◗507: 1  転経行道願往生浄土法事讃 巻上
  沙門善導集記

◗507: 5 【1】四天王を奉請す。ただちに道場のなかに入りたまへ。
師子王を奉請す。師子また逢ひがたし。
身の毛衣を奮迅するに、衆魔退散して去る。
頭を回して法師を請ず。ただちに涅槃の城を取らん。

◗507: 9 【2】 序していはく、

◗507:10  ひそかにおもんみれば、娑婆広大にして火宅無辺なり。六道にあまねく居して重昏永夜なり。生盲無目にして慧照いまだ期せず。引導無方なれども、ともに死地に摧く。循還来去して逝水長流に等し。託命投神して、たれかこれをよく救はん。これすなはち識含無際にして、窮塵の劫さらに踰えたり。自爾悠悠として勝縁に遇ふこと、これいづれの日ぞ。

◗507:15  上海徳初際如来よりすなはち今時の釈迦に至る諸仏、みな弘誓に乗じて悲智双行し、含情を捨てずして三輪あまねく化したまふ。しかるにわれ無明の障重くして、仏出でたまへども逢はず。たとひ同生すれどもまた覆器のごとし。神光等しく照らして四生を簡ばず。慈及びて偏なく、みな法潤に資す。法水に沈むといへども、長劫に頑ななるによりて苦・集あひより、毒火時に臨みてまた発る。

◗508: 6  仰ぎておもんみれば、大悲の恩重くして等しく身田を潤し、智慧冥に加して道芽増長す。慈悲方便をもつて視教よろしきに随ひ、

◗508: 7 勧めて弥陀を念ぜしめ、浄土に帰せしめたまふ。

◗508: 8 地はすなはち衆珍雑間して、光色競ひ輝き、徳水澄み、華玲瓏として影徹る。宝楼重接して等しく神光を輝かし、林樹瓔を垂れて風塵雅曲あり。華台厳瑩して種々希奇なり。聖衆同じく居して、あきらかなること千日に踰えたり。身はすなはち紫金の色、相好儼然たり。進止往来、空に乗じて無礙なり。もし依報を論ずれば、すなはち十方に超絶す。地上・虚空等しくしてみな異なることなし。他方の凡聖、願に乗じて往来す。かしこに到りぬれば、殊なることなく斉同に不退なり。

◗508:15  ただおもんみれば、如来の善巧総じて四生を勧め、この娑婆を棄てて極楽に生ずることを欣はしめ、もつぱら名号を称し、兼ねて弥陀経を誦せしめたまふ。かの荘厳を識り、この苦事を厭ひて、三因・五念畢命を期となし、正助・四修すなはち刹那も間なく、この功業を回してあまねく含霊に備へて、寿尽くれば台に乗じて斉しくかの国に臨ましめんと欲すればなり。

◗509: 6 【3】おほよそ自のためにせんと欲し、他のためにせんと欲して道場を立せば、先づすべからく堂舎を厳飾して尊像・幡華を安置しをはりて、衆等多少を問ふことなく、ことごとく洗浴して浄衣を着し、道場に入りて法を聴かしむべし。もし召請せんと欲する人および和讃のものはことごとく立し、大衆は坐せしめて、一人をして先づ焼香・散華を須ゐ、周帀一遍せしめをはりて、しかして後法によりて声をなして召請していへ。

◗509:12 【4】般舟三昧楽 願往生
大衆心を同じくして三界を厭へ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
三塗永く絶えて願はくは名すらなからん 無量楽

◗510: 1 三界は火宅にして居止しがたし 願往生
仏の願力に乗じて西方に往かん 無量楽
般舟三昧楽 願往生
慈恩を報ずることを念じてつねに頂戴せよ 無量楽

◗510: 5 【5】大衆華を持して恭敬して立し 願往生
先づ弥陀を請じたてまつる道場に入りたまへ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
弘願に違せず時に応じて迎へたまへ 無量楽

◗510: 9 観音・勢至・塵沙の衆 願往生
仏に従ひ華に乗じて来りて会に入りたまへ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
観音手を接りて華台に入らしめたまへ 無量楽

◗510:13 無勝荘厳の釈迦仏 願往生
わが微心を受けて道場に入りたまへ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
身を砕きても釈迦の恩を慚謝せん 無量楽

◗511: 2 かの国の荘厳大海衆 願往生
仏に従ひ華に乗じて来りて会に入りたまへ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
仏の神化を助けて衆生を度す 無量楽

◗511: 6 十方恒沙の仏舌を舒べて 願往生
われ凡夫の安楽に生ずることを証したまふ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
悲心利物の大悲心なり 無量楽

◗511:10 慚愧す恒沙の大悲心 願往生
わが微心を受けて道場に入りたまへ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
専心に浄土の仏前を期す 無量楽

◗511:14 一々の如来の大海衆 願往生
仏に従ひ華に乗じて来りて会に入りたまへ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
ことごとくこれ往生の増上縁なり 無量楽

◗512: 3 仏二十五菩薩をして 願往生
一切の時に来りてつねに護念せしめたまふ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
畢命してただちに涅槃の城に入らん 無量楽

◗512: 7 仏は恐れたまふ衆生に四魔の障ありて 願往生
いまだ極楽に至らずして三塗に堕することを 無量楽
般舟三昧楽 願往生
直心をもつて実に行ずれば仏迎来したまふ 無量楽

◗512:11 われいま衆等深く慚謝す 願往生
わが微心を受けて来りて会に入りたまへ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
心々専注して娑婆を出でん 無量楽

◗512:15 【6】本国の弥陀もろもろの聖衆 願往生
平等にともに来りて道場に坐したまへ 無量楽
般舟三昧楽 願往生
道場の聖衆実に逢ひがたし 無量楽

◗513: 4 衆等弥陀会を頂礼して 願往生
あまねく香華を散じて同じく供養したてまつらん 無量楽
般舟三昧楽 願往生
弥陀の光往生人を摂す 無量楽

◗513: 8 【7】仏弥陀の涅槃会に対して 願往生
おのおの誓願を発して華台を請ず 無量楽
般舟三昧楽 願往生
極楽の荘厳の門ことごとく開けたり 無量楽

◗513:12 般舟三昧楽 願往生
専心に念仏すれば華台に坐す 無量楽
般舟三昧楽 願往生
華に乗じてただちに入ること疑ふべからず 無量楽

◗514: 1 【8】衆等心を斉しくして高座を請ず 往生楽
慇懃に智影して尊経を説け 往生楽
難思議 往生楽双樹林下 往生楽難思 往生楽
道場の時逢ひがたく遇ひがたし 往生楽

◗514: 5 無常迅速にして命停まりがたし 往生楽
難思議 往生楽双樹林下 往生楽難思 往生楽
眼前の業道、人々見る 往生楽
みな三毒によりて因縁をなす 往生楽

◗514: 9 難思議 往生楽双樹林下 往生楽難思 往生楽
人身を得たりといへどもつねに闇鈍にして 往生楽
貪瞋・邪見うたた専にして専なり 往生楽
難思議 往生楽双樹林下 往生楽難思 往生楽

◗514:13 日夜に惛々として惺悟せず 往生楽
還りてこれ三塗に流浪する因なり 往生楽
難思議 往生楽双樹林下 往生楽難思 往生楽
たちまちに長劫の苦に輪廻しなば 往生楽

◗515: 2 弥陀の浄土いづれの時にか聞かん 往生楽
難思議 往生楽双樹林下 往生楽難思 往生楽
大衆心を同じくして高座を請ず 往生楽
群生を度せんがために法輪を転ぜよ 往生楽

◗515: 6 難思議 往生楽双樹林下 往生楽難思 往生楽
衆等心を傾けて法を聞くことを楽ひて 往生楽
手に香華を執りてつねに供養したてまつらん 往生楽
難思議 往生楽双樹林下 往生楽難思 往生楽

◗515:10 【9】道場の大衆裏あひともに心を至して敬礼し、
常住の仏に南無したてまつる。
道場の大衆裏あひともに心を至して敬礼し、
常住の法に南無したてまつる。

◗515:14 道場の大衆裏あひともに心を至して敬礼し、
常住の僧に南無したてまつる。

◗516: 1 【10】敬ひてまうす。道場の衆等おのおの心を斂めて弾指合掌し、頭を叩きて、本師釈迦仏、過・現・未来のもろもろの世尊を帰命し礼したてまつる。

◗516: 2 仏に帰依したてまつる所以は、仏はこれ衆生の大慈悲の父、またこれ出世増上の良縁なればなり。その恩徳をはかりみれば、塵劫に過ぎてこれを述ぶとも尽しがたし。

◗516: 5 賢愚経にのたまはく、一々の諸仏初発意より終り菩提に至るまで、専心に法を求めて、身財を顧みず、悲智双行して、かつて退念なしと。

◗516: 7 あるいは人の逼め試みるに逢ひて皮肉分張を可し、あるいはみづから身を割きて鴿の命を延べ、あるいは千頭を捨ててもつて法を求む。

◗516: 8 あるいは千の釘を釘ちて四句を求め、あるいは身血を刺してもつて夜叉を済ひ、あるいは妻子を捨ててもつて羅刹に充つ。

◗516:10 あるいは慈悲方便を設けて、化して禽魚となりてもつて蒼生を済ひてその飢難を免れしむ。

◗516:11 あるいは金毛の獅子となりてもつて猟師に上め、あるいは白象となりて牙を抽き、菩提を求めんがために奉施す。

◗516:13 あるいは怨家を観ることなほ赤子のごとく、あるいは外道を現ることたとへば親児のごとし。彼我殊なることなし。聖凡なんぞ異ならん。

◗516:14 三祇の起行みな無漏と相応す。地々に功を収めて、はじめて果円かなることを得るを仏と号く。身はすなはち閻浮金光色、千日の競ひ暉くに喩ふ。相好分明なり。たとへば衆星の夜朗らかなるがごとし。跏趺正坐して不背の相円明なり。

◗517: 2 法界同じく帰して、おのおの如来の面相を覩たてまつる。身心湛寂にして、化用時機を失せず。類に随ひて変通すれども、報体すなはちもとより不動なり。ただおもんみれば如来の智徳これを嘆ずるに尽しがたし。

◗517: 5 道場の衆等おのおの慚謝の心を生ずべし。よく諸仏のわがために捨身せしめたまふこと、塵劫よりも過ぎたり。哀しきかな、世尊よく難事をなして、長劫に勤々として疲労の苦痛を忍びたまふ。また生のために苦行すといへども、小恩を覓めず、等しく塵労を出で菩提に会して彼岸に帰することを望欲したまふ。

◗517: 9 衆等、心を斉しくしていまの施主某甲等のために、十方諸仏、一切の世尊を奉請す。

◗517:11 【11】弟子等敬しく諸仏の境界を尋ぬるに、ただ仏のみよく国土の精華を知りたまへり。凡の測るところにあらず。三身の化用みな浄土を立して、もつて群生を導きたまふ。法体殊なることなければ、有識これに帰して悟を得。

◗517:13 ただ凡夫の乱想寄託するに由なきがためのゆゑに、釈迦・諸仏慈悲を捨てずして、ただちに西方十万億刹を指さしむ。

◗517:15 国を極楽と名づけ、仏を弥陀と号く。現にましまして説法したまふ。その国清浄にして四徳の荘厳を具せり。永く譏嫌を絶ち、等しくして憂悩なし。人天善悪みな往生を得。かしこに到りぬれば、殊なることなく斉同に不退なり。

◗518: 3 なんの意かしかるとならば、すなはち弥陀の因地に、世饒王仏の所にして位を捨てて家を出で、すなはち悲智の心広弘の四十八願を起したまふ。仏願力をもつて五逆と十悪と罪滅して生ずることを得、謗法と闡提と回心してみな往くによる。

◗518: 6 また韋提請を致して娑婆を捨つることを誓ひ、念々に遺るることなく決定して極楽に生ずることを求め、如来その請によるがゆゑに、すなはち定散両門、三福・九章を説きて、広く未聞の益をなすによる。

◗518: 9 十方恒沙の諸仏ともに釈迦を讃じて舌を舒べてあまねく三千に覆ひて往生を得ることの謬りにあらざることを証したまふ。

◗518:10 かくのごとき等の諸仏世尊、慈悲を捨てずしていまの施主某甲および衆生の請を受けて、この道場に入りて功徳を証明したまへ。

◗518:12 奉請しをはりぬ。いま勧む、衆生等おのおの心を斂めて帰依し合掌したてまつれ。

◗518:14 【12】下座、高に接ぎて讃じていへ。

◗518:15  願はくは往生せん、願はくは往生せん。衆等ことごとく本師釈迦仏、十方世界のもろもろの如来に帰命したてまつる。

◗519: 1 願はくは施主衆生の請を受けて、慈悲を捨てずして道場に入りて、功徳を証明し諸罪を滅したまへ。心を回らし念を一にして弥陀を見たてまつらん。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗519: 5  高、下に接ぎて讃じていへ。

◗519: 6 【13】高、下に接ぎて請召していへ。

◗519: 7  かさねてまうす。道場の大衆等おのおの心を斂めて弾指合掌し、頭を叩きて一心に帰命し、いまの施主および衆生のために、次にまさに十方法界の諸仏所説の修多羅蔵八万四千を奉請し、

◗519: 9 また全身・散身の舎利等を請じたてまつるべし。ただ願はくは大神光を放ちて、この道場に入りて功徳を証明したまへ。

◗519:11 また十方の声聞・縁覚・得道の聖人を請じたてまつる。ただ願はくは慈悲を捨てず、大神通を現じて、この道場に入りて功徳を証明したまへ。

◗519:12 またまさにもろもろの菩薩衆、普賢・文殊・観音・勢至等を奉請すべし。ただ願はくは慈悲を捨てず、衆生の願を満てしめて、この道場に入りて功徳を証明したまへ。

◗519:15 帰依し奉請する所以は、このもろもろの菩薩初発意よりすなはち菩提に至るまで、つねに平等を行じて接引偏なく、自利利他時としてしばらくも息むことなし。

◗520: 2 つねに法音をもつてもろもろの世間を覚せしむ。光明あまねく無量の仏土を照らし、一切の世界六種に震動す。総じて魔界を摂し魔の宮殿を動かす。邪網を掴裂し、諸見を消滅し、もろもろの塵労を散じ、もろもろの欲塹を壊す。法門を開闡して清白を顕明し、仏法を光融して正化を宣流す。

◗520: 5 つねに不染の身口意業をなし、つねに不退の身口意業を行じ、つねに不動の身口意業を行じ、つねに讃嘆の身口意業を行じ、つねに清浄の身口意業を行じ、つねに離悩の身口意業を行じ、つねに智慧の身口意業を行じ、

◗520: 8 覚悟成就し、定慧成就したまへばなり。

◗520: 9 このもろもろの菩薩は、つねにもろもろの天竜八部・人王・梵王等のために守護・恭敬・供養せられたまへり。一切衆生の救となり、帰となり、明となり、尊となり、勝となり、上となりたまふ。無量の行願を具し饒益するところ多し。天・人を安穏にし一切を利益す。

◗520:12 十方に遊歩して権方便を行じ、仏法蔵に入りて彼岸を究竟す。智慧聖明なること不可思議なり。仏の法輪を転じ、如来の一切種智を成就す。一切の法においてことごとく自在を得たまへり。

◗520:15 かくのごとき等の菩薩大士称計すべからず。

◗520:15 ただ願はくは慈悲を捨てずして、衆生の請を受けて一時に来会して、この道場に入りていまの施主某甲のために功徳を証明したまへ。

◗521: 2 いま勧む、道場の衆等・人等心を斂めて帰依し合掌して礼したてまつれ。

◗521: 4 【14】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗521: 5  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗521: 5 衆等希に諸仏の法を聞く。竜宮の八万四千蔵すでに神光を施して道場に入りて、功徳を証明しまた願を満てたまへ。これによりて苦を離れて弥陀を見たてまつらん。法界の含霊もまた障を除かん。われら身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。

◗521: 9 【15】高、下に接ぎて讃じていへ。

◗521:10  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗521:10 竜宮の経蔵恒沙のごとし。十方の仏法またこれに過ぎたり。われいま心を標してあまねくみな請じたてまつる。大神光を放ちて道場に入りて、功徳を証明しまた罪を除きて、施主の菩提の芽を増長せしめたまへ。衆等おのおの心念を斉しくし、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗521:15 【16】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗522: 1  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗522: 1 今日の道場遇ふことを得ること難し。無上の仏法また聞きがたし。畢命形枯までに諸悪を断ぜん。これより念々に罪みな除こり、六根あきらかなることを得、惺悟することを得て、戒・定・慈悲誓ひて虚しからじ。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗522: 6  高、下に接ぎて讃じていへ。

◗522: 7 【17】 下、高に接ぎて讃じていへ。

◗522: 8  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗522: 8 久しく娑婆に住してつねに没々たり。三悪・四趣ことごとくみな停まる。毛を被り角を戴きて衆苦を受く。いまだかつて聖人の名を聞見せず。この疲労長劫の事を憶ひて誓願す、捨命して弥陀を見たてまつらんと。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗522:13 【18】高、下に接ぎて讃じていへ。

◗522:14  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗522:14 衆等ことごとく帰命して、いま施主および衆生のために、すでに十方法界の、全身の舎利・砕体の金剛を請じたてまつる。物利よろしきに随ひて形を分ちて影赴したまふ。また形大小に分れたりといへども、神化一種にして殊なることなし。大はすなはち類するに山岳に同じく、小はすなはち比するに芥塵のごとし。畢命まで真誠に心を斉しくして供養したてまつれば、近くはすなはち人天に報を獲て富楽長劫に身に随ひ、遠くはすなはち浄土の無生剋果す。すなはち涅槃の常楽なり。また願はくは道場の衆等おのおの心を斉しくして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗523: 7 【19】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗523: 8  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗523: 8 真身舎利大小に随ひて、見聞し歓喜して供養を修む。みづから作る善根、他人の福、一切合集してみな回向し、昼夜に精勤してあへて退せず。専心に決定して弥陀を見たてまつらん。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗523:12  高、下に接ぎて讃じていへ。

◗523:13 【20】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗523:14  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗523:14 普賢・文殊に弘誓願あり。十方の仏子みなまたしかなり。一念に分身して六道に遍し、機に随ひて化度して因縁を断ぜしむ。願はくはわれ生々に親近することを得て、囲繞して法を聴きて真門を悟り、永く無明生死の業を抜きて、誓ひて弥陀浄土の人とならん。衆等おのおの身心を斉しくして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗524: 4 【21】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗524: 5  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗524: 5 十方の菩薩の大慈悲、身命を惜しまずして衆生を度したまふ。六道に分身して類に随ひて現じ、ために妙法を説きて無生を証せしめたまふ。無生の浄土、人に随ひて入る。広大寛平にして比量なし。四種の威儀つねに仏を見たてまつる。法侶携へ将て宝堂に入る。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗524:10  下、高に接ぎて讃じていへ。

◗524:11 【22】高、下に接ぎて讃じていへ。

◗524:12  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗524:12 いまの施主および衆生のために賢聖を奉請す。道場に入りて功徳を証明したまへ。供養を修したてまつらん。

◗524:13 三毒の煩悩これによりて滅し、無明黒闇の罪みな除こる。願はくはわれ生々に諸仏に値ひたてまつりて、念々に道を修して無余に至らん。この今生の功徳業を回し、当来畢定して金渠にあらん。衆等おのおの身心を斉しくして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗525: 3 【23】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗525: 4  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗525: 4 菩薩聖衆、身別なりといへども、慈悲・智慧等しくして殊なることなし。身財を惜しまずして妙法を求め、難行苦行していまだかつて休まず。誓ひて菩提に到り彼岸に登りて、大慈光を放ちて有流を度したまふ。有流の衆生とはわが身これなり。光に乗じて畢命に西方に入らん。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗525: 9  高、下に接ぎて讃じていへ。

◗525:10 【24】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗525:11  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗525:11 いまの施主のために、みなすでに十方の諸仏を請じたてまつる。道場に入りたまふ。竜宮の法蔵・真舎利、すでに神光を放ちて道場に入りたまふ。羅漢・辟支、通自在なり。一念に華に乗じて道場に入りたまふ。普賢・文殊・諸菩薩、一切ともに来りて道場に入りたまふ。

◗525:15 このもろもろの聖衆雲のごとくに集まりて、地上・虚空量るべきこと難し。おのおの蓮華百宝の座に坐して、功徳を証明し慈光を放ちたまふ。かくのごとき聖衆に逢遇ふこと難し。同時に発願して西方に入らん。衆等、心を斉しくしてみな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗526: 4 【25】観世音を請じたてまつる讃にいはく、

◗526: 5 観世音を奉請す 散華楽
慈悲をもつて道場に降りたまへ 散華楽
容を斂めて空裏に現じ 散華楽
忿怒をもつて魔王を伏す 散華楽

◗526: 9 身を騰げて法鼓を振ひ 散華楽
勇猛にして威光を現ず 散華楽
手のなかに香色の乳あり 散華楽
眉のあひだに白毫の光あり 散華楽

◗526:13 宝蓋身に随ひて転じ 散華楽
蓮華歩みを逐ひて祥ゆ 散華楽
池には回れり八味の水 散華楽
華は戒定の香を分てり 散華楽

◗527: 2 飢ゑては九定の食を餐し 散華楽
渇しては四禅の漿を飲む 散華楽
西方七宝の樹 散華楽
声韻宮商に合ふ 散華楽

◗527: 6 枝のなかに実相を明かし 散華楽
葉のほかに無常を現ず 散華楽
願はくは閻浮の報を捨てて 散華楽
発願して西方に入らん 散華楽

◗527:10 【26】高、下に接ぎて香華を請じていへ。

◗527:11  かさねてまうす。道場の衆等おのおの心を斂めて弾指合掌し、頭を叩きて心を標し想を運び、

◗527:12 いま施主某甲等のために、十方法界の人天、凡聖、水・陸・虚空一切の香華・音楽・光明・宝蔵・香山・香衣・香樹・香林・香池・香水を奉請す。この道場に入りたまへ。

◗527:14 また一切の宝樹・宝林・宝衣・宝池・宝水・宝幢・宝蓋・宝華・宝網・宝楼・宝閣を請じたてまつる。この道場に入りたまへ。

◗528: 1 また一切の華林・華樹・華幢・華蓋・華楼・華閣・華宮・華殿・華衣を請じたてまつる。この道場に入りたまへ。

◗528: 2 また一切の光雲樹・光雲林・光雲網・光雲衣・光雲蓋・光雲幢・光雲台・光雲楼・光雲閣・光雲楽・光雲香・光雲池・光雲水・光雲山を請じたてまつる。この道場に入りたまへ。

◗528: 4 また一切の香雲山・香雲衣・香雲樹・香雲林・香雲網・香雲蓋・香雲幢・香雲楼・香雲閣・香雲池・香雲水・香雲光・香雲楽・香雲華・香雲台を請じたてまつる。この道場に入りたまへ。

◗528: 7 また一切の宝雲山・宝雲樹・宝雲華・宝雲果・宝雲衣・宝雲幢・宝雲蓋・宝雲網・宝雲幡・宝雲楽・宝雲楼・宝雲閣・宝雲光明・宝雲天衣・宝雲供養海を請じたてまつる。この道場に入りたまへ。

◗528: 9 また一切の華雲山・華雲林樹・華雲幢蓋・華雲衣服・華雲羅網・華雲音楽・華雲台座を請じたてまつる。この道場に入りたまへ。

◗528:11 また一切の天・人変化の荘厳供養海、一切の声聞変化の荘厳供養海、一切の菩薩変化の荘厳供養海、一切の諸仏変化の荘厳供養海を請じたてまつる。

◗528:13 かくのごとき等の無量無辺恒沙の供養、種々の荘厳ことごとくみな奉請す。この道場に入りたまへ。

◗528:14 一切の仏と舎利ならびに真法と菩薩・声聞衆に供養したてまつる。この香華雲荘厳供養海を受けたまへ。施主衆生の願を満てんがために心に随ひて変現し、受用して仏事をなしたまへ。

◗529: 2 供養しをはりぬ。人おのおの心を至して帰依し合掌して礼したてまつれ。

◗529: 3 【27】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗529: 4  願はくは往生せん、願はくは往生せん。願はくは弥陀会のなかにありて坐し、手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。

◗529: 6 【28】奉請すでに竟りて、すなはちすべからく行道七遍すべし。

◗529: 6 また一人をして華をもつて西南の角にありて立ち、行道の人の至るを待ちてすなはちことごとく行華して行道の衆等に与へしめよ。すなはち華を受けをはりてすなはち散ずることを得ざれ。しばらく待ちておのおのみづから心を標して供養したてまつれ。行道して仏前に至るを待ちて、すなはち意に随ひてこれを散ぜよ。

◗529:10 散じをはりてすなはち過ぎて、行華の人の所に至りてさらに華を受くることまた前の法のごとくせよ。すなはち七遍に至るまでまたかくのごとし。

◗529:12 もし行道しをはらば、すなはちおのおの本坐処によりて立ち、唱梵の声の尽くるを待ちてすなはち坐せよ。

◗529:15 【29】高、下に接ぎて衆の行道を勧めてすなはちいへ。

◗530: 1  一切の香華を奉請して供養すでに訖りぬ。一切恭敬して道場の衆等おのおの香華を執りて法のごとく行道せよ。

◗530: 3 【30】行道の讃梵の偈にいはく、
弥陀世尊を奉請す道場に入りたまへ 散華楽
釈迦如来を奉請す道場に入りたまへ 散華楽
十方の如来を奉請す道場に入りたまへ 散華楽

◗530: 7 【31】道場の荘厳きはめて清浄なり。天上・人間に比量なし。

◗530: 8 過・現の諸仏等の霊等、人・天・竜・鬼のなかの法蔵、全身・砕身の真舎利、

◗530: 9 大衆華を持してその上に散じ、
尊顔を瞻仰して繞ること七帀、梵響の声等をもつてみな供養したてまつる。

◗530:11 願はくはわが身浄きこと香爐のごとく、願はくはわが心智慧の火のごとくして、
念々に戒定の香を焚焼して、十方三世の仏を供養したてまつらん。

◗530:14 慚愧す釈迦大悲主、十方恒沙の諸世尊、
慈悲巧方便を捨てずして、ともに弥陀弘誓門を讃じたまへり。

◗531: 1 弘誓多門にして四十八なれども、ひとへに念仏を標してもつとも親となす。
人よく仏を念ずれば、仏また念じたまふ。専心に仏を想へば仏人を知りたまふ。
一切、心を回して安楽に向かへば、すなはち真金功徳の身を見る。

◗531: 5 浄土の荘厳・もろもろの聖衆、籠々としてつねに行人の前にまします。
行者見をはりて心歓喜し、終る時に仏に従ひて金蓮に坐し、
一念に華に乗じて仏会に到り、すなはち不退を証して三賢に入る。

◗531: 8 【32】下、梵人の声に接ぎて立して讃じていへ。

◗531: 9  願はくは往生せん、願はくは往生せん。道場の衆等、そこばくの人、

◗531: 9 歴劫よりこのかた三界に巡り、六道に輪廻して休止することなし。希に道場の請仏会を見て、親承して供養したてまつる。思議しがたし。七周行道して華を散じをはりぬ。悲喜交流して滅罪を願ず。この善根に乗じて極楽に生じ、華開けて仏を見たてまつりて無為を証せん。衆等、心を持ちて本座につき、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗531:15  高、下に接ぎて讃じていへ。

◗532: 1 【33】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗532: 2  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗532: 2 釈迦如来初め願を発せしより、たちまちに塵労を捨てて苦行を修し、念々に精勤して退くことあることなし。日月および歳年を限らず、大劫・小劫・僧祇劫、大地等の微塵に過踰せり。

◗532: 4 身財を惜しまずして妙法を求め、慈悲誓願をもつて衆生を度し、あまねく勧めて西のかた安養国に帰せしめ、逍遙快楽にして三明を得しめたまふ。衆等おのおの身心を傾けて、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗532: 8 【34】高、下に接ぎて讃じていへ。

◗532: 9  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗532: 9 衆等、心を斉しくして渇仰を生じ、慇懃に頂礼して楽ひて経を聞け。聖人も重んずるところ命に過ぎざるに、王位を貪らずして千頭を捨つ。七寸の長釘体に遍して入れども、心を標して物のために憂ひを生ぜず。

◗532:12 みづから身皮を取りて経偈を写し、あまねく群生をして法流に入らしめんと願ず。千灯炎々として身血を流せば、諸天泣涙して華を散じて周る。大士の身心の痛みを感傷すれば、微々笑みを含み願じて瞋りなし。

◗532:15 仰ぎ願はくは、同じく聞きて同じく悪を断ぜん。逢ひがたく遇ひがたし。誓ひてまさにもつぱらなるべし。念々に心を回して浄土に生ぜんとすれば、畢命にかの涅槃の門に入る。おのおの心を傾けて異想なく、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗533: 4 【35】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗533: 5  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗533: 5 曠劫よりこのかた生死に居して、三塗につねに没して苦みな経たり。はじめて人身を服けて正法を聞く。なほ渇者の清泉を得たるがごとし。念々に浄土の教を思聞して、文々句々に誓ひてまさに勤むべし。長時流浪の苦を憶想して、専心に法を聴きて真門に入らん。

◗533: 8 浄土の無生また別なし。究竟解脱の金剛身なり。この因縁をもつて高座を請じたてまつる。仏の慈恩を報じて法輪を転ぜよ。衆等、身心みな踊躍して、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗533:12  高、下に接ぎて讃じていへ。

◗533:13 【36】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗533:14  願はくは往生せん、願はくは往生せん。

◗533:14 衆生、仏を見たてまつれば心開悟す。発願して同じく諸仏の家に生ぜよ。この娑婆に住してよりこのかた久しく、功なくして捨命すること劫塵沙なり。みづから覚るに、心頑く神識の鈍きは、まことに地獄にして銅車に臥せしによりてなり。銅車炎々として居止しがたし。一念のあひだに百たび千たび死す。

◗534: 3 ただこのなかのみ苦痛多きにあらず。一切の泥犂もまたかくのごとし。泥犂に一たび入りぬれば塵劫を過ぐ。畜生・鬼道もまたかくのごとし。いま人身を得れども貪りて罪を造り、諸仏の聖教に非毀を生ず。聖教を非毀すれば罪根深し。良善を謗説して苦につねに沈む。

◗534: 6 大聖神通力ましますといへども、よくあひ救ふことなくしてますます悲心したまふ。いま道場の時衆等に勧む。罪の無窮なるを発露懴悔せよ。衆等、心をかの浄土に同じくして、手に香華を執りてつねに供養したてまつれ。

◗534:10 【37】高座、下座の声の尽くるを待ちてすなはち懴していへ。

◗534:11  敬ひて道場のもろもろの衆等にまうす。いま施主某甲およびもろもろの衆生のために、十方の諸仏・竜宮の法蔵・舎利・真形の菩薩大士・縁覚・声聞等に帰命したてまつる。現に道場にましまして懴悔を証明したまへ。

◗534:13 また天曹・地府・閻天子・五道・太山・三十六王・地獄典領・天神・地神・虚空神・山林河海一切の霊祇およびもろもろの賢聖等、各天通・道眼・他心・宿命・漏尽智ある人にまうす。現に道場にましまして、弟子今日の施主某甲およびもろもろの衆生、心を披きて懴悔するを証明したまへ。

◗535: 2 弟子道場の衆等、内外そこばくの人、過去より過去際・現在際・未来際を尽して、身口意業行住坐臥に、一切の三宝・師僧・父母・六親眷属・善知識・法界の衆生の上においてつぶさに一切の悪を造る。つねに一切の悪を起し、相続して一切の悪を起し、方便して一切の悪障・業障・報障・煩悩等の障、生死の罪障、仏法僧を見聞することを得ざる障を起す。

◗535: 7 弟子衆等、曠劫よりこのかたすなはち今身に至り今日に至るまで、その中間においてかくのごとき等の罪を作る。楽行多作無量無辺なり。よくわれらをして地獄に堕せしめて、出づる期あることなし。

◗535: 9 このゆゑに経にのたまはく、阿鼻地獄、十八の寒氷地獄、十八の黒闇地獄、十八の小熱地獄、十八の刀輪地獄、十八の剣輪地獄、十八の火車地獄、十八の沸屎地獄、十八の鑊湯地獄、十八の灰河地獄、五百億の刀林地獄、五百億の剣林地獄、五百億の刺林地獄、五百億の銅柱地獄、五百億の鉄鐖地獄、五百億の鉄網地獄、十八の鉄窟地獄、十八の鉄丸地獄、十八の火石地獄、十八の飲銅地獄、かくのごとき等の衆多の地獄あり。

◗535:15 仏のたまはく、阿鼻地獄は縦広正等にして八万由旬なり。七重の鉄城、七層の鉄網あり。下に十八の隔ありて、周帀せること七重、みなこれ刀林なり。七重の城内にまた剣林あり。下に十八の隔ありて、八万四千重あり。その四角に大銅狗あり。その身広長にして四十由旬なり。眼は掣電のごとく、牙は剣樹のごとく、歯は刀山のごとく、舌は鉄刺のごとし。一切の身毛よりみな猛火を出す。その煙臭悪にして世間の臭き物、もつて譬ふべきなし。

◗536: 6 十八の獄率あり。頭は羅刹の頭のごとく、口は夜叉の口のごとし。六十四の眼あり。眼より鉄丸を散迸すること十里車のごとし。鉤れる牙は上に出でて、高さ四由旬なり。牙の頭より火流れて、前の鉄車を焼く。鉄車輪の一々の輪輞をして化して一億の火刀・鋒刃・剣戟とならしむ。みな火より出でたり。かくのごとき流火阿鼻城を焼き、阿鼻城をして赤きこと融銅のごとくならしむ。

◗536:11 獄率の頭の上に八の牛頭あり。一々の牛頭に十八の角あり。一々の角の頭よりみな火聚を出す。火聚また化して十八の輞となり、火輞また変じて火刀輪となる。車輪ばかりのごとし。輪々あひ次いで、火炎のあひだにありて阿鼻城に満てり。

◗536:14 銅狗口を張り、舌を吐きて地に在く。舌は鉄刺のごとし。舌出づる時、無量の舌を化し阿鼻城に満てり。

◗536:15 七重の城内に四の鉄幢あり。幢の頭より火流れて沸涌泉のごとし。その鉄流れ迸りて阿鼻城に満てり。阿鼻に四門あり。門閫の上に八十の釜あり。沸銅涌き出でて、門より漫ち流れて阿鼻城に満てり。

◗537: 3 一々の隔のあひだに八万四千の鉄蟒・大蛇ありて、毒を吐き火を吐き、身城内に満てり。その蛇哮吼すること天の震雷のごとし。火鉄丸を雨らして阿鼻城に満てり。この城の苦事は八万億千なり。苦のなかの苦なるもの集まりて、この城にあり。

◗537: 6 五百億の虫あり。虫に八万四千の嘴あり。嘴の頭より火流れて、雨のごとくして下りて阿鼻城に満てり。この虫下る時、阿鼻の猛火その炎大きに熾りなり。赤光の火炎八万四千由旬を照らす。阿鼻地獄より上、大海の沃燋山の下を衝くに、大海の水渧りて車軸ばかりのごとし。大鉄炎となりて阿鼻城に満てりと。

◗537:10 仏のたまはく、もし衆生ありて、三宝を殺害し、三宝を偸劫し、三宝を汚染し、三宝を欺誑し、三宝を謗毀し、三宝を破壊し、父母を殺害し、父母を偸劫し、父母を汚染し、父母を欺誑し、父母を謗毀し、父母を破壊し、六親を罵辱す。かくのごとき等の殺逆罪を作るものは、

◗537:14 命終の時、銅狗口を張り十八の車を化す。状金車のごとし。宝蓋上にあり、一切の火炎は化して玉女となる。罪人はるかに見て心に歓喜を生じ、われなかに往かんと欲し、われなかに住せんと欲す。風刀解くる時、寒急にして声を失ふ。《むしろ好火を得て車の上にありて坐し、火を燃やしてみづから爆らん》と。この念をなしをはりてすなはち命終す。揮霍のあひだにすでに金車に坐して、玉女を顧瞻すれば、みな鉄の斧を捉りてその身を斬截す。身下に火起ること旋火輪のごとし。

◗538: 5 たとへば壮士の臂を屈伸するがごときあひだに、ただちに阿鼻大地獄のなかに落つ。上の隔より旋火輪のごとくして下の隔の際に至る。身隔のうちに遍す。銅狗大きに吼えて骨を齧み、髄を唼ふ。獄率羅刹大きなる鉄叉を捉る。叉、頚より体に遍する火炎を起さしめて阿鼻城に満つ。鉄網より刀を雨らして毛孔より入る。

◗538: 9 化閻羅王大声をもつて告勅す。痴人は獄種なり。なんぢ世にありし時、父母に孝せず、邪慢無道なり。なんぢがいまの生処を阿鼻獄と名づく。なんぢ恩を知らず、慚愧あることなくしてこの苦悩を受く。楽しみとなすやいなやと。この語をなしをはりてすなはち滅して現ぜず。

◗538:12 その時獄率また罪人を駆りて、下の隔よりすなはち上の隔に至るまで、八万四千の隔のなかを経歴して、身をりて過ぎて鉄網の際に至る。

◗538:14 一日一夜はこの閻浮提の日月歳数六十小劫に当れり。かくのごとくして寿命一大劫を尽す。

◗538:15 五逆の罪人無慚無愧にして五逆罪を造作するがゆゑに、

◗539: 1 命終の時に臨みて、十八の風刀鉄火車のごとくしてその身を解き截り、熱逼るをもつてのゆゑにすなはちこの言をなす。好色の華清涼の大樹を得て、下に遊戯せん。また楽しからずやと。

◗539: 4 この念をなす時、阿鼻地獄の八万四千のもろもろの悪剣林化して宝樹となる。華菓茂盛し、行列して前にあり。大熱の火炎化して蓮華となりて、かの樹下にあり。罪人見をはりて、わが所願はいますでに果すことを得たりと。

◗539: 7 この語をなす時、暴雨よりも疾くして蓮華の上に坐す。坐しをはれば須臾に鉄の嘴あるもろもろの虫、火華より起りて、骨を穿ちて髄に入り、心に徹りて脳を穿つ。樹に攀ぢて上れば、一切の剣枝肉を削り骨を徹す。無量の刀林上よりして下らんとするに当り、火車・爐炭十八の苦事一時に来迎す。

◗539:10 この相現ずる時、地下に陥墜して、下の隔より上らんとすれば、身は華の敷くがごとくに下の隔に遍満す。下の隔より起る火炎猛熾にして上の隔に至る。上の隔に至りをはりて、身そのなかに満てり。熱悩急なるがゆゑに、眼を張り舌を吐く。この人罪のゆゑに万億の融銅、百千の刀輪空中より下りて頭より入りて足より出づ。

◗539:15 一切の苦事上の説に過ぎたること百千万倍なり。

◗539:15 五逆を具せるもの、その人苦を受くること五劫を足満すと。

◗540: 1 弟子道場の衆等、元身よりこのかたすなはち今身に至り今日に至るまで、その中間において三業をほしいままにしてかくのごとき等の罪を作る。楽行多作無量無辺なり。いま仏の、阿鼻地獄を説きたまふを聞くに、心驚き毛竪ちて、怖懼無量にして慚愧無量なり。

◗540: 4 いま道場の凡聖に対して発露懴悔す。願はくは罪消滅して永く尽きて余なからん。懴悔しをはりぬ。心を至して帰命し阿弥陀仏を礼したてまつる。

◗540: 7  下、高に接ぎて讃じていへ。

◗540: 8  懴悔しをはりぬ。心を至して帰命し阿弥陀仏を礼したてまつる。

◗540: 9 【38】高、下に接ぎて懴していへ。

◗540:10  弟子道場の衆等、曠劫よりこのかたすなはち今身に至り今日に至るまで、その中間において身口意業をほしいままにして一切の罪を造る。

◗540:11 あるいは五戒・八戒・十戒・三帰戒・四不壊信戒・三業戒・十無尽戒・声聞戒・大乗戒および一切の威儀戒・四重・八戒等を破し、虚しく信施を食み、誹謗・邪見にして因果を識らず、学波若を断じ、十方仏を毀り、僧祇物を偸み、婬妷無道にして浄戒のもろもろの比丘尼、姉妹・親戚を逼掠して慚愧を知らず、所親を毀辱しもろもろの悪事を造る。

◗541: 1 あるいは十悪を楽行して十善を修せざる障、

◗541: 1 八苦を楽行して八戒を持たざる障、

◗541: 2 三毒を楽行して三帰を受けざる障、

◗541: 2 五逆を楽行して五戒を持たざる障、

◗541: 3 地獄極苦の業を楽行して浄土極楽を修せざる障、

◗541: 3 畜生・愚痴の業を楽行して智慧・慈悲を修せざる障、

◗541: 4 慳貪・餓鬼・嫉妬の業を楽行して布施利他を行ぜざる障、

◗541: 5 諂曲・虚詐・修羅の業を楽行して真実言信不相違を行ぜざる障、

◗541: 6 瞋悩・殺害・毒竜の業を楽行して歓喜慈心を行ぜざる障、

◗541: 7 我慢・自大・下賎・不自在の業を楽行して謙下・敬上・尊貴を行ぜざる障、

◗541: 8 邪見・破戒・破見・悪見にして修善福なく造悪殃なしと謂へる外道・闡提の業を楽行して正見禁行出世往生浄土を行ぜざる障、

◗541: 9 三宝を破滅し人の善事を壊する悪鬼の業を楽行して三宝を護惜し人の功徳を成じ具足することを行ぜざる障、

◗541:11 三界人天の長時縛繋の業を楽受して浄土の無生解脱を貪はざる障、

◗541:11 二乗狭劣の業を楽受して菩薩広大の慈悲を行ぜざる障、

◗541:12 悪友に親近する業を楽行して諸仏・菩薩・善知識に親近することを楽はざる障、

◗541:13 六貪・六弊の業を楽行して六度・四摂を行ぜざる障、

◗541:14 因果を識らざる觝突の業を楽行して身中に如来仏性あることを知らざる障、

◗541:15 一切衆生酒・肉・五辛を貪噉する多病・短命の業を楽行して慈心に仏法僧を楽聞し香華供養を行ぜざる障、

◗542: 1 かくのごとき障罪みづからなし他を教へ、作を見て随喜し、もしはことさらになし、誤りてなし、戯笑してなし、瞋嫌してなし、違順愛憎してなすこと

◗542: 3 無量無辺なり。思量すとも尽すべからず、尽すべからず。説くとも説くべからず。

◗542: 4 また大地微塵の無数、虚空の無辺、法界の無辺、法性の無辺、方便の無辺なるがごとく、われおよび衆生の造罪もまたかくのごとし。

◗542: 6 かくのごとき等の罪、上諸菩薩に至り下声聞・縁覚に至るまで、知ることあたはざるところなり。ただ仏と仏とのみすなはちよくわが罪の多少を知りたまへり。

◗542: 9 【39】地獄経にのたまはく、もし衆生ありてこの罪を作るものは、

◗542: 9 命終の時に臨みて風刀身を解く。偃臥定まらず、楚撻を被るがごとし。その心荒越にして狂痴の想を発す。おのが室宅を見れば、男女・大小一切みなこれ不浄の物なり。屎尿臭処ほかに盈流す。

◗542:12 その時に罪人すなはちこの語をなす。いかんがこの処に好き城郭および好き山林のわれをして遊戯せしむるものなくして、すなはちかくのごとき不浄物のあひだに処せしむると。

◗542:14 この語をなしをはれば、獄率羅刹大きなる鉄叉をもつて阿鼻獄およびもろもろの刀林を擎ぐるに、化して宝樹および清涼の池となる。火炎は化して金葉の蓮華となる。もろもろの鉄の嘴ある虫は、化して鳧・雁となる。地獄の痛声は歌詠の音のごとし。

◗543: 3 罪人聞きをはりて、かくのごとき好処にわれまさになかに遊ぶべしと、念じをはれば尋時に火蓮華に坐す。もろもろの鉄の嘴ある虫、身の毛孔よりその躯を唼ひ食ひ、百千の鉄輪頂上より入る。恒沙の鉄叉をもつてその眼精を挑る。地獄の銅狗百億の鉄狗を化作して、競ひてその身を分ち心を取りて食らふ。

◗543: 7 俄爾のあひだに、身鉄華のごとくして十八の隔のなかに満てり。一々の華葉八万四千なり。一々の葉頭、身手支節なり。一の隔のあひだにあり。地獄も大ならず、この身も小ならず、かくのごとき大地獄のなかに遍満す。これらの罪人この地獄に堕して八万四千大劫を経歴す。

◗543:10 この泥犂に滅して、また東方の十八の隔のなかに入りて前のごとく苦を受く。この阿鼻獄の南にまた十八の隔、西にまた十八の隔、北にまた十八の隔あり。

◗543:12 方等経を謗り、五逆罪を具し、僧祇を破壊し、比丘尼を汚し、もろもろの善根を断ずるかくのごとき罪人、衆罪を具せるもの、身は阿鼻獄に満ち、四支はまた十八の隔のなかに満つ。この阿鼻獄はただかくのごとき獄種の衆生を焼く。

◗543:15 劫尽きんと欲する時、東門すなはち開く。東門の外を見れば、清泉・流水、華菓・林樹一切ともに現ず。このもろもろの罪人下の隔より見るに、眼に火しばらく歇む。下の隔より起ちて婉転腹行して、身をりて上に走りて上の隔のなかに到り、手に刀輪を攀づ。時に虚空のなかに熱鉄丸を雨らす。東門に走り趣きてすでに門閫に至れば、獄率羅刹手に鉄叉を捉りて、逆にその眼を刺し、鉄狗、心を齧む。悶絶して死す。死しをはりてまた生ず。

◗544: 6 南門を見れば開けたり。前のごとくして異ならず。かくのごとくして西門・北門もまたみなかくのごとし。かくのごとき時のあひだに半劫を経歴す。

◗544: 8 阿鼻獄に死して寒氷のなかに生じ、寒氷獄に死して黒闇処に生ず。八千万歳目に見るところなし。大蛇の身を受けて婉転腹行し、諸情闇塞にして解知するところなし。百千の狐狼牽掣してこれを食らふ。命終の後に畜生のなかに生じて、五千万身鳥獣の形を受く。また人中に生じて、聾盲瘖瘂・疥癩癰疽・貧窮下賎にして、一切の諸衰、もつて厳飾となす。この賎身を受けて五百身を経、後にまた餓鬼のなかに生ずることを得。

◗544:13 かくのごとき等の三悪に輪廻すること無量無辺なりと。

◗544:14 弟子衆等いま地獄を聞きて、心驚き毛竪ちて、怖懼無量なり。おそらくは残殃尽きずしてまた流浪することを。今生よりこのかた三業をほしいままにして、もろもろの重罪を造る。もし懴悔せずは、さだめてこの苦を招きて出づる期あることなからん。

◗545: 3 【40】いま三宝・道場の大衆の前に対して発露懴悔す。すなはち安楽ならん。知りてあへて覆蔵せず。

◗545: 5 【41】ただ願はくは十方の三宝、法界の衆生、大慈悲広大慈悲を発して、わが悪を計らずして、草の地を覆へるがごとく布施し歓喜し、わが懴悔を受け、わが清浄を憶したまへ。

◗545: 7 ただ願はくは慈悲を捨てずしてわれらを摂護し、已作の罪は願はくは除滅し、未起の罪は願はくは生ぜしめず。已作の善は願はくは増長し、未作の善は方便して生ぜしめたまへ。

◗545: 9 願はくは今日よりすなはち不起忍に至るまでこのかた、誓ひて衆生とともに邪を捨てて正に帰し、菩提心を発して慈心をもつてあひ向かひ、仏眼をもつてあひ看て、菩提まで眷属として、真の善知識として、同じく浄土に生じ、すなはち成仏に至るまで、かくのごとき等の罪永く相続を断じて、さらにあへて覆蔵せざらん。

◗545:13 発願しをはりて心を至して阿弥陀仏に帰命したてまつる。

◗545:15 【42】下、高に接ぎて讃じていへ。

◗546: 1  願はくは往生せん、願はくは往生せん。願はくは弥陀仏の前にありて立し、手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。

◗546: 3  高、下に接ぎて讃じていへ。

◗546: 4  願はくは往生せん、願はくは往生せん。願はくは弥陀会のなかにありて坐し、手に香華を執りてつねに供養したてまつらん。

◗546:15 西方浄土法事讃 巻上