本書は、 親鸞しんらんしょうにんの内室、 しんこうこうちょう三年 (1263) から文永ぶんえい五年 (1268) までの六年間に、 末娘の覚信かくしんこうに宛てて書き送られたものであり、 八通の消息が収められている。 なお、 けんちょう八年 (1256) に書き記された譲状ゆずりじょう二通については、 いわゆる証文であり、 八通の消息とは性質を異にするため、 本聖典には収録しなかった。
 最初の四通は、 聖人の御往生について覚信尼公から書状を受け取った際に、 聖人のことを懐かしく回想されて書かれたものである。 これらの消息のなかでとくに注目すべきものは、 聖人が比叡山で堂僧をつとめておられたことや、 法然ほうねんしょうにんとの出会いに至るまでのことを示した記事であろう。 また聖人がかつて三部経の千回読誦どくじゅを中止されたことを回顧された記述や、 法然上人がせい菩薩の化身であり聖人が観音かんのん菩薩の化身であるという恵信尼公の夢のことなども注意すべきである。 他の四通には恵信尼公の身辺のもようが記されている。
 このようにこれらの消息は、 聖人の生涯、 さらには聖人と恵信尼公、 覚信尼公と恵信尼公との間柄を伝える貴重な資料である。