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▼抑そもそも先年せんねん前住ぜんぢゆ在国ざいこくのときの教化けうくゑによりて､ まづ荻おぎ生う・福ふく田だの面々めんめんは秘事ひじをもて本ほんとせるこゝろはうせたりといへども､ いまだ当流たうりうの真実しんぢちの法義にはもとづかざるやうにみゑたり｡ しかれども愚ぐ老ろうこの両りやう三さむヶか年ねんのあひだ､ 吉崎よしざきの山さむ上じやうにおいて一ゐち宇うをむすびて居住きよぢゆせしむるいはれによりけるか､ いまははや､ おほよそ仏法のおもむきはひろまれるやうにきこゑたり｡ さりながら当流たうりう親鸞しんらん聖しやう人にん一流ゐちりうには真実信心といふことを先さきとされれて､ すでに末代まちだいわれらごときの罪悪ざいあく生しやう死じの凡ぼむ夫ぶ､ 五ご障しやう・三さむ従しようの女人によにんまでも､ みなたすけましますといふことを､ あまねくしらざるがゆへなり｡ されば浄土に往生するといふも､ たゞ一念の信心の決定くゑちぢやうするをもて､ すみやかに弥陀の報ほう土どへはむまるゝものなり｡ これによりて信心といふことをよく決定くゑちぢやうすべきなり｡ この信心をとるといふは､ いかやうにこゝろをももちて､ いかやうに阿弥陀をも信しんじたてまつるべきぞといへば､ なにのやうもなく､ もろもろの雑ざふ行ぎやう疑ぎ心しむなんどいふこゝろをすてゝ､ またもろもろの仏・菩薩・諸神しよじん等とうをもたのまずして､ もろもろのわろき自じ力りきのひがおもひなんどをもふりすてゝ､ 一心一向に弥陀如来をふかくたのみたてまつりて､ このたびの後ご生しやうをたすけたまへと､ ひとすぢに弥陀に帰くゐ命みやうするこゝろをもちて､ うたがひのこゝろはつゆちりほどもなくは､ かならず阿弥陀如来は八万四千の大光明をはなちて､ その身みを光明のなかにおさめとりて､ わが身みの娑しや婆ばにあらんかぎりはすてたまはずして､ すでに命いのちおはりなば弥陀みだの報ほう土どへかならずむかへたまふべし｡ これを弥陀みだ如来によらいの念仏行者を摂取せふしゆしたまふといふは､ このこゝろなり｡ これをすなはち当流たうりうの信心しんじむ決定くゑちぢやうしたる人ひととはなづくべし｡ かくこゝろうるうへには､ たとひ念仏ま0293ふすとも､ かの弥陀如来のわれらが往生をたやすくさだめましますところの御ご恩おんを報ほうじたてまつる念仏なりとおもふべきものなり｡ 加か様やうにこゝろゑたる人ひとをば､ あるひは一念ゐちねむ発ぽち起きの行者とも､ 正定しやうじやう聚じゆに住ぢゆすとも､ 无む上じやう涅槃ねちはんを証しやうすとも､ 弥み勒ろくにひとしともまふすなり｡ これをもて信心をよくとりたる行者とはいふべきものなり｡ あなかしこ､ あなかしこ｡

これについてなをなをこゝろうべきむねあり｡ そのゆへは他た宗しゆ・他た門もんを誹ひ謗はうすることあるべからず､ また諸神しよじん・諸仏しよぶちをもわが信しんぜぬばかりなり､ あながちにおろかにすべからず､ いづれも弥陀一仏の功徳のうちにこもれりとしるべし｡ いかに当流の安心あんじむを決定したる人なりといふとも､ このむねをまもらずはいたづらごとなり､ 当流たうりう念仏ねむぶち者しやにてはあるべからず｡ よくよくこのおもむきをこゝろうべきものなり｡

文明第五 十二月廿二日書之

荻生・福田同行中へ(花押)