書訂記
堕→随
喩 ◎Ⓐ喩字 オシヘナリ と上欄註記
焔 ◎一字抹消し焔と上欄訂記
上→Ⓐ[已上]上
大 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
聞 Ⓑ「ヒ歟」と左傍註記 Ⓒ「一声イ」と右傍註記
心 Ⓑ「念」と上欄註記 Ⓒ「念イ」と右傍註記
歟 ◎上に一字抹消あり
言 ◎上欄補記
言 ◎右欄補記
即 ◎欲を即と上書訂記
賀 右◎ヨロコブ 左Ⓑヨロコブ
慶 右Ⓑケイ反 左Ⓐケイ反Ⓑキヤウ反
作…也23字 ◎Ⓐ上欄註記 Ⓑに無し
作字 Ⓒに無し
洛→Ⓒ落
役也始也→Ⓒ始也役也
誠 左Ⓑ―
雑 左Ⓑ―
験 左Ⓑ―
賀 左Ⓑヨロコブ
慶 右◎ケイⒶⒷケイ反 左Ⓐヨロコブ
訓 左Ⓑオシヘ
心→Ⓒ心[也]
海 左Ⓑ―
穢 左Ⓑ―
汚 右◎ワ反アセⒶワ反 左◎ヲ反ケガスⒶアセ ケガス反ヲ反Ⓑケガス
施 左Ⓐホドコス ハヅストナリ
蓋 左Ⓑ―
不 Ⓐ「成就信」と右傍にあり
慧→Ⓒ恵
无 Ⓐ「信」と左傍にあり
敬→Ⓒ欲(「敬イ」と右傍註記
乃至→Ⓑ已上
言 Ⓒ「根」と右傍註記
退 Ⓒ「スルコトイ」と左傍註記
光 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
云→Ⓑ言
要→Ⓑ出
涅 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
実 Ⓑに無し
釈 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
涅 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
値遇 左Ⓑ―
急 左ⒶⒷイソガシ
喜→Ⓒ喜[愛楽]
涅 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
以 ◎上欄補記 Ⓑに無し
畢 Ⓑ或本必と上欄註記
言→Ⓑ云 Ⓐ「云イマ本」と右傍註記
華 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
不→Ⓒ不[可]
弁→Ⓒ辨
若 Ⓑに無し
論 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
註→Ⓑ主(「註イ」と上欄註記)
有 Ⓒ「情イ」と右傍註記
愛→Ⓒ[歓喜]愛
浄 Ⓐ「成就信」と左傍にあり
為 右Ⓐシタマヘリ ニトノタマヘリⒷニシタマヘリ
光 Ⓐ「信」と左傍にあり
已上 ◎「問」を「已上」と上書訂記
真 ◎「曰」を「真」と上書訂記
路 左ⒶⒷ
道 左ⒶⒷ
得 Ⓑ「徳イ」と上欄註記
疑蓋 左ⒶⒷ
貴賎 左ⒶⒷヨキヒト イヤシキ
緇 左Ⓑアマホフシ
説→ⒶⒷⒹ称 Ⓒ「不可称イ在之」と右傍註記
称→ⒶⒷⒹ説
竪 左ⒶⒷタテサマ
心 ◎右傍補記
願作仏心 ◎右傍補記
錯 左Ⓑ―
論 Ⓐ「信」と左傍にあり
曰→Ⓑ云
摂取 左Ⓑ
施与 左ⒶⒷ
元 Ⓐ「信」と左傍にあり
昭→ⒷⒸ照
超越スル成仏之法ナリ→Ⓐ超↢越 ススル成仏之法ナリ↡→Ⓑ超↢越ス成仏之法ヲ↡
強 左ⒶⒷコハシ
醜 左ⒶⒷミニクシ
宰 左ⒶサイⒷツカサドル
醜…也16字→Ⓐ超↢越ス成仏之法。可謂一切世間甚難信也トイフハ→Ⓑ超↢越成仏之法↡。可シト↠謂フ↢一切世間甚難信↡也トイフハ→Ⓒ超↢越ス成仏之法ヲ↡。可↠謂↢一切世間甚難信↡也ト云ハ
醞売 左ⒶⒷウリカフ
楽 Ⓐ「信」と左傍にあり
間→Ⓐ問
促 左ⒶⒷ
彰 左ⒶⒷ
向 右Ⓑセシメタマヘリ
喜→Ⓒ喜[受楽]
涅 Ⓐ「信」と左傍にあり
説→Ⓑ脱(「説イ」と上欄註記)
光 Ⓐ「信」と左傍にあり
形ス↢身心ノ悦予之貌ヲ↡→Ⓐ形ス↢身心ノ悦予ヨロコブヲ↡之貌→Ⓑ形ス↢身心悦予ヨロコブヲ↡之貌→Ⓒ形ス↢身心ノ悦予ヲ↡之貌
摂スル↢多少之言↡→Ⓑ摂スル↢多少ヲ↡之言→Ⓓ摂スル↢多少ヲ↡之言
冥→Ⓐ宜 左ⒶⒷクラシ
論 Ⓐ「信」と左傍にあり
光 Ⓐ「信」と左傍にあり
止 Ⓐ「信」と左傍にあり
提→ⒶⒷ薩
迂 左ⒶⒷメグル
権 左ⒶカリナルナリⒷカリナリ
土 ◎右傍補記
迂廻 左ⒶⒷメグル カヘル
品位 左Ⓐシナワイ クラヰ
階 左ⒶシナⒷシナワイ
次 左Ⓑクラヰシナ
傾→Ⓓ頃
大 Ⓐ「信」と左傍にあり
言→Ⓑ云
所 ◎に無し(上欄に補記の跡があるが不明)
大 Ⓐ「信」と左傍にあり
友謙言→ⒶⒹ友謙[三蔵訳]言→Ⓑ言友謙[三蔵訳也]→Ⓒ言支謙[三蔵訳]
涅 Ⓐ「信」と左傍にあり
光 Ⓐ「信」と左傍にあり
寺和尚 Ⓑ師
淪→Ⓒ輪
已上 Ⓑになし
有情 ◎「衆生」を「有情」と右傍訂記→ⒷⒸ衆生
悪→◎Ⓑ善(Ⓑ「悪歟」と右傍註記)
波→Ⓑ般
出→Ⓑ要 Ⓒ「出イ」と左傍註記
乃至→Ⓑ已上
弘 Ⓒ「伝イ」と左傍註記
忍 左Ⓐ
唱→Ⓑ昌
昭→ⒷⒸ照
社 Ⓒ「堂造」と右傍註記
劉 Ⓑ「左大臣」と左傍註記
柳子厚 ⒶⒷⒸ「右大臣」と左傍註
土→Ⓑ上(土と左傍註記)
云→Ⓑ言
偽 左ⒶⒷイツワル
鸞 Ⓑに無し
惑 左Ⓐマド
快 Ⓒ「決イ」と左傍註記
傷 右Ⓑシヤウノ反 左Ⓐシヤウ反Ⓑイタム
一 Ⓑに無し
知→ⒶⒷⒹ智
答→Ⓑ益(答」と左傍註記)
貌→Ⓑ藐
屑 Ⓑ唇イと右傍註記 左Ⓑカハク
燋→Ⓑ燥
慧→恵
目→ⒶⒷ日
故 Ⓑに無し
无→Ⓒ無[有]
王 左Ⓑノ
後→Ⓑ従
身→Ⓑ腹腹
雖モ↠破ト↢母ノ身ヲ↡実亦无シ↠罪→Ⓑ雖モ↠破ト↢母ノ腹ヲ↡腹実ニ亦无シ↠罪
腹→Ⓑ等
賖→Ⓑ舎
梨 Ⓑ「離歟」と左傍註記
滅→Ⓑ除
滅除→Ⓒ除滅
徳→Ⓑ得
特→Ⓑ持
辜→ⒶⒷ過トガ咎ツミ
数数→Ⓑ数
邪→Ⓒ耶
邪→ⒷⒸ耶
金 Ⓒ舎イ本と右傍註記
羅→ⒶⒷⒸⒹ羅乃至
彼 ⒶⒹに無し Ⓒ故イと右傍註記
長→ⒶⒹ彼 Ⓑになし
以ノ↢殺彼ノ寿命ノ長ヲ↡故ニ→ⒶⒹ以ノ↠殺スヲ↢寿命ヲ↡彼ノ故ニ→Ⓑ以ノ↠殺スヲ↢彼ノ寿命ヲ↡故ニ→Ⓒ以ノ↠殺ヲ↢彼ノ寿命ノ長ヲ↡故ニ(彼に故イと右傍註記)
者→Ⓑ者[実ニ亦无シ↠害若シ无我ナラ者復无ケム↠所↠害スル何以ノ故ニ若有我ナラ者]
非↢罪人↡→Ⓐ非ルガズ ↦↢人ニ↡無キ↦罪↥罪人ニ↥(人無罪に「イマノ本ニアリ三字」と左傍註記し、 罪人に「今本ニ无二字ハ」と左傍註記)→Ⓑ非レバ↠人ニ↢無キガ↞罪
非→Ⓑ非[人無罪] Ⓐ「↠人ニ無キ↟罪イマノ本ニアリ三字」と下欄註記 左Ⓐズ
罪人 Ⓑになし Ⓐ「今本ニ无二字ハ」と左傍註記
云 Ⓑ人イと上欄註記
延→ⒷⒸ延乃至
畏→ⒷⒸ畏乃至
犍→Ⓒ提イと左傍註記
所ナリ↠不ル↠能ハ↠治スルコト→Ⓑ所ナリ↠不ル↢能治スルコト↡(不に王と上欄註記)
辜→Ⓐ辜[咎]
飯→Ⓑ鈑
梓 Ⓒ揺と左傍註記 左ⒶハタラクⒷハタラク反
天→Ⓑ汝
略→Ⓑ抄
徳→Ⓑ得
賖梨→Ⓑ舎離 Ⓐ「舎離」と下欄註記
邪→Ⓒ耶
嗜→Ⓑ耆
婆→Ⓐ波
世→ⒶⒷⒹ世[王]
白シテ↠王ニ言ハマク↢耆婆ニ↡→Ⓑ白王言ハマク耆婆
白 ◎右傍補記
大→Ⓒ[耆婆答言]大
相似→Ⓑ似相
若→Ⓒ者
災 ◎「或本遇火」と上欄註記 ⒶⒹ遇火
到→Ⓑ至
設→ⒶⒷⒹ誤
獄 Ⓒ「仏告」と左傍註記
鹿 Ⓑに無し
逐→Ⓑ遂
生ズ↢瞋テ悪心↡→ⒶⒹ生ズ↠瞋シンヲ悪心アテ
王 Ⓑに無し
幻 Ⓑに無し
殺→Ⓒ[有]殺
其非→Ⓑ非其
実 Ⓑに無し→Ⓒ[真]実
謂→Ⓒ為
者 Ⓑ「因歟」と右傍註記 Ⓒ「因イ」と右傍註記
為↢非无有ト↡有見者ハ→為↠非ズト↠无ニ有有見ノ者ハ
大王夫→Ⓑ夫大王
者 Ⓑに無し
以↢是レ見↟仏所ノ↠得ル功徳→ⒶⒹ以テ↠是ヲ見タテマツリ↢仏ノ所ノ↠得タマフ功徳ヲ↡→Ⓑ以テ↠是ヲ見マツリ↢仏ノ所ノ↠得タマフ功徳ヲ↡→Ⓒ以テ↠是ヲ見ツル↢仏ノ所ノ↠得タマフ功徳ヲ↡
頌 Ⓑに無し
亦→Ⓑ及
結→Ⓑ果(「或本結字也」と上欄註記)
修→Ⓑ故
妙徳 Ⓒ「文殊」と左傍註記
原→Ⓒ厚(原イと右傍註記)
左ⒶⒷトモ
法 Ⓐ往イと右傍注記
罪→Ⓐ羅(「罪」と上欄註記)
達→Ⓒ達[多]
Ⓒ留と上欄註記
獲 左Ⓐシム
除 Ⓑに無し
之 Ⓑに無し
殺→Ⓐ刹
波→ⒷⒸ婆
落→Ⓒ覆(左傍に訂正符号あり、 「落イ」と左傍註記)
已上 Ⓐに無し
也 Ⓒに無し