一一0967、決成往生三機行相

くわしやうおむしやくによるに、 決定くゑちぢやうわうじやうぎやうさうに、 みつのすぢわかれたるべし。 第一だいゐち信心しんじむ決定くゑちぢやうせる、 だいしんぎやうシンヲモトともメギヤウにかカネタルねたヒトナリる、 第三だいさんにたゞぎやうさうばかりなるべし。

・信心決成せる

第一だいゐち信心しんじむ決定くゑちぢやうせるといふは、 これにつきてまた二機にきあり。

・信心決成せる ・精進の機

ひとつにはまづしやうじんといふまたこれについて二機にきあり。

ひとつには弥陀みだほんぐわんえんずるに、 ゐちしやう決定くゑちぢやうしぬと、 こゝろのそこより真実しんじちに、 うらうらと一念ゐちねむしむなくして、 決定くゑちぢやうしむをえてのうへにゐちしやうそくなしとおもへども、 仏恩ぶちおんほうぜむとおもひて、 しやうじん念仏ねむぶちのせらるゝなり。 またしんえてのうへには、 はげまざるに念仏ねむぶちはまふさるべきなり このぎやうじやなかには、 信心しんじむえたりとおもふて、 そのうへによろこぶ念仏ねむぶちとおもへども、 いまだ信心しんじむ決定くゑちぢやうせぬひともあるべし。 それおばわがこゝろにかむがへしられぬべきことなり。 たとひ信心しんじむはとづかずとも、 念仏ねむぶちひまなきかたよりわうじやうはすべし。

ふたつにはかみにいふがごとく、 決定くゑちぢやうしむをえてのうへほんぐわんによてわうじやうすべきだうおばあおいでのち、 わがかたよりわが信心しんじむをさしゆるがして、 かく信心しんじむをえたりとおもひしらず、 われぼむなり、 ほとけけんのまへにはとづかずもあるらむと、 こゝろかしこくおもふて、 なほ信心しんじむ決定くゑちぢやうせむがために念仏ねむぶちをはげむなり。 くゑち0968ぢやうしむをえふせてのうへにわがこゝろをうたがふは、 またくしむとはなるべからざるなり

・信行ともにかねたる

しやうじんるい、 かくのごとし。 これおばだいしんぎやうならべるぎやうさうとしるべし。

・信心決成せる ・懈怠の機

つぎだいといふは、 決定くゑちぢやうしむをえてのうへによろこびて、 仏恩ぶちおんほうぜむがためにつね念仏ねむぶちせむとおもへども、 あるいはごふしゆヨノイトナミもさえられ、 またたいだいのものなるがゆへに、 おほかた念仏ねむぶちのせられぬなり。 このぎやうじや一向ゐちかう信心しんじむをはげむべきなり はげむにつきて、 またしやうじんだいのものあるべし。

しやうじんといふは、 つねほんぐわんえんぜらるべきなりえんずれば、 またねんにいさぎよき念仏ねむぶちまふさるべし。 この念仏ねむぶちさいじやう念仏ねむぶちなり これをあしくこゝろえて、 この念仏ねむぶちさいじやうにおぼゆれば、 この念仏ねむぶちわうじやうおもし、 またぐわんにもじようずらむとおもはむはわるし。 そのゆへは、 ほとけおむ約束やくそくひとこゑもわがをとなえむものをむかえむといふおむちかひにてあれば、 最初さいしよ一念ゐちねむこそぐわんにはじようずることにてあるべけれ。 またつねほんぐわんえんぜらるれば、 たのもしきこゝろもいでくべきなり。 そのときこのこゝろのよく相続さうぞくアヒツグナリせらるればとて、 それをもてわうじやうすべしとおもふべからず。 かくのごとくおもはゞ、 わくになるべきなり。 こゝろのゆがむときは、 わうじやうぢやうにおぼゆべきがゆへに0969、 たゞおもふべきやうは、 わがかたより一分ゐちぶんどくもなく、 ほんぐわんおむ約束やくそくにそなえしところの念仏ねむぶちどくしんのほむらにやけぬれども、 かのぐわんりきしゆしやうがく本誓ほんぜいの、 あやまりなきかたよりすくわれまいらせてわうじやうはすべしと、 返々かへすがへすもおもふべきなり

だいのものといふは、 しゆヨノイトナミさまたげられもせよ、 ほんぐわんえんずることのまれにあるべきなり。 まれにはありといふとも、 いさゝかも一念ゐちねむにとるところの信心しんじむのゆるがずして、 そのときまた決定くゑちぢやうしむのおこるべきなり。

信心しんじむ決定くゑちぢやうなかるい、 かくのごとし。 これは第一だいゐち信心しんじむ決定くゑちぢやうせるとしるべし。

いまかみにあぐるところのにん真実しんじち決定くゑちぢやうしむをだにもえたらば、 しやうじんにてもあれだいにてもあれ、 ほんぐわんえんずるこゝろねは、 たとへば黒雲こくうんクロキクモ ひまより、 まれにてもつねにても、 いでむところのまんぐわちひかりをみむがごとくなるべし。 信心しんじむとくとくをば、 おのおのわがこゝろにてしりぬべし。 ことにふれて一念ゐちねむにとるところの信心しんじむゆるがずは、 仮令たとひよき信心しんじむとしるべし。 これもことわりばかりにて信心しんじむあり、 こゝろゆるぐべからずと、 まじなひつけむことえうあるべからず。 散心さんしむにつけても、 いさゝかにてもゆるぐこゝろあらば、 信心しんじむよはしとしるべし。

信心しんじむよはしとおぼえば、 だいはなほしんをはげむでほんぐわんえんずべきなり。 それになほかなは0970ずは、 かまへてぎやうさうにおもむきてはげむべきなり。 しやうじんは、 一向ゐちかうがうツネ所造しよざうニツクルぎやうトコロノ さうにおもむきてはげむべきなり。 ぎやうさうしやうじよぎやうを、 一向ゐちかう正行しやうぎやうにてもまた助業じよごふをならべむとも、 おのおのげうにまかすべきなり。

・たゞ行相ばかりなる

第三だいさんぎやうさうをはげむといふは、 かみにあぐるところのしんしやうじんだいの、 わが信心しんじむ決定くゑちぢやうせるやうを、 こゝろによくよくあむじほどくときわれ信心しんじむ決定くゑちぢやうせず。 やゝもすればきやうごふのおこるにつけ、 信心しんじむ間断けんだんするにつけて、 わうじやうぢやうにおぼゆるまではなけれども、 また決定くゑちぢやうわうじやうすべしともおぼえぬは、 信心しんじむ決定くゑちぢやうせざるなりとかむがへえて、 一向ゐちかうぎやうにおもむきてはげむをいふなり。 このだいのいでき、 念仏ねむぶちのものうからむときは、 おどろきてぎやうをはげむべきなり。 信心しんじむもよはく念仏ねむぶちもおろそかならば、 わうじやうぢやうのものなり。 このひとまたあしくこゝろえてぎやうをはげむは、 このきやうごふをもてわうじやうすべしとおもはゞわくになるべきなり。

いま念仏ねむぶちぎやうをはげむこゝろは、 つねに念仏ねむぶちあざやかにまふせば、 念仏ねむぶちよりして信心しんじむのひかれていでくるなり信心しんじむいできぬれば、 ほんぐわんえんずるなりほんぐわんえんずれば、 たのもしきこゝろのいでくるなり。 このこゝろいできぬれば、 信心しんじむしゆせられて決定くゑちぢやうわうじやうをとぐべしとこゝろうべし。

0971れにつきて、 ひとうたがひていはく、 念仏ねむぶちをはげみて信心しんじむしゆしてわうじやうをとぐべきならば、 はげむところの念仏ねむぶちりきわうじやうとこそなるべけれ。 いかゞりきわうじやうといふべきや。 いまりきといふは、 しやうだうりきにすべからず、 いさゝかあたえていえるなるべし。

こたえて はく、 念仏ねむぶち相続さうぞくアヒツグナリて、 相続さうぞくよりわうじやうをするは、 またくりきわうじやうにはあらず。 そのゆへは、 もとより三心さんしむほんぐわんにあらず、 これりきなり。 三心さんしむりきなりといふは、 ほんぐわんのつなにおびかれて、 信心しんじむをのべてとりつぐぶんをさすなりとこゝろうべし。

いま念仏ねむぶち相続さうぞくして信心しんじむしゆマモルナリ むとするに、 三心さんしむなか深心じむしむをはげむぎやうじやなり相続さうぞく念仏ねむぶちどくをもちて、 かうしてわうじやうせば、 まことにりきわうじやうをのぞむものといはるべきなり。

また念仏ねむぶちはすれども、 つね信心しんじむもおこらず、 ぐわんえんずることのつねにもなければとて、 わうじやうぢやうにおもふべからず。 そのこゝろなけれども、 たゞりきぞんぜず、 すべてわくのこゝろなくしてつね念仏ねむぶちすれば、 わがこゝろにはおぼえねども、 信心しんじむのいろのしたひかりて相続さうぞくするあひだ、 決定くゑちぢやうわうじやうをうるなり。

しるべし、 そのこゝろは、 たとへばつきのひかりのうすぐもにおほはれて、 まんぐわちたいはまさしくみえずといゑども、 つきのひかりによるがゆへに、 けんくらからざるがごとし。

ぎやう0972さうさんのやう、 かくのごとし。 せむずるところ、 信心しんじむよはしとおもはゞ、 念仏ねむぶちをはげむべし。 決定くゑちぢやうしむえたりとおもふてのうへになほこゝろかしこからむひとは、 よくよく念仏ねむぶちすべし。 また信心しんじむいさぎよくえたりとおもひてのちの念仏ねむぶちおば、 別進べちしん奉公ほうこうとおもはむにつけても、 別進べちしん奉公ほうこうはよくすべきだうあれば、 念仏ねむぶちをはげむべし。

たいわがこゝろをよくよくあんじほどいて、 ぎやうにてもしんにても、 にしたがひてたえむにまかせてはげむべきなり かくのごとくこゝろをえてはげまば、 わうじやう決定くゑちぢやうはづるべからざるなり