高 僧 和 讃
高僧和讃
愚禿親鸞作
○龍樹讃
*龍樹菩薩 *釈文に付けて 十首
釈文に付けて 高僧の著作によって。
(1)
*本師龍樹菩薩は
¬*智度¼ ¬*十住毘婆沙¼ 等
つくりておほく*西をほめ
すすめて念仏せしめたり
本師 本宗の祖師。
西 西方浄土。
(2)
▲*南天竺に*比丘あらん
龍樹菩薩となづくべし
*有無の邪見を破すべしと
*世尊はかねてときたまふ
南天竺 南インド。龍樹菩薩は南インドに出生した。
有無の邪見 有見・無見の誤った見解。 →
有無❷
(3)
▲本師龍樹菩薩は
*大乗無上の法をとき
**歓喜地を証してぞ
ひとへに念仏すすめける
歓喜地 「歓喜地は正定聚の位なり。 身によろこぶを歓といふ、 こころによろこぶを喜といふ。 得べきものを得てんずとおもひてよろこぶを歓喜といふ」 (異本左訓)
(4)
▲龍樹*大士世にいでて
*難行・*易行のみちをしへ
流転*輪廻のわれらをば
*弘誓のふねにのせたまふ
大士 すぐれた人。
菩薩。 「大きなる人といふなり」 (異本左訓)+
弘誓のふね 阿弥陀仏の本願を、 迷いの海をわたってさとりの彼岸に至らせる船に喩える。
(5)
▲本師龍樹菩薩の
をしへをつたへきかんひと
*本願こころに*かけしめて
つねに弥陀を称すべし
かけしめて かけたてまつりて。
(6)
▲*不退のくらゐすみやかに
えんとおもはんひとはみな
*恭敬の心に*執持して
弥陀の*名号称すべし
恭敬の心 つつしみ敬う心。 ここでは他力の信心のこと。
執持 「こころにとりたもつといふ」 (左訓)
(7)
▲*生死の苦海ほとりなし
ひさしくしづめるわれらをば
弥陀弘誓のふねのみぞ
のせてかならずわたしける
(8)
▲¬智度論¼ にのたまはく
如来は無上法皇なり
菩薩は法臣としたまひて
尊重すべきは世尊なり
(9)
▲一切菩薩ののたまはく
われら*因地にありしとき
無量*劫をへめぐりて
万善諸行を*修せしかど
因地 「凡夫にてありしときといふ」 (異本左訓)
修せしかど 修めたけれども。
(10)
*恩愛はなはだたちがたく
生死はなはだつきがたし
*念仏三昧行じてぞ
罪障を滅し*度脱せし
恩愛 父母妻子等に対する世俗的な情愛。 流転生死の因となる。
以上龍樹菩薩
○天親讃
*天親菩薩 釈文に付けて 十首
(11)
*釈迦の教法おほけれど
天親菩薩はねんごろに
*煩悩成就のわれらには
弥陀の*弘誓をすすめしむ
煩悩成就 あらゆる
煩悩を欠くことなくそなえていること。
(12)
*安養浄土の*荘厳は
*唯仏与仏の知見なり
▲*究竟せること*虚空にして
広大にして*辺際なし
唯仏与仏の知見 ただ仏と仏とのみが知りうることがら。
究竟せること その大きさが、 至りきわまっていること。
辺際なし 「ほとりきはなしとなり」 (左訓)
(13)
▲*本願力にあひぬれば
むなしくすぐるひとぞなき
▲*功徳の宝海みちみちて
煩悩の濁水へだてなし
(14)
▲如来*浄華の聖衆は
*正覚のはなより*化生して
▲*衆生の*願楽ことごとく
すみやかにとく満足す
浄華の聖衆 「浄華といふは、 阿弥陀の仏になりたまひしときの華なり。 この華に生ずる衆生は、 同一に念仏して別の道なしといふなり」 (異本左訓)
願楽 ねがい。
(15)
▲*天・人不動の聖衆は
*弘誓の智海より生ず
▲*心業の功徳清浄にて
虚空のごとく差別なし
天人不動の聖衆 天上界・人間界から浄土に生れた聖者たち。 大乗の善根を成就して動揺することがないから不動という。
弘誓の智海 本願によって成じた広大な仏の智慧を海に喩える。
心業 心のはたらき。
(16)
▲天親論主は*一心に
無礙光に*帰命す
*本願力に乗ずれば
*報土にいたるとのべたまふ
(17)
*尽十方の無礙光仏
一心に帰命するをこそ
天親論主のみことには
▲*願作仏心とのべたまへ
願作仏心 「仏にならんと願ふこころなり」 (左訓)
(18)
▲願作仏の心はこれ
*度衆生のこころなり
度衆生の心はこれ
*利他真実の信心なり
度衆生のこころ 「衆生をわたすこころなり」 (左訓)
(19)
信心すなはち*一心なり
一心すなはち*金剛心
金剛心は*菩提心
この心すなはち*他力なり
(20)
▲*願土にいたればすみやかに
*無上涅槃を証してぞ
すなはち大悲をおこすなり
これを*回向となづけたり
願土 「願土は弥陀の本誓悲願の土なり」 (異本左訓) 阿弥陀仏の本願によって成就された国土。
以上天親菩薩
○曇鸞讃
*曇鸞和尚 釈文に付けて 三十四首
(21)
▲本師曇鸞和尚は
*菩提流支のをしへにて
*仙経ながくやきすてて
浄土にふかく帰せしめき
仙経 長生不死の神仙術を説く道教の書。
(22)
▲*四論の講説さしおきて
本願他力をときたまひ
*具縛の凡衆をみちびきて
*涅槃のかどにぞいらしめし
具縛 「具縛といふは煩悩具足の凡夫といふなり」 (異本左訓)
涅槃のかど 涅槃に至る門。
(23)
▲*世俗の君子*幸臨し
勅して*浄土のゆゑをとふ
*十方仏国浄土なり
なにによりてか西にある
世俗の君子 東魏の孝静帝であろう。 以下の魏の主、 魏の天子、 君子も同じ。
幸臨 ご来訪になること。
浄土… 西方浄土のみ願生する理由を問う。
(24)
▲鸞師こたへてのたまはく
わが身は智慧あさくして
いまだ*地位にいらざれば
*念力ひとしくおよばれず
地位… 「不退の位に至らずとなり」 (左訓)
初地 (
歓喜地) 以上の菩薩の位。
念力… 「おもふ力、 余の浄土にはかなはずとなり」 (異本左訓) 十方の浄土を平等に念ずる力がないということ。
(25)
▲一切*道俗もろともに
帰すべきところぞさらになき
*安楽勧帰のこころざし
鸞師ひとりさだめたり
安楽勧帰 安楽浄土への往生を勧め、 自他ともに阿弥陀仏に帰依すること。
(26)
*魏の主勅して*州の
*大巌寺にぞおはしける
やうやくをはりにのぞみては
*汾州にうつりたまひにき
州 現在の山西省太原。
大巌寺 「曇鸞の造らせたまひたる御寺なり」 (異本左訓)
汾州 現在の山西省汾陽。
(27)
*魏の天子はたふとみて
*神鸞とこそ号せしか
おはせしところのその名をば
鸞公巌とぞなづけたる
神鸞 不思議な徳を持っている曇鸞大師の意。 「ほめまいらするこころなり。 すべてめでたうましますといふこころなり」 (異本左訓)+
(28)
*浄業さかりにすすめつつ
*玄中寺にぞおはしける
*魏の興和四年に
*遙山寺にこそうつりしか
浄業 念仏のこと。
玄中寺 「曇鸞の造らせたまひたる御寺なり。 道綽は鸞師の御弟子なり。 この寺に道綽はつぎておはしましけり」 (異本左訓)
魏の興和四年 542年。
遙山寺 平遙山の寺。
(29)
六十有七ときいたり
浄土の*往生とげたまふ
そのとき*霊瑞不思議にて
一切道俗帰敬しき
霊瑞 「霊瑞はやうやうのめでたきことの現じ、 仏もみえなんどしたまふほどのことなり」 (異本左訓)
(30)
*君子ひとへにおもくして
勅宣くだしてたちまちに
*汾州汾西*秦陵の
*勝地に霊廟たてたまふ
汾州汾西 現在の山西省平遙。
秦陵 大陵の誤伝。
勝地に…+ 「すぐれたるところに、 どむらんのみはかをたてたり」 (異本左訓)
(31)
▲*天親菩薩のみことをも
鸞師ときのべたまはずは
他力広大威徳の
*心行いかでかさとらまし
天親菩薩のみこと 天親菩薩の ¬浄土論¼ をいう。
心行…+ 「心おも行おも、 いかでか知らまじとなり」 (異本左訓) ここでの心行は、 ¬浄土論¼ の一心と五念門の行のことか。
(32)
本願*円頓*一乗は
*逆悪摂すと信知して
*煩悩・菩提体無二と
すみやかにとくさとらしむ
円頓 「八万聖教のすべて少しも欠くることなきを円頓と申すなり」 (異本左訓)
煩悩菩提体無二 煩悩と菩提とが本来一つであること。
(33)
▲*いつつの不思議をとくなかに
仏法不思議にしくぞなき
仏法不思議といふことは
弥陀の*弘誓になづけたり
(34)
▲弥陀の回向成就して
*往相・還相ふたつなり
これらの回向によりてこそ
心行ともにえしむなれ
往相還相 「往相はこれより往生せさせんとおぼしめす回向なり。 還相は浄土にまゐり、 果ては普賢のふるまひをせさせて衆生利益せさせんと回向したまへるなり」 (異本左訓)
(35)
▲往相の回向ととくことは
弥陀の*方便*ときいたり
▲悲願の信行えしむれば
生死すなはち涅槃なり
ときいたり 時節が到来し。
(36)
▲還相の回向ととくことは
利他教化の果をえしめ
▲すなはち*諸有に*回入して
**普賢の徳を修するなり
諸有 「十方のよろづの衆生なり」 (異本左訓)
回入 めぐり入ること。
普賢 「普賢といふは仏の慈悲の極まりなり」 (異本左訓)
(37)
*論主の*一心ととけるをば
曇鸞大師のみことには
煩悩成就のわれらが
他力の信とのべたまふ
(38)
▲尽十方の無礙光は
*無明のやみをてらしつつ
*一念歓喜するひとを
かならず*滅度にいたらしむ
一念歓喜するひと 疑いなく、 往生せしめられることをよろこぶひと。
(39)
▲無礙光の利益より
威徳広大の信をえて
かならず煩悩のこほりとけ
すなはち菩提のみづとなる
(40)
▲*罪障功徳の体となる
こほりとみづのごとくにて
こほりおほきにみづおほし
*さはりおほきに徳おほし
罪障功徳の体となる 体は本体。 罪障がそのまま功徳になる。
さはり… 「悪業おほければ功徳のおほきなり」 (左訓)
(41)
▲名号不思議の海水は
*逆謗の屍骸もとどまらず
▲*衆悪の万川帰しぬれば
*功徳のうしほに*一味なり
逆謗… 五逆・謗法の者は仏道の死骸のようなものであるのでこのようにいう。
衆悪の万川 「よろづの悪をよろづの川にたとへたり」 (左訓)
功徳のうしほに… 万川が海に入れば同一の塩味となるように、 五逆・謗法の者も他力の信心を獲れば、 一切の悪業を転じて仏の功徳と一味となる。
一味 「ひとつあぢはひとなるなり」 (左訓)
(42)
尽十方無礙光の
大悲大願の海水に
煩悩の衆流帰しぬれば
智慧のうしほに一味なり
(43)
安楽仏国に生ずるは
*畢竟成仏の道路にて
無上の方便なりければ
諸仏浄土をすすめけり
畢竟成仏… 究極においては仏になること。 ここでは転じて究極無上の成仏道の意味とする。
(44)
▲諸仏*三業荘厳して
畢竟*平等なることは
衆生*虚誑の身口意を
*治せんがためとのべたまふ
平等 「平等はすべてものにおいてへだてなきこころなり」 (異本左訓)
虚誑 「悪業煩悩のこころなり」 (異本左訓)いつわり。
治せん 「たすくるこころなり」 (異本左訓)
(45)
安楽仏国にいたるには
*無上宝珠の名号と
*真実信心ひとつにて
*無別道故とときたまふ
無上宝珠 「如意宝珠のたまなり。 この宝珠は濁れる水に入るれば、 水はすめども身さびゐず。 水晶は濁り水に入るれば、 身さびゐる。 かるがゆゑに水晶をば万行万善にたとへ、 宝珠をば名号にたとふ」 (異本左訓)
無別道故 「別の道なきがゆゑに」
(46)
▲如来清浄本願の
*無生の生なりければ
▲*本則三三の品なれど
一二もかはることぞなき
無生の生 「六道の生を離れたる生なり。 六道四生に生るること、 真実信心のひとはなきゆゑに無生といふ」 (異本左訓)
本則三三の… 「もとは九品の衆生の報土に生れぬれば、 一人もかはることなしとなり」 (左訓)
(47)
▲無礙光如来の名号と
かの*光明智相とは
無明長夜の闇を破し
衆生の志願をみてたまふ
光明智相 光明の本質は智慧であり、 智慧のすがたは光明であることをいったもの。
(48)
▲*不如実修行といへること
鸞師釈してのたまはく
▲一者信心あつからず
*若存若亡するゆゑに
不如実修行 「をしへのごとくならずといふこころなり」 (左訓)
若存若亡 「あるときには往生してんずとおもひ、 あるときには往生はえせじとおもふを若存若亡といふなり」 (異本左訓)
(49)
▲二者信心一ならず
決定なきゆゑなれば
▲三者信心相続せず
*余念間故とのべたまふ
余念間故 「まじへるがゆゑに信なしといふなり」 (左訓) 疑いがまじわるので。
(50)
▲*三信展転相成す
行者こころをとどむべし
信心あつからざるゆゑに
決定の信なかりけり
三信展転… 淳心・一心・相続心の三信が相関連して一つの信心の内容が明らかになる。 →
三信❷
(51)
▲決定の信なきゆゑに
念相続せざるなり
念相続せざるゆゑ
決定の信をえざるなり
(52)
▲決定の信をえざるゆゑ
信心不淳とのべたまふ
▲*如実修行相応は
信心ひとつにさだめたり
如実修行相応 「をしへのごとく信ずるこころなり」 (左訓)
(53)
▲万行諸善の小路より
*本願一実の大道に
帰入しぬれば涅槃の
さとりはすなはちひらくなり
本願一実の大道 本願の念仏は、 すべての人の往生の道であるから大道という。
(54)
▲本師曇鸞大師をば
*梁の天子蕭王は
おはせしかたにつねにむき
鸞菩薩とぞ礼しける
梁の天子蕭王 南朝梁の武帝 (464―549) のこと。 仏教を深く信奉した。 蕭王は通常 「しょうおう」 と読むが、 当派依用音によって 「そうおう」 と振る。
以上曇鸞和尚
○道綽讃
*道綽禅師 釈文に付けて 七首
(55)
本師道綽禅師は
▲*聖道万行さしおきて
▲*唯有浄土一門を
通入すべきみちととく
聖道万行 聖道門の教えによって修める自力諸善の行。
唯有浄土一門… 「ただ浄土の門のみ入るべきみちといふ」 (異本左訓)
(56)
本師道綽大師は
*涅槃の広業さしおきて
本願他力をたのみつつ
*五濁の群生すすめしむ
涅槃の広業 ¬涅槃経¼ を講ずる広大な事業。
(57)
▲末法五濁の衆生は
聖道の*修行せしむとも
ひとりも証をえじとこそ
教主世尊はときたまへ
修行せしむとも 修行したてまつったとしても。
(58)
鸞師のをしへをうけつたへ
綽和尚はもろともに
▲*在此起心立行は
*此是自力とさだめたり
在此起心立行 「娑婆世界にて菩提心を起し行を立つるはみな自力なりとしるべし」 (左訓)
此是自力 「これはこれ自力なりといふ」 (左訓)
(59)
▲*濁世の*起悪造罪は
*暴風駛雨にことならず
諸仏これらをあはれみて
すすめて浄土に帰せしめり
起悪造罪…ことならず 「悪を起し罪を造ることの多きことをいふ」 (左訓)
暴風駛雨 「あらき風、 とき雨のごとしとなり」 (異本左訓)
(60)
▲*一形悪をつくれども
*専精にこころをかけしめて
つねに*念仏せしむれば
諸障自然にのぞこりぬ
専精 「もっぱらこのみてといふ」 (左訓)
念仏せしむれば 念仏したてまつれば。
(61)
▲*縦令一生造悪の
衆生*引接のためにとて
*称我名字と願じつつ
若不生者とちかひたり
縦令一生… 「たとひ一期悪を造るものなりとも、 弥陀のちかひをたのみまゐらせて往生すべしとなり」 (左訓)
引接 「導きとる。 とるといふは手にとるこころなり」 (異本左訓)
称我名字… 「わが名を称へよと願じたまへり」 (左訓)
以上道綽大師
○善導讃
*善導大師 釈文に付けて 二十六首
(62)
*大心海より化してこそ
善導和尚とおはしけれ
*末代濁世のためにとて
*十方諸仏に証をこふ
大心海 海のように広大な慈悲心をもつ仏という意。
十方諸仏… 「観経疏つくらんとて十方諸仏に証を請ひたまひたり」 (異本左訓)
(63)
世々に善導いでたまひ
*法照・*少康としめしつつ
*功徳蔵をひらきてぞ
諸仏の本意とげたまふ
功徳蔵 「名号を功徳蔵とまうすなり。 よろづの善根を集めたるによりてなり」 (異本左訓)
(64)
▲弥陀の名願によらざれば
百千万劫すぐれども
*いつつのさはりはなれねば
女身をいかでか転ずべき
(65)
▲釈迦は*要門ひらきつつ
▲*定散諸機を*こしらへて
*正雑二行方便し
ひとへに*専修をすすめしむ
こしらへて 誘い導いて。
(66)
*助正ならべて修するをば
すなはち*雑修となづけたり
一心をえざるひとなれば
仏恩報ずるこころなし
(67)
仏号むねと修すれども
現世をいのる行者をば
これも雑修となづけてぞ
▲*千中無一ときらはるる
千中無一 「千がなかに一人も生れずとなり。 懐感禅師の釈には万不一生と釈せられたり」 (異本左訓)
(68)
▲こころはひとつにあらねども
雑行雑修これにたり
*浄土の行にあらぬをば
ひとへに雑行となづけたり
(69)
善導大師証をこひ
定散二心をひるがへし
*貪瞋*二河の譬喩をとき
*弘願の信心守護せしむ
(70)
*経道滅尽ときいたり
如来出世の本意なる
*弘願真宗にあひぬれば
凡夫念じてさとるなり
経道滅尽 末法の時代 (教のみがあって行・証のない時代) が一万年続いた後、 自力成仏の道を説いた聖道門の経典がすべてこの世界から消え失せることをいう。
弘願真宗 本願念仏を説き顕した真実の教え。
(71)
▲仏法力の不思議には
諸邪業繋さはらねば
弥陀の本弘誓願を
*増上縁となづけたり
(72)
願力成就の*報土には
自力の心行いたらねば
*大小聖人みなながら
如来の弘誓に乗ずなり
大小聖人 「大乗の聖人、 小乗の聖人」 (異本左訓)
(73)
煩悩具足と信知して
本願力に乗ずれば
すなはち穢身すてはてて
法性常楽証せしむ
(74)
▲*釈迦・弥陀は慈悲の父母
種々に善巧方便し
われらが*無上の信心を
*発起せしめたまひけり
釈迦弥陀… 「釈迦は父なり、 弥陀は母なりとたとへたまへり」 (左訓)
無上の信心 阿弥陀仏のこの上ない智慧をたまわった信心。 他力の信心のこと。
発起 「むかしよりありしことをおこすを発といふ。 いまはじめておこすを起といふ」 (異本左訓)
(75)
▲真心*徹到するひとは
*金剛心なりければ
*三品の懺悔するひとと
ひとしと宗師はのたまへり
徹到 「とほりいたる。 髄に到り徹る」 (異本左訓)
金剛心 「まことの信心なり」 (異本左訓)
三品の懺悔 「上品はまなこより血を流し身より血を出す。 中品はまなこより血を流し身より汗を流す。 下品は涙を流し髄にこころが徹るをいふ」 (異本左訓)
(76)
▼五濁悪世のわれらこそ
金剛の信心ばかりにて
ながく生死をすてはてて
自然の浄土にいたるなれ
(77)
▼金剛*堅固の信心の
さだまるときをまちえてぞ
弥陀の*心光摂護して
ながく生死をへだてける
堅固 「心のかたきを堅といふ。 意のかたきを固といふなり」 (異本左訓)
心光 念仏の衆生をおさめとる摂取の光明のこと。
(78)
▲真実信心えざるをば
一心かけぬとをしへたり
一心かけたるひとはみな
*三信具せずとおもふべし
三信 「本願の信心をいふなり」 (左訓)
(79)
▲利他の信楽うるひとは
*願に相応するゆゑに
*教と仏語にしたがへば
*外の雑縁さらになし
願に相応する 信心を得ることは阿弥陀仏の本願の趣旨にかなっている。
教と仏語 釈尊の教えと諸仏の言葉。
外の雑縁 外からのさまざまなさまたげ。
(80)
真宗念仏ききえつつ
*一念無疑なるをこそ
*希有最勝人とほめ
*正念をうとはさだめたれ
一念無疑 阿弥陀仏の本願を二心なく信じること。
希有最勝人 「ありがたく勝れたるよきひととほむるこころなり」 (異本左訓)
正念をう 「往生の信心あるを正念を得とはいふ」 (異本左訓)
(81)
▲本願相応せざるゆゑ
雑縁きたりみだるなり
信心乱失するをこそ
正念うすとはのべたまへ
(82)
*信は願より生ずれば
念仏成仏自然なり
自然はすなはち報土なり
証大涅槃うたがはず
信は願より… 「われら衆生の信は弥陀の願より起るなり」 (異本左訓)
(83)
▲五濁増のときいたり
*疑謗のともがらおほくして
道俗ともにあひきらひ
修するをみては*あだをなす
疑謗のともがら 「弥陀のちかひを疑ふもの、 そしるものなり」 (左訓)
あだ 害。
(84)
▲本願*毀滅のともがらは
*生盲**闡提となづけたり
*大地微塵劫をへて
ながく*三塗にしづむなり
毀滅 「そしるにとりても、 わがする法は勝り、 また人のする法は賤しといふを毀滅といふなり」 (異本左訓)
闡提 「仏法にすべて信なきを闡提といふなり」 (異本左訓)
大地微塵劫 三千世界の大地を砕いて微塵にし、 その一微塵を一劫とし、 その微塵の総教を微塵劫という。
(85)
▲*西路を*指授せしかども
*自障障他せしほどに
曠劫以来もいたづらに
むなしくこそはすぎにけれ
西路 西方浄土へ往生する道。
自障障他 「わが身を障へひとを障へ乱るなり」 (左訓)
(86)
▲弘誓のちからをかぶらずは
いづれのときにか*娑婆をいでん
仏恩ふかくおもひつつ
つねに弥陀を念ずべし
(87)
▲娑婆永劫の苦をすてて
浄土無為を*期すること
本師釈迦のちからなり
長時に慈恩を報ずべし
期すること 心に待ちもうけること。 期待すること。
以上善導大師
○源信讃
*源信大師 釈文に付けて 十首
(88)
源信和尚ののたまはく
われこれ*故仏とあらはれて
*化縁すでにつきぬれば
*本土にかへるとしめしけり
故仏と… 「もとの仏とまうすことなり」 (左訓) 元来、 仏であったが、 衆生済度のためにこの世に現れたという伝承を指す。 ¬源信僧都行実』にみえる。
化縁 衆生教化の機縁。
本土 本国である浄土。
(89)
▲本師源信ねんごろに
*一代仏教のそのなかに
念仏一門ひらきてぞ
*濁世末代をしへける
一代仏教 釈尊が一生の間に説いた教法。
(90)
*霊山聴衆とおはしける
源信僧都のをしへには
▲*報化二土ををしへてぞ
*専雑の得失さだめたる
霊山聴衆 インドの霊鷲山で釈尊の説法を聞いた人々。
専雑の得失 専修の得と雑修の失。
(91)
本師源信和尚は
▲**懐感禅師の釈により
¬*処胎経¼ をひらきてぞ
*懈慢界をばあらはせる
懐感禅師の釈 「懐感禅師の群疑論によりて諸行往生のやうをあらはせり」 (異本左訓)
(92)
専修のひとをほむるには
*千無一失とをしへたり
雑修のひとをきらふには
△*万不一生とのべたまふ
千無一失 「千に一つのとがなしとなり」 (左訓) 千人の中に一人の例外もなく往生する。
万不一生 「万に一人も報土に生れずとなり」 (左訓)
(93)
▲報の浄土の往生は
おほからずとぞあらはせる
*化土にうまるる衆生をば
すくなからずとをしへたり
(94)
▲男女貴賤ことごとく
弥陀の名号称するに
*行住座臥もえらばれず
*時処諸縁もさはりなし
行住座臥 「あるく、 とどまる、 ゐる、 ふすなり」 (左訓)
時処諸縁 「とき、 ところ、 よろづのことなり」 (左訓)
(95)
▲煩悩にまなこ*さへられて
摂取の光明みざれども
大悲*ものうきことなくて
つねにわが身をてらすなり
さへられて さえぎられて。
ものうきことなく 「ものうきこと (なし) といふは怠り捨つるこころなしとなり」 (異本左訓)
(96)
▼弥陀の*報土をねがふひと
▲*外儀のすがたはことなりと
本願名号信受して
*寤寐にわするることなかれ
外儀のすがた 「外のすがた、 身のふるまひ」 (異本左訓)
寤寐 「ねてもさめてもといふなり」 (左訓)
(97)
▲極悪深重の衆生は
*他の方便さらになし
ひとへに弥陀を称してぞ
浄土にうまるとのべたまふ
他の方便 「余の善、 余の仏・菩薩の方便にては生死出でがたしとなり」 (異本左訓)
以上源信大師
○源空讃
*源空聖人 釈文に付けて 二十首
(98)
本師源空世にいでて
*弘願の一乗ひろめつつ
日本一州ことごとく
*浄土の機縁あらはれぬ
弘願の一乗 万人を平等に救って成仏させる最もすぐれた第十八願の念仏往生の教え。
浄土の機縁 浄土教を信受する機縁。
(99)
*智慧光のちからより
本師源空あらはれて
*浄土真宗をひらきつつ
*選択本願のべたまふ
(100)
*善導・*源信すすむとも
本師源空ひろめずは
*片州濁世のともがらは
いかでか真宗をさとらまし
片州 日本のこと。
(101)
*曠劫多生のあひだにも
*出離の強縁しらざりき
本師源空いまさずは
このたびむなしくすぎなまし
出離の強縁 迷いの世界を離れ出るための因縁。 阿弥陀仏の本願力のこと。
(102)
源空*三五のよはひにて
*無常のことわりさとりつつ
*厭離の素懐をあらはして
*菩提のみちにぞいらしめし
三五のよはひ 十五歳。 法然上人は十五歳で出家受戒した。
厭離の素懐 この世を厭い離れたいというかねてからの願い。
(103)
源空*智行の至徳には
聖道諸宗の*師主も
みなもろともに帰せしめて
*一心金剛の戒師とす
智行の至徳 「智慧も行も至りたまふひとなりといふ」 (左訓)
師主 「聖人の聖道の御師、 のちには皆 (聖人に) 帰したてまつるなり」 (異本左訓)
一心金剛の戒師 天台宗に相伝する菩薩戒 (円頓戒) を授ける師。
(104)
源空存在せしときに
金色の光明はなたしむ
*禅定博陸まのあたり
拝見せしめたまひけり
(105)
本師源空の*本地をば
世俗のひとびとあひつたへ
*綽和尚と*称せしめ
あるいは善導としめしけり
綽和尚 道綽禅師のこと。
称せしめ 称したてまつり。
(106)
源空勢至と示現し
あるいは弥陀と顕現す
上皇・群臣尊敬し
*京夷庶民欽仰す
京夷… 「みやこ、 ゐなか、 よろづの民、 敬ひ仰ぎたてまつる」 (左訓)
(107)
*承久の太上法皇は
本師源空を帰敬しき
*釈門・儒林みなともに
ひとしく真宗に悟入せり
承久の太上法皇 後高倉院 (1179-1223) のこと。 高倉天皇の第二皇子、 守貞親王。 承久の乱の後、 子の茂仁親王 (後堀河天皇) が即位し、 太上天皇の号を授けた。
釈門儒林 「僧なり、 俗学生なり」 (左訓)
(108)
*諸仏方便ときいたり
源空ひじりとしめしつつ
無上の信心をしへてぞ
*涅槃のかどをばひらきける
諸仏方便… 諸仏が
衆生を救うために
善巧方便する時節が到来して。
(109)
真の*知識にあふことは
かたきがなかになほかたし
流転輪廻のきはなきは
*疑情のさはりにしくぞなき
疑情 阿弥陀仏の本願を疑いはからう心。
(110)
源空光明はなたしめ
門徒につねにみせしめき
*賢哲・愚夫もえらばれず
*豪貴・鄙賤もへだてなし
賢哲愚夫 賢者と愚者。
豪貴鄙賤 身分の高い者と低い者。
(111)
命終その期ちかづきて
本師源空のたまはく
*往生みたびになりぬるに
このたびことにとげやすし
往生みたびに… インドでは声聞僧、 中国では善導として往生し、 いま日本の源空として三たび往生することをいう。
(112)
源空みづからのたまはく
*霊山会上にありしとき
*声聞僧にまじはりて
*頭陀を行じて*化度せしむ
声聞僧 釈尊の直弟子。 法然上人はsyarihotuであったといわれる。
頭陀 梵語ドゥータ(dhūta)の音写。 衣食住に関する貧りを払いのける修行。
化度 衆生を教化して救うこと。
(113)
*粟散片州に誕生して
念仏宗をひろめしむ
衆生化度のためにとて
この土にたびたびきたらしむ
粟散片州 日本のこと。
(114)
阿弥陀如来化してこそ
本師源空としめしけれ
化縁すでにつきぬれば
浄土にかへりたまひにき
(115)
本師源空のをはりには
光明紫雲のごとくなり
音楽*哀婉雅亮にて
*異香みぎりに映芳す
哀婉雅亮 「あはれみすめるこころなり」 (左訓)
異香みぎりに… おりから妙なる香りがあたりにただよった。
(116)
道俗男女*預参し
*卿上雲客群集す
*頭北面西右脇にて
如来涅槃の儀をまもる
預参し あらかじめ参集して。
卿上雲客 卿上は卿相のことで、 参議および三位以上の上級官人。 雲客は清涼殿の殿上の間に昇ることを許された者 (殿上人)。
頭北面西… 頭を北にし、 顔を西に向けて、 右脇を下にし横たわること。 釈尊が入滅した時の姿。
(117)
本師源空命終時
*建暦第二壬申歳
初春下旬第五日
浄土に還帰せしめけり
建暦第二壬申歳… 1212年一月二十五日 (初春は陰暦正月の別称)。
以上源空聖人
以上七高僧和讃 一百十七首
○結讃
(118)
*五濁悪世の衆生の
*選択本願信ずれば
*不可称不可説不可思議の
功徳は行者の身にみてり
| *天 竺 | 龍樹菩薩 |
| 天親菩薩 |
| *震 旦 | 曇鸞和尚 |
| 道綽禅師 |
| 善導禅師 |
震旦 中国。 古代インド人が中国をチーナ・スターナ (Cīna-sthāna) と呼んだのにもとづくといわれる。
| *和 朝 | 源信和尚 |
| 源空聖人 |
和朝 日本。
以上七人
| *聖徳太子 | *敏達天皇元年 |
| 正月一日誕生したまふ。 |
敏達天皇元年 572年。 ¬聖徳太子伝暦¼ などでは、 太子の生誕をこの年とするが、 574年が正しい。
仏滅後一千五百二十一年に当れり。
(119)
南無阿弥陀仏をとけるには
衆善海水のごとくなり
かの清浄の善身にえたり
ひとしく衆生に*回向せん