(243)

夫浄土真宗とは、 顕浄土の中よりえらびいだしたまふところの元祖聖人の御一流なり。 ゆへいかんとなれば、 ¬大経¼ (巻上) 云、 「如来以无蓋大悲矜哀三界所以出興於世光闡道教欲拯群萌恵以真実之利」 といへり。 こゝろは如来无蓋大悲をもて三界の衆生をあはれみて世にいでたまふゆへは、 ひろくまことのみちのおしへをひらきあらはして、 具縛の凡衆をすくはんとおぼして、 智慧のひかりをもて真実の利をおしへたまへり。 その真実の利といふは无上の大利なり。 同き ¬経¼ (大経巻下) 云、 「乃至一念当知此人為得大利」 といへり。 「大利をう」 といふは、 名号をきゝて信心歓喜するもの、 往生決定のひとなり、 往生うたがはず。 されば无上大利の功徳をえて无上のひとゝなるなり。 无上真実の大利は他力の本願0502なり。 その他力といふはいかんとなれば、 凡夫としてははからざることなり。 弥陀如来の御こゝろよりおこりて我等が往生はしたゝめたまふなり。 われらがこゝろとしては三毒の煩悩を眷属として、 朝夕のことわざには殺偸婬毒のはげみおこたることなし。 このこゝろにてはいかでか仏道にのぞまん、 なんぞ極楽にいたらん。 しかるに弥陀は難化難入之衆生に心安く往生をゑしめんとて、 一念発起の信心をすゝめて、 その身を摂取してすてたまはず。 これひとへにわれとしておこさゞる信心なり。 弥陀如来よりさづけたまへる信心なりとこゝろうべし。 これを他力をゑたる信心とはいふなり。 あなかしこ、 あなかしこ。