本書には著者の名が記されていない。 そのため諸説があるが、 本文中にその名が見られる唯円ゆいえんぼうを著者とする説が有力である。
 親鸞しんらんしょうにんの在世の頃より、 人々の間に、 真実の信心と異なる誤った考えが生じていた。 本書は、 聖人から直接教えを受けた著者が、 聖人御往生の後、 これらの誤った考えが生じたことを悲嘆し、 同じ念仏の道を歩む人の不審を除くために著したものである。 この書に述べられているのは、 異端を弾劾するといった冷ややかな批判ではなく、 真実の信心を見失っていく人々への深い悲しみである。 それは、 著者自身によって付せられた 「たんしょう」 という題号からも明らかである。
 まず巻頭に、 撰述の意図を示した漢文の序があり、 続く本文は、 著者が直接聖人から聞いた法語を収録した前半の十条と、 さまざまな誤った考えを挙げて著者自身の歎異を述べる後半の八条とに分れ、 最後に、 聖人の法語を回顧しながら、 あらためて悲嘆のおもいを述べている。 このうち第十条は、 その後半に誤った考えの生じたことを歎く文があり、 第十一条以下の序の体裁をとっているとも見られる。
 現存するものの中では、 本願ほんがん第八代しゅうしゅれんにょしょうにんの書写本がもっとも古く、 これにはじょうげんの法難 (承元元年・1207) のときの流罪記録の文と蓮如上人の奥書おくがきがある。