くでんしょう 口伝鈔 3巻。 覚如の著。 元徳3年 (元弘1・1331) 11月下旬の御正忌報恩講における覚如の口述を、 門弟の乗専が筆記したもの。 親鸞如信に物語った他力真宗の肝要を、 覚如が21カ条に分けて顕彰している。 ¬改邪がいじゃしょう¼ とともに覚如の代表的著作の一つ。 題号の 「口伝」 とは、 口づてに伝えるという意味で、 口授伝持・面授口決などというのと同じである。
 覚如が嘉暦元年 (1326) に著した ¬しゅうしょう¼ には如信相承は示されていないが、 本書において法然―親鸞―如信の三代伝持けちみゃくがはじめて明確にされる。 すなわち法然の正しい教義の伝承は親鸞においてなされ、 それが如信をとおして覚如に伝授されたと主張するのである。 具体的には、 一には法然門下の浄土異流の中心である鎮西流・西山せいざん流に対し、 それぞれの祖である弁長証空を批判し、 親鸞の一流が正しく法然を伝統するものであることを示し、 二には親鸞の直弟に始まる門徒集団に対して、 覚如を中心とする大谷本願寺が一宗の根本であることを顕示し、 三には真宗教義の中核が、 信心正因称名報恩であることをあらわそうとしたのである。
 りゅうこく大学に、 康永3年覚如自筆本と乗専書写3巻本 (勝福寺旧蔵) とが現存する。