0711ほっ問答もんどう 

 

天臺てんだいいっしゅうのほかに、 また近代きんだい ¬ほっ¼ とうしんずるともがらあり。 みづからしょうしてほっしゅうごうす。

・第一問答

かのにいはく、 ¬ほっ¼ ぜんしょきょう得益とくやくあることなし。 ぜんきょう方便ほうべんせつなるがゆへに、 一切いっさいしゅじょうかいにゅう、 かぎりて ¬ほっ¼ にあり。 かるがゆへに ¬ほっ¼ 第一だいいち方便ほうべんぼんにいはく、 「にょせき所願しょがん今者こんじゃ満足まんぞく一切いっさいしゅじょうかいりょうにゅう仏道ぶつどう」 といへり。 ¬ほっ¼ ぜんしょきょうに、 かつてこのもんなし。 また ¬りょうきょう¼ (説法品) にいはく、 「じゅうねんいまだ真実しんじつをあらはさず」 といへり。 このきょうもんをみるに、 ¬ほっ¼ ぜんじゅうねんせつ得益とくやくあるべからず。

しかるに ¬かんぎょう¼ とうぜんきょうによりてしゅうをたてゝ、 だいじょうごうして念仏ねんぶつおうじょうをすゝむ、 このはなはだ不可ふかなり。

だいじょうといふは、 さんじょうなきをいちじょうともなづけ、 だいじょうともなづくるなり。 「方便ほうべんぼん (法華経巻一) にいはく、 「十方じっぽうぶつなかには、 たゞいちじょうほうのみありて、 ふたつもなくまたつもなし。 ぶつ方便ほうべんせつをばのぞく」 といへり。

しかるに ¬かんぎょう¼ の説相せっそうをみるに、 ちゅう三品さんぼん、 かのしょうじてたいほうをきゝてしょうしょうす。 かる0712がゆへにしりぬ、 かのはすなはち方便ほうべんなり、 なんぞだいじょうといはん。

しかのみならず、 ¬ほっ¼ のもんをもてじょうしゅうきょうするに、 念仏ねんぶつはこれけんごうなるべしといふ。

かくのごときの謗法ほうぼう邪見じゃけんあく、 いかんがこれをしゃくすべきや。

こた このもんにそむきにそむく。 まづにそむくといふは、 ぶつしたがひてほうをとくことどうなり。 かるがゆへに半満はんまんきょう異、ことに ぞうしゅうべつに、 しゅじょうしょうよくどうなるがゆへに、 しゅうほうおのおのことなり。 このをもてのゆへに、 如来にょらいあるいにんてんじょうほうをとき、 あるいさつはんいんをとく。 あるいぜんあるいとんだいしょう権実ごんじつヨロシキしたがひてこれをとくことどうなり。 しかりといへども、 えんにしたがふものみなだつこうむる。 もしなんじしょりゅうのごとく、 ¬ほっ¼ ぜんしょきょう得益とくやくなしといはゞ、 じゅうねんせっきょうみなせつなり。

つぎにもんにそむくといふは、 しょきょう説相せっそうことごとくみなじょしょうずう三段さんだんあり。 もし得益とくやくなくは、 なにをもてかずうとせん。 たゞしぜんきょうなかにをひて、 じょうぶつをあかさず。 当分とうぶん得益とくやく、 ならびにさつじゅ経釈きょうしゃくぶんみょうなり。

天臺てんだいは 「さつ処々しょしょとくにゅう (止観巻七上) しゃくす。 ¬ほっ¼譬喩ひゆぼんにいはく、 「われむかし、 ぶつしたがひてかくのごときのほうをきゝ、 もろもろのさつじゅぶつをみたり。 しかるにわれらこのにあづからずして、 はなはだみづからかんしょうす」 と0713いへり。 だいこのもんしゃくしてもん」 (法華文句巻上 釈譬喩品) に いはく、 「たゞこれ方等ほうどうきょうのなかに、 だいじょうじっをきゝしと。 いまとことならず。 かるがゆへににょほうといふなり。 じゅといふは、 たゞこれ方等ほうどうのなかのさつをあたふ。 じょうはこのにあづからずして、 はなはだみづからかんしょうす」 といへり。 かくのごときの経釈きょうしゃくぜん得益とくやくにはあらずや。

だいみょうしゃくしていはく、 「このみょうとかのみょうと、 みょうことなることなし」 (法華玄義巻二上) といへり。 「このみょう」 といふは ¬ほっ¼ なり、 「かのみょう」 といふは ¬ごん¼ なり。 だいのこゝろ、 きょうまたくこれおなじ。

ひくところの ¬りょうきょう¼ のもんじゅうをみるに、 かの ¬きょう¼ (無量義経説法品) にいはく、 「しゅじょうしょうよくどうにして種々しゅじゅ説法せっぽうす。 方便ほうべんりきをもてじゅうねんいまだ真実しんじつをあらはさず。 このゆへに、 しゅじょう得道とくどう差別しゃべつして、 とくじょうだいじょうずることをえず。 善男ぜんなん、 たとへばみずのよくけがれをあらふがごとし。 もしはもしはいけ、 もしはもしはかわたにみぞ大海たいかい、 ことごとくよくもろもろの垢穢くえをあらふ。 善男ぜんなんみずしょうはこれひとつなれども、 かわいけたにみぞ大海たいかい、 おのおのべつなり。 そのほっしょうといふは、 またかくのごとし」 といへり。

すでにこのゆへに、 しゅじょう得道とくどう差別しゃべつなりといふ。 これすな0714はちぜんきょう得益とくやくにあらずや。

つぎに念仏ねんぶつけんごうといふ、 いづれのきょういづれのろんをひきて、 かくのごときのあくをたつるや。 もともこれをあはれむべし。 謗法ほうぼうのとが罪業ざいごう阿鼻あびにあり。 おほよそ念仏ねんぶつおうじょうをあかすこと、 じょうさんぎょう一論いちろんにかぎらず、 自余じよしょきょう緒論しょろんのなかにこれをとくことしょうすべからず。

¬ほっ¼ しち (巻六) 「薬王やくおうぼんにいはく、 「もし如来にょらいめつのちひゃくさいのなかに、 もし女人にょにんありて、 このきょうてんをきゝてせつのごとくしゅぎょうすれば、 こゝにをひて命終みょうじゅうして、 すなはち安楽あんらくかいにゆきて、 弥陀みだぶつだいさつしゅにょうせられて、 じゅうしょれんのなかほううえしょうぜん」 といへり。

¬観音かんのんじゅきょう¼ (意) にいはく、 「たゞ一向いっこうにもはら弥陀みだぶつねんじて、 おうじょうするもののみありて、 つねに弥陀みだ現在げんざいしてめっしたまはずとみたてまつる」 といへり。

¬ぜん三昧ざんまいきょう¼ にいはく、 「極楽ごくらくきょうしゅ弥陀みだそんは、 念仏ねんぶつのもろもろのしゅじょうずいじゅんして、 毎日まいにち千遍せんべんじゅうしょきたりたまふ。 やくかんしたまふことたとへなし」 といへり。

¬ごんぎょう¼ (晋訳巻七浮言品) にいはく、 「またこうみょうをはなつを見仏けんぶつとなづく。 かのひかりをかくして命終みょうじゅうするもの、 念仏ねんぶつすればかならずぶつをみたてまつる。 命終みょうじゅうのち仏前ぶつぜんしょうず」 といへり。 またいはく、 「ねがわくは、 われいのちおわらんとするときにのぞんで、 ことごとく一切いっさいのもろもろのしょうのぞき、 めんマノアタリかの弥陀みだぶつたてま0715つりて、 すなはち安楽あんらくこくおうじょうすることをえしむ」 (般若訳華厳経巻四〇行願品) といへり。

¬じゅうおうじょうきょう¼ にいはく、 「もししゅじょうありて、 弥陀みだぶつねんじておうじょうがんずるものは、 かのぶつすなはちじゅうさつをつかはしてぎょうじゃようして、 もしはぎょうもしはもしはじゅうもしは、 もしはちゅうもしは一切いっさいのところにあくじんをして、 そのたよりをえしめざるなり」 といへり。

¬ずい陀羅だらきょう¼ にいはく、 「じょういんぎょう退転たいてんせざれば、 けつじょうして上々じょうじょうぼんおうじょうして、 しゃぶつぐうす」 といへり。

¬そんしょう陀羅だらきょう¼ (意) にいはく、 「毎日まいにちじゅう一遍いっぺんこれをじゅすれば、 弥陀みだぶつくにおうじょうす」 といへり。

¬しんろん¼ (真諦訳) にいはく、 「もしひと、 もはら西方さいほう安楽あんらくかい弥陀みだぶつねんじたてまつりて、 所修しょしゅ善根ぜんごんこうして、 かのかいしょうぜんとがんすれば、 すなはちおうじょうすることをえしむ」。

¬金剛こんごうきょう¼ (伝大師頌金剛経) 発願ほつがんもんにいはく、 「かみはじゅうおんほうじ、 しもはさんをすくひ、 もし見聞けんもんすることあらんものは、 ことごとくだいしんおこして、 この一報いっぽうをつくして、 おなじ極楽ごくらくこくしょうぜん」 といへり。

¬ほうしょうろん¼ (巻一信功徳品 巻四信功徳品) にいはく、 「このもろもろのどくによりて、 ねがわくは、 命終みょうじゅうのときにをひて、 弥陀みだぶつへんしんどくたてまつることをえん。 われおよ信者しんじゃも、 すでにかのぶつたてまつりをはりなば、 がんじて離垢りくげんをえてじょうだいしょうせん」 と0716いへり。

¬しょうろん¼ (真諦訳緒論釈巻一五) にいはく、 「しょしょうぜん、 このがんによりて、 ことごとく弥陀みだ内得ないとくじょうげんたてまつりてしょうがくじょうぜん」 といへり。

¬十住じゅうじゅう毘婆びばしゃろん¼ (巻五易行品意) にいはく、 「ぎょうどうといふは、 いはくたゞ信仏しんぶつ因縁いんねんをもてじょうしょうぜんとがんじて、 ぶつ願力がんりきじょうずれば、 すなはちかの清浄しょうじょうおうじょうすることをえて、 仏力ぶつりきじゅうして、 すなはちだいじょう正定しょうじょうじゅにいる。 正定しょうじょうといふはすなはちこれ阿毘あびばっなり。 たとへばすいじょうせんはすなはちたのしきがごとし」 といへり。

しゃだいのいはく、 「八万はちまん法蔵ほうぞうみょう肝心かんじん一代いちだい聖教しょうぎょうけっきょうなり。 しゅじょうしゅつにはかなめほうなり。 弥陀みだ来迎らいこうしておうじょうすることをう」 といへり。

みょうらくのいはく、 「しょきょうにほむるところおほく弥陀みだにあり。 かるがゆへに西方さいほうをもてしかもいちじゅんとす」 (輔行巻二) といへり。

うんほっのいはく、 「じょう弥陀みだをひとたびこんにふるれば、 すなはちだいじょうじょうぶつしゅうをくだす。 きかずしんぜざらんは、 あにおおきなるしつにあらずや」 といへり。

れいのいはく、 「一代いちだい弥陀みだきょうかんじゅんするに、 みなこれ円頓えんどん一仏いちぶつじょうほうにして、 すなはち摩訶まかえんなり」 (観経義疏巻上) といへり。

おほよそ弥陀みだみょうごうは、 一声ひとこえくちにとなふれば、 はちじゅう億劫おくこうしょうじゅうざいめっして、 一念いちねんしんじょうだいどくをうるなり。 ¬かんぎょう¼ にいはく、 「こえをしてたえざらしめて、 じゅうねんそくして南无なも弥陀みだぶつしょうするに、 ねん0717ねんのうちにをひてはちじゅう億劫おくこうしょうつみのぞく」 といへり。

¬りょう寿じゅきょう¼ (巻下) にいはく、 「それかのぶつみょうごうをきくことをえて、 かんやくない一念いちねんせんものあらん。 まさにしるべし、 このひとはだいをうとす。 すなはちこれじょうどくそくするなり」 といへり。

しゃくそんしょきょうのうちにゑらびてひとりじょうきょうをとゞめたまふ。 じゅうすることひゃくさいせんと。 おなじき ¬きょう¼ (大経巻下) にいはく、 「当来とうらいきょうどう滅尽めつじんせんに、 われ慈悲じひ哀愍あいみんをもて、 ひとりこのきょうをとゞめてじゅうすることひゃくさいせん。 それしゅじょうありてこのきょうにまうあふものは、 こゝろの所願しょがんしたがいてみなとくすべし」 といへり。

¬やくきょう¼ (巻四授不退転天子記品意) にいはく、 「こうしょうのときこうまづめっす、 大海たいかいのちにかっカハク 法滅ほうめつのとき小乗しょうじょうきょうまづめっし、 だいじょうきょうのちにめっす」。

しかるにじょうきょうは、 だい小乗しょうじょういろきょうかん、 ことごとくみなめっしてのちひゃくさいじゅうす。 もししからば、 だいじょうなかだいじょうといふべきなり。 もしなんじしょりゅうのごときんば、 しゃくそんあに 「我以がい慈悲じひ哀愍あいみんどくきょう (大経巻下) といはんや。 しかるに天臺てんだいだいは、 ほっ三昧ざんまいをえて ¬ほっしょ¼ (法華玄義巻一下) をつくり、 光宅こうたくして 「しゃ望風もうふう」 といふ。 光宅こうたく七度ななたびしょうじて七度ななたび ¬ほっしょ¼ をつくるといへども、 ¬きょう¼ のじんをしらず。 いはんや、 相伝そうでんなくしてわづかにきょうもんばかりをけんして、 しょきょう明文めいもんにくらくして、 かんほんちょう高徳こうとく祖師そししゃくして0718、 あまさへ念仏ねんぶつけんごうといふ。 このぞんぜんもの、 しゅつもとむるにはあらずして、 阿鼻あび罪業ざいごうをまねかん

もしほっじんをしらば、 もはら弥陀みだをたふとぶべし。 ゆへいかんとなれば、 弘法こうぼうだい ¬法華ほけきょう¼ の題号だいごうしゃくしていはく、 「いちじょうみょうほうれんきょうは、 かんざい密号みつごうなり。 浄妙じょうみょうこくにしては弥陀みだとなづけ、 じょくかいにしては観音かんのんとなづく (法華経開題意) といへり。

またいはく、 「むかしりょうぜんにありてはほっとなづく。 いま西方さいほうにありては弥陀みだなづけたてまつる。 しゃにしてはしょうしてかんおんとす。 さんやくおなじ一体いったいなり」 といへり。

でんぎょうだいのいはく、 「はじめみょうほうれんきょうより、 をはりらい而去にこもんにいたるまで、 一々いちいちもんしゅみょうなり。 みなこれ西方さいほう弥陀みだぶつなり」 といへり。

かくのごとくのしゃくをみるに、 ほっ弥陀みだとまたく一体いったいみょうなり。 もししからば、 ほっしんぜんものは、 もはら弥陀みだをたふとむべし。 弥陀みだしんぜんものは、 もともほっをたふとむべし。 弥陀みだしんじてほっをそしり、 ほっしんじて弥陀みだをそしらんは、 たとへばながれをくみて、 みなかみをにごすがごとし。 いはんや、 天臺てんだいだいしゃくにそむきて、 相伝そうでんなくしてべつをたてゝ、 しかもほっしゅうごうす。 かくのごときのあらんともがら信用しんようにあらず。

そもそもだいほんをとぶらへば、 薬王やくおうさつしんじゅうほんみょうだんず。 等覚とうがく无垢むく0719さっ入重にゅうじゅう玄門げんもんだいしょう、 むかしりょうぜんにありてはほっちょうしゅ、 いましんしゅうにいでゝは、 またほっじんをさとる。 一代いちだい聖教しょうぎょう高覧こうらんあることじゅうへん、 しかるにこのいちにをひて、 りょうぜんほっ西方さいほう弥陀みだ各別かくべつなるにをひては、 あやまて一体いったいしゃくせらるべからず。 かくのごときのだいしょうたりといへども、 りんじゅうにのぞんで西方さいほうおうじょうかいをとげたまへり。

かの ¬別伝べつでん¼ (智者大師別伝意) にいはく、 「このみょうほっほんじゃくもんにして、 その深遠じんのんなり。 さとりがたくいりがたし。 しばらくおきてろんぜず。 すなはち西方さいほうにまうでゝ、 ぶつにまうあひたてまつりて、 さとりをひらかん。 じゅう八願はちがんをもてじょうしょうごんす。 なをおうじょうすることをうるなり。 いはんやわれかい薫修くんじゅす、 なんぞしょうずることをえざらん」。

これによりて天臺てんだいおうじょうそつ西方さいほうにあらそひあり。 しかれば、 みょうらくこれをしていはく、 「しかるにだいしょうぞんにはつねにそつしょうぜんとがんじて、 りんじゅうにはすなはち観音かんのん来迎らいこうすといふ。 まさにしるべし、 もつにしたがひえんしたがいて、 をまうくることいちじゅんなるべからず」 (輔行巻一)

伝文でんもんといひみょうらくしゃくといひ、 天臺てんだい西方さいほうおうじょう、 たれかこれをあらそはん。 もしなんじしょりゅうのごときは、 極楽ごくらくせつならば、 だいあに西方さいほうおうじょうをとげられんや。

・第二問答

なん0720じていはく、 しょきょうろんもんならびににんしょしゃくをひきて、 念仏ねんぶつおうじょうをたつといへども、 なをもてあきらかならず。 ひくところしょきょう、 みなこれぜんきょうなり。 ぜんきょう方便ほうべんせつなるがゆへに、 方便ほうべんきょうしょとしてつくるところさつろんにんしゃく、 みなこれ方便ほうべんせつぞくすべし。 たとひ ¬ほっ¼ についてつくるしょしゃくたりといふとも、 しょぎょうまちまちなるがゆへに、 ¬ほっ¼ にがっせばこれをもちゆべし。 きょうもんがっせずしてはようすべからず。 たとひだいしゃくたりといふとも、 によりて取捨しゅしゃあるべし。

たゞしひくところの 「即往そくおう安楽あんらくかい弥陀みだ (法華経巻六薬王品) は、 なんじしょりゅう西方さいほう極楽ごくらくかい弥陀みだにあらず、 しん弥陀みだなり。 「安楽あんらくかい」 といふは、 法身ほっしんしょ安楽あんらくかいとなづくるなり。

つぎに念仏ねんぶつけんごうといふは、 ただち念仏ねんぶつけんごうといふにあらず。 念仏ねんぶつぎょうじゃほっほうす。 かるがゆへに能修のうしゅやくして、 所修しょしゅ念仏ねんぶつけんごうなづくるなり。

じょう祖師そし善導ぜんどうしょうおうじょうぎょうにをひてしょうぞうぎょうをたてゝ、 念仏ねんぶついちぎょう正行しょうぎょうとし、 自余じよ諸善しょぜんをことごとくぞうぎょうとなづく。 しかるに ¬かんぎょう¼ の説相せっそうをみるに、 ぼんおうじょうのむねをあかす。 じょうぼん上生じょうしょうには読誦どくじゅだいじょう受法じゅほうとす。 しからば、 読誦どくじゅだいじょうのなかに ¬ほっ¼ もるべからず。 もししからば、 なんぞ ¬ほっ¼ をぞうぎょうせっせん。

しかのみならず、 ぞうぎょうおいては、 はじめは 「いち0721さんおうじょうをゆるす」 (礼讃意) といへども、 のちには 「せんちゅういち (礼讃) けっす。 あまさへぞうぎょうについてじゅうさんしつをいだす。 ことごとくこれ謗法ほうぼうなり。 しかるに ¬ほっ¼ はこれさん諸仏しょぶつしゅっ本懐ほんかい一切いっさいしゅじょうじょうぶつ直道じきどうなり。 なんぞぞうぎょうせっしてしょうといはんや これひとつ謗法ほうぼう

つぎに三心さんしんしゃくするに、 こうしんのなかに二河にがびゃくどうのたとへをして、 がくけんべつべつぎょうのものを群賊ぐんぞくあくじゅうにこれをたとふ。 べつべつぎょうなかに ¬ほっ¼ をもらすべからず。 これまた第一だいいち謗法ほうぼうなり これふたつ謗法ほうぼう

つぎにこくねんしょうにんの ¬せんじゃくしゅう¼ に善導ぜんどうの ¬しょ¼ のしゅ正行しょうぎょうをひきて、 しゅぞうぎょう相対そうたいして第一だいいち読誦どくじゅだいじょうをいだす。 もんにいはく、 「第一だいいち読誦どくじゅだいじょうといふは、 かみの ¬かんぎょう¼ とうおうじょうじょうきょうのぞき已外いげの、 だい小乗しょうじょう顕密けんみつしょきょうおいじゅ読誦どくじゅする。 ことごとく読誦どくじゅぞうぎょうとなづく」。 すでにだい小乗しょうじょう顕密けんみつしょきょうといふ、 このなかに ¬ほっ¼ もるべからず これみつ謗法ほうぼう

つぎにしょうどうなんしょうりゅうせんがために、 はじめには顕大けんだい権大ごんだいをひきて 「りゃっこう迂回うえぎょう (選択集) とし、 のちには 「これじゅんじてこれおもふに、 密大みつだいおよ実大じつだいぞんずべし」 (選択集) しゃくして、 ¬ほっ¼ をもてりゃっこう迂回うえぎょうじゅんぜしめて 「おうぞん」 といふ。 ¬ほっ¼ はこれ速疾そくしつとんきょうなり、 しょうをとることたなごゝろをかへすがごとし。 かくのごときの速疾そくしつとんきょうにをひて、 これをりゃっこう迂回うえぎょうじゅんずる0722こと、 これまた謗法ほうぼうなり これよつ謗法ほうぼう

つぎに ¬寿じゅきょう¼ の三輩さんぱいと ¬かんぎょう¼ のぼんをひきあはせて得失とくしつはんずるなかにいはく、 「しょぎょうはいのためにしかもこれをとく、 念仏ねんぶつりゅうのためにしかもこれをとく」 (選択集)。 しかのみならず、 念仏ねんぶつのほか自余じよしょぎょうしゃスツル へいトヅル かくサシオクほうナゲウツ所々しょしょにこれをしゃくす。 かくのごときのりゅう、 いかでか謗法ほうぼうつみをのがれん。

¬ほっ¼ の二 (譬喩品) ちょうじゃ にいはく、 「もしひとしんぜずしてこのきょうほうすれば、 すなはち一切いっさいけん仏種ぶっしゅだんずと。 このひと罪報ざいほうなんじいままたきく。 そのひと命終みょうじゅうして阿鼻あびごくいり一劫いっこうそくす」。

このきょうしんぜずしてほうするものは、 ひつじょうして阿鼻あびざいすべきこと、 現文げんもんぶんみょうなり。 近代きんだい念仏ねんぶつしゅぎょうひと、 ¬ほっ¼ をしんぜずして、 あまさへぞうぎょうのものおうじょうすべからずといふ。 かくのごときの、 ¬かんぎょう¼ の説相せっそうにもそむくと 云々うんぬん

¬はんぎょう¼ (北本巻二六徳王品 南本巻二四徳王品) にいはく、 「しん不具ふぐなるゆへに一闡いっせんだいとなづく」。

しりぬ、 ¬ほっ¼ をしんぜざるものはすなはち謗法ほうぼうなり、 またしんはすなはち闡提せんだいなり。 かるがゆへに、 かみは 「にゃくにんしん」 といひ、 しもは 「則断そくだん一切いっさいけん仏種ぶっしゅ」 といふ。 あきらかにしりぬ、 ¬ほっ¼ をしんぜざるものは、 すなはち謗法ほうぼう闡提せんだい罪業ざいごうなり。 かるがゆへに罪業ざいごう阿鼻あびにあり。 このをもてのゆへに、 念仏ねんぶつけんごうとなづくるなり、 いかん。

こた0723 ひくところの 「にゃくにんしん」 のもんは、 そうじて仏法ぶっぽうしんずることなきものをしんといふなり。 きょうしんじて ¬ほっ¼ をしんぜざるを 「しん」 といふにはあらず。 ¬ほっ¼ のしち (巻六) 嘱累品 にいはく、 「もししゅじょうありて信受しんじゅせざらんものは、 まさに如来にょらい深法じんぼうのなかにおひてきょう利喜りきすべし」。 ¬ほっ¼ をしんぜざるものは、 きょうのなかにをひてきょう利喜りきすべしといふもんぶんみょうなり。 このもんながら、 ¬ほっ¼ をしんぜざるものは謗法ほうぼうなりといひ、 ¬ほっ¼ ぜんきょう得益とくやくなしといふ、 そくごんなり。 ¬ほっ¼ のほかに深法じんぼうありといふこと、 たれかこれをあらそはん。

いふところの深法じんぼうといふは、 すなはちこれじょうきょうをさすなり。 ゆへいかんとなれば、 弥陀みだ本願ほんがんしゃきょう諸仏しょぶつ証誠しょうじょう、 かぎりてじょうきょうにあり。 ¬りょう寿じゅきょう¼ のかんにいはく、 「りょう寿じゅぶつねんじたてまつり、 そのくにしょうぜんとがんじて、 もし深法じんぼうをきゝてかんせん」 と。 いまだしょきょうのなかにをひてかくのごときのせつをきかず。

このをもてのゆへに、 天臺てんだいは 「一代いちだい聖教しょうぎょうけっきょう」 とはんず。 みょうらくは 「ざい弥陀みだ (輔行巻二) さんず。

うんほっは 「じょう弥陀みだをひとたびこんにふるれば、 すなはちだいじょうじょうぶつしゅうをくだす」 としゃくす。

がんぎょうしゃくには 「りょうそんしゅっほんはいにゅうどう要門ようもんみみ経名きょうみょうをきゝて、 すなはちいちじょうにいりてしかも退たいすることなし。 くち仏号ぶつごうじゅしてすなはち三界さんがいをい0724でゝしかもかへらず」 (小経疏)

おん ¬西方さいほう要決ようけつ¼ いはく、 「りょうきょうはんしゃくつうし、 じょう一門いちもん双林そうりんさらけつなし。 諸仏しょぶつ舒舌じょぜついんじょうして、 この二義にぎによるがゆへに方便ほうべんにあらず」。

しんしゃくには、 「しかるに信受しんじゅをすゝむ、 がんしょうじょうぜんとする。 これぶつ本懐ほんかいなり。 きょうすべからず」 (小経略記)

このをもてのゆへに、 じょうきょう深法じんぼうとなづくるなり。

つぎにしん闡提せんだいといふ。 そうじて仏法ぶっぽうしんなくしていんをやぶるを闡提せんだいなづくるなり。¬はんぎょう¼ (北本巻二六徳王品 南本巻二四徳王品) にいはく、 「一闡いっせんをばしんとなづけ、 だいをば不具ふぐなづく。 しん不具ふぐなるがゆへに一闡いっせんだいとなづく」。

しかるにわれら ¬ほっ¼ ついてしゅつをもとめずといへども、 しん念仏ねんぶつぎょうじて、 しかも ¬ほっ¼ をほうぜず。

なんじ所説しょせつのごとく、 ¬ほっ¼ をしんぜざるものを謗法ほうぼう闡提せんだいといはゞ、 ¬はんぎょう¼ (北本巻三三迦葉品 南本巻三一迦葉品) にいはく、 「蟻子ぎし殺害せつがいしては、 なをし殺罪せつざいをうるなり。 一闡いっせんだいをころすは、 殺罪せつざいあることなし」。 もししからずは、 ほうしんじて ¬ほっ¼ をしんぜざるものをころしたらば、 蟻子ぎしがいするよりも殺罪せつざいなしといふべき。 もしこのぞんぜば、 これすなはち闡提せんだいなり、 いんをしらざるがゆへに。

つぎにしょうしょうにんりょうおんしゃくをひきて謗法ほうぼうといふこと、 そくごんなり。 これすなはち、 もんにまよひにくらきがゆへなり。 りょうともにことごとくしょぎょうおうじょうをゆるす。

げん0725 (玄義分) 序題じょだいもん にいはく、 「こゝろによりて勝行しょうぎょうををこす。 もん八万はちまんせんにあまれり。 漸頓ぜんとんすなはちしょにかなふ。 えんにしたがふものは、 みなだつこうむる」。

おなじき 「げん (玄義分) にいはく、 「じょうさんひとしくこうすれば、 すみやかしょうしんしょうす」 といへり。 じょうさんのほかにいかなるぎょうありてかしょうといはん。

¬ほうさん¼ (巻下) にいはく、 「如来にょらいじょくしゅつげんして、 ずい方便ほうべんして群萌ぐんもうす。 あるいもんをときてしかもとくせしめ、 あるいしょうをときてさんみょうしょうす。 あるいふくならべてさわりのぞくとをしへ、 あるい禅念ぜんねんしてしてりょうせよとをしふ。 種々しゅじゅ法門ほうもんみなだつすれども、 念仏ねんぶつして西方さいほうにゆくにすぎたるはなし」 といへり。

¬般舟はんじゅさん¼ にいはく、 「あるいにんてんじょうほうをとき、 あるいさつはんいんをとく。 あるいぜんあるいとんくう人法にんぽうならべてのぞかしむることをあかす。 こんじょうなるものはみなやくこうむる、 鈍根どんこん无智むちにしてはかいしがたし」。 しょぎょうおうじょうもんしげきをおそれてりゃく

おほよそしょぎょうおうじょうゆるすこと、 善導ぜんどういっにかぎらず。 どうしゃくぜんは 「まんぎょうおうじょう (安楽集巻下意) といひ、 かんぜんは 「しょぎょうおうじょう (群疑論巻五) といふ。 しんまたこれにおなじ。

念仏ねんぶつとうしゅ正行しょうぎょうは、 もはら西方さいほうごうなるがゆへに正行しょうぎょうとなづく。 しゅのほかに自余じよしょぎょうは、 あるい人天にんでんおよさんじょうつうじ、 あるい十方じっぽうじょうつうずるぎょうなるがゆへにぞうぎょうといふ。

おほよそだい小乗しょうじょうきょうろんのなかにじゅんぞう0726もんをたつ。 そのれいひとつにあらず。 だいじょうにはすなはち八蔵はちぞうのなかに雑蔵ぞうぞうをたつ。 七蔵しちぞうはこれじゅん一蔵いちぞうはこれ雑蔵ぞうぞうなり。 小乗しょうじょうにはすなはちごんのなかにしかも雑含ぞうごんをたつ。 さんごんはこれじゅんいちごんはこれぞうなり。 りつにはすなはちじゅうけんをたてゝ、 もてかいぎょうをあかす。 そのなかに、 まへのじゅうじゅん、 のちのいちはこれぞうけんなり。

もしなんじ所難しょなんのごとく、 ぞうぎょうをたつるをもて謗法ほうぼうといはば、 だい小乗しょうじょうのなかにじゅんぞうをたつる、 みなこれ謗法ほうぼうといふべきや。 謗法ほうぼうといふは、 なんじしょりゅうのごとく、 真言しんごん亡国ぼうこくぜんてんしょぎょう念仏ねんぶつけんごうといふ、 かくのごときのせつことごとく謗法ほうぼうなり。 いかでかさん悪道まくどうをのがれん。

¬大論¼ (大智度論巻一初品) にいはく、 「ほう愛染あいぜんするがゆえにんほう毀呰きしすれば、 かいぎょうにんなりといへどもごくをまぬかれず」。

つぎにじゅうさん得失とくしつといふは、 念仏ねんぶつ本願ほんがんぎょうなるがゆへに、 「ぶつ本願ほんがん相応そうおうするがゆへに」 (礼讃) といふなり。 ぜん本願ほんがんにあらず、 かるがゆえに 「ぶつ本願ほんがん相応そうおう (礼讃) といふ。 「きょうせざるがゆへ」 (礼讃) といふは、 じょうさんぎょうのなかに処々しょしょ念仏ねんぶつをあかして、 もて勝行しょうぎょうとす。 ぜんはしからず、 かるがゆえ不違ふいきょうといふ。 念仏ねんぶつはこれ十方じっぽう恒沙ごうじゃ諸仏しょぶつ証誠しょうじょうなるがゆへに、 「ずいじゅんぶつ (礼讃) といふ。

貪嗔とんじん諸見しょけんきたり間断けんだんせず」 (礼讃意) といふは二義にぎあり。

いちにいはく、 ¬観仏かんぶつ0727きょう¼ (巻一〇観仏密行品意) ろくのこゝろによらば、 「念仏ねんぶつ煩悩ぼんのうのためにぜんせられず」 云々うんぬん

いちにいはく、 貪嗔とんじん煩悩ぼんのうじょくなり、 諸見しょけんけんじょくなり。 ¬しゃ¼ (玄奘訳巻一二 世品意) にいはく、 「煩悩ぼんのうじょくざいぜんそんじ、 けんじょくしゅっぜんそんず」。

ざいぜん」 といふは、 造像ぞうぞうとうぶつそうとうこれなり。 「しゅっぜん」 といふは、 たいじゅうろくぎょうそうとう観法かんぽうなり。 これすなはちとのぜんなり。 しかるにまさにかんじゅうせんとすれば諸見しょけんきおひをこる。 もしぜんしゅせんとほっすれば貪嗔とんじんしょうずるによりて念仏ねんぶつしゅす。 財宝ざいほうをもちゐざれば貪瞋とんじんこゝろにをこらず。 観法かんぽうをもちゐざれば諸見しょけんをこることなし。

もしぞうぎょうしゅするもの、 煩悩ぼんのうをこるといへども、 ぎょうのなかのあくさいにしてわきまへがたし。 そのとがをしらざるがゆへにさんのこゝろなし。 念仏ねんぶつぎょうずるものはつねにさんしゅす。 「念々ねんねん称名しょうみょうじょうさん (般舟讃) といへり。 正行しょうぎょうぎょうずるものは仏恩ぶっとんほうず。 ¬きょう¼ (礼讃) にいはく、 「みずからしんひとおしえしんぜしむること、 かたきなかにうたゝさらかたし。 だいつたえあまねす、 まことに仏恩ぶっとんほうずるになる」 と。 ぞうぎょうしゅするはこころきょうまんしょうず。

みょう相応そうおうす」 (礼讃) 0728いふは、 正行しょうぎょうしゅするものは、 ひとへにぶつ大願だいがんをたのむ。 ぞうぎょうしゅするものは、 こゝろに三学さんがくありとねんじて貴己きこ等仏とうぶつけんををこす。 かるがゆえまんしょうずるなり。

にんみずからおほふ」 (礼讃) といふは、 正行しょうぎょうしゅするものは、 みずからしりこうしょうぜず、 ぜん親近しんごんす。 ぞうぎょうしゅするものは、 みずから三学さんがくをたのみてこころ高慢こうまんをいだく。 かるがゆえみょう相応そうおうす。

かくのごとく得失とくしつはんずること、 たゞこれ仏説ぶっせつにまかす。 なんぞ謗法ほうぼうといはん。

ただせんちゅういちしゃくいたりて、 能別のうべつことばおきて 「しんしゃせんちゅういち (礼讃) といふ。 それじつには正行しょうぎょうたりといふとも、 しんなくはしょうぜず。 しかりといへども、 ぞうぎょうしんそくしがたし、 正行しょうぎょうしんそくしやすし。 かるがゆえぞうぎょうしついだして 「しんしゃとうといふなり。

つぎに群賊ぐんぞくあくじゅうたとえをもて謗法ほうぼうといふ、 これまたそくごんなり。 もんにいはく、 「あるいはゆくこと一分いちぶんぶんするに群賊ぐんぞくよばひかへすといふは、 べつべつぎょう悪見あっけんにんとうみだりにけんときてたがひにあひ惑乱わくらんし、 およみずかつみつくり退失たいしつするにたとふ」 (散善義) 。 すでに 「べつべつぎょう悪見あっけんにんとう」 といふは、 なん謗法ほうぼうといはん。 べつべつぎょうひと、 われらがおうじょう大益だいやくしっするがゆへに群賊ぐんぞくにたとふ。 「あくじゅういつはる」 (散善義) といふは、 しゅじょう六根ろっこん六識ろくしき六塵ろくじんおんだいにたとふ。 あくじゅうべつべつぎょうにたとふるにあらず。

およ二河にがびゃくどうのたとへは、 ¬大論だいろん¼・¬はんぎょう¼ とうによりてこのたとえをつくる。 ¬大論だいろん¼ (大智度論巻三七習相応品意) にいはく、 「貪愛とんない瞋憎しんぞうふかくしてそこなし。 すい二河にがまたほとりなし。 ちゅうびゃくどうしょうなりといへども、 信心しんじんけつじょうして西にし0729きしいたる」。

群賊ぐんぞくあくじゅうたとえは ¬はんぎょう¼ による。 がくけんぎょうたい群賊ぐんぞくあくじゅうにたとふるにあらず。 またなんじ所説しょせつのごとく、 念仏ねんぶつけんごうといふ。 かくのごときの謗法ほうぼう邪見じゃけんやから群賊ぐんぞくたとうるなり。

つぎに西方さいほうじょうはもはらいちじょうにあらず。 ¬かんぎょう¼ のちゅう三品さんぼん、 かのしょうじてしょうしょうす。 かるがゆえいちじょうにあらずと。 この、 またなんにあらざるなり。

¬ほっ¼ (巻一方便品) にいはく、 「十方じっぽうぶつちゅうゆいいちじょうほう」 といへり。 西方さいほうじょう、 なんぞ十方じっぽうじょうにもれん。 かるがゆえに ¬りょう寿じゅきょう¼ (巻下) にいはく、 「いちじょうきょうしてがんにいたる」。 ¬じょうろん¼ にいはく、 「だいじょう善根ぜんごんがい」 といへり。 ¬ろん¼ (大智度論巻三八往生品) にいはく、 「いちじょう清浄しょうじょうりょう寿じゅかい」。 これらの現文げんもんいちじょうにあらずや。

ただちゅう三品さんぼん、 かのしょうじてのちたいほうをきゝてしょうしょうすること、 本願ほんがんによるがゆへにしばらくしょうしょうするなり。 れいせば、 こう如来にょらいじゅんいちじょうなりといへども、 本願ほんがんによりてさんじょうほうをとくがごとし。 ¬ほっ¼ の譬喩ひゆぼんにいはく、 「こう如来にょらい、 またさんじょうをもてしゅじょうを教す。 しゃほつ、 かのぶつしゅつあくにあらずといへども、 本願ほんがんをもてのゆへにさんじょうほうをとく」。 ¬しょ¼ (法華文句記巻六上釈譬喩品) にいはく、 「じょう唯一ゆいいつなれども、 がんにこたえてさんをとく」 といへり。 いちじょうおいさんじょうほうをとくこと、 所難しょなんそくなり。

・第三問答

0730づねていはく、 離垢りくかいにはさんじょうほうのみありて、 あることなし。 西方さいほうじょうにはほうともにあり。 れいどうずべからず、 いかん。

こた こう如来にょらい、 またほうともにあり。 ¬きょう¼ (法華経巻二) 次下つぎしも譬喩ひゆぼんにいはく、 「こう如来にょらいじゅうこうをすぎて堅満けんまんさつのく多羅たらさんみゃくさんだいをさづく。 もろもろの比丘びくにつげたまはく、 この堅満けんまんさつ、 つぎにまさにぶつすべし。 ごうしてそくあんぎょう多陀ただ訶度かど阿羅あらさんみゃくさんぶっといはん」。

¬玄賛げんさん¼ (巻五譬喩品) にいはく、 「さんじょうありといへども、 さつるいおほきがゆへに大宝だいほうといふ」。 ¬きょう¼ に 「ごうしょ比丘びく」 といひ、 しゃくに 「ゆいさんじょう」 といふ。 あきらかしりぬこう如来にょらいほうともにこれあり。 たれかこれをあらそはん。

¬はんぎょう¼ (北本巻二七獅子吼品 南本巻二五獅子吼品) にいはく、 「いちじょうといふは、 なづけぶっしょうとす。 このをもてのゆへに、 われ一切いっさいしゅじょうことごとくぶっしょうありととく。 一切いっさいしゅじょうことごといちじょうあり。 みょうおほふをもてのゆへに、 みることうることあたはず」。 しからば、 いかなるしゅじょうありてか、 じょうしょうじてまただんこころあらん。

つぎにしょうにんの ¬せんじゃく¼ をひきて謗法ほうぼうといふ、 これまた所難しょなんとするにたらず。 ¬せんじゃくしゅう¼ のなかにしょぎょうおうじょうをあかすこと、 そのもんひとつにあらず。 ¬せんじゃくしゅう¼ のすえ ぞくしょう にいはく、 はじめ日想にっそうかんより、 をはり雑想ざっそうかんにいたるまで、 つぶさにじゅう三観さんがんをひきをはり0731て、 「たとひぎょうなしといふとも、 あるいいちあるい、 その所堪しょかんにしたがひてじゅう三観さんがんしゅしておうじょうすることをうべし。 そのむね ¬きょう¼ にみえたり。 あへてりょすることなかれ」。

つぎしもに、 はじめきょうよう父母ぶもより、 をはり読誦どくじゅだいじょう勧進かんじんぎょうじゃいたるまで、 散善さんぜんぎょうことごとくこれをひきておうじょうをゆるす。 読誦どくじゅだいじょうしゃくしていはく、 「ねがわくは西方さいほうぎょうじゃ、 おのおのそのぎょうしたがいて、 あるいほっ読誦どくじゅしてもておうじょうごうとし、 あるひはごん読誦どくじゅしてもておうじょうごうとす。 これすなはちじょうしゅうの ¬かんりょう寿じゅきょう¼ のこゝろなり」 (選択集)

しばらくかんたいして、 ひとへに念仏ねんぶつをすゝめんがために 「捨閉しゃへいとうといへり。 しかりといへども、 またくしゃへい本願ほんがんにあらず。 かるがゆえに 「捨閉しゃへいとうといふなり。

おほよそじょうさんぎょう説相せっそうをみるに、 ¬寿じゅきょう¼ の三輩さんぱいのなかに、 念仏ねんぶつしょぎょうざっすることをとく。 ¬かんぎょう¼ にはいちぎょういちぎょうにおのおのぼんおうじょうのむねをあかす。 ¬弥陀みだきょう¼ にはしょぎょうをとかず、 たゞ一日いちにち七日しちにちしゅうみょうごうをもて 「とくしょうこく」 ととく。 つぎしもに 「不可ふかしょう善根ぜんごん福徳ふくとく因縁いんねんとくしょうこく」 ととく。

かくのごとくさんぎょう説相せっそうによりて、 はいりゅうじょしょうぼうしょうさんりゅうす。 しかもはいりゅういちをもて謗法ほうぼうといはば、 ¬弥陀みだきょう¼ のしょう善根ぜんごんしょうもん、 いかんが謗法ほうぼうといはん。

十方じっぽう恒沙ごうじゃ証誠しょうじょう、 たゞかぎりて念仏ねんぶつにあり。 念仏ねんぶつはまさ0732しく弥陀みだ如来にょらい本願ほんがんぎょうなるがゆへに、 ぎょうじやすくしゅしやすし。 かるがゆえかんかんろんぜず、 ひとへに念仏ねんぶつおうじょうをすゝむるなり。

つぎに 「りゃっこう迂回うえぎょう (選択集) のこと、 おほよそじょうしゅう大綱たいこうは、 しょうどうじょうもんをたてゝ、 しょうどうもんをすてゝじょうもんするをほんとす。 そのしょうどうもんといふは、 此土しどにっしょうとくなるがゆへになんぎょうなんしょうなり、 かるがゆえなんぎょうどうとなづく。 じょうもんは、 かのにっしょうとくなるがゆへにぎょうおうなり、 かるがゆえぎょうどうとなづく。

¬十住じゅうじゅう毘婆びばしゃろん¼ (巻五易行品意) にいはく、 「さつ阿毘あびばっもとむるにしゅどうあり。 いちにはいはくなんぎょうどうにはいはくぎょうどうなり。 なんぎょうどうといふは、 いはくじょくぶつときにをひて阿毘あびばっもとむるをなんとす。 たとへばろくぎょうはすなはちくるしきがごとし。 ぎょうどうといふは、 いはくたゞ信仏しんぶつ因縁いんねんをもてじょうしょうぜんとがんずれば、 ぶつ願力がんりきじょうじて、 すなはちかの清浄しょうじょうおうじょうすることをう。 仏力ぶつりきじゅうして、 すなはちだいじょう正定しょうじょうじゅにいる。 正定しょうじょうはすなはちこれ阿毘あびばっなり。 たとへばすいじょうせんはすなはちたのしきがごとし」。

しかるに真言しんごんには、 けんぎょう三劫さんこうじょうぶつだんじ、 みっきょう即身そくしんじょうぶつといふ。 天臺てんだいには、 三権さんごんりゃっこうぎょう一実いちじつ速疾そくしつとんしょうはんず。 かるがゆえ顕大けんだい権大ごんだいをもてなんしょうほんとす。 真言しんごんほっとう速疾そくしつとんきょうなりといへども、 しかもだんしょうなきにあらず。 じょうはしからず0733煩悩ぼんのうだんぜずしてただちほうしょうず。 とくしょう已後いごかのにおひて悪趣あくしゅをきる。

¬だいきょう¼ (巻下) にいはく、 「かならちょうぜつしてすつることをえて安楽あんらくこくおうじょうすれば、 よこさま悪趣あくしゅをきりて、 悪趣あくしゅねんにとづ。 どうにのぼるに窮極ぐうごくなし」。

かるがゆえだんしょうをからず。 じょうぎょうたいしてなんどう分別ふんべつせんがために、 はじめりゃっこう迂回うえぎょうをあげて真言しんごんほっとうじゅん応存おうぞんといふなり。 顕大けんだい権大ごんだいとうりゃっこうのごとく、 これをじゅんずるにあらず。

なんどうをたつることは ¬十住じゅうじゅう毘婆びばしゃろん¼ によるなり。 かのろんのこゝろは得道とくどうそくをばろんぜず、 そうじて此土しどにっしょうとくぎょうなんぎょうどうなづく。 かるがゆえ真言しんごん仏心ぶっしん天臺てんだいとうをことごとくみななんぎょうどうせっするなり。

もしほっなんぎょうどうせっするをもて謗法ほうぼうといはゞ、 天臺てんだいだいをも謗法ほうぼうひとといふべきや。 しかるにだいほっ三昧ざんまいをえて、 しかもりんじゅうおよびて ¬法花ほけきょう¼ をにとりていはく、 「この ¬みょうほっ¼ はほんじゃくもんにして、 その深遠じんのんなり。 さとりがたくいりがたし。 しばらくをひてろんぜず」 (智者大師別伝意) と。 つぎに ¬かんぎょう¼ をにとりて 「すなはち西方さいほうにまうでゝ、 ぶつにまうあふてさとりをひらかん」 (智者大師別伝意) といへり。

かくのごときの現文げんもんなんいよいよあらはなり。 ¬ほっ¼ をしんぜんものは、 ほうをそしりにんのとがをとくべからず。

¬ほっ¼ をしんじてほうをそしり、 にんのとがをとくならば、 ¬こうきょう¼ をさ0734ゝげておやのかしらをうつがごとし。 ¬ほっ¼ (巻五) 「安楽あんらくぼんにいはく、 ¬如来にょらいめつ末法まっぽうのなかにをひてこのきょうをとかんとほっせば、 安楽あんらくぎょうじゅうすべし。 もしくち宣説せんぜつし、 もしきょうをよまんとき、 ねがひてにんおよきょうてんのとがをとかざれ、 またしょほっきょうまんせざれ、 にんこうじょうたんをとかざれ」。

おなじき ¬きょう¼ (法華経巻五安楽行品) もんにいはく、 「もしこのきょうをとかんとほっせば、 まさにしつまん諂誑てんおうじゃこころをすてゝ、 つねにしっちょくぎょうしゅすべし。 ひと軽蔑けいべつせざれ、 またほうろんせざれ、 疑悔ぎけしてなんじぶつをえずといはしめざれ」。

かくのごときのきょうもんをみながら、 しょきょうろんをそしりひとをきょうまんし、 あまさへ念仏ねんぶつけんごうといふ、 あにしつまん諂誑てんおうじゃこころにあらずや。 これすなはち、 しかしながら阿鼻あび罪業ざいごうをまねく

なかんづく ¬ほっ¼ はこれもん強識ごうしきひとのためにこれをとく。 无智むちのものゝためにとくべからずとみえたり。 ¬ほっ¼ の (譬喩品) ちょうじゃ にいはく、 「无智むちひとのなかにしてこのきょうをとくことなかれ。 もしこん智恵ちえ明了みょうりょうもん強識ごうしきにありて仏道ぶつどうをもとめんものには、 かくのごときのひとにはすなはちためにとくべし」。

またいはく、 「この法花ほけきょうじんのためにとく。 浅識せんしきこれをきゝて迷惑めいわくしてせず」(法華経巻二譬喩品)

またいはく、 「諸仏しょぶつ如来にょらいのみことばにもうなし」 (法華経巻一方便品)

しかる0735一文いちもんつうぜざる大俗だいぞくの、 黒闇こくあんをもわきまへざる男女なんにょ盲目もうもくとうたいして、 きょうしょうをしらず、 をのれが悪見あっけんのこゝろにまかせてほしゐまゝにこれをとく。 これによりてしょしゅうをそしるをようとす。

¬はんぎょう¼ (北本巻二二徳王品意 南本巻二〇徳王品意) にいはく、 「あくとうおい怖懼ふくなし、 あくしきおい畏懼いくしんしょうず。 なにをもてのゆへに。 このあくとうはたゞよくしてこゝろをすることあたはず、 あくしきといふはふたつともにするがゆへに」。

つぎにぜんきょうしょろんをばもちゐるべからずといふ、 これまたはなはだ自由じゆなり。 なんじしょりゅう、 ことごとくしょきょう緒論しょろんにそむくによりてじゅつをうしなふゆへなり。 ぜんきょう得益とくやくいたりては、 かみになんじしんずるところの ¬ほっ¼ と ¬りょうきょう¼ と、 きょうをひきてもんしょうとす。 なんぞわづらはしくかさねてこのろんぜん。

たとひぜんきょう得益とくやくなしといふとも、 ¬かんぎょう¼ の得益とくやくにをひてはぜんきょうじゅんずべからず。 かれは此土しどにっしょうとくをあかす、 これはかのおうじょうやくをとく。 かれはなんぎょうこれはぎょう、 かれはりきこれはりきしょぎょうすでにことなり、 得益とくやくなんぞおなじからん。

なかんづく ¬かんぎょう¼ は ¬ほっ¼ とどうせつなり、 ぜんきょうせっすべからず。 ¬かんぎょう¼・¬ほっ¼ どうといふこと、 ¬善見ぜんけんろん¼ といひ ¬はんぎょう¼ のもんといひぶんみょうなり、 たれかこれをうたがはん。

即往そくおう安楽あんらくかい弥陀みだは、 西方さいほう阿弥あみ0736にはあらずしん弥陀みだといふ、 これまたそくごんなり。 しんぶつしょうめつ无去むこらいなり。 あに 「この命終みょうじゅうおいてすなはち安楽あんらくかいにゆくと、 しょうれんちゅう (法華経巻六薬王品) といはんや。

¬しんかんぎょう¼ (巻三報恩品) にいはく、 「法身ほっしんたいは、 もろもろのしゅじょうにあまねく万徳まんどくぎょうねんとしてしょう常住じょうじゅうなり。 しょうぜずめっせず、 らいなく、 いちならずならず、 だんじょうにあらず」 と。 しかるに 「こゝにをひて命終みょうじゅうして、 すなはち弥陀みだぶつのみもとにゆいて、 れんうちほうのうへにしょうず」 といへり。 このもんじゅうをみるにおうじょう二字にじををとく、 なんぞしん弥陀みだといはん。

ほっ問答もんどう 

 

0737ほっ問答もんどう 

・第四問答

なんじていはく、 しょうしょうにんりょうしゃく謗法ほうぼうにあらずと。 これをすといへえども、 いまだそのなんをのがれず。

¬せんじゃくしゅう¼ のだいじゅういちしょうに、 「雑善ぞうぜん約対やくたいして讃嘆さんだん念仏ねんぶつもん」 とこれをだいして、 ¬かんぎょう¼ の念仏ねんぶつずうの 「にゃく念仏ねんぶつしゃとうにんにんちゅうふん陀利だり」 のもんひきて、 おなじききょうの ¬しょ¼ (散善義) に 「念仏ねんぶつ三昧ざんまいのうちょうぜつして、 じつ雑善ぞうぜんをもてるいとすることをうるにあらず。 すなはちそのいつゝあり。 もし念仏ねんぶつするものは、 すなはちこれにんちゅうみょう好人こうにん」 のしゃく、 このもんをひきあはせて、 「わたくしにいはく」 (選択集) しもに 「この ¬きょう¼ にすでにじょうさん諸善しょぜんならびに念仏ねんぶつぎょうをときて、 しかもそのなかにをひて、 ひとり念仏ねんぶつひょうしてふん陀利だりにたとふ。 雑善ぞうぜんたいするにあらずは、 いかんがよく念仏ねんぶつこうぜんしょぎょうにこゑたることをあらはさん。 しかればすなはち、 念仏ねんぶつするものはすなはちこれにんちゅう好人こうにんといふは、 これあくたいしてしかもほむるところなり。 にんちゅうみょう好人こうにんといふは、 これあくたいしてしかもしょうするところなり」 (散善義) 念仏ねんぶつさんぜんがために諸善しょぜんをことごとくぞうぎょうとなづく。 あま0738さへあくたいしてしかもじつとするところなり。

¬ほっ¼ これ一大いちだい因縁いんねん諸仏しょぶつしゅっ本懐ほんかい、 かぎりてこの ¬きょう¼ にあり。 しかるに ¬ほっ¼ をぞうぎょうのなかにせっしてあくたいあくとうたいすといふ。 これすなはち謗法ほうぼうをのがれがたし、 いかん。

こた このなんことごとくなり。 もんじゅうよくこれをみるべし。 「念仏ねんぶつ三昧ざんまいのうちょうぜつ」 とは、 念仏ねんぶつはこれ本願ほんがんぎょうなるがゆへに、 諸善しょぜんちょうして 「じつ雑善ぞうぜんとくるい」 といふことをあらはさんがためなり。 これすなはちしょうれつなり。 かるがゆへに念仏ねんぶつぎょうじゃふん陀利だりにたとふ。 ふん陀利だりにんちゅうはなのなかにすぐれたるがゆへに、 これをにんちゅうこう上々じょうじょうみょうこうとうとなづく。 かるがゆへに、 このはなをもて念仏ねんぶつのものにこれをたとふ。 にんちゅう好人こうにんみょう好人こうにん希有けうにんとうといふなり。 これすなはち念仏ねんぶつしょぎょう相対そうたいして、 念仏ねんぶつ好人こうにんみょう好人こうにんとなづく。 かるがゆえくんたいせんがために 「待悪たいあく」・「たいあく」 といふなり。 ほうほうとに相対そうたいせばあくごんをなすべからず。 かるがゆえにかみにほうほうとを相対そうたいしてしょうれつはんずるとき、 じつ雑善ぞうぜんとくるいといひてあくおかず。

つぎにかみにいはく、 「雑善ぞうぜんたいするにあらずは、 いかんがよく念仏ねんぶつこうぜんしょぎょうにこゆることをあらはさん (選択集)。 つぎにしものじょにいはく、 「それすみやかしょうをはなれんとおもはゞ、 しゅしょうぼうのなか0739に、 しばらくしょうどうもんをさしをきてえらびてじょうもんにいれ」 (散善義)。 すでにしゅほうといふ、 いかんがあくとなづくる。

しかのみならず、 ¬せんじゃくしゅう¼ のこゝろ、 所々しょしょしょぎょうあかす。 もしなんじ所難しょなんのごとくぎょうあくとなづけば、 しょぎょうおうじょうのむねをあかすべからず。 しょうにん、 いかんが善悪ぜんあく二事にじにまよひてしょぎょうあくといはん。 またあにおうじょうをゆるさん。 つぎしもに ¬観音かんのんじゅ¼ をひきてしょぎょうおうじょうしょうとせん。 そくしょうにいたりて、 はじめ日観にっかんよりをはりぼんしょうにいたるまで、 じょうさんぜんことごとくみなおうじょうをあかして、 「これすなはちじょうしゅうの ¬かんりょう寿じゅきょう¼ のこゝろ」 (散善義) けっす。 かくのごとくしょぎょうおうじょうをゆるしながら、 あにしょぎょうあくといはん。 所難しょなんとするにたらず。

・第五問答

とうていはく、 ¬かんぎょう¼ と ¬ほっ¼ とどうせつといふこと、 きょうもんにそむきどうす。

まづきょうもんにそむくといふは、 じゃぎゃくざいををこすこと、 だいぎょうとうきょうにゆるがゆへに ¬かんぎょう¼ に 「ずいじゅん調じょうだつあくきょう」 ととく。 しかるにぜんの ¬きょう¼ (報恩経巻四悪友品) のなかに 「だいにゅうめつ」 ととく、 もししからば、 ¬ほっ¼ ぜんにゅうめつせしむるだい、 ¬ほっ¼ をとくとき、 よみがへりてじゃにすゝめてぎゃくざいをつくらしむべきや これなん

つぎに ¬かんぎょう¼ にはじゃたいととく。 ¬きょう¼ (観経) にいはく、 「復時ぶじ王舎おうしゃじょういちたいみょうじゃ」 と。 ¬ほっ¼ の同聞どうもんしゅには 「じゃおう」 ととく。 ¬きょう¼ (法華経巻一序品) にいはく、 「だい0740じゃおう」 と。 このきょうもんかんがうに、 たいはさき、 おうはのちなり。 このによるに ¬かんぎょう¼ を ¬ほっ¼ どうせつといふべからず これふたつなん

しかるに ¬ほっ¼ はこれしょうじきしゃ方便ほうべんきょうなり。 かくのごときの深法じんぼうをきゝて、 いかでかあくぎゃくををこし、 沙門しゃもん ちちころし、 ははがいせんとほっせん。 このをもてしりぬ、 じゃは ¬ほっ¼ ぜんぎゃくざいををかすといへども、 のちにさんせしめてつみめっすることをえて、 ¬ほっ¼ のにつらなるべし。 かるがゆへにしりぬ、 ¬かんぎょう¼ は ¬ほっ¼ ぜんせつなり。 ¬ほっ¼ どうととくこと、 もんともにそむく。 はなはだもてようしがたし、 いかん。

こた たとひ ¬報恩ほうおんきょう¼ (巻四悪友品意) に 「だいにゅうめつす」 ととくといへども、 なんじしょりゅうのごときんば、 ぜんきょう方便ほうべんきょうといひて、 ひきてだいにゅうめつしょうとせん。

¬はんぎょう¼ はなんじしんずるところきょうなり。 かの ¬かんぎょう¼ は ¬ほっ¼ どうととくとみえたり。 これをあらそうことなかれ。 ¬はん¼ さんじゅうさん (北本巻三四 南本巻三一) 「しょうさつぼんにいはく、 「善見ぜんけんたいちちそうするをみをはりて、 まさにしんしょうず。 ぎょう大臣だいじんまた種々しゅじゅ悪邪あくじゃほうをもて、 しかもためにこれをとく。 大王だいおう一切いっさいごうぎょうすべてつみあることなし。 耆婆ぎばまたのたまはく、 大王だいおうまさにしるべし、 かくのごときの業罪ごうざいじゅうをかねたり。 ひとつにはちちおう殺害せつがいし、 ふたつにはしゅおんころす。 かくのごときのつみは、 ぶつをのぞきてさらに除滅じょめつするものなけ0741ん。 善見ぜんけんおうののたまはく、 如来にょらい清浄しょうじょうにしてじょくあることなし。 われら罪人ざいにんいかんがみることをえん。 善男ぜんなん、 われこのをしる。 かるがゆえなんにつげたまはく、 つきをすぎをはりて、 われまさにはんすべし。 善見ぜんけん、 きゝをはりてすなはちわがところきたりて、 われためにほうをとくに、 じゅうざいうすくなることをえてこんしんをうる」。

おなじ¬きょう¼ のじゅう (北本巻二〇 南本巻一八) 「ぼんぎょうぼんにいはく、 「じゃおうもし耆婆ぎばことばずいじゅんせずは、 来月らいがつ七日しちにちひつじょうして命終みょうじゅうして阿鼻あびごくせん。 このゆへにのくだい近因ごんいんぜんにしくはなし。 じゃおうまたぜんにをひて、 しゃだい毘流びるふねにじょうじてうみにいり、 にすぎてしかもす。 瞿迦くか 離羅りら 比丘びくしょうしんにいり、 阿鼻あびにいたる。 しゅせっ種々しゅじゅあくをつくり、 しかも仏所ぶっしょにいたりて衆罪しゅざいめっすることをうときく。 このことばをきゝをはりて耆婆ぎばにかたりていはく、 われなんじおなじ一象いちぞうにのらんとほっす。 たとひわれまさに阿鼻あびごくにいるとも、 こひねがはくは、 なんじそくして、 われをしてせしめざれと。 なにをもてのゆへに、 われむかしかつてきゝて、 これをうるひとごくにいたらず」 と。

この勘文かんもんのごとく、 じゃおう ¬ほっ¼ の序分じょぶん同聞どうもんしゅにつらなるといへども、 いまだしょうせつをきかず。 かるがゆへにぎゃくざいをつくる。 ぎゃくざい已後いご仏所ぶっしょけいせず。 はんぶんにいたりて、 闍王じゃおう耆婆ぎばがすゝめて仏所ぶっしょけいするによりて、 ぶつためにほうをとく0742闍王じゃおうほうをきゝて滅罪めつざい得益とくやくすとみる。

もしなんじ所説しょせつごとく、 闍王じゃおうぎゃくざい ¬ほっ¼ ぜんならば、 ぎゃくざい以後いご ¬ほっ¼ のれつ深法じんぼうをきゝてのちに、 なにのしつありてか阿鼻あびすべきや。 もし ¬ほっ¼ のにつらなりてしょうせつをきくといへども、 なをぜんぎゃくざいおうのこりて阿鼻あびすべしといはゞ、 「一切いっさいしゅじょうかいりょうにゅう仏道ぶつどう (法華経巻一方便品) もんす。 かるがゆへにしりぬ、 ¬かんぎょう¼ は ¬ほっ¼ どうせつなり これひとつ

つぎに ¬かんぎょう¼ には 「たい」 ととく、 ¬ほっ¼ には 「おう」 ととく。 このをもて ¬かんぎょう¼ は ¬ほっ¼ どうせつにあらずと、 このなんまたそくごんなり。 じゃを 「たい」 ととき 「おう」 ととくこと、 したが言便ごんびんによりて、 おうたいぜんじょうなり。

¬かんぎょう¼ にいはく、 「いちたいみょうじゃ」。 つぎしもにいはく、 「守門しゅもんにんびゃくごん大王だいおう慎莫しんまくがい」 といへり。 じゃ、 ちゝのおう禁閉きんぺいすといへども、 なを存在そんざいせり、 したがいていまだくらいにのぼらず。 しかりといへども、 守門しゅもんのものは耆婆ぎばともにおなじく 「大王だいおう」 といふ。 ¬はんぎょう¼ のさんじゅうさん (北本巻三四迦葉品 南本巻三一迦葉品) にいはく、 「ときもろもろ守人しゅにん、 すなはちたいげたてまつる」。 つぎしもにいはく、 「耆婆ぎばみずからまうさく、 くににありしこのかた、 つみしかもおもしといへども、 いまだ女人にょにんにをよばず。 いはんやしょしょうははをや。 善見ぜんけんたいこのことばをきゝをはりて、 耆婆ぎばのためのゆへにすなはち放捨ほうしゃす」 (北本巻三四迦葉品 南本巻三一迦葉品) といへり。

またいはく、 「善見ぜんけんたい0743、 ちゝのそうするをみをはりて、 まさにしんしょうず」 (北本巻三四迦葉品 南本巻三一迦葉品) ちゝのおうそうしてのちになを 「たい」 といふ。 あきらかにしりぬ、 おうたいせつをもてきょうぜんあらそふべからず。

¬善見ぜんけんろん¼ (意) にいはく、 「びんしゃおう寒林かんりんじょうにありて、 ときじゃたいじょうぼうじょうにありてまつりごとをなす。 せいによりてじゃおうとなづく」。

つぎにどうなんせば、 じゃ ¬ほっ¼ の序分じょぶんにつらなるといへども、 いまだしょうせつをきかず、 そのちゅうげんにをひてぎゃくざいおかす。 ぎゃくざい以後いご仏所ぶっしょにいたらず、 はんせつにのぞみて、 耆婆ぎばがをしへにしたがい仏所ぶっしょけいすること、 あにどうにそむかんや。 たゞし ¬ほっ¼ の同聞どうもんしゅにつらなりてのち、 ぎゃくざいおかすべからずといふなんいたりては、 いまだしょうせつをきかぬぜんぎゃくざいおかす。 所難しょなんにあらず。

なんじ所説しょせつのごとく、 ¬ほっ¼ ぜんぎゃくざいをつくり、 ぎゃくざい以後いごに ¬ほっ¼ のにつらなり、 しょうせつをきゝてぎゃくざいめっせずして、 ¬はんぎょう¼ にいたり阿鼻あび罪業ざいごうめっし、 はじめて得益とくやくせば、 ¬ほっ¼ にさらやくなし。 もしこのぞんぜば、 これすなはち謗法ほうぼうなり。 ¬ほっ¼ の得益とくやくしっするがゆへに。

なかんづく闍王じゃおうぎゃくざいは ¬かんぎょう¼ のほっじょなり。 ぶつ ¬かんぎょう¼ をとくべきじょのためにじゃぎゃくざいをつくる。 もししからば、 たとひしょうせつをきゝてぎゃくざいおかすといふとも、 またこれとがなし。 闍王じゃおう、 ¬はんぎょう¼ にいたりてたゞちにぎゃくざい0744めっしてこんしんをえたり。 あに実業じつごうぼんぎゃくざいおなじからんや。

・第六問答

なんじていはく、 ¬はんぎょう¼ をひきて ¬かんぎょう¼・¬ほっ¼ のどうしょうとすること、 はなはだこのたちがたし。 ¬はんぎょう¼ は一代いちだいじゅうねんきょうくんじゅうしてこれをとく。 かるがゆえ天臺てんだいには ¬はんぎょう¼ をなづけくんじゅうきょうといふ。 なかんづく、 ひくところの 「しょうさつぼん」 のもんはん当代とうだいにあらず。 如来にょらいひっきょうじてはんすべきことをあらはさんがために、 だいだっ過去かこ因縁いんねんによりて仏所ぶっしょにをひてぜんしんしょうじ、 如来にょらいがいせんとほっして善見ぜんけんたいしんとなり、 おしえてちゝをころさしむ。 そのだいをつぶさにこれをとく。 かるがゆえはん当代とうだいせつにあらず。

ひくところの 「しょうさつぼん (北本巻三四 南本巻三一) のつぎかみにいはく、 「そのときに悪人あくにんだいだっ、 また過去かこごう因縁いんねんによりて、 またわがところにしてぜんしんしょうじ、 われをがいせんとほっす。 すなはちつうしゅす。 ひさしからずしてぎゃくとくす。 善見ぜんけんたいとともにしんとなりて、 たいのためのゆへにげんじて種々しゅじゅ神通じんずうをなす。 もんよりしかもいでゝもんよりしかもいる。 もんよりしかもいでゝもんよりしかもいる。 あるときはげんしてよう男女なんにょしんをなす。 善見ぜんけんたいをはりて、 すなはち愛心あいしんきょうしんしnしょうず。 こののためのゆへに、 いつくしく種々しゅじゅようもうけて、 しかもこれをようす。 またまうしてまうさく、 たいしょうにん、 わ0745れいままん陀羅だらをみんとおもふ。 とき調じょうだっ、 すなはちさんじゅう三天さんてんおうして、 かの天人てんにんしたがいて、 しかもこれをしゃくす。 そのふくつくるがゆへに、 すべてあたふるものなし、 すでにはなをえず。 このゆいをなさく、 まん陀羅だらじゅ我々ががしょなし、 もしみずからとらんに、 まさになにのつみあるべきや。 すなはちまへにとらんとほっすれば、 すなはち神通じんずうをうしなふ。 かへりてしんをみるに、 王舎おうしゃじょうにあり、 こゝろにざんしょうず、 またみることあたはず。 善見ぜんけんたいまたこのねんをなさく、 われいままさに如来にょらいところおうして大衆だいしゅしゃくすべし。 ぶつ聴者ゆるしたまわば、 ためにわれまさにこゝろにしたがひて、 おしえてすなはちしゃほつとう詔勅しょうちょくせしむべし。 そのときにだいだっ、 すなはちわがところきたりてかくのごときのごんをなさく、 やゝねがはくは如来にょらい、 この大衆だいしゅをもてわれにそくしたまへ。 まさに種々しゅじゅ説法せっぽうきょうして、 それをして調じょうぶくせしむべし。 われいまもんにをろかなり。 しゃほつそうみょう多智たちにして信伏しんぶくせらる。 われなを大衆だいしゅをもてそくせず。 いはんや、 なんぢにんにして、 つばきをじきするものをやと。 ときにだいだっ、 またわがところにしてますます悪心あくしんしょうじて、 かくのごときのごんをなさく、 どんなんじいま大衆だいしゅ調じょうぶくすといふとも、 いきおいまたひさしからずしてめつをみるべし」。

かくのごときのもんはん当代とうだいにあらず。 またなんじがひくところの 「ぼんぎょうぼん0746 (北本巻二〇 南本巻一八) にとく、 「なんじきたれ、 耆婆ぎば、 われなんじ一象いちぞうにのらんとおもふ。 われまさに阿鼻あびごくにいるべし。 こひねがはくは、 そくして、 われをしてせしめざれ」 と。 ¬ほっ¼ にれつしてのち、 なにのしつありてか阿鼻あびにいらん。 怖畏ふいして耆婆ぎば一象いちぞうにのらんともとめんこと、 かくのごとく ¬ほっ¼ ぜんせつとみる、 いかん。

こたしょうさつぼん」・「ぼんぎょうぼん」 のもんじゅうをみるに、 はんぜんせつもあり、 はん当代とうだいせつもあり。 ひとへにはん当代とうだいにあらずといふべからず。 すでに 「なんにつげたまはく、 つきすぎてすでにまさにはんすべしと。 善見ぜんけんきゝをはりて、 すなはちわがところにきたる。 ためにほうをとく。 じゅうざいうすくなることをえてこんしんをう」 (北本巻三四迦葉品 南本巻三一迦葉品) といへり。 これすなはちほっのをはり、 はんいたせつなり。 ¬ほっ¼ ぜんにをひて 「三月さんがつとうはん」 ととくべからず。

¬げんぎょう¼ にいはく 「もろもろ比丘びくつげたまはく、 つきさりてのちわれまさにはんすべし」 ととく。 ¬はんぎょう¼ のもんまたくこれおなじ。 ¬げんぎょう¼ はこれ ¬ほっ¼ のけっきょうなり、 しゃこく大林だいりんしょうじゃじゅうかく講堂こうどうにをいてこれをとく。 「ごうなんきゃく三月さんがつとうはん」 のもん ¬ほっ¼ ぜんせつ、 たれかこれをあらそはん これひとつ

おなじ¬きょう¼ (北本巻二〇 南本巻一八) の 「ぼんぎょうぼん」 にいはく、 「じゃおうにんといつくしくしゃじょうぞくして、 一万いちまん千珠せんしゅしょう大象だいぞう、 そのかずまん一々いちいちぞうのうへに三人さんにんをのす。 がい0747こうがく種種しゅじゅ供具くぐさいしてみちにそなへたらずといふことなし。 馬騎ばきにしたがひてじゅう八万はちまんあり。 摩訶まがこくしょ人民にんみん、 たづねておうにしたがふもの、 そのかずじゅう八万はちまん満足まんぞくせり。 そのとき、 拘尸くしじょうしょ大衆だいしゅじゅうじゅんにみてる。 ことごとくみな、 はるかにじゃおう眷属けんぞくとみちをたづねて、 しかもきたるをみる。 そのとき、 ぶつもろもろの大衆だいしゅつげてのたまはく、 一切いっさいしゅじょうのく多羅たらさんだい近因ごんいんとなることはぜんにしくはなし。 なにをもてのゆへに。 じゃおう、 もし耆婆ぎばことばじゅんぜずは、 来月らいがつ七日しちにちひつじょうして阿鼻あびごくにおちん。 このゆへに近因ごんいんぜんにしくはなし」 じょうこれふたつ

またいはく、 「そのとき、 すなはちしゃ双樹そうじゅのあひだにいたり、 仏所ぶっしょいたりてあふいで如来にょらいさんじゅうそうはちじゅう種好しゅこうたてまつる。 なをしみょうしん金色こんじきのやまのごとし」 (北本巻二〇梵行品 南本巻一八梵行品) じょうこれみつ

かくのごときのきょうもん、 あにはん当代とうだいととくにあらずや。

おほよそ ¬かんぎょう¼・¬ほっ¼ どうしょうをたづぬるに、 じゃ ¬ほっ¼ の同聞どうもんしゅにつらなること、 これ第一だいいちしょうなり。 ゆへいかんとなれば、 ¬はんぎょう¼ (北本巻二〇梵行品 南本巻一八梵行品) に、 あるいは 「来月らいがつ七日しちにちひつじょう命終みょうじゅう阿鼻あびごく」 とときあるいは 「善見ぜんけんおうのまうさく、 如来にょらい清浄しょうじょうにしてじょくあることなし。 われら罪人ざいにんいかんが0748みることをえん」 (北本巻三四迦葉品 南本巻三一迦葉品) ととく。

かくのごときのもんをもて、 闍王じゃおうぎゃくざいかんがうるに、 もし ¬ほっ¼ ぜんならば、 れつのちにいづれのしつありてか ¬はんぎょう¼ に 「ひつじょう命終みょうじゅうにゅう阿鼻あびごく」 ととかん。 また ¬ほっ¼ のれつののち、 「如来にょらい清浄しょうじょう无有むうじょくとう罪人ざいにんうん得見とくけん」 とはいふべからず。 あきらかしりぬ、 闍王じゃおうぎゃくざい、 ¬ほっ¼ の序分じょぶん以後いごとみえたり。

おほよそ闍王じゃおうさん滅罪めつざい得益とくやく、 ことごとくみな ¬はんぎょう¼ にいたりてこれをとく。 かるがゆえにしりぬ、 闍王じゃおう、 ¬ほっ¼ の序分じょぶん同聞どうもんしゅにつらなるといへども、 いまだしょうせつをきかず。 しょうせつをきかざるさきに調じょうだつあくきょうにしたがひて拘尸くしじょうしゃ双樹そうじゅにいたる。 そのときにをひてぎゃくざいめっす。 得益とくやくこうむり、 一切いっさいしゅじょうのく多羅たらさんみゃくさんだいしんををこさしむ。 おなじ¬きょう¼ の二十 (北本巻二〇梵行品 南本巻一八梵行品) にいはく、 「そのときじゃおう耆婆ぎばかたりてのたまはく、 われいまいまだせざるに、 すでに天身てんしんをえたり。 たんみょうをすてゝしかも長命じょうみょうをえ、 じょうしんをすてゝしかもじょうしんをえ、 もろもろのしゅじょうをしてのく多羅たらさんみゃくさんだいしんををこさしむ。 すなはちこれ天身てんしん長命じょうみょうじょうしん、 これ一切いっさい諸仏しょぶつ弟子でし」。

¬ほっげん¼ の (巻五上) にいはく、 「じょうどうらいじゅうねんけん真実しんじつ、 ¬ほっ¼ にはじめて真実しんじつをあらはす。 相伝そうでんしていはく、 仏年ぶつねんしちじゅう、 ¬法華ほけきょう¼ をとく」。

¬善見ぜんけんろん¼ (巻二) 0749いはく、 「じゃおうくらゐにのぼりて八年はちねんぶつはんして」。 これ ¬はん¼・¬かんぎょう¼ とうさんぎょうせつごうせり。 よくこゝろをとゞめてこれをみるべしと 云々うんぬん

・第七問答

なんじていはく、 「三月さんがつとうはん (北本巻三四迦葉品 南本巻三一迦葉品) もんによりて ¬かんぎょう¼ を ¬ほっ¼ どうせつといはゞ、 ¬かんぎょう¼ のせつ、 ¬ほっ¼ 八巻はっかんのすゑにあたる。 もしこのぞんぜば、 ¬ほっ¼ (巻四) 「だいぼんにいはく、 「もろもろしゅにいはく、 だいだっさりてのち、 りょうこうをすぎてまさにじょうぶつをうべし。 ごうして天王てんおう如来にょらいといはん。 かいをば天道てんどうなづけん」。 だいべつにゅうめつしてのち阿鼻あびにこれををくる、 もし ¬ほっ¼ 八巻はっかんのすゑにいたりてじゃぎゃくざいををかせば、 ずいじゅん調じょうだつとはとくべからず、 いかん。

こた この、 あにさきにいはずや。 ¬かんぎょう¼ をとくこと ¬ほっ¼ の序分じょぶんのすゑにあたれり。 「きゃく三月さんがつとうはつはん」 は、 ¬ほっ¼ をときをはりて ¬ほっ¼ のけっきょう ¬げんぎょう¼ のせつなり。 ¬はんぎょう¼ のせつ、 またこれにおなじ。 ぎゃくざい以後いご闍王じゃおう仏所ぶっしょけいせず。 如来にょらい闍王じゃおうをすゝめて仏所ぶっしょけいせしめんがために、 なんにつげて 「三月さんがつとうはん」 といふ。 もししからば ¬かんぎょう¼ と ¬はんぎょう¼ とのちゅうげんはっねんなり。 ¬善見ぜんけんろん¼ にいはく、 「じゃくらいにのぼりてはっねんぶつにゅうめつす」 と。 すなはちこのなり。 かるがゆえにしりぬ、 だいかんべつ、 またくそうにあらずと 云々うんぬん

・第八問答

0750づねていはく、 ¬かんぎょう¼ もし ¬ほっ¼ どうせつならば、 なんがゆへぞじょう祖師そしねんしょうにん、 ¬かんぎょう¼ をもてぜんきょうせっするや。 ¬せんじゃくしゅう¼ にいはく、 「とうていはく、 ぜんきょうのなかになんぞ ¬ほっ¼ をせっするや」。 かくのごときの現文げんもんながら、 末学まつがくあに ¬ほっ¼ どうせつといはんや、 いかん。

こた 天臺てんだいのこゝろ、 じょうきょう方等ほうどうせっしてぜんきょうとなづく。 このをもてのゆへに、 しばらくにしたがひてといをなして、 こたえのなかに自義じぎをたつ。 「こたえていはく、 いまいふところしょうといふは、 権実ごんじつ遍円へんえんとうろんずるにあらず。 読誦どくじゅだいじょうごん、 あまねくぜんだいじょうしょきょうつうず。 まえといふは ¬かんぎょう¼ ぜんの諸だいじょうきょうこれなり、 のちといふはおう已後いごしょだいじょうきょうこれなり」 (選択集)

すでに ¬かんぎょう¼ ぜんしょだいじょうきょうといふ、 なんぞ ¬かんぎょう¼ をぜんきょうせっするといふや。 ¬けつ¼ (輔行巻六) にいはく、 「あまねく ¬ほっ¼ ぜんしょきょうをたづぬるに、 じょうぶつもんおよ如来にょらいじょうせつをあかすことなし。 かるがゆえしりぬ、 ならびに方便ほうべんたいするによるがゆへに」 となりじょうぶつ」 と 「如来にょらいじょう」 のむね、 ¬ほっ¼ にいたりてこれをとく。 かるがゆえしりぬ、 「ぜん」 といふは ¬ほっ¼ のほかなり。 ¬ほっ¼ ぜん、 ¬かんぎょう¼ ぜん、 またくそのこゝろこれにおなじ。 あやしむにたらず。

・第九問答

たづねていはく、 ¬かんぎょう¼ もし ¬ほっ¼ どうせつならば、 天臺てんだいあやまてなんぞぜんきょう0751せっするや。

こた だいのこゝろもてさらにはかりがたし。 もしこゝろみにこれをせば、 ¬ほっ¼ はこれはっねんせつ、 ¬かんぎょう¼ はわづかに一日いちにちせつなり。 しかも ¬ほっ¼ の序分じょぶんおわりにあたりてこれをとく。 とき短速たんそくなるゆへに、 方等ほうどうぞくしてぜんきょうせっする

・第十問答

もしなんじ所説しょせつのごときんば、 じょうきょうをもてしゅっ本懐ほんかいとすべきや。

こた しかなり。

・第十一問答

なんじていはく、 しゅっ本懐ほんかいかぎりて ¬ほっ¼ にあり。 ¬きょう¼ (法華経巻一序品) にいはく、 「一大いちだい因縁いんねんのゆへにしゅつげんす」。 じょうさんぎょうのなかにかくのごときのもんなし。 なんぞたゞほしゐまゝにしゅっ本懐ほんかいといふべきや。 かくのごときの、 はなはだもてようしがたし、 いかん。

こた だい本懐ほんかい、 もとよりじゅうしゅじょうをさきとす。 ¬はんぎょう¼ の七種しちしゅしゅじょう、 こゝろこれにおなじ。

しかのみならず、 じょうきょうしゅっ本懐ほんかいといふ、 そのもんひとつにあらず。 ¬弥陀みだきょう¼ にいはく、 「しゃほつ、 まさにしるべし、 われじょくあくにおひてこのなんぎょうじて、 のく多羅たらさんみゃくさんだいをえて、 一切いっさいけんのために、 この難信なんしんほうをとく。 これを甚難じんなんとす」。

¬ほうさん¼ (巻下) にこのもんしゃくしていはく、 「如来にょらい0752じょくしゅつげんして、 ずい方便ほうべんして群萌ぐんもうす。 あるいもんをときてしかもとくせしめ、 あるいしょうをときてさんみょうしょうせしめ、 あるいふくならべてさはりをのぞくとをしへ、 あるい禅念ぜんねんしてしてりょうせよとをしふ。 種々しゅじゅ法門ほうもんみなだつすれども、 念仏ねんぶつして西方さいほうにゆくにすぎたるはなし」。

この経釈きょうしゃく、 あにしゅっ本懐ほんかいといふにあらずや。 こゝをもてがんぎょう、 ¬弥陀みだきょう¼ をしゃくしていはく、 「りょうそんしゅっほんはいにゅうどう要門ようもんみみ経名きょうみょうをきゝて、 すなはちいちじょうにいりてしかも退たいすることなし。 くちに仏号ぶつごうしょうしてすなはち三界さんがいをいでゝしかもかへらず」 (小経疏)

しんの ¬りゃく¼ (小経略記) にいはく、 「しかるに信受しんじゅをすゝむるは、 がんしょうじょうぜんがためなり。 これぶつ本懐ほんかいなり。 きょうすべからず」。

¬しょうさんじょうきょう¼ にいはく、 「またしゃ利子りし、 われかくのごときのやくかんずるに安楽あんらくだい因縁いんねんなり、 じょうたいをとくなり」。

¬みつぞうきょう¼ に、 「諸仏しょぶつしゅっ本懐ほんかいは、 弥陀みだぶつどくみょうごうなり」 と。

¬りょう寿じゅきょう¼ のかんにいはく、 「りょう寿じゅぶつねんじて、 そのくにしょうぜんとがんじて、 もし深法じんぼうをきゝてかんしんぎょうして、 わくしょうぜず、 ない一念いちねんかのぶつねんじて、 じょうしんをもてそのくにしょうぜんとがんず」。

これらの経釈きょうしゃくしゅっ本懐ほんかいといふもんぶんみょうなり。 たれかこれをうたがはん。

・第十二問答

なんじていはく、 ¬ほっ¼ をしゅっ本懐ほんかいといふがごとく、 むかし一代いちだいきょう方便ほうべんとす。 いは0753く、 鹿園ろくおん誘引ゆういん方等ほうどう褒貶ほうへん般若はんにゃとう種々しゅじゅやくありといへども、 みなこれ一仏いちぶつじょう方便ほうべんたり。 かるがゆえ一代いちだいさいちょう、 かぎりて ¬ほっ¼ にあり。 このゆへにしゅっ本懐ほんかいとするにたりぬ。 しかるにじょうきょう薄福はくふくいっのためにこのきょうをとく、 なんぞしゅっ本懐ほんかいぞくせんや。 所引しょいんの ¬弥陀みだきょう¼ は、 またこれたゞいっのためにこれをとく。 念仏ねんぶつをすゝむるばかりなり。 もししからば、 しゅっ本懐ほんかいといふべからず、 いかん。

こた もんといひどうといひ、 すでにまへのこたえのごとし。 なかんづく、 しゃくそんえつしょう、 これすなはちほんをとぐるそうをあらはすとなり。 しかのみならず、 十方じっぽう恒沙ごうじゃ諸仏しょぶつねん証誠しょうじょう、 あに一大いちだい因縁いんねんにはあらずや。 おほよそ諸仏しょぶつしゅっ、 もはらじゅうしゅじょうをさきとす。 かるがゆえしりぬ、 しゅっ本懐ほんかいもはらじょうきょうにあり。 ¬ごん¼ (唐訳巻一三光明覚品) 文殊もんじゅ讃仏さんぶつにいはく、 「一々いちいちごくちゅうりょうこうをへたり。 しゅじょうせんがためのゆへに、 しかもよくこのをしのぶ」。

¬はんぎょう¼ (北本巻二八迦葉品 南本巻二四迦葉品) にいはく、 「一切いっさいしゅじょうをうくるは、 ことごとくこれ如来にょらい一人いちにんなり」。

¬しょうごんろん¼ (荘厳経論巻六随修品) にいはく、 「さつしゅじょうねんじてこれをあいすること、 骨髄こつずいにとほり、 ごうやくせんとほっすること、 なをしいっのごときのゆへに」 と。

このをもてのゆへに、 はじめに ¬りょう寿じゅきょう¼ (巻上 巻下) には、 いまだぎゃくをつくらざるにを0754ひてはおくして 「唯除ゆいじょぎゃく」 ととき、 のちに ¬かんぎょう¼ にいたりて、 すでにぎゃくをつくるにをひては摂取せっしゅしておうじょうをゆるす。 これすなはちしゃきょうしゅしゃくそん種々しゅじゅ方便ほうべんをもて造悪ぞうあくしゅじょうをしてやくせしむること、 かくのごとし。 じょうきょうしゅ弥陀みだ如来にょらいは、 しゃこくにいたりてひかりをのべて、 たちまちに重病じゅうびょうしゅじょうをたすけて、 ことごとく安穏あんのんならしむ。 おうにをひてくうちゅう住立じゅうりゅうする、 だいすなはちしょうをう。 まことにしりぬ、 そんしゅったい、 もともじょうきょうをさきとす。

¬ごんぎょう¼ (晋訳巻五五入法界品) にいはく、 「ざいりき顕現けんげんすること、 円満えんまんしゅ多羅たらをとかんがためなり」。 かのしゅうのひと、 このもんばかりをもてしゅっ本懐ほんかいごうす。 いはんや、 じょうきょうにをひてしゅっ本懐ほんかいといふ、 ¬みつぞうきょう¼ のもんぶんみょうなり。 ¬しょうさんじょうきょう¼ には 「やく安楽あんらくだい因縁いんねん」 ととけり。 かの ¬きょう¼ と ¬弥陀みだきょう¼ とは同本どうほんやくきょうなり、 たれかこれをあらそはん。

しゅっ本懐ほんかいにをひて経々きょうきょうせつ所望しょもうどうなり。 ¬ごんぎょう¼ のごときんばこうしょく善根ぜんごんじょうして本懐ほんかいとす。 ¬ほっ¼ におひてはじょうするを本懐ほんかいとす。 じょうきょうにいたりてはじゅうをすくふを本懐ほんかいとす。 ¬はんぎょう¼ の七種しちしゅしゅじょう、 こゝろをとゞめてこれをみるべし。

ほっ問答もんどう 

 

底本は◎大谷大学蔵江戸時代中期恵空写伝本。 ただし訓(ルビ)は有国により、 表記は現代仮名遣いとした。