浄土三経往生文類
【1】 *大経往生といふは、 如来選択の本願、 *不可思議の願海、 これを*他力と申すなり。 これすなはち*念仏往生の願因によりて、 *必至滅度の願果をうるなり。 *現生に*正定聚の位に住して、 かならず*真実報土にいたる。 これは阿弥陀如来の*往相回向の真因なるがゆゑに、 *無上涅槃のさとりをひらく。 これを ¬*大経¼ の*宗致とす。 このゆゑに大経往生と申す、 また*難思議往生と申すなり。
不可思議の願海 本願が衆生の思慮を超えたものであることを広大な海に喩えていう。
念仏往生の願因 念仏往生の願 (第十八願) に誓われている往生の因。 すなわち真実の行信をいう。
必至滅度の願果 必至滅度の願 (第十一願) に誓われている証果。 すなわち大涅槃のさとりをいう。
宗致 「むねとすとなり」 (左訓) 教典に説かれた法義の最も肝要なことがら。
【2】 この如来の往相回向につきて、 真実の行業あり。 すなはち諸仏称名の悲願 (第十七願) にあらはれたり。 称名の悲願は ¬大無量寿経¼ (上) にのたまはく、 「▲たとひわれ仏を得んに、 十方世界の無量の諸仏、 ことごとく*咨嗟し、 わが名を*称せずは、 *正覚を取らじ」 と。 文
咨嗟 「よろづの仏にほめらるるなり」 (左訓) 讃嘆の意で、 ほめたたえること。
称 称揚の意で、 名号をほめたたえること。
称名・信楽の悲願 (第十七・十八願) 成就の文、 ¬経¼ (大経・下) にのたまはく、 「▲十方恒沙の諸仏如来、 みなともに無量寿仏の威神功徳不可思議なるを讃嘆したまふ。 ▲あらゆる衆生、 その名号を聞きて信心歓喜して、 乃至*一念せん。 *至心回向したまへり。 かの国に生れんと願ずれば、 すなはち往生を得、 *不退転に住せん。 ただ*五逆と*正法を*誹謗するを除く」 と。 文
至心回向したまへり 通常は 「至心に回向して」 と読む。 親鸞聖人は如来回向の義をあらわすために、 このように読みかえた。
【3】 また真実信心あり。 すなはち念仏往生の悲願 (第十八願) にあらはれたり。 信楽の悲願は ¬大経¼ (上) にのたまはく、 「▲たとひわれ仏を得たらんに、 十方の衆生、 至心信楽して、 わが国に生れんと欲うて、 乃至十念せん。 もし生れずは、 正覚を取らじと。 ただ五逆と正法を誹謗せんを除かん」 と。 文
同本異訳の ¬*無量寿如来会¼ (上) にのたまはく、 「▲もしわれ*無上覚を証得せんとき、 余の仏*刹のうちのもろもろの有情類、 わが名を聞きをはりて、 所有の善根、 心々回向して、 わが国に生れんと願じて、 乃至十念せん。 もし生れずは、 *菩提を取らじと。 ただ*無間悪業を造り、 正法およびもろもろの聖人を誹謗せんを除かん」 と。 文
無上覚 この上ない仏のさとり。
刹 「くにといふ」 (左訓) 梵語クシェートラ (kşetra) の音写。国土・世界の意。
【4】 また*真実証果あり。 すなはち必至滅度の悲願 (第十一願) にあらはれたり。 *証果の悲願、 ¬大経¼ (上) にのたまはく、 「▲たとひわれ仏を得たらんに、 国のうちの人天、 *定聚に住し、 かならず*滅度に至らずは、 正覚を取らじ」 と。 文
真実証果 「まことのさとりをいふなり」 (左訓) →
補註2
証果 「まことの仏となるなり」 (左訓)
同本異訳の ¬無量寿如来会¼ (上) にのたまはく、 「▲もしわれ成仏せんに、 国のうちの有情、 もし決定して*等正覚を成り大涅槃を証せずは、 菩提を取らじ」 と。 文
¬無量寿如来会¼ (下) にのたまはく、 「▲他方仏国の諸有の衆生、 無量寿如来の名号を聞きてよく一念の浄信を発して*歓喜愛楽せん。 あらゆる善根回向して無量寿国に生れんと願ぜば、 願に随うてみな生れて、 不退転乃至*無上正等菩提を得んと。 *五無間と正法を誹謗し、 および聖者を謗ぜんをば除かん」 と。
歓喜…回向して 「信巻」 では如来回向の義をあらわして 「歓喜せしめ、 諸有の善根回向したまへるを愛楽して」 と読んでいる。
必至滅度・証大涅槃の願 (第十一願) 成就の文、 ¬大経¼ (下) にのたまはく、 「▲それ衆生あつて、 かの国に生れんもの、 みなことごとく*正定の聚に住せん。 ゆゑはいかんとなれば、 かの仏国のうちにはもろもろの*邪聚および*不定聚はなければなり」。 文
また ¬如来会¼ (下) にのたまはく、 「▲かの国の衆生と、 もしまさに生れんものは、 みなことごとく無上菩提を究竟し、 涅槃の処に到らん。 なにをもつてのゆゑに。 もし邪定聚および不定聚は、 *かの因を建立せることを*了知することあたはざるがゆゑなり」 と。 以上抄要
かの因を… 阿弥陀仏が浄土往生の因をたてたこと。
【5】 この真実の称名と真実の信楽をえたる人は、 すなはち正定聚の位に住せしめんと誓ひたまへるなり。 この正定聚に住するを、 等正を成るとものたまへるなり。 等正覚と申すは、 すなはち*補処の*弥勒菩薩とおなじ位となると説きたまへり。 しかれば、 ¬大経¼ (下) には 「▲*次如弥勒」 とのたまへり。
次如弥勒 「
次いで弥勒のごとしとなり」 (左訓) →
補註6
¬浄土論¼ (*論註・下) にいはく、 「▲ª*荘厳妙声功徳成就は、 偈に «*梵声悟深遠 微妙聞十方» とのたまへるがゆゑにº と。 これいかんぞ不思議なるや。 ¬経¼ にのたまはく、 ªもし人、 ただかの国土の清浄安楽なるを聞きて、 *剋念して生れんと願ずると、 また往生を得ると、 すなはち正定聚に入るº。 これはこれ、 国土の名字、 *仏事をなす。 いづくんぞ思議すべきや。 乃至 ▲ª*荘厳眷属功徳成就は、 偈に «*如来浄華衆 正覚華化生》とのたまへるがゆゑにº と。 これいかんぞ不思議なるや。 おほよそこれ雑生の世界は、 もしは胎もしは卵もしは湿もしは化、 眷属*そこばくなり。 苦楽万品なり。 雑業をもつてのゆゑに。 かの安楽国土は、 これ阿弥陀如来の正覚浄華の化生する所にあらざることなし。 同一に念仏して別の道なきがゆゑに。 遠く通ずるにそれ*四海のうちみな兄弟とするなり。 眷属無量なり。 いづくんぞ思議すべきや」。
荘厳妙声功徳成就 国土荘厳十七種の第十一荘厳。 浄土のすぐれた名は、 あまねく十方世界に聞えて、 すべての者を往生させる徳があるということを示す。
梵声悟深遠… 「梵声の悟深遠にして微妙なり。 十方に聞ゆ」 梵声は清浄な仏の声のこと。
剋念して…入る ¬論註¼ の当分では 「剋念して生ぜんと願ずれば、 また往生を得て、 すなはち正定聚に入る」 と読む。 剋念願生する者が浄土に往生して正定聚に入る義であるが、 親鸞聖人は原文を読みかえて、 剋念願生する者 (此土) と浄土に往生した者 (彼土) との二種の正定聚があることを示した。 剋念は心を専注して一心になること。 ここでは信心の異名。
仏事 衆生救済の仕事。
荘厳眷属功徳成就 国土荘厳十七種の第十三荘厳。 浄土の往生人はことごとく阿弥陀仏の正覚によって生れた清浄な者で優劣の差がないということ。 および一切世界の念仏者も平等の眷属であるということを示す。
如来浄華衆… 「如来浄華の衆は、 正覚の華より化生す」
そこばく 相当の数量。
またのたまはく (論註・下)、 「往生を願ずるもの、 本はすなはち*三三の品なれども、 いまは一二の殊なることなし。 また*淄澠の一味なるがごとし。 いづくんぞ思議すべきや」。 以上
また ¬論¼ (同・下) にいはく、 「▲ª*荘厳清浄功徳成就は、 偈に «*観彼世界相 勝過三界道» とのたまへるがゆゑにº と。 これいかんぞ不思議なるや。 凡夫人の煩悩成就せるあつて、 またかの浄土に生を得るに、 三界の*繋業畢竟じて牽かず。 すなはちこれ煩悩を断ぜずして*涅槃の分を得。 いづくんぞ思議すべきや」。 以上抄要
荘厳清浄功徳成就 国土荘厳十七種の第一荘厳。 浄土は三界を超越した清浄の世界であり、 煩悩の寂滅した涅槃の世界であって、 そこに往生すれば自然にさとりの智慧が得られるということを示す。 二十九種荘厳のすべてに通じる功徳とされる。
観彼世界相… 「かの世界の相を観ずるに、 三界の道に勝過せり」 (真仏土巻訓)
涅槃の分 涅槃の分斉。 涅槃のさとりそのもの。
【6】 この阿弥陀如来の*往相回向の*選択本願をみたてまつるなり。 これを*難思議往生と申す。 これをこころえて、 *他力には*義なきを義とすとしるべし。
【7】 二つに*還相の回向といふは、 ¬*浄土論¼ にいはく、 「▲本願力の回向をもつてのゆゑに、 これを*出第五門と名づく」 といへり。 これは還相の回向なり。 一生補処の悲願 (第二十二願) にあらはれたり。
大慈大悲の願 (第二十二願) 、 ¬大経¼ (上) にのたまはく、 「▲たとひわれ仏を得たらんに、 他方仏土のもろもろの菩薩衆、 わが国に来生すれば、 究竟してかならず*一生補処に至る。 その本願の自在の所化、 衆生のためのゆゑに、 *弘誓の鎧を被て、 徳本を積累し、 一切を度脱し、 諸仏の国に遊びて、 菩薩の行を修し、 十方の諸仏如来を供養し、 恒沙無量の衆生を開化して無上正真の道を立せしめんをば除かんと。 *常倫に超出し、 *諸地の行現前し、 *普賢の徳を修習せん。 もししからずは、 正覚を取らじ」 と。 文
弘誓の鎧 衆生済度の誓願が堅固なことを鎧に喩える。
常倫…現前し 通常は 「常倫諸地の行を超出し、 現前に」 と読む。 常倫はつねなみ、 普通一般の意。
諸地の行 十地の菩薩が行う自利利他の修行。 →菩薩
この悲願は、 如来の還相回向の御ちかひなり。
【8】 如来の二種の回向によりて、 真実の信楽をうる人は、 かならず正定聚の位に住するがゆゑに他力と申すなり。 しかれば、 ¬*無量寿経優婆提舎願生偈¼ にいはく、 「▲いかんが*回向したまへる。 一切苦悩の衆生を捨てずして、 心につねに*作願すらく、 回向を*首として大悲心を成就することを*得たまへるがゆゑに」 とのたまへり。
回向したまへる 通常は 「回向する」 と読む。
作願 衆生救済を願うこと。
首として 第一にして。 中心にして。
得たまへるがゆゑに 通常は 「得んとするがゆゑに」 と読む。
これは ¬大無量寿経¼ の宗致としたまへり。 これを*難思議往生と申すなり。
【9】 *観経往生といふは、 修諸功徳の願 (第十九願) により、 至心発願のちかひにいりて、 万善諸行の自善を回向して浄土を*欣慕せしむるなり。 しかれば、 ¬無量寿仏観経¼ には、 *定善・*散善、 *三福*九品の諸善、 あるいは自力の称名念仏を説きて、 九品往生をすすめたまへり。 これは他力のなかに自力を宗致としたまへり。 このゆゑに観経往生と申すは、 これみな方便*化土の往生なり。 これを*双樹林下往生と申すなり。
欣慕 ねがいしたうこと。
【10】至心発願の願 (第十九願)、 ¬大経¼ (上) にのたまはく、 「▲たとひわれ仏を得んに、 十方の衆生、 *菩提心を発し、 *もろもろの功徳を修して、 至心発願してわが国に生れんと欲はん。 寿終らん時に臨まんに、 たとひ大衆と*囲繞してその人の前に現ぜずは、 正覚を取らじ」 と。 文
また、 ¬*悲華経¼ 「*大施品」 にのたまはく、 「願はくは、 われ*阿耨多羅三藐三菩提を成りをはらんに、 その余の無量無辺*阿僧祇の諸仏世界の所有の衆生、 もし*阿耨多羅三藐三菩提心を発し、 もろもろの善根を修して、 わが界に生れんと欲はば、 臨終の時、 われまさに大衆と囲繞してその人の前に現ずべし。 その人、 われを見て、 すなはちわが前にして心に歓喜を得て、 われを見るをもつてのゆゑに、 もろもろの障礙を離れてすなはち身を捨ててわが界に来生せしめん」 と。 文
大施品 引用の文は 「大施品」 になく 「諸菩薩本授記品」 にある。
至心発願の願 (第十九願) 成就の文、 ¬大経¼ (下) にのたまはく、 「▲仏、 阿難に告げたまはく、 ª十方世界の諸天・人民、 それ心を至してかの国に生れんと願ずることあらん。 おほよそ*三輩あり。 ▲その上輩は、 家を捨て欲を棄てて*沙門となり、 菩提心を発して一向にもつぱら無量寿仏を念じ、 もろもろの功徳を修してかの国に生れんと願ぜん。 これらの衆生、 寿終らん時に臨みて、 無量寿仏、 もろもろの大衆とその人の前に現ぜん。 乃至 ▲阿難、 それ衆生あつて、 今世において無量寿仏を見たてまつらんと欲うて、 無上菩提の心を発し功徳を修行してかの国に生れんと願ずべし。º ▲仏、 阿難に語りたまはく、 ªそれ中輩は、 十方世界の諸天・人民、 それ心を至してかの国に生れんと願ずることあらん。 行じて沙門となり、 大きに功徳を修することあたはずといへども、 まさに無上菩提の心を発して一向にもつぱら無量寿仏を念じ、 多少、 善を修し、 *斎戒を奉持し、 *塔像を起立し、 沙門に飯食せしめ、 *繒を懸け灯を燃し、 華を散じ香を焼くべし。 これをもつて回向してかの国に生れんと願ぜん。 その人、 終りに臨みて、 乃至 つぶさに*真仏のごとく、 もろもろの大衆とその人の前に現ぜん。º 乃至 ▲仏、 阿難に告げたまはく、 ªそれ下輩は、 十方世界の諸天・人民、 それ心を至してかの国に生れんと欲ふことあらん。 たとひもろもろの功徳をなすことあたはずとも、 まさに無上菩提の心を発して一向に意をもつぱらにして、 乃至十念、 無量寿仏を念じて、 その国に生れんと願ずべし。 もし深法を聞きて歓喜信楽して疑惑を生ぜず、 乃至一念、 かの仏を念じて、 至誠心をもつてその国に生れんと願ぜん。 この人、 終りに臨みて、 *夢にかの仏を見たてまつり、 また往生を得ん。 功徳・智慧、 次いで中輩のもののごとくならんとなりº」 と。 以上略抄
塔像 堂塔と仏像。
繒 仏殿にかける絹の天蓋 (かさ)。
真仏 上輩の臨終に現れる仏を指す。
夢に ¬三経往生文類¼ (略本) では 「夢のごとくに」 と読んでいる。
¬大経¼ (上) にのたまはく、 「▲たとひわれ仏を得たらんに、 国のうちの菩薩、 乃至少功徳のもの、 その*道場樹の無量の光色あつて、 高さ四百万里なるを知見することあたはずは、 正覚を取らじ」 と。 文
道場樹の願 (第二十八願) 成就の文、 ¬経¼ (大経・上) にのたまはく、 「▲また無量寿仏、 その道場樹の高さ四百万里ならん。 その本周囲五十*由旬ならん。 枝葉四に布きて二十万里ならん。 一切の衆宝自然に合成せり。 *月光摩尼・*持海輪宝の衆宝の王たるをもつてして、 これを荘厳せり。 条のあひだに*周帀して、 宝の*瓔珞を垂れたり。 百千万色にして種々に異変す。 無量の光炎、 照耀極まりなし。 珍妙の宝網その上に*羅覆せり。 乃至 ▲一切みな*甚深の法忍を得て*不退転に住せん。 仏道を成るに至るまで、 *六根清徹にしてもろもろの悩患なけん」 と。 以上略出
持海輪宝 極楽を飾る摩尼宝珠の別名。 海のように広大な徳を有する宝珠。 一説には、 須弥山の頂上にある威華という名の如意宝珠のことで、 大海の水をよくたもつからこの名があるという。
周帀 めぐりまわること。 あまねくゆきわたること。
羅覆 「こめおほへり」 (左訓) 上から覆いめぐらすこと。
首楞厳院 (源信) の ¬*要集¼ (下) に、 感禅師 (*懐感) の釈 (*群疑論) を引きていはく、 「▲問ふ。 ¬*菩薩処胎経¼ の*第二に説きたまへり。 ª西方この*閻浮提を去ること十二億那由他に*懈慢界ありと。 乃至 ▲意を発す衆生、 阿弥陀仏国に生れんと欲ふもの、 深く懈慢国土に着して、 前進みて阿弥陀仏国に生るることあたはず。 億千万の衆、 時に一人あつて、 よく阿弥陀仏国に生ずº といへり。 ▲この経をもつて*准難するに、 生を得べしや。 ▲答ふ。 ¬群疑論¼ に善導和尚の*前の文を引きて、 この難を釈せり。 またみづから*助成していはく、 ªこの経の下の文にのたまはく、 «なにをもつてのゆゑに、 みな懈慢して*執心牢固ならざるによつてなり»。 ここに知りぬ、 雑修のものは執心牢からざるの人とす。 かるがゆゑに懈慢国に生ずるなり。 もし雑修せずして、 もつぱらこの業を行ずるは、 これすなはち執心牢固にして、 さだめて極楽国に生ず。 乃至 また*報の浄土の生はきはめて少なし。 *化の浄土のなかに生ずるものは少なからず。 かるがゆゑに経の別説、 まことに相違せざるなり」 と。 以上略出
第二 「西方…生ず」 の文は現行の ¬菩薩処胎経¼ では第三 (巻三) にある。
准難 「なずらへなんずといふ」 (左訓) なぞらえて論難する。
前の文 ¬群疑論¼ 巻四の 「雑修のものは万に一も生ぜず、 専修の人は千に一も失することなし」 という ¬礼讃¼ 取意の文を指す。
助成 補足して義を成立させること。
執心牢固 本願をとりたもつ心 (信心) がひとすじで堅固であること。
【11】これらの文のこころにて、 *双樹林下往生と申すことを、 よくよくこころえたまふべし。
【12】*弥陀経往生といふは、 植諸徳本の誓願 (第二十願) によりて*不果遂者の*真門にいり、 *善本徳本の名号を選びて万善諸行の少善をさしおく。 しかりといへども、 定散自力の行人は、 不可思議の仏智を疑惑して信受せず。 如来の尊号をおのれが善根として、 みづから浄土に回向して*果遂のちかひをたのむ。 不可思議の名号を称念しながら、 *不可称不可説不可思議の大悲の誓願を疑ふ。 その罪ふかくおもくして、 七宝の牢獄にいましめられて、 いのち五百歳のあひだ、 自在なることあたはず、 *三宝をみたてまつらず、 つかへたてまつることなしと、 如来は説きたまへり。 しかれども、 如来の尊号を称念するゆゑに、 *胎宮にとどまる。 徳号によるがゆゑに**難思往生と申すなり。 不可思議の誓願、 疑惑する罪によりて**難思議往生とは申さずと知るべきなり。
不果遂者 「はたしとげずはというなり」 (左訓)
善本徳本 自力の念仏のこと。 名号には因位の法蔵菩薩の万善をおさめるから善本といい、 果位の阿弥陀仏の万徳を具するから徳本という。 自力念仏の人は名号の多善根性にとらわれ、 多く称えて善根を積み、 救われようとするからとくにこの名を立てる。
果遂 「つひにはたすべしとなり」 (左訓)
難思往生 「自力の念仏者なり」 (左訓)
難思議往生 「本願他力の往生とまうす」 (左訓)
【13】植諸徳本の願文、 ¬大経¼ (上) にのたまはく、 「▲たとひわれ仏を得んに、 十方の衆生、 わが名号を聞きて、 念をわが国に係けて、 *もろもろの*徳本を植ゑて、 心を至し回向してわが国に生れんと欲はん。 果遂せずは、 正覚を取らじ」 と。 文
もろもろの徳本を植えて 名号を称えるという意
同本異訳の ¬無量寿如来会¼ (上) にのたまはく、 「▲もしわれ成仏せんに、 無量国のうちの所有の衆生、 わが名を説かんを聞きて、 おのれが善根をもつて極楽に回向せん。 もし生れずは、 菩提を取らじ」 と。 文
願 (第二十願) 成就の文、 ¬経¼ (大経・下) にのたまはく、 「▲それ胎生のものの処するところの宮殿、 あるいは百由旬、 あるいは五百由旬なり。 おのおのそのなかにして、 もろもろの快楽を受くること、 *忉利天上のごとし。 またみな自然なり。 その時に、 慈氏菩薩 (*弥勒)、 仏にまうしてまうさく、 ª世尊、 なんの因なんの縁にか、 かの国の人民、 *胎生・化生なるº と。 仏、 慈氏に告げたまはく、 ªもし衆生あつて、 疑惑の心をもつてもろもろの功徳を修し、 かの国に生れんと願じて、 *仏智・不思議智・不可称智・大乗広智・無等無倫最上勝智を了らずして、 この諸智において疑惑して信ぜず。 しかるになほ罪福を信じて、 *善本を修習して、 その国に生れんと願ぜん。 このもろもろの衆生、 かの宮殿に生れて、 寿五百歳ならん。 つねに仏を見たてまつらず、 経法を聞かず、 菩薩・声聞聖衆を見ず。 このゆゑにかの国土、 これを胎生といふ。 乃至 ▲弥勒まさに知るべし、 かの化生のものは智慧勝れたるがゆゑに。 その胎生のものはみな智慧なしº。 乃至 ▲仏、 弥勒に告げたまはく、 ªたとへば*転輪聖王に七宝の牢獄あり。 種々に荘厳し*床帳を張設し、 もろもろの*繒幡を懸けたらん。 もしもろもろの小王子、 罪を王に得たらん、 すなはちかの獄のうちに内れて、 繋ぐに金の鎖をもつてせんがごとしº。 乃至 ▲仏、 弥勒に告げたまはく、 ªこのもろもろの衆生、 またまたかくのごとし。 仏智を疑惑するをもつてのゆゑに、 かの胎宮に生ず。 乃至 ▲もしこの衆生、 その*本の罪を識りて、 深くみづから*悔責してかの処を離れんと求めよ。 乃至 ▲弥勒まさに知るべし、 それ菩薩あつて疑惑を生ずるは、 *大利を失ふとすº」 と。 略抄
床帳を張設し 坐臥する床を設け、 その上に幕 (帳) を張りめぐらして。
繒幡 うす絹でつくられたはたぼこ。
本の罪 仏智を疑惑した罪。
悔責 くいせめること。
大利 「涅槃のさとり」 (左訓)
また ¬*無量寿如来会¼ (下) にのたまはく、 「仏、 弥勒に告げたまはく、 ªもし衆生あつて、 疑悔に随うて善根を積集して、 仏智・*普遍智・不思議智・*無等智・*威徳智・*広大智を希求せんに、 みづからの善根において信を生ずることあたはず。 この因縁をもつて、 五百歳において宮殿のうちに住すと。 乃至 阿逸多 (弥勒)、 なんぢ*殊勝智のものを観そなはすに、 かの広慧の力によるがゆゑに、 *かの化生を受く。 蓮華のなかにおいて*結跏趺坐す。 なんぢ*下劣の輩を観そなはすに、 乃至 もろもろの功徳を修習することあたはざるがゆゑに、 *因なくして無量寿仏に奉事せん。 このもろもろの人等、 みな昔疑悔せんによつて致すところとするなりº と。 乃至 仏、 弥勒に告げたまはく、 ªかくのごとし、 かくのごとし。 もし疑悔に随うて、 もろもろの善根を種ゑて、 仏智乃至広大智を希求することあらん。 みづからの善根において信を生ずることあたはず。 仏の名を聞きて*信心を起すによるがゆゑに、 かの国に生るといへども、 蓮華のうちにおいて出現することを得ず。 かれらの衆生、 *華胎のうちに処すること、 *園苑宮殿の想のごとしº」。 乃至略出
普遍智 一切にあまねく満ちわたる智慧。
無等智 並びなくすぐれた智慧。
威徳智 人間の思いをはるかに超えた、 すぐれた徳をそなえた智慧。
広大智 広く一切を知る智慧。
殊勝智のもの 化生の人は仏の諸智を得るから殊勝智 (ことにすぐれた智慧) の者という。 →
化生❸
かの化生…結跏趺坐す 「化身土巻」 では 「かの蓮華のなかに化生することを受けて結跏趺坐せん」 と読んでいる。 結跏趺坐は足の甲を左右のももの上に置く作法。
因なくして…奉事せん 明信仏智 (明らかに仏智の不思議を信じて疑いのないこと) の正因のないまま無量寿仏にお仕えすることになろう。 通常は 「因って無量寿仏に奉事したてまつることなし」 と読む。
信心 ここでは自力の信のこと。
華胎 蓮華の胎内。
園苑 「うしろのその、 まへのその」 (左訓)
光明寺 (善導) の釈 (*定善義) にいはく、 「▲華に含んでいまだ出でず。 あるいは*辺界に生じ、 あるいは*宮胎に堕す」 と。 以上
*憬興師 (*述文賛) のいはく、 「仏智を疑ふによつて、 かの国に生るといへども、 辺地にあつて*聖化の事を被らず。 もし胎生せば、 よろしくこれを重く捨つべし」 と。 以上
聖化の事を被らず 阿弥陀仏の教化、 導きを受けることがない。
【14】これらの真文にて、 *難思往生と申すことを、 よくよくこころえさせたまふべし。
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏
*康元二年三月二日これを書写す。
康元二年 1257年。
愚禿親鸞八十五歳