安楽集 巻上
釈*道綽撰
◎総説
【1】 この ¬安楽集¼ 一部のうちに、 総じて十二の大門あり。 みな経論を引きて証明して、 信を勧め往くことを求めしむ。
◎此安楽集一部之内、総有↢十二大門↡。皆引↢経論↡証明勧↠信求↠往。
◎ 原漢文の底本は本派本願寺蔵版。 高野山宝寿院蔵天永三年写本、 龍谷大学蔵宝永元年刊本、 龍谷大学蔵鎌倉時代刊本 (下巻のみ)、 龍谷大学蔵正平二年写本、 大派依用十行本と対校されている。
◎第一大門
【2】 いま先づ第一の大門のうちにつきて、 文義衆しといへども、 略して九門を作りて*料簡し、 しかる後に文に造らん。
今先就↢第一大門内↡、文義雖↠衆略作↢九門↡料簡、然後造↠文。
1. 教興所由
第一に*教興の所由を明かして、 *時に約し機に被らしめて勧めて浄土に帰せしむ。
教興の所由 浄土の教えが興る理由。
時 時節。 時代。
第一明↢教興所由↡約↠時被↠機勧↢帰浄土↡。
2. 説聴方軌
第二に*諸部の大乗によりて*説聴の方軌を顕す。
諸部の大乗 諸種の大乗の経論。
説聴の方軌 教えを説く者と聞く者との心構え。
第二拠↢諸部大乗↡顕↢説聴方軌↡。
3. 発心久近
第三に大乗の聖教によりて、 もろもろの衆生の*発心の久近、 *供仏の多少を明かして、 *時会の聴衆をして力め励みて発心せしめんと欲す。
供仏 仏を供養すること。
時会の聴衆 現在この会座に参集している人々。
第三拠↢大乗聖教↡明↢諸衆生発心久近、供仏多小↡、欲↠使↢時会聴衆力励発心↡。
4. 宗旨不同
第四に諸経の*宗旨の不同を弁ず。
宗旨 経典に説かれた法義の最も肝要なことがら。
第四弁↢諸経宗旨不同↡。
5. 諸経得名
第五に諸経の得名おのおの異なることを明かす。 ¬*涅槃¼・「*般若経」 等のごときは法につきて名となす。 おのづから喩へにつくことあり、 あるいは事につくことあり、 また時につき、 処につくことあり。 この例一にあらず。 いまこの ¬*観経¼ は人法につきて名となす。 「仏」 はこれ人の名、 「説観無量寿」 はこれ法の名なり。
第五明↢諸経得名各異↡。如↢¬涅槃¼・¬般若経¼等↡就↠法為↠名。自有↠就↠喩、或有↠就↠事、亦有↢就↠時就↟処、此例非↠一。今此¬観経¼就↢人・法↡為↠名。「仏」是人名、「説観無量寿」是法名也。
6. 説人差別
▼第六に説人の差別を*料簡す。 諸経の起説五種を過ぎず。 一には仏の自説、 二には*聖弟子の説、 三には*諸天の説、 四には*神仙の説、 五には*変化の説なり。 この ¬*観経¼ は、 五種の説のなか、 世尊の自説なり。
聖弟子 舎利弗等の仏弟子。
諸天 梵天・帝釈天等の護法の善神。
神仙 仏法に帰依した仙人。
変化 変化身のこと。 仏・菩薩がすがたを変えて仮に現れたもの。
第六料↢簡説人差別↡。諸経起説不↠過↢五種↡。一者仏自説、二者聖弟子説、三者諸天説、四者神仙説、五者変化説。此¬観経¼者、五種説中世尊自説。
7. 三身三土
第七に略して*真・応の二身を明かし、 ならびに真・応の二土を弁ず。
第七略明↢真・応二身、并弁↢真・応二土↢。
8. 凡聖通往
第八に弥陀の浄国は位上下を該ね、 ▼*凡聖通じて往くことを顕す。
第八顕↧弥陀浄国位該↢上下↡凡聖通往↥。
9. 三界摂不
第九に弥陀の浄国の*三界の摂と不摂とを明かす。
三界の摂と不摂 迷いの境界であるところの三界におさまるか、 おさまらないか。 →
三界
第九明↣弥陀浄国三界摂与↢不摂↡也。
◎第一大門 ○教興所由
・ 約時被機
【3】 第一大門のなか、 ▼*教興の所由を明かして、 時に約し機に被らしめて勧めて浄土に帰せしむとは、 ▼もし教、 時機に*赴けば、 修しやすく悟りやすし。 もし機と教と時と乖けば、 修しがたく入りがたし。
赴けば 合致すればの意。
第一大門中、明↢教興所由↡約↠時被↠機勧↢帰浄土↡者、若教赴↢時機↡易↠修易↠悟、若機教時乖難↠修難↠入。
▼このゆゑに *¬*正法念経¼ にのたまはく、
正法念経に… 引用の文は ¬正法念経¼ にはない。 鳩摩羅什訳 ¬座禅三昧経¼ の取意の文。
「行者一心に道を求むる時、 つねにまさに時と方便とを観察すべし。
もし時を得ず、 方便なくは、 これを名づけて失となし利と名づけず。
なんとなれば、
もし湿へる木を攅りてもつて火を求めんに、 火得べからず、 時にあらざるがゆゑなり。
もし乾きたる薪を折りてもつて火を覓めんに、 火得べからず、 智なきがゆゑなり」 と。
是故¬正法念経¼云。「行者一心求↠道時、常当↣観↢察時方便↡。若不↠得↠時無↢方便↡。是名為↠失、不↠名↠利。何者如↧攢↢木↡以求↠火火不↠可↠得、非↠時故、若折↢乾薪↡以覓↠水水不↠可↠得、無↞智故。」
水水 天永三年写本では 「火火」。
・ 五箇五百年
このゆゑに ▼¬*大集月蔵経¼ (意) にのたまはく、 「仏滅度の後の第一の五百年には、 わがもろもろの弟子、 慧を学ぶこと堅固なることを得ん。 第二の五百年には、 定を学ぶこと堅固なることを得ん。 第三の五百年には、 多聞・読誦を学ぶこと堅固なることを得ん。 第四の五百年には、 塔寺を造立し福を修し懺悔すること堅固なることを得ん。 第五の五百年には、 *白法隠滞して多く*諍訟あらん。 微しき善法ありて堅固なることを得ん」 と。
白法隠滞 仏の教えがかくれとどこおること。
諍訟 争いごと。
是故¬大集月蔵経¼云。「仏滅度後第一五百年、我諸弟子学↠慧得↢堅固↡。第二五百年、学↠定得↢堅固↡。第三五百年、学↢多聞・読誦↡得↢堅固↡。第四五百年、造↢立塔寺↡修↠福懺悔得↢堅固↡。第五五百年、白法隠滞多有↢諍訟↡。微有↢善法↡得↢堅固↡。」
▼またかの ¬経¼ (同・意) にのたまはく、 「諸仏の世に出でたまふに、 四種の法ありて衆生を度したまふ。 なんらをか四となす。 ▽一には口に*十二部経を説く。 すなはちこれ*法施をもつて衆生を度したまふ。 ▽二には諸仏如来には無量の*光明・*相好まします。 一切衆生ただよく心を繋けて*観察すれば、 益を獲ざるはなし。 これすなはち*身業をもつて衆生を度したまふ。 三には無量の徳用・*神通道力・種々の変化まします。 すなはちこれ神通力をもつて衆生を度したまふ。 四には諸仏如来には無量の*名号まします。 もしは*総、 もしは*別なり。 それ衆生ありて心を繋けて称念すれば、 障を除き益を獲て、 みな仏前に生ぜざるはなし。 すなはちこれ名号をもつて衆生を度したまふ」 と。
法施 人々に教えを説いて聞かせること。
総・別 総は如来の十号を指し、 別は阿弥陀如来や薬師如来等の個々の名号を指す。
又彼¬経¼云。「諸仏出↠世有↢四種法↡度↢衆生↡。何等為↠四。一者口説↢十二部経↡。即是法施度↢衆生↡。二者諸仏如来有↢無量光明・相好↡。一切衆生、但能繋↠心観察無↠不↠獲↠益。是即身業度↢衆生↡。三者有↢無量徳用・神通道力・種種変化↡。即是神通力度↢衆生↡。四者諸仏如来有↢無量名号↡。若総若別。其有↢衆生↡繋↠心称念、莫↠不↣除↠鄣獲↠益皆生↢仏前↡。即是名号度↢衆生↡。」
▼いまの時の衆生を計るに、 すなはち仏世を去りたまひて後の第四の五百年に当れり。 まさしくこれ*懺悔し福を修し、 仏の名号を称すべき時なり。 もし一念阿弥陀仏を称すれば、 すなはちよく八十億劫の生死の罪を除却す。 一念すでにしかなり。 いはんや常念を修せんをや。 すなはちこれつねに懺悔する人なり。 またもし聖 (釈尊) を去ること近ければ、 すなはち前のもの定を修し慧を修するはこれその正学なり、 後のものはこれ兼なり。 もし聖を去ることすでに遠ければ、 すなはち後のもの名を称するはこれ正にして、 前のものはこれ兼なり。 なんの意ぞしかるとならば、 ▽まことに衆生、 聖を去ること遙遠にして、 *機解浮浅暗鈍なるによるがゆゑなり。
機解 衆生の理解するところ。
計↢今時衆生↡即当↢仏去↠世後第四五百年↡。正是懺悔修↠福応↠称↢仏名号↡時者。若一念称↢阿弥陀仏↡、即能除↢却八十億劫生死之罪↡。一念既爾、況修↢常念↡即是恒懺悔人也。又若去↠聖近即前者修↠定修↠慧是其正学、後者是兼。如去↠聖已遠則後者称↠名是正、前者是兼。何意然者、寔由↢衆生去↠聖遥遠、機解浮浅暗鈍↡故也。
ここをもつて*韋提大士、 みづからおよび末世の*五濁の衆生の*輪廻多劫にしていたづらに痛焼を受くるを*哀愍するがゆゑに、 よくかりに苦の縁に遇ひて*出路を諮開す。 しかれば大聖 (釈尊) 弘慈をもつて勧めて極楽に帰せしむ。 もし*ここにおいて*進趣せんと欲せば、 *勝果階ひがたし。 ただ浄土の一門のみありて、 *情をもつて悕ひて趣入すべし。 もし*衆典を披き尋ねんと欲せば、 勧むるところいよいよ多し。 つひにもつて▼*真言を採り集めて助けて*往益を修せしむ。 なんとなれば、 前に生ずるものは後を導き、 後に去かんものは前を訪ひ、 連続無窮にして願はくは休止せざらしめんと欲す。 無辺の生死海を尽さんがためのゆゑなり。
韋提大士 大士は菩薩の意。
道綽禅師は韋提希を
権化の菩薩とする。 →
韋提希
出路を諮開す (迷いの世界を) 出離する道を尋ねる。
ここ 此土。 娑婆世界。
進趣 (さとりに向かって) 修行し進むこと。
勝果 すぐれたさとりの果報。
情 凡情。 凡夫の心情。
衆典 数多くの経典。
真言 真実なる仏の言葉。
往益 往生浄土の利益。
是以韋提大士自*為及哀↣愍末世五濁衆生輪迴多劫徒受↢痛焼↡故、能仮遇↢苦縁↡諮↢開出路↡*豁然。大聖*加↠慈勧↢帰極楽↡。若欲↢於↠斯進趣↡勝果難↠階。唯有↢浄土一門↡可↢以↠情悕趣入↡。若欲↣披↢尋衆典↡勧処弥多。遂以採↢集真言↡助↢修往益↡。何者欲↠使↧前生者導↠後、後去者訪↠前、連続無窮願不↦休止↥。為↠尽↢無辺生死海↡故。
為及 「および」 と訓む。
豁 天永三年写本、 正平二年写本では脱落。
加 天永三年写本、 正平二年写本では 「弘」。
◎第一大門 ○説聴方軌
【4】 第二に▼*諸部の大乗によりて*説聴の方軌を明かすとは、 ▼なかに六あり。
諸部の大乗 諸種の大乗の経論。
説聴の方軌 教えを説く者と聞く者との心構え。
第二拠↢諸部大乗↡明↢説聴方軌↡者、於↠中有↠六。
1. 大集経
第一に▼¬*大集経¼ (意) にのたまはく、 「説法のものにおいては医王の想をなし、 抜苦の想をなせ。 説くところの法には*甘露の想をなし、 *醍醐の想をなせ。 それ法を聴くものは*増長勝解の想をなし、 愈病の想をなせ。 もしよくかくのごとく説くもの、 聴くものは、 みな仏法を紹隆するに堪へたり、 つねに仏前に生ず」 と。
増長勝解の想 仏法を領解し、 味わうすぐれた心が成長してゆくこと。
第一¬大集経¼云。「於↢説法者↡作↢医王想↡、作↢抜苦想↡。所説之法作↢甘露想↡、作↢醍醐想↡。其聴法者作↢増長勝解想↡、作↢愈病想↡。若能如↠是説者・聴者、皆堪↣紹↢隆仏法↡。常生↢仏前↡。」
2. 大智度論 一
第二に ¬*大智度論¼ にいはく、
「聴くものは*端視して*渇飲のごとくせよ。 一心に*語議のなかに入り、
端視 ひたすらに心を傾けること。
渇飲 のどのかわいた人が水を求めるような思い。
語議 言葉の深い意味内容。
法を聞きて踊躍し心に悲喜す。 かくのごとき人にために説くべし」 と。
第二¬大智度論¼云。「聴者端視如↢渇飲↡。一心入↢於語議中↡聞↠法踊躍心悲喜、如↠是之人応↢為説↡。」
3. 大智度論 二
第三にかの ¬論¼ (同・意) にまたいはく、 「二種の人ありて、 福を得ること無量無辺なり。 なんらをか二となす。 一には楽みて法を説く人、 二には楽みて法を聴く人なり。 このゆゑに*阿難、 仏にまうしてまうさく、 ª*舎利弗・*目連なにをもつてか得るところの*智慧・*神通、 *聖弟子のなかにおいてもつとも殊勝なりとなすº と。 仏、 阿難に告げたまはく、 ªこの二人は、 *因中の時において、 *法の因縁のために千里を難しとせず。 このゆゑに今日もつとも殊勝なりとなすº」 と。
聖弟子 仏弟子のこと。
因中の時 (阿羅漢の) さとりを得るための修行をしている時期。
法の因縁 仏法を聞く機会。
第三彼¬論¼又云。「有↢二種人↡得↠福無量無辺。何等為↠二。一者楽説法人、二者楽聴法人。是故阿難白↠仏言。舎利弗・目連何以所↠得智慧・神通於↢聖弟子中↡最為↢殊勝↡。仏告↢阿難↡。此之二人於↢因中時↡為↢法因縁↡千里不↠難。是故今日最為↢殊勝↡。」
4. 大経(下) 一
第四に ¬*無量寿大経¼ (下) にのたまはく、
「▲もし人*善本なければ、 この経を聞くことを得ず。
清浄に戒を有てるもの、 すなはち正法を聞くことを獲」 と。
第四¬無量寿大経¼云。「若人無↢善本↡不↠得↠聞↢此経↡。清浄有↠戒者乃獲↠聞↢正法↡。」
5. 大経(下) 二
第五にのたまはく (*同・下意)、
「▲曾更むかし世せ尊そんを見みたてまつるもの、 すなはちよくこの事じを信しんず。
億おくの如来にょらいに*奉事ぶじして、 楽このみてかくのごとき教きょうを聞きく」 と。
第五云。「曾更見↢世尊↡則能信↢此事↡。奉↢事億如来↡楽聞↢如↠是教↡。」
6. 平等覚経
第だい六に ¬*無む量りょう清浄しょうじょう覚がく経きょう¼ (四・意) にのたまはく、 「▼善ぜん男なん子し・善ぜん女人にょにん、 浄じょう土どの法門ほうもんを説とくを聞ききて、 心しんに悲喜ひきを生しょうじて身みの毛け為竪いよだちて抜ぬけ出いづるがごとくなるものは、 まさに知しるべし、 この人ひとは*過去かこ宿命しゅくみょうにすでに仏道ぶつどうをなせるなり。 ▼もしまた人ひとありて浄じょう土どの法門ほうもんを開ひらくを聞ききて、 すべて信しんを生しょうぜざるものは、 まさに知しるべし、 この人ひとははじめて*三悪道まくどうより来きたりて、 *殃おう咎ぐいまだ尽つきず。 これがために*信向しんこうなきのみ。 われ説とく、 ªこの人ひとはいまだ解げ脱だつを得うべからずº」 と。
過去宿命 過去世の境界。
殃咎 罪や過ち。
信向 信じ帰依きえすること。
第六¬無量清浄覚経¼云。「善男子・善女人聞↠説↢浄土法門↡心生↢悲喜↡身毛為*豎如↢抜出↡者、当↠知、此人過去宿命已作↢仏道↡也。若復有↠人聞↠開↢浄土法門↡都不↠生↠信者、当↠知、此人始従↢三悪道↡来殃咎未↠尽、為↠此無↢信向↡耳。我説、此人未↠可↠得↢解脱↡也。」
豎 天永三年写本、 正平二年写本では 竪。
このゆゑに ¬*無む量りょう寿じゅ大だい経きょう¼ (下) にのたまはく、
「▲*憍慢きょうまんと*弊へいと*懈け怠だいとは、 もつてこの法ほうを信しんずること難かたし」 と。
是故¬無量寿大経¼云。「驕慢弊懈怠難↣以信↢此法↡。」
◎第一大門 ○発心久近
【5】 第だい三に大乗だいじょうの聖教しょうぎょうによりて、 衆しゅ生じょうの*発心ほっしんの久く近ごん、 *供く仏ぶつの多少たしょうを明あかすとは、
供仏 仏を供く養ようすること。
第三拠↢大乗聖教↡明↢衆生発心久近、供仏多少↡者、
¬*涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「仏ぶつ、 *迦葉かしょう菩ぼ薩さつに告つげたまはく、
如↢¬涅槃経¼云↡。「仏告↢迦葉菩薩↡。
ªもし衆しゅ生じょうありて、 *熙き連れん半はん恒ごう河が沙しゃ等とうの諸仏しょぶつの所みもとにおいて*菩ぼ提だい心しんを発おこせば、 しかして後のちにすなはちよく悪あく世せのなかにおいて、 この大乗だいじょう経典きょうてんを聞ききて誹ひ謗ほうを生しょうぜず。
熙連半恒河沙 熙連河の砂の数の意。 熙連河は中インドにある河。 釈尊はその西側の沙羅さら林りんで入にゅう滅めつされた。 恒河 (ガンジス河) より小さいので、 ここでは半恒河という。
若有↢衆生↡於↢熈連半恒河沙等諸仏所↡発↢菩提心↡、然後乃能於↢悪世中↡聞↢是大乗経典↡不↠生↢誹謗↡。
もし一*恒ごう河が沙しゃ等とうの仏ぶつの所みもとにおいて菩ぼ提だい心しんを発おこすことあれば、 しかして後のちにすなはちよく悪あく世せのなかにおいて経きょうを聞ききて誹ひ謗ほうを起おこさず、 深ふかく*愛楽あいぎょうを生しょうず。
愛楽 喜び好むこと。
若有↧於↢一恒河沙等仏所↡発↦菩提心↥、然後乃能於↢悪世中↡聞↠経不↠起↢誹謗↡、生↢愛楽↡。
もし二恒ごう河が沙しゃ等とうの仏ぶつの所みもとにおいて菩ぼ提だい心しんを発おこすことあれば、 しかして後のちにすなはちよく悪あく世せのなかにおいてこの法ほうを謗ほうぜず、 正解しょうげし信しん楽ぎょうし受じゅ持じし読誦どくじゅす。
若有↧於↢二恒河沙等仏所↡発↦菩提心↥、然後乃能於↢悪世中↡不↠謗↢是法↡、正解信楽受持読誦。
▼もし三恒ごう河が沙しゃ等とうの仏ぶつの所みもとにおいて菩ぼ提だい心しんを発おこすことあれば、 しかして後のちにすなはちよく悪あく世せのなかにおいてこの法ほうを謗ほうぜず、 経巻きょうかんを書写しょしゃし、 人ひとのために説とくといへども、 いまだ深じん義ぎを解さとらずº」 と。
若有↧於↢三恒河沙等仏所↡発↦菩提心↥、然後乃能於↢悪世中↡不↠謗↢是法↡、書↢写経巻↡。雖↢為↠人説↡未↠解↢義↡。」
なにをもつてのゆゑにかくのごとき教量きょうりょうを須もちゐるとならば、 今日こんにち坐下ざげにして経きょうを聞きくものは、 曾むかしすでに発心ほっしんして多た仏ぶつを供く養ようせることを彰あらわさんがためなり。
何以故須↢如↠此教量↡者、為↠彰↧今日座下聞↠経者曾已発心供↦養多仏↥也。
また大乗だいじょう経きょうの威い力りき不可ふか思議しぎなることを顕あらわす。
又顕↢大乗経之威力不可思議↡。
このゆゑに ¬経きょう¼ (涅槃経・意) にのたまはく、 「もし衆しゅ生じょうありてこの経典きょうてんを聞きけば、 億おく百ひゃく千劫せんごうにも悪道あくどうに堕だせず。 なにをもつてのゆゑに。 この妙みょう経典きょうてんの流布るふするところの処ところ、 まさに知しるべし、 その地じはすなはちこれ金剛こんごうなり。 このなかの諸人しょにんまた金剛こんごうのごとし」 と。
是故¬経¼云。「若有↢衆生↡聞↢是経典↡、億百千劫不↠堕↢悪道↡。何以故、是妙経典所↢流布↡処、当↠知、其地即是金剛。是中諸人亦如↢金剛↡。」
ゆゑに知しりぬ、 経きょうを聞ききて信しんを生しょうずるものはみな不可ふか思議しぎの利り益やくを獲うるなり。
故知、聞↠経生↠信者皆獲↢不可思議利益↡也。
◎第一大門 ○宗旨不同
【6】 ▼第だい四に次つぎに諸経しょきょうの*宗旨しゅうしの不ふ同どうを弁べんずとは、
宗旨 経典に説かれた法義の最も肝要なことがら。
第四次弁↢諸経宗旨不同↡者、
もし ¬*涅ね槃はん経ぎょう¼ によらば*仏性ぶっしょうを宗しゅうとなす。 もし ¬*維ゆい摩ま経ぎょう¼ によらば*不可ふか思議しぎ解げ脱だつを宗しゅうとなす。 もし 「*般若はんにゃ経きょう」 によらば*空くう慧えを宗しゅうとなす。 もし ¬*大集だいじっ経きょう¼ によらば*陀羅尼だらにを宗しゅうとなす。 いまこの ¬*観かん経ぎょう¼ は*観仏かんぶつ三昧ざんまいをもつて宗しゅうとなす。 もし所観しょかんを論ろんずれば*依え正しょう二報ほうに過すぎず。 下しもに諸観しょかんによりて弁べんずるところのごとし。
不可思議解脱 思惟を超えたさとりの境界。
空慧 一切のものには実体がないという空くうの道理をさとる智慧ちえ。
若依↢¬涅槃経¼↡仏性為↠宗。若依↢¬維摩経¼↡不可思議解脱為↠宗。若依↢¬般若経¼↡空慧為↠宗。若依↢¬大集経¼↡陀羅尼為↠宗。今此¬観経¼以↢観仏三昧↡為↠宗。若論↢所観↡不↠過↢依正二報↡。如↧下依↢諸観↡所↞弁。
▼もし ¬*観仏かんぶつ三昧ざんまい経きょう¼ (意) によらばのたまはく、 「仏ぶつ、 *父ちちの王おうに告つげたまはく、 ª諸仏しょぶつの出しゅっ世せに三種しゅの益やくあり。
父の王 釈尊の父、 浄飯じょうぼん王のう。
若依↢¬観仏三昧経¼↡云。「仏告↢父王↡。諸仏出世有↢三種益↡。
△一には口くちに*十二部経ぶきょうを説ときたまふ。 *法ほう施せの利り益やくなり。 よく衆しゅ生じょうの無む明みょうの暗障あんしょうを除のぞき、 智慧ちえの眼まなこを開ひらきて諸仏しょぶつの前みまえに生しょうじて早はやく*無上むじょう菩ぼ提だいを得えしむ。
法施 人々に教えを説いて聞かせること。
一者口説↢十二部経↡、法施利益能除↢衆生無明暗障↡、開↢智慧眼↡生↢諸仏前↡早得↢無上菩提↡。
△二には諸仏しょぶつ如来にょらいに身相しんそう・光こう明みょう、 無む量りょうの妙好みょうこうまします。 もし衆しゅ生じょうありて称念しょうねんし観察かんざつすれば、 もしは*総相そうそう、 もしは*別相べっそう、 仏身ぶっしんの現在げんざい・過去かこを問とふことなく、 みなよく衆しゅ生じょうの*四重じゅう・*五逆ぎゃくを除滅じょめつして永ながく*三途ずに背そむき、 意こころの*所楽しょぎょうに随したがひてつねに浄じょう土どに生しょうじ、 すなはち成仏じょうぶつに至いたる。
総相 仏身の全体のすがた。
別相 仏身の一部分のすがた。 総相に対す。
二者諸仏如来有↢身相光明無量妙好↡。若有↢衆生↡称念観察、若総相若別相、無↠問↢仏身現在・過去↡、皆能除↢滅衆生四重・五逆↡永背↢三途↡、随↢意所楽↡常生↢浄土↡、乃至成仏。
三には▼父ちちの王おうを勧すすめて*念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうぜしめたまふº と。
三者令↧勧↢父王↡行↦念仏三昧↥。
父ちちの王おう、 仏ぶつにまうさく、 ª*仏ぶつ地じの果か徳とく、 *真如しんにょ*実相じっそう*第だい一義ぎ空くうなり。 なにによりてか弟子でしをしてこれを行ぎょうぜしめざるº と。
仏地の果徳 仏のさとられた徳。
父王白↠仏。仏地果徳真如実相第一義空、何因不↠遣↢弟子行↟之。
仏ぶつ、 父ちちの王おうに告つげたまはく、 ª諸仏しょぶつの果か徳とくには無む量りょう深妙じんみょうの境界きょうがい・神通じんずう・解げ脱だつまします。 これ凡ぼん夫ぶ所行しょぎょうの境界きょうがいにあらざるがゆゑに、 父ちちの王おうを勧すすめて念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうぜしめたてまつるº と。
仏告↢父王↡。諸仏果徳有↢無量妙境界・神通・解脱↡。非↢是凡夫所行境界↡故、勧↢父王↡行↢念仏三昧↡。
父ちちの王おう、 仏ぶつにまうさく、 ª念仏ねんぶつの功こうその状かたちいかんº と。
父王白↠仏。念仏之功其状云何。
仏ぶつ、 父ちちの王おうに告つげたまはく、 ª▼*伊い蘭らん林りんの方ほう四十由旬ゆじゅんなるに、 一科かの*牛頭ごず栴檀せんだんあり。 根こん芽げありといへども、 なほいまだ土つちを出いでず。 その伊い蘭らん林りんはただ臭くさくして香こうばしきことなし。 もしその華菓けかを噉くらふことあれば、 狂きょうを発おこして死しす。 後のちの時ときに栴檀せんだんの根こん芽げやうやく生長しょうちょうしてわづかに樹じゅとならんと欲ほっするに、 香こう気け昌盛しょうじょうにしてつひによくこの林はやしを改変がいへんして、 あまねくみな香こう美みならしむ。 衆しゅ生じょう見みるものみな*希有けうの心しんを生しょうずるがごとしº と。
伊蘭林 伊蘭は梵語エーランダ (eraņđa) の音写。 インドの植物の一種。 強い悪臭があり、 芳香を放つ栴檀せんだんと対照される。
牛頭栴檀 梵語ゴーシールシャ・チャンダナ (gośīrşa-candana) の音写。 インドの摩羅耶まらや山せん (牛頭山) に産するという香木の一種。 色は赤銅色で、 栴檀の中で最も香気が高い。
希有の心 不思議なおもい。
仏告↢父王↡。如↧伊蘭林方四十由旬、有↢一科牛頭栴檀↡、雖↠有↢根芽↡猶未↠出↠土、其伊蘭林唯臭無↠香、若有↠噉↢其花果↡発↠狂而死。後時栴檀根芽漸漸生長纔欲↠成↠樹、香気昌盛遂能改↢変此林↡暜皆香美。衆生見者皆生↦希有心↥。
仏ぶつ、 父ちちの王おうに告つげたまはく、 ª一切さい衆しゅ生じょう生しょう死じのなかにありて念仏ねんぶつの心しんもまたかくのごとし。 ただよく念ねんを繋かけて止やまざれば、 さだめて仏前ぶつぜんに生しょうず。 一たび往おう生じょうを得うれば、 すなはちよく一切さいの諸悪しょあくを改変がいへんして大だい慈悲じひを成じょうずること、 かの香樹こうじゅの伊い蘭らん林りんを改あらたむるがごとしº」 と。
仏告↢父王↡。一切衆生在↢生死中↡念仏之心亦復如↠是。但能繋↠念不↠止定生↢仏前↡。一得↢往生↡即能改↢変一切諸悪↡成↢大慈悲↡如↣彼香樹改↢伊蘭林↡。」
▼いふところの 「伊い蘭らん林りん」 とは、 衆しゅ生じょうの身みのうちの*三毒どく・*三障しょう、 無む辺へんの重罪じゅうざいに喩たとふ。 「栴檀せんだん」 といふは、 衆しゅ生じょうの念仏ねんぶつの心しんに喩たとふ。 「わづかに樹じゅとならんと欲ほっす」 とは、 いはく、 一切さい衆しゅ生じょうただよく念ねんを積つみて断たえざれば、 *業道ごうどう成弁じょうべんするなりと。
所↠言伊蘭林者、喩↢衆生身内三毒・三障、無辺重罪↡、言↢栴檀↡者、喩↢衆生念仏之心↡。纔欲↠成↠樹者、謂一切衆生但能積↠念不↠断業道成弁也。
▼問とひていはく、 一切さい衆しゅ生じょうの念仏ねんぶつの功こうを計はかりてまた一切さいに応おうじて知しるべし。 なにによりてか一念ねんの力ちからよく一切さいの諸障しょしょうを断たつこと、 一の香樹こうじゅの四十由旬ゆじゅんの伊い蘭らん林りんを改あらためてことごとく香こう美みならしむるがごとくなるや。
問曰。計↢一切衆生念仏之功↡亦応一切可↠知。何因一念之力能断↢一切諸障↡、如↧一香樹改↢四十由旬伊蘭林↡悉使↦香美↥也。
答こたへていはく、 *諸しょ部ぶの大乗だいじょうによりて念仏ねんぶつ三昧ざんまいの*功く能のうの不可ふか思議しぎなることを顕あらわさん。
諸部の大乗 諸種の大乗経典。
功能 作用。 はたらき。
答曰。依↢諸部大乗↡顕↢念仏三昧功能不可思議↡也。
▼なんとなれば、 ¬華け厳ごん経ぎょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「▼たとへば人ひとありて獅子ししの筋すじを用もちゐて、 もつて琴ことの絃げんとなして、 音声おんじょう一たび奏そうするに、 一切さいの余よの絃げんことごとくみな断だん壊えするがごとし。 もし人ひと菩ぼ提だい心しんのなかに念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうずれば、 一切さいの煩悩ぼんのう、 一切さいの諸障しょしょうことごとくみな断滅だんめつす。
何者如↢¬華厳経¼云↡。「譬如↧有↠人用↢師子筋↡以為↢琴絃↡音声一奏一切余絃悉皆断壊↥。若人菩提心中行↢念仏三昧↡者、一切煩悩、一切諸障悉皆断滅。
▼また人ひとありて牛ご・羊よう・驢馬ろめ、 一切さいのもろもろの乳ちちを搆しぼり取とりて一器きのなかに置おくに、 もし獅子ししの乳ちち一渧たいを持もちてこれを投なぐるに、 ただちに過すぎて難はばかりなし。 一切さいの諸乳しょにゅうことごとくみな破壊はえして、 変へんじて清水しょうすいとなるがごとし。 もし人ひとただよく菩ぼ提だい心しんのなかに念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうずれば、 一切さいの悪あく魔ま・諸障しょしょうただちに過すぎて難はばかりなし」 と。
亦如↧有↠人搆↢取牛・羊・驢馬一切諸乳↡置↢一器中↡、若持↢師子乳一渧↡投↠之直過無↠難、一切諸乳悉皆破壊変為↦清水↥。若人但能菩提心中行↢念仏三昧↡者、一切悪魔諸障直過無↠難。」
▼またかの ¬経きょう¼ (華厳経・意) にのたまはく、 「たとへば人ひとありて*翳身えいしん薬やくを持もちて処々しょしょに遊行ゆぎょうするに、 一切さいの余よ人にんこの人ひとを見みざるがごとし。 もしよく菩ぼ提だい心しんのなかに念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうずれば、 一切さいの悪神あくじん、 一切さいの諸障しょしょうこの人ひとを見みず。 所詣しょげいの処ところに随したがひてよく*遮障しゃしょうすることなし。 なんがゆゑぞよくしかるとならば、 この念仏ねんぶつ三昧ざんまいはすなはちこれ一切さいの三昧さんまいのなかの王おうなるがゆゑなり」 と。
翳身薬 身体をかくす薬。
遮障 さまたげること。
又彼¬経¼云。「譬如↧有↠人持↢翳身薬↡処処遊行、一切余人不↞見↢是人↡。若能菩提心中行↢念仏三昧↡者、一切悪神一切諸障不↠見↢是人↡。随↢所詣処↡無↢能遮障↡也。何故能爾、此念仏三昧、即是一切三昧中王故也。
◎第一大門 ○三身三土
【7】 第だい七に略りゃくして*三身しん三土どの義ぎを明あかすとは、
第七略明↢三身三土義↡、
・ 報身報土
▼問とひていはく、 いま現在げんざいの阿弥陀あみだ仏ぶつはこれいづれの身しんぞ、 極楽ごくらくの国くにはこれいづれの土どぞ。
問曰。今現在阿弥陀仏是何身、極楽之国是何土。
答こたへていはく、 ▼現在げんざいの弥陀みだはこれ報仏ほうぶつ、 極楽ごくらく宝ほう荘厳しょうごん国こくはこれ報ほう土どなり。 しかるに*古旧こきゅうあひ伝つたへて、 みな阿弥陀あみだ仏ぶつはこれ*化け身しん、 土どもまたこれ化土けどなりといへり。 これを大失だいしつとなす。 もししからば、 *穢土えどもまた化け身しんの所居しょご、 浄じょう土どもまた化け身しんの所居しょごならば、 いぶかし、 如来にょらいの*報身ほうじんはさらにいづれの土どによるや。
古旧あひ伝へて… 浄じょう影よう寺じ慧え遠おん (523-592)、 天台てんだい大師智顗ちぎ (538-597) などの説を指す。
答曰。現在弥陀是報仏、極楽宝荘厳国是報土。然古旧相伝皆云↢阿弥陀仏是化身、土亦是化土↡、此為↢大失↡也。若爾者穢土亦化身所居、浄土亦化身所居者、未審、如来報身更依↢何土↡也。
いま ¬*大乗だいじょう同性どうしょう経きょう¼ によりて報ほう化け・浄穢じょうえを弁定べんじょうせば、 ¬経きょう¼ (同・意) にのたまはく、 「浄じょう土どのなかに仏ぶつとなりたまへるはことごとくこれ報身ほうじんなり、 穢土えどのなかに仏ぶつとなりたまへるはことごとくこれ化け身しんなり」 と。
今依↢¬大乗同性経¼↡弁↢定報化浄穢↡者、¬経¼云。「浄土中成仏者悉是報身、穢土中成仏者悉是化身。」
かの ¬経きょう¼ (大乗同性経・意) にのたまはく、 「▼阿弥陀あみだ如来にょらい・蓮れん華げ開かい敷ふ星王しょうおう如来にょらい・竜主りゅうしゅ如来にょらい・宝徳ほうとく如来にょらい等とうのもろもろの如来にょらい、 清浄しょうじょうの*仏刹ぶっせつにして現げんに*道どうを得えたまへるもの、 まさに道どうを得えたまふべきもの、 かくのごとき一切さいはみなこれ報身ほうじんの仏ぶつなり。 何者なにものか如来にょらいの化け身しん。 なほ今日こんにちの踊歩ゆぶ如来にょらい・魔恐怖まくふ如来にょらいのごとき、 かくのごとき等らの一切さいの如来にょらいの、 *穢え濁世じょくせのなかにして現げんに仏ぶつとなりたまへるもの、 まさに仏ぶつとなりたまふべきもののごとし。 *兜と率そつより下くだり、 乃ない至し一切さいの*正しょう法ぼう・一切さいの*像法ぞうぼう・一切さいの*末法まっぽうを*住持じゅうじす。 かくのごとき化事けじみなこれ化け身しんの仏ぶつなり。 何者なにものか如来にょらいの*法身ほっしん。 如来にょらいの真しん法身ほっしんとは、 色しきなく形ぎょうなく、 現げんなく着じゃくなく、 見みるべからず、 言説ごんせつなく、 住処じゅうしょなく、 生しょうなく滅めつなし。 これを真しん法身ほっしんの義ぎと名なづく」 と。
道 仏のさとり。
彼¬経¼云。「阿弥陀如来・蓮花開敷星王如来・竜主*王如来・宝徳如来等諸如来清浄仏刹、現得↠道者、当↠得↠道者、如↠是一切皆是報身仏也。何者如来化身。由如↢今日踊歩*健如来・魔恐怖如来↡、如↠是等一切如来、穢濁世中如↧現成仏者、当↢成仏↡者、従↢兜率↡下乃至住↦持一切正法・一切像法・一切末法↥、如↠是化事、皆是化身仏也。何者如来法身。如来真法身者、無↠色無↠形、無↠現無↠著、不↠可↠見、無↢言説↡無↢住処↡、無↠生無↠滅。是名↢真法身義↡也。」
王 聖教全書まま。 脱落についての註なし。
健 他書では脱落。
・ 報身隠没相
問とひていはく、 如来にょらいの報身ほうじんは*常住じょうじゅうなり。 いかんぞ ¬*観音かんのん授じゅ記き経きょう¼ (意) に、 「▼阿弥陀あみだ仏ぶつ*入にゅう涅ね槃はんの後のち、 観かん世ぜ音おん菩ぼ薩さつ*次ついで仏処ぶっしょを補ふす」 とのたまふや。
問曰。如来報身常住。云何¬観音授記経¼云↧「阿弥陀仏入涅槃後、観世音菩薩次補↦仏処↥」也。
答こたへていはく、 ▼これはこれ報身ほうじん、 *隠没おんもつの相そうを示じ現げんす。 *滅めつ度どにはあらず。
答曰。此是報身示↢現隠没相↡、非↢滅度↡也。
かの ¬経きょう¼ (同・意) にのたまはく、 「阿弥陀あみだ仏ぶつ入にゅう涅ね槃はんの後のち、 また深厚じんこう善根ぜんごんの衆しゅ生じょうありて、 還かえりて見みること故もとのごとし」 と。 すなはちその証しょうなり。
彼¬経¼云。「阿弥陀仏入涅槃後、復有↢厚善根衆生↡還見如↠故。」即其証也。
また ¬宝性ほうしょう論ろん¼ (意) にいはく、
「報身ほうじんに五種しゅの相そうまします。 *説法せっぽうとおよび*可か見けんと、
説法 大乗の通説では法身ほっしんに説法はないが、 報身ほうじんにはそれがある。
可見 衆しゅ生じょうの観見の対象となるということ。 法身は無む色しき無形むぎょうで不可見であるが、 報身は相好そうごう光こう明みょうをそなえているので可見である。
*諸業しょごうの休く息そくせざると、 および*休く息そく隠没おんもつと、
諸業の休息せざる 衆生救済のさまざまなはたらきが決してやまないという意。
休息隠没 衆生の機によっては姿をかくすこともあるという意。
*不ふ実体じったいを示じ現げんするとなり」 と。
不実体を示現する 不実体は応身おうじんのこと。 報身は応身を示現する本体であるという意。
すなはちその証しょうなり。
又¬宝性論¼云。「報身有↢五種相↡。説法及可見諸業不休息及休息隠没、示現不実体。」即其証也。
問とひていはく、 釈しゃ迦か如来にょらいの報身ほうじん・報ほう土どはいづれの方ほうにかましますや。
問曰。釈迦如来報身・報土在↢何方↡也。
答こたへていはく、 ¬涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にのたまはく、 「西方さいほうここを去さること四十二恒ごう河が沙しゃの仏ぶつ土どに世せ界かいあり、 名なづけて無勝むしょうといふ。 かの土どのあらゆる荘厳しょうごんまた西方さいほう極楽ごくらく世せ界かいのごとし。 等ひとしくして異ことなることあることなし。 われかの土どにおいて世よに出現しゅつげんす。 衆しゅ生じょうを化けせんがためのゆゑに、 来きたりてこの*娑しゃ婆ば国こく土どにあり。 ただわれのみこの土どに出いづるにあらず、 一切さいの如来にょらいもまたかくのごとし」 と。 すなはちその証しょうなり。
答曰。¬涅槃経¼云。「西方去↢此四十二恒河沙仏土↡有↢世界↡、名曰↢無勝↡。彼土所有荘厳亦如↢西方極楽世界↡、等無↠有↠異。我於↢彼土↡出↢現於世↡、為↠化↢衆生↡故来在↢此娑婆国土↡。但非↣我出↢此土↡、一切如来亦復如↠是。」即其証也。
問とひていはく、 ¬*鼓く音おん経ぎょう¼ (意) にのたまはく、 「阿弥陀あみだ仏ぶつに父母ぶもあり」 と。 あきらかに知しりぬ、 これ報仏ほうぶつ・報ほう土どにあらずや。
問曰。¬鼓音経¼云。「阿弥陀仏有↢父母↡。」明知、非↢是報仏・報土↡也。
答こたへていはく、 なんぢはただ名なを聞ききて経きょうの旨むねを究きわめ尋たずねずしてこの疑うたがいを致いたす。 これを*毫毛ごうもうに錯あやまりてこれを千せん里りに失しっすといふべし。 しかれども阿弥陀あみだ仏ぶつまた*三身しんを具そなへたまへり。 極楽ごくらくに出現しゅつげんしたまふはすなはちこれ報身ほうじんなり。 いま父母ぶもありといふは、 これ穢土えどのなかに示じ現げんしたまへる化け身しんの父母ぶもなり。 また釈しゃ迦か如来にょらい、 浄じょう土どのなかにしてその報仏ほうぶつを成じょうじ、 この方ほうに応来おうらいして父母ぶもありと示しめしてその*化け仏ぶつを成じょうじたまふがごとし。 阿弥陀あみだ仏ぶつもまたかくのごとし。
毫毛に… 毫毛 (細い毛) ほどの小さな誤りから千里にもおよぶ大きな誤りを招くという意。
答曰。子但聞↠名不↣究↢尋経旨↡致↢此疑↡。可↠謂、錯↢之毫毛↡失↢之千里↡。然阿弥陀仏亦具↢三身↡。極楽出現者即是報身、今言↠有↢父母↡者、是穢土中示現化身父母也。亦如↢釈迦如来↡。浄土中成、其報仏。応↢来此方↡示↠有↢父母↡成、其化仏。阿弥陀仏亦復如↠是。
また ¬*鼓く音声おんじょう経きょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「その時とき阿弥陀あみだ仏ぶつ、 声しょう聞もん衆しゅと倶ともなり。 国くにを清泰しょうたいと号なづく。 聖王しょうおうの所住しょじゅうなり。 その城しろは*縦広じゅうこう十千せん由旬ゆじゅんなり。 阿弥陀あみだ仏ぶつの父ちちはこれ*転輪てんりん聖王じょうおうなり。 王おうを月上がつじょうと名なづけ、 母ははを殊勝しゅみょう妙顔みょうげんと名なづく。 魔ま王おうを無勝むしょうと名なづけ、 *仏ぶっ子しを月明がつみょうと名なづけ、 *提だい婆ば達だっ多たを寂じゃくと名なづけ、 *給侍きゅうじの弟子でしを無垢むく称しょうと名なづく」 と。 また上来じょうらいに引ひくところはならびにこれ化け身しんの相そうなり。 もしこれ浄じょう土どならば、 あに*輪王りんのうおよび城しろ・女人にょにん等とうあらんや。 これすなはち文もん義ぎ*炳然へいねんなり、 なんぞ分別ふんべつを待またんや。 みなよく尋たずね究きわめずして、 名なに迷まよひて執しゅうを生しょうぜしむることを致いたす。
仏子・給侍の弟子 釈尊に照らし合わせていえば、 仏子は羅睺羅らごらにあたり、 給侍の弟子は阿あ難なんにあたる。
炳然 あきらかであること。
又如↢¬鼓音声経¼云↡。「爾時阿弥陀仏与↢声聞衆↡倶、国号↢清泰↡、聖王所住、其城縦広十千由旬。阿弥陀仏父是転輪聖王、王名↢月上↡、母名↢殊勝妙顔↡。魔王名↢無勝↡、仏子名↢月明↡、提婆達多名↢寂*意↡、給侍弟子名↢無垢称↡。」又上来所↠引並是化身之相。若是浄土豈有↢輪王及城女人等↡也。此即文義昞然、何待↢分別↡。皆不↢善尋究↡致↠使↢迷↠名生↟執也。
意 天永年間刊本、 寛永年間刊本では脱落。
問とひていはく、 もし報身ほうじんに隠没おんもつ休く息そくの相そうましまさば、 また浄じょう土どに*成壊じょうえの事じあるべきや。
成壊 消滅しょうめつに同じ。
問曰。若報身有↢隠没休息相↡者、亦可↣浄土有↢成壊事↡。
答こたへていはく、 かくのごとき難なんは、 古いにしえよりいまに将いたりて義ぎまた通つうじがたし。 しかりといへども、 いまあへて経きょうを引ひきて証しょうとなさん。 義ぎまた知しるべし。 たとへば仏身ぶっしんは*常住じょうじゅうなれども、 衆しゅ生じょう涅ね槃はんありと見みるがごとし。 浄じょう土どもまたしかなり。 体たいは成壊じょうえにあらざれども、 衆しゅ生じょうの所見しょけんに随したがひて成じょうあり壊えあり。
答曰。如↠斯難者自↠古将↠今義亦難↠通。雖↠然今敢引↠経為↠証。義亦可↠知。譬如↢仏身常住衆生見↟有↢涅槃↡。浄土亦爾。体非↢成壊↡随↢衆生所見↡有↠成有↠壊。
¬華け厳ごん経ぎょう¼ にのたまふがごとし。
「なほ*導どう師しに種々しゅじゅ無む量りょうの色しきを見みるがごとく、
導師 仏のこと。
衆しゅ生じょうの*心行しんぎょうに随したがひて、 *仏刹ぶっせつを見みることもまたしかなり」 と。
如↢¬華厳経¼云↡。「由如↠見↢導師種種無量色↡、随↢衆生心行↡見↢仏刹↡亦然。」
このゆゑに ¬**浄じょう土ど論ろん¼ にいはく、
「*一質ぜつ成じょうぜざるがゆゑに、 浄穢じょうえ*虧き盈ようあり。
一質・異質・無質 ここでの質は本体の意。
虧盈 虧は欠ける、 盈は満ちるの意。
*異い質ぜつ成じょうぜざるがゆゑに、 *原もとを捜さぐればすなはち冥みょう一なり。
原を… 本源をたずねれば一つに融合するという意。
*無む質ぜつ成じょうぜざるがゆゑに、 縁えん起ぎすればすなはち*万形まんぎょうなり」 と。
万形 種々雑多な形となってあらわれるという意。
是故¬浄土論¼云。「一質不↠成故浄穢有↢虧盈↡。異質不↠成故捜↠原則冥一。無質不↠成故縁起則万形。」
ゆゑに知しりぬ、 もし法ほっ性しょうの浄じょう土どによらばすなはち清濁しょうじゃくを論ろんぜず、 もし*報ほう化けの大だい悲ひによらばすなはち浄穢じょうえなきにあらず。 また汎ひろく仏ぶつ土どを明あかして機き感かんの不ふ同どうに対たいするに、 その三種しゅの差別しゃべつあり。
故知、若拠↢法性浄土↡則不↠論↢清濁↡、若拠↢報化大悲↡則非↠無↢浄穢↡也。又汎明↢仏土↡対↢機感不同↡、有↢其三種差別↡。
一には*真しんより報ほうを垂たるるを名なづけて報ほう土どとなす。 なほ日光にっこうの*四天てん下げを照てらすがごとし。 法身ほっしんは日ひのごとく、 報ほう化けは光ひかりのごとし。
一者従↠真垂↠報名為↢報土↡。猶如↣日光照↢四天下↡、法身如↠日報化如↠光。
二には*無而むに忽こつ有うなる、 これを名なづけて化けとなす。
無而忽有 無であってたちまち現れるという意。
二者無而忽有名↠之為↠化。
すなはち ¬*四分律ぶんりつ¼ (意) にのたまふがごとし。 「*定光じょうこう如来にょらい提だい婆ば城じょうを化けして、 抜提ばつだい城じょうとあひ近ちかくして、 ともに親婚しんこんをなして往来おうらいす。 後のちの時ときに忽然こつねんと火ひを化けして焼却しょうきゃくす。 もろもろの衆しゅ生じょうをしてこの無常むじょうを覩みしめて、 厭えんを生しょうじて仏道ぶつどうに帰き向こうせしめざるはなし」 と。
即如↢¬四分律¼云↡。「*錠光如来化↢提婆城↡与↢抜提城↡相近共為↢親婚↡往来。後時忽然化↠火焼却。令↣諸衆生覩↢此無常↡莫↠不↣生↠厭帰↢向仏道↡也。」
錠 天永年間刊本では 「定」。
このゆゑに ¬経きょう¼ (維摩経・意) にのたまはく、
「あるいは*劫こう火かの焼やきて、 天てん地ちみな*洞然どうねんたるを現げんじ、
洞然 すべて燃えつきるさま。
衆しゅ生じょうの*常想じょうそうあるものをして、 あきらかに無常むじょうを知しらしめ、
常想 無常であるものを常住と見誤る見解。
あるいは貧乏びんぼうを済すくはんがために、 現げんに*無む尽じん蔵そうを立たてて、
無尽蔵 尽きることのない財宝をおさめる蔵。
縁えんに随したがひて広ひろく開導かいどうして、 菩ぼ提だい心しんを発おこさしむ」 と。
是故¬経¼云。或現↢劫火焼天地皆洞然↡、衆生有↢常想↡照令↠知↢無常↡、或為↠済↢貧乏↡現立↢無尽蔵↡、随↠縁広開導令↠発↢菩提心↡。」
三には穢えを隠かくし浄じょうを顕あらわす。 ¬維ゆい摩ま経ぎょう¼ (意) のごとし。 「▲仏ぶつ、 足あしの指ゆびをもつて地じを按あんじたまふに、 *三千ぜんの刹せつ土ど厳浄ごんじょうならざるはなし」 と。
三者隠↠穢顕↠浄。如↢¬維摩経¼↡。「仏以↢足指↡按↠地三千刹土莫↠不↢厳浄↡。」
いまこの無む量りょう寿じゅ国こくは、 すなはちこれ*真しんより報ほうを垂たるる国くになり。 なにをもつてか知しることを得うる。 ¬*観音かんのん授じゅ記き経きょう¼ (意) によるにのたまはく、 「未み来らいに観音かんのん成仏じょうぶつして阿弥陀あみだ仏ぶつの処ところに替かわりたまふ」 と。 ゆゑに知しりぬ、 これ報ほうなり。
今此無量寿国即是従↠真垂↠報国也。何以得↠知、依↢¬観音授記経¼↡云。「未来観音成仏替↢阿弥陀仏処↡。」故知、是報也。
◎第一大門 ○凡聖通往
【8】 第だい八に弥陀みだの浄国じょうこくは位くらい上下じょうげを該かね、 *凡聖ぼんしょう通つうじて往ゆくことを明あかすとは、
第八明↧弥陀浄国位該↢上下↡凡聖通往↥者、
いまこの無む量りょう寿じゅ国こくはこれその*報ほうの浄じょう土どなり。 仏願ぶつがんによるがゆゑにすなはち上下じょうげを該通がいつうして、 凡ぼん夫ぶの善ぜんをして*ならびに往おう生じょうを得えしむることを致いたす。 上うえを該かぬるによるがゆゑに、 *天親てんじん・*龍樹りゅうじゅおよび上地じょうじの菩ぼ薩さつまたみな生しょうず。
報の浄土 報土のこと。
今此無量寿国是其報浄土。由↢仏願↡故、乃該↢通上下↡致↠令↣凡夫之善並得↢往生↡。由↠該↠上故天親・龍樹及上地菩薩亦皆生也。
このゆゑに ¬*大だい経きょう¼ (下・意) にのたまはく、 「▲弥み勒ろく菩ぼ薩さつ、 仏ぶつに問とひたてまつる。 ªいまだ知しらず、 この界さかいにいくばくの*不ふ退たいの菩ぼ薩さつありてか、 かの国くにに生しょうずることを得うるº と。 ▲仏ぶつのたまはく、 ªこの娑しゃ婆ば世せ界かいに六十七億おくの不ふ退たいの菩ぼ薩さつありて、 みなまさに往おう生じょうすべしº」 と。
是故¬大経¼云。「弥勒菩薩問↠仏。未↠知、此界有↢幾許不退菩薩↡得↠生↢彼国↡。仏言。此娑婆世界有↢六十七億不退菩薩↡皆当↢往生↡。」
もし広ひろく引ひかんと欲ほっせば、 余よ方ほうもみなしかなり。
若欲↢広引↡余方皆爾。
問とひていはく、 弥陀みだの浄国じょうこくすでに位くらい上下じょうげを該かね、 凡聖ぼんしょうを問とふことなくみな通つうじて往ゆくといはば、 いまだ知しらず、 ただ*無む相そうを修しゅして生しょうずることを得うや、 はた凡ぼん夫ぶの*有う相そうもまた生しょうずることを得うや。
無相 無相の善根ぜんごん。 すがたかたちを離れた真如しんんほ法ほっ性しょうの理にかなって修める善根。
有相 有相の善根。 具体的なすがたかたちをとる浄土の往生を願って修める善根。
問曰。弥陀浄国既云↧位該↢上下↡無↠問↢凡聖↡皆通往↥者、未↠知唯修↢無相↡得↠生、為当凡夫有相亦得↠生也。
答こたへていはく、 凡ぼん夫ぶは智ち浅あさくして多おおく相そうによりて求もとむるに、 決けっして往おう生じょうを得う。 しかるに*相善しょうぜんは力ちから微みなるをもつて、 ただ*相そう土どに生しょうじてただ*報ほう化けの仏ぶつを覩みる。
相土 有相の浄土。 すがたかたちのある浄土。 これに対して、 法性の浄土は無む色しき無形むぎょうである。
答曰。凡夫智浅多依↠相求決得↢往生↡。然以↢相善力微↡但生↢相土↡唯覩↢報化仏↡也。
このゆゑに ¬*観仏かんぶつ三昧ざんまい経きょう¼ の 「菩ぼ薩さつ本行ほんぎょう品ぼん」 (意) にのたまはく、 「*文殊もんじゅ師利しり、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ªまさに知しるべし、 われ過去かこ無む量りょう劫数こうしゅに凡ぼん夫ぶたりし時ときを念おもふに、 かの世よに仏ぶつましましき、 宝ほう威い徳とく上王じょうおう如来にょらいと名なづく。 かの仏ぶつ出いでたまひし時とき、 いまと異ことなることなし。 かの仏ぶつまた長たけ*丈じょう六、 身み紫し金こん色じきにして*三乗じょうの法ほうを説ときたまふこと*釈しゃ迦か文もんのごとし。 その時ときかの国くにに大だい長者ちょうじゃあり、 一切さい施せと名なづく。 長者ちょうじゃに子こあり、 名なづけて戒かい護ごといふ。 子こ母も胎たいにありし時とき、 母はは敬信きょうしんをもつてのゆゑにあらかじめその子このために*三帰依きえを受うく。 子こすでに生しょうじをはりて年とし八歳さいに至いたるに、 父母ぶも、 仏ぶつを家いえに請しょうじて供く養ようしたてまつる。 童どう子じ、 仏ぶつを見みたてまつりて、 仏ぶつのために礼らいをなす。 仏ぶつを敬うやまふ心しん重おもくして、 目めしばらくも捨すてず。 一たび仏ぶつを見みたてまつるがゆゑに、 すなはち百ひゃく万億まんおく*那由他なゆた*劫こうの生しょう死じの罪つみを除却じょきゃくすることを得う。 これより以後いごつねに浄じょう土どに生しょうじてすなはち百億ひゃくおく那由他なゆた*恒ごう河が沙しゃの仏ぶつに値ち遇ぐうしたてまつることを得えたり。 このもろもろの世せ尊そんまた*相好そうごうをもつて衆しゅ生じょうを*度ど脱だつしたまふ。 その時とき童どう子じ、 一々に親したしく侍つかへて、 あひだに空むなしく欠かくることなし。 礼拝らいはいし供く養ようし合掌がっしょうして仏ぶつを観みたてまつる。 因縁いんねん力りきをもつてのゆゑに、 また百万ひゃくまん*阿あ僧そう祇ぎの仏ぶつに値ち遇ぐうしたてまつることを得う。 かの諸仏しょぶつ等とうもまた*色身しきしん相好そうごうをもつて衆しゅ生じょうを*化度けどしたまふ。 これより以後いごすなはち百ひゃく千億せんおくの*念仏ねんぶつ三昧ざんまい門もんを得え、 また阿あ僧そう祇ぎの*陀羅尼だらに門もんを得えたり。 すでにこれを得えをはりて、 諸仏しょぶつ現前げんぜんしてすなはちために無む相そうの法ほうを説ときたまふ。 *須しゅ臾ゆのあひだに*首楞厳しゅりょうごん三昧ざんまいを得う。 時ときにかの童どう子じただ三帰きを受うけて一たび仏ぶつを礼らいするがゆゑに、 あきらかに仏身ぶっしんを観かんじて心しんに疲ひ厭えんなし。 この因縁いんねんによりて無む数しゅの仏ぶつに値あふ。 いかにいはんや念ねんを繋かけて具ぐ足そくし思し惟ゆいして仏ぶつの色身しきしんを観かんぜんをや。 時ときにかの童どう子じあに異人ことひとならんや。 これわが身みなりº と。 その時とき世せ尊そん、 文殊もんじゅを讃ほめてのたまはく、 ª善よきかな善よきかな、 なんぢ一たび仏ぶつを礼らいするをもつてのゆゑに、 無む数しゅの諸仏しょぶつに値あふことを得えたり。 いかにいはんや未み来らいのわがもろもろの弟子でし、 ねんごろに仏ぶつを観かんずるもの、 ねんごろに仏ぶつを念ねんずるものをやº と。 仏ぶつ、 *阿あ難なんに勅ちょくしたまはく、 ªなんぢ文殊もんじゅ師利しりの語ごを持もちて、 あまねく大衆だいしゅおよび未み来らい世せの衆しゅ生じょうに告つげよ。 もしはよく仏ぶつを礼らいするもの、 もしはよく仏ぶつを念ねんずるもの、 もしはよく仏ぶつを観かんずるものは、 まさに知しるべし、 この人ひとは文殊もんじゅ師利しりと等ひとしくして異ことなることあることなし。 捨身しゃしんして、 他世たせに、 文殊もんじゅ師利しり等とうのもろもろの菩ぼ薩さつ、 その和上わじょうとなるº」 と。
陀羅尼門 陀羅尼は梵語ダーラニー (dhāraņī) の音写。 総そう持じ、 能のう持じなどと漢訳する。 種々の善法を保持し、 悪法をおこさせない力のこと。 門は法門、 教えのこと。
是故¬観仏三昧経¼菩薩本行品云。「文殊師利白↠仏言。当↠知、我念↧過去無量劫数為↢凡夫↡時↥、彼世有↠仏、名↢宝威徳上王如来↡。彼仏出時与↠今無↠異。彼仏亦長丈六、身紫金色説↢三乗法↡如↢釈迦文↡。爾時彼国有↢大長者↡、名↢一切施↡。長者有↠子、名曰↢戒護↡。子在↢母胎↡時、母以↢敬信↡故預為↢其子↡受↢三帰依↡。子既生已年至↢八歳↡、父母請↠仏於↠家供養。童子見↠仏為↠仏作↠礼。敬↠仏心重目不↢暫捨↡。一見↠仏故即得↣除↢却百万億那由他劫生死之罪↡。従↠是以後常生↢浄土↡即得↣値↢遇百億那由他恒河沙仏↡。是諸世尊亦以↢相好↡度↢脱衆生↡。爾時童子一一親侍間無↢空欠↡。礼拝供養合掌観↠仏。以↢因縁力↡故復得↣値↢遇百万阿僧祇仏↡。彼諸仏等亦以↢色身相好↡化↢度衆生↡。従↠是以後即得↢百千億念仏三昧門↡、復得↢阿僧祇陀羅尼門↡。既得↠此已諸仏現前乃為説↢無相法↡。須臾之間得↢首楞厳三昧↡。時彼童子、但受↢三帰↡一礼↠仏故、諦観↢仏身↡心無↢疲厭↡。由↢此因縁↡値↢無数仏↡、何況繋↠念具足思惟観↢仏色身↡。時彼童子豈異人乎。是我身也。爾時世尊讃↢文殊↡言。善哉善哉、汝以↢一礼↟仏故得↠値↢無数諸仏↡。何況未来我諸弟子、懃観↠仏者、懃念↠仏者。仏勅↢阿難↡。汝持↢文殊師利語↡遍告↢大衆及未来世衆生↡。若能礼↠仏者、若能念↠仏者、若能観↠仏者、当↠知、此人与↢文殊師利↡等無↠有↠異。捨↠身他世文殊師利等諸菩薩為↢其和上↡。」
この文もんをもつて証しょうす。 ゆゑに知しりぬ、 浄じょう土どは相そう土どに該通がいつうせり、 往おう生じょうすること謬あやまらず。 もし*無む相そう離り念ねんを体たいとなすと知しりて、 しかも*縁えんのなかに往ゆくことを求もとむるものは、 多おおくは*上輩じょうはいの生しょうなるべし。
無相離念 無む色しき無形むぎょうの真如しんにょ法ほっ性しょうの理を観ずること。
縁のなかに… 浄土の具体的な荘厳しょうごん相そうを心に認めて往生を願う者。
以↢此文↡証。故知、浄土該↢通相土↡、往生不↠謬。若知↢無相離念為↟体、而縁中求往者多応↢上輩生↡也。
このゆゑに天親てんじん菩ぼ薩さつの ¬論ろん¼ (*論註・下意) にいはく、 「▲もしよく*二十九種しゅの荘厳しょうごん清浄しょうじょうを観かんずれば、 すなはち略りゃくして*一法句ぽっくに入る。 ▲一法句ぽっくとはいはく、 清浄しょうじょう句くなり。 清浄しょうじょう句くとはすなはちこれ智慧ちえ無為むい法身ほっしんなるがゆゑなり。 ▲なんがゆゑぞすべからく*広略こうりゃく相入そうにゅうすべきとならば、 ただ諸仏しょぶつ・菩ぼ薩さつに二種しゅの法身ほっしんまします。 一には*法ほっ性しょう法身ほっしん、 二には*方便ほうべん法身ほっしんなり。 法ほっ性しょう法身ほっしんによるがゆゑに方便ほうべん法身ほっしんを生しょうず。 方便ほうべん法身ほっしんによるがゆゑに法ほっ性しょう法身ほっしんを顕出けんしゅつす。 この*二種しゅの法身ほっしんは異いにして分わかつべからず。 一にして同どうずべからず。 このゆゑに広略こうりゃく相入そうにゅうす。 菩ぼ薩さつもし広略こうりゃく相入そうにゅうを知しらざれば、 すなはち自利じり利他りたすることあたはざるなり。 ▲無為むい法身ほっしんとはすなはち法ほっ性しょう身しんなり。 法ほっ性しょう寂じゃく滅めつなるがゆゑに、 すなはち法身ほっしんは無む相そうなり。 法身ほっしん無む相そうなるがゆゑに、 すなはちよく相そうならざるはなし。 このゆゑに相好そうごう荘厳しょうごんすなはちこれ法身ほっしんなり。 法身ほっしんは*無知むちなるがゆゑに、 すなはちよく知しらざるはなし。 このゆゑに*一切さい種智しゅちはすなはちこれ真実しんじつの智慧ちえなり。 ▲縁えんにつきて*総別そうべつ二句くを観かんずることを知しるといへども、 実相じっそうにあらざるはなし。 ▲実相じっそうを知しるをもつてのゆゑに、 すなはち三界がいの衆しゅ生じょうの虚こ妄もうの相そうを知しる。 三界がいの衆しゅ生じょうの虚こ妄もうを知しるをもつてのゆゑに、 すなはち真実しんじつの慈悲じひを起おこす。 真実しんじつの慈悲じひを知しるをもつてのゆゑに、 すなはち真実しんじつの帰依きえを起おこす」 と。
二十九種の荘厳清浄 天親てんじん菩薩の ¬浄土論¼ に説かれる国土十七種・仏八種・菩薩四種の二十九種の清浄しょうじょうなる荘厳相。
広略相入 広は浄土の二十九種荘厳、 略は一法句を指す。 真如法性の略から浄土荘厳の広が生起し、 また浄土荘厳の広により一法句の徳をあらわす。 広略が相互に摂入しょうにゅうするありさまを広略相入という。
無知 すべての因縁いんねんによって生じたものは実態がなく空くうであるから、 対象的に知ることもないという意。
総別 一いっ法ぽっ句くを総とし、 二十九種の荘厳しょうごん清浄しょうじょうを別という。
是故天親菩薩¬論¼云。「若能観↢二十九種荘厳清浄↡即略入↢一法句↡。一法句者謂清浄句。清浄句者即是智慧無為法身故。何故須↢広略相入↡者、但諸仏・菩薩有↢二種法身↡。一者法性法身、二者方便法身。由↢法性法身↡故生↢方便法身↡、由↢方便法身↡故顕↢出法性法身↡。此二種法身異而不↠可↠分、一而不↠可↠同。是故広略相入。菩薩若不↠知↢広略相入↡則不↠能↢自利利他↡。無為法身者即法性身也。法性寂滅故即法身無相也。法身無相故則能無↠不↠相。是故相好荘厳即是法身也。法身無知故則能無↠不↠知。是故一切種智即是真実智慧也。雖↠知↣就↠縁観↢総別二句↡莫↠非↢実相↡也。以↠知↢実相↡故即知↢三界衆生虚妄相↡也。以↠知↢三界衆生虚妄↡故即起↢真実慈悲↡也。以↠知↢真実慈悲↡故即起↢真実帰依↡也。」
いまの行者ぎょうじゃ*緇素しそを問とふことなく、 ただよく生しょう・無む生しょうを知しりて*二諦たいに違いせざるものは、 多おおく上輩じょうはいの生しょうに*落在らくざいすべし。
落在 おさめるの意。
今之行者無↠問↢緇素↡、但能知↢生・無生↡不↠違↢二諦↡者多応↣落↢在上輩生↡也。
◎第一大門 ○三界摂不
【9】 第だい九に弥陀みだの浄国じょうこくの*三界がいの摂しょうと不摂ふしょうとを明あかすとは、
三界の摂と不摂 迷いの境界であるところの三界におさまるか、 おさまらないか。 →
三界さんがい
第九明↣弥陀浄国三界摂与↢不摂↡。
問とひていはく、 安楽国あんらくこく土どは三界がいのなかにおいて、 いづれの界かいの所摂しょしょうぞ。
問曰。安楽国土於↢三界中↡何界所摂。
答こたへていはく、 浄じょう土どは勝妙しょうみょうにして体たい世せ間けんを出いでたり。 ▲この三界がいはすなはちこれ生しょう死じの凡ぼん夫ぶの闇宅あんたくなり。 また苦く楽らく少すこしき殊ことにし、 *修短しゅたん異ことなることありといへども、 すべてこれを観かんずるに*有漏うろの*長津じょうしんにあらざるはなし。 *倚い伏ぶく相乗そうじょうして循環じゅんかん無む際さいなり。 *雑生ざっしょうの触受そくじゅ、 *四倒とう長ながく溝かかはる。 かつは因いんかつは果か、 虚偽こぎ相習そうじゅうせり。 深ふかく厭いとふべし。 このゆゑに浄じょう土どは三界がいの摂しょうにあらず。
修短 長短。 ここでは寿命の長短のこと。
長津 長い渡し場。
雑生の触受 雑多な生を経て、 さまざまな苦にふれ、 その苦を受けること。
答曰。浄土勝妙体出↢世間↡。此三界者乃是生死凡夫之闇宅。雖↢復苦楽少殊、脩短有↟異、統如観↠之莫↠非↢有漏之長津↡。倚伏相乗循環無際。雑生触受四倒長溝、且因且果、虚偽相習。可↠厭也。是故浄土非↢三界摂↡。
また ¬智度ちど論ろん¼ (意) によるにいはく、 「浄じょう土どの果か報ほうは▲欲よくなきがゆゑに*欲界よくかいにあらず、 地居じこのゆゑに*色界しきかいにあらず、 形色ぎょうしきあるがゆゑに*無む色界しきかいにあらず、 地居じこといふといへども精勝しょうしょう妙絶みょうぜつなり」 と。
又依↢¬智度論¼↡云。「浄土果報無↠欲故非↢欲界↡、地居故非↢色界↡、有↢形色↡故非↢無色界↡、雖↠言↢地居↡精勝妙絶」。
このゆゑに天親てんじんの ¬論ろん¼ (*浄土論) にいはく、
「▲かの世せ界かいの相そうを観かんずるに、 三界がいの道どうに勝過しょうがせり。
究竟くきょうして虚こ空くうのごとく、 広大こうだいにして辺際へんざいなし」 と。
是故天親¬論¼云。「観↢彼世界相↡、勝↢過三界道↡、究竟如↢虚空↡、広大無↢辺際↡。」
このゆゑに ¬大だい経きょうの讃さん¼ にいはく (讃阿弥陀仏偈)、
「▲妙土みょうど広大こうだいにして*数限しゅげんを超こゆ。 自じ然ねんの*七宝ぽうをもつて合成ごうじょうするところなり。
数限を超ゆ 数量による限定を超えている。
仏ぶつの*本願ほんがん力りきより*荘厳しょうごん起おこる。 *清浄しょうじょう大だい摂受しょうじゅを*稽首けいしゅしたてまつる。
清浄大摂受 清浄で、 広く衆しゅ生じょうをおさめとる仏という意。
世せ界かい*光耀こうようすること妙たえにして殊絶しゅぜつす。 *適悦ちゃくえつ晏安えんあんとして*四時じなし。
適悦晏安 よろこびに満たされ、 おだやかに安らいでいるさま。
*自利じり*利他りたの力ちから円満えんまんしたまふ。 *方便ほうべん巧荘厳ぎょうしょうごんを帰き命みょうしたてまつる」 と。
方便巧荘厳 慈悲のてだてとしてのたくみな浄土の荘厳相。
是故¬大経讃¼云。「妙土広大超↢数限↡、自然七宝所↢合成↡、仏本願力荘厳起、稽↢首清浄大摂受↡。世界光耀妙殊絶、適悦晏安無↢四時↡、自利利他力円満、帰↢命方便巧荘厳↡。」
◎第二大門
【10】第だい二大門だいもんのなかに三番ばんの料簡りょうけんあり。 第だい一に*発ほつ菩ぼ提だい心しんを明あかし、 第だい二に異い見けん邪執じゃしゅうを破はし、 第だい三に広ひろく問答もんどうを施ほどこして、 疑情ぎじょうを*釈去しゃくこす。
第二大門中有↢三番料簡↡。第一明↢発菩提心↡、第二破↢異見邪執↡、第三広施↢問答↡釈↢去疑情↡。
◎第二大門 ○発菩提心
【11】初はじめの発ほつ菩ぼ提だい心しんにつきて、 うちに四番ばんあり。 一には菩ぼ提だい心しんの*功く用ゆうを出いだし、 二には菩ぼ提だいの名体みょうたいを出いだし、 三には*発心ほっしん異ことなることあることを顕あらわし、 四には問答もんどう解釈げしゃくす。
功用 作用。 はたらき。
就↢初発菩提心内↡有↢四番↡。一出↢菩提心功用↡、二出↢菩提名体↡、三顕↢発心有↟異、四問答解釈。
1. 菩提心功用
第だい一に菩ぼ提だい心しんの功く用ゆうを出いだすとは、 ▼*¬大だい経きょう¼ にのたまはく、 「▲おほよそ浄じょう土どに往おう生じょうせんと欲ほっせば、 かならずすべからく菩ぼ提だい心しんを発おこすを源みなもととなすべし」 と。
大経にのたまはく… ここでは ¬大経¼ 三輩さんぱい段の意を ¬論註¼ (下) の文によって示されている。
第一出↢菩提心功用↡者、¬大経¼云。「凡欲↣往↢生浄土↡要須↢発菩提心↡為↠源。」
▼いかんとなれば、 「*菩ぼ提だい」 といふはすなはちこれ*無上むじょう仏道ぶつどうの名ななり。 もし心しんを発おこし仏ぶつに作ならんと欲ほっすれば、 ▼この心しん広大こうだいにして*法界ほうかいに遍周へんしゅうせり。 この心しん究竟くきょうして等ひとしきこと虚こ空くうのごとし。 この心しん長遠じょうおんにして未み来らい際さいを尽つくす。 この心しんあまねくつぶさに*二乗じょうの障さわりを離はなる。 もしよく一たびこの心しんを発おこせば、 無始むし生しょう死じの*有う輪りんを傾かたむく。 あらゆる功く徳どくを菩ぼ提だいに回え向こうすれば、 みなよく遠とおく仏ぶっ果かに詣いたるまで失滅しつめつあることなし。 たとへば華はなを*五浄じょうに寄よすれば風日ふうにちにも萎しぼまず、 水みずを*霊河りょうがに附ふすれば*世せ旱かんにも竭つくることなきがごとし。
無上仏道 この上ない仏のさとり。
有輪 有は
三有さんぬ (三界) のこと。 迷いの世界である三界を回転してきわまるところのない車輪に喩えていう。 →
三界さんがい
五浄 五ご浄居じょうご天てんのこと。 色しき界かい十八天の最上に位置する色しき究竟くきょう天てん・善見ぜんけん天てん・善現ぜんげん天てん・無む熱ねつ天てん・無む煩ぼん天てんを五浄居天という。
霊河 竜のすむ河。
世旱 世のひでり。
云何菩提者乃是無上仏道之名也。若欲↢発心作仏↡者、此心広大徧↢周法界↡、此心究竟等若↢虚空↡、此心長遠尽↢未来際↡、此心暜備離↢二乗障↡。若能一発↢此心↡、傾↢無始生死有淪↡。所有功徳迴↢向菩提↡、皆能遠詣↢仏果↡無↠有↢失滅↡。譬如↧寄↢花五浄↡風日不↠萎、附↢水霊河↡世旱無↞竭。
2. 菩提名体
第だい二に菩ぼ提だいの名体みょうたいを出いだすとは、 しかるに菩ぼ提だいに三種しゅあり。 一には↓法身ほっしんの菩ぼ提だい、 二には↓報身ほうじんの菩ぼ提だい、 三には↓化け身しんの菩ぼ提だいなり。
第二出↢菩提名体↡者、然菩提有↢三種↡。一者法身菩提、二者報身菩提、三者化身菩提也。
↑*法身ほっしんの菩ぼ提だいといふは、 いはゆる*真如しんにょ*実相じっそう*第だい一義ぎ空くうなり。 *自性じしょう清浄しょうじょうにして、 体たい*穢え染ぜんなし。 理り、 *天真てんしんに出いでて*修成しゅじょうを仮からざるを名なづけて法身ほっしんとなす。 仏道ぶつどうの体本たいほんを名なづけて菩ぼ提だいといふ。
自性 本来の性。
穢染 煩悩ぼんのうのけがれ。
修成を仮らざる 修行によって成じたものではないという意。
言↢法身菩提↡者、所謂真如実相第一義空。自性清浄体無↢穢染↡。理出↢天真↡不↠仮↢修成↡名為↢法身↡。仏道体本名曰↢菩提↡。
↑*報身ほうじんの菩ぼ提だいといふは、 つぶさに万行まんぎょうを修しゅしてよく報仏ほうぶつの果かを感かんず。 果かの因いんに酬むくゆるをもつて名なづけて報身ほうじんといふ。 *円通えんずう無礙むげなるを名なづけて菩ぼ提だいといふ。
円通無礙 円まどかなさとりに通達して、 なにものにもさまたげられないこと。
言↢報身菩提↡者、備修↢万行↡能感↢報仏之果↡。以↢果酬↟因名曰↢報身↡。円通無礙名曰↢菩提↡。
↑*化け身しんの菩ぼ提だいといふは、 いはく、 報ほうより*用ゆうを起おこして、 よく*万まん機きに趣おもむくを名なづけて化け身しんとなす。 *益物やくもつ円通えんずうするを名なづけて菩ぼ提だいといふ。
用 (衆しゅ生じょうを利り益やくする) はたらき。
万機に趣く すべての根こん機き (素質能力) に対応する。
益物円通する 物は衆生の意。 衆生を利益することが自由自在であること。
言↢化身菩提↡者、謂従↠報起↠用能趣↢万機↡名為↢化身↡。益物円通名曰↢菩提↡。
3. 発心有異
第だい三に発心ほっしんに異ことなることあることを顕あらわすとは、 いまいはく、 行者ぎょうじゃ因いんを修しゅし心しんを発おこすにその三種しゅを具ぐせり。 一には、 かならずすべからく有無うむもとよりこのかた自性じしょう清浄しょうじょうなりと識達しきだつすべし。 二には、 万行まんぎょうを縁修えんしゅす。 八万まん四千せんの諸しょ*波羅はら蜜みつ門もん等とうなり。 三には、 大だい慈悲じひを本ほんとなしてつねに*運うん度どせんと擬ぎするを懐かいとなす。 この三因いんはよく大だい菩ぼ提だいと相応そうおうす。 ゆゑに発ほつ菩ぼ提だい心しんと名なづく。
運度 衆生をさとりの世界に導きわたすこと。
第三顕↢発心有↟異者、今謂行者修↠因発↠心具↢其三種↡。一者要須↣識↢達有無従↠本已来自性清浄↡。二者縁↢修万行↡、八万四千諸波羅蜜門等。三者大慈悲為↠本恒擬↢運度↡為↠懐。此之三因能与↢大菩提↡相応。故名↢発菩提心↡。
また ¬浄じょう土ど論ろん¼ (*論註・下意) によるにいはく、 「▲いま発ほつ菩ぼ提だい心しんといふは、 まさしくこれ願がん作さ仏ぶつ心しんなり。 願がん作さ仏ぶつ心しんとは、 すなはちこれ度ど衆しゅ生じょう心しんなり。 度ど衆しゅ生じょう心しんとは、 すなはち衆しゅ生じょうを*摂取せっしゅして有う仏ぶつの国こく土どに生しょうぜしむる心しんなり。 いますでに浄じょう土どに生しょうぜんと願がんず。 ゆゑに先まづすべからく菩ぼ提だい心しんを発おこすべし」 と。
又拠↢¬浄土論¼↡云。「今言↢発菩提心↡者、即是願作仏心。願作仏心者、即是度衆生心。度衆生心者、即摂↢取衆生↡生↢有仏国土↡心。今既願↠生↢浄土↡。故先須↠発↢菩提心↡也。」
4. 問答解釈
第だい四に問答もんどう解釈げしゃくすとは、
第四問答解釈者、
問とひていはく、 もしつぶさに万行まんぎょうを修しゅしてよく菩ぼ提だいを感かんじ成仏じょうぶつを得うといはば、 なんがゆゑぞ ¬*諸法しょほう無行むぎょう経きょう¼ に、
「もし人ひと菩ぼ提だいを求もとめば、 すなはち菩ぼ提だいあることなし。
この人ひと菩ぼ提だいを遠とおざかること、 なほ天てんと地ちとのごとし」
とのたまへるや。
問曰。若備修↢万行↡能感↢菩提↡得↢成仏↡者、何故¬諸法無行経¼云↧「若人求↢菩提↡即無↠有↢菩提↡。是人遠↢菩提↡猶如↦天与↞地。」
答こたへていはく、 菩ぼ提だいの正体しょうたいは、 理り求もとむるに*無む相そうなり。 いま相そうをなして求もとむ。 理り実じつに当あたらず。 ゆゑに人ひと遠とおざかると名なづく。
答曰。菩提正体理求無相。今作↠相求、不↠当↢理実↡。故名↢人遠↡也。
このゆゑに*経きょうにのたまはく、 「菩ぼ提だいは心しんをもつて得うべからず、 身しんをもつて得うべからず」 と。
経にのたまはく… 引用の文は ¬維摩経ゆいまぎょう¼ ¬大集だいじつ経きょう¼ の両経にみられる。
是故¬経¼言。「菩提者不↠可↢以↠心得↡、不↠可↢以↠身得↡也。」
いまいはく、 行者ぎょうじゃ修行しゅぎょうして往ゆきて求もとむるを知しるといへども、 *了々りょうりょうに理り体たい求もとむることなきことを識しき知ちして、 なほ*仮名けみょうを壊えせず。 このゆゑにつぶさに万行まんぎょうを修しゅす。 ゆゑによく感かんず。
仮名 因縁いんねんによって仮に生じた現象世界のありさま。
今謂行者雖↠知↢修行往求↡、了了識↢知理体無↟求、仍不↠壊↢仮名↡。是故備修↢万行↡、故能感也。
このゆゑに*¬大だい智度ちど論ろん¼ にいはく、
大智度論にいはく… 引用は ¬略論りゃくろん安楽あんらく浄じょう土ど義ぎ¼ に引く ¬大だい智度ちど論ろん¼ (龍樹りゅうじゅ菩薩造) 取意の文。
「もし人ひと*般若はんにゃを見みるも、 これすなはち縛ばくせられたりとなす。
もし般若はんにゃを見みざるも、 これまた縛ばくせられたりとなす。
もし人ひと般若はんにゃを見みるも、 これすなはち*解げ脱だつとなす。
もし般若はんにゃを見みざるも、 これまた解げ脱だつとなす」 と。
是故¬大智度論¼云。「若人見↢般若↡是則為↠被↠縛。若不↠見↢般若↡是亦為↠被↠縛。若人見↢般若↡是則為↢解脱↡。若不↠見↢般若↡是亦為↢解脱↡。」
*龍樹りゅうじゅ菩ぼ薩さつの釈しゃくにいはく、 「このなかに*四句くを離はなれざるを*縛ばくとなし、 四句くを離はなるるを*解げとなす」 と。
龍樹菩薩の釈にいはく… 引用は ¬略論りゃくろん安楽あんらく浄じょう土ど義ぎ¼ に引く ¬大だい智度ちど論ろん¼ (龍樹りゅうじゅ菩薩造) 取意の文。
四句 四句分別のこと。 存在に関する四種の考察。 「有・無・または有または無・有にあらず無にあらず」 をいう。
龍樹菩薩¬釈¼曰。「是中不↠離↢四句↡者為↠縛、離↢四句↡者為↠解。」
いま菩ぼ提だいを体さとるに、 ただよくかくのごとく修行しゅぎょうすれば、 すなはちこれ不行ふぎょうにして行ぎょうなり。 不行ふぎょうにして行ぎょうなれば、 *二諦たいの大道だいどう理りに違いせず。
今*祈↢菩提↡但能如↠此修行即是不行而行。不行而行者不↠違↢二諦大道理↡也。
祈 天永三年写本、 正平二年写本では 体。 なお、 「祈菩提」 は 「菩提を祈もとめて」 と読む。
また天親てんじんの ¬浄じょう土ど論ろん¼ (*論註・下意) によるにいはく、 「おほよそ*発心ほっしんして無上むじょう菩ぼ提だいに会えせんと欲ほっせば、 その二義ぎあり。 ▲一には、 先まづすべからく三種しゅの菩ぼ提だい門もんと相そう違いする法ほうを離はなるべし。 二には、 すべからく三種しゅの菩ぼ提だい門もんに順じゅんずる法ほうを知しるべし。 なんらをか三となす。 ▲一には智慧ちえ門もんによりて自じ楽らくを求もとめず。 我が心しんをもつて自じ身しんに*貪着とんじゃくすることを遠おん離りするがゆゑなり。 ▲二には慈悲じひ門もんによりて一切さい衆しゅ生じょうの苦くを抜ぬく。 衆しゅ生じょうを安やすんずることなき心しんを遠おん離りするがゆゑなり。 ▲三には方便ほうべん門もんによりて一切さい衆しゅ生じょうを憐愍れんみんする心しんなり。 自じ身しんを*恭敬くぎょうし供く養ようする心しんを遠おん離りするがゆゑなり。 ▲これを三種しゅの菩ぼ提だい門もん相そう違いの法ほうを遠おん離りすと名なづく。 ▲菩ぼ提だい門もんに順じゅんずるとは、 菩ぼ薩さつはかくのごとき三種しゅの菩ぼ提だい門もん相そう違いの法ほうを遠おん離りして、 すなはち三種しゅの菩ぼ提だい門もんに随順ずいじゅんする法ほうを得う。 なんらをか三となす。 ▲一には無む染ぜん清浄しょうじょう心しんなり。 自じ身しんのために諸楽しょらくを求もとめざるがゆゑなり。 菩ぼ提だいはこれ無む染ぜん清浄しょうじょうの処ところなり。 もし自じ身しんのために楽らくを求もとむれば、 すなはち菩ぼ提だい門もんに違いせり。 このゆゑに無む染ぜん清浄しょうじょう心しんはこれ菩ぼ提だい門もんに順じゅんずるなり。 ▲二には安あん清浄しょうじょう心しんなり。 一切さい衆しゅ生じょうの苦くを抜ぬかんがためのゆゑなり。 菩ぼ提だいは一切さい衆しゅ生じょうを安穏あんのんにする清浄しょうじょう処しょなり。 もし心しんをなして、 一切さい衆しゅ生じょうを抜ぬきて生しょう死じの苦くを離はなれしめざれば、 すなはち菩ぼ提だいに違いす。 このゆゑに一切さい衆しゅ生じょうの苦くを抜ぬくはこれ菩ぼ提だい門もんに順じゅんずるなり。 ▲三には楽らく清浄しょうじょう心なり。 一切さい衆しゅ生じょうをして大だい菩ぼ提だいを得えしめんと欲ほっするがゆゑなり。 衆しゅ生じょうを*摂取せっしゅしてかの国こく土どに生しょうぜしむるがゆゑなり。 ▲菩ぼ提だいはこれ*畢竟ひっきょう常楽じょうらくの処ところなり。 もし一切さい衆しゅ生じょうをして畢竟ひっきょう常楽じょうらくを得えしめざれば、 すなはち菩ぼ提だい門もんに違いす。 この畢竟ひっきょう常楽じょうらくはなにによりてか得うる。 かならず大だい義ぎ門もんによる。 大だい義ぎ門もんといふは、 いはく、 かの安楽あんらく仏国ぶっこくこれなり。 ゆゑに一心しんに専せん至ししてかの国くにに生しょうぜんと願がんぜしむ。 早はやく*無上むじょう菩ぼ提だいに会えせしめんと欲ほっすればなり」 と。
畢竟常楽の処 究極的な常住安楽の境地。
又依↢天親¬浄土論¼云。「凡欲↣発心会↢無上菩提↡者有↢其二義↡。一者先須↠離↧三種与↢菩提門↡相違法↥、二者須↠知↧三種順↢菩提門↡法↥。何等為↠三。一者依↢智慧門↡不↠求↢自楽↡、遠↣離我心貪↢着自身↡故。二者依↢慈悲門↡抜↢一切衆生苦↡、遠↢離無安衆生心↡故。三者依↢方便門↡憐↢愍一切衆生↡、心遠↧離恭↢敬供↣養自身↡心↥故。是名↣遠↢離三種菩提門相違法↡。順菩提門者、菩薩遠↢離如↠是三種菩提門相違法↡、即得↢三種随順菩提門法↡。何等為↠三。一者無染清浄心。不↧為↢自身↡求↦諸楽↥故。菩提是無染清浄処。若為↢自身↡求↠楽即違↢菩提門↡。是故無染清浄心是順↢菩提↡門。二者安清浄心。為↠抜↢一切衆生苦↡故。菩提安↢隠一切衆生↡清浄処。若不↧作↠心抜↢一切衆生↡離↦生死苦↥即便違↢菩提↡。是故抜↢一切衆生苦↡是順菩提門。三者楽清浄心。欲↠令↣一切衆生得↢大菩提↡故、摂↢取衆生↡生↢彼国土↡故。菩提是畢竟常楽処。若不↠令↣一切衆生得↢畢竟常楽↡者則違↢菩提↡門。此畢竟常楽依↠何而得。要依↢大義門↡。大義門者、謂彼安楽仏国是也。故令↢一心専至願↟生↢彼国↡、欲↠使↣早会↢無上菩提↡也。」
◎第二大門 ○破異見邪執
【12】第だい二に異い見けん邪執じゃしゅうを破はすることを明あかすとは、 なかにつきてその九番ばんあり。 第だい一には大乗だいじょうの無む相そうを妄もう計けする異い見けん偏執へんじゅうを破はす。 第だい二には菩ぼ薩さつの*愛見あいけんの大だい悲ひを*会え通つうす。 第だい三には心しん外げに法ほうなしと繋けいするを破はす。 第だい四には*穢え国こくに生しょうぜんと願がんじて、 浄じょう土どに往おう生じょうせんと願がんぜざるを破はす。 第だい五にはもし浄じょう土どに生しょうずれば、 多おおく喜よろこびて楽らくに着じゃくすといふを破はす。 第だい六には浄じょう土どに生しょうぜんと求もとむるは非ひなり、 これ小乗しょうじょうなりといふを破はす。 第だい七には*兜と率そつに生しょうぜんと求もとめて、 浄じょう土どに帰きせざれと勧すすむるを破はす。 第だい八にはもし十方ぽうの浄じょう土どに生しょうぜんと求もとめんよりは、 西にしに帰きするにしかずといふを会え通つうす。 第だい九には*別べつ時意じいを*料簡りょうけんす。
愛見の大悲 愛着の心からおこす慈悲。
第二明↠破↢異見邪執↡者、就↠中有↢其九番↡。第一破↧妄計↢大乗無相↡異見偏執↥。第二会↢通菩薩愛見大悲↡。第三破↠繋↢心外無法↡。第四破↧願↠生↢穢国↡不↞願↣往↢生浄土↡。第五破↧若生↢浄土↡多喜著↞楽。第六破↧求↠生↢浄土↡非、是小乗↥。第七破↧求↠生↢兜率↡勧↞不↠帰↢浄土↡。第八会↧通若求↠生↢十方浄土↡不↞如↠帰↠西。第九料↢簡別時之意↡。
1. 破無相妄執
【13】第だい一に大乗だいじょう無む相そうの妄執もうしゅうを破はすとは、 なかにつきて二あり。 一には*総そう生起しょうきなり。 後代こうだいの学者がくしゃをしてあきらかに是非ぜひを識しりて邪じゃを去さり正せいに向むかはしめんと欲ほっす。 第だい二には広ひろく*繋情けじょうにつきて正しょうを顕あらわしてこれを破はす。
総生起 九番の異見邪執を破する由縁。
繋情 誤った見解。
第一破↢大乗無相妄執↡者、就↠中有↠二。一総生起。欲↠令↧後代学者明識↢是非↡去↠邪向↞正。第二広就↢繋情↡顕↠正破↠之。
一に総そう生起しょうきとは、 しかるに大乗だいじょうの深蔵じんぞうは*名義みょうぎ塵沙じんしゃなり。 このゆゑに ¬涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にのたまはく、 「一名みょうに無む量りょうの義ぎあり、 一義ぎに無む量りょうの名なあり」 と。 かならずすべからくあまねく*衆典しゅてんを審つまびらかにして、 まさに*部旨ぶしを暁あきらむべし。 小乗しょうじょうと俗書ぞくしょとの文もんを案あんじて義ぎを畢おわるがごときにあらず。 なんの意いかすべからくしかるべき。 ただ*浄じょう土どは幽廓ゆうかくにして経論きょうろん*隠顕おんけんす。 凡情ぼんじょうをして種々しゅじゅに*図ず度だくせしむることを致いたす。 おそらくは*諂てん語ご刁々ちょうちょうに渉わたりて、 *百盲ひゃくもう偏執へんじゅうし雑乱ぞうらん無知むちにして往おう生じょうを*妨ぼう礙げすることを。 いましばらく少状しょうじょうを挙あげて一々これを破はせん。
名義塵沙 名 (名称) と義 (名にあらわされる意味) が無量であること。
衆典 数多くの経典。
部旨 真意。
浄土 ここでは往生浄土の教えの意。
隠顕 意味が文の表面に顕れていたり、 隠れていたりすること。
図度 推量すること。
諂語刁々 諂語はいつわりの言葉。 刁々はふらふらと動揺するさま。
妨礙 さまたげること。
一総生起者、然大乗蔵名義塵沙。是故¬涅槃経¼云。「一名無量義、一義無量名。」要須↧徧審↢衆典↡方暁↦部旨↥。非↠如↢小乗俗書案↠文畢↟義。何意須↠然。但浄土幽廓経論隠顕。致↠令↢凡情種種図度↡。恐渉↢謟語刁刁↡百盲偏執雑乱無知妨↢礙往生↡。今且挙↢少状↡一一破↠之。
第だい一に大乗だいじょうの無む相そうを妄もう計けするを破はすとは、
第一破↣妄↢計大乗無相↡者、
問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「大乗だいじょうは無む相そうなり、 彼此ひしを念ねんずることなかれ。 もし浄じょう土どに生しょうぜんと願がんずれば、 すなはちこれ*取相しゅそうなり、 *うたた*縛ばくを増ます。 なにをもつてかこれを求もとむる」 と。
取相 彼此ひし差別の相にとらわれること。
問曰。或有↠人言、大乗無相勿↠念↢彼此↡。若願↠生↢浄土↡便是取相、転増↢*漏縛↡。何用求↠之。
漏 天永三年写本では 「偏」、 正平二年写本では脱落。
答こたへていはく、 かくのごとき*計けいはまさに謂おもふにしからず。 なんとなれば、 一切さい諸仏しょぶつの説法せっぽうはかならず二縁えんを具ぐす。 一には法ほっ性しょうの実じつ理りによる。 二にはすべからくその二諦たいに順じゅんずべし。 かれは、 大乗だいじょうは無む念ねんなり、 ただ法ほっ性しょうによると計けいして、 しかも*縁えん求ぐを謗そしり無なみす。 すなはちこれ二諦たいに順じゅんぜず。 かくのごとき見けんは、 *滅空めっくうの所収しょしゅうに堕だす。
計 見解。 考え。
縁求 因縁いんねん生しょうの立場で往生浄土を願い求めること。
滅空の所収 一切のものには実体がないという空くうの道理を偏ってとらえてしまうこと。
答曰。如↠此計者将謂不↠然。何者一切諸仏説法要具↢二縁↡。一依↢法性実理↡、二須↠順↢其二諦↡。彼計↣大乗無念但依↢法性↡然謗↢無縁求↡。即是不↠順↢二諦↡。如↠此見者堕↢滅空所収↡。
このゆゑに ¬*無上むじょう依え経きょう¼ (意) にのたまはく、 「仏ぶつ、 阿あ難なんに告つげたまはく、 ª▼一切さいの衆しゅ生じょうもし*我が見けんを起おこすこと*須しゅ弥み山せんのごとくならんも、 われ懼おそれざるところなり。 なにをもつてのゆゑに。 この人ひとはいまだすなはち出しゅつ離りを得えずといへども、 つねに因いん果がを壊えせず、 果か報ほうを失うしなはざるがゆゑなり。 もし*空見くうけんを起おこすこと芥子けしのごとくなるも、 われすなはち許ゆるさず。 なにをもつてのゆゑに。 この見けんは因いん果がを破やぶり喪うしなひて多おおく悪道あくどうに堕だす。 未み来らいの生処しょうじょかならずわが化けに背そむくº」 と。
是故¬無上依経¼云。「仏告↢阿難↡。一切衆生若起↢我見↡如↢須弥山↡、我所↠不↠懼。何以故、此人雖↠未↣即得↢出離↡、常不↠壊↢因果↡、不↠失↢果報↡故。若起↢空見↡如↢芥子↡我即不↠許。何以故。此見者破↢喪因果↡多堕↢悪道↡。未来生処必背↢我化↡。」
いま行者ぎょうじゃに勧すすむ。 理り、 *無む生しょうなりといへども、 しかも二諦たいの道どう理り縁えん求ぐなきにあらざれば、 一切さい往おう生じょうを得う。
今勧↢行者↡、理雖↢無生↡然二諦道理非↠無↢縁求↡、一切得↢往生↡也。
このゆゑに ¬*維ゆい摩ま経ぎょう¼ (意) にのたまはく、
「▼諸仏しょぶつの国くにとおよび衆しゅ生じょうとは、 空くうなりと観かんずといへども、
しかもつねに浄じょう土どを修しゅして、 もろもろの*群生ぐんじょうを教化きょうけす」 と。
是故¬維摩経¼云。「雖↠観↧諸仏国及与↢衆生↡空↥、而常修↢浄土↡教↢化諸羣生↡。」
またかの ¬経きょう¼ (維摩経) にのたまはく、 「*無作むさを行ぎょうずといへども*受身じゅしんを現げんず。 これ菩ぼ薩さつの行ぎょうなり。 *無起むきを行ぎょうずといへども、 一切さいの善行ぜんぎょうを起おこす。 これ菩ぼ薩さつの行ぎょうなり」 と。 これその真証しんしょうなり。
無作を行ず 一切諸法は本来空くうであり、 はたらきはないと観ずること。
受身を現ず 衆生済度のために生死の身を受けること。
無起を行ず 一切諸法は本来空であり、 生起することがないと観ずること。
又彼¬経¼云。「雖↠行↢無作↡而現↢受身↡。是菩薩行。雖↠行↢無起↡而起↢一切善行↡。是菩薩行。」是其真証也。
問とひていはく、 いま世せ間けんに人ひとありて、 大乗だいじょうの*無む相そうを行ぎょうじてまた彼此ひしを存ぞんぜず、 まつたく戒相かいそうを護まもらず。 この事じいかん。
無相を行じ 一切諸法に彼ひ此し差別の相をみないこと。
問曰。今世間有↠人、行↢大乗無相↡亦不↠存↢彼此↡。全不↠護↢戒相↡。是事云何。
答こたへていはく、 かくのごとき計けいは害がいをなすことますますはなはだし。 なんとなれば、 ¬*大だい方等ほうどう経きょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「仏ぶつ、 *優婆うば塞そくのために戒かいを制せいす。 ª寡婦かふ・処女しょにょの家いえ、 *沽こ酒しゅ家け・藍染らんぜん家け・押おう油ゆ家け・熟皮じゅくひ家けに至いたることを得えざれ、 ことごとく往来おうらいすることを得えざれº と。 阿あ難なん、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ª世せ尊そん、 なんらの人ひとのためにか、 かくのごとき戒かいを制せいしたまふº と。 仏ぶつ、 阿あ難なんに告つげたまはく、 ª行者ぎょうじゃに二種しゅあり。 一には*在ざい世せ人にんの行ぎょう、 二には出しゅっ世せ人にんの行ぎょうなり。 出しゅっ世せ人にんには、 われ上かみの事じを制せいせず。 在ざい世せ人にんには、 われいまこれを制せいす。 なにをもつてのゆゑに。 一切さい衆しゅ生じょうはことごとくこれわが子こなり。 仏ぶつはこれ一切さい衆しゅ生じょうの父母ぶもなり。 *遮制しゃせい約勒やくろくすれば、 早はやく世せ間けんを出いでて涅ね槃はんを得うるがゆゑなりº」 と。
沽酒家… 沽酒家は酒の販売を職業とする者。 藍染家は染物を職業とする者。 押油家は製油を職業とする者。 熟皮家は皮革加工を職業とする者。 →
補註8
在世人 在俗の人。
遮制約勒 悪をさえぎりとどめるべく誡めること。
答曰。如↠此計者為↠害滋甚。何者如↢¬大方等経¼云↡。「仏為↢優婆塞↡制↠戒、不↠得↠至↢寡婦・処女家↡。沽酒家・藍染家・押油家・熟皮家、悉不↠得↢往来↡。阿難白↠仏言。世尊、為↢何等人↡制↢如↠斯戒↡。仏告↢阿難↡。行者有↢二種↡。一者在世人行、二者出世人行。出世人者吾不↠制↢上事↡。在世人者吾今制↠之。何以故。一切衆生悉是吾子。仏是一切衆生父母。遮制約勒早出↢世間↡得↢涅槃↡故。」
2. 会通愛見大悲
【14】第だい二に菩ぼ薩さつの*愛見あいけんの大だい悲ひを*会え通つうすとは、
愛見の大悲 愛着の心からおこす慈悲。
第二会↢通菩薩愛見大悲↡者、
問とひていはく、 大乗だいじょうの聖教しょうぎょうによるに、 「菩ぼ薩さつもろもろの衆しゅ生じょうにおいて、 もし愛見あいけんの大だい悲ひを起おこさばすなはち捨しゃ離りすべし」 と。 いま衆しゅ生じょうを勧すすめてともに浄じょう土どに生しょうぜしむるは、 あに*愛染あいぜん取相しゅそうにあらずや。 いかんぞその*塵累じんるいを勉まぬかれんや。
愛染取相 分別にとらわれた愛着の心。
塵累 煩悩ぼんのう (塵) に束縛された迷いの境界。
問曰。依↢大乗聖教↡、菩薩於↢諸衆生↡、若起↢愛見大悲↡即応↢捨離↡。今勧↢衆生↡共生↢浄土↡、豈非↢愛染取相↡、若為*免↢其塵累↡也。
免 正平二年写本・大派依用本では 「勉」。
答こたへていはく、 菩ぼ薩さつの行法ぎょうほう*功く用ゆうに二あり。 なんとなれば、 一には*空くう慧え般若はんにゃを証さとる。 二には大だい悲ひを具ぐす。 一には空くう慧え般若はんにゃを修しゅする力ちからをもつてのゆゑに、 六道どう生しょう死じに入いるといへども、 *塵染じんぜんのために繋つながれず。 二には大だい悲ひをもつて衆しゅ生じょうを念ねんずるがゆゑに涅ね槃はんに住じゅうせず。 菩ぼ薩さつ、 *二諦たいに処しょすといへども、 つねによく妙みょうに有無うむを捨すて、 取捨しゅしゃ、 *中ちゅうを得えて大道だいどう理りに違いせず。
空慧般若 一切のものには実体がないという
空くうの道理をさとる般若の
智慧ちえ。 →
般はん若にゃ
塵染 煩悩 (塵) に染っていること。
中 中道。 両極端を離れた正しいありかた。
答曰。菩薩行法功用有↠二。何者、一証↢空慧般若↡、二具↢大悲↡。一以↧修↢空慧般若↡力↥故、雖↠入↢六道生死↡不↧為↢塵染↡所↞繋。二以↢大悲↡念↢衆生↡故、不↠住↢涅槃↡。菩薩雖↠処↢二諦↡、常能妙捨↢有無↡、取捨得↠中不↠違↢大道理↡也。
このゆゑに ¬維ゆい摩ま経ぎょう¼ にのたまはく、 「たとへば人ひとありて空くう地じにおいて宮く舎しゃを造立ぞうりゅうせんと欲ほっせば、 意こころに随したがひて礙さわりなきも、 もし虚こ空くうにおいてはつひに成じょうずることあたはざるがごとし。 菩ぼ薩さつもまたかくのごとし。 *衆しゅ生じょうを成就じょうじゅせんと欲ほっするがためのゆゑに仏国ぶっこくを取とらんと願がんず。 仏国ぶっこくを取とらんと願がんずるは、 空くうにおいてするにはあらず」 と。
衆生を成就せん 衆生にさとりを得させる。
是故¬維摩経¼云。「譬如↩有↠人欲↧於↢空地↡造↦立宮舎↥随↠意無↠礙、若於↢虚空↡終不↝能↠成。菩薩亦如↠是。為↠欲↣成↢就衆生↡故願↠取↢仏国↡。願↠取↢仏国↡者非↠於↠空也。」
3. 破繋心外無法
【15】第だい三に心しん外げに法ほうなしと繋けいするを破はすとは、
第三破↠繋↢心外無法↡者、
なかにつきて二あり。 一には計情けじょうを破はし、 二には問答もんどう解釈げしゃくす。
就↠中有↠二。一破↢計情↡、二問答解釈。
問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「*所観しょかんの浄境じょうきょうは内心ないしんに約就やくじゅすれば浄じょう土ど融通ゆうずうす。 心しん浄きよければすなはち是ぜなり。 心しん外げに法ほうなし。 なんぞ西にしに入いるを須もちゐんや」 と。
所観の浄境は… 観察かんざつの対象である浄土の環境は、 心におさまっているので浄土とこころは一つにとけあっている。
問曰。或有↠人言、所観浄境約↢就内心↡浄土融通。心浄即是、心外無↠法、何須↢西入↡。
答こたへていはく、 ただ法ほっ性しょうの浄じょう土どは、 理り、 *虚こ融ゆうに処しょし、 体たい、 *偏局へんごくなし。 ▽これすなはち無む生しょうの生しょうにして、 *上士じょうしのみ入いるに堪たへたり。
虚融に処し 無む色しき無形むぎょうであらゆる限定を超えているという意。
偏局なし 法界ほうかいに周遍していて、 十方のうちの一方にかたよるようなことがないという意。
上士 すぐれた聖者。
答曰。但法性浄土理処↢虚融↡、体無↢偏局↡、此乃無生之生、上士堪↠入。
このゆゑに ¬*無字むじ宝篋ほうきょう経きょう¼ (意) にのたまはく、 「善ぜん男なん子しまた一法ぽうあり、 これ仏ぶつの覚さとるところなり。 いはゆる諸法しょほうは不去ふこ不ふ来らい・無む因いん無む縁えん・無む生しょう無む滅めつ・無思むし無不思むふし・無む増ぞう無む減げんなり。 仏ぶつ、 *羅睺羅らごらに告つげてのたまはく、 ªなんぢいまわがこの所説しょせつの正しょう法ぼう義ぎを受じゅ持じすやいなやº と。 その時とき十方ぽうに九億おくの菩ぼ薩さつありて、 すなはち仏ぶつにまうしてまうさく、 ªわれらみなよくこの法門ほうもんを持じして、 まさに衆しゅ生じょうのために流る通ずうして絶たえざらしむべしº と。 世せ尊そん答こたへてのたまはく、 ªこれを善ぜん男なん子し等とうすなはち両肩りょうけんに菩ぼ提だいを荷か担たんすとなす。 かの人ひとすなはち*不ふ断だん弁才べんざいを得え、 よく清浄しょうじょうなる諸仏しょぶつの世せ界かいを得う。 命終みょうじゅうの時ときにすなはち現げんに阿弥陀あみだ仏ぶつ、 もろもろの聖しょう衆じゅとその人ひとの前まえに住じゅうしたまふを見みたてまつることを得えて往おう生じょうを得うº」 と。
不断弁才 他人によって断ち切られることのない弁舌の才能。
是故¬無字宝篋経¼云。「善男子復有↢一法↡、是仏所↠覚。所謂諸法不去・不来・無因・無縁・無生・無滅・無思・無不思・無増・無減。仏告↢羅睺羅↡言。汝今受↢持我此所説正法義↡不。爾時十方有↢九億菩薩↡、即白↠仏言。我等皆能持↢此法門↡、当↧為↢衆生↡流通不↞絶。世尊答言。是善男子等則為↣両肩荷↢担菩提↡。彼人即得↢不断弁才↡、得↢善清浄諸仏世界↡。命終之時即得↫現見↪阿弥陀仏与↢諸聖衆↡住↩其人前↨得↢往生↡也。」
おのづから中ちゅう・下げの輩はいあり。 いまだ*相そうを破はすることあたはざれども、 かならず*信仏しんぶつの因縁いんねんによりて浄じょう土どに生しょうぜんと求もとむ。 かの国くにに至いたるといへども、 還かえりて*相そう土どに居こす。
相 有う相そうの見。 すがたかたちにとらわれた見解。
相土 有相の浄土。 すがたかたちのある浄土。 これに対して、 法ほっ性しょうの浄土は無色無形である。
自有↢中下之輩↡。未↠能↠破↠相、要依↢信仏因縁↡求↠生↢浄土↡、雖↠至↢彼国↡還居↢相土↡。
またいはく、 もし*縁えんを摂せっして本ほんに従したがへば、 すなはちこれ心しん外げに法ほうなし。 もし二諦たいを分わかちて義ぎを明あかさば、 浄じょう土どはこれ心しん外げの法ほうなることを妨さまたぐることなし。
縁を摂して… 因縁いんねん生しょう差別の立場 (
俗諦ぞくたい) をおさめて、 根本の立場 (
真諦しんたい) についていえばという意。 →
二に諦たい
又云。若摂↠縁従↠本即是心外無↠法。若分↢二諦↡明↠義浄土無↠妨↢是心外法↡也。
二に問答もんどう解釈げしゃくすとは、
二問答解釈。
問とひていはく、 向さきに 「△無む生しょうの生しょうはただ*上士じょうしのみよく入いる、 中ちゅう・下げは堪たへず」 といふは、 はたただちに人ひとをもつて法ほうに約やくしてかくのごとき判はんをなすや、 はたまた聖教しょうぎょうありて来きたし証しょうすや。
上士 すぐれた聖者。
問曰。向言↢無生之生唯上士能入、中下不↟堪者、為当直将↠人約↠法作↢如↠此判↡。為当亦有↢聖教↡来証。
答こたへていはく、 ¬*智度ちど論ろん¼ (意) によるにいはく、 「*新しん発ぽっ意ちの菩ぼ薩さつは*機解きげ軟弱なんにゃくにして*発心ほっしんすといふといへども、 多おおく浄じょう土どに生しょうぜんと願がんず。 なんの意こころぞしかるとならば、 たとへば嬰児ようにのもし父母ぶもの恩養おんように近ちかづかざれば、 あるいは坑あなに堕おち井いに落おち火か蛇じゃ等とうの難なんあり、 あるいは乳ちちに乏ともしくして死しす。 かならず父母ぶもの摩ま洗せん養育よういくするを仮かりて、 まさに長大ちょうだいしてよく家け業ごうを紹継じょうけいすべきがごとし。 菩ぼ薩さつもまたしかなり。 もしよく菩ぼ提だい心しんを発おこして、 多おおく浄じょう土どに生しょうぜんと願がんずれば、 諸仏しょぶつに親近しんごんしたてまつりて法身ほっしんを増長ぞうちょうし、 まさによく菩ぼ薩さつの家け業ごうを匡紹こうじょうし十方ぽうに*済運さいうんす。 この益やくのためのゆゑに多おおく生しょうぜんと願がんず」 と。
機解 根こん機き (素質能力) と智慧ちえのこと。
答曰。依↢¬智度論¼↡云。「新発意菩薩機解輭弱、雖↠言↢発心↡多願↠生↢浄土↡。何意然者、譬如↫嬰児若不↠近↢父母恩養↡、或堕↠坑落↠井火蛇等難。或乏↠乳而死。要仮↢父母摩洗養育↡方可↪長大能紹継家業↨。菩薩亦爾。若能発↢菩提心↡多願↠生↢浄土↡。親↢近諸仏↡増↢長法身↡、方能匡↢紹菩薩家業↡十方済運。為↢斯益↡故多願↠生也。」
またかの ¬論ろん¼ (同・意) にいはく、 「たとへば鳥子ちょうしの翅し翮かくいまだならざるをば、 逼せめて高たかく翔かけしむべからず。 先まづすべからく林はやしによりて樹じゅを伝つたはしむべし。 羽はね成なり力ちからありてまさに林はやしを捨すて空そらに遊あそぶべきがごとし。 新しん発意ぽっちの菩ぼ薩さつもまたしかなり。 先まづすべからく願がんに乗じょうじて仏前ぶつぜんに生しょうずることを求もとめ、 法身ほっしん成長じょうちょうして感かんに随したがひて益やくに赴おもむくべし。
又彼¬論¼云。「譬如↧鳥子翅翮未↠成不↠可↣逼令↢高翔↡、先須↢依↠林伝↟樹、羽成有↠力方可↦捨↠林遊↞空。新発意菩薩亦爾。先須↧乗↠願求↠生↢仏前↡、法身成長随↠感赴↞益。
また阿あ難なん、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ªこの*無む相そうの波羅はら蜜みつは、 いづれの処ところにありてか説ときたまふº と。 仏ぶつのたまはく、 ªかくのごとき法門ほうもんは、 *阿毘あび跋致ばっち地じのなかにありて説とく。 なにをもつてのゆゑに。 新しん発意ぽっちの菩ぼ薩さつありてこの無む相そう波羅はら蜜門みつもんを聞きかば、 あらゆる清浄しょうじょうの善根ぜんごんことごとくまさに滅没めつもつすべしº」 と。
又阿難白↠仏言。此無相波羅蜜在↢何処↡説。仏言。如↠此法門在↢阿跋致地中↡説。何以故、有↢新発意菩薩↡聞↢此無相波羅蜜門↡、所有清浄善根悉当↢滅没↡也。
またただかの国くにに至いたりぬれば、 すなはち一切さいの事じ畢おわりぬ。 なにをもつてかこの深浅じんせんの理りを諍あらそはんや。
又来但至↢彼国↡即一切事畢、何用諍↢此浅理↡也。」
4. 破穢土願生
【16】第だい四に穢土えどに生しょうぜんと願がんじて、 浄じょう土どに生しょうぜんと願がんぜざるを破はすとは、
第四破↧願↠生↢穢土↡不↞願↠生↢浄土↡者、
問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「*穢え国こくに生しょうじて衆しゅ生じょうを教化きょうけせんと願がんじて浄じょう土どに往おう生じょうすることを願がんぜず」 と。 この事じいかん。
問曰。或有↠人言、願↧生↢穢国↡教↦化衆生↥不↠願↣往↢生浄土↡、是事云何。
答こたへていはく、 これ人ひとにまた一の徒ともがらあり。 何者なにものぞ。 もし身み不ふ退たいに居こして以去いこなれば、 雑悪ぞうあくの衆しゅ生じょうを化けせんがためのゆゑに、 よく染ぜんに処しょすれども染ぜんせず、 悪あくに逢あへども変へんぜず。 ▼*鵝が鴨おうの水みずに入いれども、 水みずの湿うるおすことあたはざるがごとし。 かくのごとき人等にんとうよく穢えに処しょして苦くを抜ぬくに堪たへたり。 もしこれ実じつの凡ぼん夫ぶならば、 ただおそらくは自行じぎょういまだ立たたず、 苦くに逢あはばすなはち変へんじ、 かれを済すくはんと欲ほっせばあひともに没もっしなん。 ▼鶏にわとりを逼せめて水みずに入いらしむるがごとし。 あによく湿うるおはざらんや。
鵝鴨 がちょうとあひる。 ともに水鳥。
答曰。此人亦有↢一徒↡。何者若身居↢不退↡已去為↠化↢雑悪衆生↡故能処↠染不↠染逢↠悪不↠変、如↢鵝鴨入↠水水不↟能↠。如↠此人等堪↢能処↠穢抜↟苦。若是実凡夫者、唯恐自行未↠立逢↠苦即変、欲↠済↠彼者相与倶没。如↢似逼↠鶏入↟水。豈能不↠。
このゆゑに ¬智度ちど論ろん¼ (意) にいはく、 「もし凡ぼん夫ぶ*発心ほっしんしてすなはち穢土えどにありて衆しゅ生じょうを抜済ばっさいせんと願がんずるをば、 *聖意しょうい許ゆるしたまはず」 と。
聖意 仏のみこころ。
是故¬智度論¼云。「若凡夫発心即願↧在↢穢土↡抜↦済衆生↥者聖意不↠許。」
なんの意こころぞしかるとならば、 龍樹りゅうじゅ菩ぼ薩さつ釈しゃくしていはく (同・意)、 「たとへば四十里りの氷こおりに、 もし一人にんありて一升しょうの熱湯ねっとうをもつてこれを投とうずれば、 *当とう時じは少すこしき減げんずるに似如にたれども、 もし夜よるを経へて明あけに至いたれば、 すなはち余よのものよりも高たかきがごとし。 凡ぼん夫ぶここにありて発心ほっしんして苦くを救すくふも、 またかくのごとし。 *貪瞋とんじんの境界きょうがい*違順いじゅん多おおきをもつてのゆゑに、 みづから煩悩ぼんのうを起おこして、 返かえりて悪道あくどうに堕だするがゆゑなり」 と。
当時 当座。 その時。
違順 心にかなったり、 かなわなかったりすること。
何意然者、龍樹菩薩釈云。「譬如↧四十里冰如有↢一人↡以↢一升熱湯↡投↠之、当時似↢如少減↡若経↠夜至↠明乃高↦於余者↥。凡夫在↠此発心救↠苦亦復如↠是。以↢貪・瞋境界違順多↡故、自起↢煩悩↡返堕↢悪道↡故也。」
5. 破浄土着楽
【17】第だい五にもし浄じょう土どに生しょうずれば、 多おおく喜よろこびて楽らくに着じゃくすといふを破はすとは、
第五破↧若生↢浄土↡多喜著↞楽者、
問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「浄じょう土どのなかにはただ楽らく事じのみありて、 多おおく喜よろこびて楽らくに着じゃくして修道しゅどうを妨廃ぼうはいす。 なんぞ往おう生じょうを願がんずるを須もちゐんや」 と。
問曰。或有↠人言、浄土之中唯有↢楽事↡、多喜著↠楽妨↢廃修道↡。何須↠願↢往生↡也。
答こたへていはく、 すでに浄じょう土どといふ、 衆しゅ穢えあることなし。 もし楽らくに着じゃくすといはば、 すなはちこれ*貪愛とんないの煩悩ぼんのうなり。 なんぞ名なづけて浄じょうとなさん。
答曰。既云↢浄土↡無↠有↢衆穢↡。若言↠著↠楽便是貪愛煩悩。何名為↠浄。
このゆゑに ¬*大だい経きょう¼ (下・意) にのたまはく、 「▲かの国くにの人天にんでんは、 往来おうらい進止しんし、 情こころに繋かくるところなし」 と。
是故¬大経¼云。「彼国人天往来進止情無↠所↠繋。」
また四十八願がんにのたまはく (*同・上意)、 「▲十方ぽうの人天にんでん、 わが国くにに来らい至しして、 もし想念そうねんを起おこして身みを*貪とん計げせば、 正しょう覚がくを取とらじ」 (第十願) と。
又四十八願云。「十方人天来↢至我国↡、若起↢想念↡貪↢計身↡者、不↠取↢正覚↡。」
¬*大だい経きょう¼ (下・意) にまたのたまはく、 「▲かの国くにの人天にんでん*適莫ちゃくまくするところなし」 と。 なんぞ着楽じゃくらくの理りあらんや。
¬大経¼又云。「彼国人天無↠所↢適莫↡。」何有↢著楽之理↡也。
6. 破求生浄土非
【18】第だい六に浄じょう土どに生しょうぜんと求もとむるは非ひなり、 これ*小乗しょうじょうなりといふを破はすとは、
第六破↧求↠生↢浄土↡非、是小乗↥、
問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「浄じょう土どに生しょうぜんと求もとむるはすなはちこれ小乗しょうじょうなり。 なんぞこれを修しゅするを須もちゐんや」 と。
問曰。或有↠人言、求↠生↢浄土↡便是小乗。何須↠修↠之。
答こたへていはく、 これまたしからず。 なにをもつてのゆゑに。 ただ小乗しょうじょうの教きょうには一向こうに浄じょう土どに生しょうずることを明あかさざるがゆゑなり。
答曰。此亦不↠然、何以故、但小乗之教一向不↠明↠生↢浄土↡故也。
7. 会通兜率願生
【19】第だい七に*兜と率そつに生しょうぜんと願がんずることと、 浄じょう土どに帰きするを勧すすむることとを*会え通つうすとは、
第七会↧通願↠生↢兜率↡勧↞帰↢浄土↡者、
問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「兜と率そつに生しょうぜんと願がんじて、 *西にしに帰きすることを願がんぜず」 と。 この事じいかん。
西 西方の阿弥陀仏の浄土。
問曰。或有↠人言、願↠生↢兜率↡不↠願↠帰↠西、是事云何。
答こたへていはく、 この義ぎ類るいせず。 少分しょうぶんは同おなじきに似にたれども、 体たいによれば大おおきに別べつなり。 その四種しゅあり。
答曰。此義不↠類。少分似↠同拠↠体大別。有↢其四種↡。
なんとなれば、 一には*弥み勒ろく世せ尊そん、 その天衆てんしゅのために*不ふ退たいの*法輪ほうりんを転てんず。 法ほうを聞ききて信しんを生しょうずるものは益やくを獲う。 名なづけて信同しんどうとなす。 楽らくに着じゃくして信しんなきもの、 その数かず一にあらず。 また兜と率そつに生しょうずといへども、 位くらいこれ*退処たいしょなり。 このゆゑに ¬経きょう¼ (法華経) にのたまはく、 「三界がいは安やすきことなし、 なほ*火か宅たくのごとし」 と。
退処 悪趣あくしゅへの退転があるところ。 西方浄土が三界さんがいを超越するのに対し、 兜と率そつはなお三界のうちであるので、 退転がある。
何者一弥勒世尊為↢其天衆↡転↢不退法輪↡。聞↠法生↠信者獲↠益、名為↢信同↡。著↠楽無↠信者其数非↠一。又来雖↠生↢兜率↡位是退処。是故¬経¼云。「三界無↠安猶如↢火宅↡。」
二には兜と率そつに往おう生じょうしてまさに寿命じゅみょうを得うること四千歳せんざいなり。 命終みょうじゅうの後のち*退落たいらくを免まぬかれず。
退落 (悪趣あくしゅへ) 転落すること。
二往↢生兜率↡正得↢寿命↡四千歳、命終之後不↠免↢退落↡。
三には兜と率そつ天上てんじょうには水すい・鳥ちょう・樹林じゅりん*和鳴わみょう哀あい雅げなることありといへども、 ただ諸天しょてんの生楽しょうらくのために縁えんたり。 五欲よくに順したがひて*聖しょう道どうを資たすけず。 もし弥陀みだ浄国じょうこくに向むかはば、 一たび生しょうずることを得うるものはことごとくこれ*阿毘あび跋致ばっちなり。 さらに*退人たいにんのそれと雑ぞう居こするものなし。 また位くらいはこれ無漏むろにして、 三界がいに出過しゅっかしてまた輪りん廻ねせず。 その寿命じゅみょうを論ろんずれば、 すなはち仏ぶつ (阿弥陀仏)と斉ひとし。 *算数さんじゅのよく知しるところにあらず。 それ水すい・鳥ちょう・樹林じゅりんありてみなよく法ほうを説とき、 人ひとをして悟解ごげして無む生しょうを証会しょうえせしむ。
和鳴哀雅 音声が調和していて、 情趣とみやびやかさがあるということ。
聖道 仏道。 さとりへの道。
退人 (悪趣へ) 転落してしまう人。
三兜率天上雖↠有↢水鳥樹林和鳴哀雅↡、但与↢諸天生楽↡為↠縁。順↢於五欲↡不↠資↢聖道↡。若向↢弥陀浄国↡一得↠生者悉是阿跋致。更無↢退人与↠其雑居↡。又復位是無漏出↢過三界↡不↢復輪迴↡、論↢其寿命↡即与↠仏斉。非↢算数能知↡。其有↢水鳥樹林↡皆能説↠法令↣人悟解証↢会無生↡。
四には ¬大だい経きょう¼ によりて、 しばらく一種しゅの音楽おんがくをもつて*比校ひきょうせば、 ¬経きょうの讃さん¼ にいはく (讃阿弥陀仏偈)、
「▲世よの帝王たいおうより*六天てんに至いたるまで、 音楽おんがくうたた妙みょうにして八重じゅうあり。
*展転てんでんして前さきに勝すぐるること億万おくまん倍ばい、 宝樹おうじゅの音こえの麗うるわしきこと倍ばいしてまたしかなり。
また自じ然ねんの妙たえなる伎ぎ楽がくあり。 法音ほうおん清和しょうわにして*心神しんじんを悦よろこばしめ、
心神 神識じんしき。 こころ。
*哀婉あいえん雅亮がりょうにして十方ぽうに超こゆ。 このゆゑに*清浄しょうじょう勲くんを稽首けいしゅしたてまつる」 と。
哀婉雅亮 深い情趣をたたえて、 しなやかに響きわたり、 優雅・明澄であること。
清浄勲 きよらかな勲功 (功く徳どく) のある仏という意。
四拠↢¬大経¼↡且以↢一種音楽↡比挍者、経¬讃¼言。「従↢世帝王↡至↢六天↡、音楽転妙有↢八重↡、展転勝↠前億万倍、宝樹音麗倍亦然、復有↢自然妙伎楽↡、法音清和悦↢心神↡、哀婉雅亮超↢十方↡、是故稽↢首清浄勲↡。」
8. 校量願生十方
【20】第だい八に十方ぽうの浄じょう土どに生しょうぜんと願がんぜんよりは、 西方さいほうに帰きするにしかずといふを*校量きょうりょうすとは、
第八挍↧量願↠生↢十方浄土↡不↞如↠帰↢西方↡者、
問とひていはく、 あるいは人ひとありていはく、 「十方ぽう浄国じょうこくに生しょうぜんと願がんじて、 西方さいほうに帰きせんと願がんぜず」 と。 この義ぎいかん。
問曰。或有↠人言、願↠生↢十方浄国↡不↠願↠帰↢西方↡。是義云何。
答こたへていはく、 この義ぎ類るいせず。 なかに三あり。
答曰。此義不↠類。於↠中有↠三。
なんとなれば、 一には十方ぽう仏国ぶっこくも不浄ふじょうとなすにはあらず。 しかるに境きょう寛ひろければすなはち心しん昧くらく、 境きょう狭せまければすなはち意こころもつぱらなり。
何者一十方仏国非↠為↢不浄↡。然境寛則心昧、境狭則意専。
このゆゑに ¬*十方ぽう随願ずいがん往おう生じょう経きょう¼ (意) にのたまはく、 「普ふ広こう菩ぼ薩さつ、 仏ぶつにまうしてまうさく、 ª世せ尊そん、 十方ぽうの仏ぶつ土どみな厳浄ごんじょうなりとなす、 なんがゆゑぞ諸経しょきょうのなかにひとへに西方さいほう阿弥陀あみだ国こくを歎たんじて往おう生じょうを勧すすめたまふº と。 仏ぶつ、 普ふ広こう菩ぼ薩さつに告つげたまはく、 ª一切さい衆しゅ生じょう濁乱じょくらんのものは多おおく、 正念しょうねんのものは少すくなし。 衆しゅ生じょうをして専せん志しあることをあらしめんと欲ほっす。 このゆゑにかの国くにを讃歎さんだんすること*別べつ異いとなすのみ。 もしよく願がんによりて修行しゅぎょうすれば、 益やくを獲えざるはなしº」 と。
別異 相違。
是故¬十方随願往生経¼云。「普広菩薩白↠仏言。世尊、十方仏土皆為↢厳浄↡。何故諸経中偏歎↢西方阿弥陀国↡勧↢往生↡也。仏告↢普広菩薩↡。一切衆生、濁乱者多正念者少、欲↠令↢衆生専志有↟在。是故讃↢歎彼国↡為↢別異↡耳。若能依↠願修↠行莫↠不↠獲↠益。」
二には十方ぽうの浄じょう土どみなこれ浄じょうにして深浅じんせん知しりがたしといへども、 弥陀みだの浄国じょうこくはすなはちこれ*浄じょう土どの初門しょもんなり。
浄土の初門 あらゆる浄土の最初の入り口。
二十方浄土雖↢皆是浄↡而浅難↠知。弥陀浄国乃是浄土之初門。
なにをもつてか知しることを得うる。 ¬華け厳ごん経ぎょう¼ (意) によるにのたまはく、 「娑しゃ婆ば世せ界かいの一劫こうは極楽ごくらく世せ界かいの一日にち一夜やに当あたる。 極楽ごくらく世せ界かいの一劫こうは袈裟けさ幢どう世せ界かいの一日にち一夜やに当あたる。 かくのごとく優劣ゆうれつあひ望のぞむるに、 すなはち十*阿あ僧そう祇ぎあり」 と。
何以得↠知。依↢¬華厳経¼↡云。「娑婆世界一劫当↢極楽世界一日一夜↡、極楽世界一劫当↢袈娑幢世界一日一夜↡。如↠是優劣相望乃有↢十阿僧祇↡。」
ゆゑに知しりぬ、 浄じょう土どの初門しょもんとなすなり。 このゆゑに諸仏しょぶつひとへに勧すすめたまふ。 余よ方ほうの仏国ぶっこくはすべてかくのごとく丁寧ていねいならず。 このゆゑに有う信しんの徒ともがらは多おおく往おう生じょうを願がんず。
故知、為↢浄土初門↡。是故諸仏偏勧也。余方仏国都不↢如↠此丁寧↡。是故有信之徒多願↢往生↡也。
三には弥陀みだの浄国じょうこくはすでにこれ浄じょう土どの初門しょもんなり。 娑しゃ婆ば世せ界かいはすなはち*穢土えどの末処まっしょなり。
穢土の末処 穢土のおわり尽きるところ。
三弥陀浄国既是浄土初門。娑婆世界即是穢土末処。
なにをもつてか知しることを得うる。 ¬*正しょう法ぼう念ねん経ぎょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「ここより東北とうほくに一世せ界かいあり、 名なづけて斯訶しかといふ。 土ど田でんにただ三角かくの沙石しゃせきのみあり。 一年ねんに三たび雨あめふる。 一雨うの湿潤しゅうにんすること五寸すんを過すぎず。 その土どの衆しゅ生じょう、 ただ*菓子かしを食じきし樹じゅ皮ひを衣ころもとなし、 生しょうを求もとむるに得えず、 死しを求もとむるに得えず。 また一世せ界かいあり。 一切さいの虎こ狼ろう・禽獣きんじゅう、 乃ない至し*蛇蝎じゃかつことごとくみな翅はねありて飛行ひぎょうす。 逢あふものあひ噉くらふ。 善悪ぜんあくを*簡えらばず」 と。
菓子 果実。
蛇蝎 へびやさそり。
簡ばず 区別しない。
何以得↠知。如↢¬正法念経¼云↡。「従↠此東北有↢一世界↡、名曰↢斯訶↡。土田唯有↢三角沙石↡。一年三雨。一雨潤不↠過↢五寸↡。其土衆生、唯食↢菓子↡樹皮為↠衣、求↠生不↠得求↠死不↠得。復有↢一世界↡。一切虎狼・禽獣、乃至虵蝎、悉皆有↠翅飛行。逢者相噉。不↠簡↢善悪↡。」
これあに穢土えどの始処ししょと名なづけざらんや。 しかるに娑しゃ婆ばの*依え報ほうはすなはち*賢聖げんじょうと流たぐいを同おなじくす。 ただこれすなはちこれ穢土えどの終処しゅうしょなり。 安楽あんらく世せ界かいはすでにこれ浄じょう土どの初門しょもんなり。 すなはちこの方ほうと境さかい次ついであひ接せっせり。 往おう生じょうはなはだ便べんなり。 なんぞ去ゆかざらんや。
賢聖 さとりの位にある人。
此豈不↠名↢穢土始処↡。然娑婆依報乃与↢賢聖↡同↠流、唯此乃是穢土終処。安楽世界既是浄土初門。即与↢此方↡境次相接。往生甚便、何不↠去也。
9. 料簡別時意
【21】第だい九に ¬*摂論しょうろん¼ とこの ¬経きょう¼ (観経) と相そう違いするによりて、 ▼*別べつ時意じいの語ごを*料簡りょうけんすとは、
第九拠↧¬摂論¼与↢此¬経¼↡相違↥料↢簡別時意語↡者、
いま ¬*観かん経ぎょう¼ (意) のなかに、 仏ぶつ、 「▲*下げ品ぼん生しょうの人ひと現げんに重罪じゅうざいを造つくるも、 ▲命終みょうじゅうの時ときに臨のぞみて善ぜん知ぢ識しきに遇あひて十念ねん成就じょうじゅしてすなはち往おう生じょうを得う」 と説ときたまふ。 ¬摂論しょうろん¼ にいふによるに、 「仏ぶつの別べつ時意じいの語ごなり」 といふ。
今¬観経¼中仏説↧下品生人現造↢重罪↡、臨↢命終時↡遇↢善知識↡十念成就即得↦往生↥。依↢¬摂論¼云↡、噵↢仏別時意語↡。
また古こ来らい*通論つうろんの家いえ多おおくこの文もんを判はんじていはく、 「臨終りんじゅうの十念ねんはただ往おう生じょうの因いんとなることを得うるも、 いまだすなはち生しょうずることを得えず。
通論の家 無む着じゃくの ¬摂しょう大乗だいじょう論ろん¼ にもとづく摂論しょうろん学派のこと。
又古来通論之家多判↢此文↡云。臨終十念但得↠作↢往生因↡未↢即得↟生。
なにをもつてか知しることを得うるとならば、 ¬論ろん¼ (摂大乗論釈・意) にいはく、 ª▼一の金銭こんせんをもつて千せんの金銭こんせんを貿あがなひ得うるは、 一日にちにすなはち得うるにはあらざるがごとしº と。
何以得↠知¬論¼云。「如↧以↢一金銭↡貿↢得千金銭↡非↦一日即得↥。」
ゆゑに知しりぬ、 十念ねん成就じょうじゅは、 ただ因いんとなることを得うるも、 いまだすなはち生しょうずることを得えず。 ゆゑに別べつ時意じいの語ごと名なづく」 と。
故知、十念成就者但得↠作↠因未↢即得↟生。故名↢別時意語↡。
かくのごとき解げはまさにいまだしからずとなす。
如↠此解者将為↠未↠然。
なんとなれば、 おほよそ菩ぼ薩さつの、 論ろんを作つくりて経きょうを釈しゃくすることは、 みな遠とおく仏ぶつ意いを扶たすけて*聖情しょうじょうに契かい会えせんと欲ほっしてなり。 もし論文ろんもんの経きょうに違いすることあらば、 この処ことわりあることなからん。
聖情に契会せん 仏のおぼしめしにかなうこと。
何者凡菩薩作↠論釈↠経皆欲↧遠扶↢仏意↡契↦会聖情↥。若有↢論文違↟経者無↠有↢是処↡。
いま別べつ時意じいの語ごを解げせば、 いはく、 仏ぶつの*常途じょうずの説法せっぽうはみな先因せんいん後果ごかを明あかす。 *理り数しゅ炳然へいねんなり。
常途 通常。
理数炳然 道理があきらかであること。
今解↢別時意語↡者、謂仏常途説法皆明↢先因後果↡。理数炳然。
いまこの ¬経きょう¼ (観経) のなかには、 ただ一生しょう罪つみを造つくりて、 命終みょうじゅうの時ときに臨のぞみて十念ねん成就じょうじゅしてすなはち往おう生じょうを得うと説ときて、 過去かこの有う因いん無む因いんを論ろんぜざるは、 ただこれ世せ尊そん*当来とうらいの造悪ぞうあくの徒ともがらを*引接いんじょうして、 その臨終りんじゅうに悪あくを捨すて善ぜんに帰きし、 念ねんに乗じょうじて往おう生じょうせしめんとなり。 ここをもつてその*宿因しゅくいんを隠かくす。 これはこれ世せ尊そん始はじめを隠かくして終おわりを顕あらわし、 因いんを没もっして果かを談だんずるを名なづけて別べつ時意じいの語ごとなす。
引接 仏道に誘い導くこと。
宿因 過去世につくった業因。
今此経中但説↧一生造↠罪臨↢命終時↡十念成就即得↦往生↥、不↠論↢過去有因無因↡者、直是世尊引↢接当来造悪之徒↡、令↢其臨終捨↠悪帰↠善乗↠念往生↡。是以隠↢其宿因↡。此是世尊隠↠始顕↠終、没↠因談↠果、名作↢別時意語↡。
なにをもつてかただ十念ねん成就じょうじゅするは、 みな過去かこの因いんありと知しることを得うる。 ¬*涅ね槃はん経ぎょう¼ (意) にのたまふがごとし。 「もし人ひと過去かこにすでにかつて半はん恒ごう河が沙しゃの諸仏しょぶつを供く養ようし、 またすでに*発心ほっしんし、 しかうしてよく悪あく世せのなかにおいて大乗だいじょうの経教きょうきょうを説とくを聞きけば、 ただよく謗そしらざるのみ、 いまだ余よの功こうあらず。 もしすでに一恒ごう河が沙しゃの諸仏しょぶつを供く養ようし、 およびすでに発心ほっしんして、 しかる後のちに大乗だいじょうの経教きょうきょうを聞きけば、 ただ謗そしらざるのみにあらず、 また*愛楽あいぎょうを加くわふ」 と。
愛楽 喜び好むこと。
何以得↠知↧但使↢十念成就↡皆有↦過去因↥。如↢¬涅槃経¼云↡。「若人過去已曾供↢養半恒河沙諸仏↡、復経↢発心↡而能於↢悪世中↡聞↠説↢大乗経教↡、但能不↠謗、未↠有↢余功↡。若経↣供↢養一恒河沙諸仏↡及経↢発心↡然後聞↢大乗経教↡、非↢直不↟謗、復加↢愛楽↡。」
この諸経しょきょうをもつて*来験らいけんするに、 あきらかに知しりぬ、 十念ねん成就じょうじゅするものはみな過か因いんありて虚むなしからず。 もしかの過去かこに因いんなきものは、 善ぜん知ぢ識しきにすらなほ逢遇あふべからず、 いかにいはんや十念ねんして成就じょうじゅすべけんや。
来験 証明すること。
以↢此諸経↡来験、明知、十念成就者、皆有↢過因↡不↠虚。若彼過去無↠因者善知識尚不↠可↢逢遇↡。何況十念而可↢成就↡也。
¬論ろん¼ (摂大乗論釈) に、 「△一の金銭こんせんをもつて千せんの金銭こんせんを貿あがなひ得うるは一日にちにすなはち得うるにはあらず」 といふは、 もし*仏ぶつ意いによれば、 衆しゅ生じょうをして多おおく善因ぜんいんを積つみてすなはち念ねんに乗じょうじて往おう生じょうせしめんと欲ほっす。 もし論主ろんじゅ (無着) に望のぞむれば過か因いんを関とづるに乗じょうず、 理りまた爽たがふことなし。
仏意 仏のおぼしめし。
¬論¼云↧「以↢一金銭↡貿↢得千金銭↡非↦一日即得↥」者、若拠↢仏意↡、欲↠令↧衆生多積↢善因↡便乗↠念往生↥。若望↢論主↡乗↠閉↢過去因↡。理亦無↠爽。
もしこの解げをなさば、 すなはち上かみは仏経ぶっきょうに順したがひ、 下しもは論ろんの意こころに合あはん。 すなはちこれ経きょう・論ろんあひ扶たすけて往おう生じょうの路みち通つうず。 また疑ぎ惑わくすることなかれ。
若作↢此解↡即上順↢仏経↡下合↢論意↡。即是経論相扶往生路通。無↢復疑惑↡也。
◎第二大門 ○広施問答
【22】第だい三に広ひろく問答もんどうを施ほどこして、 疑情ぎじょうを*釈去しゃくこすることを明あかすとは、 自下じげは ¬*大だい智度ちど論ろん¼ につきて広ひろく問答もんどうを施ほどこす。
第三明↧広施↢問答↡釈↦去疑情↥者、自下就↢¬大智度論¼↡広施↢問答↡。
・ 第一問答 繋業之義
▲問とひていはく、 ただ一切さい衆しゅ生じょう*曠大こうだい劫こうよりこのかた、 つぶさに*有漏うろの業ごうを造つくりて*三界がいに*繋け属ぞくせり。 いかんが三界がいの*繋け業ごうを断だんぜずして、 ただしばらく、 阿弥陀あみだ仏ぶつを念ねんじてすなはち往おう生じょうを得えて、 すなはち三界がいを出いづるといはば、 この繋け業ごうの義ぎまたいかんせんと欲ほっする。
曠大劫 久しくはるかな昔。
繋属 つなぎとめること。
とめる煩悩ぼんのうにもとづく行為。
問曰。但一切衆生従↢曠大劫↡来備造↢有漏之業↡繋↢属三界↡。云何不↠断↢三界繋業↡直爾少時念↢阿弥陀仏↡、即得↢往生↡便出↢三界↡者、此繋業之義、復欲↢云何↡。
答こたへていはく、 二種しゅの解釈げしゃくあり。 一には法ほうにつきて来きたし破はす。 二には喩たとへを借かりてもつて顕あらわす。
答曰。有↢二種解釈↡。一就↠法来破。二借↠喩以顕。
法ほうにつくといふは、 諸仏しゅぶつ如来にょらいに*不ふ思議しぎ智ち・*大乗だいじょう広こう智ち・*無む等とう無む倫りん最上さいじょう勝智しょうちまします。 不思議ふしぎ智ち力りきとは、 よく少しょうをもつて多たとなし、 多たをもつて少しょうとなす。 近ごんをもつて遠おんとなし、 遠おんをもつて近ごんとなす。 軽きょうをもつて重じゅうとなし、 重じゅうをもつて軽きょうとなす。 かくのごとき等らの智ちありて無む量りょう無む辺へん不可ふか思議しぎなり。
不思議智 凡ぼん夫ぶの思議の及ばない智慧ちえ。
大乗広智 一切の衆生を救う広大な智慧。
無等無倫最上勝智 なにものにも比べることのできないもっともすぐれた智慧。
言↠就↠法者、諸仏如来有↢不思議智・大乗広智・無等無倫最上勝智↡。不思議智力者、能以↠少作↠多以↠多作↠少。以↠近為↠遠以↠遠為↠近。以↠軽為↠重以↠重為↠軽。有↢如↠是等智↡無量無辺不可思議。
自下じげは第だい二に七番ばんあり。 ならびに喩たとへを借かりてもつて顕あらわす。
自下第二有↢七番↡。並借↠喩以顕。
a. 積薪即尽
▼第だい一にはたとへば百夫ひゃっぷ、 百年ひゃくねん薪たきぎを聚あつめて積つむこと高たかさ千刃せんじんならんに、 豆まめばかりの火ひをもつて焚やくに、 半日はんにちにすなはち尽つくるがごとし。 あに百年ひゃくねんの薪たきぎ半日はんにちに尽つきずといふことを得うべけんや。
第一譬如↢百夫百年聚↠薪積高千仭、豆許火焚半日便尽↡。豈可↠得↠言↢百年之薪半日不↟尽也。
b. 癖者乗船
▼第だい二にはたとへば癖者へきしゃ他たの船ふねに寄き載さいすれば、 風帆ふうはんの勢いきおひによりて一日にちに千せん里りに至いたるがごとし。 あに癖者へきしゃいかんぞ一日にちに千せん里りに至いたらんといふことを得うべけんや。
第二譬如↧癖者寄↢載他船↡因↢風帆勢↡一日至↦於千里↥。豈可↠得↠言↣癖者云何一日至↢千里↡也。
c. 貧者重賞
▼第だい三にはまた下げ賤せんの貧人びんにん一の*瑞物ずいもつを獲えて、 もつて王おうに貢みつぐに、 王おう得うるところを慶よろこびてもろもろの重賞じゅうしょうを加くわふれば、 しばらくのあひだに富貴ふき望のぞみを盈みつるがごとし。 あに数しゅ十年ねん仕つかへてつぶさに辛勤しんごんを尽つくせども、 上じょうなほ達たっせずして帰かえるものあるをもつて、 かの富貴ふきをいひてこの事じなしといふことを得うべけんや。
瑞物 宝物。
第三亦如↧下賤貧人獲↢一瑞物↡而以貢↠王、王慶↠所↠得加↢諸重賞↡、斯須之頃富貴盈↞望。豈可↠得↠言↪以↧数十年仕備尽↢辛勤↡上下尚不↠達而帰者↥言↢彼富貴↡無↩此事↨也。
d. 劣夫従王
▲第だい四にはなほ劣れっ夫ぷ己こ身しんの力ちからをもつて*驢ろに擲あがりて上のぼらざれども、 もし*輪王りんのうの行みゆきに従したがへば、 すなはち虚こ空くうに乗じょうじて飛ひ騰とう自じ在ざいなるがごとし。 あに劣れっ夫ぷの力ちからをもつてかならず虚こ空くうに昇のぼることあたはずといふことを得うべけんや。
驢 ろば。
第四猶如↧劣夫以↢己身力↡擲↠驢不↠上、若従↢輪王行↡便乗↢虚空↡飛騰自在↥。豈可↠得↠言↧以↢劣夫之力↡必不↞能↠昇↢虚空↡也。
e. 童子断索
▼第だい五にはまた十囲いの索さくは千せん夫ぷも制せいせざれども、 童どう子じ剣けんを揮ふるへば*儵爾しゅくじとして両分りょうぶんするがごとし。 あに童どう子じの力ちから、 索さくを断たつことあたはずといふことを得うべけんや。
儵爾 たちまち。
第五又如↧十囲之索千夫不↠制童子揮↠剱儵爾両分↥。豈可↠得↠言↢童子之力不↟能↠断↠索也。
f. 鴆鳥犀角
▲第だい六にはまた*鴆鳥ちんちょう水みずに入いれば*魚蚌ぎょほうここに斃たおれてみな死しし、 *犀角さいかく泥でいに触ふるれば死しせるもの還かえりて活いくるがごとし。 あに生命しょうみょう一たび断たゆれば、 生いくべからずといふことを得うべけんや。
鴆鳥 中国に伝えられる毒鳥の名。 毒蛇を食べるといい、 その羽根を酒に浸すと毒酒になるという。
魚蚌 魚貝類。 蚌は、 どぶ貝、 またははまぐり。
犀角 さいのつの。
第六又如↢鴆鳥入↠水魚蜯斯斃皆死、犀角触↠泥死者還活↡。豈可↠得↠言↢性命一断不↟可↠生也。
g. 子安還活
▲第だい七にはまた*黄鵠こうこく 「子し安あん子し安あん」 と喚よぶに、 子し還かえりて活いくるがごとし。 あに墳ふん下げの千齢せんれい決けっして蘇よみがえるるべきことなしといふことを得うべけんや。
黄鵠… ¬列れつ異い伝でん¼ に出る故事。 子安 (仙人の名) にたすけられた鶴 (黄鵠) が、 子安の死後、 三年間その墓の上でかれを思って鳴きつづけ、 鶴は死んだが子安は蘇って千年の寿命を保ったという。
第七亦如↧黄鵠喚↢子安↡子安還活↥。豈可↠得↠言↢墳下千齢決無↟可↠蘇也。
一切さいの万法まんぽうはみな*自じ力りき・*他た力りき、 *自摂じしょう・他摂たしょうありて、 千開せんかい万閉まんぺい無む量りょう無む辺へんなり。 なんぢあに*有礙うげの識しきをもつて、 かの*無礙むげの法ほうを疑うたがふことを得えんや。
自摂他摂 自摂は自力によってたもつこと、 他摂は他力によってたもつこと。
有礙の識 煩悩にさまたげられた心。
無礙の法 なにものにもさまたげられない法。
一切万法皆有↢自力・他力、自摂・他摂↡千開万閉無量無辺。汝豈得↧以↢有礙之識↡疑↦彼無礙之法↥乎。
また*五の不ふ思議しぎのなかに、 仏法ぶっぽうもつとも不可ふか思議しぎなり。 なんぢ三界がいの繋け業ごうをもつて重おもしとなし、 かの少時しょうじの念仏ねんぶつを疑うたがひて軽かろしとなして、 安楽あんらく国こくに往おう生じょうして正定しょうじょう聚じゅに入いることを得えずといふはこの事じしからず。
又五不思議中仏法最不可思議。汝以↢三界繋業↡為↠重疑↢彼少時念仏↡為↠軽不↠得↧往↢生安楽国↡入↦正定聚↥者、是事不↠然。
・ 第二問答 業道如秤
▲問とひていはく、 *大乗だいじょう経きょうにのたまはく、 「*業道ごうどうは秤はかりのごとし、 重おもき処ところ先まづ牽ひく」 と。 いかんが衆しゅ生じょう*一形ぎょうよりこのかた、 あるいは百年ひゃくねん、 あるいは十年ねん、 すなはち今日こんにちに至いたるまで、 悪あくとして造つくらざるはなし。 いかんが臨終りんじゅうに善ぜん知ぢ識しきに遇あひて十念ねん相続そうぞくしてすなはち往おう生じょうを得えん。 もししからば、 *「先牽せんけん」 の義ぎなにをもつてか信しんを取とる。
大乗経 ¬論註¼ では業道経とする。
業道 善悪の業によって苦楽の果報を得るという道理。 →
補註6
先牽の義 業は重い方が先に報いがあらわれるという道理。
問曰。大乗経云。「業道如↠秤、重処先牽。」云何衆生一形已来、或百年或十年乃至今日無↢悪不↟造。云何臨終遇↢善知識↡十念相続即得↢往生↡。若爾者先牽之義何以取↠信。
・ 三在釈
▲答こたへていはく、 なんぢ一形ぎょうの悪業あくごうを重おもしとなして、 下げ品ぼんの人ひとの十念ねんの善ぜんをもつて、 もつて軽かろしとなすといはば、 いままさに義ぎをもつて軽重けいちょうの義ぎを校量きょうりょうせん。 まさしく心しんに在あり、 縁えんに在あり、 決けつ定じょうに在あり、 時じ節せつの久く近ごん・多少たしょうには在あらざることを明あかす。
答曰。汝謂↧一形悪業為↠重以↢下品人十念之善↡以為↞軽者、今当以↠義挍↢量軽重之義↡者、正明↧在↠心在↠縁在↢決定↡不↞在↢時節久近多少↡也。
・ 三在釈 1. 在心
▲いかんが 「心しんに在ある」 とは、 いはく、 かの人ひと罪つみを造つくる時ときは、 みづから*虚こ妄もう顛倒てんどうの心しんに依止えじして生しょうず。 この十念ねんは、 善ぜん知ぢ識しきの、 *方便ほうべん安あん慰にして*実相じっそうの法ほうを聞きかしむるによりて生しょうず。 一は実じつ、 一は虚こ、 あにあひ比くらぶることを得えんや。 なんとなれば、 たとへば千歳せんざいの闇室あんしつに光ひかりもししばらくも至いたれば、 すなはち明朗みょうろうなるがごとし。 闇やみあに室しつにあること千歳せんざいなるをもつて、 去さらずといふことを得うべけんや。
虚妄顛倒の… 真実の理にそむいた誤った心をよりどころとして。
方便安慰 いろいろてだてをして教え、 心を安らかにすること。
実相の法 名号には仏のさとられた諸法実相の徳が含まれているので、 仏の名号のことを実相という。
云何在↠心。謂彼人造罪時自依↢止虚妄顛倒心↡生、此十念者依↣善知識方便安慰聞↢実相法↡生。一実一虚、豈得↢相比↡也。何者譬如↢千歳闇室光若暫至即便明朗↡。豈可↠得↠言↢闇在↠室千歳而不↟去也。
このゆゑに ¬*遺日ゆいにち摩尼まに宝ほう経きょう¼ (意) にのたまはく、 「仏ぶつ、 迦葉かしょう菩ぼ薩さつに告つげたまはく、 ª衆しゅ生じょうまた数千しゅせん巨こ億万おくまん劫ごう、 愛欲あいよくのなかにありて、 罪つみのために覆おおはるといへども、 もし仏経ぶっきょうを聞ききてひとたび善ぜんを念ねんずれば、 罪つみすなはち消尽しょうじんすº」 と。 これを心しんに在あると名なづく。
是故¬遺日摩尼宝経¼云。「仏告↢迦葉菩薩↡。衆生雖↧復数千巨億万劫在↢愛欲中↡為↠罪所↞覆、若聞↢仏経↡一反念↠善罪即消尽也。」是名↢在心↡。
・ 三在釈 2. 在縁
▲二にはいかんが 「縁えんに在ある」 とは、 いはく、 かの人ひと罪つみを造つくる時ときは、 みづから妄想もうぞうに依止えじし、 煩悩ぼんのう果か報ほうの衆しゅ生じょうによりて生しょうず。 いまこの十念ねんは、 無上むじょうの信心しんじんに依止えじし、 阿弥陀あみだ如来にょらいの真実しんじつ清浄しょうじょう無む量りょう功く徳どくの名みょう号ごうによりて生しょうず。 たとへば人ひとありて毒どくの箭やを被こうむるに、 中あたるところ、 筋すじを徹とおし骨ほねを破やぶる。 もし*滅除めつじょ薬やくの鼓つづみの声こえを聞きけば、 すなはち箭や出いで毒どく除のぞこるがごとし。 あにかの箭や深ふかく毒どくはげしくして鼓つづみの音声おんじょうを聞きけども、 箭やを抜ぬき毒どくを去さることあたはずといふことを得うべけんや。 これを縁えんに在あると名なづく。
滅除薬の鼓… 滅除という薬を塗った鼓の音を聞けば、 戦闘の際に受けた毒矢の傷もたちまち愈えるという。 ¬首しゅ楞厳りょうごん経きょう¼ の説。
二云何在↠縁者、謂彼人造↠罪時自依↢止妄想↡依↢煩悩果報衆生↡生。今此十念者依↢止無上信心↡依↢阿弥陀如来真実清浄無量功徳名号↡生。譬如↧有↠人被↢毒箭所↠中徹↠筋破↟骨、若聞↢滅除薬鼓声↡即箭出毒除↥。豈可↠得↠言↧彼箭毒厲聞↢鼓音声↡不↞能↢抜↠箭去↟毒也。是名↢在縁↡。
・ 三在釈 3. 在決定
▲三にはいかんが 「決けつ定じょうに在ある」 とは、 かの人ひと罪つみを造つくる時ときは、 みづから*有後うご心しん・*有う間けん心しんに依止えじして生しょうず。 いまこの十念ねんは無後むご心しん・無む間けん心しんに依止えじして起おこる。 これを決けつ定じょうとなす。
有後心 まだ後があると思うゆっくりした心。
有間心 他のさまざまな想いがまじって、 専一でない心。
三云何在↢決定↡者、彼人造↠罪時自依↢止有後心・有間心↡生。今此十念者依↢止無後心・無間心↡起。是為↢決定↡。
また ¬智度ちど論ろん¼ (意) にいはく、 「▼一切さい衆しゅ生じょう臨終りんじゅうの時とき、 *刀風とうふう形かたちを解とき、 死苦しく来きたり逼せむるに、 大だい怖畏ふいを生しょうず。 このゆゑに善ぜん知ぢ識しきに遇あひて大だい勇猛ゆうみょうを発おこして、 心々しんしん相続そうぞくして十念ねんすれば、 すなはちこれ増上ぞうじょうの善根ぜんごんなるをもつてすなはち往おう生じょうを得う。
又¬智度論¼云。「一切衆生臨終之時、刀風解↠形、死苦来逼生↢大怖畏↡。是故遇↢善知識↡発↢大勇猛↡、心心相続十念、即是増上善根便得↢往生↡。」
また人ひとありて敵てきに対たいして陣じんを破やぶるに、 *一形ぎょうの力ちから一時じにことごとく用もちゐるがごとし。 その十念ねんの善ぜんもまたかくのごとし。
又「如↢有↠人対↠敵破↠陣一形之力一時尽用↡。其十念之善亦如↠是也。」
またもし人ひと臨終りんじゅうの時とき、 一念ねんの邪見じゃけん、 増上ぞうじょうの悪心あくしんを生しょうずれば、 すなはちよく三界がいの福ふくを傾かたむけてすなはち悪道あくどうに入いる」 と。
又「若人臨終時生↢一念邪見↡、増上悪心即能傾↢三界之福↡即入↢悪道↡也。」
・ 第三問答 十念相続
▲問とひていはく、 すでに終おわりに垂なんなんとするに十念ねんの善ぜんよく一生しょうの悪業あくごうを傾かたむけて浄じょう土どに生しょうずることを得うといはば、 いまだ知しらず、 いくばくの時ときをか十念ねんとなすや。
問曰。既云↧垂↠終十念之善能傾↢一生悪業↡得↞生↢浄土↡者、未↠知幾時為↢十念↡也。
答こたへていはく、 経きょうに説ときてのたまふがごとし。 百ひゃく一の生滅しょうめつ、 一*刹せつ那なを成じょうず。 六十の刹せつ那な、 もつて一念ねんとなす。 これ経論きょうろんによりて汎ひろく念ねんを解げす。 いまの時ときは念ねんを解げするにこの時じ節せつを取とらず。 ▼ただ阿弥陀あみだ仏ぶつの、 もしは*総相そうそう、 もしは*別相べっそうを憶念おくねんして、 所縁しょえんに随したがひて観かんじ、 十念ねんを経ふるに、 他たの念想ねんそう*間雑けんぞうすることなし。 これを十念ねんと名なづく。
総相 仏身の全体のすがた。
別相 仏身の一部分のすがた。 総相に対す。
答曰。如↢経説云↡。百一生滅成↢一刹那↡、六十刹那以為↢一念↡。此依↢経論↡汎解↠念也。今時解↠念不↠取↢此時節↡。但憶↢念阿弥陀仏↡、若総相若別相、随↢所縁↡観、逕↢於十念↡無↢他念想間雑↡、是名↢十念↡。
▼また十念ねん相続そうぞくといふは、 これ聖者しょうじゃの一の数かずの名ななるのみ。 ただよく念ねんを積つみ思おもいを凝こらして他事たじを縁えんぜざれば、 *業道ごうどうをして成弁じょうべんせしめてすなはち罷やみぬ。 用もちゐざれ。 またいまだ労わずらはしくこれが*頭数じゅしゅを記きせず。
頭数 念仏の回数の意。
又云↢十念相続↡者、是聖者一数之名耳。但能積↠念凝↠思不↠縁↢他事↡使↢業道成弁↡便罷。不↠用。亦未↣労↢記之頭数↡也。
またいはく、 もし久行くぎょうの人ひとの念ねんは多おおくこれによるべし、 もし始行しぎょうの人ひとの念ねんは数かずを記きするもまた好よし。 これまた聖教しょうぎょうによるなり。
又云。若久行人念多応↠依↠此。若始行人念者記↠数亦好。此亦依↢聖教↡。
・ 第四問答 計念相状
また問とひていはく、 いま勧すすめによりて*念仏ねんぶつ三昧ざんまいを行ぎょうぜんと欲ほっす。 いまだ知しらず、 計け念ねんの相状そうじょうはなににか似にたる。
又問曰。今欲↣依↠勧行↢念仏三昧↡。未↠知計念相状何似。
答こたへていはく、 ▼たとへば人ひとありて*空曠くうこうのはるかなる処ところにおいて、 怨賊おんぞくの刀かたなを抜ぬき勇ゆうを奮ふるひてただちに来きたりて殺ころさんと欲ほっするに値ち遇ぐうす。 この人ひとただちに走はしるに、 一の河かわを度わたらんとするを視みる。 いまだ河かわに到いたるに及およばざるに、 すなはちこの念ねんをなす。 「われ河かわの岸きしに至いたらば、 衣ころもを脱ぬぎて渡わたるとやせん、 衣ころもを着きて浮うかぶとやせん。 もし衣ころもを脱ぬぎて渡わたらば、 ただおそらくは暇いとまなからん。 もし衣ころもを着きて浮うかばば、 またおそらくは*首領しゅりょう全まったくしがたからん」 と。 その時とき、 ただ一心しんに河かわを渡わたる方便ほうべんをなすことのみありて、 余よの心想しんそう*間雑けんぞうすることなきがごとし。
空曠のはるかなる処 何もなくて、 どこまでも広がっている場所。
首領全くしがたからん 命を全うすることができないであろう。 ここではおぼれ死ぬであろうの意。
答曰。譬如↧有↠人於↢空曠逈処↡値↢遇怨賊抜↠刀奮↠勇直来欲↟殺。此人径走視↠度↢一河↡。未↠及↠到↠河即作↢此念↡。我至↢河岸↡為↢脱↠衣渡↡、為↢著↠衣浮↡。若脱↠衣渡唯恐無↠暇、若著↠衣浮復畏↢首領難↟全。爾時但有↣一心作↢渡↠河方便↡無↦余心想間雑↥。
行者ぎょうじゃもまたしかなり。 阿弥陀あみだ仏ぶつを念ねんずる時とき、 またかの人ひとの渡わたることのみを念ねんじて、 念々ねんねんあひ次ついで余よの心想しんそう間雑けんぞうすることなきがごとし。 あるいは仏ぶつの*法身ほっしんを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの*神力じんりきを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの*智慧ちえを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの*毫相ごうそうを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの*相好そうごうを念ねんじ、 あるいは仏ぶつの*本願ほんがんを念ねんず。 名なを称しょうすることもまたしかなり。 ただよく専せん至しに相続そうぞくして断たえざれば、 さだめて仏前ぶつぜんに生しょうず。 いま後代こうだいの学者がくしゃを勧すすむ。 もしその*二諦たいを会えせんと欲ほっせば、 ただ念々ねんねん*不可ふか得とくなりと知しるはすなはちこれ*智慧ちえ門もんにして、 よく*繋け念ねん相続そうぞくして断たえざるはすなはちこれ*功く徳どく門もんなり。
不可得 固定的な実体はないということ。
繋念 係念、 懸念とも書く。 想いをかけること。
行者亦爾。念↢阿弥陀仏↡時、亦如↢彼人念↟渡、念念相次無↢余心想間雑↡、或念↢仏法身↡、或念↢仏神力↡、或念↢仏智慧↡、或念↢仏毫相↡、或念↢仏相好↡、或念↢仏本願↡。称↠名亦爾。但能専至相続不↠断、定生↢仏前↡。今勧↢後代学者↡。若欲↠会↢其二諦↡、但知↢念念不可得↡即是智慧門、而能繋念相続不↠断即是功徳門。
このゆゑに ¬経きょう¼ (維摩経・意) にのたまはく、 「*菩ぼ薩さつ摩訶まか薩さつつねに功く徳どく・智慧ちえをもつて、 もつてその心しんを修しゅす」 と。 ▼もし始し学がくのものは、 いまだ*相そうを破はすることあたはず、 ただよく相そうによりて専せん至しせば、 往おう生じょうせざるはなし。 疑うたがふべからず。
相 具体的なすがたかたち。
是故¬経¼云。「菩薩摩訶薩、恒以↢功徳智慧↡以修↢其心↡。」若始学者、未↠能↠破↠相、但能依↠相専至、無↠不↢往生↡。不↠須↠疑也。
・ 第五問答 臨終修念
また問とひていはく、 ¬*無む量りょう寿じゅ大だい経きょう¼ (上) にのたまはく、 「▲十方ぽうの衆しゅ生じょう、 心しんを至いたし信しん楽ぎょうして、 わが国くにに生しょうぜんと欲ほっして、 すなはち十念ねんに至いたるまでせん。 もし生しょうぜずは、 正しょう覚がくを取とらじ」 (第十八願) と。 いま世せ人にんありて、 この聖教しょうぎょうを聞ききて現在げんざいの*一形ぎょうまつたく意こころをなさず、 臨終りんじゅうの時ときに擬ぎしてまさに修念しゅねんせんと欲ほっす。 この事じいかん。
又問曰。¬無量寿大経¼云。「十方衆生、至↠心信楽欲↠生↢我国↡乃至十念。若不↠生者不↠取↢正覚↡。」今有↢世人↡聞↢此聖教↡現在一形全不↠作↠意、擬↢臨終時↡方欲↢修念↡。是事云何。
答こたへていはく、 この事じ類るいせず。 なんとなれば、 経きょうに▼十念ねん相続そうぞくとのたまふは、 難かたからざるに似若にたり。 しかれどももろもろの凡ぼん夫ぶの心しんは野馬やめのごとく、 識しきは猿猴えんこうよりも劇はげし。 六塵じんに馳騁ちちょうして、 なんぞかつて*停息じょうそくせん。 おのおのすべからくよろしく信心しんじんを発おこして、 あらかじめみづから*剋念こくねんし、 積習しゃくじゅうして*性しょうを成じょうじ、 善根ぜんごんをして堅けん固ごならしむべし。 仏ぶつ、 大王だいおうに告つげたまふがごとし。 「人ひと善行ぜんごんを積つめば、 死しするとき悪念あくねんなし。 樹じゅの先さきより傾かたむけるは倒たおるるに、 かならず曲まがれるに随したがふがごとし」 (大智度論・意) と。
停息 とどまって休息すること。
剋念 心をはげまして努力すること。
性 (善なる) 性質。
答曰。此事不↠類。何者¬経¼云↢十念相続↡、似↢若不↟難。然諸凡夫、心如↢野馬↡、識劇↢猨猴↡、馳↢騁六塵↡何曾停息。各須↧宜発↢信心↡、預自剋念、使↦積習成↠性善根堅固↥也。如↣仏告↢大王↡。人積↢善行↡死無↢悪念↡。如↢樹先傾倒必随↟曲也。
もし*刀風とうふう一たび至いたれば、 百苦ひゃっく身みに湊あつまる。 もし習ならい先さきよりあらずは、 懐え念ねんなんぞ弁べんずべけんや。 おのおのよろしく同どう志し*三五あらかじめ*言要ごんようを結むすび、 命終みょうじゅうの時ときに臨のぞみてたがひにあひ開暁かいぎょうして、 ために弥陀みだの名みょう号ごうを称しょうして安楽あんらく国こくに生しょうぜんと願がんじ、 声々しょうしょうあひ次ついで十念ねんを成じょうぜしむべし。 ▼たとへば*蝋印ろういんをもつて泥でいに印いんするに、 印いん壊こわれて文もん成じょうずるがごとし。 ここに命いのち断たゆる時ときは、 すなはちこれ安楽あんら、 く国こくに生しょうずる時ときなり。 一たび正定しょうじょう聚じゅに入いれば、 さらになんの憂うれふるところかあらん。 おのおのよろしくこの大だい利りを量はかるべし。 なんぞあらかじめ剋念こくねんせざらんや。
三五 三人でも五人でも。
言要を結び 約束し。
蝋印を… 蝋印を熱い泥土におすと蝋印は壊れるが文字は残る。
若刀風一至百苦湊↠身、若習先不↠在懐念何可↠弁。各宜↧同志三五預結↢言要↡、臨↢命終時↡迭相開暁為称↢弥陀名号↡、願↠生↢安楽国↡、声声相次使↞成↢十念↡也。譬如↢臘印印↠泥印壊文成↡。此命断時即是生↢安楽国↡時。一入↢正定聚↡更何所↠憂、各宜↠量↢此大利↡。何不↢預剋念↡也。
・ 第六問答 無生之生
▲また問とひていはく、 もろもろの*大乗だいじょう経論きょうろんにみな、 「一切さい衆しゅ生じょうは*畢竟ひっきょう無む生しょうにしてなほ虚こ空くうのごとし」 といへり。 いかんぞ天親てんじん・龍樹りゅうじゅ菩ぼ薩さつみな往おう生じょうを願がんずるや。
大乗経論 ¬維摩経ゆいまぎょう¼ ¬大だい智度ちど論ろん¼ 等の経論のこと。
畢竟無生 本来、 消滅しょうめつ変化のないこと。
又問曰。諸大乗経論皆言↣「一切衆生畢竟無生猶若↢虚空↡。」云何天親・龍樹菩薩皆願↢往生↡也。
答こたへていはく、 「衆しゅ生じょうは畢竟ひっきょう無む生しょうにして虚こ空くうのごとし」 といふは、 二種しゅの義ぎあり。
答曰。言↣衆生畢竟無生如↢虚空↡者、有↢二種義↡。
一には凡ぼん夫ぶ人にんの所見しょけんのごときは、 実じつの衆しゅ生じょう、 実じつの生しょう死じ等とうなり。 もし菩ぼ薩さつによらば、 往おう生じょうは畢竟ひっきょうじて虚こ空くうのごとく兎と角かくのごとし。
一者如↢凡夫人所見↡実衆生実生死等。若拠↢菩薩往生↡畢竟如↢虚空↡如↢兎角↡。
二にはいま 「生しょう」 といふはこれ因縁いんねん生しょうなり。 生しょうなるがゆゑにすなはちこれ*仮名けみょうの生しょうなり。 仮名けみょうの生しょうなるがゆゑにすなはちこれ無む生しょうなり。 大道だいどう理りに違いせず。 凡ぼん夫ぶの実じつの衆しゅ生じょう、 実じつの生しょう死じありと謂いふがごときにはあらず。
仮名 実体のないものに仮につけられた名。
二者今言↠生者是因縁生。因縁生故即是仮名生。仮名生故即是無生、不↠違↢大道理↡也。非↠如↢凡夫謂↟有↢実衆生実生死↡也。
・ 第七問答 生何可尽
▲また問とひていはく、 それ生しょうは有うの本ほんたり、 すなはちこれ*衆累しゅるいの元もとなり。 もしこの過かを知しりて生しょうを捨すて無む生しょうを求もとめば、 脱のがるる期ごあるべし。 いますでに浄じょう土どに生しょうずることを勧すすむ。 すなはちこれ生しょうを棄すてて生しょうを求もとむ。 生しょうなんぞ尽つくべけんや。
衆累 さまざまなわずらい。
又問曰。夫生為↢有本↡、乃是衆累之元。若知↢此過↡捨↠生求↢無生↡者可↠有↢脱期↡。今既勧↠生↢浄土↡、即是棄↠生求↠生、生何可↠尽。
答こたへていはく、 しかるにかの浄じょう土どは、 すなはちこれ阿弥陀あみだ如来にょらいの清浄しょうじょう本願ほんがんの無む生しょうの生しょうなり。 三有ぬの衆しゅ生じょうの*愛染あいぜん虚こ妄もうの執着しゅうじゃくの生しょうのごときにはあらず。 なにをもつてのゆゑに。 それ法ほっ性しょう清浄しょうじょうにして畢竟ひっきょう無む生しょうなればなり。 しかるに生しょうといふは得生とくしょうのものの情こころなるのみと。
愛染虚妄 うそいつわりでとらわれの心。
答曰。然彼浄土乃是阿弥陀如来清浄本願無生之生。非↠如↢三有衆生愛染虚妄執著生↡也。何以故。夫法性清浄畢竟無生。而言↠生者得生者之情耳。
・ 第八問答 実生願生
▲また問とひていはく、 上かみにいふところのごとく、 生しょうは無む生しょうなりと知しるは、 まさに*上品じょうぼん生しょうのものなるべし。 もししからば*下げ品ぼん生しょうの人ひとの十念ねんに乗じょうじて往おう生じょうするは、 あに実じつの生しょうを取とるにあらずや。 もし実じつの生しょうならば、 すなはち二疑ぎに堕だす。 一にはおそらくは往おう生じょうを得えず。 二にはいはく、 この*相善しょうぜん、 無む生しょうのために因いんとなることあたはず。
上品生 ¬観経¼ に説かれる九品往生のうち、 上品上生、 上品中生、 上品下生のものをいう。 →
九く品ぼん
又問曰。如↢上所↟言知↢生・無生↡当↢上品生者↡。若爾下品生人乗↢十念↡往生者豈非↠取↢実生↡也。若実生者即堕↢二疑↡。一恐不↠得↢往生↡。二謂此相善不↠能↧与↢無生↡為↞因也。
答こたへていはく、 釈しゃくするに三番ばんあり。
答曰。釈有↢三番↡。
a. 浄摩尼珠譬
▲一にはたとへば*浄じょう摩尼まに珠しゅ、 これを濁水じょくすいに置おけば、 珠たまの威い力りきをもつて水みずすなはち澄清ちょうしょうなるがごとし。 もし人ひと無む量りょう生しょう死じの罪濁ざいじょくありといへども、 もし阿弥陀あみだ如来にょらいの至し極ごく無む生しょう清浄しょうじょうの宝珠ほうしゅの名みょう号ごうを聞ききてこれを濁心じょくしんに投とうずれば、 念々ねんねんのうちに罪つみ滅めっし心しん浄きよくして即便すなわち往おう生じょうす。
浄摩尼珠 摩尼まに宝珠ほうしゅのこと。 意のままに財宝や衣服・飲食などを出す徳をもつ宝珠。 また悪を去り、 濁水をきよらかにし、 禍わざわいを去る徳をもつともいう。
一譬如↧浄摩尼珠置↢之濁水↡以↢珠威力↡水即澂清↥。若人雖↠有↢無量生死罪濁↡、若聞↢阿弥陀如来至極無生清浄宝珠名号↡投↢之濁心↡、念念之中罪滅心浄即便往生。
b. 玄黄帛譬
▲二には浄じょう摩尼まに珠しゅを玄黄げんおうの帛はくをもつて裹つつみてこれを水みずに投とうずれば、 水みずすなはち玄黄げんおうにしてもつぱら物ものの色いろのごとくなるがごとし。 かの清浄しょうじょう仏ぶつ土どに、 阿弥陀あみだ如来にょらいの無上むじょう宝珠ほうしゅの名みょう号ごうまします。 無む量りょうの功く徳どく成就じょうじゅの帛はくをもつて裹つつみてこれを往おう生じょうするところのものの心水しんすいのうちに投とうずるに、 あに生しょうを転てんじて*無む生しょうの智ちとなすことあたはざらんや。
無生の智 不生ふしょう不ふ滅めつの理をさとる
智慧ちえのこと。 →
無む生しょう
二如↧浄摩尼珠以↢玄黄帛↡裹投↢之於水↡、水即玄黄一如↦物色↥。彼清浄仏土有↢阿弥陀如来無上宝珠名号↡、以↢無量功徳成就帛↡裹投↧之所↢往生↡者心水之中↥、豈不↠能↣転↠生為↢無生智↡乎。
c. 氷上燃火
▲三にはまた氷こおりの上うえに火ひを燃たくに、 火ひ猛たけければすなはち氷こおり液とく、 氷こおり液とくればすなはち火ひ滅めっするがごとし。 かの下げ品ぼん往おう生じょうの人ひとは法ほっ性しょう無む生しょうを知しらずといへども、 ただ仏名ぶつみょうを称しょうする力ちからをもつて往おう生じょうの意こころをなし、 かの土どに生しょうぜんと願がんじて、 すでに無む生しょうの界さかいに至いたる時ときに見生けんしょうの火ひ自じ然ねんに滅めっす。
三亦如↢冰上然↠火火猛則冰液、冰液則火滅↡。彼下品往生人雖↠不↠知↢法性無生↡但以↧称↢仏名↡力↥作↢往生意↡、願↠生↢彼土↡既至↢無生界↡、時見生之火自然而滅也。
・ 第九問答 浄穢仮名人
▲また問とひていはく、 なんの身みによるがゆゑに往おう生じょうを説とくや。
又問曰。依↢何身↡故説↢往生↡也。
答こたへていはく、 この間けんの*仮名けみょう人にんのなかにおいて、 もろもろの行門ぎょうもんを修しゅすれば、 前念ぜんねんは後ご念ねんのために因いんとなる。 穢土えどの仮名けみょう人にんと浄じょう土どの仮名けみょう人にんと決けつ定じょうして一なることを得えず、 決けつ定じょうして異ことなることを得えず。 前心ぜんしん後ご心しんもまたかくのごとし。 なにをもつてのゆゑに。 もし決けつ定じょうして一ならばすなはち因いん果がなからん。 もし決けつ定じょうして異いならばすなはち相続そうぞくにあらず。 この義ぎをもつてのゆゑに、 横竪おうしゅ別べつなりといへども、 始終しじゅうこれ一の行者ぎょうじゃなり。
仮名人 仮名とは実体のないものに仮につけた名という意で、 人といっても
五蘊ごうん (五陰) が
因縁いんねんによって仮に和合したものであるから仮名人という。 →
五ご陰おん
答曰。於↢此間仮名人中↡修↢諸行門↡。前念与↢後念↡作↠因、穢土仮名人浄土仮名人不↠得↢決定一↡、不↠得↢決定異↡、前心後心亦如↠是。何以故、若決定一則無↢因果↡、若決定異則非↢相続↡。以↢是義↡故、横竪雖↠別始終是一行者也。
・ 第十問答 名法即非
▲また問とひていはく、 もし人ひとただよく仏ぶつの名みょう号ごうを称となへてよくもろもろの障さわりを除のぞかば、 もししからば、 たとへば人ひとありて指ゆびをもつて月つきを指さすがごとし。 この指ゆびよく闇やみを破はすべきや。
又問曰。若人但能称↢仏名号↡能除↢諸障↡者、若爾、譬如↢有↠人以↠指指↟月。此指応↢能破↟闇也。
答こたへていはく、 ▼諸法しょほう万差まんじゃなり。 一概がいすべからず。 なんとなれば、 おのづから*名なの法ほうに即そくするあり、 おのづから名なの法ほうに異いするあり。 名なの法ほうに即そくするありとは、 諸仏しょぶつ・菩ぼ薩さつの名みょう号ごう、 *禁呪きんじゅの音おん辞じ、 修しゅ多羅たらの章句しょうく等とうのごときこれなり。
名の法に即するあり 名と名によって示されるもの (法) のはたらきとが一体であるという意。
禁呪の音辞 悪やわざわいをとどめるための呪文。
答曰。諸法万差、不↠可↢一↡。何者自有↢名即↟法、自有↢名異↟法。有↢名即↟法者、如↢諸仏・菩薩名号、禁呪音辞、修多羅章句等↡是也。
▲禁呪きんじゅの辞ことばに、 「*日出にっしゅつ東方とうぼう乍赤さしゃく乍さ黄おう」 といはんに、 たとひ*酉亥ゆうがいに禁きんを行ぎょうずるも、 患わずらへるものまた愈いゆるがごとし。
日出東方… 中国に古くから伝わる呪文の一種と考えられる。
酉亥に… 酉亥は午後五時頃から午後十一時頃までのこと。 日の出とは関係のないこの時刻に 「日出…」 の呪文をとなえても、 腫物がひくという意。
如↧禁呪辞曰↢「日出東方乍赤乍黄↡。」仮令酉亥行↠禁患者亦愈↥。
▼また人ひとありて狗いぬの所噛しょこうを被こうむらんに、 虎とらの骨ほねを炙あぶりてこれを熨のせば、 患わずらへるものすなはち愈いゆ。 あるいは時ときに骨ほねなければ、 よく掌たなごころをひろげてこれを磨すり、 口くちのなかに喚よびて 「虎こ来らい虎こ来らい」 といはんに、 患わずらへるものまた愈いゆるがごとし。
又如↧有↠人被↢狗所噛↡炙↢虎骨↡↠之患者即愈、或時無↠骨、好↠掌摩↠之、口中喚言↢「虎来虎来」↡、患者亦愈↥。
▲あるいはまた人ひとありて脚転筋こむらがえりを患わずらはんに、 木瓜ぼけの枝えだを炙あぶりてこれを熨のせば、 患わずらへるものすなはち愈いゆ。 あるいは木瓜ぼけなければ、 手てを炙あぶりてこれを磨すりて、 口に 「木瓜ぼけ木瓜ぼけ」 と喚よべば、 患わずらへるものまた愈いゆ。 わが身みにその効しるしを得えたり。 なにをもつてのゆゑに。 名なの法ほうに即そくするをもつてのゆゑなり。
或復有↠人患↢脚転筋↡、炙↢木瓜枝↡↠之患者即愈、或無↢木瓜↡炙↠手磨↠之、口喚↢「木瓜木瓜↡」患者亦愈。吾身得↢其効↡也。何以故、以↢名即↟法故。
▼名なの法ほうに異いするありとは、 指ゆびをもつて月つきを指さすがごときこれなり。
有↢名異↟法者、如↢以↠指指↟月是也。
・ 第十一問答 三不三信
また問とひていはく、 もし人ひとただ弥陀みだの名みょう号ごうを称念しょうねんすれば、 ▲よく十方ぽうの衆しゅ生じょうの無む明みょうの黒闇こくあんを除のぞきて往おう生じょうを得うといはば、 ▲しかるに衆しゅ生じょうありて名なを称しょうし憶念おくねんすれども、 無む明みょうなほありて所願しょがんを満みてざるはなんの意こころぞ。
又問曰。若人但称↢念弥陀名号↡能除↢十方衆生無明黒闇↡得↢往生↡者、然有↢衆生↡称↠名憶念而無明猶在不↠満↢所願↡者何意。
答こたへていはく、 ▲如実にょじつ修行しゅぎょうせず、 *名義みょうぎと相応そうおうせざるによるがゆゑなり。 所以ゆえんはいかん。 いはく、 如来にょらいはこれ*実相じっそう身しん、 これ*為い物もつ身しんなりと知しらず。
名義 名号の意義、 いわれ。
実相身 実相 (
真如しんにょ) をさとり、 自利の徳をそなえた仏身。 →
補註1
為物身 物は
衆しゅ生じょうの意。 衆生を救う利他の徳をそなえた仏身。 →
補註1
答曰。由↧不↢如実修行↡、与↢名義↡不↦相応↥故也。所以者何、謂不↠知↢如来是実相身、是為物身↡。
▲*また三種しゅの不ふ相応そうおうあり。 ▼一には信心しんじん淳あつからず、 存ぞんぜるがごとく亡もうぜるがごとくなるがゆゑなり。 二には信心しんじん一ならず、 いはく、 決けつ定じょうなきがゆゑなり。 三には信心しんじん相続そうぞくせず、 いはく、 余よ念ねん間へだつるがゆゑなり。 たがひにあひ収摂しゅうしょうす。
復有↢三種不相応↡、一者信心不↠淳、若↠存若↠亡故。二者信心不↠一、謂無↢決定↡故。三者信心不↢相続↡、謂余念間故。迭相収摂。
▼もしよく相続そうぞくすればすなはちこれ一心しんなり。 ただよく一心しんなれば、 すなはちこれ淳心じゅんしんなり。 この三心しんを具ぐしてもし生しょうぜずといはば、 この処ことわりあることなからん。
若能相続則是一心。但能一心即是淳心。具↢此三心↡若不↠生者無↠有↢是処↡。
◎第三大門
【23】第だい三大門だいもんのなかに四番ばんの*料簡りょうけんあり。 第だい一には難行なんぎょう道どう・易い行ぎょう道どうを弁べんず。 第だい二には時じ劫こうの大小だいしょう不ふ同どうを明あかす。 第だい三には無始むし世せ劫こうよりこのかた、 この*三界がい・五道どうに処しょして、 *善悪ぜんあく二業ごうに乗じょうじて苦く楽らくの両報りょうほうを受うけ、 輪りん廻ね無む窮ぐうにして生しょうを受うくること無む数しゅなることを明あかす。 第だい四には聖教しょうぎょうをもつて*証成しょうじょうして、 後代こうだいを勧すすめて信しんを生しょうじ往ゆくことを求もとめしむ。
第三大門中有↢四番料簡↡。第一弁↢難行道・易行道↡。第二明↢時劫大小不同↡。第三明↧従↢無始世劫↡已来、処↢此三界五道↡乗↢善悪二業↡受↢苦楽両報↡、輪迴無窮受↠生無数↥。第四将↢聖教↡証成勧↢後代↡生↠信求↠往。
◎第三大門 ○難易二道
【24】第だい一に難行なんぎょう道どう・易い行ぎょう道どうを弁べんずとは、 なかに二あり。 一には二種しゅの道どうを出いだし、 二には問答もんどう解釈げしゃくす。
第一弁↢難行道・易行道↡者、於↠中有↠二。一出↢二種道↡、二問答解釈。
余よ (道綽) すでにみづから火か界かいに居こして、 実じつに想おもふに怖おそれを懐いだけり。 仰あおぎておもんみれば、 大聖だいしょう (釈尊) *三車しゃをもつて招慰しょういし、 しばらく羊鹿ようろくの運うんは*権かりの息いこいにしていまだ達たっせず。 仏ぶつ、 邪執じゃしゅうは上求じょうぐ菩ぼ提だいを障さふと*訶かしたまふ。 たとひ後のちに回え向こうするも、 なほ迂回うえと名なづく。 もしただちに*大車だいしゃに挙あがるも、 またこれ一途ずなり。 ただおそらくは現げんに*退たい位いに居こして*嶮径けんけいはるかに長ながきことを。 自じ徳とくいまだ立たたず。 昇進しょうしんすべきこと難かたし。
三車を… ¬法華ほけ経きょう¼ 「譬喩ひゆ品ぼん」 の火か宅たく三車の喩えによっていう。 この喩えは、 火宅の邸宅から子供を救い出すために、 羊鹿牛の三車 (玩具の乗物) を与えるからといって、 屋外につれだすというもの。 羊車ようしゃ・鹿ろく車しゃ・牛ご車しゃをそれぞれ声しょう聞もん乗じょう・縁覚えんがく乗じょう・菩ぼ薩さつ乗じょうに喩える。
権の息… 仮の休息であって、 真のさとりには到達していない。
訶し 誡めるの意。
大車 大だい白びゃく牛ご車しゃ。 大乗の法を喩えたもの。
退位 仏道より退転する可能性のある位。
嶮径 修行のけわしい道。
餘既自居↢火界↡実想懐↠怖。仰惟大聖三車招慰、且羊鹿之運、権息未↠達。仏訶↣邪執鄣↢上求菩提↡。縦後迴向仍名↢迂迴↡。若径攀↢大車↡亦是一途。只恐現居↢退位↡嶮径遥長。自徳未↠立、難↠可↢昇進↡。
このゆゑに*龍樹りゅうじゅ菩ぼ薩さついはく、 「▲*阿毘あび跋致ばっちを求もとむるに二種しゅの道みちあり。 一には*難行なんぎょう道どう、 二には*易い行ぎょう道どうなり。
龍樹菩薩いはく… 引用は ¬易行品¼ の意にもとづく ¬
論註¼ (上) の文。
是故龍樹菩薩云。「求↢阿跋致↡有↢二種道↡。一者難行道、二者易行道。
▲ª難行なんぎょう道どうº といふは、 いはく、 *五濁じょくの世よ、 無む仏ぶつの時ときにありて阿毘あび跋致ばっちを求もとむるを難なんとなす。 この難なんにすなはち多途たずあり。 略りゃくして述のぶるに五あり。 なんとなれば、 一には*外げ道どうの*相善しょうぜんは*菩ぼ薩さつの法ほうを乱みだる。 二には*声しょう聞もんは自利じりにして大だい慈悲じひを障さふ。 三には無顧むこの悪人あくにんは他たの勝徳しょうとくを破やぶる。 四にはあらゆる*人天にんでんの顛倒てんどうの善ぜん果かは、 人ひとの梵行ぼんびょうを壊こぼつ。 五にはただ*自じ力りきのみありて*他た力りきの持たもつなし。 かくのごとき等らの事じ、 目めに触ふるるにみなこれなり。 たとへば陸ろく路ろの歩行ぶぎょうはすなはち苦くるしきがごとし。 ゆゑに難行なんぎょう道どうといふ。
菩薩の法 自利利他の行。
人天の顛倒の善果 人間・天上界に生れる果報は、 善果といっても迷いの境界の中であるので顛倒という。
言↢難行道↡者、謂在↢五濁之世於無仏時↡求↢阿跋致↡為↠難。此難乃有↢多途↡。略述有↠五。何者一者外道相善乱↢菩薩法↡。二者声聞自利鄣↢大慈悲↡。三者無↠顧↠悪人破↢他勝徳↡。四者所有人天顛倒善果壊↢人梵行↡。五者唯有↢自力↡無↢他力持↡。如↠斯等事触↠目皆是。譬如↢陸路歩行則苦↡、故曰↢難行道↡。
▲ª易い行ぎょう道どうº といふは、 いはく、 *信仏しんぶつの因縁いんねんをもつて浄じょう土どに生しょうぜんと願がんじて、 心しんを起おこし徳とくを立たて、 もろもろの行業ぎょうごうを修しゅすれば、 仏願ぶつがん力りきのゆゑに即便すなわち往おう生じょうす。 *仏力ぶつりき住持じゅうじするをもつてすなはち大乗だいじょう正定しょうじょうの聚じゅに入いる。 正定しょうじょう聚じゅとはすなはちこれ阿毘あび跋致ばっち不ふ退たいの位くらいなり。 たとへば水すい路ろに船ふねに乗じょうずればすなはち楽たのしきがごとし。 ゆゑに易い行ぎょう道どうと名なづく」 と。
仏力住持する 仏の本願力が支えたもつという意。
言↢易行道↡者、謂以↢信仏因縁↡願↠生↢浄土↡起↠心立↠徳修↢諸行業↡、仏願力故即便往生、以↢仏力住持↡即入↢大乗正定聚↡。正定聚者即是阿跋致不退位也。譬如↢水路乗↠船則楽↡、故名↢易行道↡也。」
問とひていはく、 *菩ぼ提だいはこれ一なり。 修因しゅいんまた不ふ二なるべし。 なんがゆゑぞ、 ここにありて因いんを修しゅして仏ぶっ果かに向むかふを名なづけて難行ぞうぎょうとなし、 浄じょう土どに往おう生じょうして大だい菩ぼ提だいを期ごするをすなはち易い行ぎょう道どうと名なづくるや。
問曰。菩提是一。修因亦応↢不二↡。何故在↠此修↠因向↢仏果↡名為↢難行↡、往↢生浄土↡期↢大菩提↡乃名↢易行道↡也。
答こたへていはく、 もろもろの大乗だいじょう経きょうに弁べんずるところの一切さいの行法ぎょうほうに、 みな↓自じ力りき・↓他た力りき、 *自摂じしょう・他摂たしょうあり。
自摂他摂 自摂は自力によってたもつこと。 他摂は他力によってたもつこと。
答曰。諸大乗経所↠弁一切行法皆有↢自力・他力、自摂・他摂↡。
何者なにものか↑自じ力りき。 たとへば人ひとありて生しょう死じを怖畏ふいして、 *発心ほっしん出家しゅっけして定じょうを修しゅし、 *通つうを発おこして四天てん下げに遊あそぶがごときを名なづけて自じ力りきとなす。
何者自力。譬如↧有↠人怖↢畏生死↡発心出家修↠定発↠通遊↦四天下↥名為↢自力↡。
何者なにものか↑他た力りき。 △劣れっ夫ぷありて己こ身しんの力ちからに信まかせて*驢ろに擲あがりて上のぼらざれども、 もし*輪王りんのうに従したがへばすなはち空くうに乗じょうじて*四天てん下げに遊あそぶがごとし。 すなはち輪王りんのうの威い力りきのゆゑに他た力りきと名なづく。
驢 ろば。
何者他力。如↧有↢劣夫↡以↢己身力↡擲↠驢不↠上、若従↢輪王↡即便乗↠空遊↦四天下↥。即輪王威力故名↢他力↡。
衆しゅ生じょうもまたしかなり。 ▼ここにありて心しんを起おこし行ぎょうを立たて浄じょう土どに生しょうぜんと願がんずるは、 これはこれ自じ力りきなり。 命終みょうじゅうの時ときに臨のぞみて、 阿弥陀あみだ如来にょらい*光台こうだい迎接こうしょうして、 つひに往おう生じょうを得うるをすなはち他た力りきとなす。
光台迎接して 光輝く蓮れん華げの台座に迎えとられて。
衆生亦爾。在↠此起↠心立↠行願↠生↢浄土↡、此是自力。臨↢命終時↡阿弥陀如来光台迎接遂得↢往生↡即為↢他力↡。
ゆゑに ¬大だい経きょう¼ (上・意) にのたまはく、 「十方ぽうの人天にんでん、 わが国くにに生しょうぜんと欲ほっするものはみな▲阿弥陀あみだ如来にょらいの大願だいがん業力ごうりきをもつて*増上ぞうじょう縁えんとなさざるはなし」 と。 もしかくのごとくならずは、 四十八願がんすなはちこれ*徒と設せつならん。
徒設 いたずらに設けられたもの。
故¬大経¼云。「十方人天欲↠生↢我国↡者莫↠不↧皆以↢阿弥陀如来大願業力↡為↦増上縁↥也。」若不↠如↠是四十八願便是徒設。
後学こうがくのものに語かたる。 ▼すでに他た力りきの乗じょうずべきあり。 みづからおのが分ぶんを局かぎり、 いたづらに火か宅たくにあることを得えざれ。
語↢後学者↡、既有↢他力可↟乗、不↠得↧自局↢己分↡徒在↦火宅↥也。
◎第三大門 ○劫之大小
【25】第だい二に劫こうの大小だいしょうを明あかすとは、 ¬智度ちど論ろん¼ (意) にいふがごとし。 「劫こうに三種しゅあり。 いはく一には小しょう、 二には中ちゅう、 三には大だいなり。 方ほう四十里りのごとき城しろあり、 *高こう下げもまたしかなり。 なかに芥子けしを満みてて、 長寿ちょうじゅの諸天しょてんありて三年ねんに一を去さり、 すなはち芥子けし尽つくるに至いたるを一小劫しょうこうと名なづく。 あるいは八十里りの城しろあり、 高こう下げもまたしかなり。 芥子けしをなかに満みてて、 前さきのごとく取とり尽つくすを一中劫ちゅうこうと名なづく。 あるいは百ひゃく二十里りの城しろあり、 高こう下げもまたしかなり。 芥子けしをなかに満みてて取とり尽つくすこと、 もつぱら前さきの説せつに同おなじきをまさに大劫だいこうと名なづく。 あるいは八十里りの石いしあり、 高こう下げもまたしかなり。 一の長寿ちょうじゅの諸天しょてんありて、 三年ねんに天てん衣えをもつて一たび払はらふ。 天てん衣えの重おもさ*三銖じゅなり。 払はらふことをなすこと已やまず、 この石いしすなはち尽つくるを名なづけて中劫ちゅうこうとなす。 その小石しょうせき・大石だいせき前さきの中劫ちゅうこうに類るいす、 知しるべし」 と。 労わずらはしくつぶさに述のべず。
高下 高さの意。
三銖 銖は重さの単位。 一銖は一両の二十四分の一。 周代の一銖は約 0.67 グラム。
第二明↢劫之大小↡者、如↢¬智度論¼云↡。劫有↢三種↡。謂一小、二中、三大。如↢方四十里城、高下亦然↡。満↢中芥子↡有↢長寿諸天↡三年去↠一乃至芥子尽名↢一小劫↡。或八十里城高下亦然、芥子満↠中如↠前取尽名↢一中劫↡。或百二十里城高下亦然、芥子満↠中取尽一同↢前説↡方名↢大劫↡。或八十里石高下亦然、有↢一長寿諸天↡三年以↢天衣↡一払。天衣重三銖、為払不↠已、此石乃尽名為↢中劫↡。其小石・大石類↢前中劫↡、可↠知。不↢労具述↡。
◎第三大門 ○輪廻無窮
【26】第だい三門もんのなかに五番ばんあり。
第三門中有↢五番↡。
1. 受身無数
第だい一に無始むし劫こうよりこのかたここにありて、 *輪りん廻ね無む窮ぐうにして身みを受うくること無む数しゅなることを明あかすとは、
第一明↧従↢無始劫↡来、在↠此輪迴無窮受↠身無数↥者、
¬智度ちど論ろん¼ (意) にいふがごとし。 「人中にんちゅうにありて、 あるいは張家ちょうけに死しして王おう家けに生しょうじ、 王おう家けに死しして李家りけに生しょうず。 かくのごとく*閻えん浮ぶ提だいの界さかいを尽つくして、 あるいはかさねて生しょうじ、 あるいは異家いけに生しょうず。 あるいは*南なん閻えん浮ぶ提だいに死しして*西さい拘耶尼くにやに生しょうず。 閻えん浮ぶ提だいのごとく余よの三天てん下げもまたかくのごとし。 *四天てん下げに死しして*四天王てんのう天てんに生しょうずることもまたかくのごとし。 あるいは四天王てんのう天てんに死しして*忉利天とうりてんに生しょうず。 忉利天とうりてんに死しして余よの*上じょう四天てんに生しょうずることもまたかくのごとし。*色界しきかいに*十八重天じゅうてんあり、 *無む色界しきかいに*四重天じゅうてんあり。 ここに死ししてかしこに生しょうず。 一々にみなあまねきことまたかくのごとし。 あるいは色界しきかいに死しして*阿鼻あび地じ獄ごくに生しょうず。 阿鼻あび地じ獄ごくのなかに死しして余よの*軽繋きょうけ地じ獄ごくに生しょうず。 軽繋きょうけ地じ獄ごくのなかに死しして*畜生ちくしょうのなかに生しょうず。 畜生ちくしょうのなかに死しして*餓鬼がき道どうのなかに生しょうず。 餓鬼がき道どうのなかに死ししてあるいは人天にんでんのなかに生しょうず。 かくのごとく*六道どうに輪りん廻ねして苦く楽らくの二報ほうを受うけ、 生しょう死じ窮きわまりなし。 *胎生たいしょうすでにしかなり。 *余よの三生しょうもまたかくのごとし」 と。
西拘耶尼 須しゅ弥み山せんの西にあるといわれる大陸。 →
四し天てん下げ
十八重天 ¬大だい智度ちど論ろん¼ 等の大乗の説では、 色界しきかいに十八の天があるという。
四重天 空くう無む辺へん処しょ天てん・識しき無む辺へん処しょ天てん・無む所しょ有う処しょ天てん・非ひ想そう非ひ非ひ想そう処しょ天てんの四。
軽繋地獄 八大地獄に付属する小地獄 (眷属けんぞく地獄・別処) のこ。
如↢¬智度論¼云↡。「在↢於人中↡或張家死王家生、王家死李家生。如↠是尽↢閻浮提界↡、或重生或異家生。或南閻浮提死西拘耶尼生。如↢閻浮提↡余三天下亦如↠是。如四天下死生↢四天王天↡亦如↠是。或四天王天死忉利天生。忉利天死生↢余上四天↡亦如↠是。色界有↢十八重天↡、無色界有↢四重天↡。此死生↠彼。一一皆徧亦如↠是。或色界死生↢阿鼻地獄↡。阿鼻地獄中死生↢余軽繋地獄↡。軽繋地獄中死生↢畜生中↡。畜生中死生↢餓鬼道中↡。餓鬼道中死或生↢人天中↡。如↠是輪↢迴六道↡受↢苦楽二報↡生死無↠窮。胎生既爾、余三生亦如↠是。」
このゆゑに ¬*正しょう法ぼう念ねん経ぎょう¼ (意) にのたまはく、 「菩ぼ薩さつ化生けしょうしてもろもろの天衆てんしゅに告つげていはく、
ªおほよそ人ひとこの百千ひゃくせん生しょうを経へて、 楽らくに着じゃくし*放逸ほういつにして道どうを修しゅせず。
放逸 おこたりなまけること。
*往福おうふくやうやく已おわり尽つき、 還かえりて*三塗ずに堕だして衆しゅ苦くを受うくることを覚さとらずº」 と。
往福 過去の福徳の善根ぜんごん。
是故¬正法念経¼云。「菩薩化生告↢諸天衆↡云。凡人経↢此百千生↡著↠楽放逸不↠修↠道。不↠覚↧往福侵已尽還堕↢三塗↡受↦衆苦↥。」
このゆゑに ¬*涅ね槃はん経ぎょう¼ にのたまはく、
「この身みは苦くの集あつまるところなり。 一切さいみな不浄ふじょうなり。
*扼縛やくばく癰瘡ようそう等とうの根本こんぽんにして、 *義利ぎりあることなし。
扼縛癰瘡 扼・縛はしばりつけるの意、 癰・瘡ははれものの意で、 ここではこれらを煩悩ぼんのうに喩える。
義利 利り益やく。
上かみ諸天しょてんの身みに至いたるまで、 みなまたかくのごとし」 と。
是故¬涅槃経¼云。「此身苦所↠集、一切皆不浄。扼縛癰瘡等根本無↢義利↡。上至↢諸天身↡皆亦復如↠是。」
このゆゑにまたかの ¬経きょう¼ (同・意) にのたまはく、 「勧すすめて不ふ放逸ほういつを修しゅせしむ。 なにをもつてのゆゑに。 それ放逸ほういつはこれ衆悪しゅあくの本もとなり。 不ふ放逸ほういつはすなはちこれ衆善しゅぜんの源みなもとなり。 日月にちがつ光こうの諸明しょみょうのなかに最さいなるがごとし。 不ふ放逸ほういつの法ほうもまたかくのごとし。 もろもろの善法ぜんぽうにおいては最さいとなし上じょうとなす。 また須しゅ弥み山王せんのうの、 もろもろの山やまのなかにおいて最さいとなし上じょうとなすがごとし。 不ふ放逸ほういつの法ほうもまたかくのごとし。 もろもろの善法ぜんぽうのなかにおいて最さいとなし上じょうとなす。 なにをもつてのゆゑに。 一切さいの悪法あくほうは放逸ほういつより生しょうず。 一切さいの善法ぜんぽうは不ふ放逸ほういつを本もととなす」 と。
是故又彼¬経¼云。「勧修↢不放逸↡。何以故、夫放逸者是衆悪之本、不放逸者乃是衆善之源。如↢日月光諸明中最↡。不放逸法亦復如↠是。於↢諸善法↡為↠最為↠上。亦如↧須弥山王於↢諸山中↡為↠最為↞上。不放逸法亦復如↠是。於↢諸善法中↡為↠最為↠上。何以故、一切悪法猶放逸而生。一切善法不放逸為↠本。」
2. 身数無際
第だい二に問とひていはく、 無始むし劫こうよりこのかた六道どうに輪りん廻ねして*無む際さいなりといふといへども、 いまだ知しらず、 一劫こうのうちにいくばくの身数しんしゅを受うくるを流る転てんといふや。
無際 きわまりない。
第二問曰。雖↠云↢無始劫