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昔筑紫方之事にてもありける歟、 小里の一村ありつる所に道場をかまへ、 念仏の一宗をたてたりしかば、 其あたりの人民おほくあつまりて此法を修行しける程に、 弥陀如来之他力本願之一すぢにたふとき事をのみ沙汰し0507あそび侍けり。 さる程に此人数に加る輩どものおおふ様は、 此法にまさりてたふとき事なしとて、 ことには又在家止住の類においては、 後生のたすかるべき法はこれより外には更以あるべからずと信じて、 朝夕はあつまりて信仰の志のふかきによりて、 結句諸宗をば謗人と名て仏法信ずる人とも中々おもはざるがゆへに、 此人数のふるまひども、 以外人目に立てわろくみゆる事かぎりなし。 然間諸山寺・山伏・陰陽師に至までも、 これをそしりにくまぬ人はなし。 この謂れによりて諸宗一同に談合して、 此宗をいかにもして此在所をはらひうしなはんといふはかり事をたくみけり。 依如此の悵行ある由を又彼宗の人につけしらせければ、 以外立腹していふやうは、 无下にさ様にせらるまじきものをとて、 城郭をかまへ、 ほりをほり、 やぐらをあげ、 兵糧米をいれなんどして、 敵を相待ければ、 一方よりもせめやぶらんとせし所を、 散々にふせぎたゝかひければ、 敵にはおほく人そこばくうたれにけり。 猶も此まゝうちすてゝおくべからずと云て、 又諸法の人勢をあまた相かたらひてせめけれども、 更に城の内には手おゐなんどもなく、 よせ手ばかりは損じければ、 迷惑なりし所に、 其在所六、 七里ばかりある所より彼城内によき知人のありけるが、 仲人となりて申様、 彼弓矢之為体言語道断不可然次第也。 其いはれをいかんといふに、 城内はよはる儀はなけれども、 不勢に多勢がまさるべき道理にてもなし。 これは无益の事也。 既に彼面々は後生一大事の為に此一法を興行すといへども、 あまりに悪行をいたし、 諸宗をないがしろにするによりて、 諸宗より如此の対治を加るなり。 凡此宗義の輩ど0508ものふるまひ天下にかくれなし。 たとひ念仏集をたつといふとも、 更に人にかゝるべき義にもあらざるを、 此宗の人ども、 我が宗の其色を他宗にみする事、 以外のあやまりなり。 弓矢の仲人をこそ申候はんずれ、 加養仏法のおもむきはくはしく存知候はねども、 大概仏法に相違候分をかたり申すべし。 よくよく耳をすまして聴聞あべし。 先此面々の仏法方之心得之趣は、 仏法者とはみゆべからずと勧化して、 至極そのうらをはたらくなり。 されば 「和讃正信偈」 ばかりが肝要ぞと云て、 かりそめにも ¬本書¼・¬選択集¼ 等なんどをよむ人をば文沙汰と号してこれを偏執し、 又 「浄土三部経」 なんどをかりそめにも道場におきたる人をばそしりて、 たゞかな聖教をつゞりよみにかた事まじりによむ人をもて本とし、 おかしきことばをつかふをもて、 これをきゝならひて、 これをもて学聞とす。 さればいまにいたるまでも随分に仏法の物語りをする人をきくに、 ことばのうちにおいて理にもあたらぬおかしきことばどもこれおほし。 又念数をもつは名聞なりとて、 一人にても念数もつ人なし。 今もやうやう勤行の時ならではかりそめにも念数もつ人なし。 このこゝろははや廻心してよくなりたる人といふべしや。 又おやの明日なればとて、 あながちに一遍の念仏も申さず、 又仏恩の不可思議なる事をも思はず、 たゞ師匠の報謝の志ばかりなり。 これはよき安心とは云がたし。 仏恩の深き事を思ひてこそ、 又師匠の恩の方をも思ふべきに、 恩の方を无下にすてゝ、 たゞ師匠の恩が雨山の恩と云事は仏法の大旨にそむけり。 返々已然心得とも以外に相違候間、 自今已後は心中をもちなをされ候べし。 諸宗を謗人といふべしと云事をばいかなる人の申出候ぞ。 さればいづれの国いづれの所にも宗々同みなある事なれども、 あまりに事外に人数おほくあつまりてよもすがらたゞ仏法の沙汰興成なるによりて、 我宗の外には後生のたすかるべ0509き宗あるべからずといひて、 諸宗を謗人といへる事、 以外のあやまりなり。 されば弥陀如来の本願にはあひそむけり。 既十八願には 「唯除五逆誹謗正法」 (大経巻上) ときらひ、 又龍樹の ¬智論¼ (大智度論巻一初品) には 「自法愛染故 毀此他人法 雖持戒行人 不脱地獄苦」 と堅いましめられたり。 依之、 是非ともに弓矢をとる事不可然ずと教訓するによりて、 城内に大将と聞へし人さきづ退散しければ、 其まゝ弓矢もなくして東西之勢ともひきしりぞきけり。 かくて其跡に火をかけて墨になしけり。 其里にありし人どもは散々になりはてにけり。 さてあるべき事ならねばとて、 わび事をなして、 三年ばかりすぎてみなみな本地に還住しけり。 依之、 末代までもかくのごときの一宗をたてゝわろきふるまひをせん人は、 いくたびもかゝる難にはあふべきものなり。 よくよくつゝしむべし。 然どもいまだ其執心の者もあるやらん、 わろき心中をひちさげたるたぐひもこれありとつたへきく間だ、 无勿体あさましきものなり。