◗545: 1  入出二門偈頌
  愚禿親鸞作

◗545: 5 【1】世親菩薩は、大乗修多羅の真実功徳によりて、
一心に尽十方不可思議光如来に帰命せしめたまへり。

◗545: 7 無礙の光明は大慈悲なり。この光明はすなはち諸仏の智なり。
かの世界を観ずるに辺際なし、究竟せること広大にして虚空のごとし。

◗545: 9 五つには仏法不思議なり。このなかの仏土不思議に、
二種の不思議力まします、これは安楽の至徳を示すなり。

◗545:11 一つには業力、いはく法蔵の大願業力に成就せられたり。
二つには正覚の阿弥陀法王の善力に摂持せられたり。

◗545:13 女人・根欠・二乗の種、安楽浄刹に永く生ぜず。
如来浄華のもろもろの聖衆は、法蔵正覚の華より化生す。

◗545:15 諸機は本すなはち三三の品なれども、いまは一二の殊異なし。
同一に念仏して別の道なければなり、なほ淄澠の一味なるがごとくなり。

◗546: 2 かの如来の本願力を観ずるに、凡愚、遇うて空しく過ぐるものなし。
一心専念すれば、すみやかに真実功徳の大宝海を満足せしむ。

◗546: 4 菩薩は五種の門に入出して、自利利他の行成就したまへり。
不可思議兆載劫に、漸次に五種の門を成就したまへり。

◗546: 6 なんらをか名づけて五念門とすると。礼と讃と作願と観察と回となり。
いかんが礼拝する。身業に礼したまひき。阿弥陀仏正遍知の、

◗546: 8 もろもろの群生を善巧方便して、安楽国に生ぜん意をなさしめたまふゆゑなり。
すなはちこれを入第一門と名づく。またこれを名づけて近門に入るとす。

◗546:11 いかんが讃嘆する。口業に讃じたまひき。名義に随順して仏名を称せしめ、
如来の光明智相によりて、実のごとく修し相応せんと欲ふがゆゑなり。

◗546:13 すなはちこれ無礙光如来の、摂取選択の本願なるがゆゑなり。
これを名づけて入第二門とす。すなはち大会衆の数に入ることを獲るなり。

◗546:15 いかんが作願する。心につねに願じたまひき。一心専念してかしこに生れんと願ぜしむ。
蓮華蔵世界に入ることを得て、実のごとく奢摩他を修せんと欲はしむ。

◗547: 3 これを名づけて入第三門とす。またこれを名づけて宅門に入るとす。
いかんが観察する。智慧をして観ぜしめたまひき。正念にかしこを観じて、実のごとく、

◗547: 6 毘婆舎那を修行せしめんと欲ふがゆゑに。かの所に到ることを得れば、すなはち、
種々無量の法味の楽を受用せしむ。すなはちこれを入第四門と名づく。

◗547: 9 またこれを名づけて屋門に入るとす。菩薩の修行成就とは、
四種は入の功徳を成就したまへり、自利の行を成就したまへりと、知るべし。

◗547:11 第五は出の功徳を成就したまへり。菩薩の出第五門は、
いかんが回向する。心に作願したまひき。苦悩の一切衆を捨てずして、

◗547:13 回向を首めとして、大悲心を成就することを得たまへるがゆゑに、功徳を施したまふなり。
かの土に生れをはりて、すみやかに疾く奢摩他・毘婆舎那・

◗548: 1 巧方便力成就することを得をはりて、生死の園・煩悩の林に入りて、
応化身を示し、神通に遊ぶ、教化地に至りて群生を利せしむ。

◗548: 3 すなはちこれを出第五門と名づく。園林遊戯地門に入るなり。
本願力の回向をもつてのゆゑに、利他の行成就したまへりと、知るべし。

◗548: 5 無礙光仏、因地の時、この弘誓を発し、この願を建てたまふ。
菩薩すでに智慧心を成じ、方便心・無障心を成じ、

◗548: 7 妙楽勝真心を成就して、すみやかに無上道を成就することを得たまへるなり。
自利と利他との功徳を成ずる、すなはちこれを名づけて入出門とすとのたまへり。

◗548:11 【2】婆藪槃頭菩薩の論、本師曇鸞和尚註したまへり。
願力成就を五念と名づく、仏をしていはばよろしく利他といふべし。

◗548:13 衆生をしていはば他利といふべし。まさに知るべし、いままさに仏力を談ぜんとす。
如実修行相応といふは、名義と光明と随順するなり。

◗549: 1 この信心をもつて一心と名づく。煩悩成就せる凡夫人、
煩悩を断ぜずして涅槃を得、すなはちこれ安楽自然の徳なり。

◗549: 3 淤泥華といふは、経に説いてのたまはく、高原の陸地には蓮を生ぜず。
卑湿の淤泥に蓮華を生ずと。これは凡夫、煩悩の泥のうちにありて、

◗549: 6 仏の正覚の華を生ずるに喩ふるなり。これは如来の本弘誓
不可思議力を示す。すなはちこれ入出二門を他力と名づくとのたまへり。

◗549: 8 【3】道綽和尚、解釈していはく、月蔵経にのたまはく、わが末法に、
行を起し道を修せんに、一切の衆、いまだ一人も獲得するものあらじと。

◗549:10 ここにありて心を起し行を立つるは、すなはちこれ聖道なり、自力と名づく。
当今は末法にして、これ五濁なり。ただ浄土のみありて通入すべしと。

◗549:12 今の時、悪を起し衆罪を造る、恒常なること暴風駛雨のごとし。
本弘誓願に名を称せしむるは、これ穢濁悪の衆生のためなり。

◗549:14 ここをもつて諸仏、浄土を勧めたまへり。たとひ一生悪業を造れども、
三信相応すればこれ一心なり。一心は淳心なれば如実と名づく。

◗550: 1 もし生ぜずは、この処なけん。かならず安楽国に往生を得れば、
生死すなはちこれ大涅槃なり、すなはち易行道なり、他力と名づくと。

◗550: 3 【4】善導和尚、義解していはく、念仏成仏する、これ真宗なり。
すなはちこれを名づけて一乗海とす、すなはちこれをまた菩提蔵と名づく。

◗550: 5 すなはちこれ円教のなかの円教なり、すなはちこれ頓教のなかの頓教なり。
真宗に遇ひがたし、信を得ること難し。難のなかの難、これに過ぎたるはなし。

◗550: 8 釈迦・諸仏、これ真実慈悲の父母なり。種々の
善巧方便をもつて、われらが無上の真実信を発起せしめたまふ。

◗550:10 煩悩を具足せる凡夫人、仏願力によりて信を獲得す。
この人はすなはち凡数の摂にあらず、これは人中の分陀利華なり。

◗550:12 この信は最勝希有人なり、この信は妙好上上人なり。
安楽土に到れば、かならず自然に、すなはち法性の常楽を証せしむとのたまへり。

◗551: 1 入出二門偈頌
 七十四行
  愚禿釈親鸞作