かんぎょう序分じょぶん かんだい

*沙門しゃもん*善導ぜんどう集記しゅうき

序分 一経大科

一経五分

【1】 これより以下いげもんにつきて料簡りょうけんするに、 りゃくして*もんつくりてかす

五門 五分。 じょうようおん (523-592)・嘉祥かじょう大師吉蔵 (549-623) 等の諸師は ¬観経¼ に三分 (序分じょぶん正宗しょうしゅうぶんずうぶん) を立てて解釈するが、 善導ぜんどう大師は、 五分 (序分・正宗分・得益とくやく分・流通分・耆闍ぎしゃ分) を立てて解釈する。

従↠此以下就↠文料簡、略作↢五門↡明↠義。

 原漢文の底本は本派本願寺蔵版。 龍谷大学蔵鎌倉時代刊本、 大派依用十行本と対校されている。

一に 「にょもん」 よりしも 「五所逼しょひつうんけん極楽ごくらくかい」 にいたるこのかたは、 その*序分じょぶんかす

序分 その経の序説となる部分。

一従↢「如是我聞」↡下至↢「五苦所逼云何見極楽世界」↡已来、明↢其序分↡。

二に日観にっかんはじめのの 「仏告ぶつごうだい汝及にょぎゅうしゅじょう」 よりしもぼん下生げしょういたるこのかたは、 *正宗しょうしゅうぶんかす

正宗分 その経の本論となる部分。

二従↢日観初句「仏告韋提汝及衆生」↡下至↢下品下生↡已来、明↢正宗分↡。

三に 「せつ是語時ぜごじ」 よりしも諸天しょてん発心ほっしん」 にいたるこのかたは、 まさしく*得益とくやくぶんかす

得益分 その経の教えによってやくを得ることを示す部分。

三従↢「説是語時」↡下至↢「諸天発心」↡已来、正明↢得益分↡。

四に 「なん白仏びゃくぶつ」 よりしもだいとうかん」 にいたるこのかたは、 *通分ずうぶんかす

四従↢「阿難白仏」↡下至↢「韋提等歓喜」↡已来、明↢流通分↡。

流通分 その経の教えを伝持流通することを勧める部分。

一経二会 王宮会

この四ぶつ*おうにまします一正説しょうせつなり

王宮にまします一会 王宮会のこと。 仏が王舎城おうしゃじょうなんだいのために説法した会座。

此之四義仏在↢王宮↡一会正説。

      耆闍会

五に 「なんしゃ大衆だいしゅのために伝説でんせつする」 よりはまたこれ*なり。 また*ぶんあり。 一に 「爾時にじそんそくくうげんしゃ崛山くっせん」 よりこのかたは、 その序分じょぶんかす。 二に 「なんこう大衆だいしゅせつ如上にょじょう」 よりこのかたは、 正宗しょうしゅうぶんかす。 三に 「一切いっさい大衆だいしゅかん奉行ぶぎょう」 よりこのかたは、 通分ずうぶんかす

一会 しゃのこと。 阿難がしゃ崛山くっせんの大衆のために王宮会での仏の説法を再説した会座。 「散善義」 では耆闍分ともよぶ。
三分 善導大師は全四十五字の耆闍会 (耆闍分) にも序分・正宗分・流通分の三分があるとする。

五従↧阿難為↢耆闍大衆↡伝説↥復是一会。亦有↢三分↡。一従↢「爾時世尊足歩虚空還耆闍崛山」↡已来、明↢其序分↡。二従↢「阿難広為大衆説如上事」↡已来明↢正宗分↡。三従↢「一切大衆歓喜奉行」↡已来明↢流通分↡。

しかるににはかならずゆえあり、 ゆゑにじょかす。 *じょすでにおこりぬればまさしく所説しょせつぶ。 つぎ*正宗しょうしゅうかす。 ためにくことすでにおわりて、 所説しょせつをもつて末代まつだいでんせしめんとほっして、 *しょうたんじてがくすすむ。 のちずうかす

由序 序分じょぶんに同じ。
正宗 正宗分のこと。
勝を歎じて (¬観経¼ の教説が) すぐれていることを讃嘆さんだんして。

然化必有↠由、故先明↠序。由序既興正陳↢所説↡。次明↢正宗↡。為説既周、欲↧以↢所説↡伝↢持末代↡、歎↠勝勧学↥、後明↢流通↡。

欲…勧学 返り点は聖教全書まま。 「欲」 が 「勧学」 までかかっている。

上来じょうらいどうありといへども、 りゃくしてじょしょうずう料簡りょうけんしをはりぬ

上来雖↠有↢五義不同↡略料↢簡序・正・流通義↡竟。

一序二分

【2】 またさきじょのなかにつきてまたわかちて二となす。 一には 「にょもん」 より一づけて*証信しょうしんじょとなす。 二には 「」 よりしもうんけん極楽ごくらくかい」 にいたるこのかたは、 まさしく*ほっじょかす

証信序 その経の信ずべきことを証明する部分。
発起序 その経が説かれる由来・因縁いんねんを述べる部分。

又就↢前序中↡復分為↠二。一従↢「如是我聞」↡一句名為↢証信序↡。二従↢「一時」↡下至↢「云何見極楽世界」↡已来、正明↢発起序↡。

◎序分 証信序

【3】 はじめに証信しょうしんといふはすなはち二あり

初言↢証信↡者、即有↢二義↡。

「如是」

一にはいはく、 「にょ」 の二はすなはちそうじて教主きょうしゅ (釈尊)ひょうす。 *能説のうせつにんなり。

能説の人 教えを説く人。

一謂「如是」二字即総標↢教主↡。能説之人。

「我聞」

二にはいはく、 「もん」 のりょうはすなはちべつしてなんす。 *能聴のうちょうにんなり。 ゆゑににょもんといふ。 これすなはちならべて二のこころしゃく

能聴の人 教えを聞く人。

二謂「我聞」両字、即別指↢阿難↡。能聴之人。故言↢「如是我聞」↡、此即双↢釈二意↡也。

また 「にょ」 といふはすなはち*ほうす。 *じょうさん両門りょうもんなり。 「」 はすなはちさだむることばなり。 *ぎょうずればかならずやくす。 これは如来にょらい所説しょせつごん*錯謬さくびゅうなきことをかす。 ゆゑににょづく

定散両門 定善と散善についての教え。 →じょうぜん散善さんぜん
錯謬 あやまり。

又言↢「如是」↡者、即此指↠法定散両門也。「是」即定辞。機行必益。此明↣如来所説言無↢錯謬↡、故名↢「如是」↡。

また 「にょ」 といふはしゅじょうこころのごとし。 しん*所楽しょぎょうしたがひて、 ぶつすなはちこれをしたまふ。 *機教ききょう相応そうおうするをまたしょうして 「」 となす。 ゆゑににょといふ

機教相応 しゅじょう機根きこん (素質能力) と仏の教えとが合致すること。

又言↢「如」↡者、如↢衆生意↡也、随↢心所楽↡仏即度↠之。機教相応復称為↢「是」↡、故言↢「如是」↡。

また 「にょ」 といふは、 如来にょらい所説しょせつは、 *ぜんくことぜんのごとく、 *とんくこととんのごとく、 そうくことそうのごとく、 *くうくことくうのごとく、 *人法にんぽうくこと人法にんぽうのごとく、 *天法てんぽうくこと天法てんぽうのごとく、 *しょうくことしょうのごとく、 *だいくことだいのごとく、 ぼんくことぼんのごとく、 しょうくことしょうのごとく、 いんくこといんのごとく、 くことのごとく、 くことのごとく、 らくくことらくのごとく、 おんくことおんのごとく、 ごんくことごんのごとく、 どうくことどうのごとく、 べつくことべつのごとく、 じょうくことじょうのごとく、 くことのごとく、 一切いっさい諸法しょほう千差せんしゃ万別まんべつなるをきたまふに、 如来にょらいかん*歴々れきれき了然りょうねんなることをかさんとほっす。 *随心ずいしん起行きぎょう*各益かくやくどう*ごう法然ほうねんたる、 すべて*錯失さくしつなきをまたしょうしてとなす。 ゆゑににょといふ

人法 人間としてあるべきことを示す教え。
天法 天に生ずるための教え。 十善の法。
 小乗の教え。
 大乗の教え。
歴々了然 明らかであること。
随心の起行 (しゅじょうが) その心にしたがって行をおこすこと。
各益の不同 (その行によって得る) やくはそれぞれ同じではないということ。
業果の法然 業因によって果報を得ることが道理として自然にあること。
錯失 あやまり。

又言↢「如是」↡者、欲↠明↢如来所説↡。説↠漸如↠漸、説↠頓如↠頓、説↠相如↠相、説↠空如↠空、説↢人法↡如↢人法↡、説↢天法↡如↢天法↡、説↠小如↠小、説↠大如↠大、説↠凡如↠凡、説↠聖如↠聖、説↠因如↠因、説↠果如↠果、説↠苦如↠苦、説↠楽如↠楽、説↠遠如↠遠、説↠近如↠近、説↠同如↠同、説↠別如↠別、説↠浄如↠浄、説↠穢如↠穢、説↢一切諸法↡千差万別。如来観知歴歴了然随↠心起↠行、各益不↠同。業果法然衆無↢錯失↡、又称為↠是。故言↢「如是」↡。

明…所説 返り点まま。 「…の所説を明さんと(欲す)」

もん」 といふは、 *なんはこれぶつしゃにして、 つねにぶつしたがひてもん広識こうしきなり。 座下ざげのぞみてよくきよくたもちて、 きょうしたしくくることをかして、 伝説でんせつあやまりなきことをひょうせんとほっす。 ゆゑにもんといふ

言↢「我聞」↡者、欲↠明↧阿難是仏侍者、常随↢仏後↡多聞広識、身臨↢座下↡能聴能持、教旨親承表↞無↢伝説之錯↡、故曰↢「我聞」↡也。

明…表 返り点まま。

また 「証信しょうしん」 といふは、 なん仏教ぶっきょう*稟承ほんじょうして末代まつだいでんするに、 しゅじょうたいするがためのゆゑにかくのごとき観法かんぽう、 われぶつしたがひてくといふことをかして、 *しん証誠しょうじょうせんとほっす。 ゆゑに証信しょうしんじょづく。 これはなんにつきて

稟承 受けること。
可信を証誠せん 信ずべきことを証明しよう。

又言↢証信↡者欲↪明↧阿難稟↢承仏教↡、伝↢持末代↡、為↠対↢衆生↡故、如↠是観法我従↠仏聞↥、証↩誠可信↨。故名↢証信序↡。此就↢阿難↡解也。

◎序分 発起序

【4】 二に*ほっじょのなかにつきてくわしくわかちて七となす

二就↢発起序中↡細分為↠七。

はじめに 「仏在ぶつざい」 よりしも法王ほうおう而為にい上首じょうしゅ」 にいたるこのかたは、 *ぜんじょかす

化前序 教化が行われる以前の序説。

初従↢「一時仏在」↡下至↢「法王子而為上首」↡已来、明↢化前序↡。

二に 「王舎おうしゃ大城だいじょう」 よりしも顔色げんしきえつ」 にいたるこのかたは、 まさしくほっじょ*ごんえんかす

禁父の縁 じゃが父のびん婆娑羅ばしゃら王を幽閉する因縁。

二従↢「王舎大城」↡下至↢「顔色和悦」↡已来、正明↢発起序禁父之縁↡。

三に 「じゃ」 よりしもりょうすい」 にいたるこのかたは、 *ごんえんかす

禁母の縁 阿闍世が母のだいを幽閉する因縁。

三従↢「時阿闍世」↡下至↢「不令復出」↡已来、明↢禁母縁↡。

四に 「だい幽閉ゆうへい」 よりしも共為ぐい眷属けんぞく」 にいたるこのかたは、 *えんえんかす

厭苦の縁 韋提希が苦悩の穢土えどを厭う因縁。

四従↢「時韋提希被幽閉」↡下至↢「共為眷属」↡已来、明↢厭苦縁↡。

五に 「唯願ゆいがん為我いが広説こうせつ」 よりしもきょう正受しょうじゅ」 にいたるこのかたは、 その*欣浄ごんじょうえんかす

欣浄の縁 韋提希が浄土を願い求める因縁。

五従↢「唯願為我広説」↡下至↢「教我正受」↡已来、明↢其欣浄縁↡。

六に 「爾時にじそん即便そくべん微笑みしょう」 よりしも浄業じょうごうしょういん」 にいたるこのかたは、 *散善さんぜん顕行けんぎょうえんかす

散善顕行縁 散善行を顕す序文。 親鸞聖人は 「散善は行を顕す縁なり」 (化身土文類訓) と読み、 「自力の散善は他力念仏を顕す縁」 と転意した。

六従↢「爾時世尊即便微笑」↡下至↢「浄業正因」↡已来、明↢散善顕↠行縁↡。

七に 「仏告ぶつごうなんとう諦聴たいちょう」 よりしもうん得見とくけん極楽ごくらくこく」 にいたるこのかたは、 まさしく*じょうぜんかんえんかす

定善示観縁 定善観を示す序文。 親鸞聖人は 「定善は観を示す縁なり」 (化身土文類訓) と読み、 「定善は他力の信心 (観) を示す縁」 と転意した。

七従↢「仏告阿難等諦聴」↡下至↢「云何得見極楽国土」↡已来、正明↢定善示↠観縁↡。

上来じょうらいだんどうありといへども、 ひろほっじょ*料簡りょうけんしをはりぬ

上来雖↠有↢七段不同↡。広料↢簡発起序↡竟。

◎序分 ○発起序  化前序

【5】 二につぎぜんじょせば、 このじょのなかにつきてすなはちその四あり

二次解↢↡化前序↡者、就↢此序中↡即有↢其四↡。

時成就

はじめに 「一」 といふはまさしく*起化きけときかす。 ぶつまさに説法せっぽうせんとするに、 *しょたくしたまふ。 ただしゅじょうかいかならず因縁いんねんによるをもつて、 しゅ (釈尊) のぞみてしょちたまふ

起化の時 説法教化をおこす時。
時処 時と場所。

初言↢「一時」↡者、正明↢起化之時↡。仏将↢説法↡先託↢於時処↡。但以↣衆生開悟必藉↢因縁↡、化主臨↠機待↢於時処↡。

また 「一」 といふは、 あるいはにち十二年月ねんがつとうく。 これみなこれ如来にょらいおうじて*せっしたまふときなり。 「しょ」 といふは、 かのしょしたがひて如来にょらい説法せっぽうしたまふ。 あるいは山林せんりんしょにましまし、 あるいはおう*聚落じゅらくしょにましまし、 あるいはこう*塚間ちょけんしょにましまし、 あるいは多少たしょう人天にんでんしょにましまし、 あるいはしょうもんさつしょにましまし、 あるいは*にん*天王てんのうとうところにましまし、 あるいは*純凡じゅんぼんもしはと一二とのところにましまし、 あるいは*純聖じゅんしょうもしはと一二とのところにまします。 そのしょしたがひて如来にょらいかんしてぞうせずげんぜず、 えんしたがひてほうさずけておのおの*しょやくす。 これすなはち*洪鐘こうしょうひびくといへども、 かならずたたくをちてまさにる。 大聖だいしょう (釈尊)れたまふこと、 かならず*しょうちてまさにくべし。 ゆゑに一づく

摂化 おさめとって教化すること。
聚落 集落。
塚間 墓場。
天王 →四天王してんのう
純凡 ぼんのみ (がいる場所)。
純聖 聖者のみ (がいる場所)。
所資 教化やくを受ける人々。
洪鐘 大きなつりがね。
 懇請こんせい

又言↢「一時」↡者、或就↢日夜十二時、年月四時等↡。此皆是如来応↠機摂化時也。言↠処者随↢彼所宜↡如来説法。或在↢山林処↡、或在↢王宮聚落処↡、或在↢曠野塚間処↡、或在↢多少人天処↡、或在↢声聞菩薩処↡、或在↢八部人天王等処↡、或在↢純凡若多一二処↡、或在↢純聖若多一二処↡、随↢其時処↡如来観知不↠増不↠減、随↠縁授↠法、各益↢所資↡。斯乃洪鐘雖↠響、必待↠扣而方鳴。大聖垂↠慈、必待↠請而当↠説、故名↢「一時」↡也。

また 「一」 とは、 *じゃまさしく*ぎゃくおこときぶついづれのところにかまします。 この一あたりて、 如来にょらいひとり二しゅ (声聞・菩薩) とかの*しゃにまします。 これすなはちしもをもつてかみあらわこころなり。 ゆゑに一といふ

 父王を殺すという逆罪。
耆闍 →しゃ崛山くっせん

又「一時」者、阿闍世正起↠逆時、仏在↢何処↡。当↢此一時↡、如来独与↢二衆↡在↢彼耆闍↡。此即以↠下形↠上意也、故曰↢「一時」↡。

また 「一」 といふは、 ぶつ、 二しゅと一のうちにおいて、 かのしゃにましまして、 すなはちじゃのこの悪逆あくぎゃくおこ因縁いんねんきたまふ。 これすなはちかみをもつてしもあらわこころなり。 ゆゑに一といふ

又言↢「一時」↡者、仏与↢二衆↡於↢一時中↡、在↢彼耆闍↡即聞↧阿闍世起↢此悪逆↡因縁↥。此即以↠上形↠下意也、故曰↢「一時」↡。

主成就

二に 「ぶつ」 といふは、 これすなはち*しゅ*標定ひょうじょうす。 *ぶつけんしてひとしゃあらわこころなり

化主 教化の主。
標定 表し示すこと。
余仏に簡異して 他の仏と区別して。

二言↢「仏」↡者、此即標↢定化主↡。簡↢異余仏↡独顕↢釈迦↡意也。

処成就

三に 「ざい王舎おうしゃ城」 より以下いげは、 まさしく如来にょらい*遊化ゆげところかす。 すなはちその二あり。 一には王城おうじょう聚落じゅらくあそびたまふは、 在俗ざいぞくしゅうせんがためなり。 二には*せんとうところあそびたまふは、 出家しゅっけしゅうせんがためなり

遊化 諸方をめぐって教化すること。
耆山 →耆闍ぎしゃ崛山くっせん

三従↢「在王舎城」↡已下、正明↢如来遊化之処↡。即有↢其二↡。一遊↢王城聚落↡、為↠化↢在俗之衆↡。二遊↢耆山等処↡、為↠化↢出家之衆↡。

またざいといふは、 *よくとんすること相続そうぞくしてこれつねなり。 たとひ清心しょうしんおこせども、 なほみずえがくがごとし。 ただおもんみればえんしたがひてあまねくやくし、 だいてたまはざれども、 *道俗どうぞくかたちことなればともにじゅうするによしなし。 これを*きょうがいじゅうづく

境界住 仏が教化のために在家の人と共に住すること。

又在家者貪↢求五欲↡相続是常。縦発↢清心↡猶如↠画↠水。但以↢随↠縁普益↡不↠捨↢大悲↡。道俗形殊無↠由↢共住↡、此名↢境界住↡也。

依…益 返り点まま。 「益するをもって」

また出家しゅっけといふは、 もういのちて、 よくだんしんす。 しん金剛こんごうのごとく円鏡えんきょう等同とうどうなり。 *ぶつ悕求けぐしてすなはちひろ自他じたやくす。 もし*囂塵ごうじんぜつするにあらずは、 このとくしょうすべきによしなし。 これを*依止えじじゅうづく

仏地を悕求して 仏のさとりを願い求めて。
囂塵 さわがしい俗世のけがれ。
依止住 仏が出家の人と共に住すること。

又出家者、亡↠身捨↠命、断↠欲帰↠真。心若↢金剛↡、等↢同円鏡↡。悕↢求仏地↡即弘益↢自他↡。若非↣絶↢離囂塵↡、此徳無↠由↠可↠証、此名↢依止住↡也。

衆成就

四に 「だい比丘びくしゅ」 よりしも而為にい上首じょうしゅ」 にいたるこのかたは、 ぶつしゅかす。 このしゅうのなかにつきてすなはちわかちて二となす。 一にはしょうもんしゅ、 二にはさつしゅなり

四従↢「与大比丘衆」↡下至↢「而為上首」↡已来、明↢仏徒衆↡。就↢此衆中↡、即分為↠二。一者声聞衆、二者菩薩衆。

・ 衆成就 声聞衆

しょうもんしゅのなかにつきてすなはちその九あり。 はじめに 「」 といふは仏身ぶっしんしゅうぬ。 ゆゑにづけてとなす。 *二には*総大そうだい、 三には*相大そうだい、 四には*衆大しゅだい、 五には*年大ねんだい、 六には*数大しゅだい、 七には*尊宿大そんしゅくだい、 八には*ない実徳じっとくだい、 九には*果証しょうかだいなり

二には… 以下、 「大比丘びく衆」 の大についていう。
総大 以下の七大の総句。
相大 すがたがすぐれていること。
衆大 僧衆が巧みに和合していること。
耆年大 長老の比丘であること。
数大 比丘の数が多いこと。
尊宿大 高徳の長老であること。
内有実徳大 内に尊い徳をそなえていること。
果証大 すぐれた証果を得ていること。

就↢声聞衆中↡、即有↢其九↡。初言↢「与」↡者仏身兼↠衆、故名為↢「与」↡。二者総大、三者相大、四者衆大、五者耆年大、六者数大、七者尊宿大、八者内有実徳大、九者果証大。

 ひていはく、 一切いっさいきょうはじめにみなこれらのしょうもんありて、 もつて*猶置ゆちとなせるはなんの所以ゆえんかある

猶置 安置の意。 あるいは由致 (由序) の意か。

問曰。一切経首皆有↢此等声聞↡、以為↢猶置↡有↢何所以↡。

こたへていはく、 これに*べっあり。 いかなるかべっ。 これらのしょうもんおおくはこれ*どうなり。 ¬*賢愚経けんぐきょう¼ (意)きたまふがごとし。 「*優楼うるびん迦葉かしょうは、 五ひゃく弟子でしりょうして邪法じゃほうしゅす。 *伽耶がや迦葉かしょうは、 二ひゃく五十の弟子でしりょうして邪法じゃほうしゅす。 *だい迦葉かしょうは、 二ひゃく五十の弟子でしりょうして邪法じゃほうしゅす。 そうじて一せんあり。 みな*ぶっけて*かんどうたり。 その二ひゃく五十といふは、 すなはちこれ*しゃ*目連もくれんとの弟子でしなり。 ともに一しょりょうして邪法じゃほうしゅす。 またぶっけてみな*どうたり。 これらの四しゅがっして一しょとなす。 ゆゑにせんひゃく五十にんあり」 と

別意 特別の意味。
仏化 仏の教化。
羅漢道 阿羅漢果。 →阿羅あらかん
舎利 舎利弗のこと。 →しゃ利弗りほつ
道果 阿羅漢果。 →阿羅あらかん

答曰。此有↢別意↡。云何別意。此等声聞多是外道。如↢¬賢愚経¼説↡。優楼頻蠃迦葉領↢五百弟子↡修↢事邪法↡、伽耶迦葉領↢二百五十弟子↡修↢事邪法↡、那提迦葉領↢二百五十弟子↡修↢事邪法↡。総有↢一千↡、皆受↢仏化↡得↢羅漢道↡。其二百五十者、即是舎利目連弟子。共領↢一処↡修↢事邪法↡。亦受↢仏化↡皆得↢道果↡。此等四衆合為↢一処↡、故有↢千二百五十人↡也。

 ひていはく、 このしゅうのなかにまたどうにあらざるものあり。 なんがゆゑぞそうじてひょうする

問曰。此衆中亦有↧非↢外道↡者↥、何故総標。

こたへていはく、 ¬きょう¼ (同・意) のなかにきたまふがごとし。 「このもろもろのどうつねにそんしたがひてあひしゃせず」 と。 しかるに*結集けつじゅういえとく*えらる。 ゆゑに異名いみょうあり。 これどうなるものはおおく、 あらざるものはすくなし

結集の家 経を結集した人。 →結集けつじゅう
簡び 区別して。

答曰。如↢経中説↡。此諸外道常随↢世尊↡不↢相捨離↡。然結集之家、簡↢取外徳↡、故有↢異名↡。是外道者多、非者少。

 またひていはく、 いぶかし、 これらのどうつねにぶつしたがへるは、 なんのこころかあるや

又問曰。未審、此等外道常随↢仏後↡、有↢何意↡也。

こたへていはく、 するに二あり。 一にはぶつにつきてす。 二にはどうにつきて

答曰。解有↢二義↡。一就↠仏解、二就↢外道↡解。

ぶつにつきてすとは、 このもろもろのどう邪風じゃふうひさしくあおぐこと、 これ一しょうのみにあらず。 *真門しんもんるといへども、 *気習けじゅうなほあり。 ゆゑに如来にょらいかくして*外化げけせしめざらしむ。 しゅじょう正見しょうけんこんそんじ、 悪業あくごう増長ぞうじょうして、 此世しせ後生ごしょうじつおさめざることをおそるればなり。 この因縁いんねんのためにせっしてみづからちかづかしめて、 *やくゆるしたまはず。 これすなはちぶつにつきてしをはりぬ

真門に入る 真実の教えである仏法に帰入すること。
気習 習気に同じ。 →じっ
外化 外に出てしゅじょうを教化やくすること。
外益 外化に同じ。

就↠仏解者、此諸外道邪風久扇、非↢是一生↡。雖↠入↢真門↡、気習由在。故使↢如来知覚不↟令↢外化↡。畏↧損↢衆生正見根芽↡、悪業増長此世後生不↞収↢果実↡。為↢此因縁↡、摂令↢自近↡不↠聴↢外益↡。此即就↠仏解竟。

つぎどうにつきてすとは、 迦葉かしょうとうこころ、 みづからただ曠劫こうごうよりひさしくしょうしず*どう*循還じゅんかんして、 くるしみいふべからず。 *愚痴ぐち*悪見あくけんにして邪風じゃふう*封執ふうしゅうし、 *明師みょうしはずしてながかいながる。 ただ*宿縁しゅくえんをもつてたまたまそん (釈尊)ふことをることあり。 *法沢ほうたくわたくしなし。 わがともがらにんこうむり、 ぶつ恩徳おんどくじんするに、 *砕身さいしんごく*惘然もうねんたり。 したしく*霊儀りょうぎつかへて、 しばらくもかわるによしなからしむることをいたす。 これすなはちどうにつきてしをはりぬ

循還 限りなくめぐること。
封執 とらわれること。
宿縁 過去の因縁いんねん
法沢 仏法による潤いの利益。
砕身の極 仏の恩徳は身を砕いてもなお報じがたいほど深いという意。
惘然 言い表しようもないさま。
霊儀 威厳のあるすがた (をそなえる釈尊)。

次就↢外道↡解者、迦葉等意、自唯曠劫久沈↢生死↡、循↢還六道↡、苦不↠可↠言。愚痴悪見封↢執邪風↡、不↠値↢明師↡永流↢於苦海↡。但以↢宿縁↡有↢遇得↟会↢慈尊↡。法沢無↠私我曹蒙↠潤。尋思↢仏之恩徳↡、砕↠身之極惘然。致↠使↧親事↢霊儀↡無↞由↢暫替↡。此即就↢外道↡解竟。

 またひていはく、 これらのそん宿しゅくいかんが*衆所しゅしょしきづくる

衆所知識 「衆に知識せらる」。 ¬小経¼ に出る語。

又問曰。此等尊宿云何名↢衆所知識↡。

こたへていはく、 とくたかきをそんといひ、 *ねんなるを宿しゅくといふ。 一切いっさい*凡聖ぼんしょうかの内徳ないとくの、 ひとぎたることをり、 そのそうしゅなるをる。 ゆゑに衆所しゅしょしきづく

耆年 長老。

答曰。徳高曰↠尊、耆年曰↠宿。一切凡聖知↢彼内徳過↟人、識↢其外相殊異↡、故名↢衆所知識↡。

 上来じょうらいどうありといへども、 しょうもん衆をしをはりぬ

上来雖↠有↢九句不同↡、解↢声聞衆↡竟。

・ 衆成就 菩薩衆

つぎさつしゅす。 このしゅうのなかにつきてすなはちその七あり。 一にはそうひょうす。 二にはしゅひょうす。 三にはくらいひょうす。 四にはひょうす。 五にはとくひょうす。 六にはべつして*文殊もんじゅ高徳こうとくくらいあらわす。 七にはそうじてけっ

次解↢菩薩衆↡。就↢此衆中↡即有↢其七↡。一者標↠相、二者標↠数、三者標↠位、四者標↠果、五者標↠徳、六者別顕↢文殊高徳之位↡、七者総結。

またこれらのさつりょう行願ぎょうがんし、 一切いっさいどくほう安住あんじゅうす。 ぽう遊歩ゆぶして*権方便ごんほうべんぎょうじ、 ぶつ法蔵ほうぞうりてがん究竟くきょうす。 りょうかいにおいて、 して*等覚とうがくじょうず。 こうみょう*顕曜けんようにしてあまねく十ぽうらす。 りょうぶつ*しゅ震動しんどうす。 えんしたがひてかいしてすなはち*法輪ほうりんてんず。 ほうたたき、 法剣ほうけんり、 法雷ほうらいふるひ、 ほうあめふらし、 ほうぶ。 つねに法音ほうおんをもつてもろもろのけんかくせしむ。 *邪網じゃもう掴裂かくれつし、 *諸見しょけん消滅しょうめつし、 もろもろの*塵労じんろうさんじ、 もろもろの*欲塹よくぜんやぶり、 *清白しょうびゃく顕明けんみょうし、 仏法ぶっぽう*こうし、 正化しょうけ*せんす。 しゅじょう愍傷みんしょうしていまだかつて*まんせず。 平等びょうどうほうりょう百千ひゃくせん三昧ざんまいそくす。 一ねんのあひだにおいて周遍しゅうへんせざるはなし。 *群生ぐんじょう荷負かぶしてこれをあいすることのごとし。 一切いっさい*善本ぜんぽんみながんす。 ことごとく諸仏しょぶつりょうどくて、 智慧ちえ開朗かいろうなること思議しぎすべからず

権方便 たくみな手段。
等覚 →等覚とうがく
六種に震動す 仏の出現や説法を讃えて、 どうゆう (形の震動) としんかく (音の震動) の六種の瑞相があらわれることをう。
邪網を掴裂し よこしまな教えの網を切り裂いて。
諸見 様々な悪しき見解。
欲塹 貪欲とんよくの心を越えがたい塹 (ほり) に喩えたもの。
清白 煩悩のけがれを離れた清浄しょうじょな道。
光融 光を輝かし、 邪見のものをおさめとること。
宣流 のべひろめること。
慢恣 おもいあがっておこたること。

又此等菩薩、具↢無量行願↡、安↢住一切功徳之法↡。遊↢歩十方↡行↢権方便↡、入↢仏法蔵↡究↢竟彼岸↡、於↢無量世界↡、化成↢等覚↡。光明顕曜普照↢十方↡、無量仏土六種震動。随↠縁開示、即転↢法輪↡。扣↢法鼓↡執↢法劒↡、震↢法雷↡雨↢法雨↡。演↢法施↡、常以↢法音↡覚↢諸世間↡。掴↢裂邪網↡消↢滅諸見↡、散↢諸塵労↡壊↢諸欲壍↡。顕↢明清白↡光↢融仏法↡、宣↢流正化↡。愍↢傷衆生↡未↢曾慢恣↡。得↢平等法↡具↢足無量百千三昧↡。於↢一念頃↡、無↠不↢周徧↡。荷↢負羣生↡愛↠之如↠子。一切善本皆度↢彼岸↡、悉獲↢諸仏無量功徳↡、智慧開朗不↠可↢思議↡。

どうありといへども、 さつしゅしをはりぬ

雖↠有↢七句不同↡、解↢菩薩衆↡訖。

上来じょうらいしゅどうありといへども、 ひろぜんじょかしをはりぬ

上来雖↠有↢二衆不同↡、広明↢化前序↡竟。

◎序分 ○発起序  禁父縁

【6】 二に*ごんえんのなかにつきてすなはちその七あり

二就↢禁父縁中↡即有↢其七↡。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 1. 起化処

一に 「爾時にじ王舎おうしゃ大城だいじょう」 より以下いげは、 そうじて*起化きけところかす

起化の処 教化をおこされた場所。

一従↢「爾時王舎大城」↡以下、総明↢起化処↡。

・ 「王舎」

これおう*百姓ひゃくせい、 ただ城中じょうちゅうしゃつくるにすなはちてんのためにかる。 もしこれおう舎宅しゃたくには、 ことごとくちかづくことなし。 のちとき百姓ひゃくせいともにおうそうす。 「しんたくつくればしばしばてんのためにかる、 ただこれ*王舎おうしゃのみことごとくちかづくことなし。 なんの所以ゆえんかあるといふことをらず」 と。 おう*奏人そうにんげたまはく、 「いまより以後いごなんぢらたくつくとき、 ªただわれいまおうのためにしゃつくるº といふべし」 と。 奏人そうにんおのおのおうちょくうけたまわりて、 帰還かえりてしゃつくるにさらにかれず。 これによりて相伝そうでんして、 ことさらに王舎おうしゃづくることをかす

百姓 (王舎城中の) 人民。
王舎 王家の舎宅。
奏人 上奏した人。

此明↧往古百姓、但城中造↠舎、即為↢天火↡所↠焼。若是王家舎宅悉無↢火近↡。後時百姓共奏↢於王↡。臣等造↠宅数為↢天火↡所↠焼、但是王舎悉無↢火近↡。不↠知↠有↢何所以↡。王告↢奏人↡。自↠今以後卿等造↠宅之時、但言↢我今為↠王造↟舎。奏人等各奉↢王勅↡、帰還造↠舎、更不↠被↠焼。因↠此相伝故名↦「王舎」↥。

・ 「大城」

大城だいじょう」 といふは、 このしろきはめてだいにして、 *みんおくなり。 ゆゑに王舎おうしゃ大城だいじょうといふ

居民 居住している人々。

言↢「大城」↡者、此城極大、居民九億。故噵↢「王舎大城」↡也。

・ 起化処

起化きけところといふはすなはちその二あり

言↢起化処↡者、即有↢其二↡。

一にはいはく、 闍王じゃおうあくおこしてすなはち父母ぶもきんずるえんあり。 きんによりてすなはちこの*しゃいとひて、 *無憂むうかいたくせんとがん

無憂の世界 いかなる憂いもない極楽世界。

一謂闍王起↠悪即有↧禁↢父母↡之縁↥。因↠禁則厭↢此娑婆↡、願↠託↢無憂之世界↡。

二にはすなはち如来にょらい (釈尊) しょうおもむき、 ひかりへんじてだいとなりて*霊儀りょうぎ影現ようげんしたまふに、 にんすなはち安楽あんらくしょうずることをもとむ。 またしんかたむけてぎょうひ、 ぶつ*ぷくいんひらきたまふ。 正観しょうかんはすなはちこれ*定門じょうもんなり。 さらに*しょうやくあらわす。 この因縁いんねんのためのゆゑに起化きけところづく

霊儀を影現し 釈尊が十方の仏の尊いありさまをだいに示したことをいう。
三福の因 往生の因であるところの散善さんぜん三福の行。 →三福さんぷく
定門 定善の法門。 →じょうぜん
九章の益 ぼんの散善のやく

二則如来赴↠請、光変為↠台影↢現霊儀↡。夫人即求↠生↢安楽↡。又傾↠心請↠行、仏開↢三福之因↡。正観即是定門、更顕↢九章之益↡。為↢此因縁↡故名↢起化処↡也。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 2. 阿闍世因縁

二に 「たい」 よりしもあく之教しきょう」 にいたるこのかたは、 まさしく闍王じゃおう*怳忽こうこつのあひだに悪人あくにんあやまるところを信受しんじゅすることをかす

怳忽 うっかりするさま。 ぼんやりするさま。

二従↢「有一太子」↡下至↢「悪友之教」↡已来、正明↣闍王怳忽之間、信↢受悪人所↟悞。

・ 「太子」

たい」 といふはそのくらいあらわす。 「じゃ」 といふはそのあらわす。 また じゃ」 といふはすなはちこれ*西国さいこく正音しょうおんなり。 *この往翻おうほんには*未生みしょうおんづけ、 またせっづく

この地の往翻には 中国語の意訳では。
未生怨 出生以前より既に父に怨を懐いた者という意。

言↢「太子」↡者彰↢其位↡也。言↢「阿闍世」↡者顕↢其名↡也。又「阿闍世」者、乃是西国正音。此地往翻名↢未生怨↡、亦名↢折指↡。

 ひていはく、 なんがゆゑぞ 「未生みしょうおん」 とづけ、 および 「せっ」 とづくるや

問曰。何故名↢未生怨↡、及名↢折指↡也。

こたへていはく、 これみな昔日しゃくにち因縁いんねんぐ。 ゆゑにこのあり

答曰。此皆挙↢昔日因縁↡、故有↢此名↡。

・ 「折指」

因縁いんねんといふは、 元本もとちちおうそくあることなし。 処々しょしょじんもとむれども、 つひにることあたはず。 たちまちに*そうありて、 おうそうしてまうさく、 「しんれり。 やまのなかに一の仙人せんにんあり。 ひさしからずして寿いのちて、 命終みょうじゅうしをはりてのちかならずまさにおうのためにとなるべし」 と

言↢因縁↡者、元本父王無↠有↢子息↡、処処求↠神竟不↠能↠得。忽有↢相師↡而奏↠王言。臣知、山中有↢一仙人↡、不↠久捨↠寿、命終已後必当↢与↠王作↟子。

おうきてかんす。 「このひといづれのときにか捨命しゃみょうする」 と。 そうおうこたふ。 「さらに三ねんてはじめて命終みょうじゅうすべし」 と。 おういはく、 「われいまとしいてくに*けいなし。 さらに三ねんつるまでなにによりてかつべき」 と

継祀 先祖の祭祀をうけつぐこと。 ここでは王位を相続する者の意。

王聞歓喜、此人何時捨↠命。相師答↠王。更経↢三年↡始可↢命終↡。王言。我今年老国無↢継祀↡。更満↢三年↡何由可↠待。

おうすなはち使つかひをつかはしてやまらしめ、 きて仙人せんにんしょうじていはしむ。 「大王だいおうなく、 けて*紹継じょうけいなし。 処々しょしょじんもとむるに、 ることあたはざるにくるしむ。 すなはち*そうありて大仙だいせん瞻見るに、 ひさしからずして捨命しゃみょうして、 おうのためにとなるべしと。 ねがはくは大仙だいせんおんれてはやきたまへ」 と

紹継 後継者。

王即遣↠使、入↠山往請↢仙人↡曰。大王無↠子、闕無↢紹継↡。処処求↠神困↠不↠能↠得。乃有↢相師↡、瞻↢見大仙↡、不↠久捨↠命、与↠王作↠子。請願大仙垂↠恩早赴。

使にんきょうけてやまり、 仙人せんにんところいたりて、 つぶさに王請おうしょう因縁いんねんく。 仙人せんにん使しゃこたへていはく、 「われさらに三ねんてはじめて命終みょうじゅうすべし。 おうのすなはちけとちょくするは、 この不可ふかなり」 と

使人受↠教入↠山到↢仙人所↡、具説↢王請因縁↡。仙人報↢使者↡言。我更経↢三年↡始可↢命終↡。王勅↢即赴↡者、是事不可。

使つかひ、 せんきょうけて、 かえりて大王だいおうほうずるに、 つぶさにせんこころぶ。 おういはく、 「われはこれ一こくあるじなり。 あらゆる人物にんもつみなわれにぞくす。 いまことさらにれいをもつてあひくっするに、 すなはちわがこころけざるや」 と。 おうさらに使しゃちょくす。 「なんぢきてかさねてしょうぜよ。 しょうぜんにもしずは、 まさにすなはちこれをころすべし。 すでに命終みょうじゅうしをはりなば、 わがためにとならざるべけんや」 と

使奉↢仙教↡還報↢大王↡具述↢仙意↡。王曰。我是一国之主、所有人物皆帰↢属我↡。今故以↠礼相屈、乃不↠承↢我意↡。王更勅↢使者↡。卿往重請。請若不↠得、当↢即殺↟之。既命終已可↠不↢与↠我作↟子也。

使にんちょくけて、 仙人せんにんところいたりて、 つぶさにおうこころをいふ。 仙人せんにん使つかひのせつくといへども、 こころにまたけず。 使にんちょくけてすなはちこれをころさんとほっす。 仙人せんにんいはく、 「なんぢまさにおうかたるべし。 ªわがいのちいまだきざるに、 おう*しんをもつてひとをしてわれをころさしむ。 われもしおうのためにとならば、 またしんをもつてひとをしておうころさしめんº」 と。 仙人せんにんこのをいひをはりてすなはち

心口をもつて 心に殺意をいだき、 口に命令を発して。

使人受↠勅至↢仙人所↡、具噵↢王意↡。仙人雖↠聞↢使説↡、意亦不↠受。使人奉↠勅即欲↠殺↠之。仙人曰。卿当↠語↠王。我命未↠尽、王以↢心口↡遣↢人殺↟我。我若与↠王作↠児者、還以↢心口↡遣↢人殺↟王。仙人噵↢此語↡已即受↠死。

すでにしをはりて、 すなはちおうたくしてしょうく。 そのよるあたりてにんすなはち*しんすとおぼゆ。 おうきてかんす。 てんけてすなはちそうびて、 もつてにんしむ。 これおとこなりやこれおんななりや。 そうをはりておうこたへていはく、 「このおんなにあらず。 この*おうにおいてそんあるべし」 と。 おういはく、 「わがこくはみなこれを*捨属しゃぞくすべし。 たとひそんずるところありとも、 われまたおそれなし」 と。 おうこのきて憂喜うきまじはりいだ

有身 妊娠すること。
王において… 王に害を加えるであろう。
捨属 (生れてくる子に) 与えること。

既死已即託↢王宮↡受↠生。当↢其日夜↡、夫人即覚↢有身↡。王聞歓喜天明即喚↢相師↡以観↢夫人↡。是男是女。相師観已而報↠王言。是児非↠女。此児於↠王有↠損。王曰。我之国土皆捨↢属之↡、縦有↢所損↡吾亦無↠畏。王聞↢此語↡憂喜交懐。

おうにんにまうしてまうさく、 「われにんとともにひそかにみづから*平章びょうじょうせん。 そうわれにおいてそんあるべしといふ。 にんこれをちて、 高楼こうろううえにありて天井てんじょうのなかにあたりてこれをみ、 ひとをしてらしむることなかれ。 おとしてにあらんに、 あにせざるべけんや。 われまたうれふることなく、 *もまたあらわれじ」 と。 にんすなはちおうはかりごととし、 そのときにおよびてもつぱらさきほうのごとくす。 みをはりてつるに、 いのちすなはちえず、 ただ小指しょうしそんず。 よりてすなはち*にんおなじくとなへて 「せったい」 といふ

平章 正しく明らかにすること。 ここでは適切な処置をとるという意。
 風聞。 うわさ。
外人 王族以外の人々。

王白↢夫人↡言。吾共↢夫人↡私自平章。相師噵↢児於↠吾有↟損。夫人、待↢生之日↡、在↢高楼上↡、当↢天井中↡生↠之勿↠令↢人承接↡。落在↢於地↡豈容↠不↠死也。吾亦無↠憂、声亦不↠露。夫人即可↢王之計↡、及↢其生時↡一如↢前法↡。生已堕↠地、命便不↠断、唯損↢手小指↡。因即外人同唱言↢折指太子↡也。

・ 「未生怨」

未生みしょうおん」 といふは、 これ*だいだっあくしんおこすがゆゑにかのたいたいして昔日しゃくにち悪縁あくえん顕発けんぽつするによる

言↢未生怨↡者、此因↣提婆達多起↢悪妒之心↡故、対↢彼太子↡顕↢発昔日悪縁↡。

いかんがしんして悪縁あくえんおこす。 だい悪性あくしょうにして、 *為人ひととなり匈猛きょうもうなり。 また出家しゅっけすといへども、 つねにぶつ*名聞みょうもんようねたむ。 しかるにちちおうはこれぶつ*檀越だんおつなり。 一のうちにおいておおようをもつて如来にょらい奉上ぶじょうす。 いはく、 こんごん七宝しっぽう名衣みょうえ上服じょうぶく百味ひゃくみじきとう、 一々色々しきしきみな五ひゃくしゃなり。 こう*がくし、 百千万ひゃくせんまんしゅう讃歎さんだん*にょうして*ぶつ送向そうこうして、 ぶつおよびそうほどこ

為人匈猛 性格が凶暴であること。
名聞利養 名誉や利益。
檀越 梵語ダーナ・パティ (dāna-pati) の音写。 恵を与える人の意。 施主のこと。
仏会 釈尊の説法の会座。

云何妒心而起↢悪縁↡。提婆悪性、為↠人匈猛。雖↢復出家↡、恒常妒↢仏名聞利養↡。然父王是仏檀越。於↢一時中↡多将↢供養↡奉↢上如来↡。謂金・銀・七宝・名衣・上服・百味菓食等、一一色色皆五百車、香・華・伎楽、百千万衆讃歎囲繞、送↢向仏会↡施↢仏及僧↡。

とき調達じょうだつ (提婆達多) をはりてしんさらにさかりなり。 すなはち*しゃほつところかひて*身通しんつうがくせんともとむ。 尊者そんじゃかたりていはく、 「なんぢしばらく*念処ねんじょがくせよ。 身通しんつうがくすべからず」 と。 すでにしょうずれどもしんげず。 さらに尊者そんじゃへんかひてもとむ。 ないひゃく弟子でしとうことごとくひととしておしふるものなし、 みな四念処ねんじょがくせしむ。 しょうずることむことをずして、 つひに*なんへんかひてがくす。 なんかたりていはく、 「なんぢはこれわがおとうとなり。 われつうがくせんとほっす。 一々だいにわれにおしへよ」 と。 しかるになん*しょたりといへども、 いまだ*しんしょうせず。 *きょうのひそかにつうがくして、 ぶつみもとにおいて*悪計あくけいおこさんとほっすることをらず。 なんつひにすなはちびて静処じょうしょかひて、 だいにこれをおし

身通 神足通じんそくつうのこと。 →ろく神通じんずう
初果 須陀洹果 (預流果よるか) のこと。 →須陀洹しゅだおん
他心 他心通たしんつうのこと。 →ろく神通じんずう
阿兄 兄を親しんでいう言葉。

時調達見已妒心更盛。即向↢舎利弗所↡、求↠学↢身通↡。尊者語言。人者且学↢四念処↡、不↠須↠学↢身通↡也。既請不↠遂↠心、更向↢余尊者辺↡求。乃至五百弟子等、悉無↢人教↡、皆遣↠学↢四念処↡。請不↠得↠已、遂向↢阿難辺↡学。語↢阿難↡言。汝是我弟。我欲↠学↠通、一一次第教↠我。然阿難雖↠得↢初果↡、未↠証↢他心↡、不↠知↫阿兄私密学↠通、欲↪於↢仏所↡起↩於悪計↨。阿難遂即喚向↢静処↡、次第教↠之。

*跏趺かふ正坐しょうざせしめて、 しんをもつてぐることをおしふ。 うごくにたりとおもへ。 ること一ぶん・一すんするとおもへ。 一しゃく・一じょうするとおもへ。 しゃいたるに、 *くう無礙むげおもいをなし、 ただちにぎて空中くうちゅうのぼるとおもへ。 またしんせっしてくだり、 もとしょいたるとおもへ。 つぎをもつてしんげ、 はじめのときること一ぶん・一すんするとう、 またさきほうのごとくせよ。 をもつてしんげ、 しんをもつてぐるに、 またしたがひてすでにいたる。 くうのぼりをはりて、 また*摂取せっしゅしてくだり、 もとしょいたれ。 つぎ身心しんしんがっしてぐとおもへ。 またさきほうおなじく、 一ぶん・一すんするとうおわりてまたはじめよ

跏趺正坐 足の甲を左右のもものうえにおく座り方。 けっ趺坐ふざに同じ。
空無碍の想 くうを自由自在に行く想い。

跏趺正坐、先教↢将↠心挙↠身似動想↡。去↠地一分・一寸想。一尺・一丈想。至↠舎作↢空無礙想↡。直過上↢空中↡想。還摂↠心下至↢本坐処↡想。次将↠身挙↠心。初時去↠地一分・一寸等、亦如↢前法↡以↠身挙↠心、以↠心挙↠身。亦随既至↢上空↡已、還摂↢取身↡下至↢本坐処↡。次想↢身心合挙↡。還同↢前法↡、一分・一寸等、周而復始。

教…似動想 返り点まま。 「似動の想をなさしむ」
至上空已 返り点まま。 「上空に至りおはらば」

つぎ身心しんしん一切いっさい*ぜつ*色境しききょうのなかにるとおもひ、 ぜつおもいをなせ。 つぎ一切いっさいせんだいとうしきしんのなかにるに、 くうのごとく*無礙むげにして色相しきそうずとおもへ。 つぎしん、 あるいはだいにしてくう*遍満へんまんして坐臥ざがざいなり、 あるいはし、 あるいはして、 をもつて日月にちがつうごかすとおもへ。 あるいは小身しょうしんとなりて*じんのなかにるに、 一切いっさいみな無礙むげおもいをなせと

質礙 一つの物の存在が他の物の存在をさまたげるという色 (物質) の特質。
色境 視覚の対象。

想↧身心入↢一切質礙色境中↡、作↦不質礙想↥。次想↧一切山・河・大地等色入↢自身中↡、如↠空無礙不↞見↢色相↡。次想↧自身或大徧↢満虚空↡、坐臥自在、或坐或臥以↠手捉↦動日月↥。或作↢小身↡入↢微塵中↡、一切皆作↢無礙想↡。

想…作不質礙想 返り点まま。 「不質礙の想をなすと想へ」

なんかくのごとくだいおしへをはりぬ。 とき調達じょうだつ (提婆達多) すでにほう受得じゅとくしをはりて、 すなはちべつして静処じょうしょかひて七にち一心いっしん専注せんちゅうして、 すなはち身通しんつうたり。 一切いっさいざいにしてみな成就じょうじゅすることをたり。 すでにつうをはりてすなはちたい殿でんまえかひて、 空中くうちゅうにありて大神変だいじんぺんげんず。 身上しんじょうよりいだし、 しんよりみずいだす。 あるいはへんみずいだし、 へんいだす。 あるいは大身だいしんげんじ、 あるいは小身しょうしんげんず。 あるいは空中くうちゅう坐臥ざがし、 こころしたがひてざいなり

阿難如↠是次第教已。時調達既受↢得法↡已、即別向↢静処↡、七日七夜一心専注、即得↢身通↡、一切自在、皆得↢成就↡。既得↠通已、即向↢太子殿前↡、在↢於空中↡現↢大神変↡。身上出↠火、身下出↠水。或左辺出↠水、右辺出↠火。或現↢大身↡、或現↢小身↡。或坐↢臥空中↡、随↠意自在。

たいをはりて左右さうひていはく、 「これはこれ何人なんぴとぞ」 と。 左右さうたいこたへてまうさく、 「これはこれ尊者そんじゃだいなり」 と。 たいきをはりてしんおおきにかんす。 つひにすなはちげてびていはく、 「尊者そんじゃなんぞくだきたらざる」 と。 だいすでにぶををはりてすなはちしてようとなり、 ただちにたいひざうえかふ。 たいすなはちいだきて、 くちひてこれをもてあそび、 またくちのなかにつばきはく。 ようつひにこれをむ。 しゅかえりて本身ほんしんぶくす。 たいすでにだい種々しゅじゅ*神変じんぺん*うたた敬重きょうじゅうくわ

神変 超人間的な力によってあらわされたさまざまなすがたや動作。

太子見已問↢左右↡曰。此是何人。左右答↢太子↡言。此是尊者提婆。太子聞已心大歓喜、遂即挙↠手喚言。尊者何不↢下来↡。提婆既見↠喚已、即化作↢嬰児↡、直向↢太子膝上↡。太子即抱、鳴↠口弄↠之、又唾↢口中↡。嬰児遂咽↠之。須臾還↢復本身↡。太子既見↢提婆種種神変↡転加↢敬重↡。

すでにたいしん敬重きょうじゅうせるををはりて、 すなはちちちおうよう因縁いんねんく。 「色別しきべつに五ひゃくじょうくるませ、 ぶつみもとかひてぶつおよびそうにたてまつる」 と。 たいきをはりてすなはち尊者そんじゃかたる。 「弟子でしまたよくしきおのおの五ひゃくしゃととのそなへて、 尊者そんじゃようし、 および衆僧しゅそうほどこすこと、 かれのごとくならざるべけんや」 と。 だいいはく、 「たい、 このこころおおきにし」 と

既見↢太子心敬重↡已、即説↢父王供養因縁↡。色別五百乗車載、向↢仏所↡奉↢仏及僧↡。太子聞已即語↢尊者↡。弟子亦能備具↢色各五百車↡、供↢養尊者↡、及施↢衆僧↡、可↠不↠如↠彼也。提婆言。太子、此意大善。

これより以後いごおおきにようしんうたた高慢こうまんなり。 たとへばつえをもつてあくはなつに、 うたたあくすがごとし。 これまたかくのごとし。 たいいま*ようつえをもつてだい貪心とんしんはなつに、 うたたあくすことさかりなり。 これによりてそうし、 仏法ぶっぽうかいあらためて、 教戒きょうかいどうなり

利養 自己の利益をはかろうとすること。

自↠此已後大得↢供養↡、心転高慢。譬如↧以↠杖打↢悪狗鼻↡転増↦狗悪↥、此亦如↠是。太子今将↢利養之杖↡打↢提婆貪心狗鼻↡、転加↠悪盛。因↠此破↠僧、改↢仏法戒↡、教戒不同。

ぶつあまねく*凡聖ぼんしょう大衆だいしゅのためにほうきたまふときちて、 すなはち*会中えちゅうきたりてぶつしたがひ、 *しゅならびにもろもろの*法蔵ほうぞうことごとくわれにぞくしたまへともとむ。 「そんとしまさに老邁ろうまいしたまへり。 よろしく静内じょうないにつきてみづから*将養しょうようしたまふべし」 と。 一切いっさい大衆だいしゅだいがこのきて、 *がくとしてたがひにあひてはなはだ*驚怪きょうけしょう

会中 釈尊の説法の会座の中。
徒衆 仏弟子たち。
法蔵 仏の教えの蔵。
将養 静かに保養すること。
愕爾 非常におどろくさま。
驚怪 おどろいてあやしく思うこと。

待↧仏普為↢凡聖大衆↡説法之時↥、即来↢会中↡従↠仏、索↣於徒衆并諸法蔵尽付↢属我↡、世尊年将老邁、宜可↧就↠静内自将養↥。一切大衆聞↢提婆此語↡、愕爾迭互相看甚生↢驚怪↡。

 底本まま。 註なし。 以下同。
就静内~ 返り点まま。 「静につきて内に~」

そのときそん、 すなはち大衆だいしゅたいしてだいかたりてのたまはく、 「*しゃ*目連もくれんとうのすなはち*だい法将ほうしょうなるすら、 われなほ仏法ぶっぽうをもつてぞくせず、 いはんやなんぢにんつばきらへるものをや」 と

舎利 舎利弗のこと。 →しゃ利弗りほつ
大法将 仏法の統率者。

爾時世尊、即対↢大衆↡語↢提婆↡言。舎利・目連等即大法将、我尚不↧将↢仏法↡付属↥。況汝痴人、食↠唾者乎。

ときだいぶつの、 しゅうたいして*にくしたまふをき、 なほ*毒箭どくせんむねるがごとし、 さらに痴狂ちきょうこころおこす。 この因縁いんねんによりてすなはちたいところかひてともに*悪計あくけいろんず。 たいすでに尊者そんじゃて、 敬心きょうしんをもつて承問じょうもんしていはく、 「尊者そんじゃ今日こんにち顔色げんしき憔悴しょうすいせること、 往昔おうじゃくおなじからず」 と

毀辱 非難すること。
毒箭 毒をぬった矢。

時提婆聞↢仏対↠衆毀辱↡、由如↢毒箭入↟心、更発↢痴狂之意↡。藉↢此因縁↡即向↢太子所↡、共論↢悪計↡。太子既見↢尊者↡、敬心承問言。尊者、今日顔色憔悴、不↠同↢往昔↡。

だいこたへていはく、 「われいま憔悴しょうすいすることはまさしくたいのためなり」 と

提婆答曰。我今憔悴、正為↢太子↡也。

たいうやまひてはく、 「尊者そんじゃ、 わがためになんのこころかあるや」 と

太子敬問。尊者、為↠我有↢何意↡也。

だいすなはちこたへていはく、 「たいるやいなや。 そんとしいて*堪任かんにんするところなし。 まさにこれをのぞきてわれみづからぶつるべし。 ちちおうとしいたり。 またこれをのぞきてたいみづから正位しょういすべし。 新王しんおう新仏しんぶつ治化じけせんに、 あにたのしからざらんや」 と

堪任するところなし (教団を率いてゆく) 能力がない。

提婆即答云。太子知不。世尊年老無↠所↢堪任↡、当可↢除↠之我自作↟仏。父王年老、亦可↣除↠之太子自坐↢正位↡。新王・新仏治化、豈不↠楽乎。

たいこれをきてきはめておおきにしんして、 「このせつをなすことなかれ」 といふ

太子聞↠之、極大瞋怒、勿↠作↢是説↡。

またいはく、 「たいいかることなかれ。 ちちおうたいにおいてまつたく恩徳おんどくなし。 はじめてたいしょうぜんとほっせしときちちおうすなはちにんをして百尺ひゃくしゃくろううえにありて天井てんじょうのなかにあたりてしょうぜしめて、 すなはちおとしてせしめんとのぞむ。 まさしくたい福力ふくりきをもつてのゆゑに命根みょうこんえず、 ただ小指しょうしそんず。 もししんぜずは、 みづから小指しょうしたまへ。 もつてげんとなすにれり」 と

又言。太子莫↠瞋。父王於↢太子↡全無↢恩徳↡。初欲↠生↢太子↡時、父王即遣↧夫人在↢百尺楼上↡当↢天井中↡生↥、即望↢堕↠地令↟死。正以↢太子福力↡故、命根不↠断、但損↢小指↡。若不↠信者、自看↢小指↡、足↢以為↟験。

たいすでにこのきて、 さらにかさねてあきらめていはく、 「じつにしかりやいなや」 と

太子既聞↢此語↡、更重審言。実爾已不。

だいこたへていはく、 「これもしじつならば、 われことさらにきたりて*まんをなすべけんや」 と

漫語 冗談。

提婆答言。此若不実、我可↣故来作↢漫語↡也。

このによりをはりてつひにすなはちだい悪見あくけんはかりごと信用しんよう

因↢此語↡已遂即信↢用提婆悪見之計↡。

ゆゑに 「随順ずいじゅん調達じょうだつあく之教しきょう」 といふ

故噵↢「随順調達悪友之教」↡也。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 3. 闍世禁父

 三に 「収執しゅうしゅうおう」 よりしも 「一得往とくおう」 にいたるこのかたは、 まさしくちちおうのために幽禁ゆうきんせらるることをかす

三従↢「収執父王」↡下至↢「一不得往」↡已来、正明↢父王為↠子幽禁↡。

これじゃだい*悪計あくけいりて、 たちまちに父子ぶしじょうつることをかす。 ただ*罔極もうごくおんしっするのみにあらず、 *ぎゃくひびきこれによりてみちてり

罔極の恩 極まりない恩。
逆の響き 逆罪を犯したという噂。

此明↧闍世取↢提婆之悪計↡、頓捨↦父子之情↥。非↣直失↢於罔極之恩↡、逆響因↠茲満↠路。

・ 「収執」

たちまちにおうおおふを 「しゅう」 といひ、 すでにてざるを 「しゅう」 といふ。 ゆゑに収執しゅうしゅうづく

忽掩↢王身↡曰↠収、既得不↠捨曰↠執。故名↢「収執」↡也。

・ 「父王」

」 といふはべつしてしんごくあらわす。 「おう」 とはそのくらいあらわす。 「びん」 とはそのあらわ

言↢「父」↡者別顕↢親之極↡也。「王」者彰↢其位↡也。「頻婆」者彰↢其名↡也。

・ 「幽閉」

幽閉ゆうへいじゅう室内しつない」 といふは、 しょすでにおもし、 またかろきにあらず。 あさ*人間にんげんきんずべからず、 まつたくしゅなければなり。 ただおう*こうとして*にんつとも、 ただ群臣ぐんしんあればすなはちひさしきよりこのかた*承奉じょうぶせるをもつて、 もし厳制ごんせいせずはおそらくは*情通じょうつうあらん。 ゆゑにないをしてまじはりをたしめて、 ぢて七じゅうのうちに

人間 人の出入りするところ。
宮閤 宮廷の奥殿。
外人 王族以外の人々。
承奉 (宮廷に) 仕えること。
情通 (ひそかに) 連絡をとること。

言↢「幽閉七重室内」↡者、所為既重、事亦非↠軽、不↠可↧浅禁↢人間↡全無↦守護↥、但以↧王之宮閤理絶↢外人↡、唯有↢羣臣↡則久来承奉↥、若不↢厳制↡恐有↢情通↡。故使↢内外絶↟交閉在↢七重之内↡也。

可…無守護 返り点まま。 「…守護なかるべからず」 (「可」 が 「無守護」 までかかっている)。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 4. 夫人献食

四に 「国大こくだいにん」 よりしもみつ上王じょうおう」 にいたるこのかたは、 まさしくにんひそかにおうじきをたてまつることをかす

四従↢「国大夫人」↡下至↢「密以上王」↡已来、正明↣夫人密奉↢王食↡。

・ 「国大夫人」

国大こくだいにん」 といふは、 これ最大さいだいなることをかす。 「にん」 といふはそのくらいひょうす。 「だい」 といふはそのあらわ

言↢「国大夫人」↡者、此明↢最大↡也。言↢「夫人」↡者、標↢其位↡也。言↢「韋提」↡者、彰↢其名↡也。

・ 「恭敬大王」

恭敬くぎょう大王だいおう」 といふは、 これにんすでにおうきんぜらるるをるに、 もんきはめてかたくして、 音信いんしんつうぜず、 おそらくはおう身命しんみょうつことを。 つひにすなはち香湯こうとう*滲浴しんよくしてをして清浄しょうじょうならしめて、 すなはち*みつりてづそのり、 のち*乾麨かんしょうりてはじめてみつうえき、 すなはち浄衣じょうえてこれをおおひて、 外衣げえうえにありてはじめて*瓔珞ようらくること、 つね服法ぶくほうのごとくにして、 *にんをしてあやしまざらしむ。 また瓔珞ようらくりてあなの一*ろうをもつてこれをふさぎ、 一あなのなかにどう*漿しょうりて、 てをはりてまたふさぐに、 ただこれ瓔珞ようらくなり。 ことごとくみなかくのごとくす。 荘厳しょうごんすることすでにおわりて、 *やうやくあゆみてりて、 おうとあひまみゆることをかす

滲浴 身体を洗うこと。
酥蜜 牛乳を精製してつくった乳酥に蜂蜜を加えたもの。
乾麨 炒った麦をひいた粉。 麦こがし。
外人 他の人々。
 蜜蝋のこと。 蜂蜜の巣を精製してつくった蝋。
漿 汁。

言↢「恭敬大王」↡者、此明↧夫人既見↢王身被↟禁、門戸極難、音信不↠通、恐↠絶↢王身命↡。遂即香湯滲浴、令↢身清浄↡、即取↢酥蜜↡、先塗↢其身↡、後取↢乾麨↡始安↢酥蜜之上↡。即著↢浄衣↡覆↠之、在↢外衣上↡始著↢瓔珞↡、如↢常服法↡、令↢外人不↟怪。又取↢瓔珞↡、孔一頭以↠臘塞↠之、一頭孔中盛↢蒲桃漿↡。満已還塞、但是瓔珞。悉皆如↠此。荘厳既竟、徐歩入↠宮、与↠王相見↥。

 ひていはく、 諸臣しょしんちょくけておうまみゆることをゆるさず。 いぶかし、 にん*もんせいせずしてほしいままにることをしむるは、 なんのこころかあるや

門家 守門の者。 門番のこと。

問曰。諸臣奉↠勅不↠許↠見↠王。未審、夫人門家不↠制放令↠得↠入者、有↢何意↡也。

こたへていはく、 諸臣しょしんことなりて、 またこれ*にんなり。 *情通じょうつうあることをおそれて、 きびしく重制じゅうせいくわへしむることをいたす。 またにんこれ女人にょにんにして、 しん*けいなし。 おう*宿縁しゅくえんごうおもくして、 ひさしくちかづきてさいなり。 別体べったい同心どうしんにして、 ひとをしてりょなからしむることをいたす。 ここをもつてりて、 おうとあひまみゆることをしむ

外人 王族以外の人々。
情通 (ひそかに) 連絡をとること。
異計 特別なはかりごと。
宿縁業 過去の因縁いんねん

答曰。諸臣身異、復是外人。恐↠有↢情通↡致↠使↣厳加↢重制↡。又夫人者身是女人、心無↢異計↡。与↠王宿縁業重久近夫妻。別↠体同↠心、致↠使↣人無↢外慮↡。是以得↢入与↠王相見↡。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 5. 父王請法

 五に 「爾時にじ大王だいおう食麨じきしょう」 よりしもじゅかい」 にいたるこのかたは、 まさしくちちおうきんによりてほうしょうずることをかす

五従↢「爾時大王食麨」↡下至↢「授我八戒」↡已来、正明↢父王因↠禁請↟法。

・ 王得食

これにんすでにおうまみえをはりて、 すなはち身上しんじょう*けずりて、 *麨団しょうだんをもつておうす。 おうてすなはちじきす。 しょうじきすることすでにおわりて、 すなはちないにおいてにん浄水じょうすいもとて、 おうあたへてくちすすがしむ。

此明↧夫人既見↠王已、即刮↢取身上酥↡、麨団授↢与王↡、王得即食。食↠麨既竟、即於↢宮内↡夫人求↢得浄水↡与↠王漱↠口。

・ 身業敬

くちきよめをはりてむなしくときくべからず。 *朝心ちょうしんるところなし。 ここをもつて*けん合掌がっしょうして、 おもてめぐらして*しゃかひ、 きょう如来にょらいいたして*加護かご請求しょうぐすることをかす。 これ身業しんごうきょうかす、 またつうじてごうあり

 酥蜜のこと。 牛乳を精製してつくった乳酥に蜂蜜を加えたもの。
麨団 乾麨のこと。 炒った麦をひいた粉。 麦こがし。
朝心 王の心の意か。
虔恭 つつしんで尊敬すること。
耆闍 →耆闍ぎしゃ崛山くっせん
加護 仏がしゅじょうに力を加えてまもること。

浄↠口已竟不↠可↢虚引↟時。朝心無↠所↠寄。是以虔恭合掌、迴↠面向↢於耆闍↡致↢敬如来↡、請↦求加護↥。此明↢身業敬↡、亦通有↢意業↡也。

・ 口業請

而作是にさぜごん以下いげは、 まさしくごうしょうかす、 またつうじてごうあり

「而作是言」已下、正明↢口業請↡、亦通有↢意業↡也。

・ 目連親友

大目連だいもくれん是吾ぜごしん」 といふはその二あり。 ただ目連もくれんぞくにありてはこれおう*別親べっしんなり。 すでに出家しゅっけてすなはちこれ*もんなり。 *こう往来おうらいすることすべて*障礙しょうげなし。 しかるにぞくにありてはしんとなし、 出家しゅっけしてはづく。 ゆゑにしんづく

別親 母方の親類。
門師 びんしゃ王家の師匠。
宮閤 宮廷の奥殿。

言↢「大目連是吾親友」↡者、有↢其二意↡。但目連在↠俗是王別親。既得↢出家↡、即是門師。往↢来宮閤↡都無↢障礙↡。然在↠俗為↠親、出家名↠友、故名↢「親友」↡也。

・ 授我八戒

願興がんこう慈悲じひじゅかい」 といふは、 これちちおうほううやまじょうふかくして、 ひとおもんずることおのれにぎたることをかす。 もしいまだ*幽難ゆうなんはずは、 仏僧ぶっそう奉請ぶじょうするにかたしとなすにらず。 いますでにとらはれて*くついたすによしなし。 ここをもつてただ目連もくれんしょうじて*かい

幽難 幽閉の難。
 屈請くっしょうする。 尊い人の来臨を請うこと。

言↢「願興慈悲授我八戒」↡者、此明↢父王敬↠法情重↠人過↟己。若未↠逢↢幽難↡奉↢請仏僧↡不↠足↠為↠難。今既被↠囚無↠由↠致↠屈。是以但請↢目連↡受↢於八戒↡也。

 聖教全書では 「戒」。 註なし。 誤植とみなして訂正。

 ひていはく、 ちちおうはるかにうやまふには、 そんらいし、 その受戒じゅかいおよびてすなはち目連もくれんしょうずるは、 なんのこころかあるや

問曰。父王遥敬先礼↢世尊↡、及↢其受戒↡、即請↢目連↡、有↢何意↡也。

こたへていはく、 *凡聖ぼんしょう極尊ごくそんぶつぎたるはなし。 しんかたむけてがんおこすにはすなはちづ大師 (釈尊)らいす。 かいはこれ小縁しょうえんなり。 ここをもつてただ目連もくれんきたりてさずくることをしょうず。 しかるにおうこころとうとぶこと得戒とくかいぞんず。 すなはちこれあまねし。 なんぞいたわしくげてそん*くっせんや

答曰。凡聖極尊、無↠過↢於仏↡。傾↠心発↠願即先礼↢大師↡。戒是小縁、是以唯請↢目連来授↡。然王意者、貴存↢得戒↡。即是義周、何労屈↢世尊↡也。

 ひていはく、 如来にょらい戒法かいほうすなはちあることりょうなるに、 ちちおうただ八かいのみをしょうじてしょうぜずや

問曰。如来戒法乃有無量、父王唯請↢八戒↡不↠請↠余也。

こたへていはく、 かいはややひろくして*せつ長遠じょうおんなり。 おそらくは中間ちゅうげん失念しつねんしてしょうてんすることを。 その八かいとは*仏経ぶっきょうきたまふがごとし。 ざいひと出家しゅっけかいたもつ。 このかい*しん極細ごくさい極急ごくきゅうなり。 なんのこころぞしかるとなれば、 ただせつややつづまりて、 ただ一にちかぎりてほうしてすなはち

時節長遠 (戒をたもつべき) 時間が長いこと。
余の仏経 ¬受十善戒経じゅじゅうぜんかいきょう¼ などを指す。
持心極細極急 戒をたもつ心が細密で精励であること。

答曰。余戒稍寛、時節長遠。恐畏中間失念流↢転生死↡。其八戒者如↢余仏経説↡。在家人持↢出家戒↡。此戒持心、極細極急。何意然者、但時節稍促唯限↢一日一夜↡、作法即捨。

いかんがこのかい*用心ようじんぎょうとの*さいなることをる。 *戒文かいもんのなかにつぶさにあらわしていふがごとし。 「*ぶっ*今旦こんたんより*明旦みょうたんいたるまで一にち諸仏しょぶつ殺生せっしょうしたまはざるがごとくよくたもつやいなや」 と。 こたへていはく、 「よくたもつ」 と。 だい二にまたいはく、 「ぶっ今旦こんたんより明旦みょうたんいたるまで一にち諸仏しょぶつの、 偸盗ちゅうとうせず、 いんぎょうぜず、 もうせず、 飲酒おんじゅせず、 ふんることをず、 歌舞かぶ唱伎しょうぎしおよびきて観聴かんちょうすることをず、 高広こうこう大床だいじょうのぼることをたまはざるがごとくすべし」 と。 このかみの八はこれかいにしてさいにあらず。 *ちゅうぎてじきすることをず、 この一はこれさいにしてかいにあらず。 これらの諸戒しょかいみな諸仏しょぶつきてしょうとなす。 なにをもつてのゆゑに。 ただぶつぶつとのみ*正習しょうじゅうともにつくしたまへり。 ぶつのぞきてげん*悪習あくじゅうとうなほあり。 このゆゑにきてしょうとなさず。 ここをもつてることを。 このかい用心ようじん起行きぎょうときはめてこれ*細急さいきゅうなり

用心 (戒をたもつ) 心がまえ。
 細密。
戒文 戒を説く律文。 ¬分律ぶんりつ¼ ¬分律ぶんりつ¼ など。
仏子 かいの人。 仏弟子。
今旦・明旦 今朝・明朝。
 正午。
正習 正使と習気のこと。 →正使しょうじじっ
悪習 悪の余残の気分。
細急 細密・精励。

云何知↢此戒用心行細↡。如↢戒文中具顕云↡。仏子従↢今旦↡至↢明旦↡、一日一夜、如↣諸仏不↢殺生↡、能持不。答言。能持。第二又云、仏子従↢今旦↡至↢明旦↡一日一夜、如↧諸仏不↢偸盗↡、不↠行↠婬、不↢妄語↡、不↢飲酒↡、不↠得↢脂粉塗↟身、不↠得↢歌舞唱伎及往観聴↡、不↞得↠上↢高広大牀↡。此上八是戒非↠斎。不↠得↢過↠中食↡、此一是斎非↠戒。此等諸戒皆引↢諸仏↡為↠証。何以故。唯仏与↠仏正・習倶尽、除↠仏已還悪習等由在。是故不↢引為↟証也。是以得↠知↢此戒用心起行極是細急↡。

またこのかいには、 ぶつ*しゅ勝法しょうぼうありときたまへり。 もしひとにちつぶさにたもちておかさざれば、 所得しょとくどくにんてん・二じょう境界きょうがい超過ちょうかせり。 *きょうひろきたまふがごとし。 このやくあるがゆゑに、 ちちおうをして日々にちにちにこれをけしむることをいた

八種の勝法 八種のすぐれたやくのこと。 ①地獄にせず。 ②餓鬼がきに堕せず。 ③畜生ちくちょうに堕せず。 ④しゅに堕せず。 ⑤常に人界に生れて出家得道する。 ⑥梵天ぼんてんの生を受ける。 ⑦梵天に生れて仏に値い法を請う。 ⑧だいを得証する。 ¬受十善戒じゅじゅうぜんかいきょう¼ の説。
 ¬受十善戒経¼ などの経。

又此戒仏説↠有↢八種勝法↡。若人一日一夜具持不↠犯、所得功徳超↢過人・天・二乗境界↡。如↢経広説↡。有↢斯益↡故、致↠使↢父王日日受↟之。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 6. 父王受法

 六に 「大目連だいもくれん」 よりしもおう説法せっぽう」 にいたるこのかたは、 そのちちおうしょうによりて聖法しょうぼうこうむることをることをかす

六従↢「時大目連」↡下至↢「為王説法」↡已来、明↢其父王因↠請得↟蒙↢聖法↡。

これ目連もくれん*しんてはるかにちちおうしょうりて、 すなはち*神通じんずうおこして*だんのあひだのごとくにおうところいたることをかす

此明↧目連得↢他心智↡遥知↢父王請意↡、即発↢神通↡、如↢弾指頃↡到↦於王所↥。

またおそらくはひと神通じんずうそうらざらん。 ゆゑに*おうきてたとへとなす。 しかるに目連もくれん通力つうりきは、 一ねんのあひだに四てんめぐること百千ひゃくせんそうなり。 あにおうるいをなすことをんや。 かくのごとき*比校ひきょうはすなはちしゅあり。 つぶさにくべからず。 ¬*賢愚経けんぐきょう¼ につぶさにきたまふがごとし

快鷹 空を早く飛ぶ鷹。

恐↣人不↠識↢神通之相↡故、引↢快鷹↡為↠喩。然目連通力、一念之頃繞↢四天下↡百千之帀、豈得↢与↠鷹為↟類也。如↠是比校乃有↢衆多↡、不↠可↢具引↡。如↢¬賢愚経¼具説↡。

恐…不識~ 返り点まま。 「~を識らざるを恐るる (が故に)」

日日にちにちにょ授王じゅおうかい」 といふは、 これちちおういのちべて、 目連もくれんしばしばきたりてかいけしむることをいたすことをかす

言↢「日日如是授王八戒」↡者、此明↧父王延↠命致↞使↢目連数来受↟戒。

 ひていはく、 八かいすでにすぐれたりといふは、 一たびくるにすなはちりぬ。 なんぞ日々にちにちにこれをくるをもちゐん

問曰。八戒既言↠勝者、一受即足、何須↢日日受↟之。

こたへていはく、 やまたかきをいとはず、 うみふかきをいとはず、 かたなきをいとはず、 あかきをいとはず、 ひとぜんいとはず、 つみのぞこるをいとはず、 げんとくいとはず、 ぶつしょういとはず。 しかるにおうこころはすでに囚禁しゅうきんせられて、 さらにしんこうむらず。 念々ねんねんのうちにひところすことをおそる。 これがために昼夜ちゅうやしんかたむけ、 あおぎて八かいたのむ。 ぜんむことますますたかきことを望欲もうよくして*来業らいごうせんと

来業を資せんと擬す 来世の果報を招く業因の資糧にしたいと望む。

答曰。山不↠厭↠高、海不↠厭↠、刀不↠厭↠利、日不↠厭↠明、人不↠厭↠善、罪不↠厭↠除、賢不↠厭↠徳、仏不↠厭↠聖。然王意者既被↢囚禁↡、更不↠蒙↢進止↡。念念之中、畏↢人喚殺↡。為↠此昼夜傾↠心、仰憑↢八戒↡。望↢欲積善増高擬↟資↢来業↡。

望欲…擬資~ 返り点まま。 「~に資せんと擬することを望欲す」

 そん亦遣やくけん富楼那ふるなおう説法せっぽう」 といふは、 これそん慈悲じひこころおもくして、 おう愍念みんねんしたまふに、 たちまちに囚労しゅうろうひて、 おそらくはすいしょうずることを。 しかるに*富楼那ふるなしょう弟子でしのなかにおいてもつともよく説法せっぽうし、 よく*方便ほうべんありてひとしん開発かいほつす。 この因縁いんねんのために、 如来にょらい*発遣はっけんしておうのためにほうきて、 もつてのうのぞかしめたまふことをかす

発遣 (富楼那ふるなを) 派遣すること。

言↢「世尊亦遣富楼那為王説法」↡者、此明↧世尊慈悲意重、愍↢念王身↡、忽遇↢囚労↡、恐生↢憂悴↡。然富楼那者、於↢聖弟子中↡最能説法、善有↢方便↡開↢発人心↡。為↢此因縁↡、如来発遣為↠王説↠法以除↦憂悩↥。

◎序分 ○発起序 2 禁父縁 7. 父王法悦

七に 「にょけん」 よりしも顔色げんしきえつ」 にいたるこのかたは、 まさしくちちおうじき聞法もんぽうとによりてにちせざることをかす

七従↢「如是時間」↡下至↢「顔色和悦」↡已来、正明↧父王因↢食聞法↡、多日不↞死。

これまさしくにん多時たじじきをたてまつりて、 もつてかつのぞき、 二しょう (目連・富楼那) また戒法かいほうをもつてうちにたすけてよくおうこころひらく。 じきはよくいのちべ、 戒法かいほう*じんやしなひて、 しっうれひをもうじて、 *顔容げんようえつならしむることをいたすことをかす

顔容和悦 顔かたちが柔和でよろこばしいこと。

此正明↧夫人多時奉↠食以除↢飢渇↡、二聖又以↢戒法↡内資善開↢王意↡。食能延↠命、戒法養↠神。失↠苦亡↠憂致↞使↢顔容和悦↡也。

上来じょうらいどうありといへども、 ひろごんえんかしをはりぬ

上来雖↠有↢七句不同↡、広明↢禁父縁↡竟。

◎序分 ○発起序  禁母縁

【7】 三に*ごんえんのなかにつきてすなはちその八あり

禁母の縁 じゃが母のだいを幽閉する因縁いんねん

三就↢禁母縁中↡、即有↢其八↡。

◎序分 ○発起序 3 禁母縁 1. 父王猶存

一には 「じゃ」 よりしも存在ぞんざい」 にいたるこのかたは、 まさしくちち音信いんしんふことをかす

一従↢「時阿闍世」↡下至↢「由存在耶」↡已来、正明↠問↢父音信↡。

これ闍王じゃおうちちきんずること日数にっしゅすでにおおし。 ひとまじはりすべてえ、 水食すいじきつうぜずして*二七有余うよなり。 いのちおわるべし。 このねんをなしをはりて、 すなはちもんいたりて守門しゅもんのものにひて、 「ちちおういまなほ存在ぞんざいせりや」 といふことをかす

二七有余 十四日余り。 ¬観経¼ には 「三七日」 とある。

明↢闍王禁↠父日数既多、人交総絶、水食不↠通二七有余、命応↟終也。作↢是念↡已即到↢宮門↡問↢守門者↡。父王今者猶存在耶。

明…応終 返り点まま (「明」 が 「猶存在耶」 までかかっていない)。
 鎌倉時代刊本、 大派依用本では 「致」。

 ひていはく、 もしひとざんいいじきして、 かぎり七にちいたりぬればすなはちす。 ちちおう*三七をたるをもつてはかるに、 いのちゆべきことうたがいなし。 闍王じゃおうなにをもつてかただちにひて、 「*もんちちおういましをはれりや」 といはずして、 いかんぞいたして 「なほ存在ぞんざいせりや」 とへるは、 なんのこころかあるや

三七 二十一日間。
門家 守門の者。 門番のこと。

問曰。若人食↢一餐之飯↡、限至↢七日↡即死。父王以↠経↢三七↡、計合↢命断↡無↠疑。闍王何以不↣直問曰↢門家、父王今者死竟耶↡、云何致↠疑而問↢猶存在↡者、有↢何意↡也。

こたへていはく、 これはこれ闍王じゃおう*みつといなり。 ただおもんみれば*ばんしゅなれば、 *どうずいなるべからず。 ちちおうすでにこれ天性てんしょうこころしたし、 いひて 「せりや」 とふべきことなし。 おそらくはとがとうにありて、 もつて*譏過きかじょうずることを。 ただおもんみれば内心ないしんひょうして、 くちに 「ありや」 とへるは、 なが*悪逆あくぎゃくめんとほっするがためなり

意密の問 本心を隠した問いかけ。
万基の主 国を統治する者。 国王。
挙動… 行動が気ままであってはならない。
譏過 非難。
悪逆の声 悪逆を犯したという評判。

答曰。此是闍王意密問也。但以↢万基之主↡、挙動不↠可↢随宜↡。父王既是天性情親、無↠容↠言↢問死↡、恐↧失在↢当時↡以成↦譏過↥。但以内心標↠死口問↠在者、為↠欲↠息↢永悪逆之声↡也。

以~ 返り点まま。 「~なるをもって」
言問死 返り点まま。 「問ひて死せりやと言ふ (べきことなし)」

◎序分 ○発起序 3 禁母縁 2. 門家具答

 二に 「守門人しゅもんにん白言びゃくごん」 よりしも不可ふか禁制きんぜい」 にいたるこのかたは、 まさしく*もんをもつてつぶさにこたふることをかす

門家 守門の者。 門番のこと。

二従↢「時守門人白言」↡下至↢「不可禁制」↡已来、正明↢門家以↠事具答↡。

これじゃさきに 「ちちおうありや」 とへば、 いまつぎもんとうすることをかす

此明↧闍世前問↢父王在↡者、今次門家奉答↥。

白言びゃくごん大王だいおう国大こくだいにん」 といふ以下いげは、 まさしくにんひそかにおうじきをたてまつるに、 おうすでにじきじきよくいのちべて、 にちといへどもちちいのちなほぞんず。 これすなはちにんこころにして、 このもんとがにはあらずといふことをかす

「白言大王国大夫人」已下、正明↧夫人密奉↢王食↡、王既得↠食、食能延↠命、雖↠経↢多日↡父命猶存↥。此乃夫人之意、非↢是門家之過↡。

 ひていはく、 にんじきをたてまつるに、 うえ*しょうりてころもしたひそかにおおふ。 出入しゅつにゅう往還おうげんするに、 ひとることをることなし。 なんがゆゑぞもんつぶさににんじきをたてまつるあらわ

 乾麨のこと。 炒った麦をひいた粉。 麦こがし。

問曰。夫人奉↠食身上塗↠麨衣下密覆、出入往還無↢人得↟見。何故門家具顕↢夫人奉↠食之事↡。

こたへていはく、 一切いっさい*みつひさしくぎょうずべからず。 たとひたくみにかたぞうせども、 かえりて彰露あらわる。 ちちおうすでにきんぜられてないにあり、 にん日々にちにち往還おうげんす。 もしひそかにしょうちてじきせしめずは、 おういのちくることるによしなし。 いま 「みつ」 といふは、 もんのぞめてにんこころぶるなり。 にんかくして*にんらずとおもへども、 そのもんことごとくもつてこれをさとらざらんや。 いますでにきわまりて、 あひかくすによしなし。 ここをもつて一々つぶさにおうかひて

私密 隠しごと。
外人 他の人々。

答曰。一切私密不↠可↢久行↡。縦巧牢蔵、事還彰露。父王既禁在↢宮内↡、夫人日日往還。若不↢密持↠麨食↡王命無↠由↠得↠活。今言↠密者、望↢門家↡述↢夫人意↡也。夫人謂↢密外人不↟知、不↢其門家尽以覚↟之。今既事窮無↠由↢相隠↡、是以一一具向↠王説。

 沙門しゃもん目連もくれん」 といふ以下いげは、 まさしく二しょう (目連・富楼那) くうあがりてらいし、 もんによらず。 日々にちにち往還おうげんしておうのためにほうく。 大王だいおうまさにるべし。 *にん進食しんじきさきおうきょうけず、 ゆゑにあへて*遮約しゃやくせず。 二しょうくうじょうず、 これまた*門制もんせいによらずといふことをかす

夫人の… だい夫人が食物をもちこむことができたのは、 じゃがあらかじめこれを禁じていなかったからである。
遮約 さえぎりとどめること。
門制 宮殿の出入りについての制禁。

言↢「沙門目連」↡已下、正明↧二聖騰↠空来去、不↠由↢門路↡、日日往還為↠王説↠法。大王当↠知、夫人進食先不↠奉↢王教↡、所以不↢敢遮約↡。二聖乗↠空、此亦不↞猶↢門制↡也。

◎序分 ○発起序 3 禁母縁 3. 闍王瞋怒

三に 「じゃもん此語しご」 よりしも欲害よくがい其母ごも」 にいたるこのかたは、 まさしくおうしんかす

三従↢「時阿闍世聞此語」↡下至↢「欲害其母」↡已来、正明↢世王瞋怒↡。

これ闍王じゃおうすでにもん*分疏ぶんしょきをはりて、 すなはちにんにおいてしんあくおこし、 くちあくぶることをかす

分疏 事情の説明。

此明↧闍王既聞↢門家分疏↡已、即於↢夫人↡心起↢悪怒↡、口陳↦悪辞↥。

・ 逆悪

また*ごうぎゃくと三ごうあくとをおこす。 父母ぶもののしりてぞくとなすをごうぎゃくづく。 沙門しゃもんののしるをごうあくづく。 けんりてははころさんとするを身業しんごうぎゃくづく。 しんしょしんをもつてしゅとなすを、 すなはちごうぎゃくづく。 また*前方便ぜんほうべんあくとなし、 *のち正行しょうぎょうぎゃくとなす

後の正行 行為そのもの。

又起↢三業逆三業悪↡。罵↢父母↡為↠賊名↢口業逆↡、罵↢沙門↡者名↢口業悪↡。執↠劒殺↠母名↢身業逆↡、身口所為以↠心為↠主、即名↢意業逆↡。又復前方便為↠悪、後正行為↠逆。

我母がもぞく」 といふ以下いげは、 まさしくくちあくいだすことをかす。 いかんぞははののしりて、 「ぞくなり、 ぞくともなればなり」 となす。 ただ闍王じゃおうもとしんあだちちいたし、 はやおわらざることをうらむに、 ははすなはちしてためにかてすすむるがゆゑにせざらしむ。 このゆゑにののしりて、 「わがはははこれぞくなり、 ぞくともなればなり」 といふ

言↢「我母是賊」↡已下、正明↣口出↢悪辞↡。云何罵↠母為↠賊、賊之伴也。但闍王元心致↢怨於父↡、恨↠不↢早終↡、母乃私為↠進↠糧故、令↠不↠死。是故罵言↢我母是賊、賊之伴↡也。

為賊 返り点まま。 「(母を罵りて) 賊とする、 (賊の伴なればなり)」
 「ひそかに」。 鎌倉時代刊本では 「和」。

沙門しゃもん悪人あくにん」 といふ以下いげは、 これじゃははじきすすむることをいかり、 また*沙門しゃもんおうのためにらいすることをきて、 さらに瞋心しんしんおこさしむることをいたすことをかす。 「ゆゑになんの呪術じゅじゅつありてか悪王あくおうをしてにちせざらしむ」 といふ

沙門 目連もくれん富楼那ふるなのこと。

言↢「沙門悪人」↡已下、此明↧闍世瞋↢母進↟食、復聞↢沙門与↠王来去↡、致↞使↣更発↢瞋心↡。故云↧有↢何咒術↡、而令↦悪王多日不↞死。

即執そくしゅうけん」 といふ以下いげは、 これおういかさかりにして、 ぎゃくははおよぶことをかす。 なんぞそれいたましきかな。 こうべりてけんす。 身命しんみょうたちまちにしゅにあり。 *慈母じも合掌がっしょうしてこうべれ、 *く。 にんそのときあつあせあまねくながれて、 *心神しんじん悶絶もんぜつす。 あああわれなるかな、 *怳忽こうこつのあひだにこのなんへること

慈母 だいのこと。
 じゃのこと。
心神 神識じんしき。 こころ。
怳忽 たちまち。

言↢「即執利劒」↡已下、此明↣世王瞋盛逆及↢於母↡。何其痛哉。撮↠頭擬↠劒、身命頓在↢須臾↡。慈母合掌曲↠身低↠頭、就↢児之手↡。夫人爾時熱汗徧流、心神悶絶。嗚呼哀哉。怳忽之間逢↢斯苦難↡。

◎序分 ○発起序 3 禁母縁 4. 二臣切諌

四に 「しん名曰みょうわつ月光がっこう」 よりしも却行きゃくぎょう退たい」 にいたるこのかたは、 まさしく二しん (月光・耆婆) *切諌せっかんしてゆるさざることをかす

切諌 いさめること。

四従↢「時有一臣名曰月光」↡下至↢「却行而退」↡已来、正明↢二臣切諌不↟聴。

これ二しんはすなはちこれくに輔相ほしょう立政りっせいこうなり。 万国ばんこくげ、 *ぽう*昉習ほうじゅうすることをんとのぞむ。 たちまちに闍王じゃおう*勃逆ぼうぎゃくおこして、 けんりてそのははころさんとほっするをて、 このあくるにしのびず。 つひに耆婆ぎば*かおおかしてかんもうくることをかす

八方 四方およびゆい。 ここではすべての民衆のこと。
昉習 習い学ぶこと。
勃逆 突然の悪逆。
顔を犯して 遠慮しないという意。

此明↩二臣乃是国之輔相、立政之綱紀、望↠得↢万国揚↠名八方昉習↡。忽見↧闍王起↢於勃逆↡、執↠劒欲↞殺↢其母↡、不↠忍↠見↢斯悪事↡、遂与↢耆婆↡犯↠顔設↝諌也。

」 といふは、 闍王じゃおうははころさんとほっするときあたれり。 「大臣だいじん」 といふはそのくらいあらわす。 「月光がっこう」 といふはそのあらわす。 「聡明そうみょう多智たち」 といふはそのとくあらわす。

言↢「時」↡者、当↢闍王欲↠殺↠母時↡也。言↢「有一大臣」↡者、彰↢其位↡也。言↢「月光」↡者、彰↢其名↡也。言↢「聡明多智」↡者、彰↢其徳↡也。

ぎゅう耆婆ぎば」 といふは、 *耆婆ぎばはまたこれちちおうにして、 *にょなり。 たちまちに*家兄けきょうははにおいてぎゃくおこすをて、 つひに月光がっこうおなじくいさ

奈女 耆婆ぎばの生母の名。 奈樹 (マンゴー樹) より化生けしょうしたという。
家兄 じゃのこと。

言↢「及与耆婆」↡者、耆婆亦是父王之子、柰女之児。忽見↢家兄於↠母起↟逆、遂与↢月光↡同諌。

おうらい」 といふは、 おほよそ大人だいにん*かんせんとほっするほうは、 かならずすべからくはいもうけて、 もつて身敬しんきょうあらわすべし。 いまこの二しん (月光・耆婆) もまたしかなり。 身敬しんきょうもうけておうしん覚動かくどうし、 おさげてまさにほんぶ。

言↢「為王作礼」↡者、凡欲↣諮↢諌大人↡之法、要須↣設↠拝以表↢身敬↡。今此二臣亦爾。先設↢身敬↡覚↢動王心↡、斂↠手曲↠躬方陳↢本意↡也。

また 「白言びゃくごん大王だいおう」 といふは、 これ月光がっこうまさしくことばべんとほっして、 闍王じゃおうしんひら*聴攬ちょうらんすることをんとのぞむことをかす。 この因縁いんねんのためのゆゑに、 づ 「びゃく」 をもちゐる

諮諌 いさめること。
聴攬 聴きとること。

又「白言大王」者、此明↢月光正欲↠陳↠辞、望↟得↢闍王開心聴攬↡。為↢此因縁↡故須↢先白↡。

臣聞しんもん*毘陀びだ論経ろんきょうせつ」 といふは、 これひろ*こんしょ歴帝れきていもんくことをかす。 じんいはく、 「いふことてんあずからざるはくんづるところなり」 と。 いますでにかんかろからず、 あにごんをもつて妄説もうせつすべけんや。

言↢「臣聞陀論経説」↡者、此明↣広引↢古今書史、歴帝之文記↡。古人云、言不↠関↠典君子所↠慚。今既諌事不↠軽、豈可↢虚言妄説↡。

劫初こうしょらい」 といふはそのときあらわす。

言↢「劫初已来」↡者、彰↢其時↡也。

諸悪王しょあくおう」 といふは、 これそうじてれい暴逆ぼうぎゃくひとひょうすることをかす。

言↢「有諸悪王」↡者、此明↣総標↢非礼暴逆之人↡也。

貪国とんごく位故いこ」 といふは、 これ*非意ひいちちしょ貪奪とんだつするところをかす。

言↢「貪国位故」↡者、此明↣非意所↠貪、奪↢父座処↡也。

所貪 返り点まま。 「貪ずるところ (父の座処を奪う)」
 鎌倉時代刊本、 大派依用本では 「坐」。

殺害せつがい其父ごふ」 といふは、 これすでにちちにおいてあくおこすことはひさしくとどむべからず。 ゆゑにすべからくいのちだんずべしといふことをかす。

言↢「殺害其父」↡者、此明↧既於↠父起↠悪、不↠可↢久留↡、故須↞断↠命也。

「一まんせん」 といふは、 これおういまちちころすことは、 かれと類同るいどうすることをかす

古今の書史歴帝の文記 古今の歴史書や歴代帝王の記録。
非意 思いもよらず。 だしぬけに。

言↢「一万八千」↡者、此明↢王今殺↠父与↠彼類同↡也。

曾聞ぞうもん有無うむ道害どうがい」 といふは、 これいにしえよりいまいたるまで、 ちちがいしてくらいることは*史籍しじゃくややだんずるも、 くにとんじてははころすことはすべてせるところなきことをかす。 もし*劫初こうしょらいろんぜば、 悪王あくおうくにとんぜしに、 ただそのちちころして慈母じもくわへず。 これすなはちいにしえいまことなるをく。 大王だいおういまくにとんじてちちころす。 ちちはすなはちくらいとんずべきことあり。 いにしえ類同るいどうせしむべし。 はははすなはちくらいもとむべきなし。 よこさまぎゃくがいくわふ。 ここをもつていまをもつてむかしす。

言↢「未曾聞有無道害母」↡者、此明↣自↠古至↠今、害↠父取↠位、史籍良談、貪↠国殺↠母、都↢無記処↡。若論↢劫初已来↡、悪王貪↠国、但殺↢其父↡不↠加↢慈母↡。此則引↠古異↠今。大王今者貪↠国殺↠父。父則有↢位可↟貪、可↠使↣類↢同於古↡。母即無↢位可↟求、横加↢逆害↡。是以将↠今異↠昔也。

引古異今 返り点まま。 「古を引きて今に異す」

おういまこのせつをなさば、 *せつしゅけがさん」 といふ。 「せつ」 といふは、 すなはちこれ*しょう高元こうげん王者おうじゃしゅなり、 代々だいだい相承そうじょうす。 あに凡砕ぼんさいおなじからんや

史籍 歴史書。
劫初 成住じょうじゅうくうの四劫の中の成劫 (世界の成立期) のはじめ。 世界の成立当初。
刹利種 刹利は梵語クシャトリヤ (kşatriya) の音写である刹帝利せつていりの略。 種は家柄のこと。 古代インドの四姓制度の中の王族・貴族・士族の身分をいう。 →四姓ししょう

言↧「王今為↢此殺母↡者、汚↦刹利種↥」也。言↢「刹利」↡者乃是四姓高元、王者之種、代代相承、豈同↢凡砕↡。

しん忍聞にんもん」 といふは、 おうあくおこして宗親そうしん損辱そんにくするをば、 悪声あくしょう流布るふせん。 わが性望しょうもうざんするにところなし。

言↢「臣不忍聞」↡者、見↢王起悪↡、損↢辱宗親↡悪声流布。我之性望耻慚無↠地。

見王起悪 返り点まま。 「王の起悪を見るに」

*せん陀羅だら」 といふはすなはちこれ四しょう下流げるなり。 これすなはちしょう匈悪きょうあくいだきてじんならはず。 ひとかわたりといへども、 おこな禽獣きんじゅうおなじ。 おう上族じょうぞくして、 してばんのぞしゅなり。 いますでにあくおこしておんくわふ、 かの下流げるとなんぞことならんや

言↢「是旃陀羅」↡者乃是四姓之下流也。此乃性懐↢匈悪↡不↠閑↢仁義↡、雖↠著↢人皮↡行同↢禽獣↡。王居↢上族↡押臨↢万基↡之主。今既起↠悪加↠恩、与↢彼下流↡何異也。

不宜ふぎじゅう」 といふはすなはち二あり。 一にはおういまあくつくりて*風礼ふうれいぞんぜず。 *京邑きょうおう神州しんしゅう、 あにせん陀羅だらをしてしゅたらしめんや。 これすなはち宮城くじょう擯出ひんしゅつするこころなり。 二には王国おうこくにありといへどもわが宗親そうしんそんぜば、 とおほうひんしてなが*もんたんにはしかず。 ゆゑに不宜ふぎじゅうといふ

風礼 風習礼儀。
京邑神州 京邑は都、 神州は国土の美称。 ここではおう舎城しゃじょう摩竭陀まがだこくを指す。
無聞の地 たよりの聞えないようなところ。

言↢「不宜住此」↡者、即有↢二義↡。一者王今造↠悪不↠存↢風礼↡、京邑神州豈遣↢旃陀羅為↟主也。此即擯↢出宮城↡意也。二者王雖↠在↠国損↢我宗親↡、不↠如↧遠擯↢他方↡永絶↦無聞之地↥。故云↢「不宜住此」↡也。

大臣だいじんせつ此語しご」 といふ以下いげは、 これ二しん (月光・耆婆)直諌じきかんせつにして、 ことばきはめてあらくして、 ひろこんきて、 おうしんかいすることをんとのぞむことをかす。

言↢「時二大臣説此語」↡已下、此明↫二臣直諌切語極麤、広引↢古今↡望↪得↩王心開悟↨。

しゅ按剣あんけん」 といふは、 しんみづから手中しゅちゅう*けんあんずるなり

剣を按ずる 剣のつかに手をおく。

言↢「以手按劒」↡者、臣自按↢手中劒↡也。

 ひていはく、 *かんあくにして*かおおかすことをけず、 君臣くんしんすでにそむけり。 なにをもつてかめぐらしてただちにらずして、 すなはち*却行きゃくぎょう退たいすといふや

諌辞 (じゃを) いさめることば。
顔を犯すことを避けず 遠慮しないという意。
却行而退 後向きに退くこと。

問曰。諌辞麤悪不↠避↢犯顔↡、君臣之義既乖、何以不↢迴↠身直去↡乃言↢「却行而退」↡也。

こたへていはく、 ごんおうさからふといへども、 がいしんむることをのぞむ。 またおそらくは*瞋毒しんどくいまだのぞこらず、 けたるけんおのれをあやふくすることを。 ここをもつてけんあんじてみづからふせぎて、 却行きゃくぎょうして退しりぞ

答曰。麤言雖↠逆↠王望↠息↢害母之心↡。又恐瞋毒未↠除、繋劒危↠己、是以按↠劒自防却行而退。

◎序分 ○発起序 3 禁母縁 5. 闍王惶懼

 五に 「じゃ驚怖きょうふ」 よりしもにょ不為ふい我耶がや」 にいたるこのかたは、 まさしくおうおそれをしょうずることをかす

五従↢「時阿闍世驚怖」↡下至↢「汝不為我耶」↡已来、正明↢世王生↟怖。

これじゃすでに二しんかんせつなるを、 またけんあんじてるをて、 しんわれをそむきてかのちちおうかひてさらに*けいしょうずることをおそれ、 *情地じょうじをしてやすからざらしむることをいたすことをかす。 ゆゑに 「こう」 としょうす。 かれすでにわれをつ、 たれがためにすといふことをらず。 しんうたがひてけっせず。 つひにすなはちくちひてこれをつまびらかにす。 ゆゑに 「耆婆ぎばにょ不為我ふいが」 といふ

異計 (阿闍世を追放するための) 陰謀。
情地 心地。 気持ち。

此明↩闍世既見↢二臣諌辞麤切↡、又覩↢按↠劒而去↡、恐↧臣背↠我向↢彼父王↡更生↦異計↥、致↝使↢情地不↟安。故称↢惶懼↡。彼既捨↠我、不↠知↠為↠誰。心疑不↠決、遂即口問審↠之。故云↢「耆婆汝不為我也」↡。

耆婆ぎば」 といふはこれおうおとうとなり。 じんいはく、 「いえすいあるときは、 しんにあらざればすくはず」 と。 なんぢすでにこれわがおとうとなれば、 あに月光がっこうどうぜんや

言↢「耆婆」↡者是王之弟也。古人云、家有↢衰禍↡、非↠親不↠救。汝既是我弟者豈同↢月光↡也。

◎序分 ○発起序 3 禁母縁 6. 二臣重諌

六に 「耆婆ぎば白言びゃくごん」 よりしもしん莫害まくがい」 にいたるこのかたは、 二しん (月光・耆婆) かさねていさむることをかす

六従↢「耆婆白言」↡下至↢「慎莫害母」↡已来、明↢二臣重諌↡。

これ耆婆ぎばまことをもつて大王だいおうこたふることをかす。 「もしわれらを*しょうとなさんとほっせば、 ねがはくはははがいすることなかれ」 となり。 ここに直諌じきかんすることおはりぬ

 大臣。

此明↣耆婆実答↢大王↡。若欲↧得↢我等↡為↞相者、願勿↠害↠母也。此直諌竟。

◎序分 ○発起序 3 禁母縁 7. 闍王悔恨

七に 「王聞おうもん此語しご」 よりしも止不しふがい」 にいたるこのかたは、 まさしく闍王じゃおうかんけてはは*残命ざんみょうゆるすことをかす

残命 余命。

七従↢「王聞此語」↡下至↢「止不害母」↡已来、正明↣闍王受↠諌放↢母残命↡。

これおうすでに耆婆ぎばかんをはりて、 しんこんしょうじ、 さき所造しょぞうぢて、 すなはち二しんかひてあわれみをもといのちふ。 よりてすなはちははゆるしてなんのがれしめ、 手中しゅちゅうけんもとはこげんすることをかす

此明↧世王既得↢耆婆諌↡已、心生↢悔恨↡、愧↢前所造↡即向↢二臣↡求↠哀乞↠命、因即放↠母脱↢於死難↡手中之劒還↦帰本匣↥。

◎序分 ○発起序 3 禁母縁 8. 余瞋禁母

八に 「勅語ちょくご内官ないかん」 よりしもりょうすい」 にいたるこのかたは、 そのおうしんははきんずることをかす

八従↢「勅語内官」↡下至↢「不令復出」↡已来、明↢其世王余瞋禁↟母。

これおうしんかんけてははゆるすといへども、 なほしんありてほかにあらしめず。 内官ないかん勅語ちょくごじんへいして、 さらにいだしてちちおうとあひまみえしむることなきことをかす

此明↫世王雖↧受↢臣諌↡放↞母、猶有↢余瞋↡不↠令↠在↠外、勅↢語内官↡閉↢置宮↡、更莫↪令↩出与↢父王↡相見↨。

上来じょうらいどうありといへども、 ひろごんえんかしをはりぬ

上来雖↠有↢八句不同↡、広明↢禁母縁↡竟。

◎序分 ○発起序  厭苦縁

【8】 四に*えんえんのなかにつきてすなはちその四あり

厭苦の縁 だいが苦悩の穢土えどを厭う因縁いんねん

四就↢厭苦縁中↡即有↢其四↡。

◎序分 ○発起序 4 厭苦縁 1. 韋提憔悴

一には 「だい」 よりしも憔悴しょうすい」 にいたるこのかたは、 まさしくにんのために幽禁ゆうきんせらるることをかす

一従↢「時韋提希」↡下至↢「憔悴」↡已来、正明↢夫人為↠子幽禁↡。

これにんなんまぬかるといへども、 さらにじんかれて、 *守当しゅとうきはめてかたくしてづることをるによしなし。 ただ念々ねんねんうれひをいだくことのみありて、 ねん憔悴しょうすいすることをかす

守当 警備。

此明↧夫人雖↠勉↢死難↡更閉↢在宮↡守当極牢、無↠由↠得↠出。唯有↢念念懐↟憂自然憔悴↥。

傷歎しょうたんしていはく、 「わざわいなるかな今日こんにち闍王じゃおうびてじん中間ちゅうげんつなぎ、 またじんなん遇値ふ」 と

傷歎曰。禍哉今日苦、遇↧値闍王喚利刃中間結、復置↢宮↡難↥。

 ひていはく、 にんすでにまぬかれてることを。 よろしく*らくすべし、 なにによりてかかへりてさらに愁憂しゅううするや

訝楽 憩いたのしむこと。

問曰。夫人既得↢勉↠死入↟宮、宜応↢訝楽↡、何因反更愁憂也。

こたへていはく、 すなはち三どうあり

答曰。即有↢三義不同↡。

一にはにんすでにみづからぢられて、 さらにひとじきすすめておうあたふるなし。 おうまたわがなんにあるをきてうたたさらに愁憂しゅううせん。 いますでにじきなくしてうれひをくわへば、 おう身命しんみょうさだめてひさしからざるべきことをかす

一明↧夫人既自被↠閉、更無↢人進↠食与↟王。王又聞↢我在↟難、転更愁憂。今既無↠食、加↠憂者王之身命定応↞不↠久。

二にはにんすでに囚難しゅうなんこうむる、 いづれのときにかさらに如来にょらい (釈尊)みかおおよびもろもろの弟子でしたてまつらんといふことをかす

二明↧夫人既被↢囚難↡、何時更見↦如来之面及諸弟子↥。

三にはにんきょうけてきんぜられてじんにあり。 内官ないかん守当しゅとうして*水泄すいせつすらつうぜず。 *旦夕たんせきのあひだ、 ただ死路しろのみをうれふることをかす

水泄すら通ぜず 水も漏らさないように厳重に警備するという意。
旦夕 朝夕。

三明↧夫人奉↠教禁在↢宮↡、内官守当水泄不↠通、旦夕之間唯愁↦死路↥。

この三ありて身心しんしん切逼せっぴつす。 憔悴しょうすいすることなきことをんや

有↢斯三義↡切↢逼身心↡、得↠無↢憔悴↡也。

◎序分 ○発起序 4 厭苦縁 2. 韋提請仏

 二に 「遙向ようこうしゃ崛山くっせん」 よりしも未挙頭みこずきょう」 にいたるこのかたは、 まさしくにんきんによりてぶつしょうじ、 こころぶるところあることをかす

二従↢「遥向耆闍崛山」↡下至↢「未挙頭頃」↡已来、正明↢夫人因↠禁請↠仏、意有↟所↠陳。

これにんすでに囚禁しゅうきんにありて、 しん仏辺ぶっぺんいたることをるによしなし。 ただ*単心たんしんのみありて、 おもてしゃかへ、 はるかにそんらいしたてまつりて、 「ねがはくはぶつ慈悲じひ弟子でし愁憂しゅううこころ*表知ひょうちしたまへ」 といふことをかす

単心 ひたすらなる心。
表知 あきらかに知ること。

此明↧夫人既在↢囚禁↡、自身無↠由↠得↠到↢仏辺↡。唯有↢単心↡、面向↢耆闍↡遥礼↢世尊↡、願仏慈悲表↦知弟子愁憂之意↥。

如来にょらい在昔ざいしゃく之時しじ」 といふ以下いげは、 これに二あり。 一にはちちおういまだきんぜられざるときは、 あるいはおうおよびわがしたしく仏辺ぶっぺんいたるべし、 あるいは如来にょらいおよびもろもろの弟子でししたしくおうしょうくべし。 しかるにわれおよびおうともに囚禁しゅうきんにありて、 因縁いんねん断絶だんぜつし、 *彼此ひしこころそむけることをかす。 二にはちちおうきんにありてよりこのかた、 しばしばそんなんつかはしてきたりてわれをもんせしめたまふことをこうむることをかす。 いかんがもんする。 ちちおう囚禁しゅうきんせらるるをるをもつて、 ぶつにんのうすることをおそれたまふ。 この因縁いんねんをもつてのゆゑにもんせしめたまふ

彼此 彼は釈尊、 此はだいびんしゃ王を指す。

言↢「如来在昔之時」↡已下、此有↢二義↡。一明↧父王未↠被↠禁時、或可↣王及我身親到↢仏辺↡、或可↣如来及諸弟子親受↢王請↡。然我及王身倶在↢囚禁↡、因縁断絶、彼此情乖↥。二明↫父王在↠禁已来、数蒙↪世尊遣↢阿難↡来慰↩問我↨。云何慰問。以↠見↢父王囚禁↡仏恐↢夫人憂悩↡。以↢是因縁↡故遣↢慰問↡也。

そん威重いじゅう無由むゆ得見とくけん」 といふは、 これにんうちにみづからけんして、 ぶつ弟子でしそんす。 「*ぜつ女身にょしん*福因ふくいん尠薄せんぱくなり。 仏徳ぶっとくたかし、 かろがろしくるるによしなし。 ねがはくは目連もくれんとうつかはしてわれとあひまみえしめたまへ」 といふことをかす

穢質の女身 →補註10
福因尠薄なり 過去の善根ぜんごんの因がとぼしい。

言↢「世尊威重無由得見」↡者、此明↧夫人内自卑謙帰↢尊於仏弟子↡。穢質女身、福因尠薄。仏徳威高、無↠由↢軽触↡。願遣↢目連等↡、与↠我相見↥。

 ひていはく、 如来にょらいはすなはちこれ*しゅなり。 *時宜じぎうしなはざるべし。 にんなにをもつてか*三たび致請ちしょうくわへずして、 すなはち目連もくれんとうぶはなんのこころかあるや

化主 教化の主。
時宜 適切な時期。
三たび致請 仏を懇請こんせいすること。 三度請をかさねることは仏を請ずるときの礼法。

問曰。如来即是化主、応↠不↠失↢時宜↡。夫人何以不↣三加↢致請↡、乃喚↢目連等↡、有↢何意↡也。

こたへていはく、 仏徳ぶっとく尊厳そんごんなり。 小縁しょうえんをもつてあへてたやすくしょうぜず。 ただなんて、 ことばつたへて、 きてそんにまうさしめんとほっす。 ぶつわがこころりたまはば、 またなんをしてぶつことばつたへて、 われに*じゅせしめたまはん。 このをもつてのゆゑになんんとねが

答曰。仏徳尊厳、小縁不↢敢輒請↡。但見↢阿難↡欲↣伝↠語往白↢世尊↡。仏知↢我意↡復使↧阿難伝↢仏之語↡指↦授於我↥。以↢斯義↡故願↠見↢阿難↡。

 作是語已さぜごい」 といふはそうじてさきこころきをはるなり

言↢「作是語已」↡者、総説↢前意↡竟也。

悲泣ひきゅうるい」 といふは、 これにんみづからただつみおもし。 ぶつあいしょうずるに、 きょういたこころふかくしてるいてり。 ただ*霊儀りょうぎ*渇仰かつごうするをもつて、 またますますはるかにらいし、 いただきたたきて*じょし、 しばらくいまだげざることをかす

霊儀 (釈尊の) 威厳のあるすがた。
跱 うずくまること。

言↢「悲泣雨涙」↡者、此明↧夫人自唯罪重、請↢仏加哀↡、致↠敬情、悲涙満↠目。但以↣渇↢仰霊儀↡、復加遥礼、叩↠頂跱、須臾未↞挙。

◎序分 ○発起序 4 厭苦縁 3. 世尊降臨

三に 「爾時にじそん」 よりしもてんゆうよう」 にいたるこのかたは、 まさしくそんみづからきたりてしょうおもむくことをかす

三従↢「爾時世尊」↡下至↢「天華持用供養」↡已来、正明↢世尊自来赴↟請。

これそん*しゃにましますといへども、 すでににん心念しんねんこころることをかす

耆闍 →耆闍ぎしゃ崛山くっせん

此明↧世尊雖↠在↢耆闍↡已知↦夫人心念之意↥。

ちょく大目連だいもくれんとう従空じゅうくうらい」 といふは、 これにんしょうおうずることをかす。

言↢「勅大目連等従空而来」↡者、此明↠応↢夫人請↡也。

ぶつじゅうせんもつ」 といふは、 これにんない禁約きんやくきはめてかたし。 ぶつもしげんじてらいしたまはば、 おそらくはじゃもんしてさらに*なんしょうずることを。 この因縁いんねんをもつてのゆゑに、 すべからく*ここにもっして*かしこにでたまふべきことをかす

留難 障害。 さまたげ。
ここ 耆闍崛山。
かしこ 王舎城おうしゃじょうの王宮。

言↢「仏従耆山没」↡者、此明↧夫人宮内禁約極難、仏若現↠身来赴、恐畏闍世知聞更生↢留難↡。以↢是因縁↡故須↦此没彼出↥也。

だいらい挙頭こず」 といふは、 これにんきょういたときかす

言↢「時韋提礼已挙頭」↡者、此明↢夫人致↠敬之時↡也。

けんぶつそん」 といふは、 これそん宮中くちゅうにすでにでて、 にんをしてこうべげてすなはちしむることをいたすことをかす。 しゃ牟尼むにぶつ」 といふはぶつ*けんす。 ただ諸仏しょぶつみなつうじ、 身相しんそうことならず。 いまことさらにしゃ*標定ひょうじょうしてうたがいなからしむ。

簡異 区別すること。
標定 表し示すこと。

言↢「見仏世尊」↡者、此明↢世尊宮中已出致↟使↢夫人挙↠頭即見↡。言↢「釈迦牟尼仏」↡者、簡↢異余仏↡。但諸仏名通、身相不↠異、今故標↢定釈迦↡使↠無↠疑也。

しん金色こんじき」 といふはそのそうあらわさだむ。 百宝ひゃっぽう」 といふは余座よざけんす。 目連もくれん侍左じさとうといふは、 これさらにしゅうなくして、 ただ二そう (目連・阿難) のみあることをかす

言↢「身紫金色」↡者、顕↢定其相↡也。言↢「坐百宝華」↡者、簡↢異余座↡也。言↢「目連侍左」等↡者、此明↧更無↢余衆↡唯有↦二僧↥。

しゃくぼん護世ごせ」 といふは、 これ天王衆てんのうしゅとうぶつそんかくれておうあらわれたまふをるに、 「かならず*希奇きけほうきたまはん、 われらてんにんだいによるがゆゑに*もんやくくことをん」 と。 おのおの本念ほんねんじょうじてあまねくくう住臨じゅうりんして、 てんはるかにさんして、 あめふらしてようすることをかす。

希奇の法 たぐいまれな教え。
未聞の益 いままでに聞いたことのないすぐれたやく

言↢「釈梵護世」↡者、此明↧天王衆等、見↣仏世尊隠顕↢王宮↡、必説↢希奇之法↡、我等天人因↢韋提↡故得↠聴↢未聞之益↡、各乗↢本念↡普住↢臨空↡、天耳遥餐雨↠華供養↥。又

また 「しゃく」 といふは、 すなはちこれ*天帝てんていなり。 「ぼん」 といふは、 すなはちこれ色界しきかい*梵王ぼんのうとうなり。 「護世ごせ」 といふは、 すなはちこれ*天王てんのうなり。 「諸天しょてん」 といふは、 すなはちこれしき欲界よくかいとう天衆てんしゅなり。 すでに天王てんのう仏辺ぶっぺんきたかへるをて、 かのもろもろの天衆てんしゅまたおうしたがひてきたりて、 ほうきてよう

天帝 帝釈天のこと。 →たいしゃく
梵王 →梵天ぼんてん

言↢「釈」↡者即是天帝也。言↢「梵」↡者即是色界梵王等也。言↢「護世」↡者即是四天王也。言↢「諸天」↡者即是色・欲界等天衆。既見↣天王来↢向仏辺↡、彼諸天衆亦従↠王来聞↠法供養。

◎序分 ○発起序 4 厭苦縁 4. 韋提傷歎

四に 「だいけんそん」 よりしもだい共為ぐい眷属けんぞく」 にいたるこのかたは、 まさしくにんこうべげてぶつたてまつり、 ごん傷歎しょうたんし、 怨結おんけつこころふかきことをかす

四従↢「時韋提希見世尊」↡下至↢「与提婆共為眷属」↡已来、正明↢夫人挙↠頭見↠仏、口言傷歎怨結情↡也。

ぜつ*瓔珞ようらく」 といふは、 これにんかざりの瓔珞ようらくなほあいしていまだのぞかず、 たちまちに如来にょらいたてまつりてぢてみづからつことをかす

言↢「自絶瓔珞」↡者、此明↧夫人身荘瓔珞、猶愛未↠除、忽見↢如来↡羞慚自絶↥。

 ひていはく、 いかんぞみづからつや

問曰。云何自絶也。

こたへていはく、 にんはすなはちこれのなかのそんのなかのそんなり。 *威儀いぎおおくのひと供給くきゅうし、 たるところのぶくみな傍人ぼうにん使つかふ。 いますでにぶつたてまつりてづるこころふかくして、 *鉤帯こうたいによらず、 たちまちにみづからく。 ゆゑにぜつといふ

鉤帯 瓔珞のとめひも。

答曰。夫人乃是貴中之貴、尊中之尊、身四威儀多人供給、所↠着衣服皆使↢傍人↡。今既見↠仏、耻愧情、不↠依↢鉤帯↡、頓自掣郤。故云↢「自絶」↡也。

 しんとう」 といふは、 これにん内心ないしん*感結かんけつしておんへがたし。 ここをもつてよりおどらしてりゅうし、 りゅうせるよりおどらしてぐることをかす。 これすなはち歎恨たんごんことわりふかくして、 さらに礼拝らいはい威儀いぎとせず。

感結 感は憾 (恨み) の意。 恨みの思いをおこすこと。

言↢「挙身投地」↡者、此明↢夫人内心感結怨苦難↠堪、是以従↠坐踊↠身而立、従↠立踊↠身投↟地。此乃歎恨処、更不↠事↢礼拝威儀↡也。

号泣ごうきゅう向仏こうぶつ」 といふは、 これにん仏前ぶつぜん*婉転えんでんし、 悶絶もんぜつ号哭ごうこくすることをかす

婉転 ころびたおれること。

言↢「号泣向仏」↡者、此明↧夫人婉↢転仏前↡、悶絶号哭↥。

白仏びゃくぶつ」 といふ以下いげは、 これにん婉転えんでん涕哭ていこくすることややひさしくして、 すこしきめてはじめて*威儀いぎただしくして、 合掌がっしょうしてぶつにまうすことをかす。 「われ一しょうよりこのかた、 いまだかつてその大罪だいざいつくらず。 いぶかし、 *宿しゅくごう因縁いんねん、 なんの*おうありてかこのとともに母子もしたる」 と。 これにんすでにみづからさわりふかくして*宿因しゅくいんらず。 いまがいこうむる。 これよこさまきたれりとおもひて、 「ねがはくはぶつ慈悲じひ、 われに*けいしめしたまへ」 といふことをかす

身の威儀を正しくして 身だしなみをととのえて。
殃咎 罪や過ち。
宿因 過去世につくった業因。
径路 (じゃ王が逆罪をおこすに至った) 道筋。

言↢「白仏」↡已下、此明↧夫人婉転涕哭量久、少惺始正↢身威儀↡、合掌白↞仏。我自↢一生↡已来未↣曾造↢其大罪↡。未審、宿業因縁有↢何殃咎↡、而与↢此児↡共為↢母子↡。此明↧夫人既自障不↠識↢宿因↡。今被↢児害↡謂↢是横来↡。願仏慈悲示↦我径路↥。

そん復有ぶうとう因縁いんねん」 といふ以下いげは、 これにんぶつかひてちんす。 「われはこれぼんなり。 罪惑ざいわくきざれば、 この悪報あくほうあり。 この*甘心かんしんす。 そん*曠劫こうごうどうぎょうじて、 *正習しょうじゅうともにもうじたまへり。 しゅ朗然ろうねんとしてまどかなるをぶつなづけたてまつる。 いぶかし、 なんの因縁いんねんありてかすなはちだいとともに眷属けんぞくとなりたまふ」 といふことをかす。 このこころに二あり。 一にはにんあだいたすことをかす。 たちまちに父母ぶもにおいてたぶれて逆心ぎゃくしんおこせばなり。 二にはまたうらむらくはだい、 わがじゃおしへてこの*悪計あくけいつくらしむ。 もしだいによらずは、 わがつひにこのこころなからんといふことをかす。 この因縁いんねんのためのゆゑにこのといいた

甘心 甘んじて受けるの意か。 またここでの甘を厭の義と解する説もある。
正習 正使と習気のこと。 →正使しょうじじっ

言↢「世尊復有何等因縁」↡已下、此明↧夫人向↠仏陳訴。我是凡夫、罪惑不↠尽、有↢斯悪報↡、是事甘↠心。世尊曠劫行↠道正・習倶亡、衆智朗然果円号↠仏。未審、有↢何因縁↡、乃与↢提婆↡共為↦眷属↥。此意有↠二。一明↧夫人致↢怨於子↡、忽於↢父母↡狂起↦逆心↥。二明↧又恨提婆教↢我闍世↡造↢斯悪計↡。若不↠因↢提婆↡者、我児終無↦此意↥也。為↢此因縁↡故、致↢斯問↡。

明…起逆心 返り点まま。 「明」 のかかる範囲が広い。

またにんぶつひて 「だい眷属けんぞく」 といふはすなはちその二あり。 一にはざい眷属けんぞく、 二には出家しゅっけ眷属けんぞくなり。 ざいといふは、 ぶつ伯叔はくしゅうにその四にんあり。 ぶつはすなはちこれ白浄びゃくじょうおう (浄飯王)こん白飯びゃくぼんのうだい斛飯こくぼんのう釈魔男しゃくまなんはこれかんぼんのうなり。 これをざい眷属けんぞくづく。 出家しゅっけ眷属けんぞくといふは、 ぶつのために弟子でしとなる、 ゆゑに内眷属ないけんぞくづく

又夫人問↠仏云↢「与提婆眷属」↡者、即有↢其二↡。一者在家眷属、二者出家眷属。言↢在家↡者、仏之伯叔有↢其四人↡。仏者即是白浄王児、金者白飯王児、提婆者斛飯王児、釈魔男者是甘露飯王児。此名↢在家外眷属↡也。言↢出家眷属↡者、与↠仏作↢弟子↡、故名↢内眷属↡也。

上来じょうらいどうありといへども、 ひろえんえんかしをはりぬ

上来雖↠有↢四句不同↡、広明↢厭苦縁↡竟。

◎序分 ○発起序  欣浄縁

【9】 五に*欣浄ごんじょうえんのなかにつきて、 すなはちその八あり

欣浄の縁 だいが浄土を願い求める因縁いんねん

五就↢欣浄縁中↡、即有↢其八↡。

◎序分 ○発起序 5 欣浄縁 1. 通請所求

一に 「唯願ゆいがんそん為我いが広説こうせつ」 よりしも濁悪じょくあく世也せや」 にいたるこのかたは、 まさしくにんつうじて*しょしょうじ、 べつしてかいひょうすることをかす

所求 願い求めるところ。 阿弥陀仏の浄土。

一従↢「唯願世尊為我広説」↡下至↢「濁悪世也」↡已来、正明↧夫人通請↢所求↡、別標↦苦界↥。

これにんしんひて、 *非常ひじょうさとるに、 *どうおなじくしかなり。 安心あんじんところあることなし。 ここにぶつじょう*しょうなるをきたまふをきて、 しんててかの*無為むいらくしょうせんとがんずることをかす

非常 無常に同じ。 →無常むじょう

此明↫夫人遇↢自身苦↡、覚↢世非常↡、六道同然、無↠有↢安心之地↡、此聞↣仏説↢浄土無生↡、願↪捨↢穢身↡証↩彼無為之楽↨。

◎序分 ○発起序 5 欣浄縁 2. 厭苦欣浄

二に 「濁悪じょくあくしょ」 よりしもけん悪人あくにん」 にいたるこのかたは、 まさしくにん所厭しょえんきょうすいすることをかす

二従↢「此濁悪処」↡下至↢「不見悪人」↡已来、正明↣夫人挙↢出所厭之境↡。

これ*えんはすべてあくにして、 いまだ一しょとしてとんずべきことあらず。 ただ幻惑げんわく愚夫ぐぶなるをもつて、 この長苦じょうくむといふことをかす

此明↧閻浮総悪、未↠有↢一処可↟貪、但以↢幻惑愚夫↡、飲↦斯長苦↥。

濁悪じょくあくしょ」 といふはまさしくかいかす。 また*器世きせけんかす。 またこれしゅじょう*ほうところなり。 またしゅじょうしょところづく。

言↢「此濁悪処」↡者、正明↢苦界↡也。又明↢器世間↡。亦是衆生依報処、亦名↢衆生所依処↡也。

ごくとうといふ以下いげは、 *ぼんあくもつともおもければなり。

三本の悪果 地獄・餓鬼がき畜生ちくしょうの三悪道の果報。

言↢「地獄」等↡已下、三品悪果最重也。

盈満ようまん」 といふは、 この*三のじゅはただひと*えんすのみにあらず、 *しゃもまたみなあまねくあり。 ゆゑに盈満ようまんといふ。

三の苦聚 三悪道のこと。 →三悪道さんまくどう

言↢「盈満」↡者、此三苦聚非↣直独指↢閻浮↡、娑婆亦皆徧有。故言↢「盈満」↡。

多不たふ善聚ぜんじゅ」 といふは、 これ三がい・六どうどうにして種類しゅるい恒沙ごうじゃなるは、 しん差別しゃべつしたがふことをかす。 *きょうにのたまはく、 「ごうよくしきかざり、 世々せせ処々しょしょにおのおのおもむきて、 えんしたがひてほうけ、 対面たいめんすれどもあひらず」 と

経にのたまはく… 引用は ¬華厳経¼ 等の諸経の取意の文か。

言↢「多不善聚」↡者、此明↢三界・六道不同種類恒沙、随↠心差別↡。経云。「業能荘↠識、世世処処各趣、随↠縁受↢果報↡、対面不↢相知↡。」

がんらい」 といふ以下いげは、 これにん真心しんしん徹到てっとうしてしゃいとひ、 らく無為むいねがひてなが常楽じょうらくすることをかす。 ただ無為むいきょう*軽爾きょうにとしてすなはちかなふべからず。 のうしゃ*輒然ちょうねんとしてはなるることをるによしなし。 金剛こんごうこころざしおこすにあらざるよりは、 ながしょうもとたんや。 もししたしくそん (釈尊)したがはずは、 なんぞよくこの長歎じょうたんまぬかれん。 しかして 「がんらいもん悪声あくしょう悪人あくにん」 とは、 これ闍王じゃおう調達じょうだつ (提婆達多) がごとき、 ちちころそうするもの、 および悪声あくしょうとうねがはくはまたかず、 ざらんといふことをかす。 ただ闍王じゃおうはすでにこれ親生しんしょうなるも、 かみ父母ぶもにおいて殺心せっしんおこす。 いかにいはんやうとひとにしてあひがいせざらんや。 このゆゑににんしん*えらばず、 そうじてみなたちまちに

軽爾 軽々しいこと。
輒然 安易に。 たやすく。
簡ばず 区別しない。

言↢「願我未来」↡已下、此明↧夫人真心徹到厭↢苦娑婆↡、欣↢楽無為↡永帰↦常楽↥。但無為之境、不↠可↢軽爾即階↡。苦悩娑婆無↠由↢輒然得↟離。自↠非↠発↢金剛之志↡、永絶↢生死之元↡。若不↣親従↢慈尊↡、何能勉↢斯長歎↡。然「願我未来不聞悪声悪人」者、此明↧如↢闍王・調達↡、殺↠父破↠僧、及悪声等、願亦不↠聞不↞見。但闍王既是親生之子、上於↢父母↡起↢於殺心↡。何況疎人而不↢相害↡。是故夫人不↠簡↢親疎↡、総皆頓捨。

◎序分 ○発起序 5 欣浄縁 3. 夫人懺悔

三に 「今向こんこうそん」 よりしもさん」 にいたるこのかたは、 まさしくにんじょう妙処みょうしょぜんにあらずはしょうぜず、 おそらくは*けんありてへてくことをざることを。 ここをもつてあいしてさらにすべからくさんすべきことをかす

余 残りの罪や過ち。

三従↢「今向世尊」↡下至↢「懺悔」↡已来、正明↧夫人浄土玅処非↠善不↠生、恐有↢余↡障不↠得↠往。是以求哀更須↦懺悔↥。

◎序分 ○発起序 5 欣浄縁 4. 通請去行

四に 「唯願ゆいがん仏日ぶつにち」 よりしも清浄しょうじょう業処ごっしょ」 にいたるこのかたは、 まさしくにんつうじて*去行こぎょうしょうずることをかす

去行 往生浄土の行業ぎょうごう。 ここでの去はゆくの意。

四従↢「唯願仏日」↡下至↢「清浄業処」↡已来、正明↣夫人通請↢去行↡。

これにんかみにはすなはちつうじて*生処しょうじょしょうじ、 いままたつうじて*得生とくしょうぎょうしょうずることをかす

生処 往生すべき浄土。
得生の行 往生を得るための行業。

此明↧夫人上即通請↢生処↡、今亦通請↦得生之行↥。

仏日ぶつにち」 といふはほうならべてひょうす。 たとへばでて衆闇しゅあんことごとくのぞこるがごとく、 ぶっひかりかがやかして、 無明むみょうよるのごとくにほがらかなり

言↢「仏日」↡者、法・喩双標也。譬如↢日出衆闇尽除↡、仏智輝↠光無明之夜日朗。

きょうかん清浄しょうじょう」 といふ以下いげは、 まさしくすでによくいとじょうねがふ。 いかんが安心あんじん注想ちゅうそうして清浄しょうじょうところしょうずることをるといふことをかす

言↢「教我観於清浄」↡已下、正明↢既能厭↠穢欣↠浄、若為安心注想得↟生↢清浄処↡也。

◎序分 ○発起序 5 欣浄縁 5. 応請現土

五に 「爾時にじそんほうけんこう」 よりしもりょうだいけん」 にいたるこのかたは、 まさしくそんひろじょうげんじてさき通請つうしょうこたへたまふことをかす

五従↢「爾時世尊放眉間光」↡下至↢「令韋提見」↡已来、正明↧世尊広現↢浄土↡酬↦前通請↥。

これそんにんひろじょうもとむることをたまへるをもつて、 如来にょらいすなはちけんひかりはなちて十ぽうこくらし、 ひかりをもつてくにせっし、 頂上ちょうじょう還来げんらいしてして金台こんだいとなるに、 *しゅせんのごとし。 「にょ」 のごんなり、 しゅせんたり。 このやまこしほそく、 かみひろし。 あらゆる仏国ぶっこく*ならびになかにおいてげんじ、 種々しゅじゅどうにして荘厳しょうごんことなることあり。 ぶつ*神力じんりきのゆゑに*了々りょうりょうとして分明ぶんみょうなり。 だい*加備かびしてことごとくみなることをしむることをかす

此明↧世尊以↠見↣夫人広求↢浄土↡、如来即放↢眉間光↡、照↢十方国↡、以↠光摂↠国、還↢来頂上↡化作↢金台↡、如↢須弥山↡。如之言似、似↢須弥山↡。此山腰細上闊。所有仏国並於↠中現。種種不同荘厳有↠異。仏神力故了了分明。加↢備韋提↡、尽皆得↞見。

 ひていはく、 だいかみには 「わがためにひろ無憂むうところきたまへ」 としょうず。 ぶついまなんがゆゑぞためにひろきたまはずして、 すなはちために金台こんだいにあまねくげんずるはなんのこころかあるや

問曰。韋提上請↣為↠我広説↢無憂之処↡。仏今何故不↢為広説↡、乃為↢金台↡普現者有↢何意↡也。

こたへていはく、 これ如来にょらい*みつあらわす。 しかるにだいごんおこしてしょういたすは、 すなはちこれひろじょうもんひらけとなり。 もしこれがためにそうじてかば、 おそらくはかれずしてしんなほまどひをいたすことを。 ここをもつて一々に顕現けんげんしてかの眼前げんぜんたいして、 かの*所須しょしゅまかせてしんしたがひみづからえらばしむ

意密 密意に同じ。 仏の深いみこころ。
所須 求めるところ。

答曰。此彰↢如来意密↡也。然韋提発↠言致↠請。即是広開↢浄土之門↡。若為↠之総説、恐彼不↠見心猶致↠惑。是以一一顕現対↢彼眼前↡、信↢彼所須↡随↠心自選。

◎序分 ○発起序 5 欣浄縁 6. 感荷仏恩

 六に 「だい白仏びゃくぶつ」 よりしもかいこうみょう」 にいたるこのかたは、 まさしくにんそうじて*所現しょげんりょうして、 仏恩ぶっとん*かんすることをかす

所現 金台に現れた十方仏国のありさま。
感荷 感謝してめぐみを受けとること。

六従↢「時韋提白仏」↡下至↢「皆有光明」↡已来、正明↧夫人総領↢所現↡、感↦荷仏恩↥。

これにんそうじて十ぽう仏国ぶっこくるに、 ならびにことごとく*精華しょうけなれども、 極楽ごくらく荘厳しょうごんせんとほっするに、 まつたく比況ひきょうにあらざることをかす。 ゆゑに 「こん楽生ぎょうしょう安楽国あんらくこく」 といふ

精華 精妙・華麗であること。

此明↧夫人総見↢十方仏国↡、並悉精華、欲↠比↢極楽荘厳↡、全非↦比況↥。故云↢「我今楽生安楽国」↡也。

 ひていはく、 十ぽう諸仏しょぶつ*断惑だんわくことなることなく、 ぎょうおわまどかなること、 また二なかるべし。 なにをもつてか一しゅじょうにすなはちこのれつあるや

断惑 惑は煩悩ぼんのうに同じ。 煩悩を断ち切ること。

問曰。十方諸仏断惑無↠殊、行畢果円、亦応↠無↠二。何以一種浄土、即有↢斯優劣↡也。

こたへていはく、 ぶつはこれ法王ほうおう神通じんずうざいなり。 れつ*凡惑ぼんわくるところにあらず。 隠顕おんけんしたがひて*やくぞんずることをのぞむ。 あるいはことさらにかのとなすことをかくして、 ひと西方さいほうあらわしてしょうとなすべし

凡惑 凡夫のこと。 →ぼん
化益 教化やく

答曰。仏是法王、神通自在、優之与↠劣非↢凡惑所↟知。隠・顕随↠機望↠存↢化益↡、或可↧故隠↢彼為↟優、独顕↦西方為↞勝。

◎序分 ○発起序 5 欣浄縁 7. 別選所求

 七に 「こん楽生ぎょうしょう弥陀みだ」 より以下いげは、 まさしくにんべっして*しょえらぶことをかす

七従↢「我今楽生弥陀」↡已下、正明↣夫人別選↢所求↡。

これ弥陀みだ本国ほんごくは四十八がんよりす。 願々がんがんみな増上ぞうじょう勝因しょういんおこし、 いんによりて勝行しょうぎょうおこし、 ぎょうによりて勝果しょうかかんじ、 によりて勝報しょうほう感成かんじょうし、 ほうによりて極楽ごくらく感成かんじょうし、 らくによりて*悲化ひけ顕通けんつうし、 悲化ひけによりて智慧ちえもん顕開けんかい

悲化 大悲による導き。

明↢弥陀本国四十八願↡。願願皆発↢増上勝因↡、依↠因起↢於勝行↡、依↠行感↢於勝果↡、依↠果感↢成勝報↡、依↠報感↢成極楽↡、依↠楽顕↢通悲化↡、依↢於悲化↡顕↢開智慧之門↡。

明~ 返り点まま。 「~なることを明かす」。 註釈版の書き下しでは 「明」 が別選所求の最後までかかっている。

しかるにしんじんなれば、 もまたぐうなり。 *悲智ひち双行そうぎょうしてすなはちひろ*かんひらく。 これによりて*法潤ほうにんあまねく*群生ぐんじょうせっす。 しょ経典きょうてんすすむるところいよいよおおし。 *衆聖しゅしょうしんひとしくしてみなおなじく*さんす。 この因縁いんねんありて、 如来にょらいひそかににんつかはして、 べつしてえらばしめたまふことをいたすことをかす

悲智双行 慈悲と智慧をともに行ずること。 →慈悲じひ智慧ちえ
甘露 ここでは浄土の法門を甘露に喩える。 →かん
法潤 教えによる潤いのめぐみ。
衆聖 数多くの聖者たち。 ここでは諸仏のこと。
指讃 阿弥陀仏の浄土を指し示してほめたたえること。

然悲心無尽、智亦無窮。悲・智双行、即広開↢甘露↡。因↠茲法潤普摂↢羣生↡也。諸余経典勧処弥多。衆聖斉↠心、皆同指讃。有↢此因縁↡、致↠使↧如来密遣↢夫人↡別選↥也。

◎序分 ○発起序 5 欣浄縁 8. 請求別行

八に 「唯願ゆいがんそん」 より以下いげは、 まさしくにん*別行べつぎょう請求しょうぐすることをかす

別行 阿弥陀仏の浄土に往生するための特別な行。

八従↢「唯願世尊」↡已下、正明↣夫人請↢求別行↡。

これだいすでに得生とくしょうところえらびて、 かえりて別行べつぎょうしゅして、 おのれをはげまししんとどめて、 かならず*往益おうやくのぞむことをかす

往益 往生浄土のやく

此明↧韋提既選↢得生処↡、還修↢別行↡、励↠己注↠心必望↦往益↥。

きょうゆい」 といふは、 すなはちこれじょう*前方便ぜんほうべん、 かのくに*しょうほう*しゅ荘厳しょうごんそう憶念おくねんするなり

 →じょうぜん
四種の荘厳 定善十三観をほう正報しょうぼうに分け、 そのそれぞれに通と別とを分つので、 四種の荘厳しょうごんとなる。

言↢「教我思惟」↡者、即是定前方便、思↢想憶↣念彼国依正二報・四種荘厳↡也。

きょう正受しょうじゅ」 といふは、 これさきそう漸々ぜんぜんさいにして、 *覚想かくそうともにもうずるによりて、 ただ定心じょうしんのみありて*前境ぜんきょうがっするをづけて正受しょうじゅとなすことをかす。 このなかにりゃくしてすでに*料簡りょうけんす。 *しも観門かんもんいたりてさらにまさにひろべんずべし、 るべし

覚想 心をはたらかせること。
前境 所観の境としての正二報しょうにほう荘厳相そうごんそう
下の観門 定善十三観のこと。

言↢「教我正受」↡者、此明↧因↢前思想漸漸微細、覚想倶亡↡、唯有↢定心↡与↢前境↡合、名為↦正受↥。此中略已料簡。至↢下観門↡、更当↢広弁↡。応↠知。

上来じょうらいどうありといへども、 ひろ欣浄ごんじょうえんかしをはりぬ

上来雖↠有↢八句不同↡、広明↢欣浄縁↡竟。

◎序分 ○発起序  散善顕行縁

【10】六に*散善さんぜん顕行けんぎょうえんのなかにつきてすなはちその五あり

散善顕行縁 散善行を顕す序文。 親鸞聖人は 「散善は行を顕す縁なり」 (化身土文類訓) と読み、 「自力の散善は他力念仏を顕す縁」 と転意した。

六就↢散善顕行縁中↡、即有↢其五↡。

◎序分 ○発起序 6 散善顕行縁 1. 光益父王

一に 「爾時にじそん即便そくべん微笑みしょう」 よりしもじょうごん」 にいたるこのかたは、 まさしくひかりちちおうやくすることをかす

一従↢「爾時世尊即便微笑」↡下至↢「成那含」↡已来、正明↣光益↢父王↡。

これ如来にょらいにん極楽ごくらくしょうぜんとがんじ、 さらに得生とくしょうぎょうしょうずるをたまふに、 ぶつ本心ほんしんかなひ、 また弥陀みだがんあらわすをもつて、 この二しょうによりてひろじょうもんひらけば、 ただだいのみくことをるにあらず、 *しきこれをきてみなく。 このやくあるがゆゑに、 ゆゑに如来にょらい微笑みしょうしたまふことをかす

有識 心のはたらきを有するもの。 じょうしゅじょうに同じ。

明↪如来以↧見↢夫人↡、願↠生↢極楽↡更請↦得生之行↥、称↢仏本心↡、又顕↩弥陀願意↨。因↢斯二請↡、広開↢浄土之門↡。非↢直韋提得↟去、有識聞↠之皆往。有↢此益↡故、所以如来微笑也。

明…顕~ 返り点まま。 「~を顕すことを明かす」
以…請~ 返り点まま。 「~を請ふをもって」

色光しきこう従仏じゅうぶつ口出くしゅつ」 といふは、 これ一切いっさい諸仏しょぶつしんつね*威儀いぎ*ほうとしておほよそいだすところのひかりかならずやくあることをかす。

威儀 ふるまい。 作法。
法爾として おのずからの定まりとして。

言↢「有五色光従仏口出」↡者、此明↣一切諸仏心口常威儀、法爾凡所↠出光必有↢利益↡。

「一一こうしょうびんちょう」 といふは、 まさしくくちひかりほうらさずして、 ただ王頂おうちょうらすことをかす

言↢「一一光照頻婆頂」↡者、正明↧口光不↠照↢余方↡、唯照↦王頂↥。

しかるにぶつひかり出処しゅっしょしたがひてかならずみなやくあり。 ぶつみあししたよりひかりはなてば、 すなはちごくどう照益しょうやくす。 もしひかりひざよりづれば、 畜生ちくしょうどう照益しょうやくす。 もしひかり*陰蔵おんぞうよりづれば、 じんどう照益しょうやくす。 もしひかりほぞよりづれば、 しゅどう照益しょうやくす。 ひかりむねよりづれば、 人道にんどう照益しょうやくす。 もしひかりくちよりづれば、 二じょうひと照益しょうやくす。 もしひかりけんよりづれば、 大乗だいじょうひと照益しょうやくす。 いまこのひかりくちよりでてただちに王頂おうちょうらすは、 すなはちその*小果しょうかさずくることをかす。 もしひかりけんよりでてすなはち仏頂ぶっちょうよりるは、 すなはちさつ*さずくるなり。 かくのごときこうにしてりょうなり、 つぶさにぶべからず

陰蔵 仏の男根のこと。 馬の男根のように常に腹中に隠れていて見えないので、 おんぞうともいう。 仏の三十二相の一。
小果 小乗のさとり。
記を授く →じゅ

然仏光随↢身出処↡、必皆有↠益。仏足下放↠光、即照↢益地獄道↡。若光従↠膝出、照↢益畜生道↡。若光従↢陰蔵↡出、照↢益鬼神道↡。若光従↠臍出、照↢益脩羅道↡。光従↠心出、照↢益於人道↡。若光従↠口出、照↢益二乗之人↡。若光従↢眉間↡出、照↢益大乗人↡。今明↧此光従↠口出、直照↢王頂↡者、即授↦其小果↥。若光従↢眉間↡出即従↢仏頂↡入者、即授↢菩薩記↡也。如↠斯義者、広多無量、不↠可↢具述↡。

 大派依用本では

爾時にじ大王だいおう雖在すいざい幽閉ゆうへい」 といふ以下いげは、 まさしくちちおうひかりいただきらすことをこうむりて心眼しんげんひらくることをて、 *障隔しょうきゃくおおしといへどもねんにあひる。 これすなはちひかりによりてぶつたてまつるは、 こころするところにあらず、 きょういた帰依きえするにすなはち*だい三の超証ちょうしょうすることをかす

障隔 へだたり。
第三の果 声聞乗しょうもんじょうの修道階位である四向四果のうちの阿那含果のこと。 →阿那あなごん

言↢「爾時大王雖在幽閉」↡已下、正明↧父王蒙↢光照↟頂、心眼得↠開、障隔雖↠多自然相見。斯乃因↠光見↠仏非↢意所期↡、致↠敬帰依即超↦証第三之果↥。

◎序分 ○発起序 6 散善顕行縁 2. 答別求行

二に 「爾時にじそん」 よりしも広説こうせつしゅ」 にいたるこのかたは、 まさしくさきにんべつして*しょぎょうえらぶにこたふることをかす

所求の行 阿弥陀仏の浄土に往生するための行。

二従↢「爾時世尊」↡下至↢「広説衆譬」↡已来、正明↠答↧前夫人別選↢所求↡之行↥。

これ如来にょらいかみ*しゃもっしておうでをはるよりこのもんいたるまで、 そん*黙然もくねんとしてして、 そうじていまだ言説ごんせつしたまはざることをかす

耆闍 →耆闍ぎしゃ崛山くっせん
黙然 沈黙していること。

此明↧如来従↢上耆闍没王宮出↡、訖至↢此文↡、世尊嘿然而坐総未↦言説↥。

 底本まま。 註なし。

ただ中間ちゅうげんにんさん請問しょうもん放光ほうこう現国げんごくとうは、 すなはちこれなんぶつしたがひておうにしてこの因縁いんねんて、 おわりてやまかえり、 つたへてしゃ大衆だいしゅかひてかみのごときくに、 はじめてこのもんあり。 またこれときぶつなきにあらず、 るべし

但中間夫人懺悔・請問・放光・現国等、乃是阿難従↠仏王宮見↢此因縁↡、事了還↠山伝、向↢耆闍大衆↡、説↢如↠上事↡、始有↢此文↡。亦非↣是無↢時仏語↡也。応↠知。

・ 告命許説

爾時にじそんごうだい」 といふ以下いげは、 まさしく*告命ごうみょうせつかす

告命許説 告命は仏が韋提希に告げること。 許説は仏が韋提希の願いをききいれて法を説くこと。

言↢「爾時世尊告韋提」↡已下、正明↢告命許説↡也。

・ 去此不遠

阿弥陀あみだぶつおん」 といふは、 まさしく*きょうひょうしてもつてしんとどむることをかす。 すなはちその三あり。 一には*分斉ぶんざいとおからず。 これより十万億まんおくせつ超過ちょうかして、 すなはちこれ弥陀みだくになることをかす。 二には*どうはるかなりといへども、 ときねんにすなはちいたることをかす。 三にはだいとうおよびらいえんしゅじょうしんとどめて観念かんねんすれば*定境じょうきょう相応そうおうして、 行人ぎょうにんねんにつねにることをかす。 この三あるがゆゑにおんといふ

 所観の境。 観想の対象となるところの浄土。
分斉遠からず ここでの分斉は程度の意。 十万億刹は二十万億刹、 三十万億刹等の距離に比べれば遠くないということ。
道里 (西方浄土への) みちのり。
定境相応して 定心と所観の境が合致して。

言↢「阿弥陀仏不遠」↡者、正明↢標↠境以住↟心、即有↢其三↡。一明↧分斉不↠遠、従↠此超↢過十万億刹↡、即是弥陀之国↥。二明↢道里雖↠遥、去時一念即到↡。三明↧韋提等及未来有縁衆生、注↠心観念、定境相応、行人自然常見↥。有↢斯三義↡故云↢不遠↡也。

汝当にょとうねん」 といふ以下いげは、 まさしく*凡惑ぼんわくさわりふかくして、 しんおお散動さんどうす。 もしたちまちに*攀縁へんえんてずは、 *浄境じょうきょうげんずることをるによしなきことをかす。 これすなはちまさしく安心あんじん住行じゅうぎょうおしふ。 もしこのほうによるをづけて 「*浄業じょうごうじょうず」 となす

凡惑 凡夫のこと。 →ぼん
攀縁 心の乱れとなる外界のわずらわしいかかわり。
浄境 清浄しょうじょうなる境界であるところの浄土のありさま。

言↢「汝当繋念」↡已下、正明↧凡惑障、心多散動。若不↣頓捨↢攀縁↡、浄境無↞由↠得↠現。此即正教↢安心住行↡。若依↢此法↡、名為↢浄業成↡也。

こんにょ」 といふ以下いげは、 これえんいまだせず、 ひとへに*定門じょうもんくべからず、 ぶつさらにかんじて、 みづから*ぷくぎょうひらきたまふことをかす

定門 定善の法門。 →じょうぜん

言↢「我今為汝」↡已下、此明↧機縁未↠具、不↠可↣偏説↢定門↡、仏更観↠機自開↦三福之行↥。

◎序分 ○発起序 6 散善顕行縁 3. 挙機勧修

三に 「亦令やくりょうらい」 よりしも極楽ごくらくこく」 にいたるこのかたは、 まさしくげてしゅすすめ、 やくることをかす

三従↢「亦令未来世」↡下至↢「極楽国土」↡已来、正明↢挙↠機勧↠修得↟益。

これにんしょうずるところ、 やくいよいよふかくして、 らいおよぶまでしんすればみないたることをかす

此明↧夫人所↠請、利益弥、及↢未来↡迴心皆到↥。

◎序分 ○発起序 6 散善顕行縁 4. 勧修三福

四に よくしょうこくしゃ」 よりしも名為みょうい浄業じょうごう」 にいたるこのかたは、 まさしくすすめて*ぷくぎょうしゅせしむることをかす

四従↢「欲生彼国者」↡下至↢「名為浄業」↡已来、正明↣勧↢修三福之行↡。

これ一切いっさいしゅじょうに二しゅあり。 一には*じょう、 二には*さんなり。 もし定行じょうぎょうによれば、 すなはち*しょうせっするにきず。 ここをもつて如来にょらい (釈尊) 方便ほうべんして三ぷく顕開けんかいして、 もつて散動さんどうこんおうじたまふことをかす

定・散 定善の機と散善の機。 →じょうぜん散善さんぜん
生を摂するに尽きず すべてのしゅじょうをおさめとることはできない。

明↣一切衆生機有↢二種↡。一者定、二者散。若依↢定行↡即摂↠生不↠尽。是以如来方便、顕↢開三福↡以応↢散動根機↡。

明…有~ 返り点まま。

よくしょうこく」 といふはしょ標指ひょうしす。

言↢「欲生彼国」↡者、標↢指所帰↡也。

当修とうしゅぷく」 といふはそうじて行門ぎょうもんひょうす。 いかんが三とづくる

言↢「当修三福」↡者、総標↢行門↡也。云何名↠三。

世福

「一しゃ孝養きょうよう父母ぶも」、 すなはちその四あり

一者孝養父母、即有↢其四↡。

・ 世福 孝養父母

一に 「孝養きょうよう父母ぶも」 といふは、 これ一切いっさいぼんみなえんによりてしょうずることをかす

一言↢「孝養父母」↡者、此明↢一切凡夫皆藉↠縁而生↡。

いかんがえんによる。 あるいは*化生けしょうあり、 あるいは*湿生しっしょうあり、 あるいは*卵生らんしょうあり、 あるいは*胎生たいしょうあり。 この四しょうのなかにおのおのにまた四しょうあり。 *きょうひろきたまふがごとし

化生 →化生けしょう
胎生 →胎生たいしょう
 ¬さつ処胎経しょたいきょう¼ 等の諸経を指す。

云何藉↠縁。或有↢化生↡、或有↢生↡、或有↢卵生↡、或有↢胎生↡。此四生中各各復有↢四生↡。如↢経広説↡。

 鎌倉時代刊本、 大派依用本では 湿

ただこれあひよりてしょうずればすなはち父母ぶもあり。 すでに父母ぶもあればすなはち大恩だいおんあり。 もしちちなくは*能生のうしょういんすなはちけ、 もしははなくは*所生しょしょうえんすなはちそむきなん。 もし二にんともになくはすなはち託生たくしょうところうしなはん。 かならずすべからく父母ぶもえんして、 まさに受身じゅしんことわりあるべし。 すでにけんとほっするに、 みづからの*業識ごっしきをもつて内因ないいんとなし、 父母ぶも精血しょうけつをもつてえんとなして、 因縁いんねんごうするがゆゑにこのあり。 このをもつてのゆゑに父母ぶもおんおもし。 はは懐胎かいたいしをはりて十つきるまで、 *行住ぎょうじゅう坐臥ざがにつねにのうしょうず。 またさんときなんうれふ。 もししょうじをはりぬれば、 三ねんるまでつねにねむ尿にょうす。 *床被じょうびぶくみなまた不浄ふじょうなり。 その長大じょうだいおよびてあいしたしみて、 父母ぶもところにおいてかへりて憎疾ぞうしつしょうじ、 恩孝おんきょうぎょうぜざるものはすなはち畜生ちくしょうことなることなし

能生の因・所生の縁 父は子種を下すから子をく生ずる因といい、 母は子種をたもち育てるから子を生ずる所の縁であるという。
業識 父母の和合によって母胎に宿る個人 (子) の主体であるところの識別作用。
床被 寝具。

但是相因而生、即有↢父母↡。既有↢父母↡、即有↢大恩↡。若無↠父者、能生之因即闕。若無↠母者、所生之縁即乖。若二人倶無、即失↢託生之地↡。要須↣父母縁具方有↢受身之処↡。既欲↠受↠身、以↢自業識↡為↢内因↡、以↢父母精血↡為↢外縁↡。因縁和合故有↢此身↡。以↢斯義↡故、父母恩重。母懐↠胎已経↢於十月↡、行住坐臥常生↢苦悩↡。復憂↢産時死難↡。若生已、経↢於三年↡恒常眠↠屎臥↠尿。牀被・衣服、皆亦不浄。及↢其長大↡愛↠婦親↠児、於↢父母処↡反生↢憎嫉↡不↠行↢恩孝↡者、即与↢畜生↡無↠異也。

 鎌倉時代刊本、 大派依用本では 「疾」。

また父母ぶもけん*福田ふくでんきわみなり。 ぶつはすなはちこれ*しゅっ福田ふくでんきわみなり

出世 →しゅっ

又父母者世間福田之極也。仏者即是出世福田之極也。

しかるにぶつざいときねん*けんせるに遇値ひて、 ひとみな餓死がしして白骨はっこつ*縦横じゅうおうなり。 もろもろの比丘びくとう*乞食こつじきするにがたし。 ときそん比丘びくとうりぬるのちちて、 ひとりみづからしろりて乞食こつじきしたまふ。 あしたよりひるいたるまで門々もんもんひたまへども、 じきあたふるものなし。 ぶつまたはちむなしくしてかえりたまふ。 明日あくるひまたきて、 またたまはず。 のちまたきたまふに、 またたまはず。 たちまちに一の比丘びくありて、 みちひてぶつたてまつるに、 顔色げんしきつねよりもことにしてそうましますにたり。 すなはちぶつひたてまつりてまうさく、 「そんいますでにじきしをはりたまへりや」 と。 ぶつのたまはく、 「比丘びく、 われ三にちてよりこのかた、 乞食こつじきするに一をもず。 われいま飢虚きこにしてちからなし、 よくなんぢとともにかたらんや」 と。 比丘びくぶつきをはりて、 るいしてみづからふることあたはず。 すなはちみづから念言ねんごんすらく、 「ぶつはこれ無上むじょう福田ふくでんしゅじょう*覆護ふごなり。 われこの*売却ばいきゃくして、 一はちいいりてぶつ奉上ぶじょうせん、 いままさしくこれときなり」 と。 このねんをなしをはりてすなはち一はちいいて、 すみやかにもつてぶつにたてまつる。 ぶつろしめして、 ことさらにひてのたまはく、 「比丘びくねんけんにしてひとみな餓死がしす。 なんぢいまいづれのところにしてかこの一はち純色じゅんしきいいきたれる」 と。 比丘びくさきのごとくつぶさにそんにまうす。 ぶつまたのたまはく、 「比丘びくの三はすなはちこれ三諸仏しょぶつ*幢相どうそうなり。 この因縁いんねんきはめてとうとく、 きはめておもく、 きはめておんあり。 なんぢいまこのいいてわれにあたふることは、 おおきになんぢが好心こうしんりょうすれども、 われこのいいしょうせず」 と。 比丘びくかさねてぶつにまうしてまうさく、 「ぶつはこれ*がい福田ふくでんしょうのなかのごくなるに、 なほしょうせずといはば、 ぶつのぞきて以外いげはたれかよくしょうせんや」 と。 ぶつのたまはく、 「比丘びく、 なんぢ父母ぶもありやいなや」 と。 こたへてまうさく、 「あり」 と。 「なんぢもつて父母ぶもようれ」 と。 比丘びくまうさく、 「ぶつなほしょうせずとのたまふ、 わが父母ぶもあによくしょうせんや」 と。 ぶつのたまはく、 「しょうすることを。 なにをもつてのゆゑに。 父母ぶもよくなんぢがしょうぜり。 なんぢにおいて大重恩だいじゅうおんあり。 これがためにしょうすることを」 と。 ぶつまた比丘びくひたまはく、 「なんぢが父母ぶもぶつしんずるしんありやいなや」 と。 比丘びくまうさく、 「すべて信心しんじんなし」 と。 ぶつのたまはく、 「いましんずるしんあるべし。 なんぢのいいあたふるをおおきにかんしょうじて、 これによりてすなはち信心しんじんおこさん。 おしへて*帰依きえけしめよ。 すなはちよくこのじきしょうせん」 と。 とき比丘びくすでにぶつおしえけて*愍仰みんごうしてりぬ

飢倹 飢饉。
縦横 至るところにあること。
乞食 出家者が一定の行儀に従って、 在家信者から食を得ること。
覆護 慈悲をもってまもりそだてること。
幢相 はたじるし。 袈裟は煩悩ぼんのうの敵を破るはたじるしに喩えられる。
愍仰 あわれみあおぐこと。

然仏在世時遇↢値時年飢倹↡、人皆餓死白骨縦横。諸比丘等、乞食難↠得。於↠時世尊待↢比丘等去後↡、独自入↠城乞食。従↠旦至↠中門門喚乞、無↢与↠食者↡。仏還空↠盋而帰。明日復去、又還不↠得。後日復去、又亦不↠得。忽有↢一比丘↡、道逢見↠仏。顔色異↠常、似↠有↢飢相↡。即問↠仏言。世尊、今已食竟也。仏言。比丘、我経↢三日↡已来、乞食不↠得↢一匙↡。我今飢虚無↠力、能共↠汝語。比丘聞↢仏語↡已、悲涙不↠能↢自勝↡。即自念言。仏是無上福田、衆生覆護。我此三衣売却、買↢取一盋飯↡、奉↢上於仏↡、今正是時也。作↢是念↡已、即買↢得一盋飯↡、急将上↠仏。仏知而故問言。比丘、時年飢倹人皆餓死、汝今何処得↢此一盋純色飯↡来。比丘如↠前具白↢世尊↡。仏又言。比丘三衣者即是三世諸仏之幢相。此衣因縁、極尊極重極恩。汝今易得↢此飯↡与↠我者、大領↢汝好心↡、我不↠消↢此飯↡也。比丘重白↠仏言。仏是三界福田、聖中之極。尚言↠不↠消者、除↠仏已外誰能消也。仏言。比丘、汝有↢父母↡已不。答言。有。汝将供↢養父母↡去。比丘言。仏尚云↠不↠消、我父母豈能消也。仏言。得↠消、何以故。父母能生↢汝身↡、於↠汝有↢大重恩↡、為↠此得↠消。仏又問↢比丘↡。汝父母有↢信↠仏心↡不。比丘言。都無↢信心↡。仏言。今有↢信心↡。見↢汝与↟飯大生↢歓喜↡、因↠此即発↢信心↡。先教受↢三帰依↡、即能消↢此食↡也。時比丘既受↢仏教↡、愍仰而去。

このをもつてのゆゑに、 おおきにすべからく父母ぶも孝養きょうようすべし

以↢此義↡故、大須↣孝↢養父母↡。

また*ぶつ*摩耶まやぶつしょうじて七にちをはりてすなはちして、 *とうてんしょうず。 ぶつのちじょうどうしたまひて、 四がつ十五にちいたりてすなはちとうてんかひ、 一ははのために説法せっぽうしたまふ。 十つき懐胎かいたいおんほうぜんがためなり。 ぶつすらなほみづからおんおさめて父母ぶも孝養きょうようしたまふ、 いかにいはんやぼんにして孝養きょうようせざらんや

仏母… 以下の説は ¬だいほう便べんぶつ報恩ほうおんぎょう¼ に出る。

又仏母摩耶生↠仏、経↢七日↡已即死、生↢忉利天↡。仏後成道、至↢四月十五日↡、即向↢忉利天↡、一夏為↠母説法。為↠報↢十月懐胎之恩↡。仏尚自収↠恩孝↢養父母↡、何況凡夫而不↢孝養↡。

ゆゑにりぬ、 父母ぶもおんふかくしてきはめておも

故知、父母恩極重也。

・ 世福 奉事師長

奉事ぶじ師長しちょう」 とは、 これ礼節らいせつ教示きょうじして学識がくしきとくじょうじ、 *因行いんぎょうくることなくすなはち成仏じょうぶついたるは、 これなほぜんりきなり。 この大恩だいおんもつともすべからく敬重きょうじゅうすべきことをかす

因行 仏果を得るための因となる行。

「奉事師長」者、此明↧教↢示礼節↡、学識成↠徳、因行無↠虧、乃至成仏此猶↢師之善友力↡也、此之大恩最須↦敬重↥。

しかるに父母ぶもおよび*師長しちょうづけて*敬上きょうじょうぎょうとなす

敬上の行 かみを敬う行為。

然父母及師長者、名為↢敬上行↡也。

・ 世福 慈心不殺

しんせつ」 といふは、 これ一切いっさいしゅじょうみないのちをもつてほんとなすことをかす

言↢「慈心不殺」↡者、此明↢一切衆生皆以↠命為↟本。

もし悪縁あくえんて、 おそはしかくくるは、 ただいのちまもらんがためなり

若見↢悪縁↡、怖走蔵避者、但為↠護↠命也。

¬きょう¼ (涅槃経・意) にのたまはく、 「一切いっさいのもろもろのしゅじょう寿命じゅみょうあいせざるはなし。 ころすことなかれ、 じょうぎょうずることなかれ。 おのれを*いかるにさとしをなすべし」 と。 すなはちしょうとなす

 異本には 「恕」 とある。

¬経¼云。「一切諸衆生、無↠不↠愛↢寿命↡。勿↠殺、勿↠行↠杖。恕↠己可↠為↠喩。」即為↠証也。

 「(おのれを) ゆるすをもって」。 鎌倉時代刊本、 大派依用本では 「怒」。

・ 世福 修十善業

しゅ善業ぜんごう」 といふは、 これ十あくのなかに殺業せつごうもつともあくなることをかす

言↢「修十善業」↡者、此明↢十悪之中、殺業最悪↡、

ゆゑにこれをつらねてはじめにく。 十ぜんのなかには長命じょうみょうもつともぜんなり。 ゆゑにこれをもつて相対そうたいす。 以下いげの九あくぜんは、 しもの九ぼんのなかにいたりて、 つぎひろぶべし

故列↠之在↠初。十善之中、長命最善。故以↠之相対也。已下九悪九善者、至↢下九品中↡、次応↢広述↡。

これぜんかす。 また*慈下じげぎょうづく

慈下の行 しもを慈しむ行為。

此明↢世善↡。又名↢慈下行↡也。

戒善 受持三帰

二に 「じゅ」 といふは、 これぜん軽微きょうみにして*感報かんぽうつぶさならず。 *戒徳かいとく巍々ぎぎとしてよくだいかんずることをかす

感報 果報を得ること。
戒徳巍々として 戒をたもつ徳はおごそかである。

二言↢「受持三帰」↡者、此明↣世善軽微、感報不↠具、戒徳巍巍、能感↢菩提之果↡。

ただしゅじょうしんあさきよりふかきにいたる。 *けしめ、 のち衆戒しゅかいおし

但衆生帰信従↠浅至↠、先受↢三帰↡後教↢衆戒↡。

・ 戒善 具足衆戒

そく衆戒しゅかい」 といふは、 しかるにかいしゅあり。 あるいは*かい、 あるいは*かい*かい*善戒ぜんかい*ひゃく五十かい*ひゃくかい*しゃかい、 あるいはさつ*聚戒じゅかい*じんかいとうなり。 ゆゑにそく衆戒しゅかいづく

言↢「具足衆戒」↡者、然戒有↢多種↡。或三帰戒、或五戒・八戒・十善戒・二百五十戒・五百戒・沙弥戒、或菩薩三聚戒・十無尽戒等。故名↢具足衆戒↡也。

また一々の*戒品かいほんのなかにまた*少分しょうぶんかい分戒ぶんかい全分戒ぜんぶんかいあり

戒品 戒の種類。
少分戒… 少分戒は戒のうちのいくつかをたもつこと。 多分戒は戒の過半をたもつこと。 全分戒は戒のすべてをたもつこと。

又一一戒品中、亦有↢少分戒・多分戒・全分戒↡也。

・ 戒善 不犯威儀

ぼん*威儀いぎ」 といふは、 これ*しん口意くいごう行住ぎょうじゅう坐臥ざがによく一切いっさいかいのために方便ほうべん威儀いぎをなすことをかす

威儀 日常生活の儀則。

言↢「不犯威儀」↡者、此明↧身口意業、行住坐臥、能与↢一切戒↡作↦方便威儀↥也。

もしは軽重きょうじゅうさいみなよく護持ごじして、 おかせばすなはち悔過けかす。 ゆゑにぼん威儀いぎといふ。 これを戒善かいぜんづく

若軽重麤細、皆能護持、犯即悔過。故云↢「不犯威儀」↡、此名↢戒善↡也。