じりきたりきのこと 自力他力事 1巻。 ¬自力他力¼ ともいう。 法然の門弟である隆寛の著といわれる。 自力念仏他力の念仏の相違を明らかにし、 他力の念仏を勧める書。 まず、 自力の念仏とは、 みずからの行いを慎み、 悪事をとどめて念仏しようとするものであるが、 実際には不可能であり、 たとえできたとしても、 極楽のほとり (へん) にしか往生できず、 そこで本願に背いた罪をつぐなった後、 真実の浄土に往生することが明かされる。 次に、 他力の念仏とは、 みずからの罪悪の深いことにつけても、 ひとえに阿弥陀仏本願力をあおぎ、 願力をたのめば、 常に阿弥陀仏の光明に照らされ、 いのち尽きたときには、 極楽に必ず往生せしめられることが明かされる。 最後に、 迷いの世界を出て悟りの世界に至ることは、 まったく阿弥陀仏の本願力によるのであり、 念仏しながら自力をたのむということは、 はなはだしい心得違いであると誡めて全体を結んでいる。
 なお、 親鸞の ¬御消息¼ 第18通には、 「ただ詮ずるところは、 ¬唯信鈔¼・¬後世物語¼・¬自力他力¼、 この御ふみどもをよくよくつねにみて、 その御こころにたがへずおはしますべし」 などとあり、 親鸞がしばしば本書を関東の門弟たちに書き写して与え、 読むことを勧めたことがうかがえる。 大谷大学りゅうこく大学に江戸時代の写本が伝存する。