かんぎょう序分じょぶん かんだい

*沙門しゃもん*善導ぜんどう集記しゅうき

序分 一経大科

一経五分

【1】 これより以下いげもんにつきて料簡りょうけんするに、 りゃくして*もんつくりてかす

五門 五分。 じょうようおん (523-592)・嘉祥かじょう大師吉蔵 (549-623) 等の諸師は ¬観経¼ に三分 (序分じょぶん正宗しょうしゅうぶんずうぶん) を立てて解釈するが、 善導ぜんどう大師は、 五分 (序分・正宗分・得益とくやく分・流通分・耆闍ぎしゃ分) を立てて解釈する。

従↠此以下就↠文料簡、略作↢五門↡明↠義。

 原漢文の底本は本派本願寺蔵版。 龍谷大学蔵鎌倉時代刊本、 大派依用十行本と対校されている。

一に 「にょもん」 よりしも 「五所逼しょひつうんけん極楽ごくらくかい」 にいたるこのかたは、 その*序分じょぶんかす

序分 その経の序説となる部分。

一従↢「如是我聞」↡下至↢「五苦所逼云何見極楽世界」↡已来、明↢其序分↡。

二に日観にっかんはじめのの 「仏告ぶつごうだい汝及にょぎゅうしゅじょう」 よりしもぼん下生げしょういたるこのかたは、 *正宗しょうしゅうぶんかす

正宗分 その経の本論となる部分。

二従↢日観初句「仏告韋提汝及衆生」↡下至↢下品下生↡已来、明↢正宗分↡。

三に 「せつ是語時ぜごじ」 よりしも諸天しょてん発心ほっしん」 にいたるこのかたは、 まさしく*得益とくやくぶんかす

得益分 その経の教えによってやくを得ることを示す部分。

三従↢「説是語時」↡下至↢「諸天発心」↡已来、正明↢得益分↡。

四に 「なん白仏びゃくぶつ」 よりしもだいとうかん」 にいたるこのかたは、 *通分ずうぶんかす

四従↢「阿難白仏」↡下至↢「韋提等歓喜」↡已来、明↢流通分↡。

流通分 その経の教えを伝持流通することを勧める部分。

一経二会 王宮会

この四ぶつ*おうにまします一正説しょうせつなり

王宮にまします一会 王宮会のこと。 仏が王舎城おうしゃじょうなんだいのために説法した会座。

此之四義仏在↢王宮↡一会正説。

      耆闍会

五に 「なんしゃ大衆だいしゅのために伝説でんせつする」 よりはまたこれ*なり。 また*ぶんあり。 一に 「爾時にじそんそくくうげんしゃ崛山くっせん」 よりこのかたは、 その序分じょぶんかす。 二に 「なんこう大衆だいしゅせつ如上にょじょう」 よりこのかたは、 正宗しょうしゅうぶんかす。 三に 「一切いっさい大衆だいしゅかん奉行ぶぎょう」 よりこのかたは、 通分ずうぶんかす

一会 しゃのこと。 阿難がしゃ崛山くっせんの大衆のために王宮会での仏の説法を再説した会座。 「散善義」 では耆闍分ともよぶ。
三分 善導大師は全四十五字の耆闍会 (耆闍分) にも序分・正宗分・流通分の三分があるとする。

五従↧阿難為↢耆闍大衆↡伝説↥復是一会。亦有↢三分↡。一従↢「爾時世尊足歩虚空還耆闍崛山」↡已来、明↢其序分↡。二従↢「阿難広為大衆説如上事」↡已来明↢正宗分↡。三従↢「一切大衆歓喜奉行」↡已来明↢流通分↡。

しかるににはかならずゆえあり、 ゆゑにじょかす。 *じょすでにおこりぬればまさしく所説しょせつぶ。 つぎ*正宗しょうしゅうかす。 ためにくことすでにおわりて、 所説しょせつをもつて末代まつだいでんせしめんとほっして、 *しょうたんじてがくすすむ。 のちずうかす

由序 序分じょぶんに同じ。
正宗 正宗分のこと。
勝を歎じて (¬観経¼ の教説が) すぐれていることを讃嘆さんだんして。

然化必有↠由、故先明↠序。由序既興正陳↢所説↡。次明↢正宗↡。為説既周、欲↧以↢所説↡伝↢持末代↡、歎↠勝勧学↥、後明↢流通↡。

欲…勧学 返り点は聖教全書まま。 「欲」 が 「勧学」 までかかっている。

上来じょうらいどうありといへども、 りゃくしてじょしょうずう料簡りょうけんしをはりぬ

上来雖↠有↢五義不同↡略料↢簡序・正・流通義↡竟。

一序二分

【2】 またさきじょのなかにつきてまたわかちて二となす。 一には 「にょもん」 より一づけて*証信しょうしんじょとなす。 二には 「」 よりしもうんけん極楽ごくらくかい」 にいたるこのかたは、 まさしく*ほっじょかす

証信序 その経の信ずべきことを証明する部分。
発起序 その経が説かれる由来・因縁いんねんを述べる部分。

又就↢前序中↡復分為↠二。一従↢「如是我聞」↡一句名為↢証信序↡。二従↢「一時」↡下至↢「云何見極楽世界」↡已来、正明↢発起序↡。

◎序分 証信序

【3】 はじめに証信しょうしんといふはすなはち二あり

初言↢証信↡者、即有↢二義↡。

「如是」

一にはいはく、 「にょ」 の二はすなはちそうじて教主きょうしゅ (釈尊)ひょうす。 *能説のうせつにんなり。

能説の人 教えを説く人。

一謂「如是」二字即総標↢教主↡。能説之人。

「我聞」

二にはいはく、 「もん」 のりょうはすなはちべつしてなんす。 *能聴のうちょうにんなり。 ゆゑににょもんといふ。 これすなはちならべて二のこころしゃく

能聴の人 教えを聞く人。

二謂「我聞」両字、即別指↢阿難↡。能聴之人。故言↢「如是我聞」↡、此即双↢釈二意↡也。

また 「にょ」 といふはすなはち*ほうす。 *じょうさん両門りょうもんなり。 「」 はすなはちさだむることばなり。 *ぎょうずればかならずやくす。 これは如来にょらい所説しょせつごん*錯謬さくびゅうなきことをかす。 ゆゑににょづく

定散両門 定善と散善についての教え。 →じょうぜん散善さんぜん
錯謬 あやまり。

又言↢「如是」↡者、即此指↠法定散両門也。「是」即定辞。機行必益。此明↣如来所説言無↢錯謬↡、故名↢「如是」↡。

また 「にょ」 といふはしゅじょうこころのごとし。 しん*所楽しょぎょうしたがひて、 ぶつすなはちこれをしたまふ。 *機教ききょう相応そうおうするをまたしょうして 「」 となす。 ゆゑににょといふ

機教相応 しゅじょう機根きこん (素質能力) と仏の教えとが合致すること。

又言↢「如」↡者、如↢衆生意↡也、随↢心所楽↡仏即度↠之。機教相応復称為↢「是」↡、故言↢「如是」↡。

また 「にょ」 といふは、 如来にょらい所説しょせつは、 *ぜんくことぜんのごとく、 *とんくこととんのごとく、 そうくことそうのごとく、 *くうくことくうのごとく、 *人法にんぽうくこと人法にんぽうのごとく、 *天法てんぽうくこと天法てんぽうのごとく、 *しょうくことしょうのごとく、 *だいくことだいのごとく、 ぼんくことぼんのごとく、 しょうくことしょうのごとく、 いんくこといんのごとく、 くことのごとく、 くことのごとく、 らくくことらくのごとく、 おんくことおんのごとく、 ごんくことごんのごとく、 どうくことどうのごとく、 べつくことべつのごとく、 じょうくことじょうのごとく、 くことのごとく、 一切いっさい諸法しょほう千差せんしゃ万別まんべつなるをきたまふに、 如来にょらいかん*歴々れきれき了然りょうねんなることをかさんとほっす。 *随心ずいしん起行きぎょう*各益かくやくどう*ごう法然ほうねんたる、 すべて*錯失さくしつなきをまたしょうしてとなす。 ゆゑににょといふ

人法 人間としてあるべきことを示す教え。
天法 天に生ずるための教え。 十善の法。
 小乗の教え。
 大乗の教え。
歴々了然 明らかであること。
随心の起行 (しゅじょうが) その心にしたがって行をおこすこと。
各益の不同 (その行によって得る) やくはそれぞれ同じではないということ。
業果の法然 業因によって果報を得ることが道理として自然にあること。
錯失 あやまり。

又言↢「如是」↡者、欲↠明↢如来所説↡。説↠漸如↠漸、説↠頓如↠頓、説↠相如↠相、説↠空如↠空、説↢人法↡如↢人法↡、説↢天法↡如↢天法↡、説↠小如↠小、説↠大如↠大、説↠凡如↠凡、説↠聖如↠聖、説↠因如↠因、説↠果如↠果、説↠苦如↠苦、説↠楽如↠楽、説↠遠如↠遠、説↠近如↠近、説↠同如↠同、説↠別如↠別、説↠浄如↠浄、説↠穢如↠穢、説↢一切諸法↡千差万別。如来観知歴歴了然随↠心起↠行、各益不↠同。業果法然衆無↢錯失↡、又称為↠是。故言↢「如是」↡。

明…所説 返り点まま。 「…の所説を明さんと(欲す)」

もん」 といふは、 *なんはこれぶつしゃにして、 つねにぶつしたがひてもん広識こうしきなり。 座下ざげのぞみてよくきよくたもちて、 きょうしたしくくることをかして、 伝説でんせつあやまりなきことをひょうせんとほっす。 ゆゑにもんといふ

言↢「我聞」↡者、欲↠明↧阿難是仏侍者、常随↢仏後↡多聞広識、身臨↢座下↡能聴能持、教旨親承表↞無↢伝説之錯↡、故曰↢「我聞」↡也。

明…表 返り点まま。

また 「証信しょうしん」 といふは、 なん仏教ぶっきょう*稟承ほんじょうして末代まつだいでんするに、 しゅじょうたいするがためのゆゑにかくのごとき観法かんぽう、 われぶつしたがひてくといふことをかして、 *しん証誠しょうじょうせんとほっす。 ゆゑに証信しょうしんじょづく。 これはなんにつきて

稟承 受けること。
可信を証誠せん 信ずべきことを証明しよう。

又言↢証信↡者欲↪明↧阿難稟↢承仏教↡、伝↢持末代↡、為↠対↢衆生↡故、如↠是観法我従↠仏聞↥、証↩誠可信↨。故名↢証信序↡。此就↢阿難↡解也。

◎序分 発起序

【4】 二に*ほっじょのなかにつきてくわしくわかちて七となす

二就↢発起序中↡細分為↠七。

はじめに 「仏在ぶつざい」 よりしも法王ほうおう而為にい上首じょうしゅ」 にいたるこのかたは、 *ぜんじょかす

化前序 教化が行われる以前の序説。

初従↢「一時仏在」↡下至↢「法王子而為上首」↡已来、明↢化前序↡。

二に 「王舎おうしゃ大城だいじょう」 よりしも顔色げんしきえつ」 にいたるこのかたは、 まさしくほっじょ*ごんえんかす

禁父の縁 じゃが父のびん婆娑羅ばしゃら王を幽閉する因縁。

二従↢「王舎大城」↡下至↢「顔色和悦」↡已来、正明↢発起序禁父之縁↡。

三に 「じゃ」 よりしもりょうすい」 にいたるこのかたは、 *ごんえんかす

禁母の縁 阿闍世が母のだいを幽閉する因縁。

三従↢「時阿闍世」↡下至↢「不令復出」↡已来、明↢禁母縁↡。

四に 「だい幽閉ゆうへい」 よりしも共為ぐい眷属けんぞく」 にいたるこのかたは、 *えんえんかす

厭苦の縁 韋提希が苦悩の穢土えどを厭う因縁。

四従↢「時韋提希被幽閉」↡下至↢「共為眷属」↡已来、明↢厭苦縁↡。

五に 「唯願ゆいがん為我いが広説こうせつ」 よりしもきょう正受しょうじゅ」 にいたるこのかたは、 その*欣浄ごんじょうえんかす

欣浄の縁 韋提希が浄土を願い求める因縁。

五従↢「唯願為我広説」↡下至↢「教我正受」↡已来、明↢其欣浄縁↡。

六に 「爾時にじそん即便そくべん微笑みしょう」 よりしも浄業じょうごうしょういん」 にいたるこのかたは、 *散善さんぜん顕行けんぎょうえんかす

散善顕行縁 散善行を顕す序文。 親鸞聖人は 「散善は行を顕す縁なり」 (化身土文類訓) と読み、 「自力の散善は他力念仏を顕す縁」 と転意した。

六従↢「爾時世尊即便微笑」↡下至↢「浄業正因」↡已来、明↢散善顕↠行縁↡。

七に 「仏告ぶつごうなんとう諦聴たいちょう」 よりしもうん得見とくけん極楽ごくらくこく」 にいたるこのかたは、 まさしく*じょうぜんかんえんかす

定善示観縁 定善観を示す序文。 親鸞聖人は 「定善は観を示す縁なり」 (化身土文類訓) と読み、 「定善は他力の信心 (観) を示す縁」 と転意した。

七従↢「仏告阿難等諦聴」↡下至↢「云何得見極楽国土」↡已来、正明↢定善示↠観縁↡。

上来じょうらいだんどうありといへども、 ひろほっじょ*料簡りょうけんしをはりぬ

上来雖↠有↢七段不同↡。広料↢簡発起序↡竟。

◎序分 ○発起序  化前序

【5】 二につぎぜんじょせば、 このじょのなかにつきてすなはちその四あり

二次解↢↡化前序↡者、就↢此序中↡即有↢其四↡。

時成就

はじめに 「一」 といふはまさしく*起化きけときかす。 ぶつまさに説法せっぽうせんとするに、 *しょたくしたまふ。 ただしゅじょうかいかならず因縁いんねんによるをもつて、 しゅ (釈尊) のぞみてしょちたまふ

起化の時 説法教化をおこす時。
時処 時と場所。

初言↢「一時」↡者、正明↢起化之時↡。仏将↢説法↡先託↢於時処↡。但以↣衆生開悟必藉↢因縁↡、化主臨↠機待↢於時処↡。

また 「一」 といふは、 あるいはにち十二年月ねんがつとうく。 これみなこれ如来にょらいおうじて*せっしたまふときなり。 「しょ」 といふは、 かのしょしたがひて如来にょらい説法せっぽうしたまふ。 あるいは山林せんりんしょにましまし、 あるいはおう*聚落じゅらくしょにましまし、 あるいはこう*塚間ちょけんしょにましまし、 あるいは多少たしょう人天にんでんしょにましまし、 あるいはしょうもんさつしょにましまし、 あるいは*にん*天王てんのうとうところにましまし、 あるいは*純凡じゅんぼんもしはと一二とのところにましまし、 あるいは*純聖じゅんしょうもしはと一二とのところにまします。 そのしょしたがひて如来にょらいかんしてぞうせずげんぜず、 えんしたがひてほうさずけておのおの*しょやくす。 これすなはち*洪鐘こうしょうひびくといへども、 かならずたたくをちてまさにる。 大聖だいしょう (釈尊)れたまふこと、 かならず*しょうちてまさにくべし。 ゆゑに一づく

摂化 おさめとって教化すること。
聚落 集落。
塚間 墓場。
天王 →四天王してんのう
純凡 ぼんのみ (がいる場所)。
純聖 聖者のみ (がいる場所)。
所資 教化やくを受ける人々。
洪鐘 大きなつりがね。
 懇請こんせい

又言↢「一時」↡者、或就↢日夜十二時、年月四時等↡。此皆是如来応↠機摂化時也。言↠処者随↢彼所宜↡如来説法。或在↢山林処↡、或在↢王宮聚落処↡、或在↢曠野塚間処↡、或在↢多少人天処↡、或在↢声聞菩薩処↡、或在↢八部人天王等処↡、或在↢純凡若多一二処↡、或在↢純聖若多一二処↡、随↢其時処↡如来観知不↠増不↠減、随↠縁授↠法、各益↢所資↡。斯乃洪鐘雖↠響、必待↠扣而方鳴。大聖垂↠慈、必待↠請而当↠説、故名↢「一時」↡也。

また 「一」 とは、 *じゃまさしく*ぎゃくおこときぶついづれのところにかまします。 この一あたりて、 如来にょらいひとり二しゅ (声聞・菩薩) とかの*しゃにまします。 これすなはちしもをもつてかみあらわこころなり。 ゆゑに一といふ

 父王を殺すという逆罪。
耆闍 →しゃ崛山くっせん

又「一時」者、阿闍世正起↠逆時、仏在↢何処↡。当↢此一時↡、如来独与↢二衆↡在↢彼耆闍↡。此即以↠下形↠上意也、故曰↢「一時」↡。

また 「一」 といふは、 ぶつ、 二しゅと一のうちにおいて、 かのしゃにましまして、 すなはちじゃのこの悪逆あくぎゃくおこ因縁いんねんきたまふ。 これすなはちかみをもつてしもあらわこころなり。 ゆゑに一といふ

又言↢「一時」↡者、仏与↢二衆↡於↢一時中↡、在↢彼耆闍↡即聞↧阿闍世起↢此悪逆↡因縁↥。此即以↠上形↠下意也、故曰↢「一時」↡。

主成就

二に 「ぶつ」 といふは、 これすなはち*しゅ*標定ひょうじょうす。 *ぶつけんしてひとしゃあらわこころなり

化主 教化の主。
標定 表し示すこと。
余仏に簡異して 他の仏と区別して。

二言↢「仏」↡者、此即標↢定化主↡。簡↢異余仏↡独顕↢釈迦↡意也。

処成就

三に 「ざい王舎おうしゃ城」 より以下いげは、 まさしく如来にょらい*遊化ゆげところかす。 すなはちその二あり。 一には王城おうじょう聚落じゅらくあそびたまふは、 在俗ざいぞくしゅうせんがためなり。 二には*せんとうところあそびたまふは、 出家しゅっけしゅうせんがためなり

遊化 諸方をめぐって教化すること。
耆山 →耆闍ぎしゃ崛山くっせん

三従↢「在王舎城」↡已下、正明↢如来遊化之処↡。即有↢其二↡。一遊↢王城聚落↡、為↠化↢在俗之衆↡。二遊↢耆山等処↡、為↠化↢出家之衆↡。

またざいといふは、 *よくとんすること相続そうぞくしてこれつねなり。 たとひ清心しょうしんおこせども、 なほみずえがくがごとし。 ただおもんみればえんしたがひてあまねくやくし、 だいてたまはざれども、 *道俗どうぞくかたちことなればともにじゅうするによしなし。 これを*きょうがいじゅうづく

境界住 仏が教化のために在家の人と共に住すること。

又在家者貪↢求五欲↡相続是常。縦発↢清心↡猶如↠画↠水。但以↢随↠縁普益↡不↠捨↢大悲↡。道俗形殊無↠由↢共住↡、此名↢境界住↡也。

依…益 返り点まま。 「益するをもって」

また出家しゅっけといふは、 もういのちて、 よくだんしんす。 しん金剛こんごうのごとく円鏡えんきょう等同とうどうなり。 *ぶつ悕求けぐしてすなはちひろ自他じたやくす。 もし*囂塵ごうじんぜつするにあらずは、 このとくしょうすべきによしなし。 これを*依止えじじゅうづく

仏地を悕求して 仏のさとりを願い求めて。
囂塵 さわがしい俗世のけがれ。
依止住 仏が出家の人と共に住すること。

又出家者、亡↠身捨↠命、断↠欲帰↠真。心若↢金剛↡、等↢同円鏡↡。悕↢求仏地↡即弘益↢自他↡。若非↣絶↢離囂塵↡、此徳無↠由↠可↠証、此名↢依止住↡也。

衆成就

四に 「だい比丘びくしゅ」 よりしも而為にい上首じょうしゅ」 にいたるこのかたは、 ぶつしゅかす。 このしゅうのなかにつきてすなはちわかちて二となす。 一にはしょうもんしゅ、 二にはさつしゅなり

四従↢「与大比丘衆」↡下至↢「而為上首」↡已来、明↢仏徒衆↡。就↢此衆中↡、即分為↠二。一者声聞衆、二者菩薩衆。

・ 衆成就 声聞衆

しょうもんしゅのなかにつきてすなはちその九あり。 はじめに 「」 といふは仏身ぶっしんしゅうぬ。 ゆゑにづけてとなす。 *二には*総大そうだい、 三には*相大そうだい、 四には*衆大しゅだい、 五には*年大ねんだい、 六には*数大しゅだい、 七には*尊宿大そんしゅくだい、 八には*ない実徳じっとくだい、 九には*果証しょうかだいなり

二には… 以下、 「大比丘びく衆」 の大についていう。
総大 以下の七大の総句。
相大 すがたがすぐれていること。
衆大 僧衆が巧みに和合していること。
耆年大 長老の比丘であること。
数大 比丘の数が多いこと。
尊宿大 高徳の長老であること。
内有実徳大 内に尊い徳をそなえていること。
果証大 すぐれた証果を得ていること。

就↢声聞衆中↡、即有↢其九↡。初言↢「与」↡者仏身兼↠衆、故名為↢「与」↡。二者総大、三者相大、四者衆大、五者耆年大、六者数大、七者尊宿大、八者内有実徳大、九者果証大。

 ひていはく、 一切いっさいきょうはじめにみなこれらのしょうもんありて、 もつて*猶置ゆちとなせるはなんの所以ゆえんかある

猶置 安置の意。 あるいは由致 (由序) の意か。

問曰。一切経首皆有↢此等声聞↡、以為↢猶置↡有↢何所以↡。

こたへていはく、 これに*べっあり。 いかなるかべっ。 これらのしょうもんおおくはこれ*どうなり。 ¬*賢愚経けんぐきょう¼ (意)きたまふがごとし。 「*優楼うるびん迦葉かしょうは、 五ひゃく弟子でしりょうして邪法じゃほうしゅす。 *伽耶がや迦葉かしょうは、 二ひゃく五十の弟子でしりょうして邪法じゃほうしゅす。 *だい迦葉かしょうは、 二ひゃく五十の弟子でしりょうして邪法じゃほうしゅす。 そうじて一せんあり。 みな*ぶっけて*かんどうたり。 その二ひゃく五十といふは、 すなはちこれ*しゃ*目連もくれんとの弟子でしなり。 ともに一しょりょうして邪法じゃほうしゅす。 またぶっけてみな*どうたり。 これらの四しゅがっして一しょとなす。 ゆゑにせんひゃく五十にんあり」 と

別意 特別の意味。
仏化 仏の教化。
羅漢道 阿羅漢果。 →阿羅あらかん
舎利 舎利弗のこと。 →しゃ利弗りほつ
道果 阿羅漢果。 →阿羅あらかん

答曰。此有↢別意↡。云何別意。此等声聞多是外道。如↢¬賢愚経¼説↡。優楼頻蠃迦葉領↢五百弟子↡修↢事邪法↡、伽耶迦葉領↢二百五十弟子↡修↢事邪法↡、那提迦葉領↢二百五十弟子↡修↢事邪法↡。総有↢一千↡、皆受↢仏化↡得↢羅漢道↡。其二百五十者、即是舎利目連弟子。共領↢一処↡修↢事邪法↡。亦受↢仏化↡皆得↢道果↡。此等四衆合為↢一処↡、故有↢千二百五十人↡也。

 ひていはく、 このしゅうのなかにまたどうにあらざるものあり。 なんがゆゑぞそうじてひょうする

問曰。此衆中亦有↧非↢外道↡者↥、何故総標。

こたへていはく、 ¬きょう¼ (同・意) のなかにきたまふがごとし。 「このもろもろのどうつねにそんしたがひてあひしゃせず」 と。 しかるに*結集けつじゅういえとく*えらる。 ゆゑに異名いみょうあり。 これどうなるものはおおく、 あらざるものはすくなし

結集の家 経を結集した人。 →結集けつじゅう
簡び 区別して。

答曰。如↢経中説↡。此諸外道常随↢世尊↡不↢相捨離↡。然結集之家、簡↢取外徳↡、故有↢異名↡。是外道者多、非者少。

 またひていはく、 いぶかし、 これらのどうつねにぶつしたがへるは、 なんのこころかあるや

又問曰。未審、此等外道常随↢仏後↡、有↢何意↡也。

こたへていはく、 するに二あり。 一にはぶつにつきてす。 二にはどうにつきて

答曰。解有↢二義↡。一就↠仏解、二就↢外道↡解。

ぶつにつきてすとは、 このもろもろのどう邪風じゃふうひさしくあおぐこと、 これ一しょうのみにあらず。 *真門しんもんるといへども、 *気習けじゅうなほあり。 ゆゑに如来にょらいかくして*外化げけせしめざらしむ。 しゅじょう正見しょうけんこんそんじ、 悪業あくごう増長ぞうじょうして、 此世しせ後生ごしょうじつおさめざることをおそるればなり。 この因縁いんねんのためにせっしてみづからちかづかしめて、 *やくゆるしたまはず。 これすなはちぶつにつきてしをはりぬ

真門に入る 真実の教えである仏法に帰入すること。
気習 習気に同じ。 →じっ
外化 外に出てしゅじょうを教化やくすること。
外益 外化に同じ。

就↠仏解者、此諸外道邪風久扇、非↢是一生↡。雖↠入↢真門↡、気習由在。故使↢如来知覚不↟令↢外化↡。畏↧損↢衆生正見根芽↡、悪業増長此世後生不↞収↢果実↡。為↢此因縁↡、摂令↢自近↡不↠聴↢外益↡。此即就↠仏解竟。

つぎどうにつきてすとは、 迦葉かしょうとうこころ、 みづからただ曠劫こうごうよりひさしくしょうしず*どう*循還じゅんかんして、 くるしみいふべからず。 *愚痴ぐち*悪見あくけんにして邪風じゃふう*封執ふうしゅうし、 *明師みょうしはずしてながかいながる。 ただ*宿縁しゅくえんをもつてたまたまそん (釈尊)ふことをることあり。 *法沢ほうたくわたくしなし。 わがともがらにんこうむり、 ぶつ恩徳おんどくじんするに、 *砕身さいしんごく*惘然もうねんたり。 したしく*霊儀りょうぎつかへて、 しばらくもかわるによしなからしむることをいたす。 これすなはちどうにつきてしをはりぬ

循還 限りなくめぐること。
封執 とらわれること。
明師 すぐれた師。
宿縁 過去の因縁いんねん
法沢 仏法による潤いの利益。
砕身の極 仏の恩徳は身を砕いてもなお報じがたいほど深いという意。
惘然 言い表しようもないさま。
霊儀 威厳のあるすがた (をそなえる釈尊)。

次就↢外道↡解者、迦葉等意、自唯曠劫久沈↢生死↡、循↢還六道↡、苦不↠可↠言。愚痴悪見封↢執邪風↡、不↠値↢明師↡永流↢於苦海↡。但以↢宿縁↡有↢遇得↟会↢慈尊↡。法沢無↠私我曹蒙↠潤。尋思↢仏之恩徳↡、砕↠身之極惘然。致↠使↧親事↢霊儀↡無↞由↢暫替↡。此即就↢外道↡解竟。

 またひていはく、 これらのそん宿しゅくいかんが*衆所しゅしょしきづくる

衆所知識 「衆に知識せらる」。 ¬小経¼ に出る語。

又問曰。此等尊宿云何名↢衆所知識↡。

こたへていはく、 とくたかきをそんといひ、 *ねんなるを宿しゅくといふ。 一切いっさい*凡聖ぼんしょうかの内徳ないとくの、 ひとぎたることをり、 そのそうしゅなるをる。 ゆゑに衆所しゅしょしきづく

耆年 長老。

答曰。徳高曰↠尊、耆年曰↠宿。一切凡聖知↢彼内徳過↟人、識↢其外相殊異↡、故名↢衆所知識↡。

 上来じょうらいどうありといへども、 しょうもん衆をしをはりぬ

上来雖↠有↢九句不同↡、解↢声聞衆↡竟。

・ 衆成就 菩薩衆

つぎさつしゅす。 このしゅうのなかにつきてすなはちその七あり。 一にはそうひょうす。 二にはしゅひょうす。 三にはくらいひょうす。 四にはひょうす。 五にはとくひょうす。 六にはべつして*文殊もんじゅ高徳こうとくくらいあらわす。 七にはそうじてけっ

次解↢菩薩衆↡。就↢此衆中↡即有↢其七↡。一者標↠相、二者標↠数、三者標↠位、四者標↠果、五者標↠徳、六者別顕↢文殊高徳之位↡、七者総結。

またこれらのさつりょう行願ぎょうがんし、 一切いっさいどくほう安住あんじゅうす。 ぽう遊歩ゆぶして*権方便ごんほうべんぎょうじ、 ぶつ法蔵ほうぞうりてがん究竟くきょうす。 りょうかいにおいて、 して*等覚とうがくじょうず。 こうみょう*顕曜けんようにしてあまねく十ぽうらす。 りょうぶつ*しゅ震動しんどうす。 えんしたがひてかいしてすなはち*法輪ほうりんてんず。 ほうたたき、 法剣ほうけんり、 法雷ほうらいふるひ、 ほうあめふらし、 ほうぶ。 つねに法音ほうおんをもつてもろもろのけんかくせしむ。 *邪網じゃもう掴裂かくれつし、 *諸見しょけん消滅しょうめつし、 もろもろの*塵労じんろうさんじ、 もろもろの*欲塹よくぜんやぶり、 *清白しょうびゃく顕明けんみょうし、 仏法ぶっぽう*こうし、 正化しょうけ*せんす。 しゅじょう愍傷みんしょうしていまだかつて*まんせず。 平等びょうどうほうりょう百千ひゃくせん三昧ざんまいそくす。 一ねんのあひだにおいて周遍しゅうへんせざるはなし。 *群生ぐんじょう荷負かぶしてこれをあいすることのごとし。 一切いっさい*善本ぜんぽんみながんす。 ことごとく諸仏しょぶつりょうどくて、 智慧ちえ開朗かいろうなること思議しぎすべからず

権方便 たくみな手段。
等覚 →等覚とうがく
六種に震動す 仏の出現や説法を讃えて、 どうゆう (形の震動) としんかく (音の震動) の六種の瑞相があらわれることをう。
邪網を掴裂し よこしまな教えの網を切り裂いて。
諸見 様々な悪しき見解。
欲塹 貪欲とんよくの心を越えがたい塹 (ほり) に喩えたもの。
清白 煩悩のけがれを離れた清浄しょうじょな道。
光融 光を輝かし、 邪見のものをおさめとること。
宣流 のべひろめること。
慢恣 おもいあがっておこたること。

又此等菩薩、具↢無量行願↡、安↢住一切功徳之法↡。遊↢歩十方↡行↢権方便↡、入↢仏法蔵↡究↢竟彼岸↡、於↢無量世界↡、化成↢等覚↡。光明顕曜普照↢十方↡、無量仏土六種震動。随↠縁開示、即転↢法輪↡。扣↢法鼓↡執↢法劒↡、震↢法雷↡雨↢法雨↡。演↢法施↡、常以↢法音↡覚↢諸世間↡。掴↢裂邪網↡消↢滅諸見↡、散↢諸塵労↡壊↢諸欲壍↡。顕↢明清白↡光↢融仏法↡、宣↢流正化↡。愍↢傷衆生↡未↢曾慢恣↡。得↢平等法↡具↢足無量百千三昧↡。於↢一念頃↡、無↠不↢周徧↡。荷↢負羣生↡愛↠之如↠子。一切善本皆度↢彼岸↡、悉獲↢諸仏無量功徳↡、智慧開朗不↠可↢思議↡。

どうありといへども、 さつしゅしをはりぬ

雖↠有↢七句不同↡、解↢菩薩衆↡訖。

上来じょうらいしゅどうありといへども、 ひろぜんじょかしをはりぬ

上来雖↠有↢二衆不同↡、広明↢化前序↡竟。

◎序分 ○発起序  禁父縁

【6】 二に*ごんえんのなかにつきてすなはちその七あり

二就↢禁父縁中↡即有↢其七↡。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 1. 起化処

一に 「爾時にじ王舎おうしゃ大城だいじょう」 より以下いげは、 そうじて*起化きけところかす

起化の処 教化をおこされた場所。

一従↢「爾時王舎大城」↡以下、総明↢起化処↡。

・ 「王舎」

これおう*百姓ひゃくせい、 ただ城中じょうちゅうしゃつくるにすなはちてんのためにかる。 もしこれおう舎宅しゃたくには、 ことごとくちかづくことなし。 のちとき百姓ひゃくせいともにおうそうす。 「しんたくつくればしばしばてんのためにかる、 ただこれ*王舎おうしゃのみことごとくちかづくことなし。 なんの所以ゆえんかあるといふことをらず」 と。 おう*奏人そうにんげたまはく、 「いまより以後いごなんぢらたくつくとき、 ªただわれいまおうのためにしゃつくるº といふべし」 と。 奏人そうにんおのおのおうちょくうけたまわりて、 帰還かえりてしゃつくるにさらにかれず。 これによりて相伝そうでんして、 ことさらに王舎おうしゃづくることをかす

百姓 (王舎城中の) 人民。
王舎 王家の舎宅。
奏人 上奏した人。

此明↧往古百姓、但城中造↠舎、即為↢天火↡所↠焼。若是王家舎宅悉無↢火近↡。後時百姓共奏↢於王↡。臣等造↠宅数為↢天火↡所↠焼、但是王舎悉無↢火近↡。不↠知↠有↢何所以↡。王告↢奏人↡。自↠今以後卿等造↠宅之時、但言↢我今為↠王造↟舎。奏人等各奉↢王勅↡、帰還造↠舎、更不↠被↠焼。因↠此相伝故名↦「王舎」↥。

・ 「大城」

大城だいじょう」 といふは、 このしろきはめてだいにして、 *みんおくなり。 ゆゑに王舎おうしゃ大城だいじょうといふ

居民 居住している人々。

言↢「大城」↡者、此城極大、居民九億。故噵↢「王舎大城」↡也。

・ 起化処

起化きけところといふはすなはちその二あり

言↢起化処↡者、即有↢其二↡。

一にはいはく、 闍王じゃおうあくおこしてすなはち父母ぶもきんずるえんあり。 きんによりてすなはちこの*しゃいとひて、 *無憂むうかいたくせんとがん

無憂の世界 いかなる憂いもない極楽世界。

一謂闍王起↠悪即有↧禁↢父母↡之縁↥。因↠禁則厭↢此娑婆↡、願↠託↢無憂之世界↡。

二にはすなはち如来にょらい (釈尊) しょうおもむき、 ひかりへんじてだいとなりて*霊儀りょうぎ影現ようげんしたまふに、 にんすなはち安楽あんらくしょうずることをもとむ。 またしんかたむけてぎょうひ、 ぶつ*ぷくいんひらきたまふ。 正観しょうかんはすなはちこれ*定門じょうもんなり。 さらに*しょうやくあらわす。 この因縁いんねんのためのゆゑに起化きけところづく

霊儀を影現し 釈尊が十方の仏の尊いありさまをだいに示したことをいう。
三福の因 往生の因であるところの散善さんぜん三福の行。 →三福さんぷく
定門 定善の法門。 →じょうぜん
九章の益 ぼんの散善のやく

二則如来赴↠請、光変為↠台影↢現霊儀↡。夫人即求↠生↢安楽↡。又傾↠心請↠行、仏開↢三福之因↡。正観即是定門、更顕↢九章之益↡。為↢此因縁↡故名↢起化処↡也。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 2. 阿闍世因縁

二に 「たい」 よりしもあく之教しきょう」 にいたるこのかたは、 まさしく闍王じゃおう*怳忽こうこつのあひだに悪人あくにんあやまるところを信受しんじゅすることをかす

怳忽 うっかりするさま。 ぼんやりするさま。

二従↢「有一太子」↡下至↢「悪友之教」↡已来、正明↣闍王怳忽之間、信↢受悪人所↟悞。

・ 「太子」

たい」 といふはそのくらいあらわす。 「じゃ」 といふはそのあらわす。 また 「じゃ」 といふはすなはちこれ*西国さいこく正音しょうおんなり。 *この往翻おうほんには*未生みしょうおんづけ、 またせっづく

この地の往翻には 中国語の意訳では。
未生怨 出生以前より既に父に怨を懐いた者という意。

言↢「太子」↡者彰↢其位↡也。言↢「阿闍世」↡者顕↢其名↡也。又「阿闍世」者、乃是西国正音。此地往翻名↢未生怨↡、亦名↢折指↡。

 ひていはく、 なんがゆゑぞ 「未生みしょうおん」 とづけ、 および 「せっ」 とづくるや

問曰。何故名↢未生怨↡、及名↢折指↡也。

こたへていはく、 これみな昔日しゃくにち因縁いんねんぐ。 ゆゑにこのあり

答曰。此皆挙↢昔日因縁↡、故有↢此名↡。

・ 「折指」

因縁いんねんといふは、 元本もとちちおうそくあることなし。 処々しょしょじんもとむれども、 つひにることあたはず。 たちまちに*そうありて、 おうそうしてまうさく、 「しんれり。 やまのなかに一の仙人せんにんあり。 ひさしからずして寿いのちて、 命終みょうじゅうしをはりてのちかならずまさにおうのためにとなるべし」 と

言↢因縁↡者、元本父王無↠有↢子息↡、処処求↠神竟不↠能↠得。忽有↢相師↡而奏↠王言。臣知、山中有↢一仙人↡、不↠久捨↠寿、命終已後必当↢与↠王作↟子。

おうきてかんす。 「このひといづれのときにか捨命しゃみょうする」 と。 そうおうこたふ。 「さらに三ねんてはじめて命終みょうじゅうすべし」 と。 おういはく、 「われいまとしいてくに*けいなし。 さらに三ねんつるまでなにによりてかつべき」 と

継祀 先祖の祭祀をうけつぐこと。 ここでは王位を相続する者の意。

王聞歓喜、此人何時捨↠命。相師答↠王。更経↢三年↡始可↢命終↡。王言。我今年老国無↢継祀↡。更満↢三年↡何由可↠待。

おうすなはち使つかひをつかはしてやまらしめ、 きて仙人せんにんしょうじていはしむ。 「大王だいおうなく、 けて*紹継じょうけいなし。 処々しょしょじんもとむるに、 ることあたはざるにくるしむ。 すなはち*そうありて大仙だいせん瞻見るに、 ひさしからずして捨命しゃみょうして、 おうのためにとなるべしと。 ねがはくは大仙だいせんおんれてはやきたまへ」 と

紹継 後継者。

王即遣↠使、入↠山往請↢仙人↡曰。大王無↠子、闕無↢紹継↡。処処求↠神困↠不↠能↠得。乃有↢相師↡、瞻↢見大仙↡、不↠久捨↠命、与↠王作↠子。請願大仙垂↠恩早赴。

使にんきょうけてやまり、 仙人せんにんところいたりて、 つぶさに王請おうしょう因縁いんねんく。 仙人せんにん使しゃこたへていはく、 「われさらに三ねんてはじめて命終みょうじゅうすべし。 おうのすなはちけとちょくするは、 この不可ふかなり」 と

使人受↠教入↠山到↢仙人所↡、具説↢王請因縁↡。仙人報↢使者↡言。我更経↢三年↡始可↢命終↡。王勅↢即赴↡者、是事不可。

使つかひ、 せんきょうけて、 かえりて大王だいおうほうずるに、 つぶさにせんこころぶ。 おういはく、 「われはこれ一こくあるじなり。 あらゆる人物にんもつみなわれにぞくす。 いまことさらにれいをもつてあひくっするに、 すなはちわがこころけざるや」 と。 おうさらに使しゃちょくす。 「なんぢきてかさねてしょうぜよ。 しょうぜんにもしずは、 まさにすなはちこれをころすべし。 すでに命終みょうじゅうしをはりなば、 わがためにとならざるべけんや」 と

使奉↢仙教↡還報↢大王↡具述↢仙意↡。王曰。我是一国之主、所有人物皆帰↢属我↡。今故以↠礼相屈、乃不↠承↢我意↡。王更勅↢使者↡。卿往重請。請若不↠得、当↢即殺↟之。既命終已可↠不↢与↠我作↟子也。

使にんちょくけて、 仙人せんにんところいたりて、 つぶさにおうこころをいふ。 仙人せんにん使つかひのせつくといへども、 こころにまたけず。 使にんちょくけてすなはちこれをころさんとほっす。 仙人せんにんいはく、 「なんぢまさにおうかたるべし。 ªわがいのちいまだきざるに、 おう*しんをもつてひとをしてわれをころさしむ。 われもしおうのためにとならば、 またしんをもつてひとをしておうころさしめんº」 と。 仙人せんにんこのをいひをはりてすなはち

心口をもつて 心に殺意をいだき、 口に命令を発して。

使人受↠勅至↢仙人所↡、具噵↢王意↡。仙人雖↠聞↢使説↡、意亦不↠受。使人奉↠勅即欲↠殺↠之。仙人曰。卿当↠語↠王。我命未↠尽、王以↢心口↡遣↢人殺↟我。我若与↠王作↠児者、還以↢心口↡遣↢人殺↟王。仙人噵↢此語↡已即受↠死。

すでにしをはりて、 すなはちおうたくしてしょうく。 そのよるあたりてにんすなはち*しんすとおぼゆ。 おうきてかんす。 てんけてすなはちそうびて、 もつてにんしむ。 これおとこなりやこれおんななりや。 そうをはりておうこたへていはく、 「このおんなにあらず。 この*おうにおいてそんあるべし」 と。 おういはく、 「わがこくはみなこれを*捨属しゃぞくすべし。 たとひそんずるところありとも、 われまたおそれなし」 と。 おうこのきて憂喜うきまじはりいだ

有身 妊娠すること。
王において… 王に害を加えるであろう。
捨属 (生れてくる子に) 与えること。

既死已即託↢王宮↡受↠生。当↢其日夜↡、夫人即覚↢有身↡。王聞歓喜天明即喚↢相師↡以観↢夫人↡。是男是女。相師観已而報↠王言。是児非↠女。此児於↠王有↠損。王曰。我之国土皆捨↢属之↡、縦有↢所損↡吾亦無↠畏。王聞↢此語↡憂喜交懐。

おうにんにまうしてまうさく、 「われにんとともにひそかにみづから*平章びょうじょうせん。