転経行道願往生浄土法事讃 巻上
沙門*善導集記
◎前行法分 ○請護会衆
【1】 四天王を*奉請す。 ただちに道場のなかに入りたまへ。
奉請 道場への来入を懇請すること。
奉↠請↢四天王↡ 直入↢道場中↡
*師子王を奉請す。 師子また逢ひがたし。
師子王 仏法を守護する獣中の王。
奉↠請↢師子王↡ 師子亦難↠逢
身の毛衣を奮迅するに、 衆魔退散して去る。
奮↢迅身毛衣↡ 衆魔退散去
頭を回して法師を請ず。 ただちに涅槃の城を取らん。
廻↠頭請↢法師↡ 直取↢涅槃城↡
◎前行法分 ○法事大綱
【2】 序していはく、
序曰。
ひそかにおもんみれば、 娑婆広大にして火宅無辺なり。 *六道にあまねく居して*重昏永夜なり。 *生盲無目にして慧照いまだ期せず。 *引導無方なれども、 ともに死地に摧く。 *循還来去して逝水長流に等し。 *託命投神して、 たれかこれをよく救はん。 これすなはち*識含無際にして、 *窮塵の劫さらに踰えたり。 自爾悠々として*勝縁に遇ふこと、 これいづれの日ぞ。
重昏永夜 非常に暗く永遠につづく夜。
引導無方なれども 聖者の導きは自在ではあるが。
循還来去して… 輪廻転生を繰り返すことを、 とどまることのない水の流れに喩えていう。
託命投神 生死を繰り返すこと。
識含無際 識含は有情のこと。 有情の輪廻は無始以来のものであるという意。
窮塵の劫 非常に長い時間。
勝縁 仏法のすぐれた縁。
窃以、娑婆広大火宅無辺。六道周居重昏永夜。生盲無目慧照未↠明。引導無方倶摧↢死地↡。循環来去等↢逝水長流↡。託命投神誰之能救。斯乃識含無際窮塵之劫更踰。自爾悠悠遇↢勝縁↡之何日。
上▲*海徳初際如来よりすなはち今時の釈迦に至る諸仏、 みな弘誓に乗じて悲智双行し、 *含情を捨てずして*三輪あまねく化したまふ。 しかるにわれ無明の障重くして、 仏出でたまへども逢はず。 たとひ*同生すれどもまた覆器のごとし。 *神光等しく照らして*四生を*簡ばず。 慈及びて偏なく、 みな*法潤に資す。 法水に沈むといへども、 長劫に頑ななるによりて*苦・集あひより、 毒火時に臨みてまた発る。
海徳初際如来 「易行品」 に出る過去仏の名。 十方十仏の師仏。
含情 情識を有するもの。 識含に同じ。 有情。 衆生。
同生すれども (仏と) 同じ世に生れても。
簡ばず 区別しない。
法潤に資す 仏法のうるおいにめぐまれる。
上従↢海徳初際如来↡、乃至今時釈迦諸仏、皆乗↢弘誓↡悲智双行、不↠捨↢含情↡三輪普化。然我無明障重、仏出不↠逢。設使同生還如↢覆器↡。神光等照不↠簡↢四生↡。慈及無↠偏皆資↢法潤↡。雖↠沈↢法水↡、長劫由頑。苦集相因、毒火臨↠時還発。
仰ぎておもんみれば、 大悲の恩重くして等しく*身田を潤し、 智慧冥に加して*道芽増長す。 慈悲方便をもつて*視教よろしきに随ひ、 勧めて弥陀を念ぜしめ、 浄土に帰せしめたまふ。
身田 善悪の行為のもととなる身体を田地に喩える。
道芽 さとりの芽。
視教 教え導くこと。
仰惟大悲恩重等潤↢身田↡、智慧冥加道芽増長。慈悲方便、視教随↠宜、勧念↢弥陀↡帰↢乎浄土↡。
地はすなはち衆珍雑間して、 光色競ひ輝き、 *徳水澄み、 華*玲瓏として影徹る。 宝楼重接して等しく神光を輝かし、 林樹*瓔を垂れて風塵雅曲あり。 華台*厳瑩して種々希奇なり。 聖衆同じく居して、 あきらかなること*千日に踰えたり。 身はすなはち紫金の色、 相好儼然たり。 進止往来、 空に乗じて*無礙なり。 もし依報を論ずれば、 すなはち十方に超絶す。 地上・虚空等しくしてみな異なることなし。 *他方の凡聖、 願に乗じて往来す。 かしこに到りぬれば、 殊なることなく*斉同に不退なり。
玲瓏 すきとおって美しく光り輝くさま。
瓔 瓔珞のこと。
厳瑩 すぐれて美しいこと。
他方 極楽以外の世界。
斉同に不退なり すべてみな等しく、 さとりより退くことがない。
地則衆珍雑間、光色競輝、徳水澂華玲瓏影徹。宝楼重接等輝↢神光↡、林樹垂↠瓔風塵雅曲。華台厳瑩、種種希奇。聖衆同居明踰↢千日↡。身則紫金之色、相好儼然。進止往来乗↠空無礙。若論↢依報↡、則超↢絶十方↡。地上・虚空等皆無↠異。他方凡聖、乗↠願往来。到↠彼無↠殊斉同不退。
ただおもんみれば、 如来の*善巧総じて四生を勧め、 この娑婆を棄てて極楽に生ずることを欣はしめ、 もつぱら名号を称し、 兼ねて ¬弥陀経¼ を誦せしめたまふ。 かの ˆ浄土のˇ 荘厳を識り、 この ˆ娑婆のˇ 苦事を厭ひて、 *三因・五念*畢命を期となし、 *正助・*四修すなはち刹那も間なく、 この功業を回してあまねく*含霊に備へて、 寿尽くれば台に乗じて斉しくかの国に臨ましめんと欲すればなり。
善巧 たくみなてだて。
畢命を期となし 命おわるまで。
正助 正定業 (称名) と
助業 (
読誦・
観察・
礼拝・
讃嘆供養)。 →
五種の正行
但以↧如来善巧、総勧↢四生↡、棄↢此娑婆↡、忻↠生↢極楽↡、専称↢名号↡、兼誦↦¬弥陀経¼↥、欲↠令↧識↢彼荘厳↡、厭↢斯苦事↡、三因五念、畢命為↠期、正助四修、則刹那無間↥、迴↢斯功業↡普備↢含霊↡、寿尽乗↠台斉臨↢彼国↡。
【3】 おほよそ自のためにせんと欲し、 他のためにせんと欲して道場を立せば、 先づすべからく堂舎を*厳飾して尊像・*幡華を安置しをはりて、 衆等多少を問ふことなく、 ことごとく洗浴して浄衣を着し、 道場に入りて法を聴かしむべし。 もし*召請せんと欲する人および*和讃のものはことごとく立し、 *大衆は坐せしめて、 一人をして先づ焼香・散華を須ゐ、 *周帀一遍せしめをはりて、 しかして後*法によりて声をなして召請していへ。
幡華 幢幡 (はたぼこ) と供華。
召請せんと欲する人 召請人。 讃文を唱える人々。
和讃のもの ともに和して讃文を唱える人々。
大衆 道場に参集している人々。
周帀一遍 道場の仏座の回りを一周すること。
法 行儀作法。
凡欲↠為↠自欲↠為↠他立↢道場↡者、先須厳↢飾堂舎↡安↢置尊像幡華↡竟、衆等無↠問↢多少↡、尽令↧洗浴著↢浄衣↡、入↢道場↡聴↞法。若欲↢召請↡人、及和讃者尽立、大衆令↠坐使↢一人先須焼香散華、周帀一徧↡竟、然後依↠法作↠声召請云。
◎前行法分 ○略請三宝
【4】 *般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
大衆心を同じくして三界を厭へ 無量楽
大衆同心厭↢三界↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
三塗永く絶えて願はくは名すらなからん 無量楽
三塗永絶願無↠名 無量楽
三界は火宅にして居止しがたし 願往生
三界火宅難↢居止↡ 願往生
仏の願力に乗じて西方に往かん 無量楽
乗↢仏願力↡往↢西方↡ 無量楽
*般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽… 「般舟三昧楽」 は讃文の発声の句として、 「願往生」 「無量楽」 等は唱和の句として用いられたもの。 →
般舟三昧
般舟三昧楽 願往生
*慈恩を報ずることを念じてつねに頂戴せよ 無量楽
念↢報慈恩↡常頂戴 無量楽
【5】 大衆華を持して*恭敬して立し 願往生
大衆持↠華恭敬立 願往生
先づ弥陀を請じたてまつる道場に入りたまへ 無量楽
先請↢弥陀↡入↢道場↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
*弘願に違せず時に応じて迎へたまへ 無量楽
不↠違↢弘願↡応↠時迎 無量楽
観音・勢至・*塵沙の衆 願往生
塵沙の衆 数限りない浄土の聖者たち。
観音・勢至塵沙衆 願往生
仏 (阿弥陀仏) に従ひ華に乗じて来りて*会に入りたまへ 無量楽
会 法事讃の会座。
従↠仏乗↠華来入↠会 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
観音手を接りて*華台に入らしめたまへ 無量楽
観音接↠手入↢華台↡ 無量楽
*無勝荘厳の釈迦仏 願往生
無勝荘厳 無勝荘厳国。 無勝土ともいう。 西方四十二恒河沙の諸仏の国土の彼方にある釈迦仏の浄土。 北本 ¬涅槃経¼ 巻二十四に説かれる。
無勝荘厳釈迦仏 願往生
わが*微心を受けて道場に入りたまへ 無量楽
微心 ささやかな心。
受↢我微心↡入↢道場↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
身を砕きても釈迦の恩を*慚謝せん 無量楽
砕↠身慙謝釈迦恩 無量楽
*かの国の荘厳大海衆 願往生
かの国の荘厳大海衆 無勝荘厳国の大海のような無量の聖者たち。
彼国荘厳大海衆 願往生
仏 (釈尊) に従ひ華に乗じて来りて会に入りたまへ 無量楽
従↠仏乗↠華来入↠会 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
仏の*神化を助けて衆生を度す 無量楽
神化 不可思議な教化、 導き。
助↢仏神化↡度↢衆生↡ 無量楽
十方恒沙の仏*舌を舒べて 願往生
十方恒沙仏舒↠舌 願往生
われ凡夫の安楽に生ずることを証したまふ 無量楽
証↣我凡夫生↢安楽↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
悲心*利物の大悲心なり 無量楽
利物 物は衆生の意。 衆生を利益すること。
悲心利物大悲心 無量楽
慚愧す恒沙の大悲心 願往生
慙愧恒沙大悲心 願往生
わが微心を受けて道場に入りたまへ 無量楽
受↢我微心↡入↢道場↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
専心に浄土の仏前を期す 無量楽
専↠心浄土仏前期 無量楽
一々の如来の大海衆 願往生
一一如来大海衆 願往生
仏に従ひ華に乗じて来りて会に入りたまへ 無量楽
従↠仏乗↠華来入↠会 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
ことごとくこれ往生の*増上縁なり 無量楽
尽是往生増上縁 無量楽
仏*二十五菩薩をして 願往生
仏使↢二十五菩薩 願往生
一切の時に来りてつねに*護念せしめたまふ 無量楽
一切時来常護念↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
*畢命してただちに涅槃の城に入らん 無量楽
畢命直入↢涅槃城↡ 無量楽
仏は恐れたまふ衆生に*四魔の障ありて 願往生
四魔 衆生を悩ませる四種の魔。 ①煩悩魔 ②陰魔 (苦しみを生ずる五陰) ③死魔 ④天魔 (他化自在天の魔王)。
仏恐衆生四魔障 願往生
いまだ極楽に至らずして三塗に堕することを 無量楽
未↠至↢極楽↡堕↢三塗↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
*直心をもつて実に行ずれば仏迎来したまふ 無量楽
直心 二心なく純粋な心。
直心実行仏迎来 無量楽
われいま*衆等深く*慚謝す 願往生
衆等 大衆のこと。 道場に参集している人々。
我今衆等慙謝 願往生
わが*微心を受けて来りて会に入りたまへ 無量楽
受↢我微心↡来入↠会 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
心々専注して娑婆を出でん 無量楽
心心専注出↢娑婆↡ 無量楽
【6】 *本国の弥陀もろもろの*聖衆 願往生
本国 極楽浄土を指す。
聖衆 観音・勢至等の浄土の菩薩たち。
本国弥陀諸聖衆 願往生
平等にともに来りて道場に坐したまへ 無量楽
平等倶来坐↢道場↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
道場の聖衆実に逢ひがたし 無量楽
道場聖衆実難↠逢 無量楽
衆等*弥陀会を*頂礼して 願往生
弥陀会 阿弥陀仏の説法の会座。 ここでは法事讃の儀礼を指していう。
衆等頂↢礼弥陀会↡ 願往生
あまねく香華を散じて同じく供養したてまつらん 無量楽
普散↢香華↡同供養 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
弥陀の光往生人を摂す 無量楽
弥陀光摂↢往生人↡ 無量楽
【7】 仏弥陀の涅槃会に対して 願往生
対↢仏弥陀涅槃会↡ 願往生
おのおの*誓願を発して*華台を請ず 無量楽
誓願 往生浄土を願う心。
各発↢誓願↡請↢華台↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
極楽の荘厳の門ことごとく開けたり 無量楽
極楽荘厳門尽開 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
専心に念仏すれば華台に坐す 無量楽
専心念仏坐↢華台↡ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
般舟三昧楽 願往生
華に乗じてただちに入ること疑ふべからず 無量楽
乗↠華直入不↠須↠疑 無量楽
【8】 衆等心を斉しくして*高座を請ず 往生楽
高座 道場の高座の導師。
衆等斉↠心請↢高座↡ 往生楽
*慇懃に*智影して*尊経を説け 往生楽
智影 影は光の意。 智慧の光をもってということ。 高座の導師の智慧を指していう。
尊経 尊い経典。 ¬小経¼ を指していう。
慇懃智影説↢尊経↡ 往生楽
*難思議 往生楽 *双樹林下 往生楽 *難思 往生楽
難思議・双樹林下・難思 親鸞聖人はこの三種の名目を転用して、 第十八願弘願の往生を難思議往生、 第十九願要門の往生を双樹林下往生、 第二十願真門の往生を難思往生と分判された。
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
道場の時逢ひがたく遇ひがたし 往生楽
道場時逢難叵↠遇 往生楽
無常迅速にして命停まりがたし 往生楽
無常迅速命難↠停 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
眼前の*業道、 人々見る 往生楽
業道 善悪の業によって苦楽の果報を得るという道理。 →
補註6
眼前業道人人見 往生楽
みな*三毒によりて因縁をなす 往生楽
皆由↢三毒↡作↢因縁↡ 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
人身を得たりといへどもつねに闇鈍にして 往生楽
雖↠得↢人身↡常闇鈍 往生楽
*貪瞋・*邪見*うたた専にして専なり 往生楽
うたた いよいよ。
貪瞋邪見転専専 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
日夜に惛々として*惺悟せず 往生楽
惺悟 めざめ、 さとること。
日夜惛惛不↢惺悟↡ 往生楽
還りてこれ三塗に*流浪する因なり 往生楽
還是流↢浪三塗↡因 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
たちまちに*長劫の苦に輪廻しなば 往生楽
忽爾輪↢迴長劫苦↡ 往生楽
弥陀の浄土いづれの時にか聞かん 往生楽
弥陀浄土何時聞 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
大衆心を同じくして高座を請ず 往生楽
大衆同↠心請↢高座↡ 往生楽
*群生を度せんがために*法輪を転ぜよ 往生楽
法輪を転ぜよ 仏の教えを説かれよ。 仏の説かれた教えは、 衆生の煩悩をうちくだき、 次々とひろまってゆくので、 これを車輪に喩えていう。 ここでは下の ¬阿弥陀経¼ 読誦を指す。
為↠度↢羣生↡転↢法輪↡ 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
衆等心を傾けて法を聞くことを楽ひて 往生楽
衆等傾↠心楽聞↠法 往生楽
手に香華を執りてつねに供養したてまつらん 往生楽
手執↢香華↡常供養 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
難思議 往生楽 双樹林下 往生楽 難思 往生楽
【9】 道場の*大衆裏あひともに心を至して敬礼し、
大衆裏 大衆に同じ。 道場に参集している人々。
道場大衆裏相与至心敬礼
常住の仏に南無したてまつる。
南↢無常住仏↡
道場の大衆裏あひともに心を至して敬礼し、
道場大衆裏相与至心敬礼
常住の法に南無したてまつる。
南↢無常住法↡
道場の大衆裏あひともに心を至して敬礼し、
道場大衆裏相与至心敬礼
常住の僧に南無したてまつる。
南↢無常住僧↡
◎前行法分 ○広請三宝
【10】敬ひてまうす。 道場の衆等おのおの心を斂めて弾指合掌し、 頭を叩きて、 本師釈迦仏、 過・現・未来のもろもろの世尊を帰命し礼したてまつる。 仏に帰依したてまつる所以は、 仏はこれ衆生の大慈悲の父、 またこれ*出世増上の良縁なればなり。 その恩徳をはかりみれば、 *塵劫に過ぎてこれを述ぶとも尽しがたし。
出世増上の良縁 迷いの世界を離れ出るすぐれた縁。
塵劫 塵点劫の略。 はかりしれない長い時間。
敬白。道場衆等、各各斂↠心、弾指合掌、叩頭帰↢命礼↣本師釈迦仏、過・現・未来諸世尊↡。所↣以帰↢依仏↡者、仏是衆生大慈悲父、亦是出世増上良縁。計↢其恩徳↡過↢於塵劫↡述↠之難↠尽。
¬*賢愚経¼ (意) にのたまはく、 「一々の諸仏初発意より終り菩提に至るまで、 専心に法を求めて、 身財を顧みず、 *悲智双行して、 かつて退念なし」 と。
¬賢愚経¼言。「一一諸仏、従↢初発意↡終至↢菩提↡、専心求↠法不↠顧↢身財↡、悲智双行曾無↢退念↡。」
あるいは*人の逼め試みるに逢ひて皮肉分張を可し、 あるいは*みづから身を割きて鴿の命を延べ、 あるいは*千頭を捨ててもつて法を求む。 あるいは*千の釘を釘ちて四句を求め、 あるいは*身血を刺してもつて夜叉を済ひ、 あるいは*妻子を捨ててもつて羅刹に充つ。 あるいは*慈悲方便を設けて、 化して禽魚となりてもつて*蒼生を済ひてその飢難を免れしむ。 あるいは*金毛の獅子となりてもつて猟師に上め、 あるいは*白象となりて牙を抽き、 菩提を求めんがために ˆ猟師にˇ 奉施す。 あるいは*怨家を観ることなほ赤子のごとく、 あるいは*外道を現ることたとへば親児のごとし。 彼我殊なることなし。 聖凡なんぞ異ならん。
人の逼め… ¬賢愚経¼ 巻一の鬱多羅仙人の因縁。
みづから身を… ¬賢愚経¼ 巻一の尸毘王の因縁。
千頭を… ¬賢愚経¼ 巻五の月光王の因縁。
千の釘を… ¬賢愚経¼ 巻一の毘楞竭梨王の因縁。
身血を… ¬賢愚経¼ 巻二の弥佉羅抜羅王の因縁。
妻子を… ¬妙色王経¼ の妙色王の因縁。
慈悲方便を… ¬賢愚経¼ 巻七の設頭健寧王の因縁。
金毛の… ¬賢愚経¼ 巻十三の提毘王の因縁。
白象と… ¬大智度論¼ 巻十二・九三、 ¬雑宝蔵経¼ 巻二の釈迦の本生。
怨家を… ¬賢愚経¼ 巻十の釈迦・提婆の因縁。
外道を現る… 典拠未詳。
或可↧逢↢人逼試↡、皮肉分張↥、或自割↠身而延↢鴿命↡、或捨↢千頭↡以求↠法。或釘↢千釘↡而求↢四句↡、或刺↢身血↡以済↢夜叉↡、或捨↢妻子↡以充↢羅刹↡。或設↢慈悲方便↡化作↢禽魚↡、用済↢蒼生↡免↢其飢難↡。或作↢金毛師子↡以上↢猟師↡、或作↢白象↡抽↠牙為↠求↢菩提↡而奉施。或観↢怨家↡由如↢赤子↡、或視↢外道↡比若↢親児↡。彼我無↠殊、聖凡何異。
*三祇の起行みな*無漏と相応す。 *地々に功を収めて、 はじめて果円かなることを得るを仏と号く。 身はすなはち*閻浮金光色、 *千日の競ひ暉くに喩ふ。 相好分明なり。 たとへば衆星の夜朗らかなるがごとし。 *跏趺正坐して*不背の相円明なり。 法界同じく帰して、 おのおの如来の面相を覩たてまつる。 身心湛寂にして、 *化用時機を失せず。 類に随ひて変通すれども、 *報体すなはちもとより不動なり。 ただおもんみれば如来の智徳これを嘆ずるに尽しがたし。
地々 十地の各地。
閻浮金光色 閻浮金は紫色を帯びた最高の金のこと。
跏趺正坐 足の甲を作用のもものうえにおく座り方。 結跏趺坐に同じ。
不背の相 仏は衆生に背を向けることがないという意。
化用 衆生を教化利益するはたらき。
報体 報身の体。
三祇起行皆与↢無漏↡相応。地地収↠功、始得↢果円↡号↠仏。身則閻浮金光色、喩↢千日競暉↡。相好分明。譬若↢衆星夜朗↡。跏趺正坐、不背之相円明。法界同帰各覩↢如来面相↡。身心湛寂化用不↠失↢時機↡。随類変通報体則元来不動。但以如来智徳嘆↠之難↠尽。
道場の衆等おのおの慚謝の心を生ずべし。 よく諸仏のわがために捨身せしめたまふこと、 塵劫よりも過ぎたり。 哀しきかな、 世尊よく難事をなして、 長劫に勤々として疲労の苦痛を忍びたまふ。 また*生のために苦行すといへども、 小恩を覓めず、 等しく*塵労を出で菩提に会して彼岸に帰することを望欲したまふ。 衆等、 心を斉しくしていまの施主某甲等のために、 十方諸仏、 一切の世尊を奉請す。
生 衆生のこと。
塵労 心を疲れさせるものの意。 煩悩の異名。 →
煩悩
道場衆等、各生↢慙謝之心↡。能使↢諸仏為↠我捨↟身過↠於↢塵劫↡。哀哉世尊、能為↢難事↡長劫勤勤忍↢疲労之苦痛↡。雖↢復為↠生苦行↡不↠覓↢小恩↡、望↧欲等出↢塵労↡会↢菩提↡而帰↦彼岸↥。衆等斉↠心為↢今施主某甲等↡、奉↠請↢十方諸仏一切世尊↡。
【11】弟子等敬しく諸仏の境界を尋ぬるに、 ただ仏のみよく国土の精華を知りたまへり。 凡の測るところにあらず。 *三身の化用みな浄土を立して、 もつて群生を導きたまふ。 法体殊なることなければ、 *有識これに帰して悟を得。 ただ凡夫の乱想寄託するに由なきがためのゆゑに、 釈迦・諸仏慈悲を捨てずして、 ただちに西方十万億刹を指さしむ。
有識 心のはたらきを有するもの。 有情、 衆生に同じ。
弟子等敬尋↢諸仏境界↡、唯仏能知↢国土精華↡、非↢凡所↟測。三身化用、皆立↢浄土↡以導↢群生↡。法体無↠殊。有識帰↠之得↠悟。但為↢凡夫乱想寄託無↟由故、使↧釈迦諸仏不↠捨↢慈悲↡、直指↦西方十万億刹↥。
国を極楽と名づけ、 仏を弥陀と号く。 現にましまして説法したまふ。 その国清浄にして*四徳の荘厳を具せり。 ▼永く*譏嫌を絶ち、 等しくして憂悩なし。 人天善悪みな往生を得。 かしこに到りぬれば、 殊なることなく*斉同に不退なり。
譏嫌 そしりきらわれる名。
国名↢極楽↡仏号↢弥陀↡。現在説法。其国清浄具↢四徳荘厳↡。永絶↢譏嫌↡等無↢憂悩↡。人天善悪皆得↢往生↡。到↠彼無↠殊、斉同不退。
▼なんの意かしかるとならば、 すなはち*弥陀の因地に、 *世饒王仏の所にして位をを捨てて家を出で、 すなはち*悲智の心広弘の四十八願を起したまふ。 仏願力をもつて▼*五逆と*十悪と罪滅して生ずることを得、 *謗法と*闡提と回心してみな往くによる。
悲智 慈悲と智慧。
何意然者、乃由↧弥陀因地、世饒王仏所、捨↠位出↠家、即起↢悲智之心↡、広弘↦四十八願↥。以↢仏願力↡五逆之与↢十悪↡罪滅得↠生。謗法闡提、迴心皆往。
また*韋提請を致して娑婆を捨つることを誓ひ、 念々に遺るることなく決定して極楽に生ずることを求め、 如来 (釈尊) その請によるがゆゑに、 すなはち*定散両門、 *三福・*九章を説きて、 広く*未聞の益をなすによる。 十方恒沙の諸仏ともに釈迦を讃じて*舌を舒べてあまねく*三千に覆ひて往生を得ることの謬りにあらざることを証したまふ。
未聞の益 いままでに聞いたことのないすぐれた利益。
復因↧韋提致請誓↠捨↢娑婆↡、念念無↠遺決定求↞生↢極楽↡。如来因↢其請↡故、即説↢定散両門、三福九章↡、広作↢未聞之益↡。十方恒沙諸仏、共讃↢釈迦↡舒↠舌遍覆↢三千↡、証↧得↢往生↡非↠謬↥。
かくのごとき等の諸仏世尊、 慈悲をを捨てずしていまの*施主某甲および衆生の請を受けて、 この道場に入りて功徳を証明したまへ。
如↠是等諸仏世尊、不↠捨↢慈悲↡、受↢今施主某甲及衆生請↡、入↢此道場↡、証↢明功徳↡。
奉請しをはりぬ。 いま勧む、 衆生等おのおの心を斂めて帰依し合掌したてまつれ。
奉請已、今勧、衆生等各各斂↠心帰依合掌。
【12】下座、 高に接ぎて讃じていへ。
下座接↠高讃云。
願はくは往生せん、 願はくは往生せん。 *衆等ことごとく*本師釈迦仏、 十方世界のもろもろの如来に帰命したてまつる。 願はくは施主衆生の請を受けて、 慈悲をを捨てずして道場に入りて、 功徳を証明し諸罪を滅したまへ。 心を回らし念を一にして弥陀を見たてまつらん。 衆等、 身心みな*踊躍して、 手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。
本師 根本の師。
願往生、願往生。衆等咸帰↢命本師釈迦仏・十方世界諸如来↡。願受↢施主衆生請↡、不↠捨↢慈悲↡、入↢道場↡証↢明功徳↡、滅↢諸罪↡。回心一↠念見↢弥陀↡。衆等身心皆踊躍手執↢香華↡常供養。
*高、 下に接ぎて讃じていへ。
高下 高は道場の高座、 下は道場の下座。
高接↠下讃云。
【13】高、 下に接ぎて請召していへ。
高接↠下請召云。
かさねてまうす。 道場の大衆等おのおの心を斂めて*弾指合掌し、 *頭を叩きて一心に帰命し、 いまの施主および衆生のために、 次にまさに十方法界の諸仏所説の*修多羅蔵八万四千を奉請し、 また*全身・散身の舎利等を請じたてまつるべし。 ただ願はくは大*神光を放ちて、 この道場に入りて功徳を証明したまへ。
弾指 指をはじくこと。 ここでは敬心をあらわす動作。
頭を叩きて 頭を地につけてという意。
全身散身の舎利 舎利は梵語シャリーラ (śarīra) の音写。 全身は仏の全身の遺骨、 散身は仏の分骨を指していう。
重白。道場大衆等、各各斂↠心弾指合掌、叩頭一心帰命、為↢今施主及衆生↡、次当奉↠請↢十方法界諸仏所説修多羅蔵、八万四千↡、又請↢全身散身舎利等↡。唯願放↢大神光↡、入↢此道場↡証↢明功徳↡。
また十方の*声聞・*縁覚・得道の聖人を請じたてまつる。 ただ願はくは慈悲をを捨てず、 大神通を現じて、 この道場に入りて功徳を証明したまへ。
又請↢十方声聞・縁覚・得道聖人↡。唯願不↠捨↢慈悲↡、現↢大神通↡、入↢此道場↡証↢明功徳↡。
またまさにもろもろの菩薩衆、 *普賢・*文殊・*観音・*勢至等を奉請すべし。 ただ願はくは慈悲をを捨てず、 衆生の願を満てしめて、 この道場に入りて功徳を証明したまへ。
又当奉↠請↢諸菩薩衆・普賢・文殊・観音・勢至等↡。唯願不↠捨↢慈悲↡、満↢衆生願↡、入↢此道場↡証↢明功徳↡。
帰依し奉請する所以は、 このもろもろの菩薩*初発意よりすなはち菩提に至るまで、 つねに平等を行じて*接引偏なく、 自利利他時としてしばらくも息むことなし。 つねに法音をもつてもろもろの世間を覚せしむ。 光明あまねく無量の仏土を照らし、 一切の世界*六種に震動す。 総じて魔界を摂し魔の宮殿を動かす。 *邪網を掴裂し、 *諸見を消滅し、 もろもろの*塵労を散じ、 もろもろの*欲塹を壊す。 法門を開闡して*清白を顕明し、 仏法を光融して正化を宣流す。 つねに不染の*身口意業をなし、 つねに不退の身口意業を行じ、 つねに不動の身口意業を行じ、 つねに讃嘆の身口意業を行じ、 つねに清浄の身口意業を行じ、 つねに離悩の身口意業を行じ、 つねに智慧の身口意業を行じ、 覚悟成就し、 *定慧成就したまへばなり。
接引偏なく かたよることなく衆生を導くという意。
邪網を掴裂し よこしまな教えの網を破りさき。
諸見 悪しき見解。
欲塹 貪欲の心を越えがたい塹 (ほり) に喩えたもの。
清白 煩悩のけがれを離れた清浄な道。
所↢以帰依奉請↡者、此諸菩薩、従↢初発意↡乃至菩提、常行↢平等↡接引無↠偏、自利利他無↢時暫息↡、常以↢法音↡覚↢諸世間↡、光明普照↢無量仏土↡、一切世界六種震動、総摂↢魔界↡動↢魔宮殿↡、掴↢裂邪網↡、消↢滅諸見↡、散↢諸塵労↡、壊↢諸欲塹↡、開↢闡法門↡顕↢明清白↡、光↢融仏法↡宣↢流正化↡、常作↢不染身口意業↡、常行↢不退身口意業↡、常行↢不動身口意業↡、常行↢讃歎身口意業↡、常行↢清浄身口意業↡、常行↢離悩身口意業↡、常行↢智慧身口意業↡、覚悟成就定慧成就。
このもろもろの菩薩は、 つねにもろもろの*天竜八部・人王・梵王等のために守護・恭敬・供養せられたまへり。 一切衆生の救となり、 帰となり、 *明となり、 尊となり、 勝となり、 上となりたまふ。 無量の*行願を具し*饒益するところ多し。 天・人を安穏にし一切を利益す。 十方に遊歩して*権方便を行じ、 *仏法蔵に入りて彼岸を究竟す。 智慧聖明なること不可思議なり。 仏の*法輪を転じ、 如来の*一切種智を成就す。 一切の法においてことごとく自在を得たまへり。
明 異本には 「朋」 (とも) とある。
行願 自利利他の完成を願うこと (四弘