0797◎▼往生▼要▼集 ▼巻上 *尽第四門半
天台*首楞厳院沙門*源信撰
一 序
Ⅰ 顕法難易
ⅰ 嘆宗勧帰
【1】 ◎^▼それ往生極楽の教行は、 ▼濁世末代の目足なり。 *道俗貴賎、 たれか帰せざるものあらん。
◎夫1013レ往生極楽之教行ハ、濁世*末代之目足也。道俗貴賎、誰カ不ラム↠帰セ者アラム。
一 Ⅰ ⅱ 揀非示難
^◆ただし*顕密の教法、 その文、 一にあらず。 *事理の業因、 その行これ多し。 利智精進の人は、 いまだ難しとなさず。 *予がごとき頑魯のもの、 あにあへてせんや。
但シ顕密ノ教法、其ノ文非ズ↠一ニ。事理ノ業因、其ノ行*是多シ。利智精進之人ハ、未ダ↠為サ↠難シト。如キ↠豫ガ頑魯之者、豈ニ敢ヘムヤ矣。
一 Ⅱ 叙撰述相
ⅰ 標製示用
^▼このゆゑに、 ▼念仏の一門によりて、 いささか経論の要文を集む。 ▼これを披きこれを修するに、 覚りやすく行じやすし。
是ノ故ニ依リテ↢念仏ノ一ノ門ニ↡、聊ニ集ス↢経論ノ要文ヲ↡。披キ↠之ヲ修スルニ↠之ヲ、易ク↠覚シ易シ↠行ジ。
一 Ⅱ ⅱ 挙示章門
^▼総べて十門あり。 分ちて三巻となす。 ▼一は▽厭離穢土、 二は▽欣求浄土、 三は▽極楽証拠、 四は▽正修念仏、 五は▽助念方法、 六は▽別時念仏、 七は▽念仏利益、 八は▽念仏証拠、 九は▽往生諸業、 十は▽問答料簡なり。
総テ有リ↢十門↡。分チテ為ス↢三巻ト↡。一ハ厭↢離スル穢土ヲ↡、二ハ欣↢求スル浄土ヲ↡、三ハ極楽ノ証拠、四ハ正シク修スル↢念仏ヲ↡、五ハ助念ノ方法、六ハ別時ノ念仏、七ハ念仏ノ利益、八ハ念仏ノ証拠、九ハ往生ノ諸業、十ハ問答料簡ナリ。
一 Ⅱ ⅲ 結示所為
^これを座右に置きて、 廃忘に*備へん。▼
置キテ↢之ヲ座ノ右ニ↡、備ヘム↢於*癈忘ニ↡矣。
二 正宗
Ⅰ 厭離穢土
ⅰ 総弁標章
【2】 ^▼大文第一に、 △厭離穢土といふは、 それ三界は安きことなし、 もつとも厭離すべし。 いまその相を明かすに、 総べて七種あり。 ▼一は▽地獄、 二は▽餓鬼、 三は▽畜生、 四は▽阿修羅、 五は▽人、 六は▽天、 七は▽総結なり。
大文第一ニ厭離穢土トイフ者、*夫レ三界ハ無シ↠安キコト、最モ可シ↢厭離ス↡。今明スニ↢其ノ相ヲ↡、総テ有リ↢七種↡。一ハ地獄、二ハ餓鬼、三ハ畜生、四ハ阿修羅、五ハ人、六ハ天、七ハ総結ナリ。
二 Ⅰ ⅱ 別釈広顕
a 地獄
【07983】 ^第一の△地獄に、 また分ちて八となす。 ▼一は▽等活、 二は▽黒縄、 三は▽衆合、 四は▽叫喚、 五は▽大叫喚、 六は▽焦熱、 七は▽大焦熱、 八は▽無間なり。
第一ノ地獄ニ亦分チテ為ス↠八ト。一ハ等活、二ハ黒縄、三ハ衆合、四ハ叫喚、五ハ大叫喚、六ハ焦熱、七ハ大焦熱、八ハ無間ナリ。
二 Ⅰ ⅱ a イ 等活
【4】 ^初めに△等活地獄といふは、 この閻浮提の下、 一千由旬にあり。 *縦広一万由旬なり。
初1014ニ等活地獄トイフ者、在リ↢於此ノ閻浮提之下一千由旬ニ↡。縦*広一万由旬ナリ。
^このなかの罪人、 たがひにつねに害心を懐けり。 もしたまたまあひ見れば、 猟者の鹿に逢へるがごとくして、 おのおの鉄の爪をもつてたがひに掴み裂く。 血肉すでに尽きて、 ただ残骨のみあり。
此ノ中ノ罪人、互ニ常ニ懐キテ↢害心ヲ↡、若シ適マ相見テハ、如クシテ↢猟者ノ逢ヘルガ↟鹿ニ、各ノ以テ↢鉄ノ爪ヲ↡而互ニ掴キ裂ク。血肉既ニ尽キテ、唯有リ↢残ノ骨ノミ↡。
^あるいは獄卒、 手に鉄の杖・鉄の棒を執りて、 頭より足に至るまで、 あまねくみな打ち築くに、 身体破砕すること、 なほ*沙揣のごとし。
或イハ獄卒、手ニ執リテ↢鉄ノ杖・鉄ノ*捧ヲ↡、従リ↠頭至ルマデニ↠足ニ遍ク皆打チ築クニ。身体破砕スルコト*猶如シ↢沙揣ノ↡。
^あるいはきはめて利き刀をもつて分々に肉を割くこと、 *廚者の魚肉を屠るがごとし。
或イハ以テ↢極テ利キ刀ヲ↡分々ニ割クコト↠肉ヲ、如シ↣廚者ノ屠ルガ↢魚ノ肉ヲ↡。
^涼風来りて吹くに、 尋いで活ること故のごとし。 *欻然としてまた起きて、 前のごとく苦を受く。
涼風来リテ吹クニ、尋ギテ活ルコト如クシテ↠故ノ。欻然トシテ復起キテ、如ク↠前ノ受ク↠苦ヲ。
^あるいはいはく、 空中に声ありていはく、 「このもろもろの有情、 また等しく活るべし、 また等しく活るべし」 と。 あるいはいはく、 獄卒、 鉄の叉をもつて地を打ちて、 唱へて 「活活」 といふ。 かくのごとき等の苦、 つぶさに述すべからず。
或イハ云ク、空ノ中ニ有リテ↠声云ク、此ノ諸ノ有情可シ↠還ル↢等シク活ニ↡、*可シト↠還ル↢等シク活ニ↡。或イハ云ク、獄卒以テ↢鉄ノ叉ヲ↡打チテ↠地ヲ、唱ヘテ云フ↢活々ト↡。如キ↠是クノ等ノ苦、不↠可カラ↢具ニ述ス↡。
^以上、 ¬*智度論¼・¬*瑜伽論¼・¬*諸経要集¼ によりて、 これを撰す。
已上依リテ↢¬智度論¼・¬瑜伽論¼・¬諸経要集ニ¼↡、撰ス↠之ヲ
^*人間の五十年をもつて四天王天の一日一夜となして、 その寿五百歳なり。 四天王天の寿をもつてこの地獄の一日0799一夜となして、 その寿五百歳なり。 殺生せるもの、 このなかに堕つ。 以上の寿量は ¬倶舎¼ (*倶舎論) による。 *業因は ¬*正法念経¼ による。 下の六もこれに同じ。
以テ↢人間ノ五十年ヲ↡為シテ↢四天王天ノ一日一夜ト↡。*其ノ寿五百歳ナリ。以テ↢四天王天ノ寿ヲ↡為シテ↢此ノ地獄ノ一日一夜ト↡、其ノ寿五百歳ナリ。殺生セル之者堕ツ↢此ノ中ニ↡。已上ノ寿量ハ依ル↢¬倶舎ニ¼↡。業因ハ依ル↢¬正法念経ニ¼↡。下ノ*六モ同ジ↠之ニ
^¬*優婆塞戒経¼ には、 初めの天 (四天王天) の一年をもつて初めの地獄 (等活地獄) の日夜となせり。 下去これに准へよ。
¬優婆塞戒経ニハ¼、以テ↢初ノ天ノ一年ヲ↡為セリ↢初ノ地獄ノ日夜ト↡。下去*准ヘヨ↠之ニ。
^この地獄の*四門のほかに、 また十六の*眷属の*別処あり。
此ノ地獄ノ四門之外ニ復有リ↢十六ノ眷属ノ別処↡。
・屎泥処
^一は屎泥処。 いはく、 きはめて熱き屎泥あり。 その味はひ、 もつとも苦し。 金剛の嘴ある虫、 そのなかに充満せり。 罪人、 なかにありてこの熱屎を食らふ。 もろもろの虫、 聚集して、 一時に競ひ食らふ。 皮を破りて肉を噉らひ、 骨を折りて髄を唼ふ。
一ハ屎泥処。謂ク有リ↢極テ熱キ屎泥↡。其ノ味最モ苦シ。金剛ノ嘴アル虫充↢満セリ其ノ中ニ↡。罪人在リテ↠中ニ食フ↢此ノ熱屎ヲ↡。諸ノ虫聚集シテ一時ニ競ヒ食ヒテ、破リ↠皮ヲ噉ヒ↠肉ヲ、*折リテ↠骨ヲ唼フ↠髄ヲ。
^昔、 鹿を殺し鳥を殺せるもの、 このなかに堕つ。
昔殺シ↠鹿ヲ殺セル↠鳥ヲ之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・刀輪処
^二は刀輪処。 いはく、 鉄の壁、 *周帀して、 高さ十由旬なり。 猛火*熾然として、 つねにそのなかに満てり。 人間の火はこれに比ぶれば雪のごとし。 わづかにその身に触るるに、 砕くること芥子のごとし。 また熱鉄を雨らすこと、 なほ盛りなる雨のごとし。 また刀林あり。 その刃はきはめて利し。 また*両刃ありて、 雨のごとくして下る。 もろもろの苦、 交はり至りて、 堪忍すべからず。
二ハ刀輪処。謂ク鉄ノ壁周帀シテ高サ十由旬ナリ。猛火熾然トシテ常ニ満テリ↢其ノ中ニ↡。人間之火ハ比ブレバ↠此ニ*如シ↠雪ノ。纔ニ触ルルニ↢其ノ身ニ↡、砕クルコト*如シ↢芥子ノ↡。又雨ルコト↢熱鉄ヲ↡猶如1015シ↢盛ナル雨ノ↡。復有リ↢刀林↡。其ノ刃ハ極テ利シト。復*有リテ↠雨ルコト↠刃ヲ、如クシテ↠雨ノ而下ル。衆ノ苦交リ至リテ不↠可カラ↢堪忍ス↡。
^昔、 物を貪りて殺生せるもの、 このなかに堕つ。
昔貪リテ↠物ヲ殺セル↠*生ヲ*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・瓮熟処
^三は瓮熟処。 いはく、 罪人を執りて鉄の*瓮のなかに入れて、 煎熟すること豆0800のごとし。
三ハ*瓫*熟処。謂ク執リテ↢罪人ヲ↡入レテ↢鉄ノ*瓮ノ中ニ↡、煎*熟スルコト如シ↠豆ノ。
^昔、 殺生して煮て食らへるもの、 このなかに堕つ。
昔殺シテ↠生ヲ煮テ食ヘル*之*者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・多苦処
^四は多苦処。 いはく、 この地獄に十千億種の無量の*楚毒あり。 つぶさに説くべからず。
四ハ多苦処。謂ク此ノ地獄ニ有リ↢十千億種ノ无量ノ楚毒↡。不↠可カラ↢具ニ説ク↡。
^昔、 縄をもつて人を縛り、 杖をもつて人を打ち、 人を駆りて遠き路を行かしめ、 嶮しき処より人を落し、 煙を薫べて人を悩まし、 小児を怖れしむ。 かくのごとき等の、 種々に人を悩ませるもの、 みなこのなかに堕つ。
昔以テ↠縄ヲ縛リ↠人ヲ、以テ↠杖ヲ打チ↠人ヲ、駆リテ↠人ヲ令メ↠行カ↢於遠キ路ヲ↡、従リ↢嶮シキ処↡落シ↠人ヲ、薫ベテ↠煙ヲ悩マシ↠人ヲ、令メ↠怖サ↢小児ヲ↡、如キ↠是クノ等ノ種々ニ悩マセル↠人ヲ*之者、皆堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・闇冥処
^五は闇冥処。 いはく、 黒闇の処にありて、 つねに闇火のために焼かる。 大力の猛風、 金剛山を吹きて、 合せ磨り、 合せ砕くこと、 なほ沙の散らすがごとし。 熱風に吹かるるに、 利き刀の割くがごとし。
五ハ闇冥処。謂ク在リテ↢黒闇ノ処ニ↡、常ニ為ニ↢闇火ノ↡所↠焼カ。大力ノ猛風吹キテ↢金剛山ヲ↡、*合セ磨リ、*合セ砕クコト、猶如シ↠散スガ↠沙ノ。熱風ニ所ルニ↠吹カ、如シ↢利キ刀ノ割クガ↡。
^昔、 羊の口・鼻を唵ぎ、 二の塼のなかに亀を置きて押し殺せるもの、 このなかに堕つ。
*昔唵ギ↢羊ノ口・鼻ヲ↡、二ノ塼之中ニ置キテ↠亀ヲ押シ殺セル者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・不喜処
^六は不喜処。 いはく、 大きなる火炎ありて昼夜に焚焼す。 熱炎の嘴ある鳥・狗犬・*野干の、 その声極悪にしてはなはだ怖畏すべし。 つねに来りて*食噉す。 *骨肉狼藉たり。 金剛の嘴ある虫、 骨のなかに往来して、 その髄を食らふ。
六ハ不喜処。謂ク有リテ↢大ナル火炎↡昼夜ニ焚焼ス。熱炎ノ嘴アル鳥・狗犬・野干ノ、其ノ声極悪ニシテ甚ダ可キ↢怖畏ス↡、常ニ来リテ食噉ス。骨肉狼藉ナリ。金剛ノ嘴アル虫骨ノ中ニ往来シテ、而シテ食ラフ↢其ノ髄ヲ↡。
^昔、 貝を吹き、 鼓を打ち、 畏るべき声をなして鳥獣を殺害せるもの、 このなかに堕つ。
昔吹キ↠貝ヲ打チ↠鼓ヲ、作シテ↢可↠畏ノ声ヲ↡殺↢害セル鳥獣ヲ↡*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・極苦処
^七は極苦処。 いはく、 嶮岸の下にありて、 つねに鉄火のために焼かる。
七ハ極苦処。謂ク在リテ↢嶮岸ノ下ニ↡、常ニ為ニ↢鉄火ノ↡所↠焼カ。
^昔、 *放逸にして殺生せるもの、 このなかに堕つ。
昔放逸ニシテ殺生セル*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
^以上、 ¬正法念経¼ による。 *自余の九処、 ¬経¼ (同) のなかに説かず。
已上依ル↢¬正法*念経ニ¼↡。自余ノ九処、¬経ノ¼中ニ不↠*説カ
二 Ⅰ ⅱ a ロ 黒縄
【08015】 ^二に△黒縄地獄といふは、 等活の下にあり。 縦広、 前に同じ。
二ニ黒縄地獄トイフ者、在リ↢等活ノ下ニ↡。縦広同ジ↠前ニ。
^獄卒、 罪人を執りて熱鉄の地に臥せて、 熱鉄の縄をもつて縦横に身に*拼ちて、 熱鉄の斧をもつて縄に随ひて切り割く。 あるいは鋸をもつて解き、 あるいは刀をもつて屠りて、 百千段になして処々に散在す。 また熱鉄の縄を懸けて、 交へ横たふること無数なり。 罪人を駆りてそのなかに入れしむるに、 悪風暴に吹きて、 その身に*交絡して、 肉を焼き、 骨を焦して、 楚毒極まりなし。
獄卒執リテ↢罪人ヲ↡臥セテ↢熱鉄ノ*地ニ↡、以テ↢熱鉄ノ縄ヲ↡縦横ニ拼チテ↠身ニ、以テ↢熱鉄ノ斧ヲ↡随ヒテ↠縄ニ切リ割ク。或イハ以テ↠鋸ヲ解キ、或イハ以テ↠刀ヲ屠リテ、作シテ↢百千段1016ニ↡処々ニ散在ス。又懸ケテ↢熱鉄ノ縄ヲ↡、交ヘ*横スルコト無数ニシテ、駆リテ↢罪人ヲ↡令ムルニ↠入レ↢其ノ中ニ↡。悪風暴ク*吹キテ、交↢絡シテ其ノ身ヲ↡、焼キ↠肉ヲ、焦シテ↠骨ヲ、楚毒無シ↠極リ。
^以上、 ¬瑜伽¼ (瑜伽論)・¬智度論¼。
已上¬瑜*伽¼・¬智度論¼
^また左右に大きなる鉄山あり。 山の上におのおの鉄の幢を建て、 幢の頭に鉄の縄を張り、 縄の下に多く*熱鑊あり。 罪人を駆りて、 鉄の山を負はしめ縄の上より行かしめ、 はるかに鉄の鑊に落して摧き煮ること極まりなし。 ¬*観仏三昧経¼ 意。
又左右ニ有リ↢大ナル鉄山↡。山ノ上ニ各ノ建テタリ↢鉄ノ幢ヲ↡。幢ノ頭ニ張レリ↢鉄ノ縄ヲ↡。縄ノ下ニ多ク有リ↢熱鑊↡。駆リテ↢罪人ヲ↡、令メテ↧負ハセテ↢鉄ノ山ヲ↡従リ↢縄ノ上↡行カ↥、遥ニ落シテ↢鉄ノ鑊ニ↡摧キ煮ルコト無シ↠極リ。¬観仏三昧経¼*意
^等活地獄および十六の別処の、 一切のもろもろの苦を十倍してかさねて受く。 獄卒、 罪人を呵責していはく、
等活*地獄及ビ十六ノ*別処ノ、一切ノ諸ノ苦ヲ十倍シテ重ネテ受ク。獄卒呵↢*責シテ罪人ヲ↡云ク、
^「心はこれ第一の怨なり。 この怨をもつとも悪となす。
この怨よく人を縛りて、 送りて*閻羅の処に到らしむ。
心ハ是第一ノ怨ナリ | 此ノ怨ヲ最モ為ス↠悪ト |
此ノ怨能ク縛リテ↠人ヲ | 送リテ到ラシム↢閻羅ノ処ニ↡ |
^なんぢ独り地獄に焼かれて、 悪業のために食せらる。
妻子・兄弟等の親属も救ふことあたはず」 と。 乃至広説
汝独リ地獄ニ焼カレテ | 為ニ↢悪業ノ↡所ル↠食セ |
妻子兄弟等ノ | *親*属モ不ト↠能ハ↠救フコト 乃至広説 |
^後0802の五の地獄は、 おのおの、 前々の一切の地獄のあらゆるもろもろの苦をもつて十倍して重く受くること、 例してこれを知りぬべし。 以上、 ¬正法念経¼ 意。
後ノ五ノ地獄ハ、各ノ以テ↢前々ノ一切ノ地獄ノ所*有ノ諸ノ苦ヲ↡十倍シテ重ク受クルコト、*応シ↢例シテ知リヌ↟之ヲ。已上¬正法念経¼意
^人間の一百歳をもつて忉利天の一日一夜となして、 その寿一千歳なり。 忉利天の寿をもつて一日夜となして、 この地獄の寿一千歳なり。
以テ↢人間ノ一百歳ヲ↡為シテ↢忉利天ノ一日*一夜ト↡、其ノ寿一千歳ナリ、以テ↢忉利天ノ寿ヲ↡為シテ↢一日夜ト↡、*此ノ地獄ノ寿一千歳ナリ。
^殺生・*偸盗せるもの、 このなかに堕つ。
殺生・偸盗セル*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・等喚受苦処
^また*異処あり。 等喚受苦処と名づく。 いはく、 嶮しき岸の無量由旬なるに挙げ在きて、 熱炎の黒縄をもつて束縛して、 繋けをはりて、 しかして後にこれを推して、 利き鉄の刀の熱地の上に堕す。 鉄の炎の牙ある狗の*噉食するところなり。 一切の*身分、 分々に分離す。 声を唱へて吼喚すれども、 救ふものあることなし。
復有リ↢異処↡。名ク↢等喚受苦処ト↡。謂ク挙ゲ↢在キテ*嶮シキ岸ノ無量由旬ナルニ↡、熱炎ノ黒縄ヲモテ束縛シテ、繋ケ已リテ、然シテ後ニ推シテ↠之ヲ、堕ス↢利キ鉄ノ刀ノ、熱地之上ニ↡。鉄ノ炎ノ牙アル狗之所ナリ↢噉食スル↡。一切ノ身分、分々ニ分離ス。唱ヘテ↠声ヲ吼喚スレドモ、無シ↠有ルコト↢救フ者↡。
^昔、 説法せしに悪見の論によりてし、 一切不実にして、 一切を顧みず、 岸に投げて自殺せるもの、 このなかに堕つ。
昔説法セシニ依リテシ↢悪見ノ論ニ↡、一切不ズ↠実ニ、不↠顧ミ↢一切ヲ↡、投ゲテ↠岸ヨリ自ラ殺セル者、堕ツ↢此ノ*中ニ↡。
・畏鷲処
^また異処あり。 畏鷲処と名づく。 ある本、 *この四字なし。 いはく、 獄卒杖を怒らかして急に打ち、 昼夜につねに走らしめ、 手に火炎の鉄刀を執り、 弓を挽き、 箭を弩ち、 後に随ひて走り逐ひ、 斫き打ち、 これを射る。
復有リ↢異処↡。*名ク↢畏*鷲処ト↡。*或ル本无シ↢此ノ四字↡ 謂ク獄卒怒レル↠杖ヲシテ急ニ打チテ、昼夜ニ常ニ走ル。手ニ執リ↢火炎ノ鉄刀ヲ↡、挽キ↠弓ヲ、弩チ↠箭ヲ、随ヒテ↠後ニ走リ*逐ヒテ、斫キ*打チ、射ル↠之ヲ。
^昔、 物を貪ぜしがゆゑに人を殺し、 人を縛りて食を奪ひしもの、 ここに堕つ。 ¬正法念経¼ 略抄。
昔1017貪セシガ↠物ヲ故ニ殺シ↠人ヲ、縛リテ↠人ヲ奪ヒシ↠食ヲ*之者、堕ツ↢*此ニ↡。¬正法念経¼略抄
二 Ⅰ ⅱ a ハ 衆合
【08036】 ^三に△衆合地獄といふは、 黒縄の下にあり。 縦広、 前に同じ。
三ニ衆合地獄トイフ者、在リ↢黒縄ノ下ニ↡。縦広同ジ↠前ニ。
^多く鉄山ありて、 両々あひ対へり。 *牛頭・*馬頭等のもろもろの獄卒、 手に*器仗を執りて、 ˆ罪人をˇ 駆りて山のあひだに入らしむ。 この時に両の山、 迫め来りて合せ押す。 身体摧け砕け、 血流れて地に満つ。
多ク有リテ↢鉄山↡、*両々相対ヒテ、牛頭・馬頭等ノ諸ノ*獄卒、手ニ執リテ↢器*仗ヲ↡、駆リテ令ム↠入ラ↢山ノ間ニ↡。是ノ時ニ両ノ山迫メ来リテ合セ押ス。身体摧ケ砕ケ、血流レテ満ツ↠地ニ。
^あるいは鉄の山ありて空より落ちて、 罪人を打つに、 砕くること沙揣のごとし。 あるいは石の上に置きて巌をもつてこれを押す。 あるいは鉄の臼に入れて鉄の杵をもつて擣く。
或イハ有リテ↢鉄ノ山↡従リシテ↠空而落チテ、打ツニ↢於罪人ヲ↡。砕クルコト如シ↢沙揣ノ↡。或イハ置キテ↢石ノ上ニ↡以テ↠巌ヲ押ス↠之ヲ。或イハ入レテ↢鉄ノ臼ニ↡以テ↢鉄ノ杵ヲ↡擣ク。
^極悪の獄鬼、 ならびに熱鉄の獅子・虎・狼等のもろもろの獣、 烏・鷲等の鳥、 競ひ来りて食噉す。 ¬瑜伽¼ (瑜伽論)・¬大論¼ (大智度論)。
極悪ノ獄鬼并ニ熱鉄ノ師子・虎・狼等ノ諸ノ獣、烏・鷲等ノ鳥、競ヒ来リテ食噉ス。¬瑜*伽¼・¬大論¼
^また鉄炎の嘴ある鷲、 その*腸を取りをはりて樹の頭に掛け在きて、 これを噉食す。
又鉄炎ノ嘴ノ鷲、取リ↢其ノ*腹ヲ↡已リテ掛ケ↢在キテ樹ノ頭ニ↡而噉↢食ス之ヲ↡。
^かしこに大きなる河あり。 なかに鉄鉤ありて、 みなことごとく火に燃ゆ。 獄卒、 罪人を執へて、 かの河のなかに擲げて、 鉄鉤の上に堕す。
彼ニ有リ↢大ナル*河↡。中ニ有リテ↢鉄ノ鉤↡。皆悉ク火ニ燃ユ。獄卒執ヘテ↢罪人ヲ↡、擲ゲテ↢彼ノ河ノ中ニ↡、堕ス↢鉄鉤ノ上ニ↡。
^またかの河のなかに熱き赤銅の汁ありて、 かの罪人を漂はす。 あるいは身、 日のはじめて出づるがごときものあり。 身沈没せること、 重き石のごときものあり。 手を挙げて、 天に向かひて号哭するものあり。 ともにあひ近づきてしかも号哭するものあり。
又彼ノ*河ノ*中ニ熱キ赤銅ノ汁アリテ、*漂ハス↢彼ノ罪人ヲ↡。或イハ有リ↧身如キ↢日ノ初テ出ヅルガ↡者↥。有リ↧身沈没セルコト如キ↢重キ石ノ↡者↥。有リ↢挙ゲテ↠手ヲ向ヒテ↠天ニ而号哭スル者↡。有リ↢共ニ相近ヅキテ而モ号哭スル者↡。
^久しく大苦を受けて、 主もなく、 救もなし。
久シク受ケテ↢大苦ヲ↡、*無ク↠主モ、無シ↠救モ。
・刀葉林
^また獄卒、 地獄の人を取りて*刀葉林に置く。 かの樹の頭を見るに、 好0804き*端正にして*厳飾の婦女あり。 かくのごとく見をはりて、 すなはちかの樹に上れば、 樹の葉は刀のごとくして、 その身肉を割く。 次にはその筋を割く。 かくのごとく一切の処を劈き割りをはりて、 樹に上ることを得をはりて、 かの婦女を見れば、 また地にあり。
又復獄卒取リテ↢地獄ノ人ヲ↡置ク↢刀葉林ニ↡。見ルニ↢彼ノ樹ノ頭ヲ↡有リト↢好キ端*政ニシテ厳飾ノ婦女↡、如ク↠是クノ見已リテ、即チ上レバ↢彼ノ樹ニ↡、樹ノ葉ハ如クシテ↠刀ノ割ク↢其ノ身肉ヲ↡。次ニハ割ク↢其ノ筋ヲ↡。如ク↠是クノ劈キ↢割リ一切ノ処ヲ↡已リテ、得↠上ルコトヲ↠樹ニ已リテ、見レバ↢彼ノ婦女ヲ↡復在リ↢於地ニ↡。
^欲の媚たる眼をもつて、 上に罪人を看て、 かくのごとき言をなさく、 「なんぢを念ふ因縁をもつて、 われこの処に到れり。 なんぢ、 いまなんがゆゑぞ、 来りてわれに近づかざる。 なんぞわれを抱かざる」 と。
以テ↢欲ノ媚ノ眼ヲ↡、上ニ看テ↢罪人ヲ↡、作サク↢如キ↠是クノ言ヲ↡、念フ↠汝ヲ因縁ヲモテ、我到レリ↢此ノ処ニ↡。汝、今何ガ故ゾ不↠来ラ↠近ヅキテ↠我ニ。何ゾ不ルト↠抱カ↠我ヲ。
^罪人見をはりて、 *欲心熾盛にして、 次第にまた下れば、 刀葉、 上に向かひて、 利きこと剃刀のごとくして、 前のごとくあまねく一切の身分を割く。 すでに地に到りをはりぬれば、 しかもかの婦女はまた樹の頭にあり。 罪人見をはりて、 また樹に上る。
罪人見已リテ、欲心熾盛ニシテ、次第ニ復下レバ、刀葉向ヒテ↠上ニ利キコト如クシテ↢剃刀ノ↡、如クシテ↠前ノ遍ク割1018ク↢一切ノ身分ヲ↡。既ニ到リ↠地ニ已リヌレバ、而モ彼ノ婦女ハ復在リ↢樹ノ頭ニ↡。罪人見已リテ而シテ復上ル↠樹ニ。
^かくのごとく無量百千億歳、 自心に誑かされて、 かの地獄のなかに、 かくのごとく転行し、 かくのごとく焼かるること、 邪欲を因となす。 乃至、 広く説く。
如クシテ↠是クノ無量百千億歳、自心ニ所テ↠誑サ、彼ノ地獄ノ中ニシテ、如ク↠是クノ転行シ、如ク↠是クノ被ルコト↠焼カ邪欲ヲ為↠因ト。乃至*広ク説ク。
^獄卒、 罪人を呵責して、 偈を説きていはく、
獄卒呵↢*責シテ罪人ヲ↡、説キテ↠偈ヲ曰ク、
^「異人、 悪をなして、 異人、 苦の報を受くるにあらず。
みづからの業をもつてみづから果を得。 衆生みなかくのごとし」 と。 ¬正法念経¼。
非ズ↣異人作シテ↠悪ヲ | 異人受クルニ↢苦ノ報ヲ↡ |
自ラノ業ヲモテ自ラ得↠果ヲ | 衆生皆如シト↠是クノ ¬正法念経¼ |
^人0805間の二百歳をもつて夜摩天の一日夜となして、 その寿二千歳なり。 かの天の寿をもつてこの獄の一日夜となして、 その寿二千歳なり。 殺生・偸盗・*邪婬のもの、 このなかに堕つ。
以テ↢人間ノ二百歳ヲ↡為シテ↢夜摩天ノ一日夜ト↡、其ノ寿二千歳ナリ、以テ↢彼ノ天ノ寿ヲ↡為シテ↢*此ノ獄ノ一日夜ト↡、*其ノ寿二千歳ナリ。殺生・偸盗・邪婬*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
^この大地獄にまた十六の別処あり。
此ノ大地獄ニ復有リ↢十六ノ別処↡。
・悪見処
^いはく、 一処あり。 悪見処と名づく。 他の児子を取りて、 強ひ逼めて邪行して、 号哭せしめたるもの、 ここに堕ちて苦を受く。
謂ク有リ↢一処↡。名ク↢悪見処ト↡。取リテ↢他ノ児子ヲ↡、強ヒ逼メテ邪行シテ令メタル↢号哭セ↡者、堕チテ↠此ニ受ク↠苦ヲ。
^いはく、 罪人みづからの児子を見れば、 地獄のなかにあり。 獄卒、 もしは鉄の杖をもつて、 もしは鉄の錐をもつて、 その ˆ児子のˇ 陰のなかを刺す。 もしは鉄鉤をもつて、 その陰のなかに釘つ。 すでにみづからの子のかくのごとき苦事を見て、 愛心をもつて悲しみ絶ゆること堪忍すべからず。 この愛心の苦は、 火焼の苦においていふに、 十六分のなかにその一にも及ばず。
謂ク罪人見レバ↢自ノ児子ヲ↡、在リ↢地獄ノ中ニ↡。獄卒、若シハ以テ↢鉄ノ杖ヲ↡、若シハ以テ↢鉄ノ錐ヲ↡、刺ス↢其ノ陰ノ中ヲ↡。若シハ以テ↢鉄ノ鉤ヲ↡、釘ツ↢其ノ陰ノ中ニ↡。既ニ見テ↢自ノ子ノ如キ↠是クノ苦事ヲ↡、愛心ヲモテ悲シビ絶ユルコト不↠可カラ↢堪忍ス↡。此ノ愛心ノ苦ハ、於テイフニ↢火焼ノ苦ニ↡十六分ノ中ニ不↠及バ↢其ノ一ニモ↡。
^かの人、 かくのごとく心の苦に逼められをはりてまた身苦を受く。 いはく、 頭面を下に在き、 熱き銅の汁を盛りて、 その糞門に潅ぐ。 その身内に入るに、 その*熟臓・大小*腸等を焼く。 次第に焼きをはりて、 下にありて出づ。 つぶさに身心の二の苦を受くること、 無量百千年のなかに止まず。
彼ノ人如クシテ↠是クノ心ノ苦ニ逼メサレ已リテ復受ク↢身苦ヲ↡。謂ク頭面ハ在リテ↠下ニ盛リテ↢熱キ銅ノ汁ヲモテ↡、潅グ↢其ノ糞門ニ↡。入ルニ↢其ノ身内ニ↡、焼ク↢其ノ熟蔵・大小*腹等ヲ↡。次第ニ焼キ已リテ、在リテ↠下ニ而出ヅ。具ニ受クルコト↢身心ノ二ノ苦ヲ↡、無量百千年ノ中ニ不↠止マ。
・多苦悩処
^また別処あり。 多苦悩処と名づく。 いはく、 男の、 男において邪行を行ぜるもの、 ここに堕ちて苦を受く。
又有リ↢別処↡。名ク↢多苦悩*処ト↡。謂ク男ノ於テ↠男ニ行ゼル↢邪行ヲ↡者、堕チテ↠此ニ受ク↠苦ヲ。
^い0806はく、 本の男子を見るに、 一切の身分、 みなことごとく熱炎あり。 来りてその身を抱くに、 一切の身分、 みなことごとく解散しぬ。 死しをはりてまた活り、 きはめて怖畏をなして、 走り避れて去るに、 嶮しき岸より堕ち、 炎の嘴ある烏、 炎の口の野干ありて、 これを噉食す。
謂ク見ルニ↢本ノ男子ヲ↡、一切ノ身分皆悉ク熱炎ニシテ、来リテ抱クニ↢其ノ身ヲ↡、一切ノ身分皆悉ク解散シヌ。死ニ已リテ復活リテ、極テ生シテ↢怖畏ヲ↡、走リ避レテ而去ルニ、堕1019ツレバ↢於嶮シキ岸ヨリ↡、有リテ↢炎ノ嘴アル烏、炎ノ口ノ野干↡而噉↢食ス之ヲ↡。
・忍苦処
^また別処あり。 忍苦処と名づく。 他の婦女を取れるもの、 ここに堕ちて苦を受く。
復有リ↢別処↡。名ク↢忍苦処ト↡。*取レル↢他ノ婦女ヲ↡者、堕チテ↠此ニ受ク↠*苦ヲ。
^いはく、 獄卒これを樹の頭に懸けて、 頭面は下にあり、 足は上にあり。 下に大きなる炎を燃きて一切の身を焼く。 焼き尽せばまた生じぬ。 唱喚して口を開けば、 火口より入りて、 その心・肺・*生熟臓等を焼く。 余は経に説くがごとし。 以上、 ¬正法念経¼ よりこれを略抄す。
謂ク獄卒懸ケテ↢之ヲ樹ノ頭ニ↡、頭面ハ在リ↠下ニ、足ハ在リ↢於上ニ↡、下ニ燃キテ↢*大ナル炎ヲ↡焼ク↢一切ノ*身ヲ↡。焼キ尽セバ復生ジヌ。唱喚シテ開ケバ↠口ヲ、火従リ↠口入リテ、焼ク↢其ノ心・肺・生熟蔵等ヲ↡。余ハ如シ↢経ニ説クガ↡。已上¬正法念経ヨリ¼略↢抄ス之ヲ↡
二 Ⅰ ⅱ a ニ 叫喚
【7】 ^四に△叫喚地獄といふは、 衆合の下にあり。 縦広、 前に同じ。
四ニ叫喚地獄トイフ者、在リ↢衆合ノ下ニ↡。縦広同ジ↠前ニ。
^獄卒の頭、 黄なること金のごとし。 眼のなかより火出づ。 赭き色の衣を着たり。 手・足、 長大にして、 疾く走ること風のごとし。 口より悪声を出して罪人を射る。 罪人*惶怖して、 *頭を叩きて、 哀れみを求む。 「願はくは*慈愍を垂れて、 少し放捨せられよ」 と。 この言ありといへども、 いよいよ瞋怒を増す。 ¬大論¼ (大智度論)。
獄卒ノ、頭黄ナルコト如シ↠金ノ。眼ノ中ヨリ火出ヅ。著タリ↢赭キ色ノ衣ヲ↡。手足長大ニシテ疾ク走ルコト如シ↠風ノ。口ヨリ出シテ↢悪声ヲ↡而射ル↢罪人ヲ↡。罪人惶怖シテ、叩キテ↠頭ヲ求ム↠哀ビヲ。願クハ垂レテ↢慈愍ヲ↡小シ見レヨト↢放捨セ↡。雖モ↠有リト↢此ノ言↡、弥ヨ増ス↢瞋怒ヲ↡。¬大論¼
^あるいは鉄の棒をもつて頭を打ちて熱鉄の地よりして走らしめ、 あるいは*熱熬に0807置きて反覆してこれを炙る。 あるいは熱鑊に擲げてこれを煎り煮る。 あるいは駆りて猛炎の鉄の室に入る。 あるいは鉗をもつて口を開きて*洋銅を潅ぎて、 *五臓を焼爛して下よりただちに出す。 ¬瑜伽¼ (瑜伽論)・¬大論¼ (大智度論)。
或イハ以テ↢鉄ノ*捧ヲ↡打チテ↠頭ヲ従リシテ↢熱鉄ノ地↡令ム↠走ラ。或イハ置キテ↢熱熬ニ↡反覆シテ炙ル↠之ヲ。或イハ擲ゲテ↢熱鑊ニ↡而煎リ↢煮ル之ヲ↡。或イハ駆リテ入ル↢猛炎ノ鉄ノ室ニ↡。或イハ以テ↠鉗ヲ開キテ↠口ヲ而潅ギテ↢洋銅ヲ↡、焼↢爛シテ五蔵ヲ↡従リ↠下直ニ出ス。¬瑜*伽¼・¬大論¼
^罪人偈を説きて、 *閻羅人を傷恨していはく、
罪人説キテ↠偈ヲ、傷↢恨シテ閻羅人ヲ↡言ク、
^「なんぢ、 なんぞ悲心なき、 またなんぞ寂静ならざる。
われはこれ悲心の器なり。 われにおいてなんぞ悲なき」 と。
汝何ゾ無キ↢悲心↡ | 復何ゾ不ル↢寂静ナラ↡ |
我ハ是悲心ノ器ナリ | 於テ↠我ニ何ゾ無キト↠悲 |
^時に閻羅人、 罪人に答へていはく、
時ニ閻羅人答ヘテ↢罪人ニ↡曰ク、
^「すでに*愛の羂のために誑かされて、 悪・不善の業をなして、
いま悪業の報を受く。 なんがゆゑぞわれを瞋り恨むるや」 と。
已ニ為ニ↢愛ノ羂ノ↡誑サレテ | 作シテ↢悪不善ノ業ヲ↡ |
今受ク↢悪業ノ報ヲ↡ | 何ガ故ゾ瞋リ↢恨ムルヤト我ヲ↡ |
^またいはく、
又云ク
^「なんぢ本悪業をなして、 *欲痴のために誑かされき。
かの時になんぞ悔いずして、 いま悔ゆること、 なんの及ぶところかあらん」 と。 ¬正法念経¼。
汝本作シテ↢悪業ヲ↡ | 為ニ↢欲痴ノ↡所キ↠誑サ |
彼ノ時ニ何ゾ不シテ↠悔イ | 今悔ユルコト何ノ所カアラム↠及ブ ¬正法念経¼
|
^人間の四百歳をもつて兜率天の一日夜となして、 その寿四千歳なり。 兜率天の寿をもつてこの獄の一日夜となして、 寿四千歳なり。
以テ↢人間ノ四百歳ヲ↡為シテ↢*都卒天ノ一日夜ト↡、其ノ*寿四千歳ナリ、以テ↢*都卒*天ノ寿ヲ↡為シテ↢*此ノ獄一日夜ト↡*而*寿四千歳ナリ。
^殺・盗・婬・飲酒のもの、 こ0808のなかに堕つ。
殺・盗・婬・*飲酒ノ者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
^また十六の別処あり。
復有1020リ↢十六ノ別処↡。
・火末虫処
^そのなかに一処あり。 火末虫と名づく。 昔、 酒を売りしに、 水を加へ益せるもの、 このなかに堕つ。
其ノ中ニ有リ↢一処↡。名ク↢火*末虫ト↡。昔売リシニ↠酒ヲ、加ヘ↢益セル水ヲ↡者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
^*四百四病を具せり。 *風黄冷雑に、 おのおの百一の病あり。 合して四百四あり。 その一の病の力は、 一日夜においてよく*四大洲のそこばくの人をしてみな死せしむ。 また身より虫出でて、 その皮・肉・骨・髄を破りて飲食す。
具セリ↢四百四病ヲ↡。風黄冷雑ニ、各ノ有リ↢百一ノ病↡。合シテ有リ↢四百*四↡ 其ノ一ノ病ノ力ハ、於テ↢一日夜ニ↡能ク令ム↢四大*洲ノ若干ノ人ヲシテ皆死セ↡。又自↠身ヨリ虫出デテ、破リテ↢其ノ皮・肉・骨・髄ヲ↡飲食ス。
・雲火霧処
^また別処あり。 雲火霧と名づく。 昔、 酒をもつて人に与へて、 酔はしめをはりて、 *調戯して、 これを弄して、 かれをして羞恥せしめたるもの、 ここに堕ちて苦を受く。
復有リ↢別処↡。名ク↢雲火*霧ト↡。昔以テ↠酒ヲ与ヘテ↠人ニ、令メ↠酔ハ已リテ、調戯シテ*弄シテ↠之ヲ、令メタル↢彼ヲシテ羞恥セ↡*之者、堕チテ↠*此ニ受ク↠苦ヲ。
^いはく、 獄火の満てること厚さ二百*肘なり。 獄卒、 罪人を捉へて火のなかに行かしめて、 足より頭に至るまで一切洋消せしむ。 足を挙ぐれば還りて生じぬ。 かくのごとく無量百千歳、 苦を与ふること止まず。 余は経の文のごとし。
謂ク獄火ノ満テルコト厚サ二百肘ナリ。獄卒*捉ヘテ↢罪人ヲ↡令メテ↠行カ↢火ノ中ニ↡、従リ↠足至ルマデニ↠頭ニ一切洋消セシム。挙グレバ↠*足ヲ還リテ生ジヌ。如ク↠是クノ無量百千歳、与フルコト↠苦ヲ不↠止マ。余ハ如シ↢経ノ文ノ↡。
^また獄卒、 罪人を呵嘖して、 偈を説きていはく、
又獄卒呵↢*嘖シテ罪人ヲ↡、説キテ↠偈ヲ云ク、
^「仏の所にして痴をなし、 *世・出世の事を壊り、
解脱を焼くこと火のごとくするは、 いはゆる酒の一法なり」 と。 ¬正法念経¼。
於テ↢仏ノ所ニ↡生シ↠痴ヲ | 壊リ↢世出世ノ事ヲ↡ |
焼クコト↢解脱ヲ↡如クスルハ↠火ノ | 所謂ル酒ノ一法ナリト ¬正法念経¼ |
二 Ⅰ ⅱ a ホ 大叫喚
【08098】 ^五に△大叫喚地獄といふは、 叫喚の下にあり。 縦広、 前に同じ。 苦の相また同じ。 ただし前の四の地獄、 およびもろもろの十六の別処の一切のもろもろの苦を十倍して重く受く。
五ニ大叫喚地獄トイフ者、在リ↢叫喚ノ下ニ↡。縦広同ジ↠前ニ。苦ノ相亦同ジ。但シ前ノ四ノ地獄、及ビ諸ノ十六ノ別処ノ一切ノ諸ノ苦ヲ十倍シテ重ク受ク。
^人間の八百歳をもつて化楽天の一日夜となして、 その寿八千歳なり。 かの天の寿をもつてこの獄の一日夜となして、 その寿八千歳なり。
以テ↢人間ノ八百歳ヲ↡為シテ↢化楽天ノ一日夜ト↡、*其ノ寿八千歳ナリ。以テ↢彼ノ天ノ寿ヲ↡為シテ↢此ノ獄ノ一日夜ト↡、其ノ寿八千歳ナリ。
^殺・盗・婬・飲酒・*妄語のもの、 このなかに堕つ。
殺・盗・婬・飲酒・妄語ノ者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
^獄卒、 罪人を呵嘖して、 偈を説きていはく、
獄*卒呵↢*嘖シテ罪人ヲ↡、説キテ↠偈ヲ*云ク、
^「妄語は第一の火なり。 なほよく大海をすら焼きてん。
いはんや妄語の人を焼くこと、 草木薪を焼くがごとし」 と。 云々
妄語ハ第一ノ火ナリ | 尚能ク焼キテム↢大海ヲスラ↡ |
況ヤ焼クコトヲヤ↢妄語ノ人ヲ↡ | 如シト↠焼クガ↢草木薪ヲ↡ *云々 |
^また*十六の別処あり。
復有リ↢十六ノ別処↡。
・受鋒苦処
^そのなかの一処を受鋒苦と名づく。 熱鉄の利き針、 口舌をともに刺して、 啼哭することあたはず。
其ノ中ノ一処ヲバ名ク↢受鋒苦ト↡。熱鉄ノ利キ針、口舌ヲ倶ニ刺シテ、不↠能ハ↢啼哭スルコト↡。
・受無辺苦処
^また別処あり。 受無辺苦と名づく。 獄卒、 熱鉄の鉗をもつてその舌を抜き出す。 抜きをはりぬればまた生じ、 生じぬればすなはちまた抜く。 眼を抜くこともまたしかなり。 また刀をもつてその身を削る。 刀はなはだ薄く利きこと、 剃頭刀のごとし。
復有リ↢別処↡。名ク↢受無辺苦ト↡。獄卒以テ↢熱鉄ノ鉗ヲ↡抜キ↢出ス其ノ舌ヲ↡。抜キ已リヌレバ復生ズ。生ジヌレバ則チ復抜ク。抜クコトモ↠*眼ヲ亦然ナリ。復以テ↠刀ヲ削ル↢其1021ノ身ヲ↡。刀甚ダ薄ク利キコト如シ↢剃頭刀ノ↡。
^かくのごとき等の異類のもろもろの苦を受くること、 みなこれ妄語の果報なり。 余は経に説くがごとし。 ¬正法念経¼ 略抄。
受クルコト↢如キ↠是クノ等ノ異類ノ諸ノ苦ヲ↡、皆是妄語之果報也。余ハ如シ↢経ニ説クガ↡。¬正法念経¼略抄
二 Ⅰ ⅱ a ヘ 焦熱
【08109】 ^六に△焦熱地獄といふは、 大叫喚の下にあり。 縦広、 前に同じ。
六ニ焦熱地獄トイフ者、在リ↢大叫喚之下ニ↡。縦広同ジ↠前ニ。
^獄卒、 罪人を捉へて熱鉄の地の上に臥せ、 あるいは仰むけ、 あるいは覆せて、 頭より足に至るまで、 大きなる熱鉄の棒をもつて、 あるいは打ち、 あるいは築きて、 *肉摶のごとくならしむ。 あるいは極熱の大きなる*鉄熬の上に置きて、 猛炎をもつてこれを炙る。 左右にこれを転じて、 表裏焼薄す。
獄卒*捉ヘテ↢罪人ヲ↡臥セテ↢熱鉄ノ地ノ上ニ↡、或イハ仰ゲ或イハ覆セテ、従リ↠頭至ルマデニ↠足ニ、以テ↢大ナル熱鉄ノ*捧ヲ↡、或イハ打チ或イハ築キテ、令ム↠如クナラ↢肉摶ノ↡。或イハ置キテ↢極熱ノ大ナル鉄熬ノ上ニ↡、猛炎ヲモテ炙ク↠之ヲ。左右ニ転ジテ↠之ヲ、表裏焼薄ス。
^あるいは大きなる鉄の串をもつて下よりこれを貫き、 頭を徹して出し、 反覆してこれを炙り、 かの有情をして諸根・毛孔、 および口のなかにことごとくみな炎起らしむ。 あるいは熱鑊に入れ、 あるいは鉄の*楼に置くに、 鉄火猛盛にして骨髄を徹す。 ¬瑜伽¼ (瑜伽論)・¬大論¼ (大智度論)。
或イハ以テ↢大ナル鉄ノ串ヲ↡従リ↠下貫キテ↠之ヲ、徹シテ↠頭ヲ而出シテ、反覆テ炙ク↠之ヲ。令ム↢彼ノ有情ヲシテ諸根・毛孔、及以口ノ中ニ悉ク皆炎起ラ↡。或イハ入レ↢熱鑊ニ↡、或イハ置キテ↢鉄ノ楼ニ↡、鉄火猛盛ニシテ徹ス↢於骨髄ヲ↡。¬瑜*伽¼・¬大論¼
^もしこの獄の豆ばかりの火をもつて閻浮提に置かば、 一時に焚け尽きなん。 いはんや罪人の身は軟らかなること*生蘇のごとし。 長時に焚焼せんに、 あに忍ぶべけんや。 この地獄の人は、 前の五の地獄の火を望み見ること、 なほ雪霜のごとし。 ¬正法念経¼。
若シ以テ↢此ノ獄ノ豆許之火ヲ↡置カバ↢閻浮提ニ↡、一時ニ焚ケ尽キナム。況ヤ罪人之身ハ軟カナルコト如シ↢生蘇ノ↡。長時ニ焚焼スルコト、豈ニ可ケム↠忍ブ哉。此ノ地獄ノ人ハ、望ミ↢見ルコト前ノ五ノ地獄之火ヲ↡、猶如シトオモヘリ↢*雪霜ノ↡。¬正法念経¼
^人間の千六百歳をもつて*他化天の一日夜となして、 その寿万六千歳なり。 他化天の寿をもつて日夜となして、 この獄の寿またしかなり。
以テ↢人間ノ千六百歳ヲ↡為シテ↢他化天ノ一日夜ト↡、其ノ寿万六千歳ナリ、以テ↢*他化天ノ寿ヲ↡為シテ↢日夜ト↡、*此ノ獄ノ寿亦然ナリ。
^殺・盗・婬・飲酒・妄語・邪見のもの、 このなかに堕つ。
殺・盗・婬・飲酒・妄語・邪見之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
^0811四門のほかにまた十六の別処あり。
四門之外ニ復有リ↢十六ノ別処↡。
・分荼離迦処
^そのなかに一処あり。 *分荼離迦と名づく。 いはく、 かの罪人の一切の身分に、 芥子ばかりも火炎なき処なし。 異の地獄の人、 かくのごとく説きていはく、 「なんぢ、 疾くすみやかに来れ。 なんぢ、 疾くすみやかに来れ。 ここに分荼離迦の池あり。 水ありて飲みつべし、 林に潤影あり」 と。
其ノ中ニ有リ↢一処↡。名ク↢分荼離迦ト↡。謂ク彼ノ罪人ノ一切ノ身分ニ、無シ↧芥子許モ無キ↢火*炎↡処↥。異ノ地獄ノ人如ク↠是クノ説キテ*言ク、*汝、疾ク速ニ来レ。汝、疾ク速ニ来レ。此ニ有リ↢分荼離迦ノ池↡。有リテ↠水可シ↠飲ミツ、林ニ有リト↢潤影↡。
^随ひて走り趣くに、 道の上に坑あり。 なかに熾りなる火満てり。 罪人入りをはるに、 一切の身分みなことごとく焼け尽きぬ。 焼けをはればまた生じ、 生じをはればまた焼く。
随ヒテ而走リテ趣クニ、道ノ上ニ有リ↠坑、満テタリ↢中ニ熾ナル火ヲ↡。罪人入1022リ已ルニ、一切ノ身分皆悉ク焼ケ尽キヌ。焼キ已レバ復生ジヌ。生ジ已レバ復焼ク。
^渇欲息まずして、 すなはち前進みて入りぬ。 すでにかの処に入れば、 分荼離迦の炎の燃ゆること、 高大なること五百由旬なり。 かの火に焼炙せられて、 死してまた活る。
渇欲不シテ↠息マ、便チ前進ミテ入リヌ。既ニ入レバ↢彼ノ処ニ↡、分荼離迦ノ炎ノ燃ノ高*大ナルコト五百由旬ナリ。彼ノ火ニ焼炙セラレテ、死シテ而復活ス。
^もし人、 みづから餓死して天に生るることを得ることを望み、 また他人を教へて邪見に住せしめたるもの、 このなかに堕つ。
若シ人自ラ餓死シテ望ミ↠得ムコトヲ↠生ルルコトヲ↠天ニ、復教ヘテ↢他人ヲ↡令メタル↠住セ↢邪見ニ↡者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・闇火風処
^また別処あり。 闇火風と名づく。 いはく、 かの罪人、 悪風に吹かれて、 虚空のなかにありて、 *所依の処なし。 車輪のごとく疾く転じて、 身見るべからず。 かくのごとく転じをはるに、 異の*刀風生じて、 身を砕くこと沙のごとくして、 十方に分散す。 散じをはればまた生じ、 生じをはればまた散ず。 つねにかくのごとし。
復有リ↢別処↡。名ク↢闇火風ト↡。謂ク彼ノ罪人悪風ニ所テ↠吹カ、在リテ↢虚空ノ中ニ↡、無シ↢所依ノ処↡。如ク↢*車輪ノ↡疾ク転ジテ、身不↠可カラ↠見ル。如ク↠是クノ転ジ已ルニ、異ノ刀風生ジテ、砕クコト↠身ヲ如クシテ↠沙ノ、分↢散ス十方ニ↡。散ジ已レバ復生ジヌ。生ジ已レバ復散ズ。恒常ニ如シ↠是クノ。
^もし人、 かくのごとき見をなさく、 「一切の諸法に、 常と無常0812とあり。 無常といふは身なり。 常といふは四大なり」 と。 かの邪見の人、 かくのごとき苦を受く。 余は経に説くがごとし。 ¬正法念経¼。
若シ人作サク↢如キ↠是クノ見ヲ↡、一切ノ諸法ニ有リ↢常ト無常ト↡。无常トイフ者身ナリ。常トイフ者四大ナリト。彼ノ邪見ノ人、受ク↢如キ↠是クノ苦ヲ↡。余ハ如シ↢経ニ説クガ↡。¬正法念経¼
二 Ⅰ ⅱ a ト 大焦熱
【10】^七に△大焦熱地獄といふは、 焦熱の下にあり。 縦広、 前に同じ。 苦の相また同じ。 ¬瑜伽¼ (瑜伽論)・¬大論¼ (大智度論)。
七ニ大焦熱地獄トイフ者、在リ↢焦熱ノ下ニ↡。縦広同ジ↠前ニ。苦ノ相亦同ジ。*¬瑜伽¼・¬大論¼
^ただし前の六の地獄の根本と別処との一切のもろもろの苦を十倍してつぶさに受く。 つぶさに説くべからず。 その寿、 *半中劫なり。
但シ前ノ六ノ地獄ノ根本ト別処トノ一切ノ諸ノ苦ヲ十倍シテ具ニ受クルコト、不↠可カラ↢具ニ説ク↡。其ノ寿、半中劫ナリ。
^殺・盗・婬・飲酒・妄語・邪見、 ならびに浄戒の尼を汚せるもの、 このなかに堕つ。
殺・盗・婬・飲酒・妄語・邪見并ニ*汚セル↢浄戒ノ尼ヲ↡*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
^この悪業の人は、 先づ*中有にして大地獄の相を見る。
此ノ悪業ノ人ハ、先ヅ於テ↢中有ニ↡見ル↢大地獄ノ相ヲ↡。
^閻羅人ありて、 面に悪き状あり。 手・足きはめて熱くして、 身を捩かし、 肱を怒らかせり。 罪人これを見て、 きはめて大きに*恾怖す。 その声、 雷吼のごとし。 罪人これを聞きて恐怖さらに増す。
有リテ↢閻羅人↡。面ニ有リ↢悪キ状↡。手足極テ熱シ。捩シ↠身ヲ、怒ラカセリ↠*肱ヲ。罪人見テ↠之ヲ、極テ大ニ恾怖ス。其ノ声如シ↢雷吼ノ↡。罪人聞キテ↠之ヲ恐怖更ニ増ス。
^その手に利き刀を執り、 腹肚はなはだ大にして、 黒雲の色のごとし。 眼の炎は灯のごとく、 鉤れる牙、 鋒のごとく利し。 臂・手みな長く、 揺動して勢ひをなすに、 一切の身分、 みなことごとく粗起す。 かくのごとき種々の畏づべき形状をもつて、 堅く罪人の咽を繋る。
其ノ手ニ執レリ↢利キ刀ヲ↡。腹*肚甚ダ大ニシテ、如シ↢黒雲ノ色ノ↡。眼ノ炎ハ如シ↠灯ノ、鉤レル牙*鋒ノゴトク利ナリ。臂・手皆長シ。揺動シテ作スニ↠勢ヲ、一切ノ身分皆悉ク麁起ス。如キ↠是クノ種々ノ可キ↠畏ヅ形状アリ。堅ク繋ル↢罪人ノ咽ヲ↡。
^かくのごとくして将て去ること、 六十八百千由旬の地海洲城を過ぎて、 海の外辺にあり。 また行くこと三十六億由旬にして、 *漸々に下に向かふこと十億由旬0813なり。 一切の風のなかには、 *業風第一なり。 かくのごとき業風、 悪業の人を将て去りて、 かの処に到らしむ。
如クシテ↠是クノ将テ去ルコト、過ギテ↢六十八百1023千由旬ノ地海洲城ヲ↡、在リテ↢海ノ外辺ニ↡。復行クコト卅六億由旬ニシテ、漸々ニ向フコト↠下ニ十億由旬ナリ。一切ノ風ノ中ニハ業ノ風第一ナリ。如キ↠是クノ業風将テ↢悪業ノ人ヲ↡去リテ、到ラシム↢彼ノ処ニ↡。
^すでにかしこに到りをはりぬれば、 *閻魔羅王、 種々に呵責す。 呵責すでに已れば、 悪業の羂をもつて縛りて、 出して地獄に向かはしむ。
既ニ到リ↠彼ニ已リヌレバ閻魔*羅王種々ニ呵*責ス。呵*責既ニ已リテ、悪業ノ羂ヲモテ縛リテ、出シテ向フ↢地獄ニ↡。
^遠く大焦熱地獄のあまねく大きなる炎の燃ゆるを見る。 また地獄の罪人の啼哭の声を聞く。 悲しみ愁へ、 恐魄して、 無量の苦を受く。 かくのごとく無量百千万億無数の年歳、 啼哭の声を聞きて、 十倍して恐魄し、 心驚き怖畏す。
遠ク見ル↢大*燋熱地獄ノ普ク大ナル炎ノ燃ユルヲ↡。又聞キ↢地獄ノ罪人ノ啼哭之声ヲ↡、悲シビ愁ヘ恐ヅル魄アリテ、受ク↢無量ノ苦ヲ↡。如クシテ↠是クノ無量百千*万億無数ノ年歳、聞キテ↢啼哭ノ声ヲ↡、十倍シテ恐魄シテ心驚キ怖畏ス。
^閻羅人、 これを呵責していはく、
閻羅人呵↢*責シテ之ヲ↡言ク、
^「なんぢ地獄の声を聞くに、 すでにかくのごとく怖畏す。
いかにいはんや地獄にして焼かるることは、 乾れたる薪草を焼くがごとし。
汝聞クニ↢地獄ノ声ヲ↡ | 已ニ如ク↠是クノ怖畏ス |
何ニ況ヤ地獄ニシテ焼クコトハ | 如シ↠焼クガ↢乾レタル薪草ヲ↡ |
^火の焼くはこれ焼くにあらず。 悪業すなはちこれ焼くなり。
火の焼くはすなはち滅すべし。 業の焼くをば滅すべからず」 と。 云々
火ノ焼クハ非ズ↢是焼クニ↡ | 悪業乃チ是焼クナリ |
火ノ焼クハ則チ可シ↠滅シツ | 業ノ焼クヲバ不ト↠可カラ↠滅ス。云々 |
^かくのごとくねんごろに呵責しをはりて、 将て地獄に向かふに、 大きなる*火聚あり。 その聚、 挙れること高さ五百由旬なり。 その量、 寛広なること二百由旬なり。 炎の燃ゆること熾盛なるは、 かの人の所作の悪業の勢力なり。 急にその身を擲げて、 かの火聚に堕すこと、 大きなる山の岸より推して険しき岸に在くが0814ごとし。 以上、 ¬正法念経¼ よりこれを取意し略抄す。
如ク↠是クノ苦ニ呵*責シ已リテ、将テ向フルニ↢地獄ニ↡、有リ↢大ナル火聚↡。其ノ聚挙レルコト高サ五百由旬ナリ。其ノ量寛広ナルコト二百由旬ナリ。炎ノ燃ユルコト熾盛ナリ。彼ノ人ノ所ノ↠作レル悪業ノ勢力ナリ、急カニ擲ゲテ↢其ノ身ヲ↡堕スコト↢彼ノ火聚ニ↡、如シ↣大ナル山ノ岸ヲ推シテ在クガ↢険シキ岸ニ↡。已上¬正法念経ヨリ¼*取↢意シ略↣抄ス*之ヲ↡
^この大焦熱地獄の四門のほかに、 十六の別処あり。
此ノ大焦熱地獄ノ四門之外ニ有リ↢十六ノ別処↡。
・皆悉炎燃処
^そのなかに一処あり。 一切間なく、 乃至虚空まで、 みなことごとく炎燃して、 針の孔ばかりも炎燃せざる処なし。 罪人、 火のなかに声を発して唱へ喚ぶ。 無量億歳、 つねに焼くこと止まず。
其ノ中ニ*有リ↢一処↡。一切無ク↠間、乃至虚空マデニ皆悉ク炎燃シテ、无シ↧針ノ孔許モ不ル↢炎燃セ↡処↥。罪人火ノ中ニシテ発シテ↠声ヲ、唱ヘ喚ブ。无量億歳ニ常ニ焼クコト不↠止マ。
^清浄の優婆夷を犯せるもの、 このなかに堕つ。
犯セル↢清浄ノ優婆夷ヲ↡*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・普受一切苦悩処
^また別処あり。 普受一切苦悩と名づく。 いはく、 炎刀をもつて一切の身の皮を剥ぎ割きて、 その肉をば侵さず。 すでにその皮を剥ぎ、 身とあひ連ねて熱の地に敷き在きて、 火をもつてこれを焼き、 熱鉄の沸けるをもつてその身体に潅ぐ。 かくのごとく無量億歳、 大苦を受く。
復有リ↢別処↡。名ク↢普受一切苦悩ト↡。謂ク炎刀ヲモテ剥ギ↢割キテ一切ノ身ノ皮ヲ↡、不↠侵サ↢其ノ肉ヲバ↡。既ニ剥ギテ↢其ノ皮ヲ↡、与↠身相連ネテ敷セ↢在キテ熱ノ地ニ↡、以テ↠火ヲ焼キ↠之ヲ、以テ↢熱鉄ノ沸ヲ↡潅グ↢其ノ身1024体ニ↡。如クシテ↠是クノ無量*億歳受ク↢大苦ヲ↡也。
^*比丘の、 酒をもつて持戒の婦女を誘へ誑かして、 その心を壊りをはりて、 しかして後に、 ともに行じ、 あるいは財物を与へたるもの、 このなかに堕つ。
比丘ノ以テ↠酒ヲ誘ヘ↢誑テ持戒ノ婦女ヲ↡、壊リ↢其ノ心ヲ↡已リテ、然シテ後ニ共ニ行ジ、或イハ与ヘタル↢財物ヲ↡*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
^余は経に説くがごとし。 ¬正法念経¼ よりこれを略抄す。
余ハ如シ↢*経ニ説クガ↡。¬正法念経ヨリ¼略↢抄ス*之ヲ↡
二 Ⅰ ⅱ a チ 阿鼻
【11】^八に△阿鼻地獄といふは、 大焦熱の下にあり。 欲界の最底の処なり。
八ニ阿鼻地獄トイフ者、在リ↢大焦熱之下ニ↡。欲界ノ最底之処ナリ。
^罪人、 かしこに趣向する時に、 先づ中有の位にして、 啼哭して、 偈を説きていはく、
罪人趣↢向スル彼ニ↡時ニ、先ヅ中有ノ位ニシテ、啼哭シテ説キテ↠偈ヲ*言ク、
^「一切はただ火炎なり。 空に遍して中間もなし。
四方および*四維、 地界にも空しきところなし。
一切ハ唯火炎ナリ | 遍シテ↠空ニ無シ↢中間モ↡ |
四方及ビ四維 | 地界ニモ無シ↢空シキ処↡ |
^0815一切の地界処には、 悪人みな*遍満せり。
われいま帰するところなくして、 孤独にして同伴なし。
一切ノ地*界処ニハ | 悪人皆遍満セリ |
我今無クシテ↠所↠帰スル | 孤独ニシテ無シ↢同伴↡ |
^悪処の闇のなかにありて、 大きなる火炎の聚に入りぬ。
われ虚空のなかにして、 日・月・星を見ず」 と。 以上
在リテ↢悪処ノ闇ノ中ニ↡ | 入リヌ↢大ナル火炎ノ聚ニ↡ |
我於テ↢虚空ノ中ニ↡ | 不ト↠見エ↢日月*星ヲ↡ 已上 |
|
^時に閻羅人、 瞋怒の心をもつて答へていはく、
時ニ閻羅人以テ↢瞋怒ノ心ヲ↡答ヘテ曰ク、
^「あるいは*増劫あるいは*減劫に、 大火なんぢが身を焼く。
痴人すでに悪をなしてき。 いまなにをもつてか悔ゆることをなす。
或イハ増劫或イハ減劫ニ | 大火焼ク↢汝ガ身ヲ↡ |
痴人已ニ作シテキ↠悪ヲ | 今何ヲ用テカ生ス↠悔ユルコトヲ |
^これ天・修羅・*健達婆・竜・鬼のするにもあらず。
*業羅の繋縛するところなり。 人のよくなんぢを救ふものなし。
非ズ↢是天・修羅・ | 健達婆・竜・鬼ノスルニモ↡ |
業*羅ノ所ナリ↢繋縛スル↡ | 無ケム↢人トシテ能ク救フコト↟汝ヲ |
^大海のなかに、 ただ*一掬の水を取らんがごとし。
この苦は一掬のごとし、 後の苦は大海のごとし」 と。 以上
如シ↧於テ↢大海ノ中ニ↡ | 唯シ取ラムガ↦一掬ノ水ヲ↥ |
此ノ苦ハ*如シ↢一掬ノ↡ | 後ノ苦ハ如シト↢大海ノ↡ *已上 |
|
^すでに呵責しをはれば、 将て地獄に向かふ。 かしこを去ること二万五千由旬にして、 かの地獄の啼哭の声を聞きて、 十倍して悶絶す。 頭面は下にあり、 足は上にありて、 二千年を経て、 みな下に向かひて行く。 ¬正法念経¼ よりこれを略抄す。
既ニ呵*責シ已リテ、将テ向フ↢地獄ニ↡。去レルコト↠彼ヲ二万五千由旬ニシテ、聞キテ↢彼ノ地獄ノ啼哭之声ヲ↡、十倍シテ悶絶ス。頭面ハ在リ↠下ニ、足ハ在リテ↢於上ニ↡、逕テ↢二千年ヲ↡、皆向ヒテ↠下ニ行ク。¬正法念経ヨリ¼略↢抄ス*之ヲ↡
^かの阿鼻城は、 縦広八万由旬にして、 七重の鉄の城、 七層の鉄の網あり。 下0816に十八の*隔ありて、 刀林周帀せり。
彼ノ阿鼻城ハ、縦広八万由旬ナリ。七重ノ鉄ノ城アリ、七層ノ鉄ノ網アリ。下ニ有リテ↢十八ノ隔↡。刀林周帀セリ。
^四角に四の銅の狗あり。 身の長四十由旬なり。 眼は電のごとく、 牙は剣のごとく、 歯は刀山のごとく、 舌は鉄刺のごとし。 一切の毛孔よりみな猛火を出し、 その煙臭悪にして世間に喩へなし。
四角ニ*有リ↢四ノ銅ノ狗↡。*身ノ長サ由旬ナリ。眼ハ如ク↠電ノ、牙ハ如ク↠剣ノ、歯ハ如ク↢刀山ノ↡、舌ハ如シ↢鉄*刺ノ↡。一切ノ毛孔ヨリ皆出ス↢猛火ヲ↡。其ノ煙臭悪ニシテ、世間ニ無シ↠喩ヒ。
^十八の獄卒あり。 頭は羅刹のごとく、 口は夜叉のごとし。 六十四の眼ありて、 鉄丸を迸り散らす。 鉤れる牙は、 上に出でたること高さ四由旬、 牙の頭より火流れて阿鼻城に満つ。 頭の上に八の牛頭あり。 一々の牛頭に十八の角ありて、 一々の角の頭よりみな猛火を出す。
有リ↢十八ノ獄卒↡。頭ハ如ク↢羅刹ノ↡、口ハ如シ↢夜叉ノ↡。有リテ↢六十四ノ眼↡、迸1025リ↢散ス鉄ノ丸ヲ↡。鉤レル牙ハ上ニ出デタルコト高サ四由旬。牙ノ頭ヨリ火流レテ満ツ↢阿鼻城ニ↡。頭ノ上ニ有リ↢八ノ牛ノ頭↡。一々ノ牛頭ニ有リテ↢十八ノ角↡。一々ノ角ノ頭ニ皆出ス↢猛火ヲ↡。
^また七重の城のうちに七の*鉄幢あり。 幢の頭より火涌くこと、 なほ沸泉のごとし。 その炎、 流れ迸りて、 また城のうちに満つ。
又七重ノ城ノ内ニ有リ↢七ノ鉄幢↡。幢ノ頭ニ火*湧クコト、猶如シ↢沸泉ノ↡。其ノ炎流レ迸リテ、亦満ツ↢城ノ内ニ↡。
^四門の閫の上に八十の釜あり。 *沸銅涌出して、 また城のうちに満つ。
四門ノ閫ノ上ニ有リ↢八十ノ釜↡。沸銅*涌出シテ、亦満ツ↢城ノ内ニ↡。
^一々の隔のあひだに、 八万四千の*鉄蟒・大蛇ありて、 毒を吐き、 火を吐きて、 身城のうちに満てり。 その蛇の哮え吼ゆること、 百千の雷のごとく、 大鉄丸を雨らして、 また城のうちに満つ。
一々ノ隔ノ間ニ有リテ↢八万四千ノ鉄*蟒・大蛇↡、吐キ↠毒ヲ吐キテ↠火ヲ、身満テリ↢城ノ内ニ↡。其ノ蛇ノ哮エ吼ブコト、如シ↢百千ノ雷ノ↡。雨ラシテ↢大鉄丸ヲ↡、亦満ツ↢城ノ内ニ↡。
^五百億の虫あり。 八万四千の嘴ありて、 嘴の頭より火流れ、 雨のごとくして下る。 この虫下る時に、 獄火いよいよ盛りにして、 あまねく八万四千由旬を照らす。 また八万億千の苦のなかの苦なるもの、 このなかに集在せり。 ¬観仏三昧経¼ よりこれを略抄す。
有リ↢五百億ノ虫↡。有リテ↢八万四千ノ嘴↡。嘴ノ頭ニ火流ル。如クシテ↠雨ノ*而下ル。此ノ虫下ル時ニ、獄火弥ヨ盛ニシテ遍ク照ス↢八万四千由旬ヲ↡。又八万*億千ノ苦ノ中ノ苦ナル者、集在セリ↢此ノ中ニ↡。¬観*仏三昧経ヨリ¼略↢抄ス*之ヲ
^¬瑜伽¼ (瑜伽論) の第四0817にいはく、 「東方の多百*瑜繕那の↓三熱の大鉄地の上より、 猛熾の火ありて、 焔を騰げて来りて、 かの有情を刺す。 皮を穿ちて肉に入り、 筋を断ちて骨を破り、 またその髄に徹りて、 焼くこと脂燭のごとし。 かくのごとく、 身を挙りてみな猛焔となりぬ。 東方よりするがごとく、 南西北方もまたかくのごとし。
¬瑜*伽ノ¼第四ニ云ク、「従リ↢東方ノ多百*瑜繕那ノ三熱ノ大鉄地ノ上↡有リテ↢猛熾ノ火↡、騰ゲテ↠焔ヲ而来リテ、刺シテ↢彼ノ有情ヲ↡、穿チテ↠皮ヲ入リ↠肉ニ、断チテ↠筋ヲ破ル↠骨ヲ。復徹シテ↢其ノ髄ヲ↡、焼クコト如シ↢脂燭ノ↡。如クスルニ↠是クノ挙リテ↠身ヲ皆成リヌ↢猛焔ト↡。如ク↠従リスルガ↢東方↡、南・西・北方モ亦復如シ↠是クノ。
^この因縁によりて、 かのもろもろの有情、 猛焔と和雑して、 ただ火聚の、 四方より来るを見る。 火焔、 和雑し、 間隙あることなく、 所受の苦痛また間隙なし。 ただ苦に逼められて号き叫ぶ声を聞きて、 衆生ありといふことを知る。
由リテ↢此ノ因縁ニ↡、彼ノ諸ノ有情与↢猛焔↡和雑シテ、唯シ見ユ↢火聚ト↡。従リ↢四方↡来レル火焔和雑シテ、無シ↠有ルコト↢間隙↡。所受ノ苦痛亦無シ↢間隙↡。唯聞キテ↢苦ニ逼メラレテ号キ叫ブ之声ヲ↡、知ル↠有リトイフコトヲ↢衆生↡。
^また鉄の箕をもつて三熱の鉄の炭を盛り満てて、 これを*簸り揃へ、 また熱鉄の地の上に置きて、 大熱鉄の山に登らしむ。 上りてはまた下り、 下りてはまた上る。
又以テ↢鉄ノ箕ヲ↡盛リ↢満テテ三熱ノ鉄ノ炭ヲ↡而シテ簸リ↢揃フ↠之ヲ↡。復置キテ↢熱鉄ノ地ノ上ニ↡、令ム↧登リテ↢大熱鉄ノ山ニ↡、上リテハ而シテ復下ス、下リテハ而復上ラ↥。
^その口のなかより、 その舌を抜き出して、 百の鉄の釘をもつて、 これを張りて、 皺なからしむること、 牛の皮を張るがごとし。
従リ↢其ノ口ノ中↡抜キ↢出シテ其ノ舌ヲ↡、以テ↢百ノ鉄ノ釘ヲ↡而張リテ↠之ヲ、令ムルコト↠无カラ↢皺↡如シ↠張ルガ↢牛ノ皮ヲ↡。
^またさらに熱鉄の地の上に仰むけ臥せて、 熱鉄の鉆をもつて口を鉆みて開かしめ、 三熱の鉄丸をもつてその口のなかに置きて、 すなはちその口および咽喉を焼き、 *腑臓を徹して下より出す。
復1026更ニ仰ゲ↢臥セテ熱鉄ノ地ノ上ニ↡、以テ↢熱鉄ノ*鉆ヲ↡*鉆ミテ↠口ヲ令メテ↠開カ、以テ↢三熱ノ鉄丸ヲ↡置キテ↢其ノ口ノ中ニ↡、即チ焼キテ↢其ノ口及以咽喉ヲ↡、徹シテ↢於府蔵ヲ↡従リシテ↠下而出ス。
^また洋銅をもつてその口に潅ぎて、 喉および口を焼き、 腑臓を徹して下より流出す」 と。
又以テ↢洋銅ヲ↡而潅ギテ↢其ノ口ニ↡、焼キテ↢喉ト及ビ口ヲ↡、徹シテ↢於府蔵ヲ↡従リシテ↠下流レテ出スト。」
^以上、 ¬瑜伽¼ (瑜伽論) に、 「↑*三熱」 といふは、 「焼燃・極焼燃・遍極0818焼燃」 なり。
已上¬瑜伽ニ¼言ク↢、「三熱トイフ」↡者、焼燃・極焼燃・遍極焼燃*也
^七の大地獄ならびに別処の一切のもろもろの苦を、 もつて一分となすに、 阿鼻地獄は一千倍して勝れたり。 かくのごとくして、 阿鼻地獄の人は、 大焦熱地獄の罪人を見ること、 *他化自在天処を見るがごとし。
*七ノ大地獄并テ及ビ別処ノ一切ノ諸ノ苦ヲ、以ヲモテ為テ↢一分ト↡、阿鼻地獄ハ一千倍シテ勝レタリ。如キ↠是クノ阿鼻地獄之人ハ、見ルコト↢大焦熱地獄ノ罪人ヲ↡如シ↠見ルガ↢他化自在天処ヲ↡。
^*四天下処、 *欲界六天は、 地獄の気を聞がば、 すなはちみな消え尽きなん。 なにをもつてのゆゑに。 地獄の人はきはめて大きに臭きをもつてのゆゑに。 地獄の臭き気、 なんがゆゑぞ来らざる。 二の大山ありて、 一は出山と名づけ、 二を没山と名づく。 かの臭き気を遮せり。
四天下処、欲界六天ハ、聞ガバ↢地獄ノ気ヲ↡、即チ皆消エ尽キナム。何ヲ以テノ故ニ。以テノ↢地獄ノ人ハ極テ*大ニ臭キヲ↡故ニ。地獄ノ臭キ気、何ガ故ゾ不ル↠来ラ。有リテ↢二ノ大山↡、一ハ名ク↢出山↡。二ヲバ名ク↢没山ト↡。遮セリ↢彼ノ臭キ気ヲ↡。
^もし人、 一切の地獄のあらゆる苦悩を聞かば、 みなことごとく堪へざらん。 これを聞かばすなはち死せん。 かくのごとくなるをもつて、 阿鼻大地獄処をば、 千分のなかにおいて一分をも説かず。 なにをもつてのゆゑに。 説き尽すべからず、 聴くことを得べからず、 譬喩すべからざるをもつてなり。 もし人ありて説き、 もし人ありて聴かば、 かくのごとき人は血を吐きて死せん。 ¬正法念経¼ より、 取意略抄す。
若シ人聞キテ↢一切ノ地獄ノ所有ノ苦悩ヲ↡、皆悉ク不ラム↠*堪セ。聞カバ↠此ヲ則チ死ナム。如クナルヲモテ↠是クノ阿鼻大地獄処ヲバ於テ↢千分ノ中ニ↡不↠説カ↢一分ヲダモ↡。何ヲ以テノ故ニ。不↠可カラ↢説キ尽ス↡、不↠可カラ↠得↠聴クコトヲ、不ルヲモテナリ↠可カラ↢譬喩ス↡。若シ有リテ↠人*説キ、*若シ有リテ↠人聴カバ、如キ↠是クノ之人ハ吐キテ↠血ヲ而死ナム。¬正法念経¼*取意略抄ス
^この*無間獄は寿一中劫なり。 ¬倶舎論¼。
此ノ無間獄ハ寿一中劫ナリ。¬倶舎論¼
^五逆罪を造り、 *因果を撥無し、 大乗を誹謗し、 四重を犯して、 虚しく*信施を食らへるもの、 このなかに堕つ。 ¬観仏三昧経¼ による。
造リ↢五逆罪ヲ↡、撥↢無シ因果ヲ↡、誹↢謗シ大乗ヲ↡、犯シテ↢四重ヲ↡、虚シク食ラヘル↢信施ヲ↡*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。*依ル¬観仏三昧経ニ¼
^この無間獄の四門のほかに、 また十六の*眷属の別処あり。
此ノ無間獄ノ四門*之外ニ亦有リ↢十六ノ眷属別処↡。
・鉄野干食処
^そのなかの一処を鉄0819野干食処と名づく。 いはく、 罪人の身の上に、 火の燃えたること十由旬量なり。 もろもろの地獄のなかに、 この苦もつとも勝れたり。 また鉄の塼を雨らすこと、 盛りなる夏の雨のごとく、 身体破砕すること、 なほ乾れたる*脯のごとし。 炎の牙ある野干、 つねに来りて食噉し、 一切の時において苦を受くること止まず。
其ノ中ニ一処ヲバ名ク↢鉄野干食処ト↡。謂ク罪人ノ身ノ上ニ火ノ燃エタルコト十由旬量ナリ。諸ノ地獄ノ中ニ、此ノ苦最モ勝レタリ。又雨ルコト↢鉄ノ塼ヲ↡如シ↢盛ナル夏ノ雨ノ↡。身体破砕スルコト猶如シ↢乾レタル脯ノ↡。炎ノ牙アル野干常ニ来リテ食噉ス。於テ↢一切ノ時ニ↡受クルコト↠苦ヲ不↠止マ。
^昔、 仏像を焼き、 僧房を焼き、 僧の臥具を焼きしもの、 このなかに堕つ。
昔1027焼キ↢仏像ヲ↡、焼キ↢僧房ヲ↡、焼ケル↢僧ノ臥具ヲ↡*之者、堕ツ↢此ノ中ニ↡。
・黒肚処
^また別処あり。 黒肚処と名づく。 いはく、 飢渇身を焼きて、 みづからその肉を食らふ。 食らひをはればまた生じ、 生じをはればまた食らふ。 黒肚の蛇ありて、 かの罪人を繞ひて、 はじめ足の甲より漸々に齧み食らふ。 あるいは猛火に入れて焚焼し、 あるいは*鉄鑊に在きて煎煮す。 無量億歳、 かくのごとき苦を受く。
復有リ↢別処↡。名ク↢黒肚処ト↡。謂ク飢渇焼キテ↠身ヲ、自ラ食フ↢其ノ肉ヲ↡。食ヒ已レバ復生ズ。生ジ已レバ復食フ。有リテ↢黒*肚ノ蛇↡、繞ヒテ↢彼ノ罪人ヲ↡、始テ従リ↢足ノ甲↡漸漸ニ齧ミ食フ。或イハ入レテ↢猛火ニ↡焚焼セラル。或イハ在キテ↢鉄鑊ニ↡煎煮ス。無量億歳受ク↢如キ↠*是クノ苦ヲ↡。
^昔、 仏の財物を取りて食用せるもの、 ここに堕つ。
昔取リテ↢仏ノ財物ヲ↡食用セル*之者、堕ツ↢*此ニ。
・雨山聚処
^また別処あり。 雨山聚処と名づく。 いはく、 一由旬量の鉄山、 上より下りて、 かの罪人を打つに、 砕くること沙揣のごとし。 砕けをはればまた生じ、 生じをはればまた砕く。 また十一の炎ありて、 周遍して身を焼く。 また獄卒、 刀をもつてあまねく身分を割きて、 極熱の白鑞の汁をその割ける処に入る。 四百四病、 具足してつねにあり。 長久に苦を受けて年歳あることなし。
復有リ↢別処↡。名ク↢*雨山聚処ト↡。謂ク一由旬量ノ鉄山従リシテ↠上而下リテ、打ツニ↢彼ノ罪人ヲ↡、砕クルコト如シ↢沙揣ノ↡。砕ケ已レバ復生ジ、生ジ已レバ復砕ク。又有リテ↢十一ノ炎↡、周遍シテ焼ク↠身ヲ。又獄卒以テ↠刀ヲ遍ク割キテ↢身分ヲ↡、極熱ノ白鑞ノ汁ヲ入ル↢其ノ割ケル処ニ↡。四百四病具足シテ常ニ有リ。長久ニ受ケテ↠苦ヲ、無シ↠有ルコト↢年歳↡。
^昔、 辟支仏の食を取りて、 みづから食0820してこれを与へざるもの、 ここに堕つ。
昔取リテ↢辟支仏之食ヲ↡、自ラ食シテ不ル↠与ヘ↠之ヲ者、堕ツ↠此ニ。
・閻婆度処
^また別処あり。 閻婆度処と名づく。 悪鳥あり、 身大きなること象のごとし。 名づけて閻婆といふ。 嘴利くして炎を生ぜり。 罪人を執りて、 はるかに空中に上りて、 東西に遊行し、 しかして後にこれを放つに、 石の地に堕つるがごとくして、 砕けて百分となる。 砕けをはりてはまた合し、 合しをはればまた執る。
復有リ↢別処↡。名ク↢閻*婆度処ト↡。有リ↢悪鳥↡、身大ナルコト如シ↠象ノ。名ケテ曰フ↢閻婆ト↡。嘴利クシテ*生ゼリ↠炎ヲ。執リテ↢罪人ヲ↡遥ニ上リテ↢空ノ中ニ↡東西ニ遊行ス。然シテ後ニ放ツニ↠之ヲ、如クシテ↢石ノ堕ツルガ↟地ニ、砕ケテ為ル↢百分ニ↡。砕ケ已リテハ復合フ。合シ已レバ復執ル。
^また利き刃道に満ちて、 その足脚を割く。 あるいは炎の歯ある狗ありて、 来りてその身を齧む。 長久の時に大苦悩を受く。
又利キ刃満チテ↠道ニ、割ク↢其ノ足脚ヲ↡。或イハ有リテ↢炎ノ歯アル狗↡、来リテ齧ム↢其ノ身ヲ↡。於テ↢長久ノ時ニ↡受ク↢*大苦悩ヲ↡。
^昔、 人の*用ゐる ˆ河をˇ 決断して、 人をして渇死せしめたるもの、 ここに堕つ。 余は経に説くがごとし。 以上 ¬正法念経¼。
昔決↢断シテ人ヲ↡*困ミテ↠之ヲ、*令メタル↢人ヲシテ渇死セ↡之者、堕ツ↠此ニ。余ハ如シ↢経ニ説クガ↡。已上¬正法念経¼
^¬瑜伽¼ (瑜伽論) の第四に、 通じて八大地獄の近辺の別処を説きていはく、 「^いはく、 かの一切のもろもろの*大那落迦に、 みな四方に四岸・四門ありて、 鉄の墻、 *囲繞せり。 その四方の四門より出でをはりて、 その一々の門のほかに四の*出園を置けり。
¬瑜伽ノ¼第四ニ通ジテ説キテ↢八大地獄ノ近辺ノ別処ヲ↡云ク、「謂ク彼ノ一切ノ諸ノ大那落迦ニ、皆有リテ↢四方ノ四岸ノ四門↡。鉄ノ牆囲遶セリ。従リ↢其ノ四方ノ四門↡出デ已リテ、其ノ一々ノ門ノ外ニ置ケリ↢四ノ出ヅル園ヲ↡。
・煨
^いはく、 *煨ありて膝に斉し。 かのもろもろの有情、 出でて舎宅を求めんとして遊行して、 ここに至りぬ。 足を下す時には、 皮肉および血、 ならびにすなはち消爛しぬ。 足を挙ぐれば還りて生ず。
謂ク煨ノ斉シキニ↠膝ニ、彼ノ諸ノ有情*出デテ求メムトシテ↢舎1028宅ヲ↡遊行シテ至リヌ↠此ニ。下ス↠*足ヲ時ニハ、皮肉及ビ血、*並ニ即チ消爛シヌ。挙グレバ↠足ヲ還リテ生ズ。
・屍糞泥
^次いでこの煨に間なくして、 すなはち*死屍糞泥あり。 このもろもろの有情、 舎宅を求めんがために、 かしこより出でをはりて0821、 漸々に遊行して、 そのなかに淊ち入りて、 首足ともに没しぬ。
次ギテ此ノ煨ニ無↠間ニ即チ有リ↢*死屍糞泥↡。此ノ諸ノ有情、為ニ↠求メムガ↢舎宅ヲ↡、従リ↠彼出デ已リテ、漸々ニ遊行シテ、*淊チ↢入リテ其ノ中ニ↡、首足*倶ニ没シヌ。
^また、 屍糞泥のうちに、 多くもろもろの虫あり。 嬢矩と名づく。 皮を穿ちて肉に入り、 筋を断ちて骨を破り、 髄を取りて食らふ。
又屍糞泥ノ内ニ多ク有リ↢諸ノ虫↡。名ク↢嬢矩ト↡。穿チテ↠皮ヲ入リ↠肉ニ、断チテ↠筋ヲ破リテ↠骨ヲ、取リテ↠髄ヲ而食フ。
・刀剣刃路
^次に屍糞泥に間なくして、 利き刀剣あり。 刃を仰むけて路となす。 かのもろもろの有情、 舎宅を求めんがために、 かしこより出でをはりて、 遊行してここに至り、 足を下す時には、 皮・肉・筋・血ことごとくみな消え爛れぬ。 足を挙ぐる時には、 また復すること故のごとし。
次ニ屍糞泥ノ無↠間ニ有リ↢利キ刀剣↡。仰ゲテ↠刃ヲ為ス↠路ト。彼ノ諸ノ有情為ニ↠求メムガ↢舎宅ヲ↡、従リ↠彼出デ已リテ、遊行シテ至リテ↠此ニ下ス↠*足ヲ時ニハ、皮肉筋血悉ク皆消エ爛レヌ。挙グル↠足ヲ之時ニハ還復スルコト如シ↠故ノ。
・刃葉林
^次に刀剣刃路に間なくして、 刃葉林あり。 かのもろもろの有情、 舎宅を求めんがために、 かしこより出でをはりて、 かの陰に往き趣きて、 わづかにその下に坐するに、 微風つひに起りて刃の葉堕落し、 その身の一切の支節を*斫截して、 すなはち地に躄れぬ。
次ニ刀剣刃路ノ無↠間ニ有リ↢刃葉林↡。彼ノ諸ノ有情為ニ↠求メムガ↢舎宅ヲ↡、従リ↠彼出デ已リテ、往キ↢趣キテ彼ノ陰ニ↡、纔ニ坐スルニ↢其ノ下ニ↡、微風*遂ニ起リテ刃ノ葉堕落ス。斫↢截シテ其ノ身ノ一切ノ支節ヲ↡、便*即チ躄レヌ↠地ニ。
^*黒黧の狗ありて、 *脊・胎を*摣掣して、 これを噉食す。
有リテ↢黒黧ノ狗↡、摣↢掣シテ脊・胎ヲ↡而噉↢食ス之ヲ↡。
・鉄設柆末梨林
^この刃葉林より間なくして、 *鉄設柆末梨林あり。 かのもろもろの有情、 舎宅を求めんがために、 すなはち来りてこれに趣きて、 つひにその上に登る。 まさに登りぬる時には、 一切の*刺鋒、 ことごとく回りて下に向かふ。 下らんと欲する時には、 一切の刺鋒、 また回りて上に向かふ。 この因縁によりて、 その身を貫き刺して、 もろもろの支節に遍す。
従リ↢此ノ刃葉林↡無↠間ニ有リ↢鉄設柆*末梨林↡。彼ノ諸ノ有情為ニ↠求メムガ↢舎宅ヲ↡、便チ来リテ趣キテ↠之ニ、遂ニ登ル↢其ノ上ニ↡。当ニ登リヌル之時ニハ、一切ノ刺鋒悉ク廻リテ向フ↠下ニ。*欲スル↠下ラムト之時ニハ、一切ノ刺鋒復廻リテ向フ↠上ニ。由リテ↢此ノ因縁ニ↡、貫キ↢刺キテ其ノ身ヲ↡遍ス↢諸ノ支節ニ↡。
^その時に、 すなはち鉄の嘴ある大きなる0822烏ありて、 かの頭の上に上り、 あるいはその髆に上りて、 *眼精を*探啄して、 しかもこれを噉食す。
爾ノ時ニ便チ有リテ↢鉄ノ嘴アル大ナル烏↡、上リ↢彼ノ頭ノ上ニ↡、或イハ上リテ↢*其ノ髆ニ↡、探↢啄シテ眼精ヲ↡、而モ噉↢食ス之ヲ↡。
・熱灰河
^鉄設柆末梨林より間なくして、 広大なる河あり。 沸きて熱き灰の水、 そのなかに*弥満せり。 かのもろもろの有情、 舎宅を尋ね求めて、 かしこより出でをはりて、 来りてこのなかに堕ちぬ。 なほ豆をもつてこれを大きなる鑊に置きて、 猛く熾りなる火を燃きて、 これを煎煮するがごとし。 湯に随ひて騰湧して、 *周旋して回復す。
従リ↢鉄設柆末梨林↡無↠間ニ有リ↢広大ノ河↡。沸キテ↢熱キ灰ノ水↡弥↢満セリ其ノ中ニ↡。彼ノ諸ノ有情尋ギテ求メムトシテ↢舎宅ヲ↡、従リ↠彼出デ已リテ、来リテ堕チヌ↢此ノ中ニ↡。猶如シ↧以テ↠豆ヲ置レテ↢之ヲ大ナル鑊ニ↡、燃キテ↢猛ク熾ナル火ヲ↡、而シテ煎↢煮ス之ヲ↡、随ヒテ↠湯ニ騰*湧シテ、周旋シテ廻復スルガ↥。
^河の両の岸に、 もろもろの獄卒あり。 手に杖索および大きなる網を執りて、 行列して住して、 かの有情を遮して出づることを得しめず。 あるいは索をもつて羂け、 あるいは網をもつて漉ふ。
於テ↢河ノ両ノ岸ニ↡有1029リ↢諸ノ獄卒↡。手ニ執リテ↢杖索及以大ナル網ヲ↡、行*列シテ而住シテ、遮シテ↢彼ノ有情ヲ↡不↠令メ↠得↠出ヅルコトヲ。或イハ以テシ↢索羂ヲ↡或イハ以テ↠網ヲ漉ミテ、
^また、 広大なる熱鉄の地の上に置きて、 かの有情を仰むけて、 これに問ひていはく、 ªなんぢら、 いま*なんの所須をか欲するº と。 かくのごとく答へていはく、 ªわれら、 いま*つひに覚知することなし。 しかも種々の飢苦のために逼めらるº と。 時にかの獄卒、 すなはち鉄の鉆をもつて口を鉆みて開かしめて、 すなはち極熱の焼熱の鉄丸をもつてその口のなかに置く。 余は前に説くがごとし。
復置キテ↢広大ノ熱鉄ノ地ノ上ニ↡、仰ゲテ↢彼ノ有情ヲ↡、而シテ問ヒテ↠之ニ言ク、汝等、今者欲スルト↢何ノ所須ヲカ↡。如ク↠是クノ答ヘテ言ク、我等、今者竟ニ無シ↢覚知スルコト↡。然モ為ニ↢種々ノ飢苦ノ↡所ト↠逼メサ。時ニ彼ノ獄卒、即チ以テ↢鉄ノ*鉆ヲ↡*鉆ミテ↠口ヲ令メテ↠開カ、便チ以テ↢極熱ノ焼*熱ノ鉄*丸ヲ↡置ク↢其ノ口ノ中ニ↡。余ハ如シ↢前ニ説クガ↡。
^もしかれ答へて、 ªわれいまただ渇苦のために逼めらるº といへば、 その時に、 獄卒すなはち洋銅をもつてその口に潅ぐ。 この因縁によりて長時に苦を受く。
若シ彼答ヘテ言ヘバ↧我今唯シ為ニ↢渇苦ノ↡所ト↞逼メサ、爾ノ時ニ獄卒便即チ洋銅ヲ以テ潅グ↢其ノ口ニ↡。由リテ↢是ノ因縁ニ↡長時ニ受ク↠苦ヲ。
^乃至、 *先0823世に造れるところの一切の、 よく*那落迦を感じ、 悪・不善の業いまだ尽きざれば、 いまだこのなかを出でず。 もしは刀剣刃路、 もしは刃葉林、 もしは鉄設柆末梨林、 これを総べて一となす。 ゆゑに四の園あり」 と。
乃至先世ノ所ノ↠造レル一*切ノ、能ク感ズル↢那落迦ヲ↡悪不善ノ業*未ダレバ↠尽キ、未ダ↠出デ。此ノ中ニ若シハ刀剣刃路、若シハ*刃*葉林、若シハ鉄設柆末梨林、総ジテ↠之ヲ為ス↠一ト。故ニ有リト↢*四ノ園↡。」
^以上は ¬瑜伽¼ (瑜伽論) ならびに ¬倶舎¼ (倶舎論) の意なり。 一々の地獄の四門のほかにおのおのこの四園あり。 合して十六と名づく。 ¬正法念経¼ の、 八大地獄の十六の別処の*名相の各別なるには同ぜず。
已上ハ¬瑜伽¼并ビニ¬倶舎ノ¼意ハ。一々ノ地獄ノ四門之外ニ各ノ有リ↢*此ノ四園↡。合シテ*名ク↢十六ト↡。不↠同ゼ↢¬正法念経ノ¼八大地獄ノ十六ノ別処ノ名相ノ各別ナルニハ↡
^また頞部陀等の*八寒地獄あり。 つぶさに*経論のごとし。 これを広述するに遑あらず。
復有リ↢頞部陀等ノ八寒地獄↡。具ニ如シ↢経論ノ↡。不↠遑アラ↣*広↢述スルニ之ヲ↡。
二 Ⅰ ⅱ b 餓鬼
【12】^第二に△餓鬼道を明かさば、 住処に二あり。 一には地の下五百由旬にあり。 *閻魔王界なり。 二には人天のあひだにあり。 その相はなはだ多し。 いま少分を明かさん。
第二ニ明サバ↢餓鬼道ヲ↡者、住処ニ有リ↠二。一ニ者在リ↢地ノ下五百由旬ニ↡。閻魔王界ナリ。二ニ者在リ↢人天之間ニ↡。其ノ相甚ダ多シ。今明サム↢少分ヲ↡。
^あるいは身の長一尺なり。 あるいは身量、 人のごとし。 あるいは千踰繕那のごとし。 あるいは*雪山のごとし。 ¬*大集経¼。
*或イハ身ノ長一尺ナリ。或イハ身量如シ↠人ノ。或イハ*如シ↢*千踰繕那ノ↡。或イハ如シ↢*雪山ノ。¬大集経¼
・鑊身
^あるいは鬼あり。 鑊身と名づく。 その身長大にして、 人に過ぎたること両倍なり。 面・目あることなく、 手・足はなほ鑊の脚のごとし。 熱火なかに満ちて、 その身を焚焼す。
或イハ有リ↠鬼。名ク↢鑊身ト↡。其ノ身長大ニシテ、過ギタルコト↠人ニ両倍ナリ、無シ↠有ルコト↢面目↡。手足ハ猶如シ↢鑊ノ脚ノ↡。熱火満チテ↠中ニ、焚↢焼ス其ノ身ヲ↡。
^昔、 財を貪じて*屠殺せるもの、 この報を受く。
昔貪シテ↠財ヲ屠殺セル之者、受ク↢此ノ報ヲ↡。
・食吐
^あるいは鬼あり。 食吐と名づく。 その身広大にして、 長半由旬なり。 つねに嘔吐を求むるに、 困みて得ることあたはず。
或イハ有リ↠鬼。名ク↢食吐ト↡。其ノ身広大ニシテ長半由旬ナリ。常ニ求ルニ↢嘔吐ヲ↡、困ミテ不↠能ハ↠得ルコト。
^昔0824、 あるいは*丈夫の、 みづから美食を噉らひて妻子に与へず、 あるいは婦人の、 みづから食らひて夫子に与へざるもの、 この報を受く。
昔1030或イハ丈夫ノ自ラ噉ヒテ↢美食ヲ↡不↠与ヘ↢妻子ニ↡、或イハ婦人ノ自ラ食ヒテ不ルモノ↠与ヘ↢夫子ニ↡、受ク↢此ノ報ヲ↡。
・食気
^あるいは鬼あり。 食気と名づく。 世人の、 病によりて、 水の辺、 林のなかに*祭を設くるに、 この香気を臭ぎて、 もつてみづから*活命す。
或イハ有リ↠鬼。名ク↢食気ト↡。世人ノ依リテ↠病ニ、水ノ辺、林ノ中ニシテ設クルニ↠祭ヲ、*臭ギテ↢*此ノ香気ヲ↡、以テ自ラ活*命ス。
^昔、 妻子等の前にして独り美食を噉らへるもの、 この報を受く。
昔於テ↢妻子等ノ前ニ↡独リ噉ヘル↢美食ヲ↡*之者、受ク↢此ノ報ヲ↡。
・食法
^あるいは鬼あり。 食法と名づく。 嶮難の処にして馳走して食を求む。 色は黒雲のごとく、 涙の流るること雨のごとし。 もし僧寺に至りて、 人の呪願し説法することある時は、 これによりて力を得て活命す。
或イハ有リ↠鬼。名ク↢食法ト↡。於テ↢嶮難ノ処ニ↡馳走シテ求ム↠食ヲ。色ハ如シ↢黒雲ノ↡。涙ノ流ルルコト如シ↠雨ノ。若シ至リテ↢僧寺ニ↡有ル↢人ノ呪願シ説法スルコト↡之時ニ、因リテ↠此ニ得テ↠力ヲ活命ス。
^昔、 *名利を貪ぜしがために*不浄に説法せしもの、 この報を受く。
昔為ニ↠貪セシガ↢名利ヲ↡不浄ニ説法セシ之者、受ク↢此ノ報ヲ↡。
・食水
^あるいは鬼あり。 食水と名づく。 飢渇身を焼き、 *周慞して水を求むるに、 困みて得ることあたはず。 長き髪面を覆ひ、 目見るところなし。 走りて河の辺に趣きて、 もし人、 河を渡りて、 脚足の下より遺落せる余りの水あれば、 速疾に接り取りて、 もつてみづから活命す。
或イハ有リ↠鬼。名ク↢食水ト↡。飢渇焼キ↠身ヲ、周*慞シテ求ムルニ↠水ヲ、困ミテ不↠能ハ↠得ルコト。長キ髪覆ヒテ↠面ヲ、目無シ↠所↠見ル。走リテ趣キテ↢河ノ辺ニ↡、若シ人ノ渡レルニ↠河ヲ、脚足之下ニ遺落ノ余ノ水ヲ速疾ニ接リ取リテ、以テ自ラ活命ス。
^あるいは人の、 水を掬ひて亡ぜる父母に施するに、 すなはち少分を得て、 命、 存立することを得。 もしみづから水を取れば、 水を守るもろもろの鬼、 杖をもつて撾打す。
或イハ人ノ掬ビテ↠水ヲ施スルニ↢亡ゼル父母ニ↡則チ得テ↢少分ヲ↡、命得↢存立スルコトヲ↡。若シ自ラ取レバ↠水ヲ、守ル↠水ヲ諸ノ鬼、以テ↠杖ヲ撾打ス。
^昔、 酒を沽るに水を加へ、 あるいは*蚓・蛾を沈め、 善法を修せざるもの、 この報を受く。
昔沽ルニ↠酒ヲ加ヘ↠水ヲ、或イハ沈メ↢蚓蛾ヲ↡、不ル↠修セ↢善法ヲ↡*之者、受ク↢此ノ報ヲ↡。
・悕望
^あるいは鬼あり。 悕望と名づく。 世人の、 亡0825ぜる父母のために祀を設くる時にのみ、 得てこれを食らふ。 余をばことごとく食することあたはず。
或イハ有リ↠鬼。名ク↢*悕望ト↡。世人ノ為ニ↢亡ゼル父母ノ↡設クル↠祀ヲ之時ニノミ、得テ而食フ↠之ヲ。余ヲバ悉ク不↠能ハ↠食スルコト。
^もし人、 労しくして少物を得たるを、 *誑惑して取り用ゐるもの、 この報を受く。
若シ人労シクシテ而得タルヲ↢少物ヲ↡誑*或シテ取リ用ヰル之者、受ク↢此ノ報ヲ↡。
^あるいは鬼あり。 海渚のなかに生れたり。 樹林・河水あることなく、 その処はなはだ熱し。 かの冬の日をもつて人間の夏に比ぶるに、 過ぎ踰えたること千倍なり。 ただ朝の露をもつてみづから活命す。 海渚に住すといへども、 海を見るに枯れ竭きぬ。
或イハ有リ↠鬼。生レタリ↢海渚ノ中ニ↡。無シ↠有ルコト↢樹林・河水↡。其ノ処甚ダ熱シ。以テ↢彼ノ冬ノ日ヲ↡比ブルニ↢人間ノ夏ニ↡、過ギ踰エタルコト千倍ナリ。唯シ以テ↢朝ノ露ヲ↡而自ラ活命ス。雖モ↠住スト↢海渚ニ↡、見ルニ↠海ヲ枯レ竭キヌ。
^昔、 路を行く人の、 病苦に疲極せるに、 その賈を欺き取りて、 直を与ふること薄少なるもの、 この報を受く。
昔行ク↠*路ヲ人ノ病苦ニ疲極セルニ、欺キ↢取リテ其ノ*賈ヲ↡、与フルコト↠直ヲ薄少ナル之者、受ク↢此ノ報ヲ↡。
^あるいは鬼あり。 つねに*塚のあひだに至りて、 *焼屍の火を噉らふに、 なほ足ることあたはず。
或イハ有リ↠鬼。常ニ至リテ↢塚ノ間ニ↡、噉フニ↢焼*屍ノ火ヲ↡、猶不↠能ハ↠足ルコト。
^昔、 刑獄を典主して、 人の飲食を取れるもの、 この報を受く。
昔典↢主シテ刑獄ヲ↡取レル↢人ノ飲食ヲ↡*之者、受ク↢此ノ報1031ヲ↡。
^あるいは餓鬼あり。 生れて樹のなかにありて、 *逼迮して身を押さるること賊木虫のごとくして、 大苦悩を受く。
或イハ有リ↢*餓鬼↡。生レテ在リテ↢樹ノ中ニ↡、逼迮シテ押スコト↠身ヲ如クシテ↢賊木虫ノ↡、受ク↢大苦悩ヲ↡。
^昔、 陰涼の樹を伐り、 および衆僧の園林を伐れるもの、 この報を受く。 ¬正法念経¼。
昔伐リ↢陰涼ノ樹ヲ↡、及ビ伐レル↢衆僧ノ園林ヲ↡之者、受ク↢此ノ報ヲ↡。¬正法念経¼
^あるいはまた鬼あり。 頭の髪、 垂れ下りて、 あまねく身体を纏へり。 その髪刀のごとくして、 その身を刺し切る。 あるいは変じて火となりて、 ˆ身体をˇ 周帀して焚焼す。
*或イハ復有リ↠鬼。頭ノ髪垂リ下リテ遍ク纏ヘリ↢身体ヲ↡。其ノ髪如クシテ↠刀ノ刺シ↢切ル其ノ身ヲ↡。或イハ変ジテ作リテ↠火ト、周帀シテ焚焼ス。
^あるいは鬼あり。 昼夜におのおの五の子を生む。 生むに随ひてこれを食らふに、 なほつねに飢乏す。 ¬*六波羅0826蜜経¼。
或イハ有リ↠鬼。昼夜ニ各ノ生ム↢五ノ子ヲ↡。随ヒテ↠生ムニ食フニ↠之ヲ、猶常ニ飢乏ス。¬六波羅蜜経¼
^あるいはまた鬼あり。 一切の食をみな噉らふことあたはず。 ただみづから頭を破り脳を取りて食らふ。
*或イハ復有リ↠鬼。一切之食ヲ皆不↠能ハ↠噉フコト。唯自ラ破リテ↠頭ヲ取リテ↠脳ヲ而食フ。
^あるいは鬼あり。 火口より出づ。 飛蛾の、 火に投ずるをもつて飲食となす。
或イハ有リ↠鬼。火従リ↠口出ヅ。飛蛾ノ*投ズルニ↠火ニ以テ為ス↢飲食↡。
^あるいは鬼あり。 糞・涕・膿・血、 器を洗へる遺余を食らふ。 ¬大論¼ (大智度論)。
或イハ有リ↠鬼。食フ↢糞・涕・濃・血、洗フ↠器ヲ遺余ヲ↡。¬大論¼
^またほかの障によりて食を得ざる鬼あり。 いはく、 飢渇つねに急にして、 身体枯竭せり。 たまたま清き流に望み、 走りてかしこに向かひ赴けば、 大力の鬼ありて、 杖をもつて逆へ打つ。 あるいは変じて火となり、 あるいはことごとく枯れ涸きぬ。
又有リ↧依リテ↢外ノ障ニ↡不ル↠得↠食ヲ鬼↥。謂ク飢渇常ニ急ニシテ、身体枯竭セリ。適マ望ミテ↢清キ流ニ↡走リテ向ヒ↢*赴ケバ彼ニ↡、有リテ↢大力ノ鬼↡以テ↠杖ヲ*逆ヘ打ツ。或イハ変ジテ作リヌ↠火ト。或イハ悉ク枯レ涸キヌ。
^あるいはうちの障によりて食を得ざる鬼あり。 いはく、 口は針の孔のごとく、 腹は大山のごとくして、 たとひ飲食に逢へどもこれを噉らふに由なし。
*或イハ有リ↧依リテ↢内ノ障ニ↡不ル↠得↠食ヲ鬼↥。謂ク口ハ如ク↢針ノ孔ノ↡、腹ハ如クシテ↢大山ノ↡、縦ヒ逢ヘドモ↢飲食ニ↡無シ↠由↠噉フニ↠之ヲ。
^あるいは内外の障なけれども、 しかも用ゐることあたはざる鬼あり。 いはく、 たまたま少食に逢ひて食噉すれば、 変じて猛焔となりて、 身を焼きて出づ。 ¬瑜伽論¼。
或イハ*有リ↧無ケレドモ↢内外ノ障↡、而モ不ル↠能ハ↠用ヰルコト鬼↥。謂ク適マ逢テ↢少食ニ↡而シテ食噉スレバ者、変ジテ作リテ↢猛焔ト↡、焼キテ↠身ヲ而出ヅ。¬瑜伽論¼
^人間の一月をもつて一日夜となして月・年をなし、 寿五百歳なり。
以テ↢人間ノ一月ヲ↡為シテ↢一日夜ト↡成シテ↢月年ヲ↡、寿五百歳ナリ。
^¬正法念経¼ (意) にのたまはく、 「*慳貪と嫉妬のもの、 餓鬼道に堕つ」 と。
¬正法念経ニ¼云ク、「慳貪ト嫉妬*之者、堕ツト↢餓鬼道ニ↡。」
二 Ⅰ ⅱ c 畜生
【13】^第三に△畜生道を明かさば、 その住処に二あり。 根本は大海に住し、 支末は人天に雑せり。
第三ニ明サバ↢畜生道ヲ↡者、其ノ住処ニ有リ↠二。根本ノハ住ス↢大海ニ↡。支末ノハ雑セリ↢人天ニ↡。
^別して論ずれば、 三十四億の種類あり。 総じて論ずれば、 三を0827出でず。 一は鳥類、 二は獣類、 三は虫類なり。
*別シテ論ズレバ有リ↢卅四億ノ種類↡。*総ジテ論ズレバ不↠出デ↠三ヲ。一者*鳥類、二者獣類、三者虫類ナリ。
^かくのごとき等の類、 強弱あひ害す。 もしは飲、 もしは食、 いまだかつてしばらくも安らかならず。 昼夜のうちに、 つねに*怖懼を懐けり。 いはんやまた、 もろもろの水性の属は漁るもののために害せられ、 もろもろの陸行の類は、 猟るもののために害せらる。
如キ↠是クノ等ノ類、強弱相害ス。若シハ飲若シハ食、*未ダ↢曽ニモ暫クモ安カラ↡。昼夜之中ニ常ニ懐ケリ↢怖リ懼ルルコトヲ↡。況ヤ復諸ノ水1032性之属ハ為ニ↢漁ル者ノ↡所ル↠害セ。諸ノ陸ニ行ク之類ハ為ニ↢猟ル者ノ↡所ル↠害セ。
^もしは象・馬・牛・*驢・駱駝・*騾等のごときは、 あるいは鉄鉤をもつてその脳を斲ち、 あるいは鼻のなかに穿し、 あるいは轡をもつて首に繋く。 身につねに重きものを負ひて、 もろもろの*杖捶を加へらる。 ただ水・草を念じて、 余は知るところなし。
若シハ如キハ↢象・馬・牛・驢・駱駝・騾等ノ↡、或イハ鉄ノ鉤ヲモテ斲チ↢其ノ脳ヲ↡、或イハ穿シ↢鼻ノ中ニ↡、或イハ轡ヲモテ繋ク↠首ニ。身ニ常ニ負ヒテ↠重キモノヲ、加ヘラル↢諸ノ杖捶ヲ↡。但念ジテ↢水・草ヲ↡、余ハ無シ↠所↠知ル。
^また蚰蜒・鼠狼等は、 闇のなかに生れて闇のなかに死ぬ。 蟣蝨・蚤等は、 人身によりて生じて、 還りて人によりて死ぬ。
又蚰蜒・鼠狼等ハ闇ノ中ニシテ而生レテ闇ノ中ニシテ*而死ヌ。蟣蝨・蚤等ハ依リテ↢人身ニ↡生ジテ還リテ依リテ↠人ニ死ヌ。
^またもろもろの竜衆は、 三熱の苦を受けて昼夜に休むことなし。 あるいはまた*蟒蛇は、 その身長大なれども、 聾騃にして足なく、 *宛転腹行して、 もろもろの小虫のために唼食せらる。
又諸ノ竜衆ハ受ケテ↢三熱ノ苦ヲ↡昼夜ニ无シ↠休ムコト。或イハ復蟒蛇ハ其ノ身長大ニシテ、聾騃ニシテ无ク↠足、宛転シテ腹ヲモテ行ク。為ニ↢諸ノ小虫ノ↡之所ル↢唼食セ↡。
^あるいはまた一の毛の百分のごときもの、 あるいは窓のなかの遊塵のごときもの、 あるいは十五由旬のごときものあり。
*或イハ復有リ↧如キモノ↢一ノ毛ノ百分ノ↡、或イハ如キモノ↢窓ノ中ノ遊塵ノ↡、或イハ如キモノ↦十*五由旬ノ↥。
^かくのごときもろもろの畜生は、 あるいは*一時を経るあひだ、 あるいは*七時のあひだ、 あるいは一劫・百劫乃至千万億劫に無量の苦を受くるあり。 あるときにはもろもろの違縁に遇ひて、 しば0828しば残害せらる。 これらのもろもろの苦、 勝げて計ふべからず。
如キ↠是クノ諸ノ畜生ハ、或イハ経ル↢*一時ヲ↡項、或イハ七時ノ項、或イハ有リ↣一劫*百劫乃*至千万億劫ニ受クル↢无量ノ苦ヲ↡。或ルトキニハ遇ヒテ↢諸ノ違縁ニ↡、数バ被ル↢残害セ↡。此等ノ諸ノ苦、不↠可カラ↢勝ゲテ計フ↡。
^愚痴・*無慚にしていたづらに信施を受けて、 他の物を償はざるもの、 この報を受く。 以上諸文、 *経論に散在せり。
愚痴・无慚ニシテ徒ニ受ケテ↢信ノ施ヲ↡、他ノ物ヲ不ル↠償ハ者、受ク↢此ノ報ヲ↡。*已上諸文、散↢在セリ*経論ニ↡
二 Ⅰ ⅱ d 阿修羅
【14】^第四に△阿修羅道を明かさば、 二あり。 根本の勝れたるものは、 須弥山の北、 巨海の底に住せり。 支流の劣なるものは、 四大洲のあひだの山巌のなかにあり。
第四ニ明サバ↢阿修羅道ヲ↡者、有リ↠*二。根本ノ勝レタル者ハ、住セリ↢須弥山ノ北、巨海之底ニ↡。支流ノ劣ナル者ハ、在リ↢四大*洲ノ間ノ山巌之中ニ↡。
^雲雷もし鳴れば、 これ*天の鼓と謂ひて*怖畏周章して、 心大きに*戦悼す。 またつねに諸天のために侵害せられて、 あるいは身体を破り、 あるいはその命を夭す。 また*日々三時に、 *苦具おのづから来りて逼害す。 種々の憂苦、 勝げて説くべからず。
雲雷若シ鳴レバ、謂ヒテ↢是天ノ鼓ト↡怖畏周章シテ、心大ニ戦悼ス。亦常ニ為ニ↢諸天ノ↡之所レテ↢侵害セ↡、或イハ破リ↢身体ヲ↡、或イハ夭ス↢其ノ命ヲ↡。又日々三時ニ苦具自ラ来リテ逼害ス。種々ノ憂苦、不↠可カラ↢勝ゲテ説ク↡。
二 Ⅰ ⅱ e 人
【15】^第五に△人道を明かさば、 略して三の相あり。 つまびらかに観察すべし。 一には↓不浄の相、 二には↓苦の相、 三には↓無常の相なり。
第五ニ明サバ↢人道ヲ↡者、略シテ有リ↢三ノ相↡。応シ↢審カニ観察ス↡。一ニハ不浄相、二ニハ苦相、三ニハ无常ノ相ナリ。
・不浄
【16】^一に↑不浄の相といふは、 おほよそ人の身のなかに三百六十の骨ありて、 節々あひ柱へたり。
一1033ニ不浄ノ*相トイフ者、凡ソ人ノ身ノ中ニ有リテ↢三百六十之骨↡、節々相柱ヘタリ。
^いはく、 指の骨は足の骨を柱へ、 足の骨は踝の骨を柱へ、 踝の骨はの骨を柱へ、 の骨は膝の骨を柱へ、 膝の骨はの骨を柱へ、 の骨は臗の骨を柱へ、 臗の骨は腰の骨を柱へ、 腰の骨は脊の骨を柱へ、 脊の骨0829は勒の骨を柱へ、 また脊の骨は項の骨を柱へ、 項の骨は頷の骨を柱へ、 頷の骨は牙歯を柱へ、 上に髑髏あり。
謂ク指ノ骨ハ柱ヘタリ↢足ノ骨ヲ↡。足ノ骨ハ柱ヘタリ↢踝ノ骨ヲ↡。踝ノ骨ハ柱ヘタリ↢ノ骨ヲ↡。ノ骨ハ柱ヘタリ↢膝ノ骨ヲ↡。膝ノ骨ハ柱ヘタリ↢ノ骨ヲ↡。ノ骨ハ柱ヘタリ↢臗ノ骨ヲ↡。臗ノ骨ハ柱ヘタリ↢腰ノ骨ヲ↡。腰ノ骨ハ柱ヘタリ↢*脊ノ骨ヲ↡。*脊ノ骨ハ柱ヘタリ↢勒ノ骨ヲ↡。復*脊ノ骨ハ柱ヘタリ↢項ノ骨ヲ↡。項ノ骨ハ柱ヘタリ↢頷ノ骨ヲ↡。頷ノ骨ハ柱ヘタリ↢牙歯ヲ↡。上ニ有リ↢髑髏↡。
^また項の骨は肩の骨を柱へたり。 肩の骨は臂の骨を柱へたり。 臂の骨は*腕の骨を柱へたり。 腕の骨は掌の骨を柱へたり。 掌の骨は指の骨を柱へたり。 かくのごとく展転して次第に鎖成せり。 ¬大経¼ (*涅槃経) の意。
復項ノ骨ハ柱ヘタリ↢肩ノ骨ヲ↡。肩ノ骨ハ柱ヘタリ↢臂ノ骨ヲ↡。臂ノ骨ハ柱ヘタリ↢*脘ノ骨ヲ↡。*脘ノ骨ハ柱ヘタリ↢掌ノ骨ヲ↡。掌ノ骨ハ柱ヘタリ↢指ノ骨ヲ↡。如ク↠是クノ展転シテ次第ニ鎖成セリ。¬大*経ノ¼*意
^「三百六十の骨の、 聚まりて成ぜるところなり。 朽ち壊れたる舎のごとし。 もろもろの節をもつて支え持ち、 四の細脈をもつて*周帀して弥布せり。
「三百六十ノ骨ノ聚テ所ナリ↠成ゼル。如シ↢朽チ壊レタル舎ノ↡。諸ノ節ヲモテ支ヘ持セリ。以テ↢四ノ細脈ヲ↡周帀シテ弥布セリ。
^五百分の肉、 なほ泥の塗れるがごとく、 六の脈あひ繋ぎ、 五百の筋纏へり。
五百分ノ肉、猶如シ↢泥ノ塗レルガ↡。六ノ脈相繋ケタリ。五百ノ筋纏ヘリ。
^七百の細脈、 もつて*編絡をなし、 十六の粗き脈、 鉤け帯りてあひ連なれり。
七百ノ細脈以テ為リ↢編絡ト↡。十六ノ麁キ脈鉤ケ帯シテ相連レリ。
^二の肉縄あり。 長さ*三尋半なり。 うちにして纏ひ結せり。 十六の腸・胃、 生熟臓を繞れり。
有リ↢二ノ肉縄↡。長サ三尋半ナリ。於テ↠内ニ纏ヒ結セリ。十六ノ腸・胃、繞ヘリ↢生*熟蔵ヲ↡。
^二十五の気脈、 なほ窓の隙のごとし。 一百七の関、 あたかも破砕せる器のごとし。
二十五ノ気脈、猶如シ↢窓ノ隙ノ↡。一百七ノ関、宛モ如シ↢破*砕セル器ノ↡。
^八万の毛孔、 乱れたる草の覆へるがごとし。 *五根・*七竅は不浄にて盈満せり。
八万ノ毛孔、如シ↢乱レタル草ヲモテ覆ヘルガ↡。五根・七竅ニ不浄ニテ盈満セリ。
^七重の皮にて裹み、 *六味にて長養すること、 なほ祠火の、 呑受して厭ふことなきがごとし。
七重ノ皮ノ裹ニ六味ヲモテ長養セリ。猶如クシテ↠祠ルガ↠火ヲ、呑受シテ無シ↠厭フコト。
^かくのごとき身は、 一切臭穢にして、 自性*殨爛せり。 たれかまさにここにおいて愛重し憍慢せん」 と。 ¬*宝積経¼ 九十六。
如キ↠是クノ之身ハ一切臭穢ニシテ、自性*殨爛セリ。誰カ当ニ於テ↠此ニ愛重シ憍慢セムト。」¬宝積経¼九十六(勤授長者会)
^あるいはいはく、 九百の臠、 その上に覆ひ、 九百の筋、 そのあひだ0830に連なれり。 三万六千の脈ありて、 三升の血、 なかにありて流注す。 九十九万の毛孔ありて、 もろもろの汗つねに出づ。 九十九重の皮、 しかもその上を裹めり。 以上、 身中の骨肉等なり。
或イハ云ク、九百ノ臠覆ヘリ↢其ノ上ニ↡。九百ノ筋連レリ↢其ノ間ニ↡。*有リテ↢三万六千之脈↡。三升之血在リテ↠中ニ流注ス。有リテ↢九十九万之毛孔↡。諸ノ汗常ニ出ヅ。九十九重之皮、而シテ裹メリ↢其ノ上ニ↡。已上身中ノ骨肉等ナリ
^また腹のなかに五臓あり。 葉々あひ覆ひて、 *靡々として下に向かへり。 状、 蓮華のごとし。 孔竅は空疎にして、 内外にあひ通じ、 おのおの九十重あり。
又腹ノ中ニ有リ↢五蔵↡。葉々相覆ヒテ、靡々トシテ向ヘリ↠下ニ。状1034如シ↢蓮華ノ↡。孔竅ハ空疎ニシテ内外ニ相通フナリ。各ノ有リ↢九十重↡。
^肺臓は上にありて、 その色白し。 肝臓はその色青し。 心臓は中央にありて、 その色赤し。 脾臓はその色黄なり。 腎臓は下にありて、 その色黒し。
肺蔵ハ在リテ↠上ニ、其ノ色白シ。*肝蔵ハ其ノ色青シ。心蔵ハ在リテ↢中央ニ↡、其ノ色赤シ。脾蔵ハ其ノ色黄ナリ。腎蔵ハ在リテ↠下ニ、其ノ色黒シ。
^また六腑あり。 いはく、 大腸をば伝送の腑となす。 また肺腑たり。 長さ三尋半、 その色白し。
又有リ↢六*府↡。謂ク大腸ヲバ為ス↢伝送之府ト↡。亦ハ為リ↢肺府ト↡。長サ三尋半、其ノ色白シ。
^胆をば清浄の腑となす。 また肝腑たり。 その色青し。
胆ヲバ為ス↢清浄之府ト↡。亦ハ為リ↢*肝府ト↡。其ノ色青シ。
^小腸をば受盛の腑となす。 また心腑たり。 長さ十六尋、 その色赤し。
小腸ヲバ為ス↢受盛之府ト↡。亦ハ為リ↢心府ト↡。長十六尋、其ノ色赤シ。
^胃をば*五穀の腑となす。 また脾の腑たり。 三升の糞、 なかにありて、 その色黄なり。
胃ヲバ為ス↢五穀之府ト↡。亦ハ為リ↢脾ノ府ト↡。三升ノ糞在リテ↠中ニ、其ノ色黄ナリ。
^膀胱をば津液の腑となす。 また腎腑たり。 一斗の尿、 なかにありて、 その色黒し。
膀胱ヲバ為ス↢津液之府ト↡。亦ハ為リ↢腎府ト↡。一斗ノ尿在リテ↠中ニ、其ノ色黒シ。
^三膲をば中涜の腑となす。
三膲ヲバ為ス↢中涜之府ト↡。
^かくのごとき等の物、 縦横に分布せり。 大小の二腸、 赤白、 色を交へたり。 十八に周転せること、 毒蛇の蟠れるがごとし。 以上、 腹中の腑臓なり。
如キ↠此ノ等ノ物、縦横ニ分布シテ、大小ノ二腸、赤白交ヘタリ↠色ヲ。十八ニ周転セルコト、如シ↢毒蛇ノ蟠レルガ↡。已上*腹中ノ府蔵ナリ
^また頂より趺に至るまで、 髄より膚に至るまで、 八万戸の虫あり。 四の頭、 四の口、 九十九の尾ありて、 形相一にあらず0831。 一々の戸にまた九万の細虫ありて、 秋の毫よりも小さし。 ¬*禅経¼・¬*次第禅門¼ 等。
又従リ↠頂至ルマデ↠趺、従リ↠髄至リテ↠膚ニ、有リ↢八万戸ノ虫↡。四ノ頭、四ノ口、九十九ノ尾アリテ。形相非ズ↠一ニ。一々ノ戸ニ復有リテ↢九万ノ細虫↡。小サシ↢於秋ノ毫ヨリモ↡。¬禅経¼・¬次第禅門¼等
^¬宝積経¼ にのたまはく、 「はじめて胎を出づる時に、 七日を経て、 八万戸の虫、 身より生じて、 縦横に食噉す。
¬宝積経ニ¼云ク、「初テ出ヅル↠胎ヲ時ニ経テ↢於七日ヲ↡、八万戸ノ虫従リシテ↠身而生ジテ、縦横ニ食噉ス。
^二戸の虫あり。 名づけて舐髪となす。 髪の根によりて住して、 つねにその髪を食す。
有リ↢二戸ノ虫↡。名テ為ス↢舐髪ト↡。依リテ↢髪ノ根ニ↡住テ、常ニ食ス↢其ノ髪ヲ↡。
^二戸の虫を繞眼と名づく。 眼によりて住して、 つねに眼を食す。
二戸ノ虫ヲバ名ク↢繞眼ト↡。依リテ↠眼ニ住テ、常ニ食ス↠眼ヲ。
^四戸は脳によりて脳を食す。
四*戸ハ依リテ↠脳ニ食ス↠脳ヲ。
^一戸を稲葉と名づく。 耳によりて耳を食す。
一戸ヲバ名ク↢稲葉ト↡。依リテ↠耳ニ食ス↠耳ヲ。
^一戸を蔵口と名づく。 鼻によりて鼻を食す。
一戸ヲバ名ク↢蔵口ト↡。依リテ↠鼻ニ食ス↠鼻ヲ。
^二戸を、 一を遥擲と名づけ、 二を遍擲と名づく。 唇によりて唇を食す。
二戸ヲバ、一ヲバ名ケ↢遥擲ト↡、二ヲバ名ク↢遍擲ト↡。依リテ↠脣ニ食ス↠脣ヲ。
^一戸をば針口と名づく。 舌によりて舌を食す。
一戸ヲバ名ク↢針口ト↡。依リテ↠舌ニ食ス↠舌ヲ。
^五百の戸は左辺によりて左辺を食す。 右辺もまたしかなり。
五百ノ戸ハ依リテ↢左辺ニ↡食ス↢左辺ヲ↡。右辺モ亦然ナリ。
^四戸は*生臓を食し、 二戸は*熟臓を食す。
四戸ハ食ス↢生蔵ヲ↡。二戸ハ食ス↢熟蔵ヲ↡。
^四戸は小便の道によりて、 尿を食らひて住し、 四戸は大便の道によりて、 糞を食らひて住す。
四戸ハ依リテ↢小便ノ道ニ↡、食ヒテ↠尿1035ヲ而住ス。四戸ハ依リテ↢大便ノ道ニ↡、食ヒテ↠糞ヲ而住ス。
^乃至、 一戸を黒頭と名づく。 脚によりて脚を食す。
乃至一戸ヲバ名ク↢黒頭ト↡。依リテ↠脚ニ食ス↠脚ヲ。
^かくのごとき八万、 この身に依止して、 昼夜に食噉して、 身をして熱悩せしめて、 心に憂愁あらしむ。 衆病現前するに良医としてよくために除療するあることなし」 と。 第五十七に出でたり。 これを略抄す。
如キ↠是クノ八万、依↢止シテ此ノ身ニ↡昼夜ニ食噉シテ、令メテ↢身ヲシテ熱悩セ↡、心ニ有ラシム↢憂愁↡。衆病現前スルニ無シト↠有ルコト↢良医トシテ能ク為ニ除療スル↡。」出デタリ↢第五*十*七ニ↡。略↢抄ス*之ヲ↡
^¬*僧伽経¼ に説きてのたまはく、 「人まさに死なんとする時には、 もろもろの0832虫怖畏して、 たがひにあひ噉食するに、 もろもろの苦痛を受く。 男女眷属、 大悲悩をなす。 もろもろの虫、 あひ食す。 ただ二の虫ありて、 七日のあひだ闘諍す。 七日を過ぎをはりて、 一の虫は命尽きて、 一の虫はなほ存ぜり」 と。 以上、 虫蛆。
¬僧伽経ニ¼説キテ*云ク、「人将ニル↠死ナムト時ニハ、諸ノ虫怖畏シテ、互ニ相噉食スルニ、受ク↢諸ノ苦痛ヲ↡。男女眷属生ス↢大悲悩ヲ↡。諸ノ虫相食ス。唯有リテ↢二ノ虫↡七日ノ*間闘諍ス。過ギ↢七日ヲ↡已リテ、一ノ虫ハ命尽キテ、一ノ虫ハ猶存ゼリト。」已上虫蛆
^たとひ上饍の衆味を食すれども、 宿を経るあひだにみな不浄となりぬ。 たとへば、 糞穢の大小ともに臭きがごとく、 この身もまたしかり。 少より老に至るまで、 ただこれ不浄なり。 海水を傾けて洗ふとも、 浄潔ならしむべからず。 外には端厳の相を施せりといへども、 内にはただもろもろの不浄を裹めること、 なほ画せる瓶に、 しかも糞穢を盛れたるがごとし。 ¬大論¼ (大智度論)・¬*止観¼ 等の意を取る。
*縦ヒ食スレドモ↢上饍ノ衆味ヲ↡、逕ル↠宿ヲ之間ニ皆為リヌ↢不浄ト↡。譬ヘバ如ク↢糞穢ノ大小倶ニ臭キガ↡、此ノ身モ亦爾リ。従リ↠少至ルマデ↠老ニ、唯シ是不浄ナリ。傾ケテ↢海水ヲ↡洗フトモ、不↠可カラ↠令ム↢浄潔ナラ↡。外ニハ雖モ↠施セリト↢端厳ノ相ヲ↡、内ニハ唯裹メリ↢諸ノ不浄ヲ↡。猶如シ↣*画セル瓶ニ而モ盛ラムガ↢糞穢ヲ↡。*取ル↢¬大論¼・¬止観¼等ノ*意ヲ↡
^ゆゑに *¬禅経¼ の偈にのたまはく、
故ニ¬禅経ノ¼偈ニ云ク、
^「身の臭くして不浄なることを知れども、 愚者はなほ愛惜す。
外に好しき顔色を視て、 内の不浄をば観ぜず」 と。 以上、 体の不浄を挙ぐ。
「知ルレドモ↢身ノ臭クシテ不浄ナルコトヲ↡ | 愚者ハ故愛惜ス |
外ニ視テ↢好シキ顔色ヲ↡ | 不ト↠観ゼ↢内ノ不浄ヲ↡」 已上挙グ↢*体ノ不浄ヲ↡ |
|
^いはんやまた命終の後に、 塚のあひだに捐捨てられて、 一・二日、 乃至七日を経るに、 その身*膖脹して、 色*青瘀に変ず。 臭り爛れ、 皮は穿げて、 膿血流れ出づ。 *鵰・鷲・*鵄・*梟・野干・狗等の種々の禽獣、 *掣して食噉す。 禽獣食らひをはりて、 不浄*潰爛せり。 無量種の虫蛆ありて、 臭き処に雑はり出づ。 悪0833むべきこと、 死にたる狗よりも過ぎたり。
況ヤ復命終之後ニ、捐↢捨テラレテ*塚ノ間ニ↡、経ルニ↢一二日乃至七日ヲ↡、其ノ身膖脹シテ色変ズ↢青瘀ニ↡。臭リ爛レ皮ハ穿ゲテ、膿血流レ出ヅ。鵰・クマタカ鷲ワシ・鵄トビ・梟・フクロフ野干 キツネ ・狗イヌ等ノ種々ノ禽獣、掣シテ食噉ス。禽獣食ヒ已リテ、不浄潰爛セリ。有リテ↢无量種ノ虫蛆↡。雑↢出シテ臭キ処トシテ↡可キコト↠悪ム過ギタリ↢於死ニタル狗ヨリモ↡。
^乃至、 白骨となりをはれば、 支節分散して、 手・足・髑髏おのおの異処にあり。 風吹き、 日曝し、 雨潅ぎ、 霜封じて、 積むこと歳年あれば、 色相変異し、 つひに腐朽砕末して、 塵土とあひ和しぬ。 以上、 *究竟不浄なり。 ¬*大般若¼・¬止観¼ 等に見えたり。
乃至成リ↢白骨ト↡已レバ、支節分散シテ、手足・髑髏各ノ在リ↢異処ニ↡。風吹キ日ニ曝シ、雨潅ギ霜封ジテ、積リテ有リテ↢歳年↡色相変異ス。遂ニ腐朽砕末シテ与↢塵土↡相和シヌ。已上究竟不浄ナリ。見タリ↢¬大般若¼・¬止観¼等ニ↡
^まさに知るべし。 この身は始終不浄なり。 所愛の男女みなまたかくのごとし。 いづれの有智のものか、 さらに楽着を生ぜんや。
当ニシ↠知ル。此ノ身ハ始終不浄ナリ。所愛ノ男女皆亦如シ↠是1036クノ。誰ノ有智ノ者カ更ニ生ゼムヤ↢楽著ヲ↡。
^ゆゑに ¬止観¼ にいはく、 「いまだこの相を見ざるときは、 *愛染はなはだ強し。 もしこれを見をはれば、 欲心すべて罷む。 はるかにしても忍び耐へざることは、 糞を見ざればなほよく飯を噉らへども、 たちまちに臭き気を聞ぎつれば、 すなはち嘔吐するがごとし」 と。
故ニ¬止観ニ¼云ク、「未ダシテ↠見↢此ノ相ヲ↡、愛染甚ダ強シ。若シ見↠此ヲ已レバ欲心都テ罷ミヌ。懸ニシテモ不ルコトハ↢忍ビ耐セ↡。如シト↧不ルトキニハ↠見↠糞ヲ猶能ク噉ヘドモ↠飯ヲ、忽ニ聞ギツレバ↢臭キ気ヲ↡即便チ嘔吐スルガ↥。」
^またいはく (止観)、 「もしこの相を証しつれば、 また高き眉、 翠き眼、 皓き歯、 丹き唇なりといへども、 一聚の屎に、 *粉をもつてその上を覆へるがごとし。 また爛れたる屍に、 仮りて*繒綵を着せたらんがごとし。 なほ眼にすら見ず、 いはんやまさに身に近づくべけんや。 *鹿杖を雇ひて自害すべし。 いはんや歍ひ抱きて婬楽せんをや。 かくのごとき想は、 これ婬欲の病の*大黄湯なり」 と。 以上
又云ク、「若シ証シツレバ↢此ノ相ヲ↡、雖モ↢復高キ眉、翠キ眼、皓キ歯、丹キ脣ナリト↡、如シ↣一聚ノ屎ニ粉ヲモテ覆ヘルガ↢其ノ上ニ↡。亦如シ↣爛レタル屍ニ仮リテ著セタラムガ↢繒*綵ヲ↡。尚シ不↢眼ニダモ見↡。況ヤ当ニケムヤ↢身ニ近ク↡。雇ヒテ↢鹿杖ヲ↡自害セリ。況ヤ歍ヒ抱キテ婬レ楽セムヲヤ。如キ↠是クノ想者、是婬欲ノ病之大黄湯ナリト。」*已上
・苦
【17】^二に↑苦といふは、 この身は初生の時より、 つねに苦悩を受く。 ¬宝積経0834¼ に説くがごとし。 「もしは男、 もしは女、 たまたま生じて地に堕つるに、 あるいは手をもつて捧げ、 あるいは衣をもつて承接し、 あるいは冬夏の時に、 冷熱の風触るるに、 大苦悩を受くること、 牛を生剥ぎにして、 墻壁に触れしむるがごとし」 と。 取意
二ニ苦トイフ者、此ノ身ハ従リ↢初生ノ時↡常ニ受ク↢苦悩ヲ↡。如シ↢¬宝積経ニ¼説クガ↡。「若シハ男若シハ女、適マ生ジテ堕チ↠地ニ、或イハ以テ↠手ヲ捧ゲ、或イハ衣ヲモテ承接ス。或イハ冬夏ノ時ニ、冷熱ノ風触ルルニ受クルコト↢大苦悩ヲ↡如シト↣生シク↢剥ゲル牛ノ↡触ルルガ↢於牆壁ニ↡。」取意
^長大の後にまた苦悩多し。 同経に説かく、 「この身を受けて二種の苦あり。 いはゆる眼・耳・鼻・舌・咽喉・牙歯・胸・腹・手・足に、 もろもろの病、 生ずることあり。 かくのごとき四百四病、 その身に逼切するを、 名づけて内の苦となす。
長大之後ニ亦多シ↢苦悩↡。同ジキ¬経ニ¼説カク、「受ケテ↢於此ノ身ヲ↡有リ↢二種ノ苦↡。所謂ル眼・耳・鼻・舌・咽喉・牙歯・胸・腹・手・足ニ有リテ↢諸ノ病↡生ズルコト、如キ↠是クノ四百四病、逼↢切スルヲ其ノ身ヲ↡名テ為ス↢内ノ苦ト↡。
^また外の苦あり。 いはゆる、 あるいは牢獄にありて、 *撾打*楚撻せられ、 あるいは耳・鼻を劓られ、 および手・足を削らる。 もろもろの*悪鬼神、 しかもその便りを得。 また蚊・虻・蜂等の毒虫のために唼食せらる。 寒熱・飢渇・風雨ならびに至りて、 種々の苦悩、 その身に逼切す。
復有リ↢外ノ苦↡。所謂ル或イハ在リテ↢牢獄ニ↡撾打楚撻ラル。或イハ劓リ↢耳鼻ヲ↡、及ビ削ル↢手足ヲ↡。諸ノ悪鬼神而シテ得↢其ノ便ヲ↡。復為ニ↢蚊・虻・*蜂等ノ毒虫ノ↡之所ル↢唼食セ↡。*寒熱・飢渇・風雨*並ニ至リテ、種々ノ苦悩逼↢切ス其ノ身ヲ↡。
^この五陰の身は、 一々の*威儀、 *行住坐臥、 みな苦にあらずといふことなし。 もし長時に行きて、 しばらくも休息せざれば、 これを名づけて*外苦となす。 住および坐・臥またみな苦なり」 と。 略抄
此ノ五陰ノ身ハ、一々ノ威儀、行住坐臥、無シ↠不ズトイフコト↢皆苦ニ↡。若シ長時ニ行キテ不ル↢暫クモ休息セ↡、是ヲバ名ケテ為ス↢*行苦ト↡。住及ビ坐臥亦復皆苦ナリト。」略抄
^諸余の苦相は眼の前に見つべし。 説くことを俟つべからず。
諸余ノ苦相ハ眼ノ前ニ可シ↠見ツ。不↠可カラ↠俟ツ↠説クコトヲ。
・無常
【18】^三に↑無常といふは、 ¬涅槃経¼ にのたまはく、 「人の命は停まらざること0835、 山の水よりも過ぎたり。 今日は存ぜりといへども、 明くればまた保ちがたし。 いかんぞ心をほしいままにして、 悪法に住せしめんや」 と。
三1037ニ無常トイフ者、¬涅槃経ニ¼云ク、「人ノ命ハ不ルコト↠停ラ過ギタリ↢於山ノ水ヨリモ↡。今日ハ雖モ↠存ゼリト、明クレバ亦難シ↠保チ。云何ゾ縦ニシテ↠心ヲ、令メムヤト↠住セ↢悪法ニ↡。」
^¬*出曜経¼ にのたまはく、
¬出曜経ニ¼云ク、
^「この日すでに過ぐれば、 命すなはち減少す。
少水の魚のごとし。 これなんの楽しみかあらん」 と。
「此ノ日已ニ過グレバ | 命即チ*減少ス |
如シ↢少水ノ魚ノ↡ | 斯有ラムヤト↢何ノ楽カ↡」 |
^¬*摩耶経¼ の偈にのたまはく、
¬摩*耶経ノ¼偈ニ云ク、
^「たとへば旃陀羅の、 牛を駆りて屠所に至るに、
歩々に死の地に近づくがごとく、 人の命もまたかくのごとし」 と。 以上
「譬ヘバ如ク↧*旃陀羅ノ | 駆リテ↠牛ヲ至ルニ↢屠所ニ↡ |
歩々ニ近クガ↦死ノ地ニ↥ | 人ノ命モ亦如シト↠是クノ」 已上 |
^たとひ長寿の業ありといへども、 つひに無常を免れず。 たとひ富貴の報を感ぜりといへども、 かならず衰患の期あり。 ¬涅槃経¼ の偈にのたまふがごとし。
設ヒ雖モ↠有リト↢長寿ノ業↡、終ニ不↠免レ↢無常ヲ↡。設ヒ雖モ↠感ゼリト↢富貴ノ報ヲ↡、必ズ有リ↢衰患ノ期↡。如シ↢¬*涅槃経ノ¼偈ニ云フガ↡。
^「一切のもろもろの世間に、 生ぜるものはみな死に帰す。
寿命、 無量なりといへども、 かならず終尽することあり。
「一切ノ諸ノ世間ニ | 生ゼル者ハ皆帰ス↠死ニ |
寿命雖モ↢无量ナリト↡ | 要必ズ有リ↢終尽スルコト↡ |
^それ盛りなるはかならず衰することあり、 合会するは別離あり。
壮年は久しく停まらず、 盛りなる色は病に侵さる。
^命は死のために呑まれ、 法として常なるものあることなし」 と。
夫レ盛ナルハ*必ズ有リ↠衰スルコト | 合会スルハ有リ↢別離↡ |
壮年ハ不↢久シク停ラ↡ | 盛ナル色ハ病ニ所↠侵サ |
命ハ為ニ↠死ノ所↠呑マ | 無シト↠有ルコト↢法トシテ常ナル者↡」 |
^ま0836た ¬*罪業応報経¼ の偈にのたまはく、
又¬罪業応報経ノ¼偈ニ云ク、
^「水渚はつねに満たず。 火の盛りなれば久しく燃えず。
日は出でて須臾に没しぬ。 月は満ちをはりてまた欠けぬ。
「水渚ハ不↢常ニ満タ↡ | 火ノ盛ナレバ不↢久シク燃エモセ↡ |
日ハ出デテ須臾ニ没シヌ | 月ハ満チ已リテ復欠ケヌ |
^尊栄高貴なるものも、 無常のすみやかなることこれに過ぎたり。
いままさにつとめて精進して、 *無上の尊を頂礼すべし」 と。 以上
尊栄高貴ノ者モ | 無常ハ速ナルコト過ギタリ↠是ニ |
*今当ニシト↣*勤メテ精進シテ | 頂↢礼ス無上ノ尊ヲ↡」 已上 |
^ただもろもろの凡下のみ、 この怖畏あるにあらず。 *仙に登り、 *通を得たるもの、 またかくのごとし。 ¬*法句譬喩経¼ の偈にのたまふがごとし。
非ズ↣唯シ諸ノ凡下ノ有ルノミニ↢此ノ怖畏↡。登リ↠仙ニ得タル↠通ヲ者亦復如シ↠是クノ。如シ↢¬法句譬喩経ノ¼偈ニ云フガ↡。
^「*空にもあらず海のなかにもあらず。 山石のあひだに入るにもあらず。
地の方処として、 脱止して死を受けざるはあることなし」 と。
「非ズ↠空ニモ非ズ↢海ノ中ニモ↡ | 非ズ↠入ルニモ↢山石ノ間ニ↡ |
無シト↠有ルコト↢*地ノ方処トシテ | 脱止シテ不ルハ↟受ケ↠死ヲ」 |
^空に騰り、 海に入り、 巌に隠るる三人の因縁、 ¬経¼ (同) に広く説くがごとし。
騰リ↠空ト、入リ↠海ト、隠ルル↠巌ト*之三人ノ因縁、如シ↢¬経ニ¼広ク説クガ↡
^まさに知るべし。 諸余の苦患は、 あるいは免るるものあるも、 無常の一事はつひに避るる処なし。 すべからく説のごとく修行して、 常楽の果を欣求すべし。
当ニシ↠知ル。諸余ノ苦患ハ或イハ有リ↢免ルル者↡。无常ノ一事ハ終ニ無シ↢避ルニ処↡。須クシ↣如ク↠説ノ修行シテ欣↢求ス常楽ノ果ヲ↡。
^¬止観¼ にいふがごとし。 「無常の殺鬼は豪賢をも択ばず。 危脆にして堅からず、 *恃怙すべきこと難し。 いかんぞ安然として百歳を規望せん。 四方に馳求して、 *貯積*聚斂すれども、 聚斂いまだ足らざるに、 *溘然として長く往きぬれば、 あ0837らゆる産貨はいたづらに他の有となりぬ。 冥々として独り逝くに、 たれか是非を訪はんや。
如シ↢¬止観ニ¼云フガ↡。「无常ノ殺鬼ハ不↠択バ↢豪賢ヲモ↡。危脆ニシテ不↠堅カラ、難シ↠可キコト↢恃怙トス↡。云何ゾ安然トシテ規↢望セム百歳ヲ↡。四方ニ馳求シテ、貯積聚斂スレドモ、聚斂未ダルニ↠足ラ溘然トシテ長ク往1038キヌレバ、所有ノ産貨ハ徒ニ為リヌ↢他ノ有ト↡。冥々トシテ独リ逝クニ、誰カ訪ハムヤ↢是非ヲ↡。
^もし無常の、 暴水・猛風・*掣電よりも過ぎたることを覚らんも、 山・海・空・市に、 逃げ避くる処なし。 かくのごとく観じをはりて、 心大きに怖畏して、 眠りは席を安くせず、 食は*哺を甘くせず、 頭燃を救はんがごとくして、 もつて*出要を求めよ」 と。
若シ覚リナバ↧無常ナルコトノ過ギテ↢於暴水・猛風・掣電ヨリモ↡、山海空市ニ無シト↦逃ゲ避ケヌル処↥、如ク↠是クノ観ジ已リテ、心大ニ怖畏シテ、眠ハ不↠安クセ↠席ヲ、食ハ不↠甘クセ↠哺ヲ、如クシテ↠救ハムガ↢頭燃ヲ↡、以テ求メヨト↢出要ヲ↡。」
^またいはく (止観)、 「たとへば、 野干の耳・尾・牙を失ふまでは、 詐り眠りして脱るることを望めども、 たちまちに頭を断ることを聞きては、 心大きに驚怖するがごとし。 生老病に遭ひては、 なほ急なりとなさざらんも、 死の事は奢にせず。 いかんぞ怖ぢざることを得ん。 怖心起る時に、 湯火を履まんがごとし。 五塵・六欲も*貪染するに暇あらず」 と。 以上略抄
又云ク、「譬ヘバ如ク↧野干ノ失フマデハ↢耳・尾・牙ヲ↡、詐リ眠リシテ望ム↠脱ラムコトヲ、忽ニ聞キテハ↠断ラムコトヲ↠頭ヲ、心大ニ驚怖スルガ↥、遭フテハ↢生・老・病ニ↡、尚シ不ランモ↠為サ↠急ナリト。死ノ事ハ弗↠奢ナラ。那ゾ得ム↠不ルコトヲ↠怖ヂ。怖心起ル時ニ如シ↠履マムガ↢*湯・火ヲ↡。五塵・六欲モ、不ト↠暇アラ↢貪染スルニ↡。」 已*上*略抄
^人道かくのごとし、 実に厭離すべし。
人道如ク↠此ノ実ニ可シ↢厭離ス↡。
二 Ⅰ ⅱ f 天
【19】^第六に△天道を明かさば、 三あり。 一には欲界、 二には色界、 三には無色界なり。 その相すでに広し。 つぶさに述すべきこと難し。 しばらく一処を挙げて、 もつてその余を例せん。
第六ニ明サバ↢天道ヲ↡者有リ↠三。一ニ者欲界、二ニ者色界、三ニ*者无色界ナリ。其ノ相既ニ広シ。難シ↠可キコト↢具ニ述ス↡。且ク挙ゲテ↢一処ヲ↡、以テ例セム↢其ノ余ヲ↡。
^かの忉利天のごときは、 快楽極まりなしといへども、 命終の時に臨みて*五衰の相現ず。 一は頭の上の*華鬘たちまちに萎む。 二は天衣、 塵垢に着せらる。 三は腋の下より汗出づ。 四は両の目しばしば眴ぐ。 五0838は*本居を楽はず。 この相現ずる時に、 天女・眷属みなことごとく遠離して、 これを棄つること草のごとし。
如キハ↢彼ノ忉利天ノ↡雖モ↢快楽無シト↟極リ、臨ミテ↢命終ノ時ニ↡五衰ノ相現ズ。一ハ頭ノ上ノ花鬘忽ニ萎ム。二ハ天衣塵垢ニ所ル↠著セ。三ハ腋ノ下ヨリ汗出ヅ。四ハ両ノ目*数バ眴グ。五ハ不↠楽ハ↢本居ヲ↡。是ノ相現ズル時ニ、天女・眷属皆悉ク遠離シテ、棄ツルコト↠之ヲ如シ↠草ノ。
^林のあひだに*偃臥して、 悲泣して嘆きていはく、 「このもろもろの天女をば、 われつねに憐愍しつ。 いかんぞ一旦にわれを棄つること草のごとくする。 われいま依なく怙なし。 たれかわれを救ふものあらん。
偃↢臥シテ林ノ間ニ↡、悲泣シテ嘆キテ曰ク、此ノ諸ノ天女ヲバ我常ニ憐愍シツ。云何ゾ一旦ニ棄ツルコト↠我ヲ如クアル↠草ノ。我今無ク↠依無シ↠怙。誰カ救ハム↠我ヲ者アラン。
^*善見宮城は、 いまよりはまさに絶えなんとす。 帝釈の宝座、 朝謁するに由なし。
善見宮城ハ於リハ↠今将ニ↠絶エナムト。帝釈ノ宝座、朝謁スルニ無シ↠由。
^*殊勝殿のなかには、 永く瞻望を断つ。 *釈天の宝象には、 いづれの日か同じく乗らん。
殊勝殿ノ中ニハ永ク断ツ↢瞻望ヲ↡。釈天ノ宝象ニハ何レノ日カ同ジク*乗ム。
^*衆車苑のなかには、 またよく見ることなからん。 *粗渋苑のうちには、 *介冑長く辞しつ。
衆車苑ノ中ニハ無ケム↢復能ク見ルコト↡。麁渋苑ノ内ニハ*介冑長ク辞シツ。
^*雑林苑のなかには、 宴会するに日なし。 *歓喜苑のなかには、 遊止するに期なし。
雑林苑ノ中ニハ宴会スルニ無シ↠日。歓喜苑ノ中ニハ遊止スルコト無シ↠期。
^*劫波樹の下の白玉の軟石には、 さらに坐する時なし。 *曼陀枳尼の殊勝池の水には、 沐浴せんに由なし。
劫波樹1039ノ下ノ白玉ノ軟石ニハ更ニ無シ↢坐スル時↡。曼陀枳尼ノ殊勝池ノ水ニハ沐浴セムニ無シ↠*由。
^*四種の甘露はたちまちに食することを得がたく、 *五妙の音楽はにはかに聴聞を絶つ。
四種ノ甘露ハ卒ニ難シ↠得↠食スルコトヲ。五妙ノ音楽ハ頓ニ絶ツ↢聴聞ヲ↡。
^悲しきかな、 この身独りこの苦に嬰れり。 願はくは慈愍を垂れてわが寿命を救ひて、 さらに少しき日を延ばしめば、 また楽しからざらんや。 かの*馬頭の山・沃焦の海に堕せしむることなかれ」 と。 この言をなすといへども、 あへて救ふものなし。 ¬六波羅蜜経¼。
悲シキ哉此ノ身独リ嬰レリ↢此ノ苦ニ↡。願クハ垂レテ↢慈*愍ヲ↡救ヒテ↢我ガ寿命ヲ↡、更ニ延ベバ↢少シノ日ヲ↡、不ラム↢亦楽シカラ↡乎。勿レト↠令ムルコト↠堕セ↢彼ノ馬頭ノ山・沃焦ノ海ニ↡。雖モ↠作スト↢是ノ言ヲ↡、無シ↢敢テ救フ者↡。¬六波羅蜜経¼
^まさに知るべし、 この苦は地獄よりもはなはだし。 ゆゑに ¬正法念経¼ の偈に0839のたまはく、
当ニシ↠知ル、此ノ苦ハ甚シ↢於地獄ヨリモ↡。故ニ¬正法念経ノ¼偈ニ云ク、
^「天上より退せんと欲する時には、 心に大苦悩を生ず。
地獄のもろもろの苦毒は、 十六にして一にも及ばず」 と。 以上
「天上ヨリ欲スル↠退セムト時ニハ | 心ニ生ズ↢大苦悩ヲ↡ |
地獄ノ衆ノ苦毒ハ | 十六ニシテ不ト↠及バ↠一ニモ」 *已上 |
^また大徳の天すでに生れて後には、 旧き天の眷属は、 捨ててかれに従ふ。 あるいは威徳の天ありて、 心に順ぜざる時には、 駆りて宮を出し、 住することを得ることあたはざらしむ。 ¬瑜伽¼ (瑜伽論)。
又大徳ノ天既ニ生レテ之後ニハ、旧キ天ノ眷属ハ捨テテ而従フ↠彼ニ。或イハ有リテ↢威徳ノ天↡不ル↠順ゼ↠心ニ時ニハ、駆リテ令メテ↠出サ↠宮ヲ、不ラ↠能ハ↠得ルコト↠住スルコトヲ。¬瑜伽¼
^*余の五の欲天ことごとくこの苦あり。 上二界 (色界・無色界) のなかにはかくのごとき事なしといへども、 つひに退没の苦あり。 乃至、 *非想も*阿鼻をば免れず。 まさに知るべし、 天上また楽しむべからず。 以上、 天道。
余ノ五ノ欲天悉ク有リ↢此ノ苦↡。上二界ノ中ニハ雖モ↠無シト↢如キ↠此クノ*之事↡、終ニ有リ↢退没之苦↡。乃至*非想マデニ不↠免レ↢阿鼻ヲバ↡。当ニシ↠知ル、天上亦不↠可カラ↠楽シブ。*已上天道
二 Ⅰ ⅱ g 総結
【20】^第七に△総じて厭相を結せば、 いはく、 *一篋、 ひとへに苦し。 *耽荒すべきにあらず。 *四の山合せ来らば、 避れ遁るところなし。 しかも、 もろもろの衆生は貪愛をもつてみづから蔽ひて、 深く五欲に着せり。 常にあらざるを常といひ、 楽にあらざるを楽といへり。 かの、 *癰を洗ひ睫を置くがごとき、 なほいかんぞ厭はざらん。 いはんやまた刀山・火湯、 やうやくまさに至りなんとす。 いづれの有智のものか、 この身を宝玩せんや。
第七ニ総ジテ結セバ↢厭相ヲ↡者、謂ク一ノ篋、偏ニ苦シ。非ズ↠可キニ↢耽荒ス↡。四ノ山合セ来ラバ无シ↠所↢*避レ遁ル↡。而モ諸ノ衆生ハ以テ↢貪愛ヲ↡自ラ*蔽エ、深ク著セリ↢於五欲ニ↡。非ザルヲ↠常ニ謂ヒ↠常ト、非ザルヲ↠楽ニ謂ヘリ↠楽ト。彼ノ如キ↢洗ヒ↠癰ヲ置クガ↟睫ヲ、猶盍ゾ*不ラム厭ハ。況ヤ復刀山・火湯、漸ク将ニ↠至リナムト。誰ノ有智ノ者カ宝↢玩セム此ノ身ヲ↡乎。
^ゆゑに *¬正法念経¼ の偈にのたまはく0840、
故ニ¬正法念経ノ¼偈ニ云ク、
^「智者のつねに憂ひを懐くこと、 なほ獄のなかに囚はれたるに似たり。
愚人のつねに歓楽すること、 なほ*光音天のごとし」 と。
「智者ハ常ニ懐クコト↠憂ヲ | *如似タリ↢獄ノ中ニ囚メラレタルニ↡ |
愚人ハ常ニ歓楽スルコト | 猶如シト↢光音天ノ↡」 |
^¬宝積経¼ の偈にのたまはく、
¬宝積経ノ¼偈ニ云ク、
^「種々の悪業をもつて財物を求めて、 妻子を養育して歓娯すと謂へども、
命終の時に臨みて、 苦、 身に逼り、 妻子もよくあひ救ふものなし。
「種々ノ悪業ヲモテ求ム↢財物ヲ↡ | 養↢育シテ妻子ヲ↡謂フ↢歓娯スト↡ |
臨ム↢命終ニ↡時ニ苦逼ムレバ↠身ヲ | 妻子モ無シ↢能ク相救フ者↡ |
^かの三途の怖畏のなかにおいては、 妻子および親識を見ず。
車馬・財宝は他人に属しぬ。 苦を受くるに、 たれかよくともにして分つものあらん。
於テハ↢彼ノ三塗ノ怖畏ノ中ニ↡ | 不1040↠見↢妻子及ビ親*識ヲ↡ |
車馬財宝ハ属シヌ↢他人ニ↡ | 受クルニハ↠苦ヲ誰カ能ク*共ニシテ分ツ者アラム |
^父母・兄弟および妻子、 朋友・僮僕ならびに珍財も、
死して去りぬれば、 一として来りあひ親しむものなし。 ただ*黒業のみありてつねに*随逐せり。 乃至
父母兄弟及ビ妻子 | 朋友僮僕并テ珍財モ |
死シテ去リヌレバ无シ↢一モ来リテ相親ヅク↡ | 唯シ有リテ↢黒業ノミ↡常ニ随*逐セリ 乃至 |
^閻羅つねにかの罪人に告ぐ。 ª少罪もわがよく加ふることあることなし。
なんぢみづから罪を作りて、 いまみづから来れり。 *業報みづから招く、 代るものなし。
閻羅常ニ告グ↢彼ノ罪人ニ↡ | 無シ↠有ルコト↢少罪トシテ我ガ能ク加ルハ↡ |
汝自ラ作リテ↠罪ヲ今自ラ来レリ | 業報自ラ招ク無シ↢代ル者↡ |
^0841父母・妻子もよく救ふことなし。 ただまさに出離の因を勤修すべしº と。
このゆゑに*枷鎖の業を捨てて、 よく遠離を知りて安楽を求むべし」 と。
父母妻子モ無シ↢能ク救フコト↡ | 唯シ当ニシト↣勤↢修ス出離ノ因ヲ↡ |
是ノ故ニ応シト↧捨テテ↢*伽鎖ノ業ヲ↡ | 善ク知リテ↢遠離ヲ↡求ム↦安楽ヲ↥」 |
^また ¬大集経¼ の偈にのたまはく、
又¬大集経ノ¼偈ニ云ク、
^「妻子・珍宝および王位も、 命終の時に臨みては、 随はざるものなり。
ただ*戒とおよび*施と*不放逸と、 今世・後世に伴侶となる」 と。
「妻子珍宝及ビ王位モ | 臨ム↢命終ニ↡時ニ不ル↠随ハ者ナリ |
唯シ戒ト及ビ施ト不放逸ト | 今世後世ニ為ルト↢伴侶ト↡」 |
^かくのごとく*展転して、 悪を作りて苦を受け、 いたづらに生じいたづらに死して、 輪転際なし。 ¬経¼ (*雑阿含経) の偈にのたまふがごとし。
如クシテ↠是クノ展転シテ、作リテ↠悪ヲ受ク↠苦ヲ。徒ニ生ジ徒ニ死シテ、輪転無シ↠際。如シ↢¬経ノ¼偈ニ云フガ↡。
^「▲一人一劫のなかに受けたるところのもろもろの身骨を、
つねに積みて腐敗せずは、 *毘布羅山のごとし」 と。
「一人一劫ノ中ニ | 所ノ↠受ケタル諸ノ身骨ヲ |
常ニ積ミテ不ハ↢腐敗セ↡ | 如ケムト↢毘布羅山ノ↡。」 |
^一劫すらなほしかなり。 いはんや無量劫をや。 われらいまだかつて道を修せざるがゆゑに、 いたづらに無辺劫を歴たり。 いまもし勤修せずは、 未来もまたしかるべし。 かくのごとく無量生死のなかには、 人身を得ることはなはだ難し。 たとひ人身を得たれども、 もろもろの根を具することまた難し。 たとひ諸根を具すれども、 仏教に遇ふことまた難し。 たとひ仏教に遇ふとも、 信心をなすことまた難し。
一劫ノスラ尚シ爾ナリ。況ヤ无量劫ノヲヤ。我等未ダルガ↢曽ニモ修セ↟道ヲ故ニ、徒ニ*歴タリ↢无辺劫ヲ↡。今若シ不ハ↢勤修セ↡未来モ亦可シ↠然ル。如ク↠是クノ无量生死之ノ中ニハ、得ルコト↢人身ヲ↡甚ダ難シ。縦ヒ得タレドモ↢人身ヲ↡、具スルコト↢諸ノ根ヲ↡亦難シ。縦ヒ具スレドモ↢諸根ヲ↡、遇フコト↢仏教ニ↡亦難シ。縦ヒ遇フトモ↢仏教ニ↡、生スコト↢信心ヲ↡亦難シ。
^ゆゑに ¬大経¼ (*涅槃経・意) にのたまはく、 「人趣に生るるも0842のは爪の上の土のごとし。 三途に堕つるものは十方の土のごとし」 と。
故ニ¬大経ニ¼云ク、「生ルル↢人趣ニ↡者ハ如シ↢爪ノ上ノ土ノ↡。堕ツル↢三途ニ↡者ハ如シト↢十方ノ*土ノ↡。」
^¬*法華経¼ の偈にのたまはく、
¬法花経ノ¼*偈ニ云ク、
^「無量無数劫にも、 この法を聞くことまた難し。
よくこの法を聴くもの、 この人また難し」 と。
「無量無数劫ニモ | 聞クコト↢是ノ法ヲ↡亦難シ |
能ク聴ク↢是ノ法ヲ↡者 | 此ノ人亦復難シトイヘリ。」 |
^しかるをいま、 たまたまこれらの縁を具せり。 まさに知るべし、 苦海を離れて浄土に往生すべきこと、 ただ今生にのみあり。 しかるをわれら、 頭に霜雪を戴きて、 心は俗塵に染めり。 一生は尽きぬといへども、 悕望は尽きず。 つひに白日の下を辞して、 独り*黄泉の底に入る時、 多百踰繕那の*洞然たる猛火のなかに堕ちて、 天に呼ばはり地を扣くといへども、 さらになんの益かあらんや。
而ルヲ今適マ具セリ↢此等ノ縁ヲ↡。当ニシ↠知ル、応キコト↧離レテ↢*苦海ヲ↡往↦生ス浄土ニ↥只在リ↢今生ニノミ↡。而ルヲ我等頭ニ戴キテ↢霜雪ヲ↡、心ハ染メリ↢*俗塵ニ↡。一生ハ雖モ↠尽キヌト*悕望ハ不↠尽キ。遂1041ニ辞シテ↢白日ノ下ヲ↡、独リ入ラム↢黄泉ノ底ニ↡之時、堕チテ↢多百踰繕那ノ*洞然タル猛火ノ中ニ↡、雖モ↢呼バヒ↠天ヲ扣クト↟地ヲ、更ニ有ラム↢何ノ益カ↡乎。
^願はくはもろもろの行者、 疾く厭離の心を生じて、 すみやかに出要の路に随ふべし。 ▼宝の山に入りて手を空しくして帰ることなかれ。
願クハ諸ノ行者、疾ク生ジテ↢厭離ノ心ヲ↡、速ニ随フベシ↢出要ノ路ニ↡。莫レ↧入リテ↢宝ノ山ニ↡空シクシテ↠手ヲ而帰ルコト↥。
^問ふ、 なんらの相をもつてか厭心をなすべき。
問フ。以テカ↢何等ノ相ヲ↡応キ↠生ス↢厭心ヲ↡。
^答ふ、 もし広く観ぜんと欲はば、 前の所説のごとし。 六道の因果、 不浄・苦等なり。
答フ。若シ欲ハバ↢広ク観ゼムト↡、如シ↢前ノ所説ノ↡。六道ノ因果、不浄・苦等ナリ。
^あるいはまた*龍樹菩薩の、 禅陀迦王を勧発する偈 (龍樹為王説法要偈) にいはく、
或イハ復龍樹菩薩ノ勧↢発スル禅陀迦王ヲ↡偈ニ云ク、
^「この身は、 不浄、 *九の孔より流れて、 窮まり已むことあることなきこと、 河0843海のごとし。
薄き皮、 覆ひ蔽して清浄なるに似たれども、 瓔珞を仮りてみづから荘厳せるがごとし。
「是ノ身ハ不浄九ノ孔ヨリ流ル | 無キコト↠有ルコト↢窮メ已ムコト↡若シ↢河海ノ↡ |
薄キ皮覆ヒ蔽シテ似タリ↢清浄ナルニ↡ | 猶シ↧仮リテ↢瓔珞ヲ↡自ラ荘厳セルガ↥ |
^もろもろの有智の人はすなはち分別して、 その*虚誑なるを知りてすなはち棄捨す。
たとへば*疥者の、 猛焔に近づきて、 初めはしばらく悦ぶといへども、 後には苦を増すがごとし。
諸ノ有智ノ人ハ乃チ分別シテ | 知リテ↢其ノ虚誑ナルヲ↡便チ棄捨ス |
譬ヘバ如シ↧疥者ノ近ヅキテ↢猛焔ニ↡ | 初ハ雖モ↢暫ク悦ブト↡後ニハ増スガ↞苦ヲ |
^貪欲の想もまたしかなり。 始め楽着すといへども、 つひには患ひ多し。
身の実相はみな不浄なりと見る。 すなはちこれ空・無我を観ずるなり。
貪欲之*想モ亦復然ナリ | 始メ雖モ↢楽著スト↡終ニハ多シ↠患ヘ |
見レバ↢身ノ実ノ相ヲ↡皆不浄ナリ | 即チ是観ズルナリ↢於空无我ヲ↡ |
^もしよくこの観を修習するものは、 利益のなかにおいてもつとも無上なり。
*色・族および多聞ありといへども、 もし戒・智なければ禽獣のごとし。
若シ能ク修↢習スル斯ノ観ヲ↡者ハ | 於テ↢利益ノ中ニ↡最モ无上ナリ |
雖モ↠有リト↢色族及ビ多聞↡ | 若シ無ケレバ↢戒智↡猶シ↢禽獣ノ↡ |
^醜賎に処し、 聞見少なしといへども、 よく戒・智を修するを勝上と名づく。
*利衰の八法、 よく免るることなし。 もし除断することあるは、 まことに匹なし。
雖モ↧処シ↢醜賎ニ↡少シト↦聞見↥ | 能ク修スルヲバ↢戒智ヲ↡名ク↢勝*上ト↡ |
利衰ノ八法莫シ↢能ク免ルルコト↡ | 若シ有ルハ↢除断スルコト↡真ニ无シ↠匹 |
^0844もろもろの沙門・婆羅門・父母・妻子および眷属の、
かの意のためにその言を受けて、 広く不善・非法の行を造ることなかれ。
諸ノ有ラバ↢沙門・婆羅門・ | 父母・妻子及ビ眷属ノ↡ |
莫レ↧為ニ↢彼ガ意ノ↡受ケテ↢其ノ言ヲ↡ | 広ク造ルコト↦不善非法ノ行ヲ↥ |
^たとひこれらがためにもろもろの過を起せども、 未来の大苦はただ身に受く。
それ衆悪を造れども、 ただちに報いず。 刀剣のこもごも傷割するがごとくにはあらず。
設ヒ為ニ↢此等ガ↡起セドモ↢諸ノ過ヲ↡ | 未来ノ大苦ヲバ唯シ身ニ受ク |
夫レ造ルトキハ↢衆悪ヲ↡不↢即チ報セ↡ | 非ズ↠如クニハ↢刀剣ヲ交ヘテ傷割スルガ↡ |
^終りに臨み、 罪あひはじめてともに現じて、 後に地獄に入りてもろもろの苦に嬰る。
*信・戒・施・聞・慧・慚・愧、 かくのごとき七法を聖財と名づく。
臨ミ↠終ニ罪相始テ倶ニ現ジテ | 後ニ入リテ↢地獄ニ↡嬰ル↢諸ノ苦ニ↡ |
信・戒・施・聞・慧・慚・*愧 | 如キ↠是クノ七法ヲ名ク↢聖財ト↡ |
^真実にして無比の*牟尼の説なり。 世間のもろもろの珍宝に超越せり。
足ることを知りぬれば、 貧しといへども富めりと名づくべし。 財あれども欲多きは、 これを貧と名づく。
真*実ニシテ無比ノ牟尼ノ説ナリ | 超↢越セリ世間ノ衆ノ珍宝ニ↡ |
知リヌレバ↠足ルコトヲ雖モ↠貧シト可シ↠名ク↠富メリト | 有レドモ↠財多キヲバ↠欲是ヲ名1042ク↠貧ト |
^もし財業に豊かなれば、 もろもろの苦を増すこと、 竜の首多きは*酸毒を益すがごとし。
まさに観ずべし、 美き味はひは毒薬のごとし。 智慧の水をもつて灑ぎて浄か0845らしめよ。
若シ豊ナルハ↢財業ニ↡増スコト↢諸ノ苦ヲ↡ | 如シ↣竜ノ多キハ↠首益スガ↢酸毒ヲ↡ |
当ニシ↠観ズ、美キ味ハ如シ↢毒薬ノ↡ | 以テ↢智*慧ノ水ヲ↡灑ギテ令メヨ↠浄カラ |
^この身を存ぜんがために食すべしといへども、 色味を貪じて憍慢を長ずることなかれ。
もろもろの欲染においてまさに厭ふことをなして、 つとめて無上涅槃の道を求むべし。
為ニ↠存ゼムガ↢此ノ身ヲ↡雖モ↠応キト↠食ス | 勿レ↧貪ジテ↢色味ヲ↡長ズルコト↦憍慢ヲ↥ |
於テ↢諸ノ欲染ニ↡当ニシ↠生ス↠厭フコトヲ | 勤メテ求メヨ↢无上涅槃ノ道ヲ↡ |
^この身を調和して安穏ならしめて、 しかして後によろしく斎戒を修すべし。
一夜を分別するに*五時あり。 二時のなかにまさに眠息すべし。
調↢和シテ此ノ身ヲ↡令メテ↢安*穏ナラ↡ | 然シテ後ニ宜ク応シ↠修ス↢斎戒ヲ↡ |
一夜ヲ分別スルニ有リ↢五時↡ | 於テ↢二時ノ中ニ↡当ニシ↢眠息ス↡ |
^初・中・後夜には生死を観じて、 よろしくつとめて*度を求めて空しく過ぐすことなかれ。
たとへば少塩を*恒河に置けるに、 水をして*鹹味あらしむることあたはざるがごとく、
初・中・後夜ニハ観ジテ↢生死ヲ↡ | 宜ク勤メテ求メテ↠度ヲ勿レ↢空シク過グスコト↡ |
譬ヘバ如シ↧少塩ヲ置ケルニ↢恒河ニ↡ | 不ルガ↞能ハ↠令ムルコト↣水ヲシテ有ラ↢鹹味↡ |
^微細の悪は衆善に遇ひぬれば、 消滅散壊すること、 またかくのごとし。
梵天の離欲の娯しみを受くといへども、 還りて*無間の熾然の苦に墜つ。
微細之悪ハ遇ヒヌレバ↢衆善ニ↡ | 消滅散壊スルコト亦如シ↠是クノ |
雖モ↠受クト↢梵天ノ離欲ノ娯シビヲ↡ | 還リテ*墜ツ↢無間ノ熾然ノ苦ニ↡ |
^天宮に居して光明を具せりといへども、 後には地獄の黒闇のなかに入る。
いはゆる*黒縄・活地獄の、 焼・割・剥・刺および無間なり。
雖モ↧居シテ↢天宮ニ↡具セリト↦光明ヲ↥ | 後ニハ入ル↢地獄ノ黒闇ノ中ニ↡ |
所謂ル黒*縄・活地獄ノ | 焼・割・*剥・刺及ビ无間ナリ |
^0846この八の地獄はつねに熾然なり。 みなこれ衆生の悪業の報なり。
もし図画を見、 他の言を聞き、 あるいは経書に随ひてみづから憶念し、
是ノ八ノ地獄ハ常ニ熾然ナリ | 皆是衆生ノ悪業ノ報ナリ |
若シ見↢図画ヲ↡聞キ↢他ノ言ヲ↡ | 或イハ随ヒテ↢経書ニ↡自ラ憶念シ |
^かくのごとくして知る時にすらもつて忍びがたし。 いはんやまたおのが身にみづから*経歴せんをや。
もしまた人ありて一日のうちに、 三百の矛をもつてその体を鑚さんも、
如クシテ↠是クノ知ル時ニスラ以テ難シ↠忍ビ | 況ヤ復己ガ身ニ自ラ逕歴セムヲヤ |
若シ復有リテ↠人一日ノ中ニ | 以テ↢三百ノ矛ヲ↡鑚サムモ↢其ノ体ヲ↡ |
^阿鼻獄の一念の苦に比ぶるに、 百千万分にして一にも及ばず。
畜生のなかにおいても、 苦は無量なり。 あるいは*繋縛および鞭撻せらるることあり。
比ブルニ↢阿*毘獄ノ一念ノ*苦ニ↡ | 百千万分ニシテ不↠*及バ↠一ニモ↡ |
於テモ↢畜生ノ中ニ↡苦ハ无量ナリ | 或イハ有リ↢繋縛シ及ビ鞭撻セラルルコト↡ |
^あるいは明珠・羽・角・牙、 骨・毛皮・肉のために残害せらるることを致す。
餓鬼道のなかの苦もまたしかなり。 もろもろの*所須の欲意に随はず、
或イハ為ニ↢明珠・羽・角・牙・ | 骨・毛・皮・肉ノ↡*致ス↢残害セラルルコトヲ↡ |
餓鬼道ノ中ノ苦モ亦然ナリ | 諸ノ所須ノ欲不↠随ハ↠意ニ |
^飢渇に逼せられて寒熱に困しむ。 疲乏等の苦、 はなはだ無量なり。
屎尿糞穢のもろもろの不浄すら、 百千万劫によく得ることなし。
飢渇ニ所レテ↠逼セ困ム↢寒熱ニ↡ | 疲乏等ノ苦甚ダ无量ナリ |
*屎尿糞穢ノ諸ノ不浄ヲ | 百千万劫ニ莫シ↢能ク得ルコト↡ |
^たとひまた推し求めて少分を得れども、 さらにあひ*劫奪して、 尋いで散失しぬ。
0847清冷の秋の月にも焔熱を患へ、 温和の春の日にもうたた寒苦す。
設ヒ復推シ求メテ得レドモ↢少分ヲ↡ | 更ニ相*劫奪シテ尋ギテ散失シヌ |
清*冷ノ秋ノ月ニモ患フ↢焔熱ヲ↡ | 温和ノ春ノ日ニモ*転タ寒苦ス |
^もし園林に趣けば、 衆菓尽き、 たとひ清流に至れども変じて枯竭しぬ。
*罪業の縁のゆゑに、 寿、 長遠にして、 経ること一万五千歳あり。
若シ趣ケバ↢園林ニ↡衆菓尽キヌ | 設ヒ至レバ↢*清流ニ↡変1043ジテ枯竭シヌ |
罪*業ノ縁ノ故ニ寿長遠ニシテ | 逕ルコト有リ↢一万五千歳↡ |
^もろもろの楚毒を受くるに空しく欠くることなし。 みなこれ餓鬼の果報なり。
煩悩の*駃き河、 衆生を漂はし、 深き怖畏、 熾然の苦となる。
受クルニ↢衆ノ楚毒ヲ↡无シ↢空シク欠クルコト↡ | 皆是餓鬼之果報ナリ |
煩悩ノ駃キ*河漂ハス↢衆生ヲ↡ | 為ス↢深キ怖畏熾然ノ苦ヲ↡ |
^かくのごときもろもろの*塵労を滅せんと欲はば、 真実の解脱の*諦を修すべし。
もろもろの世間の*仮名の法を離れて、 すなはち清浄の不動の処を得よ」 と。
欲ハバ↠滅セムト↢如キ↠是クノ諸ノ塵労ヲ↡ | 応シ↠修ス↢真実ノ解脱ノ諦ヲ↡ |
離レテ↢諸ノ世間ノ仮名ノ法ヲ↡ | 則チ得ヨト↢清浄ノ不動ノ処ヲ↡」 |
^以上、 百十行の偈あり。 いま略してこれを抄す。
已上有リ↢百十行ノ偈↡。今略シテ抄ス↠*之ヲ
^▼もし略を存ぜば、 *馬鳴菩薩の、 *頼和羅の伎声に唱へていふがごとし。
若シ存ゼバ↠略ヲ者、如シ↢馬鳴菩薩ノ頼和羅ノ伎ノ声ニ唱ヘテ云フガ↡。
^「有為の諸法は、 幻のごとく化のごとし。
三界の獄縛は、 一としても楽しむべきことなし。
「有為ノ諸法ハ | 如ク↢幻ノ如シ↢化ノ |
三界ノ獄縛ハ | 无シ↢一トシテモ可キコト↟楽フ |
^王位高顕にして、 勢力自在なれども、
無常すでに至りぬれば、 たれか存ずることを得るものあらん。
王位高ク顕テ | 勢力自在ナレドモ |
無常既ニ至リヌレバ | 誰カ得ル↠存ズルコトヲ者アラン |
^0848空中の雲の、 須臾に散滅するがごとし。
この身は虚偽なること、 なほ芭蕉のごとし。
如シ↢空ノ中ノ雲ノ | 須臾ニ散滅スルガ↡ |
是ノ身ハ虚偽ナルコト | 猶如シ↢芭蕉ノ↡ |
^怨たり賊たり、 親近すべからず。
*毒蛇の篋のごとし。 たれかまさに*愛楽すべき。
為リ↠怨*為リ↠賊 | 不↠可カラ↢親近ス↡ |
如シ↢毒蛇ノ篋ノ↡ | 誰カ当ニキ↢愛楽ス↡ |
^このゆゑに諸仏、 つねにこの身を呵したまふ」 (*付法蔵因縁伝) と。 以上
^このなかにつぶさに無常・苦・空を演ぶ。 聞くもの道を悟る。
此ノ中ニ具ニ演ブ↢無常・苦・*空ヲ↡。聞ク者悟ル↠道ヲ。
^あるいはまた堅牢比丘の壁の上の偈 (宝積経) にのたまはく、
或イハ復堅牢比丘ノ壁ノ上ノ偈ニ云ク、
^「生死の断絶せざるは、 貪欲嗜味なるがゆゑなり。
怨を養ひて*丘塚に入りて、 虚しくもろもろの辛苦を受く。
「生死ノ不ルコトハ↢断絶セ↡ | 貪欲嗜味ナルガ故ナリ |
養ヒテ↠怨ヲ入レテ↢丘塚ニ↡ | 虚シク受ク↢諸ノ辛苦ヲ↡ |
^身の臭きこと死屍のごとし。 九の孔より不浄を流す。
廁の虫の、 糞を楽しむがごとく、 愚にして身を貪ずるも異なることなし。
身ハ臭キコト如シ↢死屍ノ↡ | 九ノ孔ヨリ流ス↢不浄ヲ↡ |
如シ↢廁ノ虫ノ楽ブガ↟糞ヲ | 愚ニシテ貪スルモ↠身ヲ無シ↠異ナルコト |
^*憶想して妄りに分別する、 すなはちこれ五欲の本なり。
智者は分別せざれば、 五欲すなはち断滅す。
憶想シテ妄ニ分別スル | *則チ是五欲ノ本ナリ |
智者ハ不レバ↢分別セ↡ | 五欲則チ断滅ス |
^邪念より*貪着を生じ、 貪着より煩悩を生ず。
正念にして貪欲なければ、 余の煩悩また尽きぬ」 と。 以上
邪念ヨリ生ズ↢貪著ヲ↡ | 貪著ヨリ生ズ↢煩悩ヲ↡ |
正念ハ無ケレバ↢貪欲↡ | 余ノ煩悩亦尽キヌト」 已上 |
^過0849去の弥楼犍駄仏の滅後に、 正法滅せし時に、 陀摩尸利菩薩、 この偈を求め得て仏法を弘宣し、 無量の衆生を利益せり。
過去ノ弥楼*犍駄仏ノ滅後ニ、正法滅セシ時ニ、陀摩尸利菩薩求メ↢得テ此ノ偈ヲ↡弘↢宣シ仏法ヲ↡、利↢益セリ無量ノ衆生ヲ↡。
^あるいはまた ¬*仁王経¼ に*四非常の偈あり。 見つべし。
或イハ復¬仁王経ニ¼有リ↢四非常ノ偈↡。可シ↠見ツ。
^▼もし極略を楽はば、 ¬*金剛経¼ にのたまふがごとし。
若シ楽ハバ↢極略ヲ↡者、如シ↢¬金剛経ニ¼云フガ↡、
^「一切有為の法は、 ▽夢と幻と泡と影とのごとし。
露のごとくまた電のごとし。 かくのごとき観をなすべし」 と。
「一切有為ノ法ハ | 如シ↢夢ト幻ト泡ト影トノ↡ |
如ク↠露ノ亦如シ↠電ノ | 応シト↠作1044ス↢如キ↠是クノ観ヲ↡」 |
^あるいはまた ¬大経¼ (涅槃経) の偈にのたまはく、
或イハ復¬大経ノ¼偈ニ云ク、
^「*諸行は無常なり。 これ生滅の法なり。
▽生滅滅しをはりて、 寂滅なるを楽となす」 と。 以上
「諸行ハ無常ナリ | 是生滅ノ法ナリ |
生滅滅シ已リテ | 寂滅ナルヲ為スト↠楽ト」 已上 |
^▽*祇園寺の無常堂の四の隅に、 *頗梨の鐘あり。 鐘の音のなかにまたこの偈を説く。 病僧音を聞きて、 苦悩すなはち除こりて、 清涼の楽を得ること、 *三禅に入り浄土に生れなんとするがごとし。 いはんやまた、 ▽*雪山の大士、 全身を捨ててこの偈を得たり。
祇園寺ノ无常堂ノ四ノ*隅ニ有リ↢頗梨ノ鐘↡。鐘ノ音ノ中ニ亦説ク↢此ノ偈ヲ↡。病僧聞キテ↠音ヲ、苦悩即チ除コリテ得ルコト↢清涼ノ楽ヲ↡。如キ↧入リ↢三禅ニ↡*垂ルガ↞生レナムト↢浄土ニ↡、況ヤ復雪山ノ大士、捨テテ↢*於全身ヲ↡而得タリ↢此ノ偈ヲ↡。
^行者よく思念して、 これを忽爾にすることを得ざれ。 説のごとく観察して、 まさに*貪・瞋・痴等の惑業を離るること、 獅子の、 人を追ふがごとくにすべし。 外道の無益の苦行をなして、 痴ななる狗の、 塊を追ふがごとくすべからず。
行者善ク思念シテ、不レ↠得↣忽↢爾スルコトヲ之ヲ↡。如ク↠説ノ観察シテ、応ニ当シ↧離ルルコト↢貪・瞋・痴等ノ*或業ヲ↡、如クニス↦師子ノ追フガ↞人ヲ。不↠応ラ↧作シテ↢外道ノ無益ノ苦行ヲ↡、如クス↦痴ナル狗ノ追フガ↞塊ヲ。
^0850問ふ。 不浄・苦・無常、 その義了りやすし。 現に*法体あるをば見るに、 なんぞ説きて空となす。
問フ。不浄・苦・无常、其ノ義易シ↠了リ。現ニ見ルニ↠有ルヲバ↢法体↡、何ゾ説キテ為ル↠空ト。
^答ふ。 あに ¬経¼ (金剛経) に説かずや、 「△夢・幻・化のごとし」 と。 ゆゑに夢の境に例して、 まさに空の義を観ずべし。
答フ。豈ニ不ヤ↢¬経ニ¼説カ↡、「如シトハ↢夢・幻・化ノ↡。」故ニ例シテ↢夢ノ境ニ↡当ニシ↠観ズ↢空ノ義ヲ↡。
^¬西域の記¼ (*大唐西域記) にいふがごとし。 「^*婆羅痆斯国の*施鹿林の東、 行くこと二三里にして、 涸れたる池あり。 昔、 一の隠士ありて、 この池の側にして廬を結び迹を屏てて、 博く伎術を習ひ、 神理を究極して、 よく*瓦礫をして宝となし、 人畜をして形を易へしむ。 ただしいまだ風雲に馭りて*仙駕に陪することあたはず。 図を閲き、 古を考へて、 さらに仙術を求む。
如シ↢¬西域ノ記ニ¼云フガ↡。「*婆羅痆斯国ノ施鹿林ノ東ニ行キテ↢二三里ヲ↡、有リ↢涸レタル池↡。昔有リテ↢一ノ隠士↡、於テ↢此ノ池ノ側ニ↡結ビ↠蘆ヲ屏テテ↠迹ヲ、博ク習ヒ↢*伎術ヲ↡究メ↢極メテ神理ヲ↡、能ク使メ↢瓦礫ヲシテ為サ↟宝ト、人畜ヲシテ易ヘキ↠形ヲ。但シ未ダ↠能ハ↧馭リテ↢風雲ニ↡*倍スルコト↦仙*賀ニ↥。閲キ↠図ヲ考ヘテ↠古ヲ、更ニ求ム↢仙術ヲ↡。
^その方にいはく、 一の*烈士に命じて、 長き刀を執りて壇の隅に立ち、 息を屏て言を絶ちて、 昏より旦に逮ばしむ。 仙を求むるものは中壇に坐し、 手に長き刀を接り、 口に*神0851呪を誦し、 視を収め聴を反じて、 *遅明に仙に登ると。 つひに仙の方によりて一の烈士を求めて、 しばしば*重貽を加へ、 潜かに陰徳を行じき。
其ノ方ニ曰ク、命ジテ↢*一ノ烈士ニ↡、執リテ↢長キ刀ヲ↡立チテ↢*壇ノ隅ニ↡、屏テ↠息ヲ絶チテ↠言ヲ、自リ↠昏逮バシム↠旦ニ。求ムル↠仙ヲ者ハ中*壇ニ而モ坐シテ、手ニ接リ↢長キ刀ヲ↡、口ニ誦シ↢神呪ヲ↡、収メ↠視ヲ*反ジテ↠聴ヲ、遅明ニ登ルトイヘリ↠仙ニ。遂ニ依リテ↢仙ノ方ニ↡求メテ↢一ノ烈士ヲ↡、数バ加ヘ↢重貽ヲ↡、潜ニ行ジキ↢陰徳ヲ↡。
^隠士のいはく、 ª願はくは、 一夕、 声せざらんのみº と。 烈士のいはく、 ª死すらなほ辞せじ。 あにいたづらに息を屏てんをやº と。
隠士ノ曰ク、願クハ一夕不ラム↠声セ耳ト。烈士ノ曰ク、死ヌルコトヲダモ尚不↠辞セ。豈ニ徒ニ屏テムヲヤト↠息ヲ。
^ここにおいて壇場を設け、 仙の法を受け、 方によりて行事して、 坐して日の曛るるを待つ。 曛暮の後におのおのその務を司どる。 隠士は神呪を誦し、 烈士は銛刀を按ぜり。 ほとほとまさに暁けなんとするに、 たちまちに声を発して叫ぶ。
於テ↠是ニ設ケテ↢壇場ヲ↡、受ケテ↢仙ノ法ヲ↡、依リテ↠方ニ行事シテ、坐シテ待ツ↢日ノ曛ルルヲ↡。曛暮之後ニ各ノ司リテ↢其ノ務ヲ↡、隠士ハ誦シ↢神1045呪ヲ↡、烈士ハ按ゼリ↢*銛刀ヲ↡。殆ト将ニルニ↠暁ケナムト矣、忽ニ発シテ↠声ヲ叫フ。
^時に隠士問ひていはく、 ª子に声することなかれと誡めつ。 なにをもつてか驚き叫ぶº と。
時ニ隠士問ヒテ曰ク、誡メツ↠子ニ無レト↠声スルコト。何ヲ以テカ驚キ叫フト。
^烈士のいはく、 ª命を受けて後、 夜分に至るに、 *惛然として夢のごとくして、 変異さらに起れり。
烈士ノ曰ク、受ケテ↠命ヲ後至ルニ↢夜分ニ↡、惛然トシテ若クシテ↠夢ノ、変異更ニ起ル。
^見れば、 昔、 事へし主、 みづから来りて慰謝す。 厚恩を荷へることを感じて、 忍びて*報語せず。 かの人震怒して、 つひに殺害せられぬ。
見バ昔事ヘシ主躬ラ来リテ慰謝ス。感ジテ↠荷ヘルコトヲ↢厚恩ヲ↡、忍ビテ不↢報語セ↡。彼ノ人震怒トシテ、遂ニ見レヌ↢*殺害セ↡。
^*中陰の身を受けて、 屍を顧みて嘆惜す。 なほ願はくは、 世を歴とも言はずしてもつて厚徳を報ぜんと。
受ケテ↢中陰ノ身ヲ↡、顧テ↠屍ヲ嘆惜ス。猶願クハ*歴トモ↠世ヲ不シテ↠言ハ以テ報ゼムト↢厚徳ヲ↡。
^つひに見れば、 南印度の大婆羅門の家に託生す。 乃至、 胎を受け胎を出づるに、 つぶさに苦厄を経れども、 恩を荷ひ徳を荷ひてかつて声を出さず。
遂ニ見レバ*詫↢生シテ南印度ノ大婆羅門ノ家ニ↡、乃至受ケ↠胎ヲ出ヅルニ↠胎ヲ、備ニ経レドモ↢苦*厄ヲ↡、荷ヒ↠恩ヲ荷ヒテ↠徳ヲ嘗テ不↠出サ↠声ヲ。
^業を受け、 冠婚し、 親を喪ひ、 子をなすに洎ぶまで、 つねに前の恩を念ひて忍びて語らず。 *宗親戚属ことごとく見て怪異す。
*洎↢乎ニ受ケテ↠業ヲ冠シ婚シ喪ヒ↠親ヲ生スニ↟子ヲ、毎ニ念ジテ↢前ノ恩ヲ↡忍ビテ而不↠語セ。宗親戚属咸ク見テ怪異ス。
^年六十有五に過ぎて、 わが妻謂りていはく、 «なんぢ、 言ふべし。 もし語らずは、 まさになんぢが子を殺すべし» と。 われ時に*惟念すらく、 «すでに生世を隔つ。 みづから顧みるに、 衰老して、 ただこの*稚子のみありと。 よりてその妻を止めて、 殺害することなからしめん» と。 つひにこの声を発せるのみº と。
年過ギテ↢六十有五ニ↡、我ガ妻謂リテ曰ク、汝、可シ↠言フ矣。若シ不ハ↠語セ者当ニシト↠殺ス↢汝ガ子ヲ↡。我時ニ惟念スラク、已ニ隔ツ↢生世ヲ↡。自ラ顧ルニ衰老シタリ。唯シ*此ノ稚子ノミアリト。因リテ止メテ↢其ノ妻ヲ↡、令メムトシテ↠無カラ↢殺害スルコト↡。遂ニ発セルナラク↢此ノ声ヲ↡耳ト。
^隠士のいはく、 ªわが過なり。 これ魔の嬈ませるのみº と。 烈士、 恩0852を感じて、 事のならざるを悲しみて、 憤恚して死せり」 と。 以上略抄
隠士ノ曰ク、我ガ之過也。此魔ノ嬈スナラク耳ト。烈士、感ジテ↠恩ヲ悲ミテ↢事ノ不ルヲ↟成ラ、憤恚シテ而死スト。」 已上略抄
^夢の境、 かくのごとし。 諸法もまたしかなり。 妄想の夢、 いまだ覚めざれば、 空において、 いひて有となす。
夢ノ境如シ↠是クノ。諸法モ亦然ナリ。妄想ノ夢未ダレバ↠覚メ、於テ↠空ニ謂フテ為ス↠有ト。
^ゆゑに ¬*唯識論¼ (意) にいはく、 「いまだ真の覚を得ざるときは、 つねに夢のなかに処せり。 ゆゑに仏説きて、 生死の長夜となしたまふ」 と。
故ニ¬唯識論ニ¼云ク、「未ダシテハ↠得↢真ノ覚ヲ↡、常ニ処セリ↢夢ノ中ニ↡。故ニ仏説キテ為シタマフト↢生死ノ長夜ト↡。」
^問ふ。 もし無常・苦・空等の観をなさば、 あに小乗の*自調・自度に異ならんや。
問フ。若シ作サバ↢無常・苦・空等ノ観ヲ↡、豈ニ異ナラムヤ↢小乗ノ自調・自度ニ↡。
^答ふ。 この観は*小に局らず。 また通じて大乗にもあり。
答フ。此ノ観ハ不↠局ラ↠小ニ。亦通ジテ在リ↢大乗ニモ↡。
^¬法華¼ にのたまふがごとし。
如シ↢¬法華ニ¼云フガ↡。
^「大慈悲を室となす。 柔和忍辱は衣なり。
諸法の空を座となす。 ここに処してために法を説け」 と。 以上
「大慈悲ヲ為ス↠室ト | 柔和忍辱ハ衣ナリ |
諸法ノ空ヲ為ス↠座ト | 処シテ↠此ニ為ニ↢説ケト↠法ヲ↡」 已上 |
^諸法の空の観、 なほ大慈悲心を妨げず、 いかにいはんや苦・無常等は菩薩の悲願を催すをや。 このゆゑに ¬大般若¼ 等の経に、 *不浄等の観をもつてまた菩薩の法となす。 もし知らんと欲はば、 さらに経の文を読め。
諸法ノ空ノ観尚シ不↠妨セ↢大慈悲心ヲ↡、何ニ況ヤ苦・無常等ハ催スヲ↢菩薩ノ悲願ヲ↡*乎。是ノ故ニ¬大般若¼等ノ経ニ、以テ↢不1046浄等ノ*観ヲ↡亦為ス↢菩薩ノ法ト↡。若シ欲ハバ↠知ラムト者、更ニ読メ↢経ノ文ヲ↡。
^問ふ。 かくのごとき観念は、 なんの利益かある。
問フ。如キ↠是クノ観念ハ有ル↢何ノ利益カ↡。
^答ふ。 もしつねにかくのごとく心を*調伏すれば、 五欲微薄にして、 乃至、 臨終には正念にして乱れず、 悪処0853に堕ちざるなり。
答フ。若シ常ニ如クシテ↠是クノ調↢伏スレバ心ヲ↡者、五欲微薄ニシテ、乃至臨終ニハ正念ニシテ不シテ↠乱レ、不ルナリ↠堕チ↢悪処ニ↡。
^¬*大荘厳論¼ の勧進繋念の偈にいふがごとし。
如シ↢¬大荘厳論ノ¼勧進繋念ノ偈ニ云フガ↡。
^「▲盛年にして患ひなき時には、 *懈怠にして精進せず。
もろもろの*事務を貪営して、 *施と戒と禅とを修せず。
「盛年ニシテ無キ↠患ヘ時ニハ | 懈怠ニシテ不↢精進セ↡ |
貪↢営テ衆ノ事務ヲ↡ | 不↠修セ↢施ト・戒ト・禅トヲ↡ |
^死のために呑まるるに臨みて、 まさに悔いて善を修することを求む。
智者は観察して、 五欲の想を断除すべし。
臨ミテ↢為ニ↠死ノ所ルニ↟呑マ | 方ニ悔イテ求ム↠修セムコトヲ↠善ヲ |
智者ハ応シ↣観察シテ | 断↢除ス五欲ノ想ヲ↡ |
^*精勤習心のものは、 終時に悔恨なし。
心意すでに専至なれば、 錯乱の念あることなし。
精勤習心ノ者ハ | 終時ニ无シ↢悔恨↡ |
心意既ニ専ラニ至シテ | 無シ↠有ルコト↢錯乱ノ念↡ |
^智者はつとめて心を捉れば、 終りに臨みて意散ぜず。
習心専至ならざれば、 終りに臨みてかならず散乱す」 と。 以上
智者ハ勤↢*捉スレバ心ヲ↡ | 臨ミテ↠終ニ意不↠散ゼ |
不ルハ↢習心専ニ至ラ↡ | 臨ミテ↠終ニ必ズ散乱スト」 已上 |
^また ¬宝積経¼ の五十七の偈にのたまはく、
又¬宝積経ノ¼五十七ノ偈ニ*云ク、
^「この身を観ずべし。 筋脈たがひに*纏繞せり。
湿へる皮あひ裹み覆ひて、 *九の処に瘡門あり。
「応シ↠観ズ↢於此ノ身ヲ↡ | 筋脈更ニ纏繞セリ |
*湿ヘル皮相裹ミ覆ヒテ | 九ノ処ニ有リ↢瘡門↡ |
^周遍してつねに屎尿のもろもろの不浄を流溢せり。
たとへば舎と*篅とに、 もろもろの穀麦等を盛れるがごとく、
周遍シテ常ニ流↢溢セリ | 屎尿ノ諸ノ不浄ヲ↡ |
譬ヘバ如ク↣舎ト与ニ↠篅 | 盛レルガ↢諸ノ穀麦等ヲ↡ |
^この身もまたかくのごとし。 雑穢そのなかに満てり。
0854骨の機関を運動するに、 危脆にして堅実にあらず。
此ノ身モ亦如シ↠是クノ | 雑穢満テリ↢其ノ中ニ↡ |
運↢動シテ骨ノ機関ヲ↡ | 危脆ニシテ非ズ↢堅実ナラ↡ |
^愚夫はつねに愛楽すれども、 智者は*染着することなし。
洟・唾・汗つねに流れ、 膿血つねに充満せり。
愚夫ハ常ニ愛楽スレドモ | 智者ハ无シ↢染著スルコト↡ |
洟唾汗常ニ流レテ | 膿血恒ニ充満セリ |
^黄なる脂は乳汁に雑はり、 脳は髑髏のなかに満つ。
胸鬲には*痰癊流れ、 うちに生熟臓あり。
黄ナル脂ハ雑リテ↢乳汁ニ↡ | 脳ハ満チテ↢髑髏ノ中ニ↡ |
胸*鬲ヨリ痰癊流レ | 内ニ有リ↢生熟蔵↡ |
^肪膏と皮膜と、 五臓のもろもろの腹胃とあり。
かくのごとき臭爛等の、 もろもろの不浄と同じく居せり。
肪膏ト与↢皮膜↡ | 五蔵ノ諸ノ*腹胃トアリ |
如キ↠是クノ臭爛等ノ | 諸ノ不浄ト同ジク居セリ |
^罪の身は深く畏づべし。 これはすなはちこれ怨家なり。
無識耽欲の人は、 愚痴にしてつねに保ちて護れども、
罪ノ身ハ深ク可シ↠畏ヅ | 此ハ即チ是怨家ナリ |
無ク↠識ルコト耽欲ノ人ハ | 愚痴ニシテ常ニ保チテ護ル |
^かくのごとき臭穢の身は、 なほ朽ちたる城廓のごとし。
日夜に煩悩に逼められて、 遷流してしばらくも停まることなし。
如キ↠是クノ臭穢ノ身ハ | 猶如シ↢朽チタル城廓ノ↡ |
日夜ニ煩悩ニ逼メサレテ | 遷流シテ無シ↢蹔クモ停ルコト↡ |
^身の城、 骨の墻壁、 血肉をもつて塗泥となし、
画彩の*貪・瞋・痴、 処に随ひて枉飾せり。
身ノ城骨ノ牆壁ニハ | 血肉ヲモテ作セリ↢塗泥ト↡ |
画彩ノ貪・瞋・痴 | 随ヒテ↠処ニ而*枉飾セリ |
^悪むべし骨身の城、 血肉あひ連合し、
つねに*悪知識に内外の苦をもつてあひ煎ぜらる。
可↠悪ノ骨身ノ城ハ | 血肉相連合1047セリ |
常ニ被ル↢悪知識ヲ | 内外ノ苦ニ相ヒ煎セ↡ |
^0855*難陀、 なんぢまさに知るべし。 わが所説のごとく、
昼夜つねに*繋念して、 欲境を思ふことなかれ。
難陀汝当ニシ↠知ル | 如ク↢我ガ之所説ノ↡ |
昼夜常ニ繋念シテ | *勿レ↠思フコト↢於欲境ヲ↡ |
^もし遠離せんと欲はば、 つねにかくのごとき観をなし、
解脱の処を勤求せば、 すみやかに生死の海を超えん」 と。 以上
若シ欲ハバ↢遠離セムト↡者 | 常ニ作セ↢如キ↠是クノ観ヲ↡ |
勤↢求シテ解脱ノ処ヲ↡ | 速ニ超エヨト↢生死ノ海ヲ↡」 已上 |
^諸余の利益は ¬大論¼ (大智度論)・¬止観¼ 等を見るべし。
諸余ノ利益ハ可シ↠見ル↢¬大論¼・¬止観¼等ヲ↡。
二 Ⅱ 欣求浄土
ⅰ 叙意標章
【21】^大文第二に、 △欣求浄土といふは、 極楽の*依正は功徳無量なり。 百劫・千劫に説くとも尽すことあたはじ。 *算分・喩分もまた知るところにあらず。 しかも ¬*群疑論¼ には三十種の益を明かし、 ¬*安国の抄¼ には二十四の楽を摽せり。 すでに知りぬ。 称揚はただ人の心にあり。
大文第二ニ欣求浄土トイフ者、極楽ノ依正ハ功徳無量ナリ。百劫・千劫ニ説クトモ不↠能ハ↠尽スコト。算分・喩分モ亦非ズ↠所ニ↠知ル。然モ¬群疑論ニハ¼明シ↢三十種ノ益ヲ↡、¬安国ノ*抄ニハ¼摽セリ↢二十四ノ楽ヲ↡。既ニ知リヌ。称*楊ハ只在リ↢人ノ心ニ↡。
^▽いま十の楽を挙げて浄土を讃ずること、 なほ一毛をもつて大海を渧らすがごとし。 ▼一には▽聖衆来迎の楽、 二には▽蓮華初開の楽、 三には▽身相神通の楽、 四には▽五妙境界の楽、 五には▽快楽無退の楽、 六には▽引接結縁の楽、 七には▽聖衆倶会の楽、 八には▽見仏聞法の楽、 九には▽随心供仏の楽、 十には▽増進仏道の楽なり。
今挙ゲテ↢十ノ楽ヲ↡而シテ讃ズルコト↢浄土ヲ↡、猶如クセム↣一毛之渧ガ↢大海ヲ↡。一ニハ聖衆来迎ノ楽、二ニハ蓮華初開ノ楽、三ニハ身相神通ノ楽、四ニハ五妙境界ノ楽、五ニハ快楽无退ノ楽、六ニハ引接結縁ノ楽、七ニハ聖衆倶会ノ楽、八ニハ見仏聞法ノ楽、九ニハ随心供仏ノ楽、十ニハ増進仏道ノ楽也。
二 Ⅱ ⅱ 解釈十楽
a 聖衆来迎楽
【22】^第一に△*聖衆来迎の楽といふは、 おほよそ悪業の人は、 命尽くる時に、 *風・火先づ去る。 ゆゑに動熱して苦多し。 善行の人は、 命尽くる時に、 *地・水先0856づ去る。 ゆゑに緩慢として苦なし。 ^いかにいはんや念仏の功積り、 *運心年深きものは、 命終の時に臨みて大喜おのづから生ず。
第一ニ聖衆来迎ノ楽トイフ者、凡ソ悪業ノ人ハ命尽クル時ニ、風・火先ヅ去ル。故ニ動熱シテ多シ↠苦。善行ノ人ハ命尽クル時ニ、地・水先ヅ去ル。故ニ緩縵トシテ無シ↠苦。何ニ況ヤ念仏ノ功積リ、運心年深キ之者ハ、臨ミテ↢命終ノ時ニ↡大喜自ラ生ズ。
^しかる所以は、 弥陀如来、 *本願をもつてのゆゑに、 もろもろの菩薩、 百千の比丘衆と、 大光明を放ちて、 *皓然として目の前にまします。 時に*大悲観世音、 *百福荘厳の手を申べ、 宝の蓮台を擎げて行者の前に至りたまひ、 大勢至菩薩、 無量の聖衆と、 同時に讃嘆して手を授けて引接したまふ。
所↢以然ル↡者、弥陀如来以テノ↢本願ヲ↡故ニ、与↢諸ノ菩薩、百千ノ比丘衆↡、放チテ↢大光明ヲ↡、皓然トシテ在ス↢目ノ前ニ↡。時ニ大悲観*世音申ベテ↢百福荘厳ノ手ヲ↡、擎ゲテ↢宝ノ蓮台ヲ↡至リタマヒヌ↢行者ノ前ニ↡。大勢至菩薩与↢無量ノ聖衆↡、同時ニ讃嘆シテ授テ↠手ヲ引1048接シタマフ。
^この時に行者、 まのあたりみづからこれを見て、 心中に歓喜し、 身心安楽なること禅定に入るがごとし。
是ノ時ニ行者、目ニ自ラ見テ↠之ヲ心ノ中ニ歓喜ス。身心安楽ニシテ如シ↠入レルガ↢禅定ニ↡。
^まさに知るべし、 草菴に瞑目のあひだはすなはちこれ*蓮台結跏の程なり。 すなはち弥陀仏の後に従ひ、 菩薩衆のなかにありて、 一念のあひだに、 西方の極楽世界に生ずることを得。 ¬*観経¼・¬*平等覚経¼、 ならびに*伝記等の意による。
当ニシ↠知ル、草菴ニ瞑目之間ハ便チ是蓮台結跏之程ナリ。即チ従ヒ↢弥陀仏ノ後ニ↡、在リテ↢菩薩衆ノ中ニ↡、一念之*項ニ得↠生ズルコトヲ↢西方ノ極楽世界ニ↡。依ル↢¬観経¼・¬平等覚経¼并ニ伝記等ノ意ニ↡
^かの忉利天上の億千歳の楽も、 *大梵王宮の深禅定の楽も、 これらのもろもろの楽は、 いまだ楽となすに足らず。 *輪転無際にして三途を免れず。 しかもいま、 観音の掌に処し、 宝の蓮華胎に託して、 永く苦海を越過してはじめて浄土に往生しぬ。 その時の歓喜の心、 言をもつて宣ぶべからず。
彼ノ忉利天上ノ億千歳ノ楽モ、大梵王宮ノ深禅定ノ楽モ、此等ノ諸ノ楽ハ、未ダ↠足ラ↠為ルニ↠楽ト。輪転無際ニシテ不↠免レ↢三途ヲ↡。而モ今処シ↢観音ノ掌ニ↡、託シテ↢宝ノ蓮*花胎ニ↡、永ク*越↢過シテ苦海ヲ↡初テ往↢生シヌ浄土ニ↡。爾ノ時ノ歓喜ノ心、不↠可カラ↢以テ↠言ヲ宣ブ↡。
^龍樹の偈 (*易行品) にいはく、
龍樹ノ偈ニ云ク、
^「▲もし人、 命終の時に、 かの国に生るることを得るものは、
0857すなはち無量の徳を具す。 このゆゑにわれ帰命したてまつる」 と。
「若シ人命終ノ時ニ | 得ル↠生ルルコトヲ↢彼ノ国ニ↡者ハ |
即チ具ス↢无量ノ徳ヲ↡ | 是ノ故ニ我帰命シタテマツルト」 |
二 Ⅱ ⅱ b 蓮華初開楽
【23】^第二に△蓮華初開の楽といふは、 行者かの国に生じをはりて、 蓮華はじめて開くる時に、 あらゆる歓楽、 前に倍せること百千なり。 なほ*盲者の、 はじめて明眼を得たるがごとし。 また辺鄙のたみの、 たちまちに王宮に入れるがごとし。 みづからその身を見れば、 身はすでに紫磨金色の体となり、 また自然の宝衣ありて、 鐶・釧・宝冠、 荘厳無量なり。
*第二ニ*蓮華初テ開クル楽トイフ者、行者生ジ↢彼ノ国ニ↡已リテ、蓮花初テ開クル時ニ、所有ル歓楽倍セルコト↠前ニ百千ナリ。猶如シ↣盲者ノ始テ得タルガ↢明眼ヲ↡。亦ハ如シ↣辺鄙ノタミノ忽ニ入レルガ↢王宮ニ↡。自ラ見レバ↢其ノ身ヲ↡、身ハ既ニ作レリ↢紫磨金ノ色ニ↡。体ニ亦有リテ↢自然ノ宝衣↡、*鐶・釧・宝冠、荘厳无量ナリ。
^仏の光明を見て清浄の眼を得、 前の宿習によりてもろもろの法音を聞く。 色に触れ声に触れて、 奇妙ならずといふことなし。 *尽虚空界の荘厳は、 眼、 雲路に迷ひ、 *転妙法輪の音声は、 聴き、 *宝刹に満てり。 楼殿・林池は表裏照曜し、 鳧・雁・鴛鴦は遠近に群がり飛ぶ。
見テ↢仏ノ光明ヲ↡得↢清浄ノ眼ヲ↡、因リテ↢前ノ宿習ニ↡聞ク↢衆ノ法音ヲ↡。触レ↠色ニ触レテ↠声ニ无シ↠不トイフコト↢奇妙ナラ↡。尽虚空界之荘厳ハ眼迷ヒ↢雲路ニ↡、転妙法輪之音声ハ聴キ満テリ↢宝刹ニ↡。楼殿・林池ハ表裏照曜セリ。鳧カモ・雁カリ・鴛鴦ヲシハ遠近ニ群レ飛ブ。
^あるいは衆生の、 *駃き雨のごとくして十方世界より生ずるを見、 あるいは聖衆の、 恒沙のごとくして無数の仏土より来るを見る。
或イハ見ル↧衆生ノ如クシテ↢*駃キ雨ノ↡従リ↢十方世界↡生ズルヲ↥。或イハ見ル↧聖衆ノ如クシテ↢恒沙ノ↡従リ↢无数ノ仏土↡来ルヲ↥。
^あるいは楼台に登りて十方を望むものあり。 あるいは宮殿に乗りて虚空に住するものあり。 あるいは空中に住して経を誦し法を説くものあり。 あるいは空中に住して坐禅入定するものあり。 地の上、 林のあひだにも、 またかくのごとし。 処々にまた河を渉り流に濯ぎ、 楽を奏し華を散じ、 楼殿に往来して、 如来を*礼讃したてまつるものあり0858。
或イハ有リ↧登リテ↢楼台ニ↡望ム↢十方ヲ↡者↥。或イハ有リ↧乗ジテ↢宮殿ニ↡住スル↢虚空ニ↡者1049↥。或イハ有リ↧住シテ↢空ノ中ニ↡誦シ↠経ヲ説ク↠法ヲ者↥。或イハ有リ↧住シテ↢空ノ中ニ↡坐禅入定スル者↥。地ノ上、林ノ間ニモ亦復如シ↠是クノ。処々ニ復有リ↧渉リ↠河ヲ濯ミ↠流ヲ、奏シ↠楽ヲ散ジ↠花ヲ、往↢来シテ楼殿ニ↡、礼↢讃シタテマツル如来ヲ↡之者↥。
^かくのごとき無量の天・人聖衆、 心に随ひて遊戯す。 いはんや化仏・菩薩、 香雲・華雲、 国界に充満して、 つぶさに名づくべからず。
如キ↠是クノ无量ノ天人聖衆随ヒテ↠心ニ遊戯ス。況ヤ化仏・菩薩、香*雲・花雲充↢満シテ国界ニ↡、不↠可カラ↢具ニ名ク↡。
^またやうやく眸を回らしてはるかにもつて瞻望すれば、 弥陀如来は*金山王のごとくして宝蓮華の上に坐し、 宝池の中央に処したまへり。 観音・勢至は*威儀尊重にして、 また宝華に坐し、 仏の左右に侍らひたまふ。 無量の聖衆、 *恭敬し囲繞せり。
又漸ク廻シテ↠眸ヲ遥ニ以テ瞻望スレバ、弥陀如来ハ如クシテ↢金山王ノ↡坐シテ↢宝蓮花ノ上ニ↡、処シタマヘリ↢宝*池ノ中央ニ↡。観音・勢至ハ威儀尊重ニシテ、亦坐シテ↢宝花ニ↡、侍ヒタマフ↢仏ノ左右ニ↡。无量ノ聖衆恭敬シ囲繞セリ。
^また宝地の上に宝樹行列し、 宝樹の下におのおの一仏二菩薩ましまして、 光明をもつて*厳飾し、 *流璃の地に遍したまへること、 夜闇のなかに大きなる炬火を燃せるがごとし。
又宝*地ノ上ニ宝樹行列セリ。宝樹ノ下ニ各ノ有シテ↢一仏二菩薩↡、光明ヲモテ厳飾シテ、遍シタマヘルコト↢*流璃ノ地ニ↡、如シ↣夜闇ノ中ニ燃セルガ↢大ナル炬火ヲ↡。
^時に観音・勢至、 行者の前に来至して、 大悲の音を出して種々に慰喩したまふ。 行者、 蓮台より下りて五体を地に投げて、 頭面をもつて敬礼す。 すなはち菩薩に随ひて、 やうやく仏の所に至りぬ。 七宝の階に跪きて万徳の尊容を瞻り、 *一実の道を聞きて*普賢の願海に入る。 歓喜して涙を雨らし、 *渇仰して骨に徹る。
時ニ観音・勢至来↢至シテ行者ノ前ニ↡、出シテ↢大悲ノ音ヲ↡種々ニ慰喩シタマフ。行者従リ↢蓮台↡下リテ五体ヲ投ゲテ↠地ニ、頭面ニ敬礼ス。即チ従ヒテ↢菩薩ニ↡漸ク至リヌ↢仏ノ所ニ↡。跪キテ↢七宝ノ階ニ↡瞻リ↢万徳之尊容ヲ↡、聞キテ↢一実ノ道ヲ↡入ル↢普賢之願海ニ↡。歓喜シテ雨リ↠涙ヲ、渇仰シテ徹ス↠骨ヲ。
^はじめて仏界に入りて未曽有なることを得つ。 行者、 昔、 娑婆にしてわづかに教文を読みしも、 いままさしくこの事を見る。 歓喜の心いくばくぞや。 多く ¬観経¼ 等の意による。
始テ入リテ↢仏界ニ↡得ツ↠未ダルコトヲ↢曽ニモ有ラ↡。行者昔於娑婆ニシテ纔ニ読ミキ↢教文ヲ↡。今正シク見ル↢此ノ事ヲ↡。歓喜ノ心幾クゾ乎。多ク依ル↢¬観経¼等ノ意ニ↡
^龍樹の偈 (易行品) にいはく、
龍樹ノ偈ニ*云ク、
^「▲もし人、 善根を種ゑたるに、 疑へばすなはち華開けず。
0859信心清浄なるものは、 華開けてすなはち仏を見たてまつる」 と。
「若シ人種ヱテ↢善根ヲ↡ | 疑ヘバ則チ花不↠開ケ |
信心清浄ナル者ハ | 花開ケテ則チ見タテマツルト↠仏ヲ」 |
二 Ⅱ ⅱ c 身相神通楽
【24】^第三に△*身相神通の楽といふは、 かの土の衆生はその身真金の色なり。 内外ともに清浄にして、 つねに光明ありて彼此たがひに照らす。 三十二相具足して荘厳せり。 端正殊妙にして世間に比なし。 もろもろの声聞衆は、 身光*一尋なり。 菩薩の光明は百由旬を照らす。 あるいは十万由旬といふ。 *第六の天の主をもつてかの土の衆生に比ぶるに、 なほ*乞丐の、 帝王の辺にあらんがごとし。
第三ニ身相神通ノ楽トイフ者、彼ノ土ノ衆生ハ其ノ身真金ノ色ナリ。内外倶ニ清浄ニシテ、常ニ有リテ↢光明↡彼此互ニ照ス。卅二相具足シテ荘厳セリ。端正殊妙ニシテ世間ニ无シ↠比。諸ノ声聞衆ハ身光1050一尋ナリ。菩薩ノ光明ハ照ス↢百由旬ヲ↡。或イハ云フ↢十万由旬ト↡。以テ↢第六ノ天ノ主ヲ↡比ブルニ↢彼ノ土ノ衆生ニ↡、猶如シ↣乞丐ノ在ラムガ↢帝王ノ辺ニ↡。
^またかのもろもろの衆生は、 みな*五神通を具して、 *妙用測りがたくして、 心に随ひて自在なり。 もし十方界の色を見んと欲へば、 歩みを運ばずしてすなはち見、 十方界の声を聞かんと欲へば、 座を起たずしてすなはち聞く。 無量の*宿命の事は今日聞くところのごとく、 六道衆生の心はあきらかなる鏡に像を見るところのごとし。
又彼ノ諸ノ衆生ハ皆具セリ↢五*神通ヲ↡。妙用難ク↠測ニシテ、随ヒテ↠心ニ自在ナリ。若シ欲ヘバ↠見ムト↢十方界ノ色ヲ↡、不シテ↠運バ↠歩ヲ即チ見ル。欲ヘバ↠聞カムト↢十方界ノ声ヲ↡、不シテ↠起タ↠座ヲ即チ聞ク。無量ノ宿命之事ハ如シ↢今日所ノ↟聞ク。六道衆生之心ハ如シ↢明ナル鏡ニ*所ノ↟見ル↠像ヲ。
^*無央数の仏刹に*只尺のごとく往来し、 おほよそ横に百千万億那由他の国において、 竪に百千万億那由他の劫において、 一念のうちに*自在無礙なり。
无央数之仏刹ハ如シ↢*只尺ノ往来ノ↡。凡ソ横ニ於テ↢百千万億那由他ノ国ニ↡、竪ニ於テ↢百千万億那由他ノ劫ニ↡、一念之中ニ自在無礙ナリ。
^いま*この界の衆生は、 三十二相において、 たれか一相をも得たる、 五神通においてたれか一通をも得たる。 灯・日にあらずはもつて照らすことなく、 行歩にあらずはもつて至ることなし。 一紙なりといへどもそのほかを見ず。 一念0860なりといへどもその後を知らず。 *燓篭いまだ出でずして、 事に随ひて礙あり。
今此ノ界ノ衆生ハ於テ↢卅二相ニ↡誰カ得タル↢一相ヲモ↡。於テ↢五神通ニ↡誰カ得タル↢一通ヲモ↡。非ズハ↢灯日ニ↡无シ↢以テ照スコト↡。非ズハ↢行歩ニ↡无シ↢以テ至ルコト↡。雖モ↢一紙ナリト↡不↠見↢其ノ外ヲ↡。雖モ↢一念ナリト↡不↠知ラ↢其ノ後ヲ↡。*燓篭未ダシテ↠出デ、随ヒテ↠事ニ有リ↠礙。
^しかるをかの土の衆生は、 一人もこの徳を具せずといふことあることなし。 百大劫のうちにおいて相好の業をも種ゑず。 *四静慮のうちにおいて神通の因をも修せざれども、 ただこれかの土の*任運生得の果報なり。 また楽しからざらんや。 多く ¬*双巻経¼ (大経)・¬平等覚経¼ 等による。
而ルヲ彼ノ土ノ衆生ハ無シ↠有ルコト↢一人モ不トイフコト↟具セ↢此ノ徳ヲ↡。不↧於テ↢百大劫ノ中ニ↡而種エ↦相好ノ業ヲモ↥。不レドモ↧於テ↢四静慮ノ*中ニ↡修セ↦神通ノ因ヲモ↥。只是彼ノ土ノ任運生得之果報ナリ。不ラム↢亦楽シカラ↡*乎。多ク依ル↢¬双巻経¼・¬平等覚経¼等ニ↡
^龍樹の偈 (易行品) にいはく、
龍樹ノ偈ニ云ク、
^「▲人天の身相同じくして、 なほ金山の頂のごとし。
諸勝の所帰の処なり。 このゆゑに頭面をもつて礼す。
「人天ノ身相同ジクシテ | 猶如シ↢金山ノ頂ノ↡ |
諸ノ勝レタルヒトノ所帰ノ処ナリ | 是ノ故ニ頭面ニ礼ス |
^◆それかの国に生るることあるは、 天眼耳通を具して、
十方ならびに無礙なり。 聖中の尊を稽首したてまつる。
其レ有ルハ↠生ルルコト↢彼ノ国ニ↡ | 具シテ↢天眼耳通ヲ↡ |
十方*並ニ無礙ナリ | 稽↢首シタテマツル聖中ノ尊ヲ↡ |
^◆その国のもろもろの衆生は、 神変および心の通あり。
また宿命智を具せり。 このゆゑに帰命し礼したてまつる」 と。
其ノ国ノ諸ノ衆生ハ | 神変及ビ*身ノ通アリ |
亦具セリ↢宿命智ヲ↡ | 是ノ故ニ帰命シテ礼マツルト」 |
二 Ⅱ ⅱ d 五妙境界楽
【25】^第四に△*五妙境界の楽といふは、 四十八の願をもつて浄土を荘厳したまへば、 一切の万物、 美を窮め極妙なり。 見るところはことごとくこれ浄妙の色にして、 聞くところは解脱の声にあらずといふことなし。 香・味・触の境、 またかくのごとし。
第四ニ五妙境界ノ楽トイフ者、八ノ願ヲモテ荘厳ノ↢浄*土↡、一切ノ万物窮メ↠美ヲ極妙ナリ。所ハ↠見ル悉1051ク是浄妙ノ色ナリ。所ハ↠聞ク無シ↠不ズトイフコト↢解脱ノ声ニ↡。香・味・触ノ境、亦復如シ↠是クノ。
・地相
^いはく、 かの世界は琉璃をもつて地となして、 金縄その道を0861界へり。 *坦然平正にして高下あることなく、 *恢廓曠蕩にして辺際あることなし。 *晃耀微妙にして奇麗清浄なり。 もろもろの妙衣をもつてあまねくその地に布き、 一切の天・人、 これを践みて行く。 以上、 地相。
謂ク彼ノ世界ハ以テ↢*琉璃ヲ↡為シテ↠地ト、金縄界ヘリ↢其ノ道ヲ↡。*坦然平正ニシテ無シ↠有ルコト↢高下↡。*恢廓曠蕩ニシテ無シ↠有ルコト↢辺際↡。晃耀微妙ニシテ奇麗清浄ナリ。以テ↢諸ノ妙衣ヲ↡遍ク布ケリ↢其ノ地ニ↡。一切ノ*天人践ミテ↠之ヲ而行ク。已上地相
・宮殿
^衆宝の国土の一々の界の上に、 五百億の七宝所成の宮殿・*楼閣あり。 高下、 心に随ひ、 広狭、 念に応ず。 もろもろの宝の床座には妙衣をもつて上に敷き、 七重の*欄楯、 百億の*華幢ありて、 珠の瓔珞を垂れ、 宝の*幡蓋を懸けたり。 殿のうち、 楼の上には、 もろもろの天人ありて、 つねに*伎楽をなして、 如来を歌詠したてまつる。 以上、 宮殿。
衆宝ノ国土ノ一々ノ界ノ上ニ、有リ↢五百億ノ七宝所成ノ宮殿楼閣↡。高下随ヒ↠心ニ、広狭応ズ↠念ニ。諸ノ宝ノ床座ニハ妙衣ヲモテ敷ケリ↠上ニ。七重ノ欄楯、百億ノ花幢アリテ。垂レ↢珠ノ瓔珞ヲ↡、懸ケタリ↢宝ノ幡蓋ヲ↡。殿ノ裏、楼ノ上ニハ、有リテ↢諸ノ天人↡常ニ作リテ↢*伎楽ヲ↡、歌↢*詠シタテマツル如来ヲ↡。已上宮殿
・水相
^講堂・精舎・宮殿・楼閣の内外左右にもろもろの浴池あり。 黄金の池の底には白銀の沙あり。 白銀の池の底には黄金の沙あり。 水精の池の底には瑠璃の沙あり。 瑠璃の池の底には水精の沙あり。 珊瑚・*虎魄・*車・*馬瑙・白玉・*紫金、 またかくのごとし。 ↓八功徳の水、 そのなかに充満し、 宝沙映徹して、 深く照らさずといふことなし。
講堂・精舎・宮殿・楼閣ノ内外左右ニ有リ↢諸ノ浴池↡。黄金ノ池ノ底ニハ白銀ノ沙アリ。白銀ノ池ノ底ニハ黄金ノ沙アリ。水精ノ池ノ底ニハ*瑠璃ノ沙アリ。*瑠璃ノ池ノ底ニハ水精ノ沙アリ。珊瑚・*虎魄・*車*・*馬瑙・白玉・紫金、亦復如シ↠是クノ。八功徳ノ水充↢満セリ其ノ中ニ↡。宝沙映徹シテ無シ↢深ク不トイフコト↟照サ。
^「↑八功徳」 とは、 一には澄浄、 二には清冷、 三には甘美、 四には軽軟、 五には潤沢、 六には安和、 七には飲時に飢渇等無量の過患を除き、 八には飲みをはりて、 さだめてよく諸根・四大を長養し、 種々の殊勝の善根を増益するなり。 ▲¬*称讃浄土経¼ に出づ。
八功徳ト者、一ニハ澄*浄、二ニハ清冷、三ニハ甘美、四ニハ軽軟、五ニハ潤沢、六ニハ安和、七ニハ飲時ニ除ク↢飢渇等无量ノ過患ヲ↡、八ニハ飲ミ已リテ、定メテ能ク長↢養シ諸根・四大ヲ↡、増↢益スルナリ種々ノ殊勝ノ善根ヲ↡。*出ヅ↢¬称*讃浄土*経ニ¼
^四辺の*階道は衆宝をもつて合成し、 種々の宝華は池のな0862かに弥覆せり。 青蓮には青光あり。 黄蓮には黄光あり。 赤蓮・白蓮もおのおのその光あり。 微風吹き来りて、 華の光乱転す。 一々の華のなかにおのおの菩薩あり。 一々の光のなかにもろもろの化仏まします。 *微瀾、 回流してうたたあひ潅ぎ注ぐ。 *安詳としてやうやく逝きて、 遅からず疾からず。
四辺ノ階道ハ衆宝ヲモテ合成セリ。種々ノ宝花ハ弥↢覆セリ池ノ中ニ↡。青蓮ニハ有リ↢青キ光↡。黄蓮ニハ有リ↢黄光↡。赤蓮・白蓮モ各ノ有リ↢其ノ光↡。微風吹キ来リテ、花ノ光乱転ス。一々ノ花ノ中ニ各ノ有リ↢菩薩↡。一々ノ光ノ中ニ有ス↢諸ノ化仏↡。微瀾廻流シテ転タ相潅ギ注グ。安詳トシテ徐ク逝キテ、不↠遅カラ不↠疾カラ。
^その声微妙にして仏法にあらずといふことなし。 あるいは苦・空・無我、 もろもろの波羅蜜を演説し、 あるいは十力・無畏・*不共の法音を流出す。 あるいは大慈悲の声、 あるいは無生忍の声あり。 その所聞に随ひて歓喜すること無量なり。 清浄・寂滅・真実の義に随順し、 菩薩・声聞所行の道に随順せり。
其ノ声微妙ニシテ無シ↠不ズトイフコト↢仏法ニ↡。或イハ演↢説ス苦・空・无我・諸ノ波羅蜜ヲ↡。或イハ流↢出ス十力・无畏・不共ノ法音ヲ↡。或イハ大*慈悲ノ声、或イハ无1052生忍ノ声アリ。随ヒテ↢其ノ所聞ニ↡歓喜スルコト无量ナリ。随↢順シ清浄・寂滅・真実之義ニ↡、随↢順セリ菩薩・声聞所行之道ニ↡。
^また、 鳧・雁・鴛鴦・鶖・鷺・鵝・鶴・孔雀・鸚鵡・*伽陵頻迦等の百宝色の鳥、 *昼夜六時に*和雅の音を出して、 念仏・念法・念比丘僧を讃嘆し、 *五根・五力・七菩提分を*演暢す。 三塗苦難の名あることなくして、 ただ自然快楽の音のみあり。
又鳧・雁・鴛鴦・ 鶖カシドリ・ 鷺シラサギ・鵝・鶴ツル・孔雀・鸚鵡・伽陵頻迦等ノ百宝色ノ鳥、昼夜六時ニ出シテ↢和雅ノ音ヲ↡、讃↢嘆シ念仏・念法・念比丘僧ヲ↡、演↢暢ス五根・五力・七菩提分ヲ↡。無クシテ↠有ルコト↢三途苦難之名↡、但有リ↢自然快楽之音ノミ↡。
^かのもろもろの菩薩および声聞衆、 宝池に入りて洗浴する時は、 浅深、 念に随ひ、 その心に違はず。 *心垢を*蕩除して、 清明澄潔なり。
彼ノ諸ノ菩薩及ビ声聞衆、入リテ↢於宝池ニ↡洗浴スル之時ニ、浅深随ヒテ↠念ニ不↠違ハ↢其ノ心ニ↡。蕩↢除シテ心垢ヲ↡、清明澄潔ナリ。
^洗浴しをはれば、 おのおのみづから去りて、 あるいは空中にあり、 あるいは樹下にありて、 経を講じ経を誦するものあり、 経を受け経を聴くものあり、 坐禅するものあり、 *経行するものあ0863り。
洗浴シ已訖レバ、各々自ラ去リテ、或イハ在リ↢空ノ中ニ↡、或イハ在リテ↢樹ノ下ニ↡有リ↢講ジ↠経ヲ誦スル↠経ヲ者↡。有リ↢受ケ↠経ヲ聴ク↠経ヲ者↡。有リ↢坐禅スル者↡。有リ↢経行スル者↡。
^そのなかに、 いまだ須陀洹を得ざるものはすなはち須陀洹を得、 乃至、 いまだ阿羅漢を得ざるものは阿羅漢を得、 いまだ阿惟越致を得ざるものはすなはち阿惟越致を得。 みなことごとく道を得て歓喜せずといふことなし。
其ノ中ニ*未ダル↠得↢須陀洹ヲ↡者ハ則チ得↢須陀洹ヲ↡。乃至未ダル↠得↢阿羅漢ヲ↡者ハ得↢阿羅漢ヲ↡。未ダル↠得↢阿惟越致ヲ↡者ハ*則チ得↢阿惟越致ヲ↡。皆悉ク得テ↠道ヲ莫シ↠不トイフコト↢歓喜セ↡。
^また清き河あり。 底に金沙を布き、 浅深寒温、 つぶさに人の好みに従へり。 衆人、 遊覧して、 同じく河浜に萃まる。 以上、 水相。
復有リ↢清キ河↡。底ニ布ケリ↢金沙ヲ↡。浅深寒温、曲ニ*直従ヘリ↢人ノ好ニ↡。衆人遊覧シテ同ジク萃ル↢河浜ニ↡。已上水相
・樹相
^池の畔、 河の岸に、 *栴檀の樹あり。 行々あひ当り、 葉々あひ次げり。 紫金の葉、 白銀の枝、 珊瑚の華、 車の実あり。 一宝・七宝、 あるいは純、 あるいは雑の、 枝・葉・華・菓、 荘厳し*映飾せり。
池ノ畔河ノ岸ニ有リ↢*旃檀ノ樹↡。行々相当リ、葉々相次ゲリ。紫金之葉、白銀之枝、珊瑚之花、車*之実アリ。一宝・七宝、或イハ純或イハ雑ノ、枝葉花菓荘厳シ映飾セリ。
^和らかなる風、 時に来りてもろもろの宝樹を吹くに、 *羅網微し動じて妙華やうやく落つ。 風に随ひて馥を散じ、 水に雑はりて芬りを流す。 いはんや微妙の音を出して*宮商あひ和せること、 たとへば百千種の楽を同時にともになすがごとし。 聞くもの、 自然に*仏法僧を念ず。 かの第六天の万種の音楽も、 この樹の一種の音声にはしかず。
和カナル風時ニ来リテ吹クニ↢諸ノ宝樹ヲ↡、羅網微シ*動ジテ妙花徐ク落ツ。随ヒテ↠風ニ散ジ↠馥シ。雑リテ↠水ニ流ス↠芬ヲ。況ヤ出シテ↢微妙ノ音ヲ↡宮商相和セルコト、譬ヘバ如シ↢百千種ノ楽ヲ同時ニ倶ニ作セルガ↡。聞ク者自然ニ念ズ↢仏・法・僧ヲ↡。彼ノ第六天ノ万種ノ音楽モ、不↠如カ↢此ノ樹1053ノ一種ノ音声ニハ↡。
^葉のあひだに華を生じ、 華の上に菓あり。 みな光明を放ちて、 化して*宝蓋となる。 一切の*仏事、 蓋のなかに映現す。 乃至、 十方の厳浄の仏土を見んと欲へば、 宝樹のあひだにおいて、 みなことごとく照見す。 樹の上に七重の*宝網あり。 宝網のあひだに五百億の妙華の宮殿あり。 宮殿のなか0864に諸天の童子あり。 瓔珞光耀して自在に遊楽す。
葉ノ間ニ生ゼリ↠花ヲ。花ノ上ニ有リ↠菓。皆放チテ↢光明ヲ↡化シテ為ル↢宝蓋ト↡。一切ノ仏事映↢現ス蓋ノ中ニ↡。乃至欲ヘバ↠見ムト↢十方ノ厳浄ノ仏土ヲ↡、於テ↢宝樹ノ間ニ↡皆悉ク照見ス。樹ノ上ニ有リ↢七重ノ宝網↡。宝網ノ間ニ有リ↢五百億ノ妙花ノ宮殿↡。宮殿ノ中ニ有リ↢諸天ノ童子↡。瓔珞光耀シテ自在ニ遊楽ス。
^かくのごとく七宝のもろもろの樹、 世界に周遍せり。 名華・軟草また処に随ひてあり、 柔軟・香潔にして、 触るるもの楽をなす。 以上、 樹相。
如ク↠是クノ七宝ノ諸ノ樹周↢遍セリ世界ニ↡。名花軟草亦随ヒテ↠処ニ有リ。柔軟・香潔ニシテ触ルル者生ス↠楽ヲ。已上樹*相
・虚空
^衆宝の羅網、 虚空に弥満して、 もろもろの宝鈴を懸けて、 妙法の音を宣ぶ。 天華妙色は繽粉として乱れ墜ち、 宝衣・*厳具は旋転して来下す。 鳥の、 空を飛びて下るがごとくして、 諸仏に供散したてまつる。 また無量の楽器ありて虚空に懸処せり。 鼓たざるにおのづから鳴りて、 みな妙法を説く。 以上、 虚空。
衆宝ノ羅網弥↢満セリ虚空ニ↡。懸ケテ↢諸ノ宝鈴ヲ↡宣ブ↢妙法ノ音ヲ↡。天花妙色ハ繽紛トシテ乱レ墜ツ。宝衣・厳具ハ旋転シテ来下ス。如クシテ↢鳥ノ飛テ↠空ヲ下ルガ↡供↢散シタテマツル於諸仏ニ↡。又有リテ↢無量ノ楽器↡懸↢処セリ虚空ニ↡。不ルニ↠鼓タ自ラ鳴リテ、皆説ク↢妙法ヲ↡。已上虚空
^また如意の妙香・*塗香・*末香、 無量の香、 *芬馥として、 世界に遍満せり。 もし聞ぐことあるものは、 塵労垢習、 自然に起らず。 おほよそ地より空に至るまで、 宮殿・華樹、 一切の万物は、 みな無量の雑宝、 百千種の香をもつて、 ともに合成せり。 その香り、 あまねく十方世界に薫ず。 菩薩、 聞ぐものみな仏の行を修す。
復如意ノ妙香・塗香・*末香、無量ノ香芬馥トシテ、遍↢満セリ於世界ニ↡。若シ有ル↠聞グコト者ハ、塵労垢習、自然ニ不↠起ラ。凡ソ自リ↠地至ルマデニ↠空ニ、宮殿・花樹、一切ノ万物ハ、皆以テ↢無量ノ雑宝、百千種ノ香ヲ↡而共ニ合成セリ。其ノ香普ク薫ズ↢十方世界ニ↡。菩薩ノ聞グ者皆修ス↢仏ノ行ヲ↡。
^またかの国の菩薩・羅漢、 もろもろの衆生等、 もし食せんと欲する時には、 七宝の机、 自然に現前し、 七宝の鉢には妙なる味はひ、 なかに満てり。 世間の味はひに類せず、 また天上の味はひにあらず。 香味なること比なくして、 *甜酢、 意に随ふ。 色を見、 香りを聞ぐに、 身心清潔なり。 すなはち食しをはるに同じくして、 *色力増長す。 事已れば化し去り、 時至0865ればまた現ず。
復彼ノ国ノ菩薩・羅漢・諸ノ衆生等、若シ欲スル↠食セムト時ニハ、七宝之机自然ニ現前シテ、七宝之鉢ニハ妙ナル味満テリ↠中ニ。不↠類セ↢世間之味ニ↡、亦非ズ↢天上之味ニ↡。香*味ナルコト無クシテ↠比、甜アマサ酢スサ随フ↠意ニ。見↠色ヲ聞グニ↠香ヲ、身心清潔ナリ。即チ同ジクシテ↢食シ已ルニ↡、色力増長ス。事已レバ化シテ去リヌ。時至レバ復現ズ。
^またかの土の衆生は、 衣服を得んと欲へば、 念に随ひてすなはち至る。 仏の所讃のごとき*法に応ぜる妙服、 自然に身にあり。 裁縫・染治・浣濯を求めず。
*復彼ノ土ノ衆生ハ、欲ヘバ↠得ムト↢衣服ヲ↡随ヒテ↠念ニ即チ至ル。如キ↢仏ノ所讃ノ↡応ゼル↠法ニ妙服、自然ニ在リ↠身ニ。不↠求メ↢裁タチ縫ヌヒ・染ソメ 治ツクロヒ・浣1054スヽギ 濯ヲ↡アラフコト。
^また光明周遍して日・月・灯燭を用ゐず。 冷暖調和して、 春秋冬夏あることなし。 自然の徳風は温冷調適し、 衆生の身に触るるに、 みな快楽を得ること、 たとへば比丘の、 *滅尽三昧を得たるがごとし。
又光明周遍シテ不↠用ヰ↢日月・灯燭ヲ↡。冷暖調和ニシテ、无シ↠有ルコト↢春秋冬夏↡。自然ノ徳風ハ、温冷調適セリ。触ルルニ↢衆生ノ身ニ↡皆得ルコト↢快楽ヲ↡。譬ヘバ如シ↣比丘ノ得タルガ↢滅尽三昧ヲ↡。
^毎日の*晨朝に、 妙華を吹散して、 仏土に遍満し、 *馨香芬烈して、 微妙柔軟なること*兜羅綿のごとし。 足をもつてその上を履むに、 蹈み下ること四寸、 随ひて足を挙げをはりぬれば、 また復すること故のごとし。 晨朝を過ぎをはれば、 その華地に没す。 旧き華すでに没しぬれば、 さらに新しき華を雨らす。 *中時・晡時、 初・中・後夜、 またかくのごとし。
毎日ノ晨朝ニ吹↢散シテ妙花ヲ↡、遍↢満ス仏土ニ↡。馨香芬烈シテ微妙柔軟ナルコト如シ↢兜羅綿ノ↡。足ヲモテ履ムニ↢其ノ上ヲ↡、蹈ミ下スコト四寸、随ヒテ挙ゲ↠足ヲ已リヌレバ、還復スルコト如シ↠故ノ。過ギ↢晨朝ヲ↡已レバ、其ノ花没ス↠地ニ。旧キ花既ニ没シヌレバ、更ニ雨ル↢新シキ花ヲ↡。中時・晡時、初・中・後夜、亦復如シ↠是クノ。
^これらのあらゆる微妙の五境、 見聞覚者をして身心適悦せしむといへども、 しかも有情の貪着を増長せず、 さらに無量の殊勝の功徳を増す。 おほよそ八方上下の無央数の諸仏の国のなかに、 極楽世界の所有の功徳もつとも第一たり。 二百一十億の諸仏の浄土の厳浄なる妙事をもつて、 みなこのなかに摂在せり。
此等ノ所有ノ微妙ノ五境、雖モ↠令ムト↢見聞覚者ヲシテ身心適悦セ↡、而モ不↣増↢長セ有情ノ貪著ヲ↡。更ニ増ス↢无量ノ殊勝ノ功徳ヲ↡。凡ソ八方上下ノ无央数ノ諸仏ノ国ノ中ニ、極楽世界ノ所有ノ功徳最モ為リ↢第一↡。以テ↢二百一十億ノ諸仏ノ浄土ノ厳浄ナル妙事ヲ↡、皆摂↢在セリ此ノ中ニ↡。
^もしかくのごとき国土の相を観ずるものは、 無量億劫の極重の悪業を除きて、 命終の後にかならずかの国に生る。
*若シ観ズル↢如キ↠是クノ国土ノ相ヲ↡者ハ、除キテ↢无量億劫ノ極重ノ悪業ヲ↡、命終之後ニ必ズ生ル↢彼ノ国ニ↡。
^*二種の ¬観0866経¼・¬*阿弥陀経¼・¬称讃浄土経¼・¬宝積経¼・¬平等覚経¼・¬*思惟経¼ 等の意によりて、 これを記す。
依リテ↢二種ノ¬観経¼・¬阿弥陀経¼・¬称讃浄土経¼・¬宝積経¼・¬平等覚経¼・¬思惟経¼等ノ意ニ↡記ス↠之ヲ
^世親の偈 (*浄土論) にいはく、
世親ノ偈ニ云ク、
^「▲かの世界の相を観ずるに、 三界の道に勝過せり。
◆究竟して虚空のごとし。 広大にして辺際なし。
「観ズルニ↢彼ノ世界ノ相ヲ↡ | 勝↢過セリ三界ノ道ニ↡ |
究竟シテ如シ↢虚空ノ↡ | 広大ニシテ无シ↢辺際↡ |
^▲宝華千万種にして、 池・流・泉に弥覆せり。
微風華葉を動かすに、 交錯して光乱転す。
宝花千万種ニシテ | 弥↢覆セリ池流泉ニ↡ |
微風動スニ↢花葉ヲ↡ | 交錯シテ光乱転ス |
^◆宮殿・もろもろの楼閣にして、 十方を観ること無礙なり。
雑樹に異の光色あり。 宝欄あまねく囲繞せり。
宮殿ノ諸ノ楼閣ハ | 観ルニ↢十方ヲ↡无礙ナリ |
雑樹ハ異ノ光色アリ | 宝欄遍ク囲繞セリ |
^◆無量の宝交絡して、 羅網虚空にあまねし。
種々の鈴響きを発して、 妙法の音を宣べ吐く。
无量ノ宝ノ絞絡セル | 羅網遍セリ↢虚空ニ↡ |
種々ノ鈴発シテ↠響ヲ | 宣ベ↢吐ク妙法ノ音ヲ↡ |
^▲衆生の願楽するところ、 一切みな満足す。
◆ゆゑにわれかの阿弥陀仏の国に生れんと願ず」 と。
衆生ノ所↢願楽スル↡ | 一切皆満足ス |
故ニ我願ズト↠生レムト↢彼ノ | 阿弥陀仏ノ国ニ↡」 |
二 Ⅱ ⅱ e 快楽無退楽
【26】^第五に△*快楽無退の楽といふは、 いまこの娑婆世界は耽玩すべきことなし。 輪王 (転輪聖王) の位も*七宝久しからず。 天上の楽も五衰早く来る。 乃至、 有頂も輪廻、 期なし。 いはんや余の世人をや。 事と願と違ひ、 楽と苦とともなり。 富め0867るものは、 いまだかならずしも寿あらず。 寿あるものは、 いまだかならずしも富まず。 あるいは昨は富みて、 今は貧し。 あるいは朝には生れて、 暮には死ぬ。
第1055五ニ快楽無退ノ楽トイフ者、今此ノ娑婆世界ハ无シ↠可キコト↢耽玩ス↡。輪王之位モ七宝不↠久シカラ。天上之楽モ五衰早ク来ル。乃至有*頂モ輪廻無シ↠期。況ヤ余ノ世人ヲ乎。事ト与↠願違ヒ、楽ト与↠苦倶ナリ。富メル者ハ未ダ↢必ズシモ寿アラ↡。寿アル者ハ未ダ↢必ズシモ富マ↡。或イハ昨ハ富ミテ今ハ貧シ。或イハ朝ニハ生レテ暮ニハ死ヌ。
^ゆゑに*経にのたまはく、 「出息は入息を待たず、 入息は出息を待たず。 ただ眼の前に楽しみ去りて哀しみ来るのみにあらず。 また命終に臨みて、 罪に随ひて苦に堕つ」 と。
故ニ¬経ニ¼言ク、「出息ハ不↠待タ↢入息ヲ↡、入息ハ不レト↠待タ↢出息ヲ↡。非ズ↢唯眼ノ前ニ楽シビ去リテ哀シビ来ルノミニ↡。亦臨ミテ↢命終ニ↡随ヒテ↠罪ニ堕ツト↠苦ニ。」
^かの西方世界は、 楽を受くること無窮なり。
彼ノ西方世界ハ受クルコト↠楽ヲ无窮ナリ。
^人天交接して、 両ながらあひ見ることを得。 慈悲、 心に薫じて、 たがひに一子のごとし。 ともに琉璃の地の上に経行し、 同じく栴檀の林のあひだに遊戯す。 宮殿より宮殿に至り、 林池より林池に至る。
人天交接シテ両ナガラ得↢相見ルコトヲ↡。慈悲薫ジテ↠心ニ、互ニ如シ↢一子ノ↡。共ニ経↢行シ於*琉璃ノ地ノ上ニ↡、同ジク遊↢戯ス於*栴檀ノ林ノ間ニ↡。従リ↢宮殿↡至リ↢宮殿ニ↡、従リ↢林池↡至ル↢林池ニ↡。
^もし寂ならんと欲する時には、 風浪、 絃管、 おのづから耳の下を隔つ。 もし見んと欲する時には、 山・川・渓・谷、 なほ眼の前に現ず。 香・味・触・法、 念に随ひてまたしかなり。
若シ欲スル↠寂ナラムト時ニハ、風・浪・絃コト・*管フエ、自ラ隔ツ↢耳ノ下ニ↡。若シ欲スル↠見ムト時ニハ、山・川・渓・谷尚現ズ↢眼ノ前ニ↡。香・味・触・法、随ヒテ↠念ニ亦然ナリ。
^あるいは*飛梯を渡りて伎楽をなし、 あるいは虚空に騰りて神通を現ず。 あるいは*他方の大士に従ひて迎送し、 あるいは天・人聖衆に伴ひてもつて遊覧す。
或イハ渡リテ↢飛梯ヲ↡作リ↢伎楽ヲ↡、或イハ騰リテ↢虚空ニ↡現ズ↢神通ヲ↡。或イハ従ヒテ↢他方ノ大士ニ↡而迎送シ、或イハ伴ヒテ↢天人聖衆ニ↡以テ遊覧ス。
^あるいは宝池の辺に至りて、 *新生の人を慰問す。 「なんぢ知るやいなや。 この処を極楽世界と名づけ、 この界の主を弥陀仏と号したてまつる。 いままさに帰依すべし」 と。
或イハ至リテ↢宝池ノ辺ニ↡、慰↢問ス新生ノ人ヲ↡。汝知ルヤ不ヤ。是ノ処ヲバ名ク↢極楽世界ト↡。是ノ界ノ主ヲバ号シタテマツル↢弥陀仏ト↡。今当ニシト↢帰依ス↡。
^あるいは同じく宝池のなかにありて、 おのおの蓮台の上に坐して、 たがひに宿命の事を0868説く。 「われ本、 その国にありて、 *心を発し*道を求めし時、 その経典を持ち、 その戒行を護り、 その善法をなし、 その布施を修しき」 と。 おのおの好喜せしところの功徳を語らひ、 つぶさに来生せるところの本末を陳ぶ。
或イハ同ジク在リテ↢宝池ノ中ニ↡、各ノ坐シテ↢蓮台ノ上ニ↡、互ニ説ク↢宿命ノ事ヲ↡。我本在リテ↢其ノ国ニ↡発シ↠心ヲ求メシ↠道ヲ之時、持チテ↢其ノ経典ヲ↡、護リ↢其ノ戒行ヲ↡、作シ↢其ノ善法ヲ↡、修シキト↢其ノ布施ヲ↡。各ノ語ラヒ↧所↢好憙セシ↡之功徳ヲ↥、具ニ陳ズ↧所↢来生セル↡之本末ヲ↥。
^あるいはともに十方の諸仏の*利生の方便を語らひ、 あるいはともに三有の衆生の抜苦の因縁を議す。 議しをはれば縁を追ひてあひ去り、 語らひをはれば楽に随ひてともに往く。
或イハ共ニ*語ラヒ↢十方ノ諸仏ノ利生之方便ヲ↡、或イハ共ニ議ス↢三有ノ衆生ノ抜苦之因縁ヲ↡。議シ已リテ追ヒテ↠縁ヲ而相去リ、*語ラヒ已リテ随ヒテ↠楽ニ而共1056ニ往ク。
^あるいはまた、 七宝の山 七宝の山、 七宝の塔、 七宝の坊、 ¬*十往生経¼ に出でたり。 に登り、 *八功の池に浴み、 寂然として宴黙し、 読誦・解説す。
或イハ復登リ↢七宝ノ山ニ↡、七宝ノ山、七宝ノ塔、七宝ノ坊、出タリ↢¬十往生経ニ¼↡ 浴ミ↢八*功ノ池ニ↡、寂然トシテ宴黙シ、読誦・解説ス。
^かくのごとく遊楽すること、 相続して間なし。 処はこれ不退なれば、 永く三途・八難の畏れを免れ、 寿もまた無量なれば、 つひに生老病死の苦なし。 *心・事相応すれば愛別離苦なく、 慈眼をもつて等しく視れば怨憎会苦もなし。 *白業の報なれば求不得苦なく、 金剛の身なれば五盛陰苦もなし。
如ク↠是クノ遊楽スルコト相続シテ無シ↠間。処ハ是不退ナリ。永ク免レタリ↢三途・八難之畏ヲ↡。寿ハ亦无量ナリ。終ニ无シ↢生・老・病・死之苦↡。心事相応シテ无シ↢愛別離ノ苦↡。慈眼ヲモテ等シク視テ無シ↢怨憎会ノ苦モ↡。白業之報ナレバ無シ↢求不得ノ苦↡。金剛之身ナレバ無シ↢五盛陰ノ苦モ↡。
^一たび七宝荘厳の台に託しぬれば、 長く三界苦輪の海と別れぬ。 もし*別願あれば、 他方に生ずといへども、 これ自在の生滅にして、 業報の生滅にはあらず。 なほ不苦・不楽の名すらなし。 いかにいはんやもろもろの苦をや。
一タビ託シヌレバ↢七宝荘厳之台ニ↡、長ク別レヌ↢三界苦輪之海ヲ↡。若シ有レバ↢別願↡、雖モ↠生ズト↢他方ニ↡、是自在ノ生滅ナリ。非ズ↢業報ノ生滅ニハ↡。尚无シ↢不苦・不楽之名スラ↡。何ニ況ヤ諸ノ苦ヲ耶。
^龍樹の偈 (易行品) にいはく、
龍樹ノ偈ニ云ク、
^「▲もし人、 かの国に生れぬれば、 つひに悪趣および、
0869阿修羅とに堕ちず。 われいま帰命して礼す」 と。
「若シ人生レヌレバ↢彼ノ国ニ↡ | 終ニ不↠堕チ↢悪趣 |
及与阿修羅トニ↡ | 我今帰命シテ礼スト」 |
二 Ⅱ ⅱ f 引接結縁楽
【27】^第六に△*引接結縁の楽といふは、 人の世にあるに、 求むるところ、 意のごとくならず。 樹、 静かならんと欲へども、 風停まず。 子、 養せんと欲へども、 親待たず。 *志、 肝胆を舂くといへども、 力水菽に堪へず。 君臣・師弟・妻子・朋友、 一切の*恩所、 一切の*知識、 みなまたかくのごとし。
第六ニ引接結縁ノ楽トイフ者、人之在ルニ↠世ニ所↠求ル不↠如クナラ↠意ノ。樹欲ヘドモ↠静ナラムト而風不↠停マ。子欲ヘドモ↠養セムト而親不↠待タ。志雖モ↠舂クト↢肝胆ヲ↡力不↠堪ヘ↢水菽ニ↡。君臣・師弟・妻子・朋友、一切ノ恩所、一切ノ知識、皆亦如シ↠是クノ。
^空しく*痴愛の心を労らかして、 いよいよ輪廻の業を増す。 いはんやまた業果推し遷りて、 生処あひ隔てぬれば、 六趣・四生いづれの処といふことを知らず。 野の獣、 山の禽、 たれか旧親を弁へん。
空シク労シテ↢痴愛之心ヲ↡、弥ヨ増ス↢輪廻之業ヲ↡。況ヤ復業果推シ遷リテ、生処相隔テヌレバ、六趣・四生不↠知ラ↢何レノ処トイフコトヲ↡。野ノ獣・山ノ禽、誰カ*辨ヘム↢旧親ヲ↡。
^¬*心地観経¼ の偈にのたまふがごとし。
如シ↢¬心地観経ノ¼偈ニ云フガ↡。
^「世人、 子のためにもろもろの罪を造りて、 三途に堕在して長く苦を受くれども、
男女聖にあらずして神通なければ、 輪廻を見ずして報ずべきこと難し。
「世人為ニ↠子ノ造リテ↢諸ノ罪ヲ↡ | 堕↢在シテ三途ニ↡長ク受クレドモ↠苦ヲ |
男女非ズシテ↠聖ニ无ケレバ↢神通↡ | 不シテ↠見↢輪廻ヲ↡難シ↠可キコト↠報ズ |
^有情、 輪廻して六道に生ずること、 なほ車輪のごとくして始終なし。
あるいは父母となり男女となり、 世々生々にたがひに恩あり」 と。
有情輪廻シテ生ズルコト↢六道ニ↡ | 猶如クシテ↢車輪ノ↡无シ↢始終↡ |
或イハ為リ↢父母ト↡為リ↢男女ト↡ | 世々生々ニ互ニ有リト↠恩。」 |
^もし人、 極楽に生じぬれば、 智慧*高明にして神通*洞達し、 世々生々の恩所・知識をば心に随ひて引接す。 天眼をもつて生処を見、 天耳をもつて言音を聞く。 宿0870命智をもつてその恩を憶し、 他心智をもつてその心を了る。 *神境通をもつて*随逐し変現し、 方便力をもつて教誡示道す。
若シ*人生ジヌレバ↢極楽ニ↡、智*恵高明ニシテ神1057通洞達シテ、世々生々ノ恩所・知識ヲバ随ヒテ↠心ニ引接ス。以テ↢天眼ヲ↡見↢生処ヲ↡、以↢テ天耳ヲ↡聞ク↢言音ヲ↡。以テ↢宿命智ヲ↡憶シ↢其ノ恩ヲ↡、以テ↢他心智ヲ↡了ル↢其ノ心ヲ↡。以テ↢神境通ヲ↡随逐シテ変現シ、以テ↢方便力ヲ↡教誡示*道ス。
^¬*平等経¼ (一・三意) にのたまふがごとし。 「かの土の衆生は、 ▲みなみづからその前世に従来せしところの生を知り、 および八方上下、 去・来・現在の事を知れり。 ▲かの諸天・人民、 蠉飛・蠕動の類の、 心意に念ずるところ、 口にいはんと欲ふところを知る。 いづれの歳いづれの劫に、 まさにこの国に生れて菩薩の道をなし、 阿羅漢を得べしといふことを、 みなあらかじめこれを知る」 と。
如シ↢¬平等経ニ¼云フガ↡。「彼ノ土ノ衆生ハ、皆自ラ知リ↣其ノ前世ノ所ヲ従ヒテ↢来生セルニ↡、及ビ知レリ↢八方上下、去・来・現在之事ヲ↡。知リ↢彼ノ諸天・人民、蠉飛・蠕動之類ノ心意ニ所↠念ズル、口ニ所ヲ↟欲フ↠言ハムト、何レノ歳何レノ劫ニ、当ニシトイフコトヲ↧生レテ↢此ノ国ニ↡*作シ↢菩薩ノ道ヲ↡、得↦阿羅漢ヲ↥皆*預メ知ルト↠之ヲ。」
^また ¬*華厳経¼ の*普賢の願にのたまはく、
又¬花厳経ノ¼普賢ノ願ニ云ク、
^「願はくは、 われ、 命終せんと欲する時に臨みて、 ことごとく一切のもろもろの*障礙を除きて、
まのあたり、 かの仏、 阿弥陀を見たてまつりて、 すなはち*安楽刹に往生することを得ん。
「願クハ我臨ミテ↧欲セム↢命終セムト↡時ニ↥ | 尽ク除キテ↢一切ノ諸ノ障礙ヲ↡ |
面見タテマツリテ↢彼ノ仏阿弥陀ヲ↡ | 即チ得ム↣往↢生スルコトヲ安楽刹ニ↡ |
^われすでにかの国に往生しをはれば、 現前にこの大願を成就し、
一切円満してことごとく余すことなく、 一切衆生界を*利楽せん」 と。
我既ニ往↢生シ彼ノ国ニ↡已リテ | 現前ニ成↢就セム此ノ大願ヲ↡ |
一切円満シテ尽シテ无クシテ↠余スコト | 利↢楽セムト一切衆生界ヲ↡」 |
^無縁すらなほしかり。 いはんや*結縁をや。 *龍樹の偈にいはく、
无縁スラ尚爾リ。況ヤ結縁ヲ乎。龍樹ノ偈ニ云ク、
^0871「▲無垢荘厳の光、 一念および一時に、
あまねく諸仏の会を照らして、 もろもろの群生を利益す」 と。
「無垢荘厳ノ光 | 一念及ビ一時ニ |
普ク照シテ↢諸仏ノ会ヲ↡ | 利↢*益スト諸ノ群生ヲ↡」 |
二 Ⅱ ⅱ g 聖衆倶会楽
【28】^第七に△*聖衆倶会の楽といふは、 ¬経¼ (小経) にのたまふがごとし。 「▲衆生聞くものは、 まさに願を発して、 かの国に生れんと願ずべし。 ◆所以はいかん。 かくのごときもろもろの上善の人と、 倶に一処に会することを得ればなり」 と。 以上
第七ニ聖衆倶会ノ楽トイフ者、如シ↢¬経ニ¼云フガ↡。「衆生ノ聞カム者ハ、応ニ当シ↢発シテ↠願ヲ願ズ↟生ムト↢彼ノ国ニ↡。所以者何ン。得レバナリト↧与↢如キ↠是クノ諸ノ上善ノ人↡倶ニ会スルコトヲ↦一処ニ↥。」 已上
・普賢菩薩
^かのもろもろの菩薩聖衆の徳行は、 不可思議なり。 *普賢菩薩のいはく、 「もし衆生ありて、 いまだ善根を種ゑざるもの、 および少善を種ゑたる声聞・菩薩は、 なほわが名字を聞くことを得じ。 いはんやわが身を見んや。 もし衆生ありてわが名を聞くことを得ては、 *阿耨菩提においてまた退転せじ。 乃至、 夢のうちに、 われを見、 聞くものも、 またかくのごとし」 と。 ¬華厳経¼ の意。
彼ノ諸ノ菩薩聖衆ノ、徳行ハ不可思議ナリ。普賢菩薩ノ言ク、「若シ有リテ↢衆生↡未ダルモノ↠種エ↢善根ヲ↡、及ビ種エタル↢少善ヲ↡声聞・菩薩ハ、猶尚不↠得↠聞クコトヲ↢我ガ名字ヲ↡。況ヤ見ムヤ↢我ガ身ヲ↡。若シ有リテ↢衆生↡得テハ↠聞クコトヲ↢我ガ名ヲ↡、於テ↢阿耨菩提1058ニ↡不↢復退転セ↡。乃至夢ノ中ニシテモ、見↢聞カム*我ヲ↡者ハ亦復如シト↠是クノ。」¬花厳経ノ¼意
^またのたまはく、
又云ク、
^「われつねにもろもろの衆生に随順して、 未来の一切の劫を尽すまで、
つねに普賢の広大の行を修し、 *無上大菩提を円満せんと。
「我常ニ随↢順シテ諸ノ衆生ニ↡ | 尽ク↢於未来ノ一切ノ劫ニ↡ |
恒ニ修シ↢普賢ノ広大ノ行ヲ↡ | 円↢満セムト無上大菩提ヲ↡ |
^普賢の身相は虚空のごとし。 *真によりて住して、 国土にはあらず。
もろもろの衆生の心の欲するところに随ひて、 普身を示現して一切に等しく0872す。
普賢ノ身相ハ如シ↢虚空ノ↡ | 依リテ↠真ニ而住シテ非ズ↢国土ニハ↡ |
随ヒテ↢諸ノ衆生ノ心ノ所ニ↟欲ニ↡ | 示↢現シテ普身ヲ↡等シクス↢一切ニ↡ |
^一切の刹のなかの諸仏の所に、 種々の三昧をもつて神通を現ず。
一々の神通はことごとく十方の国土に周遍して、 遺すものなし。
一切ノ刹ノ中ノ諸仏ノ所ニ | 種々ノ三昧ヲモテ現ズ↢神通ヲ↡ |
一々ノ神通ハ悉ク周↢遍シテ | 十方ノ国土ニ↡無シ↢遺ス者↡ |
^一切の刹の如来の所のごとく、 かの刹の塵のなかにもことごとくまたしかなり」 と。 同経の偈。
如ク↢一切ノ刹ノ如来ノ所ノ↡ | 彼ノ刹ノ塵ノ中ニモ悉ク亦然ナリト」 同キ¬経ノ¼偈 |
・文殊菩薩
^「*文殊師利大聖尊をば、 三世の諸仏もつて母となしたまふ。
十方の如来の、 はじめて心を発すことは、 みなこれ文殊の教化の力なり。
「文殊師利大聖尊ヲバ | 三世ノ諸仏以テ為シタマフ↠母ト |
十方ノ如来ノ初テ発スコトハ↠心ヲ | 皆是文殊ノ教化ノ力ナリ |
^一切世界のもろもろの有情、 名を聞き、 身および光相を見、
ならびに随類のもろもろの化現を見るは、 みな仏道を成ずること思議しがたし」 と。 ¬心地観経¼ の偈。
一切世界ノ諸ノ有情 | 聞キ↠名ヲ見↢身及ビ光相ヲ↡ |
并ニ見ルハ↢随類ノ諸ノ化現ヲ↡ | 皆成ズルコト↢仏道ヲ↡難シト↢思議シ↡」 |
¬心地観経ノ¼*偈 |
^もしただ ˆ文殊師利のˇ 名を聞くものは、 十二億劫の生死の罪を除く。 もし礼拝・供養するものはつねに*仏家に生る。 もし名字を称すること一日七日すれば、 文殊かならず来りたまふ。 もし*宿障あるものは、 夢のうちに見ることを得て、 所求円満す。
若シ但聞ク↠名ヲ者ハ、除ク↢十二億劫ノ生死之罪ヲ↡。若シ礼拝・供養スル者ハ恒ニ生ル↢仏家ニ↡。若シ称スルコト↢名字ヲ↡一日シ七日スルハ、文殊必ズ来リタマフ。若シ有ルモノハ↢宿障↡、夢ノ中ニ得テ↠見ルコトヲ、所求円満ス。
^もし形像を見るものは、 百千劫のうちに悪道に堕ちず。 もし慈心を行ずるものは、 すなはち文殊を見たてまつることを得。 もし名を受持し読誦す0873ることあるものは、 たとひ重障あれども*阿鼻の極悪猛火に堕ちずして、 つねに他方の清浄の仏土に生る。 ¬*文殊般涅槃経¼ の意。 かの形像、 ¬経¼ (同) に広く説くがごとし。
若シ見ル↢形像ヲ↡者ハ、百千劫ノ中ニ不↠*堕チ↢悪道ニ↡。若シ行ズル↢慈心ヲ↡者ハ、即チ得↠見タテマツルコトヲ↢文殊ヲ↡。若シ有ル↤受↢持シ読↣誦スルコト名ヲ↡者ハ、設ヒ有レドモ↢重障↡不シテ↠堕チ↢阿鼻ノ極悪猛火ニ↡、常ニ生ル↢他方ノ清浄ノ仏土ニ↡。¬文殊般涅槃経ノ¼意。彼ノ形像如シ↢¬経ニ¼広ク説クガ↡
^また百千億那由他の仏の利益衆生は、 文殊師利の、 一劫のうちにおいてなせるところの利益には及ばず。 ゆゑにもし文殊師利菩薩の名を称するものは、 福はかの百千億の諸仏の名号を受持するよりも多し。 ¬宝積経¼ の意。
又百千億那由他ノ仏ノ利益衆生ハ、不↠及バ↧文殊師利ノ於テ↢一劫ノ中ニ↡所ノ↠作セル利益ニハ↥。故ニ若シ称スル↢文殊師利菩薩ノ名ヲ↡者ハ、福ハ多シ↣於受↢持スルヨリモ彼ノ百千億ノ諸仏ノ名号ヲ↡。¬宝積経ノ¼意
・弥勒菩薩
^*弥勒菩薩は功徳無量なり。 もしただ名を聞くものは黒闇処に堕ちず。 一念も名を称するものは、 千二百劫の生死の罪を除却す。 帰依することあるものは、 *無上道において不退転を得。 ¬*上生経¼ の意。 称讃・礼拝するものは、 百千万億阿僧祇劫の生死の罪を除く。 ¬*虚空蔵経¼・¬*仏名経¼ の意。
弥勒菩1059薩ハ功徳無量ナリ。若シ但聞ク↠名ヲ者ハ不↠堕チ↢黒闇*処ニ↡。一念モ称スル↠名ヲ者ハ、除↢却ス千二百劫ノ生死之罪ヲ↡。有ル↢帰依スルコト↡者ハ、於テ↢無上道ニ↡得↢不退転ヲ↡。¬上生経ノ¼意 称讃・礼拝スル者ハ、除ク↢百千万億阿僧祇劫ノ生死ノ罪ヲ↡。¬虚空蔵*経¼・¬仏名経ノ¼*意
^「無量千万劫に修せるところの願・智・行、
広大にして不可量なり。 称揚すともよく尽すことなからん」 と。
「無量千万劫ニ | 所ノ↠修セル願智行 |
広大ニシテ不可量ナリ | 称*揚ストモ莫ケムト↢能ク尽スコト↡」 |
^¬華厳経¼ の偈。 以上の三の菩薩、 つねに極楽世界にまします。 ¬四十華厳経¼ に出でたり。
¬花厳経ノ¼偈。已上ノ、三ノ菩薩、常ニ在ス↢極楽世界ニ↡。出デタリ↢¬四十花厳経ニ¼↡
・地蔵菩薩
^地蔵菩薩は、 毎日の晨朝に恒沙の定に入りて、 法界に周遍して苦の衆生を抜きたまふ。 所有の悲願、 余の*大士に超えたり。 ¬*十輪経¼ の意。
地蔵菩薩ハ、毎日ノ晨朝ニ入リテ↢恒沙ノ定ニ↡、周↢遍シテ法界ニ↡抜キタマフ↢苦ノ衆生ヲ↡。所有ノ悲願超エタリ↢余ノ大士ニ↡。¬十輪経ノ¼意
^かの ¬経¼ (十輪経) の偈にのたまはく、
彼ノ¬経ノ¼偈ニ云ク、
^0874「一日も地蔵の功徳、 大名聞を称せんは、
倶胝劫のうちに、 余の智者を称する徳に勝れたり。
「一日モ称セムニハ↢地蔵ノ | 功徳大名聞ヲ↡ |
勝レタリ↣倶*低劫ノ中ニ | 称セムニハ↢余ノ智者ノ徳ヲ↡ |
^たとひ百劫のうちに、 その功徳を讃説すとも、
なほ尽すことあたはじ。 ゆゑにみなまさに供養すべし」 と。 以上
仮使ヒ百劫ノ中ニ | 讃↢説ストモ其ノ功徳ヲ↡ |
猶尚不↠能ハ↠尽スコト | 故ニ皆当ニシト↢供養ス↡」 *已上 |
・観音菩薩
^観世音菩薩のいはく、 「衆生、 苦ありて、 三たびわが名を称せんに、 往きて救はずといはば、 正覚を取らじ」 と。 ¬*弘猛海慧経¼。
観世音菩薩ノ言ク、「衆生有リテ↠苦三タビ称セムニ↢我ガ名ヲ↡、不トイハバ↢往キテ救ハ↡者不ト↠取ラ↢正覚ヲ↡。」¬弘猛海慧経¼
^「もし百千倶胝那由他の諸仏の名号を称念することあらん。 またしばらくの時もわが名号において、 心を至して称念することあらん。 かの二の功徳は平等平等ならん。 もろもろのわが名号を称念することあるものは、 一切みな不退転の地を得てん」 と。 ¬*十一面経¼ (意)。
「若シ有ラム↣称↢念スルコト百千倶胝那庾多ノ諸仏ノ名号ヲ↡。復有ラム↧暫クノ時モ於テ↢我ガ名号ニ↡至シテ↠心ヲ称念スルコト↥。彼ノ二ノ功徳ハ平等平等ナラム。諸ノ有ラム↣称↢念スルコト我ガ名号ヲ↡者ハ、一切皆得テムト↢不退転ノ地ヲ↡。」¬十一*面経¼
^「衆生もし名を聞かば、 苦を離れて解脱を得てん。
また地獄に遊戯して、 大悲代りて苦を受けん」 と。 ¬*請観音経¼ の偈。
「衆生ノ若シ聞カムハ↠名ヲ | 離レテ↠苦ヲ得テム↢解脱ヲ |
亦遊↢戯シテ地獄ニ↡ | 大悲代リテ受ケムト↠苦ヲ」 ¬請観音経ノ¼偈 |
^「*弘誓の深きこと海のごとし。 劫を歴とも思議すまじ。
多千億の仏に侍へて、 大清浄の願を発せり。
「弘誓ノ深キコト如シ↠海ノ | 歴トモ↠劫ヲ不ジ↢思議ス |
侍ヘテ↢多ノ千億ノ仏ニ↡ | 発セリ↢大清浄ノ願ヲ↡ |
^神通力を具足し、 広く智の方便を修して、
0875十方のもろもろの国土に、 刹として身を現ぜずといふことなし。
具↢足シ神通力ヲ↡ | 広ク修シテ↢智ノ方便ヲ↡ |
十方ノ諸ノ国土ニ | 無シ↢刹トシテ不トイフコト↟現ゼ↠身ヲ |
^念々に疑をなすことなかれ。 観世音の浄聖は、
苦悩死厄において、 よくために*依怙となりたまふ。
念々ニ勿レ↠生スコト↠疑ヲ | 観世音ノ浄聖ハ |
於テ↢苦悩死厄ニ↡ | 能ク為ニ作リタマフ↢依怙ト↡ |
^一切の功徳を具して、 慈眼をもつて衆生を視たまふ。
福聚の海無量なり。 このゆゑに頂礼したてまつるべし」 と。 ¬法華経¼。
具シテ↢一切ノ功徳ヲ↡ | 慈眼ヲモテ視タマフ↢衆生ヲ↡ |
福聚ノ海无量1060ナリ | 是ノ故ニ応シト↢頂礼シタテマツル↡」 ¬法華*経¼ |
・勢至菩薩
^*大勢至菩薩のいはく、 「われよくもろもろの悪趣の、 未度の衆生を度するに堪任せり」 と。 ¬宝積経¼。
大勢至菩薩ノ曰ク、「我能ク堪↣任セリト度スルニ↢諸ノ悪趣ノ未度ノ衆生ヲ↡。」¬宝積経¼
^「▲智慧の光をもつて、 あまねく一切を照らして、 三塗を離れしむるに、 無上の力を得たり。 ゆゑにこの菩薩を大勢至と名づく。 ▲この菩薩を観ずるものは、 無数劫阿僧祇の生死の罪を除き、 胞胎に処せずして、 つねに諸仏の浄妙国土に遊ぶ」 と。 ¬観経¼ の意。
「以テ↢智慧ノ光ヲ↡普ク照ス↢一切ヲ↡。令ム↧離レテ↢三途ヲ↡得↦無上ノ力ヲ↥。故ニ此ノ菩薩ヲ名ク↢大勢至ト↡。観ズル↢此ノ菩薩ヲ↡者ハ、除ク↢无数劫阿僧祇ノ生死之罪ヲ↡。不シテ↠処セ↢胞胎ニ↡、常ニ遊ブト↢諸仏ノ浄妙国土ニ↡。」¬観経ノ¼意
^「無量無辺無数劫に、 広く願力を修して弥陀を助け、
つねに大衆に処して法言を宣ぶ。 衆生の聞くものは浄眼を得。
「無量无辺无数劫ニ | 広ク修シテ↢願力ヲ↡助ク↢弥陀ヲ↡ |
常ニ処シテ↢大衆ニ↡宣ブ↢法言ヲ↡ | 衆生ノ聞ク者ハ得↢浄眼ヲ↡ |
^神通をもつて十方の国に周遍して、 あまねく一切衆生の前に現ず。
衆生もしよく心を至して念ずれば、 みなことごとく導きて安楽に至らしむ」 と。 *龍樹の讃。
神通ヲモテ周↢遍シテ十方ノ国ニ↡ | 普ク現ズ↢一切衆生ノ前ニ↡ |
衆生若シ能ク至シテ↠心ヲ念ズレバ | 皆悉ク*導キテ令ムト↠至ラ↢安楽ニ↡」 龍樹ノ讃 |
^ま0876たいはく、
又云ク、
^「*観音・勢至は大名称まします。 功徳・智慧、 ともに無量なり。
慈悲を具足して世間を救ひ、 あまねく一切衆生海に遊びたまふ。
かくのごとき勝れたる人は、 はなはだ遇ふこと難し。 一心に恭敬して頭面をもつて礼したてまつる」 と。 以上
「観音・勢至ハ大名称マシマス | 功徳智*恵倶ニ无量ナリ |
具↢足シテ慈悲ヲ↡救ヒ↢世間ヲ↡ | 遍ク遊ビタマフ↢一切衆生海ニ↡ |
如キ↠是クノ勝レタル人ハ甚ダ難シ↠遇フコト | 一心ニ恭敬シテ頭面ニ礼シタテマツルト」 已上 |
^かくのごとき一生補処の大菩薩、 その数恒沙のごとし。 色相端厳にして、 功徳具足し、 つねに極楽国にましまして弥陀仏を囲繞したまへり。
如キ↠是クノ一生補処ノ大菩薩、其ノ数如クシテ↢恒沙ノ↡、色相端厳ナリ。功徳具足シテ、常ニ在シテ↢極楽国ニ↡囲↢繞シタマヘリ弥陀仏ヲ↡。
^またもろもろの声聞衆、 その数量りがたし。 神智洞達し、 威力自在なり。 よく掌のなかに一切の世界を持つ。 たとひ大目連のごときもの、 百千万億無量無数にして、 阿僧祇の劫に、 ことごとくともに、 かの*初会の声聞を*計校せんに、 知るところの数はなほ一渧のごとく、 その知らざるところは大海の水のごとし。
又諸ノ声聞衆、其ノ数難シ↠量リ。神智洞達シ威力自在ナリ。能ク於掌ノ中ニ持ツ↢一切ノ世界ヲ↡。設ヒ如キモノ↢大目連ノ↡、百千万億无量无数ニシテ、於テ↢阿僧祇ノ劫ニ↡悉ク*共ニ計↢挍セムニ彼ノ初会ノ声聞ヲ↡、所ノ↠知ラム数者猶如シ↢一渧ノ↡。其ノ所ハ↠不ル↠知ラ如ケム↢大海水ノ↡。
^そのなかに、 *般泥洹して去るもの無央数なり。 新たに阿羅漢を得るもの、 また無央数なり。 しかれどもすべて増減をなさず。 たとへば大海の、 *恒水を減ずといへども、 恒水を加ふといへども、 しかも増なくまた減なきがごとし。 もろもろの菩薩衆は、 また上の数に倍せり。
其ノ中ニ般泥洹シテ去ル者無央数ナリ。新ニ得ル↢阿羅漢ヲ↡者亦無央数ナリ。而レドモ都テ不↠為サ↢増減ヲ↡。譬ヘバ如シ↧大海ノ雖モ↠減ズト↢恒水ヲ↡、雖モ↠加フト↢恒水ヲ↡而モ無ク↠増亦無キガ↞減。諸ノ菩薩衆ハ復倍セリ↢上ノ数ニ↡。
^¬大論¼ (大智度論) にいふがごとし。 「弥陀仏の国には、 菩0877薩僧は多く声聞僧は少なし」 と。 以上
如シ↢¬大論ニ¼云フガ↡。「弥陀1061仏ノ国ニハ、菩薩僧ハ多ク声聞僧ハ少シト。」 已上
^かくのごとき聖衆、 その国に充満せり。 たがひにはるかにあひ見、 はるかにあひ瞻望し、 はるかに語声を聞きて、 同一に道を求めて、 異類あることなし。 いかにいはんや、 また十方恒沙の仏土の無量塵数の菩薩聖衆、 おのおの神通を現じて安楽国に至りて、 尊顔を*瞻仰して恭敬し供養したてまつる。
如キ↠是クノ聖衆充↢満セリ其ノ国ニ↡。互ニ*遥ニ相見、遥ニ相瞻望ス。遥ニ聞キテ↢語声ヲ↡、同一ニ求ムルコト↠道ヲ无シ↠有ルコト↢異類↡。何ニ況ヤ復十方*恒沙ノ仏*土ノ无量塵数ノ菩薩聖衆、各ノ現ジテ↢神通ヲ↡至リテ↢安楽国ニ↡、瞻↢仰シテ尊顔ヲ↡恭敬シ供養シタテマツル。
^あるいは天の妙華を齎し、 あるいは妙宝の香を焼き、 あるいは*無価の衣を献り、 あるいは天の妓楽を奏し、 和雅の音を発して、 世尊を歌嘆し、 経法を聴受し、 *道化を宣布す。
或イハ齎リ↢天ノ妙花ヲ↡、或イハ焼キ↢妙宝ノ香ヲ↡、或イハ献リ↢無価ノ衣ヲ↡、或イハ奏ス↢天ノ*妓楽ヲ↡。発シテ↢和雅ノ音ヲ↡、歌↢嘆シ世尊ヲ↡、聴↢受シ経法ヲ↡、宣↢布ス道化ヲ↡。
^かくのごとく往来すること、 昼夜に絶えず。 東方に去れば、 西方より来り、 西方に去れば、 北方より来り、 北方に去れば、 南方より来る。 四維・上下もたがひにまたかくのごとし。 かはるがはるあひ*開避すること、 なほ盛りなる市のごとし。
如クシテ↠是クノ往来スルコト昼夜ニ不↠絶エ。東方ノ去レバ西方ヨリ来ル。西方ノ去レバ北方ヨリ来ル。北方ノ去レバ南方ヨリ来ル。四維・上下モ互ニ亦如シ↠是クノ。更相開避スルコト猶如シ↢盛ナル市ノ↡。
^これらの大士は、 一たびその名を聞くすら、 なほ少縁にあらず。 いはんや百千万劫にも、 たれかあひ見ることを得るものあらん。 しかもかの国土の衆生はつねに一処に会して、 たがひに言語を交へ、 問訊し恭敬し、 親近し承習す。 また楽しからざらんや。 以上、 ¬双巻経¼ (大経)・¬観経¼・¬平等経¼ 等の意。
此等ノ大士ハ一タビ聞クコト↢其ノ名ヲ↡尚非ズ↢少縁ニ↡。況ヤ百千万劫ニモ誰カ得ム↢相見ルコトヲ↡者アラン。然モ彼ノ国土ノ衆生ハ常ニ会シテ↢一処ニ↡、互ニ交ヘ↢言語ヲ↡、*問訊シ恭敬シ、親近シ承習ス。不ラム↢亦楽カラ↡乎。已上¬双巻経¼・¬*観経¼・¬平等経¼等ノ意
^龍樹の偈 (易行品) にいはく、
龍樹ノ偈ニ*云ク、
^「▲かの土のもろもろの菩薩は、 もろもろの相好を具足して、
0878みなみづから身を荘厳せり。 われいま帰命して礼す。
「彼ノ土ノ諸ノ菩薩ハ | 具↢足シテ諸ノ相好ヲ↡ |
皆自ラ荘↢厳セリ身ヲ↡ | 我今帰命シテ礼ス |
^▲三界の獄を超出して、 目は蓮華葉のごとし。
声聞衆無量なり。 このゆゑに稽首して礼す」 と。
超↢出シテ三界ノ獄ヲ↡ | 目ハ如シ↢蓮華葉ノ↡ |
声聞衆无量ナリ | 是ノ故ニ稽首シテ礼スト」 |
^またいはく (十二礼)、
又云、
^「▲十方より来るところのもろもろの仏子、 神通を顕現して安楽に至りて、
尊顔を瞻仰してつねに恭敬したてまつる。 ゆゑにわれ弥陀仏を頂礼す。
*願はくは、 もろもろの衆生とともに安楽国に往生せん」 と。
「十方ヨリ所ノ↠来ル諸ノ仏子 | 顕↢現シテ神通ヲ↡至リテ↢安楽ニ↡ |
瞻↢仰シテ尊顔ヲ↡常ニ恭敬シタテマツル | 故ニ我頂↢礼ス弥陀仏ヲ↡ |
*願クハ共ニ↢諸ノ*衆生ト↡ | 往↢生セムト安楽国ニ。」 |
二 Ⅱ ⅱ h 見仏聞法楽
【29】^第八に△*見仏聞法の楽といふは、 いまこの娑婆世界は、 仏を見、 法を聞くことはなはだ難し。
第八ニ見仏聞法ノ楽トイフ*者、今此ノ娑婆世界ハ見↠仏ヲ聞クコト↠法ヲ甚ダ難シ。
^師子吼菩薩のいはく (心地観経)、
師子吼菩薩ノ言ク、
^「われら無数百千劫に、 *四無量・三解脱を修して、
いま大聖牟尼尊 (釈尊) を見たてまつること、 なほ*盲ひたる亀の浮木に値へるがごとし」 と。
「我等无数百千劫ニ | 修シテ↢四无量三解脱ヲ↡ |
今見タテマツルコト↢大聖牟尼尊ヲ↡ | 猶1062如シト↣盲ヒタル亀ノ値ヘルガ↢浮木ニ↡」 |
^また△*儒童は全身を捨ててはじめて△半偈を得たり。 *常啼は肝腑を割きて遠く般若を求めたり。 菩薩すらなほしかり、 いかにいはんや凡夫をや。
又儒童ハ捨テテ↢全身ヲ↡而シテ始テ得タリ↢半偈ヲ↡。常啼ハ割キテ↢肝府ヲ↡而遠ク求メタリ↢般若ヲ↡。菩薩スラ尚爾リ。何ニ況ヤ凡夫ヲヤ。
^仏 (釈尊)、 *舎衛にましますこと二十五年、 かしこに九億の家あり。 三億は仏を見たてまつり、 三0879億はわづかに聞き、 その余の三億は見ず聞かず。 在世すらなほしかり、 いかにいはんや滅後をや。
仏在スコト↢舎衛ニ↡廿五年、彼ノ九億ノ家アリ、三億ハ見タテマツリ↠仏ヲ、三億ハ纔ニ聞キ、其ノ余ノ三億ハ不↠見不↠聞カ。在世スラ尚爾リ、何ニ況ヤ滅後ヲヤ。
^ゆゑに ¬法華¼ にのたまはく、
故ニ¬法花ニ¼云ク、
^「このもろもろの罪の衆生は、 悪業の因縁をもつて、
阿僧祇の劫を過ぐれども、 三宝の名をも聞かず」 と。
「是ノ諸ノ罪ノ衆生ハ | 以テ↢悪業ノ因縁ヲ↡ |
過グレドモ↢阿僧祇ノ劫ヲ↡ | 不ト↠聞カ↢三宝ノ名ヲモ↡」 |
^しかるをかの国の衆生は、 つねに弥陀仏を見たてまつり、 つねに深妙の法を聞く。 いはく、 厳浄の地の上には菩提樹あり、 枝葉四もに布き、 衆宝をもつて合成せり。 樹の上には宝の羅網を覆ひ、 条のあひだには珠の瓔珞を垂れたり。
而ルヲ彼ノ国ノ衆生ハ常ニ見タテマツリ↢弥陀*仏ヲ↡、恒ニ聞ク↢深妙ノ法ヲ↡。謂ク厳浄ノ地ノ上ニハ有リ↢菩提樹↡。枝葉*四モニ布キ、衆宝ヲモテ合成セリ。樹ノ上ニハ覆ヘリ↢宝ノ羅網ヲ↡。条ノ間ニハ垂レタリ↢珠ノ瓔珞ヲ↡。
^風、 枝葉を動かすに、 声妙法を演べ、 その声流布して諸仏の国に遍す。 その聞くことあるものは*深法忍を得、 不退転に住し、 耳根清徹なり。 樹の色を覩、 樹の香りを聞ぎ、 樹の味を嘗め、 樹の光に触れ、 樹の相を縁ずるも、 一切またしかなり。 仏道を成ずるに至るまで六根清徹なり。
風動スニ↢枝葉ヲ↡、声演ブ↢妙法ヲ↡。其ノ声流布シテ遍ス↢諸仏ノ国ニ↡。其ノ有ル↠聞クコト者ハ得↢深法忍ヲ↡、住シ↢不退転ニ↡、耳根清徹ス。覩↢樹ノ色ヲ↡、聞ギ↢樹ノ香ヲ↡、嘗メ↢樹ノ味ヲ↡、触レ↢樹ノ光ニ↡、縁ズルモ↢樹ノ相ヲ↡、一切亦然ナリ。至ルマデ↠成ズルニ↢仏道ヲ↡六根清徹セリ。
^樹下に座あり、 荘厳無量なり。 座の上には仏ましまし、 相好無辺なり。 *烏瑟高く顕れて、 晴天の翠濃く、 *白毫右に旋りて、 秋月の光満てり。 青蓮の眼、 丹菓の唇、 *迦陵頻の声、 獅子相の胸、 仙鹿王の腨、 *千輻輪の趺、 かくのごとき八万四千の相好、 紫磨金の身に纏絡し、 無量塵数の光明は、 億千の日月を集めたるがごとし。
樹下ニ有リ↠座。荘厳无量ナリ。座ノ上ニハ有ス↠仏。相好无辺ナリ。烏瑟高ク顕シテ晴ノ天ノ翠濃ナリ。白毫右ニ旋リテ秋ノ月ノ光満テリ。青蓮之眼、丹菓之脣、迦陵頻之声、師子相之胸、仙鹿王之*腨、千輻輪之趺、如キ↠是クノ八万四千ノ相好、纏↢絡セリ紫磨金ノ身ニ↡。無量塵数ノ光明ハ如シ↠集メタルガ↢億千ノ日月ヲ↡。
^時ありて、 七宝の講堂にま0880しまして妙法を演暢したまふに、 *梵音深妙にして、 衆の心を悦可したまふ。 菩薩・声聞・天・人大衆、 一心に合掌して尊顔を瞻仰したてまつる。 即時に、 自然の微風、 七宝の樹を吹くに、 無量の妙華、 風に随ひて四もに散ず。 一切の諸天、 もろもろの音楽を奏す。 この時に当りて、 *熙怡快楽、 勝げていふべからず。
有リテ↠時*在シテ↢七宝ノ講堂ニ↡演↢暢シタマフニ妙法ヲ↡。梵音深妙ニシテ、悦↢可シタマフ衆ノ心ヲ↡。菩薩・声聞・天・人・大衆、一心ニ合掌シテ瞻↢仰シタテマツル尊顔ヲ↡。即時ニ自然ノ微風吹クニ↢七宝ノ樹ヲ↡、無量ノ妙花随ヒテ↠風ニ四モニ散ズ。一切ノ諸天奏ス↢諸ノ音楽ヲ↡。当リテ↢斯1063之時ニ↡、熙怡快楽不↠可カラ↢勝ゲテ言フ↡。
^あるいはまた広大の身を現じ、 あるいは*丈六・八尺の身を現じ、 あるいは宝樹の下にましまし、 あるいは宝池の上にまします。 衆生の本の宿命により、 求道の時、 心に喜願せしところに随ひて、 大小意に随ひて、 ために経法を説き、 それをして疾く開解し、 得道せしめたまふ。 かくのごとく種々の機に随ひて、 種々の法を説きたまふ。
或イハ復現ジ↢広大ノ身ヲ↡、或イハ現ズ↢丈六・八尺ノ身ヲ↡。或イハ在ス↢宝樹ノ下ニ↡。或イハ在ス↢宝池ノ上ニ↡。随ヒテ↣衆生ノ本ノ宿命ノ求道ノ時ノ心ニ所ニ↢*憙願セシ↡、大小随ヒテ↠意ニ為ニ説キ↢経法ヲ↡、令メタマフ↢其ヲシテ疾ク開解シ得道セ↡。如ク↠是クノ随ヒテ↢種々ノ機ニ↡、説キタマフ↢種々ノ法ヲ↡。
^また観音・勢至の両の菩薩、 つねに仏の左右の辺にありて、 坐侍して*政論す。 仏つねにこの両の菩薩とともに対坐して、 八方上下、 *去・来・現在の事を議したまふ。
又観音・勢至ノ、両ノ菩薩常ニ在リテ↢仏ノ左右ノ辺ニ↡、坐侍シテ政論ス。仏常ニ与↢是ノ両ノ菩薩↡共ニ対坐シテ、議シタマフ↢八方上下、去・来・現在之事ヲ↡。
^▲ある時には、 東方の恒沙の仏国の無量無数のもろもろの菩薩衆、 みなことごとく無量寿仏の所に往詣して、 恭敬し供養して、 もろもろの菩薩・声聞の衆までに及ぼす。 南西北方・四維・上下もまたかくのごとし。 かの厳浄の土の微妙難思議なるを見て、 よりて無量の心を発して、 わが国もまたしからんと願ず。
或時ニハ、東方ノ恒沙ノ仏国ノ无量无数ノ諸ノ菩薩衆、皆悉ク往↢詣シテ無量寿仏ノ所ニ↡、恭敬シ供養シテ、及ボス↢諸ノ菩薩・声聞之衆マデニ↡。南・西・北方・四維・上下モ亦復如シ↠是クノ。見テ↢彼ノ厳浄ノ土ノ微妙難思議ナルヲ↡、因リテ発シテ↢无量ノ心ヲ↡、願ズ↢我ガ国モ亦然ラムト↡。
^時に応じて、 世尊、 容を動かして微笑し、 口0881より無数の光を出して、 あまねく十方の国を照らしたまふ。 回光、 身を囲ること*三帀して頂に入る。 一切の天・人衆、 踊躍してみな歓喜す。
応ジテ↠時ニ世尊動シテ↠容ヲ微笑シテ、口ニ出シテ↢无数ノ光ヲ↡、遍ク照シタマフ↢十方ノ国ヲ↡。廻光囲リテ↠身ヲ三帀シテ入ル↠頂ニ。一切ノ天人衆踊躍シテ皆歓喜ス。
^大士観世音、 服を整へて ˆ無量寿仏にˇ 稽首して問ひたてまつる。 「仏、 なんの縁ありてか笑みたまふ。 やや、 しかなり。 願はくは説きたまへ」 と。 時に*梵の声、 雷のごとくして八音をもつて妙響を暢べたまひ、 「まさに菩薩に*記を授くべし」 と。
大士観世音整ヘテ↠服ヲ稽首シテ問ヒタテマツル。仏、何ノ縁アリテカ笑ミタマフ。唯然ナリ。願クハ説キタマヘト。時ニ梵ノ声、猶クシテ↠雷ノ八音ヲモテ暢ベタマフ↢妙響ヲ↡。当ニシト↠授ク↢菩薩ニ記ヲ↡。
^告げてのたまはく、 「なんぢ、 あきらかに聴け。 十方より来れる正士、 われことごとくかの願を知れり。 厳浄の土を志求し、 *決を受けてまさに仏に作るべし。 一切の法はなほ夢・幻・響のごとしと覚了するも、 もろもろの妙願を満足して、 かならずかくのごとき刹を成ぜん。 法は電・影のごとしと知るも、 菩薩の道を究竟し、 もろもろの功徳の本を具して、 決を受けてまさに仏に作るべし。 諸法の性は一切、 空・無我なりと通達するも、 もつぱら浄仏土を求めて、 かならずかくのごとき刹を成ぜん」 と。 以上
告ゲテ言ク、仁諦ニ聴ケ。十方ヨリ来レル正士、吾悉ク知レリ↢彼ノ願ヲ↡。志↢求スルニ厳浄ノ土ヲ↡、受ケテ↠決ヲ当ニシ↠作ル↠仏ニ。覚↣了シテ一切ノ法ハ猶如シト↢夢・幻・*嚮ノ↡、満↢足シテ諸ノ妙願ヲ↡、必ズ成ゼムト↢如キ↠是クノ刹ヲ↡。知リテ↣法ハ如シト↢電・影ノ↡、究↢竟シ菩薩ノ道ヲ↡、具シテ↢諸ノ功徳ノ本ヲ↡、受ケテ↠決ヲ当ニシ↠作ル↠仏ニ。通↢達シテ諸法ノ性ハ一切空无我ナリト↡、専ラ求ムル↢浄仏土ヲ↡、必ズ成ゼムト↢如キ↠是クノ刹ヲ↡。 已上
^いはんやまた、 水・鳥・樹林みな妙法を演ぶ。 おほよそ聞かんと欲するところをば、 自然に聞くことを得。 かくのごとき法楽は、 またいづれの処にかあらんや。 このなかは多く ¬双巻経¼ (大経)・¬平等経¼ 等によれり。
況ヤ復水・鳥・樹林皆演ブ↢妙法ヲ↡。凡ソ所ヲバ↠欲スル↠聞カムト、自1064然ニ得↠聞クコトヲ。如キ↠是クノ法楽ハ亦在ラム↢何レノ処ニカ↡乎。此ノ中ハ多ク依レリ↢¬双巻経¼・¬平*等経¼*等ニ↡
^龍樹の讃 (十二礼) にいはく、
龍樹ノ讃ニ曰ク、
0882^「▲金を底とし、 宝間はりたる池に生ぜる華、 善根の成ぜるところの妙台座なり。
かの座の上において山王のごとし。 ゆゑにわれ弥陀仏を頂礼したてまつる。
「金ノ底トシ宝ノ間ノ池ニ生ゼル花 | 善根ノ所↠成ノ妙台ノ坐ニ |
於テ↢彼ノ座ノ上ニ↡如シ↢山王ノ↡ | 故ニ我頂↢礼シタテマツル弥陀仏ヲ↡ |
^▲諸有は無常・無我等なり。 また水月・電・影・露のごとし。
衆のために*法に名字なきことを説きたまふ。 ゆゑにわれ弥陀仏を頂礼したてまつる。
^願はくはもろもろの衆生とともに安楽国に往生せん」 と。
諸有ハ无常・无我等ナリ | 亦如シ↢水月・電・影・露ノ↡ |
為ニ↠衆ノ説キタマフ↣法ノ無コトヲ↢名字↡ | 故ニ我頂↢礼シタテマツル弥陀仏ヲ↡ |
願クハ共ニ↢諸ノ衆生ト↡ | 往↢生セムト安楽国ニ↡」 |
二 Ⅱ ⅱ i 随心供仏楽
【30】^第九に△*随心供仏の楽といふは、 かの土の衆生は、 昼夜六時に、 つねに種々の天華を持ちて、 無量寿仏を供養したてまつる。
第九ニ随心供仏ノ楽トイフ者、彼ノ土ノ衆生ハ、昼夜六時ニ常ニ持チテ↢種々ノ天花ヲ↡、供↢養シタテマツル無量寿仏ニ↡。
^また、 意に他方の諸仏を供養したてまつらんと欲ふことあれば、 すなはち前みて*長跪して、 *手を叉へて仏にまうす。 仏すなはちこれを可したまふに、 みな大きに歓喜して、 千億万の人、 おのおのみづから翻り飛び、 等輩あひ追ひ、 ともに散飛して、 八方上下の無央数の諸仏の所に到りて、 みな前みて礼をなし、 供養し恭敬したてまつる。
又有ルハ↤意ニ欲フコト↣供↢養シタテマツラムト他方ノ諸仏ヲ↡、即チ前ミテ長跪シテ、*叉ヘテ↠手ヲ白ス↠仏ニ。*仏則チ可シタマフニ↠之ヲ皆大ニ歓喜シテ、千億万ノ人各ノ自ラ翻リ飛ビ、等輩相追ヒテ倶共ニ散飛シテ、到リテ↢八*方上下ノ無央数ノ諸仏ノ所ニ↡、皆前ミテ作リテ↠礼ヲ、供養シ恭敬シタテマツル。
^かくのごとく毎日晨朝に、 おのおの*衣裓をもつてもろもろの妙華を盛れて、 他方の十万億の仏に供養したてまつる。 およびもろもろの衣服・妓楽、 一切の供具、 意0883に随ひて出生して、 供養し恭敬す。 すなはち*食時をもつて本国に還り到りて、 飯食し経行して、 もろもろの法楽を受く。
如ク↠是クノ毎日晨朝ニ、各ノ以テ↢衣裓ヲ↡盛リテ↢衆ノ妙花ヲ↡、供↢養シタテマツル他*方ノ十万億ノ仏ニ↡。及ビ諸ノ衣服・*妓楽、一切ノ供具、随ヒテ↠意ニ出生シテ、供養シ恭敬ス。即チ以テ↢食時ヲ↡還リテ到リテ↢本国ニ↡、飯食シ経行シテ受ク↢諸ノ法楽ヲ↡。
^あるいはいはく、 毎日三時に諸仏を供養したてまつると。
或イハ言ク、毎日ノ三時ニ供↢養シタテマツルト諸仏ヲ↡。
^行者、 いま遺教に従ひて、 十方の仏土の種々の功徳を聞くことを得たり。 見るに随ひ、 聞くに随ひて、 はるかに恋慕を生ず。 おのおのあひ謂りていはく、 「われら、 いづれの時にか、 十方の浄土を見ることを得、 諸仏・菩薩に値ふことを得ん」 と。 教文に対ふごとに、 *嗟嘆せずといふことなし。
行者今従ヒテ↢遺教ニ↡、得タリ↠聞クコトヲ↢十方ノ仏土ノ種々ノ功徳ヲ↡。随ヒ↠見ルニ随ヒテ↠聞クニ、遥ニ生ズ↢恋慕ヲ↡。各ノ*相謂リテ言ク、我等何レノ時ニカ得↠見ルコトヲ↢十方ノ浄土ヲ↡、得ムト↠値フコトヲ↢諸仏・菩薩ニ↡。毎ニ↠対フ↢教文ニ↡無シ↠不トイフコト↢嗟嘆セ↡。
^しかるを、 もしたまたま極楽国に生るることを得ば、 あるいは自力により、 あるいは仏力を承けて、 朝に往き暮に来り、 須臾に去り須臾に還らん。 あまねく十方の一切の仏刹に至りて、 まのあたり諸仏に奉へたてまつり、 もろもろの大士に値遇し、 つねに正法を聞き、 大菩提の記を受けん。
而ルヲ若シ適マ得バ↠*生ズルコトヲ↢極楽国ニ↡、或イハ由リ↢自力ニ↡、或イハ承ケテ↢仏力ヲ↡、朝ニ往キ*暮ニ来リ、須臾ニ去リ須臾ニ還ラム。遍ク至リテ↢十方ノ一切ノ*仏刹ニ↡、面奉ヘタテマツリ↢諸仏ニ↡、値1065↢遇シ諸ノ大士ニ↡、恒ニ聞キ↢正法ヲ↡、受ケム↢大菩提ノ*記ヲ↡。
^乃至、 あまねく一切の*塵刹に入りて、 もろもろの仏事をなし、 普賢の行を修せん。 また楽しからずや。 ¬阿弥陀経¼・¬平等覚経¼・¬双巻経¼ (大経) の意。
乃至普ク入リテ↢一切ノ塵刹ニ↡、作リ↢諸ノ仏事ヲ↡、修セム↢普賢ノ行ヲ↡。不↢亦楽カラ↡乎。¬阿弥陀経¼・¬平等覚経¼・¬双巻経ノ¼意
^龍樹の偈 (易行品) にいはく、
龍樹ノ偈ニ云ク、
^「▲かの土の大菩薩は、 日々三時に、
十方の仏を供養したてまつる。 このゆゑに稽首して礼したてまつる」 と。
「彼ノ土ノ大菩薩ハ | 日々於テ↢三時ニ↡ |
供↢養シタテマツル十方ノ仏ヲ↡ | 是ノ故ニ稽首シテ礼シタテマツルト」 |
二 Ⅱ ⅱ j 増進仏道楽
【088431】^第十に△*増進仏道の楽といふは、 いまこの娑婆世界は、 道を修して果を得ることはなはだ難し。 いかんとなれば、 苦を受くるものはつねに憂へ、 楽を受くるものはつねに着す。 苦といひ楽といひ、 解脱を遠離す。 もしは昇もしは沈、 輪廻にあらずといふことなし。
第十ニ増進仏道ノ楽トイフ者、今此ノ娑婆世界ハ修シテ↠道ヲ得ルコト↠果ヲ甚ダ難シ。*云何トナレバ者受クル↠苦ヲ者ハ常ニ憂ヘ、受クル↠楽ヲ者ハ常ニ著ス。苦ト云ヒ楽ト云ヒ、遠↢離ス解脱ヲ↡。若シハ昇若シハ沈、無シ↠非ズトイフコト↢輪廻ニ↡。
^たまたま*発心して修行するものありといへども、 また成就しがたし。 煩悩内に催し、 悪縁外に牽きて、 あるいは二乗の心を発し、 あるいは三悪道に還りぬ。 たとへば、 水のなかの月の、 波に随ひて動きやすく、 陣の前の軍の、 刃に臨みてすなはち還るがごとし。 魚子長じがたく、 *菴菓熟すること少なし。 かの*身子 (舎利弗) 等の、 六十劫に退せるもののごとき、 これなり。
適マ雖モ↠有リト↢発心シテ修行ノ者↡亦難シ↢成就シ↡。煩悩内ニ催シ、悪縁外ニ牽キテ、或イハ発シ↢二乗ノ心ヲ↡、或イハ還リヌ↢三悪道ニ↡。譬ヘバ猶シ↢水ノ中之月ノ随ヒテ↠波ニ易ク↠動キ、*陳ノ前之軍ノ臨ミテ↠刃ニ則チ還ルガ↡。魚子難ク↠長ジ、菴菓少シ↠熟スルコト。如キ↢彼ノ身子等ノ六十劫ニ退セル者ノ↡是也。
^ただ釈迦如来、 無量劫に難行苦行し、 功を積み、 徳を累ねて、 菩薩の道を求めて、 いまだかつて止息したまはず。 三千大千世界を観ずるに、 乃至、 芥子ばかりのごときも、 この菩薩の身命を捨てたる処にあらざること、 あることなし。 衆生のためのゆゑなり。 しかして後に、 すなはち菩提の道を成ずることを得たまへり。
唯シ釈迦如来於テ↢無量劫ニ↡難行苦行シ、積ミ↠功ヲ累ネテ↠徳ヲ、求メマフシテ↢菩薩ノ道ヲ↡、未ダ↢曽ニモ止息シタマハ↡。観ルニ↢三千大千世界ヲ↡、乃至無シ↠有ルコト↧如キモ↢芥子*許ノ↡、非ザルハ↦是ノ菩薩ノ捨テタル↢身命ヲ↡処ニ↥。為ノ↢衆生ノ↡故ニ、然シテ後ニ乃シ得タマヘリ↠成ズルコトヲ↢菩提ノ道ヲ↡。
^その余の衆生はおのが*智分にあらず。 象の子は力微ければ、 身は刀箭に歿す。
其ノ余ノ衆生ハ非ズ↢己ガ智分ニ↡。象ノ子ハ力微クシテ、身ハ*歿ス↢刀箭ニ↡。
^ゆゑに龍樹菩薩のいはく (大智度論・意)、 「▲たとへば四十里の氷に、 もし一人ありて一升の熱湯をもつてこれに投るれば、 当時は氷減ずるに似た0885れども、 夜を経て明に至れば、 すなはち余のものよりも高きがごとし。 ◆凡夫のここにありて発心して、 苦を救はんとするもまたかくのごとし。 貪瞋の境、 順違多きをもつてのゆゑに、 みづから煩悩を起して、 かへりて悪道に堕しぬ」 と。 以上
故ニ龍樹菩薩ノ云ク、「譬ヘバ如キニ↢里ノ氷ノ↡、如シ↧有リテ↢一ノ人↡以テ↢一升ノ熱キ湯ヲ↡投ケバ↠之ヲ、当時ニハ似タレドモ↢氷減ズルニ↡、経テ↠夜ヲ至レバ↠明クルニ、乃チ高キガ↦於余ノ者ヨリモ↥。凡夫ノ在リテ↠此ニ発心シテ、救ハムトスルニ↠苦ヲ亦復如シ↠是クノ。以テノ↢貪瞋ノ境、順違多キヲ↡故ニ、自ラ起シテ↢煩悩ヲ↡、返リテ堕シヌト↢悪道ニ↡。 已上
^かの極楽国土の衆生は、 多くの因縁あるがゆゑに、 畢竟じて退せずして、 仏道に増進す。 一には、 仏の悲願力つねに摂持するがゆゑに。 二には、 仏の光つねに照らして菩提心を増するがゆゑに。 三には、 水・鳥・樹林・風鈴等の声、 つねに念仏・念法・念僧の心を生ぜしむるがゆゑに。 四には、 もつぱらもろもろの菩薩を、 もつて善友となして、 外に悪縁なく、 内に*重惑を伏せるがゆゑに。 五には、 寿命永劫にして、 仏とともに斉等にして、 仏道を修習するに、 生死の間隔あることなきがゆゑに。
彼ノ極楽国土ノ衆生ハ有ルガ↢多クノ因縁↡故ニ、畢1066竟ジテ不シテ↠退セ増↢進ス仏道ニ↡。一ニハ仏ノ悲願力常ニ摂持スルガ故ニ。二ニハ仏ノ光常ニ照シテ増スルガ↢菩提心ヲ↡故ニ。三ニハ水・鳥・樹林・風鈴等ノ声、常ニ令ムルガ↠生ゼ↢念仏・念法・念僧之心ヲ↡故ニ。四ニハ純ニ諸ノ菩薩ヲ以テ為シテ↢善友ト↡、外ニ無ク↢悪縁↡、内ニ伏セルガ↢重*或ヲ↡故ニ。五ニハ寿命永劫ニシテ、共ニ↠仏ト斉等ニシテ、修↢習スルニ仏道ヲ↡、無キガ↠有ルコト↢生死之間隔↡故ニ。
^¬華厳¼ の偈にのたまはく、
¬花厳ノ¼偈ニ云ク、
^「もし衆生ありて一たび仏を見たてまつれば、 かならずもろもろの*業障を浄除せしむ」 と。
「若シ有リテ↢衆生↡一タビ見ルハ↠仏ヲ | 必ズ使ムト↣浄↢除セ諸ノ業障ヲ↡」 |
^一たび見たてまつるすら、 なほしかなり。 いかにいはんやつねに見たてまつるをや。 この因縁によりて、 かの土の衆生は、 あらゆる万物において、 *我・我所の心なし。 去来進止に心係くるところなし。 もろもろの衆生において大悲心を得0886、 自然に増進して、 無生忍を悟り、 究竟してかならず一生補処に至り、 乃至、 すみやかに*無上菩提を証す。
一タビ見ル、尚シ爾ナリ。何ニ況ヤ常ニ見ムヲヤ。由リテ↢此ノ因縁ニ↡彼ノ土ノ衆生ハ、於テ↢所有ノ万物ニ↡無シ↢我・我所ノ心↡。去来進止ニ心无シ↠所↠係クル。於テ↢諸ノ衆生ニ↡得↢大悲心ヲ↡、自然ニ増進シテ、悟ル↢无生忍ヲ↡。究竟シテ必ズ至リ↢一生補処ニ↡、乃至速ニ証ス↢无上菩提ヲ↡。
^衆生のためのゆゑに、 八相を示現し、 縁に随ひ、 厳浄の国土にありて*妙法輪を転じ、 もろもろの衆生を度す。 もろもろの衆生をしてその国を欣求せしむること、 わが今日、 極楽を志願するがごとくす。 また十方に往きて衆生を*引接すること、 弥陀仏の大悲の本願のごとくあらん。
為ノ↢衆生ノ↡故ニ示↢現シ八相ヲ↡、随ヒテ↠縁ニ在リテ↢於厳浄ノ国土ニ↡転ジ↢妙法輪ヲ↡、度ス↢諸ノ衆生ヲ↡。令ムルコト↣諸ノ衆生ヲシテ欣↢求セ其ノ国ヲ↡、如クス↣我ガ今日志↢願スルガ極楽ヲ↡。亦往キテ↢十方ニ↡引↢接スルコト衆生ヲ↡、如クアラム↢弥陀仏ノ大悲ノ本願ノ↡。
^かくのごとき利益、 また楽しからずや。 一世の勤修は、 これ須臾のあひだなり。 なんぞ衆事を棄てて浄土を求めざらんや。 願はくはもろもろの行者、 ゆめ懈ることなかれ。 多くは ¬双巻経¼ (大経)、 ならびに天台 ¬*十疑¼ 等の意による。
如キ↠是クノ利益不↢亦楽カラ↡乎。一世ノ勤修ハ是須臾ノ間ナリ。何ゾ不ラム↧棄テテ↢衆事ヲ↡求メ↦浄土ヲ↥哉。願クハ諸ノ行者努力匪レ↠懈ルコト。多ク依ル↢¬双巻経¼、并ニ天台¬十疑¼等ノ意ニ↡
^龍樹の偈 (十二礼) にいはく、
龍樹ノ偈ニ云ク、
^「▲かの尊の無量方便の境には、 諸趣と悪知識とあることなし。
往生しぬれば退せずして菩提に至る。 ゆゑにわれ、 弥陀仏を頂礼したてまつる。
「彼ノ尊ノ無量ノ方便ノ境ニハ | 無シ↠有ルコト↢諸趣ト悪知識ト↡ |
往生スルハ不シテ↠退セ至ル↢菩提ニ↡ | 故ニ我頂↢礼シタテマツル弥陀仏ヲ↡ |
^◆われかの尊の功徳の事を説くに、 衆善無辺なること海水のごとし。
所獲の善根清浄なるものをもつて、 願はくは衆生とともにかの国に生れん。
^0887願はくはもろもろの衆生とともに、 安楽国に往生せん」 と。
我説クニ↢彼ノ尊ノ功徳ノ事ヲ↡ | 衆善无辺ナルコト如シ↢海水ノ↡ |
所獲ノ善根清浄ナル者ヲモテ | 願クハ共ニ↢衆生ト↡生ぜム↢彼ノ国ニ↡ |
願クハ共ニ↢諸ノ衆生ト↡ | 往↢生セムト安楽国ニ↡」 |
二 Ⅲ 極楽証拠
【32】^大文第三に、 △*極楽証拠を明かさば、 二あり。 ▼一は▽十方に対す。 二は▽兜率に対す。
大1067文第三ニ明サバ↢*極楽ノ証拠ヲ↡者、有リ↠二。一ハ対ス↢十方ニ↡。二ハ対ス↢兜率ニ↡。
二 Ⅲ ⅰ 対十方
【33】^初めに△十方に対すとは、
初ニ対セバ↢十方ニ↡者、
^問はく、 十方に浄土あり。 なんぞただ極楽にのみ生ぜんと願ふや。
問ハク、十方ニ有リ↢浄土↡。何ゾ唯シ願フ↠生ぜムト↢極楽ニノミ↡耶。
^答ふ。 天台大師 (*智顗) のいはく (十疑論・意)、 「▼もろもろの経論、 処々にただ衆生を勧めてひとへに阿弥陀仏を念じ、 西方の極楽世界を求めしめたまへり。 ¬無量寿経¼・¬観経¼・¬*往生論¼ (天親の浄土論) 等の数十余部の経論の文に、 *慇懃に*指授して西方に生ずることを勧めたり。 ここをもつてひとへに念ず」 と。 以上
答フ。天台大師ノ云ク、「諸ノ経論、処々ニ唯勧メテ↢衆生ヲ↡偏ニ念ジ↢阿弥陀仏ヲ↡、令メタマヘリ↠求メ↢西方ノ極楽世界ヲ↡。¬無量寿経¼・¬観経¼・¬往生論¼等ノ数十余部ノ経論ノ文ニ、慇懃ニ指授シテ勧メタリ↠生ゼムコトヲ↢西方ニ↡。是ヲ以テ偏ニ念ズト也。」 已上
^大師 (智顗)、 一切の経論を披閲したまへること、 おほよそ十五遍。 知るべし、 述べたまへるところ、 信ぜずはあるべからず。
大師披↢閲シタマヘルコト一切ノ経論ヲ↡、凡ソ十五遍。応シ↠知ル、所↠述ベタマヘル不↠可カラ↠不ハアル↠信ゼ。
・ 十二経七論
^*迦才師の三巻 ¬*浄土論¼ に、 ▼十二経七論を引けり。 一には ¬*無量寿経¼、 二には ¬*観経¼、 三には ¬*小阿弥陀経¼、 四には ¬*鼓音声経¼、 五には ¬*称揚諸仏功徳経¼、 六には ¬*発覚浄心経¼、 七には ¬*大集経¼、 八には ¬*十往生経¼、 九には ¬*薬師経¼、 十には ¬*般舟三昧経¼、 十一には ¬*大阿弥陀経¼、 十二には ¬*無量清浄平等覚経¼ なり。
迦才師ノ*三巻¬*浄土論¼ニ、引ケリ↢十二経七論ヲ↡。一ニハ¬無量寿経¼、二ニハ¬観経¼、三ニハ¬小阿弥陀経¼、四ニハ¬鼓音声経¼、五ニハ¬称*揚諸仏功徳経¼、六ニハ¬発覚浄心経¼、七ニハ¬大集経¼、八ニハ¬*十往生経¼、九ニハ¬薬師経¼、十ニハ¬般舟三昧経¼、十一ニハ¬大阿弥陀経¼、十二ニハ¬无量清浄平等覚経¼ナリ。
^以上、 ¬双巻無量寿経¼・¬清浄覚経¼・¬大阿弥陀経¼ は同0888本異訳なり。
已上¬双巻无量寿経¼・¬清浄覚経¼・¬大阿弥陀経ハ¼同本異*訳也
^一には ¬*往生論¼、 二には ¬*起信論¼、 三には ¬*十住毘婆沙論¼、 四には一切経のなかの弥陀の偈、 五には ¬*宝性論¼、 六には龍樹の ¬*十二礼¼ の偈、 七には ¬*摂大乗論¼ の弥陀の偈なり。 以上、 *智憬師これに同じ。
一ニハ¬往生論¼、二ニハ¬起信論¼、三ニハ¬十住毘婆*娑論¼、四ニハ一切経ノ中ノ弥陀ノ偈、五ニハ¬宝性論¼、六ニハ龍樹ノ¬十二礼ノ¼偈、七ニハ¬摂大乗論ノ¼弥陀ノ偈ナリ。已上智憬師同ジ↠之ニ
^わたくしに加へていはく、 ¬*法華経¼ の 「*薬王品」、 ¬*四十華厳経¼ の普賢願、 ¬*目連所問経¼・¬*三千仏名経¼・¬*無字宝篋経¼・¬*千手陀羅尼経¼・¬*十一面経¼・¬*不空羂索¼・¬*如意輪¼・¬*随求¼・¬*尊勝¼・¬*無垢浄光¼・¬*光明¼・¬*阿弥陀¼ 等のもろもろの*顕・密教のなかに、 もつぱら極楽を勧めたること、 称計すべからず。 ゆゑにひとへに願求す。
私ニ加ヘテ云ク、¬法華経ノ¼「薬王品」、¬四十花厳経ノ¼普賢願、¬目*連所問経¼・¬三千仏名経¼・¬無字宝篋経¼・¬千手陀羅尼経¼・¬十一面経¼・¬不空羂索¼・¬如意輪¼・¬随求¼・¬尊勝¼・¬無垢浄光¼・¬光明¼・¬阿弥陀¼等ノ諸ノ顕密教ノ中ニ、専ラ勧メタルコト↢極楽ヲ↡、不↠可カラ↢称計ス↡。故ニ偏ニ願1068求ス。
^問ふ。 仏ののたまはく、 「諸仏の浄土は実に差別なし」 と。 なんがゆゑぞ如来はひとへに西方を讃じたまふ。
問フラク、仏ノ言ク、諸仏ノ浄土ハ*実ニ無シト↢差別↡。何ガ故ゾ如来ハ偏ニ讃ジタマフ↢西方ヲ↡。
^答ふ。 ¬*随願往生経¼ に、 仏、 この疑を決してのたまはく、 「娑婆世界は、 人、 貪濁多くして、 *信向のものは少なく、 習邪のものは多くして正法を信ぜず、 専一なることあたはざれば、 心乱れて志なし。 実には差別なけれども、 もろもろの衆生をして専心にあることあらしむ。 このゆゑにかの国土を讃嘆したまふのみ。 もろもろの往生人、 ことごとくかの願に随ひて果を獲ずといふことなし」 と。
答フラク、¬随願往生経ニ¼仏決シテ↢此ノ疑ヲ↡言ク、「娑婆世界ハ人多シ↢貪濁↡。信向ノ者ハ少ク、習邪ノ者ハ多クシテ不↠信ゼ↢正法ヲ↡。不レバ↠能ハ↢専一ニスルコト↡。心乱レテ无シ↠志。実ニハ無ケレドモ↢差別↡、令ム↢諸ノ衆生ヲシテ専心ニ有ラ↟在ルコト。是ノ故ニ讃↢嘆シタマフラク彼ノ国土ヲ↡耳。諸ノ往生人、悉ク随ヒテ↢彼ノ願ニ↡无シト↠不トイフコト↠獲↠果ヲ」。
^また ¬心地観経¼ にのたまはく、 「も0889ろもろの*仏子等、 まさに心を至して一仏および一菩薩を見んと求むべし。 かくのごときを名づけて*出世の法要となす」 と。 云々
又¬心地観経ニ¼云ク、「諸ノ仏子等応ニ当シ↢至シテ↠心ヲ求ム↟見ムト↢一仏及ビ*一菩薩ヲ↡。如キヲ↠是クノ名ケテ為スト↢出世ノ法要ト↡。」云々
^このゆゑに、 もつぱら一仏の国を求めしむるなり。
是ノ故ニ専ラ求メシムル↢一仏ノ国ヲ↡也。
^問ふ。 その心をもつぱらにせんがために、 なんがゆゑぞ中においてただ極楽をしも勧むる。
問ハク、為ニ↠専ニセムガ↢其ノ心ヲ↡、何ガ故ゾ於テ↠中ニ唯勧ムル↢極楽ヲシモ↡*耶。
^答ふ。 たとひ余の浄土を勧むとも、 またこの難を避らじ。 仏意、 測りがたし。 ただ仰ぎて信ずべし。 たとへば、 痴人の、 火坑に堕ちてみづから出づることあたはざらんに、 知識これを救ふに一の方便をもつてせば、 痴人、 力を得て、 務ぎてすみやかに出づべし。 なんの暇ありてか、 縦横に余の術計を論ぜんや。 行者もまたしかり。 他念を生ずることなかれ。
答フラク、設ヒ勧ムトモ↢余ノ浄土ヲ↡、亦不↠避ラ↢此ノ難ヲ↡。仏意難シ↠測リ。唯可シ↢仰ギテ信ズ↡。譬ヘバ若シ↧痴人ノ*堕チテ↢火坑ニ↡不ルガ↞能ハ↢自ラ出ヅルコト↡。知識救フニ↠之ヲ以テセム↢一ノ方便ヲ↡。痴人得ナバ↠力ヲ、応シ↢務ギテ速ニ出ヅ↡。何ノ暇ニカ縦横ニ論ゼムヤ↢余ノ術計ヲ↡。行者モ亦爾リ。勿レ↠生ズルコト↢他念ヲ↡。
^▲¬目連所問経¼ にのたまふがごとし。 「たとへば、 万川の長流に浮べる草木ありて、 前は後を顧ず、 後は前を顧ず、 すべて大海に会まるがごとく、 世間もまたしかり。 豪貴・富楽、 自在なることありといへども、 ことごとく生老病死を免るることを得ず。 ただ仏経を信ぜざるによるに、 後世に人となれども、 さらにはなはだしく困劇して、 千仏の国土に生ずることを得ることあたはず。
如シ↢¬目連所問経ニ¼云フガ↡。「譬ヘバ如ク↧万川ノ長流ニ有リテ↢浮ベル草木↡、前ハ不↠顧ミ↠後ヲ、後ハ不↠顧ミ↠前ヲ、都テ会ルガ↦大海ニ↥、世間モ亦爾リ。雖モ↠有リト↢豪貴・富楽・自在ナルコト↡、悉ク不↠得↠免ルルコトヲ↢生老病死ヲ↡。只由ルニ↠不ルニ↠信ゼ↢仏経ヲ↡、後世ニ為レドモ↠人ト更ニ甚シクシテ困劇シテ、不↠能ハ↠得ルコト↠生ズルコトヲ↢千仏ノ国土ニ↡。
^このゆゑにわれ説く。 ª無量寿仏の国は、 往きやすく取りやすし。 しかるを人、 修行して往生すること0890あたはずして、 かへりて*九十五種の邪道に事ふº と。 われ説きて、 この人を*無眼の人と名づけ、 *無耳の人と名づく」 と。 以上
是ノ故ニ我説ク、無量寿仏ノ国ハ易ク↠往キ易シ↠取リ。而ルヲ人不シテ↠能ハ↢修行シテ往生スルコト↡、反リテ事フ↢九十五種ノ邪道ニ↡。我説キテ是ノ人ヲバ名ク↢無眼ノ人ト↡、名クトイヘリ↢無耳ノ人ト↡。」 *已上
^¬阿弥陀経¼ (意) にのたまはく、 「▲われこの利を見るがゆゑに、 この言を説く。 もし信ずることあるものは、 まさに願を発して、 かの国土に生るべし」 と。 以上
¬阿弥陀経ニ¼云ク、「我見ルガ↢是ノ利ヲ↡故ニ、説ク↢是ノ言ヲ↡。若シ有ラム↠信ズルコト者1069ハ、応ニ当シト↣発シテ↠願ヲ生ル↢彼ノ国土ニ↡。」 已上
^仏の誡め、 慇懃なり。 ただ仰ぎて信ずべし。 いはんやまた機縁なきにあらず。 なんぞ強ひてこれを拒まん。
仏ノ誡慇懃ナリ。唯応シ↢仰ギテ信ズ↡。況ヤ復非ズ↠無キニ↢機縁↡。何ゾ強ヒテ拒ム↠之ヲ。
^天台 (智顗) の ¬十疑¼ (意) にいふがごとし。 「▼阿弥陀仏、 別に大悲の四十八願ましまして、 衆生を*接引したまふ。 またかの仏の光明、 あまねく法界の念仏の衆生を照らして、 *摂取して捨てたまはず。 十方各恒河沙の諸仏、 *舌を舒べて三千界を覆ひ、 一切衆生の、 阿弥陀仏を念じ、 仏の大悲本願力に乗じて、 決定して極楽世界に生るることを得ることを*証成したまへり。
如シ↢天台ノ¬十疑ニ¼云フガ↡。「阿弥陀仏別ニ有シテ↢大悲ノ八願↡、接↢引シタマフ衆生ヲ↡。又彼ノ仏ノ光明遍ク照シテ↢法界ノ念仏ノ衆生ヲ↡、摂取シテ不↠捨テタマハ。十方各恒河沙ノ諸仏、舒ベテ↠舌ヲ覆ヒテ↢三千界ヲ↡、証↧*成シタマヘリトイヘリ一切衆生ノ念ジテ↢阿弥陀仏ヲ↡、乗ジテ↢仏ノ大悲本願力ニ↡、決定シテ得ルコトヲ↞生ズルコトヲ↢極楽世界ニ↡。
^また ¬無量寿経¼ にのたまはく、 ª▲*末後法滅の時に、 ことにこの経を留めて、 百年世にあらしめて、 衆生を接引して、 かの国土に生れしめんº と。 ゆゑに知りぬ、 阿弥陀仏と、 この世界の極悪の衆生とは、 ひとへに因縁ありといふことを」 と。 以上
*又¬無量寿経ニ¼云ク、*末後法滅之時ニ、特ニ留メテ↢此ノ経ヲ↡百年在ラシメテ↠世ニ、接↢引シテ衆生ヲ↡、生レシメムト↢彼ノ国土ニ↡。故ニ知リヌ、阿弥陀*仏ト与ニ↢此ノ世界ノ極悪ノ衆生ノ↡、偏ニ有スト↢因縁↡。」 已上
^*慈恩 (窺基) のいはく (*西方要決)、 「末法万年に、 余経はことごとく滅して、 弥陀の一教は*物を利することひとへに増せらん。 大聖 (釈尊) ことに留めたまふこと0891百歳なり。 時に末法を経ること一万年に満たば、 一切の諸経はならびに従ひて滅没せん。 釈迦の恩重くして、 教を留めたまへること百年なり」 と。 以上
慈恩ノ云ク、「*末法万年ニ余経ハ悉ク滅シテ、弥陀ノ一教ハ利スルコト↠物ヲ偏ニ増セラム。大聖特ニ留メタマフコト百歳ナリ。時ニ経テ↢*末法ヲ↡満テテ↢一万年ヲ↡、一切ノ諸経ハ並ニ従ハム↢滅没ニ↡。釈迦ノ恩重クシテ、留メタマヘルコト↠教ヲ百年ナリト。」 已上
^また*懐感禅師のいはく (群疑論)、 「¬般舟三昧経¼ に説かく、 ª跋陀和菩薩、 釈迦牟尼仏を請じてまうさく、 «未来の衆生は、 いかんしてか十方の諸仏を見たてまつることを得ん» と。 仏教へて、 阿弥陀を念ぜしめたまふに、 すなはち十方一切の仏を見たてまつるº と。 この仏、 ことに娑婆の衆生と縁あるをもつて、 先づこの仏において心をもつぱらにして称念すれば、 三昧成じやすきなり」 と。 以上
又懐感禅師ノ云ク、「¬般舟三昧経ニ¼説カク、跋陀和菩薩請ジテ↢釈迦牟尼仏ヲ↡言ク、未来ノ衆生ハ、云何シテカ得ムト↠見タテマツルコトヲ↢十方ノ諸仏ヲ↡。仏教ヘテ、令メタマヘリ↧念ジテ↢阿弥*陀ヲ↡即チ見↦十方一切ノ仏ヲ↥。以テ↧此ノ仏特ニ与ニ↢娑*婆ノ衆生ノ↡有ルヲ↞縁、先ヅ於テ↢此ノ仏ニ↡専ニシテ心ヲ称念スレバ、三昧易キナリト↠成リ。」 已上
^また*観音・勢至は、 ▲本はこの土にして菩薩の行を修して、 転じてかの国に生じたまへり。 *宿縁の追ふところ、 あに*機応なからんや。
又観音・勢至ハ、本ハ於テ↢是ノ土ニ↡修シテ↢菩薩ノ行ヲ↡、転ジテ生ジタマヘリ↢彼ノ国ニ↡。宿縁ノ所↠追フ豈ニ無カラム↢機応↡耶。
二 Ⅲ ⅱ 対兜率
【34】^第二に△兜率に対すとは、
第二ニ対セバ↢兜率ニ↡者、
^問はく、 *玄奘三蔵のいはく、 「西方の道俗ならびに弥勒の業をなす。 同じく欲界にしてその行成じやすきがためなり。 大小乗の師、 みなこの法を許す。 弥陀の浄土は、 おそらくは*凡鄙穢れて修行成じがたからん。
問ハク、玄奘三蔵ノ云ク、「西方ノ道俗並ニ作ル↢弥勒ノ業ヲ↡。為ニナリ↢同ジク欲界1070ニシテ其ノ行易キガ↟成リ。大小乗ノ師皆許ス↢此ノ法ヲ↡。弥陀ノ浄土ハ、恐クハ凡ソ鄙穢ニシテ修行難カラム↠成リ。
^*旧き経論のごときは、 *七地以上の菩薩、 分に随ひて*報仏の浄土を見ると。 *新論の意によらば、 三地の菩薩、 はじめて報仏の浄土を見ることを得べし。
如シ↢旧キ経論ノ↡。七地已上ノ菩薩随ヒテ↠分ニ見ルト↢報仏ノ浄土ヲ↡。依ラバ↢新論ノ意ニ↡、三地ノ菩薩始テ可シ↠得↠見ルコトヲ↢報仏ノ浄土ヲ↡。
^あに下品の凡夫、 すなはち往生することを得べけんや」 と。 以上 天竺 (印0892度) すでにしかり。 いまなんぞ極楽を勧むるや。
豈ニ容ケムヤト↣下品ノ凡夫即チ得↢往生ズルコトヲ↡。」 已上 天竺既ニ爾リ。今何ゾ勧ムル↢極楽ヲ↡耶。
^答ふ。 *中国・辺州、 その処異なりといへども、 顕密の教門は、 その理これ同じ。 いま引くところのごとき証拠、 すでに多し。 いかんぞ仏教の明らかなる文に背きて、 天竺の風聞に従ふべけんや。
答フ。中国・辺*州、其ノ処雖モ↠異ナリト、顕密ノ教門ハ其ノ理是同ジ。如キ↢今所ノ↟引ク証拠既ニ多シ。寧ゾ可ケム↧背キテ↢仏教之明カナル文ヲ↡従フ↦天竺之風聞ニ↥耶。
^いかにいはんや、 祇園精舎の無常院には、 病者をして西に面かへて、 仏 (阿弥陀仏) の*浄刹に往く想をなさしめんや。 つぶさには、 ▽下の臨終の行儀のごとし。 あきらかに知りぬ、 仏意ひとへに極楽を勧むるにあり。 *西域の風俗、 あにこれに乖かんや。
何ニ況ヤ、祇洹精舎ノ無常院ニハ、令ム↧病者ヲシテ面ヘテ↠西ニ作サ↦往ク↢仏ノ浄刹ニ↡想ヲ↥。具ニハ如シ↢下ノ臨終ノ行儀ノ↡。明カニ知リヌ仏意*偏ニ*在リ↠勧ムルニ↢極楽ヲ↡。西*域ノ風俗豈ニ乖カム↠之ニ耶。
^また懐感禅師の ¬群疑論¼ には、 極楽・兜率において十二の勝劣を立てたり。
又*懐感禅師ノ¬*群疑論ニハ¼於テ↢極楽・兜率ニ↡立テタリ↢十二ノ勝劣ヲ↡。
^「一には*化主の仏と菩薩と別なるがゆゑに。
「一ニハ化主ノ、仏ト菩薩ト別ナルガ故ニ。
^二には浄・穢土の別。
二ニハ浄穢土ノ別。
^三には女人の有無。
三ニハ女人ノ有無。
^四には寿命の長短。
四ニハ寿命ノ長短。
^五には*内・外の有無。 兜率は、 内院は退せず、 外院は退あり。 西方は内・外なし、 また退なし。
五ニハ内外ノ有無。*兜率ハ内院ハ不↠退セ、外院ハ有リ↠退。西*方*无シ↢内外↡。*亦無シ↠退
^六には五衰の有無。
六ニハ五衰ノ有無。
^七には相好の有無。
七ニハ相好ノ有無。
^八には五通の有無。
八ニハ五通ノ有无。
^九には不善心の起・不起。
九ニハ不善心ノ起不起。
^十には滅罪の多少。 いはく、 弥勒の名を称するには千二百劫の罪を除く。 弥陀の名を称するには八十億劫の罪を滅す。
十ニハ滅罪ノ多少。謂ク称スルニハ↢弥勒ノ名ヲ↡除ク↢千二百劫ノ罪ヲ↡。称スルニハ↢弥陀ノ名ヲ↡滅ス↢八十億劫ノ罪ヲ↡。
^十一には苦受の有無。
十一ニハ苦受ノ有无。
^十二には受生の異。 兜率は男女の膝の下、 懐のなかにあり。 西方は華のうち、 殿のなかにあり。
十二ニハ受生ノ異。*兜率ハ在リ↢男女ノ膝ノ下、懐ノ中ニ↡。西方ハ在リ↢華ノ裏、殿ノ中ニ↡。
^二処の勝劣、 その義かくのごとしといへども、 しかもならびに仏は勧め讃じたまへ0893り。 あひ是非することなかれ」 (意) と。 以上、 おほよそ二界勝劣・差別を立つ。
雖モ↢二処ノ勝*劣其ノ義如シト↟斯クノ、然モ並ニ仏ハ勧メ讃ジタマヘリ。莫レト↢相是非スルコト↡。」已上凡ソ立ツ↢二界勝劣ノ差別ヲ↡
^慈恩 (窺基) は十の異を立てたり。 前の八は感禅師 (懐感) の所立を出でず。 ゆゑにさらに抄せず。
慈恩ハ立テタリ↢十ノ異ヲ↡。前ノ八ハ不↠出デ↢感*禅師ノ所立ヲ↡。故ニ不↢更ニ抄セ↡。
^その第九にいはく (西方要決・意)、 「西方は、 仏、 来迎したまふ。 兜率はしからず」 と。 感師は 「来迎は同じ」 (群疑論・意) といふ。
其ノ第九ニ云ク、「西方ニハ仏来迎シタマフ。兜率ハ不ト↠爾ラ。」感師ハ云1071フ↢「来迎ハ同ジト」↡也。
^第十にいはく (西方要決・意)、 「西方は、 経論に慇懃に勧めたまふこときはめて多し。 兜率は多からず、 また慇懃にあらず」 と。 云々
第十ニ云ク、「西方ハ経論ニ慇懃ニ勧メタマフコト極テ多シ。兜率ハ非↠多カラ、亦ハ非ト↢慇懃ナラ↡。」云々
^感師 (懐感) また往生の難易において、 十五の同の義、 八の異の義を立てたり。 八の異の義とは (群疑論・意)、
感師又於テ↢往生ノ難易ニ↡、立テタリ↢十五ノ同ノ義、八ノ異ノ義ヲ↡。八ノ異ノ義ト者、
^「一には本願の異。 いはく、 弥陀には▲*引摂の願あり。 弥勒には願なし。 願なきは、 みづから浮ぎて水を度るがごとし。 願あるは、 舟に乗りて水に遊ぶがごとし。
「一ニハ本願ノ異。謂ク弥陀ニハ有リ↢引摂ノ願↡。弥勒ニハ無シ↠願。無キハ↠願若シ↢自ラ浮ギテ度ルガ↟水ヲ。有ルハ↠願若シ↢乗ジテ↠舟ニ而遊ブガ↟水ニ。
^二には光明の異。 いはく、 弥陀仏の光は、 念仏の衆生を照らして、 摂取して捨てたまはず。 弥勒はしからず。 光の照らすは、 昼日の遊びのごとく、 光なきは、 暗のなかに来往するに似たり。
二ニハ光明ノ異。謂ク弥陀仏ハ光ハ照シテ↢念仏ノ衆生ヲ↡、摂取シテ不↠捨テタマハ。弥勒ハ不↠爾ラ。光ヲモテ照スハ如シ↢昼日之遊ノ↡。無キハ↠光似タリ↢暗ノ中ニ来往スルニ↡。
^三には守護の異。 いはく、 無数の化仏・観音・勢至、 つねに行者の所に至りたまふ。 また ¬称讃浄土経¼ にのたまはく、 ª▲十方の十恒河沙の諸仏の、 *摂受するところなりº と。 また ¬十往生経¼ にのたまはく、 ª仏、 二十五の菩薩を遣はして、 つねに行人を守護せしむº と。
三ニハ守護ノ異。謂ク無数ノ化仏・観音・勢至、常ニ至リタマフ↢行者ノ所ニ↡。又¬称讃浄土経ニ¼云ク、十方ノ十兢伽沙ノ諸仏之所ナリト↢摂受スル↡。又¬十往生経ニ¼云ク、仏遣シテ↢廿五ノ菩薩ヲ↡常ニ守↢護セシムト行人ヲ↡。
^兜0894率はしからず。 護りあるは、 多くの人ともに遊ぶに、 強賊に逼めらるることを畏ぢざるがごとし。 護りなきは、 孤り*嶮径に遊ぶに、 かならず暴客のために侵さるるに似たり。
兜率ハ不↠爾ラ。有ルハ↠護リ若シ↢多クノ人共ニ遊ブニ、不ルガ↟畏ヂ↢強賊ニ所ムコトヲ↟逼サ。無キハ↠護リ似タリ↧孤遊ブニ↢嶮径ニ↡、必ズ為ニ↢暴客ノ↡所ルニ↞侵サ。
^四には*舒舌の異。 いはく、 十方の仏、 舌を舒べて証成したまふ。 兜率はしからず。
四ニハ舒舌ノ異。謂ク十方ノ仏舒ベテ↠舌ヲ証*成シタマフ。兜率ハ不↠爾ラ。
^五には衆聖の異。 いはく、 華聚菩薩・山海慧菩薩、 *弘誓願を発さく、 ªもし一衆生として、 西方に生るること尽きざることあらんに、 われもし先づ去らば、 正覚を取らじº と。
五ニハ衆聖ノ異。謂ク花聚菩薩・山海*慧菩薩、発サク↢弘誓願ヲ↡、若シ有リテ↣一衆生トシテモ生ズルコト↢西方ニ↡不ラムニ↠尽キ、我若シ先ヅ去レバ、不ト↠取ラ↢正覚ヲ↡。
^六には滅罪の多少。 同前
六ニハ滅罪ノ多少。*同前
^七には重悪の異。 いはく、 五逆罪を造れるものも、 また西方に生るることを得。 兜率はしからず。
七ニハ重悪ノ異。謂造レルハ↢五逆罪ヲ↡亦得↠生ズルコトヲ↢西方ニハ↡。兜率ハ不↠爾ラ。
^八には教説の異。 いはく、 ¬無量寿経¼ にのたまはく、 ª▲横に五の悪趣を截り、 悪趣自然に閉ぢ、 道に昇るに窮極なからん。 往きやすくして人なしº と。 兜率はしからず。
八ニハ教説ノ異。謂ク¬無量寿経ニ¼云ク、横ニ截リ↢五ノ悪趣ヲ↡、悪趣自然ニ閉ヂテ、昇↠道無窮ナリ。極テ易ケレドモ↠往キ而無シト↠人。兜率ハ不↠*爾ラ。
^十五の同の義あらん。 なほ生じがたしと説くべからず。 いはんや、 異に八の門あり。 しかるをすなはち説きて、 往きがたしといはんや。 請ふ、 もろもろの学者、 理および教を尋ねて、 その*難易の二の門を鑑みて、 永くその惑ひを除くべし」 と。 以上略抄。 ただ十五の同の義、 かの ¬論¼ (群疑論) を見るべし。
十五ノ同ノ義アラム。猶不↠可カラ↠説ク↢於難シト↟生ジ。況ヤ異ニ有リ↢八ノ門↡。而ルヲ乃チ説キテ言ハムヤ↠難シト↠往キ。請フ、諸ノ学者尋ネテ↢理及ビ教ヲ↡、鑑ミテ↢其ノ難易ノ二ノ門ヲ↡、可1072シト↣永ク除ク↢其ノ*或ヲ↡矣。」已上略抄。但十五ノ同ノ義、可シ↠見ル↢彼ノ¬論ヲ¼↡
^問はく、 玄奘の伝ふるところ、 会せずはあるべからず。
問ハク、玄奘ノ所↠伝フル、不↠可カラ↠不ハアル↠会セ。
^答ふ。 西域の行法、 暗0895ければ決しがたきも、 いま試みに会していはく、 かの土の行者、 多く小乗にあり。
答フラク、西*域ノ行法暗ニ以テ難シ↠決シ。今試ニ会シテ云ク、*彼ノ土ノ行者、多ク有リ↢小乗ニ↡。
^*相伝にいはく、 「十五国は大乗を学し、 十五国は大小兼学す。 四十一国は小乗を学す」 と。
*相伝ニ云ク、「十五国ハ学シ↢大乗ヲ↡、十五国ハ大小兼学ス。一国ハ学スト↢小乗ヲ↡。」
^兜率に上生することをば、 大小ともに許せり。 他方の仏土に往くことをば、 大は許して小は許さず。 かれをばともに許せるがゆゑに、 ならびに兜率といふか。
上↢生スルコトヲバ兜率ニ↡大小共ニ許セリ。往クコトヲバ↢他方ノ仏土ニ↡大ハ許シテ小ハ不↠許サ。彼ヲバ共ニ許セルガ故ニ、並ニ云フカ↢兜率ト↡。
^*流沙以東盛りに大乗を興す。 かの西域の雑行には同ずべからず。 いかにいはんや、 諸教の興隆はかならずしも一時ならず。 就中、 念仏の教は、 多く末代の、 経道滅して後の濁悪の衆生を利す。 はかりみるに、 かの時には、 天竺 (印度) にいまだ興盛ならざりしか。 もししからずは、 上足の*基師、 あに別に ¬西方要決¼ を著して、 十の勝劣を立てて、 自他を勧むべけんや。
流沙以東盛ニ興ス↢大乗ヲ↡。不↠可カラ↠同ズ↢彼ノ西*域ノ雑行ニハ↡。何ニ況ヤ、諸教ノ興隆ハ不↢必ズシモ一時ナラ↡。就キテ↠中ニ念仏之教ハ多ク利ス↢末代ノ経道滅シテ後ノ濁悪ノ衆生ヲ↡。*計也ニ、彼ノ時ニハ天竺ニ未ダル↢興盛ナラ↡歟。若シ不ハ↠爾ラ者、上足ノ基師豈ニ容ケム↧別ニ著シテ↢¬西方要決ヲ¼↡、立テテ↢十ノ勝劣ヲ↡勧ム↦自他ヲ↥耶。
^問ふ。 ¬心地観経¼ にのたまはく、 「われいまの弟子をば弥勒に付す。 *↓竜華会のなかに解脱を得ん」 と。 あに如来 (釈尊) の、 兜率を勧進めたまふにあらずや。
問フ。¬心地観経ニ¼云ク、「我今ノ弟子ヲバ付ク↢弥勒ニ↡。竜花会ノ中ニ得シメヨト↢解脱ヲ↡。」豈ニ非ズ↣如来ノ勧↢進メタマフニ兜率ヲ↡*耶。
^答ふ。 これまた違することなし。 たれか、 *¬上生¼・¬心地¼ 等の両三の経をば*遮せん。 しかも極楽の文の、 顕密に*且千なるにはしかず。
答フ。此亦无シ↠違スルコト。誰カハ遮スル↢¬上生¼・¬心地¼等ノ両三ノ経ヲバ↡。然モ不ズ↠如クニハ↢極楽之文ノ顕密ニ且千ナルガ↡。
^また ¬*大悲経¼ の第三 (意) にのたまはく、 「*当来の世に、 法の滅せんと欲する時に、 まさに比丘・比丘尼ありて、 わが法のなかにおいて出家を得をはり、 手に児の臂を0896牽きてともに遊行し、 酒家より酒家に至りて、 わが法のなかにおいて*非梵行をなすべし。 乃至
又¬大悲経ノ¼第三ニ云ク、「於テ↢当来ノ世ニ↡法ノ欲セム↠滅セムト時ニ、当ニ有リテ↢比丘・比丘尼↡、於テ↢我ガ法ノ中ニ↡得↢出家ヲ↡已リテ、手ニ牽キテ↢児ノ臂ヲ↡而共ニ遊行シ、従リ↢酒家↡至リテ↢*酒家ニ↡、於テ↢我ガ法ノ中ニ↡作サム↢非梵行ヲ↡。乃至
^ただ性はこれ沙門なれども、 沙門の行を汚してみづから沙門と称し、 形は沙門に似て、 まさに袈裟衣を被着することあるべきものは、 この*賢劫において、 弥勒を首めとなし、 乃至、 最後の盧遮仏の所にして*般涅槃に入りて、 遺余あることなからん。
但使シ性ハ是沙門ニシテ、汚シテ↢沙門ノ行ヲ↡、自ラ称シ↢沙門ト↡、形ハ似テ↢沙門ニ↡当カラム↠有ル↣被↢著スルコト袈裟衣ヲ↡者ハ、於テ↢此ノ賢劫ニ↡弥勒ヲ為テ↠首ト、乃至最後ノ盧*遮仏ノ所ニシテ入ルコト↢般涅槃ニ↡、無ケム↠有ルコト↢遺余↡。
^なにをもつてのゆゑに。 かくのごとく一切のもろもろの沙門のなかに、 乃至、 一たびも仏の名を称し、 一たびも信をなすものは、 所作の功徳つひに*虚設ならざればなり」 と。 以上
何ヲ以テノ故ニ。如ク↠是クノ一切ノ諸ノ沙門ノ中ニ、乃至一タビモ称シ↢仏ノ名ヲ↡、一タビモ生サム↠信ヲ者ハ、所作ノ功徳終ニ不レバナリト↢虚設セ↡。 已上
^¬心地観経¼ の意、 またかくのごとし。 ゆゑにかの ¬経¼ (同) に、 「↑竜華」 とのたまひて 「兜率」 とはのたまはず。
¬心地1073観経ノ¼意、亦如シ↠是クノ。故ニ彼ノ¬経ニ¼云テ↢竜花ト↡不↠云ハ↢*覩率トハ↡。
^いまこれを案ずるに、 釈尊の入滅より慈尊 (弥勒) の出世に至るまで、 *五十七倶胝六十百千歳を隔てたり。 ¬*新婆沙¼ の意。 そのあひだの輪廻、 劇苦いくばくぞ。 なんぞ、 終焉の暮、 すなはち*蓮胎に託することを願はずして、 悠々たる生死に留まりて、 竜華会に至ることを期せんや。
今案ズルニ↠之ヲ、従リ↢釈尊ノ入滅↡至ルマデニ↢慈尊ノ出世ニ↡、隔テタリ↢五十七倶胝六十百千歳ヲ↡。¬新婆*娑ノ¼*意 其ノ間ノ輪廻劇苦幾処ゾ乎。何ゾ不シテ↠願ハ↣終焉之暮即チ託セムコトヲ↢蓮*胎ニ↡而期セム↧留マリテ↢悠々タル生死ニ↡、至ラムコトヲ↦*於竜花会ニ↥耶。
^いかにいはんや、 もしたまたま極楽に生れなば、 昼夜に、 念に随ひて兜率宮に往来し、 乃至、 竜華会のなかに、 新たに*対揚の首となること、 なほ富貴にして故郷に帰るがごとし。 いづれの人か、 この事を欣楽せざらんや。
何ニ況ヤ若シ適マ生レナバ↢極楽ニ↡者、昼夜ニ随ヒテ↠念ニ往↢来シ*覩率宮ニ↡、乃至竜花会ノ中ニ新ニ為ラムコト↢対*揚ノ首ト↡、猶如ケム↣富貴ニシテ而帰ルガ↢*於故郷ニ↡。誰ノ人カ不ラム↣欣↢楽セ此ノ事ヲ↡耶。
^もし別縁あるものは、 *余方もまた佳し0897。 おほよそ*意楽に随ふべし。 *異執を生ずることなかれ。
若シ有ラム↢別縁↡者ハ余方モ亦佳シ。凡ソ可シ↠随フ↢意楽ニ↡。勿レ↠生ズルコト↢異執ヲ↡。
^ゆゑに感法師 (懐感) のいはく (群疑論)、 「兜率を志求するものは、 西方の行人を毀ることなかれ。 西方に生れんと願ずるものは、 兜率の業を毀ることなかれ。 おのおの*性欲に随ひて、 情に任せて修学せよ。 あひ是非することなかれ。 なんぞただ勝処に生れざるのみならん。 またすなはち三途に輪転しなん」 と。 云々
故ニ感法師ノ云ク、「志↢求セム兜率ヲ↡者ハ、勿レ↠毀ルコト↢西方ノ行人ヲ↡。願ゼム↠生レムト↢西方ニ↡者ハ、莫レ↠毀ルコト↢兜率之業ヲ↡。各ノ随ヒテ↢性欲ニ↡任セテ↠情ニ修学セヨ。莫レ↢相是非コト↡。何ゾ但不ルノミナラム↠生レ↢勝処ニ↡。亦乃チ輪↢転シナムト三途ニ↡。」云々
二 Ⅳ 正修念仏
ⅰ 総明
【35】^大文第四に、 △*正修念仏といふは、 これにまた五あり。 世親菩薩の ¬往生論¼ (浄土論) にいふがごとし。 「▲五念門を修して行成就しぬれば、 畢竟じて安楽国土に生れて、 かの阿弥陀仏を見たてまつることを得。 ◆一には▽礼拝門、 二には▽讃嘆門、 三には▽作願門、 四には▽観察門、 五には▽回向門なり」 と。 云々
大文第四ニ正修念仏トイフ者、此ニ亦有リ↠五。如シ↢*世親菩薩ノ¬往生論ニ¼云フガ↡。「修スルコト↢五念門ノ行ヲ↡成*就セルハ、畢竟ジテ得↧生レテ↢安楽国土ニ↡見タテマツルコトヲ↦彼ノ阿弥陀仏ヲ↥。一ニハ礼拝門、二ニハ讃嘆門、三ニハ作願門、四ニハ観察門、五ニハ廻向門ナリト。」云々
^このなかに、 作願・回向の二門は、 もろもろの行業において、 通じてこれを用ゐるべし。
此ノ中ニ作願・廻向ノ二門ハ、於テ↢諸ノ行業ニ↡応シ↣通↢用ス之ヲ↡。
二 Ⅳ ⅱ 別釈
a 礼拝門
【36】^初めに△礼拝門といふは、 これすなはち三業相応の身業なり。 一心に帰命して五体を地に投げて、 はるかに西方の阿弥陀仏を礼するなり。 多少をば論ぜず、 ただ誠心を用ゐよ。
初ニ礼拝*門トイフ者、是即チ三業相応之身業也。一心ニ帰命シテ五体ヲ投ゲテ↠地ニ、遥ニ礼スルナリ↢西方ノ阿弥陀仏ヲ↡。不↠論ゼ↢多少ヲバ↡、但用ヰル↢誠心ヲ↡。
^あるいは ¬観仏三昧経¼ の文を念ふべし。 「われいま、 一仏を礼するは、 すなはち一切の仏を礼するなり。 もし一仏を思惟すれば、 すな0898はち一切の仏を見たてまつるなり。 一々の仏の前に一の行者ありて、 接足して礼をなすは、 みなこれおのが身なり」 と。
或イハ応シ↠念フ↢¬観仏三昧経ノ¼文1074ヲ↡。「我今礼スルニ↢一仏ヲ↡、即チ礼スルナリ↢一切ノ仏ヲ↡。若シ思↢惟スレバ一仏ヲ↡、即チ見タテマツルナリ↢一切ノ仏ヲ↡。一々ノ仏ノ前ニ有リテ↢一ノ行者↡、接足シテ為スハ↠礼ヲ。皆是己ガ身ナリト。」
^わたくしにいはく、 「一切仏」 とは、 これ弥陀の分身なり。 あるいはこれ十方の一切の諸仏なり。
私ニ*云ク、一切仏ト者、是弥陀ノ分身ナリ。或イハ是十方ノ一切ノ諸仏ナリ
^あるいは念ふべし。
或イハ応シ↠念フ。
^「*能礼・所礼、 性空寂なり。 自身・他身、 体無二なり。
願はくは衆生とともに道を体解して、 *無上の意を発して*真際に帰せん」 と。
「能礼所礼性空寂ナリ | 自身他身体無二ナリ
|
願クハ共ニ↢衆生ト↡体↢解シテ道ヲ↡ | 発シテ↢無上ノ意ヲ↡帰セムト↢真際ニ↡」 |
^あるいは ▼¬心地観経¼ の六種の功徳によるべし。 「▽一には無上大功徳田なり。 ▽二には無上大恩徳なり。 ▽三には無足・二足および多足の衆生のなかの尊たり。 ▽四にはきはめて値遇しがたきこと*優曇華のごとし。 ▽五には独り三千大千世界に出でたまふ。 ▽六には世・出世間の*功徳円満して、 一切の義の依たり。 かくのごとき等の六種の功徳を具して、 つねによく一切衆生を利益したまふ」 と。 以上
或イハ応シ↠依ル↢¬心地観経ノ¼六種ノ功徳ニ↡。「一ニハ無上大功徳田ナリ。二ニハ無上大恩徳イマス。三ニハ無足・二足及以多足ノ衆生ノ中ノ尊タリ。四ニハ極テ難キコト↢値遇シ↡如シ↢優曇花ノ↡。五ニハ独リ出デタマフ↢三千大千世界ニ↡。六ニハ世・出世間ノ功徳円満シテ、一切ノ義ノ依タリ。具シテ↢如キ↠此クノ等ノ六種ノ功徳ヲ↡、常ニ能ク利↢益シタマフト一切衆生ヲ↡。」 已上
^経の文は、 きはめて略なり。 いますべからく言を加へて、 もつて礼の法をなさん。
経ノ文ハ極テ略セリ。今須ク加ヘテ↠言ヲ、以テ為サム↢礼ノ法ヲ↡。
^▼一には念ふべし。
一ニハ応シ↠念フ。
^一たび 「南無仏」 と称するものは、 みなすでに仏道を成ず。
ゆゑにわれ、 無上功徳田を帰命し礼したてまつる。
一タビ称スルモノハ↢南無仏ト↡ | 皆已ニ成ル↢仏道ヲ↡ |
故ニ我帰↢命シテ礼シタテマツル↢ | 無上功徳田ヲ↡ |
^◆二には念ふべし。
二ニハ応シ↠念フ。
^0899慈眼をもつて衆生を視そなはすこと、 平等にして一子のごとし。
ゆゑにわれ、 極大慈悲母を帰命し礼したてまつる。
慈眼ニ視ソナハスニ↢衆生ヲ↡ | 平等ニシテ如シ↢一子ノ↡ |
故ニ*我帰↢命シテ礼シタテマツル↢ | 極大慈悲母ヲ↡ |
^◆三には念ふべし。
三ニハ応シ↠念ズ。
^十方のもろもろの大士、 弥陀尊を恭敬したてまつる。
ゆゑにわれ、 無上両足の尊を帰命し礼したてまつる。
十方ノ諸ノ大士 | 恭↢敬シタテマツル弥陀尊ヲ↡ |
故ニ我帰↢命シテ礼シタテマツル↢ | 無上両足ノ尊ヲ↡ |
^◆四には念ふべし。
四ニハ応シ↠念フ。
^一たび仏の名を聞くことを得ることは、 優曇華よりも過ぎたり。
ゆゑにわれ、 きはめて値遇しがたきものを帰命し礼したてまつる。
一タビ得ルコトハ↠聞クコトヲ↢仏ノ名ヲ↡ | 過ギタリ↢於優曇花ニ↡ |
故ニ我帰↧命シテ礼シタテマツル↧ | 極テ難キ↢値遇シ↡者ヲ↥ |
^◆五には念ふべし。
五ニハ応シ↠念フ。
^*一百倶胝の界には、 二尊並び出でたまはず。
ゆゑにわれ、 希有の大法王を帰命し礼したてまつる。
一百倶胝ノ界ニハ | 二尊不↢並ビ出デタマハ↡ |
故ニ我帰↢命シテ礼シタテマツル↢ | 希有ノ大法王ヲ↡ |
^◆六には念ふべし。
六ニハ応シ↠念フ。
^仏法のもろもろの徳海は、 三世同じく一体なり。
ゆゑにわれ、 円融万徳の尊を帰命し礼したてまつる。
仏法ノ衆ノ徳海ハ | 三世同ク一体ナリ |
故ニ我帰↢命シテ礼シタテマツル↢ | 円融万徳ノ尊ヲ↡ |
^もし広く行ずることを楽はば、 龍樹菩薩の ¬十二礼¼ によるべし。 また善導和尚0900の ¬*六時の礼法¼ あり。 つぶさに出すべからず。
若シ楽ハバ↢広ク行スルコトヲ↡者、応シ↠依ル↢龍樹菩薩ノ¬十二礼ニ¼↡。又有リ↢善導和尚ノ六時ノ礼法↡。不↠可カラ↢具ニ出ス↡。
^たとひ余行なくとも、 ただ礼拝によりてまた往生することを得。 ¬*観虚空蔵菩薩仏名経¼ にのたまふがごとし。 「阿弥陀仏を心を至して敬礼すれば、 三悪道を離れて、 後にその国に生るることを得」 と。 以上
設ヒ無クトモ↢余行↡但依リテ↢礼拝1075ニ↡亦得↢往生スルコトヲ↡。如シ↢¬観虚空蔵菩薩仏名経ニ¼云フガ↡。「阿弥陀仏ヲ至シテ↠心ヲ敬礼スレバ、得テ↠離ルルコトヲ↢三悪道ヲ↡、後ニ生ルト↢其ノ国ニ↡。」 *已上
二 Ⅳ ⅱ b 讃嘆門
【37】^第二に△讃嘆門といふは、 これ三業相応の口業なり。 *¬十住婆沙¼ の第三にいふがごとし。 「▲阿弥陀仏の本願、 かくのごとし。 ªもし人、 われを念じ、 名を称してみづから帰すれば、 すなはち必定に入りて阿耨菩提を得º と。 ◆このゆゑにつねに憶念すべし。
第二ニ讃嘆*門トイフ者、是三業相応之口業也。如シ↢¬十住婆*娑ノ¼第三ニ云フガ↡。「阿弥陀仏ノ本願如シ↠是クノ。若シ人念ジ↠我ヲ称シテ↠名ヲ自ラ帰スルハ、即チ入ルト↣必定シテ得ルニ↢阿耨菩提ヲ↡。是ノ故ニ常ニ応シ↢憶シテ念ズ↡。
^◆偈をもつて ˆ阿弥陀仏をˇ 称讃せん。
以テ↠偈ヲ称讃ス。
^◆無量の光明慧あり。 身は真金山のごとし。
われいま身口意をもつて、 合掌し稽首し礼したてまつる。
無量ノ光明慧マシマシテ | 身ハ如シ↢真金山ノ↡ |
我今身口意ヲモテ | 合掌シテ稽首シ礼ス |
^▲十方現在の仏、 種々の因縁をもつて、
かの仏の功徳を嘆じたまふ。 われいま帰命し礼したてまつる。
十方現在ノ仏 | 以テ↢種々ノ因縁ヲ↡ |
嘆ジタマフ↢彼ノ仏ノ功徳ヲ↡ | 我今帰命シテ礼ス |
^▲仏の足には千輻輪ありて、 柔軟にして蓮華の色なり。
見るものみな歓喜す。 頭面をもつて仏足を礼したてまつる。
仏ノ足ニハ千輻輪アリテ | 柔軟ニシテ蓮花ノ色ナリ |
見ル者皆歓喜ス | 頭面ニ礼ス↢仏足ヲ↡ |
^◆眉間の白毫の光は、 なほ清浄なる月のごとし。
0901面の光色を増益す。 頭面をもつて仏足を礼したてまつる。
眉間ノ白毫ノ光ハ | 猶如クシテ↢清浄ノ月ノ↡ |
増↢益ス面ノ光色ヲ↡ | 頭面ニ礼ス↢仏足↡ |
^▲かの仏の言説したまふところ、 もろもろの罪根を破除す。
美言にして益するところ多し。 われいま稽首して礼したてまつる。
彼ノ仏ノ所ハ↢言説キタマフ↡ | 破↢除ス諸ノ罪根ヲ↡ |
美言ニシテ多シ↠所↠益スル | 我今稽首シテ礼シタテマツル |
^▲一切の賢聖衆、 およびもろもろの人天衆、
ことごとくみなともに帰命す。 このゆゑにわれもまた礼したてまつる。
一切ノ賢聖衆 | 及ビ諸ノ人天衆 |
咸ク皆共ニ帰命ス | 是ノ故ニ我モ亦礼シタテマツル |
^◆かの八道の船に乗じて、 よく難度海を度す。
みづから度し、 またかれを度す。 われ自在者を礼したてまつる。
乗ジテ↢彼ノ八道ノ船ニ↡ | 能ク度シテ↢難度ノ海ヲ↡ |
自ラ度シ亦度ス↠彼ヲ | 我礼シタテマツル↢自在者ヲ↡ |
^◆諸仏、 無量劫に、 その功徳を讃揚せんに、
なほ尽すことあたはず。 清浄の人を帰命したてまつる。
諸仏無量劫ニ | 讃↢揚シタマフトモ其ノ功徳ヲ↡ |
猶尚シ不↠能ハ↠尽スコト | 帰↢命マツル清浄ノ人ニ↡ |
^◆われいままたかくのごとく、 無量の徳を称讃す。
この福の因縁をもつて、 願はくは仏つねにわれを念じたまへ。
我今亦如ク↠是クノ | 称↢讃ス無量ノ徳ヲ↡ |
以テ↢是ノ福ノ因縁ヲ↡ | 願クハ仏常ニ念ジタマヘ↠我ヲ |
^▲この福の因縁をもつて、 獲るところの上妙の徳、
願はくはもろもろの衆生の類も、 みなまたことごとくまさに得べし」 と。
以テ↢此ノ福ノ因縁ヲ↡ | 所ノ↠獲ル上妙ノ徳 |
願クハ諸ノ衆生ノ類モ | 皆亦悉ク当ニシト↠得」 |
^かの ¬論¼ (易行品) に三十二の偈あり。 いま略して要を*抄す。
彼ノ¬論ニ¼有リ↢卅二ノ偈↡。今略シテ*抄ス↠*要ヲ。
^あるいはまた ¬往生論¼ (天親の浄土論) の偈、 *真言教の仏讃、 *阿弥陀の別讃あり。 これらの文0902、 一遍・多遍、 一行・多行、 ただ至誠をもつてすべし。 多少を論ぜず。 たとひ余行なくとも、 ただ讃嘆によりて、 また願に随ひてかならず往生することを得つべし。
或イハ復¬往生論ノ¼偈、真言教ノ仏讃、阿弥陀ノ別讃アリ、此等ノ文、一遍・多遍、一行・多行、但1076応シ↢至誠ヲモテス↡。不↠論ゼ↢多少ヲ↡。設ヒ無クトモ↢余行↡、唯依リテ↢讃歎ニ↡、亦応シ↣随ヒテ↠願ニ必ズ得ツ↢往生スルコトヲ↡。
^¬法華¼ の偈にのたまふがごとし。
如シ↢¬法花ノ¼偈ニ云フガ↡。
^「あるいは歓喜の心をもつて、 歌唄して仏徳を頌し、
乃至一の小音をもつてせるも、 みなすでに仏道を成ぜり」 と。
「或イハ以テ↢歓喜ノ心ヲ↡ | 歌唄シテ頌シ↢仏徳ヲ↡ |
乃至一ノ小音ヲモテセルモ | 皆已ニ成レリト↢仏道ト↡」 |
^一音すでにしかり。 いかにいはんや、 つねに讃ぜんをや。 仏果なほしかり。 いかにいはんや往生をや。 真言の讃仏、 利益はなはだ深し。 顕露することあたはず。
一音既ニ爾リ。何ニ況ヤ常ニ讃ゼムヲヤ。仏果尚爾リ。何ニ況ヤ往生ヲヤ。真言ノ讃仏利益甚ダ深シ。不↠能ハ↢顕露スルコト↡。
二 Ⅳ ⅱ c 作願門
【38】^第三に△作願門といふは、 以下の三の門は、 これ三業相応の意業なり。
第三ニ作願門トイフ者、以下ノ三ノ門ハ是三業相応之意業也。
^綽禅師 (道綽) の ¬*安楽集¼ (上) にいはく、 「▲¬大経¼ にのたまはく、 ªおほよそ浄土に往生せんと欲はば、 かならずすべからく菩提心を発すをもつて源となすべしº と。 ◆いかんとなれば、 菩提といふはすなはちこれ無上仏道の名なり。
綽*禅師ノ¬安楽集ニ¼云ク、「¬大経ニ¼云ク、凡ソ欲ハバ↣往↢生セムト浄土ニ↡、要ズ須クシト↧発スヲモテ↢菩提心ヲ↡為ス↞源ト。云何ナルカ菩提トナラバ者、乃チ是無上仏道之名也。
^◆もし心を発して仏に作らんと欲すれば、 この心は広大にして法界に遍周せり。 この心は長遠にして未来際を尽す。 この心あまねくつぶさに二乗の障を離る。 ◆もしよく一たびこの心を発せば、 無始生死の*有淪を傾く。
若シ欲スル↢発シテ↠心ヲ作ラムト↟仏ニ者ハ、此ノ心ハ広大ニシテ*遍↢周ス法界ニ↡。此ノ心ハ長遠ニシテ尽ス↢未来際ヲ↡。此ノ心ハ普ク備ヘタリ。離ル↢二乗ノ障ヲ↡。若シ能ク一タビ発シツレバ↢此ノ心ヲ↡、傾クト↢無始生死ノ有*淪ヲ↡。
^▲¬*浄土論¼ にいはく、 ª菩0903提心を発すといふは、 まさしくこれ願作仏心なり。 願作仏心とは、 すなはちこれ度衆生心なり。 度衆生心とは、 すなはちこれ衆生を摂受して有仏の国土に生ぜしむる心なり。 ◆いますでに浄土に生ぜんと願ず、 ゆゑに先づすべからく菩提心を発すべしº」 と。 以上
¬浄土論ニ¼云ク、発ストイフ↢菩提心ヲ↡者、正シク是願ズル↠作ラムト↠仏ニ心ナリ。願作仏ノ心ト者、即チ是度衆生ノ心ナリ。度衆生ノ心ト者、即チ是摂↢受シテ衆生ヲ↡生ゼシムル↢有仏ノ国土ニ↡心ナリ。今既ニ願ズ↠生ぜムト↢浄土ニ↡、故ニ先ヅ須クシト↠発ス↢菩提心ヲ↡也。」 已上
^まさに知るべし、 菩提心は、 これ浄土菩提の綱要なり。 ゆゑにいささか三の門をもつてその義を決択せん。 行者、 繁きを厭ふことなかれ。 一には菩提心の▽行相を明かす。 二には▽利益を明かす。 三には▽料簡せん。
当ニシ↠知ル、菩提心ハ是浄土菩提之綱要ナリ。故ニ聊ニ以テ↢三ノ門ヲ↡決↢*択セム其ノ義ヲ↡。行者勿レ↠厭フコト↠繁キヲ。一ニハ明ス↢菩提心ノ行相ヲ↡。二ニハ明ス↢利益ヲ↡。*三ニハ料簡セム。
・行相
【39】^初めに△行相とは、 総じてこれをいはば願作仏心なり。 また、 *上求菩提・下化衆生の心と名づく。
初ニ行相ト者、総ジテハ謂フ↢之ヲ↡願作仏ノ心ト↡。亦名ク↢上求菩提・下化衆生ノ心ト↡。
^別してこれをいはば▽*四弘誓願なり。 これに二種あり。 ▼一には↓*縁事の四弘願なり。 これすなはち*衆生縁の慈なり。 あるいはまた*法縁の慈なり。 二には↓*縁理の四弘なり。 これ*無縁の慈悲なり。
別シテハ謂フ↢之ヲ↡四1077弘誓願ト↡。此ニ有リ↢二種↡。一ニハ縁事ノ四弘願ナリ。是即チ衆生縁ノ慈ナリ。或イハ復法縁ノ慈也。二ニハ縁理ノ四弘ナリ、是無縁ノ慈悲也。
^↑縁事の四弘といふは、
言フ↢縁事ノ四弘ト↡者、
^一には▽衆生無辺誓願度。 念ずべし、 「一切衆生にことごとく仏性あり。 われみな*無余涅槃に入らしむべし」 と。 この心はすなはちこれ*饒益有情戒なり。 またこれ恩徳の心なり。 またこれ*縁因仏性なり。 応身の菩提の因なり。
一ニハ衆生無辺誓願度。応シ↠念ズ、一切衆生ハ悉ク有リ↢仏性↡。我皆令ムベシト↠入ラ↢無余涅槃ニ↡。此ノ心ハ即チ是饒益有情戒ナリ。亦是恩徳ノ心ナリ。亦是縁因仏性ナリ。応身ノ菩提ノ因ナリ。
^二には▽煩悩無辺誓願断。 これはこれ*摂律儀戒なり。 またこれ断徳の心なり。 またこれ*正因仏0904性なり。 法身の菩提の因なり。
二ニハ煩悩無辺誓願断。此ハ是摂律儀戒ナリ。亦是断徳ノ心ナリ。亦是正因仏性ナリ。法身ノ菩提ノ因ナリ。
^三には▽法門無尽誓願知。 これはこれ*摂善法戒なり。 またこれ智徳の心なり。 またこれ*了因仏性なり。 報身の菩提の因なり。
三ニハ法門無尽誓願知。此ハ是摂善法戒ナリ。亦是智徳ノ心ナリ。亦是了因仏性ナリ。報身ノ菩提ノ因ナリ。
^四には▽無上菩提誓願証。 これはこれ仏果菩提を願求するなり。 いはく、 前の三の行願を具足するによりて、 三身円満の菩提を証得して、 還りてまた広く一切衆生を度するなり。
四ニハ無上菩提誓願証。此ハ是願↢求スルナリ仏果ノ菩提ヲ↡。謂ク由リテ↣具↢足スルニ前ノ三ノ行願ヲ↡、証↢得シテ三身円満ノ菩提ヲ↡、還リテ亦広ク度スルナリ↢一切衆生ヲ↡。
^二に↑縁理の願とは、 一切の諸法は、 本来寂静なり。 有にあらず無にあらず、 常にあらず断にあらず、 生ぜず滅せず、 垢れず浄からず。 *一色・一香も、 中道にあらずといふことなし。 生死即涅槃、 煩悩即菩提なり。
二ニ縁理ノ願ト者、一切ノ諸法ハ本来寂静ナリ。非ズ↠有ニ非ズ↠無ニ。非ズ↠常ニ非ズ↠断ニ。不↠生ゼ不↠滅セ。不↠垢不↠浄ナリ。一色一香モ无シ↠非ズトイフコト↢中道ニ↡。生死即涅槃ナリ。煩悩即菩提ナリ。
^一々の*塵労門を翻ずれば、 すなはちこれ八万四千の諸波羅蜜なり。 無明変じて明となる、 氷融けて水となるがごとし。 さらに遠き物にあらず。 余処より来るにもあらず。 ただ一念の心にあまねくみな具足せること、 *如意珠のごとし。 宝あるにもあらず、 宝なきにもあらず。 もし 「なし」 といはばすなはち妄語なり。 もし 「あり」 といはばすなはち邪見なり。 心をもつて知るべからず。 言をもつて弁ずべからず。
翻ズレバ↢一々ノ塵労門ヲ↡、即チ是八万四千ノ諸波羅蜜ナリ。無明変ジテ為ル↠明ト。如シ↢融カシテ↠氷ヲ成ルガ↟水ト。更ニ非ズ↢遠キ物ニ↡。不↢余処ヨリモ来ラ↡。但一念ノ心ニ普ク皆具足セリ。如シ↢如意珠ノ↡。非ズ↠有ルニモ↠宝、非ズ↠无キニモ↠宝。若シ謂ハバ↠無シト者即チ*妄語ナリ。若シ謂ハバ↠有リト者即チ邪見ナリ。不↠可カラ↢以テ↠心ヲ知ル↡。不↠可カラ↢以テ↠言ヲ辨ズ↡。
^衆生、 この不思議・不縛の法のなかにおいて、 しかも思想して縛をなし、 無脱の法のなかにおいて、 しかも脱を求む。 このゆゑにあまねく法界の一切衆生において、 大慈悲を起し、 *四弘誓を興す。 これを*順理の発心0905と名づく。 これ最上の菩提心なり。 ¬止観¼ の第一を見るべし。
衆生於テ↢此ノ不思議・不縛ノ法ノ中ニ↡、而シテ思想シテ作ス↠縛ヲ。於テ↢無脱ノ法ノ中ニ↡、而モ求ム↢於脱ヲ↡。是ノ故ニ普ク於テ↢法界ノ一切衆1078生ニ↡起シテ↢大慈悲ヲ↡、興ス↢四弘誓ヲ↡。是ヲ名ク↢順理ノ発心ト↡。是最上ノ菩提心ナリ。可シ↠見ル↢¬止観ノ¼第一ヲ↡
^また ¬*思益経¼ にのたまはく、 「一切の法は法にあらずと知り、 一切の衆生は衆生にあらずと知る。 これを菩薩の、 *無上菩提心を発すと名づく」 と。
又¬思益経ニ¼云ク、「知リ↢一切ノ法ハ非ズト↟法ニ、知ル↣一切ノ衆生ハ非ズト↢衆生ニ↡。是ヲ名クト↣菩薩ノ発スト↢無上菩提心ヲ↡。」
^また ¬*荘厳菩提心経¼ にのたまはく、 「菩提心とは、 有にあらず造にあらず、 文字を離れたり。 菩提はすなはちこれ心なり。 心はすなはちこれ衆生なり。 もしよくかくのごとく解するを、 これを、 菩薩の菩提を修すと名づく。
又¬荘厳菩提心経ニ¼云ク、「菩提心ト者非ズ↠有ニ非ズ↠造ニ。離レタリ↢於文字ヲ↡。菩提ハ即チ是心ナリ。心ハ即チ是衆生ナリ。若シ能ク如ク↠是クノ解スルヲ、是ヲ名ク↢菩薩ノ修スル↢菩提ト↡。
^菩提は過去・未来・現在にあらず。 かくのごとく、 心と衆生と、 また過去・未来・現在にあらず。 よくかくのごとく解するを名づけて菩薩となす。
菩提ハ非ズ↢過去・未来・現在ニ↡。如ク↠是クノ心ト衆生ト亦非ズ↢過去・未来・現在ニ↡。能ク如ク↠是クノ解スルヲ名ケテ為ス↢菩薩ト↡。
^しかもこのなかにおいて、 実に*所得なし。 所得なきをもつてのゆゑに得。 もし一切の法において所得なくは、 これを菩提を得と名づく。 *始行の衆生のためのゆゑに、 菩提ありと説く。 乃至
然モ於テ↢*是ノ中ニ↡実ニ無シ↢所得↡。以テノ↠無キヲ↢所得↡故ニ得ス。若シ於テ↢一切ノ法ニ↡無シ↢所得↡、是ヲ名ク↠得ト↢菩*提ヲ↡。為ノ↢始行ノ衆生ノ↡故ニ説ク↠有リト↢菩提↡。乃至
^しかもこのなかにおいて、 また心もあることなく、 また造心のものもなし。 また菩提もあることなく、 また造菩提のものもなし。 また衆生もあることなく、 また造衆生のものもなし」 と。 乃至云々
然モ於テ↢是ノ中ニ↡亦無シ↠有ルコト↠心モ。亦無シ↢造心ノ者モ↡。亦無シ↠有ルコト↢菩提モ↡。亦無シ↢造菩提ノ者モ↡。亦無シ↠有ルコト↢衆生モ↡。亦無シト↢造衆生ノ者モ↡。」 *乃至*云々
^この*二の四弘におのおの二の義あり。
此ノ二ノ四弘ニ各ノ有リ↢二ノ義↡。
^一にはいはく、 初めの二の願は衆生の*苦・集二諦の苦を抜く。 後の二の願は衆生に*道・滅二諦の楽を与ふ。
一ニハ云ク、初ノ二ノ願ハ抜ク↢衆生ノ苦・集二諦ノ苦ヲ↡。後ノ二ノ願ハ与フ↢衆生ニ道・滅二諦ノ楽ヲ↡。
^二にはいはく、 初めの一は他に約す。 後の三は自に約す。 いはく、 衆0906生の二諦の苦を抜き、 衆生に二諦の楽を与ふることは、 総じて初めの願のなかにあり。 この願を究竟円満せんと欲ふがために、 さらに自身に約して後の三の願を発す。
二ニハ云ク、初ノ一ハ約ス↠他ニ。後ノ三ハ約ス↠自ニ。謂ク抜キ↢衆生ノ二諦ノ苦ヲ↡、与フルコトハ↢衆生ニ二諦ノ楽ヲ↡、総ジテ在リ↢初ノ願ノ中ニ↡。為ニ↠欲フガ↤究↢竟円↣満セムト此ノ願ヲ↡、更ニ約シテ↢自身ニ↡発ス↢後ノ三ノ願ヲ↡。
^¬大般若経¼ (意) にのたまふがごとし。 「有情を利せんがために大菩提を求む。 ゆゑに菩薩と名づく。 しかも依着せず。 ゆゑに*摩訶薩と名づく」 と。 以上
如シ↢¬大般若経ニ¼云フガ↡。「為ニ↠利セムガ↢有情ヲ↡求メム↢大菩提ヲ↡。故ニ名ク↢菩薩ト↡。而モ不↢依著セ↡。故ニ名クト↢摩訶薩ト↡。」 已上
^また前の三はこれ因にして、 これ別なり。 第四はこれ果にして、 これ総なり。
又前ノ三ハ是因ナリ、是別ナリ。第四ハ是果ナリ、是総ナリ。
^四弘已りて後は、 いふべし、
四弘已後ニハ可シ↠云フ、
^「*自他法界同利益 共生極楽成仏道」 と。
^心のなかに念ふべし、 「われと衆生と、 ともに極楽に生れて、 前の*四弘願を円満究竟せん」 と。
心ノ中ニ応シ↠念フ、我ト与1079↢衆生↡共ニ生レテ↢極楽ニ↡、円↢満*究↣竟セムト前ノ四弘願ヲ↡。
^もし別願あるものは、 四弘の前にこれを唱へよ。
若シ有ラム↢別願↡者ハ四弘ノ前ニ唱ヘヨ↠之ヲ。
^もし心不浄なるは、 正道の因にあらず。 もし心に限ることあるは、 大菩提にあらず。 もし誠を至すことなくは、 その力強からず。 このゆゑに、 かならず清浄にして深広なる誠の心を須ゐよ。 勝他・名利等の事のためにせざれ。 しかも仏眼の照らすところの*無尽法界の一切の衆生、 一切の煩悩、 一切の法門、 一切の仏徳において、 この四種の願と行とを発せ。
若シ心不浄ナルハ非ズ↢正道ノ因ニ↡。若シ心ニ有ルハ↠限ルコト非ズ↢大菩提ニ↡。若シ無キハ↠至スコト↠誠ヲ其ノ力不↠強カラ。是ノ故ニ要ズ須クシ↧清浄ニシテ深広ノ誠ノ心ニシテ、不シテ↠為ニセ↢勝他・名利等ノ事ノ↡、而モ於テ↢仏眼ノ所↠照ノ無尽法界ノ一切ノ衆生、一切ノ煩悩、一切ノ法門、一切ノ仏徳ニ↡発ス↦此ノ四種之願ト行トヲ↥也。
^問ふ。 なんの法のなかにおいてか、 無上道を求むる。
問フ。於テカ↢何ノ法ノ中ニ↡求ムル↢無上道ヲ↡。
^答ふ。 これに*利・鈍の二0907種の差別あり。
答フ。此ニ有リ↢利・鈍ノ二*種ノ差別↡。
^¬大論¼ (大智度論) にいふがごとし。 「黄石のなかに金の性あり、 白石のなかに銀の性あるがごとく、 かくのごとく一切世間の法のなかに、 みな涅槃の性あり。 諸仏・賢聖は、 智慧・方便・持戒・禅定をもつて引導して、 この涅槃の法性を得しめたまふ。
如シ↢¬大論ニ¼云フガ↡。「如ク↧黄石ノ中ニ有リ↢金ノ性↡、白石ノ中ニ有ルガ↦銀ノ性↥、如ク↠是クノ一切世間ノ法ノ中ニ皆有リ↢涅槃ノ性↡。諸仏・賢聖ハ、以テ↢智*恵・方便・持戒・禅定ヲ↡引導シテ、令メタマフ↠得↢是ノ涅槃ノ法性ヲ↡。
^利根のものは、 すなはちこの諸法はみなこれ法性なりと知ること、 たとへば、 神通の人の、 よく瓦石を変じてみな金となさしむるがごとし。 鈍根のものは、 方便・分別してこれを求めて、 すなはち法性を得。 たとへば、 大きに石を冶し鼓して、 しかして後に金を得るがごとし」 と。 以上
利根ノ者ハ、即チ知ルコト↢是ノ諸法ハ皆是法性ナリト↡、譬ヘバ如シ↧神通ノ人ノ能ク変ジテ↢瓦石ヲ↡皆使ムルガ↞為サ↠金ト。鈍根ノ者ハ、方便・分別シテ求メテ↠之ヲ、乃チ得↢法性ヲ↡。譬ヘバ如シト↧大ニ*冶シ↢鼓シテ石ヲ↡然シテ後ニ得ルガ↞金ヲ。」 已上
^またいはく (大智度論)、 「苦行・頭陀し、 *初・中・後夜に勤心に観禅して、 苦しくして道を得るは声聞の教なり。 諸法の相は無縛無解なりと観じて、 心、 清浄なることを得るは菩薩の教なり。 文殊師利の*本縁のごとし」 と。 以上
又云ク、「苦行・頭陀シテ、初・中・後夜ニ*懃心ニ観禅シテ、苦ニシテ而シテ得ルハ↠道ヲ声聞ノ教也。観ジテ↢諸法ノ相ハ無縛無解ナリト↡、心得ルハ↢清浄ナルコトヲ↡菩薩ノ教也。如シト↢文殊師利ノ本縁ノ↡。」 已上
^すなはち、 ¬*無行経¼ の喜根菩薩の偈を引きていはく (大智度論)、
即チ引キテ↢¬無行経ノ¼喜根菩薩ノ偈ヲ↡云ク、
^「*婬欲はすなはちこれ道なり。 *恚・痴もまたしかなり。
かくのごとき三事のなかに、 無量の諸仏の道あり。
「婬欲ハ即チ是道ナリ | 恚痴モ亦*復然ナリ |
如キ↠此クノ三事ノ中ニ | 無量ノ諸仏ノ道アリ |
^もし人ありて、 婬・怒・痴とおよび道とを分別するは、
この人は仏道を去ること、 たとへば天と地とのごとし」 と。
若シ有リテ↠人分↢別スルハ | 婬怒痴ト及ビ道トヲ↡ |
是ノ人ハ去ルコト↢仏道ヲ↡ | 譬ヘバ如シト↢天ト与ノ↟地」 |
^か0908くのごとく七十余の偈あり。
如キ↠是クノ有リ↢七十余ノ偈↡。
^また*同論にいはく、 「一切の法の*不可得なる、 これを仏道と名づく。 すなはちこれ諸法の実相なり。 この不可得もまた不可得なり」 と。 略抄
又同キ論ニ云ク、「一切ノ法ノ不可得ナル、是ヲ名ク↢仏道ト↡。即チ是1080諸法ノ実相ナリ。此ノ不可得モ亦不可得ナリト。」略抄
^また迦葉菩薩、 仏にまうしてまうさく (涅槃経)、
又迦葉菩薩白シテ↠仏ニ言ク、
^「一切諸法のなかに、 ことごとく安楽の性あり。
ただ願はくは大世尊、 わがために分別して説きたまへ」 と。
「一切諸法ノ中ニ | 悉ク有リ↢安楽ノ性↡ |
唯シ願クハ大世尊 | 為ニ↠我ガ分別シテ説キタマヘト」 |
^また ¬般若経¼ にのたまはく、 「一切有情はみな如来蔵なり。 普賢菩薩の*自体、 遍せるがゆゑに」 と。
又¬般若経ニ¼云ク、「一切有*情ハ皆如来蔵ナリ。普賢菩薩ノ自体遍セルガ故ニト。」
^¬*法句経¼ にのたまはく、
¬法句経ニ¼云ク、
^「諸仏は貪瞋によりて、 道場に処したまふ。
塵労は諸仏の種なり。 もとよりこのかた所動なし。
「諸仏ハ依リテ↢貪瞋ニ↡ | 而シテ処シタマフ↢於道場ニ↡ |
塵労ハ諸仏ノ種ナリ | 本ヨリ来タ無シ↢所動↡ |
^五蓋および五欲を、 諸仏の*種性となす。
つねにこれをもつて荘厳せり。 もとよりこのかた所動なし。
五蓋及ビ五欲ヲ | 為ス↢諸仏ノ種性ト↡ |
常ニ以テ↠是ヲ荘厳セリ | 本ヨリ来タ无シ↢所動↡ |
^諸法はもとよりこのかた、 是もなくまた非もなし。
是非の性、 寂滅せり。 もとよりこのかた所動なし」 と。
諸法ハ従リ↠本来タ | 無ク↠是モ亦無シ↠非モ |
是非ノ性寂滅セリ | 本ヨリ来タ无シト↢所動↡」 |
|
^以上四文、 これ利根の人の菩提心なるのみ。
已上*四文、是利根ノ人ノ菩提心ナル*耳
^問ふ。 煩悩・菩提、 もし一体ならば、 ただ意に任せて*惑業を起すべきや。
問フ。煩悩・菩提若シ一体ナラバ者、唯シ応シ↣任セテ↠意ニ起ス↢惑業ヲ↡耶。
^答ふ0909。 かくのごとき解をなす、 これを名づけて*悪取空のものとなす。 もつぱら仏弟子にあらず。 いま*反質していはく、 なんぢ、 もし煩悩即菩提なるがゆゑに欣ひて煩悩・悪業を起さば、 また生死即涅槃なるがゆゑに欣ひて生死の猛苦を受くべし。 なんがゆゑぞ、 刹那の苦果においては、 なほ堪へがたきことを厭ひ、 永劫の苦因においては、 みづからほしいままに作ることを欣ふや。
答フ。生ス↢如キ↠是クノ解ヲ↡、名ケテ↠之ヲ為ス↢悪取空ノ者ト↡。専ラ非ズ↢仏弟子ニ↡。今反質シテ云ク、汝若シ煩悩即菩提ナルガ故ニ欣ヒテ起サバ↢煩悩・悪業ヲ↡、亦応シ↣生死即涅槃ナルガ故ニ欣ヒテ受ク↢生死ノ猛苦ヲ↡。何ガ故ゾ、於テハ↢刹那ノ苦果ニ↡猶厭ヒ↠難キコトヲ↠堪ヘ、於テハ↢永劫ノ苦因ニ↡欣ヒテ↢自ラ恣ニ作ラムヤ↡。
^このゆゑに、 まさに知るべし、 煩悩・菩提、 体これ一なりといへども、 時・*用異なるがゆゑに染・浄不同なり。 水と氷とのごとく、 また種と菓とのごとし。 その体これ一なれども、 時に随ひて用異なるなり。 これによりて、 道を修するものは*本有の仏性を顕せども、 道を修せざるものはつひに理を顕すことなし。
是ノ故ニ当ニシ↠知ル、煩悩ト菩提トハ体雖モ↢是一ナリト↡、時用異ナルガ故ニ染浄不同ナリ。如ク↢水ト与ノ↟氷、亦如シ↢種ト菓トノ↡。其ノ体是一ナレドモ、随ヒテ↠時ニ用異ナルナリ。由リテ↠此ニ修スル↠道ヲ者ハ顕シ↢本有ノ仏性ヲ↡、不ル↠修セ↠道ヲ者ハ終ニ無シ↠顕スコト↠理ヲ。
^¬涅槃経¼ の三十二にのたまふがごとし。 「善男子、 もし人ありて問はく、 ªこの種子のなかに果ありや、 果なきやº と。 さだめて答へていふべし、 ªまたはあり、 またはなしº と。 なにをもつてのゆゑに。 子を離れてほかに果を生ずることあたはず。 このゆゑに ªありº と名づく。 子いまだ芽を出さず。 このゆゑに ªなしº と名づく。 この義をもつてのゆゑに、 ªまたはあり、 またはなしº と。
如シ↢¬涅槃経ノ¼卅二ニ云フガ↡。「善男子、若シ有リテ↠人*問ハマク、是ノ種子ノ中ニ有リヤ↠果、無キ↠果耶ト。応シ↢定メテ答ジテ言フ↡、亦ハ有リ亦ハ無シト。何ヲ以テノ故ニ。離レテ↠子ヲ之外ニ不↠能ハ↠生ズルコト↠果ヲ。是ノ故ニ名ク↠有リト。子未ダ↠出サ↠牙ヲ。是ノ故ニ名ク↠無シト。以テノ↢是ノ義ヲ↡故ニ、亦ハ有リ亦ハ无ナリト。
^所以はいかん。 時節は異なることあれども、 その体はこれ一なり。 衆生の仏性もまたか0910くのごとし。 もし衆生のなかに、 別に仏性ありといはば、 この義しからず。 なにをもつてのゆゑに。 衆生すなはち仏性なり、 仏性すなはち衆生なり。 ただ時の異なるをもつて、 浄・不浄あり。
所1081以者何ン。時節ハ有レドモ↠異ナルコト其ノ体ハ是一ナリ。衆生ノ仏性モ亦復如シ↠是クノ。若シ言ハバ↣衆生ノ中ニ別ニ有リト↢仏性↡者、是ノ義不↠然ラ。何ヲ以テノ故ニ。衆生即チ仏性ナリ、仏性即チ衆生ナリ。直以テ↢時ノ異ナルヲ↡有リ↢浄・不浄↡。
^善男子、 もしあるが問ひていはく、 ªこの子はよく果をなすやいなや、 この果はよく子をなすやいなやº と。 さだめて答へていふべし、 ªまたは生じ、 生ぜずº」 と。 以上
善男子、若シ有ルガ問ヒテ言マク、是ノ子ハ能ク生スヤ↠果ヲ不ヤ、是ノ果ハ能ク生スヤ↠子ヲ不ヤト。応シ↢定メテ答ヘテ*言フ↡、亦ハ生ズ、不ト↠生ゼ。」 已上
^問ふ。 凡夫は勤修するに堪へず。 なんぞ虚しく弘願を発さんや。
問フ。凡夫ハ不↠堪ヘ↢勤修スルニ↡。何ゾ虚シク発サム↢弘願ヲ↡耶。
^答ふ。 たとひ勤修に堪へずとも、 なほすべからく*悲願を発すべし。 その益、 無量なり。 前後に明かすがごとし。
答フ。設ヒ不トモ↠堪ヘ↢勤修ニ↡、猶須クシ↠発ス↢悲願ヲ↡。其ノ益无量ナリ。如シ↢前後ニ明スガ↡。
^調達 (*提婆達多) は六万蔵の経を誦せしも、 なほ*那落を免れず。 *慈童は一念の悲願を発して、 たちまちに兜率に生るることを得たり。
調達ハ誦シテ↢六万蔵ノ経ヲ↡猶不↠免レ↢那落ヲ↡。慈童ハ発シテ↢一念ノ悲願ヲ↡、忽ニ得タリ↠生ズルコトヲ↢兜率ニ↡。
^すなはち知りぬ。 昇沈の差別は心にありて、 行にあらず。 いかにいはんや、 いづれの人か、 一生のうちに、 一たびも 「南無仏」 と称せず、 一食をも衆生に施さざるものあらん。 すべからくこれらの微少の善根をもつて、 みな四弘の願行に摂入すべし。 ゆゑに行願相応して、 虚妄の願とならじ。
則チ知リヌ。昇沈ノ差別ハ在リテ↠心ニ非ズ↠行ニハ。何ニ況ヤ誰ノ人カ一生之中ニ不↣一タビモ称セ↢南無仏ト↡、不ラム↣一食ヲモ施セ↢衆生ニ↡。須ク以テ↢此等ノ微少ノ善根ヲ↡、皆応シ↣摂↢入ス四弘ノ願行ニ↡。故ニ行願相応シテ、不↠為ラ↢虚妄ノ願ト↡。
^¬*優婆塞戒経¼ の第一にのたまふがごとし。 「もし人、 一心に生死の過咎、 涅槃の安楽を観察することあたはずは、 かくのごとき人は、 また*恵施・持戒・多聞なりといへども、 つ0911ひに*解脱分の法を得ることあたはず。 もしよく生死の過咎を*厭患し、 深く涅槃の功徳と安楽とを見ば、 かくのごとき人は、 また少施・少戒・少聞なりといへども、 すなはちよく解脱分の法を獲得せん」 と。
如シ↢¬優婆塞戒経ノ¼第一ニ云フガ↡。「若シ人不ルハ↠能ハ↣一心ニ観↢察スルコト生死ノ過咎、涅槃ノ安楽ヲ↡、如キ↠是クノ之人ハ、雖モ↢復*恵施・持戒・多聞ナリト↡、終ニ不↠能ハ↠得ルコト↢解脱分ノ法ヲ↡。若シ能ク厭↢患シ生死ノ過咎ヲ↡、深ク見ル↢涅槃ノ功徳ト安楽トヲ↡、如キ↠是クノ之人ハ、雖モ↢復少施・少戒・少聞ナリト↡、即チ能ク獲↢得スト解脱分ノ法ヲ↡。」
^以上、 無量世において、 無量の財をもつて無量の人に施し、 無量仏の所にして禁戒を受持し、 無量世に無量の仏の所にして十二部経を受持・読誦せるを、 名づけて多の施・戒・聞となす。 *一把の麨をもつて、 一の乞人に施し、 一日一夜、 八戒を受持し、 一の四句偈を読むを、 少の施・戒・聞と名づく。 ¬経¼ (優婆塞戒経) に広く説くがごとし。
已上於テ↢无量世ニ↡、以テ↢无量ノ財ヲ↡施シ↢无量ノ人ニ↡、於テ↢无量仏ノ所ニ↡受↢持シ禁戒ヲ↡、於テ↢无量世ニ無量ノ仏ノ所ニ↡受↢持読↣誦セルヲ十二部経ヲ↡、名ケテ為ス↢多ノ施・戒・聞ト↡。以テ↢一把ノ麨ヲ↡施シ↢一ノ乞人ニ↡、一日一夜受↢持シ八*戒ヲ↡、読ムヲ↢一ノ四句偈ヲ↡、名ク↢少ノ施・戒・聞ト↡。如シ↢¬経ニ¼広ク説クガ↡
^このゆゑに、 行者、 事に随ひて用心すれば、 乃至一善をも空しく過ぐすものなし。
是ノ故ニ行者随ヒテ↠事ニ用心シテ、乃至一善ヲモ無シ↢空シク過グス者↡。
^¬大般若経¼ にのたまふがごとし。 「もしもろもろの菩薩の、 *深般若波羅蜜多の*方便善巧を行ずるは、 一心・一行として空しく過ぐして、 *一切智に回向せざるものはあることなし」 と。 以上
如シ↢¬大般若経ニ¼云フガ↡。「若シ諸ノ菩薩ノ行ズルハ↢深般若波羅蜜多ノ方便善巧ヲ↡、無シト↠有ルコト↧一心・一1082行トシテ空シク過グシテ而不ル↣廻↢向セ一切智ニ↡者ハ↥。」 已上
^問ふ。 いかんが用心する。
問フ。云何ガ用心トスル。
^答ふ。 ¬宝積経¼ の九十三にのたまふがごとし。 「食を須つものには食を施せ、 一切智の力を具足せんがためのゆゑなり。 飲を須つものには飲を施せ、 *渇愛の力を断ぜんがためのゆゑなり。 衣を須つものには衣を施せ、 無上の慚愧の衣を得んがためのゆゑなり。
答フ。如シ↢¬宝積経ノ¼九十三ニ云フガ↡。「須ヰムニ↠食ヲ施シテハ↠食ヲ、為ノ↣具↢足セムガ一切智ノ力ヲ↡故ニセヨ。須ヰムニ↠飲ヲ施シテハ↠飲ヲ、為ノ↠断ゼムガ↢渇愛ノ力ヲ↡故ニセヨ。須ヰムニ↠衣ヲ施シテハ↠衣ヲ、為ノ↠得ムガ↢無上ノ慚愧ノ衣ヲ↡故ニセヨ。
^坐処を施すは、 菩提樹下0912に坐せんがためのゆゑなり。 灯明を施すは、 仏眼の明を得んがためのゆゑなり。 紙墨等を施すは、 大智慧を得んがためのゆゑなり。 薬を施すは、 衆生の*結使の病を除かんがためのゆゑなり。
施シテハ↢坐処ヲ↡為ノ↠坐セムガ↢菩提樹下ニ↡故ニセヨ。施シテハ↢灯明ヲ↡為ノ↠得ムガ↢仏眼ノ明ヲ↡故ニセヨ。施シテハ↢紙墨等ヲ↡為ノ↠得ムガ↢大智*恵ヲ↡故ニセヨ。施シテハ↠薬ヲ為ノ↠除カムガ↢衆生ノ結使ノ病ヲ↡故ニセヨ。
^かくのごとく、 乃至、 あるいはみづから財なくは、 まさに心の施をなすべし。 無量無辺の一切衆生を開示することを得んと欲せば、 力あるも力なきも、 上のごとく布施すべし。 これわが善行なり」 と。 以上、 ¬経¼ (宝積経) の文はなはだ広し。 いま略してこれを抄す。 見つべし。
如ク↠是クノ乃至或イハ自ラ無クハ↠財、当ニシ↠生ス↢心ノ施ヲ↡。欲セヨ↠得ムト↣開↢示スルコトヲ無量無辺ノ一切衆生ニ↡。有↠力ニマレ无↠力ニマレ、如キ↠上ノ布施ハ。是我ガ善行ナリト。」已上¬経ノ¼文甚ダ広シ。今略シテ↢抄ス之ヲ↡。可シ↠見ツ
^かくのごとく事に随ひて、 つねに心願を発せ。 「願はくは、 この衆生をしてすみやかに無上道を成ぜしめん。 願はくは、 われかくのごとく漸々に△第一の願行を成就し、 *檀度を円満して、 すみやかに菩提を証し、 広く衆生を度せん」 と。 一の*愛語を発し、 一の*利行を施し、 一の*善事を同ぜんにも、 これに准じて知りぬべし。
如ク↠是クノ随ヒテ↠事ニ常ニ発セ↢心願ヲ↡。願クハ令メム↣此ノ衆生ヲシテ速ニ成ラ↢无上道ヲ↡。願クハ我如クシテ↠是クノ漸漸ニ成↢就シ第一ノ願行ヲ↡、円↢満シテ檀度ヲ↡速ニ証シテ↢菩提ヲ↡、広ク度セムト↢衆生ヲ↡。発シ↢一ノ愛語ヲ↡、施シ↢一ノ利行ヲ↡、同ゼムニモ↢一ノ善事ヲ↡、准ジテ↠此ニ応シ↠知リヌ。
^もししばらくも一念の悪を制伏する時には、 この念をなすべし。 「願はくは、 われかくのごとく漸々に△第二の願行を成就し、 もろもろの惑業を断じて、 すみやかに菩提を証し、 広く衆生を度せん」 と。
若シ暫クモ制↢伏セム一念ノ悪ヲ↡時ニハ、応シ↠作ス↢是ノ念ヲ↡。願クハ我如クシテ↠是クノ漸漸ニ成↢就シテ第二ノ願行ヲ↡、断ジテ↢諸ノ惑業ヲ↡、速ニ証シ↢菩提ヲ↡広ク度セムト↢衆生ヲ↡。
^もし一文一義を読誦修習する時には、 この念をなすべし。 「願はくは、 われかくのごとく漸々に△第三の願行を成就し、 諸仏の法を学してすみやかに菩提を証し、 広く衆生を度せん」 と。
若シ読↢誦修↣習セム一文・一義ヲ↡時ニハ、応シ↠作ス↢是ノ念ヲ↡。願クハ我如クシテ↠是クノ漸漸ニ成↢就シテ第三ノ願行ヲ↡、学シテ↢諸仏ノ法ヲ↡、速ニ証シテ↢菩提ヲ↡、広ク度セムト↢衆生ヲ↡。
^一切の0913事に触れて、 つねに用心をなせ。 「われ今身より漸々に修学して、 乃至、 極楽に生れて自在に仏道を学し、 △すみやかに菩提を証して、 究竟して生を利せん」 と。
触レテ↢一切ノ事ニ↡常ニ作セ↢用心ヲ↡。我従リ↢今身↡漸漸ニ修学シテ、乃至生ジテ↢極楽ニ↡自在ニ学シ↢仏道ヲ↡、速ニ証シテ↢菩提ヲ↡、究竟シテ利セムト↠生ヲ。
^もしつねにこの念を懐きて、 力に随ひて修行するものは、 渧りの微なりといへども、 やうやく大なる器に盈つがごとし。 この心よく巨細の万善を持ちて、 漏落せしめずして、 かならず菩提に至る。
若シ常ニ懐キテ↢此ノ念ヲ↡、随ヒテ↠力ニ修行スル者ハ、如シ↣渧ノ雖モ↠微ナリト漸ク盈ツガ↢大ナル器ニ↡。此ノ心能ク持チテ↢*巨細ノ万善ヲ↡、不シテ↠令メ↢漏落セ↡必ズ至ル↢菩提ニ↡。
^¬華厳経¼ の 「*入法界品」 にのたまふがごとし。 「たとへば、 金剛の、 よく大地を持ちて墜没せしめざるがごとく、 菩提の心もまたかくのごとし。 よく菩薩の一切の願行を持ちて、 墜落して三界に没せしめず」 と。 云々
如シ↢¬花厳経ノ¼「入1083法界品ニ」云フガ↡。「譬ヘバ如ク↧金剛ノ能ク持チテ↢大地ヲ↡不ルガ↞令メ↢墜没セ↡、菩提之心モ亦復如シ↠是クノ。能ク持チテ↢菩薩ノ一切ノ願行ヲ↡、不ト↠令メ↣墜*落シテ没セ↢於三界ニ↡。」云々
^問はく、 凡夫は*常途の用心に堪へず。 その時の善根は*唐捐なりとやせん。
問ク、凡夫ハ不↠堪ヘ↢常途ノ用心ニ↡。爾ノ時ノ善根ハ為ム↢唐捐ナリトヤ↡耶。
^答ふ。 もし至誠心をもつて、 心に念ひ口にいはく、 「われ今日よりは、 乃至一善をも己身の有漏の果報のためにせず、 ことごとく極楽のためにせん、 ことごとく菩提のためにせん」 と。 この心を発しつる後には、 あらゆるもろもろの善は、 もしは覚し、 覚せざるも、 自然に無上菩提に趣向す。
答フ。若シ至誠ノ心ニシテ、心ニ念ヒ口ニ言マク、我従リハ↢今日↡、乃至一善ヲモ不↠為ニセ↢己身ノ有漏ノ果報ノ↡、尽ク為ニセム↢極楽ノ↡、尽ク為ニセムト↢菩提ノ↡。発シツル↢此ノ心ヲ↡後ニハ、所有ノ諸ノ善ハ、若シハ覚シ不ルモ↠覚セ、自然ニ趣↢向ス無上菩提ニ↡。
^一たび*渠溝を穿りつれば、 もろもろの水おのづから流入して、 転じて江河に至り、 つひに大海に会するがごとし。 行者もまたしかり。 一たび発心しつる後には、 もろもろの善根の水も自0914然に四弘願の渠に流入して、 転じて極楽に生じ、 つひに菩提の*薩婆若海に会す。 いかにいはんや、 時々に前の願を憶念せんをや。 つぶさには下の回向門のごとし。
如シ↧一タビ穿リツレバ↢渠溝ヲ↡、諸ノ水自ラ流入シテ転ジテ至リ↢江河ニ↡、遂ニ会スルガ↦大海ニ↥。行者モ亦爾リ。一タビ発心シツル後ニハ、諸ノ善根ノ水モ自然ニ流↢入シテ四弘願ノ渠ニ↡、転ジテ生ジ↢極楽ニ↡、遂ニ会ス↢菩提ノ薩*婆若海ニ↡。何ニ況ヤ時々ニ憶↢念セムヲヤ前ノ願ヲ↡。具ニハ如シ↢下ノ廻向門ノ↡。
^問ふ。 凡夫は力なければ、 よく捨てんとして捨てがたし。 あるいはまた貧乏なり。 なんの方便をもつてか、 心をして*理に順ぜしめん。
問フ。凡夫ハ無シ↠力↢能ク捨ツルニ↟難キヲ↠捨テ。或イハ復貧乏ナリ。以テカ↢何ノ方便ヲ↡令メム↢心ヲシテ順ゼ↟理ニ。
^答ふ。 ¬宝積経¼ にのたまはく、 「かくのごとく布施せんに、 もし力あることなくしてこれを*学するにあたはず、 財を捨つることあたはずは、 この菩薩はかくのごとく思惟すべし。 ªわれ、 いままさにつとめて精進を加へ、 時々漸々に慳貪・吝惜の*垢を断除すべし。 われ、 まさにつとめて精進を加へ、 時々漸々に財を捨てて施与することを学して、 つねにわが施心をして増長し広大ならしむべしº」 と。
答フ。¬宝積経ニ¼云ク、「如キ↠此クノ布施ハ、若シ无クシテ↠有ルコト↠力不↠能ハ↠*覚ルニ↠之ヲ、不ハ↠能ハ↠捨ツルコト↠財ヲ、是ノ菩薩ハ応シ↢如ク↠是クノ思惟ス↡。我今当ニシ↧勤メテ加ヘテ↢精進ヲ↡、時々漸々ニ断↦除ス慳貪・吝惜之垢ヲ↥。我当ニシト↧勤メテ加ヘテ↢精進ヲ↡、時々漸々ニ学シテ↢捨テテ↠財ヲ施与スルコトヲ↡、常ニ令ム↦我ガ施心ヲシテ増長シ広*大ナラ↥。」
^また ¬*因果経¼ の偈にのたまはく、
又¬因果経ノ¼偈ニ云ク、
^「もし貧窮の人ありて、 財の布施すべきものなくは、
他の施を修するを見る時に、 しかも*随喜の心をなせ。
随喜の福報は、 施と等しくして異なることなし」 と。
「若シ有リテ↢貧窮ノ人↡ | 無クハ↣財ノ可キモノ↢布施ス↡ |
見ム↢他ノ修セムヲ↟施ヲ時ニ | 而モ生セ↢随*喜ノ心ヲ↡ |
随喜之福報ハ | 与↠施等シクシテ無シト↠異ナルコト」 |
^¬十住毘婆沙¼ の偈にいはく、
¬十住毘婆*娑ノ¼偈ニ云ク、
^0915「われ、 いまこれ*新学なり。 善根いまだ成就せず。
心いまだ自在を得ず。 願はくは後にまさにあひ与ふべし」 と。 以上
「我今是新学ナリ | 善根未ダ↢成就セ↡ |
心未ダ↠得↢自在ヲ↡ | 願クハ*後ニ当ニシト↢相与フ↡」 已上 |
^行者、 まさにかくのごとく用心すべし。
行者1084応ニ当シ↢如ク↠是クノ用心ス↡。
^問ふ。 このなかに、 理を縁じて菩提心を発すも、 また因果を信じて、 つとめて道を修行すべきや。
問フ。此ノ中ニ、縁↠理ノ発↢菩提心ハ↡、亦可シ↧信ジテ↢因果ヲ↡勤メテ修↦行ス道ヲ↥耶。
^答ふ。 理、 かならずしかるべし。
答フ。理必ズ可シ↠然ル。
^¬浄名経¼ (*維摩経) の偈にのたまふがごとし。
如シ↢¬浄名経ノ¼*偈ニ云フガ↡。
^「▲諸仏の国と、 および衆生との空なることを観ずといへども、
しかもつねに浄土を修し、 もろもろの群生を教化す」 と。
「雖モ↠観ズト↧諸仏ノ国ト | 及ビ与ノ↢衆生↡空ナルコトヲ↥ |
*而モ常ニ修シ↢浄土ヲ↡ | 教↢化スト諸ノ群生ヲ↡」 |
^¬*中論¼ の偈にいはく、
¬中論ノ¼偈ニ云ク、
^「空なりといへどもまた断ぜず。 有なりといへどもしかも常ならず。
業と果報とは失せず。 これを仏の所説と名づく」 と。
「雖モ↠空ナリト亦不↠断ゼ | 雖モ↠有ナリト而モ不↠常ナラ |
業ト果報トハ不↠失セ | 是ヲ名クト↢仏ノ所説ト↡」 |
^また ¬大論¼ (大智度論) にいはく、 「もし諸法皆空ならばすなはち衆生なし。 たれか度すべきものあらん。 この時は悲心、 すなはち弱し。 あるいは時に衆生の愍れむべきをもつてせば、 諸法の空観において弱し。 もし方便力を得つれば、 この二法において等しくして*偏党なし。 大悲心は、 諸法の実相を妨げず。 諸法の0916実相を得れども、 大悲を妨げず。 かくのごとき方便を生ずる、 この時、 すなはち菩薩の*法位に入り、 阿鞞跋致地に住することを得」 と。 略抄
又¬大論ニ¼云ク、「若シ諸法皆空ナラバ則チ無シ↢衆生↡。誰カ可キ↠度ス者アラム。是ノ時ニ悲心便チ弱シ。或時ニハ以テセバ↢衆生ノ可キヲ↟愍ブ、於テ↢諸法ノ空ノ観ニ↡弱シ。若シ得ツレバ↢方便ノ力ヲ↡、於テ↢此ノ二法ニ↡等シクシテ無シ↢偏党↡。大悲心アレドモ不↠妨セ↢諸法ノ実相ヲ↡。得レドモ↢諸法ノ実相ヲ↡不↠妨へ↢大悲ヲ↡。生ジテ↢如キ↠是クノ方便ヲ↡、是ノ時ニ便チ得ト↧入リ↢菩薩ノ法位ニ↡、住スルコトヲ↦阿鞞跋致地ニ↥。」略抄
^問ふ。 もし偏して解をなさば、 その過いかんぞ。
問フ。若シ偏ニ生スハ↠解ヲ、其ノ過云何ゾ。
^答ふ。 ¬*無上依経¼ の上巻に、 *空見を明かしてのたまはく、 「▲もし人ありて、 我見を執すること須弥山の大きさのごとくせんをば、 われ驚怖せず、 また*毀呰せず。 *増上慢の人の、 空見に執着すること一髦髪を十六分になさんがごとくせんをば、 われ許可さず」 と。
答フ。¬無上依経ノ¼上巻ニ、明シテ↢空見ヲ↡云ク、「若シ有リテ↠人執スルコト↢我見ヲ↡如クセムヲバ↢須弥山ノ大キサノ↡、我不↢驚怖セ↡、亦不↢毀呰セ↡。増上慢ノ人ノ、執↢著スルコト空見ニ↡如クセムヲバ↣一*髦髪ヲ作サムガ↢十六分ニ↡、我不ト↢許可サ↡。」
^また ¬中論¼ の第二の偈にいはく、
又¬中論ノ¼第二ノ偈ニ云ク、
^「大聖 (釈尊) の、 空法を説きたまふことは、 諸見を離れしめんがためのゆゑなり。
もしまた空ありと見るは、 諸仏化せざるところなり」 と。
「大聖ノ説キタマフコトハ↢空法ヲ↡ | 為ノ↠離レシメムガ↢諸見ヲ↡故ナリ |
若シ復見ルハ↠有リト↠空 | 諸仏所ナリト↠不ル↠化セ」 |
^¬*仏蔵経¼ の 「念僧品」 に、 *有所得の執を破してのたまはく、 「有所得のものは、 *我・人・寿者・命者ありと説き、 *無所有の法を憶念し分別して、 あるいは*断・常と説き、 あるいは*有作と説き、 あるいは*無作と説く。 わが清浄の法、 この因縁をもつて漸々に滅尽せん。 われ、 久しく生死にありて、 もろもろの苦悩を受けて成ぜるところの菩提をば、 このもろもろの悪人、 その時に毀壊せん0917」 と。 略抄
¬仏蔵経ノ¼「念僧品ニ」、破シテ↢有所得ノ執ヲ↡云ク、「有ル↢所得↡者ハ、説ク↠有リト↢我・人・寿者・命者↡。憶↢念シ分↣別シテ無所有ノ法ヲ↡、或イハ説キ↢断・常ト↡、或イハ説キ↢有作ト↡、或イハ説ク↢無作ト↡。我ガ清浄ノ法、以テ↢是ノ因縁ヲ↡漸々ニ滅尽セム。我久シク在リテ↢生死ニ↡、受ケテ↢諸ノ苦悩ヲ↡所ノ↠成ゼル菩提ヲバ、是ノ諸ノ悪人爾ノ時1085ニ毀壊セムト。略抄
^また同経の 「*浄戒品」 にのたまはく、 「我見・人見・衆生見のものは、 多く邪見に堕つ。 断滅見のものは、 多く疾く道を得。 なにをもつてのゆゑに。 これをば捨てやすきがゆゑに。 このゆゑにまさに知るべし、 この人はむしろみづから利き刀をもつて舌を割くとも、 衆のなかにして不浄に説法すべからず」 と。 有所得執を名づけて不浄となす。
又同ジキ¬経ノ¼「浄戒品ニ」云ク、「我見・人見・衆生見ノ者ハ、多ク堕ツ↢邪見ニ↡。断滅見ノ者ハ、多ク疾ク得↠道ヲ。何ヲ以テノ故ニ。是ヲバ易キガ↠捨テ故ニ。是ノ故ニ当ニシ↠知ル、是ノ人ハ寧ロ自ラ以テ↢利キ刀ヲ↡割クトモ↠舌ヲ、不ト↠応カラ↢*衆ノ中ニシテ不浄ニ説法ス↡。」有所得執ヲ名ケテ為ス↢不浄ト↡
^¬大論¼ (大智度論) の第一に、 並べて二執の過を明かしていはく、 「▲たとへば、 人の、 狭き道を行くに、 一辺は深水、 一辺は大火にして、 二辺ともに死するがごとし。 有に着するも、 無に着するも、 二事ともに失す」 と。 以上
¬大論ノ¼*第一ニ、並ベテ明シテ↢二執ノ過ヲ↡云ク、「譬ヘバ如ク↧人ノ行クニ↢*狭キ道ヲ↡、一辺ハ深水、一辺ハ大火アラム、二辺ニオイテセムニ倶ニ死セムガ↥、著シ↠有ニ著スルモノ↠无ニ、二事倶ニ失ナリト。」 已上
^このゆゑに、 行者、 つねに諸法の本来空寂なるを観じ、 またつねに四弘の願行を修習せよ。 空と地とによりて宮舎を造立せんとするも、 ただ地、 ただ空にしては、 つひに成ずることあたはざるがごとし。 これはこれ諸法の*三諦相即せるによるがゆゑなり。
是ノ故ニ行者常ニ観ジ↢諸法ノ本来空寂ナルヲ↡、亦常ニ修↢習セムコト四弘ノ願行ヲ↡、如クセヨ↧依リテ↢空ト地トニ↡造↦立セムガ宮舎ヲ↥。唯シ地唯シ空ニハ、終ニ不ルガ↠能ハ↠成ズルコト。此ハ是由ルガ↢諸法ノ三諦相即セルニ↡故ナリ。
^¬中論¼ の偈にいふがごとし。
*如シ¬中論ノ¼偈ニ云フガ。
^「因縁所生の法をば、 われすなはちこれ空なりと説く。
また名づけて仮名となす。 またこれ中道の義なり」 と。 云々
「因縁所生ノ法ヲバ | 我説ク↢即チ是空ナリト↡ |
亦ハ名ケテ為ス↢仮名ト↡ | 亦ハ是中道ノ義ナリト」 云々 |
^さらに ¬止観¼ を撿へよ。
更ニ撿ヨ↢¬止観ヲ¼↡。
^0918問ふ。 執有の見、 罪過すでに重くは、 縁事の菩提心、 あに*勝利あらんや。
問フ。執有之見、罪過既ニ重シ。縁事ノ菩提心、豈ニ有ラム↢勝利↡耶。
^答ふ。 堅く有を執する時に、 過失すなはち生ず。 いふところの縁事とは、 かならずしも堅執にあらず。 もししからずは、 見有得道の類なかるべし。 見空もまたしかり。 たとへば、 火を用ゐるに、 手触るれば害をなし、 触れざれば益あるがごとし。 空有もまたしかり。
答フ。堅ク執ル↠有ヲ時ニ、過失乃シ生ズ。所ノ↠言フ縁事トイフハ非ズ↢必ズシモ堅執ニ↡。若シ不ハ↠爾カイハ者、応シ↠無カル↢見有得道之類↡。見空モ亦爾リ。譬ヘバ如シ↢用ヰルニ↠火ヲ手ニ触ルレバ為ス↠害ヲ、不レバ↠触レ有ルガ↟益。空・有モ亦爾リ。
・利益
【40】^二に△利益を明かさば、 もし人、 説のごとくして菩提心を発さば、 たとひ余の行を少くとも、 願に随ひて決定して極楽に往生しなん。 ▲上品下生の類これなり。 かくのごとき利益、 無量なり。 いま略して一端を示さん。
*二ニ明サバ↢利益ヲ↡者、若シ人如クシテ↠説ノ発サバ↢菩提心ヲ↡、設ヒ少ケタリトモ↢余ノ行ヲ↡、随ヒテ↠願ニ決定シテ往↢生シナム極*楽ニ↡。上品下生之類是也。如キ↠是クノ利益無量ナリ。今略シテ示サム↢一端ヲ↡。
^¬止観¼ にいはく、 「¬*宝梁経¼ にのたまはく、 ª比丘の、 比丘の法を修せざるは、 *大千に唾する処なし。 いはんや、 人の供養を受けんをや。 六十の比丘、 悲泣して仏にまうさく、 «われら、 たちまちに死すとも、 人の供養を受くることあたはじ» と。 仏ののたまはく、 «なんぢ、 慚愧の心を起せり。 善きかな、 善きかな» と。
¬止観ニ¼云ク、「¬宝梁経ニ¼云ク、比丘ノ不ルハ↠修セ↢比丘ノ法ヲ↡、大千ニ無シ↢唾スル処↡。況ヤ受ケムヲヤ↢人ノ供養ヲ↡。六十ノ比丘1086悲泣シテ白サク↠仏ニ、我等乍ニ死ナム、不ト↠能ハ↠受クルコト↢人ノ供養ヲ↡。仏ノ言ク、汝起ス↢慚愧ノ心ヲ↡。善哉善哉ト。
^一の比丘、 仏にまうしてまうさく、 «なんらの比丘か、 よく供養を受くる» と。 仏ののたまはく、 «もし比丘の数にありて、 僧の業を修し、 僧の利を得たるもの、 この人よく供養を受く。 四果の向はこれ僧の数なり。 三十七品はこれ僧の業0919なり。 四果はこれ僧の利なり» と。
一ノ比丘白シテ↠仏ニ言ク、何等ノ比丘カ能ク受クルト↢供養ヲ↡。仏ノ言ク、若シ在リテ↢比丘ノ数ニ↡、修シ↢僧ノ業ヲ↡、得タル↢僧ノ利ヲ↡者、是ノ人能ク受ク↢供養ヲ↡。四果ノ向ハ是僧ノ数ナリ。卅七品ハ是僧ノ業ナリ。四果ハ是僧ノ利ナリト。
^比丘、 かさねて仏にまうさく、 «もし*大乗の心を発すものは、 またいかんぞ» と。 仏ののたまはく、 «もし大乗の心を発して一切智を求むるは、 数に堕せず、 業を修せず、 利を得ずとも、 よく供養を受けてん» と。
比丘重ネテ白サク↠*仏ニ、若シ発サム↢大乗ノ心ヲ↡者ハ復云何ゾト。仏ノ言ク、若シ発シテ↢大乗ノ心ヲ↡求ムルハ↢一切智ヲ↡、不↠堕セ↠数ニ、不↠修セ↠業ヲ、不トモ↠得↠利ヲ、能ク受ケテムト↢供養ヲ↡。
^比丘驚きて問ひたてまつる。 «いかんが、 この人よく供養を受くる» と。 仏ののたまはく、 «この人、 衣を受けて用ゐて大地に敷き、 *揣食を受くること須弥山のごとくすとも、 またよくつひに施主の恩を報じてん»º と。 まさに知るべし、 *小乗の極果は、 *大乗の初心に及ばず」 と。 以上、 信施を消す。
比丘驚キテ問ヒテ云フニ、何ンゾ是ノ人ノ能ク受クルト↢供養ヲ↡。仏ノ言ク、是ノ人受ケテ↠衣ヲ用ヰテ敷キ↢大地ニ↡、受クルコト↢揣食ヲ↡若クストモ↢須弥山ノ↡、亦能ク畢ニ報ジテムト↢施主之恩ヲ↡。当ニシ↠知ル、小乗之極果ハ不ト↠及バ↢大乗之初心ニ↡。」已上消ス↢信施ヲ↡
^またいはく (摩訶止観)、 「¬*如来密蔵経¼ に説かく、 ªもし人、 父の縁覚となりしを害し、 三宝の物を盗み、 母の羅漢となりしを汚し、 不実の事をもつて仏を謗り、 両舌して賢聖を間て、 悪口して聖人を罵り、 求法のものを壊乱し、 *五逆の初業の瞋りと、 持戒の人の物を奪ふ貪りと、 辺見の痴とあらば、 これを十悪のものとなす。
又云ク、「¬如来密蔵経ニ¼説カク、若シ人父ガ為ルヲ↢縁覚↡而シテ害シ、盗ミ↢三宝ノ物ヲ↡、母ガ為ルヲ↢羅漢↡而シテ汚シ、不実ノ事ヲモテ謗リ↠仏ヲ、両舌シテ間テ↢*賢聖ヲ↡、悪口シテ罵リ↢聖人ヲ↡、*壊↢乱シ求法ノ者ヲ↡、五逆ノ初業之瞋リシ、奪フ↢持戒ノ人*之物ヲ↡貪リシ、辺見之痴セム。是ヲ為ス↢十悪*之者ト↡。
^もしよく、 如来の、 因縁の法は我・人・衆生・*寿命なく、 生なく滅なく染なく着なく、 本性清浄なりと説きたまふことを知り、 また一切法において本性清浄なりと知りて、 解知し信入せば、 われ、 この人は地獄およ0920びもろもろの悪道に趣向すと説かず。
若シ能ク知リ↧如来ノ説キタマフコトヲ↦因縁ノ法ハ無シ↢我・人・衆生・寿*者↡、无ク↠生無ク↠滅無ク↠*染無シ↠著、本性清浄ナリト↥、又於テ↢一切法ニ↡知リテ↢本性清浄ナリト↡、解知シ信入セバ者、我不↠説カ↣是ノ人ハ趣↢向スト地獄及ビ諸ノ悪道ニ↡。
^なにをもつてのゆゑに。 法は*積聚なく、 法は*集悩なし。 一切の法は、 生ぜず住せず、 因縁和合して生起することを得。 生じをはれば、 還りて滅しぬ。 もし心、 生じをはりて滅すれば、 一切の結使もまた生じをはりて滅しぬ。 かくのごとく解すれば、 犯処なし。 もし犯あり住ありといはば、 この処あることなし。
何ヲ以テノ故ニ。法ハ無ク↢積聚↡、法ハ無シ↢集悩↡。一切ノ法ハ不↠生ゼ不↠住セ、因縁和合シテ而得↢生起スルコトヲ↡。生ジ已リテ還リテ滅シヌ。若シ心生ジ已リテ滅スレバ、一切ノ結使モ亦生ジ已リテ滅シヌ。如ク↠是クノ解スルハ無シ↢犯処↡。若シ有1087リ↠犯有リトイハバ↠住、無シ↠有ルコト↢是ノ処↡。
^▲百年の闇室に、 もし灯を燃す時には、 闇、 «われはこれ室の主なり。 ここに住すること久しく、 しかもあへて去らじ» といふべからず。 灯もし生じぬれば、 闇すなはち滅しぬるがごとしº と。 その義またかくのごとし。 この経は、 つぶさに↓前の四の菩提心を指す」 と。 以上、 かの ¬経¼ (如来秘密蔵経) の下巻にあり。 「↑前の四」 といふは、 *四教の菩提心を指す。
如ク↧百年ノ闇室ニ若シ燃ス↠灯ヲ時ニハ、闇不↠可カラ↠言フ↣我ハ是室ノ主ナリ、住スルコト↠此ニ久シク、而モ不ト↢肯テ去ラ↡、灯若シ生ジヌレバ、闇即チ滅シヌルガ↥、其ノ義亦如シトイヘリ↠是クノ。此ノ経ニ具ニ指スト↢前ノ四ノ菩提心ヲ↡。」已上在リ↢彼ノ¬経ノ¼下巻ニ↡。言フ↢前ノ四ト↡者、*指ス↢四教ノ菩提心ヲ↡
^¬華厳経¼ の 「入法界品」 (意) にのたまはく、 「▼たとへば、 *善見薬王の、 一切の病を滅するがごとく、 菩提心の薬も一切衆生のもろもろの煩悩の病を滅す。
¬花厳経ノ¼「入法界品ニ」云ク、「譬ヘバ如ク↣善見薬王ノ滅スルガ↢一切ノ病ヲ↡、菩提心ノ*薬モ滅ス↢一切衆生ノ諸ノ煩悩ノ病ヲ↡。
^▲たとへば、 牛・馬・羊の乳を合して一器に在きて、 獅子の乳をもつてかの器のなかに投るれば、 余の乳は消尽して、 ただちに過ぐること礙なきがごとく、 如来師子の菩提心の乳を、 無量劫に積めるところのもろもろの業・煩悩の乳のなかに着けば、 みなことごとく消尽して、 声聞・縁覚の法のなかに住せず」 と。
譬ヘバ如ク↧牛・馬・羊ノ乳ヲ合シテ在キテ↢一器ニ↡、以テ↢師子ノ乳ヲ↡投ルレバ↢彼ノ器ノ中ニ↡、余ノ乳ハ消尽シテ直ニ過グルコト无キガ↞礙、如来師子ノ菩提心ノ乳ヲ、著スレバ↢無量劫ノ所ノ↠積メル諸ノ業煩悩ノ乳ノ中ニ↡、皆悉ク消尽シテ不ト↠住セ↢声聞・縁覚ノ法ノ中ニ↡。」
^¬大0921般若経¼ にのたまはく、 「もしもろもろの菩薩、 多く*五欲相応の非理の作意を発起すといへども、 しかも一念、 無上の菩提と相応せる心を起さば、 すなはちよく折滅す」 と。 以上三の文、 滅罪の益なり。
¬大般若経ニ¼云ク、「若シ諸ノ菩薩雖モ↣多ク発↢起スト五欲相応ノ非理ノ作意ヲ↡、而モ起サバ↢一念ノ無上ノ菩提ノ相応セル之心ヲ↡、即チ能ク折滅シヌト。」已上三ノ文滅罪ノ益ナリ
^▼「*入法界品」 にのたまはく、 「たとへば、 人ありて、 *不可壊薬を得つれば、 一切の怨敵もその便りを得ざるがごとく、 菩薩摩訶薩もまたかくのごとし。 菩提心の不壊の法薬を得つれば、 一切の煩悩・諸魔・怨敵も壊することあたはざるところなり。
「入法界品ニ」云ク、「譬ヘバ如ク↧有リテ↠人得ツレバ↢不可壊薬ヲ↡、一切ノ怨敵モ不ルガ↞得↢其ノ便ヲ↡、菩薩摩訶薩モ亦復如シ↠是クノ。得ツレバ↢菩提心ノ*不壊ノ法薬ヲ↡、一切ノ煩悩・諸魔・怨敵モ所ナリ↠不ル↠能ハ↠壊スコト。
^▼たとへば、 人ありて、 *住水宝珠を得て、 その身に*瓔珞としつれば、 深水のなかに入れども、 しかも没溺せざるがごとく、 菩提心の住水宝珠を得つれば、 生死海に入れども、 しかも沈没せず。
譬ヘバ如ク↧有リテ↠人得テ↢住水宝珠ヲ↡瓔↢珞トシツレバ其ノ身ニ↡、入レドモ↢深水ノ中ニ↡而モ不ルガ↦没溺セ↥、得ツレバ↢菩提心ノ住水宝珠ヲ↡、入レドモ↢生死海ニ↡而モ不↢沈没セ↡。
^◆たとへば、 金剛の、 百千劫に水のなかに処すれども、 しかも*爛壊せず、 また変異なきがごとく、 菩提の心もまたかくのごとし。 無量劫に生死のなかに処すれども、 もろもろの煩悩・業も断滅することあたはず。 また損減なし」 と。
譬ヘバ如ク↧金剛ノ於百千劫ニ処スレドモ↢於水ノ中ニ↡而モ不↢爛壊セ↡、亦無キガ↦変異↥、菩提之心モ亦復如シ↠是クノ。於テ↢無量劫ニ↡処スレドモ↢生死ノ中ニ↡、諸ノ煩悩業モ不↠能ハ↢断滅スルコト↡。亦無シト↢損*減↡。」
^また同経の法幢菩薩の偈にのたまはく、
又同ジキ¬経ノ¼法幢菩薩ノ偈ニ云ク、
^「もし智慧ある人、 一念も*道心を発せば、
かならず無上尊となる。 つつしみて疑惑をなすことなかれ」 と。
「若シ有リテ↢智*恵ノ人1088↡ | 一念モ発セバ↢道心ヲ↡ |
必ズ成ル↢無上尊ト↡ | 慎ミテ莫レト↠生スコト↢疑*或ヲ↡」 |
^以上、 つひに敗壊せずして、 かならず菩提に至る益なり。
已上終ニ不シテ↢敗壊セ↡、必ズ至ル↢菩*提ニ↡益ナリ↡
^ま0922た 「入法界品」 にのたまはく、 「たとへば、 *閻浮檀金の、 如意宝を除きては一切の宝に勝れたるがごとく、 菩提の心の閻浮檀金もまたかくのごとし。 一切智を除きてはもろもろの功徳に勝れたり。
又「入法界品ニ」云ク、「譬ヘバ如ク↧閻浮檀金ノ除キテハ↢如意宝ヲ↡勝レタルガ↦一切ノ宝ニ↥、菩提之心ノ閻浮檀金モ亦復如シ↠是クノ。除キテハ↢一切智ヲ↡勝レタリ↢諸ノ功徳ニ↡。
^たとへば、 迦陵頻伽鳥の、 のなかにある時に大勢力ありて、 余の鳥及ばざるがごとく、 菩薩摩訶薩もまたかくのごとし。 生死のにして、 菩提心を発せるに、 功徳の勢力は、 声聞・縁覚の及ぶことあたはざるところなり。
譬ヘバ如ク↧迦*楞毘伽鳥ノ在ル↢ノ中ニ↡時ニ有リテ↢大勢力↡、余ノ鳥不ルガ↞及バ、菩薩摩訶薩モ亦復如シ↠是クノ。於生死ノニシテ発ス↢菩提心ヲ↡功徳ノ勢力ニハ、声聞・縁覚ノ所ナリ↠不ル↠能ハ↠及ブコト。
^▼たとへば、 ▼*波利質多樹の華をもつて、 一日衣に熏じつれば、 *瞻蔔華・*婆師華をもつて千歳熏ずといへども及ぶことあたはざるところなるがごとく、 ▼菩提心の華もまたかくのごとし。 一日熏ずるところの功徳の香、 十方の仏の所に徹りて、 一切の声聞・縁覚の、 無漏の智をもつてもろもろの功徳を熏ずること、 百千劫においてせるも、 及ぶことあたはざるところなり。
譬ヘバ如ク↧波利質多樹ノ花ノ一日熏ツレバ↠衣ニ、瞻蔔花・婆師花ヲモテ雖モ↢千歳熏ズト↡所ナルガ↞不ル↠能ハ↠及ブコト、菩提心ノ花モ亦復如シ↠是クノ。一日ノ所↠熏ノ功徳ノ香、徹シテ↢十方ノ仏ノ所ニ↡、*一切ノ声聞・縁覚ノ以テ↢無漏ノ智ヲ↡薫ゼル↢諸ノ功徳↡、於テセル↢百千劫ニ↡、所ナリ↠不ル↠能ハ↠及ブコト。
^たとへば、 金剛の、 破れて全からずといへども、 一切のもろもろの宝の、 なほ及ぶことあたはざるがごとく、 菩提の心もまたかくのごとし。 少し懈怠なりといへども、 声聞・縁覚のもろもろの功徳の宝の、 及ぶことあたはざるところなり」 と。 以上、 ¬経¼ (華厳経) のなかに二百余の喩へあり。 見るべし。
譬ヘバ如ク↧金剛ノ雖モ↢破レテ不ト↟全カラ、一切ノ衆ノ宝ノ猶不ルガ↞能ハ↠及ブコト、菩提之心モ亦復如シ↠是クノ。雖モ↢少シ懈怠ナリト↡、声聞・縁覚ノ諸ノ功徳ノ宝ハ所ナリト↠不ル↠能ハ↠及ブコト。」已上¬経ノ¼中ニ有リ↢二百余ノ喩↡。可シ↠見ル
^「賢首品」 の偈にのたまはく、
「賢首品ノ」偈ニ云ク、
^0923「菩薩、 生死にして最初に発心する時、
一向に菩提を求むること、 堅固にして動ずべからず。
「菩薩於テ↢生死ノ↡ | 最初ニ発心ノ時ニ↡ |
一向ニ求ムルニ↢菩提ヲ↡ | 堅固ニシテ不↠可カラ↠動ズ |
^かの一念の功徳、 深広にして岸際なし。
如来、 分別して説きたまはんに、 劫を窮むるも尽すことあたはじ」 と。
彼ノ一念ノ功徳 | 深広ニシテ无シ↢*岸際↡ |
如来分別シテ説キタマフトモ | 窮メテ↠劫ヲ不ト↠能ハ↠尽スコト」 |
^ここにいふ 「発心」 は凡聖に通ず。 つぶさに ¬*弘決¼ を見よ。
此ニ言フ発心ハ通ズ↢於凡・聖ニ↡具ニ見ヨ↢¬弘決ヲ¼↡
^また同経の偈にのたまはく、
又同ジキ¬経ノ¼偈ニ云ク、
^「一切衆生の心をば、 ことごとく分別して知りぬべし。
一切刹の微塵をば、 なほその数を算へつべし。
「一切衆生ノ心ヲバ | 悉ク可シ↢分別シテ知リヌ↡ |
一切刹ノ微塵ヲバ | 尚可シ↠算ヘツ↢其ノ数ヲ↡ |
^十方の虚空界をば、 一毛をもつてなほ量りつべし。
菩薩の*初発心をば、 究竟して測るべからず」 と。
十方ノ虚空界ヲバ | 一毛ヲモテ猶可シ↠量リツ |
|
菩薩ノ初発心ヲバ | 究竟シテ不ト↠可カラ↠測ル」 |
^また ¬*出生菩提心経¼ の偈にのたまはく、
又¬出生菩提心経ノ¼偈ニ云ク、
^「もしこの仏刹のもろもろの衆生を、 信心および持戒に住せしめたらん、
かの最上の*大福聚のごときは、 道心の十六分には及ばじ。
「若シ此ノ仏刹ノ諸ノ衆生ヲ | 令メタラム↠住セ↢信心及ビ持戒ニ↡ |
如1089キハ↢彼ノ最上ノ大福聚ノ↡ | 不↠及バ↢道心ノ十六分ニハ↡ |
^もしこの仏刹のもろもろの衆生を、 信心に住し法において行ぜしめん、
かの最上の大福聚のごときは、 道心の十六分には及ばじ。
*若シ此ノ仏刹ノ諸ノ衆生ヲ | 令メム↧住シ↢信心ニ↡於テ↠法ニ行ゼ↥ |
如キハ↢彼ノ最上ノ大福聚ノ↡ | 不↠及バ↢道心ノ十六分ニハ↡ |
^0924もし諸仏の刹の、 恒河沙のごとくならんに、 みなことごとく寺を造りて福を求めんがゆゑにし、
またもろもろの塔を造ること須弥のごとくせんも、 道心の十六分には及ばず。 乃至
若シ諸仏ノ刹ノ恒河沙ノゴトクナラムニ | 皆悉ク造リテ↠寺ヲ求メムガ↠福ヲ故ニシ |
復造ルコト↢諸ノ塔ヲ↡如クセムハ↢須弥ノ↡ | 不↠及バ↢道心ノ十六分ニハ↡。乃至 |
^かくのごとき人等は勝法を得んも、 もし菩提を求めて衆生を利せば、
かれら衆生の最勝なるものなり。 これ比類なし。 いはんや上あらんや。
如キ↠是クノ人等ハ*得ムモ↢勝法ヲ↡ | 若シ求メテ↢菩提ヲ↡利セムハ↢衆生ヲ↡ |
彼等ノ衆生ノ最勝ナラム者モ | 此ニハ無ケム↢比類スルコト↡況ヤ有ラムヤ↠上 |
^このゆゑにこの諸法を聞くことを得ては、 智者はつねに*楽法の心をなし、
まさに無辺の大福聚を得て、 すみやかに無上道を証することを得べし」 と。
是ノ故ニ得テハ↠聞クコトヲ↢此ノ諸法ヲ↡ | 智者ハ常ニ生セ↢楽法ノ心ヲ↡ |
当ニシト↧得テ↢無辺ノ大福聚ヲ↡ | 速ニ得↞証スルコトヲ↢於無上道ヲ↡」 |
^¬宝積経¼ の偈にのたまはく、
¬宝積経ノ¼偈ニ云ク、
^「菩提心の功徳、 もし*色方分あらば、
虚空界に周遍して、 よく容受するものなからん」 と。 云々
「菩提心ノ功徳 | 若シ有ラマシカバ↢色方分↡ |
周↢遍ストモ虚空界ニ↡ | 無カラマシト↢能ク容受スル者↡」云々 |
^菩提心には、 かくのごとき勝利あり。 このゆゑに迦葉菩薩の礼仏の偈 (涅槃経) にのたまはく、
菩提心ニハ有リ↢如キ↠是クノ勝利↡。是ノ故ニ迦葉菩*薩ノ礼仏ノ偈ニ云ク、
^「発心と*畢竟とは二つ別なし。 かくのごとき二心において前の心難し。
みづからいまだ度することを得ずして、 先づ他を度す。 このゆゑにわれ初発0925心を礼す」 と。
「発心ト畢竟トハ二ツ無シ↠別 | 如キ↠是クノ二心ハ前ノ心難シ |
自ラ未ダシテ↠得↠度スルコトヲ先ヅ度ス↠他ヲ | 是ノ故ニ我礼スト↢初発心ヲ↡」 |
^また*弥伽大士、 *善財童子の、 すでに菩提心を発せることを聞きて、 すなはち獅子の座より下り、 大光明を放ちて三千界を照らし、 五体を地に投げて、 童子を礼讃せり。 以上、 総じて勝利を顕す。
又弥伽大士聞キテ↣善財童子ノ已ニ発セルコトヲ↢菩提心ヲ↡、即チ従リ↢師子ノ座↡下リテ、放チテ↢大光明ヲ↡照シテ↢三千界ヲ↡、五体ヲ投ゲテ↠地ニ、礼↢讃セリ童子ヲ↡。已上総ジテ顕ス↢勝利ヲ↡
^問ふ。 縁事の誓願もまた勝利ありや。
問フ。縁事ノ誓願モ亦有リ↢勝利↡耶。
^答ふ。 縁理にしかずといへども、 これまた勝利あり。
答フ。雖モ↠不ズト↠如クハ↢縁理ノ↡、此亦有リ↢勝利↡。
^なにをもつてか知るとならば、 上品下生の業にいはく (観経)、 「▲ただ無上道心を発す」 と。 第一義を解るとはいはず。 ゆゑに知りぬ、 ただこれ事の菩提心なり。 もししからずは、 かの▲中生の業と別なかるべし。 その一。
何ヲ以テカ知ルトナラバ者、上品下生ノ業ニ云ク、「但発スト↢無上道ノ心ヲ↡。」不↠云ハ↠解ルトハ↢第一義ヲ↡。故ニ知リヌ唯是事ノ菩提心ナリ。若シ不ハ↠爾カイハ者、与↢彼ノ中生ノ業↡応シ↠無カル↠別。其ノ一
^¬往生論¼ (天親の浄土論) に菩提心を明かすに、 ただいへり、 「▲一切衆生の苦を抜くをもつてのゆゑに。 ▲一切衆生をして大菩提を得しむるをもつてのゆゑに。 衆生を摂取してかの国土に生れしめんをもつてのゆゑに」 と。 云々 もし縁事の心に往生の力なくは、 論主 (天親) あに縁理の心を示さざらんや。 その二。
¬往生論ニ¼明スニ↢菩提心ヲ↡、但云ヘリ、「以テノ↠抜クヲ↢一切衆生ノ苦ヲ↡故ニ、以テノ↠令ムルヲ↣一切衆生ヲシテ得↢大菩*提ヲ↡故ニ、以テノ↧摂↢取シテ衆生ヲ↡生レシメムヲ↦彼ノ国1090土ニ↥故ニト。」云々 若シ縁事ノ心ニ無クハ↢往生ノ力↡、論主豈ニ不ラムヤ↠示サ↢縁理ノ心ヲ↡。其ノ二
^¬大論¼ (大智度論) の第五の偈にいはく、
¬大論ノ¼第五ノ偈ニ云ク、
^「もし初発心の時に、 まさに仏に作るべしと誓願すれば、
すでにもろもろの世間に過ぎたり。 まさに世の供養を受くべし」 と。 云々
「若シ初発心ノ時ニ | 誓↢願スレバ当ニシト↟作ル↠仏ニ |
已ニ過ギタリ↢諸ノ世間ニ↡ | 応ゼリトイヘリ↠受クルニ↢世ノ供養ヲ↡」 云々 |
|
^こ0926の ¬論¼ (大智度論) にもまた、 ただ 「願作仏」 といへり。 明らけし、 事の菩提心もまたつひに信施を消すといふことを。 その三。
此ノ¬論ニモ¼亦但云ヘリ↢「願作仏ト」↡。明ケシ、事ノ菩提心モ亦畢ニ消ストイフコトヲ↢信施ヲ↡。其ノ三
^¬止観¼ に、 ¬*秘密蔵経¼ を引きをはりていはく、 「*初めの菩提心、 すでによく重々の十悪を除く。 いはんや、 *第二・第三・第四の菩提心をや」 と。 云々 いふところの 「初め」 とは、 これ*三蔵教の、 *界内の事を縁ずる菩提心なり。 いかにいはんや、 深く一切衆生にことごとく仏性ありと信じて、 あまねく自他ともに仏道を成ぜんと願ぜんに、 あに罪を滅することなからんや。 その四。
¬止観ニ¼引キ↢¬秘密蔵経ヲ¼↡已リテ云ク、「初ノ菩提心已ニ能ク除ク↢重々ノ十悪ヲ↡。況ヤ第二・第三・第四ノ菩提心ヲ耶トイヘリ。」云々 所ノ↠言フ初ト者、是三蔵教ノ縁ズル↢界内ノ事ヲ↡菩提心也。何ニ況ヤ、深ク信ジテ↣一切衆生ニ悉ク有リト↢仏性↡、普ク願ゼムニ↣自他共ニ成ラムト↢仏道ヲ↡、豈ニ無カラムヤ↠滅スルコト↠罪ヲ。其ノ四
^¬唯識論¼ にいはく、 「菩提と有情との実有を執せずは、 猛利の悲願を発起するに由なし」 と。 以上 大士の悲願すらなほ有を執して起る。 すなはち知りぬ、 事の願もまた勝利ありといふことを。 その五。
¬唯識論ニ¼云ク、「不ハ↠執セ↢菩提ト有情トノ実有ヲ↡、无シトイヘリ↠由↣発↢起スルニ猛利ノ悲願ヲ↡。」 已上 大士ノ悲願スラ尚シ執シテ↠有ヲ起ル。則チ知リヌ事ノ願モ亦有リトイフコトヲ↢勝利↡。其ノ五
^余は下の回向門のごとし。
余ハ如シ↢下ノ廻向門ノ↡。
^問ふ。 衆生にもとより仏性ありと信解することは、 あに縁理にあらずや。
問フ。信↣解セバ衆生ニ本ヨリ有リト↢仏性↡豈ニ非ズヤ↢縁理ニ↡。
^答ふ。 これはこれ、 大乗至極の道理を信解するなり。 かならずしも第一義空相応の観慧にはあらず。
答フ。此ハ是、信↢解スルナリ大乗ノ至極ノ道理ヲ↡。非ズ↢必ズシモ第一義空相応ノ観*恵ニハ↡。
^問ふ。 ¬十疑¼ に ¬*雑集論¼ を引きていはく、 「もしは安楽浄土に生れんと願ひて、 すなはち往生を得るものあり。 もしは人、 無垢仏の名を聞きて、 すなは0927ち阿耨菩提を得るものあり。 これはこれ別時の因なり。 まつたく行あることなし」 と。 以上
問フ。¬十疑ニ¼引キテ↢¬雑集論ヲ¼云ク、「若シハ有ルハ↠願ズルコト↠生ゼムト↢安楽浄土ニ↡、即チ得ル↢往生スルコトヲ↡者ナリ。若シハ人聞ケバ↢無垢仏ノ名ヲ↡、即チ得ル↢阿耨菩提ヲ↡者ナリトイフハ、此ハ是別時ノ因ナリ。全ク无シトイヘリ↠行アルコト。」 已上
^慈恩 (窺基) 同じくいはく (西方要決)、 「願と行と前後するがゆゑに、 別時と説く。 仏を念ずるに、 即生せずといはんとにはあらず」 と。 以上
慈恩同ジク云ク、「願ト行ト前後ナリ、故ニ説ク↢別時ヲ↡。非ズト↠謂ハムトニハ↣念ズルニ↠仏ヲ不ト↢即生セ↡也。」 已上
^あきらかに知りぬ、 願ありて行なきは、 これ*別時の意なり。 いかんぞ、 △上品下生の人、 ただ菩提の願によりてすなはち往生することを得るや。
明カニ知リヌ、有リテ↠願无キハ↠行、是別時ノ意ナリ。云何ゾ、上品下生之人、但由リテ↢菩提ノ願ニ↡即チ*得ル↢往生スルコトヲ↡耶。
^答ふ。 大菩提心は*功能甚深なり。 無量の罪を滅し、 無量の福を生ず。 ゆゑに浄土を求むれば、 求むるに随ひてすなはち得。 いふところの別時の意といふは、 ただ自身のために極楽を願求するなり。 これ、 四弘願の広大の菩提心にはあらず。
答フ。大菩提心ノ功能甚深ナリ。滅シ↢无量ノ罪ヲ↡生ズ↢無量1091ノ福ヲ↡。故ニ求ムルニ↢浄土ヲ↡、随ヒテ↠求ムルニ即チ得。所ノ↠言フ別時ノ意トイフ者、但為ニ↢自身ノ↡願↢求スルナリ極楽ヲ↡。非ズ↢是四弘願ノ広大ノ菩提心ニハ↡。
^問ふ。 大菩提心、 もしこの力あらば、 一切の菩薩は、 初発心より決定して悪趣に堕するものなかるべし。
問フ。大菩提心若シ有ラバ↢此ノ力↡、一切ノ菩薩ハ従リ↢初発心↡決定シテ応シ↠无カル↧堕スル↢悪趣ニ↡者↥。
^答ふ。 菩薩、 いまだ不退の位に至らざる前は、 *染・浄の二の心、 *間雑して起る。 *前念に衆罪を滅すといへども、 *後念にさらに衆罪を造る。 また、 菩提心に浅深・強弱あり、 悪業に久近・定不定あり。 このゆゑに、 *退位にては昇沈不定なり。 菩提心に滅罪の力なきにはあらず。 しばらく*愚管を述す。 見るもの取捨せよ。
答フ。菩薩未ダル↠至ラ↢不退ノ位ニ↡前ハ、染浄ノ二ノ心間雑シテ而起ル。前念ニ雖モ↠滅スト↢衆罪ヲ↡、後念ニ更ニ造ル↢衆罪ヲ↡。又菩提心ニ有リ↢浅深・強弱↡。悪業ニ有リ↢久近・定不定↡。是ノ故ニ退位ノ昇沈不定ナルナリ。非ズ↣菩提心ニ無キニハ↢滅罪ノ力↡。且ク述ス↢愚管ヲ↡。見ム者取捨セヨ。
・料簡
【41】^三に△*料簡とは、
三ニ料簡ト者、
^問ふ、 「入法界品」 にのたまはく、 「たとへば、 金剛は金0928性より生じて、 余宝より生ずるにあらざるがごとく、 菩提心の宝もまたかくのごとし。 大悲をもつて衆生を救護する性より生じて、 余の善より生ずるにあらず」 と。
問フ。「入法界品ニ」云ク、「譬ヘバ如ク↧金剛ノ従リ↢金性↡生ジテ非ザルガ↦余宝ヨリ生ズルニ↥、菩提心ノ宝モ亦復如シ↠是クノ。大悲ヲモテ救↢護スル衆生ノ↡性ヨリ生ズ、非ズトイヘリ↢余ノ善ヨリ生ズルニ↡。」
^¬*荘厳論¼ の偈にいはく、
¬荘厳論ノ¼偈ニ云ク、
^「▼つねに地獄に処すといへども、 大菩提をば障へず。
もし自利の心を起さば、 これ大菩提の障なり」 と。
「雖モ↣恒ニ処スト↢地獄ニ↡ | 不↠障ヘ↢大菩提ヲバ↡ |
若シ起ス↢自利ノ心ヲ↡ | 是大菩提ノ障ナリト」 |
^また ¬*丈夫論¼ の偈にいはく、
又¬丈夫論ノ¼偈ニ云ク、
^「悲心をもつて一人に施するは、 功徳の大きなること地のごとし。
おのがために一切に施するは、 報を得ること芥子のごとし。
「悲心ヲモテ施スルハ↢一人ニ↡ | 功徳ノ大キナルコト如シ↠地ノ |
為ニ↠己ガ施スルハ↢一切ニ↡ | 得ルコト↠報ヲ如シ↢芥子ノ↡ |
^一の厄難の人を救ふは、 余の一切の施には勝れたり。
もろもろの星に光ありといへども、 一の月の明にはしかず」 と。 以上
救フハ↢一ノ厄難ノ人ヲ↡ | 勝レタリ↢余ノ一切ノ施ニハ↡ |
衆ノ星ニ雖モ↠有リト↠光 | 不ズト↠如クハ↢一ノ月ノ明ノ↡」 已上 |
^明らけし、 自利の行はこれ菩提心の*所依にあらざれば、 報を得ることまた少なし。 いかんぞ、 独りすみやかに極楽に生ぜんと願ずるや。
明ケシ、自利ノ行ハ非ズ↢是菩提心之所依ニ↡。得ルコト↠報ヲ亦少シ。云何ゾ独リ願ズルヤ↣速ニ生ぜムト↢極楽ニ↡。
^答ふ。 あに前にいはずや、 極楽を願ずるものはかならず四弘願を発して、 願に随ひて勤修せよとは。 これあに、 これ大悲心の行にあらずや。
答フ。豈ニ不ヤ↢前ニ言ハ↡、願ゼム↢極楽ヲ↡*者ハ要ズ発シテ↢四弘願ヲ↡、随ヒテ↠願ニ而勤修セヨトハ。此豈ニ非ズヤ↢是大悲心ノ行ニ↡。
^*また、 極楽を願求すること、 これ自利の心にあらず。 しかる所以は、 いまこの娑婆世界は*留難多し。 甘露のいまだ沾は0929ざるに、 *苦海朝宗しぬ。 初心の行者、 なんの暇ありてか道を修せん。 ゆゑにいま菩薩の願行を円満して、 自在に一切衆生を利益せんと欲ふがために、 先づ極楽を求むるなり。 自利のためにはせず。
*人願↢求スルコト極楽ヲ↡、非ズ↢是自利ノ心ニ↡。所↢以然ル↡者、今此ノ娑婆世界ハ*多シ↢留難↡。*甘露1092ノ未ダルニ↠沾ハ、苦海朝宗シヌ。初心ノ行者何ノ暇ニカ修セム↠道ヲ。故ニ今為ニ↠欲フガ↧円↢満シテ菩薩ノ願行ヲ↡、自在ニ利↦益セムト一切衆生ヲ↥、先ヅ求ムルナリ↢極楽ヲ↡。不↠為ニハセ↢自利ノ↡。
^¬十住毘婆沙¼ にいふがごとし、 「みづからいまだ度することを得ずは、 かれを度することあたはず。 人のみづから*於泥に没せるがごとき、 なんぞよく余人を*拯済せん。 また、 水のために漂はさるるもの、 溺れたるものを済ふことあたはざるがごとし。 このゆゑに説かく、 ªわれ度しをはりて、 まさにかれを度すべしº」 と。
如シ↢¬十住*毘婆*娑ニ¼云フガ↡。「自ラ未ダハ↠得↠度スルコトヲ、不↠能ハ↠度スルコト↠彼ヲ。如キ↣人ノ自ラ没セルガ↢於泥ニ↡、何ゾ能ク拯↢済セム余人ヲ↡。又如シ↢為ニ↠水ノ所テ↠漂ハサ、不ルガ↟能ハ↠済フコト↠溺ルルヲ。是ノ故ニ説カク、我度シ已リテ当ニシトイヘリ↠度ス↠彼ヲ。」
^また ¬*法句経¼ の偈に説くがごとし。
又如シ↢¬法句*経ノ¼偈ニ説クガ↡。
^「もしよくみづから身を安んじて、 善処にあらば、
しかして後に余人を安んじて、 みづからと所利を同じくせよ」 と。 以上
「若シ能ク自ラ安ジテ↠身ヲ | 在ル↢於善処ニ↡者 |
然シテ後ニ安ジテ↢余人ヲ↡ | 自ラト同ジクストイヘリ↢於所利ヲ↡」 已上 |
^ゆゑに ¬十疑¼ にいはく、 「浄土に生れんと求むる所以は一切衆生の苦を救抜せんと欲ふがゆゑなり。 すなはちみづから*思忖すらく、 ªわれいま力なし。 もし悪世、 煩悩の境のなかにあらば、 境強きをもつてのゆゑに、 みづから*纏縛せられて三塗に*淪溺し、 ややもすれば数劫を経ん。 かくのごとく輪転して、 無始よりこのかたいまだかつて休息せず。 いづれの時にか、 よく衆生の苦を救ふこと0930を得んº と。
故ニ¬十疑ニ¼言ク、「所↢以ハ求ムル↟生ぜムト↢浄土ニ↡、欲フガ↣救↢抜セムト一切衆生ノ苦ヲ↡故ナリ。即チ自ラ思忖スラク、我今无シ↠力。若シ在ラバ↢悪世、煩悩ノ境ノ中ニ↡、以テノ↢境強キヲ↡故ニ、自ラ被レテ↢纏縛セ↡淪↢溺シテ三塗ニ↡、動バ経ン↢数劫ヲ↡。如クシテ↠此クノ輪転シテ、無始ヨリ已来タ未ダ↢曽ニモ休息セ↡。何レノ時ニカ能ク得ムト↠救フコトヲ↢衆生ノ苦ヲ↡。
^これがために、 浄土に生れて諸仏に親近し、 無生忍を証して、 まさによく悪世のなかにして、 衆生の苦を救はんことを求むるなり」 と。 以上
為ニ↠此ガ求ムルナリト↧生ジテ↢浄土ニ↡親↢近シ諸仏ニ↡、証シテ↢無生忍ヲ↡、方ニ能ク於テ↢悪世ノ中ニ↡救ハムコトヲ↦衆生ノ苦ヲ↥。」 已上
^*余の経論の文、 つぶさに ¬十疑¼ のごとし。 知りぬべし、 念仏・修善を*業因となし、 往生極楽を華報となし、 証大菩提を果報となし、 利益衆生を本懐となす。 たとへば、 世間に木を植うれば華を開き、 華によりて菓を結び、 菓を得て*餐受するがごとし。
余ノ経論ノ文、具ニ如シ↢¬十疑ノ¼↡也。応シ↠知リヌ、念仏修善ヲ為シ↢業因ト↡。往生極楽ヲ為シ↢花報ト↡。証大菩提ヲ為シ↢果報ト↡。利益衆生ヲ為ス↢本懐ト↡。譬ヘバ如シ↢世間ニ植ヱテ↠木ヲ開キ↠花ヲ、因リテ↠花ニ結ビ↠菓ヲ、得テ↠菓ヲ餐受スルガ↡。
^問ふ。 念仏の行は、 四弘のなかにおいて、 これいづれの行の摂ぞ。
問フ。念仏之行ハ於テ↢四弘ノ中ニ↡、是何レノ行ノ摂ゾ。
^答ふ。 念仏三昧を修するは、 これ△第三の願行なり。 随ひて伏滅するところあるは、 これ△第二の願行なり。 遠近に良縁を結ぶは、 これ△第一の願行なり。 功を積み徳を累ぬるは、 △第四の願を成ずるなり。 自余の衆善は例して知れ。 俟たざれ。
答フ。修スルハ↢念仏三昧ヲ↡是第三ノ願*行ナリ。随ヒテ有ルハ↠所↢伏滅スル↡是第二ノ願行ナリ。遠近ニ結ブハ↢良縁ヲ↡是第一ノ願行ナリ。積ミ↠功ヲ累ネテ↠徳ヲ成ズルナリ↢第四ノ願ヲ↡。自余ノ衆善ハ例シテ知レ。不レ↠俟タ。
^問ふ。 一心に仏を念ぜば、 理また往生すべし。 なんぞかならず*経論に菩提の願を勧むるや。
問フ。一心ニ念ズルニ↠仏ヲ、理亦往生シナム。何ゾ要ズシモ経・論ニ勧ムルヤ↢菩1093提ノ願ヲ↡。
^答ふ。 ¬*大荘厳論¼ にいはく、 「仏国は事大なれば、 独り行の功徳をもつては成就することあたはず。 かならず願力を須ゐるべし。 牛は力ありといへども、 車を挽くにかならず御者を須ゐて、 よく至るところあるがごとく、 仏の国土を浄むるも願によりて引成す。 願力をもつてのゆゑに*福慧増長す0931」 と。 以上
答フ。¬大荘厳論ニ¼云ク、「仏国ノ事大ナリ。独リ行ジテハ↢功徳ヲ↡不↠能ハ↢成就スルコト↡。要ズシモ須ヰルベシ↢願力ヲ↡。如ク↧牛ノ雖モ↠力アリト、挽クニ↠車ヲ要ズ須ヰテ↢御者ヲ↡能ク有ルガ↦所↠至↥、浄ムルコトハ↢仏ノ国土ヲ↡由リテ↠願ニ引成ス。以テノ↢願力ヲ↡故ニ福*恵増長スト。」 已上
^¬十住毘婆沙論¼ にいはく、 「一切の諸法は願を根本となす。 願を離れてはすなはち成ぜず。 このゆゑに願を発す」 と。
¬十住毘婆*娑論ニ¼云ク、「一切ノ諸法ハ願ヲ為ス↢根本ト↡。離レテハ↠願ヲ則チ不↠成ラ。是ノ故ニ発ストイヘリ↠願ヲ。」
^またいはく (易行品)、
又云ク、
^「▲もし人、 仏に作らんと願じて、 心に阿弥陀を念ずれば、
時に応じてために身を現じたまふ。 このゆゑにわれ帰命したてまつる」 と。 以上
「若シ人願ジテ↠作ラムト↠仏ニ | 心ニ念ズレバ↢阿弥陀ヲ↡ |
応ジテ↠時ニ為ニ現ジタマフ↠身ヲ | 是ノ故ニ我帰命シタテマツルト」 已上 |
^大菩提心、 すでにこの力あり。 このゆゑに行者かならずこの願を発せ。
大菩提心既ニ有リ↢此ノ力↡。是ノ故ニ行者要ズ発セ↢此ノ願ヲ↡。
^問ふ。 もし願を発さざるものは、 つひに往生せざるや。
問フ。若シ不ル↠発サ↠願ヲ者ハ、終ニ不ル↢往生セ↡耶。
^答ふ。 諸師不同なり。 *あるがいはく、 「九品生の人はみな菩提心を発す。 その中品の人は、 本これ小乗なりといへども、 後に*大心を発してかの国に生ずることを得。 かの*本習によりてしばらく*小果を証す。 その下品の人は、 大心を退せりといへども、 しかもその勢力なほありて、 生ずることを得」 と。 *慈恩 (窺基) これに同じ。
答フ。諸師不同ナリ。有ルガ云ク、「九品生ノ人ハ皆発ス↢菩提心ヲ↡。其ノ中品ノ人ハ、本雖モ↢是小乗ナリト↡、後ニ発シテ↢大心ヲ↡得↠生ズルコトヲ↢彼ノ国ニ↡。由リテ↢彼ノ本習ニ↡暫ク証ス↢小果ヲ↡。其ノ下品ノ人ハ雖モ↠退セリト↢大心ヲ↡、而モ其ノ勢力猶在リテ得ト↠生ズルコトヲ。」慈恩同ジ↠之ニ
^*あるがいはく、 「中・下品はただ*福分によりて生じ、 上品は福分・*道分を具して生ず」 と。 云々 「道分」 とは、 これ菩提心の行なり。
有ルガ云ク、「中・下品ハ但由リテ↢福分ニ↡生ズ。上品ハ具シテ↢福分・道分ヲ↡生ズト。」云々 道分ト者是菩提心ノ行也。
^問ふ。 菩提心に諸師の異解あるがごとく、 浄土を欣ふ心もまた不同なりや。
問フ。如ク↢菩提心ノ諸師ノ異解スルガ↡、欣フ↢浄土ヲ↡心モ亦不同ナリ耶。
^答ふ。 大菩提心には異説ありといへども、 浄土を欣ふ願は、 九品にみな具すべし0932。
答フ。大菩提心ニハ雖モ↠有リト↢異説↡、欣フ↢浄土ヲ↡之願ハ九品ニ皆応シ↠具ス。
^問ふ。 もし浄土の業、 願によりて報を得ば、 人の、 悪を作りて地獄を願はざるがごとき、 かれ地獄の果報を得べからずや。
問フ。若シ浄土ノ業依リテ↠願ニ得バ↠報ヲ、如キ↢人ノ作ルガ↟悪ヲ、不レバ↠願ハ↢地獄ヲ↡、彼不ヤ↠応カラ↠得↢地獄ノ果報ヲ↡。
^答ふ。 罪の報は有量なれども、 浄土の報は無量なり。 二果すでに別なり。 *二因なんぞ一例せんや。
答フ。罪ノ報ハ有リ↠量リ。浄土ノ報ハ無シ↠量リ。二果既ニ別ナリ。二因何ゾ一例セムヤ。
^¬大論¼ (大智度論) の第八にいふがごとし。 「罪福には定報ありといへども、 ただ願をなすものは、 小福を修すれども、 願力あるがゆゑに大果報を得。 一切衆生はみな楽を得んと願ひて、 苦を願ふものはなし。 このゆゑに地獄を願はず。 これをもつてのゆゑに、 福は無量の報あれども、 罪報は有量なり」 と。 略抄
如シ↢¬大論ノ¼第八ニ云フガ↡。「罪福ニハ雖モ↠有リト↢定報↡、但作ス↠願ヲ者ハ、修スレドモ↢小福ヲ↡有ルガ↢願力↡故ニ得↢大果報ヲ↡。一切衆生ハ皆1094願ズ↠得ムト↠楽ヲ。無シ↢願フ↠苦ヲ者ハ↡。是ノ故ニ不↠願ハ↢地獄ヲ↡。以テノ↠是ヲ故ニ、福ハ有リ↢無量ノ*報↡。罪報ニハ有リト↠量リ。」略抄
^問ふ。 なんらの法をもつてか、 世々に*大菩提の願を増長して忘失せざる。
問フ。以テカ↢何等ノ法ヲ↡、世々ニ増↢長シテ大菩提ノ願ヲ↡而不ル↢忘失セ↡。
^答ふ。 ¬十住婆沙¼ の第三の偈にいはく、
答フ。¬十住婆*娑ノ¼第三ノ偈ニ云ク、
^「乃至、 身命、 転輪聖王の位を失はんも、
これにおいてなほ妄語し、 諂曲を行ずべからず。
「乃至失ハムニ↢身命 | 転輪聖王ノ位ヲ↡ |
於テ↠此ニ尚シ不↠応カラ↣ | *妄語シ行ズ↢諂曲ヲ↡ |
^よくもろもろの世間の一切衆生の類をして、
もろもろの菩薩衆において、 恭敬の心を生ぜしめよ。
能ク令ム↧諸ノ世間ノ | 一切衆生ノ類ヲシテ |
於テ↢諸ノ菩薩衆ニ↡ | 而シテ生ゼ↦恭敬ノ心ヲ↥ |
^もし人ありて、 よくかくのごとき善法を行ずるは、
世0933々に*無上菩提の願を増長することを得ん」 と。
若シ有リテ↠人能ク行ズルハ↢ | 如キ↠是クノ之善法ヲ↡ |
世々ニ得ント↣増↢長スルコトヲ | 無上菩提ノ願ヲ↡」 |
^文中にまた二十種の失菩提心の法あり。 見るべし。
文中ニ亦有リ↢二*十種ノ失菩提心ノ法↡。可シ↠見ル
往生要集 巻上
延書の底本は京都府青蓮院蔵承安元年書写本ˆ原漢文の底本と同一ˇ。 ただし訓はかなり異なる。
尽第四門半 本書の巻上が大文第四の半ばまでであるという意。
事理の業因 具体的な相を観ずる事観と、 無相の真理そのものを観ずる理観。
予がごとき頑魯のもの 私 (源信) のようなかたくなで愚かな者。
備へん 底本 (青蓮院本) の左訓には 「備へよ」 とある。
業因 果をもたらす因となる行為。 ここでは地獄に堕ちる原因となる悪行をいう。
眷属 ここでは付属の意。
両 底本 (青蓮院本) には 「雨」 とある。
瓮 かめ。
骨肉狼藉たり 罪人の骨や肉があたりに散乱している。
自余の九処 屎泥処…極苦処以外の九つの別処。
拼 この段の典拠となっている ¬法苑珠林¼ 巻七の黒縄地獄の文では 「絣」 の字を用いている。
異処 別処に同じ。 大地獄に付属する特別の小地獄。
この四字 「名畏鷲処」 の四字。
腸 底本 (青蓮院本) には 「腹」 とある。
刀葉林 刀のように鋭くとがった葉をもつ木々。
欲心熾盛にして 愛欲の思いがはげしくさかんであり。
腸 底本 (青蓮院本) には 「腹」 とある。
頭を叩きて 頭を地につけてという意。
閻羅人 閻羅王の配下の獄卒 (地獄の鬼)。
風黄冷雑 風病と火病 (黄) と水病 (冷) と地病 (雑)。
肘 長さの単位。 一肘は人のひじの長さ (約一尺六寸 ) に相当する。
十六の別処 ¬正法念経¼ では、 大叫喚地獄の別処を十八とする。
生蘇 若草。
分荼離迦 梵語プンダリーカ (puṇḍarīka) の音写。 白蓮華のこと。
所依の処 つかまるところ。 寄るべ。
半中劫 一中劫の半分。 一中劫は二十小劫にあたる。 →
劫
増劫・減劫 成・住・壊・空の四劫のうちの住劫において、 人間の寿命が百年に一歳ずつ増加して、 十歳より八万歳に至る期間を増劫といい、 百年に一歳ずつ減少して、 八万歳より十歳に至る期間を減劫という。
一掬の水 両手いっぱいの水。
隔 隔壁。 境界をへだてる仕切りの壁。
簸り 除き去ること。
三熱… 炎熱のはげしさを三段階に分けたもの。
因果を撥無し 因果の道理を否定して。
脯 乾肉。
用 底本 (青蓮院本) には 「困」 とある。
大那落迦 那落迦は梵語ナラカ (
naraka) の音写。
地獄のこと。
出園 外苑。
死屍糞泥 死体と糞の泥沼。
黒黧 黧は色あせて黄色気味を帯びた黒色。
脊胎 背中と腹。
鉄設柆末梨林 設柆末梨は梵語シャールマリー (śālmalī) の音写で、 刺の意。 鉄の刺の林。
周旋して回復す ぐるぐると回りめぐる。
なんの所須… どんな望みがあるのか。
つひに覚知… もはや何の感覚もない。
経論 ¬涅槃経¼ ¬大智度論¼ ¬倶舎論¼ 等に八寒地獄が説かれている。
丈夫 主人。
祭を設くる 供物を捧げて祈祷する。
不浄に説法せしもの 自己の名誉や利益のために教法を説いたもの。
蚓蛾 みみずと蛾。
塚 墓場。
焼屍の火 死骸を焼く火。 異本には 「焼火の屍」 とある。
驢 ろば。
騾 らば。
一時 約二時間。
七時 約十四時間。
経論 ¬正法念経¼ ¬六波羅蜜経¼ ¬法華経¼ 等。
天の鼓 忉利天の善法堂にある太鼓。 帝釈天が阿修羅と戦う時、 おのずから音を出すという。
怖畏周章して 恐れてあわてふためいて。
腕 底本 (青蓮院本) には 「脘」 とある。 次の 「腕」 も同じ。
周帀して弥布せり 回りめぐってくまなく分布している。
三尋半 尋は長さの単位。 一尋は八尺 (周尺) で約180センチメートル。
禅経の偈 鳩摩羅什訳 ¬禅秘要経¼ ではなく、 ¬法苑珠林¼ あるいは ¬諸経要宗¼ に引かれる ¬禅秘要経¼ 取意の文か。
鵰 くまたか。
鵄 とび。
梟 ふくろう。
究竟不浄 不浄の極致。
粉 脂粉。
鹿杖を… ¬十誦律¼ 巻二にみえる伝説。 仏が不浄観を説くのを聞いて、 比丘たちが厭離の心を懐き、 鹿杖梵士を雇って、 自らを殺させた。 その数は六十人に及んだという。
大黄湯 薬草の一種。
外苦 底本 (青蓮院本) には 「行苦」 とある。
無上の尊 この上なく尊くすぐれた方。 仏のこと。
仙に登り 仙人になって天に登ること。
空にもあらず… 五神通を具足した四人兄弟の婆羅門が、 各七日後に死期が迫ったのを知り、 これを免れようとして、 一人は海中、 一人は須弥山、 一人は虚空、 一人は市中に隠れることにしたが、 釈尊はその中の一人の死の報を聞いて、 生老病死の四苦を免れることはできないと説き、 この偈をよんだという。
掣電 電光。
哺 口に食物をふくむこと。
五衰の相 天人五衰のこと。 諸天が死の直前に示す五種の衰亡の相。 五種の相については異説もある。
殊勝殿 善見宮城内の宮殿。
衆車苑・粗渋苑・雑林苑・歓喜苑 善見宮城の外にある周千由旬の庭園。
劫波樹 劫波は梵語カルパ (kalpa) の音写。 歓喜苑にあるという衣服や装身具などを出す樹。
曼陀枳尼 梵語マンダーキニー (Mandākinī) の音写。 語源的に解釈すると、 ゆるやかに流れるという意。 善見宮城にある池の名。
四種の甘露 諸天が用いる不死の効能がある仙酒・霊薬のことで、 青・黄・赤・白の四種があるという。
五妙の音楽 宮・商・角・緻・羽の五音階にかなった天上の妙なる音楽。
馬頭の山沃焦の海 馬頭山は伊沙山の奥にあるという山。 その形は馬の頭に似ているという。 沃焦は大海の底にあって水を吸うという石の名。 阿鼻地獄の火によってこの石は常に熱せられているという。 沃焦海はこの石がある海のこと。
非想 無色界最上層にある非想非非想処天。
一篋 一篋四蛇の喩えによっていう。 人間の身体が地・水・火・風の四大の結合より成っていることを、 一つの箱に四蛇を収めたのに喩える。
四の山 生老病死の四苦を山に喩える。
癰を洗ひ… 癰 (はれもの) の膿を洗い流し、 眼に刺さったさかまつげを取り出しただけで、 楽になったと思っている。
枷鎖の業 くびかせやくさりで悪道にしばりつけるような行為。 悪業。
疥者 疥は皮膚病の一種。
色族 才色と閥族。
利衰の八法 八風のこと。 人の心を動揺させる八種の状態。 利 (利得)・衰 (損失)・毀・誉・称・譏・苦・楽の八つ。
信戒施聞慧慚愧 七財。 仏道修行に必要な七種の財産。
五時 初夜・中夜・後夜の夜の三時に、 日没と晨朝の二時を加えて五時としたものか。
度 さとりの世界にわたること。
所須の欲 求めるもの。
駃 異本には 「駛」 とある。
諦 真理。
頼和羅の伎声 頼和羅のことを歌った詩頌。 頼和羅とは、 梵語ラーシュトラパーラ (Rāṣṭrapāla) の音写。 古代中インドのクル国の長者の子と伝えられる。 ¬四分律¼ によれば、 少欲知足で物に貪着することがなく、 釈尊は弟子たちに、 彼のようにむさぼりを離れよと誡めたといわれる。
毒蛇の篋 一篋四蛇の喩えによっていう。 人間の身体が地・水・火・風の四大の結合により成っていることを、 一つの箱に四蛇を収めたのに喩えたもの。
丘塚 墓。
四非常の偈 ¬仁王経¼ 巻下にある無常・苦・空・無我を説いた四言三十二句の偈頌。 四無常偈ともよばれる。
諸行は… この偈は 「無常偈」 また 「雪山偈」 とよばれ、 「いろは歌」 の原形といわれる。
祇園寺の無常堂 祇園精舎の西北の角にあったという無常院。 病者に安らかな臨終を迎えさせるための施設。
雪山の大士 ¬涅槃経¼ に説かれる釈尊の前生。 雪山童子ともいう。 帝釈天がこの童子を試そうとして羅刹に身を変え、 「無常偈」 (雪山偈) の前二句を唱えたところ、 童子は後半の二句を聞くために自らの身を投げて羅刹に与えたという。
貪瞋痴等の惑業 貪欲・
瞋恚・
愚痴などの
煩悩のこと。 →
三毒
法体 もの。 存在。
仙駕に陪する 仙人の車につき従う。 仙人の位に名を列ねること。
宗親戚属 兄弟や親族。
自調自度 自らの心を調え、 自分ひとりだけの解脱をめざすこと。
小 小乗の教え。
不浄等の観 不浄観などの観法。 不浄観は身や
三界の不浄を観じて
貪欲を離れる観法。
五停心観の一。
事務を貪営して 俗事をいとなみ。
九の処… 両眼・両耳・両鼻孔・口・両便道の九つの穴。 九瘡門、 九孔などともいう。
篅 竹囲いの米倉。 あるいは竹製のざるの意か。
痰癊 痰はたん、 癊は胸の病。 ここでは、 たんの意。
貪瞋痴 貪欲・
瞋恚・
愚痴。 →
三毒
算分喩分 数量や比喩で表し示すこと。
安国の抄 以下は
延寿の ¬
万善同帰集¼ に引く ¬
安国鈔¼ の文によって十の楽を挙げる。
聖衆来迎の楽 浄土の菩薩衆が臨終に迎えに来るという楽しみ。 →
来迎
風火 四大のうちの
風大と
火大。
地水 四大のうちの
地大と
水大。
運心 (浄土に) 心を寄せること。
本願 ここでは、 来迎引接を誓った第十九願のこと。
百福荘厳 百の福徳によってかざられた手。 三十二相の一々は百福でかざられているという。
大梵王宮 色界初禅天の主である大梵王の住する世界。
輪転無際にして かぎりなく輪廻を繰り返すことを回転する車輪に喩えていう。
尽虚空界 際限のない広大な空間。
転妙法輪 妙法輪を転ずること。 すぐれた仏の教えを説くという意。
駃 異本には 「駛」 とある。
金山王 仏身を金山に喩えていう。
流璃 瑠璃。 青色の宝玉。
普賢の願海 普賢菩薩のたてた海のように広大な十種の誓願。
身相神通の楽 すぐれた
相好と神通力が得られるという楽しみ。 →
神通
一尋 尋は長さの単位。 両手を左右に広げた時の長さを一尋とする。
只尺 咫尺。 きわめて近い距離。
自在無礙 (往来することが) 自由自在であること。
四静慮 静慮は梵語ドヤーナ (
dhyāna) の漢訳。
禅定のこと。
色界の四禅定。 →
四禅
任運生得の果報 生れながらにおのずと得られた果報。
五妙境界の楽 眼・耳・鼻・舌・身の五つの感覚器官の対象である色・声・香・味・触の五境が清浄ですぐれているという楽しみ。
坦然平正 どこまでも平らであるさま。
恢廓曠蕩 はてしなく広大であること。
宮商 宮・
商・
角・
緻・
羽の
五音 (五種の音階) を略していったもの。 →
五音七声
色力 身体の力、 勢い。
馨香芬烈 香気をつよく放っていること。
中時晡時 中時は日中、 晡時は
日没。 →
六時
二種の観経 ¬双観 (巻) 経¼ (¬無量寿経¼) と ¬観無量寿経¼ のこと。
快楽無退の楽 きよらかな快楽がつきないという楽しみ。
経 経名不明。
他方の大士 他方世界より来至した菩薩たち。
新生の人 新たに往生した者。
心事相応 心に思うことと現実とが一致していること。
引接結縁の楽 縁ある人々を浄土に導き寄せるという楽しみ。
志肝胆を… 懸命に努力しても、 水を飲み豆を食うという貧しい生活しかできない。
安楽刹 刹は梵語クシェートラ (
kṣetra) の音写で、 国土の意。 安楽国のこと。 →
安楽
龍樹の偈 実際には天親菩薩の ¬浄土論¼ の偈。
聖衆倶会の楽 浄土の菩薩衆に会えるという楽しみ。
無常大菩提 この上ない仏のさとり。
仏家 仏の浄土。
龍樹の讃 迦才の ¬
浄土論¼ 巻中に引く 「
讃観音勢至二菩薩偈」。
観音勢至は… 迦才の ¬浄土論¼ によって龍樹菩薩の讃を引く。
道化を宣布す (阿弥陀仏の教えを十方世界の衆生に) 説いて教化する。
願はくは…往生せん 異本にはこの文はない。
見仏聞法の楽 阿弥陀仏を見て、 その説法を聞くという楽しみ。
盲ひたる亀の… 盲亀浮木の喩え。 大海中に住む盲目の亀が、 百年に一度、 海上に頭を出し、 そこに流れてきた板のあなに出遇うことがきわめて困難であるということ。
儒童 雪山童子のこと。
梵の声 仏のきよらかな声。
法に名字なきこと すべては因縁によって生起して仮に存在するもので、 名称によって概念的にとらえられるような実体はないということ。
随心供仏の楽 心のままに仏を供養することができるという楽しみ。
食時をもつて 食事の時までにの意。
増進仏道の楽 おのずから仏道を進みゆくという楽しみ。
智分 智慧のかぎり。
我我所 我は自己自身、 我所は自己の所有するもの。
妙法輪を転じ この上なくすぐれた仏の教えを説き。 仏の説かれた教えは、 衆生の煩悩をうちくだき、 次々とひろまってゆくので、 これを車輪に喩えていう。
薬王品 「薬王菩薩本事品」 第二十三。
出世の法要 迷いの世界を離れ出る肝要な方法。
観音勢至は… 観音・勢至が娑婆世界で修行し、 浄土に化生したという説は、 ¬大経¼ (下) に見える。
玄奘三蔵のいはく… 以下に引用される文は道世編の ¬諸経要集¼ 巻一および ¬法苑珠林¼ 巻十六に見える。
旧き経論 旧訳 (玄奘以前の翻訳) の経論のこと。 ここでは鳩摩羅什訳 ¬仁王経¼、 真諦訳の ¬摂大乗論¼ 等を指す。
七地 ¬諸経要集¼ 本文は 「十地」 になっている。
新論 新訳 (玄奘以降の翻訳) の論のこと。 ここでは ¬瑜伽師地論¼ ¬仏地経論¼ 等を指す。
中国 ここでの中国はインドの意。
内外 兜率天の内院は弥勒の住処 (弥勒浄土・兜率浄土)、 外院は天衆の住処。
引摂の願 第十九願のこと。
相伝にいはく… 最澄 (766または767-822) の ¬顕戒論¼ の取意の文。
流沙 中国西部からインドに至る間の砂漠。 現在のタクラマカン砂漠。
遮 退け捨てること。
非梵行 梵は清浄の意。 清浄でない行為。
五十七倶胝六十百千歳 弥勒菩薩出世の年数については経論の間に異説があるが、 五十六億七千万とする ¬
*菩薩処胎経¼ の説が一般的である。
対揚の首 聴衆の第一。
余方 極楽以外の国土 (を願うこと)。
異執 誤った執着の心。
能礼所礼… 慈覚大師円仁の ¬法華常行三昧礼仏文¼ の文といわれる。
真際 究極的な真実。
功徳…具して 親鸞聖人は 「功徳円満せり。 義つぶさにかくのごときらの六種の功徳による」 (行文類訓) と読まれた。
抄す 諸本には次下に 「つぶさには別抄にあり」 とある。
真言教の仏讃 唐の不空訳 ¬無量寿如来観行供養儀軌¼ の中の 「阿弥陀如来根本陀羅尼」 などを指す。
有淪を傾く 迷いの世界である三界を離れるの意。
縁因仏性 智慧をおこす縁となるすべての善根功徳。
正因仏性 すべての存在に本来そなわっている真如の理。
了因仏性 真如の理を照らしあらわす智慧。 天台宗では縁因仏性・正因仏性・了因仏性の三因仏性説を立てる。
一色一香も… すべてのものはことごとく中道実相の理のあらわれであるという意。 天台大師智顗の ¬摩訶止観¼ に見える語。
塵労門 塵労は心を疲れさせるものの意。 煩悩の異名。
所得なし 対象を認識しない。
始行の衆生 仏道修行を始めたばかりの者。
自他… 「自他法界同じく利益し、 ともに極楽に生じて仏道を成ぜん」
無尽法界 すべての存在世界。
本縁 過去の因縁。
同論にいはく… ¬大智度論¼ からの引用とするが該当する文はない。
種性 さとりの種。
悪取空 空の道理を誤って理解し、 とらわれること。
本有 本来そなわっているという意。
悲願 慈悲の願。
慈童 ¬雑宝蔵経¼ 巻一に説く釈尊の本生。 釈尊は過去世に長者の子、 慈童女として生れ、 すべての苦しみ悩む者を教え導こうと誓って、 死後、 兜率に生れたという。
一把の麨 ひとにぎりの麨。 麨は炒った麦をひいた粉。 むぎこがし。
方便善巧 たくみなてだて。
常途 いつも。 不断。
渠溝 みぞ。
学 底本 (青蓮院本) には 「覚」 とある。
新学 仏道修行を始めたばかりの者。
毀呰 ここでは非難するというほどの意。
有所得の執 一方に偏った誤った見解にとらわれること。
我人寿者命者 我は常住なる自我、 人は他と区別される主体、 寿者は生命を所有する個体、 命者は生命を持続してゆく個体。
断常 断滅と常住。
有作・無作 有作はすべての事物を作られたものとすること、 無作は自然にあるものとすること。
浄戒品 現行の ¬仏蔵経¼ では 「浄法品」。
寿命 底本 (青蓮院本) には 「寿者」 とある。
四教の菩提心 天台宗では蔵・通・別・円の四教にそれぞれ菩提心があると説く。
五欲相応の非理の作意 五欲にもとづく、 道理にはずれた心のはたらき。
瓔珞 飾り。
大福聚 大いなる功徳の集まり。
色方分 すがたかたち。
畢竟 究極的なさとり。
弥伽大士 善財童子が第五番目に訪れた善知識。
初めの菩提心 天台宗でいう四教 (蔵・通・別・円) のうちの蔵教の菩提心。
第二第三第四の菩提心 順に通教・別教・円教の各菩提心。
三蔵教 蔵教 (小乗教) のこと。
染浄の二の心 煩悩のけがれに染まった心と清浄な心。
前念・後念 前の瞬間、 後の瞬間。
料簡 (菩提心に関する種々の問題を) 問答を設けて解釈し、 判断すること。
また 「又」 の字。 底本 (青蓮院本) には 「人」 とある。
苦海朝宗 苦しみが集まり満ちていることを、 多くの河川の水がすべて大海に集まることに喩えていう。
余の経論 ¬観経¼ および天親菩薩の ¬浄土論¼ のこと。
経論 ¬大経¼ および天親菩薩の ¬浄土論¼ のこと。
大荘厳論に… 引用は
延寿 (904-975) の ¬
万善同帰集¼ 巻中に引く ¬
大荘厳論¼ の文によったもの。
あるがいはく… 引用は浄影寺慧遠 (523-592) の ¬観経義疏¼ に見える説。
あるがいはく… 善導大師の 「
玄義分」 および ¬
安養集¼ 所引の
龍興 ¬観無量寿経記¼ の文によったもの。
道分 さとりの果をもたらす行業。
二因 往生浄土の業因と堕地獄の業因。
無上菩提の願 大菩提の願に同じ。
底本は◎京都府青蓮院蔵承安元年書写本。 Ⓐ神奈川県最明寺蔵平安時代書写本、 Ⓑ大阪府出口順得氏蔵建保四年刊本(上巻本末)、 愛知県専光寺蔵建保四年刊本(中巻本末・下巻本末)、 Ⓒ龍谷大学蔵(写字台旧蔵)建長五年刊本、 Ⓓ龍谷大学蔵(写字台旧蔵)室町時代刊本、 Ⓔ本派本願寺蔵版¬七祖聖教¼所収本 と対校。 なお、 別の読み方がされている右訓は割愛した。
末→ⒷⒸ未
是→ⒶⒷⒸⒹⒺ惟
癈→ⒷⒸⒹⒺ廃
夫 Ⓐになし
広→Ⓔ横
捧→Ⓔ棒
猶 Ⓐになし
可還等活 ⒷⒸⒹⒺになし
其寿五百歳 ◎等活ノ五百歳人間ノ当千六百廿万億才と註記
六→ⒷⒸⒹⒺ六[亦]
准→Ⓔ準
折→Ⓒ析
如→Ⓐ如[此]
如→Ⓓ如[如]
有 ⒹⒺになし
生 Ⓓになし
之 ⒹⒺになし
瓫→ⒶⒷⒸ瓮
熟→Ⓔ熱
瓮→ⒹⒺ瓫
者 Ⓓになし
合→Ⓔ令
昔→ⒹⒺ昔[大火炎]
念 ⒹⒺになし
説→Ⓐ説[之]
地→Ⓐ地[上]
横→Ⓓ拡
吹→Ⓓ
伽→ⒷⒸⒹⒺ伽[論]
意 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
地→Ⓐ地[地]
別 ⒷⒸになし
責→ⒷⒸ嘖
親→ⒹⒺ親[族眷]
属→ⒶⒷⒸ眷
有→ⒹⒺ有[之]
応例→ⒷⒸⒹⒺ例応
一 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
此地獄寿一千歳 ◎黑縄一千歳人間ノ当一万二千九百六十万億才と註記
嶮→Ⓓ崳
中 ⒸⒹになし
名畏鷲処或本无此四字 Ⓐになし
鷲→ⒷⒸ熟
或本无此四字 ⒷⒸⒹⒺになし
逐→◎遂
打→Ⓓ折
此→ⒶⒹⒺ此[中]
両々→ⒹⒺ雨山
獄 Ⓐになし
仗→ⒹⒺ杖
伽→ⒹⒺ伽[論]
腹→ⒶⒷⒸⒹⒺ腸
河→ⒶⒷⒸⒹⒺ江
河→ⒹⒺ江
中→ⒹⒺ中[有]
漂→ⒶⒷⒸⒹ
無→Ⓐ無[生]
政→Ⓔ正
広説 ⒹⒺになし
責→ⒷⒸⒹⒺ嘖
此→ⒷⒸⒺ地
其寿二千歳 ◎衆合二千才人間ノ當十万三千六百八十万億才と註記
腹→ⒶⒷⒸⒹⒺ腸
処 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
取→Ⓐ耶
苦→Ⓓ若
大→ⒹⒺ火
身→ⒷⒸ身[分]
都→ⒶⒷⒸ覩
寿四千 ⒹⒺになし
都→ⒶⒷⒸⒹ覩
天 ⒷⒸⒹⒺになし
此→ⒹⒺ此[地]
而→ⒷⒸ其
寿四千歳 ◎叫喚四千才人間ノ當八十二万九十四百八千万億才と註記
飲→Ⓐ飲[食]
末→ⒷⒸⒺ未
四→Ⓐ四[病]
洲→ⒷⒹ州
霧→Ⓐ露
弄→Ⓓ捗
此→Ⓐ此[中]
捉→ⒹⒺ投
足→ⒷⒸⒹⒺ之
嘖→Ⓔ責
其寿八千歳 ◎大叫喚八千才人間ノ當六百六十三万五千八百四十万億才と註記
卒→ⒷⒸ卒[前]
云→Ⓑ言
云々 ⒷⒸⒹⒺになし
眼→ⒹⒺ[二]眼
捉→ⒹⒺ投
雪霜→ⒶⒷⒸⒹⒺ霜雪
他化→Ⓓ化他
此獄寿 ◎焦熱万六千才人間ノ當五千才三百八万六千七百廿万億才と註記
炎→Ⓒ炙
言→Ⓐ言[云]
汝疾速来汝疾速来→ⒹⒺ汝々疾々速々来々
大→ⒶⒹⒺ火 ⒷⒸになし
車 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
瑜伽大論→ⒶⒷⒸⒹⒺ大論瑜伽論
汚→Ⓐ
肱→Ⓑ肚
肚→◎Ⓐ肱(◎肚イハラと右傍註記)
鋒利→Ⓐ利鋒
羅 ⒹⒺになし
責→ⒶⒷⒸⒹ嘖
燋→ⒹⒺ焦
万 Ⓐになし
取意略 Ⓐになし
取意 ⒷⒸⒹⒺになし
之 ⒷⒸⒹⒺになし
有 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
億→ⒶⒷⒸⒹⒺ億[千]
経→ⒹⒺ経[中]
之 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
言→Ⓐ言[云]
界→Ⓔ獄
星 ⒹⒺになし
羅→Ⓔ羂
如 Ⓓになし
已上 ⒸⒹⒺになし
有 Ⓐになし
身 ⒹⒺになし
刺→Ⓔ荊
湧 ◎踊イヲドルと右傍註記→ⒶⒷⒸⒹⒺ踊
湧→◎ⒶⒹ踊
蟒→ⒹⒺ蜂
而 Ⓐになし
億→Ⓐ億[四]
仏三昧経→Ⓒ三昧経仏
伽→Ⓔ珈
瑜→ⒶⒷⒸⒹⒺ踰
鉆→Ⓔ鈷
也 ⒷⒸになし
七→ⒶⒹⒺ[前]七
大 ⒹⒺになし
堪→ⒶⒷⒹ憶
説→ⒹⒺ[既]説
若 ⒹⒺになし
取意 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
依 ⒶⒹⒺになし
之→Ⓐ之[人]
肚→Ⓐ肱
是→ⒶⒷⒸⒹⒺ此
此→ⒷⒸⒹⒺ此[中]
雨→Ⓐ両
婆→Ⓔ婆[叵]
生→ⒷⒸ出
大 ⒹⒺになし
困→ⒶⒷⒸⒹⒺ用
令→Ⓔ[河]令
出→ⒷⒸ出[求]
足→ⒶⒷⒸⒹⒺ足[之]
並→ⒹⒺ并
死 ⒹⒺになし
淊→ⒶⒷⒸⒹⒺ陥
倶→Ⓔ頓
足→ⒶⒷⒸⒹⒺ足[之]
遂→Ⓔ逐
即→Ⓐ即[梨]
末→Ⓒ未
欲下→Ⓐ足
其→Ⓐ其[体]
湧→Ⓐ蕩
列→ⒷⒸⒹ烈
熱→ⒶⒷⒸⒹⒺ燃
丸→Ⓒ九
切→Ⓔ切[悪業]
未→Ⓔ末
刃 Ⓐになし
葉→Ⓒ業
四→Ⓓ回
此 ⒷⒸⒹⒺになし
名→ⒶⒷⒸⒹⒺ為
広 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
或…經23字 ⒷⒸになし
如 ⒹⒺになし
千踰→Ⓐ廿瑜
雪 Ⓔになし
臭→ⒶⒷⒸⒹⒺ嗅
此→Ⓔ其
命→ⒹⒺ命[者]
慞→Ⓐ章→ⒹⒺ障
悕→Ⓐ怖
或→ⒶⒷⒸⒹⒺ惑
路→ⒶⒷⒸⒹⒺ之
賈→ⒹⒺ売
屍火→ⒹⒺ火屍
餓 ⒹⒺになし
或 ⒹⒺになし
或 ⒷⒸⒹⒺになし
投→ⒹⒺ没
赴→ⒷⒸⒺ趣→Ⓓ起
逆 ⒹⒺになし
或→Ⓓ或[有]
有 Ⓐになし
別→Ⓐ総
総→Ⓐ略
鳥→ⒶⒷⒸⒹⒺ禽
未→Ⓑ末
而 ⒹⒺになし
或…旬20字 ⒷⒸになし
五→ⒹⒺ千
一…劫19字→ⒷⒸ一中劫
百劫 ⒹⒺになし
至→ⒹⒺ至[百]
已上諸文散在経論 ⒷⒸになし
経→Ⓔ経[上]
二→Ⓐ[一]二
洲→ⒹⒺ州
相 ⒸⒹⒺになし
脊→Ⓔ背
脘→ⒶⒸⒹⒺ腕
経→Ⓔ論
意 ⒶⒸⒹⒺになし
熟→Ⓔ熱
砕 Ⓒになし
殨→Ⓔ憒
有 Ⓐになし
肝 Ⓐ止観九肝緑豆心如赤豆腎如烏豆脾如栗云々と下欄註記
府→Ⓔ腑
肝→Ⓐ肝[臓]
腹→Ⓐ腸
戸→ⒸⒺ虫
十→ⒹⒺ十[五]
七→Ⓐ二
之 ⒸⒹⒺになし
云 ⒶⒷⒸⒹになし
間 ⒶⒷⒸⒹになし
縦→ⒸⒺ[又]縦
画→ⒸⒹ尽
取 Ⓒになし
意→ⒹⒺ意[体]
体→ⒹⒺ身
塚→Ⓓ家
綵→ⒶⒷⒸⒹ彩
已上 ⒹⒺになし
蜂→Ⓒ蛒
寒→Ⓓ塞
並→ⒹⒺ并
行→ⒸⒹⒺ外 Ⓐになし
減→Ⓐ咸
耶→Ⓐ那
旃→ⒸⒹⒺ栴
涅槃→ⒶⒸⒹⒺ大
必有→ⒹⒺ有必
今当→ⒸⒹⒺ当念
勤→ⒶⒹⒺ懃
地→Ⓔ他
之 ⒶⒸⒹⒺになし
湯→Ⓐ渇
上→Ⓐ上[取意]
略抄→ⒸⒹⒺ取意
者 Ⓐになし
数→Ⓒ数[数]
乗→Ⓓ垂
介→Ⓔ甲
由→Ⓓ申
愍→ⒹⒺ悲
已上 ⒹⒺになし
之 Ⓔになし
非→ⒹⒺ悲
已上天道 Ⓐになし
避遁→Ⓐ遁避
蔽→ⒶⒸⒹ弊
不 ⒶⒸⒹⒺになし
如→ⒹⒺ而
識→Ⓐ戚
共→ⒹⒺ苦
逐→◎Ⓒ遂
伽→ⒶⒸⒹⒺ枷
歴→Ⓐ経
土 Ⓓになし
偈 ⒹⒺになし
苦→Ⓓ若
俗→Ⓓ浴
悕→ⒶⒸⒹⒺ希
洞然→Ⓔ銅燃
想→Ⓐ相
上→Ⓔ土
愧→ⒹⒺ愧[不放逸]
実→Ⓔ宝
慧→Ⓒ恵
穏→ⒶⒹ隠
墜→ⒹⒺ堕
縄→ⒸⒹⒺ縄[等]
剥刺→ⒹⒺ刺剥
毘→Ⓒ鼻→ⒹⒺ鼻地
苦→Ⓓ若
及→ⒹⒺ及[其]
致→ⒹⒺ被
屎尿→Ⓒ尿屎
劫→Ⓔ勍
冷→ⒶⒸⒹⒺ涼
転→Ⓐ漸
清→ⒹⒺ清[浄]
業→Ⓐ業[因]
河→Ⓐ河[駄]
為 Ⓓになし
空→ⒹⒺ空[無我]
則→Ⓒ即
犍→ⒶⒹ揵
隅→ⒹⒺ角
垂→Ⓔ乗
於 ⒹⒺになし
或→ⒸⒹⒺ惑
婆→ⒹⒺ波
伎→Ⓒ技
倍→ⒸⒹⒺ陪
賀→ⒶⒸⒹⒺ駕
一→Ⓔ二
壇→ⒶⒹ檀→Ⓔ擅
壇→Ⓐ檀
反→Ⓒ返
銛→Ⓔ鉛
殺害→Ⓔ害殺
歴→Ⓒ魔
詫→ⒶⒸⒹⒺ託
厄→ⒶⒹⒺ危
洎→Ⓐ泊
此→Ⓔ其
乎 Ⓐになし
観→Ⓐ観[已上]
捉→Ⓔ投
云→Ⓔ曰
湿→Ⓔ温
鬲→ⒸⒹⒺ膈
腹→Ⓔ腸
枉→Ⓔ荘
勿→◎忽
抄→Ⓔ鈔
楊→ⒶⒸⒹⒺ揚
世 Ⓐになし
項→Ⓔ頃
花 ⒶⒸⒹⒺになし
越 ◎超イと右傍註記
第 ◎一念窓前期摂取衆光明十念紫扉侍聖衆来迎と上欄註記
蓮 ◎以↠華表↠因ニ以蓮表↠果華開蓮現ジテ因円果満ナリ華落蓮成ナリ法性元真蓮因又生↢種子ヲ↡法界帰↠一対↢陽ノ光↡開対↢陰気↡ツボム因浄果明本願ノ光影和合スルコトヲ可知と上欄註記
鐶 ◎在↠腕ニ鐶ト云在↠臂ニ釧ト云と上欄註記
駃 ◎駛イと右傍註記
雲 ⒹⒺになし
池→Ⓐ地
地→Ⓔ池
流→Ⓐ琉→ⒸⒹⒺ瑠
云→ⒸⒹⒺ曰
神 ⒸⒹになし
所 ◎イ本止之と右傍註記 Ⓒになし
只→ⒶⒸⒹⒺ咫
燓 ◎焚イと右傍註記→ⒸⒹⒺ焚
中→ⒶⒸⒹⒺ中[而]
乎 Ⓐになし
並→Ⓔ普
身→Ⓔ心
土→Ⓔ士
琉→ⒸⒹⒺ瑠
坦→ⒶⒸⒹ怛
恢→Ⓐ惔
天人→ⒶⒸⒹⒺ人天
伎→ⒶⒹⒺ妓
詠→Ⓐ嘆
瑠→Ⓐ琉
虎魄→Ⓔ琥珀
車→Ⓔ硨
→ⒶⒸⒺ磲
馬→ⒹⒺ瑪
浄→Ⓐ清
出称讃浄土経 ⒸⒹⒺになし
讃→Ⓐ嘆
経 ◎イ本と下に註記
慈→Ⓐ慈[大]
未→Ⓔ末
則 ⒶⒸⒹⒺになし
直 ◎イ本無直字と右傍註記 ⒶⒸⒹⒺになし
旃→ⒸⒹ栴
→ⒶⒺ渠
動 Ⓐになし
相→ⒶⒸⒹⒺ林
末→Ⓒ未→ⒹⒺ抹
味→ⒶⒸⒹⒺ美
復→ⒸⒹⒺ又
若 Ⓐになし
頂→Ⓔ項
琉→ⒷⒸⒹⒺ瑠
栴→Ⓐ旃
管 ◎菅イと右傍註記
語→Ⓐ話
語 ◎話イと右傍註記
→Ⓐ話
功→Ⓐ功[徳]
辨→ⒶⒷⒸⒹⒺ弁
人 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
恵→ⒶⒷⒸⒹⒺ慧
道→ⒶⒷⒸⒹⒺ導
作 ◎住イと右傍註記
預→ⒷⒸⒹⒺ予
益 Ⓓになし
我→Ⓐ我[名]
偈→ⒷⒸⒹⒺ意
堕→Ⓔ随
処 ◎家と右傍註記
経 Ⓐになし
意 Ⓐになし
揚→Ⓑ楊
低→ⒶⒷⒸⒹⒺ胝
已上 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
面→Ⓓ天
経→Ⓐ経[偈]
導 ◎遵イと上欄註記
恵→ⒶⒷⒸⒹⒺ慧
共 Ⓐになし
遥相見 ⒷⒸⒹⒺになし
恒→ⒷⒸⒹⒺ恒[河]
土→Ⓔ士
妓→ⒶⒷⒸⒹⒺ伎
問→Ⓔ間
観経 Ⓐになし
云→Ⓔ曰
願共諸衆生往生安楽国 ⒷⒸⒹⒺになし
衆生往生 Ⓐになし
者→Ⓐ者[謂]
仏 Ⓐになし
四→Ⓓ回
腨→ⒶⒷⒸⒹⒺ膞
在→ⒶⒷⒸⒹⒺ在[於]
憙→Ⓐ喜
嚮→ⒶⒷⒸⒹⒺ響
等→ⒶⒷⒸⒹⒺ等[覚]
等→ⒷⒸⒹⒺ等[意]
叉→Ⓔ又
仏 ⒷⒸⒹⒺになし
方→◎万
方→Ⓔ万
妓→ⒶⒷⒸⒹⒺ伎
相 ⒷⒸⒹⒺになし
生→Ⓐ生[彼]
暮→ⒸⒹ慕
仏 Ⓐになし
記→Ⓑ訛
云 ⒶⒷⒸⒹになし
陳→ⒶⒷⒸⒹⒺ陣
許→Ⓔ計
歿→Ⓐ没
或→ⒶⒷⒸⒹⒺ惑
極楽→Ⓐ西方
三巻浄土論 Ⓐになし
浄→◎諍
揚→Ⓐ楊
十→◎Ⓐ十[方]
訳→Ⓑ訳[之]→ⒸⒹⒺ訳[也]
娑→ⒷⒸⒹⒺ沙
連→Ⓔ蓮
実→Ⓑ真
一→Ⓐ二
耶 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
堕→ⒶⒷⒸⒹⒺ堕[於]
已上 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
成→ⒷⒸⒹⒺ誠
又→Ⓐ又[云]
末→Ⓔ未
仏 ⒷⒸⒹⒺになし
陀→Ⓐ陀[仏]
婆→Ⓐ婆[世界]
州Ⓑ洲
偏 Ⓐになし
在 ⒸⒹⒺになし
域→◎城
懐 Ⓐになし
群疑論 Ⓐになし
兜率→Ⓐ都率(天イと右傍註記)→ⒸⒹ天
方→ⒸⒹⒺ方[悉]
无内外亦 ⒸⒹになし
亦→Ⓐ亦[皆悉] Ⓔになし
兜率 ◎天イと右傍註記→Ⓐ兜率天→ⒸⒹⒺ謂天
劣 Ⓐになし
禅 ⒶⒸⒹⒺになし
成→Ⓔ誠
慧→Ⓐ恵
同→ⒶⒸⒹⒺ如
爾 Ⓐ以と右傍註記
或→ⒶⒸⒹⒺ惑
域→◎城
彼土→ⒸⒹⒺ西域
相伝云 ⒸⒹⒺになし
計→Ⓔ許
耶 ⒶⒸⒹⒺになし
酒→Ⓐ須
遮→Ⓐ遮[那]
覩→ⒶⒸⒹ都→Ⓔ兜
娑→ⒸⒹⒺ沙
意→Ⓔ論
胎 Ⓐ台と右傍註記
於 ⒶⒸⒹⒺになし
揚→ⒸⒹⒺ楊
世親菩薩 Ⓐになし
就→Ⓐ熟
門 ⒸⒹになし
云→Ⓔ云[一仏]
我 Ⓐになし
已上 ⒶⒸⒹⒺになし
門 ⒸⒹになし
娑→ⒸⒹⒺ沙
抄→Ⓔ鈔
要→ⒶⒸⒹⒺ要[具在別抄(Ⓔ鈔)]
禅→Ⓐ法
遍周→ⒸⒹⒺ周遍
淪→ⒸⒹⒺ輪
択→Ⓐ釈
三→Ⓔ三[総]
妄→◎ⒶⒹⒸ忘
是→Ⓐ是[事]
提→Ⓐ薩→Ⓓ惿
云→Ⓓ至
究→Ⓐ竟
種 ⒸⒹⒺになし
恵→ⒶⒸⒹⒺ慧
冶 ◎治イクダクと上欄註記
懃→ⒸⒹⒺ勤
復然 ◎如是イナリと右傍註記→ⒶⒸⒹⒺ如是
情→ⒹⒺ性
四→ⒸⒹⒺ六
耳 ◎五或イハ六イ本と下に註記
問→Ⓐ間
言→Ⓐ云
恵→ⒸⒹⒺ慧
戒→Ⓐ戒[禁]→ⒸⒹⒺ禁
恵→ⒶⒸⒹⒺ慧
巨→◎臣
落 Ⓐになし
婆→Ⓐ波
覚→ⒶⒸⒹⒺ学
大→ⒸⒹⒺ大[已上]
喜→Ⓐ喜[之]
娑→ⒶⒸⒹⒺ沙
後 Ⓐになし
偈 ⒸⒹⒺになし
而 Ⓐになし
髦髪→Ⓐ髪髦
髦→Ⓔ髭
衆→Ⓐ衆[生]
第一 ⒶⒸⒹⒺになし
狭→ⒶⒸⒹⒺ陜
如 ⒸⒹⒺになし
二→Ⓐ[第]二
楽→ⒶⒸⒹⒺ楽[如]
仏→Ⓐ仏[言]
賢→Ⓔ堅
壊→ⒸⒹ懐
之物→ⒶⒸⒹⒺ物之
之→Ⓐ悪 ⒸⒹⒺになし
者→ⒶⒸⒹⒺ命
染 ◎浄イと右傍註記→Ⓐ浄
指→Ⓐ相
薬 ◎「イ本」と右傍註記
ⒶⒸⒹⒺになし
不→Ⓔ不[可]
減→ⒸⒹⒺ滅
恵→ⒶⒸⒹⒺ慧
或→ⒶⒸⒹⒺ惑
提→Ⓐ提[之]
楞 Ⓐになし
一切 ⒸⒹⒺになし
岸→Ⓐ崖→ⒸⒹⒺ涯
若…分28字 ⒸⒹⒺになし
得→ⒹⒺ復
薩→Ⓐ提
提→Ⓐ提[心]
恵→ⒶⒷⒸⒹⒺ慧
得 Ⓐになし
者→Ⓐ非是
人→ⒶⒷⒸⒹⒺ又
多→ⒶⒷⒸⒹⒺ多[諸]
甘→ⒹⒺ其
毘→◎略
娑→ⒶⒷⒸⒹⒺ沙
経 ⒶⒸⒹⒺになし
行随→◎随行
恵→ⒷⒸⒹⒺ慧
娑→ⒶⒷⒸⒹⒺ沙
報罪 Ⓐになし
娑→ⒷⒸⒹⒺ沙
妄→Ⓐ忘
十→ⒷⒸⒹⒺ十[二]