観経序分義 巻第二
*沙門*善導集記
◎序分 ○一経大科
・ 一経五分
【1】 これより以下は文につきて料簡するに、 略して*五門を作りて義を明かす。
五門 五分。 浄影寺慧遠 (523-592)・嘉祥大師吉蔵 (549-623) 等の諸師は ¬観経¼ に三分 (序分・正宗分・流通分) を立てて解釈するが、 善導大師は、 五分 (序分・正宗分・得益分・流通分・耆闍分) を立てて解釈する。
◎従↠此以下就↠文料簡、略作↢五門↡明↠義。
◎ 原漢文の底本は本派本願寺蔵版。 龍谷大学蔵鎌倉時代刊本、 大派依用十行本と対校されている。
一に 「▲如是我聞」 より下 「五苦所逼云何見極楽世界▲」 に至るこのかたは、 その*序分を明かす。
序分 その経の序説となる部分。
一従↢「如是我聞」↡下至↢「五苦所逼云何見極楽世界」↡已来、明↢其序分↡。
二に日観の初めの句の 「▲仏告韋提汝及衆生」 より下下品下生に至るこのかたは、 *正宗分を明かす。
正宗分 その経の本論となる部分。
二従↢日観初句「仏告韋提汝及衆生」↡下至↢下品下生↡已来、明↢正宗分↡。
三に 「▲説是語時」 より下 「諸天発心▲」 に至るこのかたは、 まさしく*得益分を明かす。
得益分 その経の教えによって利益を得ることを示す部分。
三従↢「説是語時」↡下至↢「諸天発心」↡已来、正明↢得益分↡。
四に 「▲阿難白仏」 より下 「韋提等歓喜▲」 に至るこのかたは、 *流通分を明かす。
四従↢「阿難白仏」↡下至↢「韋提等歓喜」↡已来、明↢流通分↡。
流通分 その経の教えを伝持流通することを勧める部分。
・ 一経二会 ・ 王宮会
この四義は仏*王宮にまします一会の正説なり。
王宮にまします一会 王宮会のこと。 仏が王舎城宮で阿難と韋提希のために説法した会座。
此之四義仏在↢王宮↡一会正説。
・ 耆闍会
五に 「▲阿難耆闍の大衆のために伝説する」 よりはまたこれ*一会なり。 また*三分あり。 一に 「▲爾時世尊足歩虚空還耆闍崛山」 よりこのかたは、 その序分を明かす。 二に 「▲阿難広為大衆説如上事」 よりこのかたは、 正宗分を明かす。 三に 「▲一切大衆歓喜奉行」 よりこのかたは、 流通分を明かす。
一会 耆闍会のこと。 阿難が耆闍崛山の大衆のために王宮会での仏の説法を再説した会座。 「散善義」 では耆闍分ともよぶ。
三分 善導大師は全四十五字の耆闍会 (耆闍分) にも序分・正宗分・流通分の三分があるとする。
五従↧阿難為↢耆闍大衆↡伝説↥復是一会。亦有↢三分↡。一従↢「爾時世尊足歩虚空還耆闍崛山」↡已来、明↢其序分↡。二従↢「阿難広為大衆説如上事」↡已来明↢正宗分↡。三従↢「一切大衆歓喜奉行」↡已来明↢流通分↡。
しかるに化にはかならず由あり、 ゆゑに先づ序を明かす。 *由序すでに興りぬればまさしく所説を陳ぶ。 次に*正宗を明かす。 ために説くことすでに周りて、 所説をもつて末代に伝持せしめんと欲して、 *勝を歎じて学を勧む。 後に流通を明かす。
由序 序分に同じ。
正宗 正宗分のこと。
勝を歎じて (¬観経¼ の教説が) すぐれていることを讃嘆して。
然化必有↠由、故先明↠序。由序既興正陳↢所説↡。次明↢正宗↡。為説既周、*欲↧以↢所説↡伝↢持末代↡、歎↠勝勧学↥、後明↢流通↡。
欲…勧学 返り点は聖教全書まま。 「欲」 が 「勧学」 までかかっている。
上来五義の不同ありといへども、 略して序・正・流通の義を料簡しをはりぬ。
上来雖↠有↢五義不同↡略料↢簡序・正・流通義↡竟。
・ 一序二分
【2】 また前の序のなかにつきてまた分ちて二となす。 一には 「▲如是我聞」 より一句を名づけて*証信序となす。 二には 「▲一時」 より下 「云何見極楽世界▲」 に至るこのかたは、 まさしく*発起序を明かす。
証信序 その経の信ずべきことを証明する部分。
発起序 その経が説かれる由来・因縁を述べる部分。
又就↢前序中↡復分為↠二。一従↢「如是我聞」↡一句名為↢証信序↡。二従↢「一時」↡下至↢「云何見極楽世界」↡已来、正明↢発起序↡。
◎序分 ○証信序
【3】 初めに↓証信といふはすなはち二義あり。
初言↢証信↡者、即有↢二義↡。
・ 「如是」
▲一にはいはく、 「↓如是」 の二字はすなはち総じて教主 (釈尊) を標す。 *能説の人なり。
能説の人 教えを説く人。
一謂「如是」二字即総標↢教主↡。能説之人。
・ 「我聞」
▲二にはいはく、 「↓我聞」 の両字はすなはち別して阿難を指す。 *能聴の人なり。 ゆゑに如是我聞といふ。 これすなはちならべて二の意を釈す。
能聴の人 教えを聞く人。
二謂「我聞」両字、即別指↢阿難↡。能聴之人。故言↢「如是我聞」↡、此即双↢釈二意↡也。
また 「↑如是」 といふはすなはち*法を指す。 *定散両門なり。 「是」 はすなはち定むる辞なり。 *機、 行ずればかならず益す。 これは如来の所説の言に*錯謬なきことを明かす。 ゆゑに如是と名づく。
錯謬 あやまり。
又言↢「如是」↡者、即此指↠法定散両門也。「是」即定辞。機行必益。此明↣如来所説言無↢錯謬↡、故名↢「如是」↡。
また 「如」 といふは衆生の意のごとし。 心の*所楽に随ひて、 仏すなはちこれを度したまふ。 *機教相応するをまた称して 「是」 となす。 ゆゑに如是といふ。
機教相応 衆生の機根 (素質能力) と仏の教えとが合致すること。
又言↢「如」↡者、如↢衆生意↡也、随↢心所楽↡仏即度↠之。機教相応復称為↢「是」↡、故言↢「如是」↡。
また 「如是」 といふは、 如来の所説は、 *漸を説くこと漸のごとく、 *頓を説くこと頓のごとく、 相を説くこと相のごとく、 *空を説くこと空のごとく、 *人法を説くこと人法のごとく、 *天法を説くこと天法のごとく、 *小を説くこと小のごとく、 *大を説くこと大のごとく、 凡を説くこと凡のごとく、 聖を説くこと聖のごとく、 因を説くこと因のごとく、 果を説くこと果のごとく、 苦を説くこと苦のごとく、 楽を説くこと楽のごとく、 遠を説くこと遠のごとく、 近を説くこと近のごとく、 同を説くこと同のごとく、 別を説くこと別のごとく、 浄を説くこと浄のごとく、 穢を説くこと穢のごとく、 一切諸法の千差万別なるを説きたまふに、 如来の観知*歴々了然なることを明かさんと欲す。 *随心の起行、 *各益の不同、 *業果の法然たる、 すべて*錯失なきをまた称して是となす。 ゆゑに如是といふ。
人法 人間としてあるべきことを示す教え。
天法 天に生ずるための教え。 十善の法。
小 小乗の教え。
大 大乗の教え。
歴々了然 明らかであること。
随心の起行 (衆生が) その心にしたがって行をおこすこと。
各益の不同 (その行によって得る) 利益はそれぞれ同じではないということ。
業果の法然 業因によって果報を得ることが道理として自然にあること。
錯失 あやまり。
又言↢「如是」↡者、欲↠*明↢如来所説↡。説↠漸如↠漸、説↠頓如↠頓、説↠相如↠相、説↠空如↠空、説↢人法↡如↢人法↡、説↢天法↡如↢天法↡、説↠小如↠小、説↠大如↠大、説↠凡如↠凡、説↠聖如↠聖、説↠因如↠因、説↠果如↠果、説↠苦如↠苦、説↠楽如↠楽、説↠遠如↠遠、説↠近如↠近、説↠同如↠同、説↠別如↠別、説↠浄如↠浄、説↠穢如↠穢、説↢一切諸法↡千差万別。如来観知歴歴了然随↠心起↠行、各益不↠同。業果法然衆無↢錯失↡、又称為↠是。故言↢「如是」↡。
明…所説 返り点まま。 「…の所説を明さんと(欲す)」
「↑我聞」 といふは、 *阿難はこれ仏の侍者にして、 つねに仏後に随ひて多聞広識なり。 身座下に臨みてよく聴きよく持ちて、 教旨親しく承くることを明かして、 伝説の錯りなきことを表せんと欲す。 ゆゑに我聞といふ。
言↢「我聞」↡者、欲↠*明↧阿難是仏侍者、常随↢仏後↡多聞広識、身臨↢座下↡能聴能持、教旨親承表↞無↢伝説之錯↡、故曰↢「我聞」↡也。
明…表 返り点まま。
また 「↑証信」 といふは、 阿難仏教を*稟承して末代に伝持するに、 衆生に対するがためのゆゑにかくのごとき観法、 われ仏に従ひて聞くといふことを明かして、 *可信を証誠せんと欲す。 ゆゑに証信序と名づく。 これは阿難につきて解す。
稟承 受けること。
可信を証誠せん 信ずべきことを証明しよう。
又言↢証信↡者欲↪明↧阿難稟↢承仏教↡、伝↢持末代↡、為↠対↢衆生↡故、如↠是観法我従↠仏聞↥、証↩誠可信↨。故名↢証信序↡。此就↢阿難↡解也。
◎序分 ○発起序
【4】 二に*発起序のなかにつきて細しく分ちて七となす。
二就↢発起序中↡細分為↠七。
初めに 「▲一時仏在」 より下 「法王子而為上首▲」 に至るこのかたは、 *化前序を明かす。
化前序 教化が行われる以前の序説。
初従↢「一時仏在」↡下至↢「法王子而為上首」↡已来、明↢化前序↡。
二に 「▲王舎大城」 より下 「顔色和悦▲」 に至るこのかたは、 まさしく発起序の*禁父の縁を明かす。
禁父の縁 阿闍世が父の頻婆娑羅王を幽閉する因縁。
二従↢「王舎大城」↡下至↢「顔色和悦」↡已来、正明↢発起序禁父之縁↡。
三に 「▲時阿闍世」 より下 「不令復出▲」 に至るこのかたは、 *禁母の縁を明かす。
禁母の縁 阿闍世が母の韋提希を幽閉する因縁。
三従↢「時阿闍世」↡下至↢「不令復出」↡已来、明↢禁母縁↡。
四に 「▲時韋提希被幽閉」 より下 「共為眷属▲」 に至るこのかたは、 *厭苦の縁を明かす。
厭苦の縁 韋提希が苦悩の穢土を厭う因縁。
四従↢「時韋提希被幽閉」↡下至↢「共為眷属」↡已来、明↢厭苦縁↡。
五に 「▲唯願為我広説」 より下 「教我正受▲」 に至るこのかたは、 その*欣浄の縁を明かす。
欣浄の縁 韋提希が浄土を願い求める因縁。
五従↢「唯願為我広説」↡下至↢「教我正受」↡已来、明↢其欣浄縁↡。
六に 「▲爾時世尊即便微笑」 より下 「浄業正因▲」 に至るこのかたは、 *散善顕行縁を明かす。
散善顕行縁 散善行を顕す序文。 親鸞聖人は 「散善は行を顕す縁なり」 (化身土文類訓) と読み、 「自力の散善は他力念仏を顕す縁」 と転意した。
六従↢「爾時世尊即便微笑」↡下至↢「浄業正因」↡已来、明↢散善顕↠行縁↡。
七に 「▲仏告阿難等諦聴」 より下 「云何得見極楽国土▲」 に至るこのかたは、 まさしく*定善示観縁を明かす。
定善示観縁 定善観を示す序文。 親鸞聖人は 「定善は観を示す縁なり」 (化身土文類訓) と読み、 「定善は他力の信心 (観) を示す縁」 と転意した。
七従↢「仏告阿難等諦聴」↡下至↢「云何得見極楽国土」↡已来、正明↢定善示↠観縁↡。
上来七段の不同ありといへども、 広く発起序を*料簡しをはりぬ。
上来雖↠有↢七段不同↡。広料↢簡発起序↡竟。
◎序分 ○発起序 1 化前序
【5】 二に次に化前序を解せば、 この序のなかにつきてすなはちその四あり。
二次解↢↡化前序↡者、就↢此序中↡即有↢其四↡。
・ 時成就
▲初めに 「一時」 といふはまさしく*起化の時を明かす。 仏まさに説法せんとするに、 先づ*時処に託したまふ。 ただ衆生の開悟かならず因縁によるをもつて、 化主 (釈尊) 機に臨みて時処を待ちたまふ。
起化の時 説法教化をおこす時。
時処 時と場所。
初言↢「一時」↡者、正明↢起化之時↡。仏将↢説法↡先託↢於時処↡。但以↣衆生開悟必藉↢因縁↡、化主臨↠機待↢於時処↡。
また 「一時」 といふは、 あるいは日夜十二時、 年月四時等に就く。 これみなこれ如来、 機に応じて*摂化したまふ時なり。 「処」 といふは、 かの所宜に随ひて如来説法したまふ。 あるいは山林処にましまし、 あるいは王宮・*聚落処にましまし、 あるいは曠野・*塚間処にましまし、 あるいは多少人天処にましまし、 あるいは声聞・菩薩処にましまし、 あるいは*八部・人・*天王等の処にましまし、 あるいは*純凡もしは多と一二との処にましまし、 あるいは*純聖もしは多と一二との処にまします。 その時処に随ひて如来観知して増せず減ぜず、 縁に随ひて法を授けておのおの*所資を益す。 これすなはち*洪鐘響くといへども、 かならず扣くを待ちてまさに鳴る。 大聖 (釈尊) の慈を垂れたまふこと、 かならず*請を待ちてまさに説くべし。 ゆゑに一時と名づく。
摂化 おさめとって教化すること。
聚落 集落。
塚間 墓場。
純凡 凡夫のみ (がいる場所)。
純聖 聖者のみ (がいる場所)。
所資 教化利益を受ける人々。
洪鐘 大きなつりがね。
請 懇請。
又言↢「一時」↡者、或就↢日夜十二時、年月四時等↡。此皆是如来応↠機摂化時也。言↠処者随↢彼所宜↡如来説法。或在↢山林処↡、或在↢王宮聚落処↡、或在↢曠野塚間処↡、或在↢多少人天処↡、或在↢声聞菩薩処↡、或在↢八部人天王等処↡、或在↢純凡若多一二処↡、或在↢純聖若多一二処↡、随↢其時処↡如来観知不↠増不↠減、随↠縁授↠法、各益↢所資↡。斯乃洪鐘雖↠響、必待↠扣而方鳴。大聖垂↠慈、必待↠請而当↠説、故名↢「一時」↡也。
また 「一時」 とは、 *阿闍世まさしく*逆を起す時、 仏いづれの処にかまします。 この一時に当りて、 如来独り二衆 (声聞・菩薩) とかの*耆闍にまします。 これすなはち下をもつて上を形す意なり。 ゆゑに一時といふ。
逆 父王を殺すという逆罪。
又「一時」者、阿闍世正起↠逆時、仏在↢何処↡。当↢此一時↡、如来独与↢二衆↡在↢彼耆闍↡。此即以↠下形↠上意也、故曰↢「一時」↡。
また 「一時」 といふは、 仏、 二衆と一時のうちにおいて、 かの耆闍にましまして、 すなはち阿闍世のこの悪逆を起す因縁を聞きたまふ。 これすなはち上をもつて下を形す意なり。 ゆゑに一時といふ。
又言↢「一時」↡者、仏与↢二衆↡於↢一時中↡、在↢彼耆闍↡即聞↧阿闍世起↢此悪逆↡因縁↥。此即以↠上形↠下意也、故曰↢「一時」↡。
・ 主成就
▲二に 「仏」 といふは、 これすなはち*化主を*標定す。 *余仏に簡異して独り釈迦を顕す意なり。
化主 教化の主。
標定 表し示すこと。
余仏に簡異して 他の仏と区別して。
二言↢「仏」↡者、此即標↢定化主↡。簡↢異余仏↡独顕↢釈迦↡意也。
・ 処成就
▲三に 「在王舎城」 より以下は、 まさしく如来*遊化の処を明かす。 すなはちその二あり。 一には王城・聚落に遊びたまふは、 ↓在俗の衆を化せんがためなり。 二には*耆山等の処に遊びたまふは、 ↓出家の衆を化せんがためなり。
遊化 諸方をめぐって教化すること。
三従↢「在王舎城」↡已下、正明↢如来遊化之処↡。即有↢其二↡。一遊↢王城聚落↡、為↠化↢在俗之衆↡。二遊↢耆山等処↡、為↠化↢出家之衆↡。
また↑在家といふは、 *五欲を貪求すること相続してこれ常なり。 たとひ清心を発せども、 なほ水に画くがごとし。 ただおもんみれば縁に随ひてあまねく益し、 大悲を捨てたまはざれども、 *道俗形殊なればともに住するに由なし。 これを*境界住と名づく。
境界住 仏が教化のために在家の人と共に住すること。
又在家者貪↢求五欲↡相続是常。縦発↢清心↡猶如↠画↠水。但*以↢随↠縁普益↡不↠捨↢大悲↡。道俗形殊無↠由↢共住↡、此名↢境界住↡也。
依…益 返り点まま。 「益するをもって」
また↑出家といふは、 身を亡じ命を捨て、 欲を断じ真に帰す。 心金剛のごとく円鏡に等同なり。 *仏地を悕求してすなはち弘く自他を益す。 もし*囂塵を絶離するにあらずは、 この徳、 証すべきに由なし。 これを*依止住と名づく。
仏地を悕求して 仏のさとりを願い求めて。
囂塵 さわがしい俗世のけがれ。
依止住 仏が出家の人と共に住すること。
又出家者、亡↠身捨↠命、断↠欲帰↠真。心若↢金剛↡、等↢同円鏡↡。悕↢求仏地↡即弘益↢自他↡。若非↣絶↢離囂塵↡、此徳無↠由↠可↠証、此名↢依止住↡也。
・ 衆成就
▲四に 「▲与大比丘衆」 より下 「而為上首▲」 に至るこのかたは、 仏の徒衆を明かす。 この衆のなかにつきてすなはち分ちて二となす。 一には↓声聞衆、 二には↓菩薩衆なり。
四従↢「与大比丘衆」↡下至↢「而為上首」↡已来、明↢仏徒衆↡。就↢此衆中↡、即分為↠二。一者声聞衆、二者菩薩衆。
・ 衆成就 ・ 声聞衆
↑声聞衆のなかにつきてすなはちその九あり。 初めに 「与」 といふは仏身、 衆を兼ぬ。 ゆゑに名づけて与となす。 *二には*総大、 三には*相大、 四には*衆大、 五には*耆年大、 六には*数大、 七には*尊宿大、 八には*内有実徳大、 九には*果証大なり。
二には… 以下、 「大比丘衆」 の大についていう。
総大 以下の七大の総句。
相大 すがたがすぐれていること。
衆大 僧衆が巧みに和合していること。
耆年大 長老の比丘であること。
数大 比丘の数が多いこと。
尊宿大 高徳の長老であること。
内有実徳大 内に尊い徳をそなえていること。
果証大 すぐれた証果を得ていること。
就↢声聞衆中↡、即有↢其九↡。初言↢「与」↡者仏身兼↠衆、故名為↢「与」↡。二者総大、三者相大、四者衆大、五者耆年大、六者数大、七者尊宿大、八者内有実徳大、九者果証大。
問ひていはく、 一切の経の首めにみなこれらの声聞ありて、 もつて*猶置となせるはなんの所以かある。
猶置 安置の意。 あるいは由致 (由序) の意か。
問曰。一切経首皆有↢此等声聞↡、以為↢猶置↡有↢何所以↡。
答へていはく、 これに*別意あり。 いかなるか別意。 これらの声聞多くはこれ*外道なり。 ¬*賢愚経¼ (意) に説きたまふがごとし。 「*優楼頻螺迦葉は、 五百の弟子を領して邪法を修事す。 *伽耶迦葉は、 二百五十の弟子を領して邪法を修事す。 *那提迦葉は、 二百五十の弟子を領して邪法を修事す。 総じて一千あり。 みな*仏化を受けて*羅漢道を得たり。 その二百五十といふは、 すなはちこれ*舎利と*目連との弟子なり。 ともに一処に領して邪法を修事す。 また仏化を受けてみな*道果を得たり。 これらの四衆を合して一処となす。 ゆゑに千二百五十人あり」 と。
別意 特別の意味。
仏化 仏の教化。
答曰。此有↢別意↡。云何別意。此等声聞多是外道。如↢¬賢愚経¼説↡。優楼頻蠃迦葉領↢五百弟子↡修↢事邪法↡、伽耶迦葉領↢二百五十弟子↡修↢事邪法↡、那提迦葉領↢二百五十弟子↡修↢事邪法↡。総有↢一千↡、皆受↢仏化↡得↢羅漢道↡。其二百五十者、即是舎利目連弟子。共領↢一処↡修↢事邪法↡。亦受↢仏化↡皆得↢道果↡。此等四衆合為↢一処↡、故有↢千二百五十人↡也。
問ひていはく、 この衆のなかにまた外道にあらざるものあり。 なんがゆゑぞ総じて標する。
問曰。此衆中亦有↧非↢外道↡者↥、何故総標。
答へていはく、 ¬経¼ (同・意) のなかに説きたまふがごとし。 「このもろもろの外道つねに世尊に随ひてあひ捨離せず」 と。 しかるに*結集の家、 外徳を*簡び取る。 ゆゑに異名あり。 これ外道なるものは多く、 あらざるものは少なし。
簡び 区別して。
答曰。如↢経中説↡。此諸外道常随↢世尊↡不↢相捨離↡。然結集之家、簡↢取外徳↡、故有↢異名↡。是外道者多、非者少。
また問ひていはく、 いぶかし、 これらの外道つねに仏後に随へるは、 なんの意かあるや。
又問曰。未審、此等外道常随↢仏後↡、有↢何意↡也。
答へていはく、 解するに二義あり。 一には仏につきて解す。 二には外道につきて解す。
答曰。解有↢二義↡。一就↠仏解、二就↢外道↡解。
仏につきて解すとは、 このもろもろの外道邪風久しく扇ぐこと、 これ一生のみにあらず。 *真門に入るといへども、 *気習なほあり。 ゆゑに如来知覚して*外化せしめざらしむ。 衆生の正見の根芽を損じ、 悪業増長して、 此世・後生に果実を収めざることを畏るればなり。 この因縁のために摂してみづから近づかしめて、 *外益を聴したまはず。 これすなはち仏につきて解しをはりぬ。
真門に入る 真実の教えである仏法に帰入すること。
外化 外に出て衆生を教化利益すること。
外益 外化に同じ。
就↠仏解者、此諸外道邪風久扇、非↢是一生↡。雖↠入↢真門↡、気習由在。故使↢如来知覚不↟令↢外化↡。畏↧損↢衆生正見根芽↡、悪業増長此世後生不↞収↢果実↡。為↢此因縁↡、摂令↢自近↡不↠聴↢外益↡。此即就↠仏解竟。
次に外道につきて解すとは、 迦葉等の意、 みづからただ曠劫より久しく生死に沈み*六道に*循還して、 苦しみいふべからず。 *愚痴・*悪見にして邪風に*封執し、 *明師に値はずして永く苦海に流る。 ただ*宿縁をもつてたまたま慈尊 (釈尊) に会ふことを得ることあり。 *法沢わたくしなし。 わが曹、 潤を蒙り、 仏の恩徳を尋思するに、 *砕身の極*惘然たり。 親しく*霊儀に事へて、 しばらくも替るに由なからしむることを致す。 これすなはち外道につきて解しをはりぬ。
循還 限りなくめぐること。
封執 とらわれること。
明師 すぐれた師。
宿縁 過去の因縁。
法沢 仏法による潤いの利益。
砕身の極 仏の恩徳は身を砕いてもなお報じがたいほど深いという意。
惘然 言い表しようもないさま。
霊儀 威厳のあるすがた (をそなえる釈尊)。
次就↢外道↡解者、迦葉等意、自唯曠劫久沈↢生死↡、循↢還六道↡、苦不↠可↠言。愚痴悪見封↢執邪風↡、不↠値↢明師↡永流↢於苦海↡。但以↢宿縁↡有↢遇得↟会↢慈尊↡。法沢無↠私我曹蒙↠潤。尋思↢仏之恩徳↡、砕↠身之極惘然。致↠使↧親事↢霊儀↡無↞由↢暫替↡。此即就↢外道↡解竟。
また問ひていはく、 これらの尊宿いかんが▲*衆所知識と名づくる。
衆所知識 「衆に知識せらる」。 ¬小経¼ に出る語。
又問曰。此等尊宿云何名↢衆所知識↡。
答へていはく、 徳高きを尊といひ、 *耆年なるを宿といふ。 一切の*凡聖かの内徳の、 人に過ぎたることを知り、 その外相の殊異なるを識る。 ゆゑに衆所知識と名づく。
耆年 長老。
答曰。徳高曰↠尊、耆年曰↠宿。一切凡聖知↢彼内徳過↟人、識↢其外相殊異↡、故名↢衆所知識↡。
上来九句の不同ありといへども、 声聞衆を解しをはりぬ。
上来雖↠有↢九句不同↡、解↢声聞衆↡竟。
・ 衆成就 ・ 菩薩衆
次に↑菩薩衆を解す。 この衆のなかにつきてすなはちその七あり。 一には相を標す。 二には数を標す。 三には位を標す。 四には果を標す。 五には徳を標す。 六には別して*文殊の高徳の位を顕す。 七には総じて結す。
次解↢菩薩衆↡。就↢此衆中↡即有↢其七↡。一者標↠相、二者標↠数、三者標↠位、四者標↠果、五者標↠徳、六者別顕↢文殊高徳之位↡、七者総結。
またこれらの菩薩無量の行願を具し、 一切の功徳の法に安住す。 ▲十方に遊歩して*権方便を行じ、 仏の法蔵に入りて彼岸を究竟す。 無量の世界において、 化して*等覚を成ず。 光明*顕曜にしてあまねく十方を照らす。 無量の仏土*六種に震動す。 縁に随ひて開示してすなはち*法輪を転ず。 法鼓を扣き、 法剣を執り、 法雷を震ひ、 法雨を雨らし、 法施を演ぶ。 つねに法音をもつてもろもろの世間を覚せしむ。 *邪網を掴裂し、 *諸見を消滅し、 もろもろの*塵労を散じ、 もろもろの*欲塹を壊り、 *清白を顕明し、 仏法を*光融し、 正化を*宣流す。 衆生を愍傷していまだかつて*慢恣せず。 平等の法を得て無量百千三昧を具足す。 一念のあひだにおいて周遍せざるはなし。 *群生を荷負してこれを愛すること子のごとし。 一切の*善本みな彼岸に度す。 ことごとく諸仏の無量の功徳を獲て、 智慧開朗なること思議すべからず。
権方便 たくみな手段。
六種に震動す 仏の出現や説法を讃えて、 動・起・涌 (形の震動) と震・吼・覚 (音の震動) の六種の瑞相があらわれることをう。
邪網を掴裂し よこしまな教えの網を切り裂いて。
諸見 様々な悪しき見解。
欲塹 貪欲の心を越えがたい塹 (ほり) に喩えたもの。
清白 煩悩のけがれを離れた清浄な道。
光融 光を輝かし、 邪見のものをおさめとること。
宣流 のべひろめること。
慢恣 おもいあがっておこたること。
又此等菩薩、具↢無量行願↡、安↢住一切功徳之法↡。遊↢歩十方↡行↢権方便↡、入↢仏法蔵↡究↢竟彼岸↡、於↢無量世界↡、化成↢等覚↡。光明顕曜普照↢十方↡、無量仏土六種震動。随↠縁開示、即転↢法輪↡。扣↢法鼓↡執↢法劒↡、震↢法雷↡雨↢法雨↡。演↢法施↡、常以↢法音↡覚↢諸世間↡。掴↢裂邪網↡消↢滅諸見↡、散↢諸塵労↡壊↢諸欲壍↡。顕↢明清白↡光↢融仏法↡、宣↢流正化↡。愍↢傷衆生↡未↢曾慢恣↡。得↢平等法↡具↢足無量百千三昧↡。於↢一念頃↡、無↠不↢周徧↡。荷↢負羣生↡愛↠之如↠子。一切善本皆度↢彼岸↡、悉獲↢諸仏無量功徳↡、智慧開朗不↠可↢思議↡。
七句の不同ありといへども、 菩薩衆を解しをはりぬ。
雖↠有↢七句不同↡、解↢菩薩衆↡訖。
上来二衆の不同ありといへども、 広く化前序を明かしをはりぬ。
上来雖↠有↢二衆不同↡、広明↢化前序↡竟。
◎序分 ○発起序 2 禁父縁
【6】 二に*禁父の縁のなかにつきてすなはちその七あり。
二就↢禁父縁中↡即有↢其七↡。
◎序分 ○発起序 2 禁父縁 1. 起化処
▲一に 「▲爾時↓王舎↓大城」 より以下は、 総じて↓*起化の処を明かす。
起化の処 教化をおこされた場所。
一従↢「爾時王舎大城」↡以下、総明↢起化処↡。
・ 「王舎」
↑これ往古の*百姓、 ただ城中に舎を造るにすなはち天火のために焼かる。 もしこれ王家の舎宅には、 ことごとく火近づくことなし。 後の時に百姓ともに王に奏す。 「臣等宅を造ればしばしば天火のために焼かる、 ただこれ*王舎のみことごとく火近づくことなし。 なんの所以かあるといふことを知らず」 と。 王、 *奏人に告げたまはく、 「いまより以後なんぢら宅を造る時、 ªただわれいま王のために舎を造るº といふべし」 と。 奏人等おのおの王の勅を奉りて、 帰還りて舎を造るにさらに焼かれず。 これによりて相伝して、 ことさらに王舎と名づくることを明かす。
百姓 (王舎城中の) 人民。
王舎 王家の舎宅。
奏人 上奏した人。
此明↧往古百姓、但城中造↠舎、即為↢天火↡所↠焼。若是王家舎宅悉無↢火近↡。後時百姓共奏↢於王↡。臣等造↠宅数為↢天火↡所↠焼、但是王舎悉無↢火近↡。不↠知↠有↢何所以↡。王告↢奏人↡。自↠今以後卿等造↠宅之時、但言↢我今為↠王造↟舎。奏人等各奉↢王勅↡、帰還造↠舎、更不↠被↠焼。因↠此相伝故名↦「王舎」↥。
・ 「大城」
「↑大城」 といふは、 この城きはめて大にして、 *居民九億なり。 ゆゑに王舎大城といふ。
居民 居住している人々。
言↢「大城」↡者、此城極大、居民九億。故噵↢「王舎大城」↡也。
・ 起化処
↑起化の処といふはすなはちその二あり。
言↢起化処↡者、即有↢其二↡。
一にはいはく、 闍王悪を起してすなはち父母を禁ずる縁あり。 禁によりてすなはちこの*娑婆を厭ひて、 *無憂の世界に託せんと願ず。
無憂の世界 いかなる憂いもない極楽世界。
一謂闍王起↠悪即有↧禁↢父母↡之縁↥。因↠禁則厭↢此娑婆↡、願↠託↢無憂之世界↡。
二にはすなはち如来 (釈尊) 請に赴き、 光変じて台となりて*霊儀を影現したまふに、 夫人すなはち安楽に生ずることを求む。 また心を傾けて行を請ひ、 仏は*三福の因を開きたまふ。 正観はすなはちこれ*定門なり。 さらに*九章の益を顕す。 この因縁のためのゆゑに起化の処と名づく。
霊儀を影現し 釈尊が十方の仏の尊いありさまを韋提希に示したことをいう。
三福の因 往生の因であるところの
散善三福の行。 →
三福
九章の益 九品の散善の利益。
二則如来赴↠請、光変為↠台影↢現霊儀↡。夫人即求↠生↢安楽↡。又傾↠心請↠行、仏開↢三福之因↡。正観即是定門、更顕↢九章之益↡。為↢此因縁↡故名↢起化処↡也。
◎序分 ○発起序 2 禁父縁 2. 阿闍世因縁
▲二に 「▲有一↓太子」 より下 「悪友之教▲」 に至るこのかたは、 まさしく闍王*怳忽のあひだに悪人の誤るところを信受することを明かす。
怳忽 うっかりするさま。 ぼんやりするさま。
二従↢「有一太子」↡下至↢「悪友之教」↡已来、正明↣闍王怳忽之間、信↢受悪人所↟悞。
・ 「太子」
▲「↑太子」 といふはその位を彰す。 「阿闍世」 といふはその名を顕す。 また 「阿闍世」 といふはすなはちこれ*西国の正音なり。 *この地の往翻には↓*未生怨と名づけ、 また↓折指と名づく。
この地の往翻には 中国語の意訳では。
未生怨 出生以前より既に父に怨を懐いた者という意。
言↢「太子」↡者彰↢其位↡也。言↢「阿闍世」↡者顕↢其名↡也。又「阿闍世」者、乃是西国正音。此地往翻名↢未生怨↡、亦名↢折指↡。
問ひていはく、 なんがゆゑぞ 「未生怨」 と名づけ、 および 「折指」 と名づくるや。
問曰。何故名↢未生怨↡、及名↢折指↡也。
答へていはく、 これみな昔日の因縁を挙ぐ。 ゆゑにこの名あり。
答曰。此皆挙↢昔日因縁↡、故有↢此名↡。
・ 「折指」
↑因縁といふは、 元本父の王、 子息あることなし。 処々に神に求むれども、 つひに得ることあたはず。 たちまちに*相師ありて、 王に奏してまうさく、 「臣知れり。 山のなかに一の仙人あり。 久しからずして寿を捨て、 命終しをはりて後かならずまさに王のために子となるべし」 と。
言↢因縁↡者、元本父王無↠有↢子息↡、処処求↠神竟不↠能↠得。忽有↢相師↡而奏↠王言。臣知、山中有↢一仙人↡、不↠久捨↠寿、命終已後必当↢与↠王作↟子。
王聞きて歓喜す。 「この人いづれの時にか捨命する」 と。 相師、 王に答ふ。 「さらに三年を経てはじめて命終すべし」 と。 王いはく、 「われいま年老いて国に*継祀なし。 さらに三年を満つるまでなにによりてか待つべき」 と。
継祀 先祖の祭祀をうけつぐこと。 ここでは王位を相続する者の意。
王聞歓喜、此人何時捨↠命。相師答↠王。更経↢三年↡始可↢命終↡。王言。我今年老国無↢継祀↡。更満↢三年↡何由可↠待。
王すなはち使ひを遣はして山に入らしめ、 往きて仙人に請じていはしむ。 「大王子なく、 闕けて*紹継なし。 処々に神に求むるに、 得ることあたはざるに困しむ。 すなはち*相師ありて大仙を瞻見るに、 久しからずして捨命して、 王のために子となるべしと。 請ひ願はくは大仙、 恩を垂れて早く赴きたまへ」 と。
紹継 後継者。
王即遣↠使、入↠山往請↢仙人↡曰。大王無↠子、闕無↢紹継↡。処処求↠神困↠不↠能↠得。乃有↢相師↡、瞻↢見大仙↡、不↠久捨↠命、与↠王作↠子。請願大仙垂↠恩早赴。
使人、 教を受けて山に入り、 仙人の所に到りて、 つぶさに王請の因縁を説く。 仙人、 使者に報へていはく、 「われさらに三年を経てはじめて命終すべし。 王のすなはち赴けと勅するは、 この事不可なり」 と。
使人受↠教入↠山到↢仙人所↡、具説↢王請因縁↡。仙人報↢使者↡言。我更経↢三年↡始可↢命終↡。王勅↢即赴↡者、是事不可。
使ひ、 仙の教を奉けて、 還りて大王に報ずるに、 つぶさに仙の意を述ぶ。 王いはく、 「われはこれ一国の主なり。 あらゆる人物みなわれに帰属す。 いまことさらに礼をもつてあひ屈するに、 すなはちわが意を承けざるや」 と。 王さらに使者に勅す。 「なんぢ往きてかさねて請ぜよ。 請ぜんにもし得ずは、 まさにすなはちこれを殺すべし。 すでに命終しをはりなば、 わがために子とならざるべけんや」 と。
使奉↢仙教↡還報↢大王↡具述↢仙意↡。王曰。我是一国之主、所有人物皆帰↢属我↡。今故以↠礼相屈、乃不↠承↢我意↡。王更勅↢使者↡。卿往重請。請若不↠得、当↢即殺↟之。既命終已可↠不↢与↠我作↟子也。
使人、 勅を受けて、 仙人の所に至りて、 つぶさに王の意をいふ。 仙人、 使ひの説を聞くといへども、 意にまた受けず。 使人、 勅を奉けてすなはちこれを殺さんと欲す。 仙人いはく、 「なんぢまさに王に語るべし。 ªわが命いまだ尽きざるに、 王、 *心口をもつて人をしてわれを殺さしむ。 われもし王のために児とならば、 また心口をもつて人をして王を殺さしめんº」 と。 仙人この語をいひをはりてすなはち死を受く。
心口をもつて 心に殺意をいだき、 口に命令を発して。
使人受↠勅至↢仙人所↡、具噵↢王意↡。仙人雖↠聞↢使説↡、意亦不↠受。使人奉↠勅即欲↠殺↠之。仙人曰。卿当↠語↠王。我命未↠尽、王以↢心口↡遣↢人殺↟我。我若与↠王作↠児者、還以↢心口↡遣↢人殺↟王。仙人噵↢此語↡已即受↠死。
すでに死しをはりて、 すなはち王宮に託して生を受く。 その日の夜に当りて夫人すなはち*有身すと覚ゆ。 王聞きて歓喜す。 天明けてすなはち相師を喚びて、 もつて夫人を観しむ。 これ男なりやこれ女なりや。 相師観をはりて王に報へていはく、 「この児は女にあらず。 この児、 *王において損あるべし」 と。 王いはく、 「わが国土はみなこれを*捨属すべし。 たとひ損ずるところありとも、 われまた畏れなし」 と。 王この語を聞きて憂喜交はり懐く。
有身 妊娠すること。
王において… 王に害を加えるであろう。
捨属 (生れてくる子に) 与えること。
既死已即託↢王宮↡受↠生。当↢其日夜↡、夫人即覚↢有身↡。王聞歓喜天明即喚↢相師↡以観↢夫人↡。是男是女。相師観已而報↠王言。是児非↠女。此児於↠王有↠損。王曰。我之国土皆捨↢属之↡、縦有↢所損↡吾亦無↠畏。王聞↢此語↡憂喜交懐。
王、 夫人にまうしてまうさく、 「われ夫人とともにひそかにみづから*平章せん。 相