一念いちねんねんふんべつのこと

*りゅうかんりっさく

 

【1】 ^*念仏ねんぶつぎょうにつきて、 *一念いちねんねんのあらそひ、 このごろさかりにきこゆ。 これはきはめたるだいなり。 よくよくつつしむべし。 一念いちねんをたててねんをきらひ、 ねんをたてて一念いちねんをそしる、 ともに*本願ほんがんのむねにそむき、 *善導ぜんどうのをしへをわすれたり。

【2】 ^ねんはすなはち一念いちねん*つもりなり。 そのゆゑは、 ひとのいのちは日々にちにち今日きょうやかぎりとおもひ、 時々じじにただいまやをはりとおもふべし。 *じょうのさかひは、 うまれて*あだなるかりの*すみかなれば、 かぜのまへのともしびをみても、 くさのうへのつゆ*よそへても、 いきのとどまり、 いのちのたえんことは、 かしこきもおろかなるも一人いちにんとしてのがるべき*かたなし。 このゆゑに、 ただいまにてもまなこぢはつるものならば、 弥陀みだ本願ほんがんにすくはれて*極楽ごくらくじょうむかへられたてまつらんとおもひて、 *南無なも弥陀みだぶつととなふることは、 一念いちねんじょう*どくをたのみ、 いちねん広大こうだい*やくあおぐゆゑなり。

【3】 ^しかるにいのちのびゆくままには、 この一念いちねんねん三念さんねんとなりゆく。 この一念いちねん、 かやうにかさなりつもれば、 いちにもなり二時にじにもなり、 一日いちにちにもにちにも、 一月いちがつにもがつにもなり、 一年いちねんにもねんにもなり、 じゅうねんじゅうねんにもはちじゅうねんにもなりゆくことにてあれば、 いかにして今日きょうまできたるやらん、 ただいまやこののをはりにてもあらんとおもふべきことわりが、 いちじょうしたるのありさまなるによりて、 善導ぜんどうは、 「恒願ごうがん一切いっさいりんじゅ しょうえん勝境しょうきょうしつ現前げんぜん(*礼讃) とねがはしめて、 念々ねんねんにわすれず、 念々ねんねんおこたらず、 まさしく*おうじょうせんずるときまで念仏ねんぶつすべきよしを、 ねんごろにすすめさせたまひたるなり。

【4】 ^すでに一念いちねんをはなれたるねんもなく、 ねんをはなれたる一念いちねんもなきものを、 ひとへにねんにてあるべしとさだむるものならば、 ¬*りょう寿じゅきょう¼ (下) のなかに、 あるいは 「しょしゅじょう もんみょうごう 信心しんじんかん ない一念いちねん しんこう がんしょうこく 即得そくとくおうじょう じゅ退転たいてん」 とき、 あるいは 「*ない一念いちねん ねんぶつ 亦得やくとくおうじょう(*大経・下) とあかし、 あるいは 「其有ごう得聞とくもんぶつみょうごう かんやく ない一念いちねん とうにん どくだい そくそく じょうどく(大経・下) と、 たしかにをしへさせたまひたり。

善導ぜんどうしょうも ¬きょう¼ (大経) のこころによりて、 「かん一念いちねん皆当かいとうとくしょう(礼讃)*も、 「じっしょういっしょう一念いちねんとうじょうとくおうじょう(礼賛・意) ともさだめさせたまひたるを、 もちゐざらんにすぎたるじょうきょう*あだやはそうろふべき。

【5】 ^かくいへばとて、 ひとへに一念いちねんおうじょうをたてて、 ねん*ひがごとといふものならば、 本願ほんがんもんの 「ないじゅうねん」 をもちゐず、 ¬*弥陀みだきょう¼ の 「一日いちにちない七日しちにち」 の称名しょうみょう*そぞろごとになしはてんずるか。

これらのきょうによりて善導ぜんどうしょうも、 あるいは 「一心いっしん専念せんねん 弥陀みだみょうごう 行住ぎょうじゅう座臥ざが もんせつごん 念々ねんねんしゃしゃ みょう正定しょうじょうごう じゅん仏願ぶつがん(*散善義)さだめおき、 あるいは 「誓畢せいひつしょう 無有むう退転たいてん ゆいじょう為期いご(散善義) とをしへて、 *けんじょうしゅすべしとすすめたまひたるをば、 *しかしながらひがごとになしはてんずるか。

*じょうもんりて、 善導ぜんどうのねんごろのをしへをやぶりもそむきもせんずるは、 *がく*べつひとにはまさりたるあだにて、 ながく*さん*もりとしてうかぶもあるべからず。 こころうきことなり。

【6】 ^これによりて、 あるいは 「じょうじんいちぎょう 下至げしじゅうねん 三念さんねんねんぶつ来迎らいこう じき弥陀みだぜいじゅう 致使ちしぼんねんそくしょう(*法事讃・下) と、 あるいは 「こんしん弥陀みだほんぜいがん ぎゅうしょうみょうごう 下至げしじっしょういっしょうとう じょうとくおうじょう ない一念いちねん 無有むうしん(礼讃) と、 あるいは 「にゃく七日しちにちぎゅう一日いちにち 下至げしじっしょう ないいっしょう一念いちねんとう 必得ひっとくおうじょう(礼讃) といへり。 かやうにこそはおおせられてそうらへ。

【7】 ^これらのもんは、 たしかに一念いちねんねん*なかあしかるべからず。 ただ弥陀みだがんをたのみはじめてんひとは、 いのちをかぎりとし、 おうじょうとして念仏ねんぶつすべしとをしへさせたまひたるなり。 ゆめゆめへんじゅうすべからざることなり。 こころのそこをばおもふやうにもうしあらはしそうらはねども、 これにてこころえさせたまふべきなり。

【8】 ^おほよそ一念いちねんしゅうかたく、 ねんのおもひ*こはき人々ひとびとは、 かならずをはりのわるきにて、 いづれもいづれも本願ほんがんにそむきたるゆゑなりといふことは、 おしはからはせたまふべし。 さればかへすがへすも、 ねんすなはち一念いちねんなり、 一念いちねんすなはちねんなりといふことわりをみだるまじきなり。

  南無なも弥陀みだぶつ

 *ほんにいはく、

   *けんちょうしちきのとのうがつじゅう三日さんにち *禿とくしゃく*善信ぜんしんはちじゅう三歳さんさいこれを書写しょしゃす。

 

つもり 積み重なること。
すみか 「すがた」 とする異本がある。
よそへても なぞらえても。 たとえても。
かた 方法。 手段。
乃至一念… 「乃至一念、 かの仏を念じたてまつれば、 また往生を得」 ¬大経』の原文には 「乃至一念、 かの仏を念じたてまつりて、 じょうしんをもつてその国に生れんと願ぜん。 この人、 終りに臨んで、 夢のごとくにかの仏を見たてまつりて、 また往生を得」 とある。
 続いて 「爾時にじもん一念いちねん皆当かいとうとくしょうとも」 とする異本がある。
あだ 仇。 敵。 あるいは、 いたずらごと。
そぞろごと わけもないこと。 つまらないこと。
無間長時 →しゅ
巣守 あとにとり残される者。
なか 「ながら」 と註記のある異本がある。
こはき 強い。
本にいはく 「本」 とは書写原本のこと。 原本にあった奥書をそのまま転写したことを示す。
建長七 1255年。