十住毘婆娑論 巻第五
聖者*龍樹造*後秦*亀茲国*三蔵*鳩摩羅什訳
後秦 中国、 五胡十六国の一 (384-417)。 都は長安。 鳩摩羅什は後秦の第二代国王姚興によって長安に迎えられた。
亀茲国 現新疆ウイグル自治区の天山山脈南麓のクチャ周辺にあった西域古国の一。 鳩摩羅什の出身地。
三蔵 経・律・論の三蔵に精通した僧侶の尊称。 訳経僧に対して用いられることが多い。
易行品 第九
○総説 (難易二道)
【1】 問ひていはく、 この*阿惟越致の菩薩の*初事は*先に説くがごとし。 阿惟越致地に至るには、 もろもろの難行を行じ、 久しくしてすなはち得べし。 あるいは*声聞・*辟支仏地に堕す。 もししからばこれ大衰患なり。 ¬*助道法¼ のなかに説くがごとし。
初事 初地不退に入る方法。
先 「易行品」 の前の 「阿惟越致相品」 第八を指す。
助道法 龍樹菩薩の ¬菩提資糧論¼ のこと。 菩提を得るための資糧として、 六波羅蜜等の行を説く。 達磨笈多訳の漢訳本が現存する。
◎問曰。是阿惟越致菩薩初事如↢先説↡。至↢阿惟越致地↡者、行↢諸難行↡久乃可↠得。或堕↢声聞辟支仏地↡。若爾者是大衰患。如↢¬助道法¼中説↡。
◎ 原漢文の底本は本派本願寺蔵版。 高麗版大蔵教所収本、 宋版大蔵経所収本、 元版大蔵経所収本、 明版大蔵経所収本、 大派依用十行本と対校されている。
「もし声聞地、 および辟支仏地に堕するは、
若堕↢声聞地 及辟支仏地↡
これを菩薩の死と名づく。 すなはち一切の利を失す。
是名↢菩薩死↡ 則失↢一切利↡
もし地獄に堕するも、 かくのごとき畏れを生ぜず。
若堕↢於地獄↡ 不↠生↢如↠是畏↡
もし*二乗地に堕すれば、 すなはち大怖畏となす。
若堕↢二乗地↡ 則為↢大怖畏↡
地獄のなかに堕するも、 畢竟じて仏に至ることを得。
堕↢於地獄中↡ 畢竟得↠至↠仏
もし二乗地に堕すれば、 *畢竟じて仏道を*遮す。
遮す さまたげる。
若堕↢二乗地↡ 畢竟遮↢仏道↡
仏みづから ¬経¼ (清浄毘尼方広経) のなかにおいて、 かくのごとき事を解説したまふ。
仏自於↢経中↡ 解↢説如↠是事↡
人の寿を貪るもの、 首を斬らんとすればすなはち大きに畏るるがごとく、
*如↢人貪↠寿者↡ 斬↠首則大畏
如△…畏 返り点は聖教全書まま。 「△のごとし。 …畏る。」
菩薩もまたかくのごとし。 もし声聞地、
菩薩亦如↠是 若於↢声聞地
および辟支仏地においては、 大怖畏を生ずべし」 と。
及辟支仏地↡ 応↠生↢大怖畏↡
・ 易行道
このゆゑに、 もし諸仏の所説に、 *易行道にして疾く阿惟越致地に至ることを得る*方便あらば、 願はくはためにこれを説きたまへと。
是故若諸仏所説有↧易行道疾得↠至↢阿惟越致地↡方便↥者、願為説↠之。
【2】 答へていはく、 なんぢが所説のごときは、 これ*儜弱怯劣にして*大心あることなし。 これ*丈夫志幹の言にあらず。 なにをもつてのゆゑに。 もし人願を発して*阿耨多羅三藐三菩提を求めんと欲して、 いまだ阿惟越致を得ずは、 その中間において身命を惜しまず、 昼夜精進して*頭燃を救ふがごとくすべし。 ¬*助道¼ のなかに説くがごとし。
儜弱怯劣 根機 (素質能力) の劣った弱々しい者。
丈夫志幹 雄々しく堅固な志を持つ者。
助道 ¬助道法¼ のこと。 龍樹菩薩の ¬菩提資糧論¼ をいう。
答曰。如↢汝所説↡是儜弱怯劣無↠有↢大心↡、非↢是丈夫志幹之言↡也。何以故、若人発↠願欲↠求↢阿耨多羅三藐三菩提↡未↠得↢阿惟越致↡、於↢其中間↡応↧不↠惜↢身命↡昼夜精進如↞救↢頭燃↡。如↢¬助道¼中説↡。
「菩薩いまだ阿惟越致地に至ることを得ずは、
菩薩未↠得↠*至↢ 阿惟越致地↡
至 大派依用本では 「生」。
つねに*勤精進して、 なほ頭燃を救ひ、
勤精進 修行につとめはげむこと。
応↫常勤精進 猶如↪救↢頭燃↡
*重担を荷負するがごとくすべし。 *菩提を求むるためのゆゑに、
重担を荷負する 重い荷物をせおう。
荷↩負於重担↨ 為↠求↢菩提↡故
つねに勤精進して、 *懈怠の心を生ぜざるべし。
懈怠の心 仏道修行をなまけおこたる心。
常応↢勤精進 不↟生↢懈怠心↡
声聞乗・辟支仏乗を求むるもののごときは、
若↧求↢声聞乗・ 辟支仏乗↡者↥
ただおのが利を成ぜんがためにするも、 つねに勤精進すべし。
但為↠成↢己利↡ 常応↢勤精進↡
いかにいはんや菩薩のみづから度し、 またかれを度せんとするにおいてをや。
何況於↢*菩提↡ 自度亦度↠彼
菩提 聖教全書まま。 註なし。 「菩提(において…)」
この二乗の人よりも、 億倍して精進すべし」 と。
於↢此二乗人↡ 億倍応↢精進↡
*大乗を行ずるものには、 仏かくのごとく説きたまへり。 「*願を発して仏道を求むるは*三千大千世界を挙ぐるよりも重し」 と。 なんぢ、 阿惟越致地はこの法はなはだ難し。 久しくしてすなはち得べし。 もし易行道にして疾く阿惟越致地に至ることを得るありやといふは、 これすなはち*怯弱下劣の言なり。 これ*大人志幹の説にあらず。 なんぢ、 もしかならずこの方便を聞かんと欲せば、 いままさにこれを説くべし。
怯弱下劣の言 根機 (素質能力) の劣った弱い者の言葉。
大人志幹の説 堅固な志を持つすぐれた人の言葉。
行↢大乗↡者仏如↠是説。発願求↢仏道↡重↣於挙↢三千大千世界↡。汝言↣阿惟越致地是法甚難、久乃可↠得、若有↢易行道疾得↟至↢阿惟越致地↡者、是乃怯弱下劣之言、非↢是大人志幹之説↡。汝若必欲↠聞↢此方便↡、今当↠説↠之。
・ 難易二道
【3】 ▼仏法に無量の門あり。 ▼*世間の道に難あり易あり。 *陸道の歩行はすなはち苦しく、 *水道の乗船はすなはち楽しきがごとし。 菩薩の道もまたかくのごとし。 あるいは勤行精進のものあり、 あるいは*信方便易行をもつて疾く阿惟越致に至るものあり。
信方便易行 信心を方便 (方途・道筋) とする易行。 称名を指していう。
仏法有↢無量門↡、如↢世間道有↠難有↠易、陸道歩行則苦、水道乗船則楽↡。菩薩道亦如↠是。或有↢勤行精進↡、或有↧以↢信方便易行↡疾至↢阿惟越致*地↡者↥。
地 聖教全書まま。 註なし。
○十方十仏章
【4】 偈に説くがごとし。
如↢偈説↡。
東方善徳仏、 南栴檀徳仏、
東方善徳仏 南栴檀徳仏
*西無量明仏、 北方相徳仏、
西無量明仏 西方の無量明仏。 阿弥陀仏と同じであるか否かについて古来両説がある。
西無量明仏 北方相徳仏
東南無憂徳、 西南宝施仏、
東南無憂徳 西南宝施仏
西北華徳仏、 東北*三行仏、
三行仏 異本には 「三乗行」 とある。
西北華徳仏 東北*三乗行
三乗行 本派本願寺蔵版。 高麗版・宋版・元版大蔵経所収本では 「三行仏」。
下方明徳仏、 上方広衆徳、
下方明徳仏 上方広衆徳
かくのごときもろもろの世尊、 いま現に十方にまします。
如↠是諸世尊 今現在↢十方↡
・ 総結
▼もし人疾く不退転地に至らんと欲せば、
若人疾欲↠至↢ 不退転地↡者
*恭敬心をもつて、 *執持して名号を称すべしと。
恭敬心 つつしんで尊敬する心。
応↧以↢恭敬心↡ 執持称↦名号↥
・ 長行
【5】 ▼もし菩薩この身において阿惟越致地に至ることを得て、 阿耨多羅三藐三菩提を成就せんと欲せば、 まさにこの十方諸仏を念じ、 その名号を称すべし。 ¬*宝月童子所問経¼ の 「阿惟越致品」 のなかに説きたまふがごとし。
宝月童子所問経 引用に該当する文は、 現存する ¬大乗宝月童子聞法経¼ (宋の施護訳) にはないが、 チベット訳にほぼ相応する文がある。
若菩薩欲↧於↢此身↡得↠至↢阿惟越致地↡*成↦阿耨多羅三藐三菩提↥者、*応↣当念↢是十方諸仏↡。称↢其名号↡、如↢¬宝月童子所問経¼阿惟越致品中説↡。
成 高麗版では 「成就」。
応当念a称b… 返り点は聖教全書まま。 「まさにaを念ずべし。 bを称すること…」
「仏、 宝月に告げたまはく、 ª東方ここを去ること無量無辺不可思議*恒河沙等の仏土を過ぎて世界あり。 無憂と名づく。 その地平坦にして*七宝をもつて合成し、 *紫磨金縷をもつてその界に交絡せり。 宝樹羅列して、 もつて荘厳となす。 *地獄・*畜生・*餓鬼・*阿修羅道およびもろもろの*難処あることなし。 清浄にして穢れなく、 *沙礫・瓦石・山陵・*堆阜・*深坑・*幽壑あることなし。 天よりつねに華を雨らして、 もつてその地に布けり。 時に世に仏まします。 号して善徳*如来・応供・正遍知・明行足・善逝・世間解・無上士・調御丈夫・天人師・仏・世尊といふ。 大菩薩衆恭敬し*囲繞す。 身相の光色大金山を燃やすがごとく、 *大珍宝聚のごとし。 もろもろの大衆のために広く正法を説きたまふ。 *初・中・後よく辞あり義あり。 所説雑はらず。 具足し、 清浄にして、 如実にして失せず。 なにをか失せずといふ。 *地・水・火・風を失せず、 *欲界・色界・無色界を失せず、 *色・受・想・行・識を失せざるなり。
紫磨金縷を… 紫磨金の縄で道の境を区切っている。 紫磨金は紫色を帯びた金のこと。
難処 仏道修行の困難なところ。 八難等を指していう。 →
八難
沙礫 砂や小石。
堆阜 丘。
深坑 深いあな。
幽壑 深い谷間。
大珍宝聚 数多くの珍しい財宝の集まり。
初中後… (善徳如来の説法は) 始・中・終の全体を通して、 言葉が適切で、 意義がととのっているという意。
「仏告↢宝月↡、東方去↠此過↢無量無辺不可思議恆河沙等仏土↡有↢世界↡、名↢無憂↡。其地平坦七宝合成、紫磨金縷交↢絡*道界↡。宝樹羅列以為↢荘厳↡。無↠有↢地獄・畜生・餓鬼・阿修羅道及諸難処↡。清浄無↠穢無↠有↢沙礫・瓦石・山陵・*阜・深坑・幽壑↡。天常雨↠華以布↢其地↡。時世有↠仏、号曰↢善徳如来・応供・正遍知・明行足・善逝・世間解・無上士・調御丈夫・天人師・仏・世尊↡。大菩薩衆恭敬囲遶。身相光色如↠然↢大金山↡、如↢大珍宝聚↡。為↢諸大衆↡*演↢説正法↡。初中後善有↠辭有↠義。所説不↠雑、具足清浄如↠実不↠失。何謂↢不失↡。不↠失↢地・水・火・風↡、不↠失↢欲界・色界・無色界↡、不↠失↢色・受・想・行・識↡。
道 高麗版では 「其」。
(外字使用) 高麗版では 「しんにょう」 のない異体字。 宋版・元版では 埠。
演 高麗版では 広。
宝月、 この仏成道よりこのかた六十億劫を過ぎたまへり。 またその仏国は昼夜異なることなし。 ただこの間の*閻浮提の日月歳数をもつてかの*劫寿を説く。 その仏の光明つねに世界を照らしたまふ。 一の説法において、 無量無辺千万億*阿僧祇の衆生をして*無生法忍に住せしめ、 この人数に倍して*初忍・第二・第三忍に住することを得しめたまふ。
劫寿 劫数。
初忍第二第三忍 ¬大経¼ に説く音響忍・柔順忍・無生法忍と見る説、 ¬仁王経¼ に説く伏忍・信忍・順忍・無生忍・寂滅忍の五忍の前三と見る説などがある。
宝月、是仏成*道已来過↢六十億劫↡。又其仏国昼夜無↠異、但以↢此間閻浮提日月歳数↡説↢彼劫寿↡。其仏光明常照↢世界↡。於↢一説法↡令↧無量無辺千萬億阿僧祇衆生住↢無生法忍↡、倍↢此人数↡、得↞住↢初忍・第二・第三忍↡。
道 他本では 仏。
宝月、 その仏の*本願力のゆゑに、 もし他方の衆生ありて、 先仏の所においてもろもろの*善根を種ゑんに、 この仏ただ*光明をもつて身に触れたまふに、 すなはち無生法忍を得。
宝月、其仏本願力故、若有↢他方衆生↡於↢先仏所↡種↢諸善根↡、是仏但以↢光明↡触↠身即得↢無生法忍↡。
宝月、 もし善男子・善女人ありてこの仏の名を聞きてよく信受するものは、 すなはち阿耨多羅三藐三菩提を退せずº」 と。
宝月、若善男子・善女人聞↢是仏名↡能信受者、即不↠退↢阿耨多羅三藐三菩提↡。」
*余の九仏の事みなまたかくのごとし。 いままさに諸仏の名号および国土の名号を解説すべし。
余の九仏 前出の十方仏のうち、 善徳仏以外の諸仏。
余九仏事皆亦如↠是。今当↣解↢説諸仏名号及国土名号↡。
1. 東方善徳仏
「善徳」 といふは、 その徳淳善にしてただ安楽のみあり。 諸天・竜神の福徳の、 衆生を惑悩するがごときにはあらず。
善徳者、其徳淳善但有↢安楽↡、非↠如↣諸天・竜神福徳、*或悩↢衆生↡。
或 高麗版では 「惑」。
2. 南方栴檀徳仏
「栴檀徳」 といふは、 南方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 歓喜と名づく。 仏を栴檀徳と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。 たとへば*栴檀の香ばしくして清涼なるがごとく、 かの仏の名称遠く聞ゆること、 香の流布するがごとし。 衆生の*三毒の火熱を滅除して清涼なることを得しむ。
栴檀徳者、南方去↠此無量無辺恆河沙等仏土有↢世界↡、名↢歓喜↡。仏号↢栴檀徳↡、今現在説↠法。譬如↢栴檀香而清涼↡、彼仏名称遠聞如↢香流布↡。滅↢除衆生三毒火熱↡令↠得↢清涼↡。
3. 西方無量明仏
「無量明仏」 といふは、 西方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 *善と名づく。 仏を無量明と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。 その仏の身光および智慧明照にして無量無辺なり。
善 異本には 「善解」 とある。
無量明仏者、西方去↠此無量無辺恆河沙等仏土有↢世界↡、名↢*善解↡。仏号↢無量明↡、今現在説↠法。其仏身光及智慧明照無量無辺。
善解 高麗版では 「善」。
4. 北方相徳仏
「相徳仏」 といふは、 北方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 不可動と名づく。 仏を相徳と名づく。 いま現にましまして法を説きたまふ。 その仏の福徳高顕なること、 なほ*幢相のごとし。
幢相 はたじるし。
相徳仏者、北方去↠此無量無辺恒河沙等仏土有↢世界↡、名↢不可動↡。仏名↢相徳↡、今現在説↠法。其仏福徳高顕猶如↢幢相↡。
5. 東南無憂徳仏
「無憂徳」 といふは、 東南方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 月明と名づく。 仏を無憂徳と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。 その仏の*神徳もろもろの天・人をして憂愁あることなからしむ。
神徳 偉神功徳。
無憂徳者、東南方去↠此無量無辺恒河沙等仏土有↢世界↡、名↢月明↡。仏号↢無憂徳↡、今現在説↠法。其仏神徳令↢諸天人無↟有↢憂愁↡。
6. 西南宝施仏
「宝施仏」 といふは、 西南方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 衆相と名づく。 仏を宝施と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。 その仏もろもろの*無漏の*根・力・覚・道等の宝をもつてつねに衆生に施す。
宝施仏者、西南方去↠此無量無辺恆河沙等仏土有↢世界↡、名↢衆相↡。仏名↢宝施↡、今現在説↠法。其仏以↢諸無漏根・力・覚道等宝↡常施↢衆生↡。
7. 西北華徳仏
「華徳仏」 といふは、 西北方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 衆音と名づく。 仏を華徳と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。 その仏の*色身、 なほ妙華のごとく、 その徳無量なり。
華徳仏者、西北方去↠此無量無辺恆河沙等仏土有↢世界↡、名↢衆音↡。仏号↢華徳↡、今現在説↠法。其仏色身猶如↢妙華↡、其徳無量。
8. 東北三乗行仏
「三乗行仏」 といふは、 東北方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 安穏と名づく。 仏を三乗行と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。 その仏つねに声聞の行、 辟支仏の行、 もろもろの菩薩の行を説きたまふ。 ある人いはく、 「上・中・下の精進を説くがゆゑに、 号して三乗行となす」 と。
*三乗行者、東北方去↠此無量無辺恆河沙等仏土有↢世界↡、名↢安隠↡。仏号↢三乗行↡、今現在説↠法。其仏常説↢声聞行、辟支仏行、諸菩薩行↡。有人言。説↢上中下↡精進、故号為↢三乗行↡。
三乗行 他本では 「三乗行佛」。
9. 下方明徳仏
「明徳仏」 といふは、 下方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 広大と名づく。 仏を明徳と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。 明とは身明・智慧明・宝樹光明に名づく。 この三種の明つねに世間を照らす。
明徳仏者、下方去↠此無量無辺恆河沙等仏土有↢世界↡、名↢広大↡。仏号↢明徳↡、今現在説↠法。明名↢身明・智慧明・宝樹光明↡。是三種明常照↢世間↡。
10. 上方広衆徳仏
「広衆徳」 といふは、 上方ここを去ること無量無辺恒河沙等の仏土にして世界あり、 衆月と名づく。 仏を広衆徳と号す。 いま現にましまして法を説きたまふ。 その仏の弟子福徳広大なるがゆゑに広衆徳と号す。
広衆徳者、上方去↠此無量無辺恆河沙等仏土有↢世界↡、名↢衆月↡。仏号↢広衆徳↡。今現在説↠法。其仏弟子福徳広大、故号↢広衆徳↡。
いまこの十方の仏、 善徳を初めとなし、 広衆徳を後となす。 もし人一心にその名号を称すれば、 すなはち阿耨多羅三藐三菩提を退せざることを得。
*今是十方仏、善徳為↠初広衆徳為↠後。若人一心称↢其名号↡即得↠不↠退↢於阿耨多羅三藐三菩提↡、
今 宋版・元版・明版では欠く。
・ 偈
【6】 偈に説くがごとし。
如↢*此偈説↡。
此 高麗版では欠く。
もし人ありてこの諸仏の名を説くを聞くことを得れば、
若有↠人得↠聞↠ 説↢是諸仏名↡
すなはち無量の徳を得。 宝月のために説きたまふがごとし。
即得↢無量徳↡ 如↧為↢宝月↡説↥
われこの諸仏を礼したてまつる。 いま現に十方にまします。
我礼↢是諸仏↡ 今現在↢十方↡
それ名を称することあれば、 すなはち*不退転を得。
其有↠称↠名者 即得↢不退転↡
1. 東方善徳仏
東方に無憂界あり、 その仏を善徳と号す。
東方無憂界 其仏号↢善徳↡
*色相金山のごとし。 名の聞ゆること*辺際なし。
色相金山のごとし 仏のすがたを須弥山に喩えていう。
辺際 ほとり。
色相如↢金山↡ 名聞無↢辺際↡
もし人名を聞けば、 すなはち不退転を得。
若人聞↠名者 即得↢不退転↡
われいま合掌し礼したてまつる。 願はくはことごとく憂悩を除きたまへ。
我今合掌礼 願悉除↢憂悩↡
2. 南方栴檀徳仏
南方に歓喜界あり、 仏を栴檀徳と号す。
南方歓喜界 仏号↢栴檀徳↡
面の浄きこと満月のごとし。 光明量りあることなし。
面浄如↢満月↡ 光明無↠有↠量
よくもろもろの衆生の*三毒の熱悩を滅したまふ。
能滅↢諸衆生 三毒之熱悩↡
名を聞くもの不退を得。 このゆゑに▼*稽首し礼したてまつる。
聞↠名得↢不退↡ 是故稽首礼
3. 西方無量明仏
▼西方に善世界あり、 仏を無量明と号す。
西方善世界 仏号↢無量明↡
身光・智慧あきらかにして、 照らすところ辺際なし。
身光智慧明 所↠照無↢辺際↡
その名を聞くことあれば、 すなはち不退転を得。
其有↠聞↠名者 即得↢不退転↡
われいま稽首し礼したてまつる。 願はくは生死の際を尽したまへ。
我今稽首礼 願尽↢生死際↡
4. 北方相徳仏
北方に*無動界あり、 仏を号して相徳となす。
無動界 長行 (散文) では 「不可動」 と漢訳されている。
北方無動界 仏号為↢相徳↡
身にもろもろの*相好を具し、 もつてみづから荘厳し、
身具↢衆相好↡ 而以自荘厳
*魔怨の衆を*摧破し、 よくもろもろの人天を化したまふ。
魔怨の衆 悪魔の集まり。 悪魔は人々にあだをなす怨敵であるところから魔怨という。
摧破 うちやぶること。
摧↢破魔怨衆↡ 善化↢諸*天・人↡
天人 高麗版、 大派依用本では 「人天」。
名を聞けば不退を得。 このゆゑに稽首し礼したてまつる。
聞↠名得↢不退↡ 是故稽首礼
5. 東南無憂仏
東南の月明界に、 仏ましまして無憂と号す。
東南月明界 有↠仏号↢無憂↡
光明日月に喩へ、 遇ふもの煩悩を滅す。
光明喩↢日月↡ 遇者滅↢*憂悩↡
憂悩 高麗版では 「煩悩」。
つねに衆のために法を説き、 もろもろの*内外の苦を除きたまふ。
内外の苦 心と身体の苦しみ。
常為↠衆説↠法 除↢諸内外苦↡
十方の仏称讃したまふ。 このゆゑに*稽首し礼したてまつる。
十方仏称讃 是故稽首礼
6. 西南宝施仏
西南に衆相界あり、 仏を号して宝施となす。
西南衆相界 仏号為↢宝施↡
つねにもろもろの*法宝をもつて、 広く一切に施したまふ。
常以↢諸法宝↡ 広施↢於一切↡
諸天頭面をもつて礼して、 *宝冠足下にあり。
宝冠足下にあり 諸天は仏の前にぬかずくので、 頭の宝冠が仏の足もとにあるという意。
諸天頭面礼 宝冠在↢足下↡
われいま五体をもつて、 宝施尊を帰命したてまつる。
我今以↢五体↡ 帰↢命宝施尊↡
7. 西北華徳仏
西北に衆音界あり、 仏を号して華徳となす。
西北衆音界 仏号為↢華徳↡
世界にもろもろの宝樹ありて、 *妙法音を演出す。
妙法音を演出す 妙なる教えの音楽を説きのべる。
世界衆宝樹 演↢*説玅法音↡
説 他本では 「出」。
つねに*七覚の華をもつて、 衆生を荘厳す。
常以↢七覚華↡ 荘↢厳於衆生↡
*白毫相月のごとし。 われいま頭面をもつて礼したてまつる。
白毫相如↠月 我今頭面礼
8. 東北三乗行仏
東北の安穏界、 諸宝をもつて合成するところなり。
東北安隠界 諸宝所↢合成↡
仏を三乗行と号す。 無量の相をもつて身を厳りたまふ。
仏号↢三乗行↡ 無量相厳↠身
智慧の光無量にして、 よく無明の闇を破したまへば、
智慧光無量 能破↢無明闇↡
衆生に憂悩なし。 このゆゑに稽首し礼したてまつる。
衆生無↢憂悩↡ 是故稽首礼
9. 上方広衆徳仏
上方の衆月界、 衆宝をもつて荘厳するところなり。
上方衆月界 衆宝所↢荘厳↡
大徳の声聞衆、 菩薩量りあることなし。
大徳声聞衆 菩薩無↠有↠量
諸聖のなかの獅子なり。 号して広衆徳とのたまふ。
諸聖中師子 号曰↢広衆徳↡
諸魔の怖畏するところなり。 このゆゑに稽首し礼したてまつる。
諸魔所↢怖畏↡ 是故稽首礼
10. 下方明徳仏
下方に*広世界あり、 仏を号して明徳となす。
広世界 長行 (散文) では 「広大」 と漢訳されている。
下方広世界 仏号為↢明徳↡
身相妙にして、 *閻浮檀金山に超絶す。
閻浮檀金山 閻浮檀は梵語ジャンブー・ナダ (janbū-nada) の音写。 閻浮樹の間を流れる河の意。 その河の底からとれる美しい砂金を集めて山としたものを閻浮檀金山という。
身相玅超↢絶 閻浮檀金山↡
つねに智慧の日をもつて、 もろもろの善根の華を開きたまふ。
常以↢智慧日↡ 開↢諸善根華↡
宝土はなはだ広大なり。 われはるかに稽首し礼したてまつる。
宝土甚広大 我遥稽首礼
11. 過去海徳仏
▼過去無数劫に、 仏ましまして*海徳と号す。
徳海 前出の十方十仏の師仏。 阿弥陀仏と同じと見る説もある。
過去無数劫 有↠仏号↢海徳↡
このもろもろの現在の仏、 みなかれに従ひて願を発せり。
是諸現在仏 皆従↠彼発↠願
寿命量りあることなし。 光明照らして極まりなし。
寿命無↠有↠量 光明照無↠極
国土はなはだ清浄なり。 名を聞けばさだめて仏に作る。
国土甚清浄 聞↠名定作↠仏
いま現に十方にましまして、 *十力を具足し成じたまふ。
今現在↢十方↡ 具↢足成↣十力↡
このゆゑに人天のなかの最尊を稽首し礼したてまつると。
是故稽↢首礼↣ 人天中最尊↡
○百七仏章
【7】 ▼問ひていはく、 ただこの十仏の名号を聞きて、 *執持して心に在けば、 すなはち阿耨多羅三藐三菩提を退せざることを得。 さらに余仏・余菩薩の名ましまして、 阿惟越致に至ることを得となすや。
問曰。但聞↢是十仏名号↡、執持在↠心、便得↠不↠退↢阿耨多羅三藐三菩提↡。為↧更有↢余仏・余菩薩名↡得↞至↢阿惟越致↡耶。
・ 恭敬称名
【8】 ▼答へていはく、 ▼*阿弥陀等の仏およびもろもろの大菩薩、 名を称し一心に念ずれば、 また不退転を得。 また*阿弥陀等の諸仏ましまして、 また*恭敬礼拝し、 その名号を称すべし。
阿弥陀等…無量寿仏 親鸞聖人は 「阿弥陀等の諸仏また恭敬礼拝し、 その名号を称すべし。 いままさにつぶさに無量寿仏を説くべし」 (行文類訓) と読まれた。
答曰。阿弥陀等仏及諸大菩薩、称↠名一心念亦得↢不退転↡*如↠是。阿弥陀等諸仏亦応↣恭敬礼拝称↢其名号↡。
如是 他本では 「更有」。
・ 百七仏
【9】 ▼いままさにつぶさに説くべし。 無量寿仏・世自在王仏・師子意仏・法意仏・梵相仏・世相仏・世妙仏・慈悲仏・世王仏・人王仏・月徳仏・宝徳仏・相徳仏・大相仏・珠蓋仏・師子鬘仏・破無明仏・智華仏・多摩羅跋栴檀香仏・持大功徳仏・雨七宝仏・超勇仏・離瞋恨仏・大荘厳仏・無相仏・宝蔵仏・徳頂仏・多伽羅香仏・栴檀香仏・蓮華香仏・荘厳道路仏・竜蓋仏・雨華仏・散華仏・華光明仏・日音声仏・蔽日月仏・琉璃蔵仏・梵音仏・浄明仏・金蔵仏・須弥頂仏・山王仏・音声自在仏・浄眼仏・月明仏・如須弥山仏・日月仏・得衆仏・*華生仏・梵音説仏・世主仏・師子行仏・妙法意師子吼仏・珠宝蓋珊瑚色仏・破痴愛闇仏・水月仏・衆華仏・開智慧仏・持雑宝仏・菩提仏・華超出仏・真琉璃明仏・蔽日明仏・持大功徳仏・得正慧仏・勇健仏・離諂曲仏・除悪根栽仏・大香仏・*道映仏・水光仏・海雲慧遊仏・徳頂華仏・華荘厳仏・日音声仏・月勝仏・琉璃仏・梵声仏・光明仏・金蔵仏・山頂仏・山王仏・音王仏・竜勝仏・無染仏・浄面仏・月面仏・如須弥仏・栴檀香-仏・威勢仏・燃灯仏・難勝仏・宝徳仏・喜音仏・光明仏・竜勝仏・離垢明仏・師子仏・王王仏・力勝仏・*華歯仏・無畏明仏・香頂仏・普賢仏・普華仏・宝相仏なり。
華生仏 諸本には 「華王仏」 とある。
道映仏 諸本には 「道歎仏」 とある。
華歯仏 諸本には 「華園仏」 とある。
今当↣具*説↢無量寿仏↡。世自在王仏・師子意仏・法意仏・梵相仏・世相仏・世妙仏・慈悲仏・世王仏・人王仏・月徳仏・宝徳仏・相徳仏・大相仏・*殊蓋仏・師子鬘仏・破無明仏・智華仏・多摩羅跋栴檀香仏・持大功徳仏・雨七宝仏・超勇仏・離瞋恨仏・大荘厳仏・無相仏・宝蔵仏・徳頂仏・多伽羅香仏・栴檀香仏・蓮華香仏・荘厳道路仏・竜蓋仏・雨華仏・散華仏・華光明仏・日音声仏・蔽日月仏・*瑠璃蔵仏・梵音仏・浄明仏・金蔵仏・須弥頂仏・山王仏・音声自在仏・浄眼仏・月明仏・如須弥山仏・日月仏・得衆仏・華*王仏・梵音説仏・世主仏・師子行仏・妙法意師子吼仏・珠宝蓋珊瑚色仏・破痴愛闇仏・水月仏・衆華仏・開智慧仏・持雑宝仏・菩提仏・華超出仏・真瑠璃明仏・蔽日明仏・持大功徳仏・得正慧仏・勇健仏・離謟曲仏・除悪根栽仏・大香仏・道*歎仏・水*香仏・海雲慧遊仏・徳頂華仏・華荘厳仏・日音声仏・月勝仏・瑠璃仏・梵声仏・光明仏・金蔵仏・山頂仏・山王仏・音王仏・竜勝仏・無染仏・浄面仏・月面仏・如須弥仏・栴檀香仏・威勢仏・*然灯仏・難勝仏・宝徳仏・喜音仏・光明仏・竜勝仏・離垢明仏・師子仏・王王仏・力勝仏・華*園仏・無畏明仏・香頂仏・普賢仏・普華仏・宝相仏、
説無量寿仏 返り点・句点は聖教全書まま。 「無量寿仏を説く(べし)」
殊 高麗版、大派依用本では 「珠」。
瑠 聖教全書まま。 註なし。
王 高麗版では 「生」。
歎 高麗版では 「映」。
香 諸本では 「光」。
然 諸本では 「燃」。
園 高麗版 「歯」。
▼*このもろもろの仏世尊現に十方の清浄世界にまします。 みな名を称し憶念すべし。
この…ごとし 親鸞聖人は 「この諸仏世尊現在十方の清浄世界に、 みな名を称し阿弥陀仏の本願を憶念することかくのごとし」 (行文類訓) と読みかえ、 諸仏を阿弥陀仏のもとに統摂されるものと位置づけた。
是諸仏世尊現在十方清浄世界、皆称↠名*憶↢念
憶念△如是 返り点・句点は聖教全書まま。 「△を憶念すること是の如し」
○弥陀章
・ 憶念弥陀本願
【10】▼阿弥陀仏の本願はかくのごとし、 「もし人われを念じ名を称してみづから帰すれば、 すなはち▼*必定に入りて阿耨多羅三藐三菩提を得」 と。 このゆゑにつねに憶念すべし。
阿弥陀仏本願↡如↠是。若人念↠我称↠名自帰、即入↢必定↡得↢阿耨多羅三藐三菩提↡。是故常応↢憶念↡。
【11】▼偈をもつて〔阿弥陀仏を〕称讃せん。
以↠偈称讃。
*無量光明慧あり、 身は*真金山のごとし。
無量光明慧 はかりない智慧の光明。
無量光明慧 身如↢真金山↡
われいま身口意をもつて、 合掌し*稽首し礼したてまつる。
我今身口意 合掌稽首礼
金色の妙光明、 あまねくもろもろの世界に流れて、
金色妙光明 普流↢諸世界↡
*物に随ひてその色を増す。 このゆゑに稽首し礼したてまつる。
随↠物*示↢其色↡ 是故稽首礼
示 高麗版では 「増」。
▼もし人命終の時に、 かの国に生ずることを得れば、
若人命終時 得↠生↢彼国↡者
すなはち無量の徳を具す。 このゆゑに▼われ帰命したてまつる。
即具↢無量徳↡ 是故我帰命
・ 即時入必定
▼人よくこの仏の無量力威徳を念ずれば、
人能念↢是仏 無量力*功徳↡
功徳 高麗版大蔵経所収本では 「威徳」。
▼即時に*必定に入る。 このゆゑにわれつねに念じたてまつる。
即時入↢必定↡ 是故我常念
かの国の人命終して、 たとひもろもろの苦を受くべきも、
彼国人命終 設応↠受↢諸苦↡
悪地獄に堕せず。 このゆゑに▼帰命し礼したてまつる。
不↠堕↢悪地獄↡ 是故帰命礼
▼もし人かの国に生ずれば、 つひに*三趣および*阿修羅に堕せず。
三趣 ここでは地獄・餓鬼・畜生のこと。
若人生↢彼国↡ 終不↠堕↢三趣
われいま帰命し礼したてまつる。
及与阿修羅↡ 我今帰命礼
▼人天の身相同じくして、 なほ*金山の頂のごとし。
金山 須弥山の周囲をかこむ七重の山脈。
七金山。 →
須弥山
人天身相同 猶如↢金山頂↡
*諸勝の所帰の処なり。 このゆゑに頭面をもつて礼したてまつる。
諸勝の所帰の処 浄土の人天の帰依処。 阿弥陀仏のこと。 諸勝は浄土の人天を指していう。
諸勝所帰処 是故頭面礼
それかの国に生ずることあれば、 *天眼耳通を具して