07270731如来にょらいみょうごうとく

【1】 ^りょうこうといふは、 ¬きょう¼ (*観経) にのたまはく、 「^りょう寿じゅぶつ八万はちまんせんそうまします。 一々いちいちそうにおのおの八万はちまんせんずいぎょうこうまします。 一々いちいちこうにまた八万はちまんせんこうみょうまします。 一々いちいちこうみょうあまねく十方じっぽうかいらしたまふ。 念仏ねんぶつしゅじょうをば摂取せっしゅしててたまはず」 といへり。

^*しんいんそう (*源信)、 このひかりをかんがへてのたまはく (*往生要集・中)、 「^一々いちいちそうにおのおのしちひゃくていろっぴゃくまんこうみょうあり、 ねん赫奕かくやくヒノサカリニモユたり」ルガゴトシ(意) といへり。

^一相いっそうよりづるところのこうみょうかくのごとし。 いはんや八万はちまんせんそうよりでんひかりのおほきことをおしはかりたまふべし。 このこうみょうかずのおほきによりて、 りょうこうもうすなり。

【2】 ^つぎにへんこうヒカリノキワといふはホトリナキナリ 、 かくのごとくりょうのひかり十方じっぽうらすこと、 きはほとりなきによりて、 へんこうもうすなり。

07283】 ^つぎに無礙むげこうといふは、 この日月にちがつのひかりは、 ものをへだてつれば、 そのひかりかよはず。 この弥陀みだおんひかりは、 ものに*さへられずしてよろづのじょうらしたまふゆゑに、 無礙むげこうぶつもうすなり。 じょう煩悩ぼんのう悪業あくごうのこころにさへられずま0732しますによりて、 無礙むげこうぶつもうすなり。

^無礙むげこうとくましまさざらましかば、 いかがしそうらはまし。 かの極楽ごくらくかいとこのしゃかいとのあひだに、 じゅう万億まんおく三千さんぜん大千だいせんかいをへだてたりとけり。 その一々いちいち三千さんぜん大千だいせんかいにおのおの*じゅうヨカサネてっせんクロガネノメグレり。ルヤマ たかしゅせんとひとし。 つぎにしょう千界せんかいをめぐれるてっせんあり、 たか第六だいろくてん*いたる。 つぎにちゅう千界せんかいをめぐれるてっせんあり、 たか*色界しきかい初禅しょぜんにいたる。 つぎにだい千界せんかいをめぐれるてっせんあり、 たか*だいぜんにいたれり。 ^しかればすなはち、 もし無礙むげこうぶつにてましまさずはいちかいをすらとほるべからず。 いかにいはんやじゅう万億まんおくかいをや。

かの無礙むげこうぶつこうみょう、 かかる不可ふか思議しぎやまてっしょうして、 この念仏ねんぶつしゅじょう摂取せっしゅしたまふにさはることましまさぬゆゑに、 無礙むげこうもうすなり。

【4】 ^つぎに清浄しょうじょうこうもうすは、 法蔵ほうぞうさつ*貪欲とんよくムサブルのここココロナリ ろなくしてたまへるひかりなり。 貪欲とんよくといふにふたつあり。 ひとつには婬貪いんとんふたつには財貪ざいとんなり。 このふた0729つの貪欲とんよくのこころなくしてたまへるひかりなり。 よろづのじょう汚穢わえじょうのぞかんためのおんひかりなり。 婬欲いんよく財欲ざいよくつみのぞきはらはんがためなり。 このゆゑに清浄しょうじょうこうもうすなり。

【5】 ^つぎにかんこうミニヨロコビといふは、コヽロニヨロコブナリ しんイカリハラダ善根ぜんごんをもツコヽロナキナリつてたまへるひかりなり。 しんといふは、 おも0733てにいかりはらだつかたちもなく、 こころのうちにそねみねたむこころもなきをしんといふなり。 このこころをもつてたまへるひかりにて、 よろづのじょうしんオモテニイカリ憎嫉ぞうしつコヽロニイカつみのぞリソネミネタきはムナリ らはんためにたまへるひかりなるがゆゑに、 かんこうもうすなり。

【6】 ^つぎに智慧ちえこうもうすは、 これは無痴むち善根ぜんごんをもつてたまへるひかりなり。 無痴むちグチノコヽロ善根ぜんごんナキナリといふは、 一切いっさいじょう智慧ちえをならひまなびてじょうウエナキホだいトケニナルコいたトナリ らんとおもふこころをおこさしめんがためにたまへるなり。 念仏ねんぶつしんずるこころをしむるなり。 念仏ねんぶつしんずるは、 すなはちすでに智慧ちえぶつるべきとなるは、 これを愚痴ぐちをはなるることとしるべきなり。 このゆゑに智慧ちえこうぶつもうすなり。

【7】 ^つぎにたいこうタクラブルコといふトナキナリ は、 弥陀みだのひかりにひとしきひかりましまさぬゆゑに0730たいもうすなり。

【8】 ^つぎに炎王えんのうこうヒヲセンナラもうベタラムヨリは、 ひモスグレタリかりトナリ のさかりにして、 のさかりにもえたるにたとへまゐらするなり。 ほのおけむりなきがさかりなるがごとしとなり。

【9】 ^つぎにだんこうトキトシテテもうラサズトすはイフナリ、 このひかりのときとしてたえずやまずらし*……

【10】^……ちにておはしますひかりなり。 ちょうといふは、 この弥陀みだこうみょうは、 日月にちがつひかりにすぐ0734れたまふゆゑに、 ちょうもうすなり。 ちょうのひかりにすぐれこえたまへりとしらせんとて、 ちょう日月にちがつこうもうすなり。

^じゅうこうのやう、 *おろおろきしるしてそうろふなり。 くはしくもうつくしがたく、 きあらはしがたし。

【11】^弥陀みだぶつ智慧ちえのひかりにておはしますなり。 このひかりを無礙むげこうぶつもうすなり。 無礙むげこうもうすゆゑは、 十方じっぽう一切いっさいじょう悪業あくごう煩悩ぼんのうのこころにさへられずへだてなきゆゑに、 無礙むげとはもうすなり。 弥陀みだひかり不可ふか思議しぎにましますことをあらはししらせんとて、 みょうじん十方じっぽう無礙むげこう如来にょらいとはもうすなり。

^無礙むげこうぶつをつねにこころにかけ、 となへたてまつれば、 十方じっぽう一切いっさい諸仏しょぶつとくをひとつにしたまふによりて、 弥陀みだしょうすればどく善根ぜんごんきはまりましまさぬゆゑに、 *りゅうじゅさつは、 「*われ説↢彼尊功徳事↡かのそんのくどくのじをとくに衆善しゅぜんへん にして如↢海水↡かいすいのごとし(*十二礼) とをしへ0731たまへり。 かるがゆゑに*不可ふか思議しぎこうぶつもうすとみえたり。 不可ふか思議しぎこうぶつのゆゑに 「じん十方じっぽう無礙むげこうぶつもうす」 と、 しんさつテンジントモイフ (*天親)バソバンヅトモイフ ¬おうじょうろんセシントモイフ ¼ (*浄土論ムヂヤクトモイフ ) にあらはロンヂユトモイフナリせり。 弥陀みだぶつじゅうのひかりのまし*……

ˆ*【12】^…… ¬じょうろん¼ にあらはしたまへり。 いふ、 諸仏しょぶつしゃがん (第十七願)だいぎょうあり。 だいぎょうといふは、 無礙むげこうぶつ御名みなしょうするなり。 このぎょうあまねく一切いっさいぎょうせっす。 *極速ごくそく円満えんまんせり。 かるがゆゑにだいぎょうとなづく。 このゆゑによくしゅじょう一切いっさいみょうす。 また煩悩ぼんのうそくせるわれら、 無礙むげこうぶつおんちかひをふたごころなくしんずるゆゑに、 りょうこうみょうにいたるなり。 こうみょうにいたれば、 ねんりょうとくしめ、 広大こうだいのひかりをそくす。 広大こうだいひかりるゆゑに、 さまざまのさとりをひらくなり。ˇ

【13】^なんこうぶつもうすは、 この弥陀みだ如来にょらいのひかりのとくをば、 しゃ如来にょらいおんこころおよばずときたまへり。 こころのおよばぬゆゑになんこうぶつといふなり。

073514】^つぎにしょうこうもうすは、 これも 「この不可ふか思議しぎこうぶつどくつくしがたし」 としゃくそんのたまへり。 ことばもおよばずとなり。 このゆゑにしょうこうもうすとのたまへり。 しかれば、*曇鸞どんらんしょうの ¬*さん弥陀みだぶつ¼ には、 なんこうぶつ0732しょうこうぶつとをがっして、 「南無なも不可ふか思議しぎこうぶつシヤカトアミダノチヱヲアフグルコトナリとのたまへり。 この不可ふか思議しぎこうぶつのあらはれたまふべきところを、 かねてしんさつ (天親)*……

【15】^……としとみえたり。 りきぎょうじゃをば、 如来にょらいとひとしといふことはあるべからず。 おのおのりきしんにては、 不可ふか思議しぎこうぶつにいたることあたはずとなり。 ただりき信心しんじんによりて、 不可ふか思議しぎこうぶつにはいたるとみえたり。

^かのうまれんとねがふ信者しんじゃには、 *不可ふかしょう不可ふかせつ不可ふか思議しぎとくそくす。 こころもおよばれず、 ことばもたえたり。 かるがゆゑに不可ふか思議しぎこうぶつもうすとみえたりとなり。

  南無なもナムハチヱナリ 不可ふか思議しぎフカシギハリナリ こうぶつカウブチハキヤウナリトシルベシ

 

*草本そうほんにいはく

0736*文応ぶんおう元年がんねんかのえさるじゅうがつふつこれを書写しょしゃす。

禿とく親鸞しんらんはちじゅう八歳はちさいきをはりぬ。

 

底本は長野県正行寺蔵応長元年書写本ˆ聖典全書と同一ˇ。
恵心院 えいざんかわにある源信げんしんしょうの住坊。 慧心院とも書く。
四重の鉄囲山あり 以下の本文には小千界・中千界・大千界の各々をめぐる三重の鉄囲山しか示されていない。 この一段は元来、 「法然上人御説法事」 (¬西方指南鈔¼ 上本) の文に依拠したものであるが、 同書では 「四重の鉄囲山あり」 の後に 「いはゆるまず一四天下をめぐれる鉄囲山あり」 の一文がある。
いたる 底本に 「くだる」 とあるのを改めた。
色界の初禅・第二禅 色界しきかい禅天ぜんてんの第一と第二。
貪欲 左訓の 「むさぶる」 は 「むさぼる」 の転。
以下原本一葉欠落。
我説彼尊… 本文に付してある訓点にしたがって、 その書き下しを振り仮名の体裁で示した。
以下原本一葉欠落。
【12】は 「浄聖全」 「真聖全」 双方にない。 従来この欠失箇所を補うとされていたが近年疑義が出されている、 愛知県上宮寺蔵の 「聖教切」 に相当するか。 (有国)
極促円満せり 「ことばもおよばず、 こころもたえたりとなり」 (左訓) きわめて速やかに往生の因が満足する。
以下原本十行欠落。
草本にいはく 「草本」 とは書写原本のこと。 原本にあった奥書をそのまま転写したことを示す。