1231れん0525にょしょうにん一代いちだい聞書ききがき ほん

 

(1)

一 ^じゅうむら*道徳どうとく*明応めいおうねんしょうがつ一日ついたちぜんへ​まゐり​たる​に、 *蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 道徳どうとくは​いくつ​に​なる​ぞ。 道徳どうとく念仏ねんぶつもうさ​る​べし。 りき念仏ねんぶつといふは、 念仏ねんぶつおほくもうし​てぶつに​まゐらせ、 このもうし​たるどくにてぶつの​たすけ​たまは​んずる​やう​に​おもう​て​となふる​なり。

^りきといふは、 弥陀みだをたのむ一念いちねんの​おこる​とき、 *やがておんたすけ​に​あづかる​なり。 その​のち念仏ねんぶつもうす​は、 おんたすけ​あり​たる​ありがたさ​ありがたさ​とおもふ​こころ​を​よろこび​て、 南無なも弥陀みだぶつ南無なも弥陀みだぶつもうす​ばかり​なり。 さればりきと​はの​ちから​といふ​こころ​なり。 この一念いちねんりんじゅうまで​とほり​ておうじょうする​なり​とおおそうろふ​なり。

(2)

一 ^あさのおん*つとめ​に、 「いつつ​の思議しぎを​とく​なか​に」 (*高僧和讃) より 「じん十方じっぽう無礙むげこうは みょうの​やみ​を​てらし​つつ 一念いちねんかんする​ひと​を かならず1232めつに​いたら​しむ0526(高僧和讃)そうろだんの​こころ​を*法談ほうだんの​とき、 「こうみょうへんじょう十方じっぽうかい(*観経)もんの​こころ​と、 また 「*つきかげ​の​いたら​ぬ​さと​は​なけれ​ども ながむる​ひと​の​こころ​にぞ​すむ」 と​あるうたを​ひきよせ法談ほうだんそうろふ。

^なかなか​ありがたさもうす​ばかり​なくそうろふ。 上様うえさま (蓮如) 御立おたち​のおんあと​にて、 北殿きたどのさま (*実如)おおせ​に、 *ぜん法談ほうだんこん法談ほうだんとを​ひきあはせ​ておおそうろふ、 ありがたさ​ありがたさ*是非ぜひに​およばず​と*じょうそうらひ​て、 落涙らくるいおんこと、 かぎり​なきおんこと​にそうろふ。

(3)

一 ^おんつとめ​の​とき*じゅんさんおんわすれ​あり。 *みなみ殿どのおんかへり​ありて、 おおせ​に、 しょうにん (*親鸞) おんすすめ​の ¬さん¼、 あまりに​あまりにしゅしょうにて、 *あげば​を​わすれ​たり​とおおそうらひ​き。 ありがたきおんすすめ​をしんじ​ておうじょうする​ひと​すくなし​とじゅっかいなり。

(4)

一 ^*ねんしょういちといふ​こと​しら​ず​ともうそうろふ​とき、 おおせ​に、 おもひうちに​あれば​いろほかに​あらはるる​と​あり。 さればしんを​え​たるたいは​すなはち南無なも弥陀みだぶつなり​と1233こころうれ​ば、 くちこころも​ひとつ​なり。

(5)0527

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 本尊ほんぞんけ​やぶれ、 聖教しょうぎょうは​よみ​やぶれ​と、 ついおおせ​られそうろふ。

(6)

一 ^おおせ​に、 南無なもといふはみょうなり、 みょうといふは弥陀みだ一念いちねんたのみ​まゐらする​こころ​なり。 また発願ほつがんこうといふは、 たのむに​やがて大善だいぜんだいどくを​あたへ​たまふ​なり。 そのたいすなはち南無なも弥陀みだぶつなり​とおおそうらひ​き。

(7)

一 ^加賀かが*がんしょう*覚善かくぜんまたろうと​にたいし​て、 信心しんじんといふは弥陀みだ一念いちねんおんたすけそうらへ​と​たのむ​とき、 やがておんたすけ​ある​すがた​を南無なも弥陀みだぶつもうす​なり。 そうじてつみは​いかほど​ある​とも、 一念いちねん*信力しんりきにてし​うしなひ​たまふ​なり。

^されば 「無始むしらい輪転りんでん六道ろくどう妄業もうごう一念いちねん南無なも弥陀みだぶつみょうするぶっしょう*みょう願力がんりきに​ほろぼさ​れ​て、 はんひっきょう真因しんいんはじめて​きざす​ところ​を​さす​なり」 (*真要鈔・本) といふおんことば​をき​たまひ​ておおそうらひ​き。 されば​この​こころ​をおん*かけ1234*あそばさ​れ​て、 がんしょうに​くださ​れ​けり。

(8)

一 ^かわ*きょうけん伊勢いせ*空賢くうけんと​にたいし​て、 おおせに、 南無なもといふはみょう、 この​こころ​は0528おんたすけそうらへ​と​たのむ​なり。 このみょうの​こころ*やがて発願ほつがんこうのこころ​をかんずる​なり​とおおせ​られそうろふ​なり。

(9)

一 ^りきがんぎょうを​ひさしくに​たもち​ながらよしなきりきしゅうしんに​ほださ​れ​て、 むなしくてんし​ける​なり(*安心決定鈔・末意)そうろふ​を、 *ぞんぜ​ずそうろふ​よしもうしあげそうろふ​ところ​に、 おおせ​に、 ききわけ​て​えしんぜ​ぬ​もの​の​こと​なり​とおおせ​られそうらひ​き。

(10)

一 ^弥陀みだだい、 かのじょうもつしゅじょうの​むね​の​うち​に​みち​みち​たる(安心決定鈔・本意) といへる​ことしんそうろふ​と、 *ふくでんもうしあげ​られそうろふ。 おおせ​に、 仏心ぶっしんれんむね​に​こそ​ひらく​べけれ、 はら​に​ある​べき​や。 「弥陀みだ身心しんしんどく法界ほうかいしゅじょうの​うち、 こころ​の​そこ​にり​みつ」 (安心決定鈔・本) とも​あり。 しかれば、 ただ1235りょうしんちゅうを​さし​て​の​こと​なり​とおおそうらひ​き。 ありがたき​よしそうろふ​なり。

(11)

一 ^*じゅうがつじゅう八日はちにち*たいに​のたまはく、 「*しょうしんさん」 を​よみ​て、 ぶつにもしょうにん (親鸞) にも*まゐらせ​ん​と​おもふ​か、 あさまし​や。 しゅうには​つとめ​をも​してこうする​なり。 *いちりゅう0529にはりき信心しんじんを​よく​しれ​と​おぼしめし​て、 しょうにんさんに​その​こころ​を​あそばさ​れ​たり。 ことにしちこうねんごろなるおんしゃくの​こころ​を、 さん*ききつくる​やう​に​あそばさ​れ​て、 そのおんを​よくよくぞんし​て、 あら​たふと​や​と念仏ねんぶつする​は、 仏恩ぶっとんおんこと​をしょうにんぜんにて​よろこび​まうす​こころ​なり​と、 くれぐれおおせ​られそうらひ​き。

(12)

一 ^聖教しょうぎょうを​よく​おぼえ​たり​とも、 りき安心あんじん*しかとけつじょうなく​は​いたづらごと​なり。 弥陀みだを​たのむ​ところ​にておうじょうけつじょうしんじ​て、 ふたごころなくりんじゅうまで​とほりそうらは​ばおうじょうす​べき​なり。

(13)

一 ^*明応めいおう三年さんねんじゅう一月いちがつ報恩ほうおんこうじゅうよっ*あかつき八時やつどきにおいて、 しょうにんぜん ˆにˇ1236 参拝さんぱいもうし​てそうろふ​に、 すこし​ねぶりそうろふ​うち​に、 ゆめ​とも​うつつ​とも​わか​ず、 *空善くうぜんおがみ​まうしそうろふ​やう​は、 厨子ずしの​うしろ​より​わた​を​つみひろげ​たる​やう​なる​うち​より、 上様うえさま (蓮如) あらはれおんで​ある​とおがみ​まうす​ところ​に、 相好そうごう*開山かいさんしょうにん (親鸞) にて​ぞ​おはします。 あら思議しぎや​と​おもひ、 やがて厨子ずしの​うち​をおがみ​まうせ​ば、 しょうにん御座ござなし。

^さては開山かいさんしょうにん上様うえさまげんじ​ましまし​て、 いちりゅう再興さいこうにて御座ござそうろ0530もうしいだす​べき​とぞんずる​ところ​に、 *きょうもんぼう讃嘆さんだんに、 しょうにんりゅう、 「たとへば木石ぼくせきえんを​まち​てしょうじ、 りゃくやすりを​すり​てたまを​なす​が​ごとし」 と、 ¬御式おんしき¼ (*報恩講私記) の​うへ​を讃嘆さんだんある​と​おぼえ​てゆめさめ​てそうろふ。 さては開山かいさんしょうにん再誕さいたんと、 それ​より信仰しんこうもうす​こと​にそうらひ​き。

(14)

一 ^きょうする​ひと、 まづ信心しんじんを​よくけつじょうし​て、 その​うへ​にて聖教しょうぎょうを​よみ​かたら​ば、 きく​ひと​もしんを​とる​べし。

(15)

一 ^おおせ​に、 弥陀みだを​たのみ​ておんたすけ​をけつじょうして、 おんたすけ​の​ありがたさ​よ​と1237よろこぶ​こころ​あれば、 その​うれしさ​に念仏ねんぶつもうす​ばかり​なり。 すなはち仏恩ぶっとん報謝ほうしゃなり。

(16)

一 ^*おお近松ちかまつ殿どのたいし​ましまし​ておおせ​られそうろふ。 信心しんじんを​よくけつじょうし​て、 ひと​にも​とら​せよ​とおおせ​られそうらひ​き。

(170531)

一 ^*じゅうがつむゆ*とん殿どのこうにてそうろふ​あひだ、 いつ大勢おおぜいぜんへ​まゐりそうろふ​に、 おおせ​に、 こんは​なにごと​にひとおほく​きたり​たる​ぞ​と。 *じゅんせいもうさ​れそうろふ​は、 まことに​この​あひだ​の*ちょうもんもうし、 ありがたさ​の御礼おんれいの​ため、 またみょうにちこうにて御座ござそうろふ。 おんに​かかり​まうす​べし​か​の​あひだ、 歳末さいまつ御礼おんれいの​ため​ならん​ともうしあげ​られ​けり。 その​ときおおせ​に、 *やく歳末さいまつれいかな、 歳末さいまつれいには信心しんじんを​とり​てれいに​せよ​とおおそうらひ​き。

(18)

一 ^おおせ​に、 ときどきだいする​こと​ある​とき、 おうじょうす​まじき​か​とうたがひ​なげく​もの​ある​べし。 しかれども、 もはや弥陀みだ如来にょらいを​ひとたび​たのみ​まゐらせ​ておうじょう1238けつじょうの​のち​なれば、 だいおほく​なる​こと​の​あさまし​や。 かかるだいおほく​なる​もの​なれども、 おんたすけ​は*じょうなり。 ありがた​や​ありがた​や​と​よろこぶ​こころ​を、 りきだいぎょう催促さいそくなり​ともうす​とおおせ​られそうろふ​なり。

(19)

一 ^おんたすけ​あり​たる​こと​の​ありがたさ​よ​と念仏ねんぶつもうす​べくそうろふ​や、 またおんたすけ​あら​うずる​こと​の​ありがたさ​よ​と念仏ねんぶつもうす​べくそうろふ​や​と、 もうしあげそうろふ​とき、 おおせ​に、 0532いづれ​も​よし。 ただし正定しょうじょうじゅの​かた​はおんたすけ​あり​たる​と​よろこぶ​こころ、 めつの​さとり​の​かた​はおんたすけ​あら​うずる​こと​の​ありがたさ​よ​ともうす​こころ​なり。 いづれ​もぶつる​こと​を​よろこぶ​こころ、 よし​とおおそうろふ​なり。

(20)

一 ^*明応めいおうねんしょうがつじゅう三日さんにちとん殿どのよりじょうらくありて、 おおせ​に、 当年とうねんより​いよいよ信心しんじんなき​ひと​にはおんあひ​ある​まじき​と、 かたくおおそうろふ​なり。 安心あんじんの​とほり​いよいよおおせ​きか​せ​られ​て、 また*誓願せいがんのうを​させ​られ​けり

^*がつじゅう七日しちにちに​やがてとん殿どのこうありて、 *三月さんがつじゅう七日しちにち*さかい殿どのよりじょうらくありて、 1239じゅう八日はちにちおおせ​られそうろふ。 「しんきょうにんしん(*礼讃) の​こころ​をおおせ​きか​せ​られ​んがために、 *のぼくだ辛労しんろうなれども、 おんで​ある​ところ​は、 しんを​とり​よろこぶ​よしもうす​ほどに、 うれしく​て​また​のぼり​たり​とおおせ​られそうらひ​き。

(21)

一 ^がつここぬおおせ​られそうろふ。 安心あんじんを​とり​て​もの​を​いは​ば​よし。 ようない​こと​をば​いふ​まじき​なり。 一心いっしんの​ところ​をば​よくひとにも​いへ​と、 空善くうぜんじょうなり。

(220533)

一 ^*おなじきじゅうにちさかい殿どのこうあり。

(23)

一 ^*七月しちがつ二十はつじょうらくにて、 そのおおせ​られそうろふ。 「じょくあくの​われら​こそ 金剛こんごう信心しんじんばかり​にて ながくしょうを​すてはて​て ねんじょうに​いたる​なれ」 (高僧和讃)この​つぎ​をも法談ほうだんありて、 このしゅさんの​こころ​を​いひ​て​きか​せん​とて​のぼり​たり​とおおそうろふ​なり。 さて 「ねんじょうに​いたる​なり」、 「ながくしょうを​へだて​ける」、 さてさて​あら*おもしろ​や​おもしろ​や​と、 くれぐれじょうあり​けり。

(241240)

一 ^のたまはく、 「*南旡なも」 のしょうにん (親鸞)りゅうに​かぎり​て​あそばし​けり。 「南旡なも弥陀みだぶつ」 を*でいにてうつさ​せ​られ​て、 しきけ​させ​られ​ておおせ​られ​ける​は、 不可ふか思議しぎこうぶつ無礙むげこうぶつも​この南無なも弥陀みだぶつを​ほめ​たまふ*徳号とくごうなり。 しかれば南無なも弥陀みだぶつほんと​す​べし​とおおせ​られそうろふ​なり。

(25)

一 ^十方じっぽうりょう諸仏しょぶつの 証誠しょうじょうねんの​みこと​にて りきだいだいしんの かなは​ぬ​ほど​は​しり​ぬ​べし」 (*正像末和讃)さんの​こころ​をちょうもんもうし​たき​とじゅんせいもうしあげ​られ0534けり。 おおせ​に、 諸仏しょぶつ弥陀みだせ​らるる​を*のうと​し​たまへ​り
^*の​なか​に*あま​の​こころ​を​すて​よ​かし *うし​の​つの​は​さも​あらば​あれ」 と。 これ​は開山かいさん (親鸞)御歌おんうたなり。 されば​かたち​は​いら​ぬ​こと、 一心いっしんほんと​す​べし​と​なり。 にも 「かうべ​を​そる​と​いへどもこころを​そら​ず」 といふ​こと​が​ある​とおおせ​られそうろふ。

(26)

一 ^*とり部野べのを​おもひやる​こそ​あはれなれ ゆかり​のひとの​あと​と​おもへ​ば」。 これ​もしょうにん御歌おんうたなり。

(271241)

一 ^*明応めいおうねんがつ二十はつ開山かいさん (親鸞)*えいさま空善くうぜん*めんあり。 なかなか​ありがたさもうす​に​かぎり​なき​こと​なり。

(28)

一 ^*おなじきじゅう一月いちがつ報恩ほうおんこうじゅうにちに、 開山かいさんの ¬でん¼ (*御伝鈔)しょうにん (親鸞)ぜんにて上様うえさま (蓮如) あそばさ​れ​て、 いろいろ法談ほうだんそうろふ。 なかなか​ありがたさもうす​ばかり​なくそうろふ。

(29)

一 ^*明応めいおう六年ろくねんがつじゅう六日ろくにちじょうらくにて、 その開山かいさんしょうにん*えいしょうほん、 あつがみいち0535まいに​つつま​せ、 *みづから​のふでにて御座ござそうろふ​とて、 上様うえさまおんおんひろげそうらひ​て、 みなおがま​せ​たまへ​り。 このしょうほん、 まことに宿しゅくぜんなく​ては拝見はいけんもうさ​ぬ​こと​なり​とおおせ​られそうろふ。

(30)

一 ^のたまはく、 「諸仏しょぶつ三業さんごうしょうごんし​て ひっきょうびょうどうなる​こと​は しゅじょうおうしん口意くいを せ​んがため​と​のべ​たまふ」 (高僧和讃) といふは、 諸仏しょぶつ弥陀みだし​てしゅじょうを​たすけ​らるる​こと​よ​とおおせ​られそうろふ。

(311242)

一 ^一念いちねん信心しんじんを​え​て​のち​の相続そうぞくといふは、 さらにべつの​こと​に​あらず、 はじめほっする​ところの安心あんじん相続そうぞくせ​られ​て​たふとく​なる一念いちねんの​こころ​の​とほる​を、 憶念おくねんしんつね​に」 とも 「仏恩ぶっとん報謝ほうしゃ」 とも​いふ​なり。 いよいよみょう一念いちねんほっする​こと肝要かんようなり​とおおそうろふ​なり。

(32)

一 ^のたまはく、 ちょうせき、 「しょうしんさん」 にて念仏ねんぶつもうす​は、 おうじょう*たね0536に​なる​べき​か​なる​まじき​か​と、 おのおのぼうおんたづね​あり。 みなもうさ​れ​ける​は、 おうじょうの​たね​に​なる​べし​ともうし​たるひとも​あり、 おうじょうの​たね​には​なる​まじき​と​いふひとも​あり​ける​とき、 おおせ​に、 いづれ​も​わろし、 「しょうしんさん」 は、 しゅじょう弥陀みだ如来にょらい一念いちねんに​たのみ​まゐらせ​て、 しょうたすかり​まうせ​と​の​ことわり​を​あそばさ​れ​たり。 よく​ききわけ​てしんを​とり​て、 ありがた​や​ありがた​や​としょうにん (親鸞)ぜんにて​よろこぶ​こと​なり​と、 くれぐれおおそうろふ​なり。

(33)

一 ^南無なも弥陀みだぶつろくを、 しゅうには大善だいぜんだいどくにて​ある​あひだ、 となへ​て​このどく諸仏しょぶつさつ諸天しょてんに​まゐらせ​て、 そのどくを​わがものがほ​に​する​なり1243いちりゅうには​さ​なし。 このろくみょうごうわが​もの​にて​ありて​こそ、 となへ​てぶつさつに​まゐらす​べけれ。 一念いちねん一心いっしんしょうたすけ​たまへ​と​たのめ​ば、 やがておんたすけ​に​あづかる​こと​の​ありがたさ​ありがたさ​ともうす​ばかり​なり​とおおそうろふ​なり。

(34)

一 ^かわのくにあさ*後室こうしつおんいとまごひ​に​とて​まゐりそうろふ​に、 とん殿どのこう*あした​の​こと​なれば、 ことのほか​のおん*りみだし​にて御座ござそうろふ​に、 おおせ​に、 みょうごうを​ただ​となへ​てぶつに​まゐらする​こころ​にて​は​ゆめゆめ​なし。 弥陀みだを​しかとおんたすけそうらへ​と0537たのみ​まゐらすれ​ば、 やがてぶつおんたすけ​に​あづかる​を南無なも弥陀みだぶつもうす​なり。 しかれば、 おんたすけ​に​あづかり​たる​こと​の​ありがたさ​よ​ありがたさ​よ​と、 こころ​に​おもひ​まゐらする​を、 くちいだし​て南無なも弥陀みだぶつ南無なも弥陀みだぶつもうす​を、 仏恩ぶっとんほうずる​と​はもうす​こと​なり​とおおそうらひ​き。

(35)

一 ^じゅんせいもうしあげ​られそうろふ。 一念いちねんぽっのところ​にて、 つみみなしょうめつし​て正定しょうじょうじゅ退たいくらいさだまる​と、 *ふみに​あそばさ​れ​たり。 しかるにつみは​いのち​の​ある​あひだ1244つみも​ある​べし​とおおそうろふ。 ふみべつに​きこえ​まうしそうろふ​や​と、 もうしあげそうろふ​とき、 おおせ​に、 一念いちねんの​ところ​にてつみみなえ​て​と​ある​は、 一念いちねん信力しんりきにておうじょうさだまる​とき​は、 つみは​さはり​とも​なら​ず、 されば*ぶんなり。 いのちしゃに​あら​ん​かぎり​は、 つみき​ざる​なり。 じゅんせいは、 はやさとり​てつみは​なき​か​や。

^聖教しょうぎょうには 「一念いちねんの​ところ​にてつみえ​て」 と​ある​なり​とおおせ​られそうろふ。 つみの​ある​なし​の沙汰さたを​せん​より​は、 信心しんじんり​たる​から​ざる​か​の沙汰さたを​いくたび​も​いくたび​も​よし。 つみえ​ておんたすけ​あら​ん​とも、 つみえ​ず​しておんたすけ​ある​べし​とも、 弥陀みだおんはからひ​なり、 われ​として​はからふ​べから​ず。 ただ信心しんじん肝要かんようなり​と、 くれぐれおおせ​られそうろ0538ふ​なり。

(36)

一 ^真実しんじつ信心しんじん称名しょうみょうは 弥陀みだこうほうなれば こうと​なづけ​て​ぞ りきしょうねんきらは​るる」 (正像末和讃) といふは、 弥陀みだの​かた​より、 *たのむ​こころ​も、 たふと​や​ありがた​や​と念仏ねんぶつもうす​こころ​も、 みな​あたへ​たまふ​ゆゑに、 と​や​せん​かく​や​せん​と​はからう​て念仏ねんぶつもうす​は、 りきなれば​きらふ​なり​とおおそうろふ​なり。

(371245)

一 ^*しょうしょうと​は、 極楽ごくらくしょう三界さんがいを​へめぐる​こころ​にて​あらざれ​ば、 極楽ごくらくしょうしょうしょうと​いふ​なり。

(38)

一 ^こうといふは、 弥陀みだ如来にょらいの、 しゅじょうおんたすけ​を​いふ​なり​とおおせ​られそうろふ​なり。

(39)

一 ^おおせ​に、 一念いちねんぽっおうじょうけつじょうなり。 つみし​てたすけ​たまは​ん​とも、 つみさ​ず​して​たすけ​たまは​ん​とも、 弥陀みだ如来にょらいおんはからひ​なり。 つみ沙汰さたやくなり。 たのむしゅじょうほんたすけ​たまふ​こと​なり​とおおせ​られそうろふ​なり。

(400539)

一 ^おおせ​に、 *を​すて​て*おのおの​とどうする​をばしょうにん (親鸞)おおせ​にも、 かい信心しんじんひとは​みなきょうだいおおせ​られ​たれ​ば、 われ​も​そのおんことば​の​ごとくなり。 またどうをも​して​あらば、 しんなる​こと​をもへ​かし、 しんを​よく​とれ​かし​と​ねがふ​ばかり​なり​とおおせ​られそうろふ​なり。

(411246)

一 ^愛欲あいよく広海こうかい沈没ちんもつし、 みょう大山たいせん迷惑めいわくして、 じょうじゅかずる​こと​をよろこば​ず、 しんしょうしょうちかづく​こと​をたのしま​ず」 (信巻・末)もう沙汰さたに、 *しんの​あつかひ​ども​にて、 おうじょうせ​んずる​か、 す​まじき​なんど​と​たがひにもうし​あひ​ける​を、 ものごし​に​きこしめさ​れ​て、 愛欲あいよくみょうも​みな煩悩ぼんのうなり、 されば*の​あつかひ​を​する​は雑修ざっしゅなり​とおおそうろふ​なり。 ただしんずる​ほか​はべつの​こと​なし​とおおせ​られそうろふ。

(42)

一 ^*ゆふさり、 *案内あんないをももうさ​ず、 ひとびと​おほく​まゐり​たる​を、 *美濃みの殿どの*まかりいでそうらへ​と、 あらあら​とおんもうし​の​ところ​に、 おおせ​に、 さやうに​いは​ん​ことば​にて、 *一念いちねん​の​こと​を​いひ​て​きか​せ​てせ​かし​と。 東西とうざいはしりまはり​て​いひ​たき​こと​なり​と0540おおせ​られそうろふ​とき、 きょうもんぼうなみだながし、 あやまり​てそうろふ​とて讃嘆さんだんあり​けり。 皆々みなみな落涙らくるいもうす​こと​かぎり​なかり​けり。

(43)

一 ^*明応めいおう六年ろくねんじゅう一月いちがつ報恩ほうおんこうじょうらくなくそうろふ​あひだ、 *ほうきょうぼうおん使つかひ​として、 当年とうねん*在国ざいこくにて御座ござそうろふ​あひだ、 *こうを​なにと沙汰さたある​べき​や​と、 1247たづねおんもうそうろふ​に、 当年とうねんより​はゆうべ*つどき、 あさつどき​を​かぎり​に、 みな退散たいさんある​べし​と​のふみを​つくら​せ​て、 かくのごとく​めさ​る​べき​よしじょうあり。 *どうよる宿とまりしゅうも​その*頭人とうにんばかり​とじょうなり。 また上様うえさま (蓮如)なぬこうの​うち​をとん殿どのにてみっおんつとめ​ありて、 じゅうよっには*大坂おおざか殿どのこうにて御勤行おつとめなり。

(44)

一 ^*おなじき七年しちねんなつより​また*れいにて御座ござそうろふ​あひだ、 *がつなぬおんいとまごひ​に*しょうにんおんまゐり​あり​たき​とおおせ​られ​て、 じょうらくにて、 やがておおせ​に、 信心しんじんなき​ひと​には​あふ​まじき​ぞ。 しんを​うる​もの​にはし​ても​み​たくそうろふ、 ふ​べし​とおおせ​なり​とうんぬん

(450541)

一 ^いまひといにしえを​たづぬ​べし。 またふるひといにしえを​よく​つたふ​べし。 ものがたりする​ものなり。 しるし​たる​もの​はせ​ずそうろふ。

(46)

一 ^あか*どうしゅうもうさ​れそうろふ。 一日いちにち*たしなみ​にはあさつとめ​に​かかさ​じ​と​たしなむ1248べし。 一月ひとつきの​たしなみ​には​ちかき​ところ*開山かいさんさま (親鸞)御座ござそうろふ​ところ​へ​まゐる​べし​と​たしなめ、 一年いちねんの​たしなみ​には*ほんへ​まゐる​べし​と​たしなむ​べし​とうんぬん。 これ​を*円如えんにょさまきこしめし​およば​れ、 よくもうし​たる​とおおせ​られそうろふ。

(47)

一 ^わがこころに​まかせ​ず​してこころめ​よ。 仏法ぶっぽうこころの​つまるものか​と​おもへ​ば、 信心しんじんおんなぐさみそうろふ​とおおせ​られそうろふ。

(48)

一 ^ほうきょうぼうじゅうまで存命ぞんめいそうろふ。 このとしまでちょうもんもうそうらへ​ども、 これ​まで​とぞんたる​こと​なし、 あき​たり​も​なき​こと​なり​ともうさ​れそうろふ。

(49)

一 ^*山科やましなにて法談ほうだん御座ござそうろふ​とき、 あまりに​ありがたきじょうども​なり​とて、 これ​を0542わすれ​まうし​ては​とぞんじ、 しきを​たちどう六人ろくにんより​て*談合だんごうそうらへ​ば、 面々めんめんに​きき​かへ​られそうろふ。 その​うち​ににんは​ちがひそうろふ。 だいの​こと​にてそうろふ​ともうす​こと​なり。 き​まどひ​ある​ものなり。

(501249)

一 ^蓮如れんにょしょうにん御時おんとき*こころざし​のしゅうぜんに​おほくそうろふ​とき、 この​うち​にしんを​え​たる​もの​いくたり​ある​べき​ぞ、 ひとふたか​ある​べき​か、 などじょうそうろふ​とき、 おのおのきもを​つぶしそうろふ​ともうさ​れそうろふ​よし​にそうろふ。

(51)

一 ^ほうきょうもうさ​れそうろふ。 讃嘆さんだんの​とき​なに​も​おなじ​やう​に​きか​で、 ちょうもん*かど​を​きけ​ともうさ​れそうろふ。 *せんある​ところ​を​きけ​と​なり。

(52)

一 ^憶念おくねん称名しょうみょういさみ​ありて」 (報恩講私記) と​は、 称名しょうみょう*いさみの念仏ねんぶつなり。 しんの​うへ​は​うれしく​いさみ​てもう念仏ねんぶつなり。

(53)

一 ^ふみの​こと、 聖教しょうぎょうみ​ちがへ​も​あり、 こころえ​も​ゆか​ぬ​ところ​も​あり。 0543ふみみ​ちがへ​も​ある​まじき​とおおせ​られそうろふ。 慈悲じひの​きはまり​なり。 これ​を​きき​ながら​こころえ​の​ゆか​ぬ​は*宿しゅくぜんなり。

(54)

一 ^いちりゅうおんこと、 この​とし​までちょうもんもうそうろう​て、 おんことば​を​うけたまはり1250そうらへ​ども、 ただこころおんことば​の​ごとくなら​ず​と、 ほうきょうもうさ​れそうろふ。

(55)

一 ^*実如じつにょしょうにん*さいさいおおせ​られそうろふ。 仏法ぶっぽうの​こと、 わが​こころ​に​まかせ​ず​たしなめ​とじょうなり。 こころ​に​まかせ​ては、 *さてなり。 すなはち​こころ​に​まかせ​ず​たしなむこころりきなり。

(56)

一 ^いちりゅううけたまわり​わけ​たる​ひと​は​あれども、 き​う​るひとは​まれ​なり​といへり。 しんを​うるまれなり​といへるこころなり。

(57)

一 ^蓮如れんにょしょうにんじょうには、 仏法ぶっぽうの​こと​を​いふ​に、 けんの​こと​に*とりなすひとのみ​なり。 それを*退屈たいくつせず​して、 また仏法ぶっぽうの​こと​に​とりなせ​とおおせ​られそうろふ​なり。

(580544)

一 ^たれ​の​ともがら​も、 われ​は​わろき​と​おもふ​もの、 ひととして​も​ある​べから​ず。 これ*しかしながら、 しょうにん (親鸞)*ばつを​かうぶり​たる​すがた​なり。 これ​によりてひとづつ​もしんちゅうを​ひるがへさ​ずは、 ながき ˆはˇ *ないに​ふかくしず1251べき​もの​なり。 これ​と​いふ​も​なにごと​ぞ​なれば、 真実しんじつ仏法ぶっぽうの​そこ​を​しら​ざる​ゆゑなり。

(59)

一 ^みなひと​の​まこと​のしんは​さらに​なし ものしりがほ​のぜいにて​こそ」。 *近松ちかまつ殿どの*さかいこうの​とき、 *なげし​に*おし​て​おか​せ​られそうろふ。 あと​にて​この​こころ​を​おもひ​いだしそうらへ​とじょうなり。 *光応こうおう殿どのしんなり。 「ものしりがほ」 と​は、 われ​は​こころえ​たり​と​おもふ​が​この​こころ​なり。

(60)

一 ^ほうきょうぼう安心あんじんの​とほり​ばかり讃嘆さんだんする​ひと​なり。 「ごん南無なもしゃ(*玄義分)しゃくをば、 いつ​も​はづさ​ずひとなり。 それ​さへ、 *さしよせ​てもうせ​と、 蓮如れんにょしょうにんじょうそうろふ​なり。 ことば​すくな​に安心あんじんの​とほりもうせ​とじょうなり。

(610545)

一 ^*ぜんしゅうもうさ​れそうろふ。 *こころざしもうそうろふ​とき、 わがものがほ​に​もち​て​まゐる​は​はづかしき​よしもうさ​れそうろふ。 なにと​し​たる​こと​にてそうろふ​や​ともうそうらへ​ば、 これ​は​みな*ゆうの​もの​にて​ある​を、 わが​もの​の​やう​に​もち​て​まゐる​ともうさ​れそうろ1252。 ただ上様うえさま (蓮如) の​もの、 とりつぎそうろふ​こと​にてそうろふ​を、 *わがものがほ​にぞんずる​か​ともうさ​れそうろふ。

(62)

一 ^*つのくにぐん主計かずえもうひとあり。 ひまなく念仏ねんぶつもうす​あひだ、 ひげ​をる​ときら​ぬ​こと​なし。 わすれ​て念仏ねんぶつもうす​なり。 ひとくちはたらか​ねば念仏ねんぶつも​すこし​の​あひだ​ももうさ​れ​ぬ​か​と、 こころもとなき​よし​にそうろふ。

(63)

一 ^*仏法ぶっぽうしゃもうさ​れそうろふ。 わかき​とき仏法ぶっぽうは​たしなめ​とそうろふ。 としよれ​ばぎょうも​かなは​ず、 ねぶたく​も​ある​なり。 ただ​わかき​とき​たしなめ​とそうろふ。

(64)

一 ^しゅじょうを​しつらひ​たまふ。 「しつらふ」 といふは、 しゅじょうの​こころ​を​その​まま​おき​て、 よき​こころ​をおんくはへそうらひ​て、 *よく​めさ​れそうろふ。 しゅじょうの​こころ​を​みな​とりかへ​て、 ぶっばかり​にて、 べつおんみたてそうろふ​こと​にて​は​なくそうろふ。

(650546)

一 ^わがさいほど*便びんなる​こと​なし。 それ​をかんせ​ぬ​は​あさましき​こと​なり。 宿しゅく1253ぜんなく​は​ちから​なし。 わがを​ひとつかんせ​ぬ​もの​が​ある​べき​か。

(66)

一 ^きょうもんぼうの​いは​れそうろふ。 しんは​なく​て*まぎれまはる​と、 ごくが​ちかく​なる。 まぎれまはる​が​あらはれ​ばごくが​ちかく​なる​なり。 *うちみ​はしんしんみえ​ずそうろふ。 とほく​いのち​を​もた​ず​して、 今日きょうばかり​とおもへ​と、 ふる*こころざし​の​ひともうさ​れそうろふ。

(67)

一 ^いち*ちかひ​がいちの​ちかひ​なり。 いちの​たしなみ​がいちの​たしなみ​なり。 その​ゆゑは、 その​まま​いのち​をはれ​ばいちの​ちかひ​に​なる​によりて​なり。

(68)

一 ^今日きょうばかり​おもふ​こころ​をわする​な​よ *さなき​は​いとど​のぞみ​おほき​に」 *覚如かくにょさま御歌おんうた

(690547)

一 ^*りゅうには、 みょうごうより​はぞうぞうより​は木像もくぞうと​いふ​なり。 *とうりゅうには、 木像もくぞうより​はぞうぞうより​はみょうごうと​いふ​なり。

(701254)

一 ^*ほん北殿きたどのにて、 ほうきょうぼうたいし​て蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 われ​は​なにごと​をも*とうを​かがみ​おぼしめし、 とおある​もの​をひとつ​に​する​やう​に、 かろがろとの​やがてかなふ​やう​に沙汰さたそうろふ。 これ​をひとかんがへ​ぬ​とおおせ​られそうろふ。 ふみとうをも近年きんねんおんことば​すくな​に​あそばさ​れそうろふ。 いま​は​もの​をく​うち​にも退屈たいくつし、 ものき​おとす​あひだ、 肝要かんようの​こと​を​やがて​しりそうろふ​やう​に​あそばさ​れそうろふ​の​よしおおせ​られそうろふ。

(71)

一 ^法印ほういん*兼縁けんえんようしょうとき*二俣ふたまたにて​あまた*みょうごうもうそうろとき信心しんじんや​ある、 おのおの​とおおせ​られそうろふ。 信心しんじんˆそのˇ たいみょうごうにてそうろふ。 いまおもひ​あはせそうろふ​と​のそうろふ。

(72)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 *さかい日向ひゅうがさんじゅう万貫まんがんち​たれ​ども、 に​たる​がぶつにはそうろふ​まじ。 大和やまと*了妙りょうみょうかたびらひとつ​をもかねそうらへ​ども、 このたびぶつる​べき​よ​と、 おおせ​られそうろふ​よし​にそうろふ。

(731255)  0548

一 ^蓮如れんにょしょうにんきゅうほう*ほっしょうもうさ​れそうろふは、 一念いちねんしょうおんたすけそうらへ​と弥陀みだを​たのみ​たてまつりそうろふ​ばかり​にておうじょういちじょうぞんそうろふ。 *かやうに​ておんそうろふ​か​ともうさ​れそうらへ​ば、 あるひとわき​より、 それ​は​いつ​も​の​こと​にてそうろふ。 べつの​こと、 しんなる​こと​などもうさ​れそうらは​で​ともうさ​れそうらへ​ば、 蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 それ​ぞ​とよ、 わろき​と​は。 めづらしき​こと​をき​たく​おもひ​しり​たくおもふ​なり。 しんの​うへ​にて​は​いくたび​もしんちゅうの​おもむき、 かやうにもうさ​る​べき​こと​なる​よしおおせ​られそうろふ。

(74)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 一向いっこう*しんの​よしもうさる​るひとは​よくそうろふ。 ことば​にて安心あんじんの​とほりもうそうらひ​て、 くちには​おなじ​ごとくに​て、 *まぎれ​てむなしく​なる​べきひとかなしくおぼそうろ​よしおおせ​られそうろふ​なり。

(75)

一 ^しょうにん (親鸞)いちりゅう弥陀みだ如来にょらいじょうなり。 さればふみには 「弥陀みだ如来にょらいおおせ​られ​ける​やう​は」 と​あそばさ​れそうろふ。

(761256)  0549

一 ^蓮如れんにょしょうにんほうきょうたいせ​られおおせ​られそうろふ。 いま​この弥陀みだを​たのめ​といふ​こと​をおんおしそうろひとを​しり​たる​か​とおおせ​られそうろふ。 じゅんせいぞんぜ​ず​ともうさ​れそうろふ。 いまおんをしへそうろひとを​いふ​べし。 *鍛冶かじばんしょうなど​もものを​をしふる​に*ものいだす​ものなり。 いちだいの​こと​なり。 なんぞ​もの​を​まゐらせ​よ。 いふ​べき​とおおせ​られそうろときじゅんせい*なかなか*なにたる​もの​なり​ともしんじょういたす​べき​ともうさ​れそうろふ。 蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 この​こと​を​をしふるひと弥陀みだ如来にょらいにてそうろふ。 弥陀みだ如来にょらいの​われ​を​たのめ​と​のおんをしへ​にてそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。

(77)

一 ^ほうきょうぼう蓮如れんにょしょうにんもうさ​れそうろふ。 あそばさ​れそうろみょうごうけ​まうしそうろふ​が、 六体ろくたいぶつに​なり​まうしそうろふ。 思議しぎなる​こと​ともうさ​れそうらへ​ば、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) その​ときおおせ​られそうろふ。 それ​は思議しぎにて​も​なき​なり。 ぶつぶつおんそうろふ​は思議しぎにて​も​なくそうろふ。 あくぼん弥陀みだを​たのむ一念いちねんにてぶつる​こそ思議しぎよ​とおおせ​られそうろふ​なり。

(78)

一 ^*ちょうせき如来にょらいしょうにん (親鸞)ゆうにてそうろふ​あひだ、 *みょうの​かた​を​ふかくぞん1257ず​べき​よし、 折々おりおり前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ​よし​にそうろふ。

(790550)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ。 「*むと​は​しる​とも、 む​と​しら​す​な」 といふ​こと​が​ある​ぞ。 さいたいぎょちょうぶくし、 ざいしょうなり​と​いひ​て、 さのみおもひ​の​まま​には​ある​まじき​よしおおせ​られそうろふ。

(80)

一 ^仏法ぶっぽうには無我むがおおせ​られそうろふ。 われ​とおもふ​こと​は​いささか​ある​まじき​こと​なり。 われ​は​わろし​と​おもふひとなし。 これしょうにん (親鸞)ばつなり​と、 おんことばそうろふ。 りきおんすすめ​にてそうろふ。 ゆめゆめ​われ​といふ​こと​は​あるまじくそうろふ。 無我むがといふ​こと、 ぜんじゅうしょうにん (実如) も​たびたびおおせ​られそうろふ。

(81)

一 ^ごろ​しれ​る​ところ​をぜんしきに​あひ​てへ​ば*徳分ある​なり」 (*浄土見聞集・意)。 しれ​る​ところ​をへ​ば徳分とくぶんある​といへる​がしゅしょうの​ことば​なり​と、 蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 ら​ざる​ところ​をは​ば​いかほどしゅしょうなる​こと​ある​べき​とおおせ​られそうろふ。

(82)

一 ^ちょうもんもうす​もたいりゃくわが​ため​と​は​おもはず、 ややもすれば*法文ほうもんひとつ​をも​ききおぼえ​て、 ひと*うりごころ​ある​と​のおおせ​ごと​にてそうろふ。

(831258)  0551

一 ^一心いっしんに​たのみ​たてまつるは、 如来にょらいの​よく​しろしめす​なり。 弥陀みだの​ただ​しろしめす​やう​にしんちゅうを​もつ​べし。 みょう*おそろしくぞんず​べき​こと​にてそうろふ​と​のそうろふ。

(84)

一 ^ぜんじゅうしょうにん (実如) おおせ​られそうろふ。 前々ぜんぜんじゅう (蓮如) より相続そうぞく*べつなき​なり。 ただ弥陀みだたのむ一念いちねんより​ほか​はべつなくそうろふ。 これ​より​ほかぞんなくそうろふ。 いかやう​の誓言せいごんも​ある​べき​よしおおせ​られそうろふ。

(85)

一 ^おなじくおおせ​られそうろふ。 *ぼんおうじょう、 ただ​たのむ一念いちねんにてぶつら​ぬ​こと​あらば、 いかなる誓言せいごんをもおおせ​らる​べき。 しょう南無なも弥陀みだぶつなり。 十方じっぽう諸仏しょぶつしょうにんにてそうろふ。

(861259)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 ものを​いへ​いへ​とおおせ​られそうろふ。 ものもうさ​ぬ​もの​は​おそろしき​とおおせ​られそうろふ。 *しんしんともに、 ただものを​いへ​とおおせ​られそうろふ。 ものもうせ​ば心底しんていも​きこえ、 またひとにもなおさ​るる​なり。 ただものもうせ​とおおせ​られそうろふ。

(87)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 仏法ぶっぽうは、 つとめ​の*ふしはかせ​も​しら​で​よく​する​とおもふ​なり0552。 つとめ​のふしわろき​よし​をおおせ​られ、 きょうもんぼうを​いつ​も*とりつめおおせ​られ​つる​よし​にそうろふ。 それ​につきて蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 *一向いっこうに​わろきひとちがひ​など​といふ​こと​も​なし。 ただ​わろき​まで​なり。 わろし​ともおおせ​ごと​も​なき​なり。 ほうをも​こころ​に​かけ、 ちと​こころえ​も​ある​うへ​のちがひ​が、 ことのほか​のちがひ​なり​とおおせ​られそうろふ​よし​にそうろふ。

(88)

一 ^ひとの​こころえ​の​とほりもうさ​れ​ける​に、 わが​こころ​は​ただかごみずそうろふ​やう​に、 仏法ぶっぽうしきにて​は​ありがたく​も​たふとく​もぞんそうろふ​が、 やがて​もと​のしんちゅうに​なさ​れそうろふ​と、 もうさ​れそうろふ​ところ​に、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろ1260ふ。 そのかごみずに​つけ​よ、 わがをばほう*ひて​て​おく​べき​よしおおせ​られそうろふ​よし​にそうろふ。
^ばんしんなき​によりて​わろき​なり。 ぜんしきの​わろき​とおおせ​らるる​は、 しんの​なき​こと​を*くせごと​とおおせ​られそうろふ​こと​にそうろふ。

(89)

一 ^聖教しょうぎょう拝見はいけんもうす​も、 *うかうか​とおがみ​まうす​は​そのせんなし。 蓮如れんにょしょうにんは、 ただ聖教しょうぎょうをば*くれ​くれ​とおおせ​られそうろふ。 またひゃっぺんこれ​を​みれ​ば*義理ぎりおのづからる​ともうす​こと​も​あれば、 こころを​とどむ​べき​こと​なり 聖教しょうぎょう*めんの​ごとく​こころう​べし。 その​うへ​にて*でん*ごうは​ある​べき​なり。 *わたくしにしてしゃくする​こと​しかるべから​ざる​こと​なり。

(900553)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 りき信心しんじんりき信心しんじんと​みれ​ば、 あやまり​なき​よしおおせ​られそうろふ。

(91)

一 ^われ​ばかり​とおもひ、 *独覚どくかくしんなる​こと、 あさましき​こと​なり。 しんあらばぶつ慈悲じひを​うけとり​まうす​うへは、 われ​ばかり​とおもふ​こと​は​ある​まじくそうろふ。 触光そくこうにゅう1261なんがん (第三十三願) そうろふ​とき​は、 こころも​やはらぐ​べき​こと​なり。 されば縁覚えんがく独覚どくかくの​さとり​なる​がゆゑに、 ぶつら​ざる​なり。

(92)

一 ^いっ一言いちごんもうす​もの​は、 われとおもひ​てものもうす​なり。 しんの​うへ​は​われ​は​わろし​とおもひ、 また報謝ほうしゃおもひ、 ありがたさ​のあまり​をひとにももうす​こと​なる​べし。

(93)

一 ^しんも​なく​て、 ひとしんを​とら​れ​よ​とら​れ​よ​ともうす​は、 われ​はものを​もた​ず​してひとものを​とら​す​べき​といふ​のこころなり。 ひと*しょういんある​べから​ず​と、 ぜんじゅうしょうにん (蓮如) もうさ​る​とじゅんせいおおせ​られそうらひ​き。 「しんきょうにんしん(礼讃)そうろときは、 まづ​わが信心しんじんけつじょうし​て、 ひとにもおしへ​て0554仏恩ぶっとんに​なる​と​の​こと​にそうろふ。 しん安心あんじんけつじょうし​ておしふる​は、 すなはち 「だいでん普化ぷけ(礼讃)どうなる​よし、 おなじくおおせ​られそうろふ。

(94)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 聖教しょうぎょうよみ​の聖教しょうぎょうよま​ず​あり、 聖教しょうぎょうよま​ず​のしょうぎょう1262よみ​あり。 いちもんをも​しら​ね​ども、 ひと聖教しょうぎょうを​よま​せちょうもんさせ​てしんを​とら​する​は、 聖教しょうぎょうよま​ず​の聖教しょうぎょうよみ​なり。 聖教しょうぎょうをば​よめ​ども、 真実しんじつに​よみ​も​せずほうも​なき​は、 聖教しょうぎょうよみ​の聖教しょうぎょうよま​ず​なり​とおおせ​られそうろふ。

  ^*しんきょうにんしんどうなり​とおおせ​られそうろふ​こと。

(95)

一 ^聖教しょうぎょうよみ​の、 仏法ぶっぽうもうし​たて​たる​こと​は​なくそうろふ。 *あまにゅうどうの​たぐひ​の​たふと​や​ありがた​や​ともうさ​れそうろふ​を​きき​ては、 ひとしんを​とる​と、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ​よし​にそうろふ。 なに​も​しら​ね​ども、 ぶつ*加備かびりきの​ゆゑにあまにゅうどうなど​の​よろこば​るる​を​きき​ては、 ひとしんを​とる​なり。 聖教しょうぎょうを​よめ​ども、 *みょうもんが​さき​に​たち​てこころにはほうなき​ゆゑに、 ひと信用しんようなき​なり。

(960555)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 とうりゅうには、 *総体そうたい*けんわろし。 仏法ぶっぽうの​うへ​より​なにごと​も​あひ​はたらく​べき​こと​なる​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(97)

一 ^おなじくおおせ​られそうろふ。 けんにて、 *時宜じぎしかるべき​は​よきひとなり​と​いへども1263しんなく​は*こころを​おく​べき​なり。 *便たより​にも​なら​ぬ​なり。 たとひ*かたつぶれ、 こしを​ひきそうろふ​やう​なる​もの​なり​とも、 信心しんじんあら​んひとをば​たのもしくおもふ​べき​なり​とおおせ​られそうろふ。

(98)

一 ^*きみおもふ​は​われ​をおもふ​なり。 ぜんしきおおせ​にしたがしんを​とれ​ば、 極楽ごくらくへ​まゐる​ものなり。

(99)

一 ^おんごうよりひさしきぶつ弥陀みだぶつなり。 かり*果後かご方便ほうべんによりて誓願せいがんを​まうけ​たまふ​こと​なり。

(100)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 弥陀みだを​たのめるひとは、 南無なも弥陀みだぶつ*をば​まるめ​たる​こと​なり​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん。 いよいよみょうぞんず​べき​の​よし​にそうろふ。

(1010556)

一 ^*たん法眼ほうげん 蓮応れんのう しょうととのへ​られ、 前々ぜんぜんじゅうしょうにんぜん*こうそうらひ​しとき1264おおせ​られそうろふ。 ころもの​えり​をおんたたき​あり​て、 南無なも弥陀みだぶつよ​とおおせ​られそうろふ。 またぜんじゅうしょうにん (実如)おんたたみ​を​たたか​れ、 南無なも弥陀みだぶつに​もたれ​たる​よしおおせ​られそうらひ​き。 南無なも弥陀みだぶつをば​まるめ​たる​とおおせ​られそうろふ​と*ごうもうそうろふ。

(102)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 仏法ぶっぽうの​うへ​には、 ことごと​につきてそらおそろしき​こと​とぞんそうろふ​べくそうろふ。 ただ​よろづ​につきてだんある​まじき​こと​とぞんそうらへ​の​よし、 折々おりおりおおせ​られそうろふ​とうんぬん仏法ぶっぽうには明日あすもうす​こと​ある​まじくそうろふ。 仏法ぶっぽうの​こと​は​いそげ​いそげ​とおおせ​られそうろふ​なり。

(103)

一 ^おなじくおおせ​に、 今日きょうは​ある​まじき​とおもへ​とおおせ​られそうろふ。 なにごと​も​かきいそぎ​てもの沙汰さたそうろふ​よし​にそうろふ。 ながなが​し​たる​こと​をおんきらひ​の​よし​にそうろふ。 仏法ぶっぽうの​うへ​には、 明日あすの​こと​を今日きょうする​やう​に​いそぎ​たる​こと、 *しょうがんなり。

(1041265)

一 ^おなじくおおせ​に​いはく、 しょうにん (親鸞)*えいもうす​はだいの​こと​なり。 むかし本尊ほんぞんより​ほか​は御座ござなき​こと​なり。 しんなく​は​かならずばつこうむる​べき​よしおおせ​られそうろふ。

(1050557)

一 ^せつ到来とうらいといふ​こと、 用心ようじんをも​して​その​うへ​にことできそうろふ​を、 せつ到来とうらいと​は​いふ​べし。 用心ようじんにてできそうろふ​をせつ到来とうらいと​は​いは​ぬ​こと​なり。 ちょうもんこころがけ​て​の​うへ​の宿しゅくぜん宿しゅくぜんとも​いふ​こと​なり。 ただ信心しんじんは​きく​に​きはまる​こと​なる​よしおおせ​の​よしそうろふ。

(106)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん(蓮如) ほうきょうたいし​ておおせ​られそうろふ。 まきたて​といふ​ものり​たる​か​と。 ほうきょうへんに、 まきたて​ともうす​はいちたね​をき​て*を​ささ​ぬ​もの​にそうろふ​ともうさ​れそうろふ。 おおせ​に​いはく、 それ​ぞ、 まきたて​わろき​なり。 ひとなおさ​れ​まじき​とおもこころなり。 しんちゅうをばもうし​いだし​てひとなおさ​れそうらは​では、 こころなおる​こと​ある​べから​ず。 まきたて​にて​はしんを​とる​こと​ある​べから​ず​とおおせ​られそうろうんぬん

(1071266)

一 ^なにとも​してひとなおさ​れそうろふ​やう​にしんちゅうつ​べし。 わがしんちゅうをばどうぎょうの​なか​へち​いだし​て​おく​べし。 *と​し​たるひとの​いふ​こと​をばもちゐ​ず​して​かならず*ふくりゅうする​なり。 あさましき​こと​なり。 ただひとなおさ​るる​やう​にしんちゅうつ​べきそうろふ。

(1080558)

一 ^ひとの、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)もうさ​れそうろふ。 一念いちねんところけつじょうにてそうろふ。 ややもすれば、 ぜんしきおんことば​を​おろそかにぞんそうろふ​よしもうさ​れそうらへ​ば、 おおせ​られそうろふ​は、 もつともしんの​うへ​は*そうぎょうこころある​べき​なり。 さりながら、 ぼんこころにて​は、 かやう​のしんちゅうの​おこら​んとき勿体もったいなき​こと​と​おもひすつ​べし​とおおせ​られ​し​とうんぬん

(109)

一 ^蓮如れんにょしょうにん兼縁けんえんたいせ​られおおせ​られそうろふ。 たとひ*かわを​きる​いろめ​なり​とも、 *な​わび​そ。 ただ弥陀みだを​たのむ一念いちねんを​よろこぶ​べき​よしおおせ​られそうろふ。

(110)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ。 じょうろうにゃくに​よら​ず、 しょうだんにて​し​そんず1267べき​の​よしおおせ​られそうろふ。

(111)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) 御口おんくちの​うちおんわずらそうろふ​に、 をりふしおんを​ふさが​れ、 ああ、 とおおせ​られそうろふ。 ひとしんなき​こと​をおもふ​こと​は、 を​きりさく​やう​に​かなしき​よ​とおおせ​られそうろふ​よし​にそうろふ。

(1120559)

一 ^おなじくおおせ​に、 われ​はひと*かがみ、 ひとに​したがひ​て仏法ぶっぽうおんか​せそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。 いかにもひとの​すき​たる​こと​などもうさ​せ​られ、 うれし​や​とぞんそうろふ​ところ​に、 また仏法ぶっぽうの​こと​をおおせ​られそうろふ。 いろいろ方便ほうべんにて、 ひとほうおんか​せそうらひ​つる​よし​にそうろふ。

(113)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ。 人々ひとびと仏法ぶっぽうしんじ​て​われ​に​よろこば​せ​ん​とおもへ​り。 それ​は​わろし。 しんを​とれ​ばしん*しょうとくなり。 さりながら、 しんを​とら​ば、 おんにもおんうけ​ある​べき​とおおせ​られそうろふ。 また、 き​たく​も​なき​こと​なり​とも、 まことにしんを​とる​べき​ならば、 きこしめす​べき​よしおおせ​られそうろふ。

(1141268)

一 ^おなじくおおせ​に、 まことに一人いちにんなり​ともしんを​とる​べき​ならば、 てよ。 それ​は​すたら​ぬ​とおおせ​られそうろふ。

(115)

一 ^あるときおおせ​られそうろふ。 もんこころなおす​と​きこしめし​て、 *おいしわを​のべそうろふ​とおおせ​られそうろふ。

(1160560)

一 ^あるもんしゅうおんたずそうろふ。 そなた​のぼうこころなおり​たる​を​うれしくぞんずる​か​とおんたずそうらへ​ば、 もうさ​れそうろふ。 まことにこころなおさ​れ、 ほうこころに​かけ​られそうろふ。 一段いちだんありがたく​うれしくぞんそうろふ​よしもうさ​れそうろふ。 そのときおおせ​られそうろふ。 われ​は​なほ​うれしくおもふ​よ​とおおせ​られそうろふ。

(117)

一 ^をかしき*事態わざをも​させ​られ、 仏法ぶっぽう退屈たいくつつかまつそうろふ​もの​のこころをも​くつろげ、 そのをもうしなは​し​て、 また​あたらしくほうおおせ​られそうろふ。 まことに*ぜんぎょう方便ほうべん、 ありがたき​こと​なり。

(1181269)

一 ^*天王てんのう土塔つちとう前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) らんそうらひ​ておおせ​られそうろふ。 あれ​ほど​の​おほきひとどもごくへ​おつ​べし​と、 *便びんおぼそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。 また​その​なか​にもんひとぶつる​べし​とおおせ​られそうろふ。 これ​また​ありがたきおおせ​にてそうろふ。

 

れんにょしょうにん一代いちだい*聞書ききがき ほん

 

1270蓮如れんにょ0561しょうにん一代いちだい*聞書ききがき まつ

 

(119)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (*蓮如) 法談ほうだん以後いご四五しごにん*きょうだいおおせ​られそうろふ。 四五しごにんしゅう*より談合だんごうせよ。 かならずにんにんながら*ぎょうに​きく​ものなる​あひだ、 よくよく談合だんごうす​べき​の​よしおおせ​られそうろふ。

(120)

一 ^*たとひ​なき​こと​なり​とも、 ひともうそうらは​ば、 *とう領掌りょうしょうす​べし。 とうことばかえせ​ば、 ふたたび​いは​ざる​なり。 ひとの​いふ​こと​をば​ただ​ふかく*用心ようじんす​べき​なり。 これ​につきて​あるひと、 あひ​たがひに​あしき​こと​をもうす​べし​と、 *契約けいやくそうらひ​し​ところ​に、 すなはち一人いちにんの​あしき​さま​なる​こともうし​けれ​ば、 われ​は​さやうにぞんぜ​ざれ​ども、 ひともうす​あひだ​さやうにそうろ​ともうす。 されば​この返答へんとうあしき​と​の​こと​にそうろふ。 さなき​こと​なり​とも、 とうは​さぞ​ともうす​べき​こと​なり。

(1211271)

一 ^いっしゅうはんじょうもうす​は、 ひとの​おほく​あつまり、 *の​おほきなる​こと​にて​は​なくそうろふ。 一人いちにんなり0562とも、 ひとしんを​とる​が、 いっしゅうはんじょうそうろふ。 しかれば、 「専修せんじゅ正行しょうぎょうはんじょう遺弟ゆいてい念力ねんりきよりじょうず」 (*報恩講私記) と​あそばさ​れ​おか​れそうろふ。

(122)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 ちょうもん*こころれ​まうさ​ん​とおもひとは​あり、 しんを​とら​んずる​とおもひとなし。 されば極楽ごくらくは​たのしむ​とき​て、 まゐら​ん​とねがひ​のぞむひとぶつら​ず、 弥陀みだを​たのむひとぶつる​とおおせ​られそうろふ。

(123)

一 ^聖教しょうぎょう*すき​こしらへ​もち​たるひとそんには、 仏法ぶっぽうしゃいでくる​ものなり。 ひとたび仏法ぶっぽうを​たしなみそうろひとは、 おほやうなれ​ども​おどろき​やすき​なり。

(124)

一 ^ふみ如来にょらい*直説じきせつなり​とぞんず​べき​の​よし​にそうろふ。 かたちを​みれ​ば*法然ほうねんことばけ​ば弥陀みだ直説じきせつといへり。

(1251272)

一 ^蓮如れんにょしょうにんびょうちゅうに、 *きょうもんに、 なんぞものを​よめ​とおおせ​られそうろふ​とき、 ふみを​よみ​まうす​べき​か​ともうさ​れそうろふ。 さらば​よみ​まうせ​とおおせ​られそうろふ。 三通さんつう二度にどづつ六遍ろっぺんよま​せ​られ​て0563おおせ​られそうろふ。 わが​つくり​たる​もの​なれども、 しゅしょうなる​よ​とおおせ​られそうろふ。

(126)

一 ^*じゅんせいもうさ​れ​し​とうんぬんつねに​は​わが​まへ​にて​は​いは​ず​して、 *うしろごといふ​とてふくりゅうする​こと​なり。 われ​は​さやうに​はぞんぜ​ずそうろふ。 わが​まへ​にてもうし​にくく​は、 かげ​にて​なり​とも​わが​わろき​こと​をもうさ​れ​よ。 き​てしんちゅうを​なほす​べき​よしもうさ​れそうろふ。

(127)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 仏法ぶっぽうの​ため​とおぼそうらへ​ば、 なにたる辛労しんろうをも辛労しんろうと​はおぼさ​れ​ぬ​よしおおせ​られそうろふ。 おん*こころまめ​にて、 なにごと​も沙汰さたそうろふ​よし​なり。

(128)

一 ^ほうには*あらめなる​が​わろし。 *けんにはさいなる​と​いへども仏法ぶっぽうにはさい1273こころを​もち、 こまかにこころを​はこぶ​べき​よしおおせ​られそうろふ。

(129)

一 ^とほき​は​ちかきどう、 ちかき​は​とほきどうあり。 灯台とうだいもと​くらし​とて、 仏法ぶっぽう*だんちょうもんもうは、 *ゆうあつく​かうぶり​て、 いつ​も​の​こと​とおもひ、 ほうに​おろそかなり。 とほくそうろひとは、 仏法ぶっぽうを​きき​たく大切たいせつに​もとむる​こころ​あり​けり。 仏法ぶっぽう0564大切たいせつに​もとむる​より​きく​ものなり。

(130)

一 ^ひとつ​こと​をき​て、 いつ​も​めづらしく*はじめ​たる​やう​に、 しんの​うへ​にはある​べき​なり。 ただめずらしき​こと​を​きき​たくおもふ​なり。 ひとつ​こと​を​いくたびちょうもんもうす​とも、 めづらしくはじめ​たる​やう​に​ある​べき​なり。

(131)

一 ^*どうしゅうは、 ただひとおんことばを​いつ​もちょうもんもうす​が、 はじめ​たる​やう​に​ありがたき​よしもうさ​れそうろふ。

(132)

一 ^念仏ねんぶつもうす​も、 ひと*みょうもんげに​おもは​れ​ん​とおもひ​て​たしなむ​が*たいなる​よし、 ある1274ひともうさ​れそうろふ。 つねひとしんちゅうに​かはりそうろふ​こと。

(133)

一 ^どうぎょう同侶どうりょをはぢて*みょうりょを​おそれ​ず。 ただ*みょうけんを​おそろしくぞんず​べき​こと​なり。

(134)

一 ^たとひ*しょうたり​とも*しげから​ん​こと​をばちょう0565す​べき​よしそうろふ。 ましてけんちょうそうらは​ぬ​こと​しかるべから​ず。 いよいよぞうじょうす​べき​は信心しんじんにてそうろふ。

(135)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 仏法ぶっぽうには*まゐらせこころわろし。 これ​をしておんこころかなは​ん​とおもこころなり。 仏法ぶっぽうの​うへ​は​なにごと​も報謝ほうしゃぞんず​べき​なり​とうんぬん

(136)

一 ^ひとには*げんぜっしん*六賊ろくぞくありて善心ぜんしんを​うばふ。 これ​はしょぎょうの​こと​なり。 念仏ねんぶつは​しからず。 *ぶっこころを​うる​ゆゑに、 *貪瞋とんじん煩悩ぼんのうをばぶつかたよりせつし​たまふ​なり。 ゆゑに 「貪瞋とんじん煩悩ぼんのうちゅう のうしょう清浄しょうじょうがんおうじょうしん(*散善義) といへり。 「しょうしん」 には、 「にょ日光にっこううん うん之下しげみょう1275あん」 といへり。

(137)

一 ^いっ一言いちごんちょうもんする​とも、 ただ*得手え​てほうく​なり。 ただ​よく​きき、 しんちゅうの​とほり​をどうぎょうに​あひ談合だんごうす​べき​こと​なり​とうんぬん

(138)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 かみにもぶつにもれ​ては、 で​す​べき​こと​をあしにて​する​ぞ​とおおせ​られ​ける。 如来にょらいしょうにん (*親鸞)ぜんしきにもれ​まうす​ほど0566おんこころやすくおもふ​なり。 れ​まうす​ほど​いよいよ*渇仰かつごうこころを​ふかく​はこぶ​べき​こと​もつとも​なる​よしおおせ​られそうろふ。

(139)

一 ^くちの​はたらき​と​はする​ものなり。 *こころが​よく​なり​がたき​ものなり。 *涯分がいぶんこころかたたしなみ​まうす​べき​こと​なり​とうんぬん

(140)

一 ^しょうとうに​いたる​まで、 わがものおもみ​たたくる​こと*あさましきこと​なり。 ことごとくしょうにん*ゆうもつにてそうろふ​あひだ、 前々ぜんぜんじゅうしょうにんものなどおんあし1276に​あたりそうらへ​ば、 おんいただきそうろふ​よしうけたまわり​およびそうろふ。

(141)

一 ^王法おうぼう*ひたいに​あて​よ、 仏法ぶっぽう内心ないしんに​ふかくたくわへ​よ​と​のおおせ​にそうろふ。 *じんといふ​こと​も、 *端正ただしくある​べき​こと​なる​よし​にそうろふ。

(142)

一 ^蓮如れんにょしょうにんじゃくねんの​ころ、 *迷惑めいわくの​こと​にてそうらひ​し。 ただ*だいにて仏法ぶっぽう*おおせ​たて​られ​ん​とおぼそうろ念力ねんりきひとつ​にてはんじょうそうろふ。 辛労しんろうゆゑにそうろふ。

(1430567)

一 ^病中びょうちゅう蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 だい仏法ぶっぽう是非ぜひとも*再興さいこうあら​ん​とおぼそうろ念力ねんりきひとつ​にて、 かやうに​いま​まで​みなみなこころやすく​ある​こと​は、 *このほうみょうかなふ​によりて​の​こと​なり​とさんあり​とうんぬん

(144)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) は、 むかし*こぶくめ​を​めさ​れそうろふ。 しろそでとておんこころやすくさ​れそうろおんこと​も御座ござなくそうろふ​よし​にそうろふ。 いろいろおんかなしかり​ける​こと1277ども、 折々おりおりおんものがたそうろふ。 今々いまいまの​もの​は​さやう​の​こと​をうけたまわそうらひ​て、 みょうぞんず​べき​の​よし​くれぐれおおせ​られそうろふ。

(145)

一 ^よろづ迷惑めいわくにて、 あぶらを​めさ​れそうらは​ん​にも*ようきゃくなく、 やうやうきょう*くろを​すこし​づつおんとりそうらひ​て、 聖教しょうぎょうなどらんそうろふ​よし​にそうろふ。 また少々しょうしょうつきひかりにて​も聖教しょうぎょう*あそばさ​れそうろふ。 御足おんあしをも​たいがいみずにておんあらそうろふ。 また三日さんにちぜんまゐりそうらは​ぬ​こと​もそうろふ​よしうけたまわり​およびそうろふ。

(146)

一 ^ひとをも*かひがひしくし​つかは​れそうらは​で​ある​うへ​は、 幼童ようどう*むつき​をも​ひとりおんあらそうろふ​など​とおおせ​られそうろふ。

(1470568)

一 ^*存如ぞんにょしょうにんし​つかは​れそうろ*ものを、 おんやとそうらひ​てし​つかは​れそうろふ​よし​にそうろふ。 存如ぞんにょしょうにんひとにんし​つかは​れそうろふ。 *蓮如れんにょしょうにん隠居いんきょときも、 にんし​つかは​れそうろふ。 *とうようとてこころの​まま​なる​こと、 そらおそろしく、 も​いたく​かなしくぞんず​べき​こと​にてそうろふ。

(1481278)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 むかし仏前ぶつぜんこうひとは、 もと*紙絹かみぎぬふくをさしそうろふ。 いま​はしろそでにて、 *けっきがへ​をしょそうろふ。 これ​その​ころ​は*きんにも迷惑めいわくにて、 しちを​おか​れ​てように​させ​られそうろふ​と、 *きごと​に沙汰さたそうろふ。

(149)

一 ^またおおせ​られそうろふ。 おんまずしくそうらひ​て、 きょうにてふる綿わたおんとりそうらひ​て、 おんひとひろげそうろふ​こと​あり。 またおんころもは​かた​のやぶれ​たる​を​めさ​れそうろふ。 しろおんそで美濃みのぎぬの​わろき​を​もとめ、 やうやうひとつ​めさ​れそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。 とうは​かやう​の​こと​をも​しりそうらは​で、 ある​べき​やう​に​みなみなぞんそうろふ​ほどに、 みょうに​つき​まうす​べし。 いちだいなり。

(150)

一 ^どうぎょうぜんしきには​よくよく​ちかづく​べし。 「親近しんごんせざる​は雑修ざっしゅしつなり」 と ¬*らい0569さん¼ (意) に​あらはせ​り。 あしき​もの​に​ちかづけ​ば、 それ​にはれ​じ​とおもへ​ども、 あく*よりよりに​あり。 ただ仏法ぶっぽうしゃにはれ​ちかづく​べき​よしおおせ​られそうろふ。 *俗典ぞくてんに​いはく、 「ひと善悪ぜんあくちかづきならふ​に​よる」 と、 また 「そのひとを​しら1279ん​と​おもは​ば、 そのともを​みよ」 といへり。 「善人ぜんにんてきと​は​なる​とも、 悪人あくにんともと​する​こと​なかれ」 といふ​こと​あり。

(151)

一 ^*きれ​ば​いよいよ​かたく、 あおげ​ば​いよいよ​たかし」 といふ​こと​あり。 ものを​きり​て​み​て​かたき​と​しる​なり。 本願ほんがんしんじ​てしゅしょうなる​ほど​も​しる​なり。 信心しんじんおこり​ぬれ​ば、 たふとく​ありがたく、 よろこび​もぞうじょうある​なり。

(152)

一 ^ぼんにてしょうたすかる​こと​は、 ただやすき​と​ばかりおもへ​り。 「なんちゅうなん(*大経・下) と​あれば、 *かたく​おこし​がたきしんなれども、 ぶっよりやすくじょうじゅし​たまふ​こと​なり。 「おうじょうほど​のいちだいぼんの​はからふ​べき​に​あらず」 (*執持鈔(2)) といへり。 ぜんじゅうしょうにん (実如) おおせ​に、 しょういちだいぞんずるひとには同心どうしんある​べき​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(153)

一 ^仏説ぶっせつ*しんぼうある​べき​よしき​おき​たまへ​り。 しんずる​もの​ばかり​にてほうずるひとなく​は0570き​おき​たまふ​こと​いかが​ともおもふ​べき​に、 はやほうずる​もの​ある​うへ1280は、 しんぜ​ん​において​は​かならずおうじょうけつじょうと​のおおせ​にそうろふ。

(154)

一 ^どうぎょうの​まへ​にて​は​よろこぶ​ものなり、 これみょうもんなり。 しんの​うへはひとて​よろこぶほうなり。

(155)

一 ^仏法ぶっぽうには*けんの​ひま​をき​て​きく​べし。 けんひまを​あけ​てほうを​きく​べき​やう​におもふ​こと、 あさましき​こと​なり。 仏法ぶっぽうには明日あすといふ​こと​は​ある​まじき​よし​のおおせ​にそうろふ。 「たとひ大千だいせんかいに みて​らんをも​すぎ​ゆき​て ぶつ御名みなを​きく​ひと​は ながく退たいに​かなふ​なり」 と、 ¬さん¼ (*浄土和讃) にあそばさ​れそうろふ。

(156)

一 ^*ほうきょうもうさ​れそうろふ​とうんぬんひとよりひ、 雑談ぞうだんあり​し​なかば​に、 あるひとふとしきた​れそうろふ。 *しょうにんいかに​とおおせ​けれ​ば、 いちだいきゅうようあり​とてた​れ​けり。 そののち先日せんじつは​いかに​ふとた​れそうろふ​や​とひ​けれ​ば、 もうさ​れそうろふ。 仏法ぶっぽうものがたり約束やくそくもうし​たる​あひだ、 *ある​も​あら​れ​ず​して​まかり​たちそうろふ​よしもうさ​れ1281そうろふ。 ほうには​かやうに​ぞこころを​かけそうろふ​べき​こと​なる0571よしもうさ​れそうろふ。

(157)

一 ^仏法ぶっぽうを​あるじ​と​し、 けん客人まろうどと​せよ​といへり。 仏法ぶっぽうの​うへ​より​は、 けんの​こと​はときに​したがひ​あひ​はたらく​べき​こと​なり​とうんぬん

(158)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)*みなみ殿どのにて、 *存覚ぞんかく*さくぶん聖教しょうぎょうちとしんなるところそうろふ​を、 いかが​とて、 *兼縁けんえん前々ぜんぜんじゅうしょうにんおんに​かけ​られそうらへ​ば、 おおせ​られそうろふ。 名人めいじんの​せ​られそうろものをば​その​まま​にてく​こと​なり。 これ​がめいなり​とおおせ​られそうろふ​なり。

(159)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにんへ​あるひともうさ​れそうろふ。 開山かいさん (親鸞)御時おんときの​こともうさ​れそうろふ。 これ​は​いかやう​の*さいにてそうろふ​ともうさ​れ​けれ​ば、 おおせ​られそうろふ。 われ​も​しら​ぬ​こと​なり。 なにごと​も​なにごと​も​しら​ぬ​こと​をも、 開山かいさんの​めさ​れそうろふ​やう​に沙汰さたそうろふ​とおおせ​られそうろふ。

(1601282)

一 ^*総体そうたいひとには​おとる​まじき​とおもこころあり。 このこころにてけんにはもの*しならふ​なり。 仏法ぶっぽうには無我むがにてそうろふ​うへは、 ひとに​まけ​てしんを​とる​べき​なり。 *をみて*じょう0572こそ、 ぶつ慈悲じひよ​とおおせ​られそうろふ。

(161)

一 ^一心いっしんと​は、 弥陀みだを​たのめ​ば如来にょらい仏心ぶっしんと​ひとつ​に​なし​たまふ​がゆゑに、 一心いっしんといへり。

(162)

一 ^あるひともうさ​れそうろふ​とうんぬん。 われ​はみずむ​も、 仏法ぶっぽうゆうなれば、 みず一口ひとくちも、 如来にょらいしょうにん (親鸞)ゆうぞんそうろふ​よしもうさ​れそうろふ。

(163)

一 ^蓮如れんにょしょうにん病中びょうちゅうおおせ​られそうろふ。 しんなにごと​もおぼそうろふ​こと​の、 り​ゆく​ほど​の​こと​は​あれども、 ら​ず​といふ​こと​なし。 ひとしんなき​こと​ばかり​かなしくおんなげき​はおぼし​の​よしおおせ​られそうろふ。

(164)

一 ^おなじくおおせ​に、 なにごと​をもおぼす​まま​に沙汰さたあり。 しょうにんいちりゅう1283をも再興さいこうそうらひ​て、 本堂ほんどう影堂えいどうをも​たて​られ、 *じゅうをも*相続そうぞくありて*大坂おおざか殿どのこんりゅうありて隠居いんきょそうろふ。 しかれば、 われ​は 「こうげ​て退しりぞく​はてんみちなり」 (*老子) といふ​こと、 それおんの​うへ​なる​べき0573よしおおせ​られそうろふ​と。

(165)

一 ^てきじんを​ともす​を、 にて​なき​と​はおもは​ず。 いかなるひとなり​とも、 *おんことば​の​とほり​をもうし、 おんことばを​よみ​まうさ​ば、 信仰しんこうし、 うけたまわる​べき​こと​なり​と。

(166)

一 ^蓮如れんにょしょうにん折々おりおりおおせ​られそうろふ。 仏法ぶっぽうをば​よくよくひとへ。 ものをばひとに​よくひ​まうせ​の​よしおおせ​られそうろふ。 たれ​にひ​まうす​べき​よし​うかがひ​まうし​けれ​ば、 *仏法ぶっぽうだに​も​あらば、 じょうを​いは​ずふ​べし。 仏法ぶっぽうは​しり​さう​も​なき​もの​がる​ぞ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(167)

一 ^蓮如れんにょしょうにんもんの​もの​をる​こと​をおんきらひそうろふ。 しゅしょうさう​に​みゆる​と​の1284おおせ​にそうろふ。 また、 すみくろころもそうろふ​をおんきらひそうろふ。 すみくろころもて、 しょへ​まゐれ​ばおおせ​られそうろふ。 もんただしきしゅしょう御僧おんそうおんそうろふ​と、 おおせ​られそうらひ​て、 いや​われ​はしゅしょうにも​なし。 ただ弥陀みだ本願ほんがんしゅしょうなる​よしおおせ​られそうろふ。

(168)

一 ^大坂おおざか殿どのにて、 もんの​あるおんそでを​させ​られ、 *御座ござの​うへ​にけ​られ​て​おか​れそうろふ​よし​にそうろふ。

(1690574)

一 ^ぜんまゐりそうろときには、 おんがっしょうありて、 如来にょらいしょうにん (親鸞)ゆうにて*ふ​よ​とおおせ​られそうろふ。

(170)

一 ^ひとは​あがり​あがり​て*おちば​を​しら​ぬ​なり。 ただ​つつしみ​てだんそらおそろしき​こと​と、 まいにつけてこころを​もつ​べき​の​よしおおせ​られそうろふ。

(171)

一 ^おうじょう一人いちにん*しのぎ​なり。 一人いちにん一人いちにん仏法ぶっぽうしんじ​てしょうを​たすかる​こと​なり1285。 よそごと​の​やう​におもふ​こと​は、 *かつは​わがを​しら​ぬ​こと​なり​と、 *円如えんにょおおそうらひ​き。

(172)

一 ^大坂おおざか殿どのにて、 あるひと前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)もうさ​れそうろふ。 こんちょうあかつきよりい​たる​もの​にてそうろふ​が​まゐら​れそうろふ。 *神変じんぺんなる​こと​なる​よしもうさ​れそうらへ​ば、 やがておおせ​られそうろふ。 しんだに​あれば辛労しんろうと​は​おもは​ぬ​なり。 しんの​うへは仏恩ぶっとん報謝ほうしゃぞんそうらへ​ば、 ろうと​はおもは​ぬ​なり​とおおせ​られ​し​とうんぬん老者ろうしゃもうす​は*がみ了宗りょうしゅうなり​とうんぬん

(1730575)

一 ^みなみ殿どのにて人々ひとびとよりひ、 しんちゅうを​なにかと*あつかひ​まうす​ところ​へ、 前々ぜんぜんじゅうしょうにんおんそうらひ​ておおせ​られそうろふ。 なにごと​を​いふ​ぞ。 ただ​なにごと​の​あつかひ​もおもひすて​て、 一心いっしん弥陀みだうたがいなく​たのむ​ばかり​にて、 おうじょうぶつの​かた​よりさだめ​まします​ぞ。 そのしょう南無なも弥陀みだぶつよ。 この​うへは​なにごと​を​か​あつかふ​べき​ぞ​とおおせ​られそうろふ。 もししんなど​をもうす​にも、 *多事たじを​ただ一言いちごんにて​はらり​としんはれそうらひ​し​とうんぬん

(1741286)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)、 「おどろかす​かひ​こそ​なけれ*むらすずめ みみなれ​ぬれ​ば*なるこ​にぞ​のる」、 このうたおんき​ありて折々おりおりおおせ​られそうろふ。 ただひとは​みなみみなれすずめなり​とおおせ​られ​し​とうんぬん

(175)

一 ^しんちゅうを​あらため​ん​と​まで​はおもひとは​あれども、 しんを​とら​ん​とおもひとは​なき​なり​とおおせ​られそうろふ。

(176)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 方便ほうべんを​わろし​といふ​こと​は​ある​まじき​なり。 方便ほうべんをもつて真実しんじつを​あらはす*はいりゅうよくよく​しる​べし。 弥陀みだしゃぜんしきぜんぎょう方便ほうべんに​より​て、 しん0576じつしんをば​うる​こと​なる​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(177)

一 ^ふみは​これぼんおうじょうかがみなり。 ふみの​うへ​に法門ほうもんある​べき​やう​におもひとあり。 おおきなるあやまり​なり​とうんぬん

(178)

一 ^しんの​うへは仏恩ぶっとん称名しょうみょう*退転たいてんある​まじき​こと​なり。 あるいはこころより​たふとく1287ありがたくぞんずる​をば仏恩ぶっとんおもひ、 ただ念仏ねんぶつもうさ​れそうろふ​をば、 それ​ほどにおもは​ざる​こと、 おおきなるあやまり​なり。 おのづから念仏ねんぶつもうさ​れそうろふ​こそ、 ぶっおんもよほし、 仏恩ぶっとん称名しょうみょうなれ​とおおせごと​にそうろふ。

(179)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 しんの​うへは、 たふとくおもひ​てもう念仏ねんぶつも、 また​ふともう念仏ねんぶつ*仏恩ぶっとんに​そなはる​なり。 しゅうにはおやの​ため、 また​なに​の​ため​なんど​とて念仏ねんぶつを​つかふ​なり。 しょうにん (親鸞)いちりゅうには弥陀みだを​たのむ​が念仏ねんぶつなり。 その​うへ​の称名しょうみょうは、 なに​とも​あれ仏恩ぶっとんに​なる​ものなり​とおおせ​られそうろうんぬん

(1800577)

一 ^あるひといはく、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)御時おんときみなみ殿どのと​やらん​にて、 ひとはちころそうろふ​に、 *おもひよら​ず念仏ねんぶつもうさ​れそうろふ。 そのときなにとおもう​て念仏ねんぶつをばもうし​たる​とおおせ​られそうらへ​ば、 ただ*かわい​や​とぞんずる​ばかり​にてもうそうろふ​ともうさ​れ​けれ​ば、 おおせ​られそうろふ​は、 しんの​うへは​なに​とも​あれ、 念仏ねんぶつもうす​は報謝ほうしゃぞんず​べし。 みな仏恩ぶっとんに​なる​とおおせ​られそうろふ。

(1811288)

一 ^みなみ殿どのにて、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)*のうれん​をちあげ​られ​ておんそうろふ​とて、 南無なも弥陀みだぶつ南無なも弥陀みだぶつおおせ​られそうらひ​て、 ほうきょうこのこころしり​たる​か​とおおせ​られそうろふ。 なに​ともぞんぜ​ず​ともうさ​れそうらへ​ば、 おおせ​られそうろふ。 これ​は​われ​はおんたすけそうろふ、 おんうれし​や​たふと​や​ともうこころよ​とおおせ​られそうろうんぬん

(182)

一 ^蓮如れんにょしょうにんへ、 あるひと安心あんじんの​とほりもうさ​れそうろふ。 西国さいこくひと云々うんぬん 安心あんじん*一通ひととおり​をもうさ​れそうらへ​ば、 おおせ​られそうろふ。 もうそうろふ​ごとく​のしんちゅうそうらは​ば、 それ​が*肝要かんようおおせ​られそうろふ。

(183)

一 ^おなじくおおせ​られそうろふ。 とうことば​にて​は安心あんじんの​とほり​おなじ​やう​にもうさ​れそうらひ​し。 しかれば、 *しんじょうひとまぎれ​て、 おうじょうを​し​そんず​べき​こと​を​かなしくおぼそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。

(1840578)

一 ^しんの​うへは*さのみ​わろき​こと​は​ある​まじくそうろふ。 あるいはひとの​いひそうろふ​など​とて、 あしき​こと​など​は​ある​まじくそうろふ。 こんしょう*けっを​きり​て、 安楽あんらくしょう1289ぜ​ん​とおもは​んひと、 いかん​として*あしき​さま​なる​こと​を​す​べき​や​とおおせ​られそうろふ。

(185)

一 ^おおせ​に​いはく、 仏法ぶっぽうをば​さしよせ​て​いへ​いへ​とおおせ​られそうろふ。 ほうきょうたいおおせ​られそうろふ。 信心しんじん安心あんじんと​いへ​ば、 愚痴ぐちの​もの​はもんも​しら​ぬ​なり。 信心しんじん安心あんじんなど​いへ​ば、 べつの​やう​にもおもふ​なり。 ただぼんぶつる​こと​を​をしふ​べし。 しょうたすけ​たまへ​と弥陀みだを​たのめ​と​いふ​べし。 なにたる愚痴ぐちしゅじょうなり​とも、 き​てしんを​とる​べし。 とうりゅうには、 これ​より​ほか​の法門ほうもんは​なき​なり​とおおせ​られそうろふ。

^¬*安心あんじんけつじょうしょう¼ (本) に​いはく、 「じょう法門ほうもんは、 だいじゅうはちがんを​よくよく​こころうる​の​ほか​には​なき​なり」 といへり。

^しかれば、 ふみには 「一心いっしん一向いっこうぶつたすけ​たまへ​ともうさ​んしゅじょうをば、 たとひ罪業ざいごうじんじゅうなり​とも、 かならず弥陀みだ如来にょらいは​すくひ​まします​べし。 これ​すなはちだいじゅうはち念仏ねんぶつおうじょう誓願せいがんこころなり」 といへり。

(1860579)

一 ^しんを​とら​ぬ​によりて​わろき​ぞ。 ただしんを​とれ​とおおせ​られそうろふ。 ぜんしきの​わろき1290おおせ​られ​ける​は、 しんの​なき​こと​を​わろき​とおおせ​らるる​なり。 しかれば、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)、 あるひとを、 *ごんどうだんわろき​とおおせ​られそうろふ​ところ​に、 そのひともうさ​れそうろふ。 なにごと​も*ぎょの​ごとく​とぞんそうろふ​ともうさ​れそうらへ​ば、 おおせ​られそうろふ。 *ふつと​わろき​なり。 しんの​なき​は​わろく​は​なき​か​とおおせ​られそうろふ​と 云々うんぬん

(187)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 なにたる​こと​を​きこしめし​ても、 おんこころには*ゆめゆめかなは​ざる​なり​と。
^一人いちにんなり​ともひとしんを​とり​たる​こと​を​きこしめし​たき​と、 おんひとりごと​におおせ​られそうろふ。 いっしょうは、 ひとしんを​とら​せ​たくおぼさ​れそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。

(188)

一 ^しょうにん (親鸞)りゅうは​たのむ一念いちねんの​ところ肝要かんようなり。 ゆゑに、 たのむ​といふ​こと​をば代々だいだいあそばし​おか​れそうらへ​ども、 くはしく​なにと​たのめ​といふ​こと​を​しらざり​き。 しかれば、 前々ぜんぜんじゅうしょうにんだいに、 ふみおんつくそうらひ​て、 「ぞうぎょうを​すて​て、 しょうたすけ​たまへ​と一心いっしん弥陀みだを​たのめ」 と、 あきらかに​しら​せ​られ1291そうろふ。 しかれば、 再興さいこうしょうにんにて​まします​ものなり。

(1890580)

一 ^よき​こと​を​し​たる​が​わろき​こと​あり、 わろき​こと​を​し​たる​が​よき​こと​あり。 よき​こと​を​し​ても、 われ​はほうにつきて​よき​こと​を​し​たる​とおもひ、 *われ​といふ​こと​あれば​わろき​なり。 あしき​こと​を​し​ても、 しんちゅうを​ひるがへし本願ほんがんすれば、 わろき​こと​を​し​たる​が​よきどうに​なる​よしおおせ​られそうろふ。 しかれば、 蓮如しょうにんは、 まゐらせこころが​わろき​とおおせ​らるる​とうんぬん

(190)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 おもひよら​ぬ​もの​がぶんぎ​てものいだそうらは​ば、 ひとさいある​べき​とおもふ​べし。 わが*こころならひ​にひとより​もの​をいだせ​ば​うれしくおもふ​ほどに、 なんぞようを​いふ​べきときは、 ひとが​さやうに​する​なり​とおおせ​られそうろふ。

(191)

一 ^くさき​むかひ​ばかり​み​て、 あしもと​を​み​ねば、 *みかぶる​べき​なり。 ひとの​うへ​ばかり​み​て、 わがの​うへ​の​こと​を*たしなま​ずは、 いちだいたる​べき​とおお1292られそうろふ。

(1920581)

一 ^ぜんしきおおせ​なり​とも、 る​まじ​なんどおもふ​は、 おおきなる​あさましき​こと​なり。 ら​ざる​こと​なり​とも、 おおせ​ならばる​べき​とぞんず​べし。 このぼんぶつる​うへは、 *さて​ある​まじき​とぞんずる​こと​ある​べき​か。 しかればどうしゅう*近江おうみうみひとして​うめよ​とおおそうろふ​とも、 *かしこまり​たる​ともうす​べくそうろふ。 おおせ​にてそうらは​ば、 ら​ぬ​こと​ある​べき​か​ともうさ​れそうろふ。

(193)

一 ^*いたりて​かたき​はいしなり、 いたりて​やはらかなる​はみずなり、 みずよくいし*穿うがつ、 *心源しんげんもしてっし​なば*だい覚道かくどうなにごと​かじょうぜ​ざら​ん」 といへるふることばあり。 いかにしんなり​とも、 ちょうもんこころれ​まうさ​ば、 慈悲じひにてそうろふ​あひだ、 しんを​う​べき​なり。 ただ仏法ぶっぽうちょうもんに​きはまる​こと​なり​とうんぬん

(194)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 しんけつじょうひとを​み​て、 あの​ごとく​なら​では​とおもへ​ば​なる​ぞ​とおおせ​られそうろふ。 あの​ごとくに​なり​て​こそ​と*おもひすつる​こと1293、 あさましき​こと​なり。 仏法ぶっぽうにはを​すて​て​のぞみ​もとむるこころより、 しんをばる​こと​なり​とうんぬん

(1950582)

一 ^ひとの​わろき​こと​は​よくよく​みゆる​なり。 わがの​わろき​こと​は*おぼえ​ざる​ものなり。 わがに​しら​れ​て​わろき​こと​あらば、 よくよく​わろけれ​ば​こそに​しら​れそうろふ​と​おもひ​て、 しんちゅうを​あらたむ​べし。 ただひとの​いふ​こと​をば​よく信用しんようす​べし。 わが​わろき​こと​は​おぼえ​ざる​ものなる​よしおおせ​られそうろふ。

(196)

一 ^けんものがたりあるしきにて​は、 *けっほうの​こと​を​いふ​こと​も​あり。 さやう​の*だん*ひとなみ​たる​べし。 こころにはだんある​べから​ず。 あるいは*講談こうだん、 また​は仏法ぶっぽう*讃嘆さんだんなど​いふとき一向いっこうものを​いは​ざる​ことおおきなるちがひ​なり。 仏法ぶっぽう讃嘆さんだんと​あら​んときは、 いか​にもしんちゅうを​のこさ​ず、 あひ​たがひにしんしん談合だんごうもうす​べき​こと​なり​とうんぬん

(197)

一 ^かねがもり*ぜんじゅうに、 あるひともうさ​れそうろふ。 *この​あひだ、 *さこそ*徒然つれづれおんそうら1294つ​らん​ともうし​けれ​ば、 ぜんじゅうもうさ​れそうろふ。 わがはちじゅうに​あまる​まで徒然つれづれといふ​こと​を​しら​ず。 そのゆゑは、 弥陀みだおんの​ありがたき​ほど​をぞんじ、 さん聖教しょうぎょうとう拝見はいけんもうそうらへ​ば、 こころおもしろく​も、 また​たふとき​ことじゅうまんする​ゆゑに、 徒然つれづれなる​こと​も*さらに​なくそうろふ​ともうさ​れそうろふ​よし​にそうろふ。

(1980583)

一 ^ぜんじゅうもうさ​れそうろふ​とて、 ぜんじゅうしょうにん (実如) おおせ​られそうろふ。 あるひとぜんじゅう宿しゅくしょそうろふ​ところ​に、 くつをもそうらは​ぬ​に、 仏法ぶっぽうの​こともうし​かけ​られそうろふ。 また​あるひともうさ​れそうろふ​は、 くつを​さへ​ぬが​れそうらは​ぬ​に、 いそぎ​かやうに​は​なに​とておおそうろふ​ぞ​と、 ひともうし​けれ​ば、 ぜんじゅうもうさ​れそうろふ​は、 づるいきる​を​また​ぬ*うきなり。 もしくつを​ぬが​れ​ぬ​ま​にきょそうらは​ば、 いかがそうろふ​べき​ともうさ​れそうろふ。 ただ仏法ぶっぽうの​こと​をば、 さしいそもうす​べき​の​よしおおせ​られそうろふ。

(199)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)ぜんじゅうの​こと​をおおせ​られそうろふ。 いまだ*むら殿どのぼう、 その沙汰さたも​なき​とき、 *かみもりを​とほりくにこうの​とき、 輿こしより​おり​られそうらひ​て、 むら殿どのかたを​さし​て、 この*とほり​にて仏法ぶっぽうが​ひらけ​まうす​べし​ともうさ​れそうら1295し。 人々ひとびと、 これ​はとしより​て​かやう​の​こと​をもうさ​れそうろふ​などもうし​けれ​ば、 つひに*ぼうこんりゅうにてはんじょうそうろふ。 思議しぎの​こと​とおおせ​られそうらひ​き。 またぜんじゅう法然ほうねんしんなり​と、 *じょうひともうし​つる​と、 おなじくおおせ​られそうらひ​き。 かのおうじょう八月はちがつ*じゅうにちにてそうろふ。

(200)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) *ひがしやま*おんそうらひ​て、 いづかた​に御座ござそうろふ​とも、 ひとぞんぜ​ずそうらひ​し​に、 このぜんじゅうあなた​こなたたずね​まうさ​れ​けれ​ば、 あるところにておんに​かから​れそうろふ。 *一段いちだん*迷惑めいわくていにてそうら0584ひ​つる​あひだ、 前々ぜんぜんじゅうしょうにんにも*さだめてぜんじゅうかなしま​れ​まうす​べき​とおぼさ​れそうらへ​ば、 ぜんじゅうおんに​かから​れ、 あら​ありがた​や、 *はや仏法ぶっぽうは​ひらけ​まうす​べき​よ​ともうさ​れそうろふ。 つひに​このことば*ごうそうろふ。 ぜんじゅう思議しぎひとなり​と、 蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうらひ​し​よし、 しょうにん (実如) おおせ​られそうらひ​き。

(201)

一 ^ぜんじゅうしょうにん (実如)先年せんねん*大永だいえいさん蓮如れんにょしょうにん*じゅうねん三月さんがつはじめ​ごろ、 御夢おんゆめらんそうろふ。 どうじょうだんみなみかた前々ぜんぜんじゅうしょうにん御座ござそうらひ​て、 むらさきおんそでを​めさ1296そうろふ。 ぜんじゅうしょうにん (実如)たいし​まゐらせ​られ、 おおせ​られそうろふ。 仏法ぶっぽう讃嘆さんだん談合だんごうに​きはまる。 よくよく讃嘆さんだんす​べき​よしおおせ​られそうろふ。 まことに*そうとも​いふ​べき​こと​なり​とおおせ​られそうらひ​き。 しかれば​そのとし、 ことに讃嘆さんだん肝要かんようおおせ​られそうろふ。 それ​につきておおせ​られそうろふ​は、 仏法ぶっぽうひとよろこほうなり。 ひとて​さへ​たふとき​に、 ましてふたよりは​ば​いかほど​ありがたかる​べき。 仏法ぶっぽうをば​ただよりより談合だんごうもうせ​の​よしおおせ​られそうろふ​なり。

(202)

一 ^しんちゅうあらたそうらは​ん​ともうひと、 なに​を​か​まづあらたそうらは​ん​ともうさ​れそうろふ。 よろづ​わろき​こと​をあらため​て​と、 かやうにおおせ​られそうろふ。 *いろ​を​たて、 きは​をもうし​いで​てあらたむ​べき​こと​なり​とうんぬん。 なに​にて​も​あれ、 ひとなおさ​るる​を​きき​て、 われ​もなおる​べき​とおもう​て、 わが0585*とが​をもうし​いださ​ぬ​は、 なおら​ぬ​ぞ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(203)

一 ^仏法ぶっぽう談合だんごうの​ときものもうさ​ぬ​は、 しんの​なき​ゆゑなり。 わがこころ*たくみあんじ​てもうす​べき​やう​におもへ​り。 よそなるものを​たづね​いだす​やう​なり。 こころに​うれしき​こと1297は​その​まま​なる​ものなり。 かんなればかんねつなればねつと、 その​ままこころの​とほり​を​いふ​なり。 仏法ぶっぽうしきにてものもうさ​ぬ​こと​は、 しんの​ゆゑなりまただんといふ​こと​もしんの​うへ​の​こと​なる​べし。 *細々さいさいどうぎょうより讃嘆さんだんもうさ​ば、 だんは​ある​まじき​の​よし​にそうろふ。

(204)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 一心いっしんけつじょうの​うへ、 弥陀みだおんたすけ​あり​たり​といふは、 *さとり​の​かた​にして​わろし。 たのむ​ところ​にて​たすけ​たまひそうろふ​こと​は歴然れきぜんそうらへ​ども、 おんたすけ​あら​うず​と​いう​て​しかるべき​の​よしおおせ​られそうろうんぬん一念いちねんみょうとき退たいくらいじゅうす。 これ退たい*密益みつやくなり、 これ*はんぶんなる​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(205)

一 ^*徳大とくだい唯蓮ゆいれんぼう摂取せっしゅしゃ*ことわり​を​しり​たき​と、 *うん弥陀みだ*せいあり​けれ​ば、 そうに、 弥陀みだ*いま​のひとそでを​とらへ​たまふ​に、 にげ​けれ​ども​しかと0586とらへ​て​はなし​たまは​ず。 摂取せっしゅといふは、 にぐる​もの​を​とらへ​て​おき​たまふ​やう​なる​こと​と、 ここ​にておもひつき​たり。 これ​をごとおおせ​られそうろ1298

(206)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) 病中びょうちゅうに、 *けん*兼縁けんえんぜんこうして、 あるときたずね​まうさ​れそうろふ。 みょうといふ​こと​は​なにと​し​たる​こと​にてそうろふ​ともうせ​ば、 おおせ​られそうろふ。 みょうかなふ​といふは、 弥陀みだを​たのむ​こと​なる​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(207)

一 ^ひと仏法ぶっぽうの​こと​をもうし​て​よろこば​れ​ば、 われ​は​その​よろこぶひとより​も​なほ​たふとくおもふ​べき​なり。 ぶっを​つたへ​まうす​によりて、 かやうにぞんぜ​られそうろふ​こと​とおもひ​て、 *ぶっ御方おんかたを​ありがたくぞんぜ​らる​べし​と​のそうろふ。

(208)

一 ^ふみを​よみ​てひとちょうもんさせ​ん​とも、 報謝ほうしゃぞんず​べし。 いっ一言いちごん*しんの​うへ​よりもうせ​ばひと信用しんようも​あり、 また報謝ほうしゃとも​なる​なり。

(209)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 弥陀みだこうみょうは、 たとへ​ば​ぬれ​たるものを​ほす​に、 うへ1299より*ひ​て0587、 した​まで​ひる​ごとく​なる​こと​なり。 これ​はちからなり。 けつじょうこころおこる​は、 これ​すなはちりき*しょなり。 ざいしょうは​ことごとく弥陀みだおんし​ある​こと​なる​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(210)

一 ^信心しんじんじょうひとは​たれ​に​よら​ず、 まづ​みれ​ば​すなはち​たふとく​なりそうろふ。 これ​そのひとの​たふとき​に​あらず。 ぶっを​え​らるる​がゆゑなれ​ば、 弥陀みだぶっの​ありがたき​ほど​をぞんず​べき​こと​なり​とうんぬん

(211)

一 ^蓮如れんにょしょうにん病中びょうちゅうときおおせ​られそうろふ。 しんなにごと​もおぼし​のこさ​るる​こと​なし​と。 ただきょうだいの​うち、 そのほかたれ​にもしんの​なき​を​かなしくおぼそうろふ。 けんには*よみぢ​の​さはり​といふ​こと​あり。 われ​において​はおうじょうす​とも​それ​なし。 ただしんの​なき​こと、 これ​をなげかしくおぼそうろふ​とおおせ​られそうろふ​と。

(212)

一 ^蓮如れんにょしょうにん*あるいはひとしゅをもくださ​れ、 ものをもくださ​れ​て、 かやう​の​こと1300ども​ありがたくぞんぜ​させちかづけ​させ​られそうらひ​て、 仏法ぶっぽうおんきか​せそうろふ。 されば​かやうにものくださ​れそうろふ​こと​も、 しんを​とら​せ​らる​べき​ため​とおぼせ​ば、 報謝ほうしゃおぼそうろふ​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(2130588)

一 ^おなじくおおせ​に​いはく、 *こころた​とおもふ​はこころぬ​なり。 こころぬ​とおもふ​はこころたる​なり。 弥陀みだおんたすけ​ある​べき​こと​の​たふとさ​よ​とおもふ​が、 こころたる​なり。 すこし​もこころたる​とおもふ​こと​は​ある​まじき​こと​なり​とおおせ​られそうろふ。 されば ¬*でんしょう¼ (4) に​いはく、 「されば​このの​うへ​に​たもつ​ところの弥陀みだぶっ*つのら​ん​より​ほか​は、 ぼんいかでかおうじょう*得分とくぶんある​べき​や」 といへり。

(214)

一 ^しゅう菅生すごう*がんしょう*ぼう聖教しょうぎょうを​よま​れそうろふ​を​きき​て、 聖教しょうぎょうしゅしょうそうらへ​ども、 *しんおんり​なくそうろふ​あひだ、 たふとく​もおんり​なき​ともうさ​れそうろふ。 この​こと​を前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) きこしめし、 *れんを​めし​のぼせ​られ、 ぜんにてだん聖教しょうぎょうをも​よま​せ​られ、 ほうの​こと​をもおおせ​きか​せ​られ​て、 *がんしょうおおせ​られそうろふ。 れん聖教しょうぎょうをも​よみ​ならは​せ、 仏法ぶっぽうの​こと​をもおおせ​きか​せ​られそうろ1301よしおおせ​られそうらひ​て、 くにおんくだそうろふ。 そののち聖教しょうぎょうを​よま​れそうらへ​ば、 いま​こそしゅしょうそうらへ​とて、 ありがた​がら​れそうろふ​よし​にそうろふ。

(215)

一 ^蓮如れんにょしょうにんようしょうなる​もの​には、 まづものを​よめ​とおおせ​られそうろふ。 また​そののちは、 いかに​よむ0589とも*ふくせ​ずは*せんある​べから​ざる​よしおおせ​られそうろふ。 ちとものこころも​つきそうらへ​ば、 いかにものを​よみしょうを​よく​よみ​しり​たる​とも、 *義理ぎりを​わきまへ​て​こそ​とおおせ​られそうろふ。 そののちは、 いかに*もんしゃくおぼえ​たり​とも、 しんが​なく​は*いたづらごと​よ​とおおせ​られそうろふ。

(216)

一 ^しんちゅうの​とほり、 あるひとほうきょうぼうもうさ​れそうろふ。 *おんことばの​ごとく​は*かくつかまつそうらへ​ども、 ただだん沙汰さたにて、 あさましき​こと​のみ​にそうろふ​ともうさ​れそうろふ。 そのときほうきょうぼうもうさ​れそうろふ。 それはおんことばの​ごとくに​て​は​なくそうろふ。 *勿体もったいなきもうさ​れ​ごと​にそうろふ。 おんことばには、 だん沙汰さた*な​せ​そ​と​こそ、 あそばさ​れそうらへ​ともうさ​れそうろふ​とうんぬん

(2171302)

一 ^ほうきょうぼうに、 あるひと*しんもうさ​れそうろふ。 これ​ほど仏法ぶっぽうおんこころをもれ​られそうろほうきょうぼう*こうしんなる、 いかが​のそうろふ​よしもうさ​れそうらへ​ば、 ほうきょうぼうもうさ​れそうろふ。 しんさる​こと​なれども、 これ​ほどちょうせきふみを​よみそうろふ​に、 おどろき​まうさ​ぬしんちゅうが、 なにかほうきょう*もうぶんにてきいれそうろふ​べき​ともうさ​れそうろふ​とうんぬん

(218)

一 ^*じゅんせいもうさ​れそうろふ。 仏法ぶっぽうものがたりもうす​に、 *かげ​にてもうそうろだんは、 なにたる​わろき​こと​を​かもう0590す​べき​とぞんじ、 わきよりあせたり​まうしそうろふ。 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) きこす​ところ​にてもうときは、 わろき​こと​をば​やがておんなほし​ある​べき​とぞんそうろふ​あひだ、 こころやすぞんそうらひ​て、 ものをももうさ​れそうろふ​よし​にそうろふ。

(219)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ。 しん一向いっこうしら​ぬ​と​は*各別かくべつなり。 ら​ぬ​こと​をもしんもうす​こと、 いはれ​なくそうろふ。 もの分別ふんべつし​て、 あれ​は​なに​と、 これ​は​いかが​など​いふ​やう​なる​こと​がしんにてそうろふ。 さいも​しら​ず​してもうす​こと​を、 しんもうし​まぎら​かしそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。

(2201303)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 *ほんぼうをばしょうにん (親鸞) ぞんしょうときの​やう​におぼさ​れそうろふ。 しんは、 *留主るす*とう沙汰さたそうろふ。 しかれどもおんおんわすそうろふ​こと​は​なくそうろふ​と、 *とき法談ほうだんおおせ​られそうらひ​き。 とき*受用じゅようそうろふ​あひだ​にも、 すこし​もおんわすそうろふ​こと​は*おんり​なき​とおおせ​られそうろふ。

(221)

一 ^*善如ぜんにょしょうにん*しゃくにょしょうにんりょうだいの​こと、 ぜんじゅうしょうにん (実如) おおせ​られそうろふ​こと、 りょうだい*威儀いぎほん沙汰さたそうらひ​し​よしおおせ​られ​し。 しかれば、 いまにえいおんそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。 袈裟げさごろもにてそうろ0591ふ。 しかれば、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん御時おんとき、 あまたりゅうに​そむきそうろ本尊ほんぞん以下いげ*おん風呂ふろの​たび​ごと​にか​せ​られそうろふ。 このふくえいをもか​せ​らる​べき​にておんり​いだ​しそうらひ​つる​が、 いかがおぼそうらひ​つる​やらん、 ひょう書付かきつけを 「よし・わろし」 と​あそばさ​れ​て、 とり​て​おか​せ​られそうろふ。

^この​こと​を​いまあんそうらへ​ば、 *だいの​うち​さへ​かやうにおんちがそうろふ。 まして​いはんや*われらしきの​もの​はちがひ​たる​べき​あひだ、 いちだいぞんじ​つつしめ​よ​と​のおんこと​にそうろふ。 いまおぼし​あはせ​られそうろふ​よしおお1304せ​られそうろふ​なり。

^また 「よし・わろし」 と​あそばさ​れそうろふ​こと、 わろし​と​ばかり​あそばしそうらへ​ば、 先代せんだいおんこと​にてそうらへ​ば​とおぼし、 かやうに​あそばさ​れそうろふ​こと​にそうろふ​とおおせ​られそうろふ。 また前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)御時おんとき、 あまた*昵近じっきんの​かたがたちがひ​まうす​ことそうろふ。 いよいよいちだい仏法ぶっぽうの​こと​をば、 こころを​とどめ​て細々さいさいひとこころまうす​べき​の​よしおおせ​られそうろふ。

(222)

一 ^仏法ぶっぽうしゃの​すこし​のちがひ​をて​は、 *あの​うへ​さへ​かやうにそうろふ​と​おもひ、 わがを​ふかくたしなむ​べき​こと​なり。 しかるを、 あの​うへ​さへおんちがそうろふ、 まして​われら​は*ちがそうらは​では​とおもふ​こころ、 おほきなる​あさましき​こと​なり​とうんぬん

(223)

一 ^仏恩ぶっとんたしなむ​とおおそうろふ​こと、 けんものたしなむ​など​と​いふ​やう​なる​こと​にて​は​なし。 しん0592の​うへ​に​たふとく​ありがたくぞんじ​よろこび​まうすすきだいもうとき、 かかる広大こうだいおんを​わすれ​まうす​こと​の​あさましさ​よ​と、 ぶっに​たちかへり​て、 ありがた​や​たふと​や​とおもへ​ば、 *おんもよほし​に​より念仏ねんぶつもうす​なり。 たしなむ​と​は​これ​なる​よし​のそうろふ。

(2241305)

一 ^仏法ぶっぽう*厭足えんそくなけれ​ば、 ほう思議しぎを​きく​といへり。 ぜんじゅうしょうにん (実如) おおせ​られそうろふ。 たとへばじょうに​わが​すき​このむ​こと​をば​しり​ても​しり​ても、 なほ​よく​しり​たうおもふ​に、 ひとひ、 いくたび​も*数奇すきたる​こと​をばき​てもき​ても、 よく​きき​たくおもふ。 仏法ぶっぽうの​こと​も​いくたびき​ても​あか​ぬ​こと​なり。 しり​ても​しり​てもぞんじ​たき​こと​なり。 ほうをば、 幾度いくたび幾度いくたびひとひ​きはめ​まうす​べき​こと​なる​よしおおせ​られそうろふ。

(225)

一 ^*けんへ​つかふ​こと​は、 ぶつもの*いたづらに​する​こと​よ​と、 おそろしくおもふ​べし。 さりながら、 仏法ぶっぽうかたへ​は​いかほどものれ​ても​あか​ぬどうなり。 また報謝ほうしゃにも​なる​べし​とうんぬん

(226)

一 ^ひと辛労しんろうも​せ​でとくを​とる*じょうぼんは、 弥陀みだを​たのみ​てぶつる​に​すぎ​たる​こと​なし0593おおせ​られそうろふ​とうんぬん

(227)

一 ^みなひとごと​に​よき​こと​を​いひ​も​し、 はたらき​も​する​こと​あれば、 *真俗しんぞくともに​それ​を1306、 わが​よき​もの​に​はや​なり​て、 そのこころにておんといふ​こと​は​うちわすれ​て、 *わが​こころほんに​なる​によりて、 *みょうに​つき​て、 けん仏法ぶっぽうともにしきこころが​かならず​かならずしゅつらいする​なり。 いちだいなり​とうんぬん

(228)

一 ^*さかいにて兼縁けんえん前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)*ふみおんもうそうろふ。 そのときおおせ​られそうろふ。 としも​よりそうろふ​に、 *むつかしき​こと​をもうそうろふ。 まづ​わろき​こと​を​いふ​よ​とおおせ​られそうろふ。 のちおおせ​られそうろふ​は、 ただ仏法ぶっぽうしんぜ​ば、 いかほど​なり​とも​あそばし​て​しかるべき​よしおおせ​られ​し​とうんぬん

(229)

一 ^おなじくさかいぼうにて、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん夜更よふけ​て蝋燭ろうそくを​ともさ​せ、 みょうごうを​あそばさ​れそうろふ。 そのときおおせ​られそうろふ。 老体ろうたいにておんふるひ、 おんも​かすみそうらへ​ども、 みょうにちえっちゅうくだそうろふ​ともうそうろふ​ほどに、 かやうに​あそばさ​れそうろふ。 辛労しんろうを​かへりみら​れ​ず​あそばさ​れそうろふ​とおおせ​られそうろふ。 しかれば、 もんの​ため​に御身をば​すて​られそうろふ。 ひと辛労しんろうをも​させそうら0594で、 ただしんを​とら​せ​たくおぼそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。

(2301307)

一 ^*ちょうほう珍物ちんぶつ調ととの*経営けいえいを​して​もてなせ​ども、 じきせ​ざれ​ば​そのせんなし。 どうぎょうより讃嘆さんだんすれ​ども、 しんを​とるひとなけれ​ば、 珍物ちんぶつじきせ​ざる​と​おなじ​こと​なり​とうんぬん

(231)

一 ^ものに​あく​こと​は​あれども、 ぶつる​こと​と弥陀みだおんよろこぶ​と​は、 あき​たる​こと​は​なし。 く​ともせ​も​せ​ぬ*ちょうほうは、 南無なも弥陀みだぶつなり。 しかれば、 弥陀みだ広大こうだい慈悲じひしゅしょうなり。 しんあるひとる​さへ​たふとし。 よくよく​の慈悲じひなり​とうんぬん

(232)

一 ^しんけつじょうひとは、 仏法ぶっぽうかたへ​は*を​かろく​もつ​べし。 仏法ぶっぽうおんをば​おもく​うやまふ​べし​とうんぬん

(233)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 *宿しゅくぜんめでたし​といふ​は​わろし。 いちりゅうには*宿しゅくぜんありがたし​ともうす​が​よくそうろよしおおせ​られそうろふ。

(2341308)  0595

一 ^しゅうにはほうに​あひ​たる​を宿しゅくえんといふ。 とうりゅうにはしんを​とる​こと​を宿しゅくぜんといふ。 信心しんじんを​うる​こと肝要かんようなり。 されば​このおんをしへ​には*ぐんを​もらさ​ぬ​ゆゑに、 弥陀みだおしえをば*きょうとも​いふ​なり。

(235)

一 ^法門ほうもんをばもうす​には、 とうりゅうの​こころ​は信心しんじんいちもうひらて​たる、 肝要かんようなり​とうんぬん

(236)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 *仏法ぶっぽうしゃには*ほうりきにてる​なり。 りきで​なく​はる​べから​ず​とおおせ​られそうろふ。 されば仏法ぶっぽうをば、 *がくしょうものしりは*いひたて​ず。 ただ*一文いちもん不知ふちも、 しんあるひとぶっくわへ​らるる​ゆゑに、 仏力ぶつりきにてそうろふ​あひだ、 ひとしんを​とる​なり。 この​ゆゑに聖教しょうぎょうよみ​とて、 しかも​われ​は​とおもは​んひとの、 仏法ぶっぽうを​いひたて​たる​こと​なし​とおおせ​られそうろふ​こと​にそうろふ。 ただ​なに​しら​ね​ども、 *信心しんじんじょうとくひとぶつより​いは​せ​らるる​あひだ、 ひとしんを​とる​と​のおおせ​にそうろふ。

(2371309)

一 ^弥陀みだを​たのめ​ば南無なも弥陀みだぶつぬしる​なり。 南無なも弥陀みだぶつぬしる​といふは、 信心しんじんを​うる​こと​なり​とうんぬん。 また、 とうりゅう真実しんじつたからといふは南無なも弥陀みだぶつ、 これいち0596ねん信心しんじんなり​とうんぬん

(238)

一 ^いちりゅうしんしゅうの​うち​にてほうを​そしり、 わろさまに​いふひとあり。 これ​をおもふ​に、 もんしゅうの​こと​は*是非ぜひなし。 いっしゅうの​うち​に​かやう​のひとも​ある​に、 われら宿しゅくぜんありて​このほうしんずるの​たふとさ​よ​とおもふ​べし​とうんぬん

(239)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) には、 なにたる​もの​をも​あはれみ​かはゆくおぼそうろふ。 だい罪人ざいにんとて*ひところそうろふ​こと、 一段いちだんおんかなしみそうろふ。 存命ぞんめいも​あらばしんちゅうなおす​べし​とおおせ​られそうらひ​て、 *かんそうらひ​ても、 しんちゅうを​だに​もなおそうらへ​ば、 やがて*宥免ゆうめんそうろふ​とうんぬん

(240)

一 ^安芸あき**蓮崇れんそう*くにを​くつがへし、 くせごと​につきて、 *もんを​はなさ​れそうろふ。 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) 病中びょうちゅう*ないへ​まゐり、 おん詫言わびごともうそうらへ​ども、 とりつぎそうろ1310ひとなくそうらひ​し。 その折節おりふし前々ぜんぜんじゅうしょうにんふとおおせ​られそうろふ。 安芸あき*なほさ​う​とおもふ​よ​とおおせ​られそうろふ。 *きょうだい以下いげおんもうす​には、 一度ひとたび仏法ぶっぽう*あだ​を​なし​まうすひとにてそうらへ​ば、 いかが​とおんもうそうらへ​ば、 おおせ​られそうろふ。

^それ​ぞ​とよ、 あさましき​こと​を​いふ​ぞ​とよ。 しんちゅうだになおら​ば、 なにたる​もの​なり​とも、 *おん0597もらし​なき​こと​にそうろふ​とおおせ​られそうらひ​て、 赦免しゃめんそうらひ​き。 そのときぜんへ​まゐり、 おんに​かから​れそうろとき感涙かんるいたたみに​うかびそうろふ​とうんぬん。 しかうしてちゅういんの​うち​に、 蓮崇れんそうないにて*すぎ​られそうろふ。

(241)

一 ^おうしゅういちりゅうの​こと​をもうし​まぎらかしそうろひとを​きこしめし​て、 前々ぜんぜんじゅうしょうにんおうしゅう*じょうゆうらんそうらひ​て、 もつてのほかふくりゅうそうらひ​て、 さてさて開山かいさんしょうにん (親鸞)りゅうもうし​みだす​こと​の​あさましさ​よ、 にくさ​よ​とおおせ​られそうらひ​て、 おんを​くひしめ​られ​て、 さてりきざみ​ても*あく​か​よ​あく​か​よ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん仏法ぶっぽうもうし​みだす​もの​をば、 一段いちだんあさましき​ぞ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(2421311)

一 ^あん頂上ちょうじょうもうす​べき​は、 弥陀みだ如来にょらい*こうゆい本願ほんがんに​すぎ​たる​こと​は​なし。 このあんどう同心どうしんせ​ば、 ぶつる​べし。 同心どうしんとてべつに​なし。 ほう一体いったいどうなり​とうんぬん

(243)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 おんいっしょうがい沙汰さたそうろふ​こと、 みな仏法ぶっぽうにて、 方便ほうべん*調ちょうほうそうらひ​て0598ひとしんおんとら​せ​ある​べきおんことわり​にてそうろふ​よしおおせ​られそうろうんぬん

(244)

一 ^おなじく病中びょうちゅうおおせ​られそうろふ。 いま​わが​いふ​こと​は*金言きんげんなり。 *かまへて​かまへて、 よくこころよとおおせ​られそうろふ。 またえいの​こと、 さんじゅういちに​つづくる​こと​にて​こそ​あれ。 これ​は法門ほうもんにて​ある​ぞ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(245)

一 ^*しゃ三人さんにんしゃ一人いちにん」 とて、 なにごと​も談合だんごうすれば面白おもしろき​こと​ある​ぞ​と、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)ぜんじゅうしょうにん (実如)おんもうそうろふ。 これ​また仏法ぶっぽうがた​には​いよいよ肝要かんよう金言きんげんなり​とうんぬん

(2461312)

一 ^蓮如れんにょしょうにん*じゅんせいたいおおせ​られそうろふ。 ほうきょうと​われ​と​はきょうだいよ​とおおせ​られそうろふ。 ほうきょうもうさ​れそうろふ。 これ​は*みょうも​なきおんこと​ともうさ​れそうろふ。 蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 しん*え​つれ​ば、 さき​にうまるる​もの​はあにあとうまるる​もの​はおとうとよ。 ほうきょうと​はきょうだいよ​とおおせ​られそうろふ。 「仏恩ぶっとん*一同いちどうに​うれ​ば、 信心しんじんいっの​うへはかいみなきょうだい(*論註・下意) といへり。

(2470599)

一 ^みなみ殿どの*山水さんすい*えんとこの​うへ​にて、 蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 ものおもひ​たる​よりおおきに​ちがふ​といふ​は、 極楽ごくらくへ​まゐり​て​の​こと​なる​べし。 ここ​にて​ありがた​や​たふと​や​とおもふ​は、 *ものかずにて​も​なき​なり。 かのしょうじ​て​のかんは、 *ことのは​も​ある​べから​ず​とおおせ​られ​し​と。

(248)

一 ^ひとは​そらごともうさ​じ​とたしなむ​を、 *随分ずいぶんと​こそおもへ。 こころいつわり​あら​じ​とたしなひとは、 さのみおおく​は​なき​ものなり。 また​よき​こと​は​なら​ぬ​まで​も、 けん仏法ぶっぽうともにこころに​かけたしなみ​たき​こと​なり​とうんぬん

(2491313)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 ¬*安心あんじんけつじょうしょう¼ の​こと、 じゅうねんが​あひだらんそうらへ​ども、 らんじ​あか​ぬ​とおおせ​られそうろふ。 また、 こがねを​ほり​いだす​やう​なる聖教しょうぎょうなり​とおおせ​られそうろふ。

(250)

一 ^大坂おおざか殿どのにて​おのおの​へたいせ​られおおせ​られそうろふ。 この​あひだもうし​し​こと​は、 ¬安心あんじんけつじょうしょう¼ の​かたはし​をおおせ​られそうろふ​よし​にそうろふ。 しかれば、 とうりゅう¬安心あんじんけつじょうしょう¼ の、 いよいよ肝要かんようなり​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(2510600)

一 ^ほうきょうもうさ​れそうろふ。 *たふとむひとより、 たふとがるひとぞ​たふとかり​ける​と。 前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ。 面白おもしろき​こと​を​いふ​よ。 たふとむてい*しゅしょうぶり​するひとは​たふとく​も​なし。 ただ​ありがた​や​と​たふとがるひとこそ​たふとけれ。 面白おもしろき​こと​を​いふ​よ、 もつとも​の​こと​をもうさ​れそうろふ​と​のおおせごと​にそうろふ​とうんぬん

(252)

一 ^*ぶんさんしょうがつじゅうにちよる兼縁けんえんゆめに​いはく、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん兼縁けんえんおんといありておおせ​られそうろふ​やう、 いたづらに​ある​こと​あさましくおぼそうらへ​ば、 けい1314かたがた、 せめて一巻いっかんきょうをも、 いち、 みなみなよりひ​て​よみ​まうせ​とおおせ​られ​けり​とうんぬん。 あまりにひとの​むなしくつきおくそうろふ​こと​をかなしくおぼそうろふ​ゆゑのそうろふ。

(253)

一 ^おなじくゆめに​いはく、 *同年どうねん*極月ごくげつじゅう八日はちにちよる前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)おん袈裟けさころもにてふすましょうを​あけ​られおんそうろふ​あひだ、 法談ほうだんちょうもんもうす​べきこころにてそうろふ​ところ​に、 *ついたちしょうの​やう​なるものに、 ふみおんことばおんそうろふ​を​よみ​まうす​をらんじ​て、 それ​は​なん​ぞ​とおんたずそうろふ​あひだ、 ふみにてそうろふ​よしもうそうらへ​ば、 それ​こそ肝要かんよう信仰しんこうし​て​きけ​とおおせ​られ​けり​とうんぬん

(2540601)

一 ^おなじくゆめに​いはく、 *翌年よくねん極月ごくげつじゅうにち前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ​やう​は、 いえをば​よくつくら​れ​て、 信心しんじんを​よく​とり念仏ねんぶつもうす​べき​よし、 かたくおおせ​られそうらひ​けり​とうんぬん

(255)

一 ^おなじくゆめに​いはく、 近年きんねん*大永だいえいさんしょうがつ一日ついたちゆめに​いはく、 *むら殿どの1315みなみ殿どのにて前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​に​いはく、 仏法ぶっぽうの​こと​いろいろおおせ​られそうらひ​てのち田舎いなかにはぞうぎょう雑修ざっしゅある​を、 かたくもうしつく​べし​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(256)

一 ^おなじくゆめに​いはく、 *大永だいえいろくしょうがついつゆめ前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ。 いちだいにてそうろふ。 *いまぶんが​よきときにてそうろふ。 ここ​を​とりはづし​てはいちだいおおせ​られそうろふ。 かしこまり​たり​とおんうけおんもうそうらへ​ば、 ただ​そのかしこまり​たる​といふ​にて​は​なくそうろふ​まじくそうろ。 ただいちだいにてそうろふ​よしおおせ​られそうらひ​し​とうんぬん

 ^*つぎのゆめに​いはく、 *蓮誓れんせいおおそうろふ。 吉崎よしざき ˆにてˇ 前々ぜんぜんじゅうしょうにんとうりゅう肝要かんようの​こと​をならひ​まうしそうろふ。 いちりゅうようなき聖教しょうぎょうや​なんど​を​ひろく​みて、 りゅう*ひがざまに​とりなしそうろふ​ことそうろふ。 さいわひに肝要かんようそうろ聖教しょうぎょうそうろふ。 これ​がいちりゅう*ごくなり​と、 吉崎よしざきにて前々ぜんぜんじゅうしょうにんならひ​まうしそうろふ​と、 蓮誓れんせいおお0602せ​られそうらひ​し​とうんぬん

 ^わたくし​に​いはく、 ゆめとうを​しるす​こと、 前々ぜんぜんじゅうしょうにんり​たまへ​ば、 いま1316は​その一言いちごんをも大切たいせつぞんそうらへ​ば、 かやうにゆめり​ておおそうろふ​こと​の金言きんげんなる​こと、 まこと​のおおせ​ともぞんずる​まま、 これ​を​しるす​ものなり。 まことに​これ​はそうとももうす​べき​こと​ども​にてそうろふ。 総体そうたいゆめ妄想もうぞうなり、 さりながら、 *権者ごんじゃの​うへ​には*ずいとて​ある​こと​なり。 なほ​もつて​かやう​の金言きんげんの​ことば​は​しるす​べし​とうんぬん

(257)

一 ^仏恩ぶっとんが​たふとくそうろふ​など​ともうす​はき​にくくそうろふ、 *りょうなり。 仏恩ぶっとんを​ありがたくぞんず​ともうせ​ば、 *莫大ばくだいき​よくそうろふ​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬんふみが​ともうす​もりょうなり。 ふみちょうもんもうし​て、 ふみありがたし​ともうし​て​よき​よし​にそうろふ。 仏法ぶっぽうかたをば​いかほど​もそんきょうもうす​べき​こと​とうんぬん

(258)

一 ^仏法ぶっぽう讃嘆さんだんの​とき、 どうぎょうを​かたがた​ともうす​は*平懐へいがいなり。 おん方々かたがたもうし​て​よき​よしおおせごと​とうんぬん

(259)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 いえを​つくりそうろふ​とも、 *つぶり​だに​ぬれ1317ず​は、 なに​とも​か​とも0603つくる​べし。 ばんぶんなる​こと​をおんきらひそうろふ。 しょうとうに​いたる​まで​も、 よき​ものん​とおもふ​は​あさましき​こと​なり。 みょうぞんじ、 ただ仏法ぶっぽうこころに​かけ​よ​とおおせ​られそうろうんぬん

(260)

一 ^おなじくおおせ​られそうろふ。 いかやう​のひとにてそうろふ​とも、 *仏法ぶっぽういえ奉公ほうこうもうそうらは​ば、 昨日きのうまで​はしゅうにてそうろふ​とも、 今日きょうは​はや仏法ぶっぽうゆうと​こころう​べくそうろふ。 たとひ*あきなひ​を​する​とも、 仏法ぶっぽうゆうこころべき​とおおせ​られそうろふ。

(261)

一 ^おなじくおおせ​に​いはく、 あめも​ふり、 また*炎天えんてんぶんは、 つとめ​ながながしくつかまつそうらは​で、 はやくつかまつり​て、 *ひとを​たた​せそうろふ​が​よくそうろふ​よしおおせ​られそうろふ。 これ​も慈悲じひにて、 人々ひとびとおんいたはりそうろふ。 だいだいおんあはれみ​にそうろふ。 つねづね​のおおせ​には、 おんひとおんしたがひそうらひ​て、 仏法ぶっぽうおんすすめそうろふ​とおおせ​られそうろふ。 もんにてぎょの​ごとくなら​ざる​こと、 *なかなか​あさましき​こと​ども、 なかなか*もうす​も​こと​おろかにそうろふ​と​のそうろふ。

(2621318)

一 ^しょうぐん *義尚よしひさ より​のにて、 *しゅう一国いっこくいっもんはなさ​る​べき​と​のにて、 *0604しゅうきょじゅうそうろきょうだいしゅうをも​めし​のぼせ​られそうろふ。 その​とき前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 しゅうしゅうもんはなす​べき​とおおせ​いださ​れそうろふ​こと、 おんを​きら​るる​より​も​かなしくおぼそうろふ。 なにごと​をも​しら​ざるあまにゅうどうたぐいの​こと​までおぼさ​ば、 なに​とも迷惑めいわくこの​こと​にきわまる​よしおおせ​られそうろふ。 もん*やぶら​るる​ともうす​こと​は、 一段いちだんぜんしきおんうへ​にて​も​かなしくおぼそうろふ​こと​にそうろふ。

(263)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 もんしゅう*はじめてものを​まゐらせそうろふ​を、 しゅういだそうろあしくそうろふ。 いち二度にど受用じゅようせしめそうらひ​て、 いだそうらひ​て​しかるべき​の​よしおおせ​られそうろふ。 かくのごとく​のさいぞんじ​も​よら​ぬ​こと​にてそうろふ。 いよいよ仏法ぶっぽうゆうおんを​おろそかにぞんず​べき​こと​にて​は​なくそうろふ。 おどろそうろふ​と​の​こと​にそうろふ。

(264)

一 ^ほうきょうぼう大坂おおざか殿どのくだら​れそうろふ​ところ​に、 前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ。 *おう1319じょうそうろふ​とも、 じゅうねんく​べし​とおおせ​られそうろふ​ところ​に、 なにかともうさ​れ、 *おしかへし、 く​べし​とおおせ​られそうろふ​ところ、 おうじょうありて一年いちねん存命ぞんめいそうろふ​ところ​に、 ほうきょうに​あるひとおおせ​られそうろふ​は、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ​に​あひ​まうし​たる​よ。 そのゆゑは、 一年いちねん存命ぞんめいそうろふ​は、 いのち前々ぜんぜんじゅうしょうにんよりおんあたへそうろふ​こと0605にてそうろふ​とおおそうらへ​ば、 まことに*さ​にておんそうろふ​とて、 を​あはせ、 ありがたき​よし​をもうさ​れそうろふ。 それ​よりのち前々ぜんぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ​ごとく、 じゅうねん存命ぞんめいそうろふ。 まことにみょうかなは​れそうろふ。 思議しぎなるひとにてそうろふ。

(265)

一 ^まいようなる​こと​をつかまつそうろみょうなき​よし、 *条々じょうじょう、 いつ​もおおせ​られそうろふ​よし​にそうろふ。

(266)

一 ^蓮如れんにょしょうにん*ものを​きこしめしそうろふ​にも、 如来にょらいしょうにん (親鸞)おんにて​ましましそうろふ​をおんわすれ​なし​とおおせ​られそうろふ。 一口ひとくちきこしめし​ても、 おぼし​いださ​れそうろふ​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(2671320)

一 ^ぜんらんじ​ても、 *ひとは​ぬめしふ​こと​よ​とおぼそうろふ​とおおせ​られそうろふ。 ものを​すぐに​きこしめす​こと​なし。 ただおんの​たふとき​こと​を​のみおぼそうろふ​とおおせ​られそうろふ。

(268)

一 ^*きょうろくねんじゅうがつじゅう八日はちにち兼縁けんえんゆめに、 蓮如れんにょしょうにんふみを​あそばしくださ​れそうろふ。 そのおんことばに、 梅干うめぼしの​たとへそうろふ。 梅干うめぼしの​こと​を​いへ​ば、 みなひとくち一同いちどうし。 いち安心あんじんは​かやうに​ある​べき​なり。 「同一どういつ念仏ねんぶつ別道べつどう(論註・下)こころにてそうらひ​つる​やう0606に​おぼえそうろうんぬん

(269)

一 ^仏法ぶっぽうか​ざる​が​ゆゑにたしなそうらは​ず​と、 *空善くうぜんもうさ​れそうらへ​ば、 蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 それ​は、 このま​ぬ​はきらふ​にて​は​なき​か​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(270)

一 ^*ほうひと仏法ぶっぽう*れいに​する​とおおせ​られそうろふ。 仏法ぶっぽう讃嘆さんだんあれば、 あらづまり​や、 *く​はて​よ​かし​とおもふ​は、 れいに​する​にて​は​なき​か​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(2711321)

一 ^ぜんじゅう(実如) 病中びょうちゅう*しょうがつじゅうよっおおせ​られそうろふ。 前々ぜんぜんじゅう (蓮如)早々そうそうわれ​にい​と、 ひだりおんにておんまねきそうろふ。 あら​ありがた​や​と、 くりかへし​くりかへしおおせ​られそうらひ​て、 念仏ねんぶつおんもうそうろふ​ほどに、 おのおの*おんこころたがひそうらひ​て、 かやうに​もおおそうろふ​とぞんそうらへ​ば、 そのにて​は​なく​して、 おんまどろみそうろ御夢おんゆめらんぜ​られそうろふ​よしおおせ​られそうろふ​ところ​にて、 みなみなあんそうらひ​き。 これ​また*あらたなる御事おんことなり​とうんぬん

(272)

一 ^*おなじきじゅうにちけん兼縁けんえんたいせ​られおおせ​られそうろふ。 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) *御世みよゆずり​あそばさ​れ​て0607らいの​こと​ども、 種々しゅじゅおおせ​られそうろふ。 *一身いっしん安心あんじんの​とほりおおせ​られ、 一念いちねん弥陀みだを​たのみ​まうし​ておうじょういちじょうおぼさ​れそうろふ。 それ​につきて、 ぜんじゅうしょうにん (蓮如)おんにて、 今日まで​われとおもこころを​もちそうらは​ぬ​が​うれしくそうろふ​とおおせ​られそうろふ。 まことに​ありがたく​も、 また​はおどろき​いり​まうしそうろふ。 われ、 ひと、 かやうにこころまうし​て​こそ​は、 りき信心しんじんけつじょうもうし​たる​にて​は​ある​べくそうろふ。 いよいよいちだいおんこと​にそうろふ。

(2731322)

一 ^¬*嘆徳たんどくもん¼ に、 親鸞しんらんしょうにんもうせ​ば、 その*おそれ​ある​ゆゑに、 祖師そししょうにんと​よみそうろふ。 また開山かいさんしょうにんと​よみ​まうす​も、 おそれ​あるさいにておんそうろうんぬん

(274)

一 ^ただ 「しょうにん」 と*じきもうせ​ば、 りょうなり。 「このしょうにん」 ともうす​も、 りょうか。 「開山かいさん」 と​は、 りゃくし​てはもうす​べき​か​と​の​こと​にそうろふ。 ただ 「開山かいさんしょうにん」 ともうし​て​よくそうろふ​とうんぬん

(275)

一 ^¬嘆徳たんどくもん¼ に、 「もっぜいたくす」 ともうす​こと​を、 「もって」 をき​ては​よま​ずそうろふ​とうんぬん

(2760608)

一 ^蓮如れんにょしょうにんさかいぼう御座ござときけんおんまゐりそうろふ。 どうにおいてしょくの​うへ​にふみを​おか​せ​られ​て、 一人いちにんにん 乃至 にんじゅうにん、 まゐら​れそうろ人々ひとびとたいし、 ふみを​よま​せ​られそうろふ。 その蓮如れんにょしょうにんおん物語ものがたり​のときおおせ​られそうろふ。 この​あひだ面白おもしろき​こと​をおもひ​いだし​てそうろふ。 つね​にふみ一人いちにんなり​ともきた1323ひとにも​よま​せ​て​きか​せ​ば、 *えんひとしんを​とる​べし。 この​あひだ面白おもしろき​こと​をあんし​いだし​たる​と、 くれぐれおおせ​られそうろふ。 さてふみ肝要かんようおんこと​と、 いよいよ​しら​れそうろふ​と​の​こと​とおおせ​られそうろふ​なり。

(277)

一 ^こんじょうの​こと​をこころるる​ほど、 仏法ぶっぽう心腹しんぷくれ​たき​こと​にてそうろふ​と、 ひともうそうらへ​ば、 けん*対様たいようしてもうす​こと​は*大様おおようなり。 ただ仏法ぶっぽうを​ふかく​よろこぶ​べし​うんぬん
^また​いはく、 一日いちにち一日いちにち仏法ぶっぽうは​たしなみそうろふ​べし。 *いちと​おもへ​ば*たいなり​と、 ひともうさ​れそうろふ。 また​いはく、 たいなる​とおもふ​はそくなり。 ひととしていのちは​いかほど​も​ながくそうらひ​ても、 あか​ず​よろこぶ​べき​こと​なり​とうんぬん

(278)

一 ^ぼうひとを​さへかんせ​られそうろふ​に、 わがかんせ​られ​ぬ​は​あさましき​こと​なり​とうんぬん

(2790609)

一 ^どうしゅう前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)*ふみもうさ​れそうらへ​ば、 おおせ​られそうろふ。 ふみは​とり​おとしそうろふ​こと​もそうろふ​ほどに、 ただこころしんを​だに​も​とりそうらへ​ば、 おとしそうらは​ぬ1324よしおおせ​られそうらひ​し。 また​あくるとし、 あそばさ​れ​て、 くださ​れそうろふ。

(280)

一 ^ほうきょうぼうもうさ​れそうろふ。 仏法ぶっぽうを​かたる​に、 *こころざしひとを​まへ​に​おき​てかたそうらへ​ば、 ちからが​ありてもうし​よき​よしもうさ​れそうろふ。

(281)

一 ^しんも​なく​てだい聖教しょうぎょうしょひとは、 をさなき​もの​につるぎた​せそうろふ​やう​におぼそうろふ。 そのゆゑは、 つるぎちょうほうなれども、 をさなき​ものそうらへ​ば、 怪我けがを​する​なり。 ち​て​よくそうろひとちょうほうに​なる​なり​とうんぬん

(282)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 ただ​いま​なり​とも、 われ、 ね​と​いは​ば、 ぬる​もの​は​ある​べくそうろふ​が、 しんを​とる​もの​は​ある​まじき​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(2830610)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん大坂おおざか殿どのにて​おのおの​にたいせ​られ​ておおせ​られそうろふ。 一念いちねんぼんおうじょうを​とぐる​こと​は*秘事ひじでんにて​は​なき​か​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(2841325)

一 ^しん造作ぞうさくときほうきょうもうさ​れそうろふ。 *なに​も思議しぎに、 ちょうぼうとうじょう御座ござそうろふ​よしもうさ​れそうらへ​ば、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 われ​は​なほ思議しぎなる​こと​をる。 ぼんぶつそうろふ​こと​をり​たる​とおおせ​られそうろふ​と。

(285)

一 ^蓮如れんにょしょうにんぜんじゅう*おんかけを​あそばさ​れ​て、 くださ​れそうろふ。 そののちぜんじゅうおんたずそうろふ。 ぜんき​つかはしそうろものをば​なにと​し​たる​とおおせ​られそうろふ。 ぜんじゅうもうさ​れそうろふ。 *ひょう補絵ぼえつかまつそうらひ​て、 はこき​まうしそうろふ​よしもうさ​れそうろふ。 その​ときおおせ​られそうろふ。 それ​は*わけ​も​なき​こと​を​し​たる​よ。 だんかけ​て​おき​て、 その​ごとく*こころね​なせ​よ​といふ​こと​で​こそ​あれ​とおおせ​られそうろふ。

(286)

一 ^おなじくおおせ​に​いはく、 *これ​のうちちょうもんもうは、 *とり​はづし​たら​ばぶつ*ら​ん​よ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん。 ありがたきおおせ​にそうろふ。

(2870611)

一 ^おおせ​に​いはく、 ぼうしゅたいせ​られおおせ​られそうろふ。 ぼうといふ​もの​は大罪だいざいにん1326なり​とおおせ​られそうろふ。 そのときみなみな*迷惑めいわくもうさ​れそうろふ。 さておおせ​られそうろふ。 つみが​ふかけれ​ば​こそ、 弥陀みだ如来にょらいおんたすけ​あれ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(288)

一 ^毎日まいにち毎日まいにちに、 ふみ金言きんげんちょうもんさせ​られそうろふ​こと​は、 たからおんたまわそうろふ​こと​にそうろふ​とうんぬん

(289)

一 ^開山かいさんしょうにん (親鸞)だい*たか だい *けんじょうらくときもうさ​れそうろふ。 こん*すでにおんに​かかる​まじき​とぞんそうろふ​ところ​に、 思議しぎおんに​かかりそうろふ​ともうさ​れそうらへ​ば、 それ​は​いかに​とおおせ​られそうろふ。 ふな難風なんぷうに​あひ、 *迷惑めいわくつかまつそうろふ​よしもうさ​れそうろふ。 しょうにんおおせ​られそうろふ。 それ​ならば、 ふねにはら​る​まじき​ものを​とおおせ​られそうろふ。 そののち*おんことばすえにてそうろふ​とて、 いちふねら​れ​ずそうろふ。
^また*くさびらひ​まうさ​れ、 おんおそく​かから​れそうらひ​し​とき​も、 かくのごとくおおせ​られ​し​とて、 いち受用じゅようなくそうらひ​し​とうんぬん。 かやうにおおせ​をしんじ、 ちがへ​まうす​まじき​とぞんぜ​られそうろふ​こと、 まことに​ありがたきしゅしょうかくと​のそうろふ。

(2901327)  0612

一 ^あたたかなれ​ば、 ねぶりさしそうろふ。 あさましき​こと​なり。 そのかくにてをも​すずしく​もち、 ねぶり​を​さます​べき​なり。 ずいなれば、 仏法ぶっぽう*ほうともに​おこたり、 *沙汰さただんあり。 このいちだいなり​とうんぬん

(291)

一 ^しんを​え​たらば、 どうぎょうに​あらくものもうす​まじき​なり、 こころやわらぐ​べき​なり。 触光そくこうにゅうなんがん (第三十三願) あり。 またしんなけれ​ば、 *に​なり​てことばも​あらく、 あらそひ​も​かならずでくる​ものなり。 あさまし​あさまし、 よくよく​こころう​べし​とうんぬん

(292)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)北国ほっこくの​さるもんの​こと​をおおせ​られそうろふ。 *なにとして​ひさしくじょうらくなき​ぞ​とおおせ​られそうろふ。 *ぜんひともうさ​れそうろふ。 さる御方おんかた*折檻せっかんそうろふ​ともうさ​れそうろふ。 そのときげんもつてのほかしくそうらひ​て、 おおせ​られそうろふ。 開山かいさんしょうにん (親鸞)もんを​さやうに​いふ​もの​は​ある​べから​ず。 おんひとりょうにはおぼさ​ぬ​ものを、 なにたる​もの​が​いふ​べき​とも、 *とくとく​のぼれ​と​いへ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(2931328)

一 ^*ぜんじゅうしょうにんおおせ​られそうろふ。 もんしゅうを​あしくもうす​こと、 ゆめゆめ​ある​まじき​なり。 開山かいさん (親鸞)0613おんどうぎょうおん同朋どうぼうおん*かしづきそうろふ​に、 りょうぞんずる​は​くせごと​の​よしおおせ​られそうろふ。

(294)

一 ^開山かいさんしょうにんいちだいきゃくじんもうす​は、 もんしゅうの​こと​なり​とおおせ​られ​し​とうんぬん

(295)

一 ^もんしゅうじょうらくそうらへ​ば、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ。 *寒天かんてんにはしゅとうの​かん​を​よく​させ​られ​て、 *路次ろしさむさ​をもわすら​れそうろふ​やう​に​とおおせ​られそうろふ。 また炎天えんてんときは、 さけなどひやせ​とおおせ​られそうろふ。 おんことばを​くはへ​られそうろふ。 また、 もんじょうらくそうろふ​を、 おそ*もうそうろふ​こと​くせごと​とおおせ​られそうろふ。 もんを​また​せ、 おそく対面たいめんする​こと​くせごと​の​よしおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(296)

一 ^ばんにつきて、 よき​こと​をおもひ​つくる​はおんなり、 しき​こと​だにおもて​たる​はおんなり。 つる​もる​も、 いづれ​も​いづれ​もおんなり​とうんぬん

(2971329)

一 ^前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如)もん*しんじょうもつをば、 おんころもの​した​にておんおがそうろふ。 またぶつものおぼそうらへ​ば、 しんものまで​も、 御足おんあしに​あたりそうらへ​ば、 おんいただきそうろふ。 もん0614しんじょうもつ、 すなはちしょうにん (親鸞) より​のおんあたへ​とおぼそうろふ​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(298)

一 ^仏法ぶっぽうには、 よろず*かなしき​にも、 *かなは​ぬ​につけて​も、 なにごと​につけて​も、 しょうのたすかる​べき​こと​をおもへ​ば、 よろこび​おほき​は仏恩ぶっとんなり​とうんぬん

(299)

一 ^仏法ぶっぽうしゃに​なれちかづき​て、 そんひとつ​も​なし。 なにたる​をかしき​こと、 *きょうげんにも、 是非ぜひとも心底しんていには仏法ぶっぽうある​べし​とおもふ​ほどに、 わがかたとくおほきなり​とうんぬん

(300)

一 ^蓮如れんにょしょうにんごん再誕さいたんといふ​こと、 そのしょうおほし。 まへに​これ​を​しるせ​り。 えいに、 「かたみ​にはろく御名みなを​のこし​おく なから​ん​あと​の​かたみ​とも​なれ」 とそうろふ。 弥陀みだしんと​しら​れそうろふ​こと歴然れきぜんたり。

(3011330)

一 ^蓮如れんにょしょうにん細々さいさい*きょうだいしゅう御足おんあし御見おみそうろふ。 おんわらぢ​のくひり、 *きらりとおんそうろふ。 かやうにきょう田舎いなかしん辛労しんろうそうらひ​て、 仏法ぶっぽうおおせ​ひらか​れそうろふ​よしおおせ​られそうらひ​し​とうんぬん

(3020615)

一 ^おなじくおおせ​に​いはく、 悪人あくにんの​まね​を​す​べき​より、 信心しんじんけつじょうひとの​まね​を​せよ​とおおせ​られそうろうんぬん

(303)

一 ^蓮如れんにょしょうにん病中びょうちゅう大坂おおざか殿どのよりじょうらくとき*明応めいおうはちがつじゅう八日はちにち*さんば​のじょうけん ˆのˇ ところにて、 ぜんじゅうしょうにん (実如)たいおんもうし​なさ​れそうろふ。

^いちりゅう肝要かんようをば、 ふみに​くはしく​あそばし​とどめ​られそうろふ​あひだ、 いま​はもうし​まぎらかす​もの​も​ある​まじくそうろふ。 このぶんを​よくよくおんこころあり、 もんちゅうへ​もおおせ​つけ​られそうらへ​と遺言ゆいごんの​よし​にそうろふ。 しかれば、 ぜんじゅうしょうにん (実如)安心あんじんふみの​ごとく、 また諸国しょこくもんも、 ふみの​ごとくしんを​え​られ​よ​と​の*しょうの​ため​に、 *はんを​なさ​れそうろふ​こと​とうんぬん

(3041331)

一 ^*存覚ぞんかく*だいせいしんなり​とうんぬん。 しかるに ¬*六要ろくようしょう¼ には *三心さんしんくんその​ほか、 「勘得かんとくせず」 と​あそばし、 「しょうにん (親鸞)宏才こうさいあおぐべし」 とそうろふ。 ごんにてそうらへ​ども、 しょうにん*作分さくぶんを​かくのごとく​あそばしそうろふ。 まことにしょうはかり​がたき​むね​を​あらはし、 りきを​すて​てりきあおほんにもかなひ​まうしそうろものをや。 かやう​の​こと​がめいにておんそうろふ​とうんぬん

(3050616)

一 ^¬*ちゅう¼ をおんあらはしそうろふ​こと、 しん*智解ちげおんあらはしそうらは​んがために​て​は​なくそうろふ。 おんことば*ほうの​ため、 *ぎょうそうの​ため​にてそうろふ​とうんぬん

(306)

一 ^存覚ぞんかくせいえいに​いはく、 「いま​は​はやひとゆめと​なり​にけり ゆきあまた​の​かり​の​やど​やど」。 このことば蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ​とうんぬん。 さてはしゃしんなり、 往来おうらいしゃこころなり​とうんぬん。 わがに​かけ​て​こころえ​ば、 六道ろくどうりんめぐり​めぐり​て、 いまりんじゅうゆうべ、 さとり​を​ひらく​べし​といふこころなり​とうんぬん

(307)

一 ^*よう*いんとて​あり。 さればようを​うるはなは​はやくひらく​なり、 いんとてかげ1332はなおそく​なり。 かやうに宿しゅくぜんそくあり。 されば*今当こんとうおうじょうあり。 弥陀みだこうみょうに​あひ​て、 はやくひらくるひとも​あり、 おそひらくるひとも​あり。 とにかくに、 しんしんともに仏法ぶっぽうこころれ​てちょうもんもうす​べき​なり​とうんぬん今当こんとうの​こと、 前々ぜんぜんじゅうしょうにん (蓮如) おおせ​られそうろふ​とうんぬん昨日きのうあらはすひとも​あり、 今日きょうあらはすひとも​あり​とおおせ​られ​しうんぬん

(3080617)

一 ^蓮如れんにょしょうにんろうおんとほりそうらひ​て、 かみれ​の​おち​てそうらひ​つる​をらんぜ​られ、 *仏法ぶっぽうりょうもの*あだに​する​かや​とおおせ​られりょうおんにておんいただきそうろふ​とうんぬんそうじてかみれ​なんど​の​やう​なるものをも、 仏物ぶつもつおぼおんもちそうらへ​ば、 あだに沙汰さたなくそうろふ​の​よし、 ぜんじゅうしょうにん (実如) おん物語ものがたそうらひ​き。

(309)

一 ^蓮如れんにょしょうにん近年きんねんおおせ​られそうろふ。 病中びょうちゅうおおせ​られそうろふ​こと、 なにごと​も金言きんげんなり。 こころを​とめ​てく​べし​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(310)

一 ^病中びょうちゅうきょうもんを​めし​ておおせ​られそうろふ。 おんには思議しぎなる​こと​ある​を、 1333を​とりなほし​ておおせ​らる​べき​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(311)

一 ^蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 けん仏法ぶっぽうともに、 ひと*かろがろ​と​し​たる​が​よき​とおおせ​られそうろふ。 もくし​たる​もの​をおんきらひそうろふ。 ものもうさ​ぬ​が​わろき​とおおせ​られそうろふ。 また*おんものもうす​を​わろし​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(3120618)

一 ^おなじくおおせ​に​いはく、 仏法ぶっぽう*たいと​はたしなみ​に​よる​と、 ついおおせ​られそうろふ。
^また法門ほうもんにわまつと​は*いふ​に*あがる​と、 これ​もついおおせ​られそうろふ​とうんぬん

(313)

一 ^*兼縁けんえんさかいにて、 蓮如れんにょしょうにんぞんしょうとき*ずりぬの買得ばいとくあり​けれ​ば、 蓮如れんにょしょうにんおおせ​られそうろふ。 かやう​のものは​わがかたにも​ある​ものを、 ようひごと​よ​とおおせ​られそうろふ。 兼縁けんえん*もつにて​とり​まうし​たる​とこたへ​まうしそうろふ​ところ​に、 おおせ​られそうろふ。 それ​は​わがものか​とおおせ​られそうろふ。 ことごとく仏物ぶつもつ如来にょらいしょうにん (親鸞)ゆうに​もるる​こと​は​あるまじくそうろふ。

(3141334)

一 ^蓮如れんにょしょうにん兼縁けんえんものくださ​れそうろふ​を、 みょうなき​と退たいそうらひ​けれ​ば、 おおせ​られそうろふ。 つかはさ​れそうろものをば、 ただり​てしんを​よく​とれ。 しんなく​はみょうなき​とてぶつものけ​ぬ​やう​なる​も、 それ​は*きょくも​なき​こと​なり。 *われ​する​と​おもふ​か​とよ。 みなゆうなり。 なにごと​かゆうに​もるる​こと​やそうろふ​べき​とおおせ​られそうろふ​とうんぬん

                           *実如じつにょ (御判)

れん0619にょしょうにん一代いちだい聞書ききがき まつ

 

底本は真宗法要所収本ˆ聖典全書と同じˇ。
月かげの… 法然ほうねん上人の歌。 ¬ぞく千載せんざいしゅう¼ 所収。 月かげは月の光の意。
是非におよばず 是非の判断を超えている。 いいようがない。
順讃 →じゅんさん
あげば 調声する番。
覚善又四郎 底本に 「覚善と又四郎」 とあるのを改めた。 底本では二人の名のようにみえるが、 覚善も又四郎も同一人物の名である。 →覚善かくぜん
妙願力 すぐれた本願の力。 「名願力」 とする異本もある。
あそばされて ここではお書きになってという意。
福田寺 福田寺のそうしゅん
まゐらせん (勤行のどくを) さしあげよう。
御一流 ここでは浄土真宗を指す。
ききつくる 聞いて知る。 聞いて理解する。
あかつき八時 午前二時頃。
大津近松殿 れんじゅん師のこと。
富田殿 せっとん教行きょうぎょうをいう。
誓願寺 誓願寺のりょうゆう。 あるいは能の曲目 「誓願寺」 を指すか。。
上り下り 上洛と下向。
おもしろや よろこばしいことよ。
南旡 親鸞聖人は南無の 「無」 の字は古字の 「旡」 を用いられた。
 金粉をにかわみずにときまぜた絵具。
 役目。 はたらき。
世のなかに… 以下は ¬くうぜん聞書ききがき¼ ¬蓮如上人御一期記¼ では別の条になっている。
あまのこころ 出家して尼になりたいという心。
妻うしのつのは… 牝牛の角は曲がっているけれども、 それはそれでよい。
御影 掛軸装の肖像。
御免 授与して安置を許すこと。
御影の正本 「あんじょうのえい」 のことか。
みづからの御筆にて… 御影像の上下にある讃文は親鸞聖人の御真筆であるという意。
たね 因種。 原因。
後室 ここでは浅井氏の先代の夫人。
取りみだし 忙しくすること。
無き分なり 無いのと同じである。
たのむこころ 阿弥陀仏におまかせする信心のこと。
身をすてて 身分や地位の違いを問わず。
おのおの…をば ¬空善くうぜんききがき¼ には 「平座にてみなと同座するは」、 ¬蓮如上人御一期記¼ には 「平座にておのおのと同座するは」 とある。
不審のあつかひどもにて どう理解すればよいのか思い悩む。 思い悩むのは蓮如上人の弟子たち。
機のあつかひ 本願の教示をさしおいて、 機 (救われるものとしての自己) の善悪のみをあげつらうこと。
美濃殿 きょうもん房の通称。
まかりいで候へ 退出しなさい。
一念のこと ここでは信心のいわれ。
在国 大坂に滞在すること。
御講 報恩ほうおんこうのこと。
御堂の夜の宿衆 夜中御堂にとまって守護する人。
頭人 当番の人。
大坂殿 大坂の御坊。 後の石山いしやま本願ほんがん
聖人 ここでは山科やましな本願寺の親鸞聖人の御影像。
御開山様… 親鸞聖人の御影像を安置している寺。
御本寺 御本山。
山科 山科やましな本願ほんがん。 蓮如上人が山城やましろ山科 (現在の教師山科区) に再興した本願寺。
こころざしの衆 仏法に志の篤い人々。
かど 肝要。 要点。 かなめ。
詮あるところ 肝要。 要点。 かなめ。
いさみの念仏 喜びいさんで称える仏恩報謝の念仏のこと。
無宿善の機 宿善のない者。 仏の教えを聞く機縁が熟していない者。
さてなり 駄目である。
 擯罰ひんばつ。 叱責。 きらいしりぞけること。
近松殿・光応寺殿 れんじゅん師のこと。
 境殿のこと。 →さかい別院べついん
おして はりつけて。
善宗 下間しもつまこうしゅうのこと。 玄英げんえいの第三子。 善宗は法名。
こころざし こん
わがものがほに存ずるか 文末の 「か」 を格助詞の 「が」 と解すれば、 「自分のものをさしあげるように思っているのが恥しい」 という意になる。 清音の場合には、 「自分のものと思っているのか、 恥しいことである」 という疑問・反語の意となる。
津国郡家の主計 せっ郡家 (現在の大阪府高槻市) の妙円寺の開基。
よくめされ候ふ 立派になさることである。
まぎれまはる 紛れ回る。 信心を得ていないのに、 得たような顔をしてごまかすこと。
こころざしのひと 仏法に深く帰依きえする人。
ちかひ 「ちかい」 とする説と 「ちがい」 とする説とがある。 本文では 「たしなみ」 に対比されているので、 「違」 すなわち過失、 誤りの意であろう。
他流 浄土真宗以外の宗派。
御本寺北殿 山科やましな本願寺の北殿。 蓮如上人隠居後、 実如じつにょ上人が住した。。
当機をかがみ… 相手のことをよく考え。
二俣 底本では 「役」。 現在の石川県金沢市二俣町にある本泉ほんせんを指す。
小名号… 小名号は六つ切の小型の名号のこと。 小名号をいただきたいという同行たちの申し出を兼縁 (れん) 師が取り次いだ。
堺の日向屋 和泉いずみ堺 (現在の大阪府堺市) の富豪。
かやうにて… これでよろしいでしょうか。
不信 信心を得ることができない。 疑いがはれない。
まぎれて… ごまかしたまま死んでしまうような人。
鍛冶番匠 鍛冶屋と大工。
 礼物。
なかなか もちろん。 いかにも。
なにたるものなりとも どんなものでも。
朝夕 ここでは日々の食事の意。
噛むとはしるとも… 噛みしめ味わうことを教えても、 鵜呑みにすることを教えてはならない。
徳分 得るところ。 ためになること。
うりごころ 人に法を説いてその見返りを期待する心。
おそろしく… 恐れ多いことだと心得なければならない。
別義 特別な教え。
凡夫往生 煩悩ぼんのうを断ち切ることができない者が、 阿弥陀仏の浄土に往き生れること。
信不信 信心を得た者と得ていない者。
節はかせ 声明しょうみょう (仏教の儀式音楽) の節の長短高低の定め。
とりつめ ここでの 「とりつむ」 は叱るの意。
一向にわろき人 (仏法を) 全く知らない人。
ひてておく 浸しておく。
くれくれ くり返しくり返し読め。
句面のごとく 文面にあらわれている通り。
口業 ここではでんのこと。
私にして会釈すること 自分勝手に解釈すること。
独覚心 自分一人のさとりで満足するような心。
承引 承知すること。
自信教人信の… 第九五条の標示ととる説もある。
世間機 世俗的な心持ち。
時宜しかるべきは… 何でもうまくこなしてそつがない人を立派な人だというが。
心をおく 気をつける。
便り たより。
片目… →補註5
 主君。
果後の方便 おんの昔に成仏した阿弥陀仏が、 しゅじょうを救うためのてだてとして、 法蔵ほうぞう菩薩の発願ほつがん修行、 十劫じっこうの昔のじょうどうの相を示したことをいう。
身をばまるめたる その身を包まれている。
丹後法眼蓮応 下間しもつま頼玄らいげんのこと。 「蓮応」 は底本では 「蓮慈」。
賞翫 ほめること。
御影を申す 御影像の交付を本山に願い出ること。
手をささぬ 手を加えない。
下としたる人 目下の人。
木の皮をきるいろめ 木の皮を編んで身にまとうような貧しい身なり。
なわびそ 悲しく思うな。 気落ちするな。
かがみ かんがみ。 よく考え。
老の皺をのべ候ふ 非常によろこばしく気持ちの晴々とするさまをいう。
事態 能狂言のしぐさの意か。 「事能」 とする異本もある。
天王寺土塔会 天王寺は四天王寺 (大阪市天王寺区) の略称。 同寺南大門の前に牛頭ごず天王てんのうをまつったやしろがあり、 毎年四月十五日にその祭礼が行われた。
 底本は 「記」 の字を欠く。
御兄弟 蓮如上人の子息たちのこと。
寄合ひ 村落などでの会合のこと。 講の別称としても用いられる。 ここでは法談のために集合すること。
意巧に 各自の都合のよいように。 各自の好むように。
たとひなきことなりとも たとえ事実でないことであっても。
当座領掌すべし とりあえず受け入れるのがよい。
用心 ¬じつきゅう¼ では 「心用」 となっている。
威のおほきなること 勢いが盛んなこと。
心に…思ふ人 熱心であろうとする人。
すきこしらへもちたる人 すすんで求め持っている人。
心まめにて 心まじめに。
あらめなる 大まかなこと。
世間には… 世間ではあまり細かすぎるのはよくないというがという意であろう。
不断 たえず。 いつも。
御用 ここでは仏法を聴聞する縁を恵まれること。
初めたるやうに はじめて耳にするかのように。
名聞げに よい評判を求めているかのように。
冥慮 仏祖のおぼしめし。
冥見 仏祖がつねにしゅじょうをみていること
しげからんこと 冗長なこと。 繁雑なこと。
まゐらせ心 自分が積んだ善根ぜんごんどくを仏にさしむけようとする自力のこうしん
眼耳鼻舌身意 六根ろっこんのこと。
仏智の心 仏の智慧ちえを頂いた心、 すなわち信心。
貪瞋痴 貪欲とんよくしん愚痴ぐち
得手に 自分の都合のよいように。
御用物 おはたらきによって恵まれたもの。
額にあてよ 表にかかげて守れ。
端正 「端々はしばし」 とする異本もある。
迷惑 困ること。 ここでは主として経済的な困窮をいう。
御代 自分の生涯。
仰せたてられん ここではひろめようというほどの意。
この法師 蓮如上人が自身のことを指していう。
あそばされ候ふ ここでは書写されたという意。
かひがひしく 思いどおりに。
小者 召使。 名は竹若といったという。
紙絹に輻をさし 紙をもみ柔らげて柿渋を引いた紙子の着物の襟や袖に普通の布でへりをつけるという意。
引きごと 例をあげて説明すること。
きれば… ¬論語¼ かん篇に 「仰之弥高鑽之弥堅 (これを仰げばいよいよ高く、 これをればいよいよ堅し)」 とある。
堅く 「たやすく」 とする異本がある。
世間のひまを闕きて 世間の用事をさしおいて。
上人 ここでは座に居合わせた目上の人、 長老格の人物。
あるもあられずして おるにおられず。
御作分 つくられたもの。 御制作になったもの。
 ことわり。 道理。
 しゅう。 我情。
住持 住職。 ここでは本願寺住職。
御相続ありて 実如じつにょ上人に本願寺住職を譲ったことを指す。
大坂殿 大坂の御坊。 後の大坂石山いしやま本願ほんがん
御ことば ここでは蓮如上人の教化のことば。
仏法だにもあらば 仏法を心得ている者でありさえすれば。
御座のうへに… ¬蓮如れんにょしょうにんおおせの条々じょうじょう¼ (25) には 「御座敷のさをにかけられて置かれ候ひしなり」 とあり、 小袖を居間のさおに掛けて置かれたということ。
衣食ふ 着物を着、 食事をいただくこと。
おちば… 落ちるところのあることを知らない。
しのぎ 事を成し遂げること。 成就すること。
田上の了宗 せっ (現在の大阪府) 田上に住んでいた人。 また、 加賀かが河北郡 (現在の石川県金沢市上田上、 下田上) 住んでいた人とする説もある。
あつかひ 話題にして語り合うこと。 あれこれ思いはからうこと。
多事 こみいった複雑な事がら。
村雀 群をなす雀。
退転 あともどりすること。 ここでは怠ることをいう。
仏恩にそなはる 仏恩を報謝したことになる。
思ひよらず 思いもよらず。
かわいや かわいそうなことだ。
のうれん れん
一通り あらまし。 一部始終。
信治定 信心がけつじょうすること。 信心がたしかに定まること。
結句をきりて (迷いの世界の) 絆を断ち切ってというほどの意。
あしきさまなること 悪いと思われるようなこと。
われといふことあれば 自分こそがというしゅうの心があるなら。
踏みかぶる 踏みはずして水たまりや穴などに落ち込むこと。
たしなまずは 心がけなければ。
さてあるまじき そのようなことはあるはずがない。
近江の湖 琵琶湖。
畏まりたる 承諾の意。 かしこまりました。
至りて きわめて。
穿つ 穴をあける。 つらぬく。
菩提の覚道 仏のさとり。
思ひすつる (なれるはずがないと) あきらめる。
おぼえざる 気づかない。 わからない。
 とき。 場合。
人なみたるべし (われ先にものをいわないで) 人並みに振舞っておきなさい。
このあひだ この頃。
徒然 することがなくて退屈なさま。
野村殿 山科やましな本願ほんがんのこと。 野村は現在の京都市山科区西野。
神無森 現在の京都市山科区小山神無森町。
二十五日 法然ほうねん上人の命日は一月二十五日。 なお、 ぜんじゅうは長亨二年 (1488)、 八十歳で没した。。
東山 ここでは京都東山の大谷おおたに本願ほんがんを指す。
御出で候ひて 出てゆかれまして。 *寛正六年 (1465)、 えんりゃく衆徒が大谷本願寺を破却し、 蓮如上人は大谷より避難した。 蓮如上人五十一歳。
一段 大変に。 たいそう。
御迷惑の体 お困りの様子。
二十五年 二十五回忌。
いろをたてきはを立て 心の内をはっきりと表に出して。
とが 悪いところ。 あやまち。 罪。
たくみ案じて うまく考えて。 うまく思案して。
細々 しばしば。 たびたび。
さとりのかたにして 現在のこの身でさとりを開いたようで。
密益 行者の表面に明らかにあらわれないやく。 信心の徳としての利益をいう。 顕益に対する語。
徳大寺の唯蓮坊 徳大寺は京都の桂川の西にある地名。 ¬蓮如れんにょしょうにんおおせの条々じょうじょう¼ には 「雲居寺の瞻西せんさい上人」 とある。 瞻西は平安後期の天台てんだいしゅうの僧侶。
ことわり いわれ。
雲居寺 京都東山にあった天台宗の寺。 さか東院とういんともいい洛東の大仏として有名であった。 現在の京都市東山区下河原町に旧跡がある。
いまの人 唯蓮坊のこと。
仏智の御方 仏の智慧ちえのおはたらき。
信のうへより 信心をいただいた上で。
御所作 おはたらき。
よみぢのさはり 死出の旅路のさまたげ。
あるいは ある時には。
心得た 人間の知解をもって理解できたと思っていることをいう。
つのらんよりほかは たよりとする以外。 おまかせする以外。
加州菅生 現在の石川県加賀市菅生。
坊主 蓮智を指す。
信が御入りなく… 信心がございませんので。
蓮智 加賀大聖寺荻生おぎゅう (現在の石川県加賀市大聖寺) の願成寺の住持。
願生 底本には 「願将」 とある。
復せずは 繰り返し読まなければ。
詮あるべからざる かいのあるはずがない。 益のあるはずがない。
御詞 ここでは蓮如上人の教化の言葉。
なせそ してはいけない。
不審 疑問を問いただすこと。
尼公 法敬坊の母を指すのであろう。
申し分にて 申すくらいのことで。 教えたくらいのことで。
かげにて 蓮如上人がいないところで。
御本寺御坊 御本寺は山科やましなの本願寺、 御坊は大坂などの坊舎を指す。
御留主 主人が不在の時、 その家を守ること。
受用 食べること。
御入りなき ございません。
威儀 ここでは外見をおごそかにすること。
御風呂 仏像や仏具を洗うのに用いる湯風呂。
御代 御歴代の宗主。
われら式のもの わたしたちのようなもの。
昵近のかたがた 親しく仕えていた人々。
あのうへ あの方。
違ひ候はでは 間違えないはずがない。
御もよほし 仏のうながし。
数奇たること 好きなこと。
世間へつかふ (仏のおかげで与えられたものを) 世間のことに使う。
いたづらにする むだにする。
上品 最上のこと。
わがこころ本になる 自分の心を中心にする。
冥加につきて 仏の加護から見放されてしまう。
御文を御申し候ふ 御文を書いていただきたいとお願いした。
むつかしき 難儀な。 わずらわしい。 めんどうな。
重宝の珍物 珍しい食べ物。
経営 接待のために奔走すること。 ここでは料理すること。
身をかろくもつべし わが身を軽くして報謝に努めなければならない。
宿善めでたしといふ 「めでたし」 はすばらしいの意。 宿善をわがもののように思って、 すばらしいということ。
宿善ありがたしと申す 阿弥陀仏より信心を得るよい因縁いんねんを与えていただいてありがたいと感謝すること。
群機 ぼんしょうじゃ、 善人・悪人、 賢者・愚者、 老少、 男女等さまざまな人すべて。 あらゆる人々。
仏法者 ここではみずから仏法を信じ、 他人をも教え導く人。
法の威力 仏法のすぐれた力。
いひたてず 述べ伝えて仏法を盛んにすることはない。
信心定得 信心をたしかにぎゃくとくすること。
是非なし とやかくいっても仕方がない。
人を殺し候ふこと ここでは死刑にすること。
蓮崇 底本に 「蓮宗」 とあるのを ¬じつきゅう¼ により改めた。 以下、 同様の措置をとった。
国をくつがへし ここでの国は加賀かが (現在の石川県南部) のこと。 文明六年 (1474)、 加賀守護のがし家に起った内紛に際し、 蓮崇が門徒の一揆を誘導した事件を指す。
御門徒をはなされ候ふ 破門となったという意。
御寺内へまゐり *明応八年 (1499) 三月、 山科やましな本願寺の蓮如上人の所へ赦免しゃめんを乞いに参上したことを指す。 蓮如上人八十五歳。
なほさう 許してやろう。
御兄弟以下 蓮如上人の子息たちなど寺内の人々。
御もらしなき 阿弥陀仏の本願はしんの者をもらさず救うという意。
すぎられ候ふ 亡くなりました。 蓮崇れんそう*明応八年 (1499) 三月二十八日に死去した。
あくかよ 満足できようか。
かまへて 必ず。
愚者三人に智者一人 三人集まるとよい知恵が浮ぶ。
冥加もなき 恐れ多い。 もったいない。
えつれば 得たなら。
一同 同じように。
御縁 庭に面した縁側。
物の数にてもなき 大したことではない。 取り立てていうほどもない。
ことのはもあるべからず 言葉ではいい表すことができない。
随分 精一杯。 全力を尽くしていること。
たふとむ人より… 「たふとむ人」 は法義を尊んでいるようにふるまう人、 「たふとがる人」 は法義をただありがたくよろこんでいる人の意であろう。
殊勝ぶりする人 ありがたそうにふるまう人。
ついたち障子 衝立。
大永六 1526年。 蓮如上人没後二十七年。
今の時分がよき時 今がよい機会。
ひがざま 間違ったふう。
秘極 ここではきわめて大切なという意。
権者 ここでは蓮如上人を指す。
平懐 無作法。 底本に 「平外」 とあるのを改めた。
つぶりだにぬれずは 頭さえ雨に濡れなければ。
仏法の家 浄土真宗の法義をよろこぶ家。
あきなひ 商売のことであるが、 ここではあらゆる職業をいう。
人をたたせ 参詣の人々を帰らせるのがよいといいう意。
なかなか 大変。
申すもことおろかに候ふ 言葉が足りない。
義尚 (1465-1489) 足利九代将軍。
加州一国の一揆 *長享二年 (1488) 六月九日、 加賀南半国の守護であったがし政親まさちかを高尾城に滅ぼした一向いっこういっのこと。
加州居住候ふ御兄弟衆 加賀を拠点としていた、 蓮如上人の次男れんじょう (兼鎮) 師、 三男蓮綱れんこう (兼祐) 師、 四男蓮誓れんせい (康兼) 師のこと。
やぶらるる 破門なさる。
はじめて物をまゐらせ候ふ 初物を納める。
御往生候ふとも… わたしが往生してもあなたはその後十年は生きるであろう。
おしかへし 繰り返し。
さにて御入り候ふ そのようでございます。
条々 逐一の箇条。 一つ一つ。
物をきこしめし候ふ 食物をいただく。
人の食はぬ飯 仏祖からいただく飯、 すなわち御仏飯のこと。
不法の人 仏法を信じない人。
違例にする 病気のようにきらう。
疾くはてよかし 早く終わればよい。
御心たがひ お心が乱れ。
あらた ここでは尊い、 不思議なというほどの意。
御世 ここでは本願寺住職のこと。
御一身 実如上人御自身。
嘆徳の文 存覚ぞんかく上人の ¬嘆徳たんどくもん¼ のこと。
恐れある (実名を口にすることになって) 恐れ多い。
直に じかに。 直接に。
御文申され候へば 御文を書いていただきたいとお願いしたところ。
志の人 仏法に志の篤い人。
秘事秘伝 深遠な教え。 深い教え。 ここでは秘事ひじぼうもんといわれる異義で用いられる秘事秘伝の語を逆手にとっている。
御普請御造作 普請・造作はともに建築すること。
なにも不思議に… 何もかも不思議なほど立派で、 ながめなども見事でございます。
御かけ字 掛軸にするための法語。
表補絵 表装。
わけもなきこと わけのわからないこと。 無意味なこと。
心ね 心持ち。
これの内に居て聴聞申す身 蓮如上人の側近くにいて仕え、 いつも仏法を聴聞している者。
とりはづしたらば (役目、 仕事という思いを) 忘れたならという意か。 あるいは (教えの趣旨を) 取りそこなってもという意か。
成らんよ ここでの 「ん」 は推量の助動詞。 なるであろうことよ。
御詞の末 仰せになったことの一つ。
茸に酔ひまうされ きのこの毒にあたって。
世法 世間のこと。
無沙汰油断 粗略で不注意なこと。
我になりて 自分中心の考え方になって。
御前の人 (蓮如上人の) お側の者。
前住上人 異本には 「前々住上人」 とある。 前々住上人とは蓮如上人のこと。
申し入れ ここでは取り次ぐこと。
進上物 贈物。 献上品。
かなしき →あいべつ
かなはぬ →とく
狂言 ここではばかげた言葉、 たわごとの意。
御兄弟衆 蓮如上人の子息たち。
きらりと はっきりと。
さんばの浄賢 当時のさんば (さん) は大坂湾岸沿いの神崎川と中津川の三角州にあった。 浄賢は大坂じょう専坊せんぼうの住職。
御判 おう。 書判。
三心の字訓 本願に示される至心・信楽・欲生の三心の文字の解釈。
御作分 つくられたもの。 御制作になったもの。 ここでは ¬教行信証¼ を指す。
 ¬六要ろくようしょう¼ のこと。
智解 学識。
あだにする 粗末にする。 無駄にする。
微音に 小さな声で。
世体 世間のこと。
いふ 「言ふ」 と 「結ふ」 (縄などで縛り、 形を整えること) との掛詞。
あがる ここでは値うちが出るという意。
背摺布 麻布に山藍で模様をすりこんでつくったかたびら。
自物 自分のもの。 自身の所有するお金のこと。
曲もなきこと つまらないこと。 おもしろくないこと。 すげないこと。
われするとおもふかとよ 私が与えると思うのか。