おうじょう要集ようしゅう かんじょう *尽第じんだい門半もんはん

尽第四門半 本書の巻上が大文第四の半ばまでであるという意。

天台てんだい*首楞厳しゅりょうごんいん沙門しゃもん源信げんしんせん

【1】 それ*おうじょう*極楽ごくらく教行きょうぎょうは、 濁世じょくせ末代まつだい目足もくそくなり。 *道俗どうぞくせん、 たれかせざるものあらん。 ただし*顕密けんみつ教法きょうぼう、 そのもん、 一にあらず。 *事理じり業因ごういん、 そのぎょうこれおおし。 利智りち精進しょうじんひとは、 いまだかたしとなさず。 *がごときがんのもの、 あにあへてせんや

顕密の教法 顕教と密教。 →顕教けんぎょう密教みっきょう
事理の業因 具体的な相を観ずる事観と、 無相の真理そのものを観ずる理観。
予がごとき頑魯のもの 私 (源信) のようなかたくなで愚かな者。

夫往生極楽之教行濁世末代之目足也。道俗貴賤誰不↠帰者。但顕密教法其文非↠一、事理業因其行惟多。利智精進之人未↠為↠難、如↠豫頑魯之者豈敢矣。

 原漢文の底本は本派本願寺蔵版。 青蓮院蔵承安元年写本、 龍谷大学蔵建長五年刊本、 龍谷大学蔵承元元年刊本、 大派依用十行本と対校されている。

このゆゑに、 *念仏ねんぶつの一もんによりて、 いささか経論きょうろん要文ようもんあつむ。 これをひらきこれをしゅするに、 さとりやすくぎょうじやすし

是故依↢念仏一門↡、聊集↢経論要文↡。披↠之修↠之、易↠覚易↠行。

べて十もんあり。 わかちて三かんとなす。 一はえん穢土えど、 二はごんじょう、 三は極楽ごくらく証拠しょうこ、 四は正修しょうしゅ念仏ねんぶつ、 五は助念じょねん方法ほうほう、 六はべつ念仏ねんぶつ、 七は念仏ねんぶつやく、 八は念仏ねんぶつ証拠しょうこ、 九はおうじょう諸業しょごう、 十は問答もんどう料簡りょうけんなり。 これを座右ざうきて、 廃忘はいもう*そなへん

備へん 底本 (青蓮院本) の左訓には 「備へよ」 とある。

総有↢十門↡、分為↢三巻↡。一厭離穢土、二欣求浄土、三極楽証拠、四正修念仏、五助念方法、六別時念仏、七念仏利益、八念仏証拠、九往生諸業、十問答料簡。置↢之座右↡備↢於廃忘↡矣。

厭離穢土

【2】 大文だいもんだい一に、 えん穢土えどといふは、 それ*がいやすきことなし、 もつともえんすべし。 いまそのそうかすに、 べて七しゅあり。 一は*ごく、 二は*餓鬼がき、 三は*畜生ちくしょう、 四は*しゅ、 五はにん、 六はてん、 七は総結そうけつなり

大文第一厭離穢土者、夫三界無↠安、最可↢厭離↡。今明↢其相↡、総有↢七種↡。一地獄、二餓鬼、三畜生、四阿修羅、五人、六天、七総結。

◎厭離穢土 地獄

【3】 だい一の*ごくに、 またわかちて八となす。 一は等活とうかつ、 二は黒縄こくじょう、 三は衆合しゅごう、 四は叫喚きょうかん、 五は大叫喚だいきょうかん、 六は焦熱しゃくねつ、 七は大焦熱だいしゃくねつ、 八はけんなり

第一地獄、亦分為↠八。一等活、二黒縄、三衆合、四叫喚、五大叫喚、六焦熱、七大焦熱、八無間。

◎厭離穢土 ○地獄  等活

【4】 はじめに等活とうかつごくといふは、 この*えんだいした、 一せん*由旬ゆじゅんにあり。 *縦広じゅうこうまん由旬ゆじゅんなり。 このなかの罪人ざいにん、 たがひにつねに害心がいしんいだけり。 もしたまたまあひれば、 猟者りょうしゃ鹿ししへるがごとくして、 おのおのてつつめをもつてたがひにつかく。 にくすでにきて、 ただ残骨ざんこつのみあり。 あるいは獄卒ごくそつてつつえてつぼうりて、 こうべよりあしいたるまで、 あまねくみなくに、 身体しんたいさいすること、 なほ*沙揣しゃせんのごとし。 あるいはきはめてかたなをもつて分々ぶんぶんにくくこと、 *廚者ちゅうしゃ魚肉ぎょにくほふるがごとし。 涼風りょうふうきたりてくに、 いでよみがえることもとのごとし。 *欻然こつねんとしてまたきて、 さきのごとくく。 あるいはいはく、 空中くうちゅうこえありていはく、 「このもろもろのじょう、 またひとしくよみがえるべし、 またひとしくよみがえるべし」 と。 あるいはいはく、 獄卒ごくそつてつひしをもつてちて、 となへて 「活活かつかつ」 といふ。 かくのごとき、 つぶさにじゅつすべからず 以上いじょう、 ¬*智度ちどろん¼・¬*瑜伽ゆがろん¼・¬*諸経しょきょう要集ようしゅう¼ によりて、 これをせんす。

沙揣 土くれ。 砂。
廚者 料理人。
欻然 たちまち。

初等活地獄者、在↢於此閻浮提之下、一千由旬↡、縦横一万由旬。此中罪人、互常懐↢害心↡。若適相見、如↢猟者逢↟鹿。各以↢鉄爪↡、而互爴裂。血肉既尽、唯有↢残骨↡。或獄率、手執↢鉄杖・鉄捧↡、従↠頭至↠足、遍皆打築、身躰破砕、猶如↢沙揣↡。或以↢極利刀↡、分分割↠肉、如↣厨者屠↢魚肉↡。涼風来吹、尋活如↠故。欻然復起、如↠前受↠苦。或云、空中有↠声云。此諸有情可↢還等活↡。或云、獄率以↢鉄叉↡打↠地、唱云↢活活↡。如↠是等苦、不↠可↢具述↡。已上依↢¬智度論¼¬瑜伽論¼¬諸経要集¼↡撰↠之

 他本では 「広」。
 底本まま。 註なし。
 青蓮院本、 建長五年刊本では 「卒」。 以下同。

*人間にんげんの五十ねんをもつて*天王てんのうてんの一にちとなして、 その寿じゅ百歳ひゃくさいなり。 天王てんのうてん寿じゅをもつてこのごくの一にちとなして、 その寿じゅ百歳ひゃくさいなり。 殺生せっしょうせるもの、 このなかにつ。 以上いじょう寿量じゅりょうは ¬しゃ¼ (*倶舎論) による。 *業因ごういんは ¬*正法しょうぼう念経ねんぎょう¼ による。 しもの六もこれにおなじ。

業因 果をもたらす因となる行為。 ここでは地獄に堕ちる原因となる悪行をいう。

以↢人間五十年↡、為↢四天王天一日一夜↡、其寿五百歳。以↢四天王天寿↡、為↢此地獄一日一夜↡、其寿五百歳。殺生之者、堕↢此中↡。已上寿量依↢¬倶舎¼↡業因依↢¬正法念経¼↡下六亦同↠之

 青蓮院本では脱落。

¬*優婆うばそく戒経かいきょう¼ には、 はじめのてん (四天王天) の一ねんをもつてはじめのごく (等活地獄)にちとなせり。 下去げここれになぞらへよ

¬優婆塞戒経¼以↢初天一年↡、為↢初地獄日夜↡。下去准↠之。

 このごく*もんのほかに、 また十六の*眷属けんぞく*別処べっしょあり

四門 東西南北の門。
眷属 ここでは付属の意。

此地獄四門之外、復有↢十六眷属別処↡。

・屎泥処

一はでいしょ。 いはく、 きはめてあつでいあり。 そのあじはひ、 もつともにがし。 金剛こんごうくちばしあるむし、 そのなかに充満じゅうまんせり。 ざいにん、 なかにありてこのねっらふ。 もろもろのむし聚集じゅしゅうして、 一きそらふ。 かわやぶりてにくらひ、 ほねりてずいふ。 むかし鹿ししころとりころせるもの、 このなかに

一屎泥処。謂有↢極熱屎泥↡、其味最苦。金剛虫、充↢満其中↡。罪人在↠中食↢此熱屎↡。諸虫聚集、一時競食。破↠皮噉↠肉、折↠骨唼↠髄。昔殺↠鹿殺↠鳥之者、堕↢此中↡。

 底本まま。 註なし。 以下同。

・刀輪処

二は刀輪処とうりんしょ。 いはく、 てつかべ*周帀しゅうそうして、 たかさ十由旬ゆじゅんなり。 猛火みょうか*ねんとして、 つねにそのなかにてり。 人間にんげんはこれにくらぶればゆきのごとし。 わづかにそのるるに、 くだくること芥子けしのごとし。 また熱鉄ねつてつあめふらすこと、 なほさかりなるあめのごとし。 また刀林とうりんあり。 そのつるぎはきはめてし。 また*もろありて、 あめのごとくしてくだる。 もろもろのまじはりいたりて、 堪忍かんにんすべからず。 むかしものむさぼりて殺生せっしょうせるもの、 このなかに

周帀 めぐっていること。
熾然 さかんに燃えあがるさま。
 底本 (青蓮院本) には 「雨」 とある。

二刀輪処。謂鉄壁周匝、高十由旬。猛火熾然、常満↢其中↡。人間之火、比↠此如↠雪。纔触↢其身↡、砕如↢芥子↡。又雨↢熱鉄↡、猶如↢盛雨↡。復有↢刀林↡、其刃極利。雨↠刃如↠雨而下。衆苦交至不↠可↢堪忍↡。昔貪↠物殺生者、堕↢此中↡。

 底本まま。註なし。 以下同。
 青蓮院本、 建長五年刊本では 「復有」。
雨刃 底本まま。 註なし。 「刃を雨ふらすこと」。

・瓮熟処

三は瓮熟処おうじゅくしょ。 いはく、 罪人ざいにんりててつ*もたいのなかにれて、 煎熟せんじゅくすることまめのごとし。 むかし殺生せっしょうしてらへるもの、 このなかに

 かめ。

熱処。謂執↢罪人↡入↢鉄瓫中↡、煎熱如↠豆。昔殺生煮食者、堕↢此中↡。

 底本まま。 註なし。 以下同。
 青蓮院本、 建長五年刊本、 承元元年刊本では 。 以下同。

・多苦処

四は多苦たくしょ。 いはく、 このごくに十千億せんおくしゅりょう*どくあり。 つぶさにくべからず。 むかしなわをもつてひとしばり、 つえをもつてひとち、 ひとりてとおみちかしめ、 けわしきところよりひとおとし、 けむりふすべてひとなやまし、 小児しょうにおそれしむ。 かくのごときの、 種々しゅじゅひとなやませるもの、 みなこのなかに

楚毒 はげしく痛む苦しみ。

四多苦処。謂此地獄有↢十千億種無量楚毒↡、不↠可↢具説↡。昔以↠縄縛↠人、以↠杖打↠人、駆↠人令↠行↢於遠路↡、従↢嶮処↡落↠人、薫↠煙悩↠人、令↠怖↢小児↡。如↠是等種種悩↠人者、皆堕↢此中↡。

・闇冥処

五は闇冥処あんみょうしょ。 いはく、 黒闇こくあんところにありて、 つねにあんのためにかる。 大力だいりき猛風みょうふう金剛山こんごうせんきて、 あわり、 あわくだくこと、 なほいさごらすがごとし。 熱風ねっぷうかるるに、 かたなくがごとし。 むかしひつじくちはなふさぎ、 二のかわらのなかにかめきてころせるもの、 このなかに

五闇冥処。謂在↢黒闇処↡、常為↢闇火↡所↠焼。大力猛風、吹↢金剛山↡、令↠磨令↠砕、猶如↠散↠沙。熱風所↠吹、如↢利刀割↡。昔大火炎唵↢羊口・鼻↡、二塼之中置↠亀押殺者、堕↢此中↡。

 建長五年刊本、 承元元年刊本、 大派依用本では 「合」。 続く 「令」 も同じ。
大火炎 青蓮院本、 建長五年刊本、 大派依用本では脱落。

・不喜処

六は不喜ふきしょ。 いはく、 おおきなるえんありて昼夜ちゅうや焚焼ぼんじょうす。 熱炎ねつえんくちばしあるとり狗犬いぬ*かんの、 そのこえ極悪ごくあくにしてはなはだ怖畏ふいすべし。 つねにきたりて*食噉じきだんす。 *骨肉こつにく狼藉ろうぜきたり。 金剛こんごうくちばしあるむしほねのなかに往来おうらいして、 そのずいらふ。 むかしかいき、 つづみち、 おそるべきこえをなして鳥獣ちょうじゅう殺害せつがいせるもの、 このなかに

食噉 がつがつとくらうこと。
骨肉狼藉たり 罪人の骨や肉があたりに散乱している。

六不喜処。謂有↢大火炎↡、昼夜焚焼。熱炎鳥・狗犬・野干、其声極悪甚可↢怖畏↡。常来食噉骨肉狼藉。金剛虫、骨中往来、而食↢其髄↡。昔吹↠貝打↠鼓作↢可↠畏声↡、殺↢害鳥獣↡者、堕↢此中↡。

・極苦処

七はごくしょ。 いはく、 嶮岸けんがんしたにありて、 つねにてっのためにかる。 むかし*放逸ほういつにして殺生せっしょうせるもの、 このなかに 以上いじょう、 ¬*正法しょうぼう念経ねんぎょう¼ による。 *自余じよの九しょ、 ¬きょう¼ (同) のなかに説かず。

放逸 ほしいまま。 心のおもむくまま。
自余の九処 泥処でいしょごくしょ以外の九つの別処。

七極苦処。謂在↢嶮岸下↡、常為↢鉄火↡所↠焼。昔放逸殺生者、堕↢此中↡。已上依↢¬正法経¼↡自余九処経中不↠説

正法経 他書では 「正法念経」。

◎厭離穢土 ○地獄  黒縄

【5】 二に黒縄こくじょうごくといふは、 等活とうかつしたにあり。 *縦広じゅうこうさきおなじ。 獄卒ごくそつ罪人ざいにんりて熱鉄ねつてつせて、 熱鉄ねつてつなわをもつて縦横じゅうおう*すみうちて、 熱鉄ねつてつおのをもつてなわしたがひてく。 あるいはのこぎりをもつてき、 あるいはかたなをもつてほふりて、 ひゃく千段せんだんになして処々しょしょ散在さんざいす。 また熱鉄ねつてつなわけて、 まじよこたふることしゅなり。 罪人ざいにんりてそのなかにれしむるに、 悪風あくふうにわかきて、 その*交絡きょうらくして、 にくき、 ほねこがして、 どくきわまりなし 以上いじょう、 ¬瑜伽ゆが¼ (*瑜伽論)・¬*智度ちどろん¼。

 この段の典拠となっている ¬法苑珠林¼ 巻七の黒縄地獄の文では 「絣」 の字を用いている。
交絡 (熱鉄の縄が) からまりあうこと。

二黒縄地獄者、在↢等活下↡、縦広同↠前。獄率執↢罪人↡、臥↢熱鉄地↡以↢熱鉄縄↡縦横拼↠身、以↢熱鉄斧↡随↠縄切割。或以↠鋸解、或以↠刀屠、作↢百千段↡、処処散在。又懸↢熱鉄縄↡交横無数。駆↢罪人↡令↠入↢其中↡、悪風暴吹交↢絡其身↡、焼↠肉焦↠骨、楚毒無↠極。已上¬瑜伽論¼¬智度論¼

また左右さうおおきなる鉄山てっせんあり。 やまうえにおのおのてつはたぼこて、 はたぼこはしてつなわり、 なわしたおお*熱鑊ねつかくあり。 罪人ざいにんりて、 てつやまはしめなわうえよりかしめ、 はるかにてつかなえおとしてくだることきわまりなし ¬*観仏かんぶつ三昧ざんまいきょう¼

熱鑊 熱した釜。

又左右有↢大鉄山↡。山上各建↢鉄幢↡、幢頭張↢鉄縄↡、縄下多有↢熱鑊↡。駆↢罪人↡、令↧負↢鉄山↡従↢縄上↡行↥、遥落↢鉄鑊↡、摧煮無↠極。¬観仏三昧経¼

 青蓮院本では 「意」 が入る。

等活とうかつごくおよび十六の*別処べっしょの、 一切いっさいのもろもろのを十ばいしてかさねてく。 獄卒ごくそつ罪人ざいにん呵責かしゃくしていはく、

「心はこれだい一のあだなり。 このあだをもつともあくとなす。

このあだよくひとしばりて、 おくりて*えんところいたらしむ。

なんぢひとごくかれて、 悪業あくごうのためにじきせらる。

さい兄弟きょうだいとう親属しんぞくすくふことあたはず」 と 乃至広説

等活地獄、及十六別処一切諸苦、十倍重受。獄率呵↢責罪人↡云。心是第一怨、此怨最為↠悪。此怨能縛↠人、送到↢閻羅処↡。汝独地獄焼、為↢悪業↡所↠食。妻子・兄弟等親属・眷属不↠能↠救。乃至広説

のちの五のごくは、 おのおの、 前々ぜんぜん一切いっさいごくのあらゆるもろもろのをもつて十ばいしておもくること、 れいしてこれをりぬべし 以上いじょう、 ¬*しょうぼう念経ねんぎょう¼

後五地獄、各以↢前前一切地獄所有之諸苦↡、十倍重受、例応↠知↠之。已上¬正法念経¼意

*人間にんげんの一百歳ぴゃくさいをもつて*とうてんの一にちとなして、 その寿じゅ千歳せんざいなり。 とうてん寿じゅをもつて一にちとなして、 このごく寿じゅ千歳せんざいなり。 殺生せっしょう*偸盗ちゅうとうせるもの、 このなかに

以↢人間一百歳↡、為↢忉利天一日夜↡、其寿一千歳。以↢忉利天寿↡、為↢一日夜↡、此地獄寿一千歳。殺生・偸盗者、堕↢此中↡。

 青蓮院本では 「一夜」。

・等喚受苦処

 また*しょあり。 等喚とうかんじゅしょづく。 いはく、 けわしききしりょう由旬ゆじゅんなるにきて、 熱炎ねつえん黒縄こくじょうをもつて束縛そくばくして、 けをはりて、 しかしてのちにこれをして、 てつかたなねつうえおとす。 てつほのおきばあるいぬ*噉食だんじきするところなり。 *一切いっさい身分しんぶん分々ぶんぶんぶんす。 こえとなへてかんすれども、 すくふものあることなし。 むかし説法せっぽうせしに悪見あくけんろんによりてし、 一切いっさいじつにして、 一切いっさいかえりみず、 きしげてせつせるもの、 このなかに

異処 別処に同じ。 大地獄に付属する特別の小地獄。
噉食 がつがつとくらうこと。
一切の身分 身体のすべての部分。

復有↢異処↡、名↢等喚受苦処↡。謂挙↢在嶮岸無量由旬↡、熱炎黒縄束縛繋已、然後推↠之、堕↢利鉄刀熱地之上↡。鉄炎牙狗之所↢噉食↡。一切身分、分分分離。唱↠声吼喚、無↠有↢救者↡。昔説↠法依↢悪見論↡、一切不実不↠顧↢一切↡、投↠岸自殺者、堕↢此中↡。

・畏鷲処

またしょあり。 鷲処じゅしょづく。 あるほん*この四字なし。 いはく、 獄卒ごくそつつえいからかしてきゅうち、 昼夜ちゅうやにつねにはしらしめ、 えん鉄刀てっとうり、 ゆみき、 はなち、 しりえしたがひてはしひ、 くだち、 これをる。 むかしものとんぜしがゆゑにひところし、 ひとしばりてじきうばひしもの、 ここに ¬しょうぼう念経ねんぎょう¼ 略抄りゃくしょう

この四字 「名畏鷲処」 の四字。

復有↢異処↡、名↢畏鷲処↡。謂獄率怒↠杖急打、昼夜常走。手執↢火炎鉄刀↡、挽↠弓弩↠箭、随↠後走逐、斫打射↠之。昔貪↠物故、殺↠人縛↠人奪↠食者、堕↢此中↡。¬正法念経¼略抄

 青蓮院本には 「或本无此四字」 と註あり。

◎厭離穢土 ○地獄  衆合

【6】 三に衆合しゅごうごくといふは、 黒縄こくじょうしたにあり。 *縦広じゅうこうさきおなじ。 おお鉄山てっせんありて、 両々りょうりょうあひむかへり。 *牛頭ごず馬頭めずとうのもろもろの獄卒ごくそつ*器仗きじょうりて、〔罪人ざいにんを〕りてやまのあひだにらしむ。 このときふたつやまきたりてあわす。 身体しんたいくだくだけ、 ながれてつ。 あるいはてつやまありてそらよりちて、 罪人ざいにんつに、 くだくること*沙揣しゃせんのごとし。 あるいはいわうえきていわおをもつてこれをす。 あるいはてつうすれててつきねをもつてく。 極悪ごくあくごく、 ならびに熱鉄ねつてつ獅子ししろうとうのもろもろのけだものからすわしとうとりきそきたりて食噉じきだん ¬瑜伽ゆが¼ (*瑜伽論)・¬大論だいろん¼ (*大智度論)。

牛頭馬頭 牛や馬などの頭をした獄卒 (地獄の鬼) のこと。
器仗 武器。
沙揣 土くれ。 砂。

三衆合地獄者、在↢黒縄下↡、縦広同↠前。多有↢鉄山↡両山相対。牛頭・馬頭等諸獄率、手執↢器杖↡、駆令↠入↢山間↡。是時両山迫来合押、身躰摧砕、血流満↠地。或有↢鉄山↡、従↠空而落、打↢於罪人↡、砕如↢沙揣↡。或置↢石上↡、以↠巌押↠之、或入↢鉄臼↡、以↢鉄杵↡擣。極悪獄鬼、并熱鉄師子・虎・狼等諸獣、烏・鷲等鳥、競来食噉。¬瑜伽論¼¬大論¼

 青蓮院本、 建長五年刊本、 大派依用本では 「両」。
 建長五年刊本では 「仗」。

また鉄炎てつえんくちばしあるわし、 その*はらわたりをはりてはしきて、 これを噉食だんじきす。 かしこにおおきなるかわあり。 なかにてっありて、 みなことごとくゆ。 獄卒ごくそつ罪人ざいにんとらへて、 かのかわのなかにげて、 てっうえおとす。 またかのかわのなかにあつ赤銅しゃくどうしるありて、 かの罪人ざいにんただよはす。 あるいはのはじめてづるがごときものあり。 沈没ちんもつせること、 おもいしのごときものあり。 げて、 てんかひて号哭ごうこくするものあり。 ともにあひちかづきてしかも号哭ごうこくするものあり。 ひさしくだいけて、 しゅもなく、 もなし

 底本 (青蓮院本) には 「腹」 とある。

又鉄炎鷲、取↢其腸↡已、挂↢在樹頭↡、而噉↢食之↡。彼有↢大江↡、中有↢鉄鉤↡、皆悉火燃。獄率執↢罪人↡、擲↢彼河中↡、堕↢鉄鉤上↡。又彼江中、有↢熱赤銅汁↡、漂↢彼罪人↡。或有↧身如↢日初出↡者↥、有↧身沈没如↢重石↡者↥、有↢挙↠手向↠天而号哭者↡、有↢共相近而号哭者↡。久受↢大苦↡無↠主無↠救。

 青蓮院本では 「腹」。 以下同。
 建長五年刊本、 承元元年刊本では 「掛」。
 青蓮院本では 「河」。
 青蓮院本、 建長五年刊本では 「河」。

また獄卒ごくそつごくにんりて*刀葉林とうようりんく。 かのはしるに、 *端正たんじょうにして*厳飾ごんじきにょあり。 かくのごとくをはりて、 すなはちかののぼれば、 ようかたなのごとくして、 その身肉しんにくく。 つぎにはそのすじく。 かくのごとく一切いっさいところりをはりて、 のぼることををはりて、 かのにょれば、 またにあり。 よくこびたるまなこをもつて、 かみざま罪人ざいにんて、 かくのごときごんをなさく、 「なんぢをおも因縁いんねんをもつて、 われこのところいたれり。 なんぢ、 いまなんがゆゑぞ、 きたりてわれにちかづかざる。 なんぞわれをいだかざる」 と。 罪人ざいにんをはりて、 *欲心よくしん熾盛しじょうにして、 だいにまたくだれば、 刀葉とうようかみかひて、 きこと剃刀たいとうのごとくして、 さきのごとくあまねく*一切いっさい身分しんぶんく。 すでにいたりをはりぬれば、 しかもかのにょはまたはしにあり。 罪人ざいにんをはりて、 またのぼ

刀葉林 刀のように鋭くとがった葉をもつ木々。
欲心熾盛にして 愛欲の思いがはげしくさかんであり。

又復獄率取↢地獄人↡、置↢刀葉林↡。見↢彼樹頭↡、有↢好端正厳飾婦女↡。如↠是見已、即上↢彼樹↡、樹葉如↠刀、割↢其身肉↡、次割↢其筋↡。如↠是劈↢割一切処↡、已得↠上↠樹已見↢彼婦女↡、復在↢於地↡。以↢欲媚眼↡、上看↢罪人↡、作↢如↠是言↡。念↠汝因縁、我到↢此処↡。汝今何故不↢来近↟我、何不↠抱↠我。罪人見已、欲心熾盛、次第復下、刀葉向↠上、利如↢剃刀↡。如↠前遍割↢一切身分↡、既到↠地已、而彼婦女、復在↢樹頭↡。罪人見已、而復上↠樹。

 青蓮院本、建長五年刊本、承元元年刊本では 「政」。

かくのごとくりょうひゃく千億歳せんおくさいしんたぶらかされて、 かのごくのなかに、 かくのごとく転行てんぎょうし、 かくのごとくかるること、 邪欲じゃよくいんとなす ないひろく。

如↠是無量百千億歳、自心所↠誑、彼地獄中、如↠是転行、如↠是被↠焼、邪欲為↠因。乃至

乃至 青蓮院本、 建長五年刊本、 大派依用本では、 本文で 「乃至広説」。

獄卒ごくそつ罪人ざいにん呵責かしゃくして、 きていはく、

異人ことひとあくをなして、 異人ことひとほうくるにあらず。

みづからのごうをもつてみづからしゅじょうみなかくのごとし」 と ¬*しょうぼう念経ねんぎょう¼。

獄率呵↢嘖罪人↡、説↠偈曰、非↣異人作悪異人受↢苦報↡、自業自得果。衆生皆如↠是。¬正法念経¼

 底本まま。 註なし。

*人間にんげんの二百歳ひゃくさいをもつて*夜摩やまてんの一にちとなして、 その寿じゅ千歳せんざいなり。 かのてん寿じゅをもつてこのごくの一にちとなして、 その寿じゅ千歳せんざいなり。 殺生せっしょう偸盗ちゅうとう*邪婬じゃいんのもの、 このなかに

以↢人間二百歳↡、為↢夜摩天一日夜↡、其寿二千歳。以↢彼天寿↡為↢此地獄一日夜↡、其寿二千歳。殺生・偸盗・邪婬者、堕↢此中↡。

 このだいごくにまた十六の*別処べっしょあり

此大地獄、復有↢十六別処↡。

・悪見処

いはく、 一しょあり。 悪見処あくけんしょづく。 児子にしりて、 めて邪行じゃぎょうして、 号哭ごうこくせしめたるもの、 ここにちてく。 いはく、 罪人ざいにんみづからの児子にしれば、 ごくのなかにあり。 獄卒ごくそつ、 もしはてつつえをもつて、 もしはてつきりをもつて、 その〔児子にしの〕おんのなかをす。 もしはてっをもつて、 そのおんのなかにくぎうつ。 すでにみづからののかくのごとき苦事くじて、 愛心あいしんをもつてかなしみいきたゆること堪忍かんにんすべからず。 この愛心あいしんは、 火焼かしょうにおいていふに、 十六ぶんのなかにその一にもおよばず。 かのひと、 かくのごとくしんめられをはりてまたしんく。 いはく、 めんしたき、 あつあかがねしるりて、 その糞門ふんもんそそぐ。 その身内しんないるに、 その*熟臓じゅくぞう大小だいしょう*ちょうとうく。 だいきをはりて、 したにありてづ。 つぶさに身心しんしんの二のくること、 りょう百千ひゃくせんねんのなかにまず

熟臓 下腹部の腸にあたる部分。
 底本 (青蓮院本) には 「腹」 とある。

謂有↢一処↡、名↢悪見処↡。取↢他児子↡、強逼邪行令↢号哭↡者、堕↠此受↠苦。謂罪人見↢自児子↡、在↢地獄中↡。獄率、若以↢鉄杖↡、若以↢鉄錐↡刺↢其陰中↡、若以↢鉄鉤↡釘↢其陰中↡。既見↢自子如↠是苦事↡、愛心悲絶、不↠可↢堪忍↡。此愛心苦、於↢火焼苦↡、十六分中、不↠及↢其一↡。彼人如↠是心苦逼已、復受↢身苦↡。謂頭面在↠下、盛↢熱銅汁↡、潅↢其糞門↡、入↢其身内↡、焼↢其熟蔵、大小腸等↡。次第焼已、在↠下而出。具受↢身心二苦↡、無量百千年中不↠止。

・多苦悩処

また別処べっしょあり。 のうしょづく。 いはく、 おとこの、 おとこにおいて邪行じゃぎょうぎょうぜるもの、 ここにちてく。 いはく、 もとなんるに、 *一切いっさい身分しんぶん、 みなことごとく熱炎ねつえんあり。 きたりてそのいだくに、 一切いっさい身分しんぶん、 みなことごとくさんしぬ。 しをはりてまたよみがえり、 きはめて怖畏ふいをなして、 はしのがれてるに、 けわしききしよりち、 ほのおくちばしあるからすほのおくち*かんありて、 これを*噉食だんじき

噉食 がつがつとくらうこと。

又有↢別処↡、名↢多苦悩↡。謂男於↠男行↢邪行↡者、堕↠此受↠苦。謂見↢本男子↡、一切身分、皆悉熱炎。来抱↢其身↡、一切身分、皆悉解散。死已復活。極生↢怖畏↡、走避而去堕↢於嶮岸↡、有↢炎烏、炎口野干↡、而噉↢食之↡。

多苦悩 青蓮院本では 「多苦悩処」。

・忍苦処

また*別処べっしょあり。 にんしょづく。 にょれるもの、 ここにちてく。 いはく、 獄卒ごくそつこれをはしけて、 めんしたにあり、 あしうえにあり。 したおおきなるほのおきて一切いっさいく。 つくせばまたしょうじぬ。 唱喚しょうかんしてくちひらけば、 くちよりりて、 そのしんはい*生熟臓しょうじゅくぞうとうく。 きょうくがごとし 以上いじょう、 ¬しょうぼう念経ねんぎょう¼ よりこれを略抄りゃくしょうす。

生熟臓 生臓と熟臓。 生臓は消化器の上部、 熟臓は下腹部の腸にあたる部分。

復有↢別処↡、名↢忍苦処↡。取↢他婦女↡者、堕↠此受↠苦。謂獄率懸↢之樹頭↡、頭面在↠下、足在↢於上↡。下燃↢火炎↡、焼↢一切身↡。焼尽復生。唱喚開↠口、火従↠口入焼↢其心・肺・生・熟蔵等↡。余如↢経説↡。已上¬正法念経¼略↢抄之↡

 他本では 「大」。

◎厭離穢土 ○地獄  叫喚

【7】 四に叫喚きょうかんごくといふは、 衆合しゅごうしたにあり。 *縦広じゅうこうさきおなじ。 獄卒ごくそつこうべなることこがねのごとし。 まなこのなかよりづ。 あかいろころもたり。 あし長大ちょうだいにして、 はしることかぜのごとし。 くちより悪声あくしょういだして罪人ざいにんる。 罪人ざいにん*こうして、 *こうべたたきて、 あわれみをもとむ。 「ねがはくは*みんれて、 すこ放捨ほうしゃせられよ」 と。 このごんありといへども、 いよいよしん ¬大論だいろん¼ (*大智度論)。

頭を叩きて 頭を地につけてという意。

四叫喚地獄者、在↢衆合下↡、縦広同↠前。獄率頭黄如↠金、眼中火出、著↢赭色衣↡。手足長大疾走如↠風。口出↢悪声↡而射↢罪人↡。罪人惶怖、叩↠頭求↠哀。願垂↢慈愍↡小見↢放捨↡。雖↠有↢此言↡、弥増↢瞋怒↡。¬大論¼

 建長五年刊本、 大派依用本では 「少」。

あるいはてつぼうをもつてこうべちて熱鉄ねつてつよりしてはしらしめ、 あるいは*熱熬ねつごうきて反覆ほんぷくしてこれをあぶる。 あるいは*熱鑊ねっかくげてこれをる。 あるいはりて猛炎みょうえんてつむろる。 あるいはかなはしをもつてくちひらきて*洋銅ようどうそそぎて、 *ぞう焼爛しょうらんしてしもよりただちにいだ ¬瑜伽ゆが¼ (*瑜伽論)・¬大論だいろん¼ (大智度論)。

熱熬 熱した鍋。
熱鑊 熱した釜。
洋銅 煮えたぎる銅汁。
五臓 肝臓・心臓・肺臓・腎臓・脾臓のこと。

或以↢鉄捧↡打↠頭、従↢熱鉄地↡令↠走、或置↢熱熬↡、反覆炙↠之、或擲↢熱鑊↡、而煎↢煮之↡。或駆入↢猛炎鉄室↡、或以↠鉗開↠口而潅↢洋銅↡、焼↢爛五蔵↡、従↠下直出。¬瑜伽論¼¬大論¼

罪人ざいにんきて、 *えんにん傷恨しょうこんしていはく、

閻羅人 閻羅王の配下の獄卒 (地獄の鬼)。

「なんぢ、 なんぞしんなき、 またなんぞ寂静じゃくじょうならざる。

われはこれしんうつわなり。 われにおいてなんぞなき」 と

罪人説↠偈、傷↢恨閻羅人↡言。汝何無↢悲心↡、復何不↢寂静↡。我是悲心器、於↠我何無↠悲。

ときえん人、 罪人ざいにんこたへていはく、

「すでに*あいあみのためにたぶらかされて、 あくぜんごうをなして、

 愛欲。 貪愛とんない

いま悪業あくごうほうく。 なんがゆゑぞわれをいかうらむるや」 と

時閻羅人、答↢罪人↡曰。已為↢愛羂誑↡作↢悪不善業↡、今受↢悪業報↡、何故瞋↢恨我↡。

為愛羂誑 返り点まま。 「愛羂に誑かされて」

またいはく、

「なんぢもと悪業あくごうをなして、 *よくのためにたぶらかされき。

かのときになんぞいずして、 いまゆること、 なんのおよぶところかあらん」 と ¬*しょうぼう念経ねんぎょう¼。

欲痴 三毒のうちの貪欲とんよく愚痴ぐち。 →三毒さんどく

又云。汝本作↢悪業↡、為↢欲痴↡所↠誑、彼時何不↠悔、今悔何所↠及。¬正法念経¼

*人間にんげんの四百歳ひゃくさいをもつて*率天そつてんの一にちとなして、 その寿じゅ千歳せんざいなり。 率天そつてん寿じゅをもつてこのごくの一にちとなして、 寿じゅ千歳せんざいなり。 せつとういん飲酒おんじゅのもの、 このなかに

以↢人間四百歳↡、為↢覩率天一日夜↡、其歳以↢覩率寿↡、為↢此地獄一日夜↡、而寿四千歳。殺・盗・婬・飲酒者、堕↢此中↡。

 底本まま。 註なし。 以下同。
其歳 他本では 「其寿四千歳」。
覩率 青蓮院本では 「覩率天」。
地獄 他本では 「獄」。

 また十六の*別処べっしょあり

復有↢十六別処↡。

・火末虫処

そのなかに一しょあり。 まつちゅうづく。 むかしさけりしに、 みずくわせるもの、 このなかにつ。 *ひゃくびょうせり。 *風黄ふうおうりょうぞうに、 おのおのひゃく一のやまいあり。 がっして四ひゃく四あり。 その一のやまいちからは、 一にちにおいてよく*大洲だいしゅうのそこばくのひとをしてみなせしむ。 またよりむしでて、 そのにくこつずいやぶりて飲食おんじき

風黄冷雑 風病と火病 (黄) と水病 (冷) と地病 (雑)。
四大洲 四天下に同じ。 →てん

其中有↢一処↡、名↢火末虫↡。昔売↠酒加↢益水↡者、堕↢此中↡、具↢四百四病↡。風黄冷雑各有↢百一病↡合有↢四百四↡ 其一病力、於↢一日夜↡、能令↢四大洲若干人皆死↡。又自身虫出、破↢其皮・肉・骨・髄↡飲食。

・雲火霧処

また別処べっしょあり。 うん火霧かむづく。 むかしさけをもつてひとあたへて、 はしめをはりて、 *調戯じょうげして、 これをろうして、 かれをして羞恥しゅうちせしめたるもの、 ここにちてく。 いはく、 ごくてることあつさ二ひゃく*ちゅうなり。 獄卒ごくそつ罪人ざいにんとらへてのなかにかしめて、 あしよりこうべいたるまで一切いっさい洋消ようしょうせしむ。 あしぐればかえりてしょうじぬ。 かくのごとくりょうひゃく千歳せんざいあたふることまず。 きょうもんのごとし

調戯 あざけりからかうこと。
 長さの単位。 一肘は人のひじの長さ (約一尺六寸 ) に相当する。

復有↢別処↡、名↢雲火霧↡。昔以↠酒与↠人令↠酔已、調戯弄↠之、令↢彼羞耻↡者、堕↠此受↠苦。謂獄火満厚二百肘。獄率投↢罪人↡、令↠行↢火中↡、従↠足至↠頭一切洋消、挙↠之還生。如↠是無量百千歳与↠苦不↠止。余如↢経文↡。

 他本では 「捉」。
 青蓮院本では 「足」。

また獄卒ごくそつ罪人ざいにん呵嘖かしゃくして、 きていはく、

ぶつみもとにしてをなし、 *しゅっやぶり、

世出世 世間 (世俗) と出世間 (世間を超えた仏法の世界)。

だつくことのごとくするは、 いはゆるさけの一ぽうなり」 と ¬しょうぼう念経ねんぎょう¼。

又獄率呵↢責罪人↡、説↠偈云。於↢仏所↡生↠痴、壊↢世・出世事↡、焼↢解脱↡如↠火、所謂酒一法。¬正法念経¼

 他本では 「嘖」。 以下同。

◎厭離穢土 ○地獄  大叫喚

【8】 五に大叫喚だいきょうかんごくといふは、 叫喚きょうかんしたにあり。 *縦広じゅうこうさきおなじ。 そうまたおなじ。 ただしさきの四のごく、 およびもろもろの十六の別処べっしょ一切いっさいのもろもろのを十ばいしておも

五大叫喚地獄者、在↢叫喚下↡、縦広同↠前、苦相亦同。但前四地獄、及諸十六別処一切諸苦、十倍重受。

*人間にんげんの八百歳ぴゃくさいをもつて*楽天らくてんの一にちとなして、 その寿じゅ千歳せんざいなり。 かのてん寿じゅをもつてこのごくの一にちとなして、 その寿じゅ千歳せんざいなり。 せつとういん飲酒おんじゅ*もうのもの、 このなかに

以↢人間八百歳↡、為↢化楽天一日夜↡其寿八千歳。以↢彼天寿↡、為↢此獄一日夜↡、其寿八千歳。殺・盗・婬・飲酒・妄語者、堕↢此中↡。

獄卒ごくそつ罪人ざいにん呵嘖かしゃくして、 きていはく、

もうだい一のなり。 なほよく大海だいかいをすらきてん。

いはんやもうにんくこと、 草木そうもくたきぎくがごとし」 と

獄率呵↢責罪人↡、説↠偈云。妄語第一火、尚能焼↢大海↡。況焼↢妄語人↡、如↠焼↢草木薪↡。

 青蓮院本には 「云云」 の割註あり。

 また*十六の別処べっしょあり

十六の別処 ¬しょうぼう念経ねんぎょう¼ では、 大叫喚だいきょうかん地獄の別処を十八とする。

復有↢十六別処↡。

・受鋒苦処

そのなかの一しょじゅ鋒苦ふくづく。 熱鉄ねつてつはりぜつをともにして、 啼哭ていこくすることあたはず

其中一処名↢受鋒苦↡。熱鉄利針、口舌倶刺、不↠能↢啼哭↡。

・受無辺苦処

また別処べっしょあり。 じゅへんづく。 獄卒ごくそつ熱鉄ねつてつかなはしをもつてそのしたいだす。 きをはりぬればまたしょうじ、 しょうじぬればすなはちまたく。 まなこくこともまたしかなり。 またかたなをもつてそのけずる。 かたなはなはだうすきこと、 たいとうのごとし。 かくのごときるいのもろもろのくること、 みなこれもうほうなり。 きょうくがごとし ¬*しょうぼう念経ねんぎょう¼ 略抄りゃくしょう

復有↢別処↡、名↢受無辺苦↡。獄率以↢熱鉄鉗↡抜↢出其舌↡。抜已復生、生則復抜。抜↢二眼↡亦然。復以↠刀削↢其身↡。刀甚薄利、如↢剃頭刀↡。受↢如↠是等異類諸苦↡、皆是妄語之果報也。余如↢経説↡。¬正法念経¼略抄

二眼 青蓮院本、 建長五年本では 「眼」。

◎厭離穢土 ○地獄  焦熱

【9】 六に焦熱しょうねつごくといふは、 大叫喚だいきょうかんしたにあり。 *縦広じゅうこうさきおなじ。 獄卒ごくそつ罪人ざいにんとらへて熱鉄ねつてつうえせ、 あるいはあおむけ、 あるいはうつぶせて、 こうべよりあしいたるまで、 おおきなる熱鉄ねつてつぼうをもつて、 あるいはち、 あるいはきて、 *肉摶にくだんのごとくならしむ。 あるいは極熱ごくねつおおきなる*鉄熬てつごううえきて、 猛炎みょうえんをもつてこれをあぶる。 左右さうにこれをてんじて、 表裏ひょうり焼薄しょうはくす。 あるいはおおきなるてつくじりをもつてしもよりこれをつらぬき、 こうべとおしていだし、 反覆ほんぷくしてこれをあぶり、 かのじょうをして諸根しょこんもう、 およびくちのなかにことごとくみなほのおおこらしむ。 あるいは*熱鑊ねっかくれ、 あるいはてつ*ろうくに、 てつ猛盛みょうじょうにして骨髄こつずいとお ¬瑜伽ゆが¼ (*瑜伽論)・¬大論だいろん¼ (*大智度論)。

肉摶 肉だんご。
鉄熬 鉄の鍋。
熱鑊 熱した釜。

六焦熱地獄者、在↢大叫喚之下↡、縦広同↠前。獄率投↢罪人↡、臥↢熱鉄地上↡、或仰或覆、従↠頭至↠足、以↢大熱鉄捧↡、或打或築、令↠如↢肉摶↡。或置↢極熱大鉄熬上↡、猛炎炙↠之、左右転↠之、表裏焼薄。或以↢大鉄串↡、従↠下貫↠之、徹↠頭而出、反覆炙↠之、令↢彼有情諸根毛孔、及以口中悉皆炎起↡。或入↢熱鑊↡、或置↢鉄楼↡、鉄火猛盛徹↢於骨髄↡。¬瑜伽論¼¬大論¼

 他書では 「捉」。

もしこのごくまめばかりのをもつてえんだいかば、 一きなん。 いはんや罪人ざいにんやわらかなること*生蘇しょうそのごとし。 長時じょうじ焚焼ぼんじょうせんに、 あにしのぶべけんや。 このごくにんは、 さきの五のごくのぞること、 なほ雪霜せっそうのごとし ¬*しょうぼう念経ねんぎょう¼。

生蘇 若草。

若以↢此獄豆許之火↡、置↢閻浮提↡、一時焚尽。況罪人之身、耎如↢生蘇↡。長時焚焼、豈可↠忍哉。此地獄人、望↢見前五地獄之火↡、猶如↢霜雪↡。¬正法念経¼

霜雪 青蓮院本では 「雪霜」。

*人間にんげんせん百歳ぴゃくさいをもつて*他化たけてんの一にちとなして、 その寿じゅまん千歳せんざいなり。 他化たけてん寿じゅをもつてにちとなして、 このごく寿じゅまたしかなり。 せつとういん飲酒おんじゅもう邪見じゃけんのもの、 このなかに

他化天 他化自在天のこと。 →他化自たけじ在天ざいてん

以↢人間千六百歳↡、為↢他化天一日夜↡、其寿万六千歳。以↢他化天寿↡、為↢日夜↡、此獄寿亦然。殺・盗・婬・飲酒・妄語・邪見之者、堕↢此中↡。

 *もんのほかにまた十六の*別処べっしょあり

四門 東西南北の門。

四門之外、復有↢十六別処↡。

・分荼離迦処

そのなかに一しょあり。 *ふん荼離迦だりかづく。 いはく、 かの罪人ざいにん*一切いっさい身分しんぶんに、 芥子けしばかりもえんなきところなし。 ごくにん、 かくのごとくきていはく、 「なんぢ、 くすみやかにきたれ。 なんぢ、 くすみやかにきたれ。 ここにふん荼離迦だりかいけあり。 みずありてみつべし、 はやし潤影じゅんえいあり」 と。 したがひてはしおもむくに、 みちほとりあなあり。 なかにさかりなるてり。 罪人ざいにんりをはるに、 一切いっさい身分しんぶんみなことごとくきぬ。 けをはればまたしょうじ、 しょうじをはればまたく。 渇欲かつよくまずして、 すなはち前進すすみてりぬ。 すでにかのところれば、 ふん荼離迦だりかほのおゆること、 高大こうだいなること五ひゃく由旬ゆじゅんなり。 かの焼炙しょうしゃせられて、 してまたよみがえる。 もしひと、 みづから餓死がししててんうまるることをることをのぞみ、 またにんおしへて邪見じゃけんじゅうせしめたるもの、 このなかに

分荼離迦 梵語プンダリーカ (puņđarīka) の音写。 びゃくれんのこと。

其中有↢一処↡、名↢分荼離迦↡。謂彼罪人一切身分、無↧芥子許無↢火炎↡処↥。異地獄人、如↠是説言。汝汝疾疾速速来来、此有↢分荼離迦池↡、有↠水可↠飲、林有↢潤影↡。随而走趣、道上有↠坑、満↢中熾火↡。罪人入已、一切身分、皆悉焼尽。焼已復生、生已復焼。渇欲不↠息、便前進入。既入↢彼処↡、分荼離迦炎燃、高火五百由旬。彼火焼炙、死而復活。若人自餓死望↠得↠生↠天、復教↢他人↡、令↠住↢邪見↡者、堕↢此中↡。

汝汝疾疾速速来来 青蓮院本、 建長五年刊本では 「汝疾速来々々々々」。
 青蓮院本では 「大」。

・闇火風処

また別処べっしょあり。 あんふうづく。 いはく、 かの罪人ざいにん悪風あくふうかれて、 くうのなかにありて、 *しょところなし。 車輪しゃりんのごとくてんじて、 るべからず。 かくのごとくてんじをはるに、 *刀風とうふうしょうじて、 くだくこといさごのごとくして、 十ぽう分散ふんさんす。 さんじをはればまたしょうじ、 しょうじをはればまたさんず。 つねにかくのごとし。 もしひと、 かくのごときけんをなさく、 「一切いっさい諸法しょほうに、 じょう無常むじょうとあり。 無常むじょうといふはなり。 じょうといふは四だいなり」 と。 かの邪見じゃけんにん、 かくのごときく。 きょうくがごとし ¬しょうぼう念経ねんぎょう¼。

所依の処 つかまるところ。 寄るべ。

復有↢別処↡、名↢闇火風↡。謂彼罪人、悪風所↠吹、在↢虚空中↡、無↢所依処↡。如↠輪疾転、身不↠可↠見。如↠是転已、異刀風生、砕↠身如↠沙、分↢散十方↡。散已復生、生已復散。恒常如↠是。若人作↢如↠是見↡、一切諸法、有↢常無常↡。無常者身、常者四大。彼邪見人、受↢如↠是苦↡。余如↢経説↡。¬正法念経¼

 青蓮院本では 「車輪」。

◎厭離穢土 ○地獄  大焦熱

【10】七に大焦熱だいしょうねつごくといふは、 焦熱<