0165◎仏説阿弥陀経 巻下
*呉月*支国*居士支謙訳
二 Ⅳ 往生因果
ⅰ 衆生往生
【14】◎仏、 阿逸菩薩に告げたまはく、 それ世間の人民もしは善男子・善女人、 願じて阿弥陀仏国に往生せんと欲するものに三輩あり、 徳をなすに大小ありて、 うたたあひ及ばずと。
◎○仏告タマハク↢阿逸菩薩ニ↡、其レ世間ノ人民若ハ善男子・善女人、願テ欲ル↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡者ニ有リ↢三輩↡、作ニ↠徳ヲ有テ↢大小↡、転タ不ト↢相ヒ及バ↡。
仏のたまはく、 なんらをか三輩となす。 最上の第一輩とは、 まさに家を去り妻子を捨て愛欲を断じ行じて沙門となり、 無為の道に就きてまさに菩薩道をなし、 六波羅蜜経を奉行するものなり。 沙門となりて経戒を虧かず、 慈心をもつて精進しまさに瞋怒せず、 まさに女人と交通せず、 斎戒清浄にして心に貪慕するところなく、 至誠に願じて阿弥陀仏国に往生せんと欲し、 つねに念じて至心にして断絶せざれば、 その人すなはち今世において道を求むる時、 すなはち自然にその臥止夢中において、 阿弥陀仏およびもろもろの菩薩・阿羅漢を見たてまつり、 その人寿命終らんと欲する時、 阿弥陀仏すなはちみづからもろもろの菩薩・阿羅漢とともに翻飛行してこれを迎ふ。
○仏言ク、何等ヲカ為ス↢三輩ト↡。最上ノ第一輩ト者、当ニ去リ↠家ヲ捨テ↢妻子ヲ↡断ジ↢愛欲ヲ↡*行テ作リ↢沙門ト↡、就テ↢无為之道ニ↡当ニ作シ↢菩薩道ヲ↡、奉↢行ル六波羅蜜経ヲ↡者ナリ。作テ↢沙門ト↡不↠虧カ↢経戒ヲ↡、慈心ヲモテ精進シ不↢当ニ瞋怒セ↡、不↧当ニ与↢女人↡交通セ↥、斎戒清浄ニシテ心ニ無ク↠所↢貪慕ル↡、至誠ニ願テ欲シ↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡、常ニ念テ至心ニシテ不レバ↢断絶セ↡者、○其ノ人便チ於テ↢今世ニ↡求ル↠道ヲ時、即チ自然ニ於テ↢其ノ臥止*夢中ニ↡、見マツリ↢阿弥陀仏及ビ諸ノ菩薩・阿羅漢ヲ↡、其ノ人寿命欲ル↠終ムト時、阿弥陀仏即チ自ラ与↢諸ノ菩薩・阿羅漢↡共ニ*翻飛行テ迎フ↠之ヲ。
すなはち阿弥陀仏国に往生し、 すなはち七宝の水池の蓮華のなかより化生して、 すなはち自然に身を受け、 長大してすなはち阿惟越致の菩薩となり、 すなはちもろもろの菩薩とともに翻輩飛行して八方上下のもろもろの無央数の仏を供養したてまつり、 すなはち智慧勇猛に逮びて、 楽ひて経道を聴き、 その心歓楽す。 所居の七宝の舎宅虚空のなかにありて、 ほしいままにその意に随ひて所欲のごとくありて作為して、 阿弥陀仏を去ること近しと。
○則チ往↢生シ阿弥陀仏国ニ↡、便チ於リ↢七宝ノ水池ノ蓮華ノ中↡化生テ、即チ自然ニ受ケ↠身ヲ、長大テ則チ作リ↢阿惟越致ノ菩薩ト↡、便即チ与↢諸ノ菩薩↡共ニ翻輩飛行テ供↢養マツリ八方上下ノ諸ノ无央数ノ仏ヲ↡、即チ逮テ↢智慧勇猛0166ナルニ↡、楽ヒテ聴キ↢経道ヲ↡、其ノ心歓楽ス。所居ノ七宝ノ舎宅在テ↢虚空ノ中ニ↡、恣ニ随テ↢其ノ意ニ↡在テ↢所欲ノゴトク↡作為テ、去コト↢阿弥陀仏ヲ↡近シト。
仏のたまはく、 もろもろの阿弥陀仏国に往生せんと欲するもの、 まさに精進して経戒を持ち、 かくのごときの上法を奉行するものは、 すなはち阿弥陀仏国に往生することを得て衆のために尊敬せらるることを得べし。 これを上の第一輩となす。
○仏言ク、諸ノ欲ル↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡者、当ニ↣精進テ持チ↢経戒ヲ↡、奉↢行ル如キノ↠是ノ上法ヲ↡者ハ、則チ得テ↣往↢生コトヲ阿弥陀仏国ニ↡可シ↠得↣為ニ↠衆ノ所コトヲ↢尊敬セ↡。是ヲ為スト↢上ノ第一輩ト↡。
【15】仏のたまはく、 その中輩とは、 その人願じて阿弥陀仏国に往生せんと欲するに、 家を去り妻子を捨て愛欲を断ち行じて沙門となることあたはざるものといへども、
○仏言ク、其ノ中輩ト者、其ノ人願テ欲ルニ↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡、雖モ↩不ル↠能ハ↧去リ↠家ヲ捨テ↢妻子ヲ↡断チ↢愛欲ヲ↡行テ作コト↦沙門ト↥者ト↨、
まさに経戒を持ちて虧失を得ることなく、 ますます分檀布施をなして、 つねに仏の経語の深きことを信受し、 まさに至誠中信をなして、 もろもろの沙門に飯食せしめ、 仏寺を作り塔を起て、 華を散らし香を焼き灯を然し、 雑繒綵を懸く。 かくのごときの法のもの、 適莫するところなく、 まさに瞋怒せず、 斎戒清浄にして慈心をもつて精進し、 愛欲を断じて、
○当ニ持テ↢経戒ヲ↡无ク↠得コト↢虧失ヲ↡、益ス作テ↢分檀布施ヲ↡、常ニ信↢受シ仏ノ経語ノ深キコトヲ↡、当ニ作テ↢至誠中信ヲ↡、飯↢食シメ諸ノ沙門ニ↡、作リ↢仏寺ヲ↡起テ↠塔ヲ、散シ↠華ヲ焼キ↠香ヲ然シ↠灯ヲ、懸ク↢雑繒綵ヲ↡。如キノ↠是ノ法ノ者、無ク↠所↢適莫ル↡、不↢当ニ瞋怒セ↡、斎戒清浄ニシテ慈心ヲモテ精進シ、断テ↢愛欲ヲ↡、
念じて阿弥陀仏国に往生せんと欲して、 一日一夜断絶せざれば、
○念テ欲テ↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡、一日一夜不レバ↢断絶セ↡者、
その人すなはち今世において、 また臥止夢中において阿弥陀仏を見たてまつり、 その人寿命終らんと欲する時、 阿弥陀仏すなはち化してその人をして目にみづから阿弥陀仏およびその国土を見しめたまふ。 阿弥陀仏国に往至すれば、 智慧勇猛なることを得べしと。
○其ノ人便チ於テ↢今世ニ↡、亦復於テ↢臥止夢中ニ↡見マツリ↢阿弥陀仏ヲ↡、其ノ人寿命欲ル↠終ムト時、阿弥陀仏即チ化テ令タマフ↣其ノ人ヲシテ目ニ自ラ見↢阿弥陀仏及ビ其ノ国土ヲ↡。往↢至レバ阿弥陀仏国ニ↡者、可シト↠得↢智慧勇猛ナルコトヲ↡。
仏のたまはく、 その人施与を奉行することかくのごとし。 もしその人のしかうして後また中悔し、 心中に狐疑して、 分檀布施し諸善をなさば後世にその福を得ることを信ぜず、 弥陀仏国あることを信ぜず、 その国に往生することあるを信ぜず。 しかればその人念を続けて絶えざるに、 しばらくは信じしばらくは信ぜず、 意志猶予して専拠するところなしといへども、 続けてその善願を本とすればなほし往生することを得。
●仏言ク、其ノ人奉↢行コト施与ヲ↡如シ↠是ノ者。若シ其ノ人ノ然シテ後復中悔シ、心中ニ狐疑テ、不↠信ゼ↧分檀布施シ作サバ↢諸善ヲ↡後世ニ得コトヲ↦其ノ福ヲ↥、不↠信ゼ↠有コトヲ↢弥陀仏国↡、不↠信ゼ↠有ヲ↣往↢生コト其ノ国ニ↡。雖モ↢爾レバ者其ノ人続テ↠念ヲ不ルニ↠絶エ、蹔クハ信ジ蹔クハ不↠信ゼ、意志猶*予テ无シト↟所↢専0167拠ル↡、続テ其ノ善願ヲ為レバ↠本ト故シ得↢往生コトヲ↡。
その人寿命病みて終らんと欲する時、 阿弥陀仏すなはちみづから化して形像となり、 その人をして目にみづからこれを見しめたまふ。 口にまたいふことあたはざれども、 ただ心中に歓喜し踊躍して、 意に念言すらく、 われますます斎戒し善をなすを知らざりしを悔ゆ。 いままさに阿弥陀仏国に往生すべしと。 その人すなはち心にみづから悔過す。 悔過すれば小しく差えて少くるも、 また及ぶところなし。 その人寿命終尽するに、 すなはち阿弥陀仏国に往生すれども、 阿弥陀仏の所に前み至ることを得ることあたはず。
●其ノ人寿命病テ欲ル↠終ムト時、阿弥陀仏即チ自ラ化テ*作リ↢形像ト↡、令タマフ↢其ノ人ヲシテ目ニ自ラ見↟之ヲ。口ニ不ドモ↠能ハ↢復言コト↡、但心中ニ歓喜シ踊躍テ、意ニ念言ラク、我悔ユ↠不リシヲ↠知ラ↢益ス斎戒シ作コトヲ↟善ヲ。今当ニシト↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。其ノ人即チ心ニ自ラ悔過ス。悔過レバ者小シク差テ少モ、無シ↠所↢復及ブ↡。其ノ人寿*命終尽ルニ、即チ往↢生ドモ阿弥陀仏国ニ↡、不↠能ハ↠得コト↣前ミ↢至コトヲ阿弥陀仏ノ所ニ↡。
すなはち道に阿弥陀仏国界の辺の自然七宝の城中を見て、 心すなはち大きに歓喜し、 すなはちその城中に止まる。 すなはち七宝の水池の蓮華のなかより化生して、 すなはち身を受け自然に長大す。 城中にあることこの間において五百歳なり。 その城の広縦おのおの二千里、 城中にもまた七宝の舎宅あり。
●便チ道ニ見テ↢阿弥陀仏国界ノ辺ノ自然七宝ノ城中ヲ↡、心便チ大ニ歓喜シ、便チ止ル↢其ノ城中ニ↡。即チ於リ↢七宝ノ水池ノ蓮華ノ中↡化生テ、則チ受ケ↠身ヲ自然ニ長大ス。在コト↢城中ニ↡於テ↢是ノ*間ニ↡五百歳ナリ。其ノ城ノ広縦各ノ二*千里、城中ニモ亦有リ↢七宝ノ舎宅↡。
中外内にみな七宝の浴池あり。 浴池のなかにもまた自然の華香ありて繞れり。 浴池の上にまた七宝樹ありて重なり行び、 またみなまた五つの音声をなせり。 その飯食を欲する時は前に自然の食あり、 百味を具したる飲食なり。 得んと欲するところのごとくありて意に応じてみな至る。 その人城中においてまた快楽あり。 その城中たとへば第二忉利天上の自然のもののごとし。
●中外内ニ皆有リ↢七宝ノ浴池↡。浴池ノ中ニモ亦有テ↢自然ノ華香↡繞レリ。浴池ノ上ニ亦有テ↢七宝樹↡重ナリ行ビ、亦皆*復作セリ↢五ノ音声ヲ↡。其ノ欲ル↢*飯食ヲ↡時ハ前ニ有リ↢自然ノ食↡、具タル↢百味ヲ↡飲食ナリ。在テ↠所ノゴトク↠欲ル↠得ムト応テ↠意ニ皆至ル。其ノ人於テ↢城中ニ↡亦快楽アリ。其ノ城中比バ如シ↢第二*忉利天上ノ自然之物ノ↡。
しかりといへどもその人城中より出ることを得ることあたはず。 また阿弥陀仏を見たてまつることを得ることあたはず。 ただその光明を見たてまつり、 心にみづから悔責し踊躍して喜ぶのみ。 また経を聞くことを得ることあたはず。 またもろもろの比丘僧を見ることを得ることあたはず。 また阿弥陀仏の国中のもろもろの菩薩・阿羅漢の状貌はなんらの類なるかを見知することを得ることあたはず。 その人愁苦することかくのごとく小適のごときのみ。
●雖モ↠爾ト其ノ人城中ヨリ*不↠能ハ↠得コト↠出コトヲ。復不↠能ハ↠得コト↠見マツルコトヲ↢阿弥陀仏ヲ↡。但見マツリテ↢其ノ光明ヲ↡、心ニ自ラ悔責シ踊躍テ喜ブ耳。亦復不↠能ハ↠得コト↠聞コトヲ↠経ヲ。亦復不↠能ハ↠得コト↠見コトヲ↢諸ノ比丘僧ヲ↡。亦復不↠能ハ↠得コト↣見↢知コトヲ阿弥陀仏ノ国中ノ諸ノ菩薩・阿羅漢ノ状貌ハ何等ノ類ナルカヲ↡。其ノ人愁苦コト如ク↢是比↡如キ↢小適ノ↡耳。
仏またしからしむるにあらず、 身行の所作、 自然にこれを得るなり。 みな心にみづから趣向して道にその城中に入るなり。 その人もと宿命に道を求めし時、 心口おのおの異にして言念誠信なく、 仏経を狐疑して、 またこれを信向せず、 まさに自然に悪道のなかに入る。 阿弥陀仏哀愍して、 威神をもつてこれを引きて去らしめたまふのみ。
●仏亦不0168ズ↠使ルニ↠爾ラ、身行ノ所作、自然ニ得ナリ↠之ヲ。皆心ニ自ラ趣向テ道ニ入ナリ↢其ノ城中ニ↡。其ノ人本宿命ニ求シ↠道ヲ時、心口各ノ異ニシテ言念無ク↢誠信↡、狐↢疑テ仏経ヲ↡、復不↣信↢向セ之ヲ↡、当ニシ↣自然ニ入ル↢悪道ノ中ニ↡。阿弥陀仏哀愍テ、威神ヲモテ引テ↠之ヲ去シメタマフ*爾。
その人城中において五百歳にして、 すなはち出でて阿弥陀仏の所に往至して経を聞くことを得るも、 心開解せず、 またもろもろの菩薩・阿羅漢の比丘僧のなかにありて、 経を聴きもつて去ることを得ず。 所居の処の舎宅地にありて、 舎宅をして意に随ひて高大にして虚空のなかにあらしむることあたはず。 また阿弥陀仏を去ることはなはだ大きに遠くして、 阿弥陀仏に近附したてまつることを得ることあたはず。 その人智慧あきらかならず、 経を知ることまた少なくして、 心歓喜せず、 意開解せず。
●其ノ人於テ↢城中ニ↡五百歳ニシテ、乃チ得ルモ↧出テ往↢至テ阿弥陀仏ノ所ニ↡聞コトヲ↞経ヲ、心不↢開解セ↡、亦復不↠得↧在テ↢諸ノ菩薩・阿羅漢ノ比丘僧ノ中ニ↡、聴テ↠経ヲ以テ去コトヲ↥。所居ノ処ノ舎宅在テ↠地ニ、不↠能ハ↠令コト↣舎宅ヲシテ随テ↠意ニ高大ニシテ在ラ↢虚空ノ中ニ↡。復去コト↢阿弥陀仏ヲ↡甚ダ大ニ遠クシテ、不↠能ハ↠得コト↣近↢附マツルコトヲ阿弥陀仏ニ↡。其ノ人智慧不↠明ナラ、知コトモ↠経ヲ復少クシテ、心不↢歓喜セ↡、意不↢開解セ↡。
その人久々にまたみづからまさに智慧開解して経を知ること明健勇猛なるべくして、 心まさに歓喜すべし。 次いでまさにまた上の第一輩のごとくなるべし。 ゆゑはいかん。 その人ただ前世宿命に道を求めし時、 大きに斎戒を持たず、 経法を毀失し、 意志狐疑なるによりて、 仏語を信ぜず、 仏経の深きことを信ぜず、 分檀布施して善をなせば後世にその福を得べきことを信ぜず、 また中悔して阿弥陀仏国に往生することを信ぜざるによりて、 徳をなすこと至心ならず、 これをもつてのゆゑにのみなり。 これを第二の中輩となすと。
●其ノ人久久ニ亦自ラ当ニクシテ↢智慧開解テ知コト↠経ヲ明健勇猛ナル↡、心当ニシ↢歓喜ス↡。次デ当ニシ↣復如クナル↢上ノ第一輩ノ↡。所以者何ン。其ノ人但坐テ↧前世宿命ニ求シ↠道ヲ時、不↣大ニ持タ↢斎戒ヲ↡、毀↢失シ経法ヲ↡、意志狐疑ナルニ↥、不↠信ゼ↢仏語ヲ↡、不↠信ゼ↢仏経ノ深コトヲ↡、不↠信ゼ↢分檀布施テ作セバ↠善ヲ後世ニ当コトヲ↟得↢其ノ福ヲ↡、復坐テ↢中悔テ不ルニ↟信ゼ↣往↢生コトヲ阿弥陀仏国ニ↡、*作コト↠徳ヲ不↢至心ナラ↡、用テノ↠*是ヲ故ニ*爾ナリ。是ヲ為スト↢第二ノ中輩ト↡。
【16】仏のたまはく、 その三輩とは、 その人願じて阿弥陀仏国に往生せんと欲すれども、 もしは分檀布施を用ゐるところなく、 また香を焼き華を散らし灯を然し、 雑繒綵を懸け、 仏寺を作り塔を起てもろもろの沙門に飯食せしむることあたはざるものは、 まさに愛欲を断じて貪慕するところなく、 経を得て疾く慈心をもつて精進し、 まさに瞋怒せず、 斎戒清浄なるべし。
○仏言ク、其ノ三輩ト者、其ノ人願テ欲ドモ↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡、若ハ無ク↠所↠用ル↢分檀布施ヲ↡、亦不ル↠能ハ↧焼キ↠香ヲ散ジ↠華ヲ然シ↠灯ヲ、懸ケ↢雑繒綵ヲ↡、作リ↢仏寺ヲ↡起テ↠塔ヲ*飯↦食シムルコト諸ノ沙門ニ↥者ハ、○当ニ断テ↢愛欲ヲ↡無ク↠所↢貪慕ル↡、得テ↠経ヲ疾ク慈心ヲモテ精進シ、不↢当ニ瞋怒セ↡、斎戒清浄ナルベシ。
かくのごときの法のもの、 まさに一心に念じて阿弥陀仏国に往生せんと欲し、 昼夜十日断絶せざれば、 寿命終りてすなはち阿弥陀仏国に往生して、 尊敬智慧勇猛を得べしと。
○如キノ↠是ノ法0169ノ者、当ニ一心ニ念テ欲シ↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡、昼夜十日不レバ↢断絶セ↡者、○寿命終テ即チ往↢生テ阿弥陀仏国ニ↡、可シト↠得↢尊敬智慧勇猛ヲ↡。
仏のたまはく、 その人これをなして以後、 もしまた中悔し心意に狐疑して、 善をなさば後世にまさにその福を得べきことを信ぜず、 阿弥陀仏国に往生することを信ぜず。 その人しかりといへども、 続いて往生することを得。 その人寿命病みて終らんと欲する時、 阿弥陀仏すなはちその人をして臥止夢中において阿弥陀仏の土を見しめたまふ。
●仏言ク、其ノ人作テ↠是ヲ以後、若シ復中悔シ心意ニ狐疑テ、不↠信ゼ↢作サバ↠善ヲ後世ニ当ニコトヲ↟得↢其ノ福ヲ↡、不↠信ゼ↣往↢生コトヲ阿弥陀仏国ニ↡。其ノ人雖モ↠*爾リト、続テ得↢往生コトヲ↡。其ノ人ノ寿命病テ欲ル↠終ムト時、阿弥陀仏即チ令タマフ↧其ノ人ヲシテ於テ↢臥止夢中ニ↡見↦阿弥陀*仏ノ土ヲ↥。
心中に大きに歓喜し、 意にみづから念言すらく、 われますます諸善をなすべきことを知らざりしを悔ゆ。 いままさに阿弥陀仏国に往生すべしと。 その人ただこれを念じて口にまたいふことあたはざれども、 すなはちみづから悔過す。 悔過すれば、 やや減少なきも、 悔ゆるにまた及ぶところなし。 その人命終して、 すなはち阿弥陀仏国に生ずるも、 前み至ることを得ることあたはず。
●心中ニ大ニ歓喜シ、意ニ自ラ念言ラク、我悔ユ↠不リシヲ↠知ラ↣益ス作ベキコトヲ↢諸善ヲ↡。今当ニシト↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。其ノ人但念テ↠是ヲ口ニ不ドモ↠能ハ↢復言コト↡、即チ自ラ悔過ス。悔過レバ者、差減少モ、悔ルニ无シ↠所↢復及ブ↡。其ノ人命終テ、即チ生ルモ↢阿弥陀仏国ニ↡、不↠能ハ↠得コト↢前ミ至コトヲ↡。
すなはち道に二千里の七宝の城中を見て、 心に独り歓喜し、 すなはちそのなかに止まりて、 また七宝の浴池の蓮華のなかより化生し、 すなはち自然に身を受けて長大す。 その城もまた前の城の法のごとし。 たとへば第二忉利天上の自然のもののごとし。 その人また城中において、 五百歳をはりてすなはち出づることを得て、 阿弥陀仏の所に至り、 心中に大きに喜ぶなり。
●便チ道ニ見テ↢二千里ノ七宝ノ城中ヲ↡、心ニ独リ歓喜シ、便チ止テ↢其ノ中ニ↡、亦復於リ↢七宝ノ浴池ノ蓮華ノ中↡化生シ、即チ自然ニ受テ↠身ヲ長大ス。其ノ城モ亦復如シ↢前ノ城ノ法ノ↡。比バ如シ↢第二忉利天上ノ自然之物ノ↡。其ノ人亦復於テ↢城中ニ↡、五百歳竟テ乃チ得テ↠出コトヲ、至リ↢阿弥陀*仏ノ所ニ↡、心中ニ*大ニ喜ブナリ。
その人経を聴聞すれども心開解せず、 意歓楽せず、 智慧あきらかならず、 経を知ることまた少なし。 所居の舎宅地にありて、 舎宅をして意に随ひて高大にして虚空のなかにあらしむることあたはず。 また阿弥陀仏を去ること大きに遠くして、 阿弥陀仏に近附したてまつることを得ることあたはず。 またこの第二中輩の狐疑のもののごときなり。
●其ノ人聴↢聞ドモ経ヲ↡、心不↢*開解セ↡、意不↢歓楽セ↡、智慧不↠明ナラ、知コト↠経ヲ復少シ。所居ノ舎宅在テ↠地ニ、不↠能ハ↠令コト↣舎宅ヲシテ随テ↠意ニ高大ニシテ在ラ↢虚空ノ中ニ↡。復去コト↢阿弥陀仏ヲ↡大ニ遠クシテ、不↠能ハ↠得コト↣近↢附マツルコトヲ阿弥陀仏ニ↡。亦復如キ↢是ノ第二中輩ノ狐疑ノ者ノ↡也。
その人久々にまたまさに智慧開解して経を知ること勇猛なるべくして、 心まさに歓楽すべし。 次いで上の第一輩のごとし。 ゆゑはいかん。 みな前世宿命に道を求めし時、 中悔狐疑し、 しばらくは信じしばらくは信ぜず、 善をなせばその福徳を得ることを信ぜざるに、 みな自然にこれを得るのみ。 その功徳に鉉・不鉉するところあるに随ひておのおの自然に趣向す。 経を説き道を行ずること億万に卓れ、 超絶してあひ及ばず。
●其ノ人久久ニ亦当ニクシテ↢智慧開解テ知コト↠経ヲ勇猛ナル↡、心当ニシ↢歓楽ス↡。次デ如シ↢上ノ第0170一輩ノ↡也。所以者何ン。皆坐テ↧前世宿命ニ求シ↠道ヲ時、中悔狐疑シ、蹔クハ信ジ蹔クハ不↠信ゼ、不ルニ↟信ゼ↢作セバ↠善ヲ得コトヲ↢其ノ福徳ヲ↡、皆自然ニ得ル↠之ヲ*爾。随テ↢其ノ功徳ニ有ニ↟所↢鉉・不鉉ル↡各ノ自然ニ趣向ス。説キ↠経ヲ行コト↠道ヲ*卓レ↢億万ニ↡、超絶テ不ト↢相ヒ及バ↡。
仏のたまはく、 それ求めて菩薩道をなして▼阿弥陀仏国に生ぜんと欲するものは、 その人しかうして後みなまさに阿惟越致の菩薩を得べし。 阿惟越致の菩薩は、 みなまさに三十二相・紫磨金色・八十種好あるべし。
○仏言ク、其レ欲ル↧求テ作テ↢菩薩道ヲ↡生ムト↦阿弥陀仏国ニ↥者ハ、其ノ人然シテ後皆当ニシ↠得↢阿惟越致ノ菩薩ヲ↡。阿惟越致ノ菩薩者、皆当ニシ↠有ル↢三十二相・紫磨金色・八十種好↡。
みなまさに作仏して所願に随ふべし。 求欲するところのごとくありて、 他方仏国において作仏し、 つひにまた泥犁・禽獣・薜荔に更らず。
○皆当ニシ↣作仏テ随フ↢所願ニ↡。在テ↠所ノゴトク↢求欲ル↡、於テ↢他方仏国ニ↡作仏シ、終ニ不↣復更ラ↢泥*犁・禽獣・薜荔ニ↡。
それ精進し道を求むるに随ひて、 早晩の事同等なるのみ。 道を求めて休まずは、 かならずまさにこれを得てその所欲の願を失せずと。
●随テ↢其レ精進シ求ルニ↟道ヲ、早晩之事同等ナル*爾。求テ↠道ヲ不ハ↠休マ、会ズ当ニ得テ↠之ヲ不ト↠失セ↢其ノ所欲ノ願ヲ↡也。
【17】仏、 阿逸菩薩らの諸天・帝王・人民に告げたまはく、 われみななんぢらに語る。 もろもろの阿弥陀仏国に往生せんと欲するものは、 大きに精進し禅定して経戒を持つことあたはざるものなりといへども、 大きにかならずまさに善をなすべし。 一には殺生することを得ざれ。 二には盗窃することを得ざれ。 三には淫泆にして他人の婦女を奸愛することを得ざれ。 四には調欺することを得ざれ。 五には飲酒することを得ざれ。 六には両舌することを得ざれ。 七には悪口することを得ざれ。 八には妄言することを得ざれ。 九には嫉妬することを得ざれ。 十には貪餮することを得ざれ。 心中に慳惜するところあることを得ざれ。 瞋怒することを得ざれ。 愚痴なることを得ざれ。 心の嗜欲に随ふことを得ざれ。 心に中悔することを得ざれ。 狐疑することを得ざれ。
●仏告タマハク↢阿逸菩薩等ノ諸天・帝王・人民ニ↡、我皆語ル↢汝曹ニ↡。諸ノ欲ル↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡者ハ、雖モ↧不ル↠能ハ↣大ニ精進シ禅定テ持コト↢経戒ヲ↡者ナリト↥、大ニ要ズ当ニシ↠作ス↠善ヲ。一ニ者不レ↠得↢殺生コトヲ↡。二ニ者不レ↠得↢盗窃コトヲ↡。三ニ者不レ↠得↣淫泆ニシテ*奸↢愛コトヲ他人ノ婦女ヲ↡。四ニ者不レ↠得↢調欺コトヲ↡。五ニ者不レ↠得↢飲酒コトヲ↡。六ニ者不↠得↢両舌コトヲ↡。七ニ者不レ↠得↢悪口コトヲ↡。八ニ者不↠得↢妄言コトヲ↡。九ニ者不レ↠得↢嫉妬コトヲ↡。十ニ者不レ↠得↢貪餮コトヲ↡。不レ↠得↢心中ニ有コトヲ↟所↢慳惜ル↡。不レ↠得↢瞋怒コトヲ↡。不レ↠得↢愚痴ナルコトヲ↡。不レ↠得↠随コトヲ↢*心ノ嗜欲ニ↡。不レ↠得↢心ニ中悔コトヲ↡。不レ↠得↢狐疑コトヲ↡。
まさに孝順をなすべし。 まさに至誠忠信をなすべし。 まさに仏の経語の深きことを信受すべし。 まさに善をなせば後世にその福を得ることを信ずべし。 かくのごときその法を奉持して虧失せざるものは、 心の所願のごとくありて阿弥陀仏国に往生することを得べし。 かならずまさに斎戒し一心清浄にして、 昼夜につねに念じ、 阿弥陀仏国に往生せんと欲して、 十日十夜断絶せざるべし。 われみなこれを慈哀してことごとく阿弥陀仏国に生ぜしめんと。
●当ニシ↠作ス↢孝順ヲ↡。当ニシ↠作ス↢至誠忠信ヲ↡。当ニシ↣信↢受ス仏ノ経語ノ深キコトヲ↡。当ニシ↠信ズ↣作バ↠善ヲ後世ニ得コトヲ↢其ノ福ヲ↡。奉0171↢持テ如キ↠是ノ其ノ法ヲ↡不ル↢虧失セ↡者ハ、在テ↢心ノ所願ノゴトク↡可シ↠得↣往↢生コトヲ阿弥陀仏国ニ↡。至要ズ当ニシ↧斎戒シ一心清浄ニシテ、昼夜ニ常ニ念ジ、欲テ↣往↢生ムト阿弥陀仏国ニ↡、十日十夜不ル↦断絶セ↥。我皆慈↢哀テ之ヲ↡悉ク令メムト↠生ゼ↢阿弥陀仏国ニ↡。
仏のたまはく、 世間の人もつて賢明に慕ひ及ばんことを欲すれども、 家に居して善を修し道をなさんもの、 妻子とともに居し、 恩好愛欲のなかに在りて、 憂念・苦多く、 家事怱務にして、 ▼大斎一心清浄なるに暇あらず。 家を去り欲を棄つることを得ることあたはずといへども、 空閑の時ありて、 みづから心意を端しくし、 身に善をなすことを念じ、 専精に道を行ずること十日十夜すれば殊なり、 もししこうすることあたはずは、 みづから思惟しつらつら挍計すべし。
●仏言ク、世間ノ人以テ欲ドモ↣慕ヒ↢及ムコトヲ賢明ニ↡、居テ↠家ニ修シ↠善ヲ為ム↠道ヲ者、与↢妻子↡共ニ居シ、在テ↢恩好愛欲之中ニ↡、憂念・苦多ク、家事怱務ニシテ、不↠暇アラ↢大斎一心清浄ナルニ↡。雖モ↠不ト↠能ハ↠得コト↢去リ↠家ヲ棄コトヲ↟欲ヲ、有テ↢空閑ノ時↡、自ラ端シクシ↢心意ヲ↡、念ジ↢身ニ作コトヲ↟善ヲ、専精ニ行コト↠道ヲ十日十夜スレバ者殊ナリ、使シ不ハ↠能ハ↠*爾スルコト、自ラ思惟シ熟ラ挍計スベシ。
◆身を度脱せんと欲するもの、 下まさに念を絶ち憂ひを去るべく、 家事を念ずることなかれ。 婦人と同床することなかれ。 みづから身心を端正にして愛欲を断じ、 一心に斎戒清浄にして、 意を至して阿弥陀仏国に生ぜんと念じて一日一夜断絶せざれば、 寿終りてみなその国に往生し、 七宝の浴池の華蓮のなかにありて化生して、 智慧勇猛なることを得べし。 所居の七宝の舎宅、 自在に意の所欲のごとく作為して、 次いで上の第一輩のごとくなるべしと。
●欲ル↣度↢脱ムト身ヲ↡者、下当ニク↢絶チ↠念ヲ去ル↟憂ヲ、勿レ↠念コト↢家事ヲ↡。莫レ↧与↢婦人↡同床コト↥。自ラ端↢正ニシテ身心ヲ↡断ジ↢於愛欲ヲ↡、一心ニ斎戒清浄ニシテ、至テ↠意ヲ念テ↠生ムト↢阿弥陀仏国ニ↡一日一夜不レバ↢断絶セ↡者、寿終テ皆往↢生シ其ノ国ニ↡、在テ↢七宝ノ浴池ノ華蓮ノ中ニ↡化生テ、可↠得↢智慧勇猛コトヲ↡。所居ノ七宝ノ舎宅、自在ニ意ノ所欲ノゴトク作為テ、可シト↣次デ如クナル↢上ノ第一輩ノ↡。
仏、 阿逸菩薩に語りてのたまはく、 もろもろの八方上下の無央数の諸天・人民・比丘僧・比丘尼・優婆塞・優婆夷の、 阿弥陀仏国に往生する衆等の大会、 みなともに七宝の浴池水のなかにおいてす。
●仏語テ↢阿逸菩薩ニ↡言ク、諸ノ八方上下ノ無央数ノ諸天・人民・比丘僧・比丘尼・優婆塞・優婆夷ノ、往↢生ル阿弥陀仏国ニ↡衆等ノ大会、皆共ニ於テス↢七宝ノ浴池水ノ中ニ↡。
すべてともに人々はことごとくみづから一つの大蓮華の上において坐して、 みなことごとくみづから道徳行善を陳ぶ。 人々おのおのみづからその前世宿命に道を求めし時の戒を持ちてなすところの善法、 従来するところの生の本末、 その好憙むところの経道、 経を知れる智慧、 施行するところの功徳を説き、 上より下に次ぎてうたたみな遍す。
●都テ共ニ人人ハ悉ク自ラ於テ↢一ノ大蓮華ノ上ニ↡坐テ、皆悉ク自ラ陳ブ↢道徳行善ヲ↡。人人各ノ自ラ説キ↧其ノ前世宿命ニ求シ↠道ヲ時ノ持テ↠戒ヲ所ノ↠作ス善法、所ノ↢従来ル↡生ノ本末、其ノ所ノ↢好憙ム↡経道、知0172レル↠経ヲ智慧、所ノ↢施行ス↡功徳ヲ↥、従リ↠上次テ↠下ニ転タ皆遍ス。
もつて経を知るに明・不明あり、 智に深浅・大小あり、 徳に優劣・厚薄ありて、 自然の道として、 才能智慧健猛を別知す。 衆はあひ観照し、 礼義和順して、 みなみづから歓喜し踊躍す。 智慧に勇猛あるに、 おのおのあひ属逮ばずと。
●*以テ知ニ↠経ヲ有リ↢明・不明↡、智ニ有リ↢深浅・大小↡、徳ニ有テ↢優*劣・厚薄↡、自然之道トシテ、別↢知ス才能智慧健猛ヲ↡。衆ハ相ヒ観照シ、礼義和順テ、皆自ラ歓喜シ踊躍ス。智慧ニ有ニ↢勇猛↡、各ノ不ト↢相ヒ属逮バ↡。
仏のたまはく、 その人ことにあらかじめ徳をなし善をなすことをせず、 軽戯ししからしむることを信ぜず、 徒倚し懈怠なれば、 ためにもつてしかるべく、 時に至りて都集まりて経道を説けども、 自然に迫促せられて応答遅晩なり。 道智卓殊超絶にして才能高猛なれども、 独り辺羸において事に臨みてすなはち悔ゆ。 悔ゆればすでに出づるも、 その後にまさにまたなんの益かあらん。 ただ心中悷悢して等しからんと慕及するのみと。
●仏言ク、其ノ人殊ニ不↢*予メ作シ↠徳ヲ為コトヲセ↟善ヲ、軽戯シ不↠信ゼ↠使コトヲ↠然ラ、徒倚シ懈怠ナレバ、為ニ用テ可ク↠爾ル、至テ↠時ニ都集テ説ドモ↢経道ヲ↡、自然ニ迫促ラレテ応答遅晩ナリ。道智卓殊超絶ニシテ才能高猛ナレドモ、独リ於テ↢辺羸ニ↡臨テ↠事ニ乃チ悔ユ。悔レバ者已ニ出ルモ、其ノ後ニ当ニ復何ノ益カアラム。但心中*悷*悢テ慕↢及ル等カラムト↡*爾ト。
【18】仏のたまはく、 阿弥陀仏国のもろもろの菩薩・阿羅漢衆等の大聚会は、 自然に都集まりて、 心を拘め意を制し、 身を端し行ひを正しくして、 遊戯洞達して、 ともにあひ随ひて飛行し翻輩出入す。 供養すること極まりなく、 歓心をもつて喜楽して、 ともに経を観じ道を行じ、 和好し久しく習ひ、 才猛く智慧あり。 志は虚空のごとくにして精進して求願し、 心つひにまた中徊せず、 意つひにまた転ぜず、 つひに懈極の時あることなし。
●仏言ク、阿弥陀仏国ノ諸ノ菩薩・阿羅漢衆等ノ大聚会ハ、自然ニ都集テ、拘メ↠心ヲ制シ↠意ヲ、端シ↠身ヲ正シクシ↠行ヲ、遊戯洞達テ、倶ニ相ヒ随テ飛行シ*翻輩出入ス。供養コト無ク↠極リ、歓心ヲモテ喜*楽テ、共ニ観ジ↠経ヲ行ジ↠道ヲ、和好シ久ク習ヒ、才猛ク智慧アリ。志ハ若ニシテ↢虚空ノ↡精進テ求願シ、心終ニ不↢復中*徊セ↡、意終ニ不↢復転ゼ↡、終ニ无シ↠有コト↢懈極ノ時↡。
道を求むるに外は遅緩のごとくなりといへども内は独り急疾にして、 容々として虚空のごとく、 まさにその中を得て中表相応す。 自然に厳整に、 撿斂端直に、 身心清潔にして、 愛欲あることなく、 適貪するところなくして、 衆悪瑕穢あることなし。 その志願みなおのおの安定し姝好にして、 増欠減なし。
●雖モ↣求ルニ↠道ヲ外ハ若クナリト↢遅緩ノ↡内ハ独リ急疾ニシテ、容容トシテ虚空ノゴトウ、適ニ得テ↢其ノ中ヲ↡中表相応ス。自然ニ厳整ニ、撿斂端直ニ、身心清潔ニシテ、无ク↠有コト↢愛欲↡、無クシテ↠所↢適貪ル↡、无シ↠有コト↢衆悪瑕穢↡。其ノ志願皆各ノ安定シ*姝好ニシテ、無シ↢増欠減↡。
道を求むるに和正にして、 誤りて邪に傾かず。 道法を准望し、 経に随ひ令に約し、 あへて違ひて蹉跌せず。 もしは八方上下において辺幅あることなく、 自在に所欲のごとく至到すること無窮無極なり。 咸然に道をなし、 恢廓に慕及し、 曠蕩に道を念じて、 他の念なく、 憂思あることなし。 自然無為、 虚無空立、 恢安無欲にして、 善願を作得して、 心を尽くして求索し、 哀みを含みて慈愍し、 精進して内も表も礼義にすべて合す。
●求ルニ↠道ヲ和正ニシテ、不↢誤テ傾カ↟邪ニ。准↢望シ道法ヲ↡、随ヒ↠経ニ約シ↠令ニ、不↢敢テ*違ヒテ蹉跌セ↡。若ハ於テ↢八方上下ニ↡無ク↠有コト↢辺幅↡、自在ニ所欲ノゴトク至到コト無窮无極ナリ。咸然ニ為シ↠道ヲ、恢廓ニ*慕及シ、曠0173蕩ニ念テ↠道ヲ、無ク↢他之念↡、无シ↠有コト↢憂思↡。自然無為、虚*无空立、*恢安無欲ニシテ、作↢得テ善願ヲ↡、尽テ↠心ヲ求索シ、含テ↠哀ヲ*慈愍シ、精進テ中モ表モ礼義ニ都テ合ス。
通洞して違することなく、 和順副称し、 表裏を褒羅し、 過度し解脱して、 よく泥洹に升入し、 ながへに道徳に合明し、 自然にあひ保守す。 快意に真を滋らし、 真を滋らして了らかに潔白なり。 志願無上にして、 清浄に安定して、 静楽に極まりあることなく、 善好あること比びあることなし。 巍々に耀照し、 耀照してつねに開達明徹なること、 自然のなかの自然の相、 これをしからしむるに根本あり。
●*通洞テ无ク↠違コト、和順副称シ、褒↢羅シ表裏ヲ↡、過度シ解脱テ、能ク升↢入シ泥洹ニ↡、長ヘニ与↢道徳↡合明シ、自然ニ相ヒ保守ス。快意ニ之滋ラシ↠真ヲ、滋ラシテ↠真ヲ了カニ潔白ナリ。志*願無上ニシテ、清浄ニ之安定テ、静楽ニ之无ク↠有コト↠極リ、善好ナルコト無シ↠有コト↠比。巍巍ニ之耀照シ、耀照テ亘ニ開達明徹ナルコト、自然ノ中ノ自然ノ相、然ラシムルニ↠之ヲ有リ↢根本↡。
自然に五光を成じ、 五光より九色に至り、 九色参り徊転して数百千に更変し、 鬱単の自然なり。 自然に七宝を成じ、 横に攬りて万物を成じ、 光精参りあきらかにしてともに出づ。 好ましくして甚姝なること極まりあることなし。
●自然ニ成ジ↢五光ヲ↡、五光ヨリ至リ↢九色ニ↡、九色参ハリ*徊転テ数百千ニ更変シ、鬱単之自然ナリ。自然ニ成ジ↢七宝ヲ↡、横ニ攬テ成ジ↢万物ヲ↡、光精参ハリ明ニシテ倶ニ出ヅ。好クシテ甚姝ナルコト无シ↠有コト↠極リ。
二 Ⅴ 釈迦指勧
ⅰ 浄穢欣厭
その国土はなはだしきことかくのごとし。
○其ノ国土甚ダシキコト若シ↠此ノ。
なんぞつとめて善をなし、 道の自然を念じ、 上下なく洞達して辺幅なきことを著し、 志を虚空のなかに捐てざる。
○何ゾ不ル↪力テ為シ↠善ヲ、念ジ↢道之自然ヲ↡、著シ↧於無ク↢上下↡洞達テ無キコトヲ↦辺幅↥、捐テ↩志ヲ虚空ノ中ニ↨。
なんぞおのおの精進し努力してみづから求索せざる。
○何ゾ不ル↢各ノ精進シ*努力テ自ラ求索セ↡。
▼超絶して去つることを得べし。 阿弥陀仏国に往生すれば、 横に五悪道を截り、 自然に閉塞して、 道に升るに極まりなきに、 往きやすくして人あることなし。 その国土逆違せず、 自然に牽くに随ふなり。
○可シ↠得↢超絶テ去コトヲ↡。往↢生レバ阿弥陀仏国ニ↡、横ニ截リ↢於五*悪道ヲ↡、自然ニ閉塞テ、升ルニ↠道ニ之無キニ↠極リ、○易クシテ↠往キ无シ↠有コト↠人。其ノ国土不↢逆違セ↡、自然ニ之随フナリ↠牽クニ。
なんぞ世事を棄てて行じて道徳を求めざる。 極長の生にして寿に極まりあることなきを得べし。 なんすれぞ世事に著して々としてともに無常を憂思せん。
○何ゾ不ル↧棄テテ↢世*事ヲ↡行ジテ求メ↦道徳ヲ↥。可シ↠得↢極長ノ生ニシテ*寿ニ无キヲ↟有コト↠極リ。何為ゾ著テ↢世事ニ↡トシテ共ニ憂↢思ム無常ヲ↡。
世人薄俗にしてともに不急の事を諍ふ。
○世人薄俗ニシテ共ニ諍フ↢不急之事ヲ↡。
ともにこれにおいて劇悪極苦のなかに処して、 身を勤めて治生しもつてあひ給活す。 尊となく卑となく、 富となく貧となく、 老となく少となく、 男となく女となく、 みなまさにともに銭財に憂ふ。 有無同然なり。 憂思まさに等しく、 屏営として愁苦し、 念を累ね思慮して、 心のために使走せられ、 安き時あることなし。
○共ニ於テ↠是ニ処テ↢劇悪極苦之中ニ↡、勤テ↠身ヲ治生シ用テ相ヒ給活ス。无ク↠尊ト無ク↠卑ト、无ク↠富ト無ク↠貧ト、无ク↠老ト無ク↠少ト、无ク↠男ト無ク↠女ト、皆当ニ共ニ憂フ↢銭財ニ↡。有无同然ナリ。憂思適ニ等ク、屏営0174トシテ愁苦シ、累ネ↠念ヲ思慮テ、為ニ↠心ノ使走ラレ、無シ↠有コト↢安キ時↡。
田あれば田に憂へ、 宅あれば宅に憂へ、 牛あれば牛に憂へ、 馬あれば馬に憂へ、 六畜あれば六畜に憂へ、 奴婢あれば奴婢に憂ふ。 衣被・銭財・金銀・宝物あれば、 またともにこれに憂ふ。 思を重ね息を累ねて、 憂念し愁恐す。
○有バ↠田憂ヘ↠田ニ、有バ↠宅憂ヘ↠宅ニ、有バ↠牛憂ヘ↠牛ニ、有バ↠馬憂ヘ↠馬ニ、有バ↢六畜↡憂ヘ↢六畜ニ↡、バ有↢奴婢↡憂フ↢奴婢ニ↡。有バ↢衣被・銭財・金銀・宝物↡、復共ニ憂フ↠之ニ。重ネ↠思ヲ累テ↠息ヲ、憂念シ愁*恐ス。
横に非常の水火・盗賊・怨主・債家のために漂焼せられ繋がれ唐突せられ没溺せられ、 憂毒忪々として解くる時あることなし。 憤りを胸中に結び、 気を稸へて恚怒し、 病胸腹にありて、 憂苦離れず。 心堅く意固くして、 まさに縦捨することなし。
○横ニ為ニ↢非常ノ水火・盗賊・怨主・*債家ノ↡所レ↢漂焼セ↡*繋レ*唐突ラレ没溺ラレ、憂毒*忪忪トシテ无シ↠有コト↢解ル時↡。結ビ↢憤ヲ胸中ニ↡、稸ヘテ↠気ヲ恚怒シ、病在テ↢胸腹ニ↡、憂苦不↠離レ。心堅ク*意固クシテ、適ニ无シ↢縦捨コト↡。
あるいは摧蔵せらるるによりて身を終へ命を亡ぼす。 これを棄捐し去りてたれも随ふものなし。
○或ハ坐テ↢摧蔵ラルルニ↡終ヘ↠身ヲ亡ボス↠命ヲ。棄↢捐シ之ヲ↡去テ莫シ↢誰モ随フ者↡。
尊卑・豪貴・貧富この憂懼あり。 勤苦することかくのごとし。 もろもろの寒熱を結びて痛みとともに居す。
○尊卑・豪貴・貧富有リ↢是ノ憂懼↡。勤*苦コト此ノゴトシ。結テ↢衆ノ寒熱ヲ↡与↠痛ミ共ニ居ス。
小家貧者は窮困苦乏す。 田なければまた憂へて田あらんことを欲し、 宅なければまた憂へて宅あらんことを欲し、 牛なければまた憂へて牛あらんことを欲し、 馬なければまた憂へて馬あらんことを欲し、 六畜なければまた憂へて六畜あらんことを欲し、 奴婢なければまた憂へて奴婢あらんことを欲す。 衣被・銭財・什物・飲食の属なければ、 また憂へてこれあらんことを欲す。
○小家貧者ハ窮困苦乏ス。无レバ↠田亦憂テ欲シ↠有ラムコトヲ↠田、無レバ↠宅亦憂テ欲シ↠有ラムコトヲ↠宅、无レバ↠牛亦憂テ欲シ↠有ラムコトヲ↠牛、无レバ↠馬亦憂テ欲シ↠有ラムコトヲ↠馬、無レバ↢六畜↡亦憂テ欲シ↠有ラムコトヲ↢六畜↡、無レバ↢奴婢↡亦憂テ欲ス↠有ラムコトヲ↢奴婢↡。无レバ↢衣被・銭財・什物・飲食之属↡、亦憂テ欲ス↠有ラムコトヲ↠之。
たまたま一つあればまた一つ少き、 これあればこれを少きて、 あること斉等ならんことを思ふ。 たまたま小しく具有すればすなはちまた賜尽す。 かくのごとく苦生ず。 まさにまた求索し思想すれども益なかるべし。 時に得ることあたはず。 身心ともに労して坐起安からず、 憂意あひ随ひて勤苦することかくのごとし。 心を憔し恚恨を離れずして独り怒る。
○適マ有レバ↠一復少キ↠一ヲ、有バ↠是少テ↠是ヲ、思フ↢有コト斉等ナラムコトヲ↡。適マ小シク具有レバ便チ復*賜尽ス。如ク↠是ノ苦生ズ。当ニシ↢復求索シ思想ドモ無カル↟益。不↠能ハ↢時ニ得コト↡。身心倶ニ労テ坐起不↠安カラ、憂意相ヒ随テ勤苦コト如シ↠此ノ。憔シ↠心ヲ不シテ↠離レ↢恚恨ヲ↡独リ怒ル。
またもろもろの寒熱を結びて痛みと同居す。
○亦結テ↢衆ノ寒熱ヲ↡与↠痛ミ同居ス。
ある時はこれによりて身を終へ命を夭ぼす。 また善をなし道をなすを肯ぜず。 寿命終尽して死すれば、 みなまさに独り遠く去るべし。 趣向するところあれども、 善悪の道、 よくこれを知るものなし。
○或時ハ坐テ↠之ニ終ヘ↠身ヲ夭ス↠命ヲ。亦不↠肯ゼ↢作シ↠善ヲ為スヲ↟道ヲ。寿命終尽テ死レバ、皆当ニシ↢独リ遠ク去ル↡。有ドモ↠所↢趣向ル↡、善悪之道、莫シ↢能ク知モノ↟之ヲ。
ある時は世人、 父子・兄弟・夫婦・家室・中外の親属として、 天地のあひだに居してまさにあひ敬愛すべく、 まさにあひ憎むべからず。 有無まさにあひ給与すべくして、 まさに貪惜あるべからず。 言色まさに和してあひ違戻することなかるべし。
○或時ハ世人、父子・兄弟・夫婦・家室・中外ノ親属トシテ、居テ↢天地0175之間ニ↡当ニク↢相ヒ敬愛ス↡、不↠当ニカラ↢相ヒ憎ム↡。有無当ニクシテ↢相ヒ給与ス↡、不↠当ニカラ↠有ル↢貪惜↡。言色当ニシ↣和テ莫カル↢相ヒ違戻コト↡。
あるいはもし心に諍ひて恚怒するところあらば、 今世の恨みの意は微にしてあひ嫉憎すれども、 後世にはうたた劇しくして大怨となることを致す。 ゆゑはいかん。 いまのごとき事、 さらにあひ害せんと欲して時に臨みて急にあひ破るべからずといへども、 しかも愁毒して憤りを精神に結び、 自然に剋識してあひ離ることを得ず、 みなまさにたがひに生じ値ひてたがひに報復すべければなり。
○或ハ儻シ心ニ諍テ有バ↠所↢恚怒ル↡、今世ノ恨ノ意ハ微ニシテ相ヒ嫉憎レドモ、後世ニハ転タ劇クシテ致ス↠成コトヲ↢大怨ト↡。所以者何ン。如キ↠今ノ之事、更ニ欲テ↢相ヒ害ムト↡雖モ↠不ト↣臨テ↠時ニ応カラ↢急ニ相ヒ破ル↡、然モ之愁毒テ結ビ↢憤ヲ精神ニ↡、自然ニ剋識テ不↠得↢相ヒ離コトヲ↡、皆当ニケレバナリ↢対相ニ生ジ値テ更相ニ報復ス↡。
人世間の愛欲のなかにありて、 独り往き独り来り、 独り死し独り生ず。 まさに行きて苦楽の処に至るべし。 身みづからこれに当りて代るものあることなし。
○人在テ↢世間ノ愛欲之中ニ↡、独リ往キ独リ来リ、独リ死シ独リ生ズ。当ニシ↣行テ至ル↢苦楽之処ニ↡。身自ラ当テ↠之ニ無シ↠有コト↢代ル者↡。
善悪の変化せる殃咎悪処、 あらかじめ厳待す。 まさに独り升入すべきに、 遠く他処に到り、 よく見るものなし。 去りていづれの所にあれども、 善悪自然に追逐して行き生ず。 窈々冥々として別離久しく長し。 道路同じからざれば会ひ見ること期なく、 はなはだまたあひ値ふことを得がたし。
○善悪ノ変化セル殃咎*悪処、宿*予メ厳待ス。当ニキニ↢独リ升入ス↡、遠ク到リ↢他処ニ↡、莫シ↢能ク見モノ↡。去テ在ドモ↢何ノ所ニ↡、善悪自然ニ追逐テ行キ生ズ。窈窈冥冥トシテ別離久ク長シ。道路不レバ↠同カラ会ヒ見コト無ク↠期、甚ダ難シ↠得↢復相ヒ値コトヲ↡。
なんぞ家事を棄てて、 おのおの強健の時に曼びて、 努力して善をなしつとめて精進せざる。 度世を求むれば極長の寿を得べし。 ことに道を求むるを肯ぜずして、 また須待せんと欲しなにをか楽はんと欲するや。
○何ゾ不ル↧棄テテ↢家事ヲ↡、各ノ*曼テ↢強健ノ時ニ↡、*努力テ為シ↠善ヲ力テ精進セ↥。求レバ↢度世ヲ↡可シ↠得↢極長ノ寿ヲ↡。殊ニ不シテ↠肯ゼ↠求ルヲ↢於道ヲ↡、復欲シ↢須待ムト↡欲ル↢何ヲカ楽ムト↡乎。
かくのごとき世人、 善をなせば善を得ることを信ぜず、 道をなせば道を得ることを信ぜず、 死すれば後世にまた生ずることを信ぜず、 施与すればその福徳を得ることを信ぜず。 すべてこれを信ぜずして、 しかももつてしからずと謂ひてつひに是することあることなし。
○如キ↠是ノ世人、不↠信ゼ↢作セバ↠善ヲ得コトヲ↟善ヲ、不↠信ゼ↢為セバ↠道ヲ得コトヲ↟道ヲ、不↠信ゼ↢死レバ後世ニ復生コトヲ↡、不↠信ゼ↣施与レバ得コトヲ↢其ノ福徳ヲ↡。都テ不シテ↠信ゼ↠之ヲ、爾モ以テ謂テ↠不ト↠然ラ終ニ無シ↠有コト↠是スルコト。
ただこれによるがゆゑにしばらくみづからこれを見、 たがひにかはるがはる聞き前後相続し、 うたたあひ父の余せる教令を承受す。
○但坐ガ↠是ニ故ニ且ク自ラ見↠之ヲ、更相ニ代聞キ前後相続シ、転タ相ヒ承↢受ス父ノ余ル教令ヲ↡。
先人・祖父もとより善をなさず、 もとより道をなさず、 身愚かに神闇く、 心塞がり意閉じて、 大道を見ず。 ことによく人の死生して趣向するところあるを見ることあることなく、 またよく知るものなし。 まさに善悪の道を見ることあることなく、 また語るものもなし。 ために善悪をなすをもつて、 福徳・殃咎・禍罰、 おのおのみづから競ひてこれを作為するも、 もつてことに怪しむことあることなし。
○先人・祖父素ヨリ不↠作サ↠善ヲ、本ヨリ不↠為サ↠道ヲ、身愚ニ神闇ク、心塞リ意閉テ、不↠見↢大道ヲ↡。殊ニ无ク↠有コト↣能ク見コト↢人ノ死生テ有ヲ↟所↢趣向ル↡、亦莫シ↢能ク知ル者↡。適ニ無ク↠有コト↠見コト↢善悪之道ヲ↡、復無シ↢語ル者モ↡。為ニ用0176テ↠作スヲ↢善悪ヲ↡、福徳・殃咎・禍罰、各ノ自ラ競テ作↢為ルモ之ヲ↡、用テ殊ニ无シ↠有コト↠怪ムコト也。
死生の道に至ること、 うたたあひ続立す。 あるいは子父を哭し、 あるいは父子を哭し、 あるいは弟兄を哭し、 あるいは兄弟を哭し、 あるいは婦夫を哭し、 あるいは夫婦を哭す。 顛倒上下することは無常の根本なり。 みなまさに過ぎ去るべく、 常得すべからず。 教語し開導すれども道を信ずるものは少なし。 みなまさに死生すべくして休止あることなし。
○至コト↢於死生之道ニ↡、転タ相ヒ続立ス。或ハ子哭シ↠父ヲ、或ハ父哭シ↠子ヲ、或ハ弟哭シ↠兄ヲ、或ハ兄哭シ↠弟ヲ、或ハ婦哭シ↠夫ヲ、或ハ夫哭ス↠婦ヲ。顛倒上下コトハ無*常ノ根本ナリ。皆当ニク↢過ギ去ル↡、不↠可ラ↢常得ス↡。教語シ開導ドモ信ル↠道ヲ者ハ少シ。皆当ニクシテ↢死生ス↡無シ↠有コト↢休止↡。
かくのごとき曹の人は矇冥抵突して経語を信ぜず、 おのおの意を快くせんと欲して、 心に計慮せず、 愛欲に愚痴にして、 道徳を解らず、 瞋怒に迷惑して財色を貪狼す。 これによりて道を得ず、 まさに勤苦の極みを更へて、 悪処にありて生じ、 つひに止まりて休息することを得ざるべし。 これを痛むことはなはだ傷むべし。
○如キ↠是ノ曹ノ人ハ*矇冥抵*突テ不↠信ゼ↢経語ヲ↡、各ノ欲テ↠快クセムト↠意ヲ、心ニ不↢計慮セ↡、愚↢痴ニシテ於愛欲ニ↡、不↠解ラ↢於道徳ヲ↡、迷↢*惑テ於瞋怒ニ↡貪↢狼ス於財色ヲ↡。坐テ↠之ニ不↠得↠道ヲ、当ニシ↧更テ↢勤苦ノ極ヲ↡、在テ↢悪処ニ↡生ジ、終ニ不ル↞得↢止テ休息コトヲ↡。痛コト↠之ヲ甚ダ可シ↠傷ム。
ある時は家室・中外・父子・兄弟・夫婦、 死生の義に至りて、 たがひに哭泣し、 うたたあひ思慕す。 憂念憤結し、 恩愛繞続し、 心意著痛して、 たがひに顧恋す。 昼夜縛せられ解くる時あることなし。
○或時ハ家室・中外・父子・兄弟・夫婦、至テ↢於死生之義ニ↡、更相ニ哭*泣シ、転タ相ヒ思慕ス。*憂念憤結シ、恩愛*繞続シ、心意著痛テ、対相ニ顧恋ス。昼夜縛ラレ无シ↠有コト↢解ル時↡。
道徳を教へ視せども、 心開明せず、 恩好を思想して情欲離れず、 閉塞し矇瞑として交錯し覆蔽せらる。 思計して心みづから端正にして世事を決断し、 専精に道を行ずることあたはず。 便旋として至りをはり、 寿終り命尽くれども道を得ることあたはずして、 いかんともすべきことなし。
○教ヘ↢視ドモ道徳ヲ↡、心不↢開明セ↡、思↢想テ恩好ヲ↡情欲不↠離レ、閉塞シ*矇瞑トシテ交錯シ覆蔽ラル。不↠能ハ↧思計テ心自ラ端正ニシテ決↢断シ世事ヲ↡、専精ニ行コト↞道ヲ。便旋トシテ至リ竟リ、寿終リ命尽レドモ不シテ↠能ハ↠得コト↠道ヲ、无シ↠可キコト↢那何トモス↡。
総猥憒にしてみな愛欲を貪る。 かくのごときの法ありて、 道を解らざるものは多く、 道を得るものは少なし。 世間怱々として聊頼すべきものなし。
○総猥憒*ニシテ皆貪ル↢愛欲ヲ↡。如キ↠是ノ之法アリテ、不ル↠解ラ↠道ヲ者ハ多ク、得ル↠道ヲ者ハ少シ。世間怱怱トシテ無シ↠可モノ↢聊頼ス↡。
尊卑・上下・豪貴・貧富・男女・大小、 おのおのみづから怱務し勤苦して、 みづから身殺毒を懐き、 悪気窈冥として、 惆悵せざるものなし。 ためにみだりに事をなし、 天地に悪逆して人心道徳に従はず。
○尊卑・上下・豪貴・貧富・男女・大小、各ノ自ラ怱務シ勤苦テ、躬ラ身*懐キ↢殺毒ヲ↡、悪気窈冥トシテ、莫シ↠不ルモノ↢惆悵セ↡。為ニ妄ニ作シ↠事ヲ、悪↢逆テ天地ニ↡不↠従ハ↢人心道徳ニ↡。
非悪にはまづ随ひ、 これに与してほしいままに為すところを聴す。 その寿いまだ至らざるに、 すなはちたちまちにこれを奪ひて悪道に下り入りて、 累世に勤苦し、 展転愁毒して、 数千万億歳止む期あることなし。 痛みいふべからず、 はなはだ憐愍すべしと。
○非悪ニハ先ズ随ヒ、与シテ↠之ニ*恣ニ聴ス↠所ヲ↠為ス。其ノ寿未ダルニ↠至ラ、便チ頓0177チニ奪テ↠之ヲ下リ↢入テ悪道ニ↡、累世ニ勤苦シ、展転愁毒テ、数千万*億歳無シ↠有コト↢止ム期↡。痛ミ不↠可ラ↠言フ、甚ダ可シト↢憐愍ス↡。
二 Ⅴ ⅱ 弥勒領解
【19】仏、 阿逸菩薩ら、 諸天・帝王・人民に告げたまはく、 われみななんぢらに世間の事を語れり。 人これをもつてのゆゑに坐まりて道を得ず。 なんぢらつらつらこれを思惟して、 悪をまさに縦捨してこれを遠離し去るべし。 その善なるものに従ひて、 まさに堅く持ちてみだりに非をなすことなくますます諸善をなすべし。 大小・多少の愛欲の栄、 みな常得すべからず。 よりてまさに別離すべく、 楽しむべきものなし。
○仏告タマハク↢阿逸菩薩等、諸天・帝王・人民ニ↡、我皆語レリ↢汝*曹ニ世間之事ヲ↡。人用ノ↠是ヲ故ニ坐テ不↠得↠道ヲ。汝曹熟ラ思↢惟テ之ヲ↡、悪ヲ者当ニシ↧縦捨テ遠↢離シ之ヲ↡去ル↥。従テ↢其ノ善ナル者ニ↡、当ニシ↧堅ク持テ勿ク↢妄ニ為コト↟非ヲ益ス作ス↦諸善ヲ↥。大小・多少ノ愛欲之栄、皆不↠可ラ↢常得ス↡。由テ当ニク
↢別離ス↡、无シ↢可キ↠楽ム者↡。
仏世の時に曼びて、 それ仏経語の深きことを信受し、 道徳を奉行するものあらば、 みなこれわが小弟なり。 それはじめて仏の経戒を学ぶことあらんと欲するものは、 みなこれわが弟子なり。 それ身を出して家を去り妻子を捨てて財色を絶去せんと欲し、 沙門となり、 仏のために比丘とならんと欲するものあらば、 みなこれわが子孫なり。 わが世にははなはだ値ふこと得がたし。
●曼テ↢仏世ノ*時ニ↡、其レ有バ↧信↢受シ仏ノ経語ノ深キコトヲ↡、奉↦行ルモノ道徳ヲ↥、皆是我ガ小弟也。其レ欲ル↠有ムト↣甫テ学コト↢仏ノ経戒ヲ↡者ハ、皆是我ガ弟子ナリ。其レ有バ↩欲シ↧出テ↠身ヲ去リ↠家ヲ捨テテ↢妻子ヲ↡絶↦去ムト財色ヲ↥、欲ル↧作リ↢沙門ト↡、為ニ↠仏ノ作ムト↦比丘ト↥者↨、*皆是我ガ子孫ナリ。我ガ世ニハ甚ダ難シ↠得↠値コト。
それ願じて阿弥陀仏国に生ぜんと欲するものあらば、 智慧勇猛にして衆のために尊敬せらるることを得べし。 心の欲するところに随ひて経戒を虧負して人の後にあることを得ることなかれ。 もし疑意ありて経を解らざるものは、 また前みて仏に問ひたてまつれ。 なんぢがためにこれを解かんと。
○其レ有バ↧願テ欲ル↠生ムト↢阿弥陀仏国ニ↡者↥、可シ↠得↣智慧勇猛ニシテ為ニ↠衆ノ所コトヲ↢尊敬セ↡。勿レ↠得コト↧随テ↢心ノ所ニ↟欲ル虧↢負テ経戒ヲ↡在コトヲ↦於人ノ後ニ↥。儻シ有テ↢疑意↡不ル↠解ラ↠経ヲ者ハ、復前テ問マツレ↠仏ニ。為ニ↠汝ガ解ムト↠之ヲ。
阿逸菩薩長跪叉手してまうさく、 仏の威神は尊重にして、 説きたまふところの経は快善なり。
○阿逸菩薩長跪叉手テ言ク、仏ノ威神ハ尊重ニシテ、所ノ↠説タマフ経ハ快善ナリ。
われら経語を聴きて、 みな心にこれを貫く。 世人まことにしかなり、 仏の語りたまふところのごとく異あることなし。 いま仏われらを慈哀して、 大道を開示し生路を教語したまふ。 耳目聰明にしてながへに度脱することを得て、 いまさらに生ずることを得たるがごとし。
○我曹聴テ↢経語ヲ↡、皆心ニ貫ク↠之ヲ。世人実ニ爾ナリ、如ク↢仏ノ所ノ↟語タマフ无シ↠有コト↠異。今仏慈↢哀テ*我曹ヲ↡、開↢*示シ大道ヲ↡教↢語タマフ生路ヲ↡。耳目聰明ニシテ長ヘニ得テ↢度脱コトヲ↡、今若シ↠得タルガ↢更ニ生コトヲ↡。
われら仏の経語を聴きて、 慈心をもつて歓喜し踊躍し開解せざるものなし。 諸天・帝王・人民・蜎飛蠕動の類に及ぶまで、 みな恩を蒙りて憂苦を解脱せざるものなし。 仏語の教戒ははなはだ深く善きこと無極無底なり。
○我曹聴テ↢仏ノ経語ヲ↡、莫シ↧不ル↢慈心ヲモテ歓喜シ踊躍シ開解セ↡者↥。及マデ↢諸天・帝王・人民・蜎飛蠕動之類0178ニ↡、*皆蒙テ↠恩ヲ无シ↧不ル↣解↢脱セ憂苦ヲ↡者↥。仏語ノ教*戒ハ甚ダ*深ク善キコト無極无底ナリ。
仏の智慧の見知したまふところの八方上下、 去・来・現在の事は、 無上無下にして、 無辺無幅なり。 仏にははなはだ聞くことを得がたし、 われら比しく仏所に慈心あり。
○仏ノ智慧ノ所ノ↢*見知タマフ↡八方上下、去・来・現在之事ハ、無上无下ニシテ、無辺无幅ナリ。仏ニハ甚ダ難シ↠得↠*聞コトヲ、我曹*比シク慈↢心アリ於仏所ニ↡。
われらをして度脱することを得しむるもの、 みなこれ仏前世に道を求めたまひし時、 勤苦し学問し精明にして、 致すところの恩徳あまねく覆ひ、 施行するところの福徳の相禄は巍々たればなり。 光明徹照し、 洞虚なること無極にして、 泥洹に貫入せしめ、 教授するに典を攬り、 制威し消化して、 八方上下を改動すること、 無窮無極なり。
○令ル↣我曹ヲシテ得↢度脱コトヲ↡者、皆是仏前世ニ求タマヒシ↠道ヲ時、*勤苦シ学問シ精明ニシテ、所ノ↠致ス恩徳普ク覆ヒ、所ノ↢施行ル↡福徳ノ相禄ハ巍巍タレバナリ。光明徹照シ、洞虚ナルコト無極ニシテ、貫↢*入シメ泥洹ニ↡、教授ルニ攬リ↠*典ヲ、制威シ消化テ、*改↢動コト八方上下ヲ↡、无窮無極ナリ。
仏は師法の尊たり、 群聖に絶して、 すべてよく仏に及ぶものなし。 仏、 八方上下の諸天・帝王・人民のために師となり、 その心の欲願するところの大小に随ひて、 みな道を得しむ。
○仏為リ↢師法ノ尊↡、絶シテ↢群聖ニ↡、都テ无シ↢能ク及ブ↠仏ニ者↡。仏為ニ↢八方上下ノ諸天・帝王・人民ノ↡作リ↠師ト、随テ↧其ノ心ノ所ノ↢欲願ル↡大小ニ↥、皆令ム↠得↠道ヲ。
いまわれら仏とあひ見えることを得て、 阿弥陀仏の声を聞くことを得たり。 われらはなはだ喜びて、 *黠慧にして開明なることを得ざるものなしと。
○今我曹得↢与↠仏相ヒ見エルコトヲ↡、得リ↠聞コトヲ↢阿弥陀仏ノ声ヲ↡。我曹甚ダ喜テ、莫レト↧不ル↠得↢黠慧ニシテ開明ナルコトヲ↡者↥。
仏、 阿逸菩薩に告げたまはく、 なんぢが言是なり、 まことにまさにしかるべし。
○仏告タマハク↢阿逸菩薩ニ↡、若ガ言是ナリ、実ニ当ニシ↠爾ル。
なんぢ仏所に慈心あること大きに喜ばしきことなり。 実にまさに仏を念ずべし。 天下に久々にしてすなはちまた仏ましますのみ。 いまわれ苦世において仏となり、 出だすところの経道をもつて、 教授洞達にして狐疑を截断し、 心を端しくし行ひを正しくしてもろもろの愛欲を抜き、 衆悪の根本を絶ち、 遊歩するに拘るることなく、 智慧を典総す。 衆道の表裏、 維綱を攬持して、 照然分明なり。 五道を開き視して、 生死と泥洹の道とを決正すと。
○若有コト↣慈↢心於仏所ニ↡者大ニ喜シキコトナリ。実ニ当ニシ↠念ズ↠仏ヲ。天下ニ久久ニシテ乃チ復有ス↠仏耳。今我於テ↢*苦世ニ↡作リ↠仏ト、所ノ↠出ス経道ヲモテ、教授洞達ニシテ截↢断シ狐疑ヲ↡、端クシ↠心ヲ正クシテ↠行ヲ抜キ↢諸ノ愛欲ヲ↡、絶チ↢衆悪ノ根本ヲ↡、遊歩ルニ無ク↠拘コト、典↢総ス智慧ヲ↡。衆*道ノ表裏、○攬↢持テ維綱ヲ↡、*照然分明ナリ。開キ↢*視テ五道ヲ↡、決↢正スト生死ト泥洹之道トヲ↡。
仏のたまはく、 なんぢら無数劫よりこのかた、 不可復計劫、 なんぢら菩薩道をなして、 諸天・人民および蜎飛蠕動の類を過度せんと欲してよりこのかた、 はなはだ久遠なり。 人なんぢに従ひて道を得て度するもの無央数なり。 泥洹の道を得るに至るものもまた無央数なり。
○仏言ク、若曹従リ↢无数劫↡以来タ、不可復計劫、若曹作テ↢菩薩道ヲ↡、欲テヨリ↣過↢度ムト諸天・人民及ビ蜎飛蠕動之類ヲ↡已来タ、甚ダ久遠ナリ。人従テ↠若ニ得テ↠道ヲ度ル者无央数ナリ。至ル↠得ニ↢泥洹之道ヲ↡者モ亦無0179央数ナリ。
なんぢらおよび八方上下の諸天・帝王・人民、 もしは比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷、 なんぢら宿命に、 無数劫よりこのかた、 この五道のなかに展転して死生呼嗟し、 たがひに哭涙し、 うたたあひ貪慕し、 憂思愁毒して、 痛苦いふべからず。 今世に至るまで死生絶えずして、 すなはち今日、 仏とあひ見えともに会値ひて、 ここにすなはち阿弥陀仏の声を聞くことはなはだ快善なり。 われなんぢらを助けて喜ばん。
○若曹及ビ八方上下ノ諸天・帝王・人民、若ハ比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷、若曹宿命ニ、従リ↢无数劫↡已来タ、展↢転テ是ノ五道ノ中ニ↡死生呼嗟シ、更相ニ哭涙シ、転タ相ヒ貪慕シ、憂思愁毒テ、痛苦不↠可ラ↠言フ。至マデ↢今世ニ↡死生不シテ↠絶エ、乃チ今日、与↠仏相ヒ見エ共ニ会値テ、是ニ乃チ聞コト↢阿弥陀仏ノ声ヲ↡甚ダ快善ナリ。*我助テ↢汝曹ヲ↡喜ム。
またみづから死生の痛痒を厭ふべし。 生るる時ははなはだ痛みはなはだ苦しみてはなはだ極まれり。 年長大するに至りてもまた苦しみてまた極まる。 死する時もまた痛みまた苦しみてまた極まる。 はなはだ悪臭の処にして浄潔ならずして、 つひに可とするものあることなし。
○亦可シ↣自ラ厭フ↢死生ノ痛痒ヲ↡。生ル時ハ甚ダ痛ミ甚ダ苦ミテ*甚ダ極レリ。至テモ↢年長大ルニ↡*亦苦ミテ亦極ル↡。*死ル時モ亦痛ミ亦苦ミテ亦*極ル。甚ダ悪臭ノ処ニシテ不シテ↢浄潔ナラ↡、了ニ无シ↠有コト↢可トスル者↡。
仏ゆゑにことごとくなんぢらに語らん。 なんぢらまたみづから臭処・悪露を決断すべし。 なんぢらまた心を端しくし身を正しくしてますます諸善をなすべし。 これにおいてつねに中外に端しくし、 身体を潔浄にし、 心垢を洗除して、 みづからあひ約撿し、 表裏相応して、 言行忠信にせよ。 人よくみづから度脱して、 うたたあひ扶接し、 もろもろの愛欲を抜き、 精明至心にして、 求願して転ぜず、 その善道の根本を結せよ。
○仏故ニ悉ク語ム↢若曹ニ↡。若曹亦可シ↣自ラ決↢断ス臭処・悪露ヲ↡。若曹亦可シ↣端クシ↠心ヲ正クシテ↠身ヲ益ス作ス↢諸善ヲ↡。於テ↠是ニ常ニ端クシ↢中外ニ↡、潔↢浄ニシ身体ヲ↡、*洗↢除テ心垢ヲ↡、自ラ相ヒ約撿シ、表裏相応テ、言行忠信ニセヨ。人能ク自ラ度脱テ、転タ相ヒ扶接シ、抜キ↢諸ノ愛欲ヲ↡、精明至心ニシテ、求願テ不↠転ゼ、結セヨ↢其ノ善道ノ根本ヲ↡。
精苦すといへども一世は須臾のあひだなるのみ。 今世に善をなせば後世に阿弥陀仏国に生じて、 快楽はなはだ極まりなく、 ながへに道徳と合明す。 しかうしてよくあひ保守し、 ながへに悪道痛痒の憂悩を去り離れ、 勤苦諸悪の根本を抜き、 もろもろの愛欲恩好を断ちて、 ながへに阿弥陀仏国に生じて、 またもろもろの痛痒あることなく、 また復してもろもろの悪臭の処にあることなく、 また復して勤苦あることなく、 また淫泆・瞋怒・愚痴なく、 また憂思・愁毒あることなし。
○雖モ↢精苦スト↡一世ハ須臾ノ間ナル耳。今世ニ為バ↠善ヲ後世ニ生テ↢阿弥陀仏国ニ↡、快楽甚ダ無ク↠極リ、長ヘニ与↢道徳↡合明ス。然シテ善ク相ヒ保守シ、長ヘニ去リ↢離レ悪道痛痒之憂悩ヲ↡、抜キ↢勤苦諸悪ノ根本ヲ↡、断テ↢諸ノ愛欲恩好ヲ↡、長ヘニ生テ↢阿弥陀仏国ニ↡、亦無ク↠有コト↢諸ノ痛痒↡、亦无ク↣復シテ有コト↢諸ノ悪臭ノ処↡、亦*无ク↣復シテ有コト↢勤苦↡、亦無ク↢淫泆・瞋怒・愚痴↡、亦無シ↠有コト↢憂思・愁毒↡。
阿弥陀仏国に生れて、 寿一劫・十劫・百劫・千劫・万億劫ならんと欲し、 みづから恣意に寿無央数劫・不可復計数劫に住止せんと欲せば、 ほしいままになんぢの意に随ひてみなこれを得べし。 食せんと欲するも食せざらんとすも、 ほしいままにその意のごとくにすべてことごとく自然にみなこれを得べし。
○生レテ↢於阿弥陀仏国ニ↡、欲シ↢寿一劫・十劫・百劫・千劫・*万億劫ナラムト↡、自ラ恣意ニ欲バ↣住0180↢*止ムト寿无央数劫・不可復計数劫ニ↡、恣ニ汝ノ随テ↠意ニ皆可シ↠得↠之ヲ。●欲モ↠食ムト不ムトスモ↠食セ、恣ニ若ニ↢其ノ意ノ↡都テ悉ク自然ニ皆可シ↠得↠之ヲ。
泥洹の道に次し。 みなおのおのみづから精明に心所欲の願を求索すべし。 狐疑し心に中悔を得ることなかれ。 往生せんと欲するものは、 その過失によりて、 阿弥陀仏国界の辺の自然七宝の城中にありて、 讁せらるること五百歳なるを得ることなかれと。
○次シ↢於泥洹之道ニ↡。皆各ノ自ラ精明ニ求↢索ベシ心所欲ノ願ヲ↡。勿レ↠得コト↢狐疑シ心ニ中悔ヲ↡。欲ル↢往生ムト↡者ハ、無レト↠得コト↧坐テ↢其ノ過失ニ↡、在テ↢阿弥陀仏国界ノ辺ノ自然七宝ノ城中ニ↡、讁ラルルコト五百歳ナルヲ↥。
阿逸菩薩まうさく、 仏の厳明なる重教を受けて、 みなまさに精進して一心に求索す。 請はくはこれを奉行してあへて疑怠せずと。
○阿逸菩薩言ク、受テ↢仏ノ厳明ナル重教ヲ↡、皆当ニシ↢精進テ一心ニ求索ス↡。請ハ奉↢行テ之ヲ↡不ト↢敢テ疑怠セ↡。
二 Ⅴ ⅲ 五善五悪
【20】仏、 阿逸菩薩らに告げたまはく、 なんぢらこの世においてよくみづから心を制し意を正しくして、 身に悪をなさざれば、 これを大徳の善となし、 すべて一輩としてありて、 八方上下の最となして比びあることなし。 ゆゑはいかん。 八方上下の無央数の仏国のなかの諸天・人民は、 みな自然に善をなして大きに悪をなさざれば教化しやすければなり。
○仏告タマハク↢阿逸菩薩等ニ↡、若曹於テ↢是ノ世ニ↡能ク自ラ制シ↠心ヲ正クシテ↠意ヲ、身ニ不レバ↠作サ↠悪ヲ者、是ヲ為シ↢大徳ノ善ト↡、都テ有テ↢一輩トシテ↡、為テ↢八方上下ノ最ト↡無シ↠有コト↠比。所以者何ン。八方上下ノ无央数ノ仏国ノ中ノ諸天・人民ハ、皆自然ニ作テ↠善ヲ不レバ↢大ニ為サ↟悪ヲ易レバナリ↢教化シ↡。
いまわれこの世間において仏となる。 五悪・五痛・五焼のなかになして仏となることもつとも劇しとなす。 人民を教語して、 五悪を縦捨せしめて、 五痛を去らしめ、 五焼のなかより去らしめ、 その心を降化して、 五善を持ち、 その福徳・度世・長寿・泥洹の道を得しめん。
○今我於テ↢是ノ世間ニ↡作ル↠仏ト。為シテ↢於五悪・五痛・五焼之中ニ↡作コト↠仏ト為ス↢最モ劇シト↡。教↢語テ人民ヲ↡、令テ↣縦↢捨セ五悪ヲ↡、令メ↠去ラ↢五痛ヲ↡、令メ↠去ラ↢五焼之*中ヨリ↡、降↢化テ其ノ心ヲ↡、令ム↧持チ↢五善ヲ↡、得↦其ノ福徳・度世・長寿・泥洹之道ヲ↥。
仏のたまはく、 なんらをか五悪となし、 なんらをか五痛となし、 なんらをか五焼のなかのものとなす。 なんらをか五悪を消化して五善を得しめんものとなす。 なんらをか五善を持ちてその福徳・長寿・度世・泥洹の道を得となすと。
○仏言ク、何等ヲカ為シ↢五悪ト↡、何等ヲカ為シ↢五痛ト↡、何等ヲカ為ス↢五焼ノ中ノ者ト↡。何等ヲカ為ス↧消↢化テ五悪ヲ↡令ム↠得↢五善ヲ↡者ト↥。何等ヲカ為スト↧持テ↢五善ヲ↡得ト↦其ノ福徳・長寿・度世・泥洹之道ヲ↥。
【21】仏のたまはく、 その一悪とは、 天・人民より下禽獣・蜎飛蠕動の属に至るまで、 衆悪をなさんと欲して強きものは弱きを服し、 うたたあひ剋賊し、 おのづからあひ殺傷してたがひに食噉す。
○仏言ク、其ノ一悪ト*者、○天・人民ヨリ下至マデ↢禽獣・蜎飛蠕動之属ニ↡、欲テ↠為ムト↢衆悪ヲ↡強キ者ハ服0181シ↠弱キヲ、転タ相ヒ剋賊シ、自ラ相ヒ殺傷テ更相ニ食噉ス。
善をなすことを知らず、 悪逆不道にしてその殃罰を受く。 道の自然にしてまさに往きて趣向すべし。
○不↠知ラ↠作コトヲ↠善ヲ、悪逆不道ニシテ受ク↢其ノ殃罰ヲ↡。道之自然ニシテ当ニシ↢往テ趣向ス↡。
神明記識してこれを犯さば貰さず、 うたたあひ承け続く。 ゆゑに貧窮・下賎・乞丐・孤独なるものあり。 ゆゑに聾・盲・瘖瘂・愚痴・憋悪なるものありて、 下に尫狂にして及逮ばざる属あり。 ゆゑに尊卑・豪貴・高才明達・智慧勇猛なるものあり。 みなその前世宿命に善をなし慈孝にして恩徳を布き施すがゆゑなり。
○神明記識テ犯バ↠之ヲ不↠*貰サ、転タ相ヒ承ケ続ク。故ニ有リ↢貧窮・下賎・乞丐・孤独ナルモノ↡。故ニ有テ↢聾・盲・瘖瘂・愚痴・*憋悪ナルモノ↡、下ニ有リ↧尫狂ニシテ不ル↢及逮バ↡之属↥。故ニ有リ↢尊卑・豪貴・高才明達・智慧勇猛ナルモノ↡。皆其ノ前世宿命ニ為シ↠善ヲ慈孝ニシテ布キ↢施スガ恩徳ヲ↡故ナリ。
官事王法の牢獄あれども、 畏れ慎むことを肯ぜずして悪をなせば法に入りてその過讁を受く。 重罰いたりて劇しくして、 解脱を求望すれども度出することを得がたし。 今世にこれありて目前に現在し、 寿終りて処あり、 その窈冥に入り身を受けてまた生ず。 たとへば王法の劇苦極刑のごとし。
○有ドモ↢官事王法ノ牢獄↡、不シテ↠肯ゼ↢畏レ慎コトヲ↡作バ↠悪ヲ*入テ↠法ニ受ク↢其ノ過讁ヲ↡。重罰致テ劇クシテ、求↢望ドモ解脱ヲ↡難シ↠得↢度出コトヲ↡。今世ニ有テ↠是目前ニ現在シ、○寿終テ*有リ↠*処、入リ↢其ノ窈冥ニ↡受テ↠身ヲ更タ生ズ。比バ若シ↢王法ノ劇苦極*刑ノ↡。
ゆゑに自然の泥犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動の類あり。 うたた身形を貿へ、 悪を改めて道を易へ、 寿命に短長あり。 魂神精識、 自然に趣に入りて形を受け胎に寄りて、
○故ニ有リ↢自然ノ泥*犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動之類↡。転タ貿ヘ↢身形ヲ↡、改テ↠悪ヲ易ヘ↠道ヲ、寿命ニ短長アリ。魂神精識、自然ニ入テ↠趣ニ*受ケ↠形ヲ*寄テ↠*胎ニ、
まさに独り値ひ向かふも、 あひ従ひともに生ずべく、 うたたあひ報償してまさにあひ還復すべし。 殃悪・禍罰、 衆事いまだ尽きざれば、 つひに離るることを得ずして、 そのなかに展転して、 世々累劫にも出づる期あることなく、 解脱を得がたし。 痛みいふべからず。
○当ニク↢独リ値ヒ向モ、相ヒ従ヒ共ニ生ズ↡、転タ相ヒ報償テ当ニシ↢相ヒ還復ス↡。殃悪・禍罰、衆事未ダレバ↠尽キ、終ニ不シテ↠得↠離コトヲ、展↢転テ其ノ中ニ↡、世世累劫ニモ無ク↠有コト↢出ル期↡、難シ↠得↢解脱ヲ↡。痛ミ不↠可ラ↠言フ。
天地のあひだに自然にこれあり。 時に臨みてにはかに時に応ぜずといへども、 ただ自然の道を取りて、 みなまさに善悪これに帰すべし。
○天地之間ニ自然ニ有リ↠是。雖モ↠不ト↢臨テ↠時ニ卒暴ニ応ゼ↟時ニ、但取テ↢自然之道ヲ↡、皆当ニシ↢善悪帰ス↟之ニ。
これを一つの大悪となし、 一つの痛となし、 一つの焼となす。 勤苦かくのごとくして、 愁毒呼嗟すべし。 たとへば劇火の起りて人身を焼くがごとし。
○是ヲ為シ↢一ノ大悪ト↡、為シ↢一ノ痛ト↡、為ス↢一ノ焼ト↡。勤苦如クシテ↠是ノ、愁毒呼嗟スベシ。比バ若シ↣劇火ノ起テ焼ガ↢人身ヲ↡。
人よくみづからそのなかにおいて一心に意を制し身を端しくし行ひを正しくして、 独り諸善をなし衆悪をなさざれば、 身独り度脱して、 その福徳を得、 長寿・度世・上天・泥洹の道を得べし。 これを一つの大善となす。
○*人能ク自ラ於テ↢其ノ中ニ↡一心ニ制シ↠意ヲ端クシ↠身ヲ正クシテ↠行ヲ、独リ作シ↢諸善ヲ↡不レバ↠為サ↢衆悪ヲ↡者、身独リ度脱テ、得↢其ノ福徳ヲ↡、可シ↠得↢長寿・度世・上天・泥洹之道ヲ↡。是ヲ為0182ス↢一ノ大善ト↡。
【22】仏のたまはく、 その二悪とは、 世間の帝王・長吏・人民・父子・兄弟・家室・夫婦、 ほぼ義理なくして正令に従はず、 奢淫憍慢にしておのおの意を快くせんと欲し、 恣心自在にして、 たがひに欺調し、 ことに死を懼れず。 心口おのおの異にして言念実なく、 佞諂にして忠ならず、 諛媚巧辞にして行ひ端緒ならず。 たがひに嫉み憎み、 うたたあひ讒悪して人を冤枉に陥る。
○仏言ク、其ノ二悪ト者、○世間ノ帝王・長吏・人民・父子・兄弟・家室・夫婦、略ボ無シテ↢義理↡不↠従ハ↢正令ニ↡、奢淫憍慢ニシテ各ノ欲シ↠快クセムト↠意ヲ、恣心自在ニシテ、更相ニ欺調シ、殊ニ不↠懼レ↠死ヲ。心口各ノ異ニシテ言念無ク↠実、佞諂ニシテ不↠忠ナラ、諛媚巧辞ニシテ行ヒ不↢端緒ナラ↡。更相ニ*嫉ミ憎ミ、転タ相ヒ讒悪テ陥ル↢人ヲ冤枉ニ↡。
主上あきらかならず心察かに照らさずして臣下を任用す、 臣下存在して度を践みてよく行ひその形施を知りて、 位にありて正しからざれば、 その調するところとなりてみだりに忠良賢善を損じ、 天心に当らずしてはなはだ道理に違す。
○主上不シテ↠明ナラ心不シテ↢察ニ照サ↡任↢用ス臣下ヲ↡、臣下存在テ践テ↠度ヲ能ク行ヒ知テ↢其ノ形*施ヲ↡、在テ↠位ニ不レバ↠正カラ、為テ↢其ノ所ト↟調スル*妄ニ損ジ↢*忠良賢善ヲ↡、不シテ↠当ラ↢天心ニ↡甚ダ違ス↢道理ニ↡。
臣はその君を欺き、 子はその父を欺き、 弟はその兄を欺き、 婦はその夫を欺き、 家室・中外・知識はあひ訟ひておのおの貪淫・心毒・瞋怒・矇聾・愚痴・欲益を懐く。 尊卑・上下あることなく、 男となく女となく、 大となく小となく、 心ともに同じくしかなり。
○臣ハ欺キ↢其ノ君ヲ↡、子ハ欺キ↢其ノ父ヲ↡、弟ハ欺キ↢其ノ兄ヲ↡、婦ハ欺キ↢其ノ夫ヲ↡、家室・中外・知識ハ相ヒ訟テ○各ノ懐ク↢貪淫・心毒・瞋怒・*矇聾・愚痴・*欲益ヲ↡。無ク↠有コト↢尊卑・上下↡、無ク↠男ト无ク↠女ト、無ク↠大ト无ク↠小ト、心倶ニ同ク然ナリ。
みづからおのれを厚くせんと欲し、 家を破り身を亡して、 前後・家室・親属を顧念せず、 これによりて族を破る。
○欲シ↢自ラ厚クセムト↟己ヲ、破リ↠家ヲ亡シテ↠身ヲ、不↣顧↢念セ前後・家室・親属ヲ↡、坐テ↠之ニ破ル↠族ヲ。
ある時は家中・内外・知識・朋友・郷党・市里・愚民・野人、 うたたかはるがはる従事し、 ともにあひ利害して財を諍ひ、 闘訟怒忿して仇をなし、 うたた勝負を諍ふ。
○或時ハ家中・内外・知識・朋友・郷党・*市里・愚民・野人、転タ更従事シ、共ニ相ヒ利害テ諍ヒ↠財ヲ、闘訟怒忿テ成シ↠仇ヲ、転タ諍フ↢勝負ヲ↡。
富を慳しみ心を燋がして施与することを肯ぜず、 祝々として守り愛し保ちて貪惜す。 これによりて思念し心労し身苦しむ。
○慳ミ↠富ヲ燋テ↠心ヲ不↠肯ゼ↢施与コトヲ↡、祝祝トシテ*守リ愛シ保テ貪*惜ス。坐テ↠之ニ思念シ心労シ身苦ム。
かくのごとくにして至りをはるに、 恃怙するところなし。 独り来り独り去りてひとりとして随ふものなし。 善悪の福徳・殃禍・讁罰命を追ひて生ずるところなり。 あるいは楽処にあり、 あるいは毒苦に入る。 しかうして後にすなはち悔ゆともまさにまたなんぞ及ぶべき。
○如クシテ↠是ノ至リ竟ニ、無シ↠所↢恃怙ル↡。独リ来リ独リ去テ无シ↢一トシテ随フ者↡。善悪ノ福徳・殃禍・讁罰追テ↠*命ヲ所ナリ↠生ル。或ハ在リ↢楽処ニ↡或ハ入ル↢毒苦ニ↡。然シテ後ニ乃チ*悔トモ当ニキ↢復何ゾ及ブ↡。
ある時は世人、 愚心少智にして、 善を見ては誹謗してこれを恚り、 慕ひ及ぶことを肯ぜず。 ただ悪をなさんと欲してみだりに不道をなし、 ただ盗窃を欲してつねに毒心を懐き、 他人の財物を得んと欲してもってみづからに供給し、 消散し靡尽しつくしてまた求索す。 邪心にして正しからず、 つねに独り恐怖して人の色ることあらんと畏る。 時に臨みて計らず、 事至りてすなはち悔ゆ。
○或時ハ世人、愚心少智ニシテ、見テハ↠善ヲ誹謗テ恚リ↠之ヲ、不0183↠肯ゼ↢慕ヒ及コトヲ↡。但欲テ↠為ムト↠*悪ヲ*妄ニ作シ↢不道ヲ↡、但欲テ↢盗窃ヲ↡常ニ懐キ↢毒心ヲ↡、欲テ↠得ムト↢他人ノ財物ヲ↡用テ自ラニ供給シ、消散シ*靡尽シ*賜テ復求索ス。邪心ニシテ不↠正カラ、常ニ独リ恐怖テ畏ル↢人ノ有ムコトヲ↟色コト。臨テ↠時ニ不↠計ラ、事至テ乃チ悔ユ。
今世に現に長吏・牢獄ありて、 自然に趣向してその殃咎を受く。 世間の貧窮・乞丐・孤独ただ前世宿命に道徳を信ぜずして善をなすことを肯ぜざるによりて、 今世に悪をなす。 天神籍を別ち、
○今世ニ現ニ在テ↢長吏・牢獄↡、自然ニ趣向テ受ク↢其ノ殃咎ヲ↡。世間ノ貧窮・乞丐・孤独但坐テ↧前世宿命ニ不シテ↠信ゼ↢道徳ヲ↡不ルニ↞肯ゼ↠為コトヲ↠善ヲ、今世ニ為ス↠悪ヲ。天神別シ↠籍ヲ、
寿終りて悪道に入る。 ゆゑに自然の泥犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動の属あり。 そのなかに展転して世々累劫にも出づる期あることなく、 解脱を得がたし。 痛みいふべからず。
○寿終テ入ル↢悪道ニ↡。○故ニ有リ↢自然ノ泥*犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動之属↡。展↢転テ其ノ*中ニ↡世世累劫ニモ无ク↠有コト↢出ル期↡、難シ↠得↢解脱ヲ↡。痛ミ不↠可ラ↠言フ。
これを二つの大悪となし、 二つの痛となし、 二つの焼となす。 勤苦かくのごとくにして、 たとへば火の起りて劇しく人身を焼くがごとし。
○是ヲ為シ↢二ノ大悪ト↡、為シ↢二ノ痛ト↡、為ス↢二ノ焼ト↡。勤苦如ニシテ↠是ノ、比バ若シ↣火ノ起テ劇ク於焼ガ↢人身ヲ↡。
人よくみづからそのなかにおいて一心に意を制し身を端しくし行ひを正しくして、 独り諸善をなし衆悪をなさざれば、 身独り度脱して、 その福徳を得、 長寿・度世・上天・泥洹の道を得べし。 これを二つの大善となすと。
○人能ク*自ラ於テ↢其ノ中ニ↡一心ニ制シ↠意ヲ端クシ↠身ヲ正クシテ↠行ヲ、独リ作シ↢諸善ヲ↡不レバ↠為サ↢衆悪ヲ↡者、身独リ度脱テ、得↢其ノ福徳ヲ↡、可シ↠*得↢長寿・度世・上天・泥洹之道ヲ↡。是ヲ為スト↢二ノ大善ト↡。
【23】仏のたまはく、 その三悪とは、 もろもろの世間の人民、 寄生しあひ因りともによりて、 天地のあひだに居す。 処年寿命、 よくいくばくの歳もなし。 至りては豪貴・長者・賢明・善人あり、 下には貧賎・尫羸・愚者あり。 なかには不良の人ありて、 ただ毒悪を懐念して身心正しからず、
○仏言ク、其ノ三悪ト者、○諸ノ世間ノ人民、寄生シ*相ヒ因リ共ニ依テ、居ス↢天地之間ニ↡。処年寿命、无シ↢能ク幾クノ歳モ↡。至リテハ有リ↢豪貴・長者・賢明・善人↡、下ニハ有リ↢貧賎・尫羸・愚者↡。中ニハ有テ↢不良之人↡、但懐↢念テ毒悪ヲ↡身心不↠正カラ、
つねに淫泆を念じて煩ひ胸中に満つ。 愛欲交錯して坐起安からず、 貪意慳惜にして横にいたづらに得んことを欲す。 細色を眄睞して悪態婬泆し、 婦あれども厭ひ憎みてひそかにみだりに出入し、 家の所有を持ちてあひ給して非をなし、 聚会飲食してもつぱらともに悪をなす。
○常ニ念テ↢淫泆ヲ↡煩ヒ満ツ↢胸中ニ↡。愛欲交錯テ坐起不↠安カラ、貪意慳惜ニシテ欲ス↢横ニ唐ニ得コトヲ↡。眄↢睞テ細色ヲ↡悪態婬泆シ、有ドモ↠婦厭ヒ憎テ*私ニ妄ニ出入シ、持テ↢家ノ所有ヲ↡相ヒ給テ為シ↠非ヲ、聚会飲食テ専ラ共ニ作ス↠悪ヲ。
兵を興し賊をなして城を攻め格闘し、 劫殺截断して強奪不道なり。 人の財物を取り偸窃してにはかに得れども治生することを肯ぜず、 まさに求むべきところのものこれをなすことを肯ぜず、 悪心外にありては、 もつぱらなすことあたはず、 欲繋して事をなし恐勢迫脅し、 持ち帰りては家に給してともにあひ生活す。 心をほしいままにし意を快くして行ひを極め楽をなす。 他人の婦女を行乱し、 あるいはその親属において尊卑・長老を避けず。 衆ともに憎悪し、 家室・中外患ひてこれを恚る。
○興シ↠兵ヲ作テ↠賊ヲ攻メ↠城ヲ格0184闘シ、劫殺截断テ強奪不道ナリ。取テ↢人ノ財物ヲ↡偸窃テ趣ニ得ドモ不↠肯ゼ↢治生コトヲ↡、所ノ↠当ニキ↠求ム者不↠肯ゼ↠為コトヲ↠之ヲ、悪心在テハ↠外ニ、不↠能ハ↢専ラ作コト↡、欲*繋テ成シ↠事ヲ恐*勢迫脅シ、持チ帰テハ*給テ↠家ニ共ニ相ヒ生活ス。恣ニシ↠心ヲ*快クシテ↠意ヲ極メ↠行ヲ作ス↠楽ヲ。*行↢乱シ他人ノ婦女ヲ↡、或ハ於テ↢其ノ親属ニ↡不↠避ケ↢尊卑・長老ヲ↡。衆共ニ*憎悪シ、家室・中外患テ而恚ル↠之ヲ。
また県官の法令を畏れず、 録を避くるところなし。 かくのごとき悪、 自然に牢獄あり、 日月照識し神明記取して諸神摂録す。
○亦復不↠畏レ↢県官ノ法令ヲ↡、無シ↠所↠避ル↠録ヲ。如キ↠是ノ之悪、自然ニ牢獄アリ、日月照識シ神明記取テ諸神摂録ス。
ゆゑに自然の泥犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動の属あり。 そのなかに展転して世々累劫にも出づる期あることなく、 解脱を得がたし。 痛みいふべからず。
○故ニ有リ↢自然ノ泥*犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動之属↡。展↢転テ其ノ中ニ↡世世累劫ニモ无ク↠*有コト↢出ル期↡、難シ↠得↢解脱ヲ↡。痛ミ不↠可ラ↠言フ。
これを三つの大悪となし、 三つの痛となし、 三つの焼となす。 勤苦かくのごとくにして、 たとへば火の起りて人身を焼くがごとし。
○是ヲ為シ↢三ノ大悪ト↡、為シ↢*三ノ痛ト↡、為ス↢三ノ焼ト↡。勤苦如ニシテ↠是ノ、比バ若シ↣火ノ起テ焼ガ↢人身ヲ↡。
人よくみづからそのなかにおいて一心に意を制し身を端しくし行ひを正しくして、 独り諸善をなし衆悪をなさざれば、 身独り度脱して、 その福徳を得、 長寿・度世・上天・泥洹の道を得べし。 これを三つの大善となすと。
○人能ク自ラ於テ↢其ノ中ニ↡一心ニ制シ↠意ヲ端クシ↠身ヲ正クシテ↠行ヲ、独リ作シ↢諸善ヲ↡不レバ↠為サ↢衆悪ヲ↡者、身独リ度脱テ、得↢其ノ福徳ヲ↡、可シ↠得↢長寿・度世・上天・泥洹之道ヲ↡。是ヲ為スト↢三ノ大善ト↡。
【24】仏のたまはく、 その四悪とは、 諸人善をなすことあたはずしてみづからあひ壊敗し、 うたたあひ教令してともに衆悪をなし、 主として伝言をなすに、 ただ両舌・悪口・罵詈・妄語を欲し、 あひ嫉みてたがひに闘乱す。
○仏言ク、其ノ四悪ト者、○諸*人不シテ↠能ハ↠作コト↠善ク自ラ相ヒ壊敗シ、転タ相ヒ教令テ共ニ作シ↢衆悪ヲ↡、主トシテ為ニ↢伝言ヲ↡、但欲シ↢両舌・悪口・罵詈・妄語ヲ↡、相ヒ嫉テ更相ニ闘乱ス。
善人を憎嫉し賢善を敗壊してかたはらにこれを快ぶ。 また父母に孝順し供養せず、 師友・知識を軽易して信なく誠実を得がたし。 自大尊貴にして道ありといひ、 横に威武を行じて権力勢ひを加へ、 侵剋して人を易りみづから悪をなすと知ることあたはず、 みづから羞慚せず、 自用頑健にして人をしてこれを承事し畏敬せしめんと欲す。
○憎↢嫉シ善人ヲ↡敗↢壊テ賢善ヲ↡於テ↠*旁ニ快ブ↠之ヲ。復不↤孝↢順シ供↣養セ父母ニ↡、軽↢易テ師友・知識ヲ↡無ク↠信難シ↠得↢誠実ヲ↡。自大尊貴ニシテ*有トイヒ↠道、横ニ行テ↢威武ヲ↡加ヘ↢権力勢ヲ↡、侵剋テ易リ↠人ヲ不↠能ハ↢自ラ知コト↟為スト↠悪ヲ、不0185↢自ラ羞慚セ↡、自用*頑健ニシテ欲ス↠令ムト↤人ヲシテ承↢事シ畏↣敬セ之ヲ↡。
また天地・神明・日月を畏敬せず、 また善をなすことを教令すべからず、 降化すべからず。 自用偃蹇にしてつねにまさにしかなり。 また憂哀の心なく恐懼の意を知らず憍慢なることかくのごとし。
○復不↣畏↢敬セ天地・神明・日月ヲ↡、亦不↠可ラ↣教↢令ス作コトヲ↟善ヲ、不↠可ラ↢降化ス↡。自用偃蹇ニシテ常ニ当ニ爾ナリ。亦復无ク↣憂*哀ノ心↡不シテ↠知ラ↢*恐懼*之意ヲ↡憍慢ナルコト如シ↠是ノ。
天神これを記す。 その前世宿命にすこぶる福徳をなすによりて、 小善扶接し営護してこれを助くるも、 今世に悪をなして諸善を尽儩して日に去り、 悪のこれを追ふを見、 身独りむなしく立ちて復依するところなく、 重き殃讁を受けて、
○天神記ス↠之ヲ。*頼テ↣其ノ前世宿命ニ頗ル作ニ↢福徳ヲ↡、小善扶接シ営護テ助ルモ↠之ヲ、今世ニ作テ↠悪ヲ尽↢*儩テ諸善ヲ↡日ニ去リ、見↢悪ノ追フヲ↟之ヲ、身独リ空ク立テ無ク↠所↢復依ル↡、受テ↢重キ殃讁ヲ↡、
寿命終るとき身の衆悪繞り帰して自然に迫促す。 まさに往きて追逐して止息することを得ざるべし。 自然に衆悪ともにこれに趣き頓る。
○寿命終ルトキ身ノ衆悪繞リ帰テ自然ニ迫促ス。当ニシ↢往テ追逐テ不ル↟得↢止息コトヲ↡。自然ニ衆悪共ニ趣キ↢頓ル*之ニ。
その名籍は神明の所にあることありて、 殃咎引牽しまさに値ひ相得すべし、 自然に趣向し、 過の讁罰を受け身心摧砕し、 神形苦極して、 離却することを得ず。 ただ前み行きてその火鑊に入ることを得。 この時に当りて悔ゆともまたなんの益かあらん。 まさにまたなんぞ及ぶべき。 天道自然にして蹉跌することを得ず。
○有テ↣其ノ名籍ハ在コト↢神明ノ所ニ↡、殃咎引牽シ当ニシ↢値ヒ相得ス↡、自然ニ趣向シ、受ケ↢過ノ讁罰ヲ↡身心摧砕シ、神形苦極テ、不↠得↢離却コトヲ↡。但得↣前ミ行テ入コトヲ↢其ノ火鑊ニ↡。当テ↢是之時ニ↡悔トモ復何ノ益カアラム。当ニキ↢復何ゾ及ブ↡。天道自然ニシテ不↠得↢蹉跌コトヲ↡。
ゆゑに自然の泥犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動の属あり。 そのなかに展転して世々累劫にも出づる期あることなく、 解脱を得がたし。 痛みいふべからず。
○故ニ有リ↢自然ノ泥*犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動之属↡。展↢転テ其ノ中ニ↡世世累劫ニモ無ク↠有コト↢出ル期↡、難シ↠得↢解脱ヲ↡。痛ミ不↠可ラ↠言フ。
これを四つの大悪となし、 四つの痛となし、 四つの焼となす。 勤苦かくのごとくにして、 たとへば火の起りて人身を焼くがごとし。
○是ヲ為シ↢四ノ大悪ト↡、為シ↢四ノ痛ト↡、為ス↢四ノ焼ト↡。勤苦如ニシテ↠是ノ、比バ若シ↣火ノ起テ焼ガ↢人身ヲ↡。
人よくみづからそのなかにおいて一心に意を制し身を端しくし行ひを正しくして、 独り諸善をなし衆悪をなさざれば、 身独り度脱して、 その福徳を得、 長寿・度世・上天・泥洹の道を得べし。 これを四つの大善となすと。
○人能ク自ラ於テ↢其ノ中ニ↡一心ニ制シ↠意ヲ端クシ↠身ヲ正クシテ↠行ヲ、独リ作シ↢諸善ヲ↡不レバ↠為サ↢衆悪ヲ↡者、身独リ度脱テ、得↢其ノ福徳ヲ↡、可シ↠得↢長寿・度世・上天・泥洹之道ヲ↡。是ヲ為スト↢四ノ大善ト↡。
【25】仏のたまはく、 その五悪とは、 世人徒倚懈惰にして善をなすことを肯ぜず、 治生することを念はずして、 妻子飢寒し、 父母もともにしかなり、 呵してその子を教へんと欲すれば、 その子悪心をもつて目を瞋らして言令に応怒して従はず、 違戻反逆すること野人よりも劇し。 たとへば怨家のごとし。 子なきにしかず。
○仏言ク、其ノ五悪ト者、○世人徒倚懈惰ニシテ不↠肯ゼ↠作コトヲ↠善ヲ、不シテ↠念ハ↢治生コトヲ↡、妻子飢寒シ、父母0186モ倶ニ然ナリ。欲レバ↣*呵テ教ムト↢其ノ子ヲ↡、其ノ子悪心ヲモテ瞋テ↠目ヲ応↢怒テ言令ニ↡不↠従ハ、違戻反逆コト劇シ↢於野人ヨリモ↡。比バ若シ↢怨家ノ↡。不↠如カ↠無キニ↠子。
みだりにあまねく仮貸して衆ともに患ひ厭ふ。 尤むるもまた報償の心あることなし。
○妄ニ遍ク仮貸テ衆共ニ患ヒ厭フ。尤ルモ无シ↣復有コト↢報償之心↡。
窮貧困乏してまた得ることあたはず、 辜較し諧声しほしいままに遊散し、 しばしばいたづらに得るに串ひて、 自用賑給す。 防禁を畏れず、 飲食極まりなく、 酒を喫し美きを嗜み、 出入期度あることなし。 魯扈抵突して人情を知らず、 壮吁強制して
○窮貧困*乏テ不シテ↠能ハ↢復得コト↡、辜較シ諧声シ放縦ニ遊散シ、串テ↢数バ唐ニ得ニ↡、自用*賑給ス。不↠畏レ↢防禁ヲ↡、飲食無ク↠極リ、喫シ↠酒ヲ嗜ミ↠美ヲ、出入ニ無シ↠有コト↢期度↡。魯扈抵*突テ不↠知ラ↢人情ヲ↡、*壮吁強制テ
人の喜びあるを見ては憎妬してこれを恚り、 義なく礼なく、 自用識当して諌暁すべからず。 また父母・妻子の有無を憂念せず、 またつひに父母の徳に報ずることを念はず、 また師の恩好を念はず。 心につねに悪を念じ、 口につねに悪をいひ、 身につねに悪を行ひて、 日に成就することあらず。
○見テハ↢人ノ有ヲ↟喜ビ憎妬テ恚リ↠之ヲ、無ク↠義无ク↠礼、自用*識当テ不↠可ラ↢諌暁ス↡。亦復不↣憂↢念セ父母・妻子ノ有无ヲ↡、又復不↠念ハ↣卒ニ報コトヲ↢父母之徳ニ↡、亦復不↠念ハ↢師之恩好ヲ↡。心ニ常ニ念ジ↠悪ヲ、口ニ常ニ言ヒ↠悪ヲ、身ニ常ニ行テ↠悪ヲ、日ニ不↢成就コトアラ↡。
道徳を信ぜず、 賢明・先聖あることを信ぜず、 善をなし道をなせば度世を得べきことを信ぜず、 世間に仏あることを信ぜず。 羅漢を殺し比丘僧をして闘かはしめんと欲し、 つねに人を殺さんと欲し、 父母・兄弟・妻子・宗親・朋友を殺さんと欲す。 父母・兄弟・妻子・宗親・朋友も、 憎悪してこれを見てはこれをして死せしめんと欲す。 仏の経語を信ぜず、 人の寿命終尽し死して後世にまた生ずることを信ぜず、 善をなせば善を得ることを信ぜず、 悪をなせば悪を得ることを信ぜざるなり。
○不↠信ゼ↢道徳ヲ↡、不↠信ゼ↠有コトヲ↢賢明・先聖↡、不↠信ゼ↢作シ↠善ヲ為バ↠道ヲ可コトヲ↟得↢度世ヲ↡、不↠信ゼ↢世間ニ有コトヲ↟仏。欲シ↧*殺シ↢羅漢ヲ↡闘シメムト↦比丘僧ヲシテ↥、常ニ欲シ↠殺ムト↠人ヲ、欲ス↠殺ムト↢父母・兄弟・妻子・宗親・朋友ヲ↡。父母・兄弟・妻子・宗親・朋友モ、憎*悪テ見テハ↠之ヲ欲ス↠使ムト
↢之ヲシテ死セ↡。不↠信ゼ↢仏ノ経語ヲ↡、不↠信ゼ↢人ノ寿命終尽シ死テ後世ニ復生コトヲ↡、不↠信ゼ↢作バ↠善ヲ得コトヲ↟善ヲ、不ナリ↠信ゼ↢作バ↠悪ヲ得コトヲ↟悪ヲ。
かくのごときらの人、 男子も女人も心意ともにしかなり。 違戻反逆して愚痴蒙篭なり。 瞋怒嗜欲にして識知するところなく、 自用快善にして大きに智慧ありとなして、 また従来するところの生、 死して趣向するところを知らず。 肯じて慈孝ならずして天地に悪逆す。 その中間において僥倖を望求し、 長生を得んと欲し、 不死を射呼すれども、 かならずまさに生死の勤苦善悪の道に帰就す。 身に作るところの悪の殃咎衆く趣き、 度脱するを得ず。 また降化して善をなさしむべからず。
○如キ↠是ノ曹ノ人、男子モ女人モ心意倶ニ然ナリ。違戻反逆テ愚痴蒙篭ナリ。瞋怒嗜欲ニシテ无ク↠所↢識知ル↡、自用快善ニシテ大ニ為テ↢智慧アリト↡、亦不↠知ラ↧所ノ↢従来ル↡生、死テ所ヲ↦趣向ル↥。不シテ↢肯テ慈孝ナラ↡悪↢逆ス天地ニ↡。於テ↢其ノ中間ニ↡望↢求シ僥倖ヲ↡、欲シ↠得ムト↢長生ヲ↡、射↢呼ドモ不死ヲ↡、会ズ当ニシ↣帰↢就ス生死ノ勤苦善悪之0187道ニ↡。身ニ所ノ↠作ル悪ノ殃咎衆ク趣キ、不↠得↢度脱ルヲ↡。亦不↠可ラ↢降化テ令ム↟作サ↠善ヲ。
慈心をもつて教語し、 死苦善悪の趣向するところこれあることを開導すれどもまたこれを信ぜず。 しかれば苦心してともに語りて度脱せしめんと欲すれども益なし。 その人心中閉塞して意開解せず、
○慈心ヲモテ教語シ、開↧*導ドモ死*苦善悪ノ所↢趣向ル↡有コトヲ↞是復不↠信ゼ↠之ヲ。然レバ苦心テ与ニ語テ欲ドモ↠令ムト↢度脱セ↡无シ↠益。其ノ人心中閉塞テ意不↢開解セ↡、
大命まさに至らんとするに、 時に至りてみな悔ゆ。 その後にすなはち悔ゆれどもまさにまたなんぞ及ぶべき。 あらかじめ計りて善をなさずして窮まるに臨みてなんの益かあらん。
○大命将ニ至ムトスルニ、至テ↠時ニ皆悔ユ。其ノ後ニ乃チ悔ドモ当ニキ↢復何ゾ及ブ↡。不シテ↢*予メ計テ作サ↟善ヲ臨テ↠窮ルニ何ノ益カアラム。
天地のあひだに五道おのおのあきらかにして、 恢曠窈窕、 浩々汗々たり。 うたたあひ善悪の毒痛を承受して、 身みづからこれに当りて代るものあることなし。 道の自然なり、 その所行に随ひて命を追ひて生ずるところ、 縦捨することを得ず。
○天地之間ニ五道各ノ明ニシテ、恢曠窈*窕、浩浩*汗汗タリ。転タ相ヒ承↢受テ善悪ノ毒痛ヲ↡、身自ラ当テ↠之ニ無シ↠有コト↢代ル者↡。道之自然ナリ、随テ↢其ノ所行ニ↡追テ↠命ヲ所↠生ル、*不↠得↢縦捨コトヲ↡。
善人は善を行じて慈孝なれば、 楽より楽に入り、 明より明に入る。 悪人は悪を行じて、 苦より苦に入り、 冥より冥に入る。 たれかよく知るものあらん。 独り仏の見知したまへるのみ。 人民を教語したまへども信用するものは少なし。 死生休まず、 悪道絶えず。 かくのごとき世人には、 ことごとく道説すべからず。
○善人ハ行テ↠善ヲ慈孝ナレバ、従リ↠楽入リ↠楽ニ、従リ↠明入ル↠明ニ。悪人ハ行テ↠悪ヲ、従リ↠苦*入リ↠苦ニ、従リ↠冥*入ル↠冥ニ。誰カ能ク知ル者アラム。独リ仏ノ見知タマヘル耳。教↢語タマヘドモ人民ヲ↡信用ル者ハ少シ。死生不↠*休マ、悪道不↠絶エ。如キ↠是ノ世人ニハ、不↠可ラ↢悉ク道説ス↡。
ゆゑに自然の泥犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動の属あり。 そのなかに展転して世々累劫にも出づる期あることなく、 解脱を得がたし。 痛みいふべからず。
○故ニ有リ↢自然ノ泥*犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動之属↡。展↢転テ其ノ中ニ↡世世累劫ニモ無ク↠有コト↢出ル期↡、難シ↠得↢解脱ヲ↡。痛ミ不↠可ラ↠言フ。
これを五つの大悪・五つの痛・五つの焼となす。 勤苦をなすことかくのごとし。 たとへば火の起りて人身を焼くがごとし。
○是ヲ為ス↢五ノ大*悪・五ノ*痛・*五ノ焼ト↡。*為コト↢勤苦ヲ↡如シ↠是ノ。比バ若シ↣火ノ起テ焼ガ↢人身ヲ↡。
人よくみづからそのなかにおいて一心に意を制し身を端し行ひを正しくして、 言行あひ副ひてなすところ至誠に語るところ語のごとくして、 心口転ぜずして独り諸善をなし衆悪をなさざれば、 身独り度脱して、 その福徳を得、 長寿・度世・上天・泥洹の道を得べし。 これを五つの大善となすと。
○人能ク自ラ於テ↢其ノ中ニ↡一心ニ制シ↠意ヲ端クシ↠身ヲ正クシテ↠行ヲ、言行相ヒ副テ所↠作ス至誠ニ所↠語ル如クシテ↠語ノ、心口不シテ↠転ゼ独リ作シ↢諸善ヲ↡不レバ↠為サ↢衆悪ヲ↡者、身独リ度脱テ、得↢其ノ福徳ヲ↡、可シ↠得↢長寿・度世・上天・泥洹之道ヲ↡。是ヲ為スト↢五ノ大善ト↡。
【26】仏、 阿逸菩薩らに告げたまはく、 われみななんぢらに語る、 この世の五悪の勤苦かくのごとし。 五痛を起さしめ五焼を起さしめて展転してあひ生ず。
○仏告タマハク↢阿逸菩薩等ニ↡、我皆語ル↢若曹ニ↡、是ノ世ノ五悪ノ勤苦如シ↠是ノ。令メ↠起サ↢五痛ヲ↡令テ↠起0188サ↢五焼ヲ↡展転テ相ヒ生ズ。
世間の人民善をなすことを肯ぜずして衆悪をなさんと欲す。 あへてこのもろもろの悪事を犯さんと欲すれば、 みなことごとく自然にまさにつぶさに更歴して悪道のなかに入る。
○世間ノ人民不シテ↢肯ゼ↠為コトヲ↠善ヲ欲ス↠作ムト↢衆悪ヲ↡。敢テ*欲レバ↠犯ムト↢此ノ諸ノ悪事ヲ↡者、皆悉ク自然ニ当ニシ↣具ニ更歴テ入ル↢悪道ノ中ニ↡。
あるいはそれ今世にはまづ病殃を被りて死も生も得ず。 衆に示してこれを見しむ。 寿終りては至極の大苦に趣入し、 愁憂酷毒し、 みづからあひ燋然してうたたあひ焼滅するなり。
○或ハ其レ今世ニハ先ヅ被テ↢病殃ヲ↡死モ生モ不↠得。*示テ↠衆ニ見シム↠之ヲ。寿終テハ趣↢入シ至極ノ大苦ニ↡、愁憂酷毒シ、自ラ相ヒ燋然テ転タ相ヒ焼滅ルナリ。
そのしかうして後に至りてともに怨家となりてたがひに傷殺す。 小微より起りて大困劇に至る。 みな財色を貪淫しあへて忍辱して施与せざるによりてなり。 おのおのみづから快くせんことを欲して、 また曲直なく、 健名を得んことを欲すれども、 痴欲の迫るところとなり、 心に随ひて思想し、 また得ることあたはず。 憤りを胸中に結び財色に縛束せられて、 解脱することあることなし。
○至テ↢其ノ然シテ後ニ↡共ニ作テ↢怨家ト↡更相ニ傷殺ス。従リ↢小微↡起テ至ル↢大困劇ニ↡。皆従テナリ↧貪↢淫シ財色ヲ↡不ルニ↦肯テ忍辱テ施与セ↥。各ノ欲テ↢自ラ快クセムコトヲ↡、無ク↢復曲直↡、欲ドモ↠得ムコトヲ↢健名ヲ↡、為リ↢痴欲ノ所ト↟迫ル、随テ↠心ニ思想シ、不↠能ハ↢復得コト↡。結ビ↢憤ヲ胸中ニ↡財色ニ縛束ラレテ、无シ↠有コト↢解脱コト↡。
厭足を知らず、 おのれを厚くし欲を諍ひて省録するところなし。 富貴栄華なれども時に当りて忍辱して善を施すことを知らず。 威勢いくばくもなくして悪名に随ひて身を燋し、 労苦に坐して久しくして後大きに劇し。
○不シテ↠知ラ↢厭足ヲ↡、厚クシ↠己ヲ諍テ↠欲ヲ無シ↠所↢省録ル↡。富貴栄華ナレドモ当テ↠*時ニ忍辱テ不↠知ラ↠施コトヲ↠善ヲ。威勢無シテ↠幾クモ随テ↢悪名ニ↡燋シ↠身ヲ、坐シテ↢労苦ニ↡久シテ後大ニ劇シ。
自然に随逐して解けやむことあることなし。 王法施張して自然に糾挙し、 上下相応して羅網綱紀、 煢々忪々としてまさにそのなかに入るべし。 古今にこれあり。 痛ましきかな傷むべし。 すべて義理なく正道を知らずと。
○自然ニ随逐テ无シ↠有コト↢解ケ已コト↡。王法施張テ自然ニ糾挙シ、上下相応テ羅網綱紀、煢煢忪忪トシテ当ニシ↠入ル↢其ノ中ニ↡。古今ニ有リ↠是。痛マシキ哉可シ↠傷ム。都テ无ク↢義理↡不ト↠知ラ↢正道ヲ↡。
仏、 阿逸菩薩らに語りたまはく、 もし世にこれあらんに、 仏みな慈愍してこれを哀み、 威神をもつて衆悪諸事を摧動し、 みなこれを消化したまふ。 悪を去りて善に就き所思を棄捐し経戒を奉持することを得しめ、 経法を承受し施行せざるはなく、 あへて度世・無為・泥洹の道の快善にして極楽たるを違失せずと。
○仏*語タマハク↢阿逸菩薩等ニ↡、若シ世ニ有ムニ↠是、仏皆慈愍テ哀ミ↠之ヲ、威神ヲモテ摧↢動シ衆悪諸事ヲ↡、皆消↢化タマフ之ヲ↡。令メ↠得↧去テ↠悪ヲ就キ↠善ニ棄↢捐シ所思ヲ↡奉↦持コトヲ経戒ヲ↥、莫ク↠不ルハ↤承↢受シ施↣行セ経法ヲ↡、不ト↣敢テ違↢失セ度世・無為・泥洹之道ノ快善ニシテ極*楽タルヲ↡。
仏のたまはく、 なんぢら、 諸天・帝王・人民および後世の人、 仏の経語を得てつらつらこれを思惟して、 よくみづからそのなかにおいて心を端しくし行ひを正しくすべし。
○仏言ク、若曹、諸天・帝王・人民及ビ後世ノ人、得テ↢仏ノ経語ヲ↡熟ラ思↢惟テ之ヲ↡、能ク自ラ於テ↢其ノ中ニ↡端クシ↠心ヲ正クスベシ↠行ヲ。
その主上善をなしその下を率化し撿御して、 衆を教へうたたあひ勅令し、 うたたともに善をなしうたたあひ度脱せよ。 おのおのみづから端しく守り慈仁愍哀して、 終身怠らざれ。 聖を尊び孝を敬ひ通洞博愛にして、 仏語の教令はあへて虧負することなく、 まさに憂へて度世・泥洹の道たるべし。 まさに憂へて死生の痛痒を断截し悪の根本を抜くべし。 まさに憂へて泥犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動の悪苦の道を断絶すべし。 まさに仏世に曼びて堅く経道を持ちてあへて違失することなかるべしと。
○其ノ主上為シ↠善ヲ率↢化シ撿↣御テ其ノ下ヲ↡、教へ↠衆ヲ転タ相ヒ勅令シ、転タ共ニ0189為シ↠善ヲ転タ相ヒ度脱ヨ。各ノ自ラ端ク守リ慈仁愍哀テ、終身不レ↠怠ラ。尊ビ↠聖ヲ敬ヒ↠孝ヲ通洞博愛ニシテ、仏語ノ教令ハ无ク↢敢テ虧負コト↡、当ニシ↢憂テ度世・泥洹之道タル↡。当ニシ↧憂テ断↢截シ死生ノ痛痒ヲ↡抜ク↦悪ノ根本ヲ↥。当ニシ↣憂テ断↢絶ス泥*犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動ノ悪苦之道ヲ↡。当ニシト↧*曼テ↢仏世ニ↡堅ク持テ↢経道ヲ↡無カル↦敢テ違失コト↥。
仏のたまはく、 なんぢら、 まさに信ずべきものはいかん、 第一急にまさにみづから身を端しくすべし、 まさにみずづから心を端しくすべし、 まさにみづから目を端しくすべし、 まさにみづから耳を端しくすべし、 まさにみづから鼻を端しくすべし、 まさにみづから口を端しくすべし、 まさにみづから手を端しくすべし、 まさにみづから足を端しくすべし。 よくみづから撿斂してみだりに動作することなく、 身心浄潔にしてともに善と相応し、 中外約束して嗜欲に随ふことなく、 諸悪を犯さざれ。
●仏言ク、若曹、当ニキ↠信ズ者ハ云何ン、第一急ニ当ニシ↢自ラ端クス↟身ヲ、当ニシ↢自ラ端クス↟心ヲ、当ニシ↢自ラ端クス↟目ヲ、当ニシ↢自ラ端クス↟耳ヲ、当ニシ↢自ラ端クス↟鼻ヲ、当ニシ↢自ラ端クス↟口ヲ、当ニシ↢自ラ端クス↟手ヲ、当ニシ↢自ラ端クス↟足ヲ。能ク自ラ*撿斂テ莫ク↢妄ニ動作コト↡、身心浄潔ニシテ倶ニ善ト相応シ、中外約束テ勿ク↠随コト↢嗜欲ニ↡、不レ↠犯サ↢諸悪ヲ↡。
言色まさに和すべし。 身行まさに専なるべし。 行歩・坐起の所作まさに安らかなるべし。 事をなさばなすところまさにまづつらつら思慮してこれを計るべし。 才能を揆度し、 円規を視瞻し、 安定にしておもむろにこれを作為すべし。 事をなすこと倉卒にして、 あらかじめ計熟せずしてこれをなしてあきらかならざればその功夫を亡ふ。 敗悔後にあればいたづらに苦しみて身を亡ぼす。 至誠忠信にして道を得て絶去すべしと。
●言色当ニシ↠*和ス。身行当ニシ↠専ナル。行歩・坐起ノ所作当ニシ↠安カナル。作バ↠事ヲ所↠為ス当ニシ↢先ヅ熟ラ思慮テ計ル↟之ヲ。揆↢度シ才能ヲ↡、視↢瞻シ*円規ヲ↡、安定ニシテ徐ニ作↢為ベシ之ヲ↡。作コト↠事ヲ倉卒ニシテ、不シテ↢*予メ計熟セ↡為テ↠之ヲ不レバ↠諦ナラ亡フ↢其ノ功夫ヲ↡。敗悔在バ↠後ニ唐ニ苦テ亡ス↠身ヲ。至誠忠信ニシテ得テ↠道ヲ絶去ベシト。
仏のたまはく、 なんぢら、 ここにおいてますます諸善をなして、 恩を布き徳を施してよく道の禁忌を犯さず、 忍辱・精進・一心・智慧をもつて、 展転してまたあひ教化して善をなして徳をなせ。 かくのごときの経法、 慈心専一にして、 斎戒清浄なること一日一夜なれば、 阿弥陀仏の国にありて善をなすこと百歳なるに勝れり。
○仏言ク、若曹、於テ↠是ニ益ス作テ↢諸*善ヲ↡、布キ↠恩ヲ施テ↠徳ヲ能ク不↠犯サ↢道ノ禁忌ヲ↡、忍辱・精進・一心・智慧ヲモテ、展転テ復相ヒ教化テ作テ↠善ヲ為セ↠徳ヲ。如キノ↠是ノ経法、慈心専一ニシテ、斎戒清浄ナルコト一日一夜ナレバ者、勝レリ↧於在テ↢阿弥陀仏国ニ↡作コト↠*善ヲ百歳ナルニ↥。
ゆゑはいかん。 阿弥陀仏国はみな徳衆善を積むこと無為自然にして求索するところのごとくにありて、 諸悪の大きさ毛髪のごとくなるものもあることなければなりと。
○所以者何ン。阿弥陀仏国ハ皆積コト↢徳衆善ヲ↡无為自然ニシテ在テ↠所ノゴトクニ↢求索ル↡、無レバナリト↠有コト↣諸悪ノ大サ如クナルモノモ↢毛髪ノ↡。
仏のたまはく、 ここにおいて善をなすこと十日十夜なれば、 その徳他方仏国のなかの人民の善をなすこと千歳なるに勝れり。
○仏言ク、於テ↠是ニ作コト↠善ヲ十日十夜ナレバ者、其ノ*徳勝レリ↢於他方仏国ノ中ノ人民ノ作コト↠善0190ヲ千歳ナルニ↡。
ゆゑはいかん。 他方仏国はみなことごとく善をなすに、 善をなすものは多く悪をなすものは少なし、 みな自然の物ありて、 求作を行ぜずしてすなはちおのづからこれを得ればなり。
○所以者何ン。他方仏国ハ皆悉ク作スニ↠善ヲ、作ス↠善ヲ者ハ多ク為ス↠悪ヲ者ハ少シ、皆有テ↢自然之物↡、不シテ↠行ぜ↢求作ヲ↡便チ自ラ得バナリ↠之ヲ。
この間は悪をなすものは多く善をなすものは少なし、 求作を行ぜざれば得しむることあたはず。 世人よくみづから端しく制して善をなし、 至心に道を求む、 ゆゑによくしかるのみ。 この間は自然なることあることなく、 自給することあたはず、 まさに求索を行じて勤苦して治生すべし。 うたたあひ欺殆し調詐して悪を好み、 その財物を得て妻子に帰給す。 毒を飲み食ひ心を労し身苦しむ。 かくのごとくにして至りをはるに、 心意専ならず惚恫として安からず。
○是ノ間ハ為ス↠悪ヲ者ハ多ク作ス↠善ヲ者ハ少シ、不レバ↠行ゼ↢求作ヲ↡不↠能ハ↠令コト↠得。世人能ク自ラ端ク制テ作シ↠善ヲ、至心ニ求ム↠道ヲ、故ニ能ク爾ル耳。是ノ間ハ无ク↠有コト↢自然ナルコト↡、不↠能ハ↢自給コト↡、当ニシ↧行テ↢求索ヲ↡勤苦テ治生ス↥。転タ相ヒ欺殆シ調詐テ好ミ↠悪ヲ、得テ↢其ノ財物ヲ↡帰↢給ス妻子ニ↡。*飲ミ↢食ヒ毒↡ヲ労シ↠心ヲ*身苦ム。如ニシテ↠是ノ至リ竟ニ、心意不↠専ナラ*惚恫トシテ不↠安カラ。
人よくみづから安静にして善をなし、 精進して徳をなす、 ゆゑによくしかるのみ。
●人能ク自ラ安静ニシテ為シ↠善ヲ、精進テ*作ス↠徳ヲ、故ニ能ク*爾ル耳ト。
仏のたまはく、 われみななんぢらおよび諸天・帝王・人民を哀れみて、 みな教へて諸善をなし衆悪をなさざらしむ。 その所能に随ひてすなはち道の教戒を授与し開導して、 ことごとくこれを奉行せしむ。
○仏言ク、我皆哀テ↢若曹及ビ諸天・帝王・人民ヲ↡、皆教テ令ム↧作シ↢諸善ヲ↡不ラ↞為サ↢衆悪ヲ↡。随テ↢其ノ所能ニ↡輒チ授↢与シ道ノ教*戒ヲ↡開導テ、悉ク奉↢行シム之ヲ↡。
すなはち君は率化して善をなして臣下に教令し、 父はその子に教へ、 兄はその弟に教へ、 夫はその婦に教へ、 家室・内外・親属・朋友、 うたたあひ教語して、 善をなし道をなし経を奉じ戒を持ち、 おのおのみづから端しく守りて上下あひ撿め、 尊となく卑となく、 男となく女となく、 斎戒清浄にして歓喜せざるはなし。 義理に和順して歓楽し慈孝し、 みづからあひ約撿す。
●*即チ君ハ率化テ為テ↠善ヲ教↢令シ臣下ニ↡、父ハ教ヘ↢其ノ子ニ↡、兄ハ教ヘ↢其ノ弟ニ↡、夫ハ教ヘ↢其ノ婦ニ↡、家室・内外・親属・朋友、転タ相ヒ教語テ、作シ↠善ヲ為シ↠道ヲ奉ジ↠経ヲ持チ↠戒ヲ、各ノ自ラ端ク守テ上下相ヒ撿メ、无ク↠尊ト無ク↠卑ト、無ク↠男ト无ク↠女ト、斎戒清浄ニシテ莫シ↠不ルハ↢歓喜セ↡。和↢順テ義理ニ↡歓楽シ慈孝シ、自ラ相ヒ約撿ス。
それ仏の経語を得ることあらば、 ことごとく持ちてこれを思へ。 まさに所作すべからざるをしかも犯してこれをなさば、 すなはちみづから悔過せよ。 悪を去りて善に就き、 邪を棄てて正をなし、 朝に聞きて夕に改めて、 経戒を奉持すれば劇愚も宝を得。
●其レ有バ↠得コト↢仏ノ経語ヲ↡、悉ク持テ思ヘ↠之ヲ。不ルヲ↠当ニカラ↢所作ス↡而モ犯テ為バ↠之ヲ、即チ自ラ悔過ヨ。去テ↠悪ヲ就キ↠善ニ、棄テ↠邪ヲ為シ↠正ヲ、朝ニ聞テ夕ニ改テ、奉↢持レバ経戒ヲ↡劇*愚モ得↠*宝ヲ。
仏の所行の処、 所在の郡国にはすなはち経戒を授与す。 諸天・日月・星辰・諸神・国王・旁臣・長吏・人民・諸竜・鬼神・泥犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動の属も、 慈心をもつて開解せざるものなし。 みなことごとく敬事して仏に従ひ、 経道を稽受して承けてこれを奉行す。
●仏ノ所行ノ処、所在ノ郡国ニハ輒チ授↢与ス経戒ヲ↡。諸天・日月・星辰・諸*神・国王・*旁臣・長吏・人民・諸竜・鬼*神・泥*犁・禽獣・薜荔・蜎飛蠕動之属モ、莫シ↧不ル↢慈心ヲモテ開解セ↡者0191↥。皆悉ク敬事テ従ヒ↠仏ニ、稽↢受テ経道ヲ↡承テ奉↢行ス之ヲ↡。
すなはち君は改化して善をなし、 斎戒精思して浄くみづから湔ぎ洗ひ、 心を端しくし行ひを正しくせん。 位に居して厳慄にして、 教勅し衆を率ゐて善をなし、 道禁を奉行して言令をして正しからしむ。 臣はその君に孝し、 忠直に令を受けてあへて違負せず。 父子は言令し孝順に承受し、 兄弟・夫婦・宗親・朋友は上下あひ令して言に順ひ理に和す。 尊卑・大小、 うたたあひ敬事するに、 礼をもつてし義にかなひあひ違負せず。
●即チ君ハ改化テ為シ↠善ヲ、斎戒精思テ浄ク自ラ湔ギ*洗ヒ、端クシ↠心ヲ正クセム↠行ヲ。居テ↠*位ニ厳*慄ニシテ、教勅シ率テ↠衆ヲ為シ↠善ヲ、奉↢行テ道禁ヲ↡令ム↢言令ヲシテ正カラ↡。臣ハ*孝シ↢其ノ君ニ↡、忠直ニ受テ↠令ヲ不↢敢テ違負セ↡。父子ハ言令シ孝順ニ承受シ、兄弟・夫婦・宗*親・朋友ハ上下相令テ順ヒ↠言ニ和ス↠理ニ。尊卑・大小、転タ相ヒ敬事ルニ、以テシ↠礼ヲ如ヒ↠義ニ不↢相ヒ違負セ↡。
往を改め来を修し心を洗ひ行を易めずといふことなく、 中表を端正にして自然に善をなし、 願ふところすなはち得て、 ことごとく善く降化すること自然の道なり。 不死を求め欲すればすなはち長寿を得べし。 度世を求め欲すればすなはち泥洹の道を得べしと。
●莫ク↠不トイフコト↢改メ↠往ヲ修シ↠来ヲ*洗ヒ↠心ヲ易メ↟行ヲ、端↢正ニシテ中表ヲ↡自然ニ作シ↠善ヲ、所↠願フ輒チ*得テ、*咸ク善ク降化コト自然之道ナリ。求メ↢欲レバ不死ヲ↡*即チ可シ↠得↢長寿ヲ↡。求メ↢欲レバ度世ヲ↡*即チ可シト↠得↢泥洹之道ヲ↡。
仏のたまはく、 仏は威神尊く徳重くして、 悪を消し善に化して、 度脱せざるはなし。 いまわれ天下に出でて、 この悪のなかにありて、 苦の世において仏となり、 慈愍哀傷し教語開導す。 諸天・帝王・旁臣・左右・長吏・人民、 その心の願楽するところに随ひてみな道を得しむ。
●仏言ク、仏ハ威神尊ク*徳重クシテ、消シ↠悪ニ化テ↠善ヲ、莫シ↠不ルハ↢度脱セ↡。今我出テ↢於天下ニ↡、在テ↢是ノ悪ノ中ニ↡、於テ↢*苦ノ世ニ↡作リ↠仏ト、慈愍哀傷シ教語開導ス。諸天・帝王・*旁臣・左右・長吏・人民、随テ↣其ノ心ノ所ニ↢願楽ル↡皆令ム↠得↠道ヲ。
仏のもろもろの所行の処、 経過し歴るところの郡国・県邑・丘聚・市里、 豊熟せざるはなし。 天下太平にして、 日月の運照ますます明好に、 風雨に時節ありて人民安寧ならん。 強きは弱きに臨まず、 おのおのその所を得て、 悪歳・疾疫なく、 病痩するものなく、 兵革起らず、 国に盗賊なく、 冤抂あることなく、 拘閉せらるるものあることなからん。
○仏ノ諸ノ所行ノ処、所ノ↢経過シ歴ル↡郡国・県邑・丘聚・市里、莫シ↠不ルハ↢豊熟セ↡。天下太平ニシテ、日月ノ運照倍益明好ニ、風雨ニ時節アリテ人民安寧ナラム。強ハ不↠臨マ↠弱ニ、各ノ得テ↢其ノ所ヲ↡、无ク↢悪*歳・疾疫↡、無ク↢病痩ル者↡、兵革不↠起ラ、国ニ无ク↢盗賊↡、無ク↠有コト↢冤抂↡、无ラム↠有コト↢拘閉ラルル者↡。
君臣人民喜踊せざることなく、 忠慈至誠にして、 おのおのみづから端しく守り、 みなみづから国を守り、 雍和孝順にして歓喜せざるはなからん。 有無あひともに恩を布き徳を施して、 心歓楽しともにみな敬愛して、 義を推し譲り、 前後に謙遜して、 礼をもつて敬事すること父のごとく子のごとく、 兄のごとく弟のごとくにして、 仁賢・和順・礼節ならざることなく、 すべてに違諍なく快善極まりなからんと。
○君臣人民莫ク↠不コト↢喜踊セ↡、*忠慈至誠ニシテ、各ノ自ラ端ク守リ、皆自ラ守リ↠国ヲ、*雍和孝順ニシテ莫ラム↠不ルハ↢歓喜セ↡。有无相ヒ与ニ布キ↠恩ヲ施テ↠徳ヲ、心*歓楽シ*与ニ皆敬*愛テ、推シ↢*譲リ義ヲ↡、謙↢遜テ前後ニ↡、以テ↠礼ヲ敬事コト如ク↠父ノ如ク↠子ノ、如ク↠兄ノ如ニシテ↠弟0192ノ、莫ク↠不コト↢仁賢・和順・礼節ナラ↡、都テニ无ク↢違諍↡快善無ラムト↠極リ。
仏のたまはく、 われなんぢら子を哀みて、 これを度脱せんと欲すること父母の子を念ふよりも劇し。 いま八方上下の諸天・帝王・人民および蜎飛蠕動の類、 仏の経戒を得て仏道を奉行し、 みな明慧を得て心ことごとく開解して、 憂苦を過度し解脱することを得ざるものなし。 いまわれ仏となり、 五悪・五痛・五焼のなかにありて、 五悪を降化し、 五痛を消尽し、 五焼を絶滅して、 善をもつて悪を攻め毒苦を抜き去りて、 五道を得しめ、 五善を得しめてあきらかに好ましく、 焼・悪起らざらしむ。
○仏言ク、我哀テ↢若曹子ヲ↡、欲コト↣度↢脱ムト之ヲ↡劇シ↢父母ノ念フヨリモ↟子ヲ。今八方上下ノ諸天・帝王・人民及ビ蜎飛蠕動之類、得テ↢仏ノ経戒ヲ↡奉↢行シ仏道ヲ↡、皆得テ↢明慧ヲ↡心*悉ク開解テ、莫シ↧不ル↠得↤過↢度シ解↣脱コトヲ憂苦ヲ↡者↥。今我作リ↠仏ト、在テ↢於五悪・五痛・五焼之中ニ↡、降↢化シ五悪ヲ↡、消↢尽シ五痛ヲ↡、絶↢*滅テ五焼ヲ↡、以テ↠善ヲ攻メ↠悪ヲ抜キ↢去テ毒苦ヲ↡、令メ↠得↢五道ヲ↡、令テ↧得↢五善ヲ↡明ニ好シク、*焼・悪不ラシム↞起ラ。
われ般泥洹し去りて後、 経道やや断絶し、 人民諛諂にしてややまた衆悪をなしまた善をなさざれば、 五焼また起り、 五痛の劇苦、 また前の法のごとく、 自然に還復し久しくして後うたた劇しからん。 ことごとく説くべからず。 われただなんぢらがために小しくこれをいふのみ。
○我般泥洹シ去テ後、経道稍ヤ断絶シ、人民諛諂ニシテ稍ヤ復為シ↢衆悪ヲ↡不レバ↢復作サ↟善ヲ、五焼復起リ、五痛ノ劇苦、復如ク↢前ノ法ノ↡、自然ニ還復シ久クシテ後転タ劇カラム。不↠可ラ↢悉ク説ク↡。我但為ニ↢若曹ガ↡小シク道フ↠之ヲ耳。
仏、 阿逸菩薩らに告げたまはく、 なんぢらおのおの思ひてこれを持て。 展転してあひ教戒し、 仏の経法のごとくにしてあへて違犯することなかれと。
○仏告タマハク↢阿逸菩薩等ニ↡、若曹各ノ思テ持テ↠之ヲ。展転テ相ヒ教*戒シ、如ニシテ↢仏ノ経法ノ↡无レト↢敢テ違犯コト↡。
阿逸菩薩長跪叉手してまうさく、 仏の道説したまへるところはなはだ苦痛なり。 世人悪をなすことはなはだ劇しきことかくのごとし。 仏みな慈哀してことごとくこれを度脱したまふと。 みなまうさく、 仏の重教を受けたまへり、 請はくは展転してあひ教へてあへて違犯せじと。
○阿逸菩薩長跪叉手テ言ク、仏ノ道*説タマヘルトコロ*甚ダ苦痛ナリ。世人為コト↠悪ヲ甚ダ劇キコト如シ↠是ノ。仏皆慈哀テ悉ク度↢脱タマフト之ヲ↡。皆言ク、受タマヘリ↢仏ノ重教ヲ↡、請ハ展転テ相ヒ教テ不ト↢敢テ違犯セ↡。
二 Ⅴ ⅳ 霊山現土
【27】仏、 阿難に告げたまはく、 われなんぢらを哀れみて、 ことごとく阿弥陀仏およびもろもろの菩薩・阿羅漢の所居の国土を見しむ。 なんぢこれを見ることを欲するやいなやと。
●仏告タマハク↢阿難ニ↡、我哀テ↢若曹ヲ↡、令メム↣悉ク見↢阿弥陀仏及ビ諸ノ菩薩・阿羅漢ノ所居ノ国土ヲ↡。若欲ルヤ↠見コトヲ↠之ヲ不ヤト。
阿難すなはち大きに歓喜し、 長跪叉手してまうさく、 願はくはみなこれを見ることを欲すと。
●阿難即チ大ニ歓喜シ、長跪叉手テ言ク、願クハ皆欲スト↠見コトヲ↠之ヲ。
仏のたまはく、 なんぢ起ちてあらためて袈裟を被て西に向かひて拝し、 日の没処のところに当りて阿弥陀仏のために礼をなし、 頭脳をもつて地に著け、 南無阿弥陀三耶三仏檀といへと。
○仏言ク、若起テ更テ被テ↢袈裟ヲ↡西ニ向テ拝シ、当テ↢日ノ所没ノ処ニ↡為ニ↢阿弥陀仏ノ↡作シ↠礼ヲ、以テ↢頭脳ヲ↡著ケ↠地ニ、言0193ヘト↢南无阿弥陀三耶三仏檀ト↡。
阿難まうさく、 諾、 教を受けんと。 すなはち起ちあらためて袈裟を被て西に向かひて拝し、 日の所没の処に当りて、 弥陀仏のために礼をなし、 頭脳をもつて地に著けて、 南無阿弥陀三耶三仏檀といふ。
○阿難言ク、諾、受ムト↠教ヲ。即チ起チ更テ*被テ↢袈裟ヲ↡西ニ向テ拝シ、当テ↢日ノ所没ノ処↡、為ニ↢弥陀仏ノ↡作シ↠礼ヲ、以テ↢頭脳ヲ↡著テ↠地ニ、言フ↢南無阿弥陀三耶三仏檀ト↡。
阿難いまだ起たざるに、 阿弥陀仏すなはち大きに光明威神を放ちて、 すなはち八方上下のもろもろの無央数の仏国に遍す。 もろもろの無央数の諸天地、 すなはちみなために大きに震動し、 もろもろの無央数の天地、 須弥山羅宝・摩訶須弥大山羅宝、 もろもろの天地、 大界・小界、 そのなかのもろもろの大泥犁・小泥犁、 もろもろの山林・渓谷・幽冥の処、 すなはちみな大明にして、 ことごとく大きに開闢す。
○阿難未ダルニ↠起タ、阿弥陀仏便チ大ニ放テ↢光明威神ヲ↡、則チ遍ス↢八方上下ノ諸ノ无央数ノ仏国ニ↡。諸ノ無央数ノ諸天地、即チ皆為ニ大ニ震動シ、諸ノ无央数ノ天地、須弥山羅宝・摩訶須弥大山羅*宝、諸ノ天地、大界・小界、其ノ中ノ諸ノ大泥*犁・小泥*犁、諸ノ山林・渓谷・幽冥之処、即チ皆大明ニシテ、*悉ク大ニ開闢ス。
すなはち時に阿難、 もろもろの菩薩・阿羅漢ら、 諸天・帝王・人民、 ことごとくみな阿弥陀仏およびもろもろの菩薩・阿羅漢の国土の七宝を見をはりて、 心大きに歓喜し踊躍して、 ことごとく起ちて阿弥陀仏のために礼をなし、 頭脳をもつて地に著けて、 みな南無阿弥陀三耶三仏檀といふ。
●即チ*時ニ阿難、諸ノ菩薩・阿羅漢等、諸天・帝王・人民、悉ク皆見↢阿弥陀仏及ビ諸ノ菩薩・阿羅漢ノ国土ノ七宝ヲ↡*已テ、心大ニ歓喜シ踊躍テ、悉ク起テ為ニ↢阿弥陀仏ノ↡作シ↠礼ヲ、以テ↢頭脳ヲ↡著テ↠地ニ、皆言フ↢南無阿弥陀三*耶三仏檀ト↡。
阿弥陀仏の国の放てる光明に威神ありて、 もつてもろもろの無央数の天・人民および蜎飛蠕動の類、 みなことごとく阿弥陀仏の光明を見たてまつるに、 慈心をもつて歓喜せざるものなし。 諸有の泥犁・禽獣・薜荔、 諸有の考治勤苦の処、 すなはちみな休止してまた治せず。 憂苦を解脱せざるものなし。
●阿弥陀仏ノ*国ノ*放テル光明ニ威神アリテ、以テ*諸ノ无央数ノ天・人民及ビ蜎飛蠕動之類、皆悉ク見マツルニ↢阿弥陀仏ノ光明ヲ↡、莫シ↧不ル↢慈心ヲモテ歓喜セ↡者↥。諸有ノ泥*犁・禽獣・薜荔、諸有ノ*考治勤苦之処、即チ皆休止テ不↢*復治セ↡。莫シ↧不ル↣解↢脱セ憂苦ヲ↡*者。
諸有の盲者はすなはちみな視ることを得、 諸有の聾者はすなはちみな聴くことを得、 諸有の喑者はすなはちみなよく語り、 諸有の僂者はすなはち申ぶることを得、 もろもろの跛癖蹇者はすなはちみな走り行き、 諸有の病者はすなはちみな愈えて起ち、 もろもろの尫者はすなはちみな強健に、 もろもろの愚痴者はすなはちさらに黠慧に、 諸有の婬者はみなこれ梵行し、 もろもろの瞋怒者はことごとくみな慈心をもつて善をなし、 諸有の毒を被る者は毒みな行らず、 鍾磬・琴瑟・箜篌楽器諸伎は鼓せざるにみなおのづから五つの音声をなし、 婦女の珠環はみなおのづから声をなし、 百鳥畜狩みなおのづから悲鳴す。
●諸有ノ盲者ハ即チ皆得↠視コトヲ、諸有ノ聾者ハ即チ皆得↠聴コトヲ、諸有ノ*喑者ハ即チ皆能ク語リ、諸有ノ*僂者ハ*即チ得↠*申コトヲ、諸ノ跛*癖蹇者ハ即チ皆走リ行キ、諸有ノ病者ハ即チ皆愈テ起チ、*諸ノ*尫者ハ*即チ皆*強健ニ、諸ノ愚痴者ハ即チ更ニ黠慧ニ、諸有0194ノ婬者ハ*皆*是梵行シ、*諸ノ瞋怒*者ハ悉ク皆慈心ヲモテ作シ↠善ヲ、諸有ノ被ル↠毒ヲ者ハ毒皆不↠行ラ、鍾磬・琴瑟・箜篌楽器諸伎ハ不ルニ↠鼓セ皆自ラ作シ↢五ノ音声ヲ↡、婦女ノ珠環ハ皆自ラ作シ↠声ヲ、百鳥畜*狩皆自ラ悲鳴ス。
この時に当りて、 歓喜善楽して過度を得ざるものなし、 すなはちその時に諸仏国中の諸天・人民天上の華香を持ちて来り下り、 虚空のなかにおいてことごとくみな諸仏および阿弥陀仏の上に供養し散ぜざるはなし。 諸天おのおのともに大きに万種自然の伎楽をなして、 諸仏およびもろもろの菩薩・阿羅漢を楽ましむ。 この時に当りて、 その快楽いふべからず。
●*当テ↢是ノ時ニ↡、莫シ↧不ル↣歓喜善楽テ得↢過度ヲ↡者↥。即チ爾ノ時ニ諸仏国中ノ諸天・人民莫シ↠不ルハ↫持テ↢天上ノ華香ヲ↡来リ下リ、於テ↢虚空ノ中ニ↡悉ク皆供↩養シ散ゼ↪諸仏及ビ阿弥陀仏ノ上ニ↨。諸天各ノ共ニ大ニ作テ↢万種自然ノ伎楽ヲ↡、*楽マシム↢諸仏及ビ諸ノ菩薩・阿羅漢ヲ↡。当テ↢是之時ニ↡、*其ノ快楽不ト↠可ラ↠言フ。
仏、 阿難・阿逸菩薩らに告げたまはく、 われ阿弥陀仏およびもろもろの菩薩・阿羅漢の国土の自然の七宝を説くに、 もしは異あることなきかと。
○仏告タマハク↢阿難・阿逸菩薩等ニ↡、我説ニ↢阿弥陀仏及ビ諸ノ菩薩・阿羅漢ノ国土ノ自然ノ七宝ヲ↡、儻ハ無キ↠有コト↠異乎ト。
阿難長跪叉手してまうさく、 仏、 阿弥陀仏の国土の快善なることを説きたまふ。 仏ののたまふところのごとく一つも異あることなしと。
○阿難長跪叉手テ言ク、仏説タマフ↢阿弥陀仏ノ国土ノ快善ナルコトヲ↡。如ク↢仏ノ所ノ↟言タマフ无シト↠有コト↢一モ異ナルコト↡。
仏のたまはく、 われ阿弥陀仏の功徳、 国土の快善を説かんに、 昼夜一劫を尽すともなほまたいまだ竟へず。 われただなんぢらがために小しくこれを説くのみと。
○仏言ク、我説ムニ↢阿弥陀仏ノ功徳、国土ノ快善ヲ↡、昼夜尽トモ↢一劫ヲ↡尚復未ダ↠竟ヘ。我但為ニ↢若曹ガ↡小シク説ク↠之ヲ*爾ト。
二 Ⅴ ⅴ 十方来生
阿逸菩薩すなはち長跪叉手して、 仏に問ひたてまつりてまうさく、 今仏の国土はこの間よりまさにいくばくの阿惟越致の菩薩ありてか阿弥陀仏国に往生すべき。 願はくはこれを聞かんと欲すと。
○阿逸菩薩即チ長跪叉手テ、問マツリテ↠仏ニ言ク、今仏ノ国土ハ従リ↢是ノ間↡当ニキ↧有テカ↢幾何ノ阿惟越致ノ菩薩↡往↦生ス阿弥陀仏国ニ↥。願クハ欲スト↠聞ムト↠之ヲ。
仏のたまはく、 なんぢ知らんと欲せば、 あきらかに聴きて心中に著けよと。 阿逸菩薩まうさく、 教を受けんと。
●仏言ク、汝欲バ↠知ムト者、明ニ聴テ著ヨト↢心中ニ↡。阿逸菩薩言ク、受ムト↠教ヲ。
仏のたまはく、 わが国よりまさに七百二十億の阿惟越致の菩薩ありて、 みなまさに阿弥陀仏国に往生せん。 一の阿惟越致の菩薩は、 前後無央数の諸仏を供養し、 もつて次ぎて弥勒のごとし。 みなまさに作仏すべし。 およびその余のもろもろの小菩薩の輩は、 無央数にしてまた計ふべからず、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべしと。
○仏言ク、従リ↢我ガ国↡当ニ有テ↢七百二十億ノ阿惟越致ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。一ノ阿惟越致ノ菩薩者、前後供↢養シ无央数ノ諸仏ヲ↡、以テ次ギテ如シ↢弥勒ノ↡。皆当ニシ↢作仏ス↡。及ビ其ノ余ノ諸ノ小菩薩0195ノ輩者、無央数ニシテ不↠可ラ↢復計フ↡、皆当ニシト↣往↢生ス阿弥陀仏*国ニ↡。
仏、 阿逸菩薩に告げたまはく、 ただわが国中のもろもろの菩薩のみまさに阿弥陀仏国に往生すべきにあらず。 他方異国にまた仏ましましてまたかくのごとし。
○仏告タマハク↢阿逸菩薩ニ↡、不ズ↤但我ガ国中ノ諸ノ菩薩ノミ当ニキニ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。他方異国ニ復有シテ↠仏亦復如シ↠是ノ。
第一の仏を頭楼和斯と名づく。 その国に百八十億の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○第一ノ仏ヲ名ク↢頭楼和斯ト↡。其ノ国ニ有リ↢百八十億ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第二の仏を羅隣那阿竭と名づく。 その国に九十億の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第二ノ仏ヲ名ク↢羅隣那阿竭ト↡。其ノ国ニ有リ↢九十億ノ菩薩↡、*皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第三の仏を朱蹄彼会と名づく。 その国に二百二十億の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第三ノ仏ヲ名ク↢朱蹄彼*会ト↡。其ノ国ニ有リ↢二百二十億ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第四の仏を阿蜜蔡羅薩と名づく。 その国に二百五十億の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第四ノ*仏ヲ名ク↢阿*蜜蔡羅薩ト↡。其ノ国ニ有リ↢二百五十億ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第五つの仏を楼波黎波蔡と名づく。 その国に六百億の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第五ノ仏ヲ名ク↢楼波黎波蔡ト↡。其ノ国ニ有リ↢六百億ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第六の仏を那惟于蔡と名づく。 その国に万四千の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第六ノ仏ヲ名ク↢那惟于蔡ト↡。其ノ国ニ有リ↢万四千ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第七の仏を維黎波羅潘と名づく。 その国に十五の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第七ノ仏ヲ名ク↢*維黎波羅潘ト↡。其ノ国ニ有リ↢十五ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第八の仏を和阿蔡と名づく。 その国に八の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第八ノ仏ヲ名ク↢和阿蔡ト↡。其ノ国ニ有リ↢八ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第九の仏を尸利群蔡と名づく。 その国に八百一十億の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第九ノ仏ヲ名ク↢尸利群蔡ト↡。其ノ国ニ有リ↢八百*一十億ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第十の仏を那他蔡と名づく。 その国に万億の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第十ノ仏ヲ名ク↢那他蔡ト↡。其ノ国ニ有リ↢万億ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第十一の仏を和羅那惟于蔡と名づく。 その国に万二千の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。
○他方異国ノ第0196十一ノ仏ヲ名ク↢和羅那惟于蔡ト↡。其ノ国ニ有リ↢万二千ノ菩薩↡、皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第十二の仏を沸覇図耶蔡と名づく。 その国にもろもろの菩薩あり、 無央数にしてまた計ふべからず。 みな阿惟越致なり。 みな智慧勇猛にして、 おのおの無央数の諸仏を供養しをはりて、 一時にともに心に願じて往かんと欲して、 みなまさに阿弥陀仏国に生ずべし。
○他方異国ノ第十二ノ仏ヲ*名ク↢沸*覇図*耶蔡ト↡。其ノ国ニ有リ↢諸ノ菩薩↡、无央数ニシテ不↠可ラ↢復計フ↡。皆阿惟越致ナリ。皆智慧勇猛ニシテ、各ノ供↢養シ無央数ノ諸仏ヲ↡*已テ、一時ニ倶ニ心ニ願テ欲テ↠*往ムト、皆当ニシ↠生ズ↢阿弥陀仏国ニ↡。
他方異国の第十三の仏を随呵閲祇波多蔡と名づく。 その国に七百九十億の菩薩あり、 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべしと。
○他方異国ノ第十三ノ仏ヲ名ク↢随*呵閲祇波多蔡ト↡。其ノ国ニ有リ↢七百九十億ノ菩薩↡、皆当ニシト↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ。
仏のたまはく、 このもろもろの菩薩はみな阿惟越致なり。 もろもろの比丘僧中の小菩薩の輩に及ぶまで無央数なり。 みなまさに阿弥陀仏国に往生すべし。 独りこの十四仏国中のもろもろの菩薩のみまさに往生すべきにあらず。 すべて八方上下の無央数の仏国のもろもろの菩薩の輩、 おのおのこれみなまさに阿弥陀仏国に往生すべし、 はなはだ無央数なり。 すべてともに往きて阿弥陀仏国に会す。 大きに衆多にして計ふべからず。
○仏言ク、是ノ諸ノ菩薩ハ皆阿惟越致ナリ。諸ノ比丘僧中ノ及マデ↢小菩薩ノ輩ニ↡无央数ナリ。皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡。不ズ↣独リ是ノ十四仏国中ノ諸ノ菩薩ノミ当ニキニ↢往生ス↡也。都テ八方上下ノ無央数ノ仏国ノ諸ノ菩薩ノ輩、各*各是皆当ニシ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡、*甚ダ无央数ナリ。都テ共ニ往テ会ス↢阿弥陀仏国ニ↡。大ニ衆多ニシテ不↠可ラ↠計フ。
われただ八方上下の無央数の諸仏の名字を説かんに、 昼夜一劫すともなほいまだ竟へず。 われただまた諸仏の国のもろもろの比丘僧の衆の菩薩のまさに阿弥陀仏国に往生すべき人数を説かんに、 これを説くこと一劫にして休止せざるもなほいまだ竟へず。 われただなんぢらがために総攬してすべて小しくこれを説くのみ。
○我*但説ムニ↢八方上下ノ無央数ノ諸仏ノ名字ヲ↡、昼夜一劫ストモ尚未ダ↠竟ヘ。我但復説ムニ↧諸仏国ノ諸ノ比丘僧ノ衆ノ菩薩ノ当ニキ↣往↢生ス阿弥陀仏国ニ↡人数ヲ↥、説コト↠之ヲ一劫ニシテ不ルモ↢休止セ↡尚未ダ↠竟ヘ。我但為ニ↢若曹ガ↡総攬テ都テ小シク説ク↠之ヲ*爾ト。
三 流通分
Ⅰ 弥勒付属
【28】仏、 阿難・阿逸菩薩らに語りたまはく、 それ世間の帝王・人民、 善男子・善女人、 前世宿命に善をなして致すところの相禄巍々として、 すなはちまさに阿弥陀仏の声を聞くものは、 はなはだ快善なり。 われこれに代りて喜ばんと。 仏のたまはく、 ▼それ善男子・善女人ありて、 阿弥陀仏の声を聞き、 慈心をもつて歓喜して一時に踊躍し、 心意浄潔に、 衣毛ために起ちて、 涙すなはち出づるものは、 みな前世宿命に仏道をなせること他方の仏のごとく、 もと菩薩にして凡人にあらず。
○仏語タマハク↢阿難・阿逸菩薩等ニ↡、其レ世間ノ帝王・人民、善男子・善女人、前世宿命ニ作テ↠善ヲ所ノ↠致ス相禄巍巍トシテ、乃チ当ニキ↠聞ク↢阿弥陀仏ノ声ヲ↡者、甚ダ快*善ナリ。*我代テ↠之ニ喜ムト。仏0197言ク、其レ有テ↢善男子・善女人↡、聞キ↢阿弥陀仏ノ声ヲ↡、慈心ヲモテ歓喜テ一時ニ踊躍シ、心意浄潔ニ、衣毛為ニ起テ、涙即チ出ル者ハ、皆前世宿命ニ作セルコト↢仏道ヲ↡若ク↢他方ノ仏ノ↡、故菩薩ニシテ非ズ↢凡人ニ↡。
それ人民、 男子・女人ありて、 弥陀仏の声を聞きて有者を信ぜず、 経の仏語を信ぜず、 比丘僧あることを信ぜず、 心中に狐疑してすべて信ずるところなきものは、 みなもと悪道のなかより来り生じて、 愚痴にして解らず、 宿命の殃悪いまだ尽きず、 なほいまだまさに度脱すべからず。 ゆゑに心中に狐疑して、 信向せざるのみと。
●其レ有テ↢人民、男子・女人↡、*聞テ↢弥陀仏ノ声ヲ↡不↠信ゼ↢有者ヲ↡、不↠信ゼ↢経ノ*仏語ヲ↡、不↠信ゼ↠有コトヲ↢比丘僧↡、心中ニ狐疑テ都テ无キ↠所↠信ル者ハ、皆故従リ↢悪道ノ中↡来リ生テ、愚痴ニシテ不↠解ラ、宿命ノ殃悪未ダ↠尽キ、尚未ダ↠当ニカラ↢度脱ス↡。故ニ*心中ニ狐疑テ、不ル↢信向セ↡*爾ト。
仏のたまはく、 われなんぢらに語らん。 なんぢらまさになすべきところの善法は、 みなまさに奉行してこれを信じ、 疑を得ることなかれ。 われ般泥洹し去りて後、 なんぢらおよび後世の人、 またわれ阿弥陀仏国にあることを信ぜずといふことを得ることなかれ。 われことさらになんぢらをしてことごとく阿弥陀仏の国土を見しむ。 まさになすべきところのものはおのおのこれを求めよ。
○仏言ク、我語ム↢若曹ニ↡。若曹所ノ↠当ニキ↠作ス善法ハ、皆当ニシ↢奉行テ信ジ↠之ヲ、無カル↟*得コト↠疑ヲ。我般泥洹シ去テ後、汝曹及ビ後世ノ人、无レ↠得コト↣復言コトヲ↢我不ト↟信ゼ↠有コトヲ↢阿弥陀仏国↡。我故ラニ令ム↣若曹ヲシテ悉ク見↢阿弥陀仏ノ国土ヲ↡。所ノ↠当ニキ↠為ス者ハ各ノ求ヨ↠之ヲ。
われつぶさになんぢらがために経戒慎法を道説す。 なんぢらまさに仏の法のごとくこれを持つべし。 毀失を得ることなかれ。 われこの経を持ちもつてなんぢらに累す。 なんぢらまさに堅くこれを持つべし、 みだりにこの経法を増減するをなすことを得ることなかれ。
●我具ニ為ニ↢若曹ガ↡道↢説ス経戒慎法ヲ↡。若曹当ニシ↧如ク↢仏ノ法ノ↡持ツ↞之ヲ。無レ↠得コト↢毀失ヲ↡。我持チ↢是ノ経ヲ↡以テ累ス↢若曹ニ↡。若曹当ニシ↢堅ク持ツ↟之ヲ、无レ↠得コト↠為コトヲ↣妄ニ増↢減ルヲ是ノ経法ヲ↡。
三 Ⅱ 特留此経
▼われ般泥洹し去りて後、 経道留止すること千歳せん。 千歳の後、 経道断絶せん。 われみな慈哀して、 この経法を持ち留めて止住すること百歳せん。 百歳中ちをはりてすなはち休止し断絶せん。 心の所願のごとくありてみな道を得べしと。
○我般泥洹シ去テ後、経道留止コト千歳セム。千歳ノ後、経道断絶ム。我皆慈哀テ、*持チ↢留テ是ノ経法ヲ↡止住コト百歳セム。百歳中チ竟テ乃チ休止シ断絶ム。在テ↢心ノ所願ノゴトク↡皆可シト↠得↠道ヲ。
仏のたまはく、 師は人を開導するに、 耳目・智慧明達にして、 人を度脱してよく泥洹の道に合ふことを得しむ。 つねにまさに仏に孝慈すること父母のごとくすべし。 つねにまさに師の恩を念ずべし。 つねに念じて絶えざればすなはち道を得ること疾からんと。
●仏言ク、師ハ開↢*導ルニ人ヲ↡、耳目・智慧明達ニシテ、度↢脱テ人ヲ↡令ム↠得↣善ク合コトヲ↢泥洹之道ニ↡。常ニ当ニシ↧孝↢慈コト於*仏ニ↡父母ノゴトクス↥。常ニ当ニシ↠念ズ↢師ノ恩ヲ↡。常ニ念テ不レバ↠絶エ即チ得コト↠道ヲ疾カラムト。
仏のたまはく、 天下に仏ましますははなはだ値ひがたし。 もしは沙門ありて師のごとく人のために経を説くは、 はなはだ値ひがたし。
○仏言ク、天下ニ有ス↠仏者甚ダ難シ↠値ヒ。若ハ有テ↢沙門↡若ク↠師ノ為ニ↠人ノ説ク↠経ヲ者0198、甚ダ難シ↠値ヒ。
仏この経を説きたまふ時、 すなはち万二千億の諸天・人民みな天眼を得て徹視し、 ことごとく一心にみな菩薩道をなす。 すなはち二百億の諸天・人民みな阿那含道を得、 すなはち八百の沙門、 みな阿羅漢道を得、 すなはち四十億の菩薩、 みな阿惟越致を得たりと。
○仏説タマフ↢是ノ経ヲ↡時、即チ万二千億ノ諸天・人民皆得テ↢天眼ヲ↡徹視シ、悉ク一心ニ皆為ス↢菩薩道ヲ↡。即チ二百億ノ諸天・人民皆*得↢阿那含道ヲ↡、即チ八百ノ沙門、皆得↢阿羅漢道ヲ↡、即チ四十億ノ菩薩、皆得タリト↢阿惟越致ヲ↡。
仏経を説きをはりたまふに、 もろもろの菩薩・阿羅漢・諸天・帝王・人民、 みな大きに歓喜し、 起ちて仏のために礼をなし、 遶ること三帀して、 前みて頭面をもつて仏足に著けて去りにき。
○仏説キ↠経ヲ已タマフニ、諸ノ菩薩・阿羅漢・諸天・帝王・人民、皆大ニ歓喜シ、起テ為ニ↠仏ノ作シ↠礼ヲ、遶コト三帀テ、前テ以テ↢頭面ヲ↡著テ↢仏足ニ↡而去ニキ。
*阿弥陀経 巻下
延書は底本の訓点に従って有国が行った(固有名詞の訓は保証できない)。
底本は◎高麗版(再雕本)¬大蔵経¼所収本。 Ⓐ宋版(思溪版)¬大蔵経¼所収本、 Ⓑ元版(善寧寺版)¬大蔵経¼所収本、 Ⓒ明版(万歴版)¬大蔵経¼所収本、 Ⓓ正倉院聖語藏本、 Ⓔ高田派専修寺蔵顕智上人書写本 と対校。 ª全部対校º 琉→ⒶⒷⒸⒹⒺ瑠 孤→Ⓔ狐
犁→Ⓓ黎
犁→ⒶⒹⒺ黎
呉…譯9字 Ⓓになし
支国→ⒶⒷⒸⒺ氏
居士→ⒷⒸ優婆塞 ⒶⒺになし
行 ⒶⒺになし
夢中→ⒶⒷⒸⒹⒺ中夢
翻→ⒶⒷⒺ翻[輩]
予→Ⓔ預
作 Ⓓになし
命終→ⒶⒷⒸⒹⒺ終命
間→Ⓓ聞
千→Ⓔ十
復→Ⓔ得
飯→ⒶⒷⒸⒹⒺ飲
忉→Ⓐ切
不 Ⓑになし
爾→ⒶⒷⒹⒺ耳
作→ⒶⒷⒸⒹⒺ作[功]
是→Ⓔ之
爾→ⒶⒷⒹⒺ耳
飯→ⒶⒷⒸⒺ飲
爾→Ⓓ身
仏→ⒶⒷⒸⒹⒺ仏[国]
仏→Ⓓ仏[国]
大→ⒶⒷⒸⒺ大[歓]
開→Ⓔ聞
卓→ⒶⒷⒸⒹⒺ百千
奸→ⒶⒷⒸⒺ姦
心→Ⓔ意
爾→ⒶⒷⒸⒺ念
以→ⒶⒷⒸⒺ已
劣→Ⓓ奥
予→ⒶⒷⒸⒺ預
悷→ⒶⒺ戻→ⒷⒸ恢→Ⓓ怪
悢→ⒶⒺ佷→ⒷⒸ廓 Ⓓになし
翻→Ⓐ幡
楽→ⒶⒷⒸⒹⒺ楽[楽]
徊→ⒶⒷⒸⒹⒺ廻
姝→ⒶⒷⒸⒺ殊
違 ⒶⒷⒸⒺになし
慕 ◎ⒶⒸⒹになし
无空→ⒶⒷⒸⒹⒺ空无
恢→ⒸⒷ淡
慈愍→Ⓓ愍慈
通洞→ⒶⒷⒸⒺ洞通
願→Ⓓ願[高]
徊→ⒶⒷⒸⒹⒺ廻
努→Ⓓ怒
悪→ⒶⒷⒸⒹⒺ悪[悪]
事→ⒶⒷⒸⒺ事[勤]
寿→ⒶⒷⒸⒹⒺ寿[楽]
恐→ⒶⒷⒸⒺ毒
債→Ⓓ責
繋→ⒶⒷⒸⒺ撃
唐突→ⒶⒷⒸⒺ搪揬
忪→Ⓓ怔
意固→ⒶⒷⒸⒺ固意
苦→ⒶⒷⒸⒺ苦[如]
賜→ⒷⒸ儩→Ⓓ瀃
悪→ⒶⒷⒸⒹⒺ異
曼→Ⓒ遇
曼=遇Ⓓ
常 Ⓓになし
矇→ⒶⒷⒸ朦
突→ⒶⒷⒸⒺ揬
惑→Ⓓ或
泣→ⒶⒷⒸⒹⒺ涙
憂→Ⓓ愛
繞 ⒶⒺになし
矇瞑→ⒶⒷⒸⒹⒺ蒙蒙
→Ⓓ説
懐→ⒶⒷⒸⒹⒺ懐[怨]
恣→Ⓓ怨
億→ⒶⒷⒸⒺ億[億]
曹→◎造
時→ⒶⒷⒸⒺ尊
皆 Ⓓになし
我 Ⓓになし
示→Ⓓ爾
皆→ⒶⒷⒸⒺ皆[悉]
戒→ⒶⒷⒸⒺ誡
深→ⒶⒷⒸⒺ深[甚]
見知→Ⓔ知見
聞→ⒶⒷⒸ値→Ⓔ→道
比→Ⓓ皆
勤→ⒷⒹ謙
入→Ⓔ人
典→Ⓔ曲
改→ⒷⒸ愍→Ⓔ吹
苦→ⒹⒺ若
道→ⒶⒺ諸
照→ⒷⒸ昭
視→ⒶⒷⒸⒺ示
我→ⒶⒷⒸⒺ哉
甚 Ⓓになし
亦→ⒶⒷⒸⒹ亦[痛亦]
死→ⒶⒷⒸⒹⒺ飢
極→ⒶⒷⒸⒹⒺ極[病時亦痛亦苦亦極死時亦痛亦苦亦極]
洗→ⒶⒷⒸⒺ酒
无復→ⒶⒷⒸⒺ復無
万→ⒶⒷⒸⒺ万[劫]
止→ⒶⒷⒸⒺ上
中 Ⓓになし
者→ⒶⒷⒸⒺ者[諸]
貰→Ⓒ貫
憋→ⒶⒺ蔽→ⒷⒸ弊
入→Ⓓ人
有→ⒷⒸ尤
処→ⒶⒷⒸⒺ劇
刑→ⒶⒺ形
受→ⒶⒷⒸⒺ受[於]
寄胎→ⒶⒷⒸⒺ寿
胎→Ⓓ治
人 Ⓔになし
嫉憎→ⒶⒷⒸⒺ憎嫉
施→ⒶⒷⒸⒺ勢
妄→Ⓐ倭
忠→Ⓓ中
矇→Ⓓ曚
欲益→ⒶⒷⒸⒺ殺盜
市→Ⓔ帀
守→ⒶⒷⒸⒹⒺ守[惜]
惜→ⒷⒸ重 Ⓓになし
命→ⒶⒷⒸⒺ念
悔→ⒶⒷⒺ悔[生]
悪 ◎ⒶⒹⒺになし
妄→Ⓑ忘
靡→Ⓓ糜
賜→ⒷⒸ儩
犁→ⒶⒹ黎→Ⓔ梨
中→Ⓒ終
自 Ⓔになし
得→Ⓐ徳
相因→Ⓓ想恩
私→Ⓓ和
繋→ⒶⒷⒹⒺ撃
勢→ⒶⒹⒺ熱
給→Ⓓ其
快→ⒶⒺ使
行→ⒶⒷⒸⒺ婬
憎→Ⓓ増
有→Ⓓ自
三→Ⓓ三[大]
人→Ⓔ天
旁→ⒶⒷⒸⒺ傍
有道 ⒶⒷⒸⒺになし
頑→ⒶⒷⒸⒺ頦
哀→ⒶⒷⒸⒺ畏
恐→Ⓓ怨
之→ⒷⒸ恣
頼→Ⓓ類
儩→ⒶⒹⒺ賜
之→◎ⒷⒸ乏
呵→ⒶⒷⒸⒺ訶
乏→Ⓓ之
賑→Ⓓ振
突→ⒶⒷⒸⒺ揬
壮→Ⓔ肚
識→Ⓓ職
殺→ⒶⒷⒸⒺ殺[阿]
悪 Ⓓになし
導→ⒶⒷⒸⒺ道
苦→ⒶⒷⒸⒺ生→Ⓓ告
窕→ⒶⒷ窈 Ⓔになし
汗汗→Ⓓ晧晧
不→Ⓓ所
入苦 ◎Ⓓになし
入冥 ◎Ⓓになし
休→Ⓔ止
悪→ⒶⒷⒸⒺ悪[為]
痛→ⒶⒷⒸⒹⒺ痛[為]
為 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
欲→ⒷⒸ有
示→Ⓓ亦
時→Ⓑ時[快意不能]
語→ⒷⒸⒺ告
楽 Ⓓになし
曼→Ⓒ遇
撿→ⒶⒷⒸ検
和→Ⓓ知
円→ⒶⒷⒸⒹⒺ図
善→Ⓓ益
善→ⒶⒷⒸⒺ善[者]
徳→Ⓓ徳[福徳]
飲食毒 ⒶⒷⒸⒺになし
身苦→ⒶⒷⒸⒺ苦身
惚恫→ⒶⒷⒸⒹⒺ怱洞
作 ◎になし
爾耳→Ⓓ耳爾
戒→ⒶⒷⒸⒺ誡
即→ⒷⒸ則
愚→ⒷⒸ貧
宝→ⒶⒺ実
神 ⒶⒷⒸⒺになし
旁→ⒶⒷⒸⒺ傍
神 Ⓓになし
犁→ⒶⒷⒹⒺ黎
洗→ⒶⒷⒸⒺ洒
位→Ⓔ倍
慄→ⒶⒹ慓
孝→ⒷⒸ事
親 Ⓔになし
得→ⒶⒺ徳
咸→ⒶⒹⒺ成→ⒷⒺ感
即→Ⓑ則
徳 ⒶⒷⒸⒺになし
苦→Ⓓ若
歳→ⒶⒷⒸⒺ穢
忠→Ⓓ中
雍→Ⓓ維
歓→ⒶⒷⒸⒺ歓[喜]
与→ⒶⒷⒸⒺ与[得]
愛→ⒶⒷⒸⒺ受
譲義→ⒶⒷⒸⒺ義譲
譲∽義ⒷⒸⒹ
悉→Ⓓ迷
滅→Ⓓ然
焼→Ⓓ暁
戒→ⒶⒷⒸⒺ誡
説→◎記
甚→ⒶⒺ其
被→Ⓓ披
宝 Ⓔになし
悉→Ⓓ悉[両]
時 Ⓓになし
已→Ⓓ以
耶→Ⓓ邪
国 ⒶⒷⒸⒺになし
放→ⒶⒷⒸⒺ放[大]
諸无央数天→ⒶⒷⒸⒺ无央数諸天
考→ⒶⒷⒸⒺ拷
復→ⒶⒷⒸⒺ復[拷]
者→ⒶⒷⒸ者[也]
喑者→ⒶⒷⒸⒺ瘖瘂
暗→Ⓓ瘂
僂→Ⓓ傴
即→ⒶⒷⒸⒹⒺ即[皆]
申→ⒷⒸ伸
癖→ⒶⒷⒸⒹⒺ躄
諸→Ⓓ諸[有]
尫→ⒶⒺ尫[愚]
即→ⒷⒸ則
強健諸愚痴者即更→ⒷⒸ強健愚者皆 ⒶⒺになし
強健諸愚痴者即Ⓓになし
皆是梵行 Ⓓになし
是→ⒶⒷⒸⒺ修
諸 ⒶⒷⒸⒹⒺになし
者 Ⓓになし
狩→ⒶⒷⒸⒹⒺ獣
当→ⒶⒷⒸⒺ当[于]
楽 ⒶⒷⒸⒺになし
其→ⒶⒷⒸⒹⒺ甚
国仏 Ⓓになし
皆当→Ⓔ当皆
会→ⒶⒷⒸⒹⒺ会[蔡]
仏→ⒶⒷⒸⒺ如来
蜜→ⒶⒷⒸⒺ密
維→Ⓓ羅
一十→Ⓓ十一
名→Ⓓ名[若]
覇 Ⓓになし
耶→Ⓓ邪
已→◎Ⓓ以
往→ⒶⒷⒸⒺ往[生]
呵→ⒶⒷⒺ訶→Ⓒ阿
各→Ⓑ各[如]→Ⓒ各[在]
甚→ⒷⒸ其
但→Ⓓ但[当]
善→Ⓓ善[哉]
我→◎ⒶⒺ哉
聞→ⒶⒷⒸⒺ聞[阿]
仏 Ⓓになし
心中→Ⓓ中心
得→ⒶⒷⒸ得[狐]→Ⓔ得[孤]
持→ⒶⒷⒸⒺ特
導→ⒶⒷⒸ道
仏→ⒷⒸ仏[如]
得 ⒶⒹⒺになし
[仏説]+阿ⒷⒸⒹ