人間って面白いね (6月4日)

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雑誌の取材を受けていて気がついたのですが、うちの家族で一番多く交わす会話は、「人間って面白いね」というものかもしれません。さすがに毎日とまではいかないものの、おそらく一週間に一回くらいは、そんな話をしているような気がします。

想(そう、末っ子、中3、野球部)といっしょに野球を見ていたとします。ファインプレーにせようならされるような配球にせよ、さすがプロといった場面を見ると、「よくあんなことができるよね~」というところから始まって、「どんな発想(感じ方)をしてるんだろうか」と展開し、「しかし、どうしてまた投げたボールを丸太で打ち返すなどというゲームを考えたんだろう」というあたりへ落ち着いて、必ず最後「こんなこと考えて遊ぶんだから、人間って面白いね」。

スポーツ全般、ゲームなど全般について、必ず一度はこんな話をしているはずです。

5月中でお茶摘みが終わりました。わたしが例年に比べて忙しく、揉むのが追いつかないのではと心配したのですが、今年は5月があまり気温が上がらなくて伸びが遅かったこともあり、何とか対応できました。想が手伝ってくれたのは1日だけながら、いっしょにお茶を揉みながら、毎年のように「『新芽を摘んで、火であぶって柔らかくして、それを揉んでよじり、天日で乾かして、それを土鍋で煎って、煮出して飲む』などということを、だれがどうやって考えついたんだろう」という話になります。

一人二人の思いつきなどといったものではなくて、きっとたくさんの偶然がからんでいるはずだ、それが受け継がれて文化になるんだろうと、内容は大同小異としても、文化や生活習慣のほとんどに関して、結局最後は「人間って面白いね」。

想は数学が好きです。昔、ひょんなことから微積の考え方の話をしてやったら、円を円周方向に「回転」させて球の体積を求める公式を作ってきました。もちろんこれは間違っていますが、その発想に驚いた。結果は間違っているけど、この着想はすごい! と返したところ、しばらくして球の表面積の公式を聞きにきました。4πr2 と教えてやると、錐体の体積は柱体の 1/3 になるということは知っていたようで、球を三角錐(高さは半径)の集まりととらえ、表面積を底面積の和の極限とみなして、4πr3/3 という式をその場で導きました。これは正しい!

それからしばらく数学談義です。そして詰るところ、知的活動の全般に対して、「人間って面白いね」。

今日は「かのん(雑種の雌犬)」の誕生日です。もうすっかり家族の一員で、想は毎日のように「かのんて可愛いね!」と言っているのですが、とにかくよく遊びます。不思議とボールにはあまり興味を示しません。一番好きなのはタオルで、わたしがそばにいると、タオルをくわえて持ってきて「遊ぼう?」と挑発します。

ついつい乗せられていっしょに遊ぶはめになります。「犬に限らず、動物ってみんな遊ぶよね」という話になり、「植物は遊ぶんだろうか」となって、「風は遊んでいるのかも知れない」と展開し、「でも遊ぶのならきっと人間が一番だよ」とおさまってきて、最後「やっぱり人間って面白いよね」。

周囲、何を見回しても、気持ちさえそのように向いているならば「人間って面白いね」につながらないものはありません。頭を抱えるような犯罪など、面白いではそぐわないようなときには、不思議だねとか怖いね、悲しいねになることもありますが。

遊雲とも、さんざんそんな話をしました。人間って、面白い。面白いなあと驚きながら生きるのって面白い。あの子はやっぱり、つらがったというよりは、最後の最後まで面白がっていました。

わたしも、面白がりに徹そう。阿弥陀如来も、きっと面白がりです。

合掌。

文頭


目当て (6月26日)

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新幹線の中で、ビールをひっくり返してしまいました。

10日ばかり前のことです。午後に東京で話をしなくてはならなくて、徳山発7:44の「のぞみ」に乗りました。昼過ぎには東京へ着けます。

ふつう話をする前に、しかも朝から、ビールを飲んだりはしません。ところがなぜかやたらとのどが渇いていて、ちょうど車内販売が通りがかったのですがコーヒーという感じではなく、お茶をお金を出して買うのには抵抗があって(私にはお茶は家で作るものであって買うものではない)、この時間に1缶ならいいだろうとビールを買ったのです。

プルタブを開け、そうそう、飲みながらレジメでも見直そうと足元に置いていたかばんを取り上げた拍子に、かばんの角がテーブルに引っ掛かって、あ! と思ったときには間に合いませんでした。

あわてて拾い上げたのですが、ほとんどこぼれてしまった後です。3人がけのシートの窓側に座っていて、1席空いた通路側のお客さん(大学生?)のバッグが床に置いてあったのを急いでシートの上に上げ、一言謝って、さてどうしようかと思案です。

床は真っ平らではなく微妙に中央(通路側)に向かって傾斜しているようで、ゆっくりそちらに流れていきます。ハンカチで拭こうかとも考えたのですが、量が量で間に合いそうになく、靴の裏で後ろの席まで流れていきそうなのを押し戻しながら見守りました。隣の大学生はあまりこだわらない質らしく、スニーカーをビールに浸けたまま、黙ってメールを打っています。そのうち、これ以上は広がらないなという感じに落ち着いてきたので、いずれ乾くだろうと取りあえず放っておくことにしました。

車掌さんが通りがかったら伝えようと思っていたのですが、ちょうどレジメに目を落としている間に後ろからだったため、声を掛けそびれてしまいました。まあいいか、しかしとんだ粗相をしたものだと思いつつ、せっかくだから残りのビールは飲んでおこうと缶を持ち上げてみたら、一口強しか残っていませんでした。

少し身を小さくしながら、話させてもらうテーマに向かって気持ちを作っていこうとしていると(そう言えばまだのどは乾いたままだった、今度はコーヒーでも買い直そう)、「車内の清掃をしますのでご迷惑をおかけします」という旨の車内放送が流れました。あまり聞いたことのない内容です。ラッキー、その時にお願いしようと気が楽になって間もなく、さっきの車掌さんが戻ってきました。

後ろに、見かけない服装の男性スタッフがついてきます。その男性スタッフが、わたしのところで「清掃をさせていただきます。ご協力ください」と周囲に声を掛け、ペーパータオルでこぼれたビールを拭き始めました。先ほど立ち止まりもせず通り過ぎていった車掌さんは、シートの足元のビールの海をちゃんと見ていて、車内放送を流した上で清掃員を連れてきたのです。

何とも身の縮む思いでした。あまり聞いたことのない車内放送は、この私が目当てだったのです。車掌さんも清掃員さんも、一言も私をとがめるでなく、私と隣の大学生の靴の裏まで拭いてくださって、黙って帰っていかれました。

「のぞみ」に清掃員さんが乗っていることも、ペーパータオルがあることも知りませんでした。私のような粗忽者がいる限り、思えば当然のことなのでしょう。しかし、有難くももったいないことです。

合掌。

文頭