浄土文類聚鈔
*愚禿釈*親鸞集
○序
【1】 ▲それ*無碍難思の光耀は、 苦を滅し楽を証す。 ▲*万行円備の嘉号は、 障を消し疑を除く。 *末代の教行、 もつぱらこれを修すべし。 *濁世の目足、 かならずこれを勤むべし。 ▲しかれば最勝の*弘誓を受行して、 穢を捨て浄を欣へ。 如来の教勅を奉持して、 恩を報じ徳を謝せよ。 ▲ここに*片州の愚禿 (親鸞)、 印度・*西蕃の論説に帰し、 華漢 (中国)・日域 (日本) の師釈を仰いで、 *真宗の教行証を敬信す。 ことに知んぬ、 仏恩窮尽しがたければ、 あきらかに浄土文類聚を用ゐるなり。
無碍難思の光耀 何ものにもさまたげられない、 凡夫の思慮を超えた阿弥陀仏の智慧の光明。
万行円備の嘉号 すべての行、 すべての徳をかけめなくまどかにそなえた阿弥陀仏の名号。
末代の教行 光明・名号は、 末法を救う教となり、 行となって、 行者の上に実現するので、 このようにいう。 →
末法
濁世の目足 教と行は、 五濁悪世の行者の目となり足となるので、 このようにいう。 →
五濁
片州 日本のこと。
西蕃 インドを指す。
夫无難思光耀、滅↠苦証↠楽。万行円備嘉号、消↠鄣除↠疑。末代教行、専応↠修↠此。濁世目足、必可↠勤↠斯。爾者受↢行勝弘誓↡而捨↠穢忻↠浄。奉↢持如来教勅↡而報↠恩謝↠徳。爰片州愚禿、帰↢印度西番論説↡、仰↢華漢・日域師釈↡、敬↢信真宗教・行・証↡。特知、仏恩叵↢窮尽↡明用↢浄土文類聚↡矣。
○三法列釈
【2】 ▲しかるに*教といふは、 すなはち ¬*大無量寿経¼ なり。 ▲この経の大意は、 弥陀、 誓を超発し、 広く法蔵を開きて、 *凡小を哀れんで選んで*功徳の宝を施することを致す。 釈迦、 世に出興して、 *道教を*光闡し、 *群萌を拯ひ恵むに*真実の利をもつてせんと欲してなり。 ▲まことにこれ、 如来興世の真説、 奇特最勝の妙典、 *一乗究竟の極説、 十方称讃の正教なり。 ▲如来の本願を説くを経の*宗致とす。 すなはち仏の*名号をもつて経の*体とするなり。
功徳の宝 阿弥陀仏の名号のこと。
道教 釈尊一代の教説のこと。
真実の利 真実の利益。 阿弥陀仏の本願名号によって得る利益をいう。
一乗究竟の極説 一切衆生をことごとく仏のさとりに至らせる一乗教の究極を説きあらわした最高の教え。
宗致 経典に説かれた法義の最も肝要なことがら。
然言↠教者、則¬大无量寿経¼也。斯経大意者、弥陀超↢発於誓↡、広開↢法蔵↡、致↧哀↢凡小↡選施↦功徳之宝↥。釈迦出↢興於世↡光↢闡道教↡、欲↧拯↢群萠↡恵以↦真実之利↥。誠是如来興世之真説、奇特最勝之妙典、一乗究竟之極説、十方称讃之正教也。説↢如来本願↡為↢経宗致↡、即以↢仏名号↡為↢経躰↡也。
【3】 行といふは、 すなはち*利他円満の*大行なり。 ▲すなはちこれ、 諸仏*咨嗟の願 (第十七願) より出でたり。 また諸仏称名の願と名づけ、 また往相正業の願と名づくべし。 ▲しかるに*本願力の回向に二種の相あり。 一つには↓*往相、 二つには↓*還相なり。 ▲↑往相について↓大行あり、 また↓*浄信あり。 ↑▲大行といふは、 すなはち*無碍光如来の*名を称するなり。 ▲この行はあまねく一切の行を摂し、 *極速円満す。 ゆゑに大行と名づく。 ▲このゆゑに*称名はよく衆生の一切の*無明を破し、 よく衆生の*一切の志願を*満てたまふ。 称名はすなはち*憶念なり、 憶念はすなはち*念仏なり、 念仏はすなはちこれ*南無阿弥陀仏なり。
咨嗟 讃嘆の意で、 ほめたたえること。
極速円満す きわめて速やかに往生の因が満足する。
一切の志願 往生成仏の願を根本とする一切の願。
満てたまふ 「たまふ」 は尊敬の意。 無明を破し、 志願を満たすのは、 阿弥陀仏の力によることをあらわす。
言↠行者、則利他円満大行也。即是出↢於諸仏咨嗟之願↡、復名↢諸仏称名之願↡、亦可↠名↢往相正業之願↡。然本願力廻向、有↢二種相↡。一者往相、二者還相。就↢往相↡有↢大行↡亦有↢浄信↡。大行者、則称↢无光如来名↡。斯行徧摂↢一切行↡極速円満、故名↢大行↡。是故称名能破↢衆生一切无明↡、能満↢衆生一切志願↡。称名即憶念、憶念即念仏、念仏則是南無阿弥陀仏。
【4】 願 (第十七・十八願) 成就の文、 ¬経¼ (*大経・下) にのたまはく、 「▲十方恒沙の諸仏如来、 みなともに無量寿仏の威神功徳、 不可思議にましますことを讃嘆したまふ。 ▲諸有の衆生、 その名号を聞きて信心歓喜し乃至一念せん。 *至心に回向したまへり。 かの国に生ぜんと願ずれば、 すなはち往生を得、 *不退転に住す」 と。 またのたまはく (同・下)、 「▲仏、 弥勒に語りたまはく、 ªそれかの仏の名号を聞くことを得ることありて、 歓喜踊躍し乃至一念せん。 まさに知るべし、 この人は大利を得とす。 すなはちこれ無上の功徳を具足すº」 と。 以上
至心に回向したまへり 通常は 「至心に回向して」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。
願成就文¬経¼言。「十方恒沙諸仏如来、皆共讃↢嘆无量寿仏威神功徳不可思議↡。諸有衆生、聞↢其名号↡信心歓喜、乃至一念、至心廻向。願↠生↢彼国↡、即得↢往生↡住↢不退転↡。」又言。「仏語↢弥勒↡。其有↠得↠聞↢彼仏名号↡、歓喜踊躍、乃至一念。当↠知、此人為↠得↢大利↡。則是具↢足無上功徳↡。」以上
*龍樹菩薩、 ¬*十住毘婆沙論¼ (*易行品) にいはく、 「▲もし人疾く不退転地を得んと欲はば、 *恭敬の心をもつて、 *執持して名号を称すべし。 ▲もし人善根を種ゑて、 疑へばすなはち華開けず。 信心清浄なるものは、 華開けてすなはち仏を見たてまつる」 と。
恭敬の心 つつしみ敬う心。 ここでは他力の信心のこと。
龍樹菩薩¬十住婆沙論¼云。「若人欲↣疾得↢不退転地↡者、応↧以↢恭敬心↡執持称↦名号↥。若人種↢善根↡、疑則華不↠開、信心清浄者、華開即見↠仏。」
*天親菩薩、 ¬*浄土論¼ にいはく、 「▲世尊、 われ一心に*尽十方無碍光如来に帰命したてまつりて、 *安楽国に生ぜんと願ず。 われ*修多羅真実功徳相によりて、 *願偈総持を説きて仏教と相応せり。 ▲仏の本願力を観そなはすに、 遇うて空しく過ぐるものなし。 よくすみやかに功徳大宝海を満足せしむ」 と。 以上
修多羅 親鸞聖人は ¬銘文¼ で浄土三部経のこととする。
願偈総持を説きて 願偈は ¬浄土論¼ の 「願生偈」 のこと。 総持は親鸞聖人の解釈では 「無碍光の智慧」 (¬銘文¼) の意。 阿弥陀仏の智慧を 「願生偈」 として説くということ。
天親菩薩¬浄土論¼云。「世尊我一心、帰↢命尽十方无光如来↡、願↠生↢安楽国↡。我依↢修多羅真実功徳相↡、説↢願偈捴持↡、与↢仏教↡相応。観↢仏本願力↡、遇無↢空過者↡、能令↣速満↢足功徳大宝海↡。」以上
【5】 ▲聖言・論説、 ことに用ゐて知んぬ。 *凡夫*回向の行にあらず、 これ大悲回向の行なるがゆゑに*不回向と名づく。 ▲まことにこれ、 *選択*摂取の*本願、 無上超世の*弘誓、 *一乗真妙の正法、 万善円修の勝行なり。
聖言・論説、特用知。非↢凡夫廻向行↡、是大悲廻向行故名↢不廻向↡。誠是選択摂取之本願、无上超世之弘誓、一乗真妙之正法、万善円修之勝行也。
【6】 ▲¬経¼ (大経) に 「乃至」 といふは、 上下を兼ねて中を略するの言なり。 ▲「一念」 といふは、 すなはちこれ専念なり。 ▲専念はすなはちこれ一声なり。 一声はすなはちこれ称名なり。 称名はすなはちこれ憶念なり。 憶念はすなはちこれ正念なり。 正念はすなはちこれ正業なり。 ▲また 「乃至一念」 といふは、 これさらに観想・功徳・遍数等の一念をいふにはあらず。 往生の心行を獲得する*時節の延促について乃至一念といふなり、 知るべし。
時節の延促 時間の長短。 ここでは延長 (相続) に対する極促 (
初際) の意味で、 南無 (心) 阿弥陀仏 (行) を受領した最初、 すなわち信の一念をいう。 →
一念❷
経言↢「乃至」者、兼↢上下↡略↠中之言、言↢「一念」↡者、即是専念、専念即是一声、一声即是称名、称名即是憶念、憶念即是正念、正念即是正業也。復「乃至一念」者、是更非↠言↢観想・功徳・徧数等之一念↡、就↧獲↢得往生心行↡時節延促↥、言↢乃至一念↡也。応↠知。
【7】 ▲↑浄信といふは、 すなはち利他深広の信心なり。 ▲すなはちこれ念仏往生の願 (第十八願) より出でたり。 また至心信楽の願と名づけ、 また往相信心の願と名づくべし。 ▲しかるに*薄地の凡夫、 底下の群生、 浄信獲がたく極果証しがたし。 なにをもつてのゆゑに、 往相の回向によらざるがゆゑに、 疑網に*纏縛せらるるによるがゆゑに。 いまし如来の*加威力によるがゆゑに、 博く*大悲広慧の力によるがゆゑに、 清浄真実の信心を獲。 この心顛倒せず、 この心虚偽ならず。 まことに知んぬ、 無上妙果の成じがたきにはあらず、 真実の浄信まことに得ること難し。 真実の浄信を獲れば、 大慶喜心を得るなり。
薄地の凡夫 聖者の域に達しない下劣な者。 凡夫を三種に分け、 三賢 (十住・十行・十回向) を内凡、 十信を下凡、 それ以下を薄地とする。
纏縛 まとわりつかれ、 しばられること。
加威力 仏が衆生に加える不可思議な救済力。
大悲広慧の力 広大な慈悲と智慧の力。
言↢浄信↡者、則利他深広信心也。即是出↢於念仏往生之願↡。亦名↢至心信楽之願↡、復可↠名↢往相信心之願↡。然薄地凡夫、底下群生、浄信叵↠獲、極果叵↠証也。何以故、不↠由↢往相廻向↡故、由↠所↣纏↢縛疑網↡故、乃由↢如来加威力↡故、博因↢大悲広慧力↡故、獲↢清浄真実信心↡。是心不↢顛倒↡、是心不↢虚偽↡。信知、无上妙果不↠難↠成、真実浄信実難↠得。獲↢真実浄信↡、得↢大慶喜心↡。
「大慶喜心を得」 といふは、 ¬経¼ (*大経・下) にのたまはく、 「▲それ至心に安楽国に生ぜんと願ずることあるものは、 智慧あきらかに達し、 功徳殊勝なることを得べし」 と。 取要
得↢大慶喜心↡、¬経¼言。「其有↢至心願↟生↢安楽国↡者、可↠得↢智慧明達功徳殊勝↡。」取要
また ¬経¼ (*如来会・下意) にのたまはく、 「この人はすなはちこれ*大威徳のひとなり」 と。 また 「*広大勝解のひとなり」 と説けり。 以上
大威徳のひと・広大勝解のひと 仏のすぐれた徳を与えられている人。 広大なすぐれた法をよく領解した智慧の人。 ともに他力信心の人をいう。
又¬経¼言。「是人即是大威徳者」亦説↢「広大勝解者」↡。以上
【8】 ▲まことにこれ、 除疑獲徳の*神方、 極速円融の真詮、 *長生不死の妙術、 威徳広大の浄信なり。
神方 不可思議な方法。
長生不死の妙術 生死を超えた不生不滅の命を得る不可思議な方法。
誠是除疑獲徳之神方、極速円融之真詮、長生不死之妙術、威徳広大之浄信也。
【9】 ▲しかれば、 もしは行、 もしは信、 一事として阿弥陀如来の清浄願心の*回向成就したまふところにあらざることあることなし。 *因なくして他の因のあるにはあらざるなりと、 知るべし。
回向成就し… 行も信も如来が成就して与えたものであるという意。
因なくして… 如来回向の行信が往生の因となるのであるから、 因がなくて往生するのではなく、 また、 その行信の他に別の因があるのでもないという意。
爾者、若行若信、无↠有↤一事非↣阿弥陀如来清浄願心之所↢廻向成就↡。非↢无↠因他因有↡也。応↠知。
【10】▲*証といふは、 すなはち利他円満の妙果なり。 ▲すなはちこれ必至滅度の願 (第十一願) より出でたり。 また証大涅槃の願と名づけ、 また往相証果の願と名づくべし。 すなはちこれ清浄真実・至極畢竟無生なり。
言↠証者、則利他円満妙果也。即是出↢於必至滅度之願↡。亦名↢証大涅槃之願↡、亦可↠名↢往相証果之願↡。即是清浄真実、至極畢竟无生。
【11】無上涅槃の願 (第十一願) 成就の文、 ¬経¼ (*大経・下) にのたまはく、 「▲それ衆生ありて、 かの国に生ずるものは、 みなことごとく*正定の聚に住す。 ゆゑはいかん、 かの仏国中には、 もろもろの*邪聚および*不定聚なければなり」 と。
无上涅槃願成就文¬経¼言。「其有↢衆生↡、生↢彼国↡者、皆悉住↢於正定之聚↡。所以者何、彼仏国中無↢諸邪聚及不定聚↡。」
またのたまはく (*同・上)、 「▲*ただ余方に因順するがゆゑに、 人天の名あり。 顔貌端正にして超世希有なり。 容色微妙にして、 天にあらず人にあらず。 みな*自然虚無の身、 無極の体を受けたり」 と。
ただ余方に… 浄土の聖者を他方世界に順じて天とか人とか呼ぶのみで実の天でも人でもないという意。
自然虚無の身… 自然・虚無・無極は涅槃の異名。 浄土における身体は、 涅槃のさとりにかない、 一切の限定を超えた絶対の自由をもつものであるという意。
又言。「但因↢順余方↡故、有↢天・人之名↡。顔貌端正、超世希有。容色微妙、非↠天非↠人。皆受↢自然虚无之身、無極之躰↡。」
またのたまはく (*大経・下)、 「▲かならず*超絶して去つることを得て、 *安養国に往生せよ。 *横に*五悪趣を截り、 悪趣自然に閉づ。 *道に昇るに窮極なし。 *往き易くして人なし。 その国逆違せず、 自然の牽くところなり」 と。 以上
超絶して (迷いの世界を) 超え離れて。
道 仏果。 仏のさとり。
往き易くして人なし 阿弥陀仏の本願力によるから浄土に往生することは容易であるが、 自力の心を捨てて真実信心を得る人は少ないから、 浄土に往生する人は稀であるという意。
又言。「必得↢超絶去↡、往↢生安養国↡。横截↢五悪趣↡、悪趣自然閉。昇↠道无↢窮極↡、易↠往而无↠人。其国不↢逆違↡、自然之所↠牽。」以上
【12】聖言、 あきらかに知んぬ、 ▲煩悩成就の凡夫、 生死罪濁の群萌、 *往相の心行を獲ればすなはち*大乗正定の聚に住す。 *正定聚に住すればかならず*滅度に至る。 ▲かならず滅度に至るは、 すなはちこれ*常楽なり。 常楽すなはちこれ大涅槃なり。 大涅槃はすなはちこれ*利他教化地の果なり。 この身はすなはちこれ*無為法身なり。 無為法身はすなはちこれ畢竟平等身なり。 畢竟平等身はすなはちこれ*寂滅なり。 寂滅はすなはちこれ*実相なり。 実相はすなはちこれ*法性なり。 法性はすなはちこれ*真如なり。 真如はすなはちこれ*一如なり。
往相の心行 阿弥陀仏より回向された信心と念仏。
利他教化地の果 他の衆生を救済する位。
聖言明知。煩悩成就凡夫、生死罪濁群萠、獲↢往相心行↡、即住↢大乗正定之聚↡。住↢正定聚↡、必至↢滅度↡。必至↢滅度↡、即是常楽、常楽即是大涅槃、即是利他教化地果。是身即是无為法身、无為法身即是畢竟平等身、畢竟平等身即是寂滅、寂滅即是実相、実相即是法性、法性即是真如、真如即是一如也。
【13】▲しかれば、 もしは因、 もしは果、 一事として阿弥陀如来の清浄願心の回向成就したまふところにあらざることあることなし。 因浄なるがゆゑに、 果また浄なり、 知るべし。
爾者若因若果、无↠有↤一事非↣阿弥陀如来清浄願心之所↢廻向成就↡。因浄故果亦浄也。応↠知。
【14】▲二つに↑還相回向といふは、 すなはち利他教化地の益なり。 ▲すなはちこれ必至補処の願 (第二十二願) より出でたり。 また一生補処の願と名づけ、 また還相回向の願と名づくべし。
二言↢還相廻向↡者、則利他教化地益也。即是出↢於必至補処之願↡。亦名↢一生補処之願↡、亦可↠名↢還相廻向之願↡。
【15】願 (第二十二願) 成就の文、 ¬経¼ (*大経・下) にのたまはく、 「▲かの国の菩薩、 みなまさに*一生補処を究竟すべし。 その本願、 衆生のためのゆゑに、 弘誓の功徳をもつてみづから荘厳し、 あまねく一切衆生を*度脱せんと欲せんをば除く」 と。 以上
願成就文¬経¼言。「彼国菩薩、皆当↣究↢竟一生補処↡。除↫其本願為↢衆生↡故、以↢弘誓功徳↡、而自荘厳、普欲↪度↩脱一切衆生↨。」以上
【16】▲聖言、 あきらかに知んぬ。 大慈大悲の弘誓、 広大難思の利益、 いまし*煩悩の稠林に入りて*諸有を開導し、 すなはち*普賢の徳に遵ひて群生を悲引す。
煩悩の稠林 煩悩が多くあることを密林に喩えていう。
聖言明知。大慈大悲弘誓、広大難思利益、乃入↢煩悩稠林↡開↢道諸有↡、則遵↢普賢之徳↡悲↢引群生↡。
【17】▲しかれば、 もしは往、 もしは還、 一事として如来の清浄願心の回向成就したまふところにあらざることあることなし、 知るべし。
爾者、若往若還、无↠有↤一事非↣如来清浄願心之所↢廻向成就↡也。応↠知。
【18】▲ここをもつて浄土の縁、 熟して、 調達 (*提婆達多)、 闍王 (*阿闍世) をして逆害を興ぜしめ、 *濁世の機を憫れんで、 釈迦、 *韋提をして安養を選ばしめたまへり。 つらつらかれを思ひ、 静かにこれを念ずるに、 達多・闍世、 博く*仁慈を施し、 弥陀・釈迦、 深く*素懐を顕せり。 これによりて、 論主 (天親) は広大無碍の浄信を宣布し、 あまねく*雑染堪忍の群生を開化す。 宗師 (曇鸞) は*往還大悲の回向を顕示して、 ねんごろに*他利利他の深義を弘宣せり。 *聖権の化益、 あまねく一切凡愚を利せんがため、 *広大の心行、 ただ逆悪*闡提を引せんと欲してなり。
仁慈 いつくしみ恵むこと。
素懐 本意。 本懐。
雑染堪忍 雑染は煩悩によってけがされていること。 堪忍は娑婆世界のこと。
他利利他の深義 如来の救済を衆生からいえば他 (如来) が利すといい、 仏からいえば他 (衆生) を利すという。
聖権 聖は仏、 権は衆生を導くために仮に人間のすがたをとってあらわれた提婆達多、 阿闍世、 韋提希等を指す。
広大の心行 無辺の徳をもつ他力回向の信心と念仏。
是以浄土縁熟、調達・闍王興↢逆害↡、濁世機憫、釈迦韋提選↢安養↡。倩思↠彼静念↠此、達多・闍世博施↢仁慈↡、弥陀・釈迦深顕↢素懐↡。依↠之論主宣↢布広大无浄信↡、普徧開↢化雑染堪忍群生↡。宗師顕↢示往還大悲廻向↡、慇懃弘↢宣他利・利他深義↡。聖権化益徧為↠利↢一切凡愚↡、広大心行、唯欲↠引↢逆悪闡提↡。
▲いま庶はくは道俗等、 大悲の願船には清浄の信心を順風とし、 無明の闇夜には、 *功徳の宝珠を大炬とす。 ▲心昏く識寡なきもの、 敬ひてこの道を勉めよ。 悪重く障多きもの、 深くこの信を崇めよ。 ▲ああ、 弘誓の強縁、 *多生にも値ひがたく、 真実の浄信、 *億劫にも獲がたし。 ▼たまたま信心を獲ば、 遠く*宿縁を慶べ。 ▲もしまたこのたび疑網に覆蔽せられば、 かへつてかならず曠劫多生を*経歴せん。 *摂取不捨の真理、 超捷易往の教勅、 *聞思して遅慮することなかれ。 ▲慶ばしきかな、 愚禿、 仰いでおもんみれば、 *心を*弘誓の仏地に樹て、 情を難思の法海に流す。 ▲聞くところを嘆じ、 獲るところを慶びて、 *真言を採集し、 師釈を鈔出して、 もつぱら無上尊を念じて、 ことに広大の恩を報ず。
功徳の宝珠 阿弥陀仏の名号のこと。
多生にも値ひがたく いくたび生を重ねても容易にあえるものではなく。
聞思して… 本願のいわれを聞きひらき、 疑いためらってはならない。
心を… ¬大唐西域記¼ 巻三の 「心を仏地に樹て、 情を法海に流す」 という文による。 弘誓の仏地は仏の本願を大地に喩えたもの。
真言 真実の言教のことで、 阿弥陀仏の救いを説く教え。
庶道俗等、大悲願舩清浄信心而為↢順風↡、无明闇夜功徳宝珠而為↢大炬↡。心昏識寡、敬勉↢斯道↡。悪重鄣多、深崇↢斯信↡。噫弘誓強縁多生難↠値、真実浄信億劫叵↠獲。遇獲↢信心↡遠慶↢宿縁↡。若也此廻覆↢蔽疑網↡、更必逕↢歴曠劫多生↡。摂取不捨之真理、超捷易往之教勅、聞思莫↢遅慮↡。慶哉、愚禿仰惟、樹↢心弘誓仏地↡、流↢情難思法海↡。嘆↠所↠聞慶↠所↠獲、採↢集真言↡鈔↢出師釈↡、専念↢无上尊↡特報↢広大恩↡。
○念仏正信偈
【19】▲これによりて曇鸞菩薩の ¬註論¼ (*論註・上) を披閲するにのたまはく、 「▲それ菩薩は仏に帰す、 孝子の父母に帰し、 忠臣の君后に帰して、 *動静おのれにあらず、 *出没かならず由あるがごとし。 恩を知りて徳を報ず、 理よろしくまづ*啓すべし」 と。 取要 仏恩の深重なることを信知して、 「念仏正信偈」 を作りていはく、
動静おのれにあらず 身勝手な立居振舞をしない。
出没 出入り。
啓す 申し上げる。
因↠茲披↢閲曇鸞菩薩¬註論¼↡言。「夫菩薩帰↠仏、如↧孝子之帰↢父母↡、忠臣之帰↢君后↡、動静非↠己、出没必由↥。知↠恩報↠徳、理宜↢先啓↡。取要 信↢知仏恩深重↡、作↢¬念仏正信偈¼曰。
【20】▲*西方不可思議尊、 ▲*法蔵菩薩*因位のうちに、
西方不可思議尊 阿弥陀仏のこと。
西方不可思議尊 法蔵菩薩因位中
▲殊勝の本弘誓を超発して、 ▲*無上大悲の願を建立したまふ。
超↢発殊勝本弘誓↡ 建↢立无上大悲願↡
▲思惟摂取するに五劫を経たり。 ▲菩提の妙果、 上願に酬ひたり。
思惟摂取経↢五劫↡ 菩提妙果酬↢上願↡
▲本誓を満足するに十劫を歴たり。 ▲寿命延長にして、 よく量ることなし。
満↢足本誓↡歴↢十劫↡ 寿命延長莫↢能量↡
▲慈悲深遠にして虚空のごとし、 ▲智慧円満して巨海のごとし。
慈悲深遠如↢虚空↡ 智慧円満如↢巨海↡
▲*清浄微妙無辺の刹、 ▲広大荘厳*等具足せり。
清浄微妙無辺の刹 刹は梵語クシェートラ (kşetra) の音写。 国土・世界の意。 煩悩のけがれを離れた実相の境界で、 一切の限定を超えた阿弥陀仏の浄土のこと。
等 「等しく」 とも読む。
清浄微妙无辺刹 広大荘厳等具足
▲種々の功徳ことごとく成満す。 ▲十方諸仏の国に超逾せり。
種種功徳悉成満 超↢逾十方諸仏国↡
▲あまねく難思・無碍光を放ちて、 ▲よく無明大夜の闇を破したまふ。
普放↢難思・无光↡ 能破↢无明大夜闇↡
▲*智光明朗にして慧眼を開く。 ▲*名声、 十方に聞えずといふことなし。
名声 阿弥陀仏の名号のこと。
智光明朗開↢慧眼↡ 名声靡↠不↠聞↢十方↡
▲如来の功徳はただ仏のみ知りたまへり。 ▲仏法蔵を集めて凡愚に施す。
如来功徳唯仏知 集↢仏法蔵↡施↢凡愚↡
▲弥陀仏の日、 あまねく照耀す。 ▲すでによく無明の闇を破すといへども、
弥陀仏日普照耀 已能雖↠破↢无明闇↡
▲*貪愛・*瞋嫌の雲霧、 ▲つねに清浄信心の天に覆へり。
瞋嫌 いかり嫌うこと。
貪愛・瞋嫌之雲霧 常覆↢清浄信心天↡
▲たとへばなほ日月星宿の、 煙霞・雲霧等に覆はるといへども、
譬猶↧如日・月・星宿 雖↠覆↢煙・霞・雲・霧等↡
▲その雲霧の下明らかにして闇なきがごとし。 ▲信知するに日月の光益に超えたり。
其雲霧下明无↞闇 信知超↢日月光益↡
▲かならず無上浄信の暁に至れば、 ▲三有生死の雲晴る、
必至↢无上浄信暁↡ 三有生死之雲晴
▲清浄無碍の光耀朗らかにして、 ▲一如法界の真身顕る。
清浄无光耀朗 一如法界真身顕
▲信を発して称名すれば、 光摂護したまふ、 ▲また現生無量の徳を獲。
発↠信称名光摂護 亦獲↢現生无量徳↡
▲無辺・難思の光不断にして、 ▲さらに時処諸縁を隔つることなし。
无辺・難思光不断 更无↠隔↢時処諸縁↡
▲諸仏の護念まことに疑なし、 ▲十方同じく称讃し*悦可す。
悦可 よろこび、 認可すること。
諸仏護念真莫↠疑 十方同称讃悦可
▲惑染・逆悪斉しくみな生じ、 謗法・闡提回すればみな往く。
惑染・逆悪斉皆生 謗法・闡提廻皆往
▲*当来の世、 経道滅せんに、 ▲*特にこの経を留めて住すること百歳せん。
当来の世… 末法の時代 (教のみがあって行・証のない時代) が一万年続いた後、 自力成仏の道を説いた聖道門の経典がすべてこの世界から消え失せることをいう。
特に… 法滅 (三宝滅尽) の時代になっても、 ¬大経¼ に説かれた念仏の教えだけは、 この世にいつまでもとどまりのこる。 「百歳」 は満数の意、 いつまでもということ。
当来之世経道滅 特留↢此経↡住百歳
▲*いかんぞこの大願を疑惑せん、 ▲*ただ釈迦如実の言を信ぜよ。
如何疑↢惑斯大願↡ 唯信↢釈迦如実言↡
▲印度西天の論家、 ▲中夏 (中国) ・日域 (日本) の高僧、
印度西天之論家 中夏・日域之高僧
▲大聖世雄 (釈尊) の正意を開き、 ▲如来の本誓、 機に応ずることを明かす。
開↢大聖世雄正意↡ 如来本誓明↠応↠機
▲釈迦如来、 *楞伽山にして、 ▲衆のために告命したまふ。
楞伽山 楞伽は梵語ランカー (Laņkā) の音写。 釈尊が ¬楞伽経¼ を説いた山。
釈迦如来楞伽山 為↠衆告命南天竺
▲南天竺 (南印度) に、 龍樹菩薩、 世に興出して、 ▲ことごとくよく*有無の見を摧破せん。
龍樹菩薩興↢出世↡ 悉能摧↢破有无見↡
▲大乗無上の法を宣説し、 ▲*歓喜地を証して安楽に生ぜんと。
宣↢説大乗无上法↡ 証↢歓喜地↡生↢安楽↡
▲¬十住毘婆沙論¼ を造りて、 ▲難行の険路、 ことに悲憐せん、
造↢¬十住婆沙論¼↡ 難行嶮路特悲憐
▲易往の大道広く開示す。 ▲恭敬の心をもつて執持して、
易往大道広開示 応↧以↢恭敬心↡執持
▲名号を称し▲疾く不退を得べし。 ▲信心清浄なればすなはち仏を見たてまつると。
称↢名号↡疾得↦不退↥ 信心清浄即見↠仏
▲天親菩薩、 ¬論¼ (浄土論) を作りて説かく、 ▲修多羅によりて真実を顕す。
天親菩薩作↢¬論¼↡説 依↢修多羅↡顕↢真実↡
▲*横超の本弘誓を光闡し、 ▲不可思議の願を*演暢したまへり。
演暢 広く説きのべること。
光↢闡横超本弘誓↡ 演↢暢不可思議願↡
▲*本願力の回向によるがゆゑに、 ▲*具縛を度せんがために一心を彰す。
由↢本願力廻向↡故 為↠度↢具縛↡彰↢一心↡
▲功徳の大宝海に帰入すれば、 ▲かならず*大会衆の数に入ることを獲。
大会衆の数に… 浄土で阿弥陀仏が説法する時の集会を広大会と名づけ、 それに参列し聞法する大衆を大会衆という。 ここでは信心の行者が、 現生 (この世) において正定聚に入り、 阿弥陀仏の眷属となることをいう。
帰↢入功徳大宝海↡ 必獲↠入↢大会衆数↡
▲*蓮華蔵世界に至ることを得れば、 ▲すなはち*寂滅平等身を証せしむ。
寂滅平等身 煩悩が完全に滅して、 一如平等の真実をさとったもの。 ここでは仏のこと。
得↠至↢蓮華蔵世界↡ 即証↢寂滅平等身↡
▲煩悩の林に遊びて神通を現じ、 ▲生死の園に入りて応化を示すと。
遊↢煩悩林↡現↢神通↡ 入↢生死園↡示↢応化↡
▲曇鸞大師をば、 梁の*蕭王、 ▲つねに鸞 (曇鸞) の方に向かひて菩薩と礼す。
蕭王 南朝梁の武帝 (464ー549) のこと。 名は蕭衍。 502年、 南斉の和帝の禅譲によって帝位につき、 梁を興した。 仏教を深く信奉。 侯景の乱によって憂死した。 通常は 「しょうおう」 と読むが、 当派依用音によって 「そうおう」 と振る。
曇鸞大師梁蕭王 常向↢巒方↡菩薩
▲*三蔵流支、 *浄教を授けしかば、 ▲*仙経を焚焼して楽邦に帰す。
浄教を… ¬続高僧伝¼ 巻六では ¬観経¼ を授けたとするが、 諸説があって定かではない。
仙経 長生不死の神仙術を説く道教の書。 曇鸞大師は江南の道士、 陶弘景 (陶隠居) から仙経十巻を授けられたといわれる。
三蔵流支授↢浄教↡ 焚↢焼仙経↡帰↢楽邦↡
▲天親菩薩の ¬論¼ (浄土論) を註解して、 ▲如来の本願、 称名に顕す。
天親菩薩¬論¼註解 如来本願顕↢称名↡
▲往還の回向は本誓による。 ▲煩悩成就の凡夫人、
往還廻向由↢本誓↡ 煩悩成就凡夫人
▲信心開発すればすなはち*忍を獲、 ▲生死すなはち涅槃なりと証知す。
信心開発即獲↠忍 証↢知生死即涅槃↡
▲かならず*無量光明土に到りて、 ▲諸有の衆生みなあまねく化すと。
必到↢无量光明土↡ 諸有衆生皆普化
▲道綽、 聖道の証しがたきことを決して、 ▲ただ浄土の通入すべきことを明かせり。
道綽決↢聖道難↟証 唯明↣浄土可↢通入↡
▲万善は自力なれば勤修を貶す、 ▲円満の徳号、 専称を勧むと。
万善自力貶↢勤修↡ 円満徳号勧↢専称↡
▲三不三信の誨慇懃にして、 ▲*像末・法滅同じく悲引す。
像末法滅… 像法・末法・法滅 (三宝滅尽) の時代を通じて、 本願の名号は人々を救いつづけるという意。
三不・三信誨慇懃 像末滅法同悲引
▲一生悪を造れども、 弘誓に遇へば、 ▲安養界に至りて*妙果を証すと。
妙果 すぐれた証果。 仏のさとりのこと。
一生造↠悪遇↢弘誓↡ 至↢安養界↡証↢妙果↡
▲善導独り仏の正意にあきらかにして、 ▲深く本願によりて真宗を興したまふ。
善導独明↢仏正意↡ 深藉↢本願↡興↢真宗↡
▲定散と逆悪とを矜哀して、 ▲*光明・名号因縁を示す。
光明名号… 名号は衆生に与えられて信心の因となり、 光明はこの人を照らしまもる縁となるという救済のありさまをいう。
矜↣哀定散与↢逆悪↡ 光明・名号示↢因縁↡
▲涅槃の門に入りて、 真心に値へば、 ▲かならず*信・喜・悟の忍を獲。
入↢涅槃門↡値↢真心↡ 必獲↢於信・喜・悟忍↡
▲*難思議往生を得る人、 ▲すなはち法性の常楽を証すと。
得↢難思議往生↡人 即証↢法性之常楽↡
▲源信広く一代の教を開きて、 ▲ひとへに安養に帰して一切を勧む。
源信広開↢一代教↡ 偏帰↢安養↡勧↢一切↡
▲諸経論によりて教行を撰びたまふ。 ▲まことにこれ濁世の目足たり。
依↢諸経論↡撰↢教行↡ 誠是為↢濁世目足↡
▲得失を*専雑に決判して、 ▲念仏の真実門に*回入せしむ。
回入 自力をひるがえして、 本願に帰入すること。
決↢判得失於専雑↡ 迴↢入念仏真実門↡
▲*ただ浅深を執心に定めて、 ▲報化二土まさしく弁立せりと。
ただ浅深を… 専修の者は、 本願を執りたもつ信心が深く決定しているから報土に往生するが、 雑修の者は、 信心が浅く不決定であるから化土にしか往生できないと弁立 (説き明かすこと) したという意。
唯定↢浅深於執心↡ 報・化二土正辨立
▲源空もろもろの聖典を*暁了して、 ▲善悪の凡夫人を憐愍せしむ。
暁了 あきらかに理解すること。
源空暁↢了諸聖典↡ 憐↢愍善悪凡夫人↡
▲真宗の教証、 片州に興ず。 ▲選択本願、 濁世に施す。
真宗教証興↢片州↡ 選択本願施↢濁世↡
▲生死流転の家に還来すること、 ▲決するに*疑情をもつて*所止とす。
疑情 阿弥陀仏の本願を疑いはからう心。
所止 迷いの世界に止まるところの理由 (所以)。
還↢来生死流転家↡ 決以↢疑情↡為↢所止↡
▲すみやかに寂静無為の楽に入ること、 ▲かならず信心をもつて*能入とすと。
能入 よく浄土に入ることのできる因のこと。
速入↢寂静无為楽↡ 必以↢信心↡為↢能入↡
▲論説・師釈ともに同心に、 ▲無辺の極濁悪を*拯済す。
拯済 救いたすけること。
論説師釈共同心 拯↢済无辺極濁悪↡
▲道俗*時衆みなことごとくともに、 ▲ただこの高僧の説を信ずべし。
時衆 現在、 道場に参集している人々。 また広く今の世の人々。
道俗時衆皆悉共 唯可↠信↢斯高僧説↡
六十行一百二十句の偈頌、 すでに畢りぬ。
六十行一百二十句偈頌已畢。
○問答分
【21】▲問ふ。 念仏往生の願 (第十八願)、 すでに三心を発したまへり。 論主 (天親)、 なにをもつてのゆゑに一心といふや。
問。念仏往生願已発↢三心↡、論主何以故言↢一心↡。
▲答ふ。 愚鈍の衆生をして覚知易からしめんがためのゆゑに、 論主、 三を合して一としたまふか。 三心といふは、 一つには至心、 二つには信楽、 三つには欲生なり。
答。愚鈍衆生覚知為↠令↠易故、論主合↠三為↠一歟。言↢三心↡者、一者至心、二者信楽、三者欲生。
【22】▲わたくしに字訓をもつて ¬論¼ (浄土論) の意を闚ふに、 三を合して一とすべし。
私以↢字訓↡闚↢論意↡合↠三応↠一。
▲その意いかんとならば、 一つには至心。 「至」 といふは真なり、 誠なり。 「心」 といふは種なり、 実なり。 二つには信楽。 「信」 といふは真なり、 実なり、 誠なり、 満なり、 極なり、 成なり、 用なり、 重なり、 審なり、 験なり。 「楽」 といふは欲なり、 願なり、 慶なり、 喜なり、 楽なり。 三つには欲生。 「欲」 といふは、 願なり、 楽なり、 覚なり、 知なり。 「生」 といふは、 成なり、 興なり。
其意何者、一者至心、至者真・誠、心者種・実。二者信楽、信者真・実・誠・満・極・成・用・重・審・験、楽者欲・願・慶・喜・楽。三者欲生、欲者願・楽・覚・知、生者成・興也。
▲しかれば、 「至心」 はすなはちこれ*誠種真実の心なるがゆゑに、 疑心あることなし。 「信楽」 はすなはちこれ*真実誠満の心なり、 *極成用重の心なり、 *欲願審験の心なり、 *慶喜楽の心なり。 ゆゑに疑心あることなし。 「欲生」 はすなはちこれ*願楽の心なり、 *覚知成興の心なり、 ゆゑに三心みなともに真実にして疑心なし。 疑心なきがゆゑに三心すなはち一心なり。 字訓かくのごとし、 これを思択すべし。
誠種真実の心 往生成仏の因種 (たね) となる真実にして誠なる心。
真実誠満の心 仏の真実が満入している心。
極成用重の心 完成 (至極成就) された本願のはたらき (用) を敬い、 尊重する心。
欲願審験の心 仏の慈悲を明らかにあじわい、 浄土をこのもしくまちもうける心。
慶喜楽の心 救いの法を聞いてよろこぶ心。
願楽の心 必ず往生せしめられると浄土をまちもうける心。
覚知成興の心 仏と成り大悲を興して、 衆生救済の活動をなさしめられることを明らかに知る心。
爾者至心即是誠種真実之心、故无↠有↢疑心↡。信楽即是真実誠満之心、極成用重之心、欲願審験之心、慶喜楽之心。故无↠有↢疑心↡。欲生即是願楽之心、覚知成興之心。故三心皆共真実而无↢疑心↡、故三心即一心。字訓如↠斯、可↣思↢択之↡。
【23】また三心といふは、 一つには至心、 ▲この心すなはちこれ、 如来の至徳円修満足真実の心なり。 阿弥陀如来、 真実の功徳をもつて一切に*回施したまへり。 ▲すなはち名号をもつて至心の体とす。 ▲しかるに、 十方衆生、 穢悪汚染にして清浄の心なし、 虚仮雑毒にして真実の心なし。 ▲ここをもつて如来、 *因中に菩薩の行を行じたまひし時、 三業の所修、 乃至一念一刹那も、 清浄真実の心にあらざることあることなし。 ▲如来、 清浄の真心をもつて、 諸有の衆生に回向したまへり。
因中 因位の時。
法蔵菩薩であった時。 →
因位
復言↢三心↡者、一者至心、斯心即是如来至徳円修満足真実之心。阿弥陀如来、以↢真実功徳↡迴施一切↡。即以↢名号↡為↢至心躰↡。然十方衆生、穢悪汚染无↢清浄心↡、虚仮雑毒无↢真実心↡。是以如来因中行↢菩薩行↡時、三業所修、乃至一念一刹那、无↠有↠非↢清浄真実心↡。如来以↢清浄真心↡、迴↢向諸有衆生↡。
【24】¬経¼ (*大経・上) にのたまはく、 「▲*欲覚・瞋覚・害覚を生ぜず。 *欲想・瞋想・害想を起さず。 *色・声・香・味の法に着せず。 忍力成就して衆苦を計らず。 少欲知足にして*染・恚・痴なし。 三昧常寂にして智慧無碍なり。 ▲*虚偽諂曲の心あることなし。 *和顔愛語にして*意を先にして承問す。 ▲勇猛精進にして志願倦むことなし。 ▲もつぱら*清白の法を求めて、 もつて群生を恵利す。 ▲三宝を恭敬し、 師長に奉事す。 *大荘厳をもつて衆行を具足し、 もろもろの衆生をして功徳成就せしめたまふ」 と。 抄出
欲覚瞋覚害覚 むさぼり、 いかり、 害を加えようとする分別作用。
欲想瞋想害想 想は外界の対象を知覚表象するはたらきで、 欲覚・瞋覚・害覚を生ぜしめる原因となる。
色声香味の法 感官のはたらく対象。 経の原文には 「色・声・香・味・触・法」 とある。
虚偽諂曲の心 うそいつわりの心、 相手にこびへつらう心。
和顔愛語 おだやかな顔とやさしい言葉。
意を先にして承問す 相手の意志を先んじて知り、 よく受け入れて教え導くこと。
清白の法 清浄潔白な無漏 (煩悩のない状態) の善法。
大荘厳 三法を恭敬し、 師長を奉事することによって得られた福徳と智慧の二つの荘厳。 また誓願を指すという説もある。
¬経¼言。「不↠生↢欲覚・瞋覚・害覚↡、不↠起↢欲想・瞋想・害想↡、不↠著↢色・声・香・味之法↡。忍力成就、不↠計↢衆苦↡。少欲知足、无↢染・恚・痴↡。三昧常寂、智慧无。无↠有↢虚偽・諂曲之心↡。和顔愛語、先↠意承問。勇猛精進、志願无↠倦。専求↢清白之法↡、以恵↢利群生↡、恭↢敬三宝↡、奉↢事師長↡。以↢大荘厳↡、具↢足衆行↡、令↢諸衆生功徳成就↡。抄出
【25】聖言、 あきらかに知んぬ、 ▲いまこの心は、 これ如来の清浄広大の至心なり、 これを真実心と名づく。 至心はすなはちこれ大悲心なるがゆゑに、 疑心あることなし。
聖言明知。今斯心是如来清浄広大至心、是名↢真実心↡。至心即是大悲心、故无↠有↢疑心↡。
【26】二つには信楽、 ▲すなはちこれ、 真実心をもつて信楽の体とす。 ▲しかるに具縛の群萌、 穢濁の凡愚、 清浄の信心なし、 真実の信心なし。 このゆゑに真実の功徳値ひがたく、 清浄の信楽獲得しがたし。 ▲これによりて釈 (散善義) の意を闚ふに、 愛心つねに起りてよく善心を汚し、 瞋嫌の心よく法財を焼く。 身心を苦励して日夜十二時に急に走め急に作して*頭燃を灸ふがごとくすれども、 すべて雑毒の善と名づく、 また虚仮の行と名づく、 真実の業と名づけざるなり。 この雑毒の善をもつてかの浄土に回向する、 これかならず不可なり。 ▲なにをもつてのゆゑに、 まさしくかの如来、 菩薩の行を行じたまひし時、 乃至一念一刹那も、 三業の所修みなこれ真実心中に作したまひしによるがゆゑに、 *疑蓋雑はることなし。 ▲如来、 清浄真実の信楽をもつて、 諸有の衆生に回向したまへり。
疑蓋 蓋はおおうの意。 疑いは真実をおおいかくすので疑蓋という。
二者信楽、即是以↢真実心↡為↢信楽躰↡。然具縛群萠、穢濁凡愚、无↢清浄信心↡、无↢真実信心↡。是故真実功徳難↠値、清浄信楽難↢叵獲得↡。依↠之闚↢釈意↡、愛心常起能汚↢善心↡、瞋嫌之心能焼↢法財↡。苦↢励身心↡、日夜十二時、急走急作、如↣炎↢頭燃↡衆名↢雑毒之善↡、亦名↢虚仮之行↡、不↠名↢真実業↡也。以↢此雑毒之善↡、迴向彼浄土↡、此必不可也。何以故、正由↧彼如来行↢菩薩行↡時、乃至一念一刹那、三業所修、皆是真実心中作↥故、疑盖无↠雑。如来以↢清浄真実信楽↡、廻↢向諸有衆生↡。
【27】本願 (第十八願) 成就の文、 ¬経¼ (*大経・下) にのたまはく、 「▲諸有の衆生、 その名号を聞きて信心歓喜せん」 と。 抄出
本願成就文¬経¼言。「諸有衆生、聞↢其名号↡、信心歓喜。」抄出
【28】聖言、 あきらかに知んぬ、 ▲いまこの心はすなはちこれ本願円満清浄真実の信楽なり、 これを信心と名づく。 信心はすなはちこれ大悲心なるがゆゑに、 疑蓋あることなし。
聖言明知。今斯心即是本願円満清浄真実信楽。是名↢信心↡。信心即是大悲心、故无↠有↢疑蓋↡。
【29】三つには欲生、 ▲すなはち清浄真実の信心をもつて欲生の体とす。 ▲しかるに流転輪廻の凡夫、 曠劫多生の群生、 清浄の回向の心なし、 また真実の回向の心なし。 ▲ここをもつて如来、 因中に菩薩の行を行じたまひし時、 三業の所修、 乃至一念一刹那も、 回向を*首として大悲心を成就することを得たまふにあらざることあることなし。 ▲ゆゑに如来、 清浄真実の欲生心をもつて、 諸有衆生に回向したまへり。
首として 第一にして。 中心にして。
三者欲生、即以↢清浄真実信心↡為↢欲生躰↡。然流転輪廻凡夫、曠劫多生群生、无↢清浄迴向心↡、亦无↢真実迴向心↡。是以如来因中行↢菩薩行↡時、三業所修、乃至一念一刹那、无↠有↠非↤廻向為↠首得↢成↣就大悲心↡。故如来以↢清浄真実欲生心↡、廻↢向諸有衆生↡。
【30】本願 (第十八願) 成就の文、 ¬経¼ (*大経・下) にのたまはく、 「▲*至心に回向したまへり。 かの国に生ぜんと願ずれば、 すなはち往生を得、 不退転に住せん」 と。 取要
至心に回向したまへり 通常は 「至心に回向して」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。
本願成就文¬経¼言。「至心廻向、願生彼国、即得往生、住不退転。」取要
【31】聖言、 あきらかに知んぬ、 ▲いまこの心は、 これ如来の大悲、 諸有の衆生を招喚したまふの教勅なり。 すなはち大悲の欲生心をもつて、 これを回向と名づく。
聖言明知。今斯心是如来大悲、招↢喚諸有衆生↡之教勅。即以↢大悲之欲生心↡、是名↢廻向↡。
【32】▲三心みなこれ大悲回向心なるがゆゑに、 清浄真実にして疑蓋雑はることなし。 ゆゑに一心なり。
三心皆是大悲廻向心故、清浄真実疑盖无↠雑、故一心也。
【33】これによりて師釈を披きたるにいはく、 「▲*西の岸の上に人ありて喚ばひていはく、 ªなんぢ*一心に正念にしてただちに来れ、 われよくなんぢを護らん。 すべて水火の難に堕せんことを畏れざれº」 (*散善義) と。 また 「▲ª中間の白道º といふは、 すなはち*貪瞋煩悩のなかに、 よく清浄願往生の心を生ぜしむるに喩ふ。 ▲仰いで釈迦の*発遣を蒙り、 また弥陀の*招喚したまふによりて、 水火二河を顧みず、 かの願力の道に乗ず」 (*散善義) と。 略出
一心に正念 第十八願文の三心十念のこと。 一心とは他力の信心のこと。 正念とはここでは称名念仏のこと。
発遣 浄土に往生せよとすすめること。
招喚 浄土へ来れと招きよぶこと。
依↠之披↢師釈↡、云。「西岸上有↠人喚言、汝一心正念直来、我能護↠汝、衆不↠畏↠堕↢於水火之難↡。」又言。「中間白道者、即喩↣貪瞋煩悩中能生↢清浄願往生心↡也。仰蒙↢釈迦発遣↡、又藉↢弥陀招喚↡不↠顧↢水火二河↡、乗↢彼願力之道↡。」略出
【34】ここに知んぬ、 ▲「*能生清浄願心」 は、 これ凡夫自力の心にあらず、 大悲回向の心なるがゆゑに清浄願心とのたまへり。 ▲しかれば、 「一心正念」 といふは、 正念はすなはちこれ称名なり。 称名はすなはちこれ念仏なり。 一心はすなはちこれ深心なり。 深心はすなはちこれ堅固深信なり。 固深信はすなはちこれ真心なり。 真心はすなはちこれ金剛心なり。 金剛心はすなはちこれ無上心なり。 無上心はすなはちこれ淳一相続心なり。 淳一相続心はすなはちこれ大慶喜心なり。 大慶喜心を獲れば、 この心*三不に違す、 この心三信に順ず。 この心はすなはちこれ大菩提心なり。 大菩提心はすなはちこれ真実信心なり。 真実信心はすなはちこれ*願作仏心なり。 願作仏心はすなはちこれ*度衆生心なり。 度衆生心はすなはちこれ衆生を摂取して、 安楽浄土に生ぜしむる心なり。 この心はすなはちこれ畢竟平等心なり。 この心はすなはちこれ大悲心なり。 *この心作仏す。 *この心これ仏なり。 ▲これを 「▲如実修行相応」 (*浄土論) と名づくるなり、 知るべし。 三心すなはち一心の義、 答へをはりぬ。
能生清浄願心 「よく清浄の願心を生ず」
この心作仏す 如来回向の信心は仏道の正因であるから、 仏に作るという意。
この心これ仏なり 如来回向の信心の本質は仏心であることをいう。
是知、能生清浄願心是非↢凡夫自力心↡、大悲廻向心故、言↢清浄願心↡。爾者一心正念者、正念即是称名、称名即是念仏。一心即是深心、深心即是堅固深信、堅固深信即是真心、真心即是金剛心、金剛心即是无上心、无上心即是淳一相続心、淳一相続心即是大慶喜心。獲↢大慶喜心↡、是心違↢三不↡、是心順↢三信↡。是心即是大菩提心、大菩提心即是真実信心、真実信心即是願作仏心、願作仏心即是度衆生心、度衆生心即是摂↢取衆生↡生↢安楽浄土↡心。是心即是畢竟平等心、是心即是大悲心、是心作仏、是心是仏。是名↢如実修行相応↡也。応↠知。三心即一心之義答竟。
【35】▲また問ふ。 ¬大経¼ (第十八願) の三心と ¬観経¼ の三心と、 一異いかん。
又問。¬大経¼三心与¬観経¼三心↡一異云何。
答ふ。 両経の三心すなはちこれ一なり。 なにをもつてか知ることを得るとならば、 宗師 (善導) の釈にいはく、 至誠心のなかにいはく、 「▲ª至º といふは真なり、 ª誠º といふは実なり」 (*散善義) と。 人につき、 行について信を立つるなかにいはく、 「▲一心に弥陀の名号を専念する、 これを*正定の業と名づく」 (*同) と。 またいはく、 「▲深心すなはちこれ真実信心なり」 (*礼讃) と。 回向発願心のなかにいはく、 「▲この心深信せることなほ金剛のごとし」 (*散善義) と。 あきらかに知んぬ、 一心はこれ信心なり、 専念はすなはち正業なり。 一心のなかに至誠・回向の二心を摂在せり。 向の問のなかに答へをはりぬ。
答。両経三心即是一也。何以得↠知、宗師釈云、至誠心中云。「至者真、誠者実。就↠人就↠行立↠信中云。「一心専↢念弥陀名号↡是名↢正定之業↡。」又云。「深心即是真実信心。」迴向発願心中云。「此心深信由若↢金剛↡。」明知、一心是信心、専念即正業、一心之中摂↢在至誠・廻向之二心↡。向問中答竟。
【36】▲また問ふ。 以前二経 (大経・観経) の三心と、 ¬小経¼ の執持と、 一異いかん。
又問。已前二経三心、与↢¬小経¼執持↡、一異云何。
答ふ。 ▲¬経¼ (*小経) にのたまはく、 「▲名号を執持す」 と。 「執」 といふは心堅牢にして移らず、 「持」 といふは不散不失に名づく。 ゆゑに 「不乱」 といへり。 執持はすなはち一心なり、 一心はすなはち信心なり。 しかればすなはち、 「執持名号」 の真説、 「▲一心不乱」 の誠言、 かならずこれに帰すべし、 ことにこれを仰ぐべし。
答。¬経¼言。「執持名号↡。」執者心堅牢而不↠移、持者名↢不散・不失↡、故曰↢不乱↡。執持即一心、一心即信心。然則執持名号之真説、一心不乱之誠言、必可↠帰↠之、特可↠仰↠之。
【37】*論家 (天親) ・宗師 (善導)、 浄土真宗を開きて、 濁世、 邪偽を導かんとなり。 ▲三経の大綱、 *隠顕ありといへども、 一心を能入とす。 ゆゑに ¬経¼ の始めに、 「*如是」 と称す。 論主 (天親) 建めに 「一心」 とのたまへり。 すなはちこれ 「如是」 の義を彰すなり。
論家宗師 総じて七祖を指す。
如是 経の冒頭の 「如是我聞 (かくのごとく、 われ聞きたてまつりき)」、 「我聞如是 (われ聞きたてまつりき、 かくのごとく)」 の 「如是」。 信をあらわす語。
論家・宗師、開↢浄土真宗↡、道↢濁世邪偽↡。三経大綱雖↠有↢隠顕↡、一心為↢能入↡。故経始称↢「如是」↡。論主建言↢「一心」↡、即是彰↢如是之義↡。
いま宗師 (善導) の解 (*定善義) を披きたるにいはく、 「▲ª如意º といふは二種あり。 一つには衆生の意のごとし、 かの心念に随ひてみな応じてこれを*度す。 二つには弥陀の意のごとし、 五眼円かに照らし*六通自在にして、 機の度すべきものを観そなはして、 一念のうちに前なく後なく身心等しく赴く。 *三輪をもつて開悟せしめて、 おのおの益すること不同なり」 と。
度す 済度する。 迷いの世界 (此岸) の衆生をさとりの世界 (彼岸) にわたすこと。
今披↢宗師解↡云。「言↢如意↡者、有↢二種↡。一者如↢衆生意↡、随↢彼心念↡皆応度↠之。二者如↢弥陀之意↡、五眼円照、六通自在、観↢機可↠度者↡、一念之中无↠前无↠後、身心等赴、三輪開悟、各益不同也。」
またいはく (*般舟讃)、 「▲敬つてまうす、 *一切往生の知識等、 大きにすべからく慚愧すべし。 釈迦如来はまことにこれ慈悲の父母なり。 種々の方便をもつて、 われらが無上の信心を発起せしめたまふ」 と。 以上
一切往生の知識等 往生を願うすべての同行たち。 ここでの知識は同行、 法友の意。
又言。「敬白↢一切往生知識等↡、大須↢慚愧↡、釈迦如来実是慈悲父母、種種方便発↢起我等无上信心↡」以上
○結嘆
【38】▲あきらかに知んぬ、 二尊の大悲によりて、 一心の*仏因を獲たり。 まさに知るべし、 この人は希有人なり、 最勝人なりと。 しかるに流転の愚夫、 輪廻の群生、 信心起ることなし、 真心起ることなし。
仏因 仏果 (仏のさとり) を得る因。
明知、縁↢二尊大悲↡、獲↢一心仏因↡。当↠知、斯人希有人、勝人也。然流転愚夫、輪廻群生、信心无↠起、真心无↠起。
ここをもつて ¬経¼ (*大経・下) にのたまはく、 「▲もしこの経を聞きて、 信楽受持すること、 難のなかの難、 これに過ぎたる難なし」 と。 また 「*一切世間極難信法」 (*称讃浄土経) と説きたまへり。
一切世間極難信法 「自力の心では決して信じることができないという意。 本願救済の法は、 世間の常識的な道理を超越しているから、 自力にとらわれた心では信じ難い法であるということ。 そのことはまたこの法の尊高をあらわしている。
是以¬経¼言。「若聞↢斯経↡信楽受持、難中之難、无↢過↠此難↡。」亦説↢「一切世間極難信法」↡。
【39】▲まことに知んぬ、 大聖世尊 (釈尊)、 世に出興したまふ*大事の因縁、 *悲願の真利を顕して、 如来の直説としたまへり。 凡夫の*即生を示すを、 大悲の宗致とすとなり。 これによりて諸仏の教意を闚ふに、 三世のもろもろの如来、 出世のまさしき本意、 ただ阿弥陀の不可思議の願を説かんとなり。 *常没の凡夫人、 願力の回向によりて真実の功徳を聞き、 無上の信心を獲れば、 すなはち大慶喜を得、 不退転地を獲。 煩悩を断ぜしめずして、 すみやかに大涅槃を証すとなり。
大事の因縁 最も大切ないわれ。 ここでは如来出現の本意、 本懐のこと。
悲願の真利 真利は真実の利益、 めぐみ。 大悲の本願によって救われること。
即生 信心を獲得すると同時に、 正定聚の位に入って往生が決定すること。
常没 つねに迷いの世界に沈んでいること。
誠知、大聖世尊、出↢興於世↡大事因縁、顕↢悲願真利↡、為↢如来直説↡。示↢凡夫即生↡為↢大悲宗致↡。因↠茲、闚↢諸仏教意↡、三世諸如来出世正本意、唯説↢阿弥陀不可思議願↡。常没凡夫人、縁↢願力迴向↡聞↢真実功徳↡、獲↢无上信心↡、則得↢大慶喜↡、獲↢不退転地↡。不↠令↠断↢煩悩↡、速証↢大涅槃↡矣。
浄土文類聚鈔