(674)、 往生用心

おうじょうじょう用心ようじん だい

一 毎日まいにちしょ六万ろくまんべん、 めでたくそうろう。 うたがいのこころだにもそうらはねば、 じゅうねん一念いちねんおうじょうはしそうらへども、 おほくもうしそうらへば、 じょうぼんにむまれそうろうしゃくにも 「じょうぼんだいけんしゅとうちゃく皆因かいいん念仏ねんぶつ (五会法事讃巻本) そうらへば。

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一 宿しゅくぜんによりておうじょうすべしとひともうしそうろうらん、 ひがごとにてはそうらはず。 かりそめのこのほうだにも、 さきのつみどくによりて、 よくもあしくもむまるゝことにてそうらへば、 ましておうじょうほどだい、 かならず宿しゅくぜんによるべしと聖教しょうぎょうにもそうろうやらん。

たゞし念仏ねんぶつおうじょうは、 宿しゅくぜんのなきにもよりそうらはぬやらん。 父母ぶもをころし、 仏身ぶっしんよりちをあやしたるほどの罪人ざいにんも、 りんじゅうじゅうねんもうしおうじょうすと、 ¬かんぎょう¼ にもえてそうろう

しかるに宿しゅくぜんあつき善人ぜんにんは、 おしへそうらはねども、 あくにおそれ仏道ぶつどうこころすゝむことにてそうらへば、 ぎゃくなんどは、 いかにもいかにもつくるまじきことにてそうろうなり。 それにぎゃく罪人ざいにん念仏ねんぶつじゅうねんにておうじょうをとげそうろうときに、 宿しゅくぜんのなきにもよりそうろうまじくそうろう

されば ¬きょう¼ (観経意) に 「にゃくにんぞうざい得聞とくもんろくみょうしゃねんだいそく来迎らいこうごくじゅう悪人あくにん方便ほうべんゆいしょう念仏ねんぶつとくしょう極楽ごくらくにゃくじゅうごっしょうしょうじょういんじょう弥陀みだ願力がんりきひっしょう安楽あんらくこく」。

このもんこころ、 もしぎゃくをつくれりとも、 弥陀みだろくをきかば、 くるまねんにさりて、 蓮台れんだいきたりてむかふべし。 またきはめておもき罪人ざいにん方便ほうべんなからんも、 弥陀みだをとなへたてまつらば極楽ごくらくにむまるべし。 またもしおもきさはりありてじょうにむまるべきいんなくとも、 弥陀みだ願力がんりきにのりなば、 安楽あんらくこくにむまるべしとそうらへば、 たのもしくそうろう

また善導ぜんどうしゃくには、 「曠劫こうごうよりこのかた六道ろくどうりんして、 しゅつ0676えんなからんじょうもつしゅじょうをむかへんがために、 弥陀みだほとけはぶつになりたまへり」 (散善義意) そうろう

その 「じょうもつしゅじょう」 ともうしそうろうは、 ごうのそこにしづみたるいきものの、 おほきにながくして、 そのかわにはゞかりて、 えはたらかず、 つねにしづみたるに、 あくぼんをばたとへられてそうろう

またぼんもうすふたつもんをば、 「きょうすいのごとし」 (秘蔵宝鑰巻上意) 弘法こうぼうだいしゃくたまへり。 げにもぼんこころは、 ものぐるひ、 さけにゑいたるがごとくして、 善悪ぜんあくにつけて、 おもひさだめたることなし。 いち煩悩ぼんのうももたびまじはりて、 善悪ぜんあくみだれやすければ、 いづれのぎょうなりとも、 わがちからにてはぎょうじがたし。

しかるにしょうをはなれ、 仏道ぶつどうにいるには、 だいしんをおこし、 煩悩ぼんのうをつくして、 さんひゃっこうなんぎょうぎょうしてこそ、 ぶつにはなるべきにてそうろうに、 じょくぼん、 わがちからにてはがんぎょうそなはることかなひがたくて、 六道ろくどうしょうにめぐりそうろうなり

弥陀みだ如来にょらい、 このことをかなしみおぼして、 法蔵ほうぞうさつもうしゝいにしへ、 われぎょうじがたきそうぎょうを、 ちょうさい永劫ようごうがあひだこうをつみとくをかさねて、 弥陀みだほとけになりたまへり。

一仏いちぶつにそなへたまへる四智しち三身さんしんじゅうりき无畏むいとう一切いっさいないしょうどく相好そうごうこうみょう説法せっぽう・利生とうゆうどく、 さまざまなるをさんみょうのなかにおさめいれて、 「このみょうごうじっしょういっしょうまでもとなへんものを、 かならずむかへん。 もしむかへ0677ずは、 われぶつにならじとちかひたまへるに、 かのぶついまげんにましまして、 ぶつになりたまへり。 みょうごうをとなへんしゅじょうおうじょううたがふべからず」 (礼讃意) と、 善導ぜんどうもおほせされてそうろうなり

このさまをふかくしんじて、 念仏ねんぶつおこたらずもうして、 おうじょううたがはぬひとを、 りきしんじたるとはもうしそうろうなり

けんことりきそうろうぞかし、 あしなえ、 こしゐたるもののゝ、 とをきみちをあゆまんとおもはんに、 かなはねばふねくるまにのりてやすくゆくこと、 これわがちかららにあらず、 乗物のりもののちからなればりきなり

あさましきあくぼん諂曲てんごくこころにて、 かまへつくりたるのりものにだに、 かゝるりきあり。 ましてこうのあひだおぼしめしさだめたる本願ほんがんりきのふね・いかだにのりなば、 しょううみをわたらんこと、 うたがひおぼしめすべからず。

しかのみならず、 やまひをいやす草木そうもく、 くろがねをとるしゃく思議しぎ用力ゆうりきなりまた麝香じゃこうはかうばしきゆうあり、 さいのつのはみづをよせぬちからあり。 これみな心なき草木そうもく、 ちかひをおこさぬけだものなれども、 もとより思議しぎ用力ゆうりきはかくのみこそそうらへ。 まして仏法ぶっぽう思議しぎ用力ゆうりきましまさゞらんや。

されば、 念仏ねんぶついっしょうはちじゅう億劫おくこうのつみをめっするゆうあり、 弥陀みだ悪業あくごうじんじゅうもの来迎らいこうたまふちからましますと、 おぼしめしとりて、 宿しゅくぜんのありなしも沙汰さたせず、 つみのふかきあさきもかえりみず、 たゞみょうごうとなふるものゝ、 おう0678じょうするぞとしんじおぼしめすべくそうろう

すべてかいかいも、 びん福人ふくにんも、 じょうひとをきらはず、 たゞわがみょうごうをだにねんぜば、 いし・かわらをへんじてこがねとなさんがごとし、 来迎らいこうせんと約束やくそくそうろうなり

ほっしょうぜんしゃほうさんにも、

ぶついんちゅうりゅうぜいもんみょうねんそう来迎らいこう
けんびんしょうふうけん下智げち高才こうざい
けんもんじょうかいけんかい罪根ざいこんじん
たん使しん念仏ねんぶつのうりょうりゃくへんじょうこん

たゞずゞをくらせおはしまして、 したをだにもはたらかされずそうらはんは、 けだいにてそうろうべし。

たゞし善導ぜんどうの、 三縁さんえんのなかの親縁しんえんしゃくたまふに、 「しゅじょうほとけをらいすれば、 ぶつこれをたまふ。 しゅじょうぶつをとなふれば、 ぶつこれをきゝたまふ。 しゅじょうぶつねんずれば、 ぶつしゅじょうねんたまふ。 かるがゆへに弥陀みだぶつ三業さんごうぎょうじゃ三業さんごうと、 かれこれひとつになりて、 ぶつしゅじょうもおやのごとくなるゆへに、 親縁しんえんとなづく」 (定善義意) そうろうめれば、 御手みてにずゞをもたせたまいそうらはゞ、 ぶつこれをらんそうろうべし。 おんこころ念仏ねんぶつもうすぞかしとおぼしめしそうらはゞ、 ぶつしゅじょうねんたまふべし。 さればぶつにみえまいらせ、 ねんぜられまいらするおんにてわたらせたまはんずるなり

さはそうらへども0679、 つねにしたのはたらくべきにてそうろうなり三業さんごう相応そうおうのためにてそうろうべし。 三業さんごうとはくちこころとをもうしそうろうなり。 しかもぶつ本願ほんがん称名しょうみょうなるがゆへに、 こえ本体ほんたいとはおぼしめすべきにてそうろう

さてわがみゝにきこゆるほどもうしそうろうは、 こうしょう念仏ねんぶつのうちにてそうろうなり。 こうしょう大仏だいぶつをおがみ、 ねんずるはぶつのかずへもなどもうすげにそうろう。 いづれもおうじょうごうにてそうろうべくそうろう

一 ごんめでたくそうろう。 たゞしごんならでもう念仏ねんぶつは、 どくすくなしとおぼしめされんはあしくそうろう

念仏ねんぶつをばこがねにたとへたることにてそうろうこがねにやくにもいろまさり、 みづにいるゝにもそんせずそうろう。 かやうに念仏ねんぶつ妄念もうねんのおこるときもうしそうらへどもけがれず、 ものもうしまずるにもまぎれそうらはず。

そのよしをおんこころえながら、 おん念仏ねんぶつほどはことごとまぜずして、 いますこし念仏ねんぶつのかずをそえんとおぼしめさんは、 さんてそうろう

もしおぼしめしわすれて、 ふとものなんどおほせそうらいて、 あなあさまし、 いまはこの念仏ねんぶつむなしくなりぬとおぼしめす御事おんことは、 ゆめゆめそうろうまじくそうろう。 いかやうにてもうしそうろうとも、 おうじょうごうにてそうろうべくそうろう

一 ひゃく万遍まんべんことぶつがんにてはそうらはねども、 ¬しょう弥陀みだきょう¼ (意) に 「もしは一日いちにちもしはにちない七日しちにち念仏ねんぶつもうすひと極楽ごくらくしょうずる」 とはかゝれてそうらへば、 七日しちにち念仏ねんぶつもうすべきにてそうろう0680

その七日しちにちほどのかずは、 ひゃく万遍まんべんにあたりそうろうよし、 にんしゃくしてそうろうときに、 ひゃく万遍まんべん七日しちにちもうすべきにてそうらへども、 たへそうらはざらんひとは、 八日はちにちにちなんどにももうされそうらへかし。

さればとて、 ひゃく万遍まんべんちゅうさゞらんひとのむまるまじきにてはそうらはず、 一念いちねんじゅうねんにてもむまれそうろうなり一念いちねんじゅうねんにてもむまれそうろうほどの念仏ねんぶつとおもひそうろううれしさに、 ひゃく万遍まんべんどくをかさぬるにてそうろうなり

一 七分しちぶん全得ぜんとくことおおせのまゝにもうすげにそうろう。 さてこそげきしゅうはすることにてそうらへ。

そうらへば、 のちのをとぶらひぬべきひとそうらはんひとも、 それをたのまずして、 われとはげみて念仏ねんぶつもうして、 いそぎ極楽ごくらくへまいりて、 つうさんみょうをさとりて、 六道ろくどうしょうしゅじょうやくし、 父母ぶもちょうしょうしょをたづねて、 こころのまゝにむかへとらんとおもふべきにてそうろうなりまたとうごとのおん念仏ねんぶつをも、 かつがつこうしまいらせられそうろうべし。

なきひとのために念仏ねんぶつこうそうらへば、 弥陀みだほとけひかりをはなちて、 ごく餓鬼がきちくしょうをてらしたまそうらへば、 このさん悪道まくどうにしづみてをうくるもの、 そのくるしみやすまりて、 いのちおはりてのち、 だつすべきにてそうろう

だいきょう (巻上) にいはく、 「にゃくさんごんしょけんこうみょう皆得かいとくそく无復むぶのう寿じゅじゅう之後しご皆蒙かいもうだつ」。

一 本願ほんがんのうたがはしきこともなし、 極楽ごくらくのねがはしからぬにてはなけれども、 おうじょう0681いちじょうとおもひやられて、 とくまいりたきこころのあさゆふは、 しみじみともおぼえずとおほせそうろうこと、 まことによからぬ御事おんことにてそうろう

じょう法門ほうもんをきけどもきかざるがごとくなるは、 このたびさん悪道まくどうよりいでゝ、 つみいまだつきざるものなりまたきょうにもとかれてそうろうまたこのをいとふおんこころ、 うすくわたらせたまふにてそうろう

そのゆへは、 西国さいごくへくだらんともおもはぬひとに、 ふねをとらせてそうらはんに、 ふねのみづにうかぶことなしとはうたがひそうらはねども、 とうさしているまじければ、 いたくうれしくもそうろうまじきぞかし。

さて[か]たきのしろなんどにこめられてそうらはんが、 からくしてにげてまかりそうらはんみちに、 おほきなる河海かわうみなんどのそうらいて、 わたるべきやうもなからんおり、 おやのもとよりふねをまうけてむかへにたびたらんは、 さしあたりていかばかりかうれしくそうろうべき。

これがやうに、 貪瞋とんじん煩悩ぼんのうのかたきにしばられて、 三界さんがい樊篭ぼんろうにこめられたるわれらを、 弥陀みだ悲母じもおんこころざしふかくして、 みょうごうけんをもちてしょうのきづなをきり、 本願ほんがん要船ようせんかいのなみにうかべて、 かのきしにつけたまふべしとおもひそうらはんうれしさは、 かんのなみだたもとをしぼり、 渇仰かつごうのおもひきもにそむべきにてそうろう

せめてはいよだつほどにおもふべきにてそうろうを、 のさにおぼしめしそうらはんは、 ほいなくそうらへども、 それもことはりにてそうろう。 つ0682みつくることこそおしへそうらはねども、 こころにもそみておぼえそうらへ。

そのゆへは、 无始むしよりこのかた六趣ろくしゅにめぐりしときも、 かたちはかはれどもこころはかはらずして、 いろいろさまざまにつくりならひてそうらへば、 いまもうゐうゐしからず、 やすくはつくられそうらへ。

念仏ねんぶつもうしおうじょうせばやとおもふことは、 このたびはじめてわづかにきゝえたることにてそうらへば、 きとはしんぜられそうらはぬなり。 そのうゑ、 ひとこころとんぜんとてふたしなにそうろうなりとんはきゝてやがてさとるこころにてそうろうぜんはやうやうさとるこころにてそうろうなりものまうでなんどをしそうろうに、 あしはやきひといちにまいりつくところへ、 あしおそきものぐらしにもかなはぬようにはそうらへども、 まいりごころだにもそうらへば、 つゐにはとげそうろうやうに、 ねがふおんこころだにわたらせたまそうらはゞ、 としつきをかさねても信心しんじんもふかくならせおはしますべきにてそうろう

一 ごろ念仏ねんぶつもうせども、 りんじゅうぜんしきにあはずはおうじょうしがたし。 またやまひだいにしてこころみだれば、 おうじょうしがたしともうしそうろうらんは、 さもいはれてそうらへども、 善導ぜんどうおんこころにては、 極楽ごくらくへまいらんとこころざして、 おほくもすくなくも念仏ねんぶつもうさんひとのいのちつきんときは、 弥陀みだほとけしょうじゅとゝもにきたりてむかへたまふべしとそうらへば、 ごろだにもおん念仏ねんぶつそうらはゞ、 りんじゅうぜんしきそうらはずとも、 ほとけはむかへさせたまふべ0683きにてそうろう

またぜんしきのちからにておうじょうすともうしそうろうことは、 ¬かんぎょう¼ の三品さんぼんことにてそうろうぼんしょうひとなんどこそ、 ごろ念仏ねんぶつもうしそうらはず、 おうじょうこころそうらはぬぎゃくざいひとの、 りんじゅうにはじめてぜんしきにあひて、 じゅうねんそくしておうじょうするにてこそそうらへ。 ごろよりりき願力がんりきをたのみ、 ゆいみょうごうをとなへて、 極楽ごくらくへまいらんとおもひそうらはんひとは、 ぜんしきのちからそうらはずとも、 ぶつ来迎らいこうたまふべきにてそうろう

またかろきやまひをせんといのりそうらはんことも、 こころかしこくはそうらへども、 やまひもせでしにそうろうひとも、 うるはしくおはるときには、 断末だんまつのくるしみとて、 八万はちまん塵労じんろうもんよりりょうのやまひをせめそうろうことひゃくせんのほこ・つるぎにてをきりさくがごとし。

されば、 まなこなきがごとくして、 みんとおもふものをもず、 したのねすくみて、 いはんとおもふこともいはれずそうろうなり。 これは人間にんげんはっのうちの死苦しくにてそうらへば、 本願ほんがんしんじておうじょうねがひそうらはんぎょうじゃも、 このはのがれずして悶絶もんぜつそうろうとも、 いきのたえんときは、 弥陀みだほとけのちからにて、 しょうねんになりておうじょうをしそうろうべし。

りんじゅうはかみすぢきるがほどのことにてそうらへば、 よそにてぼんさだめがたくそうろう。 たゞぶつぎょうじゃとのこころにてしるべくそうろうなり。 そのうゑ三種さんしゅ愛心あいしんおこりそうらひぬれば、 えんたよりをえて、 しょうねんをうしなひそうろうなり

この愛心あいしんをばぜんしきのちからばかりにてはのぞきがたくそうろう0684弥陀みだほとけのおんちからにてのぞかせたまそうろうべくそうろう。 「しょじゃごっのうしゃ (定善義) 、 たのもしくおぼしめすべくそうろう

また後世ごせしゃとおぼしきひともうすげにそうろうは、 まづしょうねんじゅうして念仏ねんぶつもうさんときに、 ぶつ来迎らいこうたまふべしともうすげにそうらへども、 ¬しょう弥陀みだきょう¼ には、 「しょしょうじゅ現在げんざいぜんにんじゅうしん顛倒てんどう即得そくとくおうじょう弥陀みだぶつ極楽ごくらくこく」 とそうらへば、 ひとのいのちおはらんとするとき弥陀みだほとけしょうじゅとゝもに、 のまへにきたりたまひたらんを、 まづみまいらせてのちに、 こころ顛倒てんどうせずして、 極楽ごくらくにむまるべしとこそこころえてそうらへ。

されば、 かろきやまひをせばや、 ぜんしきにあはばやといのらせたまはんいとまにて、 いま一返いっぺんもやまひなきとき念仏ねんぶつもうして、 りんじゅうには弥陀みだほとけの来迎らいこうにあづかりて、 三種さんしゅあいをのぞき、 しょうねんになされまいらせて、 極楽ごくらくにむまれんとおぼしめすべくそうろう

さればとて、 いたづらにそうらいぬべからんぜんしきにもむかはでおはらんとおぼしめすべきにてはそうらはず。 先徳せんどくたちのおしへにも、 りんじゅうとき弥陀みだぶつ西にしのかべにあんしまいらせて、 びょうしゃそのまへに西にしむきにふして、 ぜんしき念仏ねんぶつをす[ゝ]められよとこそそうらへ。 それこそあらまほしきことにてそうらへ。

たゞしひとえんは、 かねておもふにもかなひそうらはず、 にはかにおほぢ・みちにておはることそうろうまただいしょう便べんのところにてしぬるひとそうろう前業ぜんごうのがれがたくて、 た0685ち・かたなにていのちをうしなひ、 にやけ、 みずにおぼれて、 いのちをほろぼすたぐひおほくそうらへば、 さやうにしてしにそうろうとも、 ごろの念仏ねんぶつもうし極楽ごくらくへまいるこころだにもそうろうひとならば、 いきのたえんときに、 弥陀みだ観音かんのんせいきたりむかへたまうべしとしんじおぼしめすべきにてそうろうなり

¬おうじょうようしゅう¼ (巻下) にも、 「しょ諸縁しょえんろんぜず、 りんじゅうおうじょうをもとめねがふにその便びんをえたること念仏ねんぶつにはしかず」 とそうらへば、 たのもしくそうろう

このよしをよみもうさせたまふべくそうろうつのことしるしてまいらせそうろう。 これはのちにおんたづねそうらいへんにてそうろう

一 しょおほくあてがひてかゝんよりは、 すくなくもうさん一念いちねんもむまるなればとおほせのそうろうこと、 まことにさもそうらいぬべし。

ただし ¬礼讃らいさん¼ のなかには、 「じっしょういっしょうじょうとくおうじょうない一念いちねん无有むうしん」 としゃくせられてそうらへども、 ¬しょ¼ (散善義) もんには 「念々ねんねんしゃしゃみょう正定しょうじょうごう」 とそうらへば、 じっしょういっしょうにむまるとしんじて、 念々ねんねんにわするゝことなく、 となふべきにてそうろうまた弥陀みだみょうごう相続そうぞくねん (法事讃巻下) ともしゃくせられてそうろう。 されば、 あひついでねんずべきにてそうろう

一食いちじきのあひだにたびばかりおもひいでんは、 よき相続そうぞくにてそうろう。 つねにだにおぼしめしいでさせたまはゞ、 じゅうまん六万ろくまんもうさせたまそうらはずと0686も、 相続そうぞくにてそうらいぬべけれども、 ひとこころとうみることきくことにうつるものにてそうらへば、 なにとなくおんまぎれのなかには、 おぼしめしいでんことかたくそうらいぬべくそうろう

しょおほくあてゝ、 つねにずゞをもたせたまそうらはゞ、 おぼしめしいでそうらいぬとおぼえそうろう。 たとひことのさはりありて、 かゝせおはしましてそうろうとも、 あさましや、 かきつることよとおぼしめしそうらはゞ、 おんこころにかけられそうらはんずるぞかし。

とてもかくてもわすれそうらはずは、 相続そうぞくにてそうろうべし。 またかけてそうらはんしょを、 つぎのもうしいれられそうらはんこと、 さもそうらいなん。 それもあすもうしいれそうらはんずればとて、 おんゆだんそうらはんはあしくそうろう。 せめてのことにてこそそうらへ。 おんこころえあるべくそうろう

一 ぎょちょうしちにちのいみのそうろうなること、 さもやそうろうらん、 えみおよばずそうろう

たいはいきとしいけるもの過去かこのちゝ・はゝにてそうろうなれば、 くふべきことにてはそうらはず。 またりんじゅうには、 さけ・いを・とり・き・にら・ひるなんどはいまれたることにてそうらへば、 やまひなんどかぎりになりては、 くふべきものにてはそうらはねども、 とうきとしぬばかりはそうらはぬやまひの、 つきつもりつうもしのびがたくそうらはんには、 ゆるされそうらいなんとおぼえそうろう

おんおだしくて念仏ねんぶつもうさんとおぼしめして、 りょうそうろうべし。 いのちおしむはおうじょうのさはりにてそうろう。 やまひばかりをばりょうはゆるされそうらいなんとおぼ0687そうろう

ふたつことおんたづね、 しるしてまいらせそうろう。 よくよくよみもうさせたまふべくそうろう