宗祖は、 名号を本尊 (宗祖は敬信尊号という) として用いられているが、 その本尊とされた名号には特徴として、 下部に蓮台が描かれ、 天部と地部には、 讃銘として経論から様々な文が抜粋して書かれている。 この天部と地部とに讃銘を付す形式について、 しばしば中国の宋代様式の影響が指摘されているが、 こうした形式は、 宗祖の尊崇された先徳の影像 (肖像画) や宗祖の御影にも踏襲されている。 この 「本尊影像讃文」 では、 諸処に伝わるそれらの讃銘を集めて翻刻した。
 翻刻にあたっては、【名号】【影像】【名号先徳像】と区分した。 この内、【名号】には十字名号、 八字名号、 六字名号があるが、 「五、 十字名号」 は、 宗祖によって 「南无尽十方無光如来」 と書かれた唯一の作例であり、 蓮台もなく讃銘も存在していないため、 未完ではないかといわれている。 また 「六、 黄地十字名号」 「七、 紺地十字名号」 の中央の名号は、 画工による双鉤填墨 (篭文字) であり、 上下の讃銘が宗祖によるものである。【影像】の 「二、 鏡御影」 は覚如上人の修復以後の讃銘を 「現讃銘」 とし、 それ以前に記されていた讃銘を 「原讃銘」 として記した。 なお、 上段の原讃銘は、 本派本願寺蔵 ¬教行信証¼ の 「正信偈」 から補っているが、 「獲信見敬大慶喜」 の部分は、 宗祖真筆の真宗大谷派蔵 ¬教行信証¼ や高田派専修寺蔵 ¬尊号真像銘文¼ (正嘉本) の用例からすれば、 「獲信見敬大慶人」 や 「獲信見敬得大慶」 となっていた可能性も充分に考えられる。 また【名号先徳像】の 「一、 光明本尊」 は、 後代に隆盛する光明本尊とは体裁を異にするが、 その先駆的なものとして位置づけられる。 三福一具であり、 讃銘は真仏上人とされる。