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*応仁二年孟冬仲旬之比より江州志賀郡大津辺より忍出、 紀伊国高野山一見のついでに、 和州吉野の奥十津川のな0233がせ鬼が城といひし所へゆきはんべりし時、 あまりに道すがら難所なりし間、 かなしかりしほどに、 かくぞつゞけ侍しなり。

高野山より十津河小田井の道にて、

奥吉野 きびしき山の そわづたひ
十津河をつる のながせの水

十津河の 鬼すむ山と きゝしかど
すぎにし人の あとゝおもへば

これほどに はげしき山の 道すがら
のりのゆかりに あふてやはゆく

十津川より小田井の道にて、

谷々の さかりの紅葉 三吉野の
山の秋ぞ 物うき

山々の さかしき道を すぎゆけば
河にぞつれて かへる下淵

下淵より河づらの道にて、

三吉野の 河づらつゞく いゝがゐの
いもせの山は ちかくこそみれ

河づらよりし吉野蔵王堂一見の時、 一年のうかりし事をいまおもひ出て、

いにしへの 心うかりし 三吉野の
いふは紅葉も さかりとぞみる

応仁二年猛冬仲旬信証院兼寿法印 御判有之