入出二門偈頌
*愚禿*親鸞作
【1】 *世親菩薩 (天親) は、 ▲*大乗*修多羅の真実功徳によりて、
大乗修多羅 親鸞聖人は ¬銘文¼ で浄土三部経のこととする。
世親菩薩依↢大乗 修多羅真実功徳↡
▲一心に尽十方*不可思議光如来に*帰命せしめたまへり。
一心帰↢命尽十方 不可思議光如来↡
無礙の光明は大慈悲なり。 この光明はすなはち諸仏の智なり。
无光明大慈悲 斯光朙即諸仏智
▲かの世界を観ずるに辺際なし、 究竟せること広大にして虚空のごとし。
観↢彼世界↡无↢辺際↡ 究竟広大如↢虚空↡
▲五つには*仏法不思議なり。 ▲このなかの仏土不思議に、
五者仏灋不思議 此中仏土不思議
二種の不思議力まします。 これは安楽の至徳を示すなり。
有↢二種不思議力↡ 斯示↢安養之至徳↡
一つには業力、 いはく*法蔵の*大願業力に成就せられたり。
一者業力謂法蔵 大願業力所↢成就↡
二つには正覚の阿弥陀法王の善力に摂持せられたり。
二者正覚阿弥陀 法王善力所↢摂持↡
▲*女人・根欠・*二乗の種、 安楽浄刹に永く生ぜず。
二乗の種… 底本には 「二乗の種に」 とある。 二乗は声門・縁覚の小乗、 種は心のこと。 浄土では自利のみを求める小乗の心は決して起きないという意。
女人根欠二乗種 安楽浄刹永不↠生
▲如来浄華のもろもろの聖衆は、 *法蔵正覚の華より化生す。
法蔵正覚の… 浄土の聖者たちはみな、 法蔵菩薩が成就したさとりの華から生れるという意。
如来浄華諸聖衆 法蔵正覚華化生
▲諸機はもとすなはち*三三の品なれども、 いまは*一二の殊異なし。
一二の殊異なし 浄土には上品とか下品といった種別がないことを示す。
諸機本則三三品 今无↢一二之殊異↡
▲同一に念仏して別の道なければなり、 ▲なほ*淄澠の一味なるがごとくなり。
同一念仏无↢別道↡ 猶↢如淄澠一味↡也
▲かの如来の本願力を観ずるに、 凡愚、 遇うて空しく過ぐるものなし。
観↢彼如来本願力↡ 凡愚遇无↢空過者↡
▲一心専念すれば、 すみやかに真実功徳の大宝海を満足せしむ。
一心専念速満↢足 真実功徳大宝海↡
▲*菩薩は五種の門に入出して、 *自利*利他の行成就したまへり。
菩薩は… ここでの菩薩は法蔵菩薩のこと。 入は自利、 出は利他にあたる。
菩薩入↢出五種門↡ 自利利他行成就
▲不可思議兆載劫に、 漸次に五種の門を成就したまへり。
不可思議兆載劫 漸次成↢就五種門↡
▲なんらをか名づけて*五念門とすると。 礼と讃と作願と観察と回となり。
何等名為↢五念門↡ 礼讃作願観察廻
▲いかんが礼拝する。 身業に礼したまひき。 阿弥陀仏*正遍知の、
正遍知 梵語サムヤック・サンブッダ (samyak-saſbuddha) 漢訳で如来十号の一。 あまねく正しい智慧のある方という意。
云何礼拝身業 阿弥陀仏正徧知
もろもろの群生を*善巧方便して、 安楽国に生ぜん意をなさしめたまふがゆゑなり。
善↢巧方↣便諸群生↡ 為↧生↢安楽国↡意↥故
▲すなはちこれを入第一門と名づく、 またこれを名づけて*近門に入るとす。
即是名↠入↢第一門↡ 亦是名為↠入↢近門↡
▲いかんが讃嘆する。 口業に讃じたまひき。 *名義に随順して仏名を称せしめ、
名義 名号の実義、 いわれ。
云何讃嘆口業讃 随↢順名義↡称↢仏名↡
如来の*光明智相によりて、 実のごとく修し相応せんと欲ふゆゑなり。
光明智相 光明の本質は智慧であり、 智慧のすがたは光明であることをいったもの。 智慧を本質とする光明が、 十方を照らして衆生の迷いを除く。
依↢如来光明智相↡ 欲↧如↠実修相応↥故
すなはちこれ無礙光如来の、 摂取選択の本願なるがゆゑなり。
則斯无光如来 摂取選択本願故
▲これを名づけて入第二門とす。 すなはち*大会衆の数に入ることを獲るなり。
大会衆の数に… 浄土で阿弥陀仏が説法する時の集会を広大会と名づけ、 それに参列し聞法する大衆を大会衆という。 ここでは信心の行者が、 現在 (この世) において正定聚に入り、 阿弥陀仏の眷属となることをいう。
是名為↠入↢第二門↡ 即獲↠入↢大会衆数↡
▲いかんが作願する。 心につねに願じたまひき。 一心専念してかしこに生れんと願ぜしむ。
云何作願心常願 一心専念願↠生↠彼
*蓮華蔵世界に入ることを得て、 実のごとく*奢摩他を修せんと欲はしむ。
得↠入↢蓮華蔵世界↡ 欲↧如↠実修↦奢摩他↥
▲これを名づけて入第三門とす。 またこれを名づけて*宅門に入るとす。
是名為↠入↢第三門↡ 亦是名為↠入↢宅門↡
▲いかんが観察する。 智慧をして観ぜしめたまひき。 正念にかしこを観じて、 実のごとく、
云何観察智慧観 正念観↠彼欲↧如↠実
*毘婆舎那を修行せしめんと欲ふがゆゑに。 かの所に到ることを得れば、 すなはち、
修↦行婆舎那↥故 得↠到↢彼所↡則受↢用
種々無量の法味の楽を受用せしむ。 ▲すなはちこれを入第四門と名づく。
種々无量法味楽↡ 即是名↠入↢第四門↡
またこれを名づけて*屋門に入るとす。 菩薩の修行成就とは、
亦是名為↠入↢屋門↡ 菩薩修行成就者
四種は入の功徳を成就したまへり、 自利の行を成就したまへりと、 知るべし。
四種成↢就入功徳↡ 自利行成就応↠知
第五は出の功徳を成就したまへり。 菩薩の出第五門は、
第五成↢就出功徳↡ 菩薩出第五門者
▲いかんが回向する。 心に作願したまひき。 苦悩の一切衆を捨てずして、
云何廻向心作願 不↠捨↢苦悩一切衆↡
回向を首めとして、 大悲心を成就することを得たまへるがゆゑに、 功徳を施したまふなり。
廻向為↠首得↣成↢就 大悲心↡故施↢功徳↡
かの土に生れをはりて、 すみやかに疾く奢摩他・毘婆舎那、
生↢彼土↡已速疾得↢ 奢摩他婆舎那
*巧方便力成就することを得をはりて、 生死の園・煩悩の林に入りて、
功方便力成就↡已 入↢生死薗煩悩林↡
*応化身を示し、 神通に遊ぶ、 *教化地に至りて群生を利せしむ。
教化地 自在に衆生を教化し利益し救済する地位。 八地以上の菩薩の境地のこと。
示↢応化身↡遊↢神通↡ 至↢教化地↡利↢群生↡
▲すなはちこれを出第五門と名づく。 *園林遊戯地門に入るなり。
即是名↢出第五門↡ 入↢薗林遊戯地門↡
本願力の回向をもつてのゆゑに、 利他の行成就したまへりと、 知るべし。
以↢本願力廻向↡故 利他行成就応↠知
無礙光仏、 *因地の時、 この弘誓を発し、 この願を建てたまふ。
因地 因位の時。 法蔵菩薩であった時。 →
因位
无光仏因地時 発↢斯弘誓↡建↢此願↡
▲菩薩すでに智慧心を成じ、 方便心・無障心を成じ、
菩薩已成↢智慧心↡ 成↢方便心无鄣心↡
*妙楽勝真心を成就して、 すみやかに*無上道を成就することを得たまへるなり。
妙楽勝真心 行者が五念門を行じて得る自利利他円満の真実心で、 浄土の最勝の真実の徳 (妙楽勝真) にかなう菩提心のこと。 親鸞聖人はこれを法蔵菩薩によって成就された心とみなし、 他力信心の徳をあらわす名とする。
無上道 この上ない仏のさとり。
成↢就妙楽勝真心↡ 速得↣成↢就无上道↡
▲自利と利他との功徳を成ずる、 すなはちこれを名づけて入出門とすとのたまへり。
成↢自利利他功徳↡ 則是名為↢入出門↡
【2】 *婆藪槃頭菩薩 (天親) の ¬論¼ (浄土論)、 *本師*曇鸞和尚註したまへり。
本師 本宗の祖師。
婆藪盤頭菩薩論 本師曇鸞和尚註
▲願力成就を五念と名づく、 ▲仏をしていはばよろしく*利他といふべし。
利他・他利 「行巻」 192頁9行以下の本文および脚註参照。
願力成就名↢五念↡ 仏而言宜↠言↢利他↡
衆生をしていはば*他利といふべし。 まさに知るべし、 いままさに仏力を談ぜんとす。
衆生而言言↢他利↡ 当↠知今将↠談↢仏力↡
▲如実修行相応といふは、 名義と*光明と随順するなり。
光明 十方衆生を礙りなく救う尽十方無礙光のいわれ。 光明が名の義でもある。
如実修行相応者 随↣順名義与↢光明↡
▲この信心をもつて一心と名づく。 ▲煩悩成就せる凡夫人、
以↢斯信心↡名↢一心↡ 煩悩成就凡夫人
煩悩を断ぜずして*涅槃を得、 すなはちこれ安楽自然の徳なり。
不↠断↢煩悩↡得↢涅槃↡ 則斯安楽自然徳
▲*淤泥華といふは、 ¬経¼ (*維摩経) に説いてのたまはく、 高原の陸地には蓮を生ぜず。
淤泥華 泥の中に咲く花。 蓮の花のこと。 →
蓮華
淤泥華者¬経¼説言 高原陸地不↠生↠蓮
*卑湿の淤泥に蓮華を生ずと。 これは凡夫、 煩悩の泥のうちにありて、
卑湿の淤泥… 湿地の泥沼に蓮の花が咲くように衆生の煩悩の泥の中に如来回向の信心が生ずることを喩えたもの。
卑湿淤泥生↢蓮華↡ 此喩↧凡夫在↢煩悩
仏の正覚の華を生ずるに喩ふるなり。 これは如来の本弘誓
泥中↡生↦仏正覚華↥ 斯示↢如来本弘誓
不可思議力を示す。 すなはちこれ入出二門を他力と名づくとのたまへり。
不可思議力↡即是 入出二門名↢他力↡
【3】 *道綽和尚、 解釈していはく、 ▲¬*月蔵経¼ にのたまはく、 わが末法に、
道綽和尚解釈曰 ¬大集経¼言我末法
行を起し道を修せんに、 一切の衆、 いまだ一人も獲得するものあらじと。
起↠行修↠道一切衆 未↠有↢一人獲得者↡
▲ここにありて心を起して行を立つるは、 すなはちこれ聖道なり、 自力と名づく。
在↠此起↠心立↠行者 則此聖道名↢自力↡
▲当今は末法にしてこれ五濁なり。 ただ浄土のみありて通入すべしと。
当今末法是五濁 唯有↢浄土↡可↢通入↡
▲今の時、 悪を起し衆罪を造る、 恒常なること暴風*駛雨のごとし。
駛雨 にわかにふる大雨。
今時起↠悪造↢衆罪↡ 恒常如↢暴風駛雨↡
本弘誓願に名を称せしむるは、 これ穢濁悪の衆生のためなり。
本弘誓願令↠称↠名 是為↢穢濁悪衆生↡
▲ここをもつて諸仏、 浄土を勧めたまへり。 たとひ一生悪業を造れども、
是以諸仏勧↢浄土↡ 縦令一生造↠悪者
▲三信相応すればこれ一心なり。 一心は淳心なれば如実と名づく。
三信相応是一心 一心淳心名↢如実↡
もし生ぜずは、 この*処なけん。 かならず安楽国に往生を得れば、
処 道理。
若不↠生者无↢是処↡ 必得↣往↢生安楽国↡
生死すなはちこれ大涅槃、 すなはち易行道なり、 他力と名づくと。
生死即是大涅槃 則易行道名↢他力↡
【4】 *善導和尚、 義解していはく、 ▲念仏成仏する、 これ真宗なり。
善導和尚義解曰 念仏成仏是真宗
▲すなはちこれを名づけて一乗海とす、 すなはちこれをまた*菩提蔵と名づく。
即是名為↢一乗海↡ 即是亦名↢菩提蔵↡
すなはちこれ*円教のなかの円教なり、 すなはちこれ頓教のなかの頓教なり。
円教 円満完全な教え。 仏教のうちで最も完全な教え。
即是円教中円教 即是頓教中頓教
▲真宗に遇ひがたし、 信を得ること難し。 難のなかの難、 これに過ぎたるはなし。
真宗叵↠遇難↠得↠信 難中之難无↠過↠斯
▼釈迦・諸仏、 これ真実慈悲の父母なり。 種々の
釈迦諸仏是真実 慈悲父母以↢種種
善巧方便をもつて、 われらが無上の真実信を発起せしめたまふ。
善功方便↡令↣発↢起 我等无上真実信↡
煩悩を具足せる凡夫人、 仏願力によりて信を獲得す。
具↢足煩悩↡凡夫人 由↢仏願力↡獲↢摂取↡
▲この人はすなはち*凡数の摂にあらず、 ▲これは人中の分陀利華なり。
凡数の摂 凡夫の仲間。
斯人即非↢凡数摂↡ 是人中分陀利華
この信は*最勝希有人なり、 この信は*妙好上上人なり。
最勝希有人 この上なくすぐれた功徳をそなえたきわめてまれな人。
妙好上上人 この上なくすぐれて好もしい人。 前項とともに真実信心の行者をほめたたえた言葉。
斯信最勝希有人 斯信妙好上上人
安楽土に到れば、 かならず自然に、 ▲すなはち法性の常楽を証せしむとのたまへり。
到↢安楽土↡必自然 即証↢法性之常楽↡
入出二門偈頌
七十四行
*愚禿釈*親鸞作