1077◎嘆徳たんどく文もん

 

【1】 ◎それ▼*親鸞しんらん聖しょう人にんは浄教じょうきょう西方さいほうの先達せんだつ、 真しん宗しゅう末代まつだいの明めい師しなり。 博覧はくらん内ない外げに渉わたり、 修練しゅれん顕密けんみつを兼かぬ。 初はじめには俗典ぞくてんを習ならひて切せっ瑳さす。 これはこれ、 *伯はく父ふ業ぎょう吏り部ほうの学窓がくそうにありて、 *聚螢じゅけい映雪えいせつの苦く節せつを抽ぬきんづるところなり。 後のちには円えん宗しゅう (*天台宗) に携たずさはりて研精けんせいす。 これはこれ、 貫首かんじゅ鎮ちん和か尚しょう (*慈鎮) の禅房ぜんぼうに陪はべりて、 大才だいさい諸徳しょとくの講こう敷ふを聞きくところなり。 これによりて*十乗じゅうじょう三諦さんたいの月つき、 観念かんねんの秋あきを送おくり、 *百ひゃっ界かい千如せんにょの花はな、 薫修くんじゅ歳としを累かさぬ。

◎夫ソレ0867親鸞シンラン聖シヤウ人ニン者浄ジヤウ教ケウ西方サイハウ之先達センダチ、真宗シンシユ末代マチダイ之明メイ師シ也。博覧ハクラン渉ワタ↢リ内外ナイグヱ↡ニ、修練シユレン兼カ↢ヌ顕密ケンミチ↡ヲ。初ハジメ ニハ習ナラヒ↢テ俗典ゾクテン↡ヲ兮切瑳。ス此コレ◗ハ是コレ在アリ↢テ伯ハク父フ業ゴフ吏リ部ホウ之学窓ガクソウ↡ニ、所トコロ↠抽ヌキイヅ↢ル聚蛍ジユケイ映雪エイセチ之苦ク節セチ↡ヲ也。後ノチ ニハ携タヅサハリ↢テ円宗ヱンシユ↡ニ兮研精ケンセイ。ス此コレ◗ハ是コレ陪ハンベリ↢テ貫クワン首ジユ鎮チン和クワ尚シヤウ之禅房ゼンバウ↡ニ、所トコロ↠聞キ↢ク大才ダイサイ諸徳シヨトク之講カウ敷フ↡ヲ也。依ヨリ↠テ之コレ◗ニ十ジフ乗ジヨウ三諦サムタイ之月ツキ、観クワン念ネム◗ノ送オク↠リ秋アキ、ヲ百ヒヤク界カイ千如センニヨ之花ハナ、薫修クンジユ累カサ↠ヌ歳トシ。ヲ

ここにつらつら*出しゅつ要ようを窺うかがひて、 この思し惟ゆいをなさく、 「定じょう水すいを凝こらすといへども識浪しきろうしきりに動うごき、 心月しんがつを観かんずといへども妄雲もううんなほ覆おおふ。 しかるに一息いっそく追つがざれば千載せんざいに長ながく往ゆく、 なんぞ浮ふ生しょうの交きょう衆しゅを貪むさぼりて、 いたづらに仮け名みょうの修学しゅがくに疲つかれん。 すべからく勢せい利りを抛なげうちてただちに出しゅつ離りを悕ねがふべし」と。

-爰コヽ◗ニ倩ツラツラ窺ウカガヒ↢テ出シユチ要エウ↡ヲ、作ナサ↢ク是コ◗ノ思シ惟ユイ↡ヲ、雖イヘド↠モ凝コラス↢ト定ヂヤウ水シヰ↡ヲ識浪シキラウ頻シキリ◗ニ動ウゴ、キ雖イヘド↠モ観クワンズ↢ト心シム月グヱチ↡ヲ妄雲マウウン猶ナヲ覆オホ。フ而シカル◗ニ一息ヰチソク不ザレ↠バ追ツ◗ガ千載センザイ◗ニ長ナガ◗ク往ユ、ク何ナン◗ゾ貪ムサボリ↢テ浮フ生シヤウ之交衆ケウシユ↡ヲ、徒イタヅラ◗ニ疲ツカレ↢ン仮ケ名ミヤウ之修学シユガク↡ニ。須スベカラ ベシ ト↧ク抛ナゲステ↢ヽ勢セイ利リ↡ヲ直タヾチ◗ニ悕ネガ↦フ出シユチ離リ↥ヲ。

しかれども機き教きょう相応そうおう、 凡慮ぼんりょ明あきらめがたく、 すなはち近ちかくは*根本こんぽん中ちゅう堂どうの本尊ほんぞんに対たいし、 遠とおくは枝し末まつ諸方しょほうの霊崛れいくつに詣もうでて、 解げ脱だつの径けい路ろを1078祈いのり、 真実しんじつの知ち識しきを求もとむ。 ことに歩あゆみを*六角ろっかくの精しょう舎じゃに運はこびて、 百ひゃく日にちの懇念こんねんを底いたすところに、 親まのあたり告つげを*五ご更こうの孤こ枕ちんに得えて、 数す行こうの感涙かんるいに咽むせぶあひだ、 幸さいわひに*黒谷くろだに聖しょう人にん (源空) *吉水よしみずの禅室ぜんしつに臻いたりて、 はじめて弥陀みだ覚王かくおう*浄じょう土どの秘ひ扃けいに入いりたまひしよりこのかた、 *三さん経ぎょうの冲ちゅう微び、 *五祖ごその奥おう賾さく、 一いち流りゅうの宗しゅう旨し相伝そうでん誤あやまつことなく、 二に門もんの教きょう相そう稟ほん承じょう由よしあり。

-然シカレ而ドモ機キ教ケウ相応サウオウ、凡慮ボムリヨ難ガタ↠ク明アキラ、メ迺スナハ◗チ近チカク◗ハ対タイ↢シ根本コンポン中堂チウダウ之本尊ホンゾン↡ニ、遠トヲク◗ハ詣マウデ↢ヽ枝シ末マチ諸方シヨハウ之霊崛レイクチ↡ニ、祈イノ↢リ解ゲ脱ダチ之径ケイ路ロ↡ヲ、求モト↢ム真実シンジチ之知チ識シキ↡ヲ。特コト◗ニ運ハコビ↢テ歩アユミ◗ヲ於六角ロクカク之精シヤウ舎ジヤ↡ニ、底イタ↢ス百ヒヤウ日ニチ之懇念コンネム↡ヲ之処トコロ、ニ親マノアタリ得エ↢テ告於五ゴ更カウ之孤コ枕シン↡ニ、咽ムセ↢ブ数ス行カウ之感涙カンルイ↡ニ之間アヒダ、幸サイハイ◗ニ臻イタリ↢テ黒谷クロダニ聖シヤウ人ニン吉水ヨシミヅ之禅室ゼンシチ↡ニ、始ハジメ◗テ入イリタマヒ↢ シヨリ弥陀ミダ覚王カクワウ浄ジヤウ土ド之秘ヒ扃ケイ↡ニ爾降コノカタ三サム0868経ギヤウ之冲チウ微ビ、五祖ゴソ之奥アウ*賾サク、一流ヰチリウ之宗シユ旨シ相伝サウデン無ナ↠ク誤アヤマツ、 コト二ニ門モン之教相ケウサウ稟ホン承ジヨウ有ア↠リ由。

ここをもつて仰あおぐところは 「▲即得そくとく往おう生じょう住じゅ不ふ退転たいてん」 (*大経・下) の誠じょう説せつ、 あたかも平生へいぜい業ごう成じょうの安心あんじんに住じゅうし、 馮たのむところは 「▲歓かん喜ぎ踊ゆ躍やく乃ない至し一念いちねん」 (大経・下) の流る通ずう、 これすなはち無む上じょう大だい利りの勝しょう徳とくなり。 よりて自じ修しゅの去こ行ぎょうをもつて兼かねて化他けたの要よう術じゅつとす。 時ときに尊そん卑ぴ多おおく礼らい敬きょうの頭こうべを傾かたぶけ、 *緇素しそ挙こぞりて崇そう重ちょうの志こころざしを斉ひとしくす。

-是コヽ◗ヲ以モチ◗テ所トコロ↠仰アフ◗グ者「即得ソクトク往ワウ生シヤウ住ヂユ不フ退転タイテン」之誠シヤウ説セチ、宛アタカ◗モ住ヂユ↢シ平生ヘイゼイ業ゴフ成シヤウ之安心アンジム↡ニ、所トコロ↠*憑タノ◗ム者「歓クワン喜ギ踊ユ躍ヤク乃ナイ至シ一念ヰチネム」之流ル通ヅウ、此コレ乃スナハ◗チ无ム上ジヤウ大ダイ利リ之勝シヤウ徳トク。 ナリ仍ヨ◗テ以モ↢テ自ジ修シユ之去コ行ギヤウ↡ヲ兼カネ◗テ為ス↢化クヱ他タ之要エウ術ジユチ↡ト。于時トキ◗ニ尊ソン卑ピ多オホ◗ク傾カタブ↢ケ礼ライ敬キヤウ之頭カウベ↡ヲ、緇素シソ挙コゾリ◗テ斉ヒトシ↢ クス崇重ソウヂウ之志コヽロザシ↡ヲ。

【2】 就中なかんずくに、 一いち代だい蔵ぞうを披ひらきて経きょう・律りつ・論ろん・釈しゃくの簡要かんようを擢ぬきんでて、 六巻ろっかんの鈔しょうを記きして ¬*教行きょうぎょう信しん証しょう之の文類もんるい¼ と号ごうす。 かの書しょに攄のぶるところの義理ぎり、 甚深じんじんなり。 いはゆる凡ぼん夫ぶ有漏うろの諸善しょぜん、 願力がんりき成じょう就じゅの報ほう土どに入いらざることを決けっし、 如来にょらい利他りたの真心しんしん、 安あん養にょう勝妙しょうみょうの楽邦らくほうに生しょうぜしむることを呈あらわす。 ことに仏ぶっ智ち信しん疑ぎの得失とくしつを明あかし、 盛さかんに浄じょう土ど報ほう化けの往おう生じょうを判はんず。

就中ナカンヅク◗ニ披ヒライ↢テ一代ヰチダイ蔵ザウ↡ヲ兮擢ヌキイデ↢ヽ経キヤウ・律リチ・論ロン・釈シヤク之簡要カンエウ↡ヲ、記キシ↢テ六ロク巻クワン◗ノ鈔セウ↡ヲ兮号ガウ↢ス¬教ケウ行ギヤウ信シン証シヨウ之文類モンルイ¼ト。彼カ◗ノ書シヨ◗ニ所トコロ↠攄ノブ◗ル義理ギリ甚深ジムジム。 ナリ所謂イハユル決クヱチ↢シ凡ボム夫ブ有漏ウロ之諸善シヨゼン不ザル↟ コトヲ入↢ラ願グワン力リキ成ジヤウ就ジユ之報ホウ土ド↡ニ、呈アラハ↢ス如来ニヨライ利他リタ之真心シンシム令シム↟  ルコトヲ生シヤウ↢ゼ安養アンヤウ勝シヨウ妙メウ之楽邦ラクハウ↡ニ。殊コト◗ニ明アカ↢シ仏ブチ智シ信シン疑ギ之得失トクシチ↡ヲ、*判ハン↠ズ感カンズ↢  ルコトヲ浄ジヨウ土ド報化ホウクヱ之往ワウ生ジヤウ↡ヲ。

兼かねてはまた*択ちゃく瑛えい法ほっ師しの釈しゃく義ぎについて*横竪おうじゅ二に出しゅつの名なを模もすといへども、 宗しゅう家け大だい師し (*善導) の祖意そいを探さぐりて、 巧たく1079みに*横竪おうじゅ二に超ちょうの差さを立たつ。 彼此ひし助じょ成じょうして権実ごんじつの教きょう旨しを標ひょうし、 漸頓ぜんとん分別ふんべつして長ちょう短たんの修しゅ行ぎょうを弁べんず。 他た人にんいまだこれを談だんぜず、 わが師し (親鸞) 独ひとりこれを存そんす。

-兼カネ テハ復マタ就ツイ↢テ択チヤク瑛エイ法ホフ師シ之釈シヤク義ギ↡ニ雖イヘド↠モ摸ボ↢ スト横竪ワウジユ二ニ出シユチ之名ナ↡ヲ、探サグリ↢テ宗シユ家ケ大ダイ師シ之祖意ソイ↡ヲ、功 ミ◗ニ立タ↢ツ横竪ワウジユ二ニ超テウ之差シヤ↡ヲ。彼此ヒシ助ジヨ成ジヤウ シテ標ヘウ↢シ権実ゴンジチ之教ケウ旨シ↡ヲ、漸頓ゼムトム分別フンベチ シテ弁ベン↢ズ長チヤウ短タン之修シユ行ギヤウ↡ヲ。他タ人ニン未イマ ズ ↠ダ談ダン↠ゼ之コレ、ヲ我ワ◗ガ師シ独ヒト◗リ存ゾン↠ス之コレ。ヲ

また ¬*愚ぐ禿とく鈔しょう¼ と題だいするの撰せんあり、 同おなじく自解じげの義ぎを述のぶるの記きたり。 かの文もんにいはく、 「▲賢者けんじゃの信しんを聞ききて愚ぐ禿とくが心しんを顕あらわす。 賢者けんじゃの信しんは、 内ないは賢けんにして外げは愚ぐなり。 愚ぐ禿とくが*信しんは、 内ないは愚ぐにして外げは賢けんなり」と云々うんぬん。

-又マタ有ア↧リ題ダイ↢ スル¬愚グ禿トク鈔セウ¼ト↡之選セン↥、同オナジ◗ク為タ↧リ述ノブ↢ル自解ジゲ◗ノ義ギ↡ヲ之記キ↥。彼カ◗ノ文モン◗ニ云イハ、ク「聞キヽ↢テ賢者ケンジヤ◗ノ信シン↡ヲ顕アラハ↢ス愚グ禿トク◗ガ心シン↡ヲ。賢者ケンジヤ◗ノ信シン、ハ内ナイ◗ハ賢ケン ニシテ外グヱ◗ハ愚グ也。愚グ禿◗ガ信シン、ハ内ナイ◗ハ愚グ ニシテ外グヱ◗ハ賢ケン也。ト」云々

この釈しゃく、 卑ひ謙けんの言ごん辞じを仮かりて、 その理り、 翻対ほんたいの意い趣しゅを存そんす。 内うちに宏こう智ちの徳とくを備そなふといへども、 名なを碩才せきさい道人どうにんの聞ききに衒てらはんことを痛いたみ、 外ほかにただ至愚しぐの相そうを現げんじて、 身みを田でん夫ぶ野や叟そうの類たぐいに侔ひとしくせんと欲ほっす。 これすなはちひそかに末まつ世せ凡ぼん夫ぶの行状ぎょうじょうを示しめし、 もつぱら下げ根こん往おう生じょうの実じっ機きを表ひょうするものか。 しかのみならず、 あるいは*二に教きょう相望そうもうして四し十じゅう二に対たいの異いを明あかし、 あるいは*二に機き比ひ挍きょうして一いち十じゅう八はっ対たいの別べつを顕あらわす。 おほむね両りょう典てんの巨こ細さいつぶさに述のぶべからず。

-此コ◗ノ釈シヤク仮カリ↢テ卑ヒ謙ケン之言ゴ 辞ジ↡ヲ、其ソ◗ノ理リ存ゾン↢ス翻対ホンタイ之意イ趣シユ↡ヲ。内ウチ◗ニ雖イヘド↠モ備ソナフ↢ト宏コウ智チ之徳トク↡ヲ、痛イタ↠ミ衒テラハ↢ン コトヲ名ナ◗ヲ於碩才セキサイ道人ダウニン0869之聞キヽ↡ニ、外ホカ◗ニ只タヾ現ゲン↢ ジテ至愚シグ之相サウ↡ヲ、欲ホチ↠ス侔ヒトシ↢ク セント身ミ◗ヲ於田デン父ブ野ヤ叟ソウ之類ルイ↡ニ。是コレ則スナハ◗チ窃ヒソカ◗ニ示シメ↢シ末マチ世セ凡ボム夫ブ之行状ギヤウジヤウ↡ヲ、専モハ◗ラ表ヘウ↢ スル下ゲ根コン往ワウ生ジヤウ之実ジチ機キ↡ヲ者モノ◗ヲ哉。加之シカノミナラズ、或アルヒ◗ハ二ニ教ケウ相望サウマウ シテ明アカ↢シ四シ十ジフ二ニ対ダイ之異イ↡ヲ、或アルヒ◗ハ二機ニキ比ヒ校ケウ シテ顕アラハ↢ス一十ヰチジフ八対ハチタイ之別ベチ↡ヲ。大底オホムネ両リヤウ典テン◗ノ巨コ細サイ不ズ↠可ベカ↢ラ具ツブサ◗ニ述ノ↡ブ。

【3】 そもそも、 空くう聖しょう人にん (源空) 当とう教きょう中ちゅう興こうの篇へんによりて事ことに坐ざせしの刻きざみ、 鸞らん聖しょう人にん法ほっ匠しょう上じょう足そくのうちとして同どう科かのゆゑに、 たちまちに上じょう都との幽棲ゆうせいを出いでてはるかに北陸ほくりくの遠境えんけいに配はいす。 しかるあひだ*居諸きょしょしきりに転てんじ、 *涼りょう燠いくしばしば悛あらたまる。

-抑ソモソモ空ク聖シヤウ人ニン由ヨリ↢テ当教タウケウ中興チウコウ*之篇ヘン↡ニ坐ザ↠ セシ事コト◗ニ之刻キザミ、鸞ラン聖シヤウ人ニン為シ↢テ法ホフ匠シヤウ上ジヤウ足ソク之内ウチ↡ト同科ドウクワ之故ユヘ、ニ忽タチマチ◗ニ出イデ↢ヽ上ジヤウ都ト之幽棲ユウセイ↡ヲ遥ハルカ◗ニ配ハイ↢ス北陸ホクリク之遠境ヱンケイ↡ニ。然間シカルアヒダ居諸キヨシヨ頻シキリ◗ニ転テン、ジ涼リヤウ燠イク屡シバシバ悛アラタマ。ル

その時とき、 憍きょう慢まん貢く高こうの儔ともがら、 邪見じゃけんを翻ひるがえしてもつて正しょう見けんに赴おもむき、 儜にょう1080弱にゃく下げ劣れつの彙たぐい、 怯退こうたいを悔くいて▼もつて弘ぐ誓ぜいに託たくす。 貴き賎せんの帰き投とう*遐邇かじ合がっ掌しょうし、 都鄙とひの化け導どう首しゅ尾び満足まんぞくす。 つひにすなはち*蓬闕ほうけつ勅ちょく免めんの恩おん新あらたに加くわはりし時とき、 *華か洛らく帰歟きよの運うんふたたび開ひらけしの後のち、 九く十じゅう有回ゆうかい生しょう涯がいの終おわりを迎むかへて、 十じゅう万億まんおく西さい涅ね槃はんの果かを証しょうしたまひしよりこのかた、 星霜せいそう積つもりていくそばくの歳としぞ。

-爾時ソノトキ驕慢ケウマン貢ク高カウ之儔トモガラ、翻ヒルガヘシ↢テ邪見ジヤケン↡ヲ以モチ◗テ赴オモム↢キ正シヤウ見ケン↡ニ、儜弱ニヤウニヤク下ゲ劣レチ之彙タグヒ、悔クヒ↢テ怯退カウタイ↡ヲ以モ◗テ託↢ス弘グ誓ゼイ↡ニ。貴賤クヰセン之帰投クヰトウ遐邇カジ合ガフ掌シヤウ、都鄙トヒ之化クヱ*導ダウ首シユ尾ビ満足マンゾク。ス遂ツヰ◗ニ則スナハ◗チ蓬ホウ闕クヱチ勅チヨク免メン之恩オン新アラタ◗ニ加クハヽリ◗シ之時トキ、華洛クヱラク帰クヰ歟ヨ之運ウン再フタヽビ開ヒラケ◗シ之後ノチ、迎ムカヘ↢テ九ク十ジフ有イウ廻クワイ生シヤウ涯ガイ之終オハリ↡ヲ、証シヨウ↢シ タマヒシヨリ十万ジフマン億西オクサイ涅槃ネチハン之果クワ↡ヲ以来コノカタ星霜セイサウ積ツモリ◗テ兮幾許イクソバク◗ノ歳トシ。ゾ

年ねん忌き・月がっ忌き・本所ほんじょ報恩ほうおんの勤つとめ懈おこたることなく、 山川さんせん隔へだたりて数す百ひゃく里り、 遠国えんごく近国きんごくの後弟こうてい、 参詣さんけいの儀ぎなほ煽さかりなり。 これしかしながら、 聖しょう人にん (親鸞) の弘ぐ通ずう、 *冥みょう意いに叶かなふが致いたすところなり。 むしろ衆しゅ生じょうの開かい悟ご、 根こん熟じゅくのしからしむるによるにあらずや。

-年ネン忌キ・月グワチ忌キ・本所ホンジヨ報恩ホウオン之勤ツトメ無ナ↠ク懈オコタル、 コト山川サムセン隔ヘダヽリ◗テ兮数ス百ハク里リ、遠国ヱンゴク近国キンゴク後弟コウテイ、参詣サムケイ之儀ギ猶ナヲ煽サカン。 ナリ是コレ併シカシ、 ナガラ聖シヤウ人ニン之弘グ通ヅウ、叶カナフ↢ガ冥ミヤウ意イ↡ニ之所トコロ↠致イタ◗ス也。寧ムシ◗ロ非アラ↣ズ衆シユ生ジヤウ之開カイ悟ゴ依ヨル↢ニ根コン熟ジユク之令シムル↟ニ然シカラ乎。

【4】 おほよそ三段さんだんの ¬*式文しきもん¼、 称しょう揚よう足たりぬといへども、 *二世にせの*益物やくもつ讃嘆さんだんいまだ倦うまず。 このゆゑに一千いっせん言げんの褒ほう誉よを加くわへて、 重かさねて百ひゃく万ばん端たんの報謝ほうしゃに擬ぎす。

-凡オホヨソ三段サムダン之¬式文シキモン¼、称シヨウ揚ヤウ雖イヘド↠モ足タリ、 ヌト二世ニセ之益物ヤクモチ讃嘆サンダン未イマ ズ ↠ダ倦ウ。マ是コ◗ノ故ユヘ◗ニ加クハヘ↢テ一千ヰチセン言ゴン之褒ホウ誉ヨ↡ヲ、重カサネ◗テ擬ギ↢ス百ハク万端バンタン之報謝ホウシヤ↡ニ。

しかればすなはち、 蓮れん華げ蔵ぞう界かいのうちにして今いまの*講こう肆しを照しょう見けんし、 *檀林だんりん宝ほう座ざの上うえよりこの*梵筵ぼんていに影向ようごうしたまふらん。 内ない証しょう外げ用ゆうさだめて果地かじの荘しょう厳ごんを添そへ、 *上じょう求ぐ下化げけよろしく菩ぼ提だいの*智ち断だんを究きわめましますべし。 重かさねて乞こふ、 仏閣ぶっかく基もと固かたくして、 はるかに梅ばい怛利たり耶や (*弥勒) の*三さん会ねに及および、 法水ほうすい流ながれ遠とおくして、 あまねく六趣ろくしゅ・四し生しょうの群萌ぐんもうを潤うるおさん。 敬うやまひてまうす。

-然シカレ◗バ則スナハ◗チ於シ↢テ蓮華レングヱ蔵界ザウカイ之中ウチ↡ニ照セウ↢見ケン◗シ今イマ◗ノ講カウ肆シ↡ヲ、自ヨ↢リ壇林ダンリム宝ホウ座ザ0870之上ウヘ↡影ヤウ↢向カウ シタマフラン斯コ◗ノ梵筵ボムエン↡ニ。内ナイ証シヨウ外用グヱユウ定サダメ◗テ添ソ↢ヘ果クワ地ヂ之荘シヤウ厳ゴム↡ヲ、上ジヤウ求グ下ゲ化クヱ宜ヨロシ ベ ↠クシ究キハメ↢ タマフ菩ボ提ダイ之智チ断ダン↡ヲ。重カサネ◗テ乞コ、フ仏閣ブチカク基モトヰ固カタク、 シテ遥ハルカ◗ニ及オヨ↢ビ梅バイ怛梨タリ耶ヤ之三サム会ヱ↡ニ、法水ホフシヰ流ナガレ遠トヲク、 シテ普アマネ◗ク潤ウルホ↢ サン六趣ロクシユ四シ生シヤウ之群萌グンマウ↡ヲ。敬ウヤマヒ◗テ白マウ。ス

 

*寛正二年十二月八日奉書者訖

右筆蓮- 四十七才

 

延書の底本は本派本願寺蔵寛正二年蓮如上人書写本 (延書)。
伯父業吏部 親鸞聖人の伯父、 日野ひの宗業むねなりのこと。 吏部は式部省の唐名で、 宗業が式部大輔であったことからいう。
十乗三諦 天台てんだいの観法を指す。 十乗は ¬摩訶まか止し観かん¼ に説かれる十乗観法 (解げ脱だつの境地に至るための十種の観法)、 三諦は空くう・仮け・中ちゅうの三諦のことで、 この三諦が究極において別々のものではなくて円えん融にゅうしているという道理を観ずる。
百界千如 天台の観心の対象。 千如是のこと。 仏界から地獄界までの十界がそれぞれに十界をそなえているので百界となり、 その百界にそれぞれ十如是 (諸法実じっ相そうの十のありかた) があるので千如となる。
根本中堂 比ひ叡えい山ざん延えん暦りゃく寺じの本堂。
六角の精舎 六角ろっかく堂どうのこと。
浄土の秘扃 他力不思議の法門。
三経の冲微 ¬大経¼ ¬観経¼ ¬小経¼ の奥深い教え。
五祖の奥賾 五祖の奥深い教え。 ここでの五祖は曇鸞どんらん大だい師し・道どう綽しゃく禅ぜん師じ・善導ぜんどう大師・懐え感かん禅師・少しょう康こう法ほっ師しをいう。
横竪二出 横おう出しゅつと竪しゅ出しゅつのこと。 ただし、 択瑛の 「弁横竪二出」 では出は出しゅつ離り生死の意。 親鸞聖人の二双四重の判釈ではこの出を漸教の意とする。
横竪二超 →横おう超しょう、 竪しゅ超ちょう
信 ¬愚禿鈔¼ の原文では 「心」 の字。
二教… →二教対
二機… →二機対
蓬闕 ここでは禁庭(宮中)の意。
華洛 花の都、 京都のこと。
冥意 仏意。 仏のおぼしめし。
二世 現在世と当来世の二世。
講肆 報恩講の法座。
上求下化 上じょう求ぐ菩ぼ提だい下化げけ衆しゅ生じょうの略。
智断 知徳 (智慧ちえを得る徳) と断徳 (煩悩ぼんのうを断じ尽す徳)。 →三徳さんとく
底本は◎本派本願寺蔵寛正二年蓮如上人書写本。 Ⓐ本派本願寺蔵伝実如上人書写本、 Ⓑ本派本願寺蔵版本 と対校。
賾→Ⓑ蹟
憑→Ⓑ馮
判感→Ⓑ盛判
之 Ⓑになし
導→Ⓐ道