0017◎法然聖人御消息

 

◎○御文おんふみよろこびてうけたまはり候そうらいぬ。 まことにそのゝちおぼつかなく候そうらいつるに、 うれしくおほせられて候そうろう。 たんねんぶつのもん、 かきてまいらせ候そうろう、 ごらん候そうろうべし。

◇念仏ねんぶつの行ぎょうは、 かの仏ぶつの本願ほんがんの行ぎょうにて候そうろう。 持じ戒かい・誦じゅ経きょう・誦呪じゅじゅ・理り観かん等とうの行ぎょうは、 かの仏ぶつの本願ほんがんにあらぬをこなひにて候そうらへば、 極ごくらくをねがはむ人ひとは、 まづかならず本願ほんがんの念仏ねんぶつの行ぎょうをつとめてのうへに、 もし⊂⊃おこなひをも⊂⊃しくはへ候そうらはむとおもひ候そうらはゞ、 さもつかまつり候そうろう。

◇又またたゞ本願ほんがんの念仏ねんぶつばかりにても候そうろうべし。 念仏ねんぶつをつかまつり候そうらはで、 たゞことおこなひばかりをして極楽ごくらくをねがひ候そうろう人ひとは、 極楽ごくらくへもえむまれ候そうらはぬことにて候そうろうよし、 善導ぜんどう和か尚しょうのおほせられて候そうらへば、 たん念仏ねんぶつが決けつ定じょう往おう生じょうの業ごうにては候そうろう也なり。 善導ぜんどう和か尚しょうは阿あ弥陀みだ化け身しんにておはしまし候そうらへば、 それこそは一いち定じょうにて候そうらへと申もうし候そうろうに候そうろう。

◇又また女犯にょぼんと候そうろうは、 不ふ婬いん戒かいのことにこそ候そうろうなれ。 又また御おんきうだちどものかんだうと候そうろうは、 不ふ瞋しん戒かいのことにこそ候そうろうなれ。 されば持じ戒かいの行ぎょうは、 仏ぶつの本願ほんがんにあらぬ行ぎょうなれば、 たへたらんにしたがひて、 たもたせたまふべく候そうろう0018。 けうやうの行ぎょうも仏ぶつの本願ほんがんにあらず、 たへんにしたがひて、 つとめさせおはしますべく候そうろう。 又またあかゞねの阿字あじのことも、 おなじことに候そうろう。

◇又またさくぢやうのことも、 仏ぶつの本願ほんがんにあらぬつとめにて候そうろう。 とてもかくても候そうらいなん。 又またかうせうのまんだらは、 たいせちにおはしまし候そうろう。 それもつぎのことに候そうろう。 たゞ念仏ねんぶつを三万さんまん、 もしは五ご万まん、 もしは六万ろくまん、 一心いっしんにまうさせおはしまし候そうらはむぞ、 決けつ定じょう往おう生じょうのおこなひにては候そうろう。 こと善根ぜんごんは、 念仏ねんぶつのいとまあらばのことに候そうろう。

◇六万ろくまんべんをだに一心いっしんに申もうせたまはゞ、 そのほかにはなにごとおかはせさせおはしますべき。 まめやかに一心いっしんに、 三万さんまん・五ご万まん、 念仏ねんぶつをつとめさせたまはゞ、 せうせう戒かい行ぎょうやぶれさせおはしまし候そうろうとも、 往おう生じょうはそれにはより候そうろうまじきことに候そうろう。

◇たゞしこのなかにけうやうの行ぎょうは、 仏ぶつの本願ほんがんにては候そうらはねども、 八はち十じゅう九くにておはしまし候そうろうなり。 あひかまへてことしなんどをば、 まちまいらせさせおはしませかしとおぼえ候そうろう。 あなかしこ、 あなかしこ。

ことごとは、 いかでもおはしまし候そうらはむに、 くるしく候そうらはず。 たゞひとりたのみまいらせておはしまし候そうろうなるに、 かならずかならず、 まちまいらせさせおはしますべく候そうろう。 謹言きんげん。

○五ご月がつ二日ふつか  源空げんくう 拝

0019武蔵むさしの国くに熊谷くまがや入にゅう道どう殿どの御おん返かえし事ごと

 

底本は京都府清涼寺蔵源空聖人自筆。 ただし訓(ルビ)は有国によるˆ表記は現代仮名遣いとしたˇ。