往生要集 巻上 *尽第四門半
尽第四門半 本書の巻上が大文第四の半ばまでであるという意。
天台*首楞厳院沙門源信撰
◎序
【1】 ▼それ*往生*極楽の教行は、 濁世末代の目足なり。 *道俗貴賤、 たれか帰せざるものあらん。 ただし*顕密の教法、 その文、 一にあらず。 *事理の業因、 その行これ多し。 利智精進の人は、 いまだ難しとなさず。 *予がごとき頑魯のもの、 あにあへてせんや。
事理の業因 具体的な相を観ずる事観と、 無相の真理そのものを観ずる理観。
予がごとき頑魯のもの 私 (源信) のようなかたくなで愚かな者。
◎夫往生極楽之教行濁世末代之目足也。道俗貴賤誰不↠帰者。但顕密教法其文非↠一、事理業因其行惟多。利智精進之人未↠為↠難、如↠豫頑魯之者豈敢矣。
◎ 原漢文の底本は本派本願寺蔵版。 青蓮院蔵承安元年写本、 龍谷大学蔵建長五年刊本、 龍谷大学蔵承元元年刊本、 大派依用十行本と対校されている。
▼このゆゑに、 *念仏の一門によりて、 いささか経論の要文を集む。 これを披きこれを修するに、 覚りやすく行じやすし。
是故依↢念仏一門↡、聊集↢経論要文↡。披↠之修↠之、易↠覚易↠行。
総べて十門あり。 分ちて三巻となす。 一は厭離穢土、 二は欣求浄土、 三は極楽証拠、 四は正修念仏、 五は助念方法、 六は別時念仏、 七は念仏利益、 八は念仏証拠、 九は往生諸業、 十は問答料簡なり。 これを座右に置きて、 廃忘に*備へん。
備へん 底本 (青蓮院本) の左訓には 「備へよ」 とある。
総有↢十門↡、分為↢三巻↡。一厭離穢土、二欣求浄土、三極楽証拠、四正修念仏、五助念方法、六別時念仏、七念仏利益、八念仏証拠、九往生諸業、十問答料簡。置↢之座右↡備↢於廃忘↡矣。
◎厭離穢土
【2】 大文第一に、 厭離穢土といふは、 それ*三界は安きことなし、 もつとも厭離すべし。 いまその相を明かすに、 総べて七種あり。 一は*地獄、 二は*餓鬼、 三は*畜生、 四は*阿修羅、 五は人、 六は天、 七は総結なり。
大文第一厭離穢土者、夫三界無↠安、最可↢厭離↡。今明↢其相↡、総有↢七種↡。一地獄、二餓鬼、三畜生、四阿修羅、五人、六天、七総結。
◎厭離穢土 ○地獄
【3】 第一の*地獄に、 また分ちて八となす。 一は等活、 二は黒縄、 三は衆合、 四は叫喚、 五は大叫喚、 六は焦熱、 七は大焦熱、 八は無間なり。
第一地獄、亦分為↠八。一等活、二黒縄、三衆合、四叫喚、五大叫喚、六焦熱、七大焦熱、八無間。
◎厭離穢土 ○地獄 1 等活
【4】 初めに等活地獄といふは、 この*閻浮提の下、 一千*由旬にあり。 *縦広一万由旬なり。 このなかの罪人、 たがひにつねに害心を懐けり。 もしたまたまあひ見れば、 猟者の鹿に逢へるがごとくして、 おのおの鉄の爪をもつてたがひに掴み裂く。 血肉すでに尽きて、 ただ残骨のみあり。 あるいは獄卒、 手に鉄の杖・鉄の棒を執りて、 頭より足に至るまで、 あまねくみな打ち築くに、 身体破砕すること、 なほ*沙揣のごとし。 あるいはきはめて利き刀をもつて分々に肉を割くこと、 *廚者の魚肉を屠るがごとし。 涼風来りて吹くに、 尋いで活ること故のごとし。 *欻然としてまた起きて、 前のごとく苦を受く。 あるいはいはく、 空中に声ありていはく、 「このもろもろの有情、 また等しく活るべし、 また等しく活るべし」 と。 あるいはいはく、 獄卒、 鉄の叉をもつて地を打ちて、 唱へて 「活活」 といふ。 かくのごとき等の苦、 つぶさに述すべからず。 以上、 ¬*智度論¼・¬*瑜伽論¼・¬*諸経要集¼ によりて、 これを撰す。
沙揣 土くれ。 砂。
廚者 料理人。
欻然 たちまち。
初等活地獄者、在↢於此閻浮提之下、一千由旬↡、縦*横一万由旬。此中罪人、互常懐↢害心↡。若適相見、如↢猟者逢↟鹿。各以↢鉄爪↡、而互*爴裂。血肉既尽、唯有↢残骨↡。或獄*率、手執↢鉄杖・鉄捧↡、従↠頭至↠足、遍皆打築、身躰破砕、猶如↢沙揣↡。或以↢極利刀↡、分分割↠肉、如↣厨者屠↢魚肉↡。涼風来吹、尋活如↠故。欻然復起、如↠前受↠苦。或云、空中有↠声云。此諸有情可↢還等活↡。或云、獄率以↢鉄叉↡打↠地、唱云↢活活↡。如↠是等苦、不↠可↢具述↡。已上依↢¬智度論¼¬瑜伽論¼¬諸経要集¼↡撰↠之
横 他本では 「広」。
爴 底本まま。 註なし。
率 青蓮院本、 建長五年刊本では 「卒」。 以下同。
*人間の五十年をもつて*四天王天の一日一夜となして、 その寿五百歳なり。 四天王天の寿をもつてこの地獄の一日一夜となして、 その寿五百歳なり。 殺生せるもの、 このなかに堕つ。 以上の寿量は ¬倶舎¼ (*倶舎論) による。 *業因は ¬*正法念経¼ による。 下の六もこれに同じ。
業因 果をもたらす因となる行為。 ここでは地獄に堕ちる原因となる悪行をいう。
以↢人間五十年↡、為↢四天王天一日一夜↡、其寿五百歳。以↢四天王天寿↡、為↢此地獄一日一夜↡、其寿五百歳。殺生之者、堕↢此中↡。已上寿量依↢¬倶舎¼↡業因依↢¬正法念経¼↡下六*亦同↠之
亦 青蓮院本では脱落。
¬*優婆塞戒経¼ には、 初めの天 (四天王天) の一年をもつて初めの地獄 (等活地獄) の日夜となせり。 下去これに准へよ。
¬優婆塞戒経¼以↢初天一年↡、為↢初地獄日夜↡。下去准↠之。
この地獄の*四門のほかに、 また十六の*眷属の*別処あり。
四門 東西南北の門。
眷属 ここでは付属の意。
此地獄四門之外、復有↢十六眷属別処↡。
・屎泥処
一は屎泥処。 いはく、 きはめて熱き屎泥あり。 その味はひ、 もつとも苦し。 金剛の嘴ある虫、 そのなかに充満せり。 罪人、 なかにありてこの熱屎を食らふ。 もろもろの虫、 聚集して、 一時に競ひ食らふ。 皮を破りて肉を噉らひ、 骨を折りて髄を唼ふ。 昔、 鹿を殺し鳥を殺せるもの、 このなかに堕つ。
一屎泥処。謂有↢極熱屎泥↡、其味最苦。金剛*虫、充↢満其中↡。罪人在↠中食↢此熱屎↡。諸虫聚集、一時競食。破↠皮噉↠肉、折↠骨唼↠髄。昔殺↠鹿殺↠鳥之者、堕↢此中↡。
底本まま。 註なし。 以下同。
・刀輪処
二は刀輪処。 いはく、 鉄の壁、 *周帀して、 高さ十由旬なり。 猛火*熾然として、 つねにそのなかに満てり。 人間の火はこれに比ぶれば雪のごとし。 わづかにその身に触るるに、 砕くること芥子のごとし。 また熱鉄を雨らすこと、 なほ盛りなる雨のごとし。 また刀林あり。 その刃はきはめて利し。 また*両刃ありて、 雨のごとくして下る。 もろもろの苦、 交はり至りて、 堪忍すべからず。 昔、 物を貪りて殺生せるもの、 このなかに堕つ。
周帀 めぐっていること。
熾然 さかんに燃えあがるさま。
両 底本 (青蓮院本) には 「雨」 とある。
二刀輪処。謂鉄壁周*匝、高十由旬。猛火熾然、常満↢其中↡。人間之火、比↠此如↠雪。纔触↢其身↡、砕如↢芥子↡。又雨↢熱鉄↡、猶如↢盛雨↡。復有↢刀林↡、其刃極利。*復*雨↠刃如↠雨而下。衆苦交至不↠可↢堪忍↡。昔貪↠物殺生者、堕↢此中↡。
匝 底本まま。註なし。 以下同。
復 青蓮院本、 建長五年刊本では 「復有」。
雨刃 底本まま。 註なし。 「刃を雨ふらすこと」。
・瓮熟処
三は瓮熟処。 いはく、 罪人を執りて鉄の*瓮のなかに入れて、 煎熟すること豆のごとし。 昔、 殺生して煮て食らへるもの、 このなかに堕つ。
瓮 かめ。
三*瓫*熱処。謂執↢罪人↡入↢鉄瓫中↡、煎熱如↠豆。昔殺生煮食者、堕↢此中↡。
瓫 底本まま。 註なし。 以下同。
熱 青蓮院本、 建長五年刊本、 承元元年刊本では 熟。 以下同。
・多苦処
四は多苦処。 いはく、 この地獄に十千億種の無量の*楚毒あり。 つぶさに説くべからず。 昔、 縄をもつて人を縛り、 杖をもつて人を打ち、 人を駆りて遠き路を行かしめ、 嶮しき処より人を落し、 煙を薫べて人を悩まし、 小児を怖れしむ。 かくのごとき等の、 種々に人を悩ませるもの、 みなこのなかに堕つ。
楚毒 はげしく痛む苦しみ。
四多苦処。謂此地獄有↢十千億種無量楚毒↡、不↠可↢具説↡。昔以↠縄縛↠人、以↠杖打↠人、駆↠人令↠行↢於遠路↡、従↢嶮処↡落↠人、薫↠煙悩↠人、令↠怖↢小児↡。如↠是等種種悩↠人者、皆堕↢此中↡。
・闇冥処
五は闇冥処。 いはく、 黒闇の処にありて、 つねに闇火のために焼かる。 大力の猛風、 金剛山を吹きて、 合せ磨り、 合せ砕くこと、 なほ沙の散らすがごとし。 熱風に吹かるるに、 利き刀の割くがごとし。 昔、 羊の口・鼻を唵ぎ、 二の塼のなかに亀を置きて押し殺せるもの、 このなかに堕つ。
五闇冥処。謂在↢黒闇処↡、常為↢闇火↡所↠焼。大力猛風、吹↢金剛山↡、*令↠磨令↠砕、猶如↠散↠沙。熱風所↠吹、如↢利刀割↡。昔*大火炎唵↢羊口・鼻↡、二塼之中置↠亀押殺者、堕↢此中↡。
令 建長五年刊本、 承元元年刊本、 大派依用本では 「合」。 続く 「令」 も同じ。
大火炎 青蓮院本、 建長五年刊本、 大派依用本では脱落。
・不喜処
六は不喜処。 いはく、 大きなる火炎ありて昼夜に焚焼す。 熱炎の嘴ある鳥・狗犬・*野干の、 その声極悪にしてはなはだ怖畏すべし。 つねに来りて*食噉す。 *骨肉狼藉たり。 金剛の嘴ある虫、 骨のなかに往来して、 その髄を食らふ。 昔、 貝を吹き、 鼓を打ち、 畏るべき声をなして鳥獣を殺害せるもの、 このなかに堕つ。
食噉 がつがつとくらうこと。
骨肉狼藉たり 罪人の骨や肉があたりに散乱している。
六不喜処。謂有↢大火炎↡、昼夜焚焼。熱炎鳥・狗犬・野干、其声極悪甚可↢怖畏↡。常来食噉骨肉狼藉。金剛虫、骨中往来、而食↢其髄↡。昔吹↠貝打↠鼓作↢可↠畏声↡、殺↢害鳥獣↡者、堕↢此中↡。
・極苦処
七は極苦処。 いはく、 嶮岸の下にありて、 つねに鉄火のために焼かる。 昔、 *放逸にして殺生せるもの、 このなかに堕つ。 以上、 ¬*正法念経¼ による。 *自余の九処、 ¬経¼ (同) のなかに説かず。
放逸 ほしいまま。 心のおもむくまま。
自余の九処 屎泥処…極苦処以外の九つの別処。
七極苦処。謂在↢嶮岸下↡、常為↢鉄火↡所↠焼。昔放逸殺生者、堕↢此中↡。已上依↢¬*正法経¼↡自余九処経中不↠説
正法経 他書では 「正法念経」。
◎厭離穢土 ○地獄 2 黒縄
【5】 二に黒縄地獄といふは、 等活の下にあり。 *縦広、 前に同じ。 獄卒、 罪人を執りて熱鉄の地に臥せて、 熱鉄の縄をもつて縦横に身に*拼ちて、 熱鉄の斧をもつて縄に随ひて切り割く。 あるいは鋸をもつて解き、 あるいは刀をもつて屠りて、 百千段になして処々に散在す。 また熱鉄の縄を懸けて、 交へ横たふること無数なり。 罪人を駆りてそのなかに入れしむるに、 悪風暴に吹きて、 その身に*交絡して、 肉を焼き、 骨を焦して、 楚毒極まりなし。 以上、 ¬瑜伽¼ (*瑜伽論)・¬*智度論¼。
拼 この段の典拠となっている ¬法苑珠林¼ 巻七の黒縄地獄の文では 「絣」 の字を用いている。
交絡 (熱鉄の縄が) からまりあうこと。
二黒縄地獄者、在↢等活下↡、縦広同↠前。獄率執↢罪人↡、臥↢熱鉄地↡以↢熱鉄縄↡縦横拼↠身、以↢熱鉄斧↡随↠縄切割。或以↠鋸解、或以↠刀屠、作↢百千段↡、処処散在。又懸↢熱鉄縄↡交横無数。駆↢罪人↡令↠入↢其中↡、悪風暴吹交↢絡其身↡、焼↠肉焦↠骨、楚毒無↠極。已上¬瑜伽論¼¬智度論¼
また左右に大きなる鉄山あり。 山の上におのおの鉄の幢を建て、 幢の頭に鉄の縄を張り、 縄の下に多く*熱鑊あり。 罪人を駆りて、 鉄の山を負はしめ縄の上より行かしめ、 はるかに鉄の鑊に落して摧き煮ること極まりなし。 ¬*観仏三昧経¼ 意。
熱鑊 熱した釜。
又左右有↢大鉄山↡。山上各建↢鉄幢↡、幢頭張↢鉄縄↡、縄下多有↢熱鑊↡。駆↢罪人↡、令↧負↢鉄山↡従↢縄上↡行↥、遥落↢鉄鑊↡、摧煮無↠極。¬観仏三昧経¼*
◇ 青蓮院本では 「意」 が入る。
等活地獄および十六の*別処の、 一切のもろもろの苦を十倍してかさねて受く。 獄卒、 罪人を呵責していはく、
「心はこれ第一の怨なり。 この怨をもつとも悪となす。
この怨よく人を縛りて、 送りて*閻羅の処に到らしむ。
なんぢ独り地獄に焼かれて、 悪業のために食せらる。
妻子・兄弟等の親属も救ふことあたはず」 と。 乃至広説
等活地獄、及十六別処一切諸苦、十倍重受。獄率呵↢責罪人↡云。心是第一怨、此怨最為↠悪。此怨能縛↠人、送到↢閻羅処↡。汝独地獄焼、為↢悪業↡所↠食。妻子・兄弟等親属・眷属不↠能↠救。乃至広説
後の五の地獄は、 おのおの、 前々の一切の地獄のあらゆるもろもろの苦をもつて十倍して重く受くること、 例してこれを知りぬべし。 以上、 ¬*正法念経¼ 意。
後五地獄、各以↢前前一切地獄所有之諸苦↡、十倍重受、例応↠知↠之。已上¬正法念経¼意
*人間の一百歳をもつて*忉利天の一日一夜となして、 その寿一千歳なり。 忉利天の寿をもつて一日夜となして、 この地獄の寿一千歳なり。 殺生・*偸盗せるもの、 このなかに堕つ。
以↢人間一百歳↡、為↢忉利天一日*夜↡、其寿一千歳。以↢忉利天寿↡、為↢一日夜↡、此地獄寿一千歳。殺生・偸盗者、堕↢此中↡。
夜 青蓮院本では 「一夜」。
・等喚受苦処
また*異処あり。 等喚受苦処と名づく。 いはく、 嶮しき岸の無量由旬なるに挙げ在きて、 熱炎の黒縄をもつて束縛して、 繋けをはりて、 しかして後にこれを推して、 利き鉄の刀の熱地の上に堕す。 鉄の炎の牙ある狗の*噉食するところなり。 *一切の身分、 分々に分離す。 声を唱へて吼喚すれども、 救ふものあることなし。 昔、 説法せしに悪見の論によりてし、 一切不実にして、 一切を顧みず、 岸に投げて自殺せるもの、 このなかに堕つ。
異処 別処に同じ。 大地獄に付属する特別の小地獄。
噉食 がつがつとくらうこと。
一切の身分 身体のすべての部分。
復有↢異処↡、名↢等喚受苦処↡。謂挙↢在嶮岸無量由旬↡、熱炎黒縄束縛繋已、然後推↠之、堕↢利鉄刀熱地之上↡。鉄炎牙狗之所↢噉食↡。一切身分、分分分離。唱↠声吼喚、無↠有↢救者↡。昔説↠法依↢悪見論↡、一切不実不↠顧↢一切↡、投↠岸自殺者、堕↢此中↡。
・畏鷲処
また異処あり。 畏鷲処と名づく。 ある本、 *この四字なし。 いはく、 獄卒杖を怒らかして急に打ち、 昼夜につねに走らしめ、 手に火炎の鉄刀を執り、 弓を挽き、 箭を弩ち、 後に随ひて走り逐ひ、 斫き打ち、 これを射る。 昔、 物を貪ぜしがゆゑに人を殺し、 人を縛りて食を奪ひしもの、 ここに堕つ。 ¬正法念経¼ 略抄。
この四字 「名畏鷲処」 の四字。
復有↢異処↡、名↢畏鷲*処↡。謂獄率怒↠杖急打、昼夜常走。手執↢火炎鉄刀↡、挽↠弓弩↠箭、随↠後走逐、斫打射↠之。昔貪↠物故、殺↠人縛↠人奪↠食者、堕↢此中↡。¬正法念経¼略抄
処 青蓮院本には 「或本无此四字」 と註あり。
◎厭離穢土 ○地獄 3 衆合
【6】 三に衆合地獄といふは、 黒縄の下にあり。 *縦広、 前に同じ。 多く鉄山ありて、 両々あひ対へり。 *牛頭・馬頭等のもろもろの獄卒、 手に*器仗を執りて、〔罪人を〕駆りて山のあひだに入らしむ。 この時に両の山、 迫め来りて合せ押す。 身体摧け砕け、 血流れて地に満つ。 あるいは鉄の山ありて空より落ちて、 罪人を打つに、 砕くること*沙揣のごとし。 あるいは石の上に置きて巌をもつてこれを押す。 あるいは鉄の臼に入れて鉄の杵をもつて擣く。 極悪の獄鬼、 ならびに熱鉄の獅子・虎・狼等のもろもろの獣、 烏・鷲等の鳥、 競ひ来りて食噉す。 ¬瑜伽¼ (*瑜伽論)・¬大論¼ (*大智度論)。
牛頭馬頭 牛や馬などの頭をした獄卒 (地獄の鬼) のこと。
器仗 武器。
沙揣 土くれ。 砂。
三衆合地獄者、在↢黒縄下↡、縦広同↠前。多有↢鉄山↡両*山相対。牛頭・馬頭等諸獄率、手執↢器*杖↡、駆令↠入↢山間↡。是時両山迫来合押、身躰摧砕、血流満↠地。或有↢鉄山↡、従↠空而落、打↢於罪人↡、砕如↢沙揣↡。或置↢石上↡、以↠巌押↠之、或入↢鉄臼↡、以↢鉄杵↡擣。極悪獄鬼、并熱鉄師子・虎・狼等諸獣、烏・鷲等鳥、競来食噉。¬瑜伽論¼¬大論¼
山 青蓮院本、 建長五年刊本、 大派依用本では 「両」。
杖 建長五年刊本では 「仗」。
また鉄炎の嘴ある鷲、 その*腸を取りをはりて樹の頭に掛け在きて、 これを噉食す。 かしこに大きなる河あり。 なかに鉄鉤ありて、 みなことごとく火に燃ゆ。 獄卒、 罪人を執へて、 かの河のなかに擲げて、 鉄鉤の上に堕す。 またかの河のなかに熱き赤銅の汁ありて、 かの罪人を漂はす。 あるいは身、 日のはじめて出づるがごときものあり。 身沈没せること、 重き石のごときものあり。 手を挙げて、 天に向かひて号哭するものあり。 ともにあひ近づきてしかも号哭するものあり。 久しく大苦を受けて、 主もなく、 救もなし。
腸 底本 (青蓮院本) には 「腹」 とある。
又鉄炎鷲、取↢其*腸↡已、*挂↢在樹頭↡、而噉↢食之↡。彼有↢大*江↡、中有↢鉄鉤↡、皆悉火燃。獄率執↢罪人↡、擲↢彼河中↡、堕↢鉄鉤上↡。又彼*江中、有↢熱赤銅汁↡、漂↢彼罪人↡。或有↧身如↢日初出↡者↥、有↧身沈没如↢重石↡者↥、有↢挙↠手向↠天而号哭者↡、有↢共相近而号哭者↡。久受↢大苦↡無↠主無↠救。
腸 青蓮院本では 「腹」。 以下同。
挂 建長五年刊本、 承元元年刊本では 「掛」。
江 青蓮院本では 「河」。
江 青蓮院本、 建長五年刊本では 「河」。
また獄卒、 地獄の人を取りて*刀葉林に置く。 かの樹の頭を見るに、 好き*端正にして*厳飾の婦女あり。 かくのごとく見をはりて、 すなはちかの樹に上れば、 樹の葉は刀のごとくして、 その身肉を割く。 次にはその筋を割く。 かくのごとく一切の処を劈き割りをはりて、 樹に上ることを得をはりて、 かの婦女を見れば、 また地にあり。 欲の媚たる眼をもつて、 上に罪人を看て、 かくのごとき言をなさく、 「なんぢを念ふ因縁をもつて、 われこの処に到れり。 なんぢ、 いまなんがゆゑぞ、 来りてわれに近づかざる。 なんぞわれを抱かざる」 と。 罪人見をはりて、 *欲心熾盛にして、 次第にまた下れば、 刀葉、 上に向かひて、 利きこと剃刀のごとくして、 前のごとくあまねく*一切の身分を割く。 すでに地に到りをはりぬれば、 しかもかの婦女はまた樹の頭にあり。 罪人見をはりて、 また樹に上る。
刀葉林 刀のように鋭くとがった葉をもつ木々。
欲心熾盛にして 愛欲の思いがはげしくさかんであり。
又復獄率取↢地獄人↡、置↢刀葉林↡。見↢彼樹頭↡、有↢好端*正厳飾婦女↡。如↠是見已、即上↢彼樹↡、樹葉如↠刀、割↢其身肉↡、次割↢其筋↡。如↠是劈↢割一切処↡、已得↠上↠樹已見↢彼婦女↡、復在↢於地↡。以↢欲媚眼↡、上看↢罪人↡、作↢如↠是言↡。念↠汝因縁、我到↢此処↡。汝今何故不↢来近↟我、何不↠抱↠我。罪人見已、欲心熾盛、次第復下、刀葉向↠上、利如↢剃刀↡。如↠前遍割↢一切身分↡、既到↠地已、而彼婦女、復在↢樹頭↡。罪人見已、而復上↠樹。
正 青蓮院本、建長五年刊本、承元元年刊本では 「政」。
かくのごとく無量百千億歳、 自心に誑かされて、 かの地獄のなかに、 かくのごとく転行し、 かくのごとく焼かるること、 邪欲を因となす。 乃至、 広く説く。
如↠是無量百千億歳、自心所↠誑、彼地獄中、如↠是転行、如↠是被↠焼、邪欲為↠因。乃至*
乃至 青蓮院本、 建長五年刊本、 大派依用本では、 本文で 「乃至広説」。
獄卒、 罪人を呵責して、 偈を説きていはく、
「異人、 悪をなして、 異人、 苦の報を受くるにあらず。
みづからの業をもつてみづから果を得。 衆生みなかくのごとし」 と。 ¬*正法念経¼。
獄率呵↢*嘖罪人↡、説↠偈曰、非↣異人作悪異人受↢苦報↡、自業自得果。衆生皆如↠是。¬正法念経¼
嘖 底本まま。 註なし。
*人間の二百歳をもつて*夜摩天の一日夜となして、 その寿二千歳なり。 かの天の寿をもつてこの獄の一日夜となして、 その寿二千歳なり。 殺生・偸盗・*邪婬のもの、 このなかに堕つ。
以↢人間二百歳↡、為↢夜摩天一日夜↡、其寿二千歳。以↢彼天寿↡為↢此地獄一日夜↡、其寿二千歳。殺生・偸盗・邪婬者、堕↢此中↡。
この大地獄にまた十六の*別処あり。
此大地獄、復有↢十六別処↡。
・悪見処
いはく、 一処あり。 悪見処と名づく。 他の児子を取りて、 強ひ逼めて邪行して、 号哭せしめたるもの、 ここに堕ちて苦を受く。 いはく、 罪人みづからの児子を見れば、 地獄のなかにあり。 獄卒、 もしは鉄の杖をもつて、 もしは鉄の錐をもつて、 その〔児子の〕陰のなかを刺す。 もしは鉄鉤をもつて、 その陰のなかに釘つ。 すでにみづからの子のかくのごとき苦事を見て、 愛心をもつて悲しみ絶ゆること堪忍すべからず。 この愛心の苦は、 火焼の苦においていふに、 十六分のなかにその一にも及ばず。 かの人、 かくのごとく心の苦に逼められをはりてまた身苦を受く。 いはく、 頭面を下に在き、 熱き銅の汁を盛りて、 その糞門に潅ぐ。 その身内に入るに、 その*熟臓・大小*腸等を焼く。 次第に焼きをはりて、 下にありて出づ。 つぶさに身心の二の苦を受くること、 無量百千年のなかに止まず。
熟臓 下腹部の腸にあたる部分。
腸 底本 (青蓮院本) には 「腹」 とある。
謂有↢一処↡、名↢悪見処↡。取↢他児子↡、強逼邪行令↢号哭↡者、堕↠此受↠苦。謂罪人見↢自児子↡、在↢地獄中↡。獄率、若以↢鉄杖↡、若以↢鉄錐↡刺↢其陰中↡、若以↢鉄鉤↡釘↢其陰中↡。既見↢自子如↠是苦事↡、愛心悲絶、不↠可↢堪忍↡。此愛心苦、於↢火焼苦↡、十六分中、不↠及↢其一↡。彼人如↠是心苦逼已、復受↢身苦↡。謂頭面在↠下、盛↢熱銅汁↡、潅↢其糞門↡、入↢其身内↡、焼↢其熟蔵、大小腸等↡。次第焼已、在↠下而出。具受↢身心二苦↡、無量百千年中不↠止。
・多苦悩処
また別処あり。 多苦悩処と名づく。 いはく、 男の、 男において邪行を行ぜるもの、 ここに堕ちて苦を受く。 いはく、 本の男子を見るに、 *一切の身分、 みなことごとく熱炎あり。 来りてその身を抱くに、 一切の身分、 みなことごとく解散しぬ。 死しをはりてまた活り、 きはめて怖畏をなして、 走り避れて去るに、 嶮しき岸より堕ち、 炎の嘴ある烏、 炎の口の*野干ありて、 これを*噉食す。
噉食 がつがつとくらうこと。
又有↢別処↡、名↢*多苦悩↡。謂男於↠男行↢邪行↡者、堕↠此受↠苦。謂見↢本男子↡、一切身分、皆悉熱炎。来抱↢其身↡、一切身分、皆悉解散。死已復活。極生↢怖畏↡、走避而去堕↢於嶮岸↡、有↢炎烏、炎口野干↡、而噉↢食之↡。
多苦悩 青蓮院本では 「多苦悩処」。
・忍苦処
また*別処あり。 忍苦処と名づく。 他の婦女を取れるもの、 ここに堕ちて苦を受く。 いはく、 獄卒これを樹の頭に懸けて、 頭面は下にあり、 足は上にあり。 下に大きなる炎を燃きて一切の身を焼く。 焼き尽せばまた生じぬ。 唱喚して口を開けば、 火口より入りて、 その心・肺・*生熟臓等を焼く。 余は経に説くがごとし。 以上、 ¬正法念経¼ よりこれを略抄す。
生熟臓 生臓と熟臓。 生臓は消化器の上部、 熟臓は下腹部の腸にあたる部分。
復有↢別処↡、名↢忍苦処↡。取↢他婦女↡者、堕↠此受↠苦。謂獄率懸↢之樹頭↡、頭面在↠下、足在↢於上↡。下燃↢*火炎↡、焼↢一切身↡。焼尽復生。唱喚開↠口、火従↠口入焼↢其心・肺・生・熟蔵等↡。余如↢経説↡。已上¬正法念経¼略↢抄之↡
火 他本では 「大」。
◎厭離穢土 ○地獄 4 叫喚
【7】 四に叫喚地獄といふは、 衆合の下にあり。 *縦広、 前に同じ。 獄卒の頭、 黄なること金のごとし。 眼のなかより火出づ。 赭き色の衣を着たり。 手・足、 長大にして、 疾く走ること風のごとし。 口より悪声を出して罪人を射る。 罪人*惶怖して、 *頭を叩きて、 哀れみを求む。 「願はくは*慈愍を垂れて、 少し放捨せられよ」 と。 この言ありといへども、 いよいよ瞋怒を増す。 ¬大論¼ (*大智度論)。
頭を叩きて 頭を地につけてという意。
四叫喚地獄者、在↢衆合下↡、縦広同↠前。獄率頭黄如↠金、眼中火出、著↢赭色衣↡。手足長大疾走如↠風。口出↢悪声↡而射↢罪人↡。罪人惶怖、叩↠頭求↠哀。願垂↢慈愍↡*小見↢放捨↡。雖↠有↢此言↡、弥増↢瞋怒↡。¬大論¼
小 建長五年刊本、 大派依用本では 「少」。
あるいは鉄の棒をもつて頭を打ちて熱鉄の地よりして走らしめ、 あるいは*熱熬に置きて反覆してこれを炙る。 あるいは*熱鑊に擲げてこれを煎り煮る。 あるいは駆りて猛炎の鉄の室に入る。 あるいは鉗をもつて口を開きて*洋銅を潅ぎて、 *五臓を焼爛して下よりただちに出す。 ¬瑜伽¼ (*瑜伽論)・¬大論¼ (大智度論)。
熱熬 熱した鍋。
熱鑊 熱した釜。
洋銅 煮えたぎる銅汁。
五臓 肝臓・心臓・肺臓・腎臓・脾臓のこと。
或以↢鉄捧↡打↠頭、従↢熱鉄地↡令↠走、或置↢熱熬↡、反覆炙↠之、或擲↢熱鑊↡、而煎↢煮之↡。或駆入↢猛炎鉄室↡、或以↠鉗開↠口而潅↢洋銅↡、焼↢爛五蔵↡、従↠下直出。¬瑜伽論¼¬大論¼
罪人偈を説きて、 *閻羅人を傷恨していはく、
閻羅人 閻羅王の配下の獄卒 (地獄の鬼)。
「なんぢ、 なんぞ悲心なき、 またなんぞ寂静ならざる。
われはこれ悲心の器なり。 われにおいてなんぞ悲なき」 と。
罪人説↠偈、傷↢恨閻羅人↡言。汝何無↢悲心↡、復何不↢寂静↡。我是悲心器、於↠我何無↠悲。
時に閻羅人、 罪人に答へていはく、
「すでに*愛の羂のために誑かされて、 悪・不善の業をなして、
愛 愛欲。 貪愛。
いま悪業の報を受く。 なんがゆゑぞわれを瞋り恨むるや」 と。
時閻羅人、答↢罪人↡曰。已*為↢愛羂誑↡作↢悪不善業↡、今受↢悪業報↡、何故瞋↢恨我↡。
為愛羂誑 返り点まま。 「愛羂に誑かされて」
またいはく、
「なんぢ本悪業をなして、 *欲痴のために誑かされき。
かの時になんぞ悔いずして、 いま悔ゆること、 なんの及ぶところかあらん」 と。 ¬*正法念経¼。
又云。汝本作↢悪業↡、為↢欲痴↡所↠誑、彼時何不↠悔、今悔何所↠及。¬正法念経¼
*人間の四百歳をもつて*兜率天の一日夜となして、 その寿四千歳なり。 兜率天の寿をもつてこの獄の一日夜となして、 寿四千歳なり。 殺・盗・婬・飲酒のもの、 このなかに堕つ。
以↢人間四百歳↡、為↢*覩率天一日夜↡、*其歳以↢*覩率寿↡、為↢此*地獄一日夜↡、而寿四千歳。殺・盗・婬・飲酒者、堕↢此中↡。
覩 底本まま。 註なし。 以下同。
其歳 他本では 「其寿四千歳」。
覩率 青蓮院本では 「覩率天」。
地獄 他本では 「獄」。
また十六の*別処あり。
復有↢十六別処↡。
・火末虫処
そのなかに一処あり。 火末虫と名づく。 昔、 酒を売りしに、 水を加へ益せるもの、 このなかに堕つ。 *四百四病を具せり。 *風黄冷雑に、 おのおの百一の病あり。 合して四百四あり。 その一の病の力は、 一日夜においてよく*四大洲のそこばくの人をしてみな死せしむ。 また身より虫出でて、 その皮・肉・骨・髄を破りて飲食す。
風黄冷雑 風病と火病 (黄) と水病 (冷) と地病 (雑)。
其中有↢一処↡、名↢火末虫↡。昔売↠酒加↢益水↡者、堕↢此中↡、具↢四百四病↡。風黄冷雑各有↢百一病↡合有↢四百四↡ 其一病力、於↢一日夜↡、能令↢四大洲若干人皆死↡。又自身虫出、破↢其皮・肉・骨・髄↡飲食。
・雲火霧処
また別処あり。 雲火霧と名づく。 昔、 酒をもつて人に与へて、 酔はしめをはりて、 *調戯して、 これを弄して、 かれをして羞恥せしめたるもの、 ここに堕ちて苦を受く。 いはく、 獄火の満てること厚さ二百*肘なり。 獄卒、 罪人を捉へて火のなかに行かしめて、 足より頭に至るまで一切洋消せしむ。 足を挙ぐれば還りて生じぬ。 かくのごとく無量百千歳、 苦を与ふること止まず。 余は経の文のごとし。
調戯 あざけりからかうこと。
肘 長さの単位。 一肘は人のひじの長さ (約一尺六寸 ) に相当する。
復有↢別処↡、名↢雲火霧↡。昔以↠酒与↠人令↠酔已、調戯弄↠之、令↢彼羞耻↡者、堕↠此受↠苦。謂獄火満厚二百肘。獄率*投↢罪人↡、令↠行↢火中↡、従↠足至↠頭一切洋消、挙↠*之還生。如↠是無量百千歳与↠苦不↠止。余如↢経文↡。
投 他本では 「捉」。
之 青蓮院本では 「足」。
また獄卒、 罪人を呵嘖して、 偈を説きていはく、
「仏の所にして痴をなし、 *世・出世の事を壊り、
世出世 世間 (世俗) と出世間 (世間を超えた仏法の世界)。
解脱を焼くこと火のごとくするは、 いはゆる酒の一法なり」 と。 ¬正法念経¼。
又獄率呵↢*責罪人↡、説↠偈云。於↢仏所↡生↠痴、壊↢世・出世事↡、焼↢解脱↡如↠火、所謂酒一法。¬正法念経¼
責 他本では 「嘖」。 以下同。
◎厭離穢土 ○地獄 5 大叫喚
【8】 五に大叫喚地獄といふは、 叫喚の下にあり。 *縦広、 前に同じ。 苦の相また同じ。 ただし前の四の地獄、 およびもろもろの十六の別処の一切のもろもろの苦を十倍して重く受く。
五大叫喚地獄者、在↢叫喚下↡、縦広同↠前、苦相亦同。但前四地獄、及諸十六別処一切諸苦、十倍重受。
*人間の八百歳をもつて*化楽天の一日夜となして、 その寿八千歳なり。 かの天の寿をもつてこの獄の一日夜となして、 その寿八千歳なり。 殺・盗・婬・飲酒・*妄語のもの、 このなかに堕つ。
以↢人間八百歳↡、為↢化楽天一日夜↡其寿八千歳。以↢彼天寿↡、為↢此獄一日夜↡、其寿八千歳。殺・盗・婬・飲酒・妄語者、堕↢此中↡。
獄卒、 罪人を呵嘖して、 偈を説きていはく、
「妄語は第一の火なり。 なほよく大海をすら焼きてん。
いはんや妄語の人を焼くこと、 草木薪を焼くがごとし」 と。 云々
獄率呵↢責罪人↡、説↠偈云。妄語第一火、尚能焼↢大海↡。況焼↢妄語人↡、如↠焼↢草木薪↡。*
◇ 青蓮院本には 「云云」 の割註あり。
また*十六の別処あり。
十六の別処 ¬正法念経¼ では、 大叫喚地獄の別処を十八とする。
復有↢十六別処↡。
・受鋒苦処
そのなかの一処を受鋒苦と名づく。 熱鉄の利き針、 口舌をともに刺して、 啼哭することあたはず。
其中一処名↢受鋒苦↡。熱鉄利針、口舌倶刺、不↠能↢啼哭↡。
・受無辺苦処
また別処あり。 受無辺苦と名づく。 獄卒、 熱鉄の鉗をもつてその舌を抜き出す。 抜きをはりぬればまた生じ、 生じぬればすなはちまた抜く。 眼を抜くこともまたしかなり。 また刀をもつてその身を削る。 刀はなはだ薄く利きこと、 剃頭刀のごとし。 かくのごとき等の異類のもろもろの苦を受くること、 みなこれ妄語の果報なり。 余は経に説くがごとし。 ¬*正法念経¼ 略抄。
復有↢別処↡、名↢受無辺苦↡。獄率以↢熱鉄鉗↡抜↢出其舌↡。抜已復生、生則復抜。抜↢*二眼↡亦然。復以↠刀削↢其身↡。刀甚薄利、如↢剃頭刀↡。受↢如↠是等異類諸苦↡、皆是妄語之果報也。余如↢経説↡。¬正法念経¼略抄
二眼 青蓮院本、 建長五年本では 「眼」。
◎厭離穢土 ○地獄 6 焦熱
【9】 六に焦熱地獄といふは、 大叫喚の下にあり。 *縦広、 前に同じ。 獄卒、 罪人を捉へて熱鉄の地の上に臥せ、 あるいは仰むけ、 あるいは覆せて、 頭より足に至るまで、 大きなる熱鉄の棒をもつて、 あるいは打ち、 あるいは築きて、 *肉摶のごとくならしむ。 あるいは極熱の大きなる*鉄熬の上に置きて、 猛炎をもつてこれを炙る。 左右にこれを転じて、 表裏焼薄す。 あるいは大きなる鉄の串をもつて下よりこれを貫き、 頭を徹して出し、 反覆してこれを炙り、 かの有情をして諸根・毛孔、 および口のなかにことごとくみな炎起らしむ。 あるいは*熱鑊に入れ、 あるいは鉄の*楼に置くに、 鉄火猛盛にして骨髄を徹す。 ¬瑜伽¼ (*瑜伽論)・¬大論¼ (*大智度論)。
肉摶 肉だんご。
鉄熬 鉄の鍋。
熱鑊 熱した釜。
六焦熱地獄者、在↢大叫喚之下↡、縦広同↠前。獄率*投↢罪人↡、臥↢熱鉄地上↡、或仰或覆、従↠頭至↠足、以↢大熱鉄捧↡、或打或築、令↠如↢肉摶↡。或置↢極熱大鉄熬上↡、猛炎炙↠之、左右転↠之、表裏焼薄。或以↢大鉄串↡、従↠下貫↠之、徹↠頭而出、反覆炙↠之、令↢彼有情諸根毛孔、及以口中悉皆炎起↡。或入↢熱鑊↡、或置↢鉄楼↡、鉄火猛盛徹↢於骨髄↡。¬瑜伽論¼¬大論¼
投 他書では 「捉」。
もしこの獄の豆ばかりの火をもつて閻浮提に置かば、 一時に焚け尽きなん。 いはんや罪人の身は軟らかなること*生蘇のごとし。 長時に焚焼せんに、 あに忍ぶべけんや。 この地獄の人は、 前の五の地獄の火を望み見ること、 なほ雪霜のごとし。 ¬*正法念経¼。
生蘇 若草。
若以↢此獄豆許之火↡、置↢閻浮提↡、一時焚尽。況罪人之身、耎如↢生蘇↡。長時焚焼、豈可↠忍哉。此地獄人、望↢見前五地獄之火↡、猶如↢*霜雪↡。¬正法念経¼
霜雪 青蓮院本では 「雪霜」。
*人間の千六百歳をもつて*他化天の一日夜となして、 その寿万六千歳なり。 他化天の寿をもつて日夜となして、 この獄の寿またしかなり。 殺・盗・婬・飲酒・妄語・邪見のもの、 このなかに堕つ。
以↢人間千六百歳↡、為↢他化天一日夜↡、其寿万六千歳。以↢他化天寿↡、為↢日夜↡、此獄寿亦然。殺・盗・婬・飲酒・妄語・邪見之者、堕↢此中↡。
*四門のほかにまた十六の*別処あり。
四門 東西南北の門。
四門之外、復有↢十六別処↡。
・分荼離迦処
そのなかに一処あり。 *分荼離迦と名づく。 いはく、 かの罪人の*一切の身分に、 芥子ばかりも火炎なき処なし。 異の地獄の人、 かくのごとく説きていはく、 「なんぢ、 疾くすみやかに来れ。 なんぢ、 疾くすみやかに来れ。 ここに分荼離迦の池あり。 水ありて飲みつべし、 林に潤影あり」 と。 随ひて走り趣くに、 道の上に坑あり。 なかに熾りなる火満てり。 罪人入りをはるに、 一切の身分みなことごとく焼け尽きぬ。 焼けをはればまた生じ、 生じをはればまた焼く。 渇欲息まずして、 すなはち前進みて入りぬ。 すでにかの処に入れば、 分荼離迦の炎の燃ゆること、 高大なること五百由旬なり。 かの火に焼炙せられて、 死してまた活る。 もし人、 みづから餓死して天に生るることを得ることを望み、 また他人を教へて邪見に住せしめたるもの、 このなかに堕つ。
分荼離迦 梵語プンダリーカ (puņđarīka) の音写。 白蓮華のこと。
其中有↢一処↡、名↢分荼離迦↡。謂彼罪人一切身分、無↧芥子許無↢火炎↡処↥。異地獄人、如↠是説言。*汝汝疾疾速速来来、此有↢分荼離迦池↡、有↠水可↠飲、林有↢潤影↡。随而走趣、道上有↠坑、満↢中熾火↡。罪人入已、一切身分、皆悉焼尽。焼已復生、生已復焼。渇欲不↠息、便前進入。既入↢彼処↡、分荼離迦炎燃、高*火五百由旬。彼火焼炙、死而復活。若人自餓死望↠得↠生↠天、復教↢他人↡、令↠住↢邪見↡者、堕↢此中↡。
汝汝疾疾速速来来 青蓮院本、 建長五年刊本では 「汝疾速来々々々々」。
火 青蓮院本では 「大」。
・闇火風処
また別処あり。 闇火風と名づく。 いはく、 かの罪人、 悪風に吹かれて、 虚空のなかにありて、 *所依の処なし。 車輪のごとく疾く転じて、 身見るべからず。 かくのごとく転じをはるに、 異の*刀風生じて、 身を砕くこと沙のごとくして、 十方に分散す。 散じをはればまた生じ、 生じをはればまた散ず。 つねにかくのごとし。 もし人、 かくのごとき見をなさく、 「一切の諸法に、 常と無常とあり。 無常といふは身なり。 常といふは四大なり」 と。 かの邪見の人、 かくのごとき苦を受く。 余は経に説くがごとし。 ¬正法念経¼。
所依の処 つかまるところ。 寄るべ。
復有↢別処↡、名↢闇火風↡。謂彼罪人、悪風所↠吹、在↢虚空中↡、無↢所依処↡。如↠*輪疾転、身不↠可↠見。如↠是転已、異刀風生、砕↠身如↠沙、分↢散十方↡。散已復生、生已復散。恒常如↠是。若人作↢如↠是見↡、一切諸法、有↢常無常↡。無常者身、常者四大。彼邪見人、受↢如↠是苦↡。余如↢経説↡。¬正法念経¼
輪 青蓮院本では 「車輪」。
◎厭離穢土 ○地獄 7 大焦熱
【10】七に大焦熱地獄といふは、 焦熱<