(24)

▼一ひとつ ある人ひといはく、 昨日きのふははや一日ゐちにちの雨う中ちうなれば、 さみだれにもやなるかとおもひ、 また海かい上じやうのなみのおとまでも、 たかくものさびしくおとづれければ、 もとよりいとゞこゝろのなぐさむこともなきまゝに、 いよいよ睡眠すいめんはふかくなりぬれば、 生しやう死じ海かいにうかみいでたる0258その甲斐かいもなく、 あさましくこそはおもひはんべれとまふしたりしかば、 こゝに若衆わかしゆのわたりさふらひけるがまふされけるは、 われらはあながちに睡眠すいめんのをこりさふらへばとて、 いたくかなしくもおもはずさふらふ。

-そのゆへは安心あんじむのことはこゝろゑさふらふつ、 また念仏ねむぶちはよくまふしさふらひぬ、 また雑ざふ行ぎやうとてはさしてもちゐなくさふらふあひだ、 つかふまつらずさふらふ。 ことにわれらは京きやう都との御ご一族ゐちぞく分ぶんにてさふらふあひだ、 たゞいつもものうちよくくひさふらひて、 そのゝちはねたくさふらへば、 いくたびもなんどきもふみぞりふせりさふらふ。 また仏法ぶちぷふのかたはさのみこゝろにもかゝらずさふらふ。 そのほかなにごとにつけても、 人ひとのまふすことばをきゝならひてさふらふあひだ、 聖しやう人にんの御ご恩おんにてもあるかなんど、 ときどきはおおふこゝろもさふらふばかりにてさふらふ。

-こゝにまたある人ひとのまふしけるは、 さてはあれらさまは京きやう都との御ご一族ゐちぞくにて御座ござさふらふあひだ、 さだめてなにごとも御ご存ぞん知ぢあるべくさふらふほどに、 われらがまふすことはをよばぬ御おんことにてこそさふらへ。

-ある人ひとまた問とふていはく、 われらがやうなる身みにてかやうのまふしごと、 如法によほふ如法によほふそのおそれすくなからぬことにてさふらへども、 仏法ぶちぷふのかたなればまふすにてさふらふ。 あまりに御おんこゝろゑのとゞきさふらはぬをもむきをひとはしまふしたくさふらふ。

-その謂いはれは、 当流たうりうの次し第だいは信心しんじむをもて先さきとせられさふらふあひだ、 信心しんじむのことなんどはそのさたにをよばずさふらふて、 京きやう都と御ご一族ゐちぞくを笠かさにめされさふらふこと、 これひとつおほきなる御おんあやまりにてさふらふ。 ことにめぶりなんどもいたくかなしくおもはぬなんどおほせさふらふこと、 これひとつ勿体もつたいなくさふらふ。 貴き方はうは随分ずいぶんの仏法ぶちぷふ者しやにて御おんいりさふらへども、 いまの子し細さいを御ご一族ゐちぞくにおそれまふされさふらひて、 一ひとはし御まふしさふらはぬこと、 くれぐれ0259御おんあやまりとこそ存ぞんじさふらへ。

答こたえていはく、 われらももともその心中しむちうにてはさふらひつれども、 御ご存ぞん知ぢのごとく不ふ弁べん短才たんさいの身みにてさふらへば、 ふかく斟しん酌しやくをなしてまふさず、 貴き方はうにゆづりまふしさふらふなり。 一ひとはしこの子し細さいをまふしさふらはゞ興隆こうりうにてあるべくさふらふ。

問とふていはく、 われらも斟しん酌しやくにさふらへども、 御ご所望しよまうさふらふうへは、 これ聴ちやう聞もんつかふまつりさふらふをおもむき、 ひとはしまふすべくさふらふ。

-そのゆへはわれらもすでに无む明みやうのやみにねぶり、 しづみゐたる身みにてさふらふが、 たまたま五ご戒かいの功く力りきによりて、 いま南なん浮ぶの生しやうをうけて、 あひがたき仏法ぶちぷふにあへり。 さればこのたび信心しんじむ決定くゑちぢやうするむねなくば、 三さむ途づの旧きう里りにかへらんことをかなしみおもはゞ、 などかねぶりをこのみさふらふべきや。

-されば ¬観経くわんぎやう¼ には 「唯除ゆいじよ睡すい時じ恒憶ごうおく此事しじ」 ととき、 善導ぜんだうは 「煩悩ぼむなう深じん无む底てい 生しやう死じ海かい无む辺へん」 (礼讃) とも、 「云うん何が楽げう睡眠すいめん」 (礼讃) とも判はんぜり。 この文もんのこゝろは、 煩悩ぼむなうはふかくしてそこなし、 生しやう死じの海うみはほとりなき身みの、 いかんが睡眠すいめんをこのまんやといへり。 また ¬観経くわんぎやう¼ にも、 「たゞねぶりをのぞきてこのことををもへ」 ととかれたり。

-経釈きやうしやくともにねぶりをこのむべからずときこへたり。 このときは御ご一族ゐちぞくにて御座ござさふらふとも、 仏法ぶちぷふの御おんこゝろあしくさふらはゞ、 報ほう土ど往わう生じやういかゞとこそ存ぞんじさふらへ。 ふかく御ご思し案あんさふらふて、 仏法ぶちぷふの法ほふを御おんたしなみさふらはゞ、 まことにもて千秋せんしふ万歳ばんせいめでたく存ぞんずべくさふらふ。

-かへすがへす御ご所望しよまうによりてかくのごとくの次し第だいまふしいれさふらふ条でう、 千万せんばんをそれいりさふらふ。 あら勿体もつたいなや。 南无なも阿わあ弥み0260陀だ仏ぶち、 南无なも阿わあ弥陀みだ仏ぶち。

©文明五年九月 日¹