教行きょうぎょうしんしょうたい

 

【1】 そもそも、 こうしょうにん (*親鸞)真実しんじつ*そうじょう*かんをきき、 そのながれをくまんとおもはんともがらは、 *あひかまへてこの*いちりゅう*しょう心肝しんかんにいれて、 これをうかがふべし。 しかるに*近代きんだいはもつてのほか、 *ほうにも沙汰さたせざるところのをかしきみょうごんをつかひ、 *あまつさへ*ほうりゅうじつごうして*いちりゅうをけがすあひだ、 *ごんどうだんだいにあらずや。 よくよくこれをつつしむべし。

しかれば、 とうりゅうしょうにん (親鸞)いちには、 *きょう*ぎょう*しん*しょうといへる一段いちだんみょうもくをたてていっしゅう*規模きぼとして、 この*しゅうをばひらかれたるところなり。 このゆゑに親鸞しんらんしょうにんいち六巻ろっかんしょをつくりて ¬*教行きょうぎょうしんしょうもんるい¼ とごうして、 くはしくこのいちりゅうきょうそうをあらはしたまへり。

しかれども、 このしょあまりに*広博こうはくなるあひだ、 *末代まつだいどん*下機げきにおいてそのしゅをわきまへがたきによりて、 いち六巻ろっかんしょをつづめ肝要かんようをぬきいでて一巻いっかんにこれをつくりて、 すなはち ¬*じょう文類もんるいじゅしょう¼ となづけられたり。 このしょをつねに*まなこにさへて、 いちりゅう大綱たいこう分別ふんべつせしむべきものなり。

そのきょうぎょうしんしょう*しんぶつ*しんといふは、

 だいいっかんには真実しんじつきょうをあらはし、

 だいかんには真実しんじつぎょうをあらはし、

 だいさんかんには真実しんじつしんをあらはし、

 だいかんには真実しんじつしょうをあかし、

 だいかんにはしんぶつをあかし、

 だいろっかんにはしんをあかされたり。

【2】 だいいち*真実しんじつきょうといふは、 弥陀みだ如来にょらい*いん*果位かい*どくき、 *あんにょうじょう ˆのˇ *ほう*しょうぼう*しょうごんををしへたるきょうなり。 すなはち ¬*だいりょう寿じゅきょう¼ これなり。 そうじては*さんぎょうにわたるべしといへども、 べっしては ¬*だいきょう¼ をもつてほんとす。 これすなはち弥陀みだ*じゅうはちがんきて、 そのなかに*だいじゅうはちがんをもつて*しゅじょうしょういんがんとし、 如来にょらい甚深じんじん智慧ちえかいをあかして、 唯仏ゆいぶつどく明了みょうりょう*ぶっきのべたまへるがゆゑなり。

【3】 だい*真実しんじつぎょうといふは、 さきのきょうにあかすところの*じょうぎょうなり。 これすなはち*南無なも弥陀みだぶつなり。 だいじゅうしち*諸仏しょぶつ*しゃがんにあらはれたり。 *みょうごうはもろもろの*善法ぜんぼうせっし、 もろもろの*徳本とくほんせり。 しゅぎょう根本こんぽん万善まんぜん総体そうたいなり。 これをぎょうずれば*西方さいほう*おうじょう、 これをしんずれば*じょうごくしょうをうるものなり。

【4】 だいさん*真実しんじつしんといふは、 かみにあぐるところの南無なも弥陀みだぶつみょうぎょう*真実しんじつほう真因しんいんなりとしんずる真実しんじつしんなり。 だいじゅうはち*しんしんぎょうがんのこころなり。 これを*せんじゃく*こう*直心じきしんともいひ、 *利他りた深広じんこう*しんぎょうともなづけ、 *こうみょう*しょう*一心いっしんともしゃくし、 *しょうだいはん真因しんいんともはんぜられたり。 これすなはち*まめやかに真実しんじつ*ほうにいたることは、 この一心いっしんによるとしるべし。

【5】 だい*真実しんじつしょうといふは、 さきの*ぎょうしんによりてうるところの*、 ひらくところの*さとりなり。 これすなはちだいじゅういち*ひっめつがんにこたへてうるところのみょうなり。 これを*じょうらくともいひ、 *じゃくめつともいひ、 *はんともいひ、 *法身ほっしんともいひ、 *実相じっそうともいひ、 *ほっしょうともいひ、 *真如しんにょともいひ、 *一如いちにょともいへる、 みなこのさとりをうるなり。

もろもろの*しょうどうもんしょきょうのこころは、 この*父母ぶもしょしょうしんをもつて、 かのふかきさとりをここにてひらかんとねがふなり。 いま*じょうもんのこころは、 弥陀みだぶっじょうじてほっしょうにいたりぬれば、 *ねんにこのさとりにかなふといふなり。 此土しど得道とくどう他土たどとくしょうことなりといへども、 うるところのさとりはただひとつなりとしるべし。 さればおうじょうといへるも、 じつには*しょうなり。 このしょうのことわりをば、 あんにょうにいたりてさとるべし。 そのくらいをさして真実しんじつしょうといふなり。

【6】 だいしんぶつといふは、 まことのしんなり。 すなはち*報仏ほうぶつ*ほうなり。 ぶつといふは*不可ふか思議しぎこう如来にょらい*といふは*りょうこうみょうなりといへり。 これすなはちだいじゅうだいじゅうさんこうみょう寿じゅみょうがんにこたへてうるところのしんなり。 諸仏しょぶつ*ほんはこれこのぶつなり。 *真実しんじつ*報身ほうじんはすなはちこのたいなり。

【7】 だいろくしんといふは、 *しん*化土けどなり。 ぶつといふは、 ¬*かんぎょう¼ の*真身しんしんかんくところのしんなり。 といふは、 ¬*さつ処胎しょたいきょう¼ にくところの*まんがい、 また ¬だいきょう¼ にける*じょうたいなりとみえたり。 これすなはちだいじゅう*しゅしょどくがんよりでたり。

ただし*うちまかせたるきょうには、 ¬かんぎょう¼ の真身しんしんかんぶつをもつて真実しんじつ報身ほうじんとす。 しょう (善導)しゃく (*定善義)、 すなはちこのこころをあかせり。 真身しんしんかんといへるあきらかなり。 しかるにこれをもつてしんはんぜられたる、 *じょうきょうそうにあらず。

これをこころうるに、 ¬かんぎょう¼ のじゅうさんがん*じょうさんぜんのなかのじょうぜんなり。 かのじょうぜんのなかにくところの真身しんしんかんなるがゆゑに、 かれは*観門かんもん所見しょけんにつきてあかすところのしんなるがゆゑに、 *がんじょうじ、 ぶっしんずる*感見かんけんすべきしんたいするとき、 かのしんはなほ*方便ほうべんしんなるべし。 すなはちろくじゅう万億まんおくしんりょうをさして分限ぶんげんをあかせる真実しんじつしんにあらざるをあらはせり。

これによりてしょうにん (親鸞)、 このしんをもつてしんはんじたまへるなり。 まんがいといひ、 またじょうたいといへる、 そのこころをやすし。 ふかく*罪福ざいふくしんじ、 善本ぜんぽんしゅじゅうして、 思議しぎぶっ*けつりょうせず、 うたがいをいだけるぎょうじゃうまるるところなるがゆゑに、 真実しんじつほうにはあらず。 これをもつてとなづけたるなり。 これわがしょうにんのひとりあかしたまへるきょうそうなり。 たやすく口外こうがいいだすべからず。 くはしくかのいち文相もんそうにむかひて、 いちりゅうじんをうべきなり。

【8】 さればこのきょうぎょうしんしょうしんぶつしんきょうそうは、 しょうにん*しょう*とうりゅう肝要かんようなり。 にんたいして、 たやすくこれをだんずべからざるものなり。

*あなかしこ、 あなかしこ。

  *文明ぶんめいねんひのとのとりじゅうがつじゅう七日しちにち巳剋みのこくいたりてこれを清書せいしょせしめをはりぬ。

                          ろくじゅう三歳さんさい 在御判

  みなひとのまことののりをしらぬゆゑ ふでとこころをつくしこそすれ

 *ほんにいはく

 つつしんで ¬教行きょうぎょうしょう文類もんるい¼ のこころによりてこれをしるす。 けだし*願主がんしゅ所望しょもうによるなり。 とき*りゃく三歳さんさいつちのえたつじゅう一月いちがつじゅうはちにち今日こんにちこうしょうにん (親鸞)*せん*しんなり。 短慮たんりょするに、 これをもつて報恩ほうおんつとめにせしむ。 賢才けんざい、 これをひらきてほうことばくわふることなかれ。 あなかしこ、 あなかしこ。

 外見がいけんおよぶべからざるものなり。 かつは*はんぎょうおもむき、 わがながれにおいてせんがため、 かつはほうつみにんにおいておそれんがためなり。

                              しゃく*蓮如れんにょ

 

近代 近ごろ。
あまつさへ その上に。 そればかりか。
法流の実語 浄土真宗の真実の言葉。
一流をけがすあひだ 浄土真宗の教えをけがしているのは。
規模 ここでは教相 (教義体系) の意。
広博なるあひだ (内容が) ひろいので。
下機 仏道を修める能力の劣った者。 →こん
まなこにさへて 拝見し、 心にとどめて。
真実の教 →補註8
真実の行 →補註10
無上の極証 この上ない仏の証果 (さとり)。
真実の信 →補註11
証大涅槃の真因 この上ないさとりを開く真実の因種 (たね)。
まめやかに 本当に。 真に。
真実の証 →補註2
父母所生の身… ¬ほつだいしんろん¼ の 「父母所生の身にてすみやかに大覚位に証す」 という言葉をうけたもの。
土といふは… →補註2
うちまかせたる教義 ありふれた一般の教義。 ここでは親鸞聖人の一流以外の一般的な浄土教を指す。
常途の教相 親鸞聖人の一流以外の一般的な浄土教の教義。
罪福を信じ… 自業自得の因果のみを信じて、 善悪を超えた阿弥陀仏の本願力の救いを信じないことをいう。
決了 決定的にはっきりと信知すること。
文明九年 1477年。
本にいはく 「本」 とは書写原本のこと。 原本にあった奥書をそのまま転写したことを示す。
嘉暦三歳 1328年。
忌辰 忌日に同じ。 命日のこと。
稟教 教えを受け継ぐこと。