◗131: 1 顕浄土真実教行証文類 序

◗131: 5  ひそかにおもんみれば、難思の弘誓は難度海を度する大船、無礙の光明は無明の闇を破する恵日なり。

◗131: 6 しかればすなはち、浄邦縁熟して、調達、闍世をして逆害を興ぜしむ。浄業機彰れて、釈迦、韋提をして安養を選ばしめたまへり。これすなはち権化の仁斉しく苦悩の群萌を救済し、世雄の悲まさしく逆謗闡提を恵まんと欲す。

◗131: 9 ゆゑに知んぬ、円融至徳の嘉号は悪を転じて徳を成す正智、難信金剛の信楽は疑を除き証を獲しむる真理なりと。

◗131:12  しかれば、凡小修し易き真教、愚鈍往き易き捷径なり。大聖一代の教、この徳海にしくなし。

◗131:13 穢を捨て浄を欣ひ、行に迷ひ信に惑ひ、心昏く識寡なく、悪重く障多きもの、ことに如来の発遣を仰ぎ、かならず最勝の直道に帰して、もつぱらこの行に奉へ、ただこの信を崇めよ。

◗132: 1 ああ、弘誓の強縁、多生にも値ひがたく、真実の浄信、億劫にも獲がたし。たまたま行信を獲ば、遠く宿縁を慶べ。

◗132: 2 もしまたこのたび疑網に覆蔽せられば、かへつてまた曠劫を経歴せん。誠なるかな、摂取不捨の真言、超世希有の正法、聞思して遅慮することなかれ。

◗132: 5  ここに愚禿釈の親鸞、慶ばしいかな、西蕃・月支の聖典、東夏・日域の師釈に、遇ひがたくしていま遇ふことを得たり、聞きがたくしてすでに聞くことを得たり。真宗の教行証を敬信して、ことに如来の恩徳の深きことを知んぬ。ここをもつて聞くところを慶び、獲るところを嘆ずるなりと。

◗134: 1  大無量寿経 真実の教 浄土真宗

◗134: 2   真実の教を顕す 一
  真実の行を顕す 二
  真実の信を顕す 三
  真実の証を顕す 四
  真仏土を顕す  五
  化身土を顕す  六

◗135: 1 顕浄土真実教文類 一
  愚禿釈親鸞集

◗135: 5 【1】つつしんで浄土真宗を案ずるに、二種の回向あり。一つには往相、二つには還相なり。往相の回向について真実の教行信証あり。

◗135: 7 【2】それ真実の教を顕さば、すなはち大無量寿経これなり。

◗135: 7 この経の大意は、弥陀、誓を超発して、広く法蔵を開きて、凡小を哀れんで選んで功徳の宝を施することを致す。釈迦、世に出興して、道教を光闡して、群萌を拯ひ恵むに真実の利をもつてせんと欲すなり。

◗135:10 ここをもつて如来の本願を説きて経の宗致とす、すなはち仏の名号をもつて経の体とするなり。

◗135:13  なにをもつてか出世の大事なりと知ることを得るとならば、

◗135:14 【3】大無量寿経にのたまはく、

◗135:14 今日世尊、諸根悦予し姿色清浄にして、光顔巍々とましますこと、あきらかなる鏡の浄き影、表裏に暢るがごとし。威容顕曜にして超絶したまへること無量なり。いまだかつて瞻覩せず、殊妙なること今のごとくましますをば。

◗136: 2 やや、しかなり。大聖、わが心に念言すらく、今日世尊、奇特の法に住したまへり。今日世雄、仏の所住に住したまへり。今日世眼、導師の行に住したまへり。今日世英、最勝の道に住したまへり。今日天尊、如来の徳を行じたまへり。

◗136: 5 去来現の仏、仏と仏とあひ念じたまへり。いまの仏も諸仏を念じたまふことなきことを得んや。なんがゆゑぞ威神の光、光いまししかると。

◗136: 7 ここに世尊、阿難に告げてのたまはく、諸天のなんぢを教へて来して仏に問はしむるや、みづから慧見をもつて威顔を問へるやと。

◗136: 9 阿難、仏にまうさく、諸天の来りてわれを教ふるものあることなけん。みづから所見をもつてこの義を問ひたてまつるならくのみと。

◗136:11  仏ののたまはく、善いかな阿難、問へるところはなはだ快し。深き智慧、真妙の弁才を発して、衆生を愍念せんとして、この慧義を問へり。

◗136:12 如来無蓋の大悲をもつて三界を矜哀したまふ。世に出興するゆゑは、道教を光闡して、群萌を拯ひ恵むに真実の利をもつてせんと欲してなり。

◗136:14 無量億劫に値ひがたく見たてまつりがたきこと、なほし霊瑞華の時ありて時にいまし出づるがごとし。

◗137: 1 いま問へるところは饒益するところ多し、一切の諸天・人民を開化す。

◗137: 1 阿難まさに知るべし、如来の正覚は、その智量りがたくして、導御したまふところ多し。慧見無礙にしてよく遏絶することなしと。以上

◗137: 4 【4】無量寿如来会にのたまはく、

◗137: 4 阿難、仏にまうしてまうさく、世尊、われ如来の光瑞希有なるを見たてまつるがゆゑにこの念を発せり。天等によるにあらずと。

◗137: 6 仏、阿難に告げたまはく、善いかな善いかな、なんぢいま快く問へり。よく微妙の弁才を観察して、よく如来に如是の義を問ひたてまつれり。

◗137: 8 なんぢ一切如来・応・正等覚および大悲に安住して群生を利益せんがために、優曇華の希有なるがごとくして大士世間に出現したまへり。ゆゑにこの義を問ひたてまつる。

◗137:10 またもろもろの有情を哀愍し利楽せんがためのゆゑに、よく如来に如是の義を問ひたてまつれりと。以上

◗137:12 【5】平等覚経にのたまはく、

◗137:12 仏、阿難に告げたまはく、世間に優曇鉢樹あり、ただ実ありて華あることなし。天下に仏まします、いまし華の出づるがごとしならくのみ。世間に仏ましませども、はなはだ値ふことを得ること難し。いまわれ仏になりて天下に出でたり。

◗137:15 なんぢ大徳ありて、聡明善心にして、あらかじめ仏意を知る。なんぢ忘れずして仏辺にありて仏に侍へたてまつるなり。なんぢいま問へるところ、よく聴き、あきらかに聴けと。以上

◗138: 3 【6】憬興師のいはく、

◗138: 3 今日世尊住奇特法といふは、神通輪によりて現じたまふところの相なり。ただつねに異なるのみにあらず。また等しきものなきがゆゑに。

◗138: 5 今日世雄住仏所住といふは、普等三昧に住して、よく衆魔雄健天を制するがゆゑに。

◗138: 6 今日世眼住導師行といふは、五眼を導師の行と名づく。衆生を引導するに過上なきがゆゑに。

◗138: 7 今日世英住最勝道といふは、仏、四智に住したまふ。独り秀でたまへること、匹しきことなきがゆゑに。

◗138: 8 今日天尊行如来徳といふは、すなはち第一義天なり。仏性不空の義をもつてのゆゑに。

◗138:10 阿難当知如来正覚といふは、すなはち奇特の法なり。

◗138:10 慧見無礙といふは、最勝の道を述するなり。

◗138:11 無能遏絶といふは、すなはち如来の徳なり と。以上

◗138:12 【7】しかればすなはち、これ真実の教を顕す明証なり。

◗138:12 まことにこれ、如来興世の正説、奇特最勝の妙典、一乗究竟の極説、速疾円融の金言、十方称讃の誠言、時機純熟の真教なりと、知るべしと。

◗139:15 顕浄土真実教文類 一