◗374: 1  無量寿仏観経の意なり
 至心発願の願 邪定聚の機 双樹林下往生

◗374: 3  阿弥陀経の意なり
 至心回向の願 不定聚の機 難思往生

◗375: 1  顕浄土方便化身土文類 六
  愚禿釈親鸞集

◗375: 5 【1】つつしんで化身土を顕さば、仏は無量寿仏観経の説のごとし、真身観の仏これなり。

◗375: 6 土は観経の浄土これなり。また菩薩処胎経等の説のごとし、すなはち懈慢界これなり。また大無量寿経の説のごとし、すなはち疑城胎宮これなり。

◗375: 9 【2】しかるに濁世の群萌、穢悪の含識、いまし九十五種の邪道を出でて、半満・権実の法門に入るといへども、真なるものははなはだもつて難く、実なるものははなはだもつて希なり。偽なるものははなはだもつて多く、虚なるものははなはだもつて滋し。

◗375:12 ここをもつて釈迦牟尼仏、福徳蔵を顕説して群生海を誘引し、阿弥陀如来、本誓願を発してあまねく諸有海を化したまふ。

◗375:14 すでにして悲願います。修諸功徳の願と名づく、

◗375:15 また臨終現前の願と名づく、また現前導生の願と名づく、また来迎引接の願と名づく、

◗376: 1 また至心発願の願と名づくべきなり。

◗376: 2 【3】ここをもつて大経の願にのたまはく、

◗376: 2 たとひわれ仏を得たらんに、十方の衆生、菩提心を発し、もろもろの功徳を修し、心を至し発願してわが国に生ぜんと欲はん。寿終の時に臨んで、たとひ大衆と囲繞してその人の前に現ぜずは、正覚を取らじと。

◗376: 6 【4】悲華経の大施品にのたまはく、

◗376: 6 願はくは、われ阿耨多羅三藐三菩提を成りをはらんに、その余の無量無辺阿僧祇の諸仏世界の所有の衆生、もし阿耨多羅三藐三菩提心を発し、もろもろの善根を修して、わが界に生ぜんと欲はんもの、臨終の時、われまさに大衆と囲繞して、その人の前に現ずべし。その人、われを見て、すなはちわが前にして心に歓喜を得ん。われを見るをもつてのゆゑに、もろもろの障礙を離れてすなはち身を捨ててわが界に来生せしめんと。以上

◗376:13 【5】この願成就の文は、すなはち三輩の文これなり、観経の定散九品の文これなり。

◗376:15 【6】また大経にのたまはく、

◗376:15 また無量寿仏のその道場樹は、高さ四百万里なり、その本周囲五十由旬なり、枝葉四に布きて二十万里なり。一切の衆宝自然に合成せり。月光摩尼・持海輪宝の衆宝の王たるをもつて、これを荘厳せり。乃至

◗377: 3 阿難、もしかの国の人天、この樹を見るものは三法忍を得ん。一つには音響忍、二つには柔順忍、三つには無生法忍なり。これみな無量寿仏の威神力のゆゑに、本願力のゆゑに、満足願のゆゑに、明了願のゆゑに、堅固願のゆゑに、究竟願のゆゑなりと。乃至

◗377: 6 また講堂・精舎・宮殿・楼観、みな七宝をもつて荘厳し、自然に化成せり。また真珠・明月摩尼衆宝をもつて、もつて交露とす、その上に覆蓋せり。

◗377: 8 内外左右にもろもろの浴池あり。十由旬、あるいは二十・三十、乃至百千由旬なり。縦広深浅、おのおのみな一等なり。八功徳水、湛然として盈満せり、清浄香潔にして味はひ甘露のごとしと。

◗377:11 【7】またのたまはく、

◗377:11 それ胎生のものは、処するところの宮殿、あるいは百由旬、あるいは五百由旬なり。おのおのそのなかにして、もろもろの快楽を受くること忉利天上のごとし。またみな自然なり。

◗377:13 その時に、慈氏菩薩、仏にまうしてまうさく、世尊、なんの因なんの縁あつてか、かの国の人民、胎生・化生なると。

◗377:15 仏、慈氏に告げたまはく、もし衆生ありて、疑惑の心をもつてもろもろの功徳を修して、かの国に生ぜんと願ぜん。仏智・不思議智・不可称智・大乗広智・無等無倫最上勝智を了らずして、この諸智において疑惑して信ぜず。しかも、なほ罪福を信じて、善本を修習して、その国に生ぜんと願ぜん。

◗378: 4 このもろもろの衆生、かの宮殿に生じて、寿五百歳、つねに仏を見たてまつらず、経法を聞かず、菩薩・声聞聖衆を見ず。このゆゑにかの国土にはこれを胎生といふ。乃至

◗378: 6 弥勒まさに知るべし、かの化生のものは智慧勝れたるがゆゑに。その胎生のものはみな智慧なきなりと。乃至

◗378: 7 仏、弥勒に告げたまはく、たとへば転輪聖王のごとし。七宝の牢獄あり。種々に荘厳し床帳を張設し、もろもろの繒幡を懸けたらん。もしもろもろの小王子、罪を王に得たらん、すなはちかの獄のうちに内れて、繋ぐに金鎖をもつてせんと。乃至

◗378:11 仏、弥勒に告げたまはく、このもろもろの衆生、またまたかくのごとし。仏智を疑惑するをもつてのゆゑに、かの胎宮に生れん。乃至

◗378:12 もしこの衆生、その本の罪を識りて、深くみづから悔責してかの処を離るることを求めん。乃至

◗378:14 弥勒まさに知るべし、それ菩薩ありて疑惑を生ぜば、大利を失すとすと。以上抄出

◗378:15 【8】如来会にのたまはく、

◗378:15 仏、弥勒に告げたまはく、もし衆生ありて、疑悔に随ひて善根を積集して、仏智・普遍智・不思議智・無等智・威徳智・広大智を希求せん。みづからの善根において信を生ずることあたはず。この因縁をもつて、五百歳において宮殿のうちに住せん。乃至

◗379: 3 阿逸多、なんぢ殊勝智のものを観ずるに、かれは広慧の力によるがゆゑに、かの蓮華のなかに化生することを受けて結跏趺座せん。なんぢ下劣の輩を観ずるに、乃至 もろもろの功徳を修習することあたはず。ゆゑに因なくして無量寿仏に奉事せん。このもろもろの人等は、みな昔の縁、疑悔をなして致すところなればなりと。乃至

◗379: 8 仏、弥勒に告げたまはく、かくのごとし、かくのごとし。もし疑悔に随ひて、もろもろの善根を種ゑて、仏智乃至広大智を希求することあらん。みづからの善根において信を生ずることあたはず。仏の名を聞くによりて信心を起すがゆゑに、かの国に生ずといへども、蓮華のうちにして出現することを得ず。かれらの衆生、華胎のうちに処すること、なほ園苑宮殿の想のごとしと。抄要

◗379:13 【9】大経にのたまはく、

◗379:13 もろもろの小行の菩薩、および少功徳を修習するもの、称計すべからず。みなまさに往生すべしと。

◗379:15 【10】またのたまはく、

◗379:15 いはんや、余の菩薩、少善根によりて、かの国に生ずるもの、称計すべからずと。以上

◗380: 2 【11】光明寺の釈にいはく、

◗380: 2 華に含みていまだ出でず。あるいは辺界に生じ、あるいは宮胎に堕せんと。以上

◗380: 4 【12】憬興師のいはく、

◗380: 4 仏智を疑ふによりて、かの国に生れて、辺地にありといへども、聖化の事を被らず。もし胎生せば、よろしくこれを重く捨つべしと。以上

◗380: 7 【13】首楞厳院の要集に、感禅師の釈を引きていはく、

◗380: 8 問ふ。菩薩処胎経の第二に説かく、西方この閻浮提を去ること十二億那由他に懈慢界あり。乃至 意を発せる衆生、阿弥陀仏国に生ぜんと欲ふもの、みな深く懈慢国土に着して、前進んで阿弥陀仏国に生ずることあたはず。億千万の衆、時に一人ありて、よく阿弥陀仏国に生ずと云々。この経をもつて准難するに、生ずることを得べしやと。

◗380:12 答ふ。群疑論に善導和尚の前の文を引きて、この難を釈して、またみづから助成していはく、この経の下の文にいはく、なにをもつてのゆゑに、みな懈慢によりて執心牢固ならずと。

◗380:15 ここに知んぬ、雑修のものは執心不牢の人とす。ゆゑに懈慢国に生ず。もし雑修せずして、もつぱらこの業を行ぜば、これすなはち執心牢固にして、さだめて極楽国に生ぜん。乃至

◗381: 2 また報の浄土に生ずるものはきはめて少なし。化の浄土のなかに生ずるものは少なからず。ゆゑに経の別説、実に相違せざるなりと。以上略抄

◗381: 5 【14】しかれば、それ楞厳の和尚の解義を案ずるに、念仏証拠門のなかに、第十八の願は別願のなかの別願なりと顕開したまへり。観経の定散の諸機は、極重悪人、ただ弥陀を称せよと勧励したまへるなり。濁世の道俗、よくみづからおのれが能を思量せよとなり、知るべし。

◗381:10 【15】問ふ。大本の三心と観経の三心と一異いかんぞや。

◗381:11 答ふ。釈家の意によりて無量寿仏観経を案ずれば、顕彰隠密の義あり。

◗381:12 顕といふは、すなはち定散諸善を顕し、三輩・三心を開く。しかるに二善・三福は報土の真因にあらず。諸機の三心は、自利各別にして利他の一心にあらず。如来の異の方便、欣慕浄土の善根なり。これはこの経の意なり。すなはちこれ顕の義なり。

◗381:15 彰といふは、如来の弘願を彰し、利他通入の一心を演暢す。達多・闍世の悪逆によりて、釈迦微笑の素懐を彰す。韋提別選の正意によりて、弥陀大悲の本願を開闡す。これすなはちこの経の隠彰の義なり。

◗382: 4  ここをもつて経には、教我観於清浄業処といへり。清浄業処といふは、すなはちこれ本願成就の報土なり。

◗382: 5 教我思惟といふは、すなはち方便なり。

◗382: 6 教我正受といふは、すなはち金剛の真心なり。

◗382: 7 諦観彼国浄業成者といへり、本願成就の尽十方無礙光如来を観知すべしとなり。

◗382: 8 広説衆譬といへり、すなはち十三観これなり。

◗382: 9 汝是凡夫心想羸劣といへり、すなはちこれ悪人往生の機たることを彰すなり。

◗382:10 諸仏如来有異方便といへり、すなはちこれ定散諸善は方便の教たることを顕すなり。

◗382:11 以仏力故見彼国土といへり、これすなはち他力の意を顕すなり。

◗382:12 若仏滅後諸衆生等といへり、すなはちこれ未来の衆生、往生の正機たることを顕すなり。

◗382:13 若有合者名為粗想といへり、これ定観成じがたきことを顕すなり。

◗382:14 於現身中得念仏三昧といへり、すなはちこれ定観成就の益は、念仏三昧を獲るをもつて観の益とすることを顕す。すなはち観門をもつて方便の教とせるなり。

◗383: 1 発三種心即便往生といへり。また復有三種衆生当得往生といへり。これらの文によるに、三輩について、三種の三心あり、また二種の往生あり。

◗383: 4  まことに知んぬ、これいましこの経に顕彰隠密の義あることを。

◗383: 5 二経の三心、まさに一異を談ぜんとす、よく思量すべきなり。大経・観経、顕の義によれば異なり、彰の義によれば一なり、知るべし。

◗383: 8 【16】しかれば、光明寺の和尚のいはく、

◗383: 8 しかるに娑婆の化主、その請によるがゆゑに、すなはち広く浄土の要門を開く。安楽の能人は別意の弘願を顕彰す。

◗383:10 その要門とはすなはちこの観経の定散二門これなり。定はすなはち慮りを息めてもつて心を凝らす。散はすなはち悪を廃してもつて善を修す。この二行を回して往生を求願せよとなり。

◗383:13 弘願といふは大経の説のごとしといへり。

◗383:14 【17】またいはく、

◗383:14 いまこの観経はすなはち観仏三昧をもつて宗とす、また念仏三昧をもつて宗とす。一心に回願して浄土に往生するを体とす。

◗384: 1 教の大小といふは、問うていはく、この経は二蔵のなかには、いづれの蔵にか摂する、二教のなかには、いづれの教にか収むるやと。

◗384: 2 答へていはく、いまこの観経は菩薩蔵に収む。頓教の摂なりと。

◗384: 4 【18】またいはく、

◗384: 4 また如是といふは、すなはちこれは法を指す、定散両門なり。是はすなはち定むる辞なり。機、行ずればかならず益す。これは如来の所説の言、錯謬なきことを明かす。ゆゑに如是と名づく。

◗384: 7 また如といふは衆生の意のごとしとなり。心の所楽に随ひて仏すなはちこれを度したまふ。機教相応せるをまた称して是とす。ゆゑに如是といふ。

◗384: 9 また如是といふは、如来の所説を明かさんと欲す。漸を説くことは漸のごとし、頓を説くことは頓のごとし。相を説くことは相のごとし、空を説くことは空のごとし。

◗384:11 人法を説くこと人法のごとし、天法を説くこと天法のごとし。小を説くこと小のごとし、大を説くこと大のごとし。

◗384:12 凡を説くこと凡のごとし、聖を説くこと聖のごとし。因を説くこと因のごとし、果を説くこと果のごとし。

◗384:14 苦を説くこと苦のごとし、楽を説くこと楽のごとし。遠を説くこと遠のごとし、近を説くこと近のごとし。

◗384:15 同を説くこと同のごとし、別を説くこと別のごとし。浄を説くこと浄のごとし、穢を説くこと穢のごとし。

◗385: 1 一切の法を説くこと千差万別なり。如来の観知、歴々了然として、心に随ひて行を起して、おのおの益すること同じからず。業果法然としてすべて錯失なし、また称して是とす。ゆゑに如是といふと。

◗385: 5 【19】またいはく、

◗385: 5 欲生彼国者より下名為浄業に至るまでこのかたは、まさしく三福の行を勧修することを明かす。

◗385: 6 これは一切衆生の機に二種あることを明かす。一つには定、二つには散なり。もし定行によれば、すなはち生を摂するに尽きず。これをもつて如来方便して三福を顕開して、もつて散動の根機に応じたまへりと。

◗385:10 【20】またいはく、

◗385:10 また真実に二種あり。一つには自利真実、二つには利他真実なり。

◗385:11 自利真実といふは、また二種あり。

◗385:11 一つには、真実心のうちに自他の諸悪および穢国等を制捨して、行住坐臥に、一切菩薩の諸悪を制捨するに同じく、われもまたかくのごとくせんと想ふ。

◗385:13 二つには、真実心のうちに自他凡聖等の善を勤修す。

◗385:14 真実心のうちの口業に、かの阿弥陀仏および依正二報を讃嘆す。また真実心のうちの口業に、三界六道等の自他の依正二報の苦悪のことを毀厭す。また一切衆生の三業所為の善を讃嘆す。もし善業にあらずは、つつしんでこれを遠ざかれ、また随喜せざれとなり。

◗386: 2 また真実心のうちの身業に、合掌し礼敬し、四事等をもつてかの阿弥陀仏および依正二報を供養す。また真実心のうちの身業に、この生死三界等の自他の依正二報を軽慢し厭捨す。

◗386: 5 また真実心のうちの意業に、かの阿弥陀仏および依正二報を思想し観察し憶念して、目の前に現ぜるがごとくす。また真実心のうちの意業に、この生死三界等の自他の依正二報を軽賎し厭捨すと。乃至

◗386: 8  また決定して、釈迦仏、この観経に三福九品・定散二善を説きて、かの仏の依正二報を証讃して人をして欣慕せしむと深信すと。乃至

◗386: 9 また深心の深信とは、決定して自心を建立して、教に順じて修行し、永く疑錯を除きて、一切の別解・別行・異学・異見・異執のために退失傾動せられざるなりと。乃至

◗386:12  次に行について信を立てば、しかるに行に二種あり。一つには正行、二つには雑行なり。

◗386:13 正行といふは、もつぱら往生経の行によりて行ずるものは、これを正行と名づく。

◗386:14 なにものかこれや。一心にもつぱらこの観経・弥陀経・無量寿経等を読誦する。一心にかの国の二報荘厳を専注し思想し観察し憶念する。もし礼せばすなはち一心にもつぱらかの仏を礼する。もし口に称せばすなはち一心にもつぱらかの仏を称せよ。もし讃嘆供養せばすなはち一心にもつぱら讃嘆供養する。これを名づけて正とす。

◗387: 3 またこの正のなかについて、また二種あり。

◗387: 4 一つには、一心に弥陀の名号を専念して、行住坐臥に時節の久近を問はず、念々に捨てざるものは、これを正定の業と名づく、かの仏願に順ずるがゆゑに。

◗387: 6 もし礼誦等によるは、すなはち名づけて助業とす。

◗387: 7 この正助二行を除きて以外の自余の諸善は、ことごとく雑行と名づく。もし前の正助二行を修するは、心つねに親近し、憶念断えず、名づけて無間とす。もし後の雑行を行ずるは、すなはち心つねに間断す。回向して生ずることを得べしといへども、すべて疎雑の行と名づくるなり。

◗387:10 ゆゑに深心と名づく。

◗387:11  三つには回向発願心。

◗387:11 回向発願心といふは、過去および今生の身口意業に修するところの世・出世の善根、および他の一切の凡聖の身口意業に修するところの世・出世の善根を随喜して、この自他所修の善根をもつて、ことごとくみな真実の深信の心のうちに回向して、かの国に生ぜんと願ず。ゆゑに回向発願心と名づくるなりと。

◗388: 1 【21】またいはく、

◗388: 1 定善は観を示す縁なりと。

◗388: 2 【22】またいはく、

◗388: 2 散善は行を顕す縁なりと。

◗388: 3 【23】またいはく、

◗388: 3 浄土の要逢ひがたしと。文抄出

◗388: 4 【24】またいはく、

◗388: 4 観経の説のごとし。まづ三心を具してかならず往生を得。なんらをか三つとする。

◗388: 5 一つには至誠心。いはゆる身業にかの仏を礼拝す、口業にかの仏を讃嘆し称揚す、意業にかの仏を専念し観察す。およそ三業を起すに、かならず真実を須ゐるがゆゑに至誠心と名づく。乃至

◗388: 8 三つには回向発願心。所作の一切の善根、ことごとくみな回して往生を願ず、ゆゑに回向発願心と名づく。

◗388: 9 この三心を具してかならず生ずることを得るなり。もし一心少けぬればすなはち生ずることを得ず。観経につぶさに説くがごとし、知るべしと。乃至

◗388:12  また菩薩はすでに生死を勉れて、所作の善法回して仏果を求む、すなはちこれ自利なり。衆生を教化して未来際を尽す、すなはちこれ利他なり。しかるに今の時の衆生、ことごとく煩悩のために繋縛せられて、いまだ悪道生死等の苦を勉れず。縁に随ひて行を起して、一切の善根つぶさにすみやかに回して、阿弥陀仏国に往生せんと願ぜん。かの国に到りをはりて、さらに畏るるところなけん。上のごときの四修、自然任運にして、自利利他具足せざることなしと、知るべしと。

◗389: 4 【25】またいはく、

◗389: 4 もし専を捨てて雑業を修せんとするものは、百は時に希に一二を得、千は時に希に五三を得。

◗389: 5 なにをもつてのゆゑに、いまし雑縁乱動す、正念を失するによるがゆゑに、仏の本願と相応せざるがゆゑに、教と相違せるがゆゑに、仏語に順ぜざるがゆゑに、係念相続せざるがゆゑに、憶想間断するがゆゑに、回願慇重真実ならざるがゆゑに、貪・瞋・諸見の煩悩来り間断するがゆゑに、慚愧・懴悔の心あることなきがゆゑに。

◗389: 9 懴悔に三品あり。乃至

◗389:11  上・中・下なり。

◗389:11 上品の懴悔とは、身の毛孔のうちより血を流し、眼のうちより血出すをば上品の懴悔と名づく。

◗389:12 中品の懴悔とは、遍身に熱き汗毛孔より出づ、眼のうちより血の流るるをば中品の懴悔と名づく。

◗389:13 下品の懴悔とは、遍身徹り熱く、眼のうちより涙出づるをば下品の懴悔と名づく。

◗389:14 これらの三品、差別ありといへども、これ久しく解脱分の善根を種ゑたる人なり。今生に法を敬ひ、人を重くし、身命を惜しまず、乃至小罪ももし懴すれば、すなはちよく心髄に徹りて、よくかくのごとく懴すれば、久近を問はず、所有の重障みなたちまちに滅尽せしむることを致す。

◗390: 3 もしかくのごとくせざれば、たとひ日夜十二時、急に走むれども、つひにこれ益なし。差うてなさざるものは知んぬべし。流涙・流血等にあたはずといへども、ただよく真心徹到するものは、すなはち上と同じと。以上

◗390: 7 【26】またいはく、

◗390: 7 すべて余の雑業の行者を照摂すと論ぜずと。

◗390: 9 【27】またいはく、

◗390: 9 如来五濁に出現して、宜しきに随ひて方便して群萌を化したまふ。あるいは多聞にして得度すと説き、あるいは少しき解りて三明を証すと説く。

◗390:11 あるいは福慧ならべて障を除くと教へ、あるいは禅念して座して思量せよと教ふ。種々の法門みな解脱すと。

◗390:13 【28】またいはく、

◗390:13 万劫功を修せんことまことに続きがたし。一時に煩悩百たび千たび間はる。もし娑婆にして法忍を証せんことを待たば、六道にして恒沙の劫にもいまだ期あらじ。

◗390:15 門々不同なるを漸教と名づく。万劫苦行して無生を証す。畢命を期としてもつぱら念仏すべし。須臾に命断ゆれば、仏迎へ将てまします。

◗391: 2 一食の時なほ間あり、いかんが万劫貪瞋せざらん。貪瞋は人天を受くる路を障ふ。三悪・四趣のうちに身を安んずと。抄要

◗391: 4 【29】またいはく、

◗391: 4 定散ともに回して宝国に入れ。すなはちこれ如来の異の方便なり。韋提はすなはちこれ女人の相、貪瞋具足の凡夫の位なりと。以上

◗391: 7 【30】論の註にいはく、

◗391: 7 二種の功徳相あり。一つには有漏の心より生じて法性に順ぜず。いはゆる凡夫、人天の諸善、人天の果報、もしは因、もしは果、みなこれ顛倒す、みなこれ虚偽なり。ゆゑに不実の功徳と名づくと。以上

◗391:11 【31】安楽集にいはく、

◗391:11 大集経の月蔵分を引きていはく、わが末法の時のなかに、億々の衆生、行を起し道を修せんに、いまだ一人も得るものあらじと。

◗391:13 当今は末法なり。この五濁悪世には、ただ浄土の一門ありて、通入すべき路なりと。

◗391:15 【32】またいはく、

◗391:15 いまだ一万劫を満たざるこのかたは、つねにいまだ火宅を勉れず、顛倒墜堕するがゆゑに。おのおの功を用ゐることは至りて重く、獲る報は偽なりと。以上

◗392: 3 【33】しかるにいま大本によるに、真実・方便の願を超発す。また観経には、方便・真実の教を顕彰す。小本には、ただ真門を開きて方便の善なし。ここをもつて三経の真実は、選択本願を宗とするなり。また三経の方便は、すなはちこれもろもろの善根を修するを要とするなり。

◗392: 8  これによりて方便の願を案ずるに、仮あり真あり、また行あり信あり。願とはすなはちこれ臨終現前の願なり。行とはすなはちこれ修諸功徳の善なり。信とはすなはちこれ至心・発願・欲生の心なり。

◗392:11 この願の行信によりて、浄土の要門、方便権仮を顕開す。

◗392:11 この要門より正・助・雑の三行を出せり。この正助のなかについて、専修あり雑修あり。機について二種あり。一つには定機、二つには散機なり。

◗392:13 また二種の三心あり。また二種の往生あり。

◗392:14 二種の三心とは、一つには定の三心、二つには散の三心なり。定散の心はすなはち自利各別の心なり。

◗392:15 二種の往生とは、一つには即往生、二つには便往生なり。便往生とはすなはちこれ胎生辺地、双樹林下の往生なり。即往生とはすなはちこれ報土化生なり。

◗393: 3 またこの経に真実あり。これすなはち金剛の真心を開きて、摂取不捨を顕さんと欲す。しかれば、濁世能化の釈迦善逝、至心信楽の願心を宣説したまふ。報土の真因は信楽を正とするがゆゑなり。

◗393: 6 ここをもつて大経には信楽とのたまへり、如来の誓願、疑蓋雑はることなきがゆゑに信とのたまへるなり。観経には深心と説けり、諸機の浅信に対せるがゆゑに深とのたまへるなり。小本には一心とのたまへり、二行雑はることなきがゆゑに一とのたまへるなり。また一心について深あり浅あり。深とは利他真実の心これなり、浅とは定散自利の心これなり。

◗393:12 【34】宗師の意によるに、心によりて勝行を起せり。門八万四千に余れり。漸頓すなはちおのおの所宜に称へり。縁に随ふものすなはちみな解脱を蒙るといへり。

◗393:14 しかるに常没の凡愚、定心修しがたし、息慮凝心のゆゑに。散心行じがたし、廃悪修善のゆゑに。ここをもつて立相住心なほ成じがたきがゆゑに、たとひ千年の寿を尽すとも、法眼いまだかつて開けずといへり。

◗394: 2 いかにいはんや、無相離念まことに獲がたし。ゆゑに、如来はるかに末代罪濁の凡夫を知ろしめして、相を立て心を住すとも、なほ得ることあたはじと。いかにいはんや、相を離れて事を求めば、術通なき人の空に居て舎を立てんがごときなりといへり。

◗394: 6 門余といふは、門はすなはち八万四千の仮門なり、余はすなはち本願一乗海なり。

◗394: 8 【35】おほよそ一代の教について、この界のうちにして入聖得果するを聖道門と名づく、難行道といへり。この門のなかについて、大・小、漸・頓、一乗・二乗・三乗、権・実、顕・密、竪出・竪超あり。すなはちこれ自力、利他教化地、方便権門の道路なり。

◗394:11 安養浄刹にして入聖証果するを浄土門と名づく、易行道といへり。この門のなかについて、横出・横超、仮・真、漸・頓、助正・雑行、雑修・専修あるなり。

◗394:13 正とは五種の正行なり。助とは名号を除きて以外の五種これなり。雑行とは、正助を除きて以外をことごとく雑行と名づく。これすなはち横出・漸教、定散・三福、三輩・九品、自力仮門なり。

◗395: 1 横超とは、本願を憶念して自力の心を離る、これを横超他力と名づくるなり。これすなはち専のなかの専、頓のなかの頓、真のなかの真、乗のなかの一乗なり。これすなはち真宗なり。すでに真実行のなかに顕しをはんぬ。

◗395: 5 【36】それ雑行雑修、その言一つにして、その意これ異なり。雑の言において万行を摂入す。五正行に対して五種の雑行あり。雑の言は、人・天・菩薩等の解行、雑せるがゆゑに雑といへり。もとより往生の因種にあらず、回心回向の善なり。ゆゑに浄土の雑行といふなり。

◗395: 8 また雑行について、専行あり専心あり、また雑行あり雑心あり。

◗395: 9 専行とはもつぱら一善を修す、ゆゑに専行といふ。専心とは回向をもつぱらにするがゆゑに専心といへり。

◗395:11 雑行雑心とは、諸善兼行するがゆゑに雑行といふ、定散心雑するがゆゑに雑心といふなり。

◗395:12 また正・助について専修あり雑修あり。この雑修について専心あり雑心あり。

◗395:13 専修について二種あり。一つにはただ仏名を称す、二つには五専あり。この行業について専心あり雑心あり。五専とは、一つには専礼、二つには専読、三つには専観、四つには専称、五つには専讃嘆なり。これを五専修と名づく。専修、その言一つにして、その意これ異なり。すなはちこれ定専修なり、また散専修なり。

◗396: 2 専心とは、五正行をもつぱらにして、二心なきがゆゑに専心といふ。すなはちこれ定専心なり、またこれ散専心なり。

◗396: 4 雑修とは、助正兼行するがゆゑに雑修といふ。

◗396: 5 雑心とは、定散の心雑するがゆゑに雑心といふなり、知るべし。

◗396: 6  おほよそ浄土の一切諸行において、綽和尚は万行といひ、導和尚は雑行と称す。感禅師は諸行といへり。信和尚は感師により、空聖人は導和尚によりたまふ。

◗396: 9 経家によりて師釈を披くに、雑行のなかの雑行雑心・雑行専心・専行雑心あり。また正行のなかの専修専心・専修雑心・雑修雑心は、これみな辺地・胎宮・懈慢界の業因なり。ゆゑに極楽に生ずといへども三宝を見たてまつらず。仏心の光明、余の雑業の行者を照摂せざるなり。

◗396:13 仮令の誓願まことに由あるかな。仮門の教、欣慕の釈、これいよいよあきらかなり。

◗396:15  二経の三心、顕の義によれば異なり、彰の義によれば一なり。

◗396:15 三心一異の義、答へをはんぬ。

◗397: 2 【37】また問ふ。大本と観経の三心と、小本の一心と、一異いかんぞや。

◗397: 4  答ふ。いま方便真門の誓願について、行あり信あり。また真実あり方便あり。

◗397: 5 願とはすなはち植諸徳本の願これなり。行とはこれに二種あり。一つには善本、二つには徳本なり。

◗397: 6 信とはすなはち至心・回向・欲生の心これなり。二十願なり 機について定あり散あり。

◗397: 7 往生とはこれ難思往生これなり。仏とはすなはち化身なり。土とはすなはち疑城胎宮これなり。

◗397: 9 観経に准知するに、この経にまた顕彰隠密の義あるべし。

◗397:10 顕といふは、経家は一切諸行の少善を嫌貶して、善本徳本の真門を開示し、自利の一心を励まして難思の往生を勧む。

◗397:11 ここをもつて経には多善根・多功徳・多福徳因縁と説き、釈には九品ともに回して不退を得よといへり。あるいは無過念仏往西方三念五念仏来迎といへり。

◗397:14 これはこれ、この経の顕の義を示すなり。これすなはち真門のなかの方便なり。

◗397:15 彰といふは、真実難信の法を彰す。これすなはち不可思議の願海を光闡して、無礙の大信心海に帰せしめんと欲す。

◗398: 2 まことに勧め、すでに恒沙の勧めなれば、信もまた恒沙の信なり。ゆゑに甚難といへるなり。釈に、ただちに弥陀の弘誓重なれるをもつて、凡夫念ずればすなはち生ぜしむることを致すといへり。

◗398: 5 これはこれ、隠彰の義を開くなり。

◗398: 5 経に執持とのたまへり。また一心とのたまへり。執の言は心堅牢にして移転せざることを彰すなり。持の言は不散不失に名づくるなり。一の言は無二に名づくるの言なり。心の言は真実に名づくるなり。

◗398: 9 この経は大乗修多羅のなかの無問自説経なり。しかれば如来、世に興出したまふゆゑは、恒沙の諸仏の証護の正意、ただこれにあるなり。

◗398:11 ここをもつて四依弘経の大士、三朝浄土の宗師、真宗念仏を開きて、濁世の邪偽を導く。

◗398:12 三経の大綱、顕彰隠密の義ありといへども、信心を彰して能入とす。ゆゑに経のはじめに如是と称す。

◗398:13 如是の義はすなはちよく信ずる相なり。いま三経を案ずるに、みなもつて金剛の真心を最要とせり。真心はすなはちこれ大信心なり。大信心は希有・最勝・真妙・清浄なり。なにをもつてのゆゑに、大信心海ははなはだもつて入りがたし、仏力より発起するがゆゑに。真実の楽邦はなはだもつて往き易し、願力によりてすなはち生ずるがゆゑなり。

◗399: 3 いままさに一心一異の義を談ぜんとす、まさにこの意なるべしと。

◗399: 4 三経一心の義、答へをはんぬ。

◗399: 5 【38】それ濁世の道俗、すみやかに円修至徳の真門に入りて、難思往生を願ふべし。

◗399: 6 真門の方便につきて、善本あり徳本あり。また定専心あり、また散専心あり、また定散雑心あり。

◗399: 7 雑心とは、大小・凡聖・一切善悪、おのおの助正間雑の心をもつて名号を称念す。まことに教は頓にして根は漸機なり。行は専にして心は間雑す。ゆゑに雑心といふなり。

◗399: 9 定散の専心とは、罪福を信ずる心をもつて本願力を願求す、これを自力の専心と名づくるなり。

◗399:11 善本とは如来の嘉名なり。この嘉名は万善円備せり、一切善法の本なり。ゆゑに善本といふなり。

◗399:12 徳本とは如来の徳号なり。この徳号は一声称念するに、至徳成満し衆禍みな転ず、十方三世の徳号の本なり。ゆゑに徳本といふなり。

◗399:14 しかればすなはち、釈迦牟尼仏は、功徳蔵を開演して、十方濁世を勧化したまふ。阿弥陀如来はもと果遂の誓 この果遂の願とは二十願なり を発して、諸有の群生海を悲引したまへり。

◗400: 2 すでにして悲願います。植諸徳本の願と名づく、また係念定生の願と名づく、また不果遂者の願と名づく、また至心回向の願と名づくべきなり。

◗400: 4 【39】ここをもつて大経の願にのたまはく、

◗400: 4 たとひわれ仏を得たらんに、十方の衆生、わが名号を聞きて、念をわが国に係けて、もろもろの徳本を植ゑて、心を至し回向してわが国に生ぜんと欲はん。果遂せずは正覚を取らじと。

◗400: 8 【40】またのたまはく、

◗400: 8 この諸智において疑惑して信ぜず、しかるになほ罪福を信じて、善本を修習して、その国に生ぜんと願ぜん。このもろもろの衆生、かの宮殿に生ずと。

◗400:11 【41】またのたまはく、

◗400:11 もしひと善本なければ、この経を聞くことを得ず。清浄に戒を有てるもの、いまし正法を聞くことを獲んと。以上

◗400:13 【42】無量寿如来会にのたまはく、

◗400:13 もしわれ成仏せんに、無量国のなかの所有の衆生、わが名を説かんを聞きて、もつておのれが善根として極楽に回向せん。もし生れずは、菩提を取らじと。以上

◗401: 1 【43】平等覚経にのたまはく、

◗401: 1 この功徳あるにあらざる人は、この経の名を聞くことを得ず。ただ清浄に戒を有てるもの、いまし還りてこの正法を聞く。

◗401: 3 悪と憍慢と蔽と懈怠とは、もつてこの法を信ずること難し。宿世の時に仏を見たてまつれるもの、楽みて世尊の教を聴聞せん。

◗401: 4 人の命希に得べし。仏は世にましませどもはなはだ値ひがたし。信慧ありて致るべからず。もし聞見せば精進して求めよと。以上

◗401: 7 【44】観経にのたまはく、

◗401: 7 仏、阿難に告げたまはく、なんぢよくこの語を持て。この語を持てといふは、すなはちこれ無量寿仏の名を持てとなりと。以上

◗401: 9 【45】阿弥陀経にのたまはく、

◗401: 9 少善根福徳の因縁をもつて、かの国に生ずることを得べからず。阿弥陀仏を説くを聞きて名号を執持せよと。以上

◗401:11 【46】光明寺の和尚のいはく、

◗401:11 自余の衆行、これ善と名づくといへども、もし念仏に比ぶれば、まつたく比挍にあらざるなり。このゆゑに、諸経のなかに処々に広く念仏の功能を讃めたり。

◗401:13 無量寿経の四十八願のなかのごとき、ただ弥陀の名号を専念して生ずることを得と明かす。

◗401:15 また弥陀経のなかのごとし、一日七日弥陀の名号を専念して生ずることを得と。また十方恒沙の諸仏の証誠虚しからざるなり。

◗402: 1 またこの経の定散の文のなかに、ただ名号を専念して生ずることを得と標す。

◗402: 3 この例一つにあらざるなり。広く念仏三昧を顕しをはんぬと。

◗402: 4 【47】またいはく、

◗402: 4 また決定して、弥陀経のなかに、十方恒沙の諸仏、一切凡夫を証勧して、決定して生ずることを得と深信せよと。乃至

◗402: 6 諸仏は言行あひ違失したまはず。たとひ釈迦一切凡夫を指勧して、この一身を尽して専念専修して、捨命以後さだめてかの国に生るるといふは、すなはち十方の諸仏ことごとくみな同じく讃め、同じく勧め、同じく証したまふ。なにをもつてのゆゑに、同体の大悲のゆゑに。一仏の所化はすなはちこれ一切仏の化なり、一切仏の化はすなはちこれ一仏の所化なり。

◗402:10 すなはち弥陀経のなかに説かく、乃至 また一切凡夫を勧めて、一日七日、一心にして弥陀の名号を専念すれば、さだめて往生を得んと。

◗402:12 次下の文にいはく、十方におのおの恒河沙等の諸仏ましまして、同じく釈迦を讃めたまはく、よく五濁悪時・悪世界・悪衆生・悪煩悩・悪邪無信の盛んなる時において、弥陀の名号を指讃して衆生を勧励して称念せしむれば、かならず往生を得と。すなはちその証なり。

◗403: 1 また十方仏等、衆生の釈迦一仏の所説を信ぜざらんことを恐畏れて、すなはちともに同心同時におのおの舌相を出して、あまねく三千世界に覆ひて誠実の言を説きたまはく、なんだち衆生、みなこの釈迦の所説・所讃・所証を信ずべし。一切の凡夫、罪福の多少、時節の久近を問はず、ただよく上百年を尽し、下一日七日に至るまで、一心に弥陀の名号を専念すれば、さだめて往生を得ること、かならず疑なきなりと。

◗403: 6 このゆゑに一仏の所説は、一切仏同じくその事を証誠したまふなり。これを人について信を立つと名づくるなりと。抄要

◗403: 9 【48】またいはく、

◗403: 9 しかるに仏願の意を望むには、ただ正念を勧め、名を称せしむ。往生の義疾きことは、雑散の業には同じからず。この経および諸部のなかに処々に広く嘆ずるがごときは、勧めて名を称せしむるを、まさに要益とせんとするなり、知るべしと。

◗403:13 【49】またいはく、

◗403:13 仏告阿難汝好持是語より以下は、まさしく弥陀の名号を付嘱して、遐代に流通することを明かす。上よりこのかた定散両門の益を説くといへども、仏の本願の意を望まんには、衆生をして一向にもつぱら弥陀仏の名を称するにありと。

◗404: 2 【50】またいはく、

◗404: 2 極楽は無為涅槃の界なり。随縁の雑善おそらくは生じがたし。ゆゑに如来要法を選びて、教へて弥陀を念ぜしめてもつぱらにしてまたもつぱらならしめたまへりと。

◗404: 5 【51】またいはく、

◗404: 5 劫尽きなんと欲する時、五濁盛んなり。衆生邪見にしてはなはだ信じがたし。もつぱらにしてもつぱらなれと指授して西路に帰せしめしに、他のために破壊せられて還りて故のごとし。

◗404: 7 曠劫よりこのかたつねにかくのごとし。これ今生にはじめてみづから悟るにあらず。まさしくよき強縁に遇はざるによりて、輪廻して得度しがたからしむることを致すと。

◗404:10 【52】またいはく、

◗404:10 種々の法門みな解脱すれども、念仏して西方に往くに過ぎたるはなし。上一形を尽し、十念・三念・五念に至るまで、仏来迎したまふ。ただちに弥陀の弘誓重なれるをもつて、凡夫念ずればすなはち生ぜしむることを致すと。

◗404:14 【53】またいはく、

◗404:14 一切如来方便を設けたまふこと、また今日の釈迦尊に同じ。機に随ひて法を説くにみな益を蒙る。おのおの悟解を得て真門に入れと。乃至

◗405: 1 仏教多門にして八万四なり。まさしく衆生の機不同なるがためなり。安身常住の処を覓めんと欲はば、まづ要行を求めて真門に入れと。

◗405: 3 【54】またいはく 智昇師の礼懴儀の文にいはく、光明寺の礼讃なり

◗405: 4 それこのごろ、みづから諸方の道俗を見聞するに、解行不同にして専雑、異あり。ただ意をもつぱらにしてなさしむれば、十はすなはち十ながら生ず。雑を修するは至心ならざれば、千がなかに一もなしと。以上

◗405: 7 【55】元照律師の弥陀経の義疏にいはく、

◗405: 7 如来、持名の功勝れたることを明かさんと欲す。まづ余善を貶して少善根とす。いはゆる布施・持戒・立寺・造像・礼誦・座禅・懴念・苦行、一切福業、もし正信なければ、回向願求するにみな少善とす。往生の因にあらず。もしこの経によりて名号を執持せば、決定して往生せん。すなはち知んぬ、称名はこれ多善根・多福徳なりと。

◗405:12 昔この解をなしし、人なほ遅疑しき。近く襄陽の石碑の経の本文を得て、理冥符せり。はじめて深信を懐く。かれにいはく、善男子・善女人、阿弥陀仏を説くを聞きて、一心にして乱れず、名号を専称せよ。称名をもつてのゆゑに、諸罪消滅す。すなはちこれ多功徳・多善根・多福徳因縁なりと。以上

◗406: 1 【56】孤山の疏にいはく、

◗406: 1 執持名号とは、執はいはく執受なり、持はいはく住持なり。信力のゆゑに執受心にあり、念力のゆゑに住持して忘れずと。以上

◗406: 4 【57】大本にのたまはく、

◗406: 4 如来の興世、値ひがたく見たてまつりがたし。諸仏の経道、得がたく聞きがたし。菩薩の勝法、諸波羅蜜、聞くことを得ることまた難し。善知識に遇ひ、法を聞きよく行ずること、これまた難しとす。もしこの経を聞きて信楽受持すること、難のなかの難、これに過ぎて難きはなけん。

◗404: 8 このゆゑにわが法かくのごとくなしき、かくのごとく説く、かくのごとく教ふ。まさに信順して法のごとく修行すべしと。以上

◗406:10 【58】涅槃経にのたまはく、

◗406:10 経のなかに説くがごとし。一切の梵行の因は善知識なり。一切梵行の因無量なりといへども、善知識を説けばすなはちすでに摂尽しぬ。わが所説のごとし、一切の悪行は邪見なり。一切悪行の因無量なりといへども、もし邪見を説けばすなはちすでに摂尽しぬ。あるいは説かく、阿耨多羅三藐三菩提は信心を因とす。これ菩提の因また無量なりといへども、もし信心を説けばすなはちすでに摂尽しぬと。

◗407: 1 【59】またのたまはく、

◗407: 1 善男子、信に二種あり。一つには信、二つには求なり。かくのごときの人、また信ありといへども、推求にあたはざる、このゆゑに名づけて信不具足とす。

◗407: 3 信にまた二種あり。一つには聞より生ず、二つには思より生ず。この人の信心、聞よりして生じて思より生ぜざる、このゆゑに名づけて信不具足とす。

◗407: 5 また二種あり。一つには道あることを信ず、二つには得者を信ず。この人の信心、ただ道あることを信じて、すべて得道の人あることを信ぜず、これを名づけて信不具足とす。

◗407: 7 また二種あり。一つには信正、二つには信邪なり。因果あり、仏法僧ありといはん、これを信正と名づく。因果なく、三宝の性異なりといひて、もろもろの邪語、富蘭那等を信ずる、これを信邪と名づく。この人、仏法僧宝を信ずといへども、三宝同一の性相を信ぜず。因果を信ずといへども得者を信ぜず。このゆゑに名づけて信不具足とす。この人、不具足信を成就すと。乃至

◗407:12 善男子、四つの善事あり、悪果を獲得せん。なんらをか四つとする。

◗407:13 一つには勝他のためのゆゑに経典を読誦す。

◗407:14 二つには利養のためのゆゑに禁戒を受持せん。

◗407:14 三つには他属のためのゆゑにして布施を行ぜん。

◗407:15 四つには非想非非想処のためのゆゑに繋念思惟せん。

◗408: 1 この四つの善事、悪果報を得ん。もし人かくのごときの四事を修習せん、これを、没して没しをはりて還りて出づ、出でをはりて還りて没すと名づく。なんがゆゑぞ没と名づくる、三有を楽ふがゆゑに。なんがゆゑぞ出と名づくる、明を見るをもつてのゆゑに。明はすなはちこれ戒・施・定を聞くなり。なにをもつてのゆゑに還りて出没するや。邪見を増長し憍慢を生ずるがゆゑに。

◗408: 6 このゆゑに、われ経のなかにおいて偈を説かく、

◗408: 6 もし衆生ありて、諸有を楽んで、有のために善悪の業を造作する。この人は涅槃道を迷失するなり。これを暫出還復没と名づく。

◗408: 8 黒闇生死海を行じて、解脱を得といへども、煩悩を雑するは、この人還りて悪果報を受く。これを暫出還復没と名づくと。

◗408:10  如来にすなはち二種の涅槃あり。一つには有為、二つには無為なり。有為涅槃は常楽我浄なし、無為涅槃は常楽我浄あり。

◗408:11 この人深くこの二種の戒ともに善果ありと信ず。このゆゑに名づけて戒不具足となす。この人は信・戒の二事を具せず、所修の多聞もまた不具足なり。

◗408:13 いかなるをか名づけて聞不具足とする。如来の所説は十二部経なり、ただ六部を信じていまだ六部を信ぜず。このゆゑに名づけて聞不具足とす。

◗408:15 またこの六部の経を受持すといへども、読誦にあたはずして他のために解説するは、利益するところなけん。このゆゑに名づけて聞不具足とす。

◗409:2 またこの六部の経を受けをはりて、論議のためのゆゑに、勝他のためのゆゑに、利養のためのゆゑに、諸有のためのゆゑに、持読誦説せん。このゆゑに名づけて聞不具足とすと。略抄

◗409: 5 【60】またのたまはく、

◗409: 5 善男子、第一真実の善知識は、いはゆる菩薩・諸仏なり。世尊、なにをもつてのゆゑに、つねに三種の善調御をもつてのゆゑなり。なんらをか三つとする。一つには畢竟軟語、二つには畢竟呵責、三つには軟語呵責なり。この義をもつてのゆゑに、菩薩・諸仏はすなはちこれ真実の善知識なり。

◗409: 9 また次に善男子、仏および菩薩を大医とするがゆゑに、善知識と名づく。なにをもつてのゆゑに、病を知りて薬を知る、病に応じて薬を授くるがゆゑに。たとへば良医の善き八種の術のごとし。まづ病相を観ず。相に三種あり。なんらをか三つとする。いはく風・熱・水なり。風病の人にはこれに蘇油を授く。熱病の人にはこれに石蜜を授く。水病の人にはこれに薑湯を授く。病根を知るをもつて薬を授くるに、差ゆることを得。ゆゑに良医と名づく。

◗409:15 仏および菩薩もまたまたかくのごとし。もろもろの凡夫の病を知るに三種あり。一つには貪欲、二つには瞋恚、三つには愚痴なり。貪欲の病には教へて骨相を観ぜしむ。瞋恚の病には慈悲の相を観ぜしむ。愚痴の病には十二縁相を観ぜしむ。この義をもつてのゆゑに諸仏・菩薩を善知識と名づく。

◗410: 4 善男子、たとへば船師のよく人を度するがゆゑに大船師と名づくるがごとし。諸仏・菩薩もまたまたかくのごとし。もろもろの衆生をして生死の大海を度す。この義をもつてのゆゑに善知識と名づくと。抄出

◗410: 7 【61】華厳経にのたまはく、

◗410: 7 なんぢ善知識を念ずるに、われを生める、父母のごとし。われを養ふ、乳母のごとし。菩提分を増長す、

◗410: 9 衆の疾を医療するがごとし。天の甘露を灑ぐがごとし。日の正道を示すがごとし。月の浄輪を転ずるがごとしと。

◗410:11 【62】またのたまはく、

◗410:11 如来大慈悲、世間に出現して、あまねくもろもろの衆生のために、無上法輪を転じたまふ。

◗410:12 如来無数劫に勤苦せしことは衆生のためなり。いかんぞもろもろの世間、よく大師の恩を報ぜんと。以上

◗410:15 【63】光明寺の和尚のいはく、

◗410:15 ただ恨むらくは、衆生の疑ふまじきを疑ふことを。浄土対面してあひ忤はず。弥陀の摂と不摂とを論ずることなかれ。意専心にして回すると回せざるとにあり。

◗411: 2 あるいはいはく、今より仏果に至るまで、長劫に仏を讃めて慈恩を報ぜん。弥陀の弘誓の力を蒙らずは、いづれの時いづれの劫にか娑婆を出でん、

◗411: 4 いかんしてか今日宝国に至ることを期せん。まことにこれ娑婆本師の力なり。もし本師知識の勧めにあらずは、弥陀の浄土いかんしてか入らん。

◗411: 6 浄土に生ずることを得て慈恩を報ぜよと。

◗411: 8 【64】またいはく、

◗411: 8 仏の世にはなはだ値ひがたし。人信慧あること難し。たまたま希有の法を聞くこと、これまたもつとも難しとす。

◗411: 9 みづから信じ、人を教へて信ぜしむること、難きなかにうたたまた難し。大悲弘く 弘の字、智昇法師の懴儀の文なり あまねく化するは、まことに仏恩を報ずるになると。

◗411:13 【65】またいはく、

◗411:13 帰去来、他郷には停まるべからず。仏に従ひて本家に帰せよ。本国に還りぬれば、一切の行願自然に成ず。

◗411:14 悲喜交はり流る。深くみづから度るに、釈迦仏の開悟によらずは、弥陀の名願いづれの時にか聞かん。仏の慈恩を荷なひても、実に報じがたしと。

◗412: 2 【66】またいはく、

◗412: 2 十方六道、同じくこれ輪廻して際なし、循々として愛波に沈みて苦海に沈む。仏道人身得がたくしていますでに得たり。浄土聞きがたくしていますでに聞けり。信心発しがたくしていますでに発せりと。以上

◗412: 6 【67】まことに知んぬ、専修にして雑心なるものは大慶喜心を獲ず。ゆゑに宗師は、かの仏恩を念報することなし。業行をなすといへども心に軽慢を生ず。つねに名利と相応するがゆゑに、人我おのづから覆ひて同行・善知識に親近せざるがゆゑに、楽みて雑縁に近づきて往生の正行を自障障他するがゆゑにといへり。

◗412:11  悲しきかな、垢障の凡愚、無際よりこのかた助正間雑し、定散心雑するがゆゑに、出離その期なし。みづから流転輪廻を度るに、微塵劫を超過すれども、仏願力に帰しがたく、大信海に入りがたし。まことに傷嗟すべし、深く悲歎すべし。

◗412:14 おほよそ大小聖人・一切善人、本願の嘉号をもつておのれが善根とするがゆゑに、信を生ずることあたはず、仏智を了らず。かの因を建立せることを了知することあたはざるゆゑに、報土に入ることなきなり。

◗413: 3 【68】ここをもつて愚禿釈の鸞、論主の解義を仰ぎ、宗師の勧化によりて、久しく万行諸善の仮門を出でて、永く双樹林下の往生を離る。善本徳本の真門に回入して、ひとへに難思往生の心を発しき。

◗413: 5 しかるにいまことに方便の真門を出でて、選択の願海に転入せり。すみやかに難思往生の心を離れて、難思議往生を遂げんと欲す。果遂の誓、まことに由あるかな。

◗413: 8 ここに久しく願海に入りて、深く仏恩を知れり。至徳を報謝せんがために、真宗の簡要を摭うて、恒常に不可思議の徳海を称念す。いよいよこれを喜愛し、ことにこれを頂戴するなり。

◗413:11 【69】まことに知んぬ、聖道の諸教は、在世・正法のためにして、まつたく像末・法滅の時機にあらず。すでに時を失し機に乖けるなり。

◗413:12 浄土真宗は、在世・正法、像末・法滅、濁悪の群萌、斉しく悲引したまふをや。

◗413:14 【70】ここをもつて経家によりて師釈を披きたるに、説人の差別を弁ぜば、おほよそ諸経の起説、五種に過ぎず。一つには仏説、二つには聖弟子説、三つには天仙説、四つには鬼神説、五つには変化説なりと。しかれば、四種の所説は信用にたらず。この三経はすなはち大聖の自説なり。

◗414: 4 【71】大論に四依を釈していはく、

◗414: 4 涅槃に入りなんとせし時、もろもろの比丘に語りたまはく、今日より法に依りて人に依らざるべし、義に依りて語に依らざるべし、智に依りて識に依らざるべし、了義経に依りて不了義に依らざるべし。

◗414: 7 法に依るとは、法に十二部あり、この法に随ふべし、人に随ふべからず。

◗414: 8 義に依るとは、義のなかに好悪・罪福・虚実を諍ふことなし、ゆゑに語はすでに義を得たり、義は語にあらざるなり。人指をもつて月を指ふ、もつてわれを示教す、指を看視して月を視ざるがごとし。人語りていはん、われ指をもつて月を指ふ、なんぢをしてこれを知らしむ、なんぢなんぞ指を看て、しかうして月を視ざるやと。これまたかくのごとし。語は義の指とす、語は義にあらざるなり。これをもつてのゆゑに、語に依るべからず。

◗414:14 智に依るとは、智はよく善悪を籌量し分別す。識はつねに楽を求む、正要に入らず。このゆゑに識に依るべからずといへり。

◗414:15 了義経に依るとは、一切智人います、仏第一なり。一切諸経書のなかに仏法第一なり。一切衆のなかに比丘僧第一なりと。

◗415: 2 無仏世の衆生を、仏これを重罪としたまへり、見仏の善根を種ゑざる人なりと。以上

◗415: 4 【72】しかれば、末代の道俗、よく四依を知りて法を修すべきなりと。

◗415: 5 【73】しかるに正真の教意によつて古徳の伝説を披く。聖道・浄土の真仮を顕開して、邪偽異執の外教を教誡す。

◗415: 6 如来涅槃の時代を勘決して正像末法の旨際を開示す。

◗415: 8 【74】ここをもつて玄中寺の綽和尚のいはく、

◗415: 8 しかるに修道の身、相続して絶えずして、一万劫を経てはじめて不退の位を証す。当今の凡夫は現に信想軽毛と名づく、また仮名といへり、また不定聚と名づく、また外の凡夫と名づく。いまだ火宅を出でず。

◗415:11 なにをもつて知ることを得んと、菩薩瓔珞経によりて、つぶさに入道行位を弁ずるに、法爾なるがゆゑに難行道と名づくと。

◗415:14 【75】またいはく、

◗415:14 教興の所由を明かして、時に約し機に被らしめて浄土に勧帰することあらば、もし機と教と時と乖けば、修しがたく入りがたし。

◗416: 1 正法念経にいはく、

◗416: 1 行者一心に道を求めん時、つねにまさに時と方便とを観察すべし。もし時を得ざれば方便なし。これを名づけて失とす、利と名づけず。

◗416: 3 いかんとならば、

◗416: 3 湿へる木を攅りてもつて火を求めんに、火得べからず、時にあらざるがゆゑに。もし乾れたる薪を折りてもつて水を覓めんに、水得べからず、智なきがごときのゆゑにと。

◗416: 5 大集の月蔵経にのたまはく、仏滅度の後の第一の五百年には、わがもろもろの弟子、慧を学ぶこと堅固なることを得ん。第二の五百年には定を学ぶこと堅固なることを得ん。第三の五百年には多聞・読誦を学ぶこと堅固なることを得ん。第四の五百年には塔寺を造立し、福を修し、懴悔すること堅固なることを得ん。第五の五百年には白法隠滞して多く諍訟あらん、微しき善法ありて堅固なることを得んと。

◗416:11 今の時の衆生を計るに、すなはち仏、世を去りたまひて後の第四の五百年に当れり。まさしくこれ懴悔し、福を修し、仏の名号を称すべき時のものなり。一念阿弥陀仏を称するに、すなはちよく八十億劫の生死の罪を除却せん。一念すでにしかなり。いはんや常念に修するは、すなはちこれつねに懴悔する人なりと。

◗417: 1 【76】またいはく、

◗417: 1 経の住滅を弁ぜば、いはく、釈迦牟尼仏一代、正法五百年、像法一千年、末法一万年には、衆生減じ尽き、諸経ことごとく滅せん。如来、痛焼の衆生を悲哀して、特に此の経を留めて止住せんこと百年ならんと。

◗417: 5 【77】またいはく、

◗417: 5 大集経にのたまはく、わが末法の時のなかの億々の衆生、行を起し道を修せんに、いまだ一人も得るものあらじと。

◗417: 7 当今は末法にしてこれ五濁悪世なり。ただ浄土の一門のみありて通入すべき路なりと。以上

◗417: 9 【78】しかれば、穢悪濁世の群生、末代の旨際を知らず、僧尼の威儀を毀る。今の時の道俗、おのれが分を思量せよ。

◗417:11 【79】三時の教を案ずれば、如来般涅槃の時代を勘ふるに、周の第五の主、穆王五十三年壬申に当れり。その壬申よりわが元仁元年 元仁とは後堀川院諱茂仁の聖代なり 甲申に至るまで、二千一百七十三歳なり。また賢劫経・仁王経・涅槃等の説によるに、すでにもつて末法に入りて六百七十三歳なり。

◗418: 1 【80】末法灯明記 最澄の製作 を披閲するにいはく、

◗418: 1 それ一如に範衛してもつて化を流すものは法王、四海に光宅してもつて風を垂るるものは仁王なり。しかればすなはち、仁王・法王、たがひに顕れて物を開し、真諦・俗諦たがひによりて教を弘む。このゆゑに玄籍宇内に盈ち、嘉猷天下に溢てり。

◗418: 4 ここに愚僧等率して天網に容り、俯して厳科を仰ぐ。いまだ寧処に遑あらず。

◗418: 5 しかるに法に三時あり、人また三品なり。化制の旨、時によりて興替す。毀讃の文、人に逐つて取捨す。それ三古の運、減衰同じからず。後五の機、慧悟また異なり。あに一途によつて済はんや、一理について整さんや。

◗418: 8 ゆゑに正像末の旨際を詳らかにして、試みに破持僧の事を彰さん。なかにおいて三あり。初めには正像末を決す。次に破持僧の事を定む。後に教を挙げて比例す。

◗418:11  初めに正像末を決するに、諸説を出すこと同じからず。しばらく一説を述せん。

◗418:12 大乗基、賢劫経を引きていはく、仏涅槃の後、正法五百年、像法一千年ならん。この千五百年の後、釈迦の法滅尽せんと。末法をいはず。余の所説に准ふるに、尼、八敬に順はずして懈怠なるがゆゑに、法更増せず。ゆゑにかれによらず。

◗418:15 また涅槃経に、末法のなかにおいて十二万の大菩薩衆ましまして、法を持ちて滅せずと。これは上位によるがゆゑにまた同じからず。

◗419: 3  問ふ。もししからば、千五百年のうちの行事いかんぞや。

◗419: 4  答ふ。大術経によるに、仏涅槃の後の初めの五百年には、大迦葉等の七賢聖僧、次第に正法を持ちて滅せず、五百年の後、正法滅尽せんと。

◗419: 5 六百年に至りて後、九十五種の外道競ひ起らん、馬鳴世に出でてもろもろの外道を伏せん。

◗419: 7 七百年のうちに、龍樹世に出でて邪見の幡を摧かん。

◗419: 7 八百年において、比丘縦逸にして、わづかに一二道果を得るものあらん。

◗419: 8 九百年に至りて、奴を比丘とし、婢を尼とせん。

◗419: 9 一千年のうちに、不浄観を聞かん、瞋恚して欲せじ。

◗419:10 千一百年に、僧尼嫁娶せん、僧毘尼を毀謗せん。

◗419:10 千二百年に、諸僧尼等ともに子息あらん。

◗419:11 千三百年に、袈裟変じて白からん。

◗419:11 千四百年に、四部の弟子みな猟師のごとし、三宝物を売らん。

◗419:12 ここにいはく、千五百年に拘睒弥国にふたりの僧ありて、たがひに是非を起してつひに殺害せん、よつて教法竜宮に蔵まるなりと。

◗419:14 涅槃の十八および仁王等にまたこの文あり。

◗419:15 これらの経文に準ふるに、千五百年の後、戒・定・慧あることなきなり。

◗420: 1 ゆゑに大集経の五十一にいはく、わが滅度の後、初めの五百年には、もろもろの比丘等わが正法において解脱堅固ならん。初めに聖果を得るを名づけて解脱とす。 次の五百年には、禅定堅固ならん。次の五百年には、多聞堅固ならん。次の五百年には、造寺堅固ならん。後の五百年には、闘諍堅固ならん、白法隠没せんと云々。

◗420: 5 この意、初めの三分の五百年は、次いでのごとく戒・定・慧の三法、堅固に住することを得ん。すなはち上に引くところの正法五百年、像法一千の二時これなり。造寺以後は、ならびにこれ末法なり。

◗420: 8 ゆゑに基の般若会の釈にいはく、正法五百年、像法一千年、この千五百年の後、正法滅尽せんと。ゆゑに知んぬ、以後はこれ末法に属す。

◗420:10  問ふ。もししからば、いまの世は、まさしくいづれの時にか当れるや。

◗420:11  答ふ。滅後の年代多説ありといへども、しばらく両説を挙ぐ。

◗420:11 一つには法上師等、周異の説によりていはく、仏、第五の主、穆王満五十三年壬申に当りて入滅したまふと。もしこの説によらば、その壬申よりわが延暦二十年辛巳に至るまで、一千七百五十歳なり。

◗420:14 二つには費長房等、魯の春秋によらば、仏、周の第二十一の主、匡王班四年壬子に当りて入滅したまふ。もしこの説によらば、その壬子よりわが延暦二十年辛巳に至るまで、一千四百十歳なり。

◗421: 2 ゆゑに今の時のごときは、これ像法最末の時なり。かの時の行事すでに末法に同ぜり。

◗421: 3 しかればすなはち、末法のなかにおいては、ただ言教のみありて行証なけん。もし戒法あらば破戒あるべし。すでに戒法なし、いづれの戒を破せんによりてか破戒あらんや。破戒なほなし。いかにいはんや持戒をや。ゆゑに大集にいはく、仏涅槃の後、無戒州に満たんと云々。

◗421: 7  問ふ。諸経律のなかに、広く破戒を制して衆に入ることを聴さず。破戒なほしかなり。いかにいはんや無戒をや。しかるにいま重ねて末法を論ずるに、戒なし。あに瘡なくして、みづからもつて傷まんや。

◗421:10  答ふ。この理しからず。正像末法の所有の行事、広く諸経に載せたり。内外の道俗たれか披諷せざらん。あに自身の邪活を貪求して、持国の正法を隠蔽せんや。

◗421:12 ただし、いま論ずるところの末法には、ただ名字の比丘のみあらん。この名字を世の真宝とせん。福田なからんや。たとひ末法のなかに持戒あらば、すでにこれ怪異なり、市に虎あらんがごとし。これたれか信ずべきや。

◗421:15  問ふ。正像末の事、すでに衆経に見えたり。末法の名字を世の真宝とせんことは、聖典に出でたりや。

◗422: 2  答ふ。大集の第九にいはく、たとへば真金を無価の宝とするがごとし。もし真金なくは、銀を無価の宝とす。もし銀なくは、鍮石・偽宝を無価とす。もし偽宝なくは、赤白銅・鉄・白鑞・鉛・錫を無価とす。

◗422: 4 かくのごとき一切世間の宝なれども、仏法無価なり。もし仏宝ましまさずは、縁覚無上なり。もし縁覚なくは、羅漢無上なり。もし羅漢なくは、余の賢聖衆もつて無上なり。

◗422: 7 もし余の賢聖衆なくは、得定の凡夫もつて無上とす。もし得定の凡夫なくは、浄持戒をもつて無上とす。もし浄持戒なくは、漏戒の比丘をもつて無上とす。

◗422: 9 もし漏戒なくは、剃除鬚髪して身に袈裟を着たる名字の比丘を無上の宝とす。

◗422:10 余の九十五種の異道に比するに、もつとも第一とす。世の供を受くべし、物のための初めの福田なり。なにをもつてのゆゑに、よく身を破る衆生、怖畏するところなるがゆゑに。護持養育して、この人を安置することあらんは、久しからずして忍地を得んと。以上経文

◗422:13 この文のなかに八重の無価あり。いはゆる如来、縁覚・声聞および前三果、得定の凡夫、持戒・破戒・無戒名字、それ次いでのごとし、名づけて正像末の時の無価の宝とするなり。初めの四つは正法時、次の三つは像法時、後の一つは末法時なり。これによりてあきらかに知んぬ、破戒・無戒ことごとくこれ真宝なり。

◗423: 3  問ふ。伏して前の文を観るに、破戒名字、真宝ならざることなし。なんがゆゑぞ涅槃と大集経に、国王・大臣、破戒の僧を供すれば、国に三災起り、つひに地獄に生ずと。破戒なほしかなり。いかにいはんや無戒をや。しかるに如来、一つの破戒において、あるいは毀り、あるいは讃む。あに一聖の説に両判の失あるをや。

◗423: 8  答ふ。この理しからず。涅槃等の経に、しばらく正法の破戒を制す、像・末代の比丘にはあらず。その名同じといへども、時に異あり。時に随ひて制許す。これ大聖の旨なり。ゆゑに世尊において両判の失ましまさず。

◗423:11  問ふ。もししからばなにをもつてか知らん、涅槃等の経は、ただ正法所有の破戒を制止して、像末の僧にあらずとは。

◗423:13  答ふ。引くところの大集所説の八重の真宝のごとし、これその証なり。みな時に当りて無価となすゆゑに。

◗423:14 ただし正法の時の破戒比丘は、清浄衆を穢す。ゆゑに仏固く禁制して衆に入れず。

◗423:15 しかるゆゑは、涅槃の第三にのたまはく、如来いま無上の正法をもつて、諸王・大臣・宰相・比丘・比丘尼に付嘱したまへり。乃至 破戒あつて正法を毀るものは、王および大臣、四部の衆、まさに苦治すべし。かくのごときの王臣等、無量の功徳を得ん。乃至 これわが弟子なり、真の声聞なり。福を得ること無量ならんと。乃至

◗424: 4 かくのごときの制文の法、往々衆多なり。みなこれ正法に明かすところの制文なり。像末の教にあらず。

◗424: 6 しかるゆゑは、像季・末法には正法を行ぜざれば、法として毀るべきなし。なにをか毀法と名づけん。戒として破すべきなし。たれをか破戒と名づけん。またその時大王、行として護るべきなし。なにによりてか三災を出し、および戒慧を失せんや。また像末には証果の人なし。いかんぞ二聖に聴護せらるることを明かさん。

◗424:10 ゆゑに知んぬ、上の所説はみな正法の世に持戒ある時に約して、破戒あるがゆゑなり。

◗424:12  次に像法千年のうちに、初めの五百年には持戒やうやく減じ、破戒やうやく増せん。戒行ありといへども証果なし。

◗424:13 ゆゑに涅槃の七にのたまはく、迦葉菩薩、仏にまうしてまうさく、世尊、仏の所説のごときは四種の魔あり。もし魔の所説および仏の所説、われまさにいかんしてか分別することを得べき。もろもろの衆生ありて魔行に随逐せん。また仏説に随順することあらば、かくのごときらの輩、またいかんが知らんと。

◗425: 2 仏、迦葉に告げたまはく、われ涅槃して七百歳の後に、これ魔波旬やうやく起りて、まさにしきりにわが正法を壊すべし。たとへば猟師の身に法衣を服せんがごとし。魔波旬もまたまたかくのごとし。比丘像・比丘尼像・優婆塞・優婆夷像とならんこと、またまたかくのごとしと。乃至

◗425: 6 もろもろの比丘、奴婢・僕使、牛・羊・象・馬、乃至、銅鉄釜鍑、大小銅盤、所須の物を受畜し、耕田・種植、販売・市易して、穀米を儲くることを聴すと。かくのごときの衆事、仏、大悲のゆゑに衆生を憐愍してみな畜ふることを聴さんと。かくのごときの経律は、ことごとくこれ魔説なりと云々。

◗425:10 すでに七百歳の後に波旬やうやく起らんといへり。ゆゑに知んぬ、かの時の比丘、やうやく八不浄物を貪畜せんと。この妄説をなさん、すなはちこれ魔の流なり。これらの経のなかにあきらかに年代を指して、つぶさに行事を説けり。さらに疑ふべからず。それ一文を挙ぐ、余みな準知せよ。

◗425:15  次に像法の後半ばは持戒減少し、破戒巨多ならん。ゆゑに涅槃の六にのたまはく、乃至

◗426: 1 また十輪にのたまはく、もしわが法によりて出家して悪行を造作せん。これ沙門にあらずしてみづから沙門と称し、また梵行にあらずしてみづから梵行と称せん。

◗426: 3 かくのごときの比丘、よく一切天・竜・夜叉、一切善法功徳の伏蔵を開示して、衆生の善知識とならん。少欲知足ならずといへども、剃除鬚髪して、法服を被着せん。この因縁をもつてのゆゑに、よく衆生のために善根を増長せん。もろもろの天・人において善道を開示せん。乃至

◗426: 7 破戒の比丘、これ死せる人なりといへども、しかも戒の余才、牛黄のごとし。これ死するものといへども、人ことさらにこれを取る。また麝香の後に用あるがごとしと云々。

◗426: 9 すでに迦羅林のなかに一つの鎮頭迦樹ありといへり。これは像運すでに衰へて、破戒濁世にわづかに一二持戒の比丘あらんに喩ふるなり。

◗426:11 またいはく、破戒の比丘、これ死せる人なりといへども、なほ麝香の死して用あるがごとし、衆生の善知識となると。あきらかに知んぬ、この時やうやく破戒を許して世の福田とす。前の大集に同じ。

◗426:14  次に像季の後は、まつたくこれ戒なし。仏、時運を知ろしめして、末俗を済はんがために名字の僧を讃めて世の福田としたまへり。

◗426:15 また大集の五十二にのたまはく、もし後の末世に、わが法のなかにおいて鬚髪を剃除し、身に袈裟を着たらん名字の比丘、もし檀越ありて捨施供養をせば、無量の福を得んと。

◗427: 3 また賢愚経にのたまはく、もし檀越、将来末世に法尽きんとせんに垂んとして、まさしく妻を蓄へ、子を侠ましめん四人以上の名字の僧衆、まさに礼敬せんこと、舎利弗・大目連等のごとくすべしと。

◗427: 5 またのたまはく、もし破戒を打罵し、身に袈裟を着たるを知ることなからん、罪は万億の仏身より血を出すに同じからん。もし衆生ありて、わが法のために剃除鬚髪し袈裟を被服せんは、たとひ戒を持たずとも、かれらはことごとくすでに涅槃の印のために印せらるるなりと。乃至

◗427: 9 大悲経にのたまはく、仏、阿難に告げたまはく、将来世において法滅尽せんと欲せん時、まさに比丘・比丘尼ありて、わが法のなかにおいて出家を得たらんもの、おのれが手に児の臂を牽きて、ともに遊行してかの酒家より酒家に至らん。わが法のなかにおいて非梵行をなさん。かれら酒の因縁たりといへども、この賢劫のなかにおいて、まさに千仏ましまして興出したまはんに、わが弟子となるべし。

◗427:14 次に後に弥勒まさにわが処を補ぐべし。乃至最後盧至如来まで、かくのごとき次第になんぢまさに知るべし、

◗428: 1 阿難わが法のなかにおいて、ただ性のみこれ沙門にして沙門の行を汚し、みづから沙門と称せん、形は沙門に似て尚しく袈裟を被着することあらしめんは、賢劫において弥勒を首として乃至盧至如来まで、かのもろもろの沙門、かくのごときの仏の所にして、無余涅槃において次第に涅槃に入ることを得ん。遺余あることなけん。

◗428: 5 なにをもつてのゆゑに、かくのごとき一切沙門のなかに、乃至一たび仏の名を称し、一たび信を生ぜんもの、所作の功徳つひに虚設ならじ。われ仏智をもつて法界を測知するがゆゑなりと云々。乃至

◗428: 7 これらの諸経に、みな年代を指して将来末世の名字の比丘を世の尊師とす。もし正法の時の制文をもつて、末法世の名字の僧を制せんは、教機あひ乖き、人法合せず。これによりて律にいはく、非制を制するは、すなはち三明を断ず。記説するところこれ罪ありと。

◗428:11 この上に経を引きて配当しをはんぬ。

◗428:12  後に教を挙げて比例せば、末法法爾として正法毀壊し、三業記なし。四儀乖くことあらん。しばらく像法決疑経にのたまふがごとし。乃至 また遺教経にのたまはく、乃至 また法行経にのたまはく、乃至 鹿子母経にのたまはく、乃至 また仁王経にのたまはく、乃至 と。以上略抄

◗429: 1 【81】それもろもろの修多羅によつて、真偽を勘決して、外教邪偽の異執を教誡せば、

◗429: 3 【82】涅槃経にのたまはく、

◗429: 3 仏に帰依せば、つひにまたその余のもろもろの天神に帰依せざれと。略出

◗429: 5 【83】般舟三昧経にのたまはく、

◗429: 5 優婆夷、この三昧を聞きて学ばんと欲せんものは、乃至 みづから仏に帰命し、法に帰命し、比丘僧に帰命せよ。余道に事ふることを得ざれ、天を拝することを得ざれ、鬼神を祠ることを得ざれ、吉良日を視ることを得ざれとなり。以上

◗429: 9 【84】またのたまはく、

◗429: 9 優婆夷、三昧を学ばんと欲せば、乃至 天を拝し神を祠祀することを得ざれとなり。略出

◗429:11 【85】大乗大方等日蔵経巻第八魔王波旬星宿品第八の二にのたまはく、

◗429:12 その時に、佉盧虱、天衆に告げていはまく、このもろもろの月等、おのおの主あり。なんぢ四種の衆生を救済すべし。なにものをか四つとする。地上の人、諸竜、夜叉、乃至蝎等を救く。かくのごときの類、みなことごとくこれを救けん。われもろもろの衆生を安楽するをもつてのゆゑに、星宿を布置す。おのおの分部乃至摸呼羅の時等あり。またみなつぶさに説かん。その国土方面の処に随ひて、所作の事業、随順し増長せんと。

◗430: 3 佉盧虱、大衆の前にして掌を合せて説きていはまく、かくのごとき日月・年時、大小星宿を安置す。なにものをか名づけて六時ありとするや。正月・二月を暄暖時と名づく。三月・四月を種作時と名づく。五月・六月は求降雨時なり。七月・八月は物欲熟時なり。九月・十月は寒涼の時なり。十有一月、合して十二月は大雪の時なり。これ十二月を分つて六時とす。

◗430: 7 また大星宿その数八つあり。いはゆる歳星・熒惑・鎮星・太白・辰星・日・月・荷羅睺星なり。また小星宿二十八あり。いはゆる昴より胃に至るまでの諸宿これなり。われかくのごとき次第安置をなす、その法を説きをはんぬ。なんだち、みなすべからくまた見、また聞くべし。一切大衆、意においていかん。わが置くところの法、その事是なりやいなや。二十八宿および八大星の所行の諸業、なんぢ喜楽するやいなや。是とやせん、非とやせん。よろしくおのおの宣説すべしと。

◗430:14 その時に、一切天人・仙人・阿修羅・竜および緊那羅等、みなことごとく掌を合せて、ことごとくこの言をなさく、いま大仙のごときは、天人のあひだにおいてもつとも尊重とす。乃至諸竜および阿修羅、よく勝れたるものなけん。智慧・慈悲もつとも第一とす。無量劫において忘れず、一切衆生を憐愍するがゆゑに、福報を獲、誓願満ちをはりて功徳海のごとし。よく過去・現在・当来の一切諸事、天人のあひだを知るに、かくのごときの智慧のものあることなし。かくのごときの法用、日夜・刹那および加羅時、大小星宿、月半・月満・年満の法用、さらに衆生よくこの法をなすことなけん。みなことごとく随喜しわれらを安楽にす。善いかな大徳、衆生を安穏すと。

◗431: 8 この時佉盧虱仙人、またこの言をなさく、この十二月一年始終、かくのごとく方便す。大小星等、刹那の時法、みなすでに説きをはんぬ。

◗431: 9 またまた四天大王を須弥山の四方面所に安置す、おのおの一王を置く。このもろもろの方所にして、おのおの衆生を領す。北方の天王を毘沙門と名づく。これその界のうちに多く夜叉あり。南方の天王を毘留荼倶と名づく。これその界のうちに多く鳩槃荼あり。西方の天王を毘留博叉と名づく。これその界のうちに多く諸竜あり。東方の天王を題頭隷と名づく。これその界のうちに乾闥婆多し。

◗431:15 四方四維みなことごとく一切洲渚およびもろもろの城邑を擁護す。また鬼神を置いてこれを守護せしむと。

◗432: 1 その時に、佉盧虱仙人、諸天・竜・夜叉・阿修羅・緊那羅・摩睺羅伽、人・非人等、一切大衆において、みな善いかなと称して、歓喜無量なることをなす。この時に、天・竜・夜叉・阿修羅等、日夜に佉盧虱を供養す。

◗432: 4 次にまた後に無量世を過ぎて、また仙人あらん、伽力伽と名づく。世に出現して、またさらに別して、もろもろの星宿、小大月の法、時節要略を説き置かんと。

◗432: 6 その時に、諸竜、佉羅氐山聖人の住処にありて、光味仙人を尊重し恭敬せん、その竜力を尽してこれを供養せんと。以上抄出

◗432: 9 【86】日蔵経巻第九念仏三昧品第十にのたまはく、

◗432: 9 その時に、波旬、この偈を説きをはるに、かの衆のなかにひとりの魔女あり、名づけて離暗とす。この魔女は、曽過去においてもろもろの徳本を植ゑたりき。

◗432:11 この説をなしていはまく、沙門瞿曇は名づけて福徳と称す。もし衆生ありて、仏の名を聞くことを得て一心に帰依せん、一切の諸魔、かの衆生において悪を加ふることあたはず。いかにいはんや仏を見たてまつり、親り法を聞かん人、種々に方便し慧解深広ならん。乃至 たとひ千万億の一切魔軍、つひに須臾も害をなすことを得ることあたはず。如来いま涅槃道を開きたまへり。女、かしこに往きて仏に帰依せんと欲すと。

◗433: 2 すなはちその父のためにして偈を説きていはまく、乃至 三世の諸仏の法を修学して、一切の苦の衆生を度脱せん。よく諸法において自在を得、当来に願はくはわれ還りて仏のごとくならんと。

◗433: 5  その時に、離暗、この偈を説きをはるに、父の王宮のうちの五百の魔女、姉妹眷属、一切みな菩提の心を発せしむ。

◗433: 6 この時に、魔王、その宮のうちの五百の諸女、みな仏に帰して菩提心を発せしむるを見るに、大きに瞋忿・怖畏・憂愁を益すと。乃至

◗433: 8 この時に、五百のもろもろの魔女等、また波旬のためにして偈を説きていはまく、

◗433: 9 もし衆生ありて、仏に帰すれば、かの人、千億の魔に畏れず。いかにいはんや生死の流れを度せんと欲ふ。無為涅槃の岸に到らん。

◗433:11 もしよく一香華をもつて、三宝仏法僧に持散することありて、堅固勇猛の心を発さん。一切の衆魔、壊することあたはじ。乃至

◗433:12 われら過去の無量の悪、一切また滅して余あることなけん。至誠専心に仏に帰したてまつりをはらば、さだめて阿耨菩提の果を得んと。

◗433:15  その時に、魔王、この偈を聞きをはりて、大きに瞋恚・怖畏を倍して、心を煎がし、憔悴・憂愁して、独り宮の内に坐す。

◗434: 1 この時に、光味菩薩摩訶薩、仏の説法を聞きて、一切衆生ことごとく攀縁を離れ、四梵行を得しむと。乃至

◗434: 3 浄く洗浴し、鮮潔の衣を着て、菜食長斎して、辛く臭きものを噉することなかるべし。寂静処にして、道場を荘厳して正念結跏し、あるいは行じ、あるいは坐して、仏の身相を念じて乱心せしむることなかれ。さらに他縁し、その余のことを念ずることなかれ。あるいは一日夜、あるいは七日夜、余の業をなさざれ。至心念仏すれば、乃至仏を見たてまつる。小念は小を見たてまつり、大念は大を見たてまつる。乃至無量の念は仏の色身無量無辺なるを見たてまつらんと。略抄

◗434:10 【87】日蔵経の巻第十護塔品第十三にのたまはく、

◗434:10 時に魔波旬、その眷属八十億衆と、前後に囲繞して仏所に往至せしむ。到りをはりて、接足して世尊を頂礼したてまつる。

◗434:12 かくのごときの偈を説かく、乃至

◗434:12 三世の諸仏の大慈悲、わが礼を受けたまへ、一切の殃を懴せしむ。法・僧二宝もまたまたしかなり。至心帰依したてまつるに異あることなし。

◗434:14 願はくは、われ今日世の導師を供養し恭敬し尊重したてまつるところなり。もろもろの悪は永く尽してまた生ぜじ。寿を尽すまで如来の法に帰依せんと。

◗435: 2  時に魔波旬、この偈を説きをはりて、仏にまうしてまうさく、世尊、如来われおよびもろもろの衆生において、平等無二の心にしてつねに歓喜し、慈悲含忍せんと。

◗435: 4 仏ののたまはく、かくのごとしと。

◗435: 4 時に魔波旬大きに歓喜を生じて、清浄の心を発す。重ねて仏前にして接足頂礼し、右に繞ること三帀して恭敬合掌して、却きて一面に住して、世尊を瞻仰したてまつるに、心に厭足なしと。以上抄出

◗435: 8 【88】大方等大集月蔵経巻第五諸悪鬼神得敬信品第八の上にのたまはく、

◗435: 9 もろもろの仁者、かの邪見を遠離する因縁において、十種の功徳を獲ん。なんらをか十とする。

◗435:10 一つには心性柔善にして伴侶賢良ならん。

◗435:11 二つには業報、乃至奪命あることを信じて、もろもろの悪を起さず。

◗435:11 三つには三宝を帰敬して天神を信ぜず。

◗435:12 四つには正見を得て歳次日月の吉凶を択ばず。

◗435:13 五つにはつねに人天に生じてもろもろの悪道を離る。

◗435:13 六つには賢善の心あきらかなることを得、人讃誉せしむ。

◗435:14 七つには世俗を棄ててつねに聖道を求めん。

◗435:15 八つには断・常見を離れて因縁の法を信ず。

◗435:15 九つにはつねに正信・正行・正発心の人とともにあひ会まり遇はん。

◗436: 1 十には善道に生ずることを得しむ。

◗436: 2 この邪見を遠離する善根をもつて、阿耨多羅三藐三菩提に回向せん、この人すみやかに六波羅蜜を満ぜん、善浄仏土にして正覚を成らん。菩提を得をはりて、かの仏土にして、功徳・智慧・一切善根、衆生を荘厳せん。その国に来生して天神を信ぜず、悪道の畏れを離れて、かしこにして命終して還りて善道に生ぜんと。略抄

◗436: 7 【89】月蔵経巻第六諸悪鬼神得敬信品第八の下にのたまはく、

◗436: 8 仏の出世はなはだ難し。法・僧もまたまた難し。衆生の浄信難し。諸難を離るることまた難し。

◗436: 9 衆生を哀愍すること難し。知足第一に難し。正法を聞くことを得ること難し。よく修すること第一に難し。

◗436:10 難きを知ることを得て平等なれば、世においてつねに楽を受く。この十平等処は、智者つねにすみやかに知らん。乃至

◗436:13  その時に、世尊、かのもろもろの悪鬼神衆のなかにして法を説きたまふ時に、かのもろもろの悪鬼神衆のなかにして、かの悪鬼神は、むかし仏法において決定の信をなせりしかども、かれ後の時において悪知識に近づきて心に他の過を見る。この因縁をもつて悪鬼神に生ると。略出

◗437: 2 【90】大方等大集経巻第六月蔵分のなかに諸天王護持品第九にのたまはく、

◗437: 3 その時に、世尊、世間を示すがゆゑに、娑婆世界の主、大梵天王に問うてのたまはく、この四天下に、これたれかよく護持養育をなすと。

◗437: 5  時に娑婆世界の主、大梵天王かくのごときの言をなさく、大徳婆伽婆、兜率陀天王、無量百千の兜率陀天子とともに北鬱単越を護持し養育せしむ。

◗437: 6 他化自在天王、無量百千の他化自在天子とともに東弗婆提を護持し養育せしむ。

◗437: 8 化楽天王、無量百千の化楽天子とともに南閻浮提を護持し養育せしむ。

◗437: 9 須夜摩天王、無量百千の須夜摩天子とともに西瞿陀尼を護持し養育せしむ。

◗437:10  大徳婆伽婆、毘沙門天王、無量百千の諸夜叉衆とともに北鬱単越を護持し養育せしむ。

◗437:11 提頭頼天王、無量百千の乾闥婆衆とともに東弗婆提を護持し養育せしむ。

◗437:12 毘楼勒天王、無量百千の鳩槃荼衆とともに南閻浮提を護持し養育せしむ。

◗437:13 毘楼博叉天王、無量百千の竜衆とともに西瞿陀尼を護持し養育せしむ。

◗437:15  大徳婆伽婆、天仙七宿・三曜・三天童女、北鬱単越を護持し養育せしむ。かの天仙七宿は虚・危・室・壁・奎・婁・胃なり。三曜は鎮星・歳星・熒惑星なり。三天童女は鳩槃・弥那・迷沙なり。

◗438: 2 大徳婆伽婆、かの天仙七宿のなかに虚・危・室の三宿はこれ鎮星の土境なり、鳩槃はこれ辰なり。壁・奎の二宿はこれ歳星の土境なり、弥那はこれ辰なり。婁・胃の二宿はこれ熒惑の土境なり、迷沙はこれ辰なり。

◗438: 5 大徳婆伽婆、かくのごとき天仙七宿・三曜・三天童女、北鬱単越を護持し養育せしむ。

◗438: 7  大徳婆伽婆、天仙七宿・三曜・三天童女、東弗婆提を護持し養育せしむ。かの天仙七宿は昴・畢・觜・参・井・鬼・柳なり。三曜は太白星・歳星・月なり。三天童女は毘利沙・弥偸那・羯迦迦なり。

◗438: 9 大徳婆伽婆、かの天仙七宿のなかに、昴・畢の二宿はこれ太白の土境なり、毘利沙はこれ辰なり。觜・参・井の三宿はこれ歳星の土境なり、弥偸那はこれ辰なり。鬼・柳の二宿はこれ月の土境なり、羯迦迦はこれ辰なり。

◗438:12 大徳婆伽婆、かくのごとき天仙七宿・三曜・三天童女、東弗婆提を護持し養育せしむ。

◗438:14  大徳婆伽婆、天仙七宿・三曜・三天童女、南閻浮提を護持し養育せしむ。かの天仙七宿は星・張・翼・軫・角・亢・氐なり。三曜は日・辰星・太白星なり。三天童女は訶・迦若・兜羅なり。

◗439: 1 大徳婆伽婆、かの天仙七宿のなかに、星・張・翼はこれ日の土境なり、訶はこれ辰なり。軫・角の二宿はこれ辰星の土境なり、迦若はこれ辰なり。亢・氐の二宿はこれ太白の土境なり。兜羅はこれ辰なり。

◗439: 4 大徳婆伽婆、かくのごとき天仙七宿・三曜・三天童女、南閻浮提を護持し養育せしむ。

◗439: 6  大徳婆伽婆、かの天仙七宿・三曜・三天童女、西瞿陀尼を護持し養育せしむ。かの天仙七宿は房・心・尾・箕・斗・牛・女なり。三曜は熒惑星・歳星・鎮星なり。三天童女は毘離支迦・檀婆・摩伽羅なり。

◗439: 8 大徳婆伽婆、かの天仙七宿のなかに、房・心の二宿はこれ熒惑の土境なり、毘利支迦はこれ辰なり。尾・箕・斗の三宿はこれ歳星の土境なり、檀婆はこれ辰なり。牛・女の二宿はこれ鎮星の土境なり、摩伽羅はこれ辰なり。

◗439:11 大徳婆伽婆、かくのごときの天仙七宿・三曜・三天童女、西瞿陀尼を護持し養育せしむ。

◗439:13  大徳婆伽婆、この四天下に南閻浮提はもつとも殊勝なりとす。なにをもつてのゆゑに、閻浮提の人は勇健聡慧にして、梵行、仏に相応す。婆伽婆なかにおいて出世したまふ。このゆゑに四大天王、ここに倍増してこの閻浮提を護持し養育せしむ。

◗440: 1 十六の大国あり。いはく、鴦伽摩伽陀国・傍伽摩伽陀国・阿槃多国・支提国なり。この四つの大国は毘沙門天王、夜叉衆と囲繞して護持し養育せしむ。

◗440: 3 迦尸国・都薩羅国・婆蹉国・摩羅国、この四つの大国は、提頭頼天王、乾闥婆衆と囲繞して護持し養育せしむ。

◗440: 4 鳩羅婆国・毘時国・槃遮羅国・疎那国、この四つの大国は、毘楼勒叉天王、鳩槃荼衆と囲繞して護持し養育せしむ。

◗440: 6 阿湿婆国・蘇摩国・蘇羅国・甘満闍国、この四つの大国は毘楼博叉天王、もろもろの竜衆と囲繞して護持し養育せしむ。

◗440: 8  大徳婆伽婆、過去の天仙この四天下を護持し養育せしがゆゑに、またみなかくのごとき分布安置せしむ。

◗440: 9 後においてその国土、城邑・村落・塔寺・園林・樹下・塚間・山谷・曠野・河泉・陂泊、乃至海中宝洲・天祠に随ひて、かの卵生・胎生・湿生・化生において、もろもろの竜・夜叉・羅刹・餓鬼・毘舎遮・富単那・迦富単那等、かのなかに生じて、かのところに還住して、繋属するところなし、他の教を受けず。

◗440:13 このゆゑに願はくは仏、この閻浮提の一切国土において、かのもろもろの鬼神、分布安置したまへ。護持のためのゆゑに、一切のもろもろの衆生を護らんがためのゆゑに。われらこの説において随喜せんと欲ふと。

◗441: 2  仏ののたまはく、かくのごとし、大梵、なんぢが所説のごとしと。その時に、世尊、重ねてこの義を明かさんと欲しめして、偈を説きてのたまはく、

◗441: 3 世間に示現するがゆゑに、導師、梵王に問はまく、この四天下において、たれか護持し養育せんと。かくのごとき天師梵、諸天王を首として、兜率・他化天・化楽・須夜摩、

◗441: 6 よくかくのごとき四天下を、護持し養育せしむ。四王および眷属、またまたよく護持せしむ。二十八宿等、および十二辰・十二天童女、四天下を護持せしむと。

◗441: 8 その所生の処に随ひて、竜・鬼・羅刹等、他の教を受けずは、かしこにおいて還つて護をなさしむ。天神等差別して、願はくは仏分布せしめたまへ。衆生を憐愍せんがゆゑに、正法の灯を熾然ならしむと。

◗441:11  その時に、仏、月蔵菩薩摩訶薩に告げてのたまはく、了知清浄士よ、この賢劫の初め人寿四万歳の時、鳩留孫仏、世に出興したまひき。

◗441:14 かの仏、無量阿僧祇億那由他百千の衆生のために生死に回して、正法輪を輪転せしむ。追うて悪道に回して、善道および解脱の果を安置せしむ。かの仏この四大天下をもつて、娑婆世界の主、大梵天王・他化自在天王・化楽天王・兜率陀天王・須夜摩天王等に付嘱せしむ。護持のゆゑに、養育のゆゑに、衆生を憐愍するがゆゑに、三宝の種をして断絶せざらしめんがゆゑに、熾然ならんがゆゑに、地の精気、衆生の精気、正法の精気、久しく住せしめ増長せんがゆゑに、もろもろの衆生をして三悪道を休息せしめんがゆゑに、三善道に趣向せんがゆゑに、四天下をもつて大梵およびもろもろの天王に付嘱せしむ。

◗442: 6  かくのごとき漸次に劫尽き、もろもろの天人尽き、一切の善業白法尽滅して、大悪もろもろの煩悩溺を増長せん。

◗442: 7 人寿三万歳の時、拘那含牟尼仏、世に出興したまはん。かの仏この四大天下をもつて、娑婆世界の主、大梵天王・他化自在天王、乃至四大天王およびもろもろの眷属に付嘱したまふ。護持養育のゆゑに、乃至一切衆生をして三悪道を休息して三善道に趣向せしめんがゆゑに、この四天下をもつて大梵および諸天王に付嘱したまへり。

◗442:12  かくのごとき次第に劫尽き、もろもろの天人尽き、白法また尽きて、大悪もろもろの煩悩溺を増長せん。

◗442:13 人寿二万歳の時、迦葉如来、世に出興したまふ。かの仏この四大天下をもつて、娑婆世界の主、大梵天王・他化自在天王・化楽天王・兜率陀天王・須夜摩天王・憍尸迦帝釈・四天王等、およびもろもろの眷属に付嘱したまへり。護持養育のゆゑに、乃至一切衆生をして三悪道を休息せしめ、三善道に趣向せしめんがゆゑに。かの迦葉仏、この四天下をもつて、大梵・四天王等に付嘱し、およびもろもろの天仙衆・七曜・十二天童女・二十八宿等に付したまへり。護持のゆゑに、養育のゆゑに。

◗443: 5  了知清浄士よ、かくのごとき次第に、いま劫濁・煩悩濁・衆生濁・大悪煩悩濁・闘諍悪世の時、人寿百歳に至りて、一切の白法尽き、一切の諸悪闇翳ならん。世間はたとへば海水の一味にして大鹹なるがごとし、大煩悩の味はひ世に遍満せん。集会の悪党、手に髑髏を執り、血をその掌に塗らん、ともにあひ殺害せん。

◗443: 9 かくのごときの悪の衆生のなかに、われいま菩提樹下に出世してはじめて正覚を成れり。提謂・波利もろもろの商人の食を受けて、かれらがためのゆゑに、この閻浮提をもつて天・竜・乾闥婆・鳩槃荼・夜叉等に分布せしむ。護持養育のゆゑに。

◗443:13  これをもつて大集十方所有の仏土、一切無余の菩薩摩訶薩等、ことごとくここに来集せん。乃至この娑婆仏土において、そのところの百億の日月、百億の四天下、百億の四大海、百億の鉄囲山・大鉄囲山・百億の須弥山、百億の四阿修羅城、百億の四大天王、百億の三十三天、乃至百億の非想非非想処、かくのごときの数を略せり。娑婆仏土、われこのところにして仏事をなす。

◗444: 2 乃至娑婆仏土の所有のもろもろの梵天王およびもろもろの眷属、魔天王・他化自在天王・化楽天王・兜率陀天王・須夜摩天王・帝釈天王・四大天王・阿修羅王・竜王・夜叉王・羅刹王・乾闥婆王・緊那羅王・迦楼羅王・摩睺羅伽王・鳩槃荼王・餓鬼王・毘舎遮王・富単那王・迦富単那王等において、ことごとくまさに眷属としてここに大集せり。法を聞かんためのゆゑに。

◗444: 7 乃至ここに娑婆仏土の所有のもろもろの菩薩摩訶薩等およびもろもろの声聞、一切余なく、ことごとくここに来集せり。聞法のためのゆゑに。われいまこの所集の大衆のために、甚深の仏法を顕示せしむ。また世間を護らんがためのゆゑに、この閻浮提所集の鬼神をもつて分布安置す。護持養育すべしと。

◗444:12  その時に、世尊、また娑婆世界の主、大梵天王に問うてのたまはく、過去の諸仏、この四大天下をもつて、かつてたれに付嘱して護持養育をなさしめたまふぞと。

◗444:14 時に娑婆世界の主、大梵天王まうさく、過去の諸仏、この四天下をもつて、かつてわれおよび憍尸迦に付嘱したまへりき。護持することをなさしめたまふ。しかるにわれ失ありて、おのれが名および帝釈の名を彰さず、ただ諸余の天王および宿・曜・辰を称せしむ、護持養育すべしと。

◗445: 2 その時に、娑婆世界の主、大梵天王および憍尸迦帝釈、仏足を頂礼してこの言をなさく、大徳婆伽婆、大徳修伽陀、われいま過を謝すべし。われ小児のごとくして愚痴無智にして、如来の前にしてみづから称名せざらんや。

◗445: 5 大徳婆伽婆、やや願はくは容恕したまへ。大徳修伽陀、やや願はくは容恕したまへ。諸来の大衆、また願はくは容恕したまへ。

◗445: 7 われ境界において言説教令す。自在のところを得て護持養育すべし。乃至もろもろの衆生をして善道に趣かしめんがゆゑに。

◗445: 9 われら曽鳩留孫仏のみもとにして、すでに教勅を受けたまはりて、乃至三宝の種をしてすでに熾然ならしむ。

◗445:10 拘那含牟尼仏、迦葉仏の所にして、われ教勅を受けたまはりしこと、またかくのごとし。三宝の種においてすでにねんごろにして熾然ならしむ。地の精気、衆生の精気、正法の味はひ醍醐の精気、久しく住して増長せしむるがゆゑに。

◗445:13 またわがごときも、いま世尊の所にして、教勅を頂受し、おのれが境界において、言説教令す。

◗445:14 自在のところを得て、一切闘諍・飢饉を休息せしめ、乃至三宝の種断絶せざらしむるがゆゑに、三種の精気久しく住して増長せしむるがゆゑに、悪行の衆生を遮障して行法の衆生を護養するがゆゑに、衆生をして三悪道を休息せしめ、三善道に趣向するがゆゑに、仏法をして久しく住せんことを得しめんがためのゆゑに、ねんごろに護持をなすと。

◗446: 5  仏ののたまはく、善いかな善いかな、妙丈夫、なんぢかくのごとくなるべしと。

◗446: 6 その時に、仏、百億の大梵天王に告げてのたまはく、所有の行法、法に住し法に順じて悪を厭捨せんものは、いまことごとくなんだちが手のうちに付嘱す。なんだち賢首、百億の四天下各々の境界において言説教令す。

◗446: 9 自在の処を得て、所有の衆生、弊悪・粗獷・悩害、他において慈愍あることなし。後世の畏れを観ぜずして、刹利心および婆羅門・毘舎・首陀の心を触悩せん、乃至畜生の心を触悩せん。かくのごとき殺生をなす因縁乃至邪見をなす因縁、その所作に随ひて非時の風雨あらん、乃至地の精気、衆生の精気、正法の精気、損減の因縁をなさしめば、なんぢ遮止して善法に住せしむべし。

◗446:13 もし衆生ありて、善を得んと欲はんもの、法を得んと欲はんもの、生死の彼岸に度せんと欲はんもの、檀婆羅蜜を修行することあらんところのもの、乃至、般若波羅蜜を修行せんもの、所有の行法、法に住せん衆生、および行法のために事を営まんもの、かのもろもろの衆生、なんだちまさに護持養育すべし。

◗447: 3 もし衆生ありて、受持し読誦して、他のために演説し、種々に経論を解説せん。なんだちまさにかのもろもろの衆生と念持方便して堅固力を得べし。所聞に入りて忘れず、諸法の相を智信して生死を離れしめ、八聖道を修して三昧の根、相応せん。

◗447: 6 もし衆生ありて、なんぢが境界において法に住せん、奢摩他・毘婆舎那、次第方便してもろもろの三昧と相応して、ねんごろに三種の菩提を修習せんと求めんもの、なんだちまさに遮護し摂受して、ねんごろに捨施をなして、乏少せしむることなかるべし。

◗447: 9 もし衆生ありて、その飲食・衣服・臥具を施し、病患の因縁に湯薬を施せんもの、なんだちまさにかの施主をして五利増長せしむべし。なんらをか五つとする。一つには寿増長せん、二つには財増長せん、三つには楽増長せん、四つには善行増長せん、五つには慧増長するなり。

◗447:13 なんだち長夜に利益安楽を得ん。この因縁をもつて、なんだちよく六波羅蜜を満てん、久しからずして一切種智を成ずることを得んと。

◗448: 1  時に娑婆世界の主、大梵天王を首として、百億のもろもろの梵天王とともに、ことごとくこの言をなさく、かくのごとし、かくのごとし。大徳婆伽婆、われらおのおのにおのれが境界、弊悪・粗獷・悩害において、他において慈愍の心なく、後世の畏れを観ぜざらん、乃至われまさに遮障し、かの施主のために五事を増長すべしと。

◗448: 5 仏ののたまはく、善いかな善いかな、なんぢかくのごとくなるべしと。

◗448: 6 その時に、また一切の菩薩摩訶薩、一切の諸大声聞、一切の天・竜、乃至一切の人・非人等ありて、讃めてまうさく、善いかな善いかな、大雄猛士、なんだちかくのごとき法久しく住することを得、もろもろの衆生をして悪道を離るることを得、すみやかに善道に趣かしめんと。

◗448:10  その時に、世尊重ねてこの義を明かさんと欲しめして、偈を説きてのたまはく、

◗448:11 われ、月蔵に告げていはく、この賢劫の初めに入りて、鳩留仏、梵等に四天下を付嘱したまふ。

◗448:12 諸悪を遮障するがゆゑに、正法の眼を熾然ならしむ。もろもろの悪事を捨離し、行法のものを護持し、

◗448:13 三宝の種を断たず、三精気を増長し、もろもろの悪趣を休息し、もろもろの善道に向かへしむ。

◗448:14 拘那含牟尼、また大梵王、他化・化楽天、乃至四天王に属したまふ。

◗448:15 次後に迦葉仏、また梵天王、化楽等の四天、帝釈・護世王、

◗449: 1 過去のもろもろの天仙に属したまふ。もろもろの世間のためのゆゑに、もろもろの曜宿を安置して、護持し養育せしめたまへり。

◗449: 3 濁悪世に至りて、白法尽滅せん時、われ独覚無上にして、人民を安置し護らん。

◗449: 4 いま大衆の前にして、しばしばわれを悩乱せん。まさに説法を捨つべし。われを置つて護持せしめよ。

◗449: 5 十方のもろもろの菩薩、一切ことごとく来集せん。天王もまたこの娑婆仏国土に来らしめん。

◗449: 6 われ大梵王に問はく、たれか昔護持せしものと。帝釈・大梵天、余の天王を指示す。

◗449: 8 時に釈・梵王、過を導師に謝していはまく、われら王の処を所として、一切の悪を遮障し

◗449: 9 三宝の種を熾然ならしめ、三精気を増長せん。諸悪の朋を遮障して、善の朋党を護持せしむと。以上抄出

◗449:11 【91】月蔵経巻第七諸魔得敬信品第十にのたまはく、

◗449:11 その時に、また百億の諸魔あり。ともに同時に座よりして起ちて、合掌して仏に向かひたてまつりて、仏足を頂礼して仏にまうしてまうさく、世尊、われらまたまさに大勇猛を発して仏の正法を護持し養育して、三宝の種を熾然ならしめて、久しく世間に住せしむ。いま地の精気、衆生の精気、法の精気、みなことごとく増長せしむべし。もし世尊、声聞弟子ありて、法に住し法に順じて三業相応して修行せば、われらみなことごとく護持し養育して、一切の所須乏しきところなからしめんと。乃至

◗450: 4  この娑婆界にして、初め賢劫に入りし時、拘楼孫如来、すでに四天を帝釈・梵天王に属せしめて、護持し養育せしむ。三宝の種を熾然ならしめ、三精気を増長せしめたまひき。

◗450: 6 拘那含牟尼、また四天下を梵・釈・諸天王に属して、護持し養育せしむ。迦葉もまたかくのごとし、すでに四天下を梵・釈・護世王に属して、行法のひとを護持せしめき。

◗450: 8 過去の諸仙衆、および諸天仙、星辰もろもろの宿曜、また属し分布せしめき。われ五濁世に出でて、もろもろの魔の怨を降伏して、大集会をなして、仏の正法を顕現せしむ。乃至

◗450:10 一切の諸天衆、ことごとくともに仏にまうしてまうさく、われら王の処を所にして、みな正法を護持し、三宝の種を熾然ならしめ、三精気を増長せしめん。もろもろの病疫、飢饉および闘諍を息めしめんと。乃至略出

◗450:14 【92】提頭頼天王護持品にのたまはく、

◗450:14 仏ののたまはく、日天子・月天子、なんぢわが法において護持し養育せば、なんぢ長寿にしてもろもろの衰患なからしめんと。

◗451: 1 その時に、また百億の提頭頼天王、百億の毘楼勒叉天王、百億の毘楼博叉天王、百億の毘沙門天王あり。かれら同時に、および眷属と座よりして起ちて、衣服を整理し、合掌し敬礼して、かくのごときの言をなさく、大徳婆伽婆、われらおのおのおのれが天下にして、ねんごろに仏法を護持し養育することをなさん。三宝の種、熾然として久しく住し、三種の精気みなことごとく増長せしめんと。乃至

◗451: 6 われいままた上首毘沙門天王と同心に、この閻浮提と北方との諸仏の法を護持すと。以上略出

◗451: 8 【93】月蔵経巻第八忍辱品第十六にのたまはく、

◗451: 8 仏ののたまはく、かくのごとし、かくのごとし。なんぢがいふところのごとし。

◗451: 9 もしおのれが苦を厭ひ楽を求むるを愛することあらん、まさに諸仏の正法を護持すべし。これよりまさに無量の福報を得べし。

◗451:11 もし衆生ありて、わがために出家し、鬚髪を剃除して袈裟を被服せん。たとひ戒を持たざらん、かれらことごとくすでに涅槃の印のために印せらるるなり。

◗451:13 もしまた出家して戒を持たざらんもの、非法をもつてして悩乱をなし、罵辱し毀呰せん、手をもつて刀杖打縛し、斫截することあらん。もし衣鉢を奪ひ、および種々の資生の具を奪はんもの、この人すなはち三世の諸仏の真実の報身を壊するなり。すなはち一切天人の眼目を排ふなり。

◗451:15 この人、諸仏所有の正法三宝の種を隠没せんと欲ふがためのゆゑに、もろもろの天人をして利益を得ざらしむ。地獄に堕せんゆゑに、三悪道増長し盈満をなすなりと。以上

◗452: 5  その時に、また一切の天・竜乃至一切の迦富単那・人・非人等ありて、みなことごとく合掌してかくのごときの言をなさく、われら、仏の一切声聞弟子、乃至もしまた禁戒を持たざれども、鬚髪を剃除し袈裟を片に着んものにおいて、師長の想をなさん。護持養育してもろもろの所須を与へて乏少なからしめん。

◗452: 9 もし余の天・竜乃至迦富単那等、その悩乱をなし、乃至悪心をして眼をもつてこれを視ば、われらことごとくともに、かの天・竜・富単那等所有の諸相欠減し醜陋ならしめん。かれをしてまたわれらとともに住し、ともに食を与ふることを得ざらしめん。またまた同処にして戯笑を得じ。かくのごとく擯罰せんと。以上

◗452:14 【94】またのたまはく、

◗452:14 占相を離れて正見を修習せしめ、決定して深く罪福の因縁を信ずべしと。抄出

◗453: 1 【95】首楞厳経にのたまはく、

◗453: 1 かれらの諸魔、かのもろもろの鬼神、かれらの群邪、また徒衆ありて、おのおのみづからいはん。無上道を成りて、わが滅度の後、末法のなかに、この魔民多からん、この鬼神多からん、この妖邪多からん。世間に熾盛にして、善知識となつてもろもろの衆生をして愛見の坑に落さしめん。菩提の路を失し、詃惑無識にして、おそらくは心を失せしめん。所過の処に、その家耗散して、愛見の魔となりて如来の種を失せんと。以上

◗453: 7 【96】潅頂経にのたまはく、

◗453: 7 三十六部の神王、万億恒沙の鬼神を眷属として、相を陰し番に代りて、三帰を受くるひとを護ると。以上

◗453: 9 【97】地蔵十輪経にのたまはく、

◗453: 9 つぶさにまさしく帰依して、一切の妄執吉凶を遠離せんものは、つひに邪神・外道に帰依せざれと。以上

◗453:11 【98】またのたまはく、

◗453:11 あるいは種々に、もしは少もしは多、吉凶の相を執して、鬼神を祭りて、乃至 極重の大罪悪業を生じ、無間罪に近づく。かくのごときの人、もしいまだかくのごときの大罪悪業を懴悔し除滅せずは、出家しておよび具戒を受けしめざらんも、もしは出家してあるいは具戒を受けしめんも、すなはち罪を得んと。以上

◗454: 1 【99】集一切福徳三昧経の中にのたまはく、

◗454: 1 余乗に向かはざれ、余天を礼せざれと。以上

◗454: 3 【100】本願薬師経にのたまはく、

◗454: 3 もし浄信の善男子・善女人等ありて、乃至尽形までに余天に事へざれと。

◗454: 5 【101】またのたまはく、

◗454: 5 また世間の邪魔・外道、妖の師の妄説を信じて、禍福すなはち生ぜん。おそらくはややもすれば心みづから正しからず、卜問して禍を覓め、種々の衆生を殺さん。神明に解奏し、もろもろの魍魎を呼ばうて、福祐を請乞し、延年を冀はんとするに、つひに得ることあたはず。愚痴迷惑して邪を信じ、倒見してつひに横死せしめ、地獄に入りて出期あることなけん。乃至

◗454:10 八つには、横に毒薬・厭祷・呪咀し、起屍鬼等のために中害せらると。以上抄出

◗454:12 【102】菩薩戒経にのたまはく、

◗454:12 出家の人の法は、国王に向かひて礼拝せず、父母に向かひて礼拝せず、六親に務へず、鬼神を礼せずと。以上

◗454:14 【103】仏本行集経 闍那崛多の訳 の第四十二巻優婆斯那品にのたまはく、

◗454:15 その時に、かの三迦葉兄弟にひとりの外甥、螺髻梵志あり。その梵志を優婆斯那と名づく。乃至

◗455: 1 つねに二百五十の螺髻梵志弟子とともに仙道を修学しき。かれその舅迦葉三人を聞くに、もろもろの弟子、かの大沙門の辺に往詣して、阿舅鬚髪を剃除し、袈裟衣を着ると。見をはりて、舅に向かひて偈を説きていはく、

◗455: 4 舅等虚しく火を祀ること百年、またまた空しくかの苦行を修しき。今日同じくこの法を捨つること、なほ蛇の故き皮を脱ぐがごとくするをやと。

◗455: 7  その時に、かの舅迦葉三人、同じくともに偈をもつて、その外甥、優婆斯那に報じてかくのごときの言をなさく、

◗455: 8 われら昔、空しく火神を祀りて、またまたいたづらに苦行を修しき。われら今日この法を捨つること、まことに蛇の故き皮を脱ぐがごとくすと。抄出

◗455:11 【104】起信論にいはく、

◗455:11 あるいは衆生ありて、善根力なければ、すなはち諸魔・外道・鬼神のために誑惑せらる。もしは坐中にして形を現じて恐怖せしむ、あるいは端正の男女等の相を現ず。まさに唯心の境界を念ずべし、すなはち滅してつひに悩をなさず。

◗455:14 あるいは天像・菩薩像を現じ、また如来像の相好具足せるをなして、もしは陀羅尼を説き、もしは布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧を説き、あるいは平等、空・無相・無願、無怨無親、無因無果、畢竟空寂、これ真の涅槃なりと説かん。

◗456: 2 あるいは人をして宿命過去のことを知らしめ、また未来のことを知る。他心智を得、弁才無礙ならしむ。よく衆生をして世間の名利のことに貪着せしむ。

◗456: 4 また人をしてしばしば瞋り、しばしば喜ばしめ、性無常の准ひならしむ。あるいは多く慈愛し、多く睡り、宿ること多く、多く病す、その心懈怠なり。

◗456: 6 あるいはにはかに精進を起して、後にはすなはち休廃す。不信を生じて疑多く、慮り多し。

◗456: 7 あるいはもとの勝行を捨てて、さらに雑業を修せしめ、もしは世事に着せしめ、種々に牽纏せらる。

◗456: 9 またよく人をしてもろもろの三昧の少分相似せるを得しむ。みなこれ外道の所得なり、真の三昧にあらず。

◗456:10 あるいはまた人をして、もしは一日、もしは二日、もしは三日、乃至七日、定中に住して自然の香味飲食を得しむ。身心適悦して、飢ゑず渇かず、人をして愛着せしむ。

◗456:12 あるいはまた人をして食に分斉なからしむ、たちまち多く、たちまち少なくして、顔色変異す。

◗456:13 この義をもつてのゆゑに、行者つねに智慧をして観察して、この心をして邪網に堕せしむることなかるべし。まさにつとめて正念にして、取らず着せずして、すなはちよくこのもろもろの業障を遠離すべし。知るべし、外道の所有の三昧は、みな見愛我慢の心を離れず、世間の名利恭敬に貪着するがゆゑなりと。以上

◗457: 3 【105】弁正論 法琳の撰 にいはく、

◗457: 3 十喩九箴篇、答す、李道士、十異九迷。

◗457: 5  外の一異にいはく、太上老君は、神を玄妙玉女に託して、左腋を割きて生れたり。釈迦牟尼は、胎を摩耶夫人に寄せて、右脇を開きて出でたりと。乃至

◗457: 7  内の一喩にいはく、老君は常に逆ひ、牧女に託して左より出づ。世尊は化に順ひて、聖母によりて右より出でたまふと。

◗457: 9  開士のいはく、慮景裕・戴詵・韋処玄等が解五千文、および梁の元帝・周弘政等が考義類を案ずるにいはく、太上に四つあり、いはく三皇および尭・舜これなり。

◗457:11 いふこころは、上古にこの大徳の君あり、万民の上に臨めり。ゆゑに太上といふなり。郭荘がいはく、時にこれを賢とするところのものを君とす。材、世に称せられざるものを臣とすと。

◗457:13 老子、帝にあらず、皇にあらず、四種の限りにあらず。いづれの典拠ありてか、たやすく太上と称するや。

◗457:15 道家が玄妙および中台・朱韜玉扎等の経、ならびに出塞記を検ふるにいはく、老はこれ李母が生めるところ、玄妙玉女ありといはず。すでに正説にあらず、もつとも仮の謬談なり。

◗458: 2 仙人玉録にいはく、仙人は妻なし、玉女は夫なし。女形を受けたりといへども、つひに産せずと。もしこの瑞あらば、まことに嘉とすべしといふ。いづれぞせん、史記にも文なし、周書に載せず。虚を求めて実を責めば、矯盲のものの言を信ずるならくのみと。

◗458: 6 礼にいはく、官を退きて位なきものは左遷すと。

◗458: 6 論語にいはく、左衽は礼にあらざるなりと。

◗458: 7 もし左をもつて右に勝るとせんは、道士行道するに、なんぞ左に旋らずして右に還つて転るや。国の詔書にみないはく、右のごとしと。ならびに天の常に順ふなり。と。乃至

◗458:10  外の四異にいはく、老君は文王の日、隆周の宗師たり。釈迦は荘王の時、罽賓の教主たりと。

◗458:12  内の四喩にいはく、伯陽は職小臣に処り、かたじけなく蔵吏に充れり。文王の日にあらず、また隆周の師にあらず。牟尼は、位太子に居して、身特尊を証したまへり。昭王の盛年に当れり、閻浮の教主たりと。乃至

◗458:15  外の六異にいはく、老君は世に降して、始め周文の日より孔丘の時に訖れり。釈迦ははじめて浄飯の家に下生して、わが荘王の世に当れりと。

◗459: 2  内の六喩にいはく、迦葉は桓王丁卯の歳に生れて、景王壬午の年に終る。孔丘の時に訖ふといへども、姫昌の世に出でず。調御は昭王甲寅の年に誕じて、穆王壬申の歳に終る。これ浄飯の胤たり。もと荘王の前に出でたまへりと。

◗459: 5  開士のいはく、孔子、周に至りて、老耼を見て礼を問ふ。ここに史記につぶさに顕る。文王の師たること、すなはち典証なし。周の末に出でたり、そのこと尋ぬべし。周の初めにありしごときは史文に載せずと。乃至

◗459: 8  外の七異にいはく、老君はじめて周の代に生れて、晩に流沙に適く。始終を測らず、方所を知ることなし。釈迦は西国に生じて、かの提河に終りぬ。弟子胸を搥ち、群胡大きに叫ぶと。

◗459:11  内の七喩にいはく、老子は頼郷に生れて、槐里に葬らる。秦佚の弔に詳らかにす。責め遁天の形にあり。瞿曇はかの王宮に出でて、この鵠樹に隠れたまふ。漢明の世に伝はりて、ひそかに蘭台の書にましますと。

◗459:14  開士のいはく、荘子の内篇にいはく、老耼死して秦佚弔ふ。ここに三たび号んで出づ。弟子怪しんで問ふ。夫子の徒にあらざるかと。秦佚いはく、向にわれ入りて少きものを見るに、これを哭す、その父を哭するがごとく、老者これを哭す、その子を哭するがごとし。古はこれを遁天の形といふ。始めはおもへらく、その人なりと、しかるにいま非なりと。

◗460: 3 遁は隠なり、天は免縛なり、形は身なり。いふこころは、始め老子をもつて免縛形の仙とす、いますなはち非なり。ああ、その諂曲して人の情を取る。ゆゑに死を免れず。わが友にあらずと。乃至

◗460: 7  内の十喩、答す、外の十異。

◗460: 8  外は生より左右異なる一。内は生より勝劣あり。

◗460: 9  内に喩していはく、左衽はすなはち戎狄の尊むところ、右命は中華の尚むところとす。

◗460:10 ゆゑに春秋にいはく、冢卿は命なし、介卿はこれあり、また左にあらざるやと。

◗460:11 史記にいはく、藺相如は功大きにして、位廉頗が右にあり、これを恥づと。

◗460:12 またいはく、張儀相、秦を右にして魏を左にす。犀首相、韓を右にして魏を左にすと。けだしいはく、便りならざるなり。

◗460:14 礼にいはく、左道乱群をばこれを殺すと。あに右は優りて左は劣れるにあらずや。

◗460:15 皇甫謐が高士伝にいはく、老子は楚の相人、渦水の陰に家とす。常樅子に師事す。常子疾あるに及んで、李耳往きて疾を問ふと。

◗461: 2 ここに康のいはく、李耳、涓子に従つて九仙の術を学ぶと。太史公等が衆書を検ふるに、老子、左腋を剖いて生るといはず。すでにまさしく出でたることなし、承信すべからざること明らけし。

◗461: 4 あきらかに知んぬ、戈を揮ひ翰を操るは、けだし文武の先、五気・三光は、まことに陰陽の首めなり。ここをもつて釈門には右に転ずること、また人用を扶く。張陵の左道、まことに天の常に逆ふ。いかんとなれば、釈迦、無縁の慈を起して、有機の召に応ず、その迹を語るなり。乃至

◗461: 9  それ釈氏は、天上天下に介然として、その尊に居す。三界六道、卓爾としてその妙を推すと。乃至

◗461:11  外論にいはく、老君、範となす、ただ孝ただ忠、世を救ひ人を度す、慈を極め愛を極む。ここをもつて声教永く伝へ、百王改まらず、玄風長く被らしめて万古差ふことなし。このゆゑに国を治め家を治むるに、常然たり楷式たり。

◗461:14 釈教は義を棄て親を棄て、仁ならず孝ならず。闍王父を殺せる、翻じてなしと説く。調達兄を射て罪を得ることを聞くことなし。これをもつて凡を導く、さらに悪を長すことをなす。これをもつて世に範とする、なんぞよく善を生ぜんや。これ逆順の異、十なりと。

◗462: 3  内喩にいはく、義はすなはち道徳の卑しうするところ、礼は忠信の薄きより生ず。瑣仁、匹婦を譏り、大孝は不匱を存す。

◗462: 4 しかうして凶に対うて歌ひ笑ふ、中夏の容に乖ふ。喪に臨んで盆を扣く、華俗の訓にあらず。原壌、母死して棺に騎りて歌ふ。孔子、祭を助けて譏らず。子桑死するとき子貢弔ふ、四子あひ視て笑ふ。荘子、妻死す、盆を扣きて歌ふなり。

◗462: 7 ゆゑにこれを教ふるに孝をもつてす、天下の人父たるを敬するゆゑなり。これを教ふるに忠をもつてす、天下の人君たるを敬するなり。化、万国に周し、すなはち明辟の至れるなり。仁、四海に形す、まことに聖王の巨孝なり。

◗462:10 仏経にのたまはく、識体六趣に輪廻す、父母にあらざるなし。生死三界に変易す、たれか怨親を弁へんと。

◗462:11 またのたまはく、無明慧眼を覆ふ、生死のなかに来往す。往来して所作す、さらにたがひに父子たり。怨親しばしば知識たり、知識しばしば怨親たりと。

◗462:13 ここをもつて沙門、俗を捨てて真に趣く。庶類を天属に均しうす。栄を遺てて道に即く。含気を己親に等しとす。あまねく正しき心を行じて、あまねく親しき志を等しくす。

◗463: 1 また道は清虚を尚ぶ、なんぢは恩愛を重くす。法は平等を貴ぶ、なんぢは怨親を簡ふ。あに惑ひにあらずや。勢競親を遺る、文史事を明かす、斉桓・楚穆これその流なり。もつて聖を訾らんと欲ふ、あに謬れるにあらずや。

◗463: 4 なんぢが道の劣、十なりと。乃至

◗463: 5  二皇統べて化して、須弥四域経にいはく、応声菩薩を伏羲とす、吉祥菩薩を女媧とすと。淳風の初めに居り、三聖、言を立てて、空寂所問経にいはく、迦葉を老子とす、儒童を孔子とす、光浄を顔回とすと。 已澆の末を興す。玄虚沖一の旨、黄・老その談を盛りにす。詩書礼楽の文、周・孔その教を隆くす。

◗463: 9 謙をあきらかにし、質を守る、すなはち聖に登るの階梯なり。三畏・五常は人天の由漸とす。けだし冥に仏理に符ふ、正弁極談にあらずや。なほ道を瘖聾に訪ふに、方を麾ひて遠邇を窮むることなし。津を兎馬に問ふ。済るを知りて浅深を測らず。

◗463:12 これによりて談ずるに、殷・周の世は釈教のよろしく行すべきところにあらざるなり。なほ炎威耀を赫かす、童子目を正しくして視ることあたはず。迅雷ふるひ撃つ、懦夫耳を張りて聴くことあたはず。

◗463:14 ここをもつて河池涌き浮ぶ、昭王、神を誕ずることを懼る。雲霓色を変じ、穆后、聖を亡はんことを欣ぶ。周書異記にいはく、昭王二十四年四月八日、江河泉水ことごとく泛漲せり。穆王五十三年二月十五日、暴風起りて樹木折れ、天陰り、雲黒し、白虹の怪ありと。

◗464: 3 あによく葱河を越えて化を稟け、雪嶺を踰えて誠を効さんや。浄名にいはく、これ盲者の過ちにして日月の咎にあらずと。たまたまその鑿竅の弁を窮めんと欲ふ、おそらくは吾子混沌の性を傷む。なんぢの知るところにあらず。その盲、一なりと。

◗464: 7  内には像塔を建造す、指の二。

◗464: 8 漢明より以下、斉・梁に訖るまで、王・公・守牧、清信の士女、および比丘・比丘尼等、冥に至聖を感じ、国に神光を覩るもの、おほよそ二百余人。

◗464: 9 迹を万山に見、耀を滬涜に浮べ、清台のもとに満月の容を覩、雍門の外に相輪の影を観るがごときに至りては、南平は瑞像に応を獲、文宣は夢を聖牙に感ず。蕭后一たび鋳て剋成し、宋皇四たび摸して就らず。その例、はなはだ衆し、つぶさに陳ぶべからず。あになんぢが無目をもつてかの有霊を斥はんや。

◗464:13 しかるに徳として備はらざるものなし、これをいひて涅槃とす。道として通ぜざるものなし、これを名づけて菩提とす。智として周からざるものなし、これを称して仏陀とす。この漢語をもつてかの梵言を訳す、すなはち彼此の仏、昭然として信ずべきなり。

◗465: 2 なにをもつてかこれを明かすとならば、それ仏陀は漢には大覚といふ、菩提をば漢には大道といふ、涅槃は漢には無為といふなり。しかるに吾子終日に菩提の地を践んで、大道はすなはち菩提の異号なることを知らず。形を大覚の境に稟けて、いまだ大覚は、すなはち仏陀の訳名なることを閑はず。

◗465: 6 ゆゑに荘周いはく、また大覚あれば、後にその大夢を知るなりと。

◗465: 7 郭が注にいはく、覚は聖人なり。いふこころは、患へ懐にあるはみな夢なりと。

◗465: 8 注にいはく、夫子と子游と、いまだいふことを忘れて神解することあたはず、ゆゑに大覚にあらざるなりと。

◗465: 9 君子のいはく、孔丘の談、ここにまた尽きぬと。

◗465:10 涅槃寂照、識として識るべからず、智として知るべからず、すなはち言語断えて心行滅す。ゆゑに言を忘るるなり。法身はすなはち三点・四徳の成ずるところ、蕭然として無累なり。ゆゑに解脱と称す。これその神解として患息するなり。夫子、聖なりといへども、はるかにもつて功を仏に推れり。

◗465:14 いかんとなれば、劉向が古旧二録を案ずるにいはく、仏経中夏に流はりて一百五十年の後、老子まさに五千文を説けりと。しかるに周と老と、ならびに仏経の所説を見る。言教往々たり、験へつべしと。乃至

◗466: 2  正法念経にのたまはく、人戒を持たざれば、諸天減少し、阿修羅盛りなり。善竜力なし、悪竜力あり。悪竜力あれば、すなはち霜雹を降して非時の暴風疾雨ありて、五穀登らず、疾疫競ひ起り、人民飢饉す、たがひにあひ残害す。

◗466: 5 もし人戒を持てば、多く諸天威光を増足す。修羅減少し、悪竜力なし、善竜力あり。善竜力あれば、風雨時に順じ、四気和暢なり。甘雨降りて稔穀豊かなり、人民安楽にして兵戈戢息す。疾疫行ぜざるなりと。乃至

◗466: 8  君子いはく、道士大霄隠書・無上真書等にいはく、無上大道君の治は五十五重無極大羅天のうち、玉京の上、七宝の台、金床玉机にあり。仙童・玉女の侍衛するところ、三十三天三界の外に住すと。

◗466:10 神泉五岳図を案ずるにいはく、大道天尊は、太玄都、玉光州、金真の郡、天保の県、元明の郷、定志の里を治す。災及ばざるところなりと。

◗466:12 霊書経にいはく、大羅はこれ五億五万五千五百五十五重天の上天なりと。

◗466:13 五岳図にいはく、都とはみやこなり。太上大道、道のなかの道、神明君最、静を守りて大玄の都に居りと。

◗466:15 諸天内音にいはく、天、諸仙と楼都の鼓を鳴らす。玉京に朝晏して、もつて道君を楽しましむと。

◗467: 2  道士の上ぐるところの経の目を案ずるに、みないはく、宋人陸修静によりて一千二百二十八巻を列ねたりと。もと雑書、諸子の名なし。しかるに道士いま列ぬるに、すなはち二千四十巻あり。そのなかに多く漢書芸文志の目を取りて、みだりに八百八十四巻を註して道の経論とす。乃至

◗467: 6  陶朱を案ずれば、すなはち范蠡なり。親り越の王勾践に事へて、君臣ことごとく呉に囚はれて、屎を嘗め尿を飲んで、またもつてはなはだし。また范蠡の子は、斉に戮さる。父すでに変化の術あらば、なんぞもつて変化してこれを免るることあたはざらん。

◗467: 9 造立天地の記を案ずるに称すらく、老子幽王の皇后の腹のなかに託生すと。すなはちこれ幽王の子なり。また身、柱史たりと。またこれ幽王の臣なり。化胡経にいはく、老子漢にありては東方朔とすと。もしあきらかにしからば、知んぬ、幽王犬戎のために殺さる。あに君父を愛して神符を与へて、君父をして死せざらしめざるべけんや。乃至

◗467:14  陸修静が目録を指す、すでに正本なし。なんぞ謬りのはなはだしきをや。しかるに修静、目をなすこと、すでにこれ大偽なり。いま玄都録またこれ偽中の偽なりと。乃至

◗468: 2 【106】またいはく、

◗468: 2 大経のなかに説かく、道に九十六種あり、ただ仏の一道これ正道なり、その余の九十五種においてはみなこれ外道なりと。

◗468: 4 朕、外道を捨ててもつて如来に事ふ。もし公卿ありて、よくこの誓に入らんものは、おのおの菩提の心を発すべし。老子・周公・孔子等、これ如来の弟子として化をなすといへども、すでに邪なり。ただこれ世間の善なり、凡を隔てて聖となすことあたはず。公卿・百官、侯王・宗室、よろしく偽を反し真に就き、邪を捨て正に入るべし。

◗468: 8 ゆゑに経教、成実論に説きていはく、もし外道に事へて心重く、仏法は心軽し、すなはちこれ邪見なり。もし心一等なる、これ無記にして善悪に当らずと。仏に事へて心強くして老子に心少なくは、すなはちこれ清信なり。清といふは、清はこれ表裏ともに浄く、垢穢惑累みな尽す、信はこれ正を信じて邪ならざるがゆゑに、清信の仏弟子といふ。その余等しくみな邪見なり、清信と称することを得ざるなりと。乃至

◗468:15  老子の邪風を捨てて法の真教に入流せよとなりと。以上抄出

◗469: 1 【107】光明寺の和尚のいはく、

◗469: 1 上方の諸仏恒沙のごとし。還りて舌相を舒べたまふことは、娑婆の十悪・五逆多く疑謗し、邪を信じ、鬼に事へ、神魔を餧かしめて、みだりに想ひて恩を求めて福あらんと謂へば、災障禍横にうたたいよいよ多し。連年に病の床枕に臥す。聾ひ盲ひ脚折れ、手攣き撅る、神明に承事してこの報を得るもののためなり。いかんぞ捨てて弥陀を念ぜざらんと。以上

◗469: 7 【108】天台の法界次第にいはく、

◗469: 7 一つには仏に帰依す。経にのたまはく、仏に帰依せんもの、つひにまたその余のもろもろの外天神に帰依せざれと。またのたまはく、仏に帰依せんもの、つひに悪趣に堕ちずといへり。

◗469:10 二つには法に帰依す。いはく、大聖の所説、もしは教もしは理、帰依し修習せよとなり。

◗469:11 三つには僧に帰依す。いはく、心、家を出でたる三乗正行の伴に帰するがゆゑにと。経にのたまはく、永くまた更つて、その余のもろもろの外道に帰依せざるなりと。以上

◗469:14 【109】慈雲大師のいはく、

◗469:14 しかるに祭祀の法は、天竺には韋陀、支那には祀典といへり。すでにいまだ世を逃れず、真を論ずれば俗を誘ふる権方なりと。

◗470: 2 【110】高麗の観法師のいはく、

◗470: 2 餓鬼道、梵語には闍黎多。この道また諸趣に遍す。福徳あるものは山林塚廟神となる。福徳なきものは、不浄所に居し、飲食を得ず、つねに鞭打を受く。河を填ぎ海を塞ぎて、苦を受くること無量なり。諂誑の心意なり。下品の五逆・十悪を作りて、この道の身を感ずと。以上

◗470: 7 【111】神智法師釈していはく、

◗470: 7 餓鬼道はつねに飢ゑたるを餓といふ、鬼とは帰なり。尸子にいはく、古は死人を名づけて帰人とす。また人神を鬼といひ、地神を祇といふと。乃至 形あるいは人に似たり、あるいは獣等のごとし。心正直ならざれば、名づけて諂誑とすと。

◗470:11 【112】大智律師のいはく、

◗470:11 神はいはく鬼神なり。すべて四趣、天・修・鬼・獄に収むと。

◗470:13 【113】度律師のいはく、

◗470:13 魔はすなはち悪道の所収なりと。

◗470:14 【114】止観の魔事境にいはく、

◗470:14 二つに魔の発相を明かさば、管属に通じて、みな称して魔とす。細しく枝異を尋ぬれば、三種を出でず。一つには慢悵鬼、二つには時媚鬼、三つには魔羅鬼なり。三種の発相、各々不同なりと。

◗471: 3 【115】源信、止観によりていはく、

◗471: 3 魔は煩悩によりて菩提を妨ぐるなり。鬼は病悪を起し命根を奪ふと。以上

◗471: 5 【116】論語にいはく、

◗471: 5 季路問はく、鬼神に事へんかと。子のいはく、事ふることあたはず。人いづくんぞよく鬼神に事へんやと。以上抄出

◗471: 7 【117】ひそかにおもんみれば、聖道の諸教は行証久しく廃れ、浄土の真宗は証道いま盛んなり。

◗471: 8 しかるに諸寺の釈門、教に昏くして真仮の門戸を知らず、洛都の儒林、行に迷ひて邪正の道路を弁ふることなし。ここをもつて、興福寺の学徒、太上天皇 後鳥羽の院と号す、諱尊成 今上 土御門の院と号す、諱為仁 聖暦、承元丁卯の歳、仲春上旬の候に奏達す。

◗471:12 主上臣下、法に背き義に違し、忿りを成し怨みを結ぶ。これによりて、真宗興隆の大祖源空法師ならびに門徒数輩、罪科を考へず、猥りがはしく死罪に坐す。あるいは僧儀を改めて姓名を賜うて遠流に処す。予はその一つなり。

◗471:15 しかれば、すでに僧にあらず俗にあらず。このゆゑに禿の字をもつて姓とす。空師ならびに弟子等、諸方の辺州に坐して五年の居諸を経たりき。

◗472: 2 皇帝 佐渡の院、諱守成 聖代、建暦辛未の歳、子月の中旬第七日に、勅免を蒙りて入洛して以後、空、洛陽の東山の西の麓、鳥部野の北の辺、大谷に居たまひき。同じき二年壬申寅月の下旬第五日午のときに入滅したまふ。奇瑞称計すべからず。別伝に見えたり。

◗472: 7 【118】しかるに愚禿釈の鸞、建仁辛酉の暦、雑行を棄てて本願に帰す。元久乙丑の歳、恩恕を蒙りて選択を書しき。同じき年の初夏中旬第四日に、選択本願念仏集の内題の字、ならびに南無阿弥陀仏 往生之業 念仏為本と釈綽空の字と、空の真筆をもつて、これを書かしめたまひき。

◗472:11 同じき日、空の真影申し預かりて、図画したてまつる。同じき二年閏七月下旬第九日、真影の銘は、真筆をもつて南無阿弥陀仏と若我成仏 十方衆生 称我名号 下至十声 若不生者 不取正覚 彼仏今現在成仏 当知本誓重願不虚 衆生称念必得往生の真文とを書かしめたまふ。

◗472:15 また夢の告げによりて、綽空の字を改めて、同じき日、御筆をもつて名の字を書かしめたまひをはんぬ。本師聖人今年は七旬三の御歳なり。

◗473: 3  選択本願念仏集は、禅定博陸 月輪殿兼実、法名円照 の教命によりて撰集せしめるところなり。真宗の簡要、念仏の奥義、これに摂在せり。見るもの諭り易し。まことにこれ希有最勝の華文、無上甚深の宝典なり。

◗473: 6 年を渉り日を渉りて、その教誨を蒙るの人、千万なりといへども、親といひ疎といひ、この見写を獲るの徒、はなはだもつて難し。しかるにすでに製作を書写し、真影を図画せり。これ専念正業の徳なり、これ決定往生の徴なり。

◗473: 9 よりて悲喜の涙を抑へて由来の縁を註す。

◗473:10  慶ばしいかな、心を弘誓の仏地に樹て、念を難思の法海に流す。深く如来の矜哀を知りて、まことに師教の恩厚を仰ぐ。慶喜いよいよ至り、至孝いよいよ重し。

◗473:12 これによりて、真宗の詮を鈔し、浄土の要を摭ふ。ただ仏恩の深きことを念うて、人倫の嘲りを恥ぢず。もしこの書を見聞せんもの、信順を因とし、疑謗を縁として、信楽を願力に彰し、妙果を安養に顕さんと。

◗474: 1 【119】安楽集にいはく、

◗474: 1 真言を採り集めて、往益を助修せしむ。いかんとなれば、前に生れんものは後を導き、後に生れんひとは前を訪へ、連続無窮にして、願はくは休止せざらしめんと欲す。無辺の生死海を尽さんがためのゆゑなりと。以上

◗474: 5 【120】しかれば、末代の道俗、仰いで信敬すべきなり、知るべし。

◗474: 6 【121】華厳経の偈にのたまふがごとし。

◗474: 6 もし菩薩、種々の行を修行するを見て、善・不善の心を起すことありとも、菩薩みな摂取せんと。以上

◗474:15 顕浄土方便化身土文類 六