(14)

  一念ゐちねむねむこと

これもぬきがき

真宗しんしゆ肝要かんえう一念ゐちねむわうじやうをもてえんぐゑんとし、 一念ゐちねむをもてはわうじやうぢやうこくとさだめて、 そのときのいのちのぶれば、 ねんねむにおよぶだうなり。 されば平生へいぜいのとき一念ゐちねむわうじやうぢやうのうへの仏恩ぶちおん報謝ほうしやねむ称名しようみやうとならふところなり。 一念ゐちねむねむもともにわうじやうのためのしやういんたるやうにこゝろえみだすでう、 すこぶる経釈きやうしやくせるもの。 されば先達せんだちよりうけたまはりつたへしがごとくに、 りきしんをば一念ゐちねむ即得そくとくわうじやうととりさだめて、 そのときいのちをはらざらんは、 いのちあらんほどは念仏ねむぶちすべし。 これすなはちじやうじんゐちぎやうしゃくにかなへり。 しかるにのひとつねにおもへらく、 じやうじんゐちぎやうねむしゆほんとおもひて、 それにかなはざらんのすてがてらの一念ゐちねむとこゝろうる。 これすでに弥陀みだほんぐわんし、 しやくそん言説ごんせちにそむけり。 そのゆへは如来によらいだいたんみやうこんほんとせば、 いのちゐちせちにつゞまるじやう迅速じんそくいかでかほんぐわんじようずべきや。」 (口伝鈔意)

  じやうじんゐちぎやう下至げし一念ゐちねむこと

下至げし一念ゐちねむといふは、 ほんぐわんをたもつわうじやう決定くゑちぢやうこくなり。 じやうじんゐちぎやうといふは、 わうじやう即得そくとくのうへの仏恩ぶちおん報謝ほうしや0244のつとめなり。」 (口伝鈔意)

  平生へいぜいごふじやうこと

「そもそも宿善しふぜん開発かいほちにおいて、 平生へいぜいぜんしきのおしへをうけて、 しむしんげうよくしやうくゐみやう一心ゐちしむりきよりさだまるとき、 正定しやうぢやうじゆのくらゐにぢゆし、 また即得そくとくわうじやうぢゆ退転たいてんだうをこゝろえなんは、 ふたゝび臨終りんじゆぶん往益わうやくをまつべきにあらず。 そののちの称名しようみやう仏恩ぶちおん報謝ほうしやりき催促さいそくだいぎやうたるべきでうもんにありて顕然けんぜんなり。

念仏ねむぶちわうじやう臨終りんじゆ善悪ぜんあく沙汰さたせず、 しむしんげうよくしやうくゐみやう一心ゐちしむりきよりさだまるとき、 即得そくとくわうじやうぢゆ退転たいてんだうぜんしきにあふてもんする平生へいぜいのきざみに、 わうじやうぢやうするものなり」 (口伝鈔意) 云々

*文明四年二月八日

 

(15)

善導ぜんだう云、

 の衆生等 く流↢ れて に解↢さとら を↡。」 (礼讃意) 文

このもんのこゝろは、 あらゆるしゆじやうひさしくしやうてんすることはなにのゆへぞといへば、 安心あんじむ決定くゑちぢやうせぬいはれなり。

又云、

「安 の むるこゝろ ず↢安 に↡。」 (礼讃意) 文

このもんのこゝろは、 安心あんじむさだまりぬねば安楽あんらくにかならずむまるゝなりといへり。

これはみなぬきがきなり

ひとつ 「真宗しんしゆにおいてはもはらりきをすてゝりきくゐするをもてしゆごくとするなり。」 (改邪鈔意)

ひとつ 「三業さむごふのなかにはごふをもてりきのむねをのぶるとき、 ごふ憶念おくねむくゐみやう一念ゐちねむおこれば、 身業しんごふ礼拝らいはいのために、 渇仰かちがうのあまり瞻仰せんがうのために、 ざう木像もくざう本尊ほんぞんを、 あるひは彫刻てうこくしあるひはぐわす。 しかのみならず仏法ぶちぽふくゑ恩徳おんどくれんぎやうそうせんがために、 三国さむごく伝来でんらい祖師そし先徳せんどく尊像そんざう図絵づゑあんすること、 これ0245つねのことなり。」 (改邪鈔意)

一 「光明くわうみやうくわしやうおんしゃくをうかゞふに、 安心あんじむぎやうごふみつありとみえたり。 そのうちぎやうごふへんをばなを方便はうべんのかたとさしおきて、 わうじやうじやうしやういん安心あんじむをもてぢやうとくすべきよしを釈成しやくじやうせらるゝでう勿論もちろんなり。 しかるにわがだいしやうにんこのゆへをもてりき安心あんじむをさきとしまします。 それについてさむぎやう安心あんじむあり。 そのなかに ¬だいきやう¼ をもて真実しんじちとせらる。 ¬だいきやう¼ のなかにはだい十八じふはちぐわんをもてほんとす。」 (改邪鈔意)

一 「だい十八じふはちぐわんにとりてはまたぐわんじやうじゆをもてごくとす。 信心しんじむくわんない一念ゐちねむをもてりき安心あんじむとおぼしめさるゝゆへなり。 この一念ゐちねむりきより発得ほちとくしぬるのちには、 しやうかいをうしろになして涅槃ねちはんがんにいたりぬるでう勿論もちろんなり。 こののうへはりき安心あんじむよりもよほされて、 仏恩ぶちおん報謝ほうしやぎやうごふはせらるべきによりて、 ぎやうぢゆぐわろんぜず、 ぢやう退たいたうがんのいひあり」 (改邪鈔) 云々

一 「¬観経くわんぎやう¼ 所説しよせちじやう深信じむしむとう三心さむしむをばぼむのおこすところのりき三心さむしむぞとさだむなり。」 (改邪鈔意)

一 「¬だいきやう¼ 所説しよせちしむしんげうよくしやうとう三信さむしんをばりきよりさづけらるゝところのぶちとわけられたり。 しかるに方便はうべんより真実しんじちへつたひ、 ぼむほち三心さむしむより如来によらい利他りた信心しんじむ通入つうにふするぞとおしへおきましますなり」 (改邪鈔) 云々

  廃立はいりふといへること

一 「真宗しんしゆもんにおいてはいくたびも廃立はいりふをさきとせり。 はいといふはしやなりとしゃくす。 しやうだうもん此土しどにふしやう得果とくくわしん弥陀みだ唯心ゆいしむじやうとうぼむかんりき修道しゆだう0246をすてよとなり。
りふといふはすなはち弥陀みだりきしんをもてぼむしんとし、 弥陀みだりきぎやうをもてぼむぎやうとし、 弥陀みだりきごふをもてしやうごふとして、 このかいをすてゝかのしやうせちわうじやうせよとしつらひたまふをもて、 真宗しんしゆのこゝろとするなり」 (改邪鈔意) 云々

文明四年二月八日

 

(16)

十一

一向ゐちかう専修せんじゆみやうごんをさきとして、 ぶち思議しぎをもてほうわうじやうをとぐるいはれをばその沙汰さたにおよばざる、 いはれなきこと。

それほんぐわんさむ信心しんじむといふは、 しむしんげうよくしやうこれなり。 まさしくぐわんじやうじゆしたまふにはもんみやうがう信心しんじむくわんない一念ゐちねむとらとけり。 このもんについてぼむわうじやうとくない一念ゐちねむほちぶんなり。 このときぐわんりきをもてわうじやうくゑちとくすといふはすなはち摂取せふしゆしやのときなり。 もし ¬観経くわんぎやう¼ によらば安心あんじむぢやうとくといへる、 これなり。 また ¬せうきやう¼ によらば一心ゐちしむらんととける、 これなり。 しかれば祖師そししやうにんさうじようづう一流ゐちりう肝要かんえうこれにあり。 こゝをしらざるをもてもんとし、 これをしれるをもて門弟もんていのしるしとす。 そのほかかならずしも外相ぐゑさうにおいて一向ゐちかう専修せんじゆぎやうじやのしるしをあらはすべきゆへなし」 (改邪鈔意) といへり。

十二

一 「当教たうけう肝要かんえうぼむのはからひをやめて、 たゞ摂取せふしゆしや大益だいやくをあふぐべきものなり。」 (改邪鈔)

十三

しちでうしやうもんには、 念仏ねむぶちしゆぎやう道俗だうぞく男女なむによれちのことばをもてなまじゐに法門ほふもんをのべば、 しやにわらはれにんをまよはすべしと 云々。 かの先言せんげんをもていまをあんずるに、 すこぶるこのたぐひ。 もともしやにわらはれぬべし。 かくのごときのことばもともぐわんなり荒涼くわうりやうなり」 (改邪鈔) 云々

十四

一 「たゞ男女なむによ善悪ぜんあくぼむをはたらかさぬほんぎやうにて、 ほん0247ぐわん思議しぎをもてむまるべからざるものをむまれさせたればこそ、 てうぐわんともなづけ、 横超わうてう直道ぢきだうともきこへはんべるものなり。」 (改邪鈔)

  宿善しふぜん開発かいほちこと

十五

「そもそも宿善しふぜんあるしやうぼふをのぶるぜんしきにしたしむべきによりて、 まねかざれどもひとをまよはすまじき法灯ほふとうには、 かならずむつむべきいはれあり。 宿善しふぜんもし開発かいほちならば、 いかなるれちのともがらもぐわんりき信心しんじむをたくはへつべし」 (改邪鈔意) 云々

  宿善しふぜんこと

十六

宿善しふぜんなきはまねかざれどもおのづからあくしきにちかづきて、 ぜんしきにはとをざかるべきいはれなれば、 むつびらるゝも、 とをざかるも、 かつはしききむもあらはれしられぬべし。 所化しよくゑうん宿善しふぜん有无うむも、 もとも能所のうじよともにはづべきものをや。 しかるにこのことはりにくらきがいたすゆへ一旦ゐちたんしふをさきとして宿善しふぜん有无うむをわすれ、 わがどうぎやうひとのどうぎやう相論さうろんすることどんのいたり、 ぶち照覧せうらんをはゞからざるでうごくつたなきもの、 いかん。 しるべし」 (改邪鈔) 云々

十七

一 「曇鸞どむらんくわしやう同一どうゐち念仏ねむぶち別道べちだうといへり。 さればどうぎやうはたがひにかいのうちみなきやうだいのむつびをなすべきに、 かくのごとく簡別けんべち隔略きやくりやくせば、 おのおのくわくしふのもとゐまん先相せんさうたるべきものなり。」 (改邪鈔意)

[これまではぬきがきなり]

文明四年二月八日