ぞくしょう

 

【1】 それ祖師そししょうにん (*親鸞)ぞくしょうをいへば、 *藤氏ふじうじとして*ながおかの丞相しょうじょう 内麿うちまろこう末孫ばっそん*皇太こうたいごうぐうの大進だいしん*有範ありのりなり。

また*ほんをたづぬれば、 *弥陀みだ如来にょらい*しんごうし、 あるいは*曇鸞どんらんだい再誕さいたんともいへり。

しかればすなはち、 しょうねん*さいはるのころ、 *ちんしょう門人もんにんにつらなり、 *しゅっ*とくしてその範宴はんねんしょうごんのきみととごうす。 それよりこのかた*りょうごんかわばつりゅうをつたへ、 *天台てんだいしゅう*碩学せきがくとなりひぬ。

そののちじゅうさいにして、 はじめて*源空げんくうしょうにん禅室ぜんしつにまゐり、 *じょうそく弟子でしとなり、 *しんしゅういちりゅうみ、 *専修せんじゅ*専念せんねんて、 すみやかに*ぼんじきにゅう*真心しんしんをあらはし、 *ざいじゅうにんををしへて、 *ほう*おうじょうをすすめましましけり。

藤氏 藤原氏。
後長岡の丞相 藤原鎌足五代の孫、 藤原内麿のこと。
皇太后宮の大進 皇太后宮職の第三等官。
九歳 養和元年 (1181)。
楞厳横川の末流 えいざんかわ (しゅりょうごんいんはその中堂) に伝えられているげんしんしょうの流れ。
碩学 学問を深く極めた人。
上足の弟子 上席の門弟。
凡夫直入 ぼんのままで真実しんじつほうに往生せしめられること。

【2】 そもそも、 *今月こんがつじゅう八日はちにちは、 祖師そししょうにん*せん*しょうとして、 毎年まいねんをいはず、 しんをきらはず、 こんぎょうじゃ、 このしょうぞんせざるともがらあるべからず。 これによりて*とうりゅうにそのをかけ、 その*信心しんじん*ぎゃくとくしたらんぎょうじゃ、 このしょうをもつて報謝ほうしゃこころざしはこばざらんぎょうじゃにおいては、 まことにもつて木石ぼくせきにひとしからんものなり。

しかるあひだ、 かの恩徳おんどくのふかきことは、 *めい八万はちまんいただき*蒼溟そうめい三千さんぜんそこにこえすぎたり。 ほうぜずはあるべからず、 しゃせずはあるべからざるものか。

このゆゑに毎年まいねんれいとして、 いちしちにちのあひだ、 *かたのごとく報恩ほうおん謝徳しゃとくのために無二むにごんぎょうをいたすところなり。 このいちしちにち報恩ほうおんこうみぎりにあたりて、 *門葉もんようのたぐひ国郡こくぐんよりらいじゅう、 いまにおいてその退転たいてんなし。

しかりといへども安心あんじんぎょうじゃにいたりては、 いかでか報恩ほうおん謝徳しゃとくこれあらんや。 しかのごときのともがらは、 このみぎりにおいて仏法ぶっぽうしんしんをあひたづねてこれをちょうもんしてまことの信心しんじんけつじょうすべくんば、 真実しんじつ真実しんじつしょうにん (親鸞) 報謝ほうしゃ*こんにかなふべきものなり。

今月 十一月。 親鸞聖人の命日は同月二十八日である。
蒼溟三千の底 蒼溟はあお黒い大海のこと。 三千里ある大海の底。
かたのごとく しきたりどおりに。
懇志 ねんごろなこころざし。

【3】 あはれなるかなや、 それしょうにんおうじょうねんとほくへだたりて、 すでに*いっぴゃくさい星霜せいそうおくるといへども、 遺訓ゆいくんますますさかんにして、 *教行きょうぎょうしんしょうみょう、 いまに眼前がんぜんにさへぎり、 *人口じんこうにのこれり。 たふとむべししんずべし。

これについて*とうしんしゅうぎょうじゃのなかにおいて、 *真実しんじつ信心しんじんぎゃくとくせしむるひと、 これすくなし。 ただ*ひと*じんばかりに*みょうもんのこころをもつて報謝ほうしゃごうせば、 いかなるこころざしをいたすといふとも、 *一念いちねんみょう真実しんじつ信心しんじんけつじょうせざらんひとびとは、 その*所詮しょせんあるべからず。 まことに 「*みずりてあかおちず」 といへるたぐひなるべきか。

これによりてこのいちしちにち報恩ほうおんこうちゅうにおいて、 りき本願ほんがんのことわりをねんごろにききひらき、 専修せんじゅ*一向いっこう念仏ねんぶつぎょうじゃにならんにいたりては、 まことに今月こんがつしょうにん (親鸞)しょうにち*素意そいにあひかなふべし。 これ*しかしながら、 真実しんじつ真実しんじつ報恩ほうおん謝徳しゃとくおん*ぶつとなりぬべきものなり。

あなかしこ、 あなかしこ。

一百余歳の星霜 星霜は歳月の意。¬御俗姓¼ が撰述された文明九年は1477年であるから、 親鸞聖人のじゃくよりすでに二百余歳を経ていることになる。
人口 世人のうわさ。
人目 世間体。
仁義 ここでは世間体をつくろうこと。
所詮あるべからず かいのあるはずがない。 益のあるはずがない。
水入りて垢おちず したかいがないことの喩え。

 とき*文明ぶんめいねんじゅう一月いちがつはじめのころ、 にはかに報恩ほうおん謝徳しゃとくのために*かんめこれをしるすものなり。

文明九年 1477年。 蓮如上人六十三歳。
 筆。