0577黒谷上人語灯録巻第十五

厭欣沙門了慧集録

 

和語第二之五 当巻有三篇
 一百四十五箇条問答第二十二
 上人と明遍との問答第二十三
 諸人伝説の詞第二十四

 

一百四十五箇条問答 第二十二

二十二、 一百四十五箇条問答 一

一 ふるき堂塔を修理して候はんをば、 供養し候べきか。

答。 かならず供養すべしといふ事も候はず。 又供養して候はんも、 あしき事にも候はず。 功徳にて候へば、 又供養せねばとてつみのえ、 あしき事にては候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 二

一 ほとけの開眼と供養とは、 一つ事にて候か。

答。 開眼と供養とは、 別の事にて0578候べきを、 おなじ事にしあひて候也。 開眼と申すは、 本体は仏師がまなこをいれ、 ひらきまいらせ候を申候也。 これをば、 事の開眼と申候也。 つぎに僧の仏眼の真言をもてまなこをひらき、 大日の真言をもてほとけの一切の功徳を成就し候をば、 理の開眼と申候也。 つぎに供養といふは、 ほとけに花香・仏供・御あかしなんどをもまいらせ、 さらぬたからをもまいらせ候を、 供養とは申候也。

二十二、 一百四十五箇条問答 三

一 この真如観はし候べき事にて候か。

答。 これは恵心のと申て候へども、 わろき物にて候也。 おほかた真如観をば、 われら衆生はえせぬ事にて候ぞ、 往生のためにもおもはれぬことにて候へば、 无益に候。

二十二、 一百四十五箇条問答 四

一 又これに計算して候ところは、 何事もむなしと観ぜよと申て候。 空観と申候は、 これにて候な。 されば観じ候べきやうは、 たとへばこの世のことを執着して思ふまじきとおしへて候と見へて候へば、 おほやう御らんのためにまいらせ候。

答。 これはみな理観とて、 かなはぬ事にて候也。 僧のとしごろならひたるだにもえせず、 まして女房なんどのつやつや案内もしらざらんは、 いかにもかなふまじく候也。 御たづねまでも无益に候。

二十二、 一百四十五箇条問答 五

この七仏の名号となふべき様として、 人のたびて候まゝに信じ候へば、 つみはう0579せ候べきか。 なに事もそれよりおほせ御候事は、 たのもしく候ひて、 かやうに申候。

答。 これさなくとも候なん。 念仏にこれらのつみのうせ候まじくはこそ候はめ。

二十二、 一百四十五箇条問答 六

一 一文の師をもおろかに申候へば、 習ひたる物の冥加なしと申候は、 ま事にて候か。

答。 師の事はおろかならず候。 恩の中にふかき事、 これにすぎ候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 七

一 心を一つにして、 心よくなをり候はずとも、 何事をおこなひ候はずとも、 念仏ばかりにて浄土へはまいり候べきか。

答。 心のみだるゝは、 これ凡夫の習ひにて、 ちからおよばぬ事にて候。 たゞ心を一にして、 よく御念仏せさせ給ひ候はゞ、 そのつみを滅して往生せさせ給ふべき也。 その妄念よりもおもきつみも、 念仏だにし候へば、 うせ候也。

二十二、 一百四十五箇条問答 八

一 経の陀羅尼は、 潅頂の僧にうけ候べきか。

答。 ¬法華経¼ のはくるしからず、 潅頂の僧のうけさする陀羅尼は別の事、 それはおぼしめしよるな。

二十二、 一百四十五箇条問答 九

一 ¬普賢経¼(観普賢経意) に、 「ほとけの母を念ずべし」 と申候は。

答。 いざおぼへず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇

id="l579-14"一 百日のうちの赤子の不浄かゝりたるは、 物まうでにはゞかりありと申たるは。

答。 百日のうちのあか子の不浄くるしからず。 なにもきたなき物のゝつきて候はんは0580、 きたなくこそ候へ。 赤子にかぎるまじ。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一

一 念仏の百万遍、 百度申してかならず往生すと申て候に、 いのちみじかくてはいかゞし候べき。

答。 これもひが事に候。 百度申てもし候、 十念申てもし候、 又一念にてもし候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二

一 ¬阿弥陀経¼ 十万巻よみ候べしと申て候は、 いかに。

答。 これもよみつべからんにとりての事に候。 たゞつとめをたかくつみ候はんれうにて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三

一 日所作は、 かならずかずをきわめ候はずとも、 よまれんにしたがひてよみ、 念仏も申候べきか。

答。 かずをさだめ候はねば懈怠になり候へば、 かずをさだめたるがよき事にて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一四

一 にら・き・ひる・しゝをくひて、 かうせ候はずとも、 つねに念仏は申候べきやらん。

答。 念仏はなにゝもさはらぬ事にて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一五

一 六斎に時をし候はんには、 かねて精進をし、 いかけをし、 きよき物をきてし候べきか。

答。 かならずさ候はずとも候なん。

二十二、 一百四十五箇条問答 一六

一 一七日・二七日なんど服薬し候はんに、 六斎の日にあたりて候はんをば、 いかゞし候べき。

答。 それちからおよばぬ事にて候。 さればとて罪にては候まじ。

0581二十二、 一百四十五箇条問答 一七

一 六斎は一生すべく候か、 なんねんすべく候ぞ。

答。 それも御心によるべき事にて候。 いくらすべしと申事は候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一八

一 念仏をば、 日所作にいくらばかりあてゝか申候べき。

答。 念仏のかずは、 一万遍をはじめにて、 二万・三万・五万・六万、 乃至十万まで申候也。 このなかに御心にまかせておぼしめし候はん程を、 申させおはしますべし。

二十二、 一百四十五箇条問答 一九

一 ¬阿弥陀経¼ をば、 一日になん巻ばかりあてゝかよみ候べき。

答。 「¬阿弥陀経¼ は、 ちかひて一生中に十万巻をだにもよみまいらせ候ぬれば、 決定して往生す」(観念法門意) と、 善導和尚のおほせられて候也。 毎日に十五巻づゝよめば、 二十年に十万巻にみち候也。 三十巻づゝよめば、 十年にみち候也。

二十二、 一百四十五箇条問答 二〇

一 五色のいとは、 ほとけには、 ひだりにとおほせ候き。 わがてには、 いづれのかたにていかゞひき候べき。

答。 左右の手にてひかせ給ふべし。

二十二、 一百四十五箇条問答 二一

一 仏のなをもかき、 貴き事をもかきて候を、 あだにせじとてやき候は罪のうるに、 誦文をしてやくと申候は、 いかゞ候べき。

答。 さる反故やき候はんに、 何条の誦文か候べき。 おほかたは法文をばうやまふ事にて候へば、 もしやかんなんどせられ候はゞ、 きよきところにてやかせ給ふべし。

0582二十二、 一百四十五箇条問答 二二

一 戒うけ候時、 和尚となり給へ、 阿闍梨となり給へと申事の候、 心え候はず。 なにといふ事にて候ぞ。

答。 和尚と申候は、 戒うくる時に法門ならひたる師を申候也。 阿闍梨と申候は、 まさしく戒をさづくる師にて候也。 これをば羯磨阿闍梨と申候也。

二十二、 一百四十五箇条問答 二三

一 時し候は功徳にて候やらん。 かならずゝべき事にて候やらん。

答。 時は功徳うる事にて候也。 六斎の御時ぞ、 さも候ひぬべき。 又御大事にて御やまひなんどもおこらせおはしましぬべく候はゞ、 さなくとも、 たゞ御念仏だにもよくよく候はゞ、 それにて生死をはなれ、 浄土にも往生せさせおはしまさんずる事は、 これによるべく候。

二十二、 一百四十五箇条問答 二四

一 臨終のをり、 阿弥陀の定印なんどをならひて、 ひかへ候やらん。 たゞさ候はずとも、 左右の手にてひかへ候やらん。

答。 かならず定印をむすぶべきにて候はず、 たゞ合掌を本体にて、 そのなかにひかへられ候べし。

二十二、 一百四十五箇条問答 二五

一 ちかくてかならずしも見まいらせ候はねども、 とをらかにてひかへ候やらん。

答。 とをくもちかくも、 便宜によるべく候。 いかなるもくるしみ候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 二六

一 かならずほとけを見、 いとをひかへ候はずとも、 われ申さずとも人の申さん念0583仏をきゝても、 死候はゞ浄土には往生し候べきやらん。

答。 かならずいとをひくといふ事候はず。 ほとけにむかひまひらせねども、 念仏だにもすれば往生し候也、 又きゝてもし候。 それはよくよく信心ふかくての事に候。

二十二、 一百四十五箇条問答 二七

一 ながく生死をはなれ三界にむまれじとおもひ候に、 極楽の衆生となりても、 又その縁つきぬればこの世にむまると申候は、 ま事にて候か。 たとひ国王ともなり、 天上にもむまれよ、 たゞ三界をわかれんとおもひ候に、 いかにつとめおこなひてか、 返り候はざるべき。

答。 これもろもろのひが事にて候。 極楽へひとたびむまれ候ぬれば、 ながくこの世に返る事候はず、 みなほとけになる事にて候也。 たゞし人をみちびかんためには、 ことさらに返る事も候。 されども生死にめぐる人にては候はず。 三界をはなれ極楽に往生するには、 念仏にすぎたる事は候はぬ也。 よくよく御念仏の候べき也。

二十二、 一百四十五箇条問答 二八

一 女房の聴聞し候に、 戒をたもたせ候をやぶり候はんずればとて、 たもつとも申候はぬは、 いかゞ候べき。 たゞ聴聞のにわにては、 一時もたもつと申候がめでたき事と申候は、 ま事にて候か。

答。 これはくるしく候はず。 たとひのちにやぶれども、 その時たもたんとおもふ心にてたもつと申すは、 よき事にて候。

0584二十二、 一百四十五箇条問答 二九

一 仏の薄をおして、 又供養し候か。

答。 さ候はずとも。

二十二、 一百四十五箇条問答 三〇

一 所作をかきて人にし入させ候は、 いかゞ候べき。

答。 さなくとも候ひなむ。

二十二、 一百四十五箇条問答 三一

一 巻経を草子にたゝむは、 罪と申候はいかゞ候べき。

答。 つみえぬ事にて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 三二

一 ほとけに具する経を、 とりはなちて人にもたぶは、 つみにて候か。

答。 ひろむるは功徳にて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 三三

一 一部とある経、 一巻づゝとりはなちてよまんは、 つみにて候か。

答。 つみにても候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 三四

一 ほとけに厨子をさしてすゑまいらせては、 供養すべく候か。

答。 一切あるまじ。

二十二、 一百四十五箇条問答 三五

一 不軽をおがむ事し候べきか。

答。 このごろの人の、 え心えぬ事にて候也。

二十二、 一百四十五箇条問答 三六

一 七歳の子しにて、 いみなしと申候はいかに。

答。 仏教にはいみといふ事なし。 世俗に申したらんやうに。

二十二、 一百四十五箇条問答 三七

一 仏ににかはを具し候が、 きたなく候。 いかゞし候べき。

答。 ま事にきたなけれども、 具せではかなふまじければ。

二十二、 一百四十五箇条問答 三八

一 尼の服薬し候は、 わろく候か。

答。 やまひにくふはくるしからず、 たゞはあ0585し。

二十二、 一百四十五箇条問答 三九

一 父母のさきに死ぬるは、 つみと申候はいかに。

答。 穢土のならひ、 前後ちからなき事にて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 四〇

一 いきてつくり候功徳はよく候か。

答。 めでたし。

二十二、 一百四十五箇条問答 四一

一 人のまぼりをえて候はんは、 供養し候べきか。

答。 せずともくるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 四二

一 わゝくに物くるゝは、 つみにて候か。

答。 つみにて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 四三

一 経をして供養せずとも、 くるしからず候か。

答。 たゞよむ。

二十二、 一百四十五箇条問答 四四

一 経千部よみては、 供養し候べきか。

答。 さも候まじ。

二十二、 一百四十五箇条問答 四五

一 懺悔の事、 幡や花鬘なんどかざり候べきか。

答。 されでも、 たゞ一心ぞ大切に候。

二十二、 一百四十五箇条問答 四六

一 花香をほとけにまいらせ候事。

答。 あか月は供養法にかならずまいらせ候。 たゞは、 はなかめにさし、 ちらしても供養すべし。 香はかならずたくべし。 便あしくは、 なくとも。

二十二、 一百四十五箇条問答 四七

一 経をば、 僧にうけ候べきか。

答。 われとよみつべくは、 僧にうけずとも。

二十二、 一百四十五箇条問答 四八

一 聴聞・ものまうでは、 かならずし候べきか。

答。 せずとも。 中々わろく候。 し0586づかにたゞ御念仏候へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 四九

id="l586-2"一 神に後世申候事、 いかむ。

答。 仏に申すにはすぐまじ。

二十二、 一百四十五箇条問答 五〇

一 説教師は、 つみふかく候か。 又妻にならん物も、 つみふかしと申候は、 ま事にて候か。

答。 本体は功徳うべく候に、 末世のはつみえつべし。 妻にならんものは、 つみ。

二十二、 一百四十五箇条問答 五一

一 麝香・丁子をもち候は、 つみにて候か。

答。 かをあつむるは、 つみ。

二十二、 一百四十五箇条問答 五二

一 妻、 おとこに経ならふ事、 いかゞ候べき。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 五三

一 還俗のものに目を見あはせずと申候は、 ま事にて候か。

答。 さまでとかず、 ひが事。

二十二、 一百四十五箇条問答 五四

一 還俗を心ならずして候はんは、 いかに。

答。 あさくや。

二十二、 一百四十五箇条問答 五五

一 神仏へまいらんに、 三日・一日の精進、 いづれかよく候。

答。 信を本にす。 いくかと本説なし、 三日こそよく候はめ。

二十二、 一百四十五箇条問答 五六

一 歌よむは、 つみにて候か。

答。 あながちにえ候はじ。 たゞし罪もえ、 功徳にもなる。

二十二、 一百四十五箇条問答 五七

一 さけのむは、 つみにて候か。

答。 ま事にはのむべくもなけれども、 この世のな0587らひ。

二十二、 一百四十五箇条問答 五八

一 魚・鳥・鹿は、 かはり候か。

答。 たゞおなじこと。

二十二、 一百四十五箇条問答 五九

一 尼になりて百日精進は、 よく候か。

答。 よし。

二十二、 一百四十五箇条問答 六〇

一 仏つくりて、 経はかならず具し候べきか。

答。 かならず具すべしとも候はず、 又具してもよし。

二十二、 一百四十五箇条問答 六一

一 功徳は身のたふるほどゝ申候は、 ま事にて候か。

答。 沙汰におよび候はず、 ちからのたふるほど。

二十二、 一百四十五箇条問答 六二

一 経と仏と、 かならず一度にすゑ候か。

答。 さも候はず、 ひとつゞつも。

二十二、 一百四十五箇条問答 六三

一 ¬錫杖¼ はかならず誦すべきか。

答。 さなくとも、 そのいとまに念仏一遍も申べし。 あま法師こそ、 ありく時むしのために誦し候へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 六四

一 いみの日、 物まうでし候はいかに。

答。 くるしからず。 本命日も。

二十二、 一百四十五箇条問答 六五

一 五逆・十悪、 一念・十念にほろび候か。

答。 うたがひなく候。

二十二、 一百四十五箇条問答 六六

一 臨終に善知識にあひ候はずとも、 日ごろの念仏にて往生はし候べきか。

答。 善知識にあはずとも、 臨終おもふ様ならずとも、 念仏申さば往生すべし。

二十二、 一百四十五箇条問答 六七

一 誹謗正法は五逆のつみにおほくまさりと申候は、 ま事にて候か。

答。 これはい0588と人のせぬ事にて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 六八

一 死て候はんものゝかみは、 そり候べきか。

答。 かならずさるまじ。

二十二、 一百四十五箇条問答 六九

一 心に妄念のいかにも思はれ候は、 いかゞし候べき。

答。 たゞよくよく念仏を申させ給へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 七〇

一 わがれうの臨終の物の具、 まづ人にかし候は、 いかゞ候べき。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 七一

一 五色のいと、 うむ事。

答。 おさなきものにうます。

二十二、 一百四十五箇条問答 七二

一 節ある楊枝をばつかはず、 続帯・青帯・无文の帯するはいむと申候は。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 七三

一 服薬のわたは、 あらひ候はざらんはいかゞ候。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 七四

一 よき物をき、 わろきところにゐて、 往生ねがひ候はいかゞ候。

答。 くるしからず。 八斎戒の時こそ、 さは候はめ。

二十二、 一百四十五箇条問答 七五

一 月のはゞかりの時、 経よみ候、 いかゞ候。

答。 くるしみあるべしと見へず候。

二十二、 一百四十五箇条問答 七六

一 申候事のかなひ候はぬに経よみ候、 いかゞ候。

答。 うらむべからず。 縁により、 信のありなしによりて、 利生はあり。 この世・のちの世、 仏をたのむには0589しかず。

二十二、 一百四十五箇条問答 七七

一 ひる・しゝは、 いづれも七日にて候か。 又しゝのひたるは、 いみふかしと申候は、 いかに。

答。 ひるも香うせなば、 はゞかりなし。 しゝのひたるによりて、 いみふかしという事は、 ひが事。

二十二、 一百四十五箇条問答 七八

一 月のはゞかりのあひだ、 神のれうに、 経はくるしく候まじか。 答。

神やはゞかるらん、 仏法にはいまず。 陰陽師にとはせ給へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 七九

一 子うみて、 仏神へまいる事、 百日はゞかりと申候は、 ま事にて候か。

答。 それも仏法にいまず。

二十二、 一百四十五箇条問答 八〇

一 ¬法華経¼ 一品よみさして、 魚くはずと申候は、 いかに。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 八一

一 ずゞ・かけをびかけずして、 経をうけ候事は、 いかに。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 八二

一 時にまめ・あづきの御れうくはずと申候は、 ま事にて候か。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 八三

一 ねてもさめても、 口あらはで念仏申候はんは、 いかゞ候べき。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 八四

一 信施をうくるは、 つみにて候か。

答。 つとめしてくふ僧は、 くるしからず。 せ0590ねばふかし。

二十二、 一百四十五箇条問答 八五

一 神のあたりの物くふはくちなわと申候は、 いかに。

答。 禰宜・神主は、 ひとへにその身になるにこそさらぬが、 すこしくはんはおもからじ。

二十二、 一百四十五箇条問答 八六

一 僧の物くひ候も、 つみにて候か。

答。 つみうるも候、 えぬも候。 仏のもの、 奉加結縁の物くふはつみ。

二十二、 一百四十五箇条問答 八七

一 大仏・天王寺なんどの辺にゐて、 僧の物くひて、 後世とらんとし候人は、 つみか。

答。 念仏だに申さば、 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 八八

一 時するあした、 御れうあまたにむかふ、 いかゞ候。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 八九

一 時のつとめて、 みそうつ、 いかに。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 九〇

一 戒をたもちてのち、 精進いくかゝし候。

答。 いくかも御心。

二十二、 一百四十五箇条問答 九一

一 聴聞は功徳え候か。

答。 功徳え候。

二十二、 一百四十五箇条問答 九二

一 念仏を行にしたる物が、 物まうでは、 いかに。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 九三

一 物まうでして、 経を廻向すべきに、 経をばよまで念仏を廻向する、 くるしからずと申候は、 いかに。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 九四

一 わが心ざゝぬ魚は、 殺生にては候はぬか。

答。 それは殺生ならず。

0591二十二、 一百四十五箇条問答 九五

一 服薬のずゞは、 あらひ候べきか。

答。 あらひあらはず、 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 九六

一 千手・薬師は、 ものいませ給ふと申、 いかに。

答。 さる事なし。

二十二、 一百四十五箇条問答 九七

一 六斎に、 にら・ひる、 いかに。

答。 めさゞらんはよく候。

二十二、 一百四十五箇条問答 九八

一 時のくひ物は、 きよくし候べきか。

答。 れいの定、 行水も候まじ、 かねて精進も候まじ。 ひされも、 たゞのおりのにて候べし。 時の誦文も女房はせずとも、 たゞ念仏を申させ給へ。 さしたる事ありて時をかきたらば、 いつの日にてもせさせ給へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 九九

一 三年おがみの事、 し候べきか。

答。 さらずとも候なん。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇〇

一 時のさばには、 あはせを具し候べきか。 時の散飯をば、 屋のうゑにうちあげ候べきか、 かはらけにとり候べきか、 わがひきれのさらにとり候べきか。

答。 いづれも御心。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇一

一 女のものねたむ事は、 つみにて候か。

答。 世世に女となる果報にて、 ことに心うき事也。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇二

一 出家し候はねども、 往生はし候か。

答。 在家ながら往生する人おほし。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇三

一 五色のいとを、 あまたにきりて人にたばんは、 いかゞ候べき。

答。 きるべから0592ず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇四

一 念仏を申候に、 はらのたつ心のさまざまに候、 いかゞし候べき。

答。 散乱の心、 よにわろき事にて候。 かまへて一心に申させ給へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇五

一 かみつけながら、 おとこ・おんなの死候は、 いかに。

答。 かみにより候はず、 たゞ念仏と見へたり。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇六

一 尼の、 子うみ、 おとこもつ事は、 五逆罪ほどゝ申、 ま事にて候か。

答。 五逆ほどならねども、 おもく見へて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇七

一 尼法師、 かみをおほす、 つみにて候か。

答。 三悪道の業にて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇八

一 経・仏なんどうり候は、 つみにて候か。

答。 つみふかく候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一〇九

一 人をうり候も、 つみにて候か。

答。 それもつみにて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一〇

一 精進の時、 つめきらぬと申、 又女にかみそらせぬと申候、 いかに。

答。 みなひが事。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一一

一 われも人も、 さゑもんかく、 罪にて候か。

答。 すごさゞらんには、 なにか罪にて候べき。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一二

一 酒のいみ、 七日と申候は、 ま事にて候か。

答。 さにて候。 されども、 やまひに0593はゆるされて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一三

一 魚鳥くひては、 いかけして経はよみ候べきか。

答。 いかけしてよむ、 本体にて候。 せでよむは、 功徳と罪とゝもに候。 たゞしいかけせでも、 よまぬよりは、 よむはよく候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一四

一 妻・おとこ、 一つにて経よみ候はん事、 いかけし候べきか。

答。 これもおなじ事、 本体はいかけしてよむべく候。 念仏はせでもくるしからず、 経はいかけしてよみ候べし。 毎日によみ候とも。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一五

一 大根・柚は、 おこなひにはゞかりと申候は、 いかに。

答。 はゞかりなし。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一六

一 尼になりたるかみ、 いかゞし候べき。

答。 経の料紙にすき、 もしは仏の中にこそはこめ候へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一七

一 尼法師の、 紺のきぬき候はいかに。

答。 よに罪うる事にて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一八

一 物まうでし候はんに、 男女かみあらひ、 せめてはいたゞきあらふと申候は、 ま事候か。

答。 いづれもさる事候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一一九

一 仏をうらむる事は、 あるまじき事にて候な。

答。 いかさまにも、 仏をうらむる事なかれ。 信ある物は大罪すら滅す、 信なき物は小罪だにも滅せず。 わが信のな0594き事をはづべし。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二〇

一 八専に、 物まうでせぬと申は、 ま事にて候か。

答。 さる事候はず。 いつならんからに、 仏の耳きかせ給はぬ事の、 なじか候べき。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二一

一 灸治の時、 物まうでせず、 そのおりのき物もすつると申候は。

答。 これ又きはめたるひが事にて候。 たゞ灸治をいたはりて、 ありきなんどをせぬ事にてこそ候へ。 灸治のいみ、 ある事候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二二

一 ひる・しゝくひて、 三年がうちに死候へば往生せずと申候は、 ま事にて候やらむ。

答。 これ又きわめたるひが事にて候。 臨終に五辛くひたる物をばよせずと申たる事は候へども、 三年までいむ事は、 おほかた候はぬ也。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二三

一 厄病やみて死ぬる物、 子うみて死ぬる物は、 つみと申候はいかに。

答。 それも念仏せば往生し候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二四

一 子の孝養、 おやのするはうけずと申候、 いかに。

答。 ひが事なり。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二五

一 産のいみ、 いくかにて候ぞ、 又いみもいくかにて候ぞ。

答。 仏教には、 いみといふ事候はず。 世間には、 産は七日、 又三十日と申げに候、 いみも五十日と申す。 御心に候。

0595二十二、 一百四十五箇条問答 一二六

一 没後の仏経しをく事は、 一定すべく候か。

答。 一定にて候、 すべく候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二七

一 所作かきてしいれ、 かねてかゝんずるを、 まづし候はいかに。

答。 しいるゝはくるしからず、 かねては懈怠也。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二八

一 出家は、 わかきとおひたると、 いづれか功徳にて候。

答。 老ては、 功徳ばかりえ候。 わかきは、 なをめでたく候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一二九

一 仏に花まいらする誦文、 十波羅蜜往生すと申て候。 御らんのためにまいらせ候。

答。 これせんなし、 念仏を申させ給へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三〇

一 いみの物の、 ものへまいり候事は、 あしく候か。

答。 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三一

一 物まうでして返さにわがもとへ返らぬ事はあし。 又魚鳥にやがてみだれ候事、 いかに。

答。 熊野のほかは、 くるしからず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三二

一 時のおりの誦文は、 かくし候べしと申候、 御らんのためにまいらせ候。

答。 時のおりも、 たゞ念仏を申させ給へ。 女房は誦文せずとも。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三三

一 女房の物ねたみの事、 さればつみふかく候な。

答。 たゞよくよく一心に念仏を申させ給へ。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三四

一 桐のはい、 かみにつくるは、 仏神に申事のかなはぬと申候は、 ま事にて候か。

0596。 そら事なり。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三五

一 物へまいり候精進、 三日といふ日まいり候べきか、 四日のつとめてか。

答。 三日のつとめてまいる。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三六

一 物こもりて候に、 三日とおもひ候はんは四日になしていで、 七日とおもひて候はんは八日になしていで候べきか。

答。 それは世の人のせんやうに。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三七

一 ずゞには、 さくら・くりいむと申候は、 いかに。

答。 さる事候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三八

一 法師のつみは、 ことにふかしと申候は。

答。 とりわき候はず。

二十二、 一百四十五箇条問答 一三九

一 現世をいのり候に、 しるしの候はぬ人はいかに候ぞ。

答。 現世をいのるにしるしなしと申事、 仏の御そら事には候はず。 わが心の説のごとくせぬによりて、 しるしなき事は候也。 されば、 よくするにはみなしるしは候也。 観音を念ずるにも、 一心にすればしるし候、 もし一心なければしるし候はず。

むかしの縁あつき人は、 定業すらなを転ず。 むかしもいまも縁あさき人は、 ちりばかりのくるしみにだにも、 しるしなしと申て候也。

仏をうらみおぼしめすべからず。 たゞこの世・のちの世のために、 仏につかへむには、 心をいたし、 ま事をはげむ事、 この世もおもふ事かなひ、 のちの世も浄土にむまるゝ事にて候也。 しるしなくは、 わが0597心をはづべし。

二十二、 一百四十五箇条問答 一四〇

  建仁元年十二月十四日、 げざんにいりて、 とひまいらする事

一 臨終の時、 不浄のものゝ候には、 仏のむかへにわたらせ給ひたるも返らせ給ふと申候は、 ま事にて候か。

答。 仏のむかへにおはしますほどにては、 不浄のものありといふとも、 なじかは返らせ給ふべき。 仏はきよき・きたなきの沙汰なし。 みなされども観ずれば、 きたなきもきよく、 きよきもきたなくしなす。 たゞ念仏ぞよかるべき、 きよくとも念仏申さゞらんには益なし。 万事をすてゝ念仏を申すべし、 証拠のみおほかり。

二十二、 一百四十五箇条問答 一四一

  これは御文にてたづね申す

一 家のうちのものゝ、 したしき・うときをきらはず、 往生のためとおもひて、 くひ物・き物たばんは、 仏に供養せんとおなじ事にて候か。

答。 したしき・うときをえらばず、 往生のためとおぼしめして、 物たびおはしまさん、 めでたき功徳にて候。 御つかひによくよく申候ぬ。

二十二、 一百四十五箇条問答 一四二

一 破戒の僧・愚痴の僧、 供養せんも功徳にて候か。

答。 破戒の僧・愚痴の僧を、 すゑの世には仏のごとくたとむべきにて候也。 この御つかひに申候ぬ。 きこしめし0598候へ。

 この御ことばゝ、 上人のまさしき御手也。 あみだ経のうらにおしたり。

二十二、 一百四十五箇条問答 一四三

  見参にいりてうけ給はる事

一 毎日の所作に、 六万・十万の数遍をずゞをくりて申候はんと、 二万・三万をずゞをたしかにひとつづゝ申候はんと、 いづれかよく候べき。

答。 凡夫のならひ、 二万・三万あつとも、 如法にはかなひがたからん。 たゞ数遍のおほからんにはすぐべからず、 名号を相続せんため也。 かならずしもかずを要とするにはあらず、 たゞつねに念仏せんがため也。 かずをさだめぬは懈怠の因縁なれば、 数遍をすゝむるにて候。

二十二、 一百四十五箇条問答 一四四

一 真言の阿弥陀の供養法は、 正行にて候べきか。

答。 仏体は一つにはにたれども、 その心不同なり。 真言教の弥陀は、 これ己心の如来、 ほかをたづぬべからず。 この教の弥陀は、 これ法蔵比丘の成仏也。 西方におはしますゆへに、 その心おほきにことなり。

二十二、 一百四十五箇条問答 一四五

一 つねに悪をとゞめ、 善をつくるべき事をおもはへて念仏申候はんと、 たゞ本願をたのむばかりにて念仏を申候はんと、 いづれかよく候べき。

答。 廃悪修善は、 諸0599仏の通戒なり。 しかれども、 当時のわれらは、 みなそれにはそむきたる身ともなれば、 たゞひとへに別意弘願のむねをふかく信じて、 名号をとなへさせ給はんにすぎ候まじ。 有智・无智、 持戒・破戒をきらはず、 阿弥陀ほとけは来迎し給事にて候也。 御心え候へ。

 

二十三、 上人と明遍との問答

上人と明遍との問答 第二十三

明遍問たてまつりての給はく、 末代悪世のわれらがやうなる罪濁の凡夫、 いかにしてか生死をはなれ候べき。

上人答ての給はく、 南無阿弥陀仏と申して極楽を期するばかりこそ、 しえつべき事と存じて候へ。

僧都のいはく、 それはかたのやうに、 さ候べきかと存じて候。 それにとりて、 決定をせん料に申つるに候。 それに念仏は申候へども心のちるをば、 いかゞし候べき。

上人答ていはく、 それは源空もちからおよび候はず。

僧都のいはく、 さてそれをばいかゞし候べき。

上人のいはく、 ちれども名を称すれば、 仏願力に乗じて往生すべしとこそ心えて候へ。 たゞ詮ずるところ、 おほらかに念仏を申候が第一の事にて候也。

0600都のいはく、 かう候。 これうけ給はりにまいりつる候と。 これより前後にはいさゝかも詞なくていでられにけり

上人、 又僧都退出のゝち、 当座のひじりたちにかたりての給はく、 欲界散地にむまれたる物は、 みな散心あり。 たとへば人界の生をうけたる物の、 目鼻のあるがごとし。 散心をすてゝ往生せんといはん事、 そのことはりしかるべからず。 散心ながら念仏申す物が往生すればこそ、 めでたき本願にてはあれ。 この僧都の、 念仏申せども心のちるをばいかゞすべきと不審せられつるこそ、 いはれずおぼゆれと 云云

 

二十四、 諸人伝説の詞 一

諸人伝説の詞 第二十四 付御歌

二十四、 諸人伝説の詞 一

隆寛律師のいはく、 法然上人のゝ給はく、 源空も念仏のほかに、 毎日に ¬阿弥陀経¼ を三巻よみ候き。 一巻は唐、 一巻は呉、 一巻は訓なり。 しかるを、 この ¬経¼ に詮ずるところ、 たゞ念仏申せとこそとかれて候へば、 いまは一巻もよみ候はず、 一向念仏を申候也と。

隆寛 毎日に ¬阿弥陀経¼ 四十八巻よまれきすなはち心えて、 やがて ¬阿弥陀経¼ をさしをきて念仏三万遍を申しきと。 ¬進行集¼ よりいでたり云云

0601二十四、 諸人伝説の詞 二

乗願上人のいはく、 ある人問ていはく、 色相観は ¬観経¼ の説也。 たとひ称名の行人なりといふとも、 これを観ずべく候か、 いかん。

上人答ての給はく、 源空もはじめはさるいたづら事をしたりき。 いまはしからず、 但信の称名也と。 ¬授手印決答¼ よりいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 三

又人目をかざらずして往生の業を相続すれば、 自然に三心は具足する也。 たとへば、 葦のしげきいけに十五夜の月のやどりたるは、 よそにては月やどりたりとも見へねども、 よくよくたちよりて見れば、 あしまをわけてやどる也。 妄念のあしはしげゝれども、 三心の月はやどる也。 これは故上人のつねにたとへにおほせられし事也と。 かの ¬二十八問答¼ よりいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 四

ある時又の給はく、 あはれこのたびしおほせばやなと。

その時乗願申さく、 上人だにもかやうに不定げなるおほせの候はんには、 ましてその余の人はいかゞ候べきと。

その時上人、 うちわらひての給はく、 蓮台にのらんまでは、 いかでかこのおもひはたえ候べきと。 ¬閑亨問答集¼ よりいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 五

信空上人のいはく、 ある時上人の給はく、 浄土の人師おほしといへども、 みな菩提心をすゝめて、 観察を正とす。 たゞ善導一師のみ菩提心なくして、 観察をもて称0602名の助業と判ず。 当世の人、 善導の心によらずは、 たやすく往生をうべからず。 曇鸞・道綽・懐感等、 みな相承の人師なりといへども、 義においては、 いまだかならずしも一準ならず、 よくよくこれを分別すべし。 このむねをわきまへずは、 往生の難易において存知しがたき物也と。

二十四、 諸人伝説の詞 六

ある時問ていはく、 智慧のもし往生の要事となるべくは、 正直におほせをかぶりて修学をいとなむべし。 又たゞ称名不足あるべからずは、 そのむねを存ずべく候。 たゞいまのおほせを如来の金言と存ずべく候。

答ていはく、 往生の業は、 これ称名といふ事、 釈文分明也。 有智・无智をきらはずといふ事、 又顕然也。 しかれば、 往生のためには称名足ぬとす。

学問をこのまんとおもはんよりは、 たゞ一向念仏して往生をとぐべし。 弥陀・観音・勢至にあひたてまつらん時、 いづれの法文か達せざらん。 かのくにの荘厳、 昼夜朝暮に甚深の法門をとく也。

念仏往生のむねをしらざらん程は、 これを学すべし。 もしこれをしりなば、 いくばくならざる智慧をもとめて、 称名のいとまをさまたぐべからず。

二十四、 諸人伝説の詞 七

ある時問ていはく、 人おほく持斎をすゝむ。 この条いかん。

答ての給はく、 尼法師の食の作法は、 もともしかるべしといへども、 当世は機すでにおとろへたり、 食0603すでに減じたり。 この分斉をもて一食せば、 心ひとへに食事をおもひて念仏しづかならじ。 ¬菩提心経¼ にいはく、 「食菩提をさまたげず、 心よく菩提をさまたぐ」 といへり。 そのうゑは、 自身をあひはからふべきなりと。

二十四、 諸人伝説の詞 八

ある時問ていはく、 往生の業においてはおもひさだめおはりぬ。 たゞし一期の身のありさまをば、 いかやうにか存じ候べき。

答ての給はく、 僧の作法は、 大小の戒律あり。 しかりといへども、 末法の僧これにしたがはず。 源空これをいましむれども、 たれの人かこれにしたがふ。 たゞ詮ずるところは、 念仏の相続するやうにあひはからふべし。 往生のためには、 念仏すでに正業也。 かるがゆへにこのむねをまぼりて、 あひはげむべきなり。

二十四、 諸人伝説の詞 九

ある人問ていはく、 つねに廃悪修善のむねを存じて念仏すると、 つねに本願のむねをおもひて念仏すると、 いづれかすぐれて候。

答ての給はく、 廃悪修善はこれ諸仏の通誡なりといへども、 当世のわれら、 ことごとく違背せり。 もし別意の弘願に乗ぜずは、 生死をはなれがたきものか。

二十四、 諸人伝説の詞 一〇

ある人問ていはく、 称名の時、 心をほとけの相好にかけん事、 いかやうにか候べき。

答ての給はく、 しからず。 たゞ 「若我成仏、 十方衆生、 称我名号下至十声、 若0604不生者不取正覚。 彼仏今現在世成仏。 当知、 本誓重願不虚、 衆生称念必得往生」(礼讃) とおもふばかり也。 われらが分斉をもて仏の相好を観ずとも、 さらに如来の観にはあらじ。 たゞふかく本願をたのみて、 口に名号をとなふる、 この一大事のみ仮令ならざる行也。

二十四、 諸人伝説の詞 一一

ある人問ていはく、 善導、 本願の文を釈し給に、 「至心信楽欲生我国」(大経巻上) の安心を略し給ふ事、 なに心かあるや。

答ての給はく、 「衆生称念必得往生」(礼讃) としりぬれば、 自然に三心を具足するゆへに、 このことはりをあらはさんがために略し給へる也。

二十四、 諸人伝説の詞 一二

ある人問ていはく、 毎日の所作に、 六万・十万の数遍をあてゝ不法なると、 二万・三万の数遍をあてゝ如法なると、 いづれをか正とすべき。

答ての給はく、 凡夫のならひ、 二万・三万をあつといふとも、 如法の義あるべからず。 たゞ数遍のおほからんにしかず、 詮ずるところ、 心をして相続せしめんがため也。 かならずしもかずを沙汰するを要とするにはあらず、 たゞ常念のため也。 数遍をさだめざるは懈怠の因縁なるがゆへに、 数遍をすゝむる也。

二十四、 諸人伝説の詞 一三

ある人問ていはく、 上人の御房の申させ給御念仏は、 念念ごとにほとけの御心にあ0605ひかなひ候らんとおぼへ候。 智者にてましませば、 くはしく名号の功徳をもしろしめし、 あきらかに本願のやうをも御心えあるがゆへにと。

答ての給はく、 なんぢ本願を信ずる事、 まだしかりけり。 弥陀如来の本願の名号は、 木こり・くさかり・なつみ・みづくみのたぐひごときのものゝ内外ともにかけて一文不通なるが、 となふればかならずむまるなんと信じて、 真実に欣楽して、 つねに念仏申を最上の機とす。

もし智慧をもて生死をはなるべくは、 源空なんぞ聖道門をすてゝこの浄土門におもむくべき。 まさにしるべし、 聖道門の修行は智慧をきわめて生死をはなれ、 浄土門の修行は愚痴に返りて極楽にむまると。 已上信空上人の伝説なり、 ¬進行集¼ よりいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 一四

信空上人又いはく、 先師法然上人、 あさゆふおしへられし事也。 念仏申にはまたく様もなし、 たゞ申せば極楽へむまるとしりて、 心をいたして申せばまいる事也。 ものをしらぬうゑに道心もなく、 いたづらにそへなき物のゝいふ事也。 さいはん口にて、 阿弥陀仏を一念・十念にても申せかしと候ひし事也。

又御往生のゝち、 三井寺の住心房と申す学生、 ひじりにゆめのうちに問れても、 阿弥陀仏はまたく風情もなくたゞ申す事也と答へられたりと。

大谷の月忌の導師せらるとて、 おほく0606の人の中にて説法にせられ候きと。 ¬白川消息¼ よりいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 一五

辯阿上人のいはく、 故上人の給はく、 われはこれ烏帽子もきざるおとこ也。 十悪の法然房が念仏して往生せんといひてゐたる也。 又愚痴の法然房が念仏して往生せんといふ也。 安房の介といふ一文不通の陰陽師が申す念仏と、 源空が念仏と、 またくかわりめなしと。 ¬物語集¼ にいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 一六

ある時問ていはく、 上人の御念仏は、 智者にてましませば、 われらが申す念仏にはまさりてぞおはしまし候らんとおもはれ候は、 ひが事にて候やらん。

その時、 上人気色あしくなりておほせられていはく、 さばかり申す事を用ゐ給はぬ事よ。 もしわれ申す念仏の様、 風情ありて申候はゞ、 毎日六万遍のつとめむなしくなりて三悪道におち候はん。 またくさる事候はずと、 まさしく御誓言候しかば、 それより辯阿は、 いよいよ念仏の信心を思ひさだめたりき。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 一七

又人ごとに、 上人のつねにの給ひしは、 一丈のほりをこへんとおもはん人は、 一丈五尺をこへんとはげむべし。 往生を期せん人は、 決定の信をとりてあひはげむべき也。 ゆるくしてはかなふべからずと。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 一八

又上人のゝ給はく、 念仏往生と申す事は、 もろこし・わが朝の、 もろもろの智者た0607ちの沙汰し申さるゝ観念の念仏にもあらず。 又学問をして念仏の心をさとりとほして申す念仏にもあらず。 たゞ極楽に往生せんがために南無阿弥陀仏と申て、 うたがひなく往生するぞとおもひとりて申すほかに別の事なし。

たゞし三心ぞ四修ぞなんど申す事の候は、 みな南無阿弥陀仏は決定して往生するぞとおもふうちにおさまれり。 たゞ南無阿弥陀仏と申せば、 決定して往生する事なりと信じとるべき也。

念仏を信ぜん人は、 たとひ一代の御のりをよくよく学しきはめたる人なりとも、 文字一もしらぬ愚痴鈍根の不覚の身になして、 尼入道の无智のともがらにわが身をおなじくなして、 智者ふるまひせずして、 たゞ一向に南無阿弥陀仏と申てぞかなはんずると。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 一九

又上人のゝ給はく、 源空が目には、 三心も南無阿弥陀仏、 五念も南無阿弥陀仏、 四修も南無阿弥陀仏なりと。 ¬授手印¼ にいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 二〇

又上人かたりての給はく、 世の人はみな因縁ありて道心をばおこす也。 いはゆる父母・兄弟にわかれ、 妻子・朋友はなるゝ等也。 しかるに源空は、 させる因縁もなくして、 法爾法然と道心をおこすがゆへに、 師匠名をさづけて、 法然となづけ給ひし也。

されば出離の心ざしいたりてふかゝりしあひだ、 もろもろの教法を信0608じて、 もろもろの行業を修す。 およそ仏教おほしといへども、 詮ずるところ、 戒定慧の三学をばすぎず。 いはゆる小乗の戒定慧、 大乗の戒定慧、 顕教の戒定慧、 密教の戒定慧なり。

しかるにわがこの身は、 戒行において一戒をもたもたず、 禅定において一もこれをえず、 智慧において断惑証果の正智をえず。 これによて戒行の人師釈していはく、 「尸羅清浄ならざれば、 三昧現前せず」 といへり。

又凡夫の心は、 物にしたがひてうつりやすし。 たとふるに、 さるのごとし。 ま事に散乱してうごきやすく、 一心しづまりがたし。

无漏の正智、 なにゝよりてかおこらんや。 もし无漏の智剣なくは、 いかでか悪業煩悩のきづなをたゝむや。

かなしきかなかなしきかな、 いかゞせんいかゞせん。 こゝにわがごときは、 すでに戒定慧の三学のうつわ物にあらず。

この三学のほかに、 わが心に相応する法門ありや、 わが身にたへたる修行やあると、 よろづの智者にもとめ、 もろもろの学者にとぶらふしに、 おしふる人もなく、 しめすともがらもなし。

しかるあひだ、 なげきなげき経藏にいり、 かなしみかなしみ聖教にむかひて、 てづからみづからひらきて見しに、 善導和尚の ¬観経の疏¼(散善義) にいはく、 「一心専念弥陀名号、 行住坐臥不問時節久近0609念念不捨者、 是名正定之業、 順彼仏願故」 といふ文を見えてのち、 われらがごとくの无智の身は、 ひとへにこの文をあふぎ、 もはらこのことはりをたのみて、 念念不捨の称名を修して、 決定往生の業因にそなふべし。

たゞ善導の遺教を信ずるのみにあらず、 又あつく弥陀の弘願に順ぜり。 「順彼仏願故」 の文ふかくたましゐにそみ、 心にとゞめたる也。

そのゝち、 恵心の先徳の ¬往生要集¼(巻中) の文をひらくに、 「往生之業念仏為本」 といひ、 又恵心の ¬妙行業記¼ の文を見るに、 「往生之業念仏為先」 といへり。

覚超僧都、 恵心僧都にとひての給はく、 なんぢが諸行の念仏は、 これ事を行ずとやせん、 これ理を行ずとやせんと。

恵心僧都こたへての給はく、 心万境にさへぎる。 こゝをもて、 われたゞ称名を行ずる也。 往生の業には称名もともたれり。 これによて、 一生中の念仏そのかずをかんがへたるに、 二十倶胝遍也との給へり。

しかればすなはち源空は、 大唐の善導和尚のおしへにしたがひ、 本朝の恵心の先徳のすゝめにまかせて、 称名念仏のつとめ、 長日六万遍也。 死期やうやくちかづくによて、 又一万遍をくわえて、 長日七万遍の行者なりと。 ¬徹選択¼ にいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 二一

禅勝房のいはく、 上人おほせられていはく、 今度の生に念仏して来迎にあづからん0610うれしさよとおもひて、 踊躍歓喜の心のおこりたらん人は、 自然に三心は具足したりとしるべし。 念仏申しながら後世をなげく程の人は、 三心不具の人也。 もし歓喜する心いまだおこらずは、 漸漸によろこびならふべし。 又念仏の相続せられん人は、 われ三心具したりとしるべし。 ¬念仏問答集¼ にいでたり

二十四、 諸人伝説の詞 二二

又いはく、 往生の得否はわが心にうらなへ。 その占の様は、 念仏だにもひまなく申されば、 往生は決定としれ。 もし疎相にならば、 順次の往生はかなふまじとしれ。 この占をしてわが心をはげまし、 三心の具すると具せざるとをもしるべし。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 二三

又いはく、 たとひ念仏せん物、 十人あらんが中に九人は往生あしくて往生せずとも、 われ一人決定して念仏往生せんとおもふべし。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 二四

又いはく、 自身の罪悪をうたがひて往生を不定に思はんは、 おほきなるあやまり也。 さればとて、 ふ­て½かゝりてわろからんとにはあらず。 本願の手ひろく、 不思議なる道理を心えんがため也。 されば、 念仏有往生の義をふかくもかたくも申さん人は、 つやつや本願の義をしらざる人と心うべし。

源空が身も、 検校・別当どもが位にてぞ往生はせんずる、 もとの法然房にては往生はえせじ。 されば、 としご0611ろならひあつめたる智慧は、 往生のためには要にもたつべからず。 されども、 ならひたりしかひには、 かくのごとくしりたれば、 はかりなき事也。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 二五

又いはく、 本願の念仏には、 ひとりだちをせさせて助をさゝぬ也。 助さす程の人は、 極楽の辺地にむまる。 すけと申すは、 智慧をも助にさし、 持戒をもすけにさし、 道心をも助にさし、 慈悲をもすけにさす也。 それに善人は善人ながら念仏し、 悪人は悪人ながら念仏して、 たゞむまれつきのまゝにて念仏する人を、 念仏にすけさゝぬとは申す也。

さりながらも、 悪をあらためて善人となりて念仏せん人は、 ほとけの御心にかなふべし。 かなはぬ物ゆへにと、 あらんかゝらんとおもひて決定心おこらぬ人は、 往生不定の人なるべし。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 二六

又いはく、 法爾道理といふ事あり。 ほのをはそらにのぼり、 みづはくだりさまにながる。 菓子の中にすき物あり、 あまき物あり。 これらはみな法爾道理也。 阿弥陀ほとけの本願は、 名号をもて罪悪の衆生をみちびかんとちかひ給たれば、 たゞ一向に念仏だにも申せば、 仏の来迎は法爾道理にてそなはるべき也。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 二七

又いはく、 現世をすぐべき様は、 念仏の申されん様にすぐべし。 念仏のさまたげになりぬべくは、 なになりともよろづをいとひすてゝ、 これをとゞむべし。

いは0612く、 ひじりて申されずは、 めをまうけて申すべし。 妻をまうけて申されずは、 ひじりにて申すべし。 住所にて申されずは、 流行して申すべし。 流行して申されずは、 家にゐて申すべし。 自力の衣食にて申されずは、 他人にたすけられて申すべし。 他人にたすけられて申されずは、 自力の衣食にて申すべし。 一人して申されずは、 同朋とともに申すべし。 共行して申されずは、 一人篭居して申すべし。

衣食住の三は、 念仏の助業也。 これすなはち、 自身安穏にして念仏往生をとげんがためには、 何事もみな念仏の助業也。 三途へ帰るべき事をする身をだにもすてがたければ、 かへりみはぐゝむぞかし。 まして往生程の大事をはげみて念仏申さん身をば、 いかにもいかにもはぐゝみたすくべし。

もし念仏の助業とおもはずして身を貪求するは、 三悪道の業となる。 極楽往生の念仏申さんがために自身を貪求するは、 往生の助業となるべき也。 万事かくのごとしと。 同 ¬集¼

二十四、 諸人伝説の詞 二八

沙弥道遍かたりていはく、 故上人おほせられていはく、 往生のためには念仏第一なり、 学問すべからず。 たゞし念仏往生を信ぜん程は、 これを学すべしと。 ¬宗要集¼ にいでたり

付御歌

 御歌

 阿弥陀仏と いふよりほかは つのくにの なにはの事も あしかりぬべし

 0613ちとせふる こまつのもとを すみかにて あみだほとけの むかへをぞまつ

 いけのみづ 人の心に にたりけり にごりすむ事 さだめなければ

 むまれては まづおもひてん ふるさとに ちぎりしともの ふかきま事を

 あみだぶつと 申ばかりを つとめにて 浄土の荘厳 見るぞうれしき

 しばのとに あけくれかゝる しらくもを いつむらさきの いろと見なさん

 つゆの身は こゝかしこにて きへぬとも こゝろはおなじ はなのうてなぞ

 阿弥陀仏と 十こゑとなへて まどろまん ながきめぶりに なりもこそすれ

 月かげの いたらぬさとは なけれども ながむる人の こゝろにぞすむ

 

黒谷上人語灯録巻第十五

 

底本は龍谷大学蔵元亨元年刊本。