578: 1  高僧和讃

578: 6A 高僧和讃 愚禿親鸞作

578: 9A 龍樹菩薩 釈文に付けて 十首

578:11A (1)
本師龍樹菩薩は
智度・十住毘婆沙等
つくりておほく西をほめ
すすめて念仏せしめたり

578: 6B (2)
南天竺に比丘あらん
龍樹菩薩となづくべし
有無の邪見を破すべしと
世尊はかねてときたまふ

578:11B (3)
本師龍樹菩薩は
大乗無上の法をとき
歓喜地を証してぞ
ひとへに念仏すすめける

579: 1A (4)
龍樹大士世にいでて
難行易行のみちをしへ
流転輪廻のわれらをば
弘誓のふねにのせたまふ

579: 6A (5)
本師龍樹菩薩の
をしへをつたへきかんひと
本願こころにかけしめて
つねに弥陀を称すべし

579:11A (6)
不退のくらゐすみやかに
えんとおもはんひとはみな
恭敬の心に執持して
弥陀の名号称すべし

579: 1B (7)
生死の苦海ほとりなし
ひさしくしづめるわれらをば
弥陀弘誓のふねのみぞ
のせてかならずわたしける

579: 6B (8)
智度論にのたまはく
如来は無上法皇なり
菩薩は法臣としたまひて
尊重すべきは世尊なり

579:11B (9)
一切菩薩ののたまはく
われら因地にありしとき
無量劫をへめぐりて
万善諸行を修せしかど

580: 1A (10)
恩愛はなはだたちがたく
生死はなはだつきがたし
念仏三昧行じてぞ
罪障を滅し度脱せし

580: 6A  以上龍樹菩薩

580: 9A 天親菩薩 釈文に付けて 十首

580:11A (11)
釈迦の教法おほけれど
天親菩薩はねんごろに
煩悩成就のわれらには
弥陀の弘誓をすすめしむ

580: 1B (12)
安養浄土の荘厳は
唯仏与仏の知見なり
究竟せること虚空にして
広大にして辺際なし

580: 6B (13)
本願力にあひぬれば
むなしくすぐるひとぞなき
功徳の宝海みちみちて
煩悩の濁水へだてなし

580:11B (14)
如来浄華の聖衆は
正覚のはなより化生して
衆生の願楽ことごとく
すみやかにとく満足す

581: 1A (15)
天・人不動の聖衆は
弘誓の智海より生ず
心業の功徳清浄にて
虚空のごとく差別なし

581: 6A (16)
天親論主は一心に
無礙光に帰命す
本願力に乗ずれば
報土にいたるとのべたまふ

581:11A (17)
尽十方の無礙光仏
一心に帰命するをこそ
天親論主のみことには
願作仏心とのべたまへ

581: 1B (18)
願作仏の心はこれ
度衆生のこころなり
度衆生の心はこれ
利他真実の信心なり

581: 6B (19)
信心すなはち一心なり
一心すなはち金剛心
金剛心は菩提心
この心すなはち他力なり

581:11B (20)
願土にいたればすみやかに
無上涅槃を証してぞ
すなはち大悲をおこすなり
これを回向となづけたり

582: 1A  以上天親菩薩

582: 4A 曇鸞和尚 釈文に付けて 三十四首

582: 6A (21)
本師曇鸞和尚は
菩提流支のをしへにて
仙経ながくやきすてて
浄土にふかく帰せしめき

582:11A (22)
四論の講説さしおきて
本願他力をときたまひ
具縛の凡衆をみちびきて
涅槃のかどにぞいらしめし

582: 1B (23)
世俗の君子幸臨し
勅して浄土のゆゑをとふ
十方仏国浄土なり
なにによりてか西にある

582: 6B (24)
鸞師こたへてのたまはく
わが身は智慧あさくして
いまだ地位にいらざれば
念力ひとしくおよばれず

582:11B (25)
一切道俗もろともに
帰すべきところぞさらになき
安楽勧帰のこころざし
鸞師ひとりさだめたり

583: 1A (26)
魏の主勅して并州の
大巌寺にぞおはしける
やうやくをはりにのぞみては
汾州にうつりたまひにき

583: 6A (27)
魏の天子はたふとみて
神鸞とこそ号せしか
おはせしところのその名をば
鸞公巌とぞなづけたる

583:11A (28)
浄業さかりにすすめつつ
玄中寺にぞおはしける
魏の興和四年に
遙山寺にこそうつりしか

583: 1B (29)
六十有七ときいたり
浄土の往生とげたまふ
そのとき霊瑞不思議にて
一切道俗帰敬しき

583: 6B (30)
君子ひとへにおもくして
勅宣くだしてたちまちに
汾州汾西秦陵の
勝地に霊廟たてたまふ

583:11B (31)
天親菩薩のみことをも
鸞師ときのべたまはずは
他力広大威徳の
心行いかでかさとらまし

584: 1A (32)
本願円頓一乗は
逆悪摂すと信知して
煩悩・菩提体無二と
すみやかにとくさとらしむ

584: 6A (33)
いつつの不思議をとくなかに
仏法不思議にしくぞなき
仏法不思議といふことは
弥陀の弘誓になづけたり

584:11A (34)
弥陀の回向成就して
往相・還相ふたつなり
これらの回向によりてこそ
心行ともにえしむなれ

584: 1B (35)
往相の回向ととくことは
弥陀の方便ときいたり
悲願の信行えしむれば
生死すなはち涅槃なり

584: 6B (36)
還相の回向ととくことは
利他教化の果をえしめ
すなはち諸有に回入して
普賢の徳を修するなり

584:11B (37)
論主の一心ととけるをば
曇鸞大師のみことには
煩悩成就のわれらが
他力の信とのべたまふ

585: 1A (38)
尽十方の無礙光は
無明のやみをてらしつつ
一念歓喜するひとを
かならず滅度にいたらしむ

585: 6A (39)
無礙光の利益より
威徳広大の信をえて
かならず煩悩のこほりとけ
すなはち菩提のみづとなる

585:11A (40)
罪障功徳の体となる
こほりとみづのごとくにて
こほりおほきにみづおほし
さはりおほきに徳おほし

585: 1B (41)
名号不思議の海水は
逆謗の屍骸もとどまらず
衆悪の万川帰しぬれば
功徳のうしほに一味なり

585: 6B (42)
尽十方無礙光の
大悲大願の海水に
煩悩の衆流帰しぬれば
智慧のうしほに一味なり

585:11B (43)
安楽仏国に生ずるは
畢竟成仏の道路にて
無上の方便なりければ
諸仏浄土をすすめけり

586: 1A (44)
諸仏三業荘厳して
畢竟平等なることは
衆生虚誑の身口意を
治せんがためとのべたまふ

586: 6A (45)
安楽仏国にいたるには
無上宝珠の名号と
真実信心ひとつにて
無別道故とときたまふ

586:11A (46)
如来清浄本願の
無生の生なりければ
本則三三の品なれど
一二もかはることぞなき

586: 1B (47)
無礙光如来の名号と
かの光明智相とは
無明長夜の闇を破し
衆生の志願をみてたまふ

586: 6B (48)
不如実修行といへること
鸞師釈してのたまはく
一者信心あつからず
若存若亡するゆゑに

586:11B (49)
二者信心一ならず
決定なきゆゑなれば
三者信心相続せず
余念間故とのべたまふ

587: 1A (50)
三信展転相成す
行者こころをとどむべし
信心あつからざるゆゑに
決定の信なかりけり

587: 6A (51)
決定の信なきゆゑに
念相続せざるなり
念相続せざるゆゑ
決定の信をえざるなり

587:11A (52)
決定の信をえざるゆゑ
信心不淳とのべたまふ
如実修行相応は
信心ひとつにさだめたり

587: 1B (53)
万行諸善の小路より
本願一実の大道に
帰入しぬれば涅槃の
さとりはすなはちひらくなり

587: 6B (54)
本師曇鸞大師をば
梁の天子蕭王は
おはせしかたにつねにむき
鸞菩薩とぞ礼しける

587:11B  以上曇鸞和尚

587:14B 道綽禅師 釈文に付けて 七首

588: 1A (55)
本師道綽禅師は
聖道万行さしおきて
唯有浄土一門を
通入すべきみちととく

588: 6A (56)
本師道綽大師は
涅槃の広業さしおきて
本願他力をたのみつつ
五濁の群生すすめしむ

588:11A (57)
末法五濁の衆生は
聖道の修行せしむとも
ひとりも証をえじとこそ
教主世尊はときたまへ

588: 1B (58)
鸞師のをしへをうけつたへ
綽和尚はもろともに
在此起心立行は
此是自力とさだめたり

588: 6B (59)
濁世の起悪造罪は
暴風駛雨にことならず
諸仏これらをあはれみて
すすめて浄土に帰せしめり

588:11B (60)
一形悪をつくれども
専精にこころをかけしめて
つねに念仏せしむれば
諸障自然にのぞこりぬ

589: 1A (61)
縦令一生造悪の
衆生引接のためにとて
称我名字と願じつつ
若不生者とちかひたり

589: 6A  以上道綽大師

589: 9A 善導大師 釈文に付けて 二十六首

589:11A (62)
大心海より化してこそ
善導和尚とおはしけれ
末代濁世のためにとて
十方諸仏に証をこふ

589: 1B (63)
世々に善導いでたまひ
法照・少康としめしつつ
功徳蔵をひらきてぞ
諸仏の本意とげたまふ

589: 6B (64)
弥陀の名願によらざれば
百千万劫すぐれども
いつつのさはりはなれねば
女身をいかでか転ずべき

589:11B (65)
釈迦は要門ひらきつつ
定散諸機をこしらへて
正雑二行方便し
ひとへに専修をすすめしむ

590: 1A (66)
助正ならべて修するをば
すなはち雑修となづけたり
一心をえざるひとなれば
仏恩報ずるこころなし

590: 6A (67)
仏号むねと修すれども
現世をいのる行者をば
これも雑修となづけてぞ
千中無一ときらはるる

590:11A (68)
こころはひとつにあらねども
雑行雑修これにたり
浄土の行にあらぬをば
ひとへに雑行となづけたり

590: 1B (69)
善導大師証をこひ
定散二心をひるがへし
貪瞋二河の譬喩をとき
弘願の信心守護せしむ

590: 6B (70)
経道滅尽ときいたり
如来出世の本意なる
弘願真宗にあひぬれば
凡夫念じてさとるなり

590:11B (71)
仏法力の不思議には
諸邪業繋さはらねば
弥陀の本弘誓願を
増上縁となづけたり

591: 1A (72)
願力成就の報土には
自力の心行いたらねば
大小聖人みなながら
如来の弘誓に乗ずなり

591: 6A (73)
煩悩具足と信知して
本願力に乗ずれば
すなはち穢身すてはてて
法性常楽証せしむ

591:11A (74)
釈迦・弥陀は慈悲の父母
種々に善巧方便し
われらが無上の信心を
発起せしめたまひけり

591: 1B (75)
真心徹到するひとは
金剛心なりければ
三品の懴悔するひとと
ひとしと宗師はのたまへり

591: 6B (76)
五濁悪世のわれらこそ
金剛の信心ばかりにて
ながく生死をすてはてて
自然の浄土にいたるなれ

591:11B (77)
金剛堅固の信心の
さだまるときをまちえてぞ
弥陀の心光摂護して
ながく生死をへだてける

592: 1A (78)
真実信心えざるをば
一心かけぬとをしへたり
一心かけたるひとはみな
三信具せずとおもふべし

592: 6A (79)
利他の信楽うるひとは
願に相応するゆゑに
教と仏語にしたがへば
外の雑縁さらになし

592:11A (80)
真宗念仏ききえつつ
一念無疑なるをこそ
希有最勝人とほめ
正念をうとはさだめたれ

592: 1B (81)
本願相応せざるゆゑ
雑縁きたりみだるなり
信心乱失するをこそ
正念うすとはのべたまへ

592: 6B (82)
信は願より生ずれば
念仏成仏自然なり
自然はすなはち報土なり
証大涅槃うたがはず

592:11B (83)
五濁増のときいたり
疑謗のともがらおほくして
道俗ともにあひきらひ
修するをみてはあだをなす

593: 1A (84)
本願毀滅のともがらは
生盲闡提となづけたり
大地微塵劫をへて
ながく三塗にしづむなり

593: 6A (85)
西路を指授せしかども
自障障他せしほどに
曠劫以来もいたづらに
むなしくこそはすぎにけれ

593:11A (86)
弘誓のちからをかぶらずは
いづれのときにか娑婆をいでん
仏恩ふかくおもひつつ
つねに弥陀を念ずべし

593: 1B (87)
娑婆永劫の苦をすてて
浄土無為を期すること
本師釈迦のちからなり
長時に慈恩を報ずべし

593: 6B  以上善導大師

593: 9B 源信大師 釈文に付けて 十首

593:11B (88)
源信和尚ののたまはく
われこれ故仏とあらはれて
化縁すでにつきぬれば
本土にかへるとしめしけり

594: 1A (89)
本師源信ねんごろに
一代仏教のそのなかに
念仏一門ひらきてぞ
濁世末代をしへける

594: 6A (90)
霊山聴衆とおはしける
源信僧都のをしへには
報化二土ををしへてぞ
専雑の得失さだめたる

594:11A (91)
本師源信和尚は
懐感禅師の釈により
処胎経をひらきてぞ
懈慢界をばあらはせる

594: 1B (92)
専修のひとをほむるには
千無一失とをしへたり
雑修のひとをきらふには
万不一生とのべたまふ

594: 6B (93)
報の浄土の往生は
おほからずとぞあらはせる
化土にうまるる衆生をば
すくなからずとをしへたり

594:11B (94)
男女貴賎ことごとく
弥陀の名号称するに
行住座臥もえらばれず
時処諸縁もさはりなし

595: 1A (95)
煩悩にまなこさへられて
摂取の光明みざれども
大悲ものうきことなくて
つねにわが身をてらすなり

595: 6A (96)
弥陀の報土をねがふひと
外儀のすがたはことなりと
本願名号信受して
寤寐にわするることなかれ

595:11A (97)
極悪深重の衆生は
他の方便さらになし
ひとへに弥陀を称してぞ
浄土にうまるとのべたまふ

595: 1B  以上源信大師

595: 4B 源空聖人 釈文に付けて 二十首

595: 6B (98)
本師源空世にいでて
弘願の一乗ひろめつつ
日本一州ことごとく
浄土の機縁あらはれぬ

595:11B (99)
智慧光のちからより
本師源空あらはれて
浄土真宗をひらきつつ
選択本願のべたまふ

596: 1A (100)
善導・源信すすむとも
本師源空ひろめずは
片州濁世のともがらは
いかでか真宗をさとらまし

596: 6A (101)
曠劫多生のあひだにも
出離の強縁しらざりき
本師源空いまさずは
このたびむなしくすぎなまし

596:11A (102)
源空三五のよはひにて
無常のことわりさとりつつ
厭離の素懐をあらはして
菩提のみちにぞいらしめし

596: 1B (103)
源空智行の至徳には
聖道諸宗の師主も
みなもろともに帰せしめて
一心金剛の戒師とす

596: 6B (104)
源空存在せしときに
金色の光明はなたしむ
禅定博陸まのあたり
拝見せしめたまひけり

596:11B (105)
本師源空の本地をば
世俗のひとびとあひつたへ
綽和尚と称せしめ
あるいは善導としめしけり

597: 1A (106)
源空勢至と示現し
あるいは弥陀と顕現す
上皇・群臣尊敬し
京夷庶民欽仰す

597: 6A (107)
承久の太上法皇は
本師源空を帰敬しき
釈門・儒林みなともに
ひとしく真宗に悟入せり

597:11A (108)
諸仏方便ときいたり
源空ひじりとしめしつつ
無上の信心をしへてぞ
涅槃のかどをばひらきける

597: 1B (109)
真の知識にあふことは
かたきがなかになほかたし
流転輪廻のきはなきは
疑情のさはりにしくぞなき

597: 6B (110)
源空光明はなたしめ
門徒につねにみせしめき
賢哲・愚夫もえらばれず
豪貴・鄙賎もへだてなし

597:11B (111)
命終その期ちかづきて
本師源空のたまはく
往生みたびになりぬるに
このたびことにとげやすし

598: 1A (112)
源空みづからのたまはく
霊山会上にありしとき
声聞僧にまじはりて
頭陀を行じて化度せしむ

598: 6A (113)
粟散片州に誕生して
念仏宗をひろめしむ
衆生化度のためにとて
この土にたびたびきたらしむ

598:11A (114)
阿弥陀如来化してこそ
本師源空としめしけれ
化縁すでにつきぬれば
浄土にかへりたまひにき

598: 1B (115)
本師源空のをはりには
光明紫雲のごとくなり
音楽哀婉雅亮にて
異香みぎりに映芳す

598: 6B (116)
道俗男女預参し
卿上雲客群集す
頭北面西右脇にて
如来涅槃の儀をまもる

598:11B (117)
本師源空命終時
建暦第二壬申歳
初春下旬第五日
浄土に還帰せしめけり

599: 1A  以上源空聖人

599: 4A 以上七高僧和讃 一百十七首

599: 6A (118)
五濁悪世の衆生の
選択本願信ずれば
不可称不可説不可思議の
功徳は行者の身にみてり

599:11A 天竺 龍樹菩薩 天親菩薩

599:12A 震旦 曇鸞和尚 道綽禅師 善導禅師

599: 1B 和朝 源信和尚 源空聖人

599: 3B   以上七人

599: 5B 聖徳太子 敏達天皇元年 正月一日誕生したまふ。

599: 7B 仏滅後一千五百二十一年に当れり。

599:11B (119)
南無阿弥陀仏をとけるには
衆善海水のごとくなり
かの清浄の善身にえたり
ひとしく衆生に回向せん