本書は、 第八代宗主蓮如れんにょしょうにんが門弟の要望に応えて、 真宗教義のかなめを平易なしょうそくの形式で著されたものである。 宗祖親鸞しんらんしょうにんの御消息に示唆を得て作られたともいわれている。 したがって、 どんな人にもりょうされるように心がくばられ、 文章を飾ることもなく、 俗語や俗諺ぞくげんまでも駆使されている。
 本聖典に収められている五帖八十通の ¬御文章¼ は ¬じょうない御文章¼ ともいい、 多数のなかよりとくに肝要かんようなものを、 第九代宗主実如じつにょ上人のもとで抽出・編集されたものである。 時代別にみると、 吉崎よしざき時代四十通、 河内かわちぐち時代七通、 山科やましな時代五通、 大坂おおざか坊舎ぼうしゃ時代六通、 年紀が記されていないもの二十二通となっていて、 教団が飛躍的に拡大した吉崎時代のものがもっとも多く、 上人が一般大衆を精力的に教化されたことがうかがえる。
 全般の内容をみれば、 当時の浄土異流や宗門内で盛んに行われていたぜんしきだのみ、 十劫じっこう秘事ひじしょうしょういんなどの安心あんじんや異義を批判しつつ、 信心正因・称名しょうみょう報恩ほうおんという真宗の正義を明らかにすることに心を砕かれている。 とくに 「なにの分別ふんべつもなくくちにただ称名ばかりをとなへたらば、 極楽ごくらくおうじょうすべきやうにおもへり」 という傾向に対して、 他力の信心の重要性が説かれている。 また本書の随所に、 他力こうの信心を 「たすけたまへと弥陀をたのむ」 と表現されることは、 上人の教学の特色である。