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夫今月廿八日は聖人の御恩徳のふかき事、 中々申せば大海かへりてあさし。 依之いかなる卑夫のともがらまでも彼御恩をわすれん人は、 誠以畜生にひとしからん歟。 然ば忝もせめてかの御影の御座所をなりともたづねまひりて、 恩顔をなりとも拝し奉て、 御恩徳をも一端報謝申さばやと、 いかなる遠国のものまでも此志をはこばぬ人はなきところに、 幸に御近所堅田と申すは、 其間三里ばかりある大津に、 而も生身の御影眼前にあらはれ給ふところに、 其御影をみすてまひらせて遥の河内国において、 而も水辺ふかしあしわらの中へ尋まひられて祗候あるは本意とも存ぜぬ由、 空念、 法住に対して申す所に、 法住其返答にいはく、 御影の事はいづくにましますもたゞ同事なれば相かはるべからざる由を申付候間、 しからばなにとて江州堅田辺にも御影はたれたれも安置申付候事なれば、 はるばるの遠路をしのぎ是までまひられんよりは、 たゞ御影はおなじ事ならば、 そのまゝ江州堅田に御わたり候べしと申せば、 かさねて返答もなくてそのまゝまけたまひけり。 あら勝事や、 おふおふ。