二七(1043)、要義十三問答

▲○まことにこの身みには、 道心だうしむのなき事ことと、 やまひとばかりや、 なげきにて候さふらふらむ。 世よをいとなむ事ことなければ、 四し方はうに馳ちハシル騁ちやうハシルせず、 衣え食じきともにかけたりといゑども、 身しん命みやうをおしむこゝろ切せちならぬは、 あながちにうれへとするにおよばぬ。 こゝろをやすくせむためにも、 すて候さふらふべきよにこそ候さふらふめれ。

-◇いはむや、 无む常じやうのかなしみはめのまへにみてり、 いづれの月つき日ひおかおはりのときと期ごせむ。 さかへあるものもひ1044さしからず、 いのちあるものもまたうれえあり。 すべていとふべきは六道ろくだう生しやう死じのさかひ、 ねがふべきは浄じやう土ど菩ぼ提だいなり。

-◇天てん上じやうにむまれてたのしみにほこるといゑども、 五ご衰すい*退没たいもちのくるしみあり。 人間にんげんにむまれて国王こくわうの身みをうけて、 一ゐち四し天てん下げおばしたがふといゑども、 生しやうウマル 老らうオイタル病びやうヤマウ死しシヌル・ 愛別あいべちワカレハナ離苦りくルヽクル・シミ 怨おんウラミ 憎ぞうソネム会苦えくクルシミの一ゐち事じもまぬかるゝ事ことなし。 たとひこれらの苦くなからむすら、 三さん悪道まくだうにかへるおそれあり。 こゝろあらむ人ひとは、 いかゞいとはざるべき。

-◇うけがたき人界にんがいの生しやうをうけて、 あひがたき仏教ぶちけうにあひ、 このたび出しゆつ離りをもとめさせたまへ。

◇一 問と。ふ おほかたは、 さこそはおもふことにて候さふらへども、 かやうにおほせらるゝことばにつきて、 さうなく出しゆつ家けをしたりとも、 こゝろに名みやう利りをはなれたる事こともなし。 持ぢ戒かい清浄しやうじやうなる事ことなく、 无む道心だうしむにて人ひとに謗はうをなされむ事こと、 いかゞとおぼえ候さふらふ。 それも在ざい家けにありておほくの輪りん廻ゑの業ごふをまさむよりは、 よき事ことにてや候さふらふべき。

-◇答こた。ふ たわぶれに尼にアマのころもをき、 さけにゑいて出しゆつ家けをしたる人ひと、 みな仏道ぶちだうの因いんとなりにきと、 ふるきものにもかきつたえられて候さふらふ。

-◇¬往わう生じやうの十因じふいん¼ (意) と申まふすふみには、 「*勝しよう如によ聖しやう人にんの父母ぶもともに出しゆつ家けせし時とき、 男おとこはとし四し十じふ一ゐち、 妻さいオメは卅さむじふ三さんなり。 修しゆ行ぎやうの僧そうをもちて師しとしき。 師しほめていはく、 衰老すいらうにもいたらず、 病患びやうぐゑんウレエにものぞまず、 い1045ま出しゆつ家けをもとむ。 これ最さい上じやうの善根ぜんごんなり」 とこそはいひけれ。

-◇釈しや迦か如来によらい、 当来たうらい導だう師し弥み勒ろく慈じ尊そんに付ふ属ぞくしたまふにも、 「破は戒かい・重悪ぢうあくのともがらなりといふとも、 頭かしらをそり、 衣ころもをそめ、 袈裟けさをかけたらむものは、 みな汝なんぢにつく」 とこそはおほせられて候さふらへ。

-◇されば破は戒かいなりといゑども、 三さん会ゑ得脱とくだちなほたのみあり。 ある経きやうの文もんには、 「在ざい家けの持ぢ戒かいには、 出しゆつ家けの破は戒かいはすぐれたり」 とこそは申まふし候さふらへ。

-◇まことに仏法ぶちぽふ流布るふの世よにむまれて、 出しゆつ離りの道みちをえて、 解げ脱だち幢相どうさうのころもを肩かたにかけ、 釈しやく子しにつらなりて、 仏法ぶちぽふ修しゆ行ぎやうせざらむ。 まことに▲宝たからの山やまにいりて、 手てをむなしくしてかへるためしなり。

◇二 問と。ふ まことに出しゆつ家けなどしては、 さすがに生しやう死じをはなれ、 菩ぼ提だいにいたらむ事ことをこそは、 いとなみにて候さふらふべけれ。 いかやうにかつとめ、 いかやうにかねがひ候さふらふべき。

-◇¬安楽あんらく集しふ¼ (巻上意) に云いはく、 「▲大だい乗じようの聖しやう教げうによるに、 二に種しゆの勝しよう法ぼふあり。 ▲一ひとつには聖しやう道だう、 二ふたつには往わう生じやう浄じやう土ど也なり」。

-◇穢土ゑどの中なかにして、 やがて仏果ぶちくわをもとむるは、 みな聖しやう道だう門もんなり。 諸法しよほふの実相じちさうを観くわんじて証しようをえむと、 法華ほふくゑ三昧ざんまいを行ぎやうじて六根ろくこん清浄しやうじやうをもとめ、 三密さんみちの行ぎやう法ほふをこらして即身そくしんに成じやう仏ぶちせむとおもふ。 あるいは四し道だうの果くわをもとめ、 また三さん明みやう六ろく通つをねがふ、 これみな難なん行ぎやう道だうなり。

-◇往わう生じやう浄じやう土ど門もんといふは、 まづ浄じやう土どに1046むまれて、 かしこにてさとりおもひらき、 仏ほとけにもならむとおもふなり、 これは易い行ぎやう道だうといふ。 生しやう死じをはなるゝみちみちおほし、 いづれよりもいらせたまへ。

◇三 問と。ふ さればわれらがごときのおろかなるものは、 浄じやう土どをねがひ候さふらふべきか、 いかに。

-◇答こた。ふ ¬安楽あんらく集しふ¼ (巻上意) に云いはく、 「▲聖しやう道だうの一種ゐちしゆは、 いまの時ときには証しようしがたし。 一ひとつには大だい聖しやうをされる事ことはるかにとおきによる。 二ふたつには理りはふかくして、 さとりはすくなきによる。 ◆このゆへに ¬大集だいじふ◗の月ぐわち蔵ざう経きやう¼ にいはく、 わが末法まちぽふのときの中なかの億億おくおくの衆しゆ生じやう、 行ぎやうをおこし道だうを修しゆするに、 一人ゐちにんもうるものはあらず。

-◇◆まことにいま末法まちぽふ五ご濁じよく悪あく世せなり。 たゞ浄じやう土どの一門ゐちもんのみありて通つ入にふすべきなり。 ▲こゝをもて諸仏しよぶちの大だい悲ひ、 浄じやう土どに帰くゐせよとすゝめたまふ。 一ゐち形ぎやう悪あくをつくれども、 たゞよくこゝろをかけて、 まことをもはらにして、 つねによく念仏ねむぶちせよ。 一切ゐちさいのもろもろのさはり、 自じ然ねんにのぞこりて、 さだめて往わう生じやうをう。 なむぞおもひはからずして、 さるこゝろなきや」 といふ。

-◇永ゐやう観くわんののたまはく、 「真言しんごん・止し観くわんは、 理りふかくしてさとりがたく、 三論さんろん・法相ほふさうは、 みちかすかにしてまどひやすし」 (往生拾因) なむど候さふらふ。

-◇まことに観くわん念ねむもたえず、 行ぎやう法ほふにもいたらざらむ人ひとは、 浄じやう土どの往わう生じやうをとげて、 一切ゐちさいの法門ほふもんおもやすくさとらせたまはむは、 よく候さふらふなむとおぼえ候さふらふ。

◇四 1047問と。ふ 十方じふぱうに浄じやう土どおほし、 いづれおかねがひ候さふらふべき。 兜と率そちの上生じやうしやうをねがふ人ひともおほく候さふらふ、 いかゞおもひさだめ候さふらふべき。

-◇答こた。ふ 天臺てんだい大だい師しののたまはく、

「諸教しよけうに讃ほむるところ多おほく弥陀みだに在いますがゆへに、 西方さいはうをもて一ゐち順じゆんとす」 (輔行巻二)

-「諸教しよけう所しよ↠讃さん多た在ざい↢弥陀みだ↡故こ、 以い↢西方さいはう↡而に為ゐ↢一ゐち順じゆん↡」

-と。 また顕密けんみちの教法けうぼふの中なかに、 もはら極楽ごくらくをすゝむる事ことは、 称しよう計げすべからず。

-◇恵ゑ心しむの ¬往わう生じやう要集えうしふ¼ に、 ▲十方じふぱうに対たいして西方さいはうをすゝめ、 ▲兜と率そちに対たいしておほくの勝しよう劣れちをたて、 難なん易い相さう違ゐの証しよう拠こをひけり、 たづね御ご覧らんぜさせたまへ。

-◇極楽ごくらくこの土どに縁えんふかし、 弥陀みだは有う縁えんの教主けうしゆなり、 宿因しういんのゆへ、 本ほん願ぐわんのゆへ。 たゞ西方さいはうをねがはせたまふべきとこそおぼえ候さふらへ。

◇五 問と。ふ まことにさては、 ひとすぢに極楽ごくらくをねがふべきにこそ候さふらふなれ、 極楽ごくらくをねがはむには、 いづれの行ぎやうかすぐれて候さふらふべき。

-◇答こた。ふ 善導ぜんだう釈しやくしてのたまはく、 「▲行ぎやうに二に種しゆあり。 一ひとつには正行しやうぎやう、 二ふたつには雑ざふ行ぎやうなり。

-◇▲正しやうの中なかに五ご種しゆの正行しやうぎやうあり。 一ひとつには礼拝らいはいの正行しやうぎやう、 二ふたつには讃嘆さんだん供く養やうの正行しやうぎやう、 三みつには読誦どくじゆ正行しやうぎやう、 四よつには観くわん察ざち正行しやうぎやう、 五いつゝには称名しようみやうの正行しやうぎやうなり。 一ひとつに礼拝らいはいの正行しやうぎやうといふは、 礼らいせむには、 すなわちかの仏ほとけを礼らいして余よ礼らいをまじえざれ。 二ふたつに讃嘆さんだん供く養やうの正行しやうぎやうといふは、 讃嘆さんだん供く養やうして余よの讃嘆さんだん供く養やうをまじえざれ。 三みつに読誦どくじゆの正行しやうぎやうといふは、 読誦どくじゆせむには、 ¬弥陀みだ経きやう¼ 等とうの三さん部ぶ経きやうを読誦どくじゆして余よの読誦どくじゆをまじえざれ。 四よつに観くわんミソナハス 察ざちカヾミルの正しやう行ぎやうといふは、 憶念おくねむ観くわん察ざちせむには、 か1048の土どの二に報ほう荘しやう厳ごむ等とうを観くわん察ざちして余よの観くわん察ざちをまじえざれ。 五いつゝに称名しようみやうの正行しやうぎやうといふは、 称しようせむには、 すなわちかの仏ほとけを称しようして余よの称名しようみやうをまじえざれ。

-◇この五ご種しゆを往わう生じやうの正行しやうぎやうとす。 ◆この正行しやうぎやうの中なかにまた二ふたつあり。 一ひとつには正しやう、 二ふたつには助じよ。 ◆称名しようみやうをもては正しやうとし、 ◆礼誦らいじゆ等とうをもちては助業じよごふとなづく。 ◆この正しやう助じよ二に行ぎやうをのぞきて、 自余じよの衆善しゆぜんはみな雑ざふ行ぎやうとなづく」 (散善義意)。

-◇また釈しやくしていはく、 「▲自余じよの衆善しゆぜんは、 善ぜんとなづくといゑども、 念仏ねむぶちにくらぶれは、 またく比ひ校けうにナラブルト あらず」 (定善義) とのたまへり。

-◇浄じやう土どをねがはせたまはゞ、 一向ゐちかうに念仏ねむぶちをこそはまふさせたまはめ。

◇六 問と。ふ 余よ行ぎやうを修しゆして往わう生じやうせむことは、 かなひ候さふらふまじや。 されども ¬法華ほふくゑ経きやう¼ (巻六薬王品) には 「即往そくわう安楽あんらく世せ界かい阿わ弥陀みだ仏ぶち」 といひ、 密教みちけうの中なかにも、 決定くゑちぢやう往わう生じやうの真言しんごん、 滅罪めちざいの真言しんごんあり。 諸教しよけうの中なかに、 浄じやう土どに往わう生じやうすべき功く力りきをとけり、 また穢土ゑどの中なかにして仏果ぶちくわにいたるといふ。

-◇かたき徳とくをだに具ぐせらむ教けうを修しゆ行ぎやうして、 やすき往わう生じやう極楽ごくらくに廻ゑ向かうせば、 仏果ぶちくわにかなうまでこそかたくとも、 往わう生じやうはやすくや候さふらふべきとこそおぼえ候さふらへ。 またおのづから聴ちやう聞もんなどにうけたまはるにも、 法華ほふくゑと念仏ねむぶちひとつものと釈しやくせられ候さふらふ。 ならべて修しゆせむに、 なにかくるしく候さふらふべき。

-◇答こた。ふ ¬双そう巻経くわんぎやう¼ (大経巻下) に三輩さんぱい往わう生じやうの業ごふをときて、 ともに 「▲一向ゐちかう専念せんねむ无む量りやう寿じゆ仏ぶち」 とのたまへり。

-◇¬観くわん无む量りやう寿じゆ経きやう1049¼ に、 もろもろの往わう生じやうの行ぎやうをあつめてときたまふおはりに、 阿わ難なんに付ふ嘱ぞくしたまふところには、 「▲なむぢこのことばをたもて。 このことばをたもてといふは、 无む量りやう寿じゆ仏ぶちのみなをたもてとなり」 とときたまふ。

-◇善導ぜんだう ¬観経くわんぎやう¼ を釈しやくしてのたまふに、 「▲定ぢやう散さん両りやう門もんの益やくをとくといゑども、 仏ぶちの本ほん願ぐわんをのぞむには、 一向ゐちかうにもはら弥陀みだの名みやう号がうを称しようせしむるにあり」 (散善義) といふ。

-◇同おなじき ¬経きやう¼ (観経) の文もんに、 「▲一一ゐちゐちの光明くわうみやう、 十方じふぱう世せ界かいの念仏ねむぶちの衆しゆ生じやうをてらして、 摂取せふしゆしてすてたまはず」 ととけり。

-◇善導ぜんだう釈しやくしてのたまふには、 「▲論ろんぜず、 余よの雑業ざふごふのものをてらし摂取せふしゆす」 (観念法門) といふことおばとかず候さふらふ。

-◇余よ行ぎやうのものふつとむまれずとはいふにはあらず、 善導ぜんだうも 「▲廻ゑ向かうしてむまるべしといゑども、 もろもろの疎そ雑ざふの行ぎやうとなづく」 (散善義) とこそはおほせられたれ。

-◇¬往わう生じやう要集えうしふ¼ (巻上) の序じよにも、 「▲顕密けんみちの教法けうぼふ、 その文もんひとつにあらず。 事理じりの業因ごふいん、 その行ぎやうこれおほし。 利智りち精しやう進じんの人ひとは、 いまだかたしとせず。 豫よがごときの頑ぐわんカタクナ嚕ろのもの、 たやすからむや。 ◆このゆへに、 念仏ねむぶちの一門ゐちもんによりて、 経きやう論ろんの要文えうもんをあつむ。 これをひらき、 これを修しゆするに、 さとりやすく行ぎやうじやすし」 といふ。

-◇これらの証しよう拠こあきらめつべし。 教けうをえらぶにはあらず、 機きをはからふなり。 わがちからにて生しやう死じをはなれむ事こと、 はげみがたくして、 ひとへに他た力りきの弥陀みだの本ほん願ぐわんをた1050のむ也なり。

-◇先徳せんどくたちおもひはからひてこそは、 道だう綽しやくは聖しやう道だうをすてゝ浄じやう土どの門もんにいり、 善導ぜんだうは雑ざふ行ぎやうをとゞめて一向ゐちかうに念仏ねむぶちして三昧さんまいをえたまひき。 浄じやう土ど宗しゆの祖師そし、 次し第だいにあひつげり、 わづかに一ゐち両りやうをあぐ。

-◇この朝てうにも恵ゑ心しむ・永ゐやう観くわんなどいふ、 自じ宗しゆ・他た宗しゆ、 ひとへに念仏ねむぶちの一門ゐちもんをすゝめたまへり。

-◇専雑せんざふ二に修しゆの義ぎ、 はじめて申まふすにおよばず。 浄じやう土ど宗しゆのふみおほく候さふらふ、 こまかに御ご覧らん候さふらふべし。

-◇また即身そくしん得道とくだうの行ぎやう、 往わう生じやう極楽ごくらくにおよはざらむやと候さふらふは、 まことにいわれたるやうに候さふらへども、 なかにも宗しゆと申まふすことの候さふらふぞかし。

-◇善導ぜんだうの ¬観経くわんぎやうの疏しよ¼ (玄義分意) にいはく、 「▲般若はんにや経きやうのごときは、 空慧くゑをもて宗しゆとす、 ¬維ゆい摩ま経きやう¼ のごときは、 不ふ思議しぎ解げ脱だちをもちて宗しゆとす。 ◆いまこの ¬観経くわんぎやう¼ は、 観くわん仏ぶち三昧ざんまいをもちて宗しゆとし、 念仏ねむぶち三昧ざんまいをもちて宗しゆとす」 といふがごとき。

-◇¬法華ほふくゑ¼ は、 真如しんによ実相じちさう平びやう等どうの妙めう理りを観くわんじて証しようをとり、 現身げんしんに五ご品ぼむ・六根ろくこんの位くらゐにもかなふ、 これをもちて宗しゆとす。 また真言しんごんには、 即身そくしん成じやう仏ぶちをもちて宗しゆとす。 ¬法華ほふくゑ¼ にもおほくの功く力りきをあげて経きやうをほむるついでに、 「即往そくわう安楽あんらく」 (法華経巻六薬王品) ともいひ、 また 「即往そくわう兜と率そち天てん上じやう」 (法華経巻七勤発品) ともいふ。 これは便びん宜ぎの説せちなり、 往わう生じやうを宗しゆとするにはあらず。 真言しんごんもまたかくのごとし。

-◇法華ほふくゑ・念仏ねむぶちひとつなりといひて、 ならべて修しゆせよといはゞ、 善導ぜんだう和くわ尚しやうは ¬法華ほふくゑ¼・¬維ゆい摩ま¼ 等とうを読誦どくじゆしき。 浄じやう土どの一門ゐちもん1051にいりにしよりこのかた、 一向ゐちかうに念仏ねむぶちして、 あえて余よの行ぎやうをまじふる事ことなかりき。

-◇しかのみならず、 浄じやう土ど宗しゆの祖師そしあひつぎて、 みな一向ゐちかうに名みやう号がうを称しようして余よ業ごふをまじへざれとすゝむ。 これらを按あんじて専修せんじゆの一ゐち行ぎやうにいらせたまへとは申まふすなり。

◇七 問と。ふ 浄じやう土どの法門ほふもんに、 まづなになにをみてこゝろつき候さふらふなむ。

-◇答こた。ふ 経きやうには¬双さう巻くわん¼・¬観くわん无む量りやう寿じゆ¼・¬小せう阿わ弥陀みだ経きやう¼ 等とう、 これを浄じやう土どの三さん部ぶ経きやうとなづく。 文ふみには善導ぜんだうの ¬観経くわんぎやうの疏しよ¼・¬六ろく時じ礼讃らいさん¼・¬観くわん念ねむ法門ぼふもん¼、 道だう綽しやくの ¬安楽あんらく集しふ¼、 慈じ恩おんの ¬西方さいはう要えう決くゑち¼、 懐ゑ感かむの ¬群ぐん疑ぎ論ろん¼、 天臺てんだいの ¬十じふ疑ぎ論ろん¼、 わが朝てうの人にん師し恵ゑ心しむの ¬往わう生じやう要集えうしふ¼ なむどこそは、 つねに人ひとのみるものにて候さふらへ。

-◇たゞなにを御ご覧らんずとも、 よく御おむこゝろえて念仏ねむぶち申まふさせたまはむに、 往わう生じやうなにかうたがひ候さふらふべき。

◇八 問と。ふ こゝろおば、 いかやうにかつかひ候さふらふべき。

-◇答こた。ふ 三心さんしむを具ぐ足そくせさせたまへ。 その三心さんしむと申まふすは、 一ひとつには至し誠じやう心しむ、 二ふたつには深心じむしむ、 三みつには廻ゑ向かう発ほち願ぐわん心しむなり。

-◇一ひとつに至し誠じやう心しむといふは、 真実しんじちの心しむなり。 善導ぜんだう釈しやくしてのたまはく、 「▲至しといふは真しんの義ぎ、 誠じやうといふは実じちの義ぎ。 真実しんじちのこゝろの中なかに、 この自他じたの依え正しやう二に報ほうをいとひすてゝ、 三業さんごふに修しゆするところの行きやう業ごふに、 かならず真実しんじちをもちゐよ。 ほかに賢善けんぜん精しやう進じんの相さうを現げんじて、 うちに虚仮こけをいだくものは、 日にち夜や十じふ二に時じにつとめおこなふこと、 かうべの1052火ひをはらふがごとくにすれども、 往わう生じやうをえずといふ。 たゞ内外ないぐゑ明みやう闇あむおばえらばず、 真実しんじちをもちゐるゆへに、 至し誠じやう心しむとなづく。

-◇▲二ふたつに深心じむしむといふは、 ふかき信しんなり。 決定くゑちぢやうしてふかく信しんぜよ、 自じ身しんは現げんにこれ罪悪ざいあく生しやう死じの凡ぼむ夫ぶなり。 昿くわう劫ごふよりこのかた、 つねにしづみつねに流る転てんして、 出しゆつ離りの縁えんあることなし。

-◇また決定くゑちぢやうしてふかく信しんぜよ、 かの阿わ弥陀みだ仏ぶちの四し十八じふはち願ぐわんをもて、 衆しゆ生じやうをうけおさめて、 うたがひなくうらもひなく、 かの願ぐわん力りきにのりてさだめて往わう生じやうすと。

-◇あふぎてねがはくは、 仏ほとけのみことおば信しんぜよ。 もし一切ゐちさいの智ち者しや百ひやく千せん万人まんにんきたりて、 経きやう論ろんの証しようをひきて、 一切ゐちさいの凡ぼむ夫ぶ念仏ねむぶちして往わう生じやうする事ことをえずといはむに、 一念ゐちねむの 疑ぎウタガフ 退たいシリゾクのこゝろをおこすべからず。 たゞこたえていふべし、 なむぢがひくところの経きやう論ろんを信しんぜざるにはあらず。 なむぢが信しんずるところの経きやう論ろんは、 なむぢが有う縁えんの教けう、 わが信しんずるところは、 わが有う縁えんの教けう、 いまひくところの経きやう論ろんは、 菩ぼ薩さち・人にん・天てん等とうに通つじてとけり。

-◇この ¬観経くわんぎやう¼ 等とうの三さん部ぶは、 濁ぢよく悪あく不ふ善ぜんの凡ぼむ夫ぶのためにときたまふ。 しかれば、 かの ¬経きやう¼ をときたまふ時ときには、 対たい機きも別べちに、 所ところも別べちに、 利り益やくも別べちなりき。 いまきみがうたがひをきくに、 いよいよ信心しんじむを増ぞうマシ長ぢやうすマストナリ。

-◇もしは羅ら漢かん・辟びやく支し仏ぶち、 初しよ地ぢ・十じふ地ぢの菩ぼ薩さち、 十方じふぱうにみちみち、 化仏くゑぶち・報仏ほうぶちひかりをかゞやかし、 虚空こくにみしたをはき1053て、 むまれずとのたまはゞ、 またこたえていふべし、 一仏ゐちぶちの説せちは一切ゐちさいの仏説ぶちせちにおなじ、 釈しや迦か如来によらいのときたまふ教けうをあらためば、 制せい止ししたまふところの殺せち生しやう十悪じふあく等とうの罪つみをあらためて、 またおかすべからむや。

-◇さきの仏ほとけそらごとしたまはゞ、 のちの仏ほとけもまたそら事ごとしたまふべし。 おなじことならば、 たゞ信しんじそめたる法ほふおば、 あらためじといひて、 ながく退たいする事ことなかれ。 かるがゆへに深心じむしむなり。

-◇▲三みつに廻ゑ向かう発ほち願ぐわん心しむといふは、 一切ゐちさいの善根ぜんごんをことごとくみな廻ゑ向かうして、 往わう生じやう極楽ごくらくのためとす。 決定くゑちぢやう真実しんじちのこゝろの中なかに廻ゑ向かうして、 むまるゝおもひをなすなり。 このこゝろ深信じむしんなる事こと、 金剛こむがうのごとくにして、 一切ゐちさいの異い見けん・異い学がく・別べち解げ・別べち行ぎやうの人にん等とうに、 動乱どうらんし破壊はゑせられざれ。

-◇いまさらに行ぎやう者じやのためにひとつのたとひをときて、 外邪ぐゑじや・異い見けんの難なんをふせがむ。 人ひとありて西にしにむかひて百ひやく里り・千せん里りをゆくに、 忽然こつねんとタチマチニ して中ちう路ろにふたつの河かわあり。 一ひとつにはこれ火ひの河かわ、 南みなみにあり。 二ふたつにはこれ水みづの河かわ、 北きたにあり。 各おのおのひろさ百ひやく歩ぶモヽアユミ、 ふかくしてそこなし、 南北なむぼくにほとりなし。

-◇まさに水しゐ火くわの中間ちうげんに一ひとつの白びやく道だうあり、 ひろさ四五しご寸すんばかりなるべし。 この道みち東ひむがしの岸きしより西にしの岸きしにいたるに、 ながさ百ひやく歩ぶ、 その水みづの波は浪らうまじオナミコナミトイフわりすぎて道みちをうるおす、 火炎くわえむまたきたりて道みちをやく。 水火しゐくわあひまじわりてつねにやむ事ことなし。

-◇この人ひとすでに空くムナシク 昿くわうハルカナリのはるかな1054るところにいたるに、 人ひとなくして群賊ぐんぞく・悪獣あくじゆあり。 このひとひとりありくをみて、 きおいきたりてころさむとす。 この人ひと死しをおそれてたゞちにはしりて西にしにむかふ。

-◇忽然こつねんとしてこの大たい河がをみるに、 すなわち念言ねむごんすらく、 南北なむぼくにほとりなし、 中間ちうげんに一ひとつの白びやく道だうをみる、 きわめて狭けちセバク少せうセバシなり。 ふたつの岸きしあいさる事ことちかしといゑども、 いかゞゆくべき。 今日こむにちさだめて死しせむ事ことうたがひなし。

-◇まさしくかへらむとおもへば、 群賊ぐんぞく・悪獣あくじゆやうやくにきたりせむ。 南北なむぼくにさりはしらむとおもへば、 悪獣あくじゆ・毒虫どくちうきおひきたりてわれにむかふ。 まさに西にしにむかひてみちをたづねて、 しかもさらむとおもへば、 おそらくはこのふたつの河かわにおちぬべし。

-◇この時ときおそるゝ事こといふべからず、 すなわち思し念ねむすらく、 かへるとも死しし、 またさるとも死ししなむ、 一種ゐちしゆとしても死しをまぬかれざるものなり。 われむしろこのみちをたづねて、 さきにむかひてしかもさらむ。 すでにこのみちあり、 かならずわたるべしと。

-◇このおもひをなす時ときに、 東ひむがしの岸きしにたちまちに人ひとのすゝむるこゑをきく。 きみ決定くゑちぢやうしてこのみちをたづねてゆけ、 かならず死しの難なんなけむ。 住ぢゆせば。 すなわち死ししなむ。 西にしの岸きしの上うへに人ひとありてよばひていはく、 なむぢ一心ゐちしむにまさしく念ねんじて、 身心しんしむいたりて、 みちをたづねて直ぢきにすゝみて、 疑ぎ怯かう退心たいしむをなさず。

-◇あるいは一分ゐちぶん二に分ぶんゆくに1055、 群賊ぐんぞく等らよばいていはく、 きみかへりきたれ、 このみちはけあしくあしきみちなり、 すぐる事ことをうべからず、 死ししなむことうたがひなし、 われらが衆しゆあしきこゝろなし。

-◇このひとあひむかふに、 よばふこゑをきくといゑどもかへりみず。 直ぢきにすゝみて道みちを念ねんじてしかもゆくに、 須しゆ臾ゆにすなわち西にしの岸きしにいたりて、 ながくもろもろの難なんをはなる。 善ぜん友うあひむかひてよろこびやむ事ことなし。

-◇これはこれたとひなり。 次つぎに喩たとひを合がふすといふは、 東ひむがしの岸きしといふは、 すなわちこの娑しや婆ばの火宅くわたくにたとふるなり。

-◇群賊ぐんぞく・悪獣あくじゆいつわりちかづくといふは、 すなわち衆しゆ生じやうの六根ろくこん・六識ろくしき・六塵ろくぢん・五ご陰おむ・四し大だいなり。

-◇人ひとなき空く昿くわうの沢さわといふは、 すなわち悪あく友うにしたがひて、 まことの善ぜん知ぢ識しきにあはざるなり。

-◇水火しゐくわの二河にがといふは、 すなわち衆しゆ生じやうの貪愛とむあいは水みづのごとく、 瞋憎しんぞうは火ひのごとくなるにたとふるなり。

-◇中間ちうげんの白びやく道だう四五しご寸すんといふは、 衆しゆ生じやうの貪瞋とむじん煩悩ぼむなうの中なかに、 よく清浄しやうじやうの願ぐわん往わう生じやうの心しむをなすなり。 貪瞋とむじんこはきによるがゆへに、 すなわち水火しゐくわのごとしとたとふるなり。

-◇水しゐ波はつねにみちをうるおすといふは、 愛心あいしむつねにおこりて善心ぜんしむを染ぜむ汚わするソメケガストナリ なり。 また火炎くわえんつねにみちをやくといふは、 すなわち瞋嫌しんけむのこゝろよく功く徳どくの法財ほふざいをノリノタカラ やくなり。

-◇人ひとみちをのぼるに直ぢきに西にしにむかふといふは、 すなわちもろもろの行きやう業ごふをめぐらして、 直ぢきに西にしにむ1056かふにたとふるなり。

-◇東ひむがしの岸きしに人のこゑのすゝめやるをきゝて、 みちをたづねて直ぢきに西にしにすゝむといふは、 すなわち釈しや迦かはすでに滅めちしたまひてのち、 人ひとみたてまつらざれども、 なほ教法けうぼふありてすなわちたづぬべし。 これをこゑのごとしとたとふるなり。

-◇あるいは一分ゐちぶん二に分ぶんするに群賊ぐんぞく等らよばひかへすといふは、 別べち解げ・別べち行ぎやう・悪見あくけん人にん等らみだりに見けん解げをときてあひ惑乱わくらんし、 およびみづから罪つみをつくりて退失たいしつするなり。

-◇西にしの岸きしの上うへに人ひとありてよばふといふは、 すなわち弥陀みだの願ぐわんのこゝろにたとふるなり。

-◇須しゆ臾ゆにすなわち西にしの岸きしにいたりて善ぜん友うあひみてよろこぶといふは、 すなわち衆しゆ生じやうのひさしく生しやう死じにしづみて、 昿くわう劫ごふより輪りん廻ゑし、 迷メイマドフ倒たうしタフルヽ、 身みづから迷まどふて解げ脱だちするによしなし。

-◇あふぎて*発遣はちけんして、 西方さいはうにむかへしめたまふ。 弥陀みだの悲ひ心しむまねきよばひたまふに、 二に尊そんの心おむこゝろに信しん順じゆんして、 水火しゐくわの二河にがをかへりみず、 念念ねむねむにわするゝ事ことなく、 かの願ぐわん力りきに乗じようじて、 このみちにいのちをすておはりてのち、 かのくににむまるゝ事ことをえて、 仏ほとけとあひみて、 慶きやう楽らくするヨロコビタノシマム事こときわまりなからむ。

-◇行ぎやう者じや、 行ぎやう住ぢゆ座ざ臥ぐわの三業さんごふに修しゆするところ、 昼ちう夜や時じ節せちをとふことなく、 つねにこのさとりをなし、 このおもひをなすがゆへに廻ゑ向かう発ほち願ぐわん心しむといふ。

-◇また廻ゑ向かうといふは、 かのくにゝむまれおはりて、 大だい悲ひをおこして生しやう死じにかへりいりて、 衆しゆ生じやうを1057教化けうくゑするを廻ゑ向かうとなづく。

-◇三心さんしむすでに具ぐすれば、 行ぎやうの成じやうぜざることなし。 願行ぐわんぎやうすでに成じやうじて、 もしむまれずといはゞ、 このことわりある事ことなけむ」 (散善義意) と。 已い上じやう善導ぜんだうの釈しやくの文もんなり。

◇九 問と。ふ ¬阿わ弥陀みだ経きやう¼ の中なかに、 「▲一心ゐちしむ不ふ乱らん」 と候さふらふぞかしな。 これ阿わ弥陀みだ仏ぶちを申まふさむ時とき、 余事よじをすこしもおもひまぜ候さふらふまじきにや。 一ゐち声しやう念仏ねむぶち申まふさむほど、 ものをおもひまぜざらむ事ことはやすく候さふらへば、 一念ゐちねむ往わう生じやうにはもるゝ人ひと候さふらはじとおぼえ候さふらふ。 またいのちのおはるを期ごとして、 余よ念ねむなからむ事ことは、 凡ぼむ夫ぶの往わう生じやうすべき事ことにても候さふらはず。 この義ぎいかゞこゝろえ候さふらふべき。

-◇答こた。ふ 善導ぜんだうこの事ことを釈しやくしてのたまはく、 ひとたび三心さんしむを具ぐ足そくしてのち、 みだれやぶれざる事こと金剛こむがうのごときにて、 いのちのおはるを期ごとするを、 なづけて一心ゐちしむといふと候さふらふ。

-◇阿わ弥陀みだ仏ぶちの本ほん願ぐわんの文もんに、

「たとひわれ仏ほとけを得えむに、 十方じふぱうの衆しゆ生じやう、 ↓心しんを至いたし↓信楽しんげうして、 わが国くにに生むまれむと欲おもふて、 乃ない至し十念じふねむせむ。 もし生むまれずは、 正しやう覚がくを取とらじ」 (大経巻上)

-「▲設我得↠仏、 十方衆生、 至↠心信楽、 欲↠生↢我国↡、 ↓乃至十念。 若不↠生者、 不↠取↢正覚↡」

-といふ。 この文もんに 「↑至し心しん」 といふは、 ¬観経くわんぎやう¼ にあかすところの三心さんしむの中なかの▲至し誠じやう心しむにあたれり。 「↑信楽しんげう」 といふは、 ▲深心じむしむにあたれり。 これをふさねて、 いのちのおはるを期ごとして、 みだれぬものを一心ゐちしむとは申まふすなり。

-◇このこゝろを具ぐせらむもの、 もしは一日ゐちにちもしは二に日にち、 乃ない至し一ゐち声しやう・十じふ声しやうに、 かならず往わう生じやうする事ことをうといふ。 いかでか凡ぼむ1058夫ぶのこゝろに、 散乱さんらんなき事こと候さふらふべき。 さればこそ易い行ぎやう道だうとは申まふすことにて候さふらへ。

-◇¬双そう巻経くわんぎやう¼ (大経巻下) の文もんには、

「横わうに五ご悪趣あくしゅを截きる、 悪趣あくしゅ自じ然ねんに閉とづ、 道だうに昇のぼるに窮ぐ極ごくなし。 往ゆきやすくして人ひとなし」

-「▲横截↢五悪趣↡悪趣自然閉昇↠道無↢窮極↡↓易↠往而↓無↠人」

-ととけり。 まことにゆきやすき事こと、 これにすぎたるや候さふらふべき。

-◇劫こふをつみてむまるといはゞ、 いのちもみじかく、 みもたえざらむ人ひと、 いかゞとおもふべきに、 本ほん願ぐわんに 「↑乃ない至し十念じふねむ」 (大経巻上) といふ、 願ぐわん成じやう就じゆの文もんに 「▲乃ない至し一念ゐちねむもかの仏ほとけを念ねんじて、 こゝろをいたして廻ゑ向かうすれば、 すなわちかのくににむまるゝ事ことをう」 (大経巻下意) といふ。

-◇造悪ざうあくのものむまれずといはゞ、 ¬観経くわんぎやう¼ の文もんに、 ▲五ご逆ぐゐやくの罪人ざいにんむまるととく。

-◇もしよもくだり、 人ひとのこゝろもおろかなる時ときは、 信心しんじむうすくしてむまれがたしといはゞ、 ¬双そう巻経くわんぎやう¼ (大経巻下) の文もんに、

「当来たうらいの世よに経きやう道だう滅尽めちじんせむに、 われ慈悲じひ哀愍あいみんをもて、 ことにこの経きやうを留とゞめて止し住ぢゆすること百ひやく歳さいせむ。 それ衆しゆ生じやうあてこの経きやうに値まうあはむ者もの、 意こゝろの所しよ願ぐわんに随したがてみな得とく度どすべし。」 云云

-「▲当来たうらい之世しせ経きやう道だう滅尽めちじん、 我が以い↢慈悲じひ哀愍あいみん↡、 特どく留る↢此し経きやう↡止し住ぢゆ百ひやく歳さい。 其有ごう↢衆しゆ生じやう↡値ち↢此し経きやう↡者しや、 随ずい↢意い所しよ願ぐわん↡皆かい可か↢得とく度ど↡。」 云云

-◇その時ときの衆しゆ生じやうは三宝さんぽうの名なをきく事ことなし、 もろもろの聖しやう教げうは竜りう宮ぐにかくれて一ゐち巻くわんもとゞまることなし。 たゞ悪邪あくじや无む信しんのさかりなる衆しゆ生じやうのみあり、 みな悪道あくだうにおちぬべし。 弥陀みだの本ほん願ぐわんをもちて、 釈しや迦かの大だい悲ひふかきゆへに、 この教けうをとゞめたまひつる事こと百ひやく年ねんなり。 いはむや、 このごろはこれ末法まちぽふのはじめなり。 万年まんねんのゝちの衆しゆ生じやうにおとらむや。

-◇かるがゆへに 「↑易い往わう」 といふ。 しかりといゑども、 この教けうにあふものはかたく、 また1059おのづからきくといゑども、 信しんずる事ことかたきがゆへに、 しかれば、 「↑無む人にん」 といふ、 まことにことわりなるべし。

-◇¬阿わ弥陀みだ経きやう¼ (意) に、 「▲もしは一日ゐちにちもしは二に日にち、 乃ない至し七日しちにち、 名みやう号がうを執しふ持ぢして一心ゐちしむ不ふ乱らんなれば、 ◆その人ひと命みやう終じゆの時ときに、 阿わ弥陀みだ仏ぶちもろもろの聖しやう衆じゆと現げんにその人ひとのまへにまします。 おはる時とき、 心しむ不ぷ顛倒てんだうして、 タフレタフルヽコトナシト阿わナリ弥陀みだ仏ぶちの極楽ごくらく国こく土どに往わう生じやうする事ことをう」 といふ。

-◇この事ことをときたまふ時ときに、 釈しや迦か一仏ゐちぶちの所説しよせちを信しんぜざらむ事ことをおそれて、 「▲六方ろくぱうの如来によらい、 同心どうしん同どう時じにおのおの広長くわうぢやうの舌相ぜちさうをいだして、 あまねく三千さんぜん大千だいせん世せ界かいにおほいて、 もしこの事ことそらごとならば、 わがいだすところの広長くわうぢやうの舌したやぶれたゞれて、 くちにかへりいる事ことあらじ」 (観念法門) とちかひたまひき。

-◇経きやうの文もん、 釈しやくの文もんあらはに候さふらふ、 たゞよく御おむこゝろえ候さふらへ。 また大だい事じを成じやうじたまひしときは、 みな証明しようみやうありき。 法華ほふくゑをときたまひしときは、 多た宝ほう一仏ゐちぶち証明しようみやうし、 般若はんにやをときたまひし時ときは、 四し方はう四し仏ぶち証明しようみやうしたまふ。 しかりといゑども、 一日ゐちにち七日しちにちの念仏ねむぶちのごときに証誠しようじやうのさかりなる事ことはなし。 仏ほとけもこの事ことをことに大だい事じにおぼしめしたるにこそ候さふらふめれ。

◇十 問と。ふ 信心しんじむのやうはうけたまはりぬ。 行ぎやうの次し第だいいかゞ候さふらふべき。

-◇答こた。ふ 四し修しゆをこそは本ほんとする事ことにて候さふらへ。 一ひとつには長ぢやう時じ修しゆ、 二ふたつには慇重いんぢう修しゆ、 また恭く敬ぎやう修しゆとなづく、 三みつ1060には无む間けん修しゆ、 四よつには无余むよ修しゆなり。

-◇一ひとつに長ぢやう時じ修しゆといふは、 慈じ恩おんの ¬西方さいはう要えう決くゑち¼ (意) にいはく、 「▲初しよ発心ほちしむよりこのかた、 つねに退転たいてんなきなり」。 善導ぜんだうは、 「▲いのちのおはるを期ごとして、 誓ちかふて中ちうにとゞまステズウシナハヌナリ らざれ」 (礼讃) といふ。

-◇二ふたつに恭く敬ぎやう修しゆといふは、 ▲極楽ごくらくの仏ぶち法ぽふ僧そう宝ぼうにおいて、 つねに憶念おくねむして尊重そんぢうをなすなり。 ¬往わう生じやう要集えうしふ¼ にあり。

-◇また ¬要えう決くゑち¼ (意) にいはく、 「▲恭く敬ぎやう修しゆ、 これにつきて五いつゝあり。 一ひとつには有う縁えんの聖しやう人にんをうやまふ、 二ふたつには有う縁えんの像ざうと教けうとをうやまふ、 三みつには有う縁えんの善ぜん知ぢ識しきをうやまふ、 四よつには同縁どうえんの伴ともをうやまふ、 五いつゝには三宝さんぽうをうやまふ。

-◇▲一ひとつに有う縁えんの聖しやう人にんをうやまふといふは、 行ぎやう住ぢゆ座ざ臥ぐわ西方さいはうをそむかず、 涕ていツワキ唾だハキ便べん利りダイベン西方さいはうにむかはざれといふ。

-◇◆二ふたつに有う縁えんの像ざうと教けうとをうやまふといふは、 弥陀みだの像ざうをあまねくつくりもかきもせよ。 ひろくする事ことあたはずは、 一仏ゐちぶち二に菩ぼ薩さちをつくれ。 また教けうをうやまふといふは、 ¬弥陀みだ経きやう¼ 等とうを五ご色しきの袋ふくろにいれて、 みづからもよみ他たをおしへてもよませよ。 像ざうと経きやうとを室しちのうちイヱノウチナリ に安あん置ちして、 六ろく時じに礼讃らいさんし、 香華かうぐゑ供く養やうすべし。

-◇◆三みつに有う縁えんの善ぜん知ぢ識しきをうやまふといふは、 浄じやう土どの教けうをのべむものおば、 もしは千せん由ゆ旬じゆんよりこのかた、 ならびに敬きやう重ぢうし親近しんごんし供く養やうすべし。 別学べちがくのものおも総そうじてうやまふこゝろをおこすべし。 もし軽きやう慢まんをなさば、 つみをうる事こときわまりなし。 すゝめても衆しゆ生じやうのために1061善ぜん知ぢ識しきとなりて、 かならず西方さいはうに帰くゐする事ことをもちゐよ。 この火宅くわたくに住ぢゆせば、 退たいシリゾキ没 もち シヅムありていでがたきがゆへなり。 火界くわかいの修道しゆだうはなはだかたきがゆへに、 すゝめて西方さいはうに帰くゐせしむ。 ひとたび往わう生じやうをえつれば、 三学さんがく自じ然ねんに勝しよう進しんしぬ。 万まん行ぎやうならびにそなわるがゆへに、 弥陀みだの浄じやう国こくは造悪ざうあくの地ちなし。

-◇◆四よつに同縁どうえんの伴ともをうやまふといふは、 おなじく業ごふを修しゆするものなり。 みづからはさとりおもくして独ひとり業ごふは成じやうぜりといゑども、 かならずよきともによりて、 まさに行ぎやうをなす。 あやうきをたすけ、 あやうきをすくふ事こと、 同伴どうはんの善縁ぜんえんなり、 ふかくあひたのみておもくすべし。

-◇五いつゝに▲木きのかたぶきたるが、 たうるゝには、 まがれるによるがごとし。 ことのさわりありて、 西にしにむかふにおよばずは、 たゞ西にむかふおもひをなすにはしかず」。

-◇三みつに无む間けん修しゆといふは、 ¬要えう決くゑち¼ (意) に云いは、く 「▲つねに念仏ねむぶちして往わう生じやうのこゝろをなせ。 一切ゐちさいの時ときにおいて、 こゝろにつねにおもひたくむべし。 ◆たとへばもし人ひと他たに抄せうトラレ掠りやうカスメせラレらテ れて、 身み下げ賎せんとなりて艱辛かむしむをカラキメヲミルうく。 たちまちに父母ぶもをおもひて、 本国ほんごくにはしりかへらむとおもふて、 ゆくべきはかりこと、 いまだわきまへずして他た郷きやうにあり、 日にち夜やに思し惟ゆいす。 苦くるしみたえしのぶべからず、 時ときとしても本国ほんごくをおもはずといふことなし。 計はかりごとをなすことえて、 すでにかへりて達たちすることをえて、 父母ぶもに親しんシタシミ 近ごんチカヅクしナリて、 ほ1062しきまゝに歓くわん娯ご ヨロコブ するがごとし。

-◇◆行ぎやう者じやまたしかなり。 往因わういんの煩悩ぼむなうに善心ぜんしむを壊ゑ乱らんせられヤブラレミダラルヽナリて、 福ふく智ちの珍財ちんざいならメヅラシキタカラびに散さんチラシ 失しちウシナフして、 ひさしく生しやう死じにしづみて、 六道ろくだうに駈馳くちしてカリツカワレハシル、 苦くるしみ身心しんしむをせむ。 ◆いま善縁ぜんえんにあひて、 弥陀みだの慈父じふをきゝて、 まさに仏恩ぶちおんを念ねんじて、 報尽ほうじんを期ごムクヒツキテト として、 こゝろにつねにおもふべし。 こゝろにあひつぎて余よ業ごふをまじへざれ」。

-◇四よつに无余むよ修しゆといふは、 ¬要えう決くゑち¼ にいはく、 「▲もはら極楽ごくらくをもとめて礼念らいねむするなり。 諸しよ余よの行きやう業ごふを雑ざふマジヘ起きオコせサズざれ。 所しよ作さの業ごふは日別にちべちに念仏ねむぶちすべし」。 善導ぜんだうののたまはく、 「▲専もはらかの仏ほとけの名みやう号がうを念ねんじ、 専もはら礼らいし、 もはらかの仏ほとけおよびかの土どの一切ゐちさいの聖しやう衆じゆ等とうをほめて、 余よ業ごふをまじえざれ。 専修せんじゆのものは百ひやくはすなわち百ひやくながらむまれ、 雑修ざふしゆのものは百ひやくが中なかにわづかに一ゐち二になり。 雑縁ざふえんにねがひつきぬれば、 みづからもさえ、 他たの往わう生じやうの正行しやうぎやうおもさうるなり。 なにをもてのゆへに。 われみづから諸方しよはうをみきくに、 道俗だうぞく解げ行ぎやう不ふ同どうにして、 専雑せんざふことなり。 たゞこゝろをもはらになさば、 十じふはすなわち十じふながらむまる。 雑修ざふしゆのものは、 一ゐちもえず」 (礼讃意) といふ。

-◇また善導ぜんだう釈しやくしてのたまはく、 「西方さいはう浄じやう土どの業ごふを修しゆせむとおもはむものは、 四し修しゆおつる事ことなく、 三業さんごふまじわる事ことなくして、 一切ゐちさいの諸しよ願ぐわんを廃はいしステツ て、 たゞ西方さいはうの一ゐち行ぎやうと一ゐち願ぐわんとを修しゆせよ」 (群疑論巻四意) とこそ候さふらへ。

◇十一1063 問と。ふ 一切ゐちさいの善根ぜんごんは魔ま王わうのためにさまたげらる。 これはいかゞして対たい治ぢしムカヘタスクル候さふらふべき。

-◇答こた。ふ 魔ま界かいといふものは、 衆しゆ生じやうをたぶろかすものなり。 一切ゐちさいの行きやう業ごふは、 自じ力りきをたのむがゆへ也なり。 念仏ねむぶちの行ぎやう者じやは、 みおば罪悪ざいあく生しやう死じの凡ぼむ夫ぶとおもへば、 自じ力りきをたのむ事ことなくして、 たゞ弥陀みだの願ぐわん力りきにのりて往わう生じやうせむとねがふに、 魔ま縁えんたよりをうる事ことなし。

-◇観くわん慧ゑをこらす人ひとにも、 なほ空く界かいの魔事まじありといふ。 弥陀みだの一ゐち事じには、 もとより魔事まじなし、 観くわん人にん清浄しやうじやうなるがゆへにといへり。 仏ほとけをたぶろかす魔ま縁えんなければ、 念仏ねむぶちのものおばさまたぐべからず、 他た力りきをたのむによるがゆへに、 百ひやく丈ぢやうの石いしをふねにおきつれば、 万まん里りの大海だいかいをすぐといふがごとし。

-◇または念仏ねむぶちの行ぎやう者じやのまへには、 弥陀みだ・観くわん音おむつねにきたりたまふ。 廿にじふ五ごの菩ぼ薩さち、 百ひやく重ぢう千重せんぢう護ご念ねむしたまふに、 たよりをうべからず。

◇十二 問と。ふ 阿わ弥陀みだ仏ぶちを念ねむずるに、 いかばかりの罪つみおか滅めちし候さふらふ。

-◇答こた。ふ 「▲一念ゐちねむによく八十はちじふ億劫おくこふの生しやう死じの罪つみを滅めちす」 (観経意) といひ、 また 「▲但聞たんもん仏ぶち名みやう二に菩ぼ薩さち名みやう、 除じよ无む量りやう億劫おくこふ生しやう死じ之し罪ざい」 (観経) など申まふし候さふらふぞかし。

◇十三 問と。ふ 念仏ねむぶちと申まふし候さふらふは、 仏ほとけの色相しきさう・光明くわうみやうを念ねむずるは、 ◇観仏かむぶち三昧ざんまいなり。 報身ほうじんを念ねんじ同体どうたいの仏ぶち性しやうを観くわんずるは、 智ちあさくこゝろすくなきわれらが境きやう界がいにあらず。

-◇答こた。ふ 善ぜん1064導だうののたまはく、 「▲相を観くわんぜずして、 たゞ名みやう字じを称しようせよ。 衆しゆ生じやう障さわり重おもくして、 観くわん成じやうずる事ことかたし。 このゆへに大だい聖しやうあシヤカ仏ナリ はれみて、 称名しようみやうをもはらにすゝめたまへり。 こゝろはかすかにして、 たましひ十方じふぱうにとびちるがゆへなり」 (礼讃意) といふ。

-◇本ほん願ぐわんの文もんを、 善導ぜんだう釈しやくしてのたまはく、

「もしわれ成じやう仏ぶちせむに、 十方じふぱうの衆しゆ生じやうわが国くにに生むまれむと願がんじて、 わが名みやう号がうを称しようすること、 下しも十じふ声しやうに至いたるまで、 わが願ぐわん力りきに乗じようじて、 もし生むまれずは、 正しやう覚がくを取とらじと。 かの仏ぶち今いま現げんに在ましまして成じやう仏ぶちしたまへり。 まさに知しるべし、 本誓ほんぜい重ぢう願ぐわん虚むなしからず、 衆しゆ生じやう称しよう念ねむせばかならず往わう生じやうを得えむ」 (礼讃)

-「▲若にやく我が成じやう仏ぶち、 十方じふぱう衆しゆ生じやう願がん↠生しやう↢我が国こく↡、 称しよう↢我が名みやう号がう↡、 下至げし↢十じふ声しやう↡、 乗じよう↢我が願ぐわん力りき↡、 若にやく不ふ↠生しやう者じや、 不ふ↠取しゆ↢正しやう覚がく↡。 彼ひ仏ぶち今こむ現在げんざい成じやう仏ぶち。 当たう↠知ち、 本誓ほんぜい重ぢう願ぐわん不ふ↠虚こ、 衆しゆ生じやう称しよう念ねむ必得ひちとく↢往わう生じやう↡」

-とおほせられて候さふらふ。

-◇とくとく安楽あんらくの浄じやう土どに往わう生じやうせさせおはしまして、 弥陀みだ・観くわん音おむを師しとして、 法華ほふくゑの真如しんによ実相じちさう平びやう等どうの妙めう理り、 般若はんにやの第一だいゐち義空ぎく、 真言しんごんの即身そくしん成じやう仏ぶち、 一切ゐちさいの聖しやう教げう、 こゝろのまゝにさとらせおはしますべし。 ▽

 

退没 左 シリゾキオツルナリ イルトモイフ
退没 左 ツノクニカチヲデラノシヤウニンニテオハシマスナリ
発遣 左 シヤカノスヽメツカハストナリ