アフォーダンス 【認知科学、心理学、脳科学、デザイン】 (2003/05/24)

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「私たちはどのように外界を認識しているのか」という問に対する新しい考え方に、アフォーダンスがあります。

これまでは、客観的な対象があちらにあって、そこから得られた感覚情報を、脳の中で受動的に処理している、という風にとらえられていました。対象(客観)と脳内過程(主観)を切り離して考えていたのです。

それに対して、環境と脳、身体の間には一連の相互作用があるととらえ、生体が能動的に環境に働きかけたとき、環境がそのつど与えている「行為のてがかり」に焦点を当てたのがアフォーダンスです。

アフォーダンス(affordance)は「提供する」という意味の動詞アフォード(afford)を名詞化したもので、アメリカの心理学者ジェームズ・ギブソンの造語です。ギブソンは、空軍パイロットの着陸時の視知覚研究から、知覚刺激は知覚主体が環境の中で動き、姿勢を変化させて「発見」するものだと考えるようになりました。

ギブソンによれば、環境の把握・行為・行為の環境への作用といった一連の過程は一つにつながっています。すき間を急いで通り抜けようとするときには、通り抜けられるかどうか、どのくらいの速さで通り抜けるのが適切かを、すき間が教えてくれる(アフォードしている)のです。

アフォーダンスは固定したものではありません。身体、あるいは身体をコントロールする技術が変わると、それに合わせて動的に現れ方が変ります。たとえば、ふつうならば「どうぞ開けてください」とアフォードしているドアが、利き手を怪我して使えないときには、「簡単には開かないぞ」とアフォードする意地悪な頑固者に変ります。

脳科学的には、目から入った視覚情報が解析される際、「形」を認識する神経経路と、見えたものに対する「行動」の制御に関係する神経経路とはある程度独立しているらしいことが明らかになっており、アフォーダンス理論を裏付けるものと考えられています。

また、アフォーダンス理論はデザインにも応用され始めています。ぱっと見たとき回せばよいのか押すべきなのかわかりにくいドアの取っ手は「アフォーダンスが悪い」と考えることができ、あるいは公共施設の壁の素材を何にするかでそれに対する悪戯が変ってくるのです。

個人的には、頭でっかちになりがちな現代において、「身体」の重要性を見直す糸口になるだろうという点から興味をもっています。ことばで理解する/説明することに頼りすぎず、実際にやってみる/やってみせるということを常に考えておきたいと思っています。

さらに、多少無理やり仏教と関連づけるならば、縁起と身業との重なり合った部分と言えるでしょう。

【直接参照した資料:茂木健一郎『心を生みだす脳のシステム』(NHKブックス)第五章、『エンカルタ百科事典 2001』(Microsoft, DVD版)、http://www5b.biglobe.ne.jp/~nitti/lab/links.htm

文頭