1413: 1  御裁断御書

1413: 5 【1】祖師聖人御相伝一流の肝要は、ただ他力の信心をもつて本とすすめたまふ。

1413: 6 その信心といふは、経には聞其名号 信心歓喜 乃至一念と説き、論には一心帰命と判ず。

1413: 7 ゆゑに聖人は論主の一心を釈して、一心といふは、教主世尊のみことをふたごころなく疑なしとなり。これすなはち真実の信心なりとのたまへり。

1413:10 されば祖師よりこのかた代々相承し、別して信証院の五帖一部の消息に、この一途をねんごろに教へたまふ。

1413:11 その信心のすがたといふは、なにのやうもなく、もろもろの雑行雑修自力のこころをふりすてて、一心一向に阿弥陀如来、今度のわれらが一大事の後生、おんたすけ候へとたのみたてまつる一念の信まことなれば、弥陀はかならず遍照の光明を放ちてその人を摂取したまふべし。

1413:14 これすなはち当流に立つるところの一念発起平生業成の義、これなり。

1414: 1 この信決定のうへには、昼夜朝暮にとなふるところの称名は、仏恩報謝の念仏とこころうべし。

1414: 2 かやうにこころえたる人をこそ、まことに当流の信心をよくとりたる正義とはいふべきものなれ。

1414: 5 【2】しかるに近頃は、当流に沙汰せざる三業の規則を穿鑿し、またはこの三業につきて自然の名をたて、年月日時の覚・不覚を論じ、あるいは帰命の一念に妄心を運び、または三業をいめるまま、たのむのことばをきらひ、この余にもまどへるものこれあるよし、まことにもつてなげかしき次第なり。

1414: 8 ことに聖人のみことにも、身口意のみだれごころをつくろひて、めでたうしなして浄土へ往生せんとおもふを自力と申すなりと誡めたまへり。

1414:11 所詮以前はいかやうの心中なりとも、いまより後は、わがわろき迷心をひるがへして、本願真実の他力信心にもとづかんひとは、真実に聖人の御意にもあひかなふべし。

1414:13 さてそのうへには王法・国法を大切にまもり、世間の仁義をもつて先とし、うつくしく法義相続あるべきものなり。

1415: 1  右の通り裁断せしめ候ふ条、永く本意を取り失ふべからざるものなり。

1415: 2  文化三丙寅年十一月六日
  釈本如